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大正冒険奇譚 臨時避難所

358 ◆u0B9N1GAnE:2014/12/07(日) 10:11:31
「……その扉なら開けても問題ねーよ」

「おぉ!流石だすな!へばな、失礼して……」

猟師が扉を開き、数人がエントランスホールへと出る。

「……なんだもんだ、こら」

そこには、来た時には無かった筈の扉が一目では数え切れないほど並んでいた。

「ははーん、なるほど。こりゃ要するに、もっかいやれって事だろ?いいね、いつになく面白そうじゃん!」

楽しげな声の主は、女だ。
白い旗袍の上に南アジアの民族衣装サリーを重ね、更に西洋風のマントを羽織っている。
頭にはアラビアの華やかなベールを被り、両手には東西を問わず様々な誂えの指輪が、
首元にはインド風の豪奢なネックレスと、その中心で纏まりを付けるように翡翠の勾玉が揺れていた。
無節操極まりない服装だが、不思議と無秩序には見えない着こなしだった。

「ま、つっても一人当たり一部屋かぁ。すぐ終わっちまいそうだなぁ」

「だぁってろ『欲しがり』。オメー今までの冒険全部一人でこなしてきたのかよ」

「あー?……あー、はいはい。じゃー、あんた達てきとーに組んで部屋決めてってよ。
 私行きたそうな部屋見つけたらそこに入るから、よろしくー」

口調は気に障るものの、『欲しがり』の言はそれなりにもっともで、冒険者達は暫し顔を突き合わせて相談を始めた。
入る前に中の様子を伺えないものか、そもそも出入りは自由に可能なのか、屋敷の出口はどうなっているのか、と。

窓の外には無明の闇のみが見える。
一人が発破を壁に仕掛けてみたが、芳しい結果は出なかった。

そうして一人の男が興味本位で、玄関の扉を押してみた。
扉は何の抵抗も、僅かな軋みすら伴わずに開いた。
外の風景が見える。

「なぁ、生還屋。これって……」

瞬間、扉が大型獣の顎の如く変形して、生還屋を振り返ろうとした男を飲み込んだ。
それから咀嚼音が響き――扉が再び開く。
精巧な騙し絵のように外の風景が描かれた壁に、血と肉片がびっしりとこびり付いていた。

「……コイツは、今までになくヤベェぞ……もう聞こえちゃいねえだろうがよ」

生還屋が冷や汗を額に浮かべて、そう答えた。
今まで富道の蒐集物で大騒動が起きた事はあっても、死人が出た事はなかった。
冒険者達の間に緊迫した空気が生じ始めた。

「とりあえず……じっとしてても仕方ねえ。
 俺が仕切った所でオメーら聞きやしねーだろうから、てきとーに組んで好きにおっ始めろや」

生還屋の言葉は相変わらず投げやりなようで、どこか焦りが滲んでもいた。
脱出の手段が分からない以上、動ける内に動いておかねば後々立ち行かなくなるかもしれないからだ。

「それがいいねえ。食料はそれなりに備蓄があるみたいだけど、この人数では数日も持たないだろうから」

広間から出てきた肥満体の男が子豚の丸焼きをナイフに突き刺して齧りながら、生還屋の焦りを代弁した。

「……分かってんなら食ってんじゃねえよ。こんな時くらい『美食家』ごっこはやめやがれ」

「大丈夫だって。こんなのすぐに終わるか、さもなきゃすぐに人が減るか……どっちかじゃん?」


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