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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

94麻生 結弦 ◆GM.MgBPyvE:2020/02/16(日) 12:42:41
暗い闇の中、パチパチっと明るい何かが弾ける。
実像じゃない。休息を怠った時に良く起こる現象だ。
だから僕は眼を閉じた。下手に見えるより、この方がいい。視覚以外の五感も、より鋭敏に働いてくれる。

コルトを握る右手をまっすぐ前方に向けたまま、僕は膝を伸ばして立ち上がった。
ナノ(ベレッタBU9 NANO)の倍近くある筈のこの銃は、手にピタリと吸い付く木製グリップのせいか本来の重さを感じない。
装填数は2発。
あの撃ち合いのペースだと、どうしても左に2発残る。
……魁人……あのうっかり屋。
もし彼が左でなく、右の銃を置き忘れてたら、とっくに片はついていたのに。
何の因果だろう、2発の弾は結局僕に託された。伯爵を滅ぼせる、まさに生命与奪の権利を。
これも神の思し召しと、あの局長なら言いそうだなあ。

≪私の言いたいことは解るね? 麻生くん?≫

さぁ……どうでしょう。
自分でも理解できているかどうか自信ありませんけど、でもやってみます。
せっかく僕に与えられた権利ですから、したいようにさせてもらいますよ?

膝を付く菅さんと、それを必死で押さえている魁人の荒い息遣いが聴こえる。
左の隅のあたりに居る田中さんと秋桜は身じろぎもしない。
さっきまでは。コツンと床を叩く高いヒールの音や、袂のある腕を降ろしたり組んだりする衣擦れの音がしていたのに。
彼等がこちらを訝る気色がひしひしと伝わってきて……
僕は深く息を吸った。
肺を満たした空気が氷よりも冷えている。

「菅伯爵どの、貴方はさっき『もっと早くそう言ってくれたら』と……そう局長に話しかけていましたね?」

いきなり菅さんが何度か咳き込んだ。
気を利かせた魁人が、彼の首に回していた腕を緩めたのかも知れない。

「……っえ……そんな事、口に出して言ってたっけ?」
「えぇ。それを聞いて僕は思ったんです。貴方と局長には……単なる主従を超えた……特別な事情がある」

今度は魁人がゲホゲホやり出した。
……純情な魁人のことだ。
僕が変に思わせぶりな言い方したから、いかがわしい事でも想像したのかも。
確かにそうで無いとも限らないけど、でも違う気がする。彼らの関係は……もっと深刻で、他の立ち入りを許さない何かだ。

「特別……そうだね。実は彼とは18年も前に会っていたのさ」
「18年? では10年前の事件とは別口で?」
「当時はわたしも悩める学生でね。懺悔に訪れたカトリックの教会で、出迎えてくれた司祭が柏木だったのさ」
「局長が……司祭、ですか」

これには少し驚かされた。熱心なカトリック、ただそれだけだと思ってた。
思えばあのストイック過ぎる勤務態度とか……恋愛や結婚とは無縁の雰囲気、醸し出してはいたけど……そういう事だったのか。

「10年前に再会したとき、わたしは彼に気付かなかった。気づかないまま時が過ぎた。この10年間……ずっとね」
「それがついさっき、気付いたという訳ですね?」
「そうさ。柏木はずっとその事を隠してた。だからそんな風に言ったのさ」
「だから貴方は、局長ともう一度話をしたい。局長の身体が消えてしまう前に」

数舜の間。秋桜が足を踏みかえる音と、衣擦れの音。
前方からは、深いため息をつく音。

「……恐れ入ったよ。まるでわたしの心を読んでるみたいだ」
「いいえ、貴方の行動に余裕が無かったから、なんとなく」
「わたしが焦っていたと?」
「えぇ。弾丸より速く動ける筈の貴方が、何故魁人の誘いに乗ったのか、撃ってからの対処も可能なのに、とか」
「あははは! わたしも如月を馬鹿にしていられないね! なあ如月?」


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