したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

47菅 公隆 ◆GM.MgBPyvE:2019/07/14(日) 13:33:42
馬が、如月がどうなったかなんて確認する必要はない。
本気出したハンターの実力を知らないわけじゃないからね。

意識を本体に戻した時、わたしは本館の中に居た。1階の中央部、あの絢爛な大広間を、参議院側から見渡す位置だ。
……へぇ。場がこんなにも張り詰めてるよ。
いま戻って正解だったみたいだ。

視界はいたって悪い。
暗い空間は光源がほとんどなくて、その上硝煙の煙が色濃く立ち込めているんだ。
この匂いにはいつも閉口させられる。喉と鼻が酷くヒリヒリするからね。
そしてこれは……新鮮な血の匂い。大勢の、ではない。一人の……いや、微かに……もう一人。
そういえば沢口の奴、朝香を撃ったと言ってたけど……違う。どちらも男のものだ。

眼の感度を少しだけ上げてみる。
広間の中央に……やはり。スーツ姿の男の死体。原因の大元はこれだ。胸部からの出血は止まっていない。
もうひとかたは何処だ。少量の出血、流れ弾に当たったか、一度目の銃撃で怪我を負った人物が近くにいる筈。
朝香がしゃがみ込んでいる。
遺体の検分でもしてるのか、血だまりに両膝を付いて、てきぱきと手を動かす彼女には……やはり怪我はない。
彼女の後ろには包帯で右腕を吊った初老の男……って良く見たら、え? 総理?
肩口に巻かれた包帯に滲んだ血液。
そうか、沢口が指示した銃撃で怪我を負ったのは、朝香でなく総理。
総理はああ見えて女の子大好きだからね、反射的に庇っちゃったんじゃないかな。
それを朝香が処置した。やっかいな銃創の応急処置を現場でやってのける人物はここじゃ一人しかいないからね。

まあいい。目下の検案はあの死体。
少し離れた壁際に、銃を手にしたクロイツたちが立っている。その銃口からもれなく立ち昇る硝煙。撃ったのは彼らで間違いない。
頭でなく胸部を狙うのはヴァンパイア戦の基本。つまり、彼をヴァンパイアだと誤認した。
だとしたら何故だ。
ハンターほどじゃないものの、クロイツ達だって一応の訓練を積んだ優秀な対ヴァンパイア要員だよ?
いくら視界が悪いからって、人間とヴァンパイアを間違える、そんなヘマをするとは思えない。

「噛まれた痕は無いわ。この人は人間。代議士の一人だったみたいね」

朝香の声でハッとしたわたしはあらためて死体を見た。
そういや見覚えのあるスーツ……なんて思えば……なんだ、ついさっき第3委員会室で同席していた財務副大臣じゃないか。
総理の顔が曇る。クロイツ達も明らかに動揺している。

「これって……どうなるの? 緊急時のどさくさって事で済むの? 済まないの?」
一瞬の間を置いて、総理がチラッとこっちを見てさ、そして答えたんだ。
「済むまいね。無論、居合わせた私の責任だがしかし……事は収束には向かうまい」
「え?」

ポカンと口を開ける朝香。
総理が意味ありげにその目を衆議院側の廊下に向けて――わたしもそっちを見た。
そしてもう一度、横たわった死体を見て、その頭部に刻まれた特異な傷跡に気づいたのさ。
あれは――ああそうか。そういう事か。
だからクロイツは撃ったんだ。修練を積んで会得した能力、ヴァンパイアの放つ殺気を感じ取る能力故に、撃たずには居られなかった。

天井を仰いだ。
6階まで吹き抜けの高い天井には、あの瀟洒なステンドグラスがそのまま。
四方に貼られた四季の壁画や、壁の細工はまだ……破損も……血の滲みのひとつも無い。
見てみなよ。台座に立つ大隈さんや伊藤さんが怖い眼でこっちを見てる。
ここが戦場になる? 冗談じゃない!
いままでわたしが積み上げて来た地位も、準備立ても、ぜんぶ無駄だったって?
なんでだよ田中さん。何故今頃になって――

一歩前に進み出た彼を睨みつけ、わたしも一足前に出る。

「何のつもりですか……田中さん」

事と次第によって、わたしは貴方の敵になる。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板