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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫
59
:
柏木 宗一郎
◆GM.MgBPyvE
:2019/11/23(土) 07:28:03
あの眼。
黄昏の空の色をすべて集め、石にすればあんな眼になるだろうか。
あの時の眼だ。
思いがけず田中氏と引き合わされたあの日も、彼はあんな眼をして私を見たのだ。
指定の場は、都会の最中に在りながらひっそりと佇む純和風の寂れた敷地だった。
『人間をやめる』
そう決意した桜子を連れ、早速に伯爵(マスター)の指示を仰げば、急ぎこの場に来いと言う。
いざ出向いてみればマスターの姿はない。
「ついさっきまで居られましたのが……急に加減が悪うなられましてな」
インターホン越しの声には聞き覚えがあった。
中に入れと誘(いざな)われ、竹を括った門を潜れば苔の覆う和の前庭が開け、点々と続く敷石の先、簡素な庵が我々を出迎えた。
陽光の当たらぬ庇(ひさし)の元で待ち受けていたのは和服姿の大柄な男。
その眼に柔和なる光を湛え、風体は威厳に満ち、かつ佇まいは品の良い。
あの男だ。マスターとの忌まわしき契りが交わされたあの夜に居合わせた、世話役の男。
通された部屋はまるで茶室のような……いや、茶室そのものの設えか。
「用向きはさておき、まずはくつろぎなされ」
亭主自らの手で点てられた茶。
その手前は素人の私から見ても凡人のそれではない。
濃く練られた茶を啜り、桜子ともども他愛もない世間話などするうちに時がたち。
床の間に活けられた牡丹の蕾と花器に赤い影が差しはじめ、良く良くみれば掛け軸の書、見覚えがあると思えば――
「はははは! この軸、予てより伯爵様に強請り、ようやくに貰い受けた品。驚きましたぞ。聞けば柏木殿、貴殿の作だと!」
何と言う顔をするのだろう。
この男、老練なる気配から察するに100を優に越している。ややもすれば500。
時を経る毎にその精神は荒(すさ)み、心を無くすものが多いと聞く。
それが……このような闊達なる笑みが出来るものか。
それほどの器か。何故これほどの男が……年若きあの方を「伯爵」と?
「これを拝見し貴殿がなかなかに大した方だとお見受けいたした」
首を横に振る私に、彼は首を傾げて見せ、縁側へと足を運び天を仰いだ。
「最近、富に伯爵様の持病とやらが酷くなられる。『契り』は貴殿の手で交わされても良いのでは?」
「……は?」
「解りますぞ? 貴殿の器量。伯爵様に匹敵する、いやむしろ上回る身のこなし。しかも、伯爵様の資質、陽光耐性をも受け継ぎ――」
「まさか! それは買い被りです」
「ほう……? この儂の眼を……お疑いか?」
「違います。わたくしは……仲間を……同胞を作らぬと決めております」
「なんと……申された」
夕暮れの春の風が、急に陰りを帯びた気がした。
さざ波の如き一面の薄雲が黒々とした紅に染まる空。
照り返す暗赤色の陽光は、彼の肌には障らぬらしい。量の長い黒髪が風に流れゾロリとなびく。
傍に設えられた鹿威しが、水音と共に乾いた音を立てる。
「柏木。主(ぬし)は伯爵様の……なんや?」
振り向かずに問う、その声音が一変している。
彼は大阪、堺の出であると言う。
普段使わぬその言葉を紡ぐ時は、その心中が穏やかでは無い。
そう思い知ったのは、ゆっくりと向き直った……田中氏の眼を見た時だったのだ。
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