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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

134佐井 朝香 ◆GM.MgBPyvE:2020/07/20(月) 16:22:25

不思議な力。
生き物の修復――治癒を促す力。
あたしが傷に触れて眼を閉じた時、浮かぶのは「分子レベルのイメージ」。
破損部を修復する為のタンパクの合成や、伝達を媒介する化学物質の分泌。
それを全部、コントロールしている自分が居るの。
核の設計図(DNA配列)から、修復に要る部分を抜き出す。
A、A、G、C、T……なんてつぶやくと、RNAやオルガネラ達が動いてくれる。

あはっ! そんな力、人間にあるはず無いわよね!
あたし、「ヴァンパイア」っていう存在を知って、ぼんやりと……自分もそうなんじゃないかって。
医者になって大きな病院に勤務した時も、必死に力を隠そうとしたけど、でも駄目で。
あたしの担当の患者さんが片っ端から治る、それはある意味、医学の発展を妨げる現象だった。
そりゃ……「どういう機序で治癒したか」が大事なんだもの。
ある日、治った筈の患者さんに訴えられて、病院をクビになって、免許も取られちゃった。
仕方なかったの。地下でひっそりやっていくしか無かった。
でもそれはそれで楽しかった。喜んでくれる人の顔見るたびに、生きがいを感じて、だから――

「だから、変わる? ヴァンパイアになるって選択でいいんだね?」

あたしを見つめる菅さんの眼はいつも通り、真っ暗で深い闇の底。
眼の奥に潜むたくさんの「眼」。
それはいつでも覚醒可能な核を持つニューロンの群れ。
隣に立つ柏木さんも、金色に輝く眼をじっとあたしに向けて。
横を見れば仕方なさげにポケットに手を突っ込んで立つ魁人がため息をひとつ。
黒いタキシードの麻生君に目配せして、麻生君は背中のホルスターから黒いベレッタを抜き取って。
そのベレッタと麻生君の顔を見比べる秋桜ちゃんが、唇をぎゅっと噛んで。

そうね。もしあたしが頷いたら、彼等はあたしを容赦なく撃つわ。
麗子だってそう。誰よりもヴァンパイアの存在を否定してた麗子だもの。それが仕事だもの。

でもあたしだって戻れない。
「変化」を経験したこの身体は、先に進む選択をしない限り朽ち果ててしまう。
え? ワクチンを打てば戻れるって?
……たぶんダメ。
あたしのDNAは麗子や魁人と違って純度が高い。限りなく100%に近い――真祖のそれだもの。
覚醒する前に、ヒトでは有り得ない能力が発動してたくらいだもの。
菅さんみたいに、血液の総入れ替えでもすれば戻れるけど、でもそれはきっと一時的なもの。
いずれまた同じ運命を辿る。
自分の意志次第でいつでも覚醒可能なのが真祖だもの。

死ぬのが怖いわけじゃない。
あたしは大好きなお仕事を続けたいだけ。未来永劫――朽ちる事のない身体を使って。
歩いていくわ。果てる事のない無明の闇。
でも一人じゃない。きっと菅さんが一緒に歩いてくれる。

あたしはまっすぐにみんなの眼を見返して、そしてコクンと首を縦に振った。


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