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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

145菅 公隆 ◆GM.MgBPyvE:2020/10/04(日) 19:12:18
議事堂での一件が片付いたその後、生き残った仲間探しに奔走していた田中さん。
実は彼こそが今夜の主催なのさ。
彼から連絡が入ったのはほんの数日前。
集めた「彼等」と内密に引き合わせたいから、是非にもお越し願いたい、なんて、あの有無を言わせぬ強引さで頼み込んできてさ。
麻生結弦のピアノ演奏を聴きながら、なんて粋な趣向まで取り付けて来るもんだから、せっかくだし謹んでお受けした訳だ。
……にしても、麻生と田中さんにそこまでの付き合いがあったなんてね。

「どうぞ、こちらからお入りください」

厚ぼったい両開きのドアの前で宗が立ち止まる。このドアは、最後尾の座席が並ぶ最上段の中央口。
一瞬でホール全体が見渡せる位置、つまり、座席側からも一目でそれと解る場所だ。

重そうな音を立て、ドアが開く。座っていた客たちがこちらを見上げる。

ゾクリとした。
彼等の眼が一斉に金色に光ったからさ。無論ライトの照り返しなんかじゃない。
魁人の腕がグリップに掛かる。
……仕方ないかな。この5年間、「こっち側の仕事」にかまけて、彼等のことは田中さんに任せっぱなしだった。
こんなハンターなんか引き連れて顔を出したら、警戒するのは当然だよね。

わたしは魁人の肩を軽く叩いて、その前に出た。
こちらに「敵意がない」ことを伝える必要を感じたからさ。
一応こちらは客だし、この場で謝辞諸々を述べても不自然じゃない。挨拶ついでに今までの怠慢も詫びようってね。

会場をゆっくりと見渡しながら一礼。そのひとりひとりとなるべく眼を合わせ、口を開きかけたその時。

「これはこれは、ようこそお運びくださいました!」

驚いたよ。
見れば、中央前よりの席の辺りに田中さんが立ってたのさ。
いつもの装いだ。緑色の光沢を帯びる茶色の羽織に、やはり緑を帯びた鼠色の袴。
ん……左肩に描かれてる柄が……桜じゃない。冬のものだ。
放射状に配置する葉の中央に、点々と描かれた控えめな白い柊(ひいらぎ)の花。
彼ったらさ、草履履きの足をキュキュッと言わせながら、両手を左右に広げながら段を登って来てさ。

「無沙汰を致しておりました。道中、お冷えになられたでしょう」

なんて、まるで何事もなかったように声をかけてきたんだよ。
とたん、場の空気が一変。
和やかな喧騒に変わったのさ。
彼等の眼に灯っていた火は何処へか。小声でおしゃべりしたり、徐にプログラムを開いたり。
さっすが田中さんだなあ。いとも簡単に大勢の呼吸を掴んでしまう。

「申し訳ないね。手間を省いてもらって」
「とんでも御座いません。寧ろわたくしが出向くべき所なれば。はははっ! ついうっかりでは済まされませんな!」

こんな所でもそんな風に笑っちゃうのが田中さん。本当に、変わらない。

「礼を言います。このような場を設けてくださって、本当に」
「いえいえ、法の整備など大方整ったと聞き及びまして、そんな折に当方の支度が整いました故、
これ以上の機会は無いかと判断した由(よし)にて。ささっ! 急がねば始まります! どうぞこちらへ!」

さっき田中さんが立ってた場所と案内されて、行ってみれば席は4つ並んで空いている。
魁人、わたし、宗の順に腰かけて、最後に田中さん。……あれ?

「ハムくん! 良かった!」

田中さんの隣席はなんと朝香だった。さっきのさっきまで二人で居たって事だ。
祖父と孫娘の5年ぶりのご対面、積もる話に花を咲かせてたに違いない。
なんだ、「ついうっかり」なんて言って、そんな事情もあったんじゃないか。


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