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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫
139
:
麻生 結弦
◆GM.MgBPyvE
:2020/08/31(月) 12:25:56
「父さま! そろそろよ!」
秋桜の声に、僕は鍵盤をなぞる手を止めた。
半ば開いた控室のドアを背に秋桜が立っている。まるで花嫁のような純白のドレス。
でも背丈はやっと100cmに届く程度。……5年前のあの頃からまったく成長していないんです。
まあ……実年齢が見た目に追いついた、とも言えますが。
彼女の手首のブレスレットが、ギラリとこの左目を刺す。
「『それ』外しますよ? 舞台ライトの照り返しは、お客様方の眼に毒ですから」
にこりと笑った彼女が両手をそろえて差し出した。
僕はいつも懐に用意してある「鍵」で、その「枷」を外して――
パッと彼女の眼が輝いて、でも金に変わるような事はない。朝香先生の治療の成果……でしょうか。
彼女はその誕生の背景と、特異な成長速度、かつ音楽に対する天才的な技能を指摘され、「真祖に近い個体」と診断されました。
ですから法――菅さんが新たに制定した「ラミア感染症対策特別措置法」の規定により、純銀のブレスレット着用が義務付けられた訳なんです。
ただ彼女には吸血欲求や嗜虐性はありません。朝起きて夜眠り、人並みの食事を摂るんです。
よって「害はない」とみなされ、時に応じた「両手首の腕輪を外す許可」を貰っています。
……僕のような「撃手」が傍に居るのが条件、ではありますけど。
「……来るかしら?」
「どうかな。でも今回は特別だから、来そうな気がする」
滑るように歩み寄った秋桜の指が鍵盤(キー)を叩く。
たった一音。
Eフラット。ラ・カンパネラの出だしの音。
凄い音だ。こんなにも身体の芯を震わす音が存在する。
やはり彼女にはヴァンパイアの血が流れている。
ふと顔を上げ、眼を向ける秋桜が――いや……君はいまや秋桜じゃない。
「なら今夜こそ……弾きましょう?」
さっきまで僕を見上げていた筈の彼女の声が、「上」からする。
さっきまでは小さかった筈の手が、長くすっきりと伸びている。
……参ります。
彼女は時々……こんな風に「桜子」に戻るんです。そんなところまで気まぐれで、奔放で。
また拝めるだろうか。
あの時のあの音を、もう一度体験できる?
今度は僕が高音部を弾いてもいい。
彼女と共に過ごしたあの最高の時間を貰えるなら、他には何も要らない。
「聞いてるの!? 結弦!?」
少し強めな口調に、僕はあわてて頷いた。
そんな自分が可笑しくて、少し笑った僕を彼女が笑う。
これも……そうだね。2人の時間には違いない。
血縁上……彼女は僕の血を引く娘だ。
これも罰なんだろう。
秋子と桜子、どちらかをきちんと選べなかった僕への罰。
でも最近割り切ったこともあるんです。
僕は音楽家だ。聴いてくれる誰かに音を届けるのが役目だ。
だからそんなモヤモヤした感情を、音に変えて表現すればいいかな……と。
音に深みを出すための手段は、いくらあってもいいんじゃないかなと。
「やっと……吹っ切れたのね?」
……参りました。いったい彼女は何処まで解ってるんでしょう?
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