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【大正冒険奇譚TRPGその6】
69
:
倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho
:2013/09/02(月) 22:35:28
「ツァイ――わかる?私だよ……私…ずっと傍にいたんだよ。」
口調も、声色も、明らかに冬宇子のものとは違っていた。
冬宇子を包む光の粒子が形を定め、別人の姿を描いていく。
意思的な濃い眉を持つ、活発そうな――けれど何処かに、高貴な身分に相応しい気品を漂わせた乙女の姿へと。
大輪の花が綻ぶような笑顔でよく笑うさまが目に浮かぶ、明朗美麗な顔立ちだった。
しかし、霊体となって顕れた彼女の顔は、深い憂悶に沈んでいる。
「私、アナタの嘆きを見ているのが辛かった……私のせいで後悔するアナタが……」
冬宇子に憑依した女が、依り代の身体を通じて、ツァイに語りかけていた。
「――――ごめんなさい。アナタを苦しめているのは、私だね。
私が、アナタを選んだ理由はね……
アナタは優しいから、秘密を――いつか国を出て行くって決心を――打ち明けたら、
きっと、私を護ってくれるって、そんな打算があったのも事実。私、ずるいよね……」
ツァイの顔を見詰めて、佳人は暫し黙り込む。
「だけど、これだけは嘘じゃない……私、アナタにも自由になって欲しかった。
アナタが、そう望むらなら。すべてを捨てて。
あのちっぽけで因循な国からも……固陋な王――私の父からも……辛そうな仕事からも。」
冬宇子の――いや、ツァイの想い人の瞳から、涙が溢れた。
「なのに………私のせいで、アナタの一生を縛ってしまったんだね。足枷になっているのは私……」
佳人の頬を伝って落ちる雫が、ツァイの顔を濡らす。
「ちゃんと聞いてたよ……私に、あの山をくれるって約束してくれたよね。
あの日、一緒に見た国境の山を……私、とてもうれしかった……!
……でも、本当は……それよりも……もっと、アナタにして欲しい事があったの。」
掌を握る手に、微かな力が込もった。
「アナタが生きているうちに伝えたかった―――自由になって……!私からも、後悔からも……!」
はらはらと頬を流れる涙を拭いもせずに、彼女は、円けく笑った。
雨にしとど、濡れた牡丹の蕾が、綻ぶような笑顔だった。
「言いたいことを言ったら、何だか軽くなっちゃった……
私、もうすぐ、"あっち側"に行くんだわ……そんな気がする。
でも、忘れないで……"私の一部"は―――これからも、ずっと、傍にいるよ。
アナタが生きているうちは、ずっと……!」
再び輪郭が揺らぎ、女の身体の周囲に光の粒子が舞っていた。
「アナタは、三日後に答えをくれるって約束を守れなかったけど、私だって、アナタを利用していた卑怯者……
おあいこだよ。
私に詫びる必要なんてない。アナタの思い通りに生きて。
そうして、いつか本当に、"来るべきその日"が来たら、私、きっと迎えに来るから……!」
散り散りに舞って大気の中に溶けて――やがて光の粒が消え去った時には、
佳人の姿は既に無く、ツァイの傍らには冬宇子が座っていた。
かつての想い人の願いを知ったツァイは、何を思うだろう――?
冬宇子には知るすべもないが、頼光が放った寄生蔦は、主から切り離されたことで、
新たな宿主への救命の綱へと変化していた。しかし、ツァイは、それを受け入れようとはしなかった。
自らの死期を悟った男の、最後の矜持だったのかもしれない。
けれども、彼が生を望みさえすれば、寄生蔓は体内へと侵入し、生命を救うであろう。
このまま、なつかしい想い人と共に、旅立つことを望むのなら、それも果たせぬでもない。
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