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【臨時レス置き場】異能者達の奇妙な冒険【荒らし対策】
191
:
47 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/11/17(水) 23:27:01
「へー…ややこしいー。ワースト?よくわかんないけど、ひとみんたちは正義に燃えてるってことね。
私なんてお昼ご飯が食べられるか食べられないかくらいのことしか心配していないのに…」
唾を一つ飲みこみ、やっと落ち着きをとりもどしつつある生天目。
「ぢゃあホールに行こ」
【キャラ的によくわからないままついていく生天目】
192
:
448 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/17(水) 23:27:44
>44
ひとみが話し続けている間、床に這いつくばっていた男――御前等祐介が突然顔を上げ口を開いた。
>「しかし佐藤さん、アンタなかなかにイケイケな武闘派なんだな。『スタンド』に対抗しうるのは『スタンド』でしかないとは言え、
> こんな敵の懐に自分達だけで乗り込もうなんて。熱いじゃないか。――いいぜ、そういうのは大歓迎だ」
「…何馬鹿なこと言ってんの?別に乗り込みに来たわけじゃないわ。ちょっと偵察に来ただけよ。
ことがスタンド絡みである以上警察沙汰にするわけにもいかないし…
逃げるにしろ放置するにしろ、相手の規模や目的がわからなきゃ……」
言いかけた言葉を、御前等はまるで聞いていない。ひとみは小さな溜め息を零し口を噤んだ。
連中の狙いである『悪魔の手のひら』が何なのか?それさえ未だ分からないのだ。
カルト教祖の妄想の産物……実体の無い空想物である可能性だって大いに在り得る。
オカルトフリークのスタンド使いを畏れて、生活も仕事も投げ棄てて街を出るなんて馬鹿げている。
教祖がたまたまスタンド使いというだけのイカれた潰れ掛けのカルト団体ならば、案外簡単に対処できるかも知れない。
…その程度の腹積もりでこんな所まで出張ってきて、結果まんまと罠に嵌ったのである。
―――奴らは本気で生贄を集めている。
一度『獲物』と見なしたひとみ達を、飽く迄も『狩る』ために網を張っていたのだ。
敵を甘く見ていた自分の浅慮が腹立たしい。ひとみは今一度大きく溜め息を吐いた。
>「――たった今からここが『世界の中心』だ!」
ひとみの態度などそっちのけで勝手に盛り上がっている御前等が、全身をくねらせた"奇妙な"ポーズを決めている。
少年漫画の読みすぎとしか思えない思考回路。
ひとみはますます呆れたが、イザという時の戦力はその気にさせておく限る。
「『正義の戦いに体を張る』なんて、まるでヒーローね!
か弱い女性を守るのもヒーローの仕事でしょう?
何が起こるかわからないこんな場所で、女に扉を開けさせたりしないわよね?
順路は私が指示するから、あんたが先頭を歩いてね。ホールまでエスコートして。」
意味有りげな流し目をくれて、ひとみは御前等に語りかけた。
***********************************************
193
:
49:佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/17(水) 23:28:41
閉ざされたホールの扉を開く。(もちろん自分で開かずに御前等に開かせる)
講演会や小規模の演劇等をこなせる円形の小劇場、中は薄暗く静まり返っている。
座席が上ったままの作り付けの椅子が数百脚、奥の舞台に向けてなだらかな下り坂を成して整然と並んでいる。
出しっぱなしのスタンドシートが放つ仄かな光がひとみの顔を下から照らす。
半透明のスタンドシートに青い蛍光ラインで描かれた建物1F平面図が浮かび上がる。
平面図上のホール内に5つの光点が表示されている。ひとみ達の現在地だ。
「やっぱりダメ!私達以外の反応が出ない!
本当に誰もいないのか?それとも何かが私の能力に干渉して反応をマスクしてるのか…」
眉根を寄せてひとみは声を上げる。手元には4枚に分離したスタンドシート、全ての階の平面図が表示されている。
ひとみの言葉の終わりを待たずに、突然――舞台にスポットライトが灯った。
暗い客席に照らされた舞台……今しも舞台開幕といった様相。
騒々しい電子音のファンファーレが鳴り響く。
出入り口が開き、飛び込んできたのは白い矢印――!
空を舞う龍のように縦横にホール内を飛び回る。
ある時は竜巻のように渦を巻き、ある時は二叉に分かれ縺れながら―――見ようによっては酷く滑稽な動きで。
おちょくるように何度もひとみ達の脇をすり抜け、最後には舞台の上で絞り上げた雑巾の如く捻じくれて動きを止めた。
矢印の輪郭がぶれ始める。
数秒ほど輪郭をモヤモヤさせていた矢印は白い霧に変化し、次の瞬間にはもう新しい形を成していた。
『ハーイ!みんなお集まりだね♪』
鼻をつまんで出したような甲高い声。
壇上に立って手を広げているのは、誰もが見たことのある有名キャラクターを模していた。
大きな丸い顔に大きな目……頭上にくっついた丸い大きな耳、大きな手袋、大きな靴……
末尾に『シー』とか『ランド』のつく場所に生息するあの巨大なネズミ……
既知のそれと違うのは色が白一色であること。さながら塗り絵の原画の如きキャラクターが壇上に立っていた。
『やあ!みんな♪僕のプレイランドにようこそ!!
みんなが契約してくれたおかげで僕のプレイランドができたよ♪ありがとう♪
自己紹介がまだだったね♪
僕はの名前は【ザ・ファンタジア】!天才アニメーター【エイドリアン・リム】のスタンドさ♪』
スポットライトの下、満面の笑顔を浮かべた『あのネズミ』は小首を傾げて靴をタンと鳴らした。
194
:
64 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/18(木) 00:46:52
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない♪僕と楽しい"ゲーム"をしてもらうためさ♪
僕は皆のことがだ〜〜い好きだけど、僕のボスは君達に死んで欲しいらしいんだ♪
何でも、クトウ殺しに関わってる奴らはキケンだとか…関係ない奴らも"材料"として使えるからってね♪
でも君達のことがだ〜い好きな僕としては、即殺っちゃうのは不本意だから、君達に生き残るチャンスをあげるよ♪
ゲームのルールは一度しか言わないから、よ〜〜く聞いてね♪
題して……
『追いつ追われつ カクれんボ』〜〜〜♪
"鬼ごっこ"するもの寄っといで〜〜♪」
『あのネズミ』は得意満面の笑顔で手を叩いている。
笑い転げながら輪郭をモヤつかせ、霧になって拡散し姿を消した。
直後、ひとみ達の間に霧が流れ込み巨大な白い手が現れた。丸っこい手は人差し指をピンと立てている。
数秒後、霧に変化した手は壇上に流れ、再び『あのネズミ』の姿を取った。
ネズミは一つ咳払いをして話を続ける。
「僕の能力は【『契約』と引き換えに『場』を作り出す】こと♪『場』の支配権は僕にある♪ゲームマスターは僕さ♪
契約は平等である必要はないけれど、双方に利が無いと成り立たないよね♪
この場合、君達の『利』は生きてここを出られること!生き残りのチャンス!
ゲームクリアの条件は、僕の本体を見つけることだよ♪
クリアできれば、この『場』からの退出を許可するよ♪
あ、ちなみに僕の許可を得ないで外に出たら君達!霧になって空気に溶けて、あぼーんだから♪」
体の左半分を霧に変えて右手でハンカチを振り、わざとらしく涙を流すネズミ。
ハンカチで涙を拭うと、一転してまた笑顔。つくづく癪に障るネズミだ。
「アハハ♪もう知ってた?スデにお試し済みかな?
それと!この『プレイランド』は2時間経つと自動的に消滅するから♪もちろん中にいる君達も一緒にね♪
君達が2時間以内に脱出できるように祈ってるよ♪」
***********************************************
195
:
65 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/18(木) 00:49:26
壇上に立つ『あのネズミ』の姿をしたスタンドは、大袈裟な身振り手振りを交えて喋り続ける。
イベントの前説でもしているかのような軽妙な口調で流暢に―――彼の言う"鬼ごっこ"のルールを。
------------------------【ゲームの概要、ルール】--------------------------------
『鬼ごっこ』+『かくれんぼ』+『しっぽ鬼』 3つ合わせたようなゲーム
追跡する敵スタンド『ザ・ファンタジア』から逃走あるいは撃退しながら
市民会館内のどこかに潜む本体『エイドリアン・リム』を見つけ出し、彼にタッチすればゲームクリア→外に出られる
本体は、一度隠れた場所から動くことが出来ない。(それが"契約"条件であるため)
追いかける側→鬼
逃げる側 →子 と表記
・敵スタンド『ザ・ファンタジア』は常に鬼
・『ザ・ファンタジア』の掌(掌だけ黒い)に触れられた子は精神を支配され、鬼の仲間となる
・鬼になった者は敵スタンドと意識が同調し、子を探し捕らえる為に動いてしまう
(鬼になっても性格や嗜好は元のまま、スタンド能力も使えます)
・鬼になった子には尻尾が生える(○ッキーマウスのような細くて黒いヤツ)
・鬼になった子の掌はスタンドと同じく黒くなる。黒い部分で触れられた子は鬼化する
・子が鬼(敵スタンドを除く)の尻尾を切れば、その鬼は子に戻る
・鬼化している者のビーコンは一時機能停止状態、鬼が子に戻ると再び機能する
・『場』が消滅するタイムリミット、2時間を待たずに全員が鬼化したばあいはゲームオーバー
(全員ディスクを抜かれ死亡確定)
鬼が子に与えるヒント
・子の首にはビーコン付きの首輪がはまる
・鬼が子の3m以内に近づくとビーコンから音楽が流れる(曲はエレクトリカル・パレード)
・鬼が『もーいいかい』と尋ねると、一番近くの子のビーコンから『もーいいよ』という声が流れる(3m以上離れていても)
攻撃について
※ザ・ファンタジアは実体化している状態であれば攻撃を当てることが出来ます(霧化時は攻撃無効)
ただし撃退は出来てもダメージを与えることは出来ません
ダメージを受けても一度霧化すると再生します
------------------------------------------------------------------------------------
『フー…説明も楽じゃないなァ〜♪』
ひとしきり説明を終えたザ・ファンタジアは霧でハンカチを作り出し汗を拭く仕草。
客席で話を聞く一同は気づくだろう。いつの間にか自分の首に鉄の首輪がはめられていることに。
首輪の正面には、簡略化したネズミの顔型(丸の上に丸二つくっつけた形)の装置が付けられている。
これが鬼ごっこ用ビーコンである。
『君達の様なおバカさんに一回で理解しろって言うのもカワイソーだから、契約書にルールを書いておくね♪』
面々の手には契約書が握らされている。
ロビーで見たものと同じ書類だが、ゲームの"ルール"が箇条書きで追記されていた。
『じゃあそろそろいいかナ〜〜♪"鬼ごっこ"を始めるよ〜〜♪
まずは僕が追いかけるから、10数える間に逃げてね〜〜♪
い〜ち♪に〜い♪さ〜ん♪しーい♪………』
真っ白なネズミは掌で大きな目を覆い、節をつけて数を数え始めた。
それは狂ったゲームへのカウントダウン……!!
【鬼ごっこを始めます。ルールなどで、分かりづらい所があれば避難所で質問を受け付けます
敵スタンドが十数えている間の行動は、逃げるも良し、攻撃を当ててみるも良しw】
196
:
66 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/18(木) 20:33:33
【本体】
名前:エイドリアン・リム
性別:男
年齢:33
身長/体重: 158/55
容姿の特徴: いつも意味無く笑顔、愚鈍そう。子供に警戒感を与えない印象。
人物概要:ロリペド野郎。著作権に異様に厳しい某アニメ会社のアニメーターだった。
キャラクターの絵などを餌に子供を遊びに誘い出し弄った後に殺害する手口が定番の猟奇殺人犯。
懲役年数: 125年
被害者推定: 15才以下の小児数十人を殺害。
【スタンド】
名前:ザ・ファンタジア
タイプ/特徴:白っぽい霧。自在に霧散、集合し形を変化させる。
能力詳細: 『契約』を結ぶことで『場』を創造する能力。
一度作り出した『場』に入り込んだ者は強制的に『契約』に縛られる。
アルカナ/ 魔術師(正位置)
破壊力-B スピード-B 射程距離-『場』の中において∞
持続力-D 精密動作性-C 成長性- E
A-超スゴイ B-スゴイ C-人間と同じ D-ニガテ E-超ニガテ
射程距離の目安
A:100m以上 B:数10m(50m) C:10数m(20m) D:数m(5m) E:2m以下
197
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/18(木) 23:17:39
>「何が起こるかわからないこんな場所で、女に扉を開けさせたりしないわよね?
順路は私が指示するから、あんたが先頭を歩いてね。ホールまでエスコートして。」
「ふふふ透けて見えるぞ佐藤さん。――俺に護られたいというヒロイニズムな願望がな!よござんしょよござんしょ」
煽てられた御前等は愚直なまでに直進し、ホールへ続く扉を蹴破った。
まあ蹴破るまでもなく鍵はかかっていなかったし、来訪者を誘うかの如く勝手に開いたんだけど御前等はわざわざ足で開けた。
無意味な行動が伏線になると信じて!
「劇場か……俺も中学のときに合唱コンクールでこういうとこに来た記憶があるな」
いわゆるすり鉢型ホールというやつで、なだらかに傾斜する坂には夥しい量の椅子が群生していた。
佐藤が展開したスタンド地図には現在地とその周囲が綿密に記載されていた。そして――ただ、それだけだった。
>「やっぱりダメ!私達以外の反応が出ない!本当に誰もいないのか?それとも何かが私の能力に干渉して反応をマスクしてるのか…」
「ふむ、この状況には既視感があるな……」
御前等は意味ありげに回想に突入する。時間がないので描写はしない。
「最近地の文が私況で描写の過多を選ぶようになったな。あまり素が出過ぎると疎まれるというのに」
御前等はふん、と鼻を鳴らすと再び述懐に路線を戻した。
「そう!この状況!この途方も無いアウェイ感は――『どっきりカメラ』……!どこかにプラカードがあるはずだ、探せ!!」
普通に無視された。
御前等の戯言を真に受けるだけ時間の無駄だと判断された。
とまあ、時系列が前後することになるが、佐藤が言い終わるか終わらないかという段になって事態が急に進展する。
スポットライトに火が入り、けたたましいファンファーレ……というか例のアメリカねずみ音頭が鳴り始める。
大音響で。大音声で。どっきりカメラでなくとも心臓に悪い衝撃はCMの後もまだまだ続くよ!
>『ハーイ!みんなお集まりだね♪』
アメリカねずみだった。
アメリカねずみだった。
アメリカねずみだった。
「どうした地の文、どうせこんなところまで検閲が入るでもなし、正式名称を言えばいいじゃないか。
そう、あれはミッ髯堺シ丞セ後・謾ソ豐サ菴灘宛縺ッ縲檎樟逧・ョ、荳九」
おっと何故だか、本当に何故だか文字化けしてしまったぜ!
「驕募渚繧偵@縺ヲ豁ヲ蜉幄!!。 御スソ繧定。!? 後▲縺溷嵜縺ォ蟇セ縺励――ッ!!」
それはマジでヤバい。
デズニーさんちのヲルト君と愉快な仲間達が今すぐ俺の家を訪れてもおかしくない。
ああ!窓に!窓に!!
「久々の来客かと思ったら窓に体当たりするカナブンだったよフゥーハハハ!」
198
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/18(木) 23:17:51
>『やあ!みんな♪僕のプレイランドにようこそ!!みんなが契約してくれたおかげで僕のプレイランドができたよ♪ありがとう♪
自己紹介がまだだったね♪僕はの名前は【ザ・ファンタジア】!天才アニメーター【エイドリアン・リム】のスタンドさ♪』
ああそうなんだ!エイドリアン・リム君のザ・ファンタジアってスタンドなんだ!
この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称はすべて架空のもので
実在の人物及び団体・事件とは一切関係ないんだね!よかった!!
>「今日、皆に集まってもらったのは他でもない♪僕と楽しい"ゲーム"をしてもらうためさ♪」
>「題して……『追いつ追われつ カクれんボ』〜〜〜♪"鬼ごっこ"するもの寄っといで〜〜♪」
「またゲームか。なんだってこの街にはいい歳こいて他人をむりやりゲームに巻き込む連中が多いんだ」
>「ゲームクリアの条件は、僕の本体を見つけることだよ♪クリアできれば、この『場』からの退出を許可するよ♪
あ、ちなみに僕の許可を得ないで外に出たら君達!霧になって空気に溶けて、あぼーんだから♪」
「何ィ!?さっきのアレがそうか!この野郎、そういうことは先に言えっ……!!」
>「アハハ♪もう知ってた?スデにお試し済みかな?」 >「君達が2時間以内に脱出できるように祈ってるよ♪」
「佐藤さん俺あいつ殴ってもいいかな!?いいよな!」
アメリカねずみはペラペラとゲームのルールを熱弁し――ときどきチラチラどや顔しながら――説明を終えた。
いつの間にか御前等の首にはチョーカー型の輪が嵌められていて、狙いどころの分からない装身具と化していた。
先程むしゃむしゃしたはずの契約書が復元されている。そこにはさっき話したルールがそのまま……
「あとからこんな紙渡すなら喋った意味あったのか!? くそ、こいつ何かにつけて人をイラつかせたいざかりか……!」
御前等も相当人の事言えない人間なのだが、彼を遥かに凌駕するウザネズミのせいで相対的にキャラが薄くなっていた。
こんな常識的なツッコミもいれちゃうぐらいである。
>『じゃあそろそろいいかナ〜〜♪"鬼ごっこ"を始めるよ〜〜♪まずは僕が追いかけるから、10数える間に逃げてね〜〜♪
い〜ち♪に〜い♪さ〜ん♪しーい♪………』
「だが断る。その法に触れそうな顔を合法レベルにまで整形してやるゥーッ!!」
アイデンティティと沽券に関わる危機に立たされた御前等は、スタンドを出しながら特攻する。
「俺と貴様のどちらがよりウザいか!格の違いを魅せつけてやるぜッ!!」
清々しいほどかませなパターンだった。
【特に何も考えずアメリカねずみに奇襲】
199
:
80 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/11/19(金) 20:58:43
>『ハーイ!みんなお集まりだね♪』
アメリカンなマウスが甲高い声で話す
「…貴方は…! ピカチュウと並ぶほど有名なネズミ…! ミッ…さんじゃないですか!」
最後まで言わなかったからセーフ! のはず…
>「今日、皆に集まってもらったのは他でもない♪僕と楽しい"ゲーム"をしてもらうためさ♪
僕は皆のことがだ〜〜い好きだけど、僕のボスは君達に死んで欲しいらしいんだ♪
何でも、クトウ殺しに関わってる奴らはキケンだとか…関係ない奴らも"材料"として使えるからってね♪
でも君達のことがだ〜い好きな僕としては、即殺っちゃうのは不本意だから、君達に生き残るチャンスをあげるよ♪
ゲームのルールは一度しか言わないから、よ〜〜く聞いてね♪
題して……
『追いつ追われつ カクれんボ』〜〜〜♪
"鬼ごっこ"するもの寄っといで〜〜♪」
「ふむ…ゲームですか…。まぁ、とりあえずルールを聞いておきましょう」
>「僕の能力は【『契約』と引き換えに『場』を作り出す】こと♪『場』の支配権は僕にある♪ゲームマスターは僕さ♪
契約は平等である必要はないけれど、双方に利が無いと成り立たないよね♪
この場合、君達の『利』は生きてここを出られること!生き残りのチャンス!
ゲームクリアの条件は、僕の本体を見つけることだよ♪
クリアできれば、この『場』からの退出を許可するよ♪
あ、ちなみに僕の許可を得ないで外に出たら君達!霧になって空気に溶けて、あぼーんだから♪」
「なるほど。池谷さんが身をもって実証してくれたあれですね」
と言うかこいつはいい加減タメ口に戻らないのだろうか。
そしてネズミのわざとらしい涙には一切触れない天野
>『フー…説明も楽じゃないなァ〜♪』
「なるほど。ルールは大体理解しました。つまり僕達は貴方から逃げ回り! そして本体を捕まえればいいわけだ!
む。何でしょうこの首輪…」
いつの間にか首に付いていた鉄の輪が気になる天野
>『君達の様なおバカさんに一回で理解しろって言うのもカワイソーだから、契約書にルールを書いておくね♪』
「貴方ほどじゃありませんけど、ありがたく受け取っておきます」
少し皮肉めいたことを言い、契約書を読む
>『じゃあそろそろいいかナ〜〜♪"鬼ごっこ"を始めるよ〜〜♪
まずは僕が追いかけるから、10数える間に逃げてね〜〜♪
い〜ち♪に〜い♪さ〜ん♪しーい♪………』
>「だが断る。その法に触れそうな顔を合法レベルにまで整形してやるゥーッ!!」
>「俺と貴様のどちらがよりウザいか!格の違いを魅せつけてやるぜッ!!」
「どうもこの人のテンションにはついて行けませんね…。では…ただいまの室温…26℃
25℃、24℃…20℃」
取り合えずザ・ファンタジアのいる部屋の気温を下げつつ、逃げることにした
200
:
83 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/11/20(土) 01:42:39
Sum For Oneの思考のみが許される空間によねは居た。
目の前には凍てついたように動かない他のスタンド使い達、そして、ネズミ――
(襲い掛かるべきか?いや、だがこの『場』は相手によって支配されている…殴り倒せるわけが無い)
よねは徳井が突然の理由で再びどこかへ行ってしまった事に歯がゆい思いをしていた。
彼が居たならば、あるいはこの状況を打開できたかもしれない。
ハマも同様である。
ついて来てもらえばその豊富な経験と知識に頼れたかもしれないのだ。
結局、ここはゲームのルールに従う事にした。
そして凍てついていた空間が、時間が再び行動を開始し始める。
よねが、ここは従うべきだ、と意見しようとするよりも早く。
まるで、Sum For Oneの能力下でよねと同じように思考していたかのように御前等が真っ先に動き出す。
/「俺と貴様のどちらがよりウザいか!格の違いを魅せつけてやるぜッ!!」
「ご愁傷様です…御前等さん、無茶しやがって…」
小さく呟く。御前等を助けるつもりは"更々無い"。
よねは気付かぬ内に首に馴染んでいた鉄の首輪を少し触る。
無理矢理取れば恐らく…
ルールの書かれた契約書を綺麗に折り畳み、ポケットに突っ込む。
(制限時間は2時間、たったの2時間…逃げてる暇なんてない。ここは"攻め"で行かせてもらおうッ!)
ロビーの外にあったパンフレット形式の会館案内図を一つ取る。
まず目指すのは…一階守衛室。
よねの狙いは一つだった。それは"監視カメラ"の利用。
利用できるか出来ないかは不明瞭だが、利用できたのなら、エイドリアン・リムの居場所を割り出すのが容易くなる。
狙ってみる価値はあった。
よねはまず守衛室へ向かった。
【北ロビーを経由して守衛室へ】
201
:
84 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/20(土) 15:30:28
『10数える間に逃げてね〜〜♪い〜ち♪に〜い♪さ〜ん♪し〜い♪…』
後ろ向きになって顔を隠し、数を数え出す『あのネズミ』。
>「だが断る。その法に触れそうな顔を合法レベルにまで整形してやるゥーッ!!」
ネズミに歩み寄る御前等。
「ちょっと不用意なことは止めなさいよ!ゲームのルールが本当なら、あんたが鬼になる可能性も…」
ひとみの制止など耳に入っていない様子で、御前等は更にネズミの背後に近づく。
>「俺と貴様のどちらがよりウザいか!格の違いを魅せつけてやるぜッ!!」
御前等の腕から剥離したスタンド――アンバーワールドの拳がネズミに迫る―――!
今しも拳が叩き込まれる…という刹那、ネズミの後頭部がバクリと口を開いた。
ネズミの顔の裏に出来たもう一つの顔……
カトゥーンアニメを思わせる漫画チックで巨大なオオカミの口が、アンバーワールドの腕を呑み込んだ。
拳が牙の生え揃った白い口腔内に捕えられた途端、オオカミの口はガチリと噛み合わせられた。
輪郭をモヤつかせていたネズミの後頭部から、千切れるように、牙を立てたままのオオカミの顔が分離する。
『ぎゃははははッ♪ヤッテヤッタぁーー♪不意打ちのつもり?ザンネンでしたァーーッ♪
そんなに殺気を撒き散らしてたんじゃあ不意打ちもクソもないジャン♪
てか僕はモトモト霧だよ?この目は飾りダヨぉ〜♪じゃあ何で目隠ししてたかって?遊びには気分が大事ジャン♪』
アンバーワールドへの対処を分離したオオカミに任せ、御前等から3mほど距離を取ったネズミは、
腹を抱えて笑い転げている。
『僕と君のどっちがウザいかって?そりゃ君に決まってるよ♪僕は背後の文と会話したりしないからね♪
背後+君……単純に見積もってウザさ二倍だモーーン♪
ウザさでもトップを取りたい君の負けず嫌いを称えて、【ウザキング】の称号を君に贈るよ♪
ウザキング君!君がルールを破ったから、10数えるのはナシね♪
たった今から鬼ごっこ開始ぃ〜〜♪』
アンバーワールドの腕に食らいついているオオカミの顔の根元から、ほの白い腕が2本、萌芽し伸張する。
御前等を掴まんと迫る腕―――掌の部分だけ他と対照的に真っ黒である。
時を同じくして、ネズミ…もといザ・ファンタジアの体表が陽炎のように揺らぐ。
直後、ネズミの纏っていた服はタキシードから魔法使いのような長いローブと三角帽子に変っていた。
ザ・ファンタジアは口から吐き出した霧で四本の竹ホウキを作り出し、宙に放り投げた。
空を回転する白いホウキ…柄の部分から細長い腕が伸びる。御前等に噛み付いているオオカミ同様、掌だけが真っ黒だ。
着地したホウキは穂を足代わりに歩き出し、それぞれが細い腕を揺らめかせ、ひとみ達に向かって駆け寄って来る。
4本のホウキのうち2本が目標を失い、ホール内を右往左往している。
『チェッ♪ふたり逃げられてたかァーー♪まあいいや♪ゲームは時間一杯楽しまないとね♪
何だか冷えてきたなァー♪冷房の効かせ過ぎは良くないんだゾッ♪』
【御前等さんに分離したオオカミ顔で噛み付き攻撃。まだホールに残っている生天目さん&佐藤に竹ボウキ攻撃
黒い掌に3秒間触れられ続けると鬼化します
逃げちゃった人たちはもうちょっと待って〜】
203
:
85 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/11/20(土) 15:31:46
交戦中の御前等に、早速逃げ出す天野とよね。
そして白いホウキのスタンドに襲われる佐藤と生天目。
「まだ話がよく飲み込めないんだけど、本体を見つけたらいいってことよね?
それと時間がないからバラバラに手分けして敵本体を探すことには賛成!
でもバラバラに動いて同じところを重複して探してちゃ世話ないのかなー?
