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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

64菅 公隆 ◆GM.MgBPyvE:2019/11/26(火) 07:02:07
さざ波のような心地よさに身を委ねるうち、景色が変わる。

上を下も、どこもかしこも白い空間に、ポツンと佇むわたし達。
朝香はいつのまにか着込んだのか、純白の白衣に聴診器を引っかけて。
自分はと見れば、いつもの白スーツ。でもシャツとネクタイは黒じゃない、小洒落たデザインの白。

あはっ! ハム君ったら、かっこいい! あたし達の結婚式を思い出すわね?
え? そんなもの、いつのまに挙げたかな。
……ひどっ! 島の教会で、2人だけで挙げたじゃない! 一生の思い出よ?
……島? 2人?
あ、でも柏木さんが神父で、田中さん……ううん、御爺様がエスコートしてくれたから、4人?

朝香が手を差し出したから、その手を取って立ち上がる。
踏み出せばそれは螺旋に連なる無数の踏み板。
柱はない、ただ白い板が並べられただけの階段は、遥か空の彼方へと続く。
ふわり、ふわりと駆け上がる彼女、追いかけて見れば、彼女が大きな黒い何かを抱えている。
それが何か気づいた時、わたしは思わず一歩後ろに下がった。
蜘蛛だ。
彼女が巨大な蜘蛛を、まるで赤子でも抱くように優しくあやしている。

それ、なんだい?
うふふ……ここにしがみついてたの。かわいいでしょ?
……かわいくは……ないと思うけど。それ、どうするのさ?
こんな所に居たら可哀そう。上まで行って、放してあげなきゃ!

振り向いた彼女の胴体に、毛むくじゃらの手足ががしりとしがみつく。
無邪気に笑いながら、スルスルと階段を登っていく彼女。
追いかけようとしても、身体が鉛になったように動かない。何度も彼女の名を叫ぶうち――


「御免なさいね? わたくしが……あれのスイッチを切りましたの」

凛と響く女の声。
気付けば元の場所だった。
桜子……かと思ったが、そんな筈はない。彼女は死んだ。朝香の撃った弾丸が彼女を殺した。
だがその顔は彼女にそっくりだ。半年前、柏木に連れられて田中さんの家に来た時と同じ、白い瀟洒なドレスもね。
スイッチってのが何のスイッチか知らないけど、でもあの「音」がしなくなった事に関係してるに違いない。そう仮定するのが自然だ。

「すまんな柏木。儂の手ではどうにも出来へんよって、ぬしの虎の子……使わせて貰うで」

暗がりの中で田中さんの声がして、もう一度眼の感度を上げて見れば、彼のすぐ眼前に柏木が立っているのが見えた。
柏木の背にぐっと銃口を突きつける2名のハンターも。
如月も、麻生も、抵抗を露わにした顔、銃身を握る腕も小刻みに震えている。
如月に至っては、もう一方の銃を自身の頭に突き付けている。
彼らが何者かに行動を強制されているのは明らかだ。
ゆっくりと腕を組み、一心に二人と見つめる田中さん。そしてさっきの台詞。
……どんなからくりか知らないけど、田中さんが操作しているのは間違いなさそうだ。
2つの撃鉄が同時に起こされる音。如月の持つ2丁のリボルバーだ。

「……司令……」

懸命に抗うかのような如月の声。柏木はその声に視線を向け、そして半ばあきらめたように眼を閉じた。
わたしは朝香をそっと床に横たえた。
しっかりと閉じられた朝香の眼、その頬にポタリと落ちた雫を見て、わたしは今の今まで自分が泣いていた事に気づいた。
なんてことだ。両親の時も、アルジャーノンの時も、こんな風に涙なんか流した事なんて無かったのに。


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