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【大正冒険奇譚TRPGその6】
68
:
倉橋冬宇子 ◇FGI50rQnho
:2013/09/02(月) 22:32:31
生命の流れは微弱であった。
冬宇子が少しでも気を抜けば、握った手の中から、命が零れ落ちてしまいそうなほどに。
奈落に落ちかけている男の生命を、崖の上から引き揚げて、腕一本で、かろうじて引き留めているような状態だ。
やがて、男の瞼が微かに震え、うっすらと見開かれた。
>「……生かしたのか、私を」
意識を取り戻したツァイは、浅い溜息を吐く。
>「黙っていても、君なら直ぐに見抜く事だろうから……言っておくが。
>……私は、後戻りは出来ないよ」
口端を曲げて、乾いた笑みを漏らした。
たとえ命を救われようとも、命のある限り、冒険者達を殺す事を止めない――彼はそう言っているのだ。
冬宇子は答える。
「用があるから生かしたんだよ。余計な気遣いは無用さね。
あんたには、まだまだ、答えて貰わなきゃならない事があってね。」
――フー・リュウと手を組んだのは、いつからなのか。
――亡国士団の王都帰投を、北方戦線から遠ざける為だと思ったのは何故か。何か根拠があるのか。
――呪災が起きた時、ツァイ自身は、何を見たのか。
三つの疑問を、順に投げかけた。
>「さぁ……今度こそ、もう語れる事はない。とどめを……刺すといい。
>やれるだけの事はやった……そろそろ……彼女に詫びに行っても……いい、加減だろう……」
奄々とした苦しい息の下で、質問に答え終えたツァイの眼から、次第に光が消えていくのが判った。
虚ろな瞳が、それで楽にしてくれ――とばかりに、冬宇子の腰帯の懐剣をなぞる。
「まァ、そう急くんじゃないよ。
あんたと話がしたいって人間が、ここに、もう一人いるのさ。
今から三十年余前―――あんたはとっても可愛い青年だったって、"彼女"、言ってるよ。
ちょっと煮えきらないところもあったけど、それは優し過ぎるせいだ…ってね。」
意味ありげな表情で、ツァイの顔を見下ろす。
「私の母親は死者の口寄せを生業とする梓巫女だった。私も子供の頃は、よく憑巫(よりまし)をしたよ。
要するに、死者と口を利くのは私の職能でね。」
視線を上に――ちょうど、ツァイの枕元あたりに座っている女の顔に留めて、
「"彼女"――あんたの"守護霊鑑"だがね……大した霊能だ。
生前の姿情のままに顕れて、私に話し掛けてきてね。
自分は決して、あんたを見捨てちゃいない――って。他にも、いろいろと、あんたのことを教えてくれたよ。
この世ならぬ者の力を借りたからには、願いを聞いてやるのが、梓巫女の流儀ってものだ。
―――"彼女"、あんたと話をしたいんだとさ……しばらくの間、身体を貸してやるよ。」
始終浮かべていた不機嫌な表情を、一瞬だけ崩し、悪戯っぽく笑って、冬宇子は目を閉じた。
守護霊鑑とは、いわゆる守護霊。
血縁者や生前に親しかった者は、死して尚、生者の外背(そとも・背中)に宿り、その者を見守り続けている。
通常のそれは、死者の魂のほんの僅かな欠片であり、在りし日の光の残渣のようなものでしかない。
確かに、外背に宿り見守ってはいても、意識もなければ言葉も持たない、透明な意思体のような存在だ。
むろん口寄せの技術を持つものであれば、その欠片から死者の魂を手繰り寄せて、霊を招くことも出来るのだが、
今回はその必要も無かった。
霊位の高い者や霊能に優れた素質の持つ者は、生前の姿情そのままに、生者に付き従っている事があるのだ。
霊を察知する能力のある者ならば、目にすることが出来るだろう。
冬宇子の身体に、淡く輝く光の粒子が取り付き、輪郭がぼやけていくのを。
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