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【バンパイアを殲滅せよ】資料庫

117佐井 朝香 ◆GM.MgBPyvE:2020/05/30(土) 06:56:10
「……」「……」「……」

3人ともこっちを見たまま固まって。
ベランダの向こうから、スズメがピチピチ囀る声が聴こえて。
秋桜ちゃんが、魁人のベッド脇で、眼をこすりつつコクリコクリとやり出して。
――そういえば彼女、あたしと同じくらい眠ってなかったわ!
折りたたまれた掛布団を持ち上げて見せると、麻生君が彼女をそっと抱き上げながらあたしを見上げた。

「……血……ですか?」
「そう。あたしは初め、神経組織にあたりを付けてたの。狂犬病がそうだから。でも違った」

あたしはタブレットを取り出して、画像を表示させた。そう、あの時麗子が送ってくれた検体の写真のひとつ。
それを3人に良く見えるように翳して見せる。

「これは柏木さんの血液塗抹像――血液をスライドグラスに薄く塗りつけて、顕微鏡で見たものよ」

3人の眼が同時にタブレットに向いた。でもピンと来ないみたい。

「どう? 明らかに異常でしょ?」
「……って言われても、僕、そんなの初めて見ますし」
「俺も」
「わたしも」

……そう……なの? 今日日、調べようと思えばネットでいつでも閲覧できるのに?

「じゃあ見て。このピンク色で綺麗な丸い人達が赤血球。これが酸素を運ぶ人達だってのは知ってるわね?」

流石にこれにはみんなが頷く。あたしはニッコリ笑って見せる。

「この紫色に染まった核を持つのが白血球ね? その中でも核が丸いのがリンパ球。くにゃっとしたくびれた核を持つのが好中球」
「細かい説明はいいぜ。とどのつまり、何処のどの辺が変なんだ?」

魁人が少し辛そうに息をついて。
……いっけない、あたしったらつい。

「ごめんなさい。つまりは多いのよ。柏木さんの血は、この白血球の数が多すぎるの。赤血球の数を上回るとか、普通じゃ有り得ないわ」
「それって……白血病って奴じゃね?」

あたし、ちょっと驚いて魁人を見た。だって……この中では一番こういう事に疎いって言うか? 興味なさそうな感じだったし?

「んな顔すんなって。あれだ。俺の爺ちゃんが白血病だったわけだ」
「え?」
「身よりは俺だけだから、説明とか色々受けた訳よ。癌になっちまった白血球がすっげぇ増えるんだろ?」
「……そうね。白血病、正確には悪性リンパ腫。腫瘍化して増殖したTリンパ、或いはBリンパが末梢血に多数確認される疾患ね」
「そういやぁ医者がそんな言葉も使ってたぜ」
「……それで、お爺様は?」
「死んだぜ。中学出てすぐにな。俺が上京する後押しに……なんて、俺の話はいんだよ! 司令はその『悪性何とか』だったのか?」

何故か急に赤くなって、枕に乗せてた頭を横に向けた魁人。
あたしはなかなか次の言葉を紡ぐことが出来なくて……だって……あたしもそうだったから。
あたしの身よりもお祖母ちゃんだけで、そのお祖母ちゃんの病名を知らされたのは中学の時で。
勉強したわ。白血病の原因にも色々あって、レトロウイルスもそのひとつだとか、骨髄移植のドナーの事とか。
結局は彼女の体力が持たなくて、あたし、ヴァンパイアに噛まれれば不老不死になれるって聞いて……
街を夜通し探し回ったって……そして病院から連絡が来て――

ベランダ越しに見える陽の光に眼を向けると、赤かった太陽はすっかり色が抜け落ちていた。
木の枝葉越しに入り込む光の帯が、白い床のタイルをキラキラと照らしてる。
あたし、ハムくんに「朝香?」って呼ばれるまで、その光を追ってたみたい。


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