それに3mルールってきつくない?先にステポニのソナーに引っかかってくれると助かるんだけど。
まっ、私の予想だと普通に考えても絶対見つからない場所に隠れていると思うわ。たぶんねたぶん」
そう佐藤に話しかけながらも、音の性質をもつステレオポニーが床に反射するとホウキに蹴りを放つ。
非力なスタンドでも見た目がホウキ程度のものになら力負けはしないはず。
「ホウキってゴミじゃあるまいし舐めんな!!スピードなら負けないんだから!!」
【ホウキに蹴りを放つステレオポニー】
204
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/22(月) 01:14:33
>『僕と君のどっちがウザいかって?そりゃ君に決まってるよ♪僕は背後の文と会話したりしないからね♪
背後+君……単純に見積もってウザさ二倍だモーーン♪
ウザさでもトップを取りたい君の負けず嫌いを称えて、【ウザキング】の称号を君に贈るよ♪
ウザキング君!君がルールを破ったから、10数えるのはナシね♪たった今から鬼ごっこ開始ぃ〜〜♪』
「げェーっ!それじゃあ俺一人の功績にならんじゃないか!地の文とニコイチだなんて御免だぞ俺は!」
もっと等身大の自分を見て欲しい(笑)みたいな。
ともあれ御前等の奇襲にもなっていない奇襲は失敗に終わり、アメリカねずみから分離した狼にスタンドの腕を喰われた。
食らいついた狼は人外の膂力でどれだけ振り回しても外れず、そこから生えた腕が御前等本体を狙う!
「寒っ!」
真夏だというのに室内が急激に冷えだした。冷房なのか、はたまたスタンド能力なのか、御前等には区別できない。
黒の掌は御前等の腕をがっちり掴み、じっくりじわじわ侵食範囲を広げていた。
「えっと、この腕に掴まれ続けたらどうなるんだっけ」
1秒。
「佐藤さーん、俺あのネズミの説明全部聞き流してたんだけど、こいつは一体どうすればいいんだ?」
2秒。
「おっと、そうだそうだ。ネズミがくれた紙があったじゃないか。――って、腕掴まれてたら読めねえ!?」ドギャーン
3秒。
御前等は全身くまなく余す所なく黒に染められ、最後に無駄なハイライトのかかっていた瞳から光が消えた。
「う……っ!」
膝をつき、悶え始める。
意識の奥底から噴水にようにせり上がってくる真っ黒い衝動と情動。
指の先まで張り詰めた糸で繋がれる感触。全てがどうでもよくなって、ノリと勢いに任せた人生でもいいなって。
……まあそれは普段の御前等とあまり変わらないけど!とにかく御前等の中になんか凄い良い気分の澱が芽生えてきた。
「は、ははは、はははは」
短く息を吐く。
蹲っていた御前等はゆっくりと立ち上がり、そしてぐるりと目を剥いた。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」
ケツのあたりからにょっきりとネズミの尻尾みたいなのが飛び出した。
カマキリの尻から出てくるハリガネムシみたくうねうねと蠕動して生理的嫌悪を与える実にキモいビジュアルである。
アルカイックな笑みを顔面に張り付けた御前等(やっぱりいつもとそんなに変わらないけど)は弾かれたようにホールを駆ける。
「合法的に痴漢しまくるチャーーーーーーーーーンス!!」
異能力は法の外の概念なので別に合法でもなんでもないのだが、御前等にはそもそもそんな思考力は存在しない。
恐ろしいまでに下半身と直結した脳味噌を披露しながら、御前等は最初のターゲットを決めた。
「佐藤さんは怖いからパスで!そこのトロそうなキャミソール女を狙うぜェー!女子供に痴漢するのは簡単さ!動きが鈍いからな!」
箒とスタンドバトルを繰り広げている生天目へと人智を超えたスピードでにじり寄る。
片腕に狼をぶら下げて、もう片方の掌は箒と同じく真っ黒だ。手に意識を集中して念じると、昨日の人面フルーツが出現した。
『御前等の実』は吉野の能力の副産物とは言え、その本質はアンバーワールドと同じくスタンドエネルギーの凝縮体だ。
しからばスタンドと同じく『発現』という形で出し入れすることは理論上可能なのである!
取り出した実を握り、御前等は『願い』を込めて自分と生天目との間に放り投げた。空中で実は爆ぜ、プログラムされた事象を発動する。
「――――『行く手の万難討ち祓う剣と化せ我が結実』!」
言葉に特に意味はない。ただ精神集中と、カッコ良いから詠唱するだけである。
御前等の実は炸裂すると中身が無数のスタンドエネルギーでできた刃となり、生天目を襲う箒に殺到した。
ザクザクと小気味良い音を立てて箒はハリネズミとなり、生天目のスタンド攻撃も相まって呆気無く吹っ飛んでいく。
「さあこれで邪魔者は消えた!おっと俺は悪くないよ敵のスタンドに操られてるだけだからね!?」
御前等の下衆極まりない人格を反映したような真っ黒の掌が、蹴りを放った直後の生天目に迫る!
首から聞こえるアメリカねずみ音頭が、凄まじく癪に触った。
【鬼化。"あくまで操られて"生天目をお触りしにいく】
205
:
88 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/24(水) 23:19:05
>85-87
後ろ向きになった『あのネズミ』に迫るアンバーワールドの拳――!策も覚悟も無い思いつきだけの特攻。
結果―――こちら側の利になることは、何一つ起こらなかった。
『ウザキング君!君がルールを破ったから、10数えるのはナシね♪たった今から鬼ごっこ開始ぃ〜〜♪』
忌々しいほど楽し気なネズミの声が、ゲーム開幕を告げる。
御前等はスタンドを、ネズミから分離したカトゥーンオオカミに食い付かれ
未だホールに居残っていた有葵とひとみは、霧製のホウキに追い回されるハメになった。
混乱と狂騒――ネズミの高笑いと、ひとみ達の首輪から流れ出すアホみたいに能天気な電子音のメロディ、
それに怒号と悲鳴が混じり合いホール中を反響している。
「だから止めろって言ったのにッ!いっつもロクなことしないんだから!このクズッ!!」
ひとみは迫り来るホウキの手をかい潜り、座席の間を逃げ回りながら怒声を上げた。
霧オオカミは、ジャレ付くアホ犬の如きしつこさで、アンバーワールドの腕に食らい付き振り回している。
御前等のスタンドは徳井と同じ近距離パワー型。射程距離はせいぜい2m程度だ。
スタンドは本体から一定以上離れることは出来ない。また逆もしかり。スタンドが動きを封じられれば本体も動けない。
スタンドを捕えられた御前等は、逃走も闘争も不可能で、ただスタンドの側で棒立ちになるより他ない。
オオカミの生首から生えたひょろひょろの腕が、御前等に向かって真っ直ぐに伸びる――!
事の重大さを認識していないのか、御前等は大した抵抗もせず、アッサリと黒い掌に腕を捕まれた。
>「えっと、この腕に掴まれ続けたらどうなるんだっけ」
>「佐藤さーん、俺あのネズミの説明全部聞き流してたんだけど、こいつは一体どうすればいいんだ?」
>「おっと、そうだそうだ。ネズミがくれた紙があったじゃないか。――って、腕掴まれてたら読めねえ!?」ドギャーン
能天気男の自問自答。
「馬鹿ッ…!何でもいいからさっさとその手をッ!振り払いなさいッ!!」
逃走の間隙を縫って御前等に視線を移し、金切り声を上げるひとみ。
―――が、時既に遅し。
オオカミの掌から転移した黒に全身を侵食され、蹲る御前等。一瞬真っ黒に染まる身体。
……数秒を置いて、立ち上がった男の瞳からは光が消え完全に瞳孔が開ききっていた。唇は強張った薄笑いを浮かべている。
『ハ〜〜イ♪鬼のいっちょあがりぃ〜〜〜〜♪よ〜しよし♪プ○ート♪噛み付き攻撃ヤーーーメぇ♪』
ネズミはケタケタ笑い、オオカミの攻撃を制した。
オオカミ…もとい出来の悪いネズミの飼い犬は、スタンドの腕にぶら下がったまま大人しくなった。
>「合法的に痴漢しまくるチャーーーーーーーーーンス!!」
狂気の男は、尾骨辺りに生え揃った黒ミミズの如き尻尾を揺らめかせ、人外のスピードで有葵に飛び掛る。
ホウキをご都合主義な『実』の力で一蹴し、真っ黒な掌を突き出し息を荒げて有葵に迫る!
まさに少女を襲う変質者を地で行っている。
206
:
89 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/11/24(水) 23:19:48
以前、白い竹ボウキとの追いかけっこを続けているひとみ。
逃走の経路で軽くジャンプ――足元には、通路の床上20cmの位置に触手製のワイヤーが予め張り巡らされていた。
ひとみを追いかけていたホウキは、触手ワイヤーに躓いて空に投げ出され数秒の滞空の後、カランと音を立てて床に落ちた。
座席の隙間に身を潜めていたフルムーンがホウキの側に姿を現す。
機を逃さず、足代わりの穂を触手でぐるぐる巻きに固定し、ホウキの動きを奪う。
床に転がるホウキを尻目に、ひとみは走る。
御前等の猛追を前に、呆然と立つ有葵の手首を掴み――ホールの出口に向かって駆け出した。
ひとみと有葵――二人の頭上に浮遊するフルムーンから、触手を繋ぎ合せた薄い皮膜が降りて来て、その姿を包み込む。
インビジブル発動―――
皮膜に覆われた二人は、空気に溶けるように姿を消した。
透明化によってザ・ファンタジアと御前等の目を眩ませた二人は、ホールを抜けて
一気に南ロビーの階段を上がり、二階廊下、医務室前あたりまで移動した。
「バラバラに手分けして本体を探す…なんて冗談じゃないわ!
敵スタンドに襲われた時、私達の非力なスタンドで、一人きりで対処できると思ってるのッ?
あのスタンド、分離したホウキのパワーは大したこと無かったけど、ネズミ自体の攻撃力は完全に私達より上よ。
それにあの馬鹿男まで鬼になったんじゃ、もう…!」
透明化を解いたひとみは、有葵に向かってボヤくような口調で語りかけた。
手元のシートには竹ボウキに接触した時に得たスタンドデータが表示されている。
*********************************************
>>83
一方、一階守衛室に移動した、よね。
狭い部屋の中は無人だ。数台の事務用机と椅子が雑然とした部屋に詰め込まれているのみ。
壁一面に設置された十数台のモニターは生きていて、各部屋の監視カメラの映像が映し出されていた。
すべてのモニターに写る映像を逐一チェックしていくのは一仕事だが…
よねは気づくだろうか?
モニターに映る4Fライブラリ…蔵書や映像を保管する、ちょっとした図書館のようなこの部屋。
ライブラリの隅に置かれた大画面TVの前で、何やら食べながら寛ぐ男の姿がチラリと映った事に……。
**********************************************
場面はまたホールに戻る。
ひとみ達に逃げられ、取り残された『鬼二人』――ザ・ファンタジアと御前等。
『ウザキング君…!鬼になってくれてうれしいよ♪仲良くしようね♪
さっきは背後とニコイチ扱いしてゴメンね♪君一人でも充分過ぎるほどウザイって♪
僕のペットが君に懐いちゃってるみたいだけど、とりあえず返してもらうよ♪』
ザ・ファンタジアが唇を尖らせスゥーーーーっと息を吸う。
アンバーワールドの腕にぶら下がっていた駄犬は、霧となってネズミの口に吸い込まれていった。
『さて、外に出て手分けして哀れな子羊を追い詰めようか♪何かこの部屋妙に寒いしね…』
スタンドは全身を震わせて、クシュンと一つくしゃみをした。
『…と言っても僕、霧だから別に寒さは感じないんだけどね♪…ってかそもそもスタンドって寒さ感じるの?』
しょうもない戯言を垂れ流しながらホールを後にする一人と一匹であった。
どちらが一人でどちらが一匹かは、ご想像にお任せする。
【佐藤と生天目さんの現在地は2F廊下、医務室前あたり】
【よねさん、守衛室のモニターに謎の男が映ってます(4Fライブラリ内)今行ってみても誰もいないかも】
【御前等さんの今後の行動はお任せ。ちょっとの間誰かを追っかけてくれるとうれしいな】
【天野さんの現在地って今どこ?】
207
:
91 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/11/25(木) 13:04:09
何の問題もなく守衛室にたどり着いたよね。
「ビンゴ…ッ!監視カメラはあるみたいだ」
だが、モニタの数は十台以上もあった。
これを一つずつチェックするのはいくらなんでも骨が折れるし、時間が無い。
どうするべきかを考えるためにSum For Oneを発動した時だった。
思考のみが許される空間の中で、音楽が鳴り響いていた。
あり得ない。だが、確かに聞こえる。
"ラ・マルセイエーズ"
(これは…フランス国歌…?La Marseillaise…?)
音楽が反響して聞こえている。
しかし、その音楽はまるでよねを導くかのように音源を移動させた。
その先には大きなモニタ…というよりただのテレビだ。
丁度、4Fライブラリーが表示されている。
(!?…コイツは…ッ!?)
テレビにはゴソゴソと何かをしている謎の男。恐らく"甲"なのだろう、とよねは直感的に思った。
そして気付いた時には音楽は鳴り止んでいた。
Sum For Oneを解除するよね。
「あの音楽はなんだったんだ…?だが、情報は得られた。これがいつ撮られたものかはわからない…
が、ライブラリーに行ってみる価値はある…ッ!」
もしも、このゲームが始まってから撮られたものならば、
ルール上"甲"は移動が出来ないはずなのである。即ち、チェックメイトだと言うこと。
そして守衛室から飛び出て一気に4階まで駆け上がる。
目指すはライブラリーだ。
【謎の男を捕捉。ライブラリーへ】
208
:
92:生天目
◆gX9qkq7FNo
:2010/11/25(木) 13:06:09
>「さあこれで邪魔者は消えた!おっと俺は悪くないよ敵のスタンドに操られてるだけだからね!?」
御前等の夢のハイテンションはマッハで生天目の肺腑を貫き四肢を硬直させていた。
「ち、ちかづかないで!それ以上ちかづいたらステポニが音速で飛びかかって、
お尻についてる尻尾と一緒に、前についてる尻尾もひきちぎってやるんだからー!!」
ホールに走る緊張感。握った掌の中が室内の冷気と反比例して熱く汗ばんでいる。
(射程は充分…。ただ一発で仕留めなきゃ…つかまったらおわり…)
「うっ!!」
突然、横から腕を掴まれ体をビクつかせる生天目。掴んだ主は佐藤ひとみだ。
出口に駆け出すと同時に発動するインビジブル。透明化した二人は二階廊下、医務室前あたりまで移動する。
>「バラバラに手分けして本体を探す…なんて冗談じゃないわ!
敵スタンドに襲われた時、私達の非力なスタンドで、一人きりで対処できると思ってるのッ?
あのスタンド、分離したホウキのパワーは大したこと無かったけど、ネズミ自体の攻撃力は完全に私達より上よ。
それにあの馬鹿男まで鬼になったんじゃ、もう…!」
「でも私たち以外の人は結果的にはバラバラになっちゃったんだよ!
何かあったら携帯で連絡とれるからいいのかもしれないけど。
それと本体は移動しているわけじゃなくって、一度隠れた場所からは動けないんだよね?
虱潰しに探したら楽勝だと思うんだけど…」
竹箒のスタンドデータを佐藤と一緒に見ながらしばらくの沈思。
そのあと当てもしないで医務室の扉を開けてベッドの下をしゃがみこんで覗いてみたりした。
「隠れている本体は鬼じゃないんだよね?ただの人…人…神の忌子…。はあ…おなか空いてきた…。
話は変わっちゃうけど、ひとみんたちってワーストたちにまんまといっぱい食わされっちゃったね。
ワーストたちが意図してたのか意図してなかったのかはわかんないけど、
調査も何もここってスタンドホイホイだったわけじゃん。地雷原にでんぐり返しで転がっていったようなものだもの。
流石のひとみんも知恵くらべで斜め上を行かれちゃったか…」
とりあえず戸棚や引きだしなどパカパカと開けていく生天目。
【生天目:2F医務室付近を調査中(キャラ的にちょっとブーブー言ってますw)】
209
:
93 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/11/26(金) 23:05:10
「とりあえず調理室で足止め用の水と護身用の何かを取ってこよう」
そう呟き、階段から調理室に向かう天野。その途中で佐藤達の会話が聞こえた。後で合流しようか…
「とりあえず今は調理実習室だ。まあ、ペットボトルくらいあるよね…」
人が居ないところではいつも通りの喋り方になる天野
「まだ鬼の気配はしないな…。なんか池谷さんが鬼になったみたいだったけど…」
そんなことを言いながら階段を上る
【天野:調理実習室に向かう】
210
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/27(土) 05:09:07
「逃げられたか」
先程のハイテンションが嘘のように静かになって、御前等は独りごちる。
生天目を仕留めることは叶わず、駆けつけた佐藤によって救出され、二人は姿を消した。
恐ろしいまでの手際の良さだ。きっと逃げ慣れているのだろうが、しからば今から追ったところで逃げ切る算段はついているだろう。
(下手に深追いして待ち伏せ挟撃トラップなんてことになっても面白くない。どうせこの会館からは出られないんだ)
女連中は後回しでも良いと判断。
御前等はスタンドを仕舞い、静かにホールを歩く。水を打ったような静寂は、天井の果てまで空間を占めていた。
>『ウザキング君…!鬼になってくれてうれしいよ♪仲良くしようね♪
さっきは背後とニコイチ扱いしてゴメンね♪君一人でも充分過ぎるほどウザイって♪』
「あまり馴れ合うな。俺は婦女子に痴漢できればそれで良い。貴様とよろしくやるつもりはないぞ」
>『僕のペットが君に懐いちゃってるみたいだけど、とりあえず返してもらうよ♪』
「好きにしろ。俺もそろそろ本気を出す」
かつてないほどのローテーションで。ありえないほどに真面目な顔で。
御前等は狼の霧を吸いきったアメリカねずみに軽く蹴りを入れ、ポケットに手を突っ込みながら歩き出した。
(隠れんぼの基本は――推理、あるいは虱潰し。推理は愚策だな、相手があの女なら心理誘導されている可能性がある)
ならば採択すべきは後者だろう。
幸いこの市民会館はさして複雑な構造をしていない。虱潰しでも入れ違いになることなく回りきれるだろう。
つまり時間さえかければ、必ず他の参加者達を発見することは可能なのだ。
>『さて、外に出て手分けして哀れな子羊を追い詰めようか♪何かこの部屋妙に寒いしね…』
「ああ。エアコンが中央管制のままなところを見るにどうやら何らかの異能が左様しているらしいな。心当たりのある能力が多すぎる」
>『…と言っても僕、霧だから別に寒さは感じないんだけどね♪…ってかそもそもスタンドって寒さ感じるの?』
「……とりあえず、お前の本体がこのホールに居ないってことはこれではっきりしたな」
それ以上の会話を一方的に打ち切って、御前等はホールの扉をゆっくりと開ける。
ブービートラップを警戒していたが、特に張り巡らされてはいないようだ。念のためスタンドの視覚も用いて廊下を行く。
冷えたホールの空気と、平常運転の生温かい廊下の空気が上下に混ざり合って、足元が妙に寒かった。
(さて……虱潰しに探すと決めたは良いが。近い場所から順繰りに調べるのがセオリーだがそれも少しつまらない)
これには待ち伏せへの警戒も含んでいる。
御前等の進行経路が推理によるものにせよ虱潰しにせよ、ある程度の行動パターンは予測できるし誘導もできる。
あの生天目ならともかく心理戦術に長けた佐藤が逃亡者のブレーンについている以上、むしろそれは当然として捉えるべきだ。
(あの女とこのままことを構えるのは些か不味い。まんま掌の上で踊らされる羽目になりかねん)
呼吸の頻度すら抑えて御前等は滑るように廊下を行く。
向かう先はロビーにある2Fへの階段。その一段目を注意深くスタンドで精査しながらゆっくりと足を乗せた。
(階段にトラップは無し……否、仕掛けるなら警戒される序段はむしろ無防備にしておくか?……チッ)
御前等は舌打ちし、汗を吸ったバンダナに指を掛けて額を外気に晒して冷やす。
(泥沼だ……こちらが考えれば考えるほど術中に嵌っていっている気がする)
「おい、アメリカねずみ。……『ザ・ファンタジア』、お前のことだ。――手分けすると言ったな、ならお前は1Fを隈なく制圧しろ」
尻から生えた尻尾で床を指しながら、御前等は上を見上げた。
「俺は2F以降を探す。……そうだな、やはり順路通りに行ってもつまらんから、一気に最上階から攻めてみるか」
スタンドエネルギーによる結界にも対処できるようアンバーワールドに先行させながら、御前等は階段を静かに上っていく。
掌を染めるだけだった黒の領域は、今や肘にあたりまで闇色で侵食し、御前等の根源を堕とし込まんとしているのだった。
211
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/27(土) 05:10:32
「クソ、この階段は二階までか。ならエレベーター脇のを使うまでだ」
流石に自ら逃げ場を塞ぐつもりはなかったのでエレベーターには気を向けなかった。
その脇にある全階を繋ぐ階段を上り、ようやく彼は4F以降へと辿りつく。
(4Fは学習エリア……自習室や研修室、それからPCルームがあるのだったな)
階段を登り切って4Fへ至る直前、ちょうど目の高さと4Fの床とが釣り合った瞬間に、御前等は息を飲んだ。
真っ黒の掌に汗を握り、空調が効いているはずなのに酷く熱く感じる。口の中は乾ききり、指先がチリチリした。
(いた――!)
人影を見つけた。
佐藤ではない。生天目でもない。背の高い、痩せ型の体型をした眼鏡の男は、一昨日佐藤によねと呼ばれた男。
どのようなスタンドを修得しているかは寡聞にして知らない御前等だったが、佐藤が彼の能力を高く評価していたことは覚えている。
(何をしている……?図書館に隠れ場所を探しているのか、いや、ならば何故こんな最上階まで来る必要がある)
他に隠れやすそうな場所はもっとたくさんあった。
鬼化した御前等を迎え撃つにしても、御前等がわざわざ4Fまで登ってくることを織り込み済みでなければありえない選択だ。
――すなわち、それら以外の理由。『のっぴきならない事情』があって、よねはここ4Fに居る。
そしてそれは十中八九この鬼ごっこについての事情だろう。この領域においては、それこそが全てに優先されるのだから。
(この短時間でそこまで突き止めたのか……?恐ろしく頭の切れる。要マークは佐藤さんだけかと思っていたが、)
真に警戒すべきはよね。この男。
ここで会ったが僥倖で、しからば百年目だ。
(今こいつを潰せば――その口を封じれば!この鬼ごっこが早々に終了する最悪の事態は回避できるッ!!)
決めたが最後、御前等は駆け出していた。
最低限の足音は消しているが、それでも研ぎ澄まされたスタンド遣いならば気配で察知してしまうだろう。
要は、『気付かれるまでにどれだけ肉迫せきるか』。状況は鬼ごっこから、さながら『だるまさんが転んだ』へと変貌していた。
御前等の実を発現させる。
投擲までのタイムラグは、一瞬――
「――脱兎を戒め地に磔す縛鎖と化せ我が結実!!」
人面果実が炸裂し、茨状に展開したスタンドパワーがよねを襲う!!
【4Fにてよねを背後から襲撃。御前等の実で鎖を創り拘束の一撃】
【鬼化の侵食が進む。普段からハイテンションの御前等は今度は逆作用して冷静に。躁鬱状態みたいなものです】
212
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/11/28(日) 04:42:06
>「Sum41ッ!この壁と自分は反発しあうッ!」
「――ッ!!」
スタンドの茨に拘束され、進退極まったよねが選択したのは退路を捨て、立ち向かう機動。
能力で傍の壁に自分との反発性質を付与し、生み出した推進エネルギーを御前等への激突に変える。
「チィッ――『アンバーワールド』! 俺を護れッ!!」
よねがこちらに吹っ飛んでくる直前、彼我との間にアンバーワールドを発現。
鋼の偉丈夫は腕を交差させて防御姿勢をとり、よねの体当たりを受け止めた。
(奴の能力は対象の性質を恣意的に変化させること……接近戦はマズい!)
アンバーワールドで殴ったとして、それを受け止められ厄介な性質を付与されればその時点で詰みである。
しかるによねの能力とは、戦況の天秤を一撃でひっくり返しかねないジョーカー的能力だ。念を押すに越したことはない。
「アンバーワールドッ!」
即座にスタンドをよねから退かせ、御前等は右足を軽く挙げた。
その足裏にアンバーワールドの掬い上げるような剛腕がヒットし、御前等はその刹那右足を思いっきり触れた拳へ踏み込む。
生み出されるのはカタパルトのごとき推進力。おおきくかち上げられた御前等は空中で器用に姿勢を制御して弾丸のように図書室を翔ぶ。
かくして目にも留まらぬ速さと距離の跳躍を実現した御前等は、よねの死角に入るようにして閉架書庫の林立する本棚の影へと飛び込んだ。
(正面立ってやり合うのには些か分が悪すぎるな……正直、奴がどのように能力を応用してくるか予測がつかん)
足場に粘着性質を付与されても詰み、御前等の周囲だけを真空にされても詰み、衣服の重量を書き換えられても詰む。
従ってあのよねという男を相手取るならば、見えないところから、聞こえない速さで、触れられない距離での一撃が必要。
奇しくも状況は限定的な隠れんぼと洒落こんでいて、この場においては鬼はよねの方だった。こうやって隠れるのもいつまで有効か分からない。
ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド
苦味を伴なう汗が滲む。バンダナがぐっしょりと湿ってしまったので替えを取り出してきつく締める。
階段を駆け上ってきた運動量は容易く御前等の心臓をオーバーヒートさせ、血が物凄い速度で巡っているのが聴覚で分かった。
(対するこちらのアドバンテージは……まだ『実』以外の能力が割れていないこと……こいつを最大限に活かす)
そしてこちらはよねの能力が大概知れている。
一昨日の佐藤の件で一回、そしてついさっきに一回、この目でよねのスタンドを目の当たりにしているのだ。
当面は『どのような効果を齎すか』に限定された情報だが、射程距離や連続発動の限度まで知れればぐっと戦いやすくなるはずだ。
(っふ、こうやって真っ向から攻略するのは久し振りだな……こちらから仕掛けてみるか――!)
