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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫
140
:
佐井 朝香
◆GM.MgBPyvE
:2020/08/31(月) 12:27:44
「先生、いつもありがとう!」
「いいのよ、仕事だもの。それよりその腕、しばらく動かしちゃ駄目よ? あ! こら!」
扉を開けて、あっと言う間に遠ざかる靴の音。あたしは急いでその背中を追いかけて廊下に出る。
吹き抜けの非常階段の、打ちっ放しの壁に、カツーンカツーンって音が反響してる。
「ちょっと! そんな走ったりしちゃ駄目だってばーー!!」
そしたら「わかってるーー!」なんて声が遠くから返ってきて、外に出ていく扉の音がして。
あ、今の子は患者さん。お役所勤めのご両親が忙しいから、夕方の遅い時間に1人で来るの。
まだ「年長さん」なのにちゃんとした挨拶も出来るし、とてもしっかりしてる。
そういうとこ、きっと母親に似たのねぇ。それとも……先に身体が動いちゃう父親似?
とにかく、あの調子じゃあ、また来る事になるわね。手すり掴んだり振り回す音もしてたもの。
そりゃああたしの手にかかったら、痛みが何処かにふっとんじゃうだろうから? 治った気になるのも無理ないかもだけど。
子供相手じゃ……そこのとこ考える必要があるかもねぇ……
そんな事をぶつぶつ呟いてたあたしに、後ろから声をかけた人が居る。
「先生、次の患者さんがお待ちです」
そうだった。つい考えこんじゃって、状況忘れちゃうのが悪い癖よね。
ほんと、彼のアシストのお陰でいつも助かっちゃう。我が子ながら、凄く有能。とても5歳とは思えないわ。
――え? あたしの子よ?
推定185cmの背丈とか、丁寧にセットしたオールバックの髪とか、ウィンザー・ノットに結んだネクタイとか、
裾の長い白衣からすっきり伸びた長い脚とか、もろもろがとてもそうとは見えないけど、
並んで歩くと良く「お父上ですか?」なんて間違われるけど、でもあたしの子。
あの時出来た、ハムくんとの息子。名前は宗(そう)。
「どうしました?」
診療室に続く扉をあけつつ、あたしを振り返る彼。
……ま、誰が見ても疑うわよね。
見た目年齢40歳以上。その顔はどう見ても……柏木さんその人だもの。じっと見つめられたあたしは思わず……眼を逸らす。
ああ、いつもこんなってわけじゃないの。彼の見た目が大人になるのは「ここ」だけなの。
診療室じゃない……リビングとか寝室とか、そんな生活空間だと子供なの。外を歩くときもね?
彼、その気になればいつでも姿を変えられるって言うのよ。それって……誰かに似てるわよね?
――そう! 秋桜ちゃん!
なるほど、って思い当たらなかった? 2人とも、お母さんのお腹の中に居た時に同じような出来事に遭ったって。
秋桜ちゃんが秋子さんのお腹の中に居た時には桜子さん、この子があたしのお腹に居た時には柏木さんが……って。
これもヴァンパイアの能力なのかも。
滅びる寸前の魂が、生まれる前の子供に――なんて、そんな特殊能力。
しぶとい?
ううん、そんなの、ヴァンパイアに限らない。どんな生き物だってそうじゃない?
生き物の証――遺伝子の本体は変わらない。DNAや、RNAは、世代や種を超えて存在し続けるんだもの。
「あのね、今夜は……今夜だけは麻生くんのリサイタルに行こうと思うの。だから宗くんも一緒に来てくれる?」
「……」
彼の眼――柏木さんと同じ茶色の眼が何かを追うようにそっと動く。
大人になった彼には生前の記憶があるみたい。だから、麻生君の名前を聞いて、迷ったのかも。
でもゆっくり頷いた。ドアの札を、closeに変える彼の手首には、3重に嵌められた銀のブレスレットが光ってる。
どんな気分かしら? 生まれ変わったら、あたしとハムくんが両親で、自分は真祖としての運命を受け入れなきゃならないなんて。
「あと3人いらっしゃいますが……先生なら間に合いますね?」
「あたりまえよ、あたしを誰だと思ってるの?」
フッと笑うその仕草、ほんと柏木さんそっくり。
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