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【大正冒険奇譚TRPGその6】

71◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:37:14
>>67-69
>「まァ、そう急くんじゃないよ。
  あんたと話がしたいって人間が、ここに、もう一人いるのさ。
  今から三十年余前―――あんたはとっても可愛い青年だったって、"彼女"、言ってるよ。
  ちょっと煮えきらないところもあったけど、それは優し過ぎるせいだ…ってね。」

倉橋冬宇子が何を言っているのか――ツァイは、すぐに理解する事が出来なかった。
若き頃の己を知る『彼女』――そんな女性は、一人しかいないに決まっているのに。

>「私の母親は死者の口寄せを生業とする梓巫女だった。私も子供の頃は、よく憑巫(よりまし)をしたよ。
  要するに、死者と口を利くのは私の職能でね。」

思い込んでいるのだ。
自分は彼女の夢を奪った――そんな自分の傍に、彼女がいてくれる筈がない。
筈がないし、いてもらっていい筈がないと。

>「"彼女"――あんたの"守護霊鑑"だがね……大した霊能だ。
  生前の姿情のままに顕れて、私に話し掛けてきてね。
  自分は決して、あんたを見捨てちゃいない――って。他にも、いろいろと、あんたのことを教えてくれたよ。

しかし冬宇子の言葉が重なるに連れて、徐々に理解が追いついてくる。

「……まさか……彼女がいるのか……?そこに……?」

力尽きた筈のツァイの上体が微かに起き上がる。
そして冬宇子の視線が向く先を、彼は見た。
――だが、何も見えない。あるのは夜闇に染まった虚空だけだ。

やはり――自分には見えない。見えていい筈がなかったのだ。
落胆と、それよりも遥かに大きな、救いを期待した自分への嫌悪が心に滲む。

何気なく、ツァイは冬宇子へと視線を戻した。
なんの期待もせず、ただ声が聞こえたから、程度の理由で。

> この世ならぬ者の力を借りたからには、願いを聞いてやるのが、梓巫女の流儀ってものだ。
  ―――"彼女"、あんたと話をしたいんだとさ……しばらくの間、身体を貸してやるよ。」

そして、彼女を見た。

>「ツァイ――わかる?私だよ……私…ずっと傍にいたんだよ。」

言葉が出なかった。呼吸すらも忘れていた。

>「私、アナタの嘆きを見ているのが辛かった……私のせいで後悔するアナタが……」

「っ、違う……!何故君がそんな……全て私のせいじゃないか……私のせいで、君は……!」

>「――――ごめんなさい。アナタを苦しめているのは、私だね。
  私が、アナタを選んだ理由はね……
  アナタは優しいから、秘密を――いつか国を出て行くって決心を――打ち明けたら、
  きっと、私を護ってくれるって、そんな打算があったのも事実。私、ずるいよね……」

「よしてくれ……君は私を信頼してくれていた……私がそれを裏切った……それだけだ……」

彼女は強かであり、弱くもあった。
己の夢を叶える為の打算を立てる賢しさを持っていながら、冷徹になり切れない優しさがあった。
だから分かる。彼女が今紡いだ、己の打算を悔いる言葉――それさえも打算なのだ。
まるきり全てではなくとも、自分の罪悪感を和らげる為の計算がそこにはあるのだと。


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