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【大正冒険奇譚TRPGその6】

57◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:23:42
銃弾が神経を断ってしまったのか、最早拳を握る事すら出来ない。当然鉄杭も。
だが周囲には、結界壁の為に配置しておいた鉄杭が残っている。
ツァイはそれに這い寄って――左手を振り下ろした。
鉄杭が突き刺さり、筋肉の収縮によって固定される。
そして、もう一本――これで二本の鉄杭が保持出来た。

「結界を……移動に使えるのは……君だけでは……ない……私にだって……当然……」

剣状結界を展開する。地面に向けて。
結界の切先は地面に突き刺さる事で止まり――そのまま結界を更に伸ばした。
結果生まれるのは――逆向き、ツァイを押し飛ばす推進力。
向かう先は――倉橋冬宇子の元だ。
彼女の展開する結界に、体半分、入り込んだ。

「もう……君を絞め殺すほどの力も……残っていないが……これで十分だ……。
 結界を解いて……一回り小さく再展開する暇が……君にあるかな……?
 あと……二人……まだ……十分……やれる……」

このまま倉橋冬宇子を仕留め、頼光も始末し、最後にブルー・マーリンを殺す。
――そんな事、無理に決まっている。
だが彼は本気だ。本気でそれを成すつもりでいる。成せるかどうかなど、考えもせずに。
やり切ろうとする事が大事なのだ。
だからこそ失敗や敗北を予期して、立ち止まる事はない。

剣状結界が伸びる。
発光の刃が冬宇子の首元へ迫り――その直前で止まった。
そのまま亀裂が走り、崩壊していく。
明らかに今までとは違う消失――ツァイが意識を失ったのだ。
倉橋冬宇子、君を決死の形相で睨みつけたままで。

血を失いすぎた。
意志の力だけでは補い切れないほどに、彼の失血は進んでいた。
彼は既に、限りなく死の淵にいる。
助けるつもりなら、素早い処置が必要だろう。



――それから暫くして、ツァイが目を覚ます。
彼は辛うじて命を繋いだようだった。

「……生かしたのか、私を」

暫く呆然とした後で、ツァイがそう零した。
左手は動かない。拘束を受けているのか、単にそこまで回復していないのか。

「黙っていても、君なら直ぐに見抜く事だろうから……言っておくが。
 ……私は、後戻りは出来ないよ」

例え命を救われようとも、自分が確かに恩を感じていようとも、それに報いる事はない。
返せるのは仇だけ。打ち明けようとも、打ち明けまいとも、すぐに悟られる事だ。
結果が変わらないのならば、せめて潔い方を――それは諦めとは、また違うものだ。

「……聞きたい事、か。分かった……答えよう」

最早ツァイには營目の術に抗う余力はない。
口を閉ざしていても、意味はない。


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