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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫
150
:
菅 公隆
◆GM.MgBPyvE
:2020/10/25(日) 06:35:14
「木枯らし」と、そう誰かが名付けた曲。
本当の曲名はエチュード(練習曲)作品25の11番。
やっと来た。そう来なくては、「ショパンの申し子麻生」の名が廃れるってものさ。
耳を傾ける。
丁寧に……まるで、触れば壊れるのかってほど……この上なく「優しく」奏でられる丁寧な和音。
この胸にしっくりと来る、完璧な協和音。そして一度、不安かつ物憂げな和音を打ち、動きが止まる。
なんという長い「間」だろうか。
いいさ。長いタメほど期待は膨らむ。本題がいかに素晴らしいか知ってるからね。
突如として木の葉をまき散らす、寒空の秋の風――木枯らしの風。
小刻みに音を散らしつつ駆け降りる、哀し気な右の旋律。堂々と自己を主張しつつ奏でられる左の主線。
初めてこの曲を聴いた時は、すっかり色づいた公園の一角に佇む自分が見えたものさ。
だが――突然に叩きつけられたフォルテ。
なんだこの木枯らしは!
駆け降りる高音部が凄いのさ! 幾度となく降りかかる……災難? いや神の啓示と称しても過言じゃない。
左も負けず、むしろ主役の貫禄。
右と折り合いをつけつつも、幾度となく対峙、つかず離れず展開する……音。音。音。
なんという躍動感! なんという情熱!
ひどくゆっくりと流れる時間。運命に翻弄される感覚。
眼を開ける事が出来ない。ここは何処だ。わたしは今……何をしている?
両膝に押し付けられる硬い床。
床につく手の平には、ザラリとした木の感触。
唐突に告げられた死の宣告と共に、突きつけられる銃口。司祭姿の柏木が背後に立っている。
突如――音が止む。
終わったのか。
誰にあてた曲だったのか。
じっとこちらを見つめる麻生が、微かに頷く。
そうか、次はわたしの番なのか。
ならば今のは柏木あてか。故郷の民を奪われ、復讐を誓う。そんな過酷な使命を負った、柏木への。
なるほど右隣から、ギリリと拳を握りしめる音。
見ればその拳の隙間から、真っ赤な血があふれ出している。わたし以上に「音の洗礼」を受けたのか。
麻生が構える。
力強く打ち出された出だし。
これもショパンだ。エチュード作品25の12。
木枯らしのような別名があったような気がするのだが思い出せない。
右と左がピタリとシンクロしている。駆け上がっては降りる事を、最初から最後までひたすらに繰り返すアルペジオ。
かと言って単調かと思えば、そこはショパン、抜かりが無い。緻密に音を変化させ、情感籠る情熱的な曲調に仕上げている。
それを麻生が弾くと……こうなるのか!
絶望と歓喜。
月光の第3楽章に似た焦燥感。
鼓動が鳴る。
運命に翻弄され、足掻く人間がふと活路を見出し、解決への道を歩んでいく。そんなストーリーさえ思い描ける。
すごい……この高揚感。覚醒しコントロールを失ったあの時を思い出す。
震える手を組み合わせ、眼を閉じる。
鼓動が音に共鳴しているのが解る。
自分だけじゃない。
左に座る魁人の鼓動が、それとまったく同じリズムを刻んでいる。
魁人だけじゃない。
柏木も、田中さんも。会場の人間すべての。
再び訪れた静寂。
呪縛が解けたかに弛緩する身体。
しかし胸の中は熱いままだ。ついに最後か。残るは……田中さんの――
いっとき眼を閉じ、徐に麻生が弾き出した、その曲はわたしの愛するシューベルトだった。
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