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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

74柏木 宗一郎 ◆GM.MgBPyvE:2019/12/31(火) 08:02:57

加減などしない、渾身の投擲だった。しかも狙いは脚。
その弾にまっすぐに当てるには身体を曲げるか倒すか、いずれにせよ不自然な体勢を取らざるを得ない。
それを咄嗟に、かつ正確に。
流石だ。生まれ持った眼と勘……その上での鍛錬の賜物、というわけだね? 魁人くん?

右手人差し指の先が熱い。
ヴァンパイアは銀に強いアレルギーを持つ。触れれば肉を焼く傷となり、癒す手段は生き血のみ。
……生きた……血。
そういえば、つい先ほど口にした魁人の――
たちまちに湧き出す生唾、あわや口の端から滴り落ちようとしたそれを手の甲で押さえる。
とく、とく、と規則正しく時を刻んでいた心臓の鼓動が、やおらその勢いを増し始める。
……まるで野獣だ。ごく僅かに意識しただけでこれだ。田中氏クラスの大老ならば多少の抑制もきくらしいが。

すでに飛び起き、構えている魁人。続く麻生。
窓からの薄明りが仄暗いホール中央に立ち尽くす両者の頬をくっきりと照らしている。
魁人と麻生。
この2人は性格もタイプもまるで違う。
魁人は身体能力と戦闘センスに恵まれ、判断と行動が早い。
今の動きも見事だった。直情に走る故にしばしば読み違う、それだけが玉にキズか。
一方の麻生は慎重に物事を進めるタイプだ。動かぬかと見せかけ不意に行動に移る賢しさも持つ。
そんな麻生が口にした『戦闘の本質は詭道』、なるほど。
私があの地下室に居座っていた時分に彼らに紐解かせた兵法書――孫子の言葉だ。
当時の麻生は殊更に問答を求めたものだ。詭道すなわち敵を欺くやり方は、卑劣な行為に当たるのではないかと。
頷くより他はない。
この国の民は古来より正攻法を良しとする気質が強い。若ければ尚更。
しかし孫武の眼は、自国と隣国とを含めた広いもの。かつ老子の思想「正を以て国を治め、奇を以て兵を用う」を継ぐものなのだ。
つまりは戦争、特に武力戦は本質的に変法である。その思想の根源にあるものは、人材と資源の温存に他ならぬ。
真っ向からただ両者懸命に殺し合うだけの戦、火を放ち地や家屋を焼き払い、不毛と化したその地で得た勝利が何になろう。
故に曰く、『いざ戦争となれば、それは最小限の損失を以て終結せねばならぬ』
個々の戦闘も同じ。
死をも厭わぬハンターであろうと、安易に自身を犠牲にしてはならない。
しかも君達の身体は貴重な資源でもあるのだよ。
故に詭道は王道。
理解したようだね、麻生くん? 

麻生と魁人の囁く声が耳に入る。互いの弾数を確認する声。
魁人が10、麻生が5。
こちらを向く銃口、半身の背をピタリと合わせ、まっすぐに腕を伸ばしたその恰好。
均整の取れた身体、逞しい腕、強い光を宿す両の眼。
強い獲物を狩り、屠る。
これ以上の喜びがこの世にはあるだろうか。断末魔の叫びを聴く、そして啜る生き血の香しさ、それ以上の悦びが?
チリ、と首元で鳴った銀のロザリオ。
右の手が咄嗟の十字を切る。

『主(しゅ)よ、我が悲願が叶う、いまこの時を待っておりました』

伯爵が――我が主(あるじ)がこちらを見ている。
白雪を織り込んだかのメッシュの黒髪、その奥に光る……黒く塗れた瞳。
細くしなやかな肢体、それを覆う一点の滲みの無い、純白のスーツ。
……相も変わらず美しい方だ。その血は……流れる血は……さぞや……

≪ぬしが縋(すが)るものはなんや? 別の何者と伯爵様を重ねてはおらぬか?≫

またもや音を鳴らしたロザリオを、硬く握りしめる。

『主よ、あの2人に祝福を。そして私と、私のあの方には――安らかなる永遠の滅びを』

弾丸が放たれる。
狙いはこの胸。当たればこのロザリオごと、心臓を打ち砕くだろう。


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