胸ポケットに刺さっていた、先程契約書を書く際に用いたボールペン。
内部にバネが仕込んであり、尻の部分をノックすることでペン先の出し入れができるタイプのものだ。
それをアンバーワールドに持たせ、閉架書庫の影からよねへ向かって人外の膂力で投擲した。よねには当たらず、その奥の壁へと激突した。
「アンバーワールド!」
能力を発動する。ボールペンに貼っておいた歯車が回転し、中のバネの張力を暴走させる。
結果として起きる現象は壁にぶつかってはバネで跳ね、ぶつかっては跳ねのボールペン跳弾乱反射。図書室を縦横無尽に跳び回る。
閉架書庫の中に逃げれば安全だが、それは当然の如く御前等の罠だ。
よねが閉架書庫に入った瞬間、アンバーワールドを発動させて移動書架を閉じ、間に入ったよねを押しつぶす算段である。
【ボールペンに能力を発動し乱反射させる。閉架書庫に入るとトラップ発動で押し潰される】
216
:
99 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/12/01(水) 01:43:39
よねが御前等に向けて吹っ飛ぶ。
/「チィッ――『アンバーワールド』! 俺を護れッ!!」
御前等のアンバーワールドによってその起死回生の体当たりはあっけなく止められた。
相手もよねの能力は知っている。
それ故、接近戦は分が悪いと判断したのだろう。
御前等はとっさに身を引き、数秒後。
まるで、今までの御前等の行動からは想像できないほどの…スピード。
スタンドとの絶妙な連携によって生み出されたそれは、
よねに何をされたのかすらをも把握させれないほどだった。
(くっ……どこに消えた…?この状況下、やたらめったら動き回るのは自殺行為だ…ッ)
素晴らしい汎用性を誇るSum41の能力。
頭脳戦や心理戦では恐らくこちらの方が上。
だが、先ほどまでは優位な状況に立っていたというのに、
一転、罠に誘い込まれ追い詰められたのはよね自身だった。
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ
御前等が取ってくる戦法は三つ考えれた。
一つ目は死角からの急襲。接近戦では分が悪いならば、相手に気付かせる暇もなく始末してしまえばいい。
二つ目は誘い込み。こちらがしびれを切らして動き始めたところで確実に安全に始末するのだ。
三つ目は――その両方だ。
(考えろ、考えろ考えろ…奴はどこから出てくる?どこから見ているッ?どこに誘い込んでいるッ!?)
そう思考している時であった。
ピシュゥオッ!
空を切り裂く何かの音。少し前にテレビで見たどこかの部族の吹き矢のような音。
しかし、その何かはよねには当たらず後ろの壁に当たった。
おかしい。壁に当たって一度音が鳴る。地面に落ちてもう一度音が鳴るはずである。
だが、音は壁に当たった一回のみッ!
(こ、これがッ!御前等裕介の能力ッ!アンバーワールドの能力ッッ!?)
何をしているか見当が付かない。だが、その能力はかなり強力な物だという事は分かった。
ビシュゥッ!
不意に何かが腕を掠める。
"アレ"だ。御前等が放った"アレ"が、よねの腕を掠めたのだ。
兆弾の様に図書館内を跳ね回る"アレ"。早すぎて捉えることすらも困難ッ!
「仕方ないッ!スタンドエネルギー等と悠長な事はッ!
Sum41 Phase2ッ!この図書館内では全ての物理運動が停止するッッ!!!」
よねを中心に黒い影の様な円が図書館全体に広がる。
スタンドの能力によって"アレ"が何かをされ、こうして跳び回っているとしても、
あくまで物理運動を利用してるに過ぎないはずである。
故にこの兆弾は円に引っかかり、その動きを止めるはずなのだ。
【慣性バリア展開。スタンドエネルギー的にバテてきています】
217
:
101 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/01(水) 01:44:10
(よし、誰にも見つからなかった!)
天野は今、調理実習室で水(500mlペット3本)と、バナナ一房、鍋を手に入れ、適当なところに隠れていた
「鬼ごっこ…。触られたらその人も鬼になる…。で、僕達はあのネズミ…ザ・ファンタジアの本体を捕まえれば勝利…」
ブツブツ呟きながら状況の整理をする
「米さんが向かったのは恐らく守衛室…。たぶん監視カメラの映像を利用しようと考えたんだろう。
それ以降どこに行ったかは見てないけど…。
で、佐藤さんと生天目さんは2階…の何処かは分からない。ただいまの鬼は、ザ・ファンタジアと池谷さんか…」
状況の整理をしている。未だに御前等のことをイケメン谷ハンサム太郎、略して池谷半太郎と思っているようだが
「で、佐藤さんの能力は恐らく感知とスタンドの保護色、米さんと池谷さんは不明、で、生天目さんのスタンドが…突進?」
味方の能力を分析している。理系の天野は観察力に秀でているのだ。所々分からないものもあるが…
「で、僕はどうしよう…このまま隠れ続けるか、他の人と合流するか、一人で本体を探すか…」
1は一番安全だが攻められない、また、見つかった相手が自分に不利なら終わり。
2は少々危険が伴うが、誰かと協力できる分多少の弱点は補えるだろう
3は一番攻めてるが効率が悪い
「良いのは1か2だな…さて、どうしよう…。合流しようかな…。でも誰と?
池谷さんは鬼化したから論外、米さんはどこにいるか分からないからパス、となると佐藤さんか生天目さんか…」
天野は悩んでいた。自分の能力の弱点をカバーしてもらうか、より多数で協力するか、それとも…
「…取り合えず2階に下りてみよう」
そういって隠れていた場所から出た
【隠れ場所から出て、誰かと合流するために2階に降りようとしている】
218
:
102 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280
:2010/12/01(水) 01:44:48
【時間軸:御前等さんがよねさんに襲い掛かる数分前(戦闘中の御前等さん、よねさんとは時間軸がズレてます)】
医務室の扉を細く開けて中を覗く。
簡易ベッド、医療器具を乗せた棚に丸椅子。こういった部屋につきものの設備が置かれているだけで特に異変はない。
医務室は逆Lの字型廊下の角に位置し、それぞれの廊下に面した入口がある。
片方の扉から"鬼"に侵入されても、別の扉から脱出できる為、最悪な袋の鼠状態は避けられる。
ひとみは有葵を促し周囲を警戒しながら部屋の中に入った。
>話は変わっちゃうけど、ひとみんたちってワーストたちにまんまといっぱい食わされっちゃったね。
>ワーストたちが意図してたのか意図してなかったのかはわかんないけど、
>調査も何もここってスタンドホイホイだったわけじゃん。地雷原にでんぐり返し
>で転がっていったようなものだもの。
>流石のひとみんも知恵くらべで斜め上を行かれちゃったか…」
有葵は相変わらず口も態度も忙しない。その上、能天気な口調で痛いところを突かれて、ひとみはとうとう声を荒らげた。
「だから!さっきから何度も"嵌められた"って言ってるでしょッ!!人の話聞いてないんだから!あんたはッ!!
シートにスタンド使いの反応が出れば、私だって無防備にこんな所に入り込むようなマネしなかったわよ!!
大体この状況において、その緊張感の無さは何ッ?あんたはいつも真剣味が足りないのよ!
あの時だって……!」
…言いかけて、ハッとして喉元まで出かかった悪態を引っ込める。
腹を立ててもプラスになることは何も無い。寧ろ冷静さを損なうだけ生き残りの道は険しくなる。
ひとみは、湧き上がる苛立ちを強引に呑み込み、深い溜息に変えて吐き出した。
「ランチの心配は生きてここを出られてから、ゆっくりすることね……
今はこの下らない"鬼ごっこ"のことを考えましょう。
あんたは『虱潰しに本体を探せば楽勝』なんて言ったけど…そりゃ、あのネズミが居なきゃそれで楽勝でしょうけどね。
ネズミが何もせずに、虱潰しに探させてくれると思ってるの?
あのネズミは"追跡者"…"鬼の元締め"なのよ。アイツに触れられたら私たちだって"鬼"になる。
問題は【追っかけてくる"鬼"を撃退しながら、本体を探さなきゃならない】ってことよ。
私達のスタンドは、あのネズミよりパワーもスピードも下。狙われたら一人では対処できない。
オマケに、ホールで鬼になった馬鹿も私達を探して追いかけてくる筈だわ。
撃退しながら探索するには、最低二人で行動する方が利口だと思わない?」
苛立ちを押さえ、潜めた声で噛んで含むように有葵に語りかけるひとみ。
「これも、さっきから言ってることだけと…もう一度確認しておくわ。私の探知能力はアテにしないで。
建物内で反応が出るのは私達のものだけ。あのネズミと本体の反応が出ないのよ。
『場』には私の能力を狂わせる何かが働いてる。
…あのネズミも言っていたことだけど、『場』は『ゲームのルール』に基づいて創造されている。
恐らくゲームそのものを不成立する能力には制限が掛けられてるのかも……。
どっちみち、"鬼"の手を逃れながら、虱潰しに本体を探すしかないわね…」
219
:
103 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280
:2010/12/01(水) 01:45:17
言いながら、ひとみはレイヤーを剥がすようにスタンドシートを分離した。
4枚の分離シートにはそれぞれの階の平面図が表示されている。
「幸い、私達鬼ごっこ参加者の位置はマーカーで表示できるわ。これは利用しなきゃね。
天野君の現在地は3F調理室付近……よね君と馬鹿男は4Fにいる…
馬鹿男がだんだんよね君に近づいていってる…
"鬼"になった馬鹿男……どうやらよね君を見つけて、彼にターゲットを絞ったみたいね。
これって一種のチャンスだわ。鬼の数は少ないに越したことはない。
馬鹿男がよね君を狙ってる隙に、姿を隠して背後から近づいて、私達がアイツの尻尾を切り落としてしまいましょう。
あんたのステレオポニーでも、尻尾を切り落とすくらいのパワーは……」
言葉尻に被せるように電子音のメロディが鳴り響く。音の発信源は自らの首に嵌められた首輪――!
―――すなわち、鬼の接近を告げる警告音!
コンコン――コンコン――…
電子音に混じり、広い方の廊下に面した扉をノックする音がする。
『ここかなぁ〜♪この部屋の中かなぁ〜♪聞こえる…聞こえるぞぉ〜…レディーの声がするぞぉ〜♪
ウザキング君には悪いけど、僕がお先に痴漢しちゃおうかなぁ〜♪』
聞こえてくるのは独特の甲高い声―――
フルムーンで扉の向こう側スキャンすると、
案の定、扉の前には『あのネズミ』が○ィズニーキャラクターとは思えぬ悪辣な笑みを浮かべて立っている。
「クソッ!突き止めるのが早すぎるわッ!有葵!あっちの扉から脱出するわよ!!」
ひとみはもう一方の扉を指差し、駆け寄った。
同時にワイヤー程度の固さにした触手で、ドアノブが回らないように雁字搦めに固定し、触手を切り離す。
「ほら早く!!」
有葵を促し、もう一方の扉のドアノブに手をかけ、回そうとする――が、
ノブはガチャガチャ音を立てるばかりでビクとも動かない。フルムーンの『眼』で動かない鍵穴を覘くと――
鍵穴の中には白い固形物がギッシリ詰まっていて、ドアの開閉を阻止していた。
ホウキを作った時同様、あのネズミが分離した霧で『鍵』を作り、逃げ道を塞いでいたのだ。
「やれらた――!閉じ込められたわ!!」
開かぬ扉の前で無駄な足掻きを続けているひとみ達の背後…ノック音の続く扉から、モヤモヤした霧が染み通るように侵入してくる。
ひとみと有葵が振り返った時――部屋の中央には既に『あのネズミ』が立っていた。
ネズミの大きな耳はパラボラアンテナをつけた集音機の形状を模している。
この霧製集音機でひとみ達の話し声を探知し、居所を突き止めたのだろうか。
『僕は志向的に幼女崇拝派なんだなぁ〜♪幼女の裸ほど美しいものはないよ♪女なんて13歳過ぎたらオバサンだからね♪
どっちもババアだけど狙うならコッチかなぁ〜〜〜♪』
真っ白なザ・ファンタジアの顔に、邪悪な笑みが刻んだ皺が灰色の影を落としている。
白い体表を蠕動させたザ・ファンタジアは、右手を鎌首を擡げるコブラに変化させ、有葵に向かってけし掛けた!
シャアァアアアーーー!威嚇音を漏らし、有葵に襲い掛かる白コブラの口の中は真っ黒だった。
【冒頭でも書きましたがこの出来事は、御前等さんvsよねさんの戦闘とは時間軸が違います。】
【1ターン後には追いつきますので、もう少し待って〜。】
【天野さん合流歓迎ですが、次ターン以降にお願いします。お待たせしてすいません。】
【生天目さん、ザ・ファンタジアは霧化していない時は普通に殴ったりして撃退できます。】
220
:
104 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2010/12/01(水) 01:45:52
ザ・ファンタジアが侵入した方とは反対側の扉が、音を立てて内側に倒れた。
倒れ込んだドアに続いて赤い消化器が部屋に転がり込む。
ドアの傍にいた佐藤は少々危ない目にあったかもしれない。
「……あら、ごめんなさい。先客がいましたか」
医務室の戸を破ったのは、吉野きららだった。
重い消化器を投げて前のめりになった体勢を早々に立ち上げて、彼女は素っ気ない謝辞を述べる。
顔を上げた彼女の表情は眉根が寄り、目は細められ、唇は真一文字で、酷く険しい。
だがそれは彼女が置かれているこの状況に対してばかりではない。
尖った表情に隠れてはいるが、吉野の顔色は蒼白だ。
彼女は背伸びをして、医務室の中を佐藤の肩越しに覗き込む。
そして一層疎ましげに表情を歪ませて、溜息を吐いた。
「まったく、本当に間が悪い……」
辟易としながら、吉野は佐藤と視線を交錯させる。
「……私はですね。貴女達を殺すつもりで付けてきました。お陰でこんなゲームに巻き込まれてしまいましたが」
淡々と、彼女は自分の敵意を告白した。
「正直言って、ここで貴女達を殺すのは簡単ですわ。少しばかりここを通せんぼしてやれば、それでいい」
彼女が述べるのは、純然たる事実。
だからこそ、佐藤は理解出来るだろう。
「……ですが、それでは私が助からない。私は幸せになる為に貴女達を殺すのです。私まで死んでは、意味がない」
据わった目付きで自分を睨む、彼女の言わんとする事が。
「だから手を組みましょう。お互いが幸せになれる、素晴らしい提案だと思いませんか?」
今この状況下で、佐藤と吉野には共通の敵、ザ・ファンタジアがいる。
故に、本来は敵対する筈の二人に結託の余地が生まれるのだ。
無論、これは理屈の上での話に過ぎない。
「と言うより、組まざるを得ないと言うのが正しい所ですかね」
不遜な物言いの相手に対して、思い通りになる。
それが佐藤にとって堪え難い恥辱であれば、結果はまた変わってくる。
「で、どうしますか?答え、急いだ方がいいと思いますけど」
冷ややかな口調と共に、吉野は佐藤の背後で戦う生天目を指差した。
生天目のスタンド能力を吉野は知らないが、見るからにパワー型ではない。
真っ向勝負でザ・ファンタジアが撃退出来るとは、吉野は到底思わなかった。
要するに彼女は生天目を見くびっていた。
あまつさえその感情を声にして、生天目の背中に吐き掛けたのだ。
スタンド能力は感情によって出力が上下する。
吉野の言葉に生天目が怒りを抱いたなら、それはスタンドの力になるだろう。
だが逆に「やっぱり無理だ」などと萎縮してしまっては、出来る事も出来なくなってしまう。
――或いは、緊迫状態にある生天目には吉野の声など聞こえないかもしれないが。
ところで今さっき、彼女はドアを挟んで佐藤のすぐ傍にいた。
にも関わらず、吉野は佐藤のスタンド探知に引っかからなかった。それが意味する事はつまり――
【消化器で佐藤側のドアを破る。医務室に用があったけど出来そうにない。
協力を提案しながらも小馬鹿にしてます。】
221
:
109 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/12/01(水) 01:46:46
>「だから!さっきから何度も"嵌められた"って言ってるでしょッ!!人の話聞いてないんだから!あんたはッ!!
シートにスタンド使いの反応が出れば、私だって無防備にこんな所に入り込むようなマネしなかったわよ!!
大体この状況において、その緊張感の無さは何ッ?あんたはいつも真剣味が足りないのよ!
あの時だって……!」
「あの時って?もしかして九頭龍一との戦いの時?それに真剣味ってどんな味?
私にとっては空腹も立派な敵の一人なの。毎日襲来する強敵なの」
静かな医務室にカタンパタンと音が響く。
「ねー。もしかしたらよ。敵のスタンド使いがいっぱいいたとしたら、
かくれんぼしている本体に細工なんかする敵がいたとしたらどうなるの?イジワルクイズみたいになるね。
複数のスタンド能力の重ねがけって大有なせんじゃない?ん〜…でもルール違反?
そこまで卑怯なやつならルールとか黙りこくって2時間待つもんね。
それに、この医務室ってついさっきまで使われてた感じ。カルテとかあるし…。あ!これドイツ語?」
まるで頭から車庫入れをするような拙い生天目の言葉を聞いてか聞かずに
スタンドシートを広げると、それを打ち消すように理路整然とした会話を始める佐藤ひとみ。
生天目は説明を聞きながらふんふん頷いている。
「えっと…4Fに行って、さっき鬼になった人の尻尾を切り落とす…のね。はーい、わかりました」
佐藤の言葉尻に食い気味に被せた生天目の言葉に、さらに覆い被せるように電子音のメロディが鳴り響く。
コンコン…。コンコン…。電子音と復唱するノックの音。
>『ここかなぁ〜♪この部屋の中かなぁ〜♪聞こえる…聞こえるぞぉ〜…レディーの声がするぞぉ〜♪
ウザキング君には悪いけど、僕がお先に痴漢しちゃおうかなぁ〜♪』
「うげ!!見つかった!ネズミのくせにドアなんかノックして、憎い演出ね!でもその隙にこっちから逃げちゃうんだから!!」
しかし…
>「やれらた――!閉じ込められたわ!!」と佐藤が叫ぶ。
「えー!!うそ!!戦うしかないのーっ!?」
>『僕は志向的に幼女崇拝派なんだなぁ〜♪幼女の裸ほど美しいものはないよ♪女なんて13歳過ぎたらオバサンだからね♪
どっちもババアだけど狙うならコッチかなぁ〜〜〜♪』
二人が振り返ると、霧状になりドアの隙間から侵入してきたザ・ファンタジアが部屋の中央から、コブラに変化させた右手で生天目に攻撃をしかける。
「あのね!私はババアって言われて怒るほどのババアじゃないっ!!」
生天目の叫びと一緒にステレオポニーが飛び出すとザ・ファンタジアの右腕に音速の右拳が放たれ
開口した漆黒の大口の中に肩口まで深々と突き刺さる。
医務室の中央で邂逅を果たす二つのスタンド。右肩から鮮やかに噴き出す生天目の血が白いカーテンに飛び散った。
蛇の口に突き刺さったスタンドの右手は噛まれていると同時にザ・ファンタジアの右手に掴まれている。
鬼になるまでは3秒の時間は皆に平等。スタンドはスタンドでしか倒せない。
同じフィールドに存在するのならスタンドの固有振動数、この場合は精神の周波のようなものと
同じ周波数の精神の超音波を浴びせることによって対象を破壊することが出来るはず。
逆に3秒は敵の精神エネルギーに振動を浴びせるには充分な時間だ。
「うりゃーーーっ!!」
ステレオポニーの裂帛の気合と共にザ・ファンタジアが右腕から粉々砕けていき、伝わった破壊振動が胸の上から頭にかけて敵スタンドを吹き飛ばす。
右手と胸から上を失ったザ・ファンタジアは霧状の血飛沫を空中に巻き起こしながらあたふたしている。演技なのかもしれないが。
「やった!けど…やってない!!今の技って、あいつが手を掴んでてくれたから成功したけどネタバレしたからもうダメね!!でも時間稼ぎにはなった!?」
くるりと振り向いて佐藤をうかがうと吉野うららがいた。戦闘に夢中の生天目は吉野の声にも、まるっきり気がついていなかったのだ。
「ちょとお!ドアが開いてるんだったら教えてよー!馬鹿みたいじゃない!あとひとみんは私の右手治してね!」
【ザ・ファンタジに攻撃。時間稼ぎに成功?ステレオポニーの今回の技は普通のスタンドや物に使ったらヒビがじわじわ入っていく程度です。
ザ・ファンタジアには固有振動が合いすぎたことにしてw】
222
:
110 :御前等祐介 ◇Gm4fd8gwE
:2010/12/01(水) 01:47:15
>「仕方ないッ!スタンドエネルギー等と悠長な事はッ!Sum41 Phase2ッ!この図書館内では全ての物理運動が停止するッッ!!!」
「なん……だと……!?」
無意識に言葉が口をついて出るのを止められない。
よねのスタンドにはまだ『奥』があった。フェーズ2。彼の足元より展開する漆黒の真円。
その能力は洞察するに『指定領域内の情報上書き』――ボールペンの跳弾は制空権を奪われ空中に固着する。
(なんだあの能力は……! 慣性を強制排除する結界だと? 反則級だ……!!)
だが、例外はあった。よねから広がる真円の領域は御前等の隠れる閉架書庫も含めた図書館全域を飲み込んでいるが、
(『俺の身体』は動く……どういうことだ? まさか『生物』には効かないとか、あるいは『領域に侵入する運動のみ排除』か……?)
おそらく前者、世に遍く全ての生物が身に纏う微弱な精神エネルギーがよねの領域に干渉しているのだろう。
この能力は確かに強力無比の禁止級だが、それ故にアンコントローラブル。適用対象を条件で絞らなければまともに運用できない。
――御前等はそう、大雑把に推察した。
(ともあれあの能力がある以上遠くから仕留めるのは下策も下策……振り出しに戻ったわけだ)
重ね重ね末恐ろしい能力。触れた物体の情報を書き換えるスタンドと、遠距離攻撃を無力化する結界。
この2つの異能を両輪に、よねは『接近戦を挑むほかない状況』を戦場に作り上げている。畏怖さえ覚えるほど巧妙に。
(手駒は――スタンドと、『実』と、それから閉架書庫内の器物……『実』は使えないな、書き換え合戦になるだけだ)
千日手でいたずらに貴重な『実』を消費するわけにもいかない。
御前等の実の『念動力に指向性を与える』効果はすなわち御前等の精神エネルギーの方向性を完全に支配下におくことができる。
奇しくもよねとは同質にして真逆の存在。ここで会ったが百年目とは正しく御前等とよねの対峙を揶揄していた。
「ク……クク……クククク」
声を殺して笑う。腕から侵食する黒は最早肩を超えて胸の辺りまで染め上げている。
御前等はその黒い指で額のバンダナを弾き、極度の興奮状態にある瞳孔の高鳴りを掌で覆ってゆっくりと鎮めた。
「これだ!この感覚!!俺は今誰よりも何よりも『世界の中心』に漸近している……!!」
漸近。
決して交わることのない、だけれど限りなく近い曲線。
御前等は居場所が露呈するのも構わず声を張り上げて、想いの丈を虚空に吐き出す。
「よね君。この世に神がいるならば、俺達ほどよく計算された関係はあるまい。なればこそ――俺は君を超えるよ」
閉架書庫から姿を現し、アンバーワールドの後ろ押しで人外の速度でよねへと肉迫する。
このまま愚直に突進すれば、鴨打ち以外の何者でもないが。――彼とよねとの間には、フェーズ2によって空中に固定されたボールペン。
動かないなら動かないで、使いようはあるものだ。御前等は一足跳びで跳躍すると、ボールペンに足をかけ――それを足場にもう一度跳んだ。
223
:
111:御前等祐介 ◇Gm4fd8gwE
:2010/12/01(水) 01:47:43
「何故ならば!」
幻の二段ジャンプ。少しでも足を滑らせたら固定されたボールペンで身体を貫かれかねない、常軌を逸した挙動。
命知らずの跳躍がもたらした高度は、図書館の天井に手がつくほどの大跳躍。そして、御前等はアンバーワールドを出現させた。
ボールペンを足場にしてまでジャンプにスタンドを使わなかったのは、『温存するため』だ。天井に能力を発動する、その残高を『温存するため』。
「――今日から俺が世界の中心だ!!」
渾身の『アンバーワールド』。人外の拳は天井を、『天井に据えられたスプリンクラー』を正確に殴り抜く。
能力が発動し、スプリンクラーにスタンドエネルギーの『歯車』が貼り付けられた。
「いくぞ我が能力の真骨頂――アンバーワールド『逆回転』!!」
貼り付いた『歯車』は、回転することでその機構を起動する。
スプリンクラーの歯車は、いつもと逆の回転をしていた。――『逆の起動』。アンバーワールドはただ機械を動かすだけのスタンドではない。
文字通り『ギミックによってもたらされる効果』を支配する。消化器《スプリンクラー》を逆回転させればそれは、
「火炎放射器だ――!」
スプリンクラーの散布範囲に、バーナーの如き幅広の炎霧が降り注ぐ。
【停められたボールペンを足場にして天井に到達、スプリンクラーを逆発動。火炎放射器となって炎の霧発射】
【成長した能力テンプレ】
名前:アンバーワールド
タイプ/特徴:
近距離パワー型/人形で随所に歯車の意匠
能力詳細:
触れた機械・機構を操作する能力。
機械の定義は『エネルギーを与えるすることで一定の効果を出力する人工物』の総称。
電子機器から果てはドアの蝶番まで、稼働し可動する人工物であるならなんでも操れる。
歯車型に固めたスタンドパワーの塊に、機械をどのように動かすかインプットし、
動かしたい機械に貼りつけ任意のタイミングでインプットした動きを出力させる。
『逆発動』――歯車を逆回転させることで機構の効果を反転させる。
スプリンクラーは火炎放射器に、消化器も火炎放射器に。
『御前等の実』――吉野の『メメント・モリ』によって咲かされた御前等の花に熟した実
中身は御前等の念動力(スタンドエネルギー)の塊で、実を破壊した際にプログラムした通りに念動力を発揮する。
破壊力-B スピード-C 射程距離-E(歯車だけならB) (実はC)
持続力-C 精密動作性-A 成長性-B
224
:
112 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/12/01(水) 01:48:15
/「よね君。この世に神がいるならば、俺達ほどよく計算された関係はあるまい。なればこそ――俺は君を超えるよ」
まるで、居場所を知らせるのも厭わぬかのように、大声で宣言する。
よねはこれもトラップか、と疑っていたが、どうやらそうではないらしい。
奴は、御前等裕介は完全に戦闘を楽しんでいる。
よねの潜在的意識の中で何かが音をたてて弾けた。
「ふ…ふふふふふ……くくくくはははははッッ!面白い!御前等裕介ッ! ならば超えてみせろッ!超越しろッ!
