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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

97麻生 結弦 ◆GM.MgBPyvE:2020/02/28(金) 16:38:56
「話になんねぇ。その案は単なる譲歩だ。たかがリロードに手前ぇの命ひとつは重すぎる」
「違うよ。より強い『駒』は残すべきだ。魁人だって僕がもう戦力外だって解ってるでしょ?」

魁人がひとつ舌打ちして、大きくため息をついた。怒りと落胆が入り混じるため息だった。

「知るかよ……俺には……お前が伯爵殺るチャンスをみすみす逃してるとしか思えねぇ」
「そんな事ない。僕はいつでも可能性が高い方を選択してる」
「ほんとかよ。お前……さっき司令が言い残した言葉ぁ気にしてんじゃねぇだろな?」
「局長が……何だって?」
「言ってただろ! 女医がまだ生きてるって! 彼女に任せりゃ伯爵を救えるとか何とかよ!」
「えぇ!? 朝香が……生きてる!?」

突如菅さんが会話に割り込んできた。随分な驚きようだ。あんなに近くに居たのに、局長の言葉が聴こえてなかったんだろうか?

「んなワケあるか! 結弦が狙い外す筈ぁねぇ! つか……てめぇは黙ってろ!」
「黙ってなんか居られるか! 離せ! 朝香の事は置いとくとしても、麻生の覚悟を不意にする気か!?」
「そうだよ! 駄々こねてないで、菅さんを解放してよ! 時間が無いんだよ?」
「な……何だよてめぇら!」

数秒間、僕らは黙った。冷たい風だけが、ピューピュー鳴っている。
顔に張り付く雪が溶けて、幾筋も頬を伝っていく。

「……わかったよ。俺は……俺の仕事をするさ」

流石の魁人も、2人の無言の圧力に耐えられなかったのか、諦めたように呟いた。声音に少なからずの決意を含ませて。
ポンっと背中でも押すような音がして、あっと思った時は、菅さんが僕の肩を掴まえていた。
今更だけど、ヴァンパイアの動きは音よりも速い。

「礼は言わない。これは取引だ」

耳元で囁く菅さんの息はとても冷たい。
僕は彼にコルトを手渡して、それを彼は魁人に向けて放ったんだろう、そんな音と風を感じて。
右手首に鋭い衝撃。
遅れて血が噴き出す音と感触。
トクトクと鳴り出す胸の鼓動。
すでに感覚を失った右手を掴まれ、持っていかれたその先は柏木局長の口元だ。
動かない筈の彼の唇が僕のそれを咥え、吸う感触。
恐ろしい事に、とても……気持ちがいい。
命そのものを持っていかれるこの感じ、果たして何度目だろう?
頼りなく拍動を繰り返す心臓が、次第にその速度を緩め……
唇が痺れ、耳の奥がキーンと鳴り出した、その時です。

「わたくしも手伝いますわ」

思いがけない声がした。
驚いた僕は少しばかりの無理をして、左の瞼を上げてみた。
ぼんやりと視点が像を結ぶ……その先には……局長を挟んで向こう側に座りこむ秋桜。
彼女の手が僕の手首をそっと掴んで離し、自らの手を局長の口元に置くのが見える。

「駄目だ……桜子……やめるんだ……」
「いいのよ結弦。わたくしはこんな時の為に、この世界に戻って来たんですもの」

僕が必死に止めようとしているのに、彼女は笑って首を振るだけ。
声が出ない。
誰かが大声で叫んでいる。
1人じゃない、2人か、もっと大勢。
勘弁してくださいよ、お願いだから、耳元で大声で喚かないで……

そのうちに眼の前が暗くなって。
誰かが僕を抱きとめた、その温かな感触だけが強くこの身体に残った。


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