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大正冒険奇譚 臨時避難所

396 ◆u0B9N1GAnE:2015/01/10(土) 21:49:35
富道の記述より具象化された剣士達には練度も知性も存在しなかった。
彼らはあくまで剣術の体現者であり、それ以上の――人格のようなものは持ち合わせていない。
打ち負かすのはそう難しい事ではなかった。

しかし勝ちは勿論勝ちだが、やはりその中にも上下がある。

>「     ー押忍!!     あんがとぁした!!!     」

波留京香の勝ち方は、久礼にとって上々のものだった。
刀と火行を操る対手に拳一つで勝利したのだ。

久礼は表面上は静的に見えるが、実際には正反対の人間だ。
負けを嫌い、弱さを嫌い、常に強さへの渇望の炎を胸中に燃やしている。
その炎が、一層強く燃え上がった。

「……倉橋さん、でしたか。この水行、今は温存させて頂きます」

久礼はそう言うと打刀を鞘に収め――小太刀の鍔元に手を添えた。

無謀な行いである。
抜刀術は、その別称を坐合と書く。
読んで字のごとく座した――臨戦態勢にない状態から素早く刀を抜き、斬りつける為の護身術だ。
一度抜いた刀を鞘に収めてまで使うような技術ではない。

そして――火行の剣士が動いた。
炎による晦ましで初動を隠しての唐竹割り。単純、故に速く、そして力強い。
ただの抜刀術では太刀打ち出来ないほどに。

「……八千死流『小太刀』」

にも関わらず久礼の小太刀は、対手の首を切り落としていた。
胴体から離れた頭部――その視線が久礼の右手へと動く。
そこでは順手で抜いた筈の刀が、逆手で保持されていた。

一瞬にも満たぬ間に閃いた斬撃を、君達は捉える事が出来ただろうか。

八千死流『小太刀』は神速の抜刀術である。
その肝要となるのは精妙を極める指先の動きだ。
抜刀した瞬間に刀を一度手放し、柄尻を親指と人差し指の先で挟む。
面ではなく点で保持する事により、刀は振り子の如く弧を描くのだ。
対手を殺める為の最小の斬撃軌道を。
小太刀とは即ち、弧太刀の意である。

この『小太刀』は君達への、久礼なりの挨拶だった。
君達が流派の秘伝、その一つを見せるに値する同業者であり、戦士であり、武芸者だと認めた証だ。

と、四つ転がった剣士の死体が音を立てて黒煙を吹き始めた。
周囲の闇を煮詰めたかのような色合いだ。
だがそれは闇に還るのではなく、新たな姿を形成していく。

紙――の切れ端だ。
先程聞こえた富道の口上がそのまま記されている。

「……男爵?」

「あはは……まぁ、期待してるって事だよ。つまらない死に方をして欲しくないとも、思ってる」

冷ややかな声に対して富道は、軽やかながらも嘘を感じさせない口調を返した。
久礼は溜息を吐いて、目を閉じる。眉間には皺が寄っていた。
心中を悟られたくないが故に、表情を押し殺しているような仕草だった。


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