戦いこそが真なる悦楽だと言うならば…ッ!!」
狂った。いや、狂わされた。御前等裕介が操る、歯車によって。よねの歯車はギシギシと音をたて、錆び、やがて崩れた。
無意識的に出た言葉。自分の言った言葉ではない。まるで、誰かに操られたかのように、よねは御前等に答えた。
そして、高速で、よねに捉えることの出来ないほどの速さで、御前等は姿を現し、よねに迫ってきた。
(動いたな、御前等裕介ッ!いくら速くても、身構えてるこちらの方が有利だッ!勝ったッ……第三部か…)
だが、御前等は字の如く"超越"した。二段跳び。人外もここまでくると清々しいものだ。
「な、なにィィィッ!?一体どうやってッッ!?」
よく見ると、御前等の下には――フェイズ2によって空中に固定されたボールペン。
墓穴を掘った、よねがそう確信した時、御前等は火災防止用のために天井に設けられたスプリンクラーを――殴った。
/「いくぞ我が能力の真骨頂――アンバーワールド『逆回転』!!」
スプリンクラーは通常、水が噴出される。
だが、御前等の能力、アンバーワールド『逆回転』によって干渉されたスプリンクラーが放つのは……炎。
(チィッ!?だが、バカめッ!ここはPhase2の領域下だッ!炎であろうと物理運動は…"停止しない"ッッ!?)
予想外だった。この期に及んで、よねは自分の能力を把握できていなかった、否、御前等が例外過ぎたのだ。
よねのPhase2の能力は"自然の原理によって起こされ得る可能性のある物理運動を停止させる能力"。
通常、スプリンクラーは炎など噴射しない。故にPhase2で止めることができないのだ。
「くぅっ!?Sum41ッ!Phase2を解除しろォーッ!私を護れェッ!!」
スタンドに干渉できるのはスタンドのみ。Sum41を盾にすることで炎の霧から逃れようとしたのだ。
だが――Sum41は答えなかった。
「な、なにをしている!?主の命令を聞かないスタンドなどあるものかッ!護れッ!!私を――ッ」
体を包み込む炎の熱が感じられなくなった時だった。
よねは、いや、よねの姿をした何かは堕ちた。
225
:
113:よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/12/01(水) 01:48:43
―――――――――――
――――――――
―――――
そこは、深い闇の底だった。よねが九頭との闘いの後に、頻繁に見るようになった悪夢の場所と酷似していた。
よねがこの状況に気付くと、目の前にはよね自身が立っていた。そして、BGMは…"La Marseillaise"、フランス国歌。
「ごめんごめん。脅かしちゃったね。あまりに君が愚かで浅はか過ぎるから少しの間、乗っ取らせてもらった、というよりも融合させてもらっていた、が妥当かな」
目の前のよねが言う。奇妙なものだ。とても、とても――…。
「貴方は…どうして同じ姿を……?ここは…一体…?」
今度は自分。どちらもよねであるが、どちらもお互いに別物である。
よねがこれはスタンド攻撃か、と闇の中で思考する。
すると、
「スタンド攻撃?フフ、違うよ。ここは正真正銘、君の精神世界。私は君の、そうだね、短絡的に言うと"裏"かな」
読まれている。こいつが裏だというならば、それは同時に表のよねと共通しているということになる。
「御前等さんは…鬼ごっこは?えっと、なんだ…思い出せない…」
よねは御前等との戦闘の事を必死に思い出そうとする。
だが、まるで夢だったかのように、既によねの記憶から消し飛んでいた。
「安心しな。君はいたって正常。さっきも言ったろう?乗っ取らせてもらったってね。
覚えてないのも無理は無い。なんといっても、さっきまで御前等裕介と戦っていたのは――この私なんだからね」
は?何を言ってる?こいつは馬鹿か?よねは嘲笑した。それと同時に恐怖した。
「私は今まで君に何度も呼びかけてきたんだ。君だって本当は闘いを望んでいるんだろう?
でも、それは出来ない。君には中途半端な理性と、中途半端な知性、それと私――即ちSum41、君のスタンドがあるから。
理解できない?私は君の"深層心理"の顕在。矛盾に聞こえるかもしれないけど事実。そして私は同時に君が今まで使役していたSum41と同等の存在」
目の前のよねが浮かべる笑みは、とても恐ろしく見えた。
あまりの恐怖によねの額に気持ちよくない汗が出てくる。
「お前は一体何者なんだッ!?元の世界に戻せッ!」
よねがそう言おうとする。だが、自分の言おうとした事を、目の前のよねが言う。
「言ったよね、私は君の"深層心理"。闘いと混沌を好む君の本性の顕在。
元の世界はSum For Oneの能力で停止してるよ。ここは君の精神世界だ。あの市民会館とは隔絶されてる」
今度は自分の口が勝手に動く。ガタガタと目の前のよねが震えだす。
恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい恐ろしい…
「フフ…気付いた?私と君は入れ替わるんだよ。あまりに君が無能すぎるから。異能者にして無能、滑稽だね。
今は意識しか入れ替わってきてないけど、だんだん、全部入れ替わってくるよ。恐れなくてもいいよ、君が私を体験するだけ。君が私の"深層心理"になるだけ」
またもや自分の口が勝手に動く。よねはこれが夢であってほしいと、心の底から願った。
そして…よねの足元が急にぬかるむ。
底なし沼の様によねは闇の奥底へと堕ちていく、堕ちていく。
「じゃあね。ごきげんよう。言っておくけど、私の呼びかけに答えてくれなかったのは君だ。自業自得だと――思うけどね」
226
:
114:よね ◇0jgpnDC/HQ
:2010/12/01(水) 01:49:05
―――――
――――――――
―――――――――――
舞台は再び図書館へと移される。
Sum For Oneの能力で全てが停止している。
「Sum For One…そして世界は回り始める……」
凍てついた世界はやがて熱を帯び始める。
ゴウゴウと音をたててよねを包む炎。
だが、そんなことよねにはどうでも良かった。
「フフフ…ククククク…やっと手に入った。なんだ、簡単じゃないか。
聞こえるか、御前等裕介。楽しかった。初陣を君との戦いで飾れて光栄に思うよ。
けど…折角手に入れた肉体だ。私はここで死ぬわけにはいかないのでね」
そして図書館の床に手を伏せる。ここは4階だ。
"リバース"
「Sum41 Re・Birth…ッ!この床は液状化する!」
液状化した床はよねを階下へと運んだ。
よねの変化を汲み取れる人間は現段階では鬼化している御前等裕介ただ一人。
このまま"米 コウタ"として他のスタンド使いに接触すればいい。それが"今のよね"の考えだった。
【本体】
名前:米 コウタ(裏)
人物概要:本能に忠実ではない米 コウタ(表)に嫌気がさし、
よねの体を乗っ取った"深層心理"の顕在。
一人称は「私」。非戦闘時は穏やかな口調。戦闘時は激しい口調になり、好戦的。
好きな楽曲はフランス国歌「La marseillaise」。好きな言葉は「変革」。
【スタンド】
名前:Sum41 Re・Birth(リバース)
タイプ/特徴:標準型
能力詳細:"深層心理"の顕在である裏のよねと精神が入れ替わったよねが使うSum41。
基本的にSum41と変わりはなく、進化したわけでもない。
227
:
115 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/01(水) 12:57:52
扉が開かない―――!
鍵穴の中に触手を突っ込んで白い霧の塊を除去しようとするも、塊は鍵穴に隙間なく入り込み
ガチガチに固まっていて埒が明かない。こうなったら建具の金具を外すしかない。
硬質化したフルムーンの触手で疑似工具を作り出し、蝶番のボルトに差しこみ緩めようと試みていたその時――
―――ゴウンッ…衝撃音と共に扉が傾いた。
重量物の齎す風圧がひとみの前髪を煽る。寸手の所で身を捩り、体勢を崩しながらも一歩体を引く。
扉はひとみの半身を掠めるように倒れ、転がり込む消火器と共に、床に叩きつけられて派手な音を立てた。
自分達の逃走を阻む障害が倒壊したというのに、ひとみはその場から動けない。
扉を失った開口部に立つ人影に釘付けになっていた。
……あの女だ……!
フラッシュバックする映像と声……『魔』たる球体を臨む、あの場所での二人きりの邂逅――
九頭は『魔』の正体と『留流家』の来し方を闇に投影して見せた。
そして九頭が最後に見せたヴィジョンは、他ならぬこの少女の姿であった。
――――『彼女は見事に階段を登り、私が認め得る存在となった。』
――――『私は彼女の誕生を心から祝福し、次に残す事にしたのだよ。』
九頭龍一の口から発せられた少女への賛美と称賛。
あの時感じた屈辱、嫉妬、怨嗟が、生々しい感情の渦となってと蘇る……。
>「……あら、ごめんなさい。先客がいましたか」
凛とした少女の声が回想を打ち破った。
ひとみの中で何重にも黒い感情が渦巻いていた時間は、まばたき数回ほどの一瞬でしかなかったのだ。
我に返ったひとみは、現在の至上命題である、この部屋からの脱出に意識を向け直した。
>「……私はですね。貴女達を殺すつもりで付けてきました。お陰でこんなゲームに巻き込まれてしまいましたが」
>「正直言って、ここで貴女達を殺すのは簡単ですわ。少しばかりここを通せんぼしてやれば、それでいい」
「何馬鹿なこと言ってんのよッ?さっさとそこから退きなさい!
でないと、その男受けだけは良さそうな小奇麗な顔に傷が付くことになるわよ!!」
少女の向ける静かな――しかし確固とした敵意を打ち返し、ひとみは彼女を威嚇する。
振り上げた触手の鞭を、少女に向けて振り下ろさんとした刹那――――
『にぎゃぁぁあああああああ!!!シャレにならないよ♪♪!!痛い!!痛い!!痛いよぉおおおおお!!!!!!』
搾り出すような絶叫を耳にして、ひとみは思わず振り返った。
部屋の中央部で、ステレオポニーと『あのネズミ』―――ザ・ファンタジアが互いの腕を交差させている
蛇を模したザ・ファンタジアの右手に食いつかれたステレオポニーの肩にはヒビ割れ、
しかし、その小さな手でザ・ファンタジアの手首をしっかと掴んでいた。
ステレオポニーの拳によって増幅された超音波振動を受けたザ・ファンタジア
右腕から胸部にかけて、連鎖的に細かいヒビ割れが走り――バリンッ―――!と瀬戸物が砕けるような音を立てて砕け散った。
白い破片が部屋中に飛び散り、下半身だけ取り残されたスタンドも煙になって消失していく。
228
:
116 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/01(水) 12:59:06
敵の気配の消えた医務室に取り残された三人の女。
>「ちょとお!ドアが開いてるんだったら教えてよー!馬鹿みたいじゃない!あとひとみんは私の右手治してね!」
流血しながらも有葵の声はどこか能天気だ。
「治せるからって救急箱扱いは止めてよね。治療だって疲れるのよ。」
ボヤきながらも有葵の肩の傷をフルムーンの触手で縫い合わせていく。
「まったくもう…急用でイタリアに帰ったどっかの馬鹿みたいに全力で負傷するのは止めなさいよね…」
更に小言を付け加えようとして、ひとみは背後に違和感を感じて口を噤んだ。
『―――♪呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜〜ン♪なんてね♪
お呼びでない?お呼びでない?コリャマッタ失礼シマシタぁ〜〜〜っ♪……キャラが違うって?
ジャパーンの古典アニメもグッだよね♪アニメじゃないのも混じってるけど♪
ぎゃはははっ!びっくりした?僕は霧だから不死身なんだよ〜ん♪』
声と共に再び鳴り響く電子音のマーチ。
ひとみの背後にぴったりと寄り添うように、何時の間に現れたのか、にこやかな笑顔の『あのネズミ』が立っていた。
『今度は大年増つーかまーーーーえたーーーー♪!!!』
ひとみは両肩をザ・ファンタジアの丸っこい手に掴まれていた。
スタンドの掌を中心にひとみの身体に染みのように広がる黒い汚染地帯…
フルムーンの触手鞭で肩を掴む手を滅多打ちにするが、ネズミは妙な嬌声を上げるだけで手を離そうとしない。
「なっ…何なの?コイツ…ダメージは無効化…瞬間移動みたいにイキナリ現れるなんて…反則的すぎるッ…」
抵抗むなしく時間は過ぎていく。
1秒…………2秒………2.5秒………2.7秒――――――!
黒い染みは指の第二関節辺りまで迫っている。
「じょッ冗談じゃないわ!!こんなクズネズミの仲間になるなんてッ!!
有葵!あんた、私が鬼になったら、何を置いても私の尻尾から切り落としてよォオォォォォォ!!!」
語尾は自然に叫び声に変わっていく。
とうとう観念して目を瞑って――――――
3秒…………4秒…………5秒…………6秒…………………
………『その瞬間』は訪れない。
そういえば、肩に感じていた圧力が無くなっている。
ひとみはそうっと目を開く。掌も腕も足も、常の肌色に戻っていた。
>「……ですが、それでは私が助からない。私は幸せになる為に貴女達を殺すのです。私まで死んでは、意味がない」
>「だから手を組みましょう。お互いが幸せになれる、素晴らしい提案だと思いませんか?」
開口部に佇んで、医務室内のドタバタを静観していた少女が冷ややかに口を開いた。
冷や汗まみれのひとみは言い返す気力も無かった。
【レス終了時の時間軸はよねさんと御前等さんがライブラリに侵入してバトルをおっぱじめた頃です】
【天野さんこの後合流しますか?】
【生天目さん、レス内での疑問『スタンドの重ねがけ』に関しては結論を言っちゃうとNOですw】
【吉野さん傍観者にしちゃってごめんなさいw】
229
:
117 :生天目
◆gX9qkq7FNo
:2010/12/01(水) 13:00:48
生天目の攻撃によって下半身だけなったザ・ファンタジアは煙になって消失した。
「あれ?消えちゃった」
>「治せるからって救急箱扱いは止めてよね。治療だって疲れるのよ。」
>「まったくもう…急用でイタリアに帰ったどっかの馬鹿みたいに全力で負傷するのは止めなさいよね…」
「ごめんね。でもこれも、ひとみんを信頼してるから出来ることなの。
回復役が死んじゃったらゲームオーバーだし、私みたいなスタンド使いでも盾くらいにはなれるよ。
時間稼ぎでもしたら、ひとみんがなんとかしてくれるって瞬間的に思いついたんだよ。
…少しでもこの劣勢を押し戻さなきゃ私に明日のポッキーはないもん。
…うん。縫うのは出血しないくらいでいい。血の足跡とか残らないくらいでいいから、早くここから出て本体を探そう」
傷口の縫合が終わり、消火器を跨いで、倒れているドアの方向に生天目が一歩足を踏み出すと―
>『―――♪呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜〜ン♪なんてね♪
お呼びでない?お呼びでない?コリャマッタ失礼シマシタぁ〜〜〜っ♪……キャラが違うって?
ジャパーンの古典アニメもグッだよね♪アニメじゃないのも混じってるけど♪
ぎゃはははっ!びっくりした?僕は霧だから不死身なんだよ〜ん♪』
電子音と共に再び出現するザ・ファンタジア。驚いて振り返った生天目は思わず言葉を返す。
「あなたが不死身なのは知ってる!!あなたのことは頭の悪い私でも理解できてきたわ!!ついでに分からない事もね!
あなたの本体ってどうやって私たちを見つけているの!?私のスタンドみたいに自動操縦に切り替えたり出来るってこと!?
基本的に私のスタンドには自我があるけど、遠く離れたときには一つの命令でしか動けない。
例えたら、お菓子を買ってくるとか単純な行動しかできなくなるの!途中に一億円が落ちてたってステポニは拾わないわ。
つまり、あなたにもなにか仕掛けがあるんじゃない?無敵能力と引き換えの制約みたいなものがね。
まーその秘密はこの生天目有葵さまが、きぐるみのチャックを開くみたいに暴いてみせるけど!!」
ネズミはその言葉を無視して白い顔面ににこやかな笑みを浮かべると
佐藤ひとみの両肩を、どす黒い掌で握り締める。
>「じょッ冗談じゃないわ!!こんなクズネズミの仲間になるなんてッ!!
有葵!あんた、私が鬼になったら、何を置いても私の尻尾から切り落としてよォオォォォォォ!!!」
「やばっ!!」
後手にまわり佐藤を救出する時間はなかった。せまい医務室内に鬼が二匹になってしまっては圧倒的に不利な状況に陥る。
踵を返し逃げようとした生天目は頭に激痛を受けて「ぎゃ!」と一言発し医務室の床に転がる。
出口と思って慌てて飛び込んだのは姿見鏡。本物のドア付近にはそれを冷ややかに見つめている吉野きららがいる。
>「……ですが、それでは私が助からない。私は幸せになる為に貴女達を殺すのです。私まで死んでは、意味がない」
>「だから手を組みましょう。お互いが幸せになれる、素晴らしい提案だと思いませんか?」
「…いてて…冷静に話している場合じゃな…い…。逃げないとつかまるわ…。それはもうひとみんじゃなくって鬼婆…。
捕まったら貴女も鬼になるんだから。みんなが鬼になったらこのゲームは負けて終わりなのよ〜」
小さい鼻からポタポタと鼻血が垂れているのがわかる。割れた鏡を通して佐藤を見ると冷や汗まみれ。
ザ・ファンタジアの姿はないように見えた。
「…え?」
割れた鏡越しの情報に予想外の違和を感じた生天目は振り返り
尻尾がないか恐る恐る佐藤の後ろにまわり込んでみた。
「ふむぅ〜…」
机の箱ティッシュで鼻血をふきながら唸る生天目だった。
230
:
122 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/05(日) 01:27:28
背後からひとみの肩を掴んでいたネズミの姿が消えた――――
押し寄せる安堵と混乱に、ドッと冷や汗が吹き出す。ひとみは暫し茫然と立ちつくしていた。
手を広げて掌に目を落とす。
極度の緊張によって汗ばんだ掌は、血の気を失って真っ白だ。
―――ひとみはホールの光景を思い起こした。鬼になった御前等祐介の掌は黒く変色していた。
自分は"鬼"になったのか否か……?自覚症状はない……肉体的にも精神的にも変化は感じられない。
……しかし何故ネズミは目的を達せずに、忽然と消えたのか――――?
>「と言うより、組まざるを得ないと言うのが正しい所ですかね」
戸口に立つ少女が、畳み掛けるように『提案』を持ちかける。
>「で、どうしますか?答え、急いだ方がいいと思いますけど」
嘲笑を潜めたイケ好かない物言いが、ひとみの神経を酷く逆撫でした。
込み上げる怒りが意識を現実に引き戻し、少女への敵愾心が却ってひとみに冷静さを取り戻させた。
ひとみは溜め込んでいた呼気を吐き出してから、静かに口を開いた。
「私を殺すためにストーキングしてた…なんて言う、頭のおかしい女と手を組むなんて虫唾が走るッッ!
…と言いたい所だけど……いいわ……。
こんな外部と隔絶された場所で揉めたって得な事は一つも無い。
ゲーム参加者同士での内輪揉めなんて、それこそ悪趣味なネズミの喜びそうなことだわ。
共通の敵である糞ネズミを倒して外に出るまで、一時手を組みましょう。臨時の対ネズミ協定ってとこね。」
少女への返答は『限定的YES』。
彼女に向けていた視線を逸らし、ひとみは背後を振り返った。
そこには白い壁があるばかりで『あのネズミ』がいた痕跡は何も残っていない。
「それにしても、『あのネズミ』は何で急に消えたのかしら?
あとコンマ0.何秒か待てば、私を"鬼"に出来たのに……少なくとも原因は、ここにいる私達じゃないわよね?
私の攻撃は全く効いていなかったし、あんた達が何かした訳でもなさそうね…?」
有葵と戸口の少女、交互に視線を向けて確認を取る。
「ネズミが消えた原因を探るとして、まず考えるべきなのは、私達以外の参加者の行動ね。
ゲームのフィールドである『場』が消えてないところを見ると、誰かが本体を見つけて倒した訳ではない。
でも何か…ネズミの弱点…とか、『場』を持続させる為の秘密とか…
私達以外の誰かが、その類のものを発見して何かしたのかも……?
あくまで一つの可能性にしか過ぎないけど、合流して確認を取る方がよさそうね。」
231
:
123 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/05(日) 01:27:57
ひとみの手の下に淡く光るスタンドシートが出現した。
4層に分離したシートには各階の見取り図と、数個の光点が浮かび上がっている。
「鬼化した馬鹿は、まだ4階ライブラリにいる。よね君は3階…スポーツジムのロッカー付近ね。
よね君、あの馬鹿を上手く巻いて、下の階に脱出したのかしら?
天野って子は3階、調理室辺り。
さて…これからどうするか?選択肢は2つ。
ネズミ消失の謎解きを優先させるなら、よね君か天野って子と合流して話を聞く。
若しくは、リスク軽減を優先させるなら、あの馬鹿の尻尾の始末を先にやっておく手も……」
言葉尻を呟きに変え、頬に指を当ててちょっと考え込むひとみ。
今一度スタンドシートを覗き込む。
何かがおかしい―――シートを眺めているうちに、ようやく違和感の正体に思い至った。
自分達の現在地――医務室周辺の光点の数が足りない……
ひとみと有葵の二つだけで、少女の光点が表示されていないのだ。
特殊なフィールドである『場』によって、ひとみの探知能力は狂わされている。
存在を認識していない能力者を捕捉出来ない可能性はあるとしても、目の前にいる人間に反応が出ないなど考えられない。
「これ…どういうこと?あんたまさか……?」
医務室周辺を拡大したシートを少女に向け、ひとみは少女を問い詰めた。
【引き続き調整のため大きな動きなしです。スイマセン】
【天野さん合流したかったら、いつでも言ってくださいね】
232
:
124 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/05(日) 01:28:51
>116>123
(下の階から聞こえてたネズ…ザ・ファンタジアの声は消えたな…
じゃあ、階段を降りよう。慎重に)
そう念じながら、階段を一歩ずつ、慎重に静かに急いで降りていく天野
無事、二階まで降りることに成功した。そして合流するため、佐藤達を探し始める
【短くてすみません。合流して良いですか?】
233
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/12/08(水) 01:53:20
人が変わったように尊大なもの言いをするよねが床を溶かして階下に消えて、その後。
御前等は、ゆっくりと息をしながら事態の経過を見守っていた。張り詰めた精神と、スタンドパワーを使い過ぎた。
「なんだったんだあいつは……」
これまでのよねとはまるで違う、氷のようで鉄のようで、それでいて溢れる出る血液にも似た男だった。
こちらに対する攻撃意思がなかったのは僥倖と言う他ない。さしもの御前等とて、この状態で再戦は望めない。
――特に今は。御前等はかつてないほどに冷静で、明晰だった。黒の侵食は既に首から下を全て覆っている。
(逃げられたか)
またしても、取り逃がした。
図書館に降った火は既に鎮まり(スタンドを解除するだけだ)、御前等の周囲は水を打ったように静かだ。
実際のところ水ではなく火を打ち、ついでに言えば非を打ったわけだが、それはそれとしてとりあえずの決着は得た。
御前等の目的はよねの鬼化。それを成し得ていない以上、勝負に勝利したとは言うまい。
今すぐに追いすがることも可能ではあるが、流石に疲労が募り憚られた。
(やむを得まい、一旦ザ・ファンタジアと合流するか)
もたれかかっていた書庫から興味の引くタイトルを一冊抜き、小脇に抱えるようにして図書室を後にした。
ザ・ファンタジアには一階を隈なく探すよう申し付けてある。無論あの人を喰ったようなスタンドに従う義理はないが。
ともあれこのまま一人で彷徨くよりかは合理的だと判断して、御前等は階段を一段飛ばしで降りていく。
「おっ」
二階に降りようとしたところで、いた。御前等に先行するようにして階段を降りていくのはハンチング帽を被った少年だ。
気付かれないように気配を消し、慎重に足を降ろす。よねの件もあることだし、暫く泳がせて様子を見たほうが良いだろう。
(どこへ向かうつもりだ……?)
天野の後ろをそっとついていく。
【現在地:二階と三階とを繋ぐ階段。天野君を発見し気配を消して尾行】
234
:
127 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2010/12/12(日) 23:30:39
佐藤ひとみが『ザ・ファンタジア』に肩を掴まれた時、
吉野は沈黙と共に衣服のポケットに右手を潜り込ませていた。
布地の内に秘めているのは、比較的大きめの果物ナイフだ。
スタンド使いでも、胸を刺せば死ぬ。
首を切っても死ぬ。頭部を強打しても死ぬ。
吉野はもしも佐藤が鬼になってしまったら、その時は間髪入れず彼女を殺す気だった。
けれどもそれは未遂に終わる。
『ザ・ファンタジア』は一体どうした事か、
佐藤ひとみを鬼にする事なく消え去ったのだ。
ナイフを手放し右手をポケットから出して、吉野は小さく息を吐く。
そして改めて協力の是非を問い掛けた。
>「私を殺すためにストーキングしてた…なんて言う、頭のおかしい女と手を組むなんて虫唾が走るッッ!
…と言いたい所だけど……いいわ……。
こんな外部と隔絶された場所で揉めたって得な事は一つも無い。
ゲーム参加者同士での内輪揉めなんて、それこそ悪趣味なネズミの喜びそうなことだわ。
共通の敵である糞ネズミを倒して外に出るまで、一時手を組みましょう。臨時の対ネズミ協定ってとこね。」
「……貴女がそれを言いますか?まぁ、深くは言及しませんけど。どうぞよろしく」
佐藤の返答に吉野はもう一度、今度は嘲笑混じりの吐息を零した。
愛する者が自分の手に入らないのならばいっそ殺してしまおう。
そう考え、あまつさえ実行に移した女から、まさか頭がおかしいと謗られるとは思わなかったのだ。
だが佐藤の言う事は、彼女が言えた事ではないが――それでも正しかった。
幸せになる為に殺す。
誰かを不幸にすれば、相対的に自分は幸せになれる。
吉野きららが抱き締めていた信条は、致命的に壊滅的に破綻しているのだ。
それは彼女の現状を見れば明らかな事だ。
九頭龍一は殺し損ね、一度は手にした完成した能力も瓦解して。
躍起になって人殺しを繰り返している内に、訳の分からない男に絡まれ、顔面を殴られて。
そして今、九頭との戦いで『何かを得た者』を殺す事で
『何も得られなかった自分』を乗り越えようとした彼女は、
生死を分かつゲームへの参加を余儀なくされている。
彼女は段々と不幸に陥っていた。
そしてそれに気付いてしまったが故に、吉野きららはスタンド能力を失った。
スタンド能力は精神力の具現化した物だ。
幸せになりたいと願う精神に根差していた彼女の能力は、文字通り力の源泉を失ってしまった。
今や吉野は「ここでやめてしまっては何も残らない」と言う惰性の下で、動いている。
>「それにしても、『あのネズミ』は何で急に消えたのかしら?
あとコンマ0.何秒か待てば、私を"鬼"に出来たのに……少なくとも原因は、ここにいる私達じゃないわよね?
私の攻撃は全く効いていなかったし、あんた達が何かした訳でもなさそうね…?」
「そう、ですね……」
何も出来なかったのだとは言わない。
露呈するまでは敢えて明かす必要のない情報だ。
むしろ悟られてしまえば、役には立たず、
敵になっても怖くない存在だと盾にされてしまうかもしれない。
235
:
128 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2010/12/12(日) 23:31:04
>「ネズミが消えた原因を探るとして、まず考えるべきなのは、私達以外の参加者の行動ね。
ゲームのフィールドである『場』が消えてないところを見ると、誰かが本体を見つけて倒した訳ではない。
でも何か…ネズミの弱点…とか、『場』を持続させる為の秘密とか…
私達以外の誰かが、その類のものを発見して何かしたのかも……?
