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【大正冒険奇譚TRPGその6】

78倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho:2013/09/02(月) 22:42:29
青年の顔を見詰めて、冬宇子は続ける。

「あんた、船主の息子なんだろ?
 それにもう、二十歳(はたち)を三つも出てる。
 家業を継いで立派な船長になり、船員の命を預かる立場として、それに相応しい分別と判断力を身に着けるか。
 それとも、戦闘狂いの武人として、自由に生きる道を選ぶか。
 真剣に迷うことが出来てるかい?
 あんたの芯になる部分は、どちらか――そろそろ、決断する時期が来てるんじゃないのかい?」

ブルーから視線を逸らして、星一つ無い曇天の闇空を見上げた。
迷う事すら恐れて半端な生き方をしている自分の口から、こんな言葉が出るなんて、何だか滑稽な気もした。
さりとて、同い年とも思えない、世故に長けぬ青年に対し、それなりに誠実に彼の事を思うなら、
他に伝えるべき適当な言葉が、冬宇子には見当たらなかった。



>>74-75

宮廷道士フー・リュウとの出会いの場――民の避難所となっていた道教寺院に、辿り着いた頃には、
明け始めた東の空が厚雲の端を白々と染めていた。

使いに出ている間に、寺院はすっかり様変わりしていた。
火事があったのだろう、本堂と蔵の幾つかが焼け落ち、未だ煙が燻っている。
避難民は、土塀に囲まれた広い敷地内に野営用の簡易テントを張り、そこに身を寄せているようだった。
呪いの侵入を防ぐ結界が維持されているところを見ると、フー・リュウは、未だこの寺院内に寄留しているらしい。

殺そうとした相手――冬宇子達が、この場所に戻って来る事を予測していながら、
彼が居場所を変えなかったのは、冒険者達に対する自身の価値を確信しているからであろう。
実際、冬宇子は、彼への報復を考えてはいなかった。
自分を欺き、ツァイをそそのかしたフーに、怒りを禁じ得なかったが、
王宮や政府に顔が効く彼は、呪災の只中にあるこの国で、外国人である冬宇子達が、身の安全を図る為にも、
帰国の便宜を図るに於いても、得がたい手蔓であることには違いなかったし、
何より、呪災の淵源を突き止め、自身がこの国に居合わせた意味を知りたい――と望む冬宇子にとって、
フーの存在が鍵となることは、間違いなかった。

寺院の門前で、冬宇子達は、マリー、あかね、鳥居、生還屋との再会を果たし、
各々、二手に分かれて使いに出て以降の、互いの体験と情報を伝えた。

フー・リュウは、焼けた本堂の前に佇んでいた。
殴りかかろうとする頼光をマリーがいなし、フーの尋問を開始する。
一通り質問に答え黙り込んだフーに、冬宇子は歩み寄り、やにわに襟首を掴んで平手で頬を打った。

「あんたがそそのかした男からの伝言だよ。"仕事を下りる"――ってさ。
 おや?なんだい、その顔は?私達が無事に帰って来たことが、そんなに意想外だったかい?」

苛立ちの滲む皮肉たっぷりの口調。しかし、それ以上に彼を罵るようなことはしなかった。
フーはフーの目的の元に動き、冬宇子は冬宇子の目的の為に動いている。
ここで自分達の命を狙ったことを糾弾しても意味がない。
肝要なのは理由を明らかにすることだ。それが冬宇子自身の目的に通ずる。
表情を失った宮廷道士の顔を見据え、怒りを静めるために一度大きく溜息を吐いて、冬宇子は先を続けた。

「要するに……
 あんたは、五千年前に不死の王が封じられたという遺跡の場所を特定した。
 その墳塋(ふんえい)だか遺跡は、露西亜と国境を接する北方にある。
 北方戦線に送られていた学者や術士は、宮廷道士フー・リュウの息の掛かった者達だ、と。
 そして……呪災の背景――遠因を作ったのは、あんただが、
 誰が、どうやって、呪災を発生させたか――直接の原因までは知らない、と。
 これで、合ってるかい?」


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