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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

135菅 公隆 ◆GM.MgBPyvE:2020/08/16(日) 06:06:35
朝香の決意を知った、その瞬間に景色は晴れた。

見ればみな元の位置にいる。
如月も、麻生も、麻生の膝元に座る秋桜も。
皆がハッとした眼を互いに交わす。さきほどの体験を共有した者同士の眼だ。
ただ1人、魁人のベッドに腰かけていた筈の朝香だけが、眼を閉じて立っている。

なんと形容したものか。
ざわめく、という言葉が近いか。

室内の家具がカタカタと振動している。リンリンと音を立てる空気。
異様な気配だ。それが解るのか、外の木々、土中に眠る虫たちまでが騒ぎ出す。
朝香の髪の、その一本一本が思い思いの方向に靡いている。
見上げる麻生と如月の頬を伝う一筋の汗。
ゆっくりと瞼を持ち上げる朝香。その眼の色は、鮮やかな金。

「先生……貴方は――」

口を開いた麻生の左手が動く。
足首にでも装備していたのか、あっと思ったその時には発砲動作が終了していた。
木霊する銃撃音と、満ちる硝煙の匂い。
被弾した朝香は微動だにしない。その胸の正中には明らかに銃弾が撃ち込まれた痕があると言うのにだ。
礫が落ちる硬い音。
見れば、彼女の足元に弾頭がひとつ、転がっている。
陽光を浴びて鈍く光るそれは、紛れもない純銀製。血の一滴もついていない。
視線を戻せば、朝香の胸元の傷は無い。

驚愕に値する事態だ。
彼女が平気だって事じゃない。
彼女が麻生に武装を許してた事がだ。
診察の際に気付かないはずはない。……なぜ?

「なるほど、納得です。あの時僕は間違いなく貴方を撃った。銀の弾丸を撃ち込んだんだ。でも貴方は無事だった」
「あたし、知らなかった。でもどこかで気づいてた。色々無茶が出来たのも、たぶん何処かで……大丈夫って思ってたから」
「だから……僕のベレッタをそのままに?」
「……ていうか、差し支えの無い装備はとくに気にしなかったっていうか?」
「……んじゃ俺のコルトは?」
「あはっ! あれはとうぜん外したわ! レントゲンに映っちゃうもの!」

如月の手が自身の腰をまさぐっている。
そこにあるべきホルスターと得物の有無を、無意識に確認する動作か。

「指示を下さい菅さん。いまや貴方は『こちら側の人間』ですよね?」

まだベレッタを構えたままの麻生。
なるほど彼はハンターだ。曲がりなりにもわたしは元帥。全弾撃ち尽くせと言えばその通りにするだろう。しかし――

「それはどうかな」

如月が怪訝な眼でこちらを見る。麻生は朝香に向ける眼を外さず。

「さっきの『あれ』を見ただろ? わたしはその気になれば『戻れる』んだ。しかも彼女は許婚、あちら側に回ったって――」
「いいえ!」

麻生が強い口調で否定した。断固とした口ぶり、柏木譲りか。

「貴方は人間で、政治家です。この国を引っ張っていく責任がある事を、ご自身が良くご存知だ。感情に流されたりはしない」
「しかし同時にヴァンパイアの長でもある。両者に取って最適の道を探すのがわたしの役目さ」
「まだ……諦めないおつもりですか?」
「そうだよ。『共存』がわたしの悲願なんだ」


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