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魔境避難所

1646泥中の蓮・後日譚─貪婪─ ◆lRIlmLogGo:2015/02/02(月) 20:59:18
「塔矢……オレ、自分を騙すのはもうやめたんだ……おまえが、そっちのオレのが好きなの、わかっ
てるけど……引き返さないよ」
熱で荒れた呼吸の下、呼気に紛れてしまいそうな声でヒカルは告げる。
触れた額は燃えるように熱かった。それに反するように、アキラを見上げる繊細な面からは血の気が
失せ、青白い頬に乱れた黒い前髪が纏わりついて、ぞっとするほど凄艶な美しさを醸成していた。
「好きなものは好き、欲しいものは欲しい……だからオレ、したいようにする」
閉じ込められた袋小路を打破してアキラを救い出してくれる、そんな期待など持てない言葉だった。
それなのに、アキラが東京に帰らなくて良かったとしがみついて来る。どこまで身勝手なんだろうと
心中嘆かずにいられなかった。

ヒカルの熱はなかなか下がらず、排尿痛も改善を見せなかった。
お互い、それぞれの理由で出掛けた日から数えて三日目。ついに音を上げたヒカルがあれだけ嫌がっ
ていた病院へ朝から行った。アキラの付き添いは正体を必要以上に喧伝すると断られた。
近所の泌尿器科で抗生剤と解熱剤を処方され、夕方には少しだけ楽になったようだ。枕元に所在なく
座るアキラに向けて、ヒカルはぽつぽつと間をもたせるように話をし始めた。
「オレさー肺炎で耐性できちゃったせいで抗生剤の効きイマイチなんすよー、つったらじゃあキツイ
のぶちかますしかないねって、えーソレ大丈夫?って」
「……………………」
「うーぎぼちわる……パネェな強力抗生剤……でさ、そん」
「……………………」
浮かぬ顔で相槌すら打たないアキラに、ヒカルが半ば困ったような表情で笑みを浮かべる。
「……あのさ。最後に死にそこねたあと。周りが想像してた通りにオレ、ただ息してるだけの人形み
たいになっちゃってた」
訊きたくとも訊けなかった空白の期間について語りだしたヒカルに、アキラは思わず居住まいを正し
た。緊張で動悸が激しくなる。
「もうさ、指の先ちょっと動かすのも、息ひとつするのも、いちいち全力疾走したあとみたいにスッ
ゲー消耗すんのな……生きてるだけで超疲れた。死にたいって思って行動すんの、エネルギーの消費
量えげつないんだってのも実感したよ」
ああやはりそうか。ヒカルは燃え滓のようになってしまって、死にたくてもその意思表示すら出来な
かったのだ。アキラは改めて、自分のした事の罪深さに締め付けられるような胸の痛みを覚えた。
「当然、面会なんて禁止なんだけど……そこへ来ちゃうんだなあ、どうやって来たんだか」
アキラの眉間に皺が寄せられる。そんな無神経な真似をする輩と言えば。
「警察か」
「ハハハ、ブッブー。不正解……あれ多分、下手したら十一月にもなってなかったよな」
やけに楽しそうだ。では誰なのだろう。
「ま、あのジジイも半分人間やめてるっつか棺桶に片足ガッツリ突っ込んでるから、幽体離脱でもし
て壁抜けて来たんじゃないかって説が有力かなァ」
「…………もしかして、桑原先生?」


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