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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

144菅 公隆 ◆GM.MgBPyvE:2020/10/04(日) 19:04:14

カウンター前に立つ、いかにも支配人のオーラを放つ黒スーツ。
ってよく見れば。

「宗(そう)じゃないか! どうしたんだい? 案内役でも任された?」
「えぇ。母さんが、『あなたはここでこうしてるべきよ!』、なんて言い張るので」
「仕方なく?」
「いえ、わたくしも当事者ですし、何もせずに居るよりはお役に立てた方が宜しいかと思いましたので」

宗は柏木の姿になるといつもこんな慇懃無礼なしゃべり方をする。
生前の柏木の記憶があるっていうから仕方ないけど、わたしとしては複雑だ。
実の息子に「マスター」なんて呼ばれるんだよ。それって……どうなのさ。

「そりゃまあ助かるし有難いけどさ。5歳の息子に頼むことじゃないよね」
「お言葉ですがマスター、わたくしは――」
「いいよいいよ、解ってる。少しは集まったのかい?」
「えぇ。名簿に載った方々はすべて場内にてお待ちです」
「すべてって、まさか全員?」
「はい。総勢550名、欠席者は御座いません」
「……流石だなぁ。本会議の出席率もこうだったらいいのにさ!」

わたしの軽口にクスリと笑い、しかしその眼は何処か哀し気だ。
彼には事の全貌を明らかにはしていない、ていうか、わたしにすら田中さんの真意は解らない。
招待された客たちが何者か知ったはずだ。
これからの彼等の反応如何によっては、わたし達家族、いやこの社会体制そのものが――
いや、今更言っても始まらない。
無言で踵を返し、彼はわたし達を緋色の絨毯が敷かれた幅広の階段へと誘導した。
柔らかな絨毯に足を乗せ、一歩、一歩と歩を進め――

ふわり、と冷たい雪の匂いがした。
ハッとしたよ。
ゆっくりと階段を登る彼の後姿にね。
あの時に見(まみ)えた神父の姿がオーバーラップして見えたのさ。

厳粛に満ちたあの時の記憶がよみがえる。
積もる雪を照らす薄明り。
灰色の夜空に黒く聳える質素な十字架。

――足が竦む。
身体が重い。
背に重くのしかかるこれは何だ。
背の骨が軋む。
わたしは今……自分自身を磔にする為の、木の架台を背負っている。

チャリン、と何かが音を立てた。
いつも手首に巻き付けている柏木の遺品――欠けた十字架のメダイが足元に落ちている。

あはは……どうかしてる。
このわたしが明るい未来を目指さなくてどうするのさ。

「宗、君も一緒に聴くんだろ?」

軽く話題を振った、その声は幾分震えていたかもしれない。

「えぇ。麻生結弦の『渾身の音』が聴けると期待して来ましたから」
「へぇ、もしかして麻生がそんな風に言ってた?」
「えぇ。曲目はすべて、わたし達1人1人をイメージして選んと」
「わたし達って誰さ?」
「母さんと父さん、局長時代のわたくしと魁人さん、そして田中さんの5人だそうです」
「田中さんが……入ってるんだ?」


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