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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

133佐井 朝香 ◆GM.MgBPyvE:2020/07/20(月) 16:20:29

あたしの、まだ小さな手をゆったりと包み込む、厚ぼったくて大きな手。
降り注ぐ真っ赤な夕陽のせいで、その人の顔は良く見えない。
手が熱い。その声も眼差しも、すごく。後ろからあたしの肩を抱き締めるお祖母ちゃんの手の平も。

「人のままが宜しかろう。いざ望んだその折は――いずれ」

優しくて太い、そんな声だった。まだ小さかったあたしには、意味なんかさっぱり解らない。

「励みなさい。とりあえずは為すべきことを、脇目もふらず。邪(よこしま)が惑わす隙を、作らぬ事や」

立ち上がったその人が、少しだけ振り返って。
真っ黒な長い髪が風に靡いて、そこから覗く黒い眼が、優しくあたしを見下ろしていて。

それからだったかな。
子供心に、「よーし! がんばろう!」なんて妙に張り切っちゃったの。

目に映るものは何でも面白くて、わくわくしたっけ。
どうして太陽はあんなに明るいのか、どうして星が動くのか。
さざめく木の葉はとってもいい匂い。這いまわる天道虫が赤くて丸い。
言葉ってすごい。数字はとっても便利。理科の実験はほんと……いつまでもしていたい。
友達とおしゃべりするもの楽しすぎ。大好き。特に男の子ってとっても素敵。
子供みたいな眼をしてはしゃぎまわったかと思えば、真剣な顔してサッカーボールに突進してる。
そんなこんなで、いつも誰かに恋してた。いつか普通に結婚して、普通の家族を持つんだろうなあ、って思ってた。

けど中学の時にお祖母ちゃんが亡くなって、施設に入って。
あたし、ずいぶんと長い間、塞ぎこんでたっけ。
そんなあたしが救われたのは、同室になった子がすごく……いけ好かなかったから?
あはっ! いっつもどっちが洗濯機を先に使うかとかしょうも無い事で喧嘩したのよね!
境遇が似てて、しかも引かない性格同士。勝ち合って、喧嘩して……不思議よね。いつの間にか何でも話せる仲になっちゃった。
彼女のアドバイスはいつも不思議と的確で。
悩み事の相談にはいつも乗ってくれて。
大げさじゃないわ、彼女のお陰であたし、望んだ道に進むことが出来たと思ってる。
帝大の医学部に入学出来たのも、無事医師免許を取れたのも、ぜんぶ彼女のお陰なの!
あの時だって、彼女が柏木さんの検査データを送ってくれてなかったら……

「あなた、言ってたわね。ヒトという生き物が好きだって」

振り返る。
すぐ後ろに麗子が立ってる。
はあ……ほんと、女柏木、なんて呼びたいくらいだわ!
ベージュのセットアップで決めた、セクシーで完璧なプロポーション!
針みたいなピンヒールが支える、すっきり伸びた長い足。
服の上からもうかがえる、引き締まった胴、細いけど鍛えられた腕や肩。

「でも変われば……『人を見る眼』は変わるわ。ヒトを好き、なんて言えなくなる」

――そうなの? そうなっちゃうの?

まっすぐにあたしを見つめる麗子の眼。
黒目勝ちなその眼は少し菅さんに似ていて。
思わずまた振り返ったら、菅さんがそっと眼を伏せて。

「ハムくんはどう? 変わった?」
「変わったさ。ヴァンパイアの性(しょう)は君だって知ってるだろ?」
「うん。でもあたし、自分は絶対変わらない自信がある。だったあたしの力は――」
「……かもね。君の特殊能力はあらゆる意味で『特殊』だからね」

その言葉を聞いてあたし、あらためて今までの出来事に納得が行った気がした。
あたしはずっと――「この世の道理を覆す」存在だった。


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