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プチ住民(゚ε゚)キニシナイ!!

455盤上の月2(18) ◆RA.QypifAg:2012/06/10(日) 01:29:49

「ボクは、おともだちにいつもきらわれちゃうの……」
研究会の合間に緒方はアキラに碁を打った。アキラは緒方と碁を打つのをとても楽しみにしていると、
行洋から聞いていた。
正直、緒方はあまり子供は好きではなかったが、アキラは聞き分けが良くて大人しいので、相手にする
のは苦ではなく、それどころかとても自分に懐いてくれたので悪い気はしなかった。
研究会で塔矢邸の玄関に立つと、決まってアキラが駆けてきて「おがたさんだ〜」と、満面の笑顔で出
迎えてくれるのを、緒方は密かに楽しみにしていた。
人に嫌な思いをさせないアキラが友達に嫌われるというのを緒方は理解出来なく、いつか行洋にそのこ
とを訊いてみた。
行洋は視線を落として、静かに話し始めた。
アキラは物覚えが抜きん出ており、同じ年代の子達と遊んでいても、すぐ物を作れたりゲームを覚えて
制覇してしまって遊びが成り立たないことが大半だった。遊ぶ子達はアキラを敬遠し、また強い劣等感
を持つことが多く、その結果アキラは仲間はずれにされてしまうということだった。
人よりも秀でることが、アキラにはマイナスに働いてしまう。
それはとても不幸なことだと緒方は思った。
ある日、研究会後に緒方はアキラと碁を打ち、その後アキラを両手に抱きかかえて庭に出た。
行洋以外にそのようなことをされたことがなかったのか、最初はキョトンと不思議そうな表情をアキラ
はしたが、しばらくすると緒方ににこっと微笑む。
「アキラ君は、大きくなったら何になりたいんだい?」
「えっとね……、おとうさんみたいにきしになりたい……」
「どうして棋士になりたいのかな」
「ボクもおとうさんといっしょで、いごすきだから」
「うん、囲碁はいいぞ。勝ったら全部自分の手柄だからな。
アキラ君、強くなれ。囲碁だったら、キミが勝ち進めば皆それを認めてくれる」
「……ほんとうなの、おがたさん?  
ボクはいままでなにかができたら、ようちえんのせんせいはほめてくれるけど、うさぎぐみのみんなに
はきらわれるよ」

盤上の月2(19)

「囲碁は勝つか負けるか。その二つしかないからね。それに最善の一手をずっと考えるのも飽きずに面
白い」
「……ほんとう?  ほんとうにボクがかったら、ひとはボクをみとめてくれるの?」
「ああ、本当だよ。実際にオレがそのことを実感しているからね」
アキラは大きく目を見開き、緒方をじっと見つめる。
「じゃあ、おがたさん。ボクとやくそくして」
「約束?」
「いつかボクがおおきくなってきしになったら、ボクとたいとるせんのたいきょくしようよ」
「いいよ、約束するよ」
「ほんとうだね、おがたさん!
ボクがんばるよ。つよくなって、ひとにボクをみとめてもらえるようになるよ。
そしてきしになって、おがたさんとたいとるせんのたいきょくできるぐらいにつよくなるよ」
アキラは緒方に指きりげんまんをせがみ、そして笑う。
アキラと指きりげんまんをしながら、たった一瞬であったが緒方は見逃さなかった。
微笑むアキラの瞳に、激しい炎が生まれたことを。碁を打つことが自分の存在意義になったアキラに、
闘争心が宿った瞬間だった。
この時に緒方はアキラを、自分と同じ人種であること認めた。
碁に全てを注ぎ込むことを躊躇無く選ぶ生を歩むだろうと―――。


「―――……さん、緒方さん……どうしたんですか?」
緒方はアキラの声で、手元の焼酎に視線を戻した。ガラス内の氷がカランと軽い音を鳴らす。
「ああ、何かなアキラ君?」
目の前には5歳ではなくて、16歳のアキラがいた。
話しかけているのに反応が無かったから、どうしたかのかと……」
「いや、ちょっと考えごとをしていてな。で、何だい、アキラ君?」
「……今日はただ食事を一緒にするだけではないように感じたので」


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