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【大正冒険奇譚TRPGその6】

58◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:24:16
――フー・リュウと手を組んだのは、いつからなのか。

「……フー・リュウに手を貸すと決めたのは、君達と出会ってからだ。
 彼の方から接触があった。君がさっき燃やしてしまった、あの符を介してね」

符は一枚しかなかった。もし二枚あったのなら、それも風の爆撃の座標特定に使っていた筈だ。
符が機能しなくなった時には既に、外は宵闇に満ちていた。
役立たずの符に、常に視線と意識を配ってはいられなかっただろう。
例えば前方に大量の動死体がいて、その上、突然背後から声をかけられでもしたら。
腰帯から符が抜け出る際の、ほんの僅かな擦れに気付くのは難しかった筈だ。

詰所の中で一度あった、腰帯に挟んだ符の微かな動き。
あれは符が腰帯に――いざと言う時の座標特定の為、戻ってきた際のものだった。

ツァイには、フーの語った提案や身分が真実だと確信する材料はなかった。
一応、宮仕えにしか知り得ない事を二、三語られはしたが――それだけだ。
それでも、様々な「もしも」を考えれば、信じる他なかった。

どうやら、フーが君達を殺そうとしたのは、計画的な事ではないようだ。
少なくともジンと対峙した時点では、そのつもりはなかった筈だ。
あの時点で殺す気があったのなら、ジンの埋伏拳について語る必要はなかった。

ツァイがフーに目をつけられたのは、全くの偶然だろう。
丁度タイミングよく、君達を始末する為の道具が見つかった。
フーからすれば、その程度の事だったに違いない。

――何故、追い払われたと思ったのか。何か異変の前触れがあったのか。

「……理由がない。自国の兵で代わりを立ててまで、私達を呼び戻す理由が。
 もう十分に働いたという訳でも……ないだろうしね……。
 それに、北方戦線に送られてきたのは……どうも兵士だけではなかった。
 学者や、私達のようではない……生粋の術師が混じっていたように見えた」

――呪災が起きた時、何を見たのか。

「呪災が起きた時か……。あの時私は……強い氣の起こりを感じた。
 ……北だ。遥か北の方からだった。北方戦線で何かがあったのだろう。
 少なくともパオはそう思い……だがそれを認めたくなかった……恐らくは、だが」

亡国士団は所詮、国を亡くした者達の寄せ集めだ。
ブルー・マーリンの言葉を借りるなら、繋がりはあっても、真に深い絆はない。
だがその中でもパオはまだ若く、一方的である事も多々あったが、団の仲間を大事に思っていた。
北方戦線――未だ尚、清国に歯向かう敵国の地。
怪僧と、怪僧に愛された王女を抱える露西亜側との繋がりもある。
呪災の発生源としては真っ当過ぎるほど真っ当だ。
だからこそ、認めたくなかったのだろう。

「さぁ……今度こそ、もう語れる事はない。とどめを……刺すといい。
 やれるだけの事はやった……そろそろ……彼女に詫びに行っても……いい、加減だろう……」

願いを捨てて、後戻りする事は出来ない。さりとて君達を殺す事も出来ない。
最早進退は窮まった。これ以外に自分が選べる道はない。
後悔も、心残りもある――彼女にも顔向け出来るとは思っていない。
が、詫びる事が出来るくらいには足掻いたつもりだ。
ツァイの視線が静かに、冬宇子が帯に差した懐剣を捉えた。


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