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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫
125
:
菅 公隆
◆GM.MgBPyvE
:2020/06/28(日) 06:40:33
――あれが……卵細胞の核。
ようやく辿り着いた卵巣内。
たった今「減数分裂」を終え、丸くまとまった「それ」が、静かにこちらを見降ろしている。
所々にクレーターのような穴が穿たれた……巨大な黒い球体。まるで地球に落下しようとする月だ。
その月が、無数に張り巡らさた蜘蛛の巣のような綱(細胞骨格)に支えられているのか、落ちる事なく宙に浮いている。
その神秘さと云ったら……どう表現したらいいだろう。神経細胞の核とは一味も二味も違う。
これからひとつの個体となるべく、いずれ訪問するもう半数の「片割れ」を待つ卵細胞は……気高く……そして美しい。
ヒトの核は、およそ30億塩基対のヌクレオチドで構成されていると聞く。
バイト数にして3TB(テラバイト)。その半数とは言え……恐るべき情報量には違いない。
対して自分はただの12KB(キロバイト)。なんて差だ。まさに――月とスッポン。
だがぼんやりと佇んでばかりも居られない。
ピアノ線にも似た骨格(フィラメント)を頼りに、足を踏み出したその時だ。
≪……どなたですか……?≫
それがこのわたしに対する問いだと、すぐには解らなかった。
ひとりじゃない、大勢の「声」だ。
あらためて……様々な形状のオルガネラ達がひしめき合う基質内を見渡した。
……すごい。今の今まで、その存在に眼が止まらなかったのは、その数が多すぎたからか。
数百は居るだろう。フィラメントに沿ってゆるゆると泳ぐ……手足の無い虫にも似たオルガネラ――ミトコンドリア。
彼等がすべてわたしを見てるのさ。なるほど、彼等自身もDNAを保有している。物申す「意志体」であってもおかしくない。
「わたしの名はRabiesという。君たちとの『共存』を望むものさ」
≪れいびーず……? ……共存……?≫ ≪あのRabiesが?≫
眉を顰めてひそひそと何事かを言い合っていた彼らは、1人、また1人とフィラメントを爪弾き始めた。
ピアノに似た音が和音となり、やがてちゃんとした旋律を奏でる合奏となり――
驚いた。これは……メサイヤだ。神を讃えるオラトリオ。
しかも何百もの音が奏でる和音の壮大さと言ったら、身体の芯が粉々になってしまいそうなのさ。
こうなると、弾き手があの麻生に見えてくるから不思議さ。
「……Rabies……ほんとに貴方は……Rabiesですの?」
細い弦の震えるような、しかし一種神々しいとも言える声がした。
今度は真上だ。
あの巨大な「核」が、しゃべっている。
「姿形は確かに。でも……何者ですの? わたくしの知るRabiesとは全然違いますわ」
ふわり、と核が女性の姿となって舞い降りた。そんな風に見えた。
純白のドレスを纏った桜子の姿でね。
(そういう趣向かな? って事は、このわたしも、そういう風に見えてるのかも知れないね!)
「貴方は本来、こんな風に話しかけて来るような方じゃありませんわ。いつも黙って侵入し、むりやりに脳を侵し……殺す」
「わたしに限らず、大概のウイルス達はそうさ。……と言うか、生物の世界は弱肉強食だ。そっちこそが普通じゃないかな」
「貴方は違うとおっしゃるの?」
「力ずくの侵略ばかりじゃ先がないと思ってね。彼等もそうだろ? 20億年も前に共存を思いついた方々だ」
わたしの言う「彼等」が自分達のことを言ってると気付いたんだろう。
麻生達が動かしていた手を止めた。
オラトリオの旋律が止み……しかし場内を震わす音の余韻は残ったまま。
「つまり彼等同様、オルガネラとして生きたいと……そういうお考えですの?」
「あはは! オルガネラはいわば君の奴隷じゃないか! そんなのまっぴら御免だね!」
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