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魔境避難所

1650泥中の蓮・後日譚─貪婪─ ◆lRIlmLogGo:2015/02/16(月) 23:19:34
頭に響くノイズが、さっきから煩い。途切れては鳴り、途切れては。
(……あれ。頭の中で鳴ってるんじゃ……ない?)
錆びついてしまった脳を無理矢理回転させ、ノイズの出処を探る。
ローテーブルの上で、何かが震え唸っている。ああ、自分の携帯電話だ。
手に取ると、着信バイブが止まって簡易留守録のメッセージが再生され始めた。
表示されている番号の市外局番は03。アドレスに登録されていなくとも、メッセージを聞かなくとも、
どこからの電話かすぐに判った。
ヒカルが今この場に居なくて良かった。
もうこれ以上、見苦しく取り乱す自分を彼の記憶に残したくなかった。
この電話が終わったら、最初に着て来た服に着替えて。セカンドバッグだけ持って。ここを出よう。
何を言い残す必要も、書き残す必要もない。
さよなら。
でもずっと愛してる。

アキラは小さく息を吐き、また震えだした電話機の通話ボタンを押した。

***

その小柄な青年が初めてふらりと現れたのは、年の瀬も押し詰まった頃だった。
如何にも当世の若者風で、この場にはそぐわないと誰もが思った。
だらしなく肩辺りまで伸ばした髪を無造作に後ろで纏め、耳には赤いピアス。冬だと言うのにあちこ
ち破れて色褪せたジーンズを履き、軽薄な雰囲気を全身から発しているように見えた。
「兄やん、どっかと間違ごて来たんかいし」
席亭が訝しむのも無理はない風体だったのだ。
「へ?ここ碁会所じゃないの?どー見てもそうなんだけど、オレ間違った?」
邪気のない、くりくりした丸い目をした童顔で嫌味を言われ、席亭は苦笑いして謝った。
名前と棋力を書くよう受付用紙を出すと、カタカナで『フジワラ』とだけ書いて返してきた。
訊けば、中学の一時期に部活でやったきりだと言う。だから今の棋力は不明だと。
「いやぁ、仕事の話し合いがうまくいかなくてさァ。なんかいい気分転換ないかって思ってたらここ
見つけて懐かしくなっちゃて。だってここらのゲーセン、ショボいんだもん」
東京辺りの出身なのはイントネーションですぐ判った。派遣らしき仕事でここに来たような口振りに、
冬休みの学生ではなかったのかと意外さを禁じ得なかった。
常連客のひとりが、去年問題を起こして現在休養という名の無期限謹慎を食らっている若手トップ棋
士に似ていると言い出すと、周囲も次々同意した。
「やめてよもー、メーワクしてんだよねー。なんかしゃべり方まで似てるとかって。あんなアホ丸出
しと一緒なんて冗談じゃないよ。テレビ出てたら即チャンネル変えるくらい、昔から大っ嫌いだった」
そこまで言うなら別人なのだろう。世の中には三人、似た顔がいるとか。ならば不思議でもない。
さて小僧、揉んでやろうと対局相手待ちだった客が餌食にする気満々で青年を手招きした。
青年は腕まくりして、ぺろりと唇を舐めた。初めての場所に物怖じしないのが長所のようだ。


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