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放課後の吸血鬼

71妖怪に化かされた名無しさん:2006/01/03(火) 22:23:36
トクン、と真紀の心臓が跳ね上がる。カッと熱い血と共に、穏やかな何かが身体の中をぐるりと巡る。
じっと見詰め合う哲晴の瞳が、穏やかに輝く。
欲しい。哲晴が欲しい。猛烈に哲晴が欲しい。
哲晴と、口付けをしたい。ぎゅっと抱き合って、その鼓動を温もりを、総てを感じたい。
彼も、そう考えてくれるのだろう。すっと一歩近づいて、しっかりと視線を合わせたまま顔を寄せてくる。
不意に、犬歯がズクズクと疼く。
欲しい。哲晴の血が欲しい。猛烈に哲晴の血が欲しい。
哲晴の首筋に吸血鬼のキスをしたい。あの首筋にカプッと口をつけ、ツプッと牙をつき立て、スルリとその血を啜り、口に含み、トロリと舌の上で転がし、ゴクリと喉を潤したい。
好きだから血が欲しくなる。性欲と食欲が極めて近いのは、吸血鬼としての拭い様の無い本能だ。
が、自分は今更そんなものに振りまわされるほど幼くは無い。
哲晴の顔がググッと一層近づく。互いの息が掛かりそうだ。
一瞬軽く歯を食いしばり、牙の疼きをグイッとねじ伏せる。それからキュッと軽く唇をすぼめ、キス――吸血鬼のそれではない普通の――をしようとする。
と、いきなりドクンと心臓が強烈に跳ね上がり、グラッと視界が暗転する。さながら、貧血のように。
貧血ではないが、ある意味貧血だ。強烈なキューッと刺し込む空腹のようなこの感触は、吸血鬼特有の血の欠乏症だ。
最後に飲んだのは引越し前だから、今日で一週間。昨日魅子に指摘されたように、丁度血が切れる頃だ。
哲晴といっしょにいたくて、迂闊にも時を忘れてしまった。
彼女はヨロッと一歩下がると柵に手をかけてしゃがみ、ハアハアと息を荒げて必死に真紅の衝動を押さえる。
いつものように、近所のペットショップでハムスターでも買って……
――そこを教えたのは誰?――
いや、もう閉まっているだろうから、その辺で猫でも探して……
――探さなくても、近くにいるじゃないか――
緊急手段。ケータイで、魅子ちゃんにお願いして……
――呼ばなくても、すぐ傍にいるじゃないか――
まだ2・3日は保つから、明日にでも……
――我慢しなくてもいいじゃないか――
必死に思考を逸らしても、辿りつくのは目の前にいる哲晴。
「お、おい、大丈夫か?」
さっきからうなだれた自分にかけられる、哲晴の心配そうな声。
きっと、今の自分は凶悪な表情を浮かべているだろう。だから哲晴に見せるわけにはいかない。顔を伏せたままポツリポツリと答える。
「だい……じょうぶ……だから、気に……しないで……」
「で、でも」
「何でも……ない、ただの……立ちくらみだから」
さらに哲晴の心配そうな声に、ひとすら誤魔化す。魔物退治の自分が、信頼してくれている相手に凶悪な衝動を見せる訳にはいかない。
暫しの葛藤の後、なんとか無理矢理自分を抑えこむ。まだ渇きはするものの、襲い来る衝動に幾分か慣れた。もう、理性まで失いはしない。
「平気……なのか?」
その声に、スウッと呼吸を整えて腰を落とした姿勢のまま、心配そうにこちらを覗き込む哲晴を見上げる。
「ん、ちょっとね。えーと、……大蒜の臭いがしたからね」
適当に答えて立ちあがろうとした。
「ほんとに、平気なのか?」
「うん」
そう答えた途端、ふっと真紅の甘い香が鼻をくすぐる。と、心臓にドンと衝撃が走り、視界がカッと朱に染まった。


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