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放課後の吸血鬼

69妖怪に化かされた名無しさん:2006/01/03(火) 17:24:40
ふたりはぼんやりと街を眺め、しばし穏やかな静けさが続く。
「この街も変わったね」
しばらく街を眺めていた真紀が、思い出したようにぽつりと呟く。
「あ、ひょっとして、昔、来た事があるんだ」
「うん。昔ね。ちょっと…」
伏し目がちのまま、口元だけで寂しげに微笑む。
「街はあんまり変わらないけど、あの頃はこの公園と後の住宅地は、ただの雑木林だったよ」
その視線は眼下の街を通りぬけて、どこか遠くを見ているようだ。
「昔って、何年くらい前?」
哲晴が物心ついた頃には、既にここは公園だったはずだが。
「こーら。女の子の年に関係することを、聞くもんじゃないだろ?」
「あ…、ごめん」
慌てて謝る。
「なんてね。実はボクは、キミと同じく17歳だよ」
哲晴を見詰め、ニッと笑って見せる。彼の頬にさっと微かな朱がさすのがわかる。
「妖怪は、人間の想いが実体化したものだからね。生まれた時から人間の思い浮かべた姿そのままで、年をとる事はないんだ。普通はね。
 例えば、砂かけ婆は生まれた時からお婆さんだし、座敷童はずっと子供のまま。妖怪には寿命がないから、大抵の妖怪は外見よりも実年令の方が大きい……。ボクの場合も、今と同じ肉体年令17歳で生まれてきて年はとってない。
 でも、ボクの場合はまだ若くて、今年、ようやく外見年令に実年令が追いついたんだ」
「へえ、そうなんだ」
軽い驚きには、微かに喜びが混じっていた。
「あ、ひょっとして、ボクが齢数百年の妖怪とかって思った?」
「いやあ、まさか」
と言いつつも、哲晴の目は泳いでいたりする。
「ボクはね、生まれて直ぐに暁学園に拾われて、それからずっとこうやって転校生として学校を巡っているんだ」
再びスッと夜の街に目を移す。
「え、ずっと転校生って……、じゃあ同じ場所には……」
伏目がちになり、真紀はコクリと頷きで返す。
「一般に、小学1年、中学2年、高校3年って言ってね、子供型の妖怪の1ヶ所で暮らせる時間は限られてるんだ」
そうだ。妖怪は年をとらないから、いつまでも子供のままだと周囲に怪しまれて正体がばれてしまう。
「そう。人間として暮らすには学校に通わなくちゃならない。でも、成長しないと怪しまれる。だから正体を隠すためには定期的に引っ越して、場合によっては戸籍とかも変えなきゃならない。
 その間隔が、成長の著しい小学生なら1年、中学生なら2年まで、高校なら3年まで。そして、戸籍を変える以上、それまでの人間関係も清算しなきゃならない」
真紀の視線は街と空との境に向けられていながら、さらに遠くを眺めているようだった。
 人間関係の清算、それはつまり完全に縁を切ると言う事だ。どんなに親しい相手でも、妖怪である事を隠すためには、いずれは音信不通とならなければならない。
「かといって、普通に暮らすとしたら、人との付き合いをやめるわけにはいかない」
真紀の目は遥かなる過去をじっと見据えながら、呟く。
 木の葉を隠すなら森の中、だ。正体を隠すためには孤立するわけにはいかない。周囲に違和感なく溶け込んで、友達を作らねばならない。
 妖怪であることを隠すためには、別れる為に、完全に縁を切る為だけに友達を作らねばならない。笑顔で語らっても、信頼し互いに心を寄せ合っても、妖怪であるがゆえに決して心の奥底まで明かせない。
 やがては確実に壊さねばならない関係を築く。その矛盾を、孤独を真紀は17年間も繰り返してきたのだ。
「そんな…高校生くらいの年令なら、なんとか10年くらい誤魔化せないのか?」
哲晴は真紀をじっと見詰める。


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