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放課後の吸血鬼

68妖怪に化かされた名無しさん:2006/01/03(火) 17:22:18
公園内に時計があるのが見える。丁度長針がカチリと12を指し示したところだ。
「あ、すっかり遅くなっちゃったね。家の人とか心配してない?」
短針は8を指している。
「ああ、平気平気」
哲晴はひらひらと手を振って否定する。
「でも、先週の事件があったばかりだし」
「大丈夫だよ。来る前に、友達ん所に行くって電話しといたからね。いつものことだし。それより、ほら」
哲晴はさらに上を指差し誘う。
そこから一階分の階段を上った先は、柵に囲まれていて遊具はなく、代わりに植え込みが多い。さらに上を見上げてみれば、そこは住宅街だ。
哲晴に続き、真紀も公園の端の柵に近づいてざっと街を眺める。公園の高さそのものはそれ程でもないようだったが、周囲の土地そのものが高台になっているらしく、思ったより見晴らしは良い。
と、そこからの景色を一目見て、ぎくっと真紀の身体が止まる。
「あ…」
「え、どうしたの?」
哲晴は、一瞬固まった彼女の表情に気付かないのか、能天気に尋ねる。
「ううん。何でもない」
真紀は一度はスッと逸らした目を、再び街に向ける。
星の見えない代わりにどこかぼんやりと明るい都会の空。その下には、闇に沈んだ黒々とした町並み。それを向こうの方で繁華街の光の川がザクッと二つに分けている。夜を照らすはずの満月に少し足りない月は、背後の住宅街に隠れて見えない。
街もただ夜に沈んでいるだけではない。数え切れぬ程の窓が、闇と化した街並みにポツポツと無数の穴を穿ち、暖色の光で夜を照らしている。
おそらくは、その灯りの一つ一つに家庭が、守るべき人々の生活があるのだろう。
ずっと昔に見たそれは、もっと違った。逆に黒い街並みがこちらへ光を漏らさぬように、しっかりとガードしているようだったし。そもそもその光も、どこかよそよそしく凍てついたように冷たかった。
多分、実際は何も変わってないのだろう。自分自身以外は。
ふるふると首を振って感傷を振り解き、真紀は自分のやるべき事を思い出す。
「この景色のどこかに、アイツがいる…」
見えない敵を睨みつけるように、ぼそりと漏らす。哲晴もそれに倣い、じっと街を見渡す。が、彼に夜の闇は見通せるはずもない。
「…そうだ。学校だ!」
不意に哲晴が目を輝かせる。
「匂いがわかるんなら、学校から追跡したらどうだろう? 昨日の今日だから、まだ匂いは残ってるんじゃないか?」
が、彼女はふるふると被りを振って応じる。
「折角だけど、それはダメだったよ。一昨日、すぐに調べてみたんだけど、屋上で途切れていたよ。
 多分、糸を張って、ビルからビルへと綱渡りして逃げたんだと思う」
「そっか……、ごめん。役に立てなくて」
哲晴の声が沈む。
「ううん。そんなことないよ。今日一日だけでも、キミは随分力になってくれたよ。怪しい場所を教えてくれたし、街を歩く時だって道に迷わずにすんだし。
 ありがとう」
ニコッと穏やかに微笑む。
「あ、いや、それなら良かったけど…」
空を見上げて、ぽりぽりと頬を掻く。


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