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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫
131
:
佐井 朝香
◆GM.MgBPyvE
:2020/07/07(火) 17:21:39
両手を広げて、ゆっくりと息を吸う彼。
辺り一帯に充満していた二酸化炭素(CO2)と水素イオン(H+)が、その体内に吸いこまれていく。
(そんな小さい物が見えるかって? ……見えるわ。あたしからすれば、水素原子は1〜2mmくらいの大きさなのよね)
――どう?
――意外に楽です。すでに水素がイオン(H+)と電子(e-)に分かれてますから、光合成の反応1――光を使う必要が無い。
――なるほどね。次も行けそう?
――えぇ。本当にクロロフィルが配置されてる。電子を順繰りに受け渡すこの感じ、チトクローム系でやってるのと全く同じです。
――すごいじゃない! やっぱりやれば出来るのね!
――先生のお陰ですよ。最後は再利用したCO2をH2と合成してブドウ糖を作ればいい。カルビン・ベンソン回路って奴ですね。
――そうよ。回す物質が変わっただけで、クエン酸回路とイメージは一緒でしょ?
――そうですね。出来あがったブドウ糖はどうします?
――その辺に置いとけば、解糖系がまたピルビン酸に変えてくれるわ。
――そしたらまた「呼吸」の回路を回せばいいんですね? まさに無限ループだ。
紅潮させた頬をあたしに向けて、ほほ笑む彼。全身から達成感が滲み出てる。
ただその影がとっても薄い。向こうがうっすら透けて見える程。たぶん身体の強度が、今の仕事に耐えられるほど強くない。
――無理は禁物よ?
――そのようですね。実は立ってるだでやっとです。
――少し休んでて? そのだけのATPがあれば、しばらくは持つわ。通常の生活ではかなりの低燃費なの。
――では、お言葉に甘えて。
再び座り込んだ麻生君。彼の周りには、宙に漂うATPの分子がまるで粉雪のように白く舞っていて。
サイクルを回さないから、温度も下がって。冷たいそれも本物の雪みたいで。そんなであたし、麻生君の言った言葉を聞き逃した。
――麻生君? いま何か言った?
――光を浴びたらどうなるかって聞いたんです。
振り向いた彼がニコリと笑って。ぞくりとしたわ。考えもしなかった。
――サーヴァントなら問題ないと思うわ。反応速度が普通の人間と同じだもの。あの時の君も、普通に光を浴びてたし。ただ……
――ただ? ヴァンパイアなら……問題ある、と?
あたしは口ごもった。
呼吸はつまり……燃焼よね。酸素を使って有機物を燃やす燃焼。
反応が段階的で、エネルギーの取り出しが小分けにされてるから、熱の産生が最小限で済むってだけ。
光合成能を――つまり無限のサイクル能を獲得した今、光、それも直射日光みたいな強い光に当たればどうなるかしら。
……暴走するかも知れないわ。一瞬にして燃え尽きる燃焼と同じ。
ヴァンパイアの反応速度は恐ろしく速いもの。それは細胞単位……いいえ、オルガネラの単位でも同じはず。
そっとアクセルを踏むだけで、たぶん地球の脱出速度を超えるほどのポテンシャルがある。……大げさじゃないわ。
いくら強靭な細胞骨格を持つとはいえ、そんな莫大なエネルギーが与える負荷に耐えられるとは思えない。
――先生?
――ごめんなさい。下手に予想して不安を募らせても仕方ないわ。その時はその時よ?
――僕、思うんですけど。
麻生君が踵を返す。その手の平が、ゆらゆらと舞う粉雪をすくってる。
――逃がせばいいって思って。
――逃がすって……誰を?
――もし僕の身体が燃えても、この細胞群が灰になったとしても、先生、貴方は外に逃げられます。
――麻生君……あなた……?
――先生は普段、血管の中を飛び回っているんでしょ? いざとなったら穴を開けて出て行けばいいんです。
――でも麻生君は……宿主は消えちゃうわ?
――いいえ。先生が僕達を覚えていて下さる限り、大丈夫です。長い月日がかかるかもだけど、でも必ずもとの個体に戻れます。
――全く科学的な根拠がないけど、そうしてそんなに自信たっぷり?
――さあ? でも先生が教えてくれたんですよ? 何事も「イメージ」が大事だって。
――あはっ! そういう意味じゃ、あたしと同じ「弾丸形」の武器で中心を撃ち抜かれでもしたら、あっさり滅びたりして?
――ダメですよ先生! ヒトって案外「暗示」に弱いんですから!
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