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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

162佐井 朝香 ◆GM.MgBPyvE:2020/11/03(火) 06:43:27
ハムくんは一瞬ポカンとして、手をにぎにぎしたり、顔をペタペタしたり。

「わたしのゲノムを……弄ったってこと?」
「いじくるなんて! 大昔に組み込まれていたヴァンパイアのゲノムを……意味のない配列に置き換えただけよ?」
「さらっと言うね。それってそんなに簡単なことかい?」
「そりゃ簡単じゃないわ。うまく説明は出来ないけど……『あるべき姿』をイメージすると、『それ』が『そう』なるって言うか?」
「たしかに良く解らないけど、つまりもう『覚醒』する心配はないってこと?」
「そうよ。仮に誰かに噛まれたとしても『発症』には至らないわ!」
「いつやったんだい? もしかして麻生達の……演奏の最中に?」
「うん。あたし、クラシックを聴くと簡単にトランス状態になれるから」
「じゃあこの手首のこれも……それのせい?」

ハムくんが両手首をこっちに向ける。うっすらと……赤い痕が残ってる。

「たぶんそれ、全身の細胞が抵抗した反動ね。彼等に取っては恐るべき事態だった筈だから。あちこちチクチクしなかった?」
「……チクチクどころか、経験した事もない激痛だったよ。千枚通しで身体を突き通されたらあんな感じかもね」

足を組みかえて、胡坐の姿勢になったハムくん。ちょっと考えて、口を少し尖らせた。

「こんな手の込んだ事しなくても、『治験』するならするって最初から言ってくれれば良かったんじゃない?」
「……ごめん。言えばすぐには「うん」て言ってくれないと思ったの」
「そんな事ないよ。わたし1人の施術に『機関』の許可は要らないさ」
「……違うの。治験対象はハムくんだけじゃなく『みんなも』だったから」
「みんなって?」
「だから、ここに居る人達み〜んな」
「はあ!!!??」

ハムくんがひょいと腰を上げて立ち上がった。
トットッと駆けだして、舞台上を行ったり来たり。立ち止まっては客席をゆっくりじっくり、隅から隅まで眺めまわして。
そしやら客席のみんなは、げらげら、くすくすって。たぶんあの……キリっとして自信たっぷりなハムくんしか知らないから?
でもハムくん、「……そういう事か! 魁人まであっさり裏切るとか……おかしいと思ったんだ!」なんて叫んでる。
そして真面目な顔してあたしの方を振り向いて。

「しかし信じられない。……この規模を……ぜんぶ……君1人で?」
「ううん。麻生君と桜子さんも」
「彼等の――音の力を借りた?」
「そうよ。だんだんと……みんなの心がひとつになるように……だっけ? 麻生君?」
「えぇ。シンクロナイゼーション(同期化)です。それを意識して選曲しました。心と鼓動がひとつになるように」
「……そうよ、それそれ!」
「菅さん、脅かしてしまってすみません。どうせ今夜を選ぶなら、一発かましてやろうなんて、魁人が――」
「あ? なに自分だけいい子ぶってんだ? てめぇこそノリノリだったじゃねぇかよ」
「……菅さんもそういうの、好きかと思って……でもちょっと……あれはやりすぎたかなぁって」
「いいんだよ。何なら手足に一発ぶちこんでやっても良かったぜぇ俺は」
「そんな口きいて……今日は(国会の)初日だから体力持つか〜とか、明日の質疑大丈夫か〜なんて一番心配してたの魁人じゃない!」
「こいつじゃねぇ、てめぇの心配だっつーの! 苦労すんのは秘書の俺だからよ! よりによって満月に初日かって――」
「……満月? ……あ! そうか!」
「そういうこと! あたしやみんなの――ヴァンパイアの力が最大になるのは満月の夜だから!」
「ハロウィンも、ですよね?」
「そう! 地球のみんなの……高揚感? それがこう……手伝ってくれて、もう……ブワッって。こう……ブワッて。わかる?」
「わかんねぇよ」
「とにかく凄かったの! ときどき田中さんが手をギュッとしてくれなかったら、制御不能になってたかも!」
「……うおぃおぃ。俺ぁもともと半信半疑だったからよ? 手首のあれが吹っ飛んだ時ぁ、マジで青くなったんだからな!」
「結果的にはオーライだったじゃない!」

「そうですとも。これを僥倖と言わずなんと言いましょう?」

優しく笑いながら立ち上がったのは、今まで腕組んで眺めてた田中さん。
ゆっくりと会場を見回しながら手で差して。

「総理。今の言葉で『サプライズ』というらしいですな。日頃の貴方への感謝の意を伝えたかった」


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