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放課後の吸血鬼

73妖怪に化かされた名無しさん:2006/04/30(日) 01:17:46
その声に興奮して、真紀はより一層深くズブリと牙を刺し込む。うっと哲晴が苦痛の声を漏らす。
口の中にサッと鮮烈な甘味が広がる。新鮮な、ふつふつと湧き立つように熱い哲晴の命の味だ。
いかなる美酒よりも美味なそれを、真紀は夢中で啜り、ピチャピチャと舐め、コクンと飲み下す。
哲晴の血を、飲む。
哲晴の命を、飲む。
哲晴自身を、飲む。
ドクンと心臓が高鳴り、哲晴の肌に突き立てている牙が、哲晴の血を含む口が、嚥下する喉が、胃の腑が、心臓が、身体を巡る血が、カッと燃えあがる。
熱い、とても熱い。
まるで哲晴自身が溶け、真紀の身体に流れこみ、交じり合い、一つになり、身体の中から愛撫して芯から燃え上がらせているようだ。
真紀は溜まった熱気を吐き出すかのように、一旦口を離してふうっと大きく一息をつき、彼の肩から涌き出るルビーの泉を眺める。
――トテモ紅イ――
吸い寄せられるように再び口付けをすると、真紀は1匹のケダモノと化して、その小さな赤い泉を夢中でしゃぶった。
「うっ……。くっ……。あっ……」
夜の公園に、苦痛を訴える少年の押し殺した悲鳴と、興奮した少女のハッハッと荒い息遣いだけが静かに流れる。
どれくらい時が流れただろう。長くとも僅かとも感じられる時間の後、喉と心を潤して真紀ははっと我に返った。
血によってもたらされ、急激に燃えあがった激情は、血によって潤い、一気にサッと冷める。獲物を捕らえていた肉食獣は、傷つきやすい一人の少女に戻る。
真紀がパッと哲晴の上から飛び退くと、哲晴は傷ついた右肩に手を当て、のそっと力なく立ちあがる。真紀を見詰めるその瞳は、ただひたすらに恐怖と嫌悪に塗りつぶされていた。
「あ、あ、あの……。だ、大丈夫……だから、ボ、ボクのは……、その、感染したり、しないから。じゃ、なくて……」
謝罪を、言い訳を、弁明を紡ごうとした口から漏れるのは、ただ混乱した言葉だけ。
真紀もまた、自らの凶行に怯えた目で少年を見、これから起る反応への恐怖でその身を竦ませる。
「ご、ごめん……」
真紀がおずおずと半歩踏出す。と、哲晴はビクッと一歩下がった。彼女がすがるように手を伸ばせば、彼はさらに一歩下がる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁっっっ」
哲晴はダッと逃げ出した。振り返らずに、一目散に。
転がるようにダダダッと階段を駆け下りる彼の姿を、真紀はなす術も無く、ただただ立ち尽くしたまま見送る。
「あ、あ、あ、あ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ……」
心が軋む音がする。
心がひび割れる音がする。
心が砕ける音がする。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、うわあああああっっっっっっ」
絶望と、悲哀と、恐怖と、後悔と、嫌悪と、苦痛が、どこまでも暗く、深く、重く、奈落の底へと続く声となって口からこぼれ落ちる。
真紀は天を仰ぎ見て、ドシンと両膝を付く。その瞳に映るのは星空にあらず、ただ無明の虚無のみ。そのままベタリと両手をつき、ガクリとうなだれた。
もうお終いだ。壊してしまった。彼の心を、彼の信頼を、彼の好意を。自らの心を、自らの過去を、自らの信念を、総てを。
もう駄目だ。護るべきモノを、大切なモノを、大事にしていたモノを、自らの手で砕き、壊し、失ってしまった。
ポタリと、ようやく涙が流れ出た。そのまま突っ伏して、声を殺し心の総てを流す。
嗚咽と涙は止めど無く、きり無く、いつまでも流れ出した。


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