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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

98菅 公隆 ◆GM.MgBPyvE:2020/03/07(土) 06:43:49

「……わかったよ。俺は……俺の仕事をするさ」

如月が仕方なさげに呟いて、わたしを突き放す。
待ちに待った瞬間さ。
わたしは麻生の逃走に備え、その肩を掴まえに走った。
……つい急ぎ過ぎるのがわたしの悪い癖だ。このとき、大事なロザリオの回収を忘れたのさ。

「礼は言わない。これは取引だ」

ひとつ頷いた麻生が如月の銃を差し出した。
それを如月に向かって放り投げ、振り下ろす手の勢いそのまま、彼の右手首を浅く切る。
斬り落とさない程度に「浅く」だ。動脈を切れば済むことだからね。

――?

成人男性のそれにしては「出」が悪い気がしたが……やはり気のせいなどでは無かった。
青ざめた麻生の襟元から、真新しい噛み痕が見えたんだ。
……この徴は……田中さん、いつの間に?
血は少なくとも4、5リットルは要るだろう。成人男性の全血液量にあたる量だ。ややもすれば――足りないか?

そんなことを冷静に分析する一方で、鼓動の方は酷くドキドキしてた。
……だって……麻生ってば変に色っぽいのさ。線の細い、いかにも芸術家然とした顔を苦し気にしかめて、ため息交じりに呻いたりしてさ。
獲物の顔が苦痛で歪む、それ以上の眺めなんてありゃしないんだ。
ほんと、身体は正直さ。
見てるうちにカッと身体が熱くなって、視界が金に染まった。
必死で抑えたよ!
その喉奥深くに喰らい付きたいと言う欲求をね!
麻生の血は間違いなく繊細で豊かな旋律を奏でるだろう。胸を抉って中を探り、温かな心臓を掌で確かめながら……一滴残らず搾り取る。
世界的な音楽家の断末魔、どんな声をあげるだろう……てね。

そうさ。これがヴァンパイアさ。
強い嗜虐と、赤い血への執着。
特にこんな……溢れる血を前にして、何もしないのは地獄だよ。
君のせいさ。10年前のあの時、ヒトの血の味を覚えてしまった……その時の恍惚を、今だに忘れることが出来ないのさ。
……そろそろ起きてよ。
わたしは君との約束を守ってるよ?
いまでもね。一度だって君以外の血を求めた事はない。
桜子を仲間にした時も……一滴の血も流していない。「契り」って奴は、体液の交換で事足りるんだから。
いつまでさ?
一体いつまで……この地獄に耐えればいい? いつまであの約束を守ればいい? え? 柏木!

麻生が体重を預けて来る。
柏木は目覚めない。
やはり……足りない。
ここはわたし自身の血液を提供するしかないだろう。真祖の血はヴァンパイアの糧となり得る。
そんな時さ、意外な方向から救いの手が差し伸べられたんだ。

「わたくしも手伝いますわ」

金色の眼がわたしを見ていた。
桜子だ。半年前のあの時と同じ、愁いを秘めた瞳がわたしの眼と勝ち合った。
あの時――麻生が憎いと彼女は言ったんだ。
妹と、そのお腹の子を捨てた麻生が。
だから麻生の思いに答えることが出来ないと。眼を傷つけた負い目もあると。
けど……麻生の事が好きだと。


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