あくまで一つの可能性にしか過ぎないけど、合流して確認を取る方がよさそうね。」
「貴女のそのシート、過去の位置情報も分かるのですか?もしそうなら
さっきネズミが消えた時、他の参加者が何処にいたのか。分かるんじゃないでしょうか。
少なくともいざ合流した時「今から何分前、何をしていた?」と聞いても答えは得られないでしょう。
この状況でまともな時間間隔が保てるとは思えませんし、時計だってそうそう確認している余裕はない筈ですからね」
他の参加者達の現在位置を確認している佐藤に、吉野は問いと提案を投げかける。
佐藤の能力でそれが分からなければ、それは合流後に他の面々の曖昧な時間間隔に頼るしかない。
「知るべき情報は現在だけじゃなく、過去だと思いますわ」
だが、時間で言うのならまだ一分ほど前、『ネズミが消えた瞬間』に他の参加者は何処にいたのか。
その正確な情報が得られれば、それは現状に対する値千金の突破口に成り得る。
>「これ…どういうこと?あんたまさか……?」
けれども返って来たのは、吉野が求めた情報ではなかった。
佐藤が示す『これ』――即ちスタンドシートを、吉野は顔を上げて見下すように覗き込む。
恐らくは各階の見取り図と思しい映像に、幾つかの光点が点在している。
先ほどの口振りからして光点は生物や仲間の位置かと吉野は予想した。
しかし突き付けられたシートを見ると、光点が一つ足りない。
丁度自分が立っている位置にあるだろう点が、無いのだ。
そして、吉野は察した。
この点が示しているのは生物でも仲間でもなく――スタンド使いの反応なのだと。
「……お察しの通りですわ。私のスタンドは幸せになる為の物でしたから。
私、気付いてしまいまして。こんな事を続けても幸せになんかなれる筈がないと」
自嘲の笑みを零して、吉野は自白した。
「ですから私がスタンド能力を失ったのは、当然の事ですわ。……正確には、殆ど全てを」
言葉に伴って、彼女は右手を胸の高さに掲げた。
そして掌を上にして、伸ばした人差し指の先に小さな花の蕾を兆させて見せる。
236
:
129:吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2010/12/12(日) 23:31:28
「このちっぽけな蕾が、今の私のスタンド能力。そして未練ですわ。
咲く事がないと分かっていても尚、捨てられない。
捨ててしまえば、後には何も残らない、最後の未練」
己を嘲るような口調で、吉野は続けた。
「だから私は貴方達を殺さなきゃいけないんです。
勿論このゲームも生きて打破しなくては。なので暫くの間ですけど、仲良くしましょうか」
彼女の宣言は佐藤へ向けた物でありながら、一方で彼女が自分自身に言い聞かせているようでもあった。
「……ところで先ほどの選択肢ですけど、私は後者を推しますわ。
あの男を元に戻すと言う事は敵の数を減らし、こちらの数を増やす。
一つの行動で二つの利があるのですから」
明瞭で明快な理屈に従って、吉野は提案した。
そして佐藤に一つ、問いを放つ。
「……で、あの男は今何処にいるんですか?そのシートならすぐに分かるのでしょう?」
【知りたい情報→『ネズミが消えた時、他の参加者は何処にいたのか』
合流後聞きたい情報→『そこで何をしていたのか』
吉野の能力→蕾を咲かせるだけの能力。物体に咲かせる事でスタンドに対して影響力が付加出来る
佐藤に「天野を追跡中?」の御前等の位置を尋ねる】
237
:
130 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/12(日) 23:32:15
>>126
(どこにいるのかな…)
とりあえず二階に有る部屋を片っ端から探り、佐藤達と合流しようとしている天野
(ここじゃ無いみたいだ…)
御前等の尾行には気づいていないようである
「早く誰かと合流した方が良いよね…。イケなんとかさんとかザ・ファンタジアとかに見つかったらまずいし…」
独り言のように呟く天野
(ここはどうだ…? …違うみたい)
なかなか佐藤達の居る医務室にたどり着けない
「早く合流しないと…もしかしたら今も誰かに狙われてるかも知れないのに…」
念のために言っておくが、御前等の気配には気づいていない。ただの心配症である
(怖いな…急に襲われたらどうしよ…。僕って理系だから運動苦手なんだよな…)
などと心で思いながら二階を探索している天野
(念のために確認した方が良いかな…)
キョロキョロと辺りを見回す天野。かなり挙動不審だ
(後ろも確認した方が…いや、その瞬間襲われたら元も子もない…だったら!)
手に持っている水入りペットボトルに黒いハンカチを当てる…即席の鏡だ。それで後ろの様子を探る
(!! 池…谷さん!? ぜんぜん気づかなかった…)
ペットボトルで御前等を発見。内心驚いている
238
:
131 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/12(日) 23:32:35
(よし…逃げるが勝ちだ…!)
足に力を込め、走り出す天野。とにかく逃げることが優先らしい
240
:
134 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/13(月) 00:13:08
>「……お察しの通りですわ。私のスタンドは幸せになる為の物でしたから。
> 私、気付いてしまいまして。こんな事を続けても幸せになんかなれる筈がないと」
>「ですから私がスタンド能力を失ったのは、当然の事ですわ。……正確には、殆ど全てを」
スタンド能力を失った――――少女の告白を境に沈黙の間が場を支配した。
細い指の先に兆す小さな蕾を挟み、対峙する佐藤ひとみと吉野きらら。
ひとみは無言でスタンド探知センサーの感度を上げシートに目を落とした。
シート上の見取り図、丁度少女立つ戸口付近に、ぼんやりとした光点が現れた。
少女の言う通り彼女の能力は弱まっている。が、失っている訳ではない。
嘲りを込めた小さな吐息を漏らし、ひとみは口を開く。
「気分が下がってスタンド絶不調ってわけ?思い通りに行かないから?随分気紛れな能力ね。」
ひとみが少女と顔を突き合わせるのは二度目だ。初顔合わせは決戦の地となった廃校のグラウンド。
あの時、「九頭龍一を乗り越えることで『幸福』に至る」と宣言する少女に、ひとみは激しい嫌悪感を抱いた。
九頭は誰かの幸福の踏み台になるような安い男ではない。
が、少女が九頭を通じて幸福を得られると感じていることさえ許せなかった。
幸福なんて感覚の位相次第でどうにでも変わる下らないモノ。
そんなものに拘る女に、その無意味さを知らしめて叩きのめしてやりたい―――少女と敵対していた時の気持ちが蘇る。
少女は自ら求めるものの虚しさを知ったのか……いや、この女はそんなしおらしいタマではない。
事実彼女がひとみに向ける敵意は少しも和らいではいない。
「あんたが落ち込んで能力を失おうがどうしようが、そんなこと知ったことじゃないわ。
今問題なのはあんたが役に立つかどうか。
戦力として二軍以下なら多少損な役割でも引き受けてもらうわよ。」
ひとみは言葉を加え、一旦スタンドシートの映像を切った。
数秒後、再びシートに全階の見取り図が浮き上がる。
「ネズミが消えた瞬間の参加者の位置……確かに確認しておく方が良さそうね。
誰がどこで何をしていたか…参加者の行動を映像として見るのは無理だけど、
マーカーの位置だけならキャッシュが残っている数分前のものまでなら表示できるわ。」
ネズミ消失時の全員の位置を問う少女の提案は、中々的を射たものだ。
誰ともつるまず、たった一人で九頭に挑もうとした女の胆力と洞察力は馬鹿にできない。
姿を隠した敵相手のゲーム…"かくれんぼ"は言ってみれば知力勝負。
機転や推理力はスタンド能力に負けない有効な武器である。
騒々しいばかりの御前等、インテリの割に肝心なところが抜けているよねよりも、案外戦力になるやも知れない。
シートの光点がせわしなく動き始める。現在の情報ではない。数分前までマーカーの位置を巻き戻している。
光点がある位置に到達すると、ひとみは声を上げた。
「ここ…確か有葵が鏡に向かって走り始めた時よね!ネズミが消えた瞬間って……!」
光点は一度静止し、再び動き出した。ネズミ消失の数秒前から再生させているのだ。
「他の参加者の位置は……3F…天野って子は調理実習室でじっとしてる。
4Fは…丁度、馬鹿男がよね君に襲い掛かった?二人のマーカーがライブラリに入り込んで接触してるわ。」
その後、暫く接触と離脱を繰り返していた2つのマーカーだが、よねを現すマーカーが突然消失し3Fに現れる。
241
:
135 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/13(月) 00:13:33
シートを見つめ一通りマーカーの位置を確認した少女は、別の提案を持ちかけた。
すなわち、ひとみの持ちかけた選択肢…情報収集か、はたまたリスク潰しが先かの答えを。
>「……ところで先ほどの選択肢ですけど、私は後者を推しますわ。
>あの男を元に戻すと言う事は敵の数を減らし、こちらの数を増やす。
>一つの行動で二つの利があるのですから」
>「……で、あの男は今何処にいるんですか?そのシートならすぐに分かるのでしょう?」
少女は"リスク潰し"の選択を選んだ。ひとみも同意を示し、シートを現在の位置情報に切り替える。
御前等の現在地はエレベーター横の階段、3Fから2Fの間の踊り場付近。
少し距離を置いて御前等の前を移動するマーカーが一つ……天野だ。
二つのマーカーは一定の距離を開けたまま動いている。
御前等は天野を付けている……!
天野はエレベーター横の階段を下り2Fに至ると、廊下を真っ直ぐ進む。
天野のマーカーが廊下の途中にある音楽スタジオの扉付近で、突如移動のスピードを上げた。
御前等に付けられていることに気づいたらしい。
廊下は一本道。他に逃げ場は無い。天野は廊下の突き当たりから、そのままホールに入り込んだ。
「…天野君、あの馬鹿から逃げ切れるかしら。これ以上鬼が増えたらたまったもんじゃないわ。
ホールに行きましょう。遠回りになるけど、ホールなら1Fからでも入れる。
あの馬鹿に悟られずに近づくチャンスよ。」
ひとみはシートを指でなぞり西側の階段を下り、南ロビーからホールに至る順路を示した。
*************************************
――― 一方、よねの現在地、スポーツジムのロッカー
天井付近に渦巻く白い霧の渦が現れた。
渦は床上に降り立ち、数秒後には『あのネズミ』の姿が出来上がっていた。
よねのすぐ目の前、2m程離れた位置に立つ『あのネズミ』。
「あ〜〜♪メガネ君!♪やっぱりココにいたんだぁ〜♪
メ〜ガネ君♪あっそび〜ましょ〜♪』
いかにして知ったのだろう?ネズミは、よねの位置を特定してこの場に現れたのだ。
ネズミは真っ黒な掌を広げ、じりじりとよねに近づいてくる…!
ロッカー室の扉は全て霧の塊で鍵がかけられている。ひとみ達を医務室に閉じ込めた時のように。
よねは正にロッカー室の中で"袋のネズミ"となっている。
【天野さんが逃げ込んだのはホールの2Fとしていますがいいでしょうか?(ホールの温度低下はもう解除してます…よねw)】
【吉野さん、生天目さんに御前等さん&天野ッチを追いかけてホールに行かないかと提案】
【御前等さん、1ターンほど天野さんを追いかけてくれるとうれしいな】
【黒化よねさんの前にネズミさんが現れました。タッチして鬼化しようとしています】
242
:
136 :御前等祐介 ◇Gm4fd8gwE.
:2010/12/13(月) 20:13:59
(気付かれた……!)
天野がなにやらペットボトルを眺めたかと思うと、弾かれるように走りだした。
場所は二階に降りて少し歩いたところであり、一本道の廊下を奥へ奥へと駆けていく。突き当たり、角を曲がる。
気付かれた以上なりふり構えない御前等もそれを追い、トラップの存在だけには警戒しながら進み、角に差し掛かった。
(待ち伏せがあるならここだな)
手鏡を持ち合わせていなかったので携帯をアンバーワールドに持たせカメラの自分撮り機能で角の先を写す。
誰も写っていなかった。ままよとばかりに角を曲がれば、鉄扉がついさっき開かれた痕跡として揺れているところだった。
記憶を辿る。
(この先は――佐藤さんのシートによれば、『ホール』。鬼ごっこのスタート時に俺達が集められた場所)
正確にはその『二階席』に通じる扉だ。すり鉢型の演場は4階までの吹き抜けであり、二階は報道カメラも入る指定席。
扉を開ければ、並んだイスと手すりの向こうにホールの一階が一望できるはずだ。
(厄介なところに逃げこまれたな……やむを得ん、佐藤さん達に合流されても面倒だ、ここで仕留める!)
アンバーワールドに扉を押してもらい、慎重に中の様子を伺いながら身体を入れる。
天野のあの慌てようなら、この短時間で即座に効果的な罠を作成している公算は低い。
ましてやこちらは機構を支配できる能力者だ。ギミックが基本のブービートラップ程度なら、解除しつつ進める。
(どこだ……視界から外したのは不覚だったな、曲がり角、扉と経由されてはどのタイミングからでも姿を隠せる)
具体的には御前等は、天野がホールに入ってどう行動したのか何一つとして知りえない。
足跡でも残っているなら別だがここは屋内であり、リノリウムにそこまでの擦過性は期待できない。
すなわち、御前等には天野が扉を通って『どっちに向かったか』すら把握していないのだった。
(この状態はマズい。いつ不意打ちを喰らってもおかしくないッ!)
壁に背をつけながら、御前等はゆっくりと二階席の探索を始めた。
【天野くんをロスト。二階席を虱潰しに探し始める】
243
:
138 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/12/13(月) 20:14:38
>「…天野君、あの馬鹿から逃げ切れるかしら。これ以上鬼が増えたらたまったもんじゃないわ。
ホールに行きましょう。遠回りになるけど、ホールなら1Fからでも入れる。
あの馬鹿に悟られずに近づくチャンスよ。」
「わかったわ。じゃあヒトエモン。透明シート出して。あと鬼に3メートルまで近づくと音楽がなるんだよね?
それはステポニがノイズキャンセラでどうにかする。それといい作戦とかあったら教えて」
そう言い残し、助言を胸に秘めながら生天目はホールに消えた。
【奇襲作戦はじめました】
245
:
167 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2010/12/15(水) 00:37:28
佐藤の皮肉に、吉野は何一つ反駁しなかった。
彼女にとって幸せになる事は、人生を貫く命題だった。
だと言うのに自分は、それとは真逆の方向に突き進んでいたのだ。
彼女の精神力は荒廃し、衰退しきっている。
今の彼女を動かしているのは、後戻り出来ない程に誤ってしまったのなら、いっそ最後貫いてしまおうと。
要するに捨て鉢な感情だけだった。
>「…天野君、あの馬鹿から逃げ切れるかしら。これ以上鬼が増えたらたまったもんじゃないわ。
ホールに行きましょう。遠回りになるけど、ホールなら1Fからでも入れる。
あの馬鹿に悟られずに近づくチャンスよ。」
佐藤の提案に異論はない。
吉野は無言のままに頷いて、移動を開始する。
>「わかったわ。じゃあヒトエモン。透明シート出して。あと鬼に3メートルまで近づくと音楽がなるんだよね?
それはステポニがノイズキャンセラでどうにかする。それといい作戦とかあったら教えて」
「……透明シート、あるんですか?あの子行っちゃいましたけど」
言葉を交わす暇もなく、生天目はホールに飛び込んだ。
彼女の背中を細めた双眸で見送りながら、吉野は呟く。
「まあ、無かったら無かったで悪くないと思いますけどね。三人纏まって動く必要はありませんから。
誰か一人があの男の背後を取れば良い訳で。貴女の触手なら姿を晒さずに捕縛が出来るでしょう」
一旦言葉を切り、吉野は開かれた扉の奥に広がるホールを一望した。
規則正しく並んだ椅子がずらりと広がっている。
「あの椅子の下、触手を通せばあの男にはさっぱり見えないんじゃないですか?
万が一ネズミが出ても、ここなら逃げ道を塞がれる事は無いでしょう。
散り散りになった時の集合場所は、決めておいても損はないと思いますけどね」
ともあれ、彼女は「と言う訳で」と言葉を繋いだ。
ポケットからナイフを取り出し、右腕をだらりと下ろして、彼女は言う。
「行ってきますわ。出来れば私やあの子がやられる前に、事を済ませて下さいな」
錆びたような笑みを零して、吉野はホールへと向かう。
自分と生天目が注意を引き、その隙に隠密行動が可能な佐藤が御前等の尻尾を切る。
作戦としては筋が通っている。
だがその裏には、いっそここで死んでしまえれば、
自分の体に満ちて精神を蝕む失意から逃れられる。
楽になれると言う、無自覚の願望が潜んでいた。
そして吉野はホール一階の中心に姿を晒した。
ナイフを微かに揺らして、その存在を強調する。
スタンドの拳に殴られるよりも確実な死をもたらすそれを見せる事で、警戒心を煽るのだ。
無論、今の吉野に二階にいる御前等にナイフを届かせる術はない。
それでもブラフ程度にはなるだろう。
それにもしも一方的な攻撃に撃ち抜かれたのなら、それはそれで吉野にとっては救済だ。
【吉野は佐藤さんの透明化能力を知りません。
姿を晒して囮モード】
247
:
168 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/16(木) 00:55:50
(危なかった…!)
何とか御前等を一時的にまいた天野
(恐らくあの人の性格上、僕の逃げ込んだホールを虱潰しに探すはずだから、
見つかるのは時間の問題だな…)
天野は走って上がっていた息を整えていた
(性格…といえば。あの人、初めて会った時はお調子者で頭で考えるより先に体が動く…って印象だったけど
今のあの人は何だか雰囲気が違った…。会ったときのあの人なら、僕を見つけるや否や襲い掛かってきてもおかしくない…何でだろう…)
息を整えながら考えていた。御前等の印象について。
(まあ、今はそれよりも…)
ふぅ、と小さくため息をつき
(如何にしてこの状況を打破するか、だな…
あの人のスタンド能力はまだ分かってないけど、こちらの能力も割れてないはず
でも最初のときに気づかれた可能性もあるな…。そうでなくとも、今の池谷さんがそれを思い出したら…
それを防ぐためにも、先手必勝だ…ただいまの室温、28℃、湿度60%。気温上昇開始…35、40、50、60…湿度上昇、65%、70%、80%…)
フリーシーズンで室温と湿度をどんどん上げる天野。もちろん、自分の周りを冷たい空気で覆うのも忘れない。そうして、蒸し暑い空間を作り上げようとする
【フリーシーズンで気温と湿度を上昇中。そのうちサウナになります】
248
:
182 :御前等祐介 ◇Gm4fd8gwE.
:2010/12/16(木) 00:56:35
「暑いな……さっきまでこのホールは不自然に寒かったはずだが。誰かの"能力"か」
御前等は再び吹き出した汗をバンダナで拭いつつ林立するイスの群れに埋めていた顔を出した。
ポーチからセロハンテープを取り出し適当な長さで切る。吹流しのように空中をヒラヒラやるとひとりでに渦を巻いた。
セロハンは湿気に反応して収縮する性質を持つ。すなわち巻き具合を見れば大まかな湿度は観測できるのである。
(やはり湿度が高くなってきている……この急激な温度上昇といい、あからさまに不自然。蒸し焼きにでもする気か?)
能力の詳細はわからないが、とにかく寒暖や湿度を上下させる能力なのだろう。
あるいは、"水"を操る能力なのかもしれない。水分子を高速で振るわせれば電子レンジの要領で高温の水蒸気になる。温度下降は気化熱で説明がつく。
(天野くんの能力か……?このホールに『他に誰もいなければ』――消去法でそういうことになる)
そう思考した刹那、中断された。
視界の端――すり鉢状のホールの最底辺、一階の中心部に人影が現れたのだ。
天野かと思えば否。御前等は温度と湿度のあまり蜃気楼でも見たかと我が目を疑った。そこに居たのは居るはずのない――吉野きらら。
(何故あの女がここへ……?幻覚か?でなければこうも都合良く俺の知り合いが不自然に現れるものか!)
咄嗟に身を伏せたがこちらに気付いたのだろう、遠くの吉野は御前等の居る場所から視線を外さなかった。
挑発するように――だらりと下げた右手に光るのは小さなポケットナイフ。
(何故スタンドを使わない……?"あんなもの"が、俺に対する牽制になると思っているのか?)
殺傷力の観点で言えばナイフに分はあれど、やはり対スタンド戦においてリーチの短い刃物は後手に回る。
御前等にはその10倍、攻撃を届かせる距離を保てるし、彼女のナイフにスタンドエネルギーがない以上、アンバーワールドを傷つけることもできない。
(あるいは、"誘い"……か。いずれにせよ、ここで立ち往生するのは奴の目論見通りだ)
御前等は判断した。遠くから距離を保てば吉野は眼中から外して良し。ただし、完全なるイレギュラーである彼女を放置はしておけない。
天野が逃げたにせよ、御前等の入ってきた入り口はアンバーワールドで施錠してある。となれば他に逃げ場は対岸のもう一つの出入り口しかない。
だがその先は――楽屋。すなわち袋小路だ。天野が本気でこちらを迎撃に来ない限り、余裕を持って対処できる。
事態は詰み将棋に似てきていた。相手の有利をこちらの有利で阻み、塞ぎ、叩き潰す。外堀から順に埋立ていく作業。
(先に不確定要素を潰すか)
御前等は立ち上がり、スタンドを利用して跳躍する。大きく弧を描いた幅跳びは、着地点を二階席の手摺に定めた。
ほんの10センチほどしかない、虚空と席とを分ける手摺。足を滑らせれば間違いなく一階まで真っ逆さまの致命点へ、御前等は猫のように静かに立った。
アメリカねずみに与えられた黒の尻尾を器用に使ってバランスをとり、ホールの中央にいる吉野を見下ろす形で――対峙した。
「久し振りだな吉野さん。何故君がここに"居る"かは興味ないが――何故ここに"来た"かは目下知りたいところだ。答えてもらおう」
アンバーワールドの歯車を展開しながら、いつでも射出できる体勢で、御前等は問うた。
【逃げ場を塞いだことで安心し天野君を後回しに。目下不確定要素の吉野ちゃんに尋問】
249
:
6 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/22(水) 03:41:13
【1Fホワイエ、ホール入口】
>「行ってきますわ。出来れば私やあの子がやられる前に、事を済ませて下さいな」
鉄砲玉の有葵に続いて、花使いの少女もホールの扉をくぐった。
二人の背中を見送り、ひとみも僅かに開いた扉の隙間からホールの中に身体を滑り込ませる。
舞台だけがスポットライトに照らされている。客席は薄暗い。
ホールの中は不自然に蒸し暑かった。
にわか雨が降った直後の真夏の路上のような不快な湿気が肌に纏わりつく。
差し当たっての仕事は、ホールに飛び込んでいった有葵に事情を伝えて誤解を解くことだ。
インビジブルはスタンドと共に本体を透明化する能力。
ひとみ以外の人間に光学迷彩を施すには、フルムーンの作る触手製皮膜の内側に居なければならない。
皮膜をフルムーンから切り離してしまうと透明化の機能は失われる。
フルムーンと行動を共にしなければ透明化の恩恵は受けられないのだ。
薄闇に満たされた客席、壁際は一層暗く、そこに誰かが居ても目を凝らさねば視認できないほどだ。
壁際の闇に潜み、ひとみはスタンドシートを出し、有葵の位置を捕捉する。
有葵は舞台に近い座席の影に隠れていた。人並みに警戒心はあるらしい。
ひとみは触手を床に這わせ、有葵の足首に巻きつけた。
ディープダイブ(精神干渉)を開始し、有葵の精神に呼びかける。
『言っておくけど"透明シート"なんて都合のいいもの無いわよ!
透明化するにはフルムーンと繋がってなきゃならないの!
ステレオポニーを透明化してあの馬鹿を奇襲する気かもしれないけど、
私のフルムーンでは、ステポニのスピードについていけないわ。その作戦は却下!
あんたのスタンドなら透明にならなくてもスピードで翻弄できるでしょ?!
私がアイツの体を拘束する!それまであの女と一緒に時間を稼いで!』
精神干渉の続く10秒を限界まで使い、早口で用件だけを捲くし立て、有葵の足首に巻いた触手を解く。
その後、二階席の手摺に巻き付けていた触手に掴まり、ワイヤーを巻き取る要領で触手を縮め二階席の通路に上がった。
ひとみの位置から離れてはいるが、通路には先客がいる。
人を襲う鬼と化した御前等だ。
幸い御前等は、一階座席中央に現れた少女―――吉野きららに気を取られている。
二階席の手摺に立ち一階を見下ろす御前等。見上げる少女。視線を交わす両者。
ひとみは姿勢を低くし闇に紛れて通路を移動する。
二階に上がるに当たり選んだのは、御前等の後ろを通らずとも目的の場所に至れる位置。
このまま少女と有葵が陽動を続けていてくれれば、御前等に気づかれることは無いだろう。
向かう先は通路の奥に位置する楽屋……そこに天野が身を隠している。
250
:
7 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/22(水) 03:41:41
【現在地:楽屋3】
二階席を抜け楽屋廊下に至ると、ひとみは再びスタンドシートを出して目標物の位置を捕捉した。
廊下の突き当たり、一番奥の部屋に天野がいる。
フルムーンの触手で鍵をこじ開け、ドアを開く。ひとみは一見誰もいない楽屋に向かって語りかけた。
「天野君…いるんでしょ?さっさと出て来なさいよ。言っておくけど私は鬼じゃないわよ。」
隠れ場所からおずおずと顔を出す天野。ひとみは両の掌を広げ天野に向けた。
肌色のままの掌は『鬼』でないことの証明。
「この蒸し暑さ……あんたの能力ね?」
能力を推理して天野に問う。
スタンドシートはホール全体のサーモグラフィーに切り替えている。
ホールの空調が故障しているわけではない。エアコンの吹き出し口からは冷気が出ている。
しかし、その効果も及ばぬ速度で上昇する気温と湿度。何らかの"能力"を使ったと考える方が自然だ。
「鬼になったあの馬鹿はまだホールにいるわ。さっさとアイツの処理をしてゲームを進めましょう。
…その雲みたいなスタンド…それで気温や湿度を操れるのね?
君にも力を貸してもらうわよ。」
天野の後ろに現れた白い雲のようなスタンドを指差し、協力を迫る。
「ところで、天野君。その雲のスタンドでミニチュアの積乱雲を作れる?」
ひとみは尋ねる。
天野の能力が気温と湿度の操作と仮定して……
気温を局地的に変化させられるならば、空気の温度差による対流で気流を起こすことも可能な筈だ。
雲は上昇気流に乗った湿度の高い空気が、上空の冷たい空気に触れて、水蒸気が凝結または固化することで形成される。
蒸し暑いホールの天井付近だけを冷気で満たしておけば、
気流と湿度の操作で小型の雲を作ることが出来るのでは…と踏んでの問いかけだ。
「これから、ホールの座席下にスタンドの触手を張り巡らせて罠を張るわ。
この罠はあの男が、ホール1階の床に足を付けなれば発動できない。
あの馬鹿…人間離れした動きでホール中を飛び回って、ウザったいったら!
