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魔境避難所

1134邂逅</b><font color=#FF0000>(TfjwVpA2)</font><b>:2003/09/21(日) 17:57
15
 道路側に出て、タクシーを拾おうとしていると、
「先生、今日車じゃないの?」
と、ヒカルがいささか落胆したように訊ねてきた。
 「どうしてだ?」
タクシーのドアが開かれ、緒方は身体を少し横によけて、ヒカルを促した。彼が素直にそれに
従い車に乗り込むのを見届けると、自分もあとに続いた。

 「だってさ…緒方先生の車カッコいいじゃん。オレ、一度乗ってみたかったんだけど…」
なるほど、確かに男の子の好きそうな形ではある。緒方自身も、実用性とか利便性を考えると
もっと他にいいものがあったにもかかわらず、そのミニカーのようなフォルムが気に入って
つい買ってしまった。
「今度乗せてやるよ。」
「え?いいの!やったあ。」
狭い車内の中でヒカルが飛び上がらんばかりに、バンザイと手を挙げた。
「おい…!危ないだろう。」
「ア、ゴメンなさい…」
ヒカルはシュンと項垂れたが、上目遣いに緒方を見つめると、ペロッと舌を出した。
自分の年齢を考え、子供っぽい衝動買いだったなと多少後悔したが、隣に座るこの少年が
そんなに喜んでくれるのなら、それだけでも買った甲斐があるというものだ。

 さほど親しくない自分に対して、ヒカルはまるで疑いを持っていない。その全幅の信頼が
いったいどこから来ているのか緒方にはわからなかった。ただ、その屈託のない瞳を見ていると、
胸の奥に鈍い痛みを感じて、緒方はさり気ない振りで窓の外に視線を逸らした。


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