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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

81菅 公隆 ◆GM.MgBPyvE:2020/01/19(日) 21:10:31
対峙する柏木とハンター。
流石に互いの隙がないのか、動かぬ両者。
ふと、如月の背後の壁際付近に待機していた兵隊が、後退るのが眼に入る。
廊下へと逃げるように立ち去る際、その肩に吊るライフルがコツンと壁に当たり、如月がその方角に視線をやる。
無論、その隙を逃さぬ柏木じゃない。

先手は柏木。
如月は頭上へと飛んだ柏木に気づかず、無様にも振り返る。
だがそれを麻生がフォロー。

「魁人! うえだ!」

すかさず床に倒れ込む魁人。
流石に早いね、もう両手の得物を柏木に向けている。
2発の銃声。
音速を越すマグナム弾が、真下から彼を襲った。
こうなると不利だ。柏木が宙に浮いてるから、弾を避けられない。流石の彼も、空気を踏み台には出来ないからね。
お得意の?み取りも無理だ。自分の脚が邪魔になる。
どうする? 柏木?

……とん……

羽根を持つ天使がそっと足を降ろす、そんな優雅な仕草だった。
……あはは、自分で言って吹き出しちゃったよ。白い羽根生えた柏木が、あの白いヒラヒラ着てるの想像してさ。
でもさ、それほど無駄のない綺麗な動きだったんだ。
打ち込まれた弾丸を踏み台にするなんて、凄くない?
しかもそのままムーンサルトで間合い取ったり?
ほらほら、如月達まで……ポーっと見惚れちゃってさ。

「伯爵様。……麻生結弦は……どうか……」
「田中さん?」

いつの間にか、田中さんがすぐ横に立っている。
あのリサイタル以来、すっかりその音色の虜になった、なんて言うんだ。
ん……そうか、そうだね。わたしも好きだよ、彼のピアノ。
私のメディアには全部麻生が弾いた曲が入ってる。……いい弾き手だ。焦燥感が無い。
ただリストとか、彼お得意のショパンじゃない。
苦悩の音楽家とも言われてる、シューベルトの音楽だ。
……なんていうか、すごく癒されるんだ。彼の友人たちが、彼の為にペンや紙を融通したのも頷ける。
実際あの発作を鎮めてくれるのも、シューベルトだけだ。
彼の音をいつでも生で聞けるなんて、最高の贅沢じゃないか。
わたしは田中さんにひとつ、頷いて見せてから、睨みあいを続けてる彼らに声をかけた。

「柏木、麻生にはなるべく手を出さないでよ?」
「はあ?」

……解るよ如月。その「はあ?」って思う気持ち。
わざわざ柏木にハンデをつけるなんて、戦略としては間違っている。

「あの夜に聴いた桜子との連弾が忘れられないって田中さんが。わたしも麻生の弾くシューベルトが好きだからって事で」

なんてわたしが言い訳した時の、如月の顔と言ったら無かったね。
君もさ、もう少しポーカーフェイスを学べばいいのさ。麻生や柏木みたいにね。
そういえば総理にも言われたっけ。今どきの若者がクラシックかね? ってさ。
両親の影響、ってわけじゃない。すべては「彼」の影響なんだ。夜が明けるまで彼と話し込んでしまったあの時、ずっとかかっていた曲。
その「彼」が誰かって聞かれても答える事は出来ない。
知らないからね。居場所はおろか、名前すら知ら。確たる事はただ一つ。彼が神父だって事だけ。
そして今の私があるのは彼が居たからだ。
あの日も……細かい雪の降りしきる寒い晩だったっけ。


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