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プチ住民(゚ε゚)キニシナイ!!

288裏失楽園:2004/01/24(土) 18:51
 興味深そうに聞いていた彼の返事がおざなりになり、不機嫌そうな顔を隠そうともしなくなった
が、ボクはそれに気づかないふりをしていた。
『進藤進藤って…オレのところにいるのに、進藤のことばかりか。――うんざりする』
 最後の日にうんざりすると吐き捨てるように言った緒方さんの顔は苦みばしり、ボクの一部では
なく全てを拒絶した。少なくともボクにはそう感じられた。
 妬けるとか、オレのことを考えろとか、そんな言い方だったらまだ我慢できた。進藤のことで
頭が一杯だったのは事実なのだから。
『うんざりするし、どうしようもなく苛々する』
 ボクの存在に苛々する――そこまで言われて、どうしてのうのうと一緒にいられるだろう?
 緒方さんは時々不安定になる。稀に対局にまで影響することをボクは知っていたから尚更だった。
『じゃあ、帰ります』
 ジュースの入ったグラスを置いて立ち上がったボクを引き止めるでも、声を掛けるでもなく。
 眼鏡を外した彼は両方のこめかみを親指と薬指で押さえながら疲れたように俯いていた。
 ――それが、この部屋での最後の記憶だった。
 常々思っていたことがあった。緒方さんはボクの父が塔矢行洋でなくとも、ボクの面倒を見て
くるのだろうかと。例えばボクと緒方さんが父の研究会というものを介在せずに知り合ったとして
も、こんな風に接してくれていたのだろうかと。
 それに自信をもって頷けないから、ボクは常に彼に対して対等であるという意識を持てずにいた。
 それとは逆に、進藤とは完璧に対等だった。ボクがボクであるということ。進藤が進藤であると
いうこと。二人で囲碁を打ってお互いを切磋琢磨して、それだけで十分だった。
 だからこそ進藤に惹かれたのだろうと、今なら冷静に思える。
 しかしその頃のボクは、ただ自分の自信のなさから逃げるしかできなかったのだ。


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