それに、私のスタンドのパワーはあの男よりずっと下。
例え上手く捕えたとしても、普通の状態では直ぐに触手を引き千切られてしまう。
相応のダメージを与えなければ確実に捕獲出来ない。
そこで…君の力を借りたいのよ。
積乱雲は成長を終えると、強烈な下降気流を発生させる。
いわゆる『ダウンバースト(下降噴流)』…!上から下に叩きつける突風よ。
アイツが飛び上がった拍子にダウンバーストを起こして床に叩きつけて欲しいのよ。
その機を狙って、私が罠を作動させてアイツを捕獲するわ。
雲の成長に多少時間が必要なら、時間稼ぎ要員(吉野&有葵)に頑張ってもらうわ。
どうこの作戦…?君のスタンドで雲が作れなければ別の方法を考えるしかないわね。」
【吉野さん、有葵ちゃんに御前等陽動作戦を丸投げ】
【天野さん結構限定的に動かしちゃってごめんなさい。
位置は、一番奥の楽屋(楽屋3)としてしまいましたがいいでしょうか?】
【楽屋3で天野っちと合流。ダウンバースト作戦を話す(作戦の意味が分かりづらかったら避難所で質問ください)】
251
:
8 :生天目
:2010/12/22(水) 03:42:09
>『言っておくけど"透明シート"なんて都合のいいもの無いわよ!
透明化するにはフルムーンと繋がってなきゃならないの!
ステレオポニーを透明化してあの馬鹿を奇襲する気かもしれないけど、
私のフルムーンでは、ステポニのスピードについていけないわ。その作戦は却下!
あんたのスタンドなら透明にならなくてもスピードで翻弄できるでしょ?!
私がアイツの体を拘束する!それまであの女と一緒に時間を稼いで!』
「……」足首から伝わってくる情報に、生天目の顔は薄闇の中で真っ赤になっていた。
無知である自分への恥かしさとホール内の蒸し暑さが頭のなかでバタフライをしていた。
だが今は、兎にも角にも陽動作戦を成功させなくてはならない。
唾を一つ飲み込んだあと意を決して、座席の影から頭を出してみるとホール中央には吉野きらら。
一見無謀にも見える吉野の行動だったが理にかなっている。少女の存在は御前等に何かしらの疑問を与え、
作戦上、最悪の展開とも言えるが吉野を鬼に変えるための3秒は御前等の隙を生む。
「でも…感情を殺さなくっちゃあんなことできない…すごい女…」
少し生天目の体は震えた。すでに吉野の視線の先には御前等。
「私って今まで自分のことしか考えていなかったけどがんばろ…」
ステレオポニーはスポットライトまで飛んで行くと御前等の顔面を照らす。
「まぶしいでしょ?」
生天目は知っている。御前等のスタンド能力の片鱗を。廃校でみたジャングルジムを。
(今つっこむのって危ないわよね。ひとみんもまだ動いてないみたいだし…。
陽動っていうか時間稼ぎって言うか、ホールの女がぐっちゃりやられそうになったら…
そのときはいかせてもらうけど…)
【御前等さんの顔にスポットライトを浴びせました】
252
:
9 :吉野 ◇H7TeP6yEkU
:2010/12/22(水) 03:42:44
何故だか、ホールは蒸し暑かった。
熱気と多湿が肌にじんわりと汗を滲ませる。
上昇し続ける室温はやがて、五感や思考にさえも靄を掛けるだろう。
そうなれば不利になるのは吉野の方だ。思考がなくても力は振るえる。
だが彼女には振るうべき力が無いのだから。
しかしながら一方で、吉野の目的は時間を稼ぐ事でもある。
矛盾だ。だがこの矛盾は容易に解消出来る。
吉野がどちらか一方を諦めてしまえば、それでいいのだ。
そして彼女は既に、諦めている。
無意識の内にではあるが、彼女は自ら進んで死に歩み寄っているのだ。
幸せになれない、やり直しのきかない、失意に苛まされるばかりの生など終わってしまえばいいのにと。
>「久し振りだな吉野さん。何故君がここに"居る"かは興味ないが――何故ここに"来た"かは目下知りたいところだ。答えてもらおう」
見下し、スタンドの両腕を突き付けて、高圧的に御前等が問うた。
対して吉野は、嘲りの笑みを浮かべる。矛先の定まらない、自嘲にも見える笑みを。
「……さあ、何故でしょうね。ほんの少し前なら、幸せになる為と答えていたのですけれど」
要領を得ない答えだ。時間稼ぎの目的に適った回答。
けれども吉野は本当に、自分が何故ここにいるのか明確な答えを出せないでいた。
ここにいる限り、スタンド使いである限り、生きている限り、幸せにはなれないと言うのに。
彼女は今、目先の目的と上辺だけの意識で動いている。
極論、この市民会館から生きて出られたとしても、彼女は幸せになれはしない。
それでも心の表層でなんとなく、死ぬのは不幸な事だと思っているから、
彼女は薄弱な意志で御前等と対峙しているのだ。
>「まぶしいでしょ?」
不意に、御前等の顔に眩い光が浴びせられた。
生天目が操作したスポットライトだ。
直後、吉野はナイフにスタンドの蕾を付加する。
そして振り被り、御前等目掛け投擲した。
蕾自体には何の効果もないが、それでもスタンドに対する影響力は与えられる。
これは牽制であり、攻撃だ。
御前等が油断し生半可な防御をすれば、ナイフは彼のスタンドを傷付けるだろう。
そうでなくとも、吉野に彼を殺傷する術があると知らしめる事が出来る。
【スポットライトに合わせてナイフを一本投擲。
蕾付きナイフは、ピストルズの乗った弾丸がスタンドに効くってのと同じ感じで】
253
:
10 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/22(水) 23:18:13
>7
>「天野君…いるんでしょ?さっさと出て来なさいよ。言っておくけど私は鬼じゃないわよ。」
(佐藤さんの声…? 大丈夫かな、出てっても…)
一瞬小さな疑念を抱いた天野だったが、それは一瞬で消える。何故なら佐藤が自分の掌を見せたから。彼女の掌は肌色。つまりそういうことだ
「はい…」
静かに隠れていた場所からでる天野
>「この蒸し暑さ……あんたの能力ね?」
>「鬼になったあの馬鹿はまだホールにいるわ。さっさとアイツの処理をしてゲームを進めましょう。
…その雲みたいなスタンド…それで気温や湿度を操れるのね?
君にも力を貸してもらうわよ。」
「はい。その通りです。正確には気温、湿度に加えて気流も操れますけど…。僕で良いのでしたら…」
やや恐縮気味に答える天野。少し人見知りが激しいようだ
>「ところで、天野君。その雲のスタンドでミニチュアの積乱雲を作れる?」
「はい…。作れますよ。気温、湿度、気流を上手く操作すればどんな雲でも大体作れます…」
>「これから、ホールの座席下にスタンドの触手を張り巡らせて罠を張るわ。
この罠はあの男が、ホール1階の床に足を付けなれば発動できない。
あの馬鹿…人間離れした動きでホール中を飛び回って、ウザったいったら!
それに、私のスタンドのパワーはあの男よりずっと下。
例え上手く捕えたとしても、普通の状態では直ぐに触手を引き千切られてしまう。
相応のダメージを与えなければ確実に捕獲出来ない。
そこで…君の力を借りたいのよ。
積乱雲は成長を終えると、強烈な下降気流を発生させる。
いわゆる『ダウンバースト(下降噴流)』…!上から下に叩きつける突風よ。
アイツが飛び上がった拍子にダウンバーストを起こして床に叩きつけて欲しいのよ。
その機を狙って、私が罠を作動させてアイツを捕獲するわ。
雲の成長に多少時間が必要なら、時間稼ぎ要員(吉野&有葵)に頑張ってもらうわ。
どうこの作戦…?君のスタンドで雲が作れなければ別の方法を考えるしかないわね。」
「なるほど。ダウンバーストですね。了解しました。…ところで佐藤さん。この暑さで貴方の集中力が切れて反応が遅れたら元も子もありませんから…」
そういって天野は自分の周りもそうしているように、佐藤の周りの気温も下げ始める
「これくらいかな? たぶんこれで熱中症の心配は無いと思います。では、作戦に移りますね。『フリーシーズン』!
ただいまの上空の室温100℃、気温低下開始、95℃、90℃、80℃、70℃、60℃、50℃…」
天井付近の温度をどんどん下げてゆく天野。多少の時間はかかるが、まあまあ上手くいきそうだ
【佐藤さんのダウンバースト作戦開始】
254
:
19 :御前等 ◇Gm4fd8gwE.
:2010/12/24(金) 22:56:02
>「……さあ、何故でしょうね。ほんの少し前なら、幸せになる為と答えていたのですけれど」
御前等が放った上からの問いに、吉野の答えは返答ではなかった。
質問を質問で返す女。テストを白紙で提出する愚行。あるいは、胸の深淵への自問自答か。
「ふん。らしくないじゃないか、吉野さん。俺の知っている君は、もっと歪みなく濁った目をしていた。
目的のためなら手段を選ばず、他者の命すら平気で糧とする生き意地の汚さは、しかし美しくもあったものだ」
俺は君のそういうところに惹かれたのだがな。と御前等は補足。
御前等の目には、今の吉野の姿は、萎れた花に等しく魅力を削いだものに映った。
この女は今、命に執着していない。幸福に執着していない。目的に執着していない。全てを唾棄してここにいる。
「……下らん。実に反吐の出る話だ。かくも人とはこの短期間でこうも劣化できるものなのか?
短期間でこうも、己の進むべき道を――誤るのではなく、違えるのでもなく。見失うものなのか。その覇気のない顔をやめろ」
御前等は両腕を抱擁するように構え、歯車の群れを纏わせる。
一斉放射の前兆挙動。この距離で、この体勢で、この状況から叩き込めば、吉野はあと一瞬の命もないだろう。
「二度とそんなツラを俺に見せるな。それが無理なら――――ッ!?」
不意に、視界が削がれた。
それは光であり、同時に闇を孕む明星。指向性を持った極光は御前等の眼球を貫き、網膜をホワイトアウトさせる。
>「まぶしいでしょ?」
キャミソール女――――生天目の声。そのスタンドによるものか、"そこにいないはず"の女の声と、行動の結果が生じた。
舞台の強力なスポットライトがその性能を遺憾なく発揮し、御前等の視力を奪う。
(目眩ましか……!チィッ、天野くんと吉野さんを警戒しすぎた。あの女……やってくれる!)
回復しない視界の向こうで、吉野が手元から何かをこちらに向けて投げ放つのが見えた。
否、投げ放った後。目眩ましに乗じて放たれた"何か"が、投擲の速度でこちらへ飛来する。
眩んだ眼では捉えきれない。何が、どのように飛んできているのか把握できない。
255
:
20 :御前等 ◇Gm4fd8gwE.
:2010/12/24(金) 22:56:29
「アンバーワールド!俺を護れッ!」
スタンドの手のひらを前に出す。上半身をカバーするように、吉野と自己との遮蔽物とするように。
方向はわかっているのだから、吉野の位置から御前等に届かせるのに必ず描く軌道もまた把握できる。
そこにスタンドを置いておけば、吉野の投擲物が如何なるものであれ防げる。彼女のスタンドは近接型だ。スタンドによる飛び道具ではない。
だが。
吉野の投げた"何か"。――鼻先まで迫ってそれが先程のナイフだと気づいたが、そのナイフは。
『アンバーワールドを貫いて御前等に迫った。』通常の器物に対しては絶対の防御力を誇るはずのスタンドが、容易く射抜かれる。
「な、何ィーーーッ!?『蕾』だとッ!こんな方法で!」
ナイフの柄尻には吉野が扱うのと同じ『蕾』が芽吹いていた。
スタンドで構成されたそれは、器物にスタンドへの攻撃力を付与する効果があるのかアンバーワールドの手のひらを破壊してなお止まらない。
御前等は上体を逸らして距離をとるが、不安定な足場ではそれが精一杯。ナイフは刹那で彼我の距離を食い潰す。御前等の頭部へ迫る!
ザシュ、と小気味良い刺穿音。御前等の――顔の前に構えたハードカバーの本に刺さるナイフ。先程ライブラリから持ち出した本だった。
本を持つ手の甲が裂け、穴が開いて血が吹き出す。拳を握って無理やり止血した。
「驚いた。ヒトが微弱な精神エネルギーを常に体に帯びているのと同じように――ナイフにスタンドパワーを帯びさせたのか。
……なかなか面白い応用をするじゃないか。それだ、それでこそ俺の見初めた吉野さんだ。愉快な思いをさせて貰った礼に――」
本でスポットライトからの光に影を作り、数枚の歯車をライトへと射出した。
生天目が何の対策も講じなければスポットライトは破壊され、そこに居るスタンドにも傷が入るだろう。
御前等は残りの歯車を、吹き抜けのホールの虚空へぶちまけた。紙吹雪のようにゆっくりと降る歯車はやがて自由落下を超えた速度を得る。
「思い出をくれてやろう――冥土の土産というやつだ!」
さながら滝のごとく。吉野だけを狙う正確緻密なコントロールで、歯車の雨はホールの虚空を縦に貫く。
【吉野のナイフを被弾。致命傷は本で防ぐ。ヤバいと感じ歯車を飛ばしてステポニ&吉野ちゃんに攻撃】
257
:
21 :名無しになりきれ
:2010/12/25(土) 22:33:39
――3F スポーツジム ロッカー室
よねは"本来のよね"が持っていた"敵の情報"を必死に手繰り寄せていた。
本来のよねから乗っ取ったその体に今のよねは慣れていなかった。
元々、一つの人間であるが故に記憶や身体能力は共有している。
だが、脳―前頭葉や側頭葉―の使い方がまだいまいち把握できていないのだ。
そうしているうちに、今対峙している敵の情報を捉えた。
全てを把握すると、よねは気付いた。非常に危険な状態という事に。
(ネズミに追い詰められて袋のネズミ…皮肉か……折角手に入れたこの体、こんなくだらないことで手放せるか…ッ!)
それでもなおジリジリと近づいてくる霧の怪物。
この手に掴まれば全てが台無しだ。
「待てよ、待て。私と交渉しないか、聞こえてるでしょう。そのスタンドの本体。…エイドリアン、だったかな?
今、私は私がここに入ってきたときの米コウタではない。私は米コウタの深層心理の顕在。二重人格、とでも捉えてくれれば分かり良いでしょう。
そこで、です。私は提案します。他のスタンド使いは私が入れ替わった事に、おそらく気付いていません。
なにを言わんとしているかわかりますね?」
よねの提案はこうだ。
他のスタンド使い―佐藤ら―はよねが深層心理の顕在である"裏のよね"と入れ替わった事を知らないハズだ。
そこでよねが味方のふりをして佐藤らに近付き、佐藤らを油断させ、そこをエイドリアンと一網打尽にする。もちろん、御前等も。
その代わりに、エイドリアンはよねの安全を保障する――と、このような提案だ。
「もちろん、拒否して、私をあからさまに敵としてわかるようにし、力押しで彼女らを捕らえるのもアリでしょう。
ですが、私とて大人しく捕まりはしません。同じように彼女らも何らかの抵抗はするでしょう。
お互い、安全に事を進めるべきと思います。
私をこの"ゲーム"の参加者から除外する事で、確実に他のスタンド使いたちを始末できる。
そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが?」
よねも、提案が受け入れられなければ本格的に戦う。いざとなれば逃げる事も可能だ。
だが、提案を受け入れられなかった場合のリスクは高い。
よねとしては、なんとしても提案を受け入れさせたいところだった。
【交換条件:よねの身の安全と交換に佐藤らを捕まえるために協力するという提案をしました】
258
:
22 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2010/12/25(土) 22:35:44
がらんとした薄暗いホール。スポットライトを浴びた少年は少女の投擲したナイフによって拳を血で染めている。
生天目は座席の後ろに隠れながらそれらを見つめる一人の観客と化しており、自分も登場人物の一人なのだということさえ忘れていた。
すると…
(え!!?)
光の中心で御前等の影が動き無数の何かがステレオポニーに投擲される。
(もう避けきれナイ!!)
独語しスタンドはスポットライトの影に隠れた。矮躯な体ではあったが全身を隠すにはまだ不十分。
(でもコレなら)
ステレオポニーはスポットライトの頭、円柱のようになっているライト部分をスタンド能力を込めて蹴りあげ内部で「反響」をおこし飛んでくる歯車方向に向けて破片を炸裂させた。
これは戦車などに使われている爆発反応装甲の原理。装甲の間に爆発物を埋め込み被弾時に内部から爆発を起こして外部からの力を反発させ軽減する方法。
音波というスタンドエネルギーを帯びたスポットライトの破片は歯車たちを弾き飛ばしスタンドへの直撃を回避する。
「きゃあ!!」
とは言えダメージは0でもなく、スタンドをかすった歯車は生天目本体の左手に傷を残している。
(やばい!ちょうしいいこと考えてたけどなんかやばい!!あの歯車はやばすぎる!!)
左手の肘の上から流れる血が床を濡らす。
(ひとみんはまだなの!?それにあっついし!歯車はふわふわ飛んでるし!!)
生天目は急いでステレオポニーを本体のガードに回すと座席の死角に潜りこむ。
佐藤ひとみと天野の作戦は遂行中なのかも知れないが生天目の目線からではまだ確認できていない。
>「思い出をくれてやろう――冥土の土産というやつだ!」
吉野きららにむけ、歯車の雨が虚空から降り注いだ。
259
:
32 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2010/12/25(土) 22:36:19
【現在地 楽屋3 佐藤・天野】
>「なるほど。ダウンバーストですね。了解しました。
>…ところで佐藤さん。この暑さで貴方の集中力が切れて反応が遅れたら元も子もありませんから…」
周囲の空気から熱気が引いていくのを感じる。
スタンドシートのサーモグラフィーを見ると、ひとみの周囲は摂氏30度以下を示す緑色に変化していた。
ホール全体は未だ50度以上の高温域を示す明るい黄色が覆っているというのに……
天野の周りも、ひとみ同様の色を示している。
「なるほど…冷気のスーツってわけね。あと二人、これやってもらわなきゃならない人間がいるわ。
天野君、ホールに行きましょう。」
天野を促しホールへ向かう。楽屋廊下とホール二階を繋ぐ出入り口の前で、ひとみは足を止めた。
多少死角はあるが、出入り口の開口部から一階座席が俯瞰できる。
ホール内では以前、御前等と吉野きららが交戦中。
スタンドシートに吉野と有葵の現在地を表示し、天野に向かって語りかける。
「冷気で覆って欲しいのはこの二人。
それと…天野君、携帯出して。私の番号送るからずっと通話中にしておくのよ。
私はこれから一階に降りて罠を張る。君はここで雲を成長させていて。
ここならアイツ(御前等)の動きが見えるでしょう?
タイミングが合えばダウンバーストを起こしてアイツを床に叩きつけて!場合によっては私が合図を送るわ。」
天野への指示を残し、透明化した状態で浮遊するフルムーンの触手に掴まり、一階に身体を降ろした。
透明化したまま触手を急速に成長させることはできない。座席の影に身を隠すと、ひとみは迷彩を解き、
フルムーンから伸びる無数の触手を床に這わせ、ズラリと並ぶ座席下を通していく。
やがてホール全体の座席下に網の目のように張り巡らされた触手。
御前等を捕獲するための"罠"は完成した。あとは機を図るだけだ。
分離させたシートに浮かび上がるのは、ホールの縦断面の温度分布図。
4階まで吹き抜けになっているホールの天井は高い。
1、2階にいる者には体感できないが、天井付近の温度が急速に低下していく。温度は上空数十キロ圏内と同じ氷点下20度。
上下の気温差と天野の操作する気流に乗って湿度の高い空気が天井に向けて立ち昇る。
シートを室内の水分分布図に切り替える。
立ち昇った空気は天井付近の冷気に冷やされ、水蒸気が結露または直接氷に固化し雲が生まれる。
薄暗いホールの天井付近に生まれた雲。
視認は困難だが、スタンドシートには直径3mほどの積乱雲が水分子の塊として映し出されている。
積乱雲は上昇気流によって形成される。が、成長中、雲によって蓋をされた上昇気流は行き場を失い、
積乱雲の下は一時的に気圧が高くなり『メソ・ハイ』という局地的な高気圧が生まれる。
自然界では、雲の中で成長した雨や雹が落ちることで上昇気流が解消される。
ここでは天野が能力を以って上昇気流を停止させれば良い。
上昇気流の下支えを失ったメソハイが一気に崩れ突風(ダウンバースト)が発生するはず…!
「天野君、雲の成長は充分よ…!アイツの動向に注意して!」
携帯を片手に小声で天野に訴え、ひとみはただ、罠発動の機を待つ。
【ダウンバースト作戦準備完了】
【現在地 天野2F通路入口、佐藤1Fどっかの座席の影】
260
:
ザ・ファンタジア
◆tGLUbl280s
:2010/12/26(日) 02:35:10
【よね、ザ・ファンタジア 現在地:3Fスポーツジム ロッカー】
御前等との戦闘後、3階に逃れたよねを襲う白い霧のネズミ―――ザ・ファンタジア
出入り口の扉は、全て霧の鍵で塞いでいる。
余裕綽々のネズミは白い顔に邪な笑みを浮かべ、真っ黒な掌を突き出してよねに迫る。
>「待てよ、待て。私と交渉しないか、聞こえてるでしょう。そのスタンドの本体。…エイドリアン、だったかな?
>今、私は私がここに入ってきたときの米コウタではない。
>私は米コウタの深層心理の顕在。二重人格、とでも捉えてくれれば分かり良いでしょう。
突然の告白。ネズミは眼を丸くして立ち止まった。
ネズミはフンフン頷きながら、よねの話を大人しく聞いている――――が、表情に出さぬも内心はかなり呆れていた。
『私は以前の私とは別人格ですから、あなたの敵ではありません。協力しましょう』
こんな説得を受け入れて、攻撃を思い留まる御目出度い敵がどこの世界にいるだろうか?
このインテリ風メガネの青年が、その愚かさを認識していないはずはあるまいに…。
苦し紛れの命乞いとしか思えないタワゴトを口走るほど、精神的に追い詰められているのか?
(メガネ君にはガッカリだな〜♪もうちょっと気の利いた抵抗をして楽しませてくれると思ったんだがなあ〜♪)
そもそもザ・ファンタジアは、ゲームの参加者を"捕えて鬼化する"ことにそれ程執着してはいなかった。
霧のスタンドは『場』において無敵。さらに2時間経てば『場』は消失する。
タイムアップを待てば、何もしなくとも、自動的に参加者全員の命とディスクを奪うことが出来るのだ。
開放条件である『本体の発見』とて、現在のゲーム参加者に叶えられる筈がない…と絶対の自信を持っていた。
『場』に取り込んだ時点で、命はこちらが握っているようなものだ。
変則鬼ごっこは時間つぶしの為の慰み……
自らの手に命運を握られた囚われ人が、逃げ惑い恐怖に怯える様を楽しみたいが為、ゲームを持ちかけたに過ぎない。
そう……抵抗など不可能な、力の劣る小児を捕えて嬲り殺しにしていた時のように……。
(アレに感づかれたかと焦ったけど、ビビッて損したなー♪メガネ君のおつむも所詮この程度だったってコトか♪
なら折角だから利用させてもらおうっカナー♪)
ネズミは目を細め最上級の笑みを零してよねに語りかけた。ご丁寧に揉み手までしながら。
『わかったよ!メガネ君♪。君の中にいた、もう一人の君が目覚めたってことなんだね!裏人格♪!!
そういうことって往々にして在り得るよねぇ♪まったく在り得る話だよ!
君が味方の振りをして奴らをおびき寄せる作戦も、超グッドだよ♪グー♪
まさか中身が『裏人格』に入れ替わっていようとは奴らも予想しやしないだろうからね♪
君が『鬼でない証拠』を見せて近寄れば一網打尽だネ♪ヒーホ〜〜♪やろうやろう♪その作戦!』
ザ・ファンタジアはハナから『よねが別人格と入れ替わった』という話を信じていない。
ただ助かりたい一心でヨタ話を捻り出したのだ…と思っている。
だがこの青年が、そんなヨタ話を持ち出すほどに自らの安全に執着しているのなら……
他人を犠牲にしても自分だけは助かりたい…という下衆な精神の持ち主なら……それはそれで利用価値がある。
『僕の性質柄、握手はできないけどヨロシクね♪メガネ君♪』
白いネズミは胸の前に構えていた手を引っ込めて、にっこり微笑んだ。
【よね君の提案(共同戦線の申し入れ)を一応受け入れる】
【ザ・ファンタジアはよね君を利用しようとしているだけで、身の安全を確保するつもりはさらさら無いようです】
261
:
47 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/28(火) 19:40:56
>「冷気で覆って欲しいのはこの二人。
それと…天野君、携帯出して。私の番号送るからずっと通話中にしておくのよ。」
「了解しました。その人とあの人ですね。『フリーシーズン』!」
天野はフリーシーズンで吉野と生天目の周りの空気も冷やす
さらに佐藤の言葉通り携帯を通話中にして、入道雲の生成を続ける天野
「4O℃、30℃、20℃、10℃、0℃、−10℃、−20℃…!」
上空の気温を下げ続け、ついに−20℃まで下がった。天野の操る気流の助けもあり、入道雲はどんどん大きくなっていく
>「天野君、雲の成長は充分よ…!あいつの動向に注意して!」
「了解です…!では、健闘を祈りますよ…!」
佐藤の小声での指示に対し、こちらも小声で答える天野。上から御前等の様子を伺い始める
262
:
62 :吉野きらら◇HQs.P3ZAvn.F
:2010/12/29(水) 03:08:08
>「……下らん。実に反吐の出る話だ。かくも人とはこの短期間でこうも劣化できるものなのか?
