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434戻り花火 ◆pGG800glzo:2008/12/15(月) 23:45:30
(106)
終局後、アキラがヒカルを振り向き「おはよう」と言った。
ヒカルも「おはよう」と返し、そのまま三人で短めの検討をした。
それから、数日間世話になったこの家の碁盤を綺麗に拭き、碁石を洗って、元の位置に収め直す。
「ああ、今日も暑くなりそうだね・・・」
窓を開けて新しい空気を入れながら、照りつける夏の日に眩しげに手を翳してアキラが呟いた。

最後の朝食と後片付けを済ませ、ヒカルと社が荷物をまとめ終わると、三人で家を出た。
玄関を出る時、アキラの白い指が旧式の鍵のツマミを回し、
ゼンマイのおもちゃのような音を立てるのを、不思議と懐かしいような気持ちで眺めた。
この数日間に目に馴染んでしまった風景の中を駅まで辿り、改札を過ぎ、電車に乗り込む。
流れ行く車窓を眺めながら、互いにぽつりぽつりと他愛もない話を交わした。

新幹線のホームに着くまであっという間だった。
ヒカルとアキラは途中で買った東京土産と弁当を社に渡した。
「おおきに」
社は二人から渡された紙袋を両手に掲げて見つめ、はにかむように唇の端を上げた。
到着案内のアナウンスが流れ、新大阪行きの新幹線がホームに滑り込んでくる。
ドアが開き、乗り降りする人の波が忙しなく動き始めた。
「ほなオレ、そろそろ行くわ。ホンマ、ありがとうな、見送りまでしてくれて。
大阪に戻っても、オレぎょうさん碁を打って、二人に負けないぐらい強なってみせる。約束する」
「ああ。オレたちだって負けねェ!なっ、塔矢。・・・・・・塔矢?」
アキラは無言で俯いていた。
切り揃えられた髪が端正な横顔の目元と頬に陰を作って、表情が見えない。
「塔矢・・・」
社の声が揺らいだ。
発車時刻が近づいたことを告げるベルの音がけたたましく鳴り響く。
ドアに背を向け、社がアキラのほうへ吸い寄せられるように進もうとしたその時、
すっと白い手が差し出された。
社が見つめる。陰を払ったアキラの瞳が、真っ直ぐに社を見つめ返す。
そこだけ時が止まったように、一瞬視線が交じり合った。
「・・・・・・おお!」
鳴り響くベルの中、最後にアキラとしっかり握手を交わして、社は大阪へと発って行った。


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