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【大正冒険奇譚TRPGその6】

28 ◇u0B9N1GAnE:2013/09/02(月) 22:05:24
『うん、知ってる』

少し悪戯っぽく、そして嬉しそうに、彼女は笑って――

『――ねえ、アナタも一緒に来ない?』

それから、そう続けた。

ツァイは呆然として、彼女を見る事しか出来なかった。

『あの山の向こうは……私の知らない世界。
 そして、誰もアナタを知らない世界だよ。ね……行こうよ、私と』

彼女は手を差し伸べた。
誰も自分を知らない世界――人を裁き、殺さなくても良い世界。

『……私は』

行きたかった。彼女と共に。
だが――ツァイは煮え切れなかった。
自分の職務は一体誰が引き継ぐのか。
一族が代々受け継いできた使命を自分が終わらせてしまっていいのか。

『……少し、考える時間をくれないか。三日後……三日後までには、答えを出そう』

彼はそう答え――けれども、その二日後の晩に、彼のいた国は滅んだ。
たった一晩の内に―― 一体どのようにしたのかは誰にも分からなかったが、
王都に侵入した敵国の軍勢が王宮を攻め落とし、王を暗殺したのだ。

そして――殺されたのは王だけではなかった。
王妃も王子も――王女も皆、殺されていた。
王族さえ生きていれば、国はまた蘇る事が出来る。
生かしておいて占領後の統治の道具とするよりも、国を完全に滅ぼす事を選ばれたのだろう。



その後――追って侵略してきた敵軍によって、王都は完全に占拠された。
ツァイは捕虜となり――その煮え切らぬ気質故に、王女を追って命を絶つ事も出来ず、
清へ――亡国士団に流れ着いた。

>「生憎と、私は、そんなに強い女じゃないが、あんたを導いて口を割らせるの事は出来るのさ。
  傷ついて動けぬ相手に、營目の術を掛けるくらいの事はねえ!」

祖国を取り戻したい訳ではなかった。
あの国はもう、王族――彼女と共に死んでしまった。
土地を取り戻したところで、決して蘇りはしない。

ただ、あの山が欲しかった。
彼女が越えたがっていた山――その頂上に、墓を建てたい。
彼女がついぞ辿り着けなかった世界を、せめて見てもらいたい。

それがただの自己満足に過ぎないと分かっていても、堪えられないのだ。
自分のせいで彼女の望みが絶たれてしまったのだという、現実に。

だから――あの山を得る為なら、清王からの褒賞を得る為なら、ツァイは何だってする。
出来るか出来ないではない――しなくてはならないのだ。
君達を、殺さなくては――


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