短期間でこうも、己の進むべき道を――誤るのではなく、違えるのでもなく。見失うものなのか。その覇気のない顔をやめろ」
ナイフを投げ終えた後で、吉野きららは小さく独りごちる。
「……見失っただけなら、どれだけ良い事でしょうね。私にはまだ、しっかりと見えていますわ。
幸せになる為の道が。だけどもう、その道に戻る事は出来ません。見えているのに、戻れないのです
それはただ見失うよりもずっと……ずっと辛い事だと思いませんか?」
九頭龍一のゲームに巻き込まれなければ、北条市に来なければ、幸福になる為だと人殺しをしなければ、
スタンド能力に目覚めなければ、日常に転がっている些細な分岐路を誤らなければ、吉野きららは幸せになれた筈だった。
だが過去に積み重ねられた間違った選択を、運命がどう転んだのかを正す事など出来る訳がない。
彼女はもう幸せになる事は出来ない。
スタンド使いは惹かれ合う。例えこの場を凌いだとしても、新たなスタンド使いがやってくるのだ。
切り刻まれ、殴られて、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされるような不幸が必ずやってくる。
絶対に不幸が訪れると分かり切った未来に歩んでいく事は、それさえもが既に不幸な事だ。
>「思い出をくれてやろう――冥土の土産というやつだ!」
それでも、降り注ぐ鈍色の死を慈雨と受け入れられる程、吉野は達観していない。
痛みも死も、嫌に決まっている。故に彼女は身を投げるように横に跳んだ。
だが避け切れない。雨霰と発射された歯車の一つが彼女の顔面へ迫る。
スタンドを使えない彼女に、それを防ぐ手立てはない。
「ぐっ……!」
歯車は吉野に直撃した。くぐもった鈍い音が皮膚の内側から響く。
アンバーワールドの歯車は、彼女の骨を容易く砕いた。彼女の、腕の骨を。
彼女には歯車を防ぐ手立てはなかったが、それでも最悪を回避する事は出来た。
頭部への直撃の代わりに、左腕を犠牲にする事で。
「そしてこのまま倒れ込めば……ひとまずは一段落ってところでしょうか」
腕の真芯で疼く熱を帯びた痛みに顔を顰めながらも、吉野は呟く。
ホールの一階には座席がずらりと並んでいる。
倒れ込んでしまえば、それこそ真上から覗き込まない限り御前等は吉野を視認出来ない。
或いは階下を塗り潰すように歯車を撃ち込まれれば、
最早吉野には虫ケラのように這いずり回るしかなくなってしまうが。
「何だか涼しくはなってきましたが……まさかこれだけさせておいて、それだけって事はないでしょう?」
ともあれこれで御前等は何らかの動きを見せる事だろう。
【頭部コースの歯車を左腕で防御。並んでいる座席の下に倒れ込んで身を隠す】
263
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2010/12/29(水) 03:40:06
吉野きららは被弾した。
その腕を盾に、致命傷を避ける。絶命こそ避けたものの創傷は避け得ず、出血しながら彼女は倒れこんだ。
――――林立するイスの中に。吉野は姿を隠す。
(馬鹿な……ここからでは奴の姿が『視認』できないッ!高低差がアダになったか!)
同時に悪寒。スポットライトへ目を走らせれば、撃墜したはずのキャミソール女のスタンドは健在だった。
ライトこそ破損しているものの、どうやって護りきったかあれだけの歯車を受けて尚、そこに居た。
(凌がれた……!あの妙ちきりんなスタンドへ飛ばす分の歯車を吉野さんへ向ければ確殺していたというのにッ!配分を誤った……判断を誤ったッ!!)
そして生まれる包囲網。生天目が無事で、しかも視界に存在しない。
それすなわち伏兵に同義で、孤立無援のこの状況では命に達する刃だった。
(くっ……どうする。あのキャミ女があの場所にいない以上、いつ背後から刺されるかわからん。
くそッ、暑いな――これも天野君か?判断力を奪おうって魂胆か?)
だとすれば、それはこの上なく効力を発揮している。
流れ落ちる汗は視界を奪い、加熱する脳は思考を濁らせる。吉野の消失、生天目の潜伏、気温の上昇。
御前等に仇なす要素は積み上がり、まるで彼を包囲するかのような疑心暗鬼の罠がホールを形成する。
(落ち着け――!確実に一人ずつ潰していけば良いことだ。ダンジョン攻略を想定すれば良い。
攻略とは、進展とは、目の前に累積した壁と困難を一つずつ分解し簡単にしていく作業をいうのだからな)
とにもかくにも、まずは正確な地点の割れている吉野から処理すべきだろう。
これは容易い。ホールの一階に降り立ち、イスの林を掻き分け目視照準で止めを刺せば良い。
しかし馬鹿正直に降りるわけにはいかなかった。下に降りるということは、高さのアドバンテージをみすみす逃すということに他ならない。
一階を隈なく歯車で打ち抜くという案もあるにはあるが、これも現実的とは言えない。
ただでさえ四面楚歌のこの状況で、いたずらにスタンドエネルギーを浪費するのは下策も下策だ。
(角度が問題なのだ……林立するイスに姿が隠せるのは!俺の視点が斜め上からだからだ。
麻雀で相手の手牌を覗き見るように!真上から見下ろぜば正確に爆撃できる。その技量が俺にはある)
決まった。手摺から飛び、ホールの虚空を横切って向こう岸の観客席へ飛び移る。
アンバーワールドの膂力を借りた跳躍なら可能だ。そしてその空程で、真上から真下吉野を確認し狙撃する。
上方のアドバンテージを手放さず、吉野だけを正確に潰せる最善策だ。
「たった一度、進まんとしていた道を違えた程度で下を向くなよ求道者。人生にやり直しが効かないなどと勘違いしてるんじゃあないだろうな。
どこにも道がないのなら、そこに道を拓けば良い。届かない道ならば、"その道へ至る道"を拓け。可能なはずだ、俺達には!
悟りきったような顔して、悟りきったようなことをほざく君に、俺から一つだけ常識を贈ろう」
アンバーワールドをカタパルトにして、御前等は虚空へ身を飛ばす。
いくつかの歯車を腕に纏わせて。吉野を穿つのには一発で良い。残りは保健と、生天目への牽制。
「――諦めたらそこで試合終了だ!」
ホールの吹き抜けに精緻な弧を描いて。御前等は吉野の直上へ到達する。
【隠れる吉野を上から見つける為に大ジャンプ】
264
:
64 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2010/12/30(木) 23:48:25
御前等が大きく跳んだのを見て、
(来た…!)「作戦実行します。フリーシーズン!」
携帯で小声で佐藤に伝え、作戦を実行する。フリーシーズンの能力で操っていた上昇気流を止めた
「ダウンバースト!」
上昇気流の蓋が外れた積乱雲。中の乱気流が下の方向、即ち御前等に向かって勢いよく落ちる。
ものすごいパワーの下降噴流、ダウンバーストだ。強いダウンバーストが空中の御前等を床にたたきつける
「とりあえず僕の仕事は成功だ! グッジョブ、フリーシーズン!」
だが、まだ天野は御前等から目を離さない。天野は降水確率0%でも必ず鞄に折り畳み傘を入れておく主義なのだ
家に帰るまでが遠足、全部成功するまでが作戦なのだ。最後まで気を抜いてはいけない
【ダウンバースト作戦、実行】
265
:
65 :名無しになりきれ
:2010/12/31(金) 19:26:39
/ 君が『鬼でない証拠』を見せて近寄れば一網打尽だネ♪ヒーホ〜〜♪やろうやろう♪その作戦!』
(やったッ!!これで、これで……ッ!!)
よねは今すぐにでも飛び上がって歓喜の声を上げたかった。
「それじゃあ、作戦を開始しましょう。私は佐藤さん達と接触します。
そしてそこに貴方が現れる。その後、佐藤さん達が交戦を開始してきたら私、貴方、御前等さんの三人で一網打尽にしましょう。
あの人たちが逃げ出したら……その時はジリジリと追い詰めて確実に、堅実に仕留めましょう」
カンタンな打ち合わせをするよね。
では、いこうか、とザ・ファンタジアに向けて言った。
――その頃、よねの精神世界
暗く広く、どこまでも深い穴に堕ちていっている。そんな錯覚によねは陥っていた。いや、もしかしたら錯覚ではないのかもしれない。
そうだ、錯 覚 で は な い 。
事実として、よねは精神世界の穴を凄まじいスピードで落下していた。
(表は…現実じゃあどうなってるんだ……?御前等さんは…)
少なくとも、"本当のよね"はよねの精神世界の中で思考できている。
どうやらよねの命は無事なようだ。
(裏の人格……潜在意識の顕在だなんて…バカバカしいにも程がある…)
しかし、現実に起こっている事実でもある。
"本当のよね"はそんな非現実的なことが認められずに居た。
(ヤツは…ヤツのとんでもなく強靭な精神力、"鋼鉄の精神"で人格を奪った。
ヤツにも出来たなら、元々は同じ自分にも出来るはず!否、出来ないわけが無いッ!!)
そう思うやいなや、"本当のよね"の落下スピードが少し遅くなった。
よねの精神世界は闇に包まれている。落下スピードが遅くなったとしても周囲の景観の移り変わりが遅くなったりするわけではない。
しかし、よねは感じた。確実に落下スピードは落ちてきている、と。
精神世界を落ちて行くスピード、それは自らの精神力と関係している。
よねはそう確信していた。
【現実:作戦決行の準備。
精神世界:"本当のよね"が人格を取り戻せるかもしれない方法を発見】
266
:
66 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/01/02(日) 20:06:50
2階から降りた佐藤ひとみは、壁際に近い座席の影に身を潜めていた。
しゃがんだ体勢のひとみの側には、浮遊するフルムーンが床上10cmほどの低い位置に控えている。
眼球を内包するケースから伸びる触手は床を這い伝い、植物の根のように枝分かれしながら伸びていく。
1分かからぬ内に、床全面に網の目状に成長した触手が張り巡らされた。
薄暗い座席、視力の良い者であっても、よくよく眼を凝らさねば触手の成長を捉えられぬはずだ。
再びスタンドと本体の体表を迷彩で覆い、罠発動の機を窺う。
>「思い出をくれてやろう――冥土の土産というやつだ!」
御前等の一声と共に回転する歯車の乱舞―――吉野きららに降り注ぐ歯車の雨!
金属質の落下音がホール中に響き渡る。あの数の歯車に身体を撃ち抜かれたら、無事で済むはずがない。
ひとみは少女の絶命を覚悟したが―――否、歯車は目的を達していない。
シートには少女の生命反応がある。
いくつもの座席を透視し、視界に捉えた少女は出血する腕を庇い座席の下に身を伏せていた。
>「たった一度、進まんとしていた道を違えた程度で下を向くなよ求道者。人生にやり直しが効かないなどと勘違いしてるんじゃあないだろうな。
>どこにも道がないのなら、そこに道を拓けば良い。届かない道ならば、"その道へ至る道"を拓け。可能なはずだ、俺達には!
>悟りきったような顔して、悟りきったようなことをほざく君に、俺から一つだけ常識を贈ろう」
>「――諦めたらそこで試合終了だ!」
少女に止めの一撃を見舞わんとするか、
二階席から飛び降りる御前等。自らのスタンドの背に足をつき、その背筋をバネに虚空に跳ねる―――!
通話中の携帯電話から天野の声が漏れる。
>「作戦実行します。フリーシーズン!」
―――御前等に向けて、吹きつける突風!
上空から下方に吹き降ろす強烈な下降気流―――ダウンバーストだ。
天野の気流操作によって正確無比なコントロールを得た噴流は、ピンポイントで目標を撃ち落とす。
ゆっくりと弧を描き宙を舞っていた御前等の身体は、慣性を失い座席を繋ぐ通路の床に叩きつけられた。
吹き降ろした風が床にぶつかり余波が四方に広がる。立ち上がったひとみは風に大きく髪を煽られた。
クモが巣にかかった獲物の場所を知るように、触手の網は御前等の落下点を感知していた。
触手は御前等を中心に急速に収束し、その手足に絡み付く。
一瞬の後には、両手両足と胴体を固定された簀巻き状態の男が床に転がされていた。
最後の仕上げとばかりに、口元まで触手で覆い発声の自由さえ奪う。
風に煽られ顕になった右目を掌で庇い、乱れた髪を直しながら、ひとみは男に歩み寄る。
「ああ!せいせいしたわ!コイツには二度と喋らせたくないッ!
酒飲みながら絡んでくる酔っ払いの説教も最悪だけど、攻撃しながら説教ってどういう了見なのッ?!
な〜にが『"その道へ至る道"を拓け』よ?!
どうせ近所のコンビニに行く程度の安っすい道しか持ってないくせに!
もう、ウザすぎて吐きそうだわ!
誰の為にこんな手間負ってると思ってんのよ!このクズ男ッ!
このまま転がしておきたいけど、そうも行かないのがツライところね。
有葵!動けるんでしょ?あんたのスタンドで、この男の尻尾をスッパリ切り落として!」
物陰から姿を現した有葵は左手から血を流していた。よく見ると簀巻き男も掌を傷つけている。
歯車を被弾した少女の左腕の負傷も決して軽くは無いだろう。
これから施す治療の手間を考えて、ひとみは大きな溜め息を漏らした。
【御前等さん決定ロール的に動かしちゃってすいません】
【御前等さん捕獲成功。有葵ちゃんに尻尾切り落としを依頼】
267
:
67 :生天目有葵 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2011/01/03(月) 19:36:15
>このまま転がしておきたいけど、そうも行かないのがツライところね。
有葵!動けるんでしょ?あんたのスタンドで、この男の尻尾をスッパリ切り落として!」
生天目のスタンド、ステレオポニーは簀巻きにされた御前等まで飛んでいくと簡単に右手で尻尾を掴む。
御前等も拘束されていては流石に何も出来ないらしい。
(尻尾を引っ張ったら歯車が飛んでくるとか仕掛けなんてないわよね?)
遠目から生天目はちょっと心配しつつ、スタンドの右手で尻尾をピーンとひっぱって、爪先で尻尾の根元を蹴飛ばしブツンと切り離した。
ぺたん
切り離しに成功して、弾力で縮んで右手に軽く巻きついた尻尾そのままステレオポニーは本体の生天目に戻る。
本体の生天目はと言うとちゃっかり佐藤の傍に歩み寄って治療を受ける気満々。
「気持ち悪い…そんなの捨ててきなさいよ」
持ってきた尻尾を見て生天目が怒るとステレオポニーは不貞腐れて尻尾を放り投げ、投げられた尻尾は偶然に佐藤の服に滑り込む。
「ちょっと!どこに捨ててんの〜!尻尾でも敵スタンドの力が宿っているのよ!たぶんね。万が一にでも変なことが起きたらどうするのよ!?
あ、でもひとみんは鬼にならないんだっけ?結局は医務室のあれってなんだったんだろ…?
ホールでイケメン太郎さんは鬼になって医務室でひとみんは鬼にならなかったの…。その違いってなに?
違いって言ったらイケメン太郎さんが鬼になった時にホールはものすごく寒かったね。でもそれはたぶんあの人の能力ででしょ?」
生天目は視界に入った天野を指差し佐藤にはなし続ける。
「私の断片的な思い出を辿っても違いがよくわからないよ。ひとみんの体感としてはどうだったの?
ひとみんとかよねさんってみんなが紙にサインしたのがスタンド攻撃の起点だとか見破っちゃうし、もうその直感に頼ってもいい?
まあわかんなくっても本体を見つけられたらそれでいいってことなんだろうけど…。もう私にはわかりません。それと今何時?おなかすいちゃった」
生天目のおなかがクゥと鳴る。
268
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/01/05(水) 04:44:45
スタンドのカタパルトによって超跳躍を得た御前等は空中を遊歩しながら吉野を探していた。
臨戦の興奮か意識は加速し視界は静かにせせらいでいく。音は消え、光は間延びする。
(撃ち抜くっ……!俺は躊躇いなく……例えそれがヒトの形をしていようとも、殺められるっ……!)
越えまいとしていた一線。御前等を日常に繋ぎ止める命綱。
"人を殺めない"という、脆弱で手前味噌な制約は、精神を掌握するスタンド能力の前では風前の紙人形に等しい。
寸分の狂いもなく狂っていた。御前等は、本気で吉野を殺害するつもりだった。
既に『ザ・ファンタジア』による鬼化は顔面にまで及び、空中で御前等の姿を一点の抜けなき漆黒へと変貌させる。
――そして、風が吹いた。
上から下へ、屋内であるはずのホールの大気が牙を剥く。
支えなき空中にて、御前等の体は帆に同じだ。風の瀑布を一面に受け、弾丸にように打ち出される。
御前等は、墜落する。
(…………ッ!!何が!)
思考に許されたのは一瞬。そこから先は寸断される。
自由落下より早く眼前に迫った床は壁の如く御前等を阻み、その質量と重厚さで彼の全身を打ち据えた。
「がッは……!」
咄嗟にスタンドで致命傷を避けるが、伝導する衝撃を逃がす術はない。
床に叩きつけられた御前等は肺腑の中身を全てさらけ出して痙攣し、そのまま動けなくなった。
同時、床に違和感。無限に配線されたケーブルのように地面を網羅していた"何か"が、彼を包んだ。
蜘蛛の巣にかかった餌食のような格好であった。閉ざされた視界の向こうで、声がする。
>「ああ!せいせいしたわ!コイツには二度と喋らせたくないッ!
酒飲みながら絡んでくる酔っ払いの説教も最悪だけど、攻撃しながら説教ってどういう了見なのッ?!」
(この声は……佐藤さんか。チッ、声も出ない。この用意周到さ……全ては罠だった、ということか)
無防備な姿を晒した吉野も、ここへ逃げ込んだ天野も、スポットライトの生天目でさえそこには一定の統率があった。
共通の目的。御前等の撃墜。個々の技能とスタンドを活用した、正真正銘の包囲網。
それを掌握し、これほどの作戦を即座に創り出して見せた佐藤という女の智謀。全ては彼女の掌の上だったというわけだ。
前言に偽りはなかった。佐藤ひとみ。繋ぎ合わせ、紡ぐ者。それこそパッチワークのように、彼女は『状況』を産む。
>「このまま転がしておきたいけど、そうも行かないのがツライところね。
有葵!動けるんでしょ?あんたのスタンドで、この男の尻尾をスッパリ切り落として!」
もう一つ、人の気配がして。
鬼化した御前等の意識は、そこで尻尾と共に切断された。
269
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/01/05(水) 04:45:15
………
……
…
尻尾を切られた御前等は、簀巻きにされたままで暫し沈黙していた。
鬼化していたとは言え生身のまま二階から落下したのだから、回復にも相応の時間が必要である。
ともあれ佐藤の治療もあって(何気にこれは初の体験である)、やがて御前等は意識を取り戻した。
取り戻してしまった。
「ふ……ふふふ……ふふふふふふはははははははははははははははははははははははははははァーーッ!!」
簀巻きの繭をバリっと破って、御前等は生まれた。再出産だ。生まれ直したのである。
頭のてっぺんまで真っ黒だった御前等の体はもとの肌色を取り戻し、いつもの狂気的な笑みが張り付いている。
立てばイケメン座ればイケメン歩く姿はマジイケメンの風評芳しき、完全完璧完調完充の御前等祐介その人がここに復活したのである。
「久しぶりだ!久しぶりだぞこのノリも!長らく地の文も真面目だったからなッ!」
凄く疲れた。
あんまりにも久方ぶりすぎて、生前どんな文体だったかも忘れていた。
「んっンー良い気分だ。元旦にトランクスを替えたような……そういえば何ヶ月遅れかしらんがあけましておめでとう!
みんな今年の正月はどんなふうに過ごしたかな?俺は紅白見てた。小林幸子最終形態は毎年凄いな。いつか倒す」
あくまで劇中時間は真夏であり、半年ほど前の正月について唐突に語りだしただけなのでなんら問題はない。
「さて!さてさてさて!俺はまったくさっきまでの記憶がないぞーっ!俺がネズミに触れた後に一体何が起こったんだ!?
誰か説明してくれ!三行以下でな!……んー?そこにいるのは吉野ちゃんじゃあないか!なんでこんなところに!
君が何故こんなところにいるかはぶっちゃけまったく興味ないが、"どうして来たか"については興味津々だな。
わざわざ俺に会いに来たのかなーっ!?気持ちは嬉しいけどそーいうのはちょっと重いゾ☆……で、よね君はどこ行った?」
一気にまくしたて、喉が乾いたのか懐に入れていた野菜生活の封を切っておもむろに飲み始める。
ちなみにこの野菜生活、鬼化の最中もずっと携行していたので当然のことながら激ヌルだ。
「ん?おやおや佐藤さんさっきから服のあちこちを押さえて何をやってるんだ?虫でも入ったか?
よーーーーーーーーーしほいだば僭越ながら俺が除去してしんぜちゃうぞー!!」
尻尾を服に放りこまれた佐藤の元へ、その現況がルパンダイブで跳びかかる。
【鬼化解除。普段の御前等に戻る。鬼化していた間の記憶がないので周囲に状況説明を要請】
270
:
93 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2011/01/07(金) 01:34:42
歯車の直撃した左腕を押さえて、吉野は耐え難い苦痛に体を丸めていた。
彼女は上を見上げたりはしなかった。どうせ追撃されてしまえば防ぐ手立てはない。
死を甘受していながらも、直視するのが恐ろしくて、彼女は下をむいたままでいた。
>「ああ!せいせいしたわ!コイツには二度と喋らせたくないッ!
だが彼女に死は訪れなかった。代わりに佐藤の金切り声が耳に届く。
視認は出来なかったが何とか御前等を捕獲したのだと、吉野は察した。
激痛に顔を歪めながらも、彼女は右腕のみで体を起こす。
完全に立ち上がる前に、彼女は額に滲んだ汗を拭う。
瞬きを何度も繰り返して瞳から苦悶の色を落とし、右手で口元を弄って無理矢理にでも笑みを作る。
>このまま転がしておきたいけど、そうも行かないのがツライところね。
有葵!動けるんでしょ?あんたのスタンドで、この男の尻尾をスッパリ切り落として!」
「ん?おやおや佐藤さんさっきから服のあちこちを押さえて何をやってるんだ?虫でも入ったか?
よーーーーーーーーーしほいだば僭越ながら俺が除去してしんぜちゃうぞー!!」
「……終わりましたか?」
平然を装って、吉野は佐藤達に声をかける。
御前等の妄言に反応を返すような余裕は、無かった。
「だったら早い事、さっきネズミが消えた時何をしていたかを聞いたらどうですか?
……ここは出口も複数ありますから、何処にネズミが湧いても対処出来るでしょうし」
スタンドを使えない自分が更に怪我をしたと知られれば、切り捨てられてしまうかもしれない。
例え死ぬにしても、そんな屈辱的な死に方は耐えられない。
そう考えた彼女は左腕の骨折を隠して振舞っていた。
【吉野は佐藤さんの治療能力を知りません
御前等さんの情報は避難所で相談すれば聞いた事にして進行しちゃってもいーかなーとか】
271
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/01/09(日) 21:02:05
「ペラい男の薄っぺらな説教ほど聞くに耐えないものはないわッ!
中身の無い男に限って最もらしいこと言いたがるけど、お前が言うなっていうのよ!
何の目的も持たない男が道を語るなんてお笑い草だわ!空き巣が万引きに説教してるようなもんじゃない!」
尻尾を千切られ足元に転がる男を前にして、ひとみの悪態は止まらない。
言葉通り安手の説教をする男が大嫌いだからでもあったが、半分は八つ当たりである。
この不条理なゲーム―――『鬼ごっこ』に巻き込まれた苛立ちを罵倒に変えて吐き出していた。
「こんな不愉快なもの聞かされた私の気分をどうしてくれんのよッ!ああ腹が立つッ!」
八つ当たりの仕上げとばかりに、簀巻きの男を蹴り上げんと踵を上げて構えた刹那――――
上空から落ちてきた"何か"が、ブラウスの襟からするりと胸元に入り込む。
細いロープの如き"何か"が動き回り服の中で暴れている。
「やだッッッ!!何なのよこれッッ―――?!」
ひとみは胸元に手を突っ込む。が、ブラウスの中を縦横に跳ね回るモノを容易に掴めない。
>「ん?おやおや佐藤さんさっきから服のあちこちを押さえて何をやってるんだ?虫でも入ったか?
>よーーーーーーーーーしほいだば僭越ながら俺が除去してしんぜちゃうぞー!!」
悪戦苦闘中のひとみにムササビよろしく飛び掛る影。
鬼状態から復活した御前等だ。
一歩足を引いて半身になり、衝突寸前で男から身を翻す。
男を避けた拍子に、乱れたブラウスの裾から"何か"が落下した。床に落ちたのは、御前等から切り離された尻尾。
黒い線虫に似たそれは、暫し小刻みに痙攣していたが、やがて白い煙を上げて消滅していく。
床に墜落した男に、ひとみは更に怒声を浴びせる。
「どこまで人を不愉快にすれば気が済むのよッこのクズ男ッッ!
爪の先から髪の毛一本、切り離した尻尾にまでウザさが染み付いてるのね!あんたって!
ネズミに触られた後の記憶が無い?どこまで役立たずなのッ?
三行と言わず一行で済ましてやるわよ。
『鬼になって散々迷惑かけてたあんたを、私達が苦労して元に戻してやったの!』
少しでも感謝の気持ちがあるんなら、そこで棒立ちになって口を挟んでこないで!
メタだか何だか知らないけど、そのノリで話に割り込まれると余計に話がややこしくなるんだから!」
>「……終わりましたか?」
ひとみの金切り声と対照的な、静かな少女の声。座席中央に目を向けると、
そこには左腕に庇うように右手を添えて立つ、吉野きららの姿があった。
「左腕橈骨の亀裂骨折……尺骨の粉砕骨折…」
ひとみの眼―――フルムーンに組み込まれた右目は、即座に少女の負傷箇所を捉えていた。
肘と手首を繋ぐ2本の骨に亀裂と複数個所の離断が見られる。
吉野きららは、先の戦闘で囮として充分な有用性を発揮した。
ゲームはまだ続行中。まだまだ役に立ってもらわねば困る。
272
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/01/09(日) 21:04:01
少女の左腕付近を纏わり付くように浮遊するフルムーンから触手が伸びる。
糸のように細かく枝分かれした触手が、歯車を被弾した皮膚の傷口から侵入していく。
しなやかさとワイヤー並みの強度を兼ね備えた触手が、骨折箇所に巻きつき離断した骨を正常な場所に整復し粘液で固定する。
全ての骨折箇所の修復を終え、引き抜かれた触手が外創を縫い合わせて治療が完了した。
触手由来の粘液や糸は、自然に周囲の組織と一体化し、数十分経てば、ほぼ完全に治癒するだろう。
「その左手、暫く動かさないことね。15分あれば指先の動作の違和感も無くなるわ。」
少女に視線を向けたまま、フルムーンを有葵と御前等の治療に当たらせる。こちらは単なる皮膚の裂傷、縫合だけで済む。
* * *
「天野君、終わったわ!こっちに降りて来て。」
ずっと通話中だった携帯電話を切り、ひとみは腕時計に目を落とす。
時刻は正午を回っている。
警備員とのすったんもんだの末、この建物に入り込んだのが午前11時過ぎ。既に一時間ほど経っている。
「安心しなさい。あと1時間後には、永遠にお腹なんて空かなくなるから。」
腹の虫を泣かせている有葵に腕時計を示す。
「あのネズミ…霧のスタンドは無敵だわ。攻撃が通じても一時的なもので直ぐに再生する。
生きてここを出てランチにありつく為には、あんたの言う通り本体を見つけてブチのめすしか無いわ。
直感で本体を見つけられれば苦労は無いわよ。攻撃の起点に気づいたのは直感じゃなくて推理推論。
全員がサインした直後に警備員が死んで、扉は閉ざされ、私達はここに閉じ込められた。
加えてあの『契約書』。
状況と示された材料を繋ぎ合せれば、それくらいの推理は出来るでしょう?
