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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

154菅 公隆 ◆GM.MgBPyvE:2020/10/27(火) 06:44:26
確かに朝香の声を聞いた、その直後だった。得も言われぬ衝撃が身を貫いたのは。
ライフルを装備した小隊の一斉射撃を受けた事がある人なら解るだろう。
頭部に手足、胴体すべてが四散、かつ各組織から細胞の分子に至るまで、散り散りになるような……そんな衝撃だ。
魁人が何か叫んでいる。
同時に耳を焼いたのは、鉄を引き裂くかの破裂音。

感覚が消えうせる。
どこまでも静まり返った深い闇。
わたしは……この世から消えてなくなってしまったんだろうか。

≪よく見てハムくん! 眼をあけて!≫

またもや朝香の声。
ハッとして眼を開ける。
ここはコンサートホール。さっきから、ずっと同じ場所でわたしは……

試しに力を入れると、フワリと足腰が動いた。手足が、特に手首のあたりがやたらと軽い。
不審に思い手首を見れば、そこにいつものアレがない。赤い轍(わだち)に似た痕が3つ、刻まれているだけだ。
ブレスレットの痕跡。
能力の大きさに応じ、二重、三重と重ねる……怪力や吸血衝動といった危険な力を封じる枷であった……それがない。
……あ……有り得ない。
もしや……床に散らばる破片が……それなのか?
……さっきの音は……これが?
どういうことだ。わたしは……覚醒してしまったのか?

辺りを見回し、さらにぎょっとする。
皆が皆、わたしと似たポーズを取っていたのさ。
自由となった手首を茫然と眺めるポーズをね。

想定外だ。
わたしを含め、500あまりの「ヴァンパイア」の頸木が解かれてしまった。
麻生と秋桜(桜子)の2人が共同作業で弾いたせいか、あの旋律にその手の効果があったのか。

「おい」

魁人に呼ばれ、振り向けば銃口がこちらを向いている。
……約束したからね。もしわたしが覚醒するような事態となれば、直ちにこの心臓を撃ち抜くと。
ここは覚悟を決めるべきだろう。わたしの代わりなど幾らでもいる。

両手を腰のあたりで後ろに回し、向き直ったわたしの眼を魁人が睨む。
射抜くような黒い視線が、しばしわたしのそれと絡み合う。そして――

「……撃たないのかい?」
「ああ。てめぇは人間だからな」
「なぜ言い切れる」
「眼を見りゃ解らぁ。俺様を誰だと思ってやがる」
「……そう……なんだ?」

わたしは魁人を、正確にはその眼を信頼している。魁人がそう言うのならそうなのだろう。
……ひとまずは良し。が、深刻な状況には変わりない。今現在、多勢のヴァンパイアたちに取り囲まれているんだ。
魁人と柏木がいかに強力な騎士(ナイト)でも、太刀打ちは不可能だ。が、諦めるのはまだ早い。
魁人が狙いをつける。右の銃口はわたしの背後。
……だね。牽制すべきは田中さん。この場のヴァンパイア達の長(おさ)。彼が命じなければこの群衆は動かない。
だが左の銃口はどういうわけか9時の方向――舞台上に向けられた。
その眼が怪訝に眼を細められている。額から流れ落ちる一筋の汗。
田中さんはと見れば、いつもの落ち着いた佇まいで立っている。いつもの……その柔らかな視線を前方に――舞台上に向けたまま。

「……うまくいったんですね。田中さん?」

小さな秋桜を横抱きにした麻生が、うっすらと張り付くような微みを浮かべていた。


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