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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫
76
:
柏木 宗一郎
◆GM.MgBPyvE
:2020/01/13(月) 13:10:23
伯爵を狙い撃ち込まれる2発の弾丸。
いち早くその結末を予感した脳が、血飛沫を上げ後方へと倒れていく伯爵の姿を予測像として網膜に映し出す。
跳ね上がる鼓動。
どっと脳に押し寄せる血液。
棍棒で打ち据えられたかの衝撃と眩暈。
赤く染まる視界の中、一度は床を蹴る体勢となるがしかし、ふと思いなおす。
伯爵は伊達に「伯爵」ではない。弾道を見切る眼も、防御の手段もお持ちだ。
現に今も、直進する2つの弾丸を余裕の体で見つめている。
彼らとて伯爵がその程度の攻撃でどうにかなるとは思っていまい、となればこれは牽制……?
わずかな焦燥と共に視線を戻せば、こちらに向かう弾丸が2発。
魁人らの動きを見逃したは痛いが、この弾丸の軌道も、時間差もまるで先と同じ。
気を逸らし、この手業を狂わせる魂胆か? ……とすれば甘い。
3度目ともなればこの腕がそのタイミングを完璧に記憶している。同じ要領で掴み取ればいい。視認する必要すらない。
視界の隅にその像を追いやり、視線の大元を伯爵へ。
静かなる気配を纏い、立ち尽くす伯爵。その右の手が微かに動く。
いや、実際は振り上げ、振り下ろす作業を行っている。
鋼鉄をも切り裂く彼の手刀。10年前、この手足を柔らかなバターの如く切り裂いた、あの右の手を。
この眼でも完璧には捉えられぬ素早さかつ、私には決して真似られぬ手業(てわざ)。
≪どう? 手足をぜ〜んぶ無くした今の気分≫
あの時、あの方はその技を以ってこの身を血だまりの海に沈めた。
そして麻生と魁人、2人の命と交換に。そう持ち掛けられ、血を吐く思いでその要求を呑んだ。
その後の事は――忘れはしまい。
力尽き、なかば意識を失いかけていたこの眼を……あの眼が覗き込んだ時のこと。
紅く染まるその瞳がふと人のそれに戻った時……ハッとしたのだ。
その昏い……深い沼の底にも似た闇の中に何かが居たのだ。息をひそめ、こちらを見つめる『無数の眼』が。
そうか、これが――真祖。生まれながらのヴァンパイアの正体か。
≪違う。わたしは人間だ≫
そう主張していた、その眼の奥に潜む怪物。
おそらく、自らの正体について、初めから悟っていたに違いない。だからこそ、あれほど必死に否定した。
真祖に生まれつき、それを受け入れざるを得ぬ事態。
普通ならば取り乱し、逃げ出してもおかしくない……それを……
逃げずに背負う。そう決断したのは精神がよほど強靭なのか、それとも彼が……真祖だからか。
ならば……その荷を……共に背負うのもいい。
ヴァンパイアの道は永遠。しかしこの方に残された時間が短い。
ならばその刹那の時間、共に生きるはむしろ義務。運良ければ、あの闇に息づく怪物の謎を解く事も――
そう思ったとき、手足の痛みは溶けて消えた。熱い涙が目尻から零れ出た。
そうだ。私は暴力に屈したのではない。
『吸血』という行為とは別に、私はあの方を主(あるじ)と決めたのだ。
形良き唇の端から覗く皎い牙。この首に突き立てられたそれを、私は至上の悦びを以って味わった。
≪ぬしが縋るものはなんや? 別の何者と伯爵様を重ねてはおらぬか?≫
嗚呼、貴方の仰る通り。
わたしはあの方を、主(しゅ)と仰いでいた存在に取って代えたのだ。
政治家としての立場も、忌まわしきその血も捨てず、奮戦奮闘する御姿は本当に……
≪人間だった貴方の身体を――貴方のすべてを奪ったそいつが……心配だっていうの?≫
そうだよ麗子。この方は私のすべてだからね。
あの方は滅びるべき真祖だが、その魂は人なのだ。
それを理解するのはこの私、ただ一人。そしてその命を奪うのもまた……この私以外に有り得ない。
だからこそあの方を売った。かつてイスカリオテのユダがそうしたように。
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