警備員は多分操られていただけね。サインが済んで不要になったから始末された。
爆発した脳みその中に小型のディスクが見えたわ。
敵の中にスタンドや記憶をディスク化する能力を持つ者がいる……」
1階に下りてきた天野を交え、ひとみは数日前、ワーストとの邂逅で得た"ディスク"の情報を語った。
運命を操作するスタンド…その使い手の烏を殺した時、死体から飛び出した二枚のディスク。
人体を一瞬でバラバラにするスタンド…その使い手の女子高生の肌に触れたときに見た記憶の断片―――
それは少女の記憶とは思えぬ狂った医者の視点だった。
そしてマイソン・デフューの記憶の中の、ディスクを操る骸骨のような男―――
男は死体同然の肉体に『記憶』と『スタンド』を与えた―――
「ソイツがこの『鬼ごっこ』をお膳立てした黒幕ね、きっと。
どっちにしても、ネズミを倒してここから出なければディスクの謎になんか辿り着けないけど。」
当面考えるべきは『鬼ごっこ』の対策……と、ひとみは脱線した話を元に戻す。
「『鬼ごっこ』のルールは明文化されているわ。何故足枷になりかねない"ルール"を設置するのか?
これは乱暴な推論だけど、奴が"そういうスタンド"だからと考えるしかない。
情報の公開という制約と引き換えに『場』の中で無敵の力を発揮する―――それが奴の能力。
ルールには『3秒以上鬼に触れられた者は鬼化する』と明記されている。」
バッグに仕舞っていた契約書(ルールが追記されている)を取り出し、掲げて見せた。
273
:
佐藤ひとみ
◆tGLUbl280s
:2011/01/09(日) 21:06:08
「鬼ごっこに関するイレギュラーな情報を、私達は一つだけ持っている。
私は医務室でスタンドネズミに触れられた。3秒以上触れ続ける余裕はあった筈なのに、私は鬼にならなかった。
何故鬼にならなかったのか―――二つの状況を考えなきゃならないわ。
そもそもネズミは、私に3秒以上触れていたのか、触れていないのか?
ネズミに3秒触れられていたのに、私が鬼にならなかったのだとしたら、鬼ごっこのルールはその点において破綻している。
ルールと引き換えに無敵を手に入れるスタンドだもの。『場』においてルールを破綻させる何かが働くとは考えにくい。
寧ろ、ネズミは私に3秒触れていない―――と考えた方がしっくり来るわ。
では何故ネズミは3秒触れ続けなかったのか―――ネズミの気まぐれかもしれないけど、、
<<触れ続けることが出来ない理由があった>>とも考えられる。じゃあ<<触れ続けることが出来なかった原因は何か?>>
私はそれを、医務室にいなかったゲーム参加者の行動にあるのでは…と予想して
その女に言う通りに、当時の全員の位置を確認したわ。
ネズミの消えた瞬間―――天野君は、3F調理実習室内にいた。
―――よね君とクズ男は丁度4Fの簡易図書室(ライブラリ)に侵入する所だった。」
天野と御前等の顔を見回して、ひとみは尋ねる。
「あんた達に聞くわ。
天野君、あの時調理実習室で何をしていたの?何の為にそこに行ったの?
そこのクズ(御前等)にも同じことを聞きたい所だけど、何も覚えてないって言うなら、よね君に当たるしかないわね。」
****************************************************
【よね、ザ・ファンタジア:スポーツジムのロッカー】
―――― 一方、スポーツジムのロッカーでは、
裏人格に身体を乗っ取られたよねと、ザ・ファンタジアの共同戦線が張られていた。
>「それじゃあ、作戦を開始しましょう。私は佐藤さん達と接触します。
>そしてそこに貴方が現れる。その後、佐藤さん達が交戦を開始してきたら私、貴方、御前等さんの三人で一網打尽にしましょう。
『そうだね♪味方だと思っている君が近づけは、奴らが油断すること受けあいだね♪
奴らの反応が楽しみだなぁ〜〜♪』
ザ・ファンタジアの耳がパラボラ型の集音機に変化する。
『ホールの吹き抜けからドタバタ音がするぞぉ〜〜♪奴らそこに集まってるみたいだね♪
こりゃ一網打尽のチャンスだぁ〜♪メガネ君って運も強いんだね♪
メガネ君、先にホールに行っててよ♪頃合を見計らって僕も行くからね♪』
ネズミの体の輪郭がブレ始め霧が漏れ出す。白いモヤがロッカー中に拡散し、やがてネズミは霧と共に姿を消した。
【吉野さん、御前等さん、生天目さん治療済み】
【もののついでに、場にいる全員にNDとそのディスク化の能力のことを話す】
【鬼ごっこ対策:ネズミが医務室から消えた瞬間、何をしていたのか、御前等さんと天野さんに尋ねる】
【ザ・ファンタジア、よねさんとホールで待ち合わせを指示】
274
:
12 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/01/13(木) 21:19:52
>「あんた達に聞くわ。
天野君、あの時調理実習室で何をしていたの?何の為にそこに行ったの?
そこのクズ(御前等)にも同じことを聞きたい所だけど、何も覚えてないって言うなら、よね君に当たるしかないわね。」
「僕は水と護身用の武器を探すために調理室に行きました。ほら、僕のスタンド能力って水と相性が良いんですよ。
気温を下げて氷を作ったり、気温を上げて失った水分を補給したり。…それにそのおかげでいち早くイケなんとかさんの接近に気づけたわけですし
…それと僕のスタンド、射程はすごく広いけど力は皆無でして…。接近戦に持ち込まれたらほぼ成す術がないんですよ…
だから何か武器になりそうな物を探したんです。フライパンとか、バナナとか…。そしてついでに隠れようと思ったわけです。
…ところで。そこの元鬼のテンションが高いイケなんとかさん。本当は何て名前なんですか?」
佐藤に調理実習室に行った目的を話した後、御前等の本名を聞く天野
275
:
13 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2011/01/13(木) 21:20:26
>「左腕橈骨の亀裂骨折……尺骨の粉砕骨折…」
自分を見据える佐藤の零した呟きに、吉野の心臓が冷たく跳ねた。
取り繕った表情が引き攣る。拭った筈の冷や汗が再び滲み始めた。
注視してみれば佐藤のスタンドは眼球を模しているのではなく、彼女の右眼と同化しているようだった。
文字通りの意味で、吉野が覆い隠したつもりの負傷は見透かされていた。
>「その左手、暫く動かさないことね。15分あれば指先の動作の違和感も無くなるわ。」
「どうも。……本当に厄介な能力ですのね」
言葉尻は聞き取られないよう、殆ど唇の動きだけで呟いた。
厄介と言うのはつまり、吉野はいつか佐藤を殺す気でいるからだ。
彼女の歩んできたのは幸せから程遠い道だった。
だったが、それでも諦めてしまったら何も残らない。だから殺す。
成し遂げたところで得る物など何も無い目標だ。
それでも盲目的にそれを目指さなくては、彼女は折れてしまうのだ。
それが今折れるか、後で折れるかの違いでしかなくてもだ。
「安心しなさい。あと1時間後には、永遠にお腹なんて空かなくなるから。」
ともあれ、その為にはまずこのゲームから生還しなければならない。
吉野は生きる事への執着を失っていたが、プライドは残っていた。
あんなふざけ倒したネズミの戯れに屈して死ぬような屈辱は、御免だった。
276
:
14 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2011/01/13(木) 21:20:57
>「ソイツがこの『鬼ごっこ』をお膳立てした黒幕ね、きっと。
> どっちにしても、ネズミを倒してここから出なければディスクの謎になんか辿り着けないけど。」
そして、このゲームを仕組んだ黒幕とやらに対しても、それは同じだった。
遙か大上段から一方的に押し付けられた死を甘受するなど、死よりも耐え難い。
吉野は無言のまま、唇を噛んだ。淀んでいた双眸が、ほんの僅かにだが研ぎ澄まされる。
最早、生きる気力はない。だが死に方くらいは選んでやろう。
惨めな死を払い除けて、自分が満足出来る形で死んでやろうと、彼女は細やかながら目的を抱いた。
終着点に横たわる物は自分自身の死と言う、倒錯的な目的ではある。
だが、人生を終わらせてしまいたい。そのくせ死ぬのが怖い。
そんな臆病に侵されていただけの今までよりかは、格段にマシだった。
><<触れ続けることが出来ない理由があった>>とも考えられる。じゃあ<<触れ続けることが出来なかった原因は何か?>>
「……貴女が先程体験したイレギュラーですけど」
延々と押し黙っていた吉野が、口を開く。
「再現してみればいいんじゃないですか?」
そして、提案した。
「私があのネズミに捕まりますわ。もしもまた同じ事が起こったなら、
何が原因だったのかを見極めて下さい。起きなかった時は……
尻尾を切り落としてもう一度ですわ。ネズミがこちらの思惑に気付くまで、ですけど」
滔々と、淀みなく彼女は続ける。
「スタンドの使えない私なら、簡単に元に戻せるでしょう。
射程の長い貴女やその子のスタンド……さっきは聞きそびれましたが、
透明になれるなら予め私の傍にスタンドを待機させておいてもいい」
言い終えて一息の間隙を置いて、勿論と言葉が追加された。
「そこのゲスともう一人や、その……よねでしたか?それらから
話を聞くだけで推理出来るのなら、それに越した事はないんですけどね」
【ちょいと提案。でも別に必ずしも拾ってくれなくても無問題なのです】
277
:
15:よね
:2011/01/16(日) 01:38:57
/メガネ君、先にホールに行っててよ♪頃合を見計らって僕も行くからね♪』
「わかった。とにかく私がヤツらを油断させる。ヤツらが少しでも隙を見せたらヨロシク頼むよ」
そして、そのネズミ―ザ・ファンタジア―はまさに"霧"のように姿を消した。
(素直に捕まってくれよォ〜〜…?)
何度も何度も頭の中でシミュレートしながら階段を降りて行くよね。
「やァ、佐藤さん。無事だったかい?……ンン、違うな。
ああ、佐藤。無事だったのか。…これも違う……ウーン…」
一人でブツブツと階段を降りながら対面した時の文句を考える。
(フム、まあいいか。指摘されないだろうし、されたとしてもテキトーに誤魔化せばいい)
――1F 佐藤らの居る部屋の前
小さく咳払いをするよね。心拍数が上がってきているのがわかる。
ここでヘマをすれば自身の自由、折角手に入れた体の自由は奪われる。
そんなこと絶対あってはならない。
よねは大きく唾を飲み込むと、佐藤らの方向へと駆けていった。
「ああ、皆さん、ご無事で」
まさしく本来のよね同然の声、口調だ。
(これなら行ける……!!)
「心配しました。わた…いえ、自分だけ孤立してしまっていたようですね。ご迷惑をお掛けしました…申し訳ありません」
あえて御前等との戦闘については触れない。自分が図書館に行っていたことも。
事実、"今のよね"は御前等と戦闘を行っていた記憶自体殆ど無いのだ。
なにしろ、体を奪った時には既に辺りは火の海で命からがら逃げ出してきたのだから。
しばらく佐藤らの話や、問い詰めに耳を傾け、適当に答えを返す。
―――
一通り、質問に答えた後。しばらくの沈黙を破ったのはよねだった。
「…そうだ。一つ良いお知らせがあります」
(ネズミ野郎…見てるんだろ……?今から私が隙を作り出すぞ?頃合を見て出てこいよ?見逃さないでくれよ……ッ!)
あくまで冷静に喋りながら、しかし、内心はとんでもなく動揺していた。もはや気が気でなかった。
もちろん、良い知らせなどあるわけがない。事を急いでしまったが故に口からポロリと出てしまったのだ。
だが、後に引けない。よねは続ける。
「…もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
【よね:隙を作り出すために"脱出できるかもしれない"と仄めかす。
また、―――は時間軸のズレを表すものです。『適当に答えを返す』とありますが、次のレスできちんと答えますので、
なんでもよねに聞いて下さい】
278
:
16 :生天目有葵 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2011/01/16(日) 01:39:57
>「安心しなさい。あと1時間後には、永遠にお腹なんて空かなくなるから。」
「きゃ〜!もう一時間しかないの?それにお腹が空かなきゃお菓子が食べれなくなるからイヤッ!」
そして焦燥の色が隠せない生天目有葵に追い討ちをかけるように伝えられるワーストの情報。
続けて佐藤は現時点での難敵、ファンタジアを攻略するため御前等と天野に質問を投げかける。
「……」
生天目がわかったような顔でうなずいていると押し黙っていた吉野きららが佐藤にある提案を持ち出した。
それを聞いた生天目はなるほど顔で口をはさむ。
「危険だけど急がば回れってことね。まず外堀を埋めて攻略の糸口を掴む。
上手くいって鬼化を防ぐ方法を見つけ出せたら私たちは優位に立てるもの。
で、どうするの?罠をしかけるでしょ。まず条件作りが大切だと思うんだけど」
作戦を立てる一同。
すると聞き覚えのある声がホールに響く。
>「心配しました。わた…いえ、自分だけ孤立してしまっていたようですね。ご迷惑をお掛けしました…申し訳ありません」
声の主はよね。手のひらをチラ見したが白い。鬼にはなっていないようだ。
よねは黙って話を聞いていたようだったが
>「…もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」と言う。
「うそ?どうやって?教えて!敵のスタンド使いがいつ出てきてもおかしくない状況なのよ!はやく教えて!!」
生天目はよねに問い詰めた。
280
:
御前等
◆Gm4fd8gwE.
:2011/01/16(日) 02:45:48
>「どこまで人を不愉快にすれば気が済むのよッこのクズ男ッッ!
爪の先から髪の毛一本、切り離した尻尾にまでウザさが染み付いてるのね!あんたって!」
(ああ……これだ!この感覚!罵られてると凄くドキドキする……!)
半狂乱になりながら御前等を罵倒する佐藤曰く、どうやら自分は『鬼』になってしまったらしい。
その間の記憶がないのも頷ける。なるほど自分の与り知らぬうちに壮絶な能力バトルがあったようだ。
(なんてことだ……俺も参加したかったぞその展開!なんとも少年誌チックじゃないか!)
ともあれ。起承転結の、大きな一つの大きな区切りがついたことは確かだった。
おそらく今の章で御前等にスポットライトが当たることはもうないだろう。伏線を全て使い切ってしまった。
吉野や生天目と共に治療を受けていると、ハンチング帽の少年――天野もじきに合流した。
>「あのネズミ…霧のスタンドは無敵だわ。攻撃が通じても一時的なもので直ぐに再生する。
生きてここを出てランチにありつく為には、あんたの言う通り本体を見つけてブチのめすしか無いわ」
情報共有の時間だ。
御前等の知らない言葉と単語が並べ立てられ、その一つ一つに適切なキャプションが割り当てられていく。
ワースト、ディスク、骸骨……エトセトラ。どれも御前等がこの先話に入っていくのに必須の情報だ。
すなわち彼は、ただの小物な雑魚敵から正式にこの物語の登場人物として轡を並べる権利を得たのである。
>「あんた達に聞くわ。天野君、あの時調理実習室で何をしていたの?何の為にそこに行ったの?
そこのクズ(御前等)にも同じことを聞きたい所だけど、何も覚えてないって言うなら、よね君に当たるしかないわね。」
>「…ところで。そこの元鬼のテンションが高いイケなんとかさん。本当は何て名前なんですか?」
「俺の名前をそんなメインなのに空気的扱いを受けている不遇のキャラみたく呼ぶんじゃあない。
イケメン谷ハンサム太郎――これこそが俺の本名でありソウル・ネームだ。コレ以外の呼称は許可しないッ。
人によっては御前等祐介などという偽名で呼ぶ輩がいるにはいるが、そんな連中の戯言など二秒で聞き流すが良い!」
ここだけの話鬼化していた時の御前等は天野とは一言も言葉を交わしていないので、天野にとってはこのクズ男が御前等の全てだろう。
能力バトルする御前等ではなく、冷静沈着な御前等でもなく、やたらテンションの高いキモオタ。
イケメン谷ハンサム太郎である。
>「……貴女が先程体験したイレギュラーですけど」>「再現してみればいいんじゃないですか?」
>「危険だけど急がば回れってことね。まず外堀を埋めて攻略の糸口を掴む。
上手くいって鬼化を防ぐ方法を見つけ出せたら私たちは優位に立てるもの。
で、どうするの?罠をしかけるでしょ。まず条件作りが大切だと思うんだけど」
「え?え?なに、今難しい話する空気?仕方あるまい天野くんあっちで俺と今季のアニメについて論を交わそうじゃないか」
>「ああ、皆さん、ご無事で」
>「心配しました。わた…いえ、自分だけ孤立してしまっていたようですね。ご迷惑をお掛けしました…申し訳ありません」
そのとき、さっきから姿の見えなかったよねが謝罪を手土産に入室してきた。
御前等にはよねと戦っていたときの記憶もないので、
(はははよね君は愚かだなあ)
程度のことを思っていた。何から何までゲスでクズの棚上げ男である。
>「…もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
「流石よね様!さあ早速俺だけにそっと耳打ちして教えるんだその情報を高額で連中に売ることで二人で大金持ちになろう!」
【生天目ちゃんを押しのけて自分だけ助かろうと擦り寄る】
281
:
18 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/01/17(月) 22:57:41
【現在地ホール1F:天野、御前等、佐藤、生天目、吉野】
ホールの通路に円陣を組んで、鬼ごっこの情報を交わす一同。
黙ってひとみの話を聞いていた吉野きららが不意に口を挟む。
>「私があのネズミに捕まりますわ。もしもまた同じ事が起こったなら、
>何が原因だったのかを見極めて下さい。起きなかった時は……
>尻尾を切り落としてもう一度ですわ。ネズミがこちらの思惑に気付くまで、ですけど」
話を遮られたひとみは、チラと横目で少女を睨んだ。
しかし表情とは裏腹に、今では吉野きららの冷静さに一目置いていた。
誰かを殺して―――他人を貶めてこそ幸福に至れる、と信じていた女である。
ひとみの感覚からすれば、馬鹿馬鹿しい信条ではあったが、
だからこそ幸福の為には犠牲を惜しまぬ胆力を生むのだろうか。
「あんたを囮にして謎を解け……って意味…?あんたが囮って点は悪くない考えだけど、
再現しようにも、何を再現のポイントにするべきかハッキリしないこの状況じゃあね…
分かっている事と言えば、天野君が調理室、
よね君とそのクズ(御前等)がライブラリに侵入したタイミングでネズミが消えたって事だけ。
そうそう何度も『あのネズミ』が騙されてくれるとも思えないし…上手くやれて2度が限界ってとこじゃない?」
吉野に向き直り、ひとみは尋ねる。
「それとも、何を『再現』するべきか、あんたにその考えがあるって言うの?」
―――そんなやり取りの最中、ホールの両開き扉が細く開き、蛍光灯の白い光が流れ込む。
開いた扉の前に立っているのは、よねだ。
>「ああ、皆さん、ご無事で」
>「心配しました。わた…いえ、自分だけ孤立してしまっていたようですね。ご迷惑をお掛けしました…申し訳ありません」
近づいて来る、よね。
密かにフルムーンを背後に回らせて確認するが、鬼化の要素は見られない。
つい数分前まで三階で孤立していたはずのよねが、都合良くホールに現れた事に不審を感じないでもなかったが、
鬼化していない彼に、これ以上疑念を持つ必要もない。
ひとみはよねに問いかけた。
「よね君…丁度良かったわ。あんたに聞きたいことがあるの。
あんたさっきまで3階のスポーツジムにいたわね……?その前は4階の簡易図書室(ライブラリ)いた。
大方、鬼化したこの男(御前等)に襲われてあの部屋に入り込んだんだろうけど…この馬鹿が何も覚えてないっていうのよ。」
御前等を指差し軽く舌打ちして、言葉を続ける。
「だからよね君、その時の行動を出来るだけ詳しく教えてくれない?
特にライブラリに入り込む前後の行動を……そもそも何のために4階に行ったのか…それも聞いておくわ。」
282
:
19 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/01/17(月) 22:58:25
―――― 一通りひとみの持ちかけた質問に応えたよねは、暫し沈黙した。そして、おもむろに口を開く。
>「…そうだ。一つ良いお知らせがあります」
>「…もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
にわかに信じがたい一言。ひとみは呆気に取られ言葉を無くした。
生きてここから脱出する方法などハナから分かっている。
ネズミの本体を見つけ出して叩きのめす―――
ゲームのフィールドである『場』を取り仕切り、尚且つ不死身のスタンドであるネズミを攻略するには、本体を叩くより他にない。
よねはそれ以外に脱出の道を見つけたとでも言うのだろうか?
有葵と御前等が、よねに駆け寄り、脱出の方法を問い詰めている。
時同じく――――スポットライトを破壊された暗い舞台上には、モヤモヤとした白い霧が渦巻いていた。
【吉野さんに『再現』の具体的な方法を質問…しかし答えづらいタイミングだと思うので暫し保留しましょーか?】
【そのうちまた持ち出すので考えといてくだしい】
【よね君にライブラリで何してたのか、何しに行ったのか質問】
【次のターン指定は、よねさん!―――の部分(質問)の答えが得られないと時間軸が入り組んでややこしくなるのでw】
【同じく時間軸が入り組むと、いつ、誰が何をしているのか、分かりづらくなるのでネズミ登場は次レスで〜】
283
:
21 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/01/17(月) 22:59:15
よねは動揺していた。
あまりにも呆気なく佐藤たちの中に溶け込めた。
だが、逆にそれがよねを追い詰めていたのだ。
失敗は許されない…という意識がよねにはあった。
/「よね君…丁度良かったわ。あんたに聞きたいことがあるの。
そう佐藤から問われた、よねは余裕を装いその質問に答え―られなかった。
よね自身も御前等と同じく、体を奪う前の記憶など殆ど無いに近い。
今のよねが自分自身の体、またそれをコントロールする大脳の使い方を完全に取り戻せたのならば思い出せるだろう。
だが、そんなことは不可能であった。
(ら、ライブラリに入り込む前後……?何のために4階に行ったかだと…?…クソッ!このクソ女めッ!!余計な事を聞くな、チクショウッ!)
ここで答えられなかったならば――よねに待っているのは"破滅"のみだ。
答えられなかったくらいで佐藤らはよねを殺しはしないだろう。
だが、ザ・ファンタジアが現れる様子も無い。今ここでしくじれば一網打尽の計画も全て崩れてしまうのだ。
「何のために4階に行ったのか……ですか。単純な理由ですよ。やはり女性や、自分よりも若い人を4階まで昇らせるのはどうかと思っただけです。
もちろん、エレベーターを使うというのも手でしたが、この空間で使えるかわからなかったもので…先走ってしまいましたね。
そもそも時間は限られてるわけですし、自分が鬼ならスタート地点から最も遠い所に隠れる、というのも選択肢としてはアリですし。
ライブラリに入る前は…」
(考えろ考えろ……入る前だ、入る前…御前等は何も覚えていない……考えろ…)
一度間をおいてしまったよねだが、
出来る限り自然になるように再び口を開いた。
「ライブラリに入る前は、4階を虱潰しに探索していました。鬼らしき人物は確認できませんでしたが……
そして突然、鬼となってしまった御前等さんに。その後はしばらく御前等さんと戦って、ライブラリへ。
そこでかなり追い詰められてしまったので命からがら逃げ出してきた……という訳ですよ。燃やされたんです。この帽子のコゲを見てくださいよ……」
上手く言い逃れれたか、と安堵し溜め息をつきかける。が、それも制止した。
284
:
22 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/01/17(月) 22:59:52
――――
一通り、質問に答えた後。しばらくの沈黙を破ったのはよねだった。
「…そうだ。一つ良いお知らせがあります……もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
追い詰められたよねは自らチャンスを作りに出た。だが、もちろん脱出する方法などよねは考えてもいない。デタラメである。
と、途端に生天目と御前等が近付いて、その方法をよねに問い詰めた。
「ま、待ってください。今説明しますから」
まず、と小さく呟いてから、それらしく見せるためにポケットから、食べずに綺麗に折り畳んでいた"契約書"を取り出した。
「…今思ったのですがとんでもなく馬鹿げた考え、簡単にいうとトンチです。
その上ギャンブル要素があります。気を楽にして聞いていただければ幸いですが…
この契約書を覚えていますか?
契約書にはこう書かれています。"第1条、甲は市民会館内部に創造された『場』の支配権を有する"と。
即ち、市民会館を『場』と扱い、その中ではエイドリアン・リムの支配が及ぶわけです。
何が言いたいか、お解かりでしょうか?
つまり………」
ゴクリと唾を飲み込む。よく自分でも咄嗟にここまで考えられたものだ、とよねは自分自身を賞賛した。
「"市民会館自体を無くしてしまえばいい"のです。
そうすることでエイドリアン・リムの支配権は失われる、
と同時に『場』自体も崩壊するワケですから、外に出ても問題ない……ハズです。
ただ…ギャンブル要素と言ったのはこの表記です。
"市民会館内部に創造された"…これはつまり、"市民会館内部という限定的な空間のみでしか『場』は存在し得ない"のか、
それとも"『場』は市民会館に内包されているだけで因果は無い"というニュアンスを含んでいるのか……それが解らないのです」
全てを説明した後よねは、すいません、と謝った。
(これではまるで私がコイツらの仲間になったようではないか……)
修羅場を越えたよねの頭には様々な情報や考えが飛び交っていた。
【質問に答え、不確定な情報だが脱出方法を提示】
285
:
23 :佐藤ひとみ ◇tGLUbl280s
:2011/01/18(火) 23:01:22
『市民会館から脱出する方法がある』―――
有葵と御前等に乞われるまま、よねはその"方法"を語り始めた。
>「"市民会館自体を無くしてしまえばいい"のです。
>そうすることでエイドリアン・リムの支配権は失われる、
>と同時に『場』自体も崩壊するワケですから、外に出ても問題ない……ハズです。
>ただ…ギャンブル要素と言ったのはこの表記です。
>"市民会館内部に創造された"…これはつまり、"市民会館内部という限定的な空間のみでしか『場』は存在し得ない"のか、
>それとも"『場』は市民会館に内包されているだけで因果は無い"というニュアンスを含んでいるのか……それが解らないのです」
よねの説明が途切れ、再び沈黙が訪れた。黙って耳を傾けていたひとみは口を挟む。
「"市民会館自体を無くしてしまえばいい"…それって建物を壊す…壁や窓を壊して脱出するってこと?
それとも一瞬の内にパッと会館自体を消してしまえばいいって意味なの?
前者はギャンブルの中でもかなり危険な賭けね。
覚えてない?ゲームが始まって直ぐ、私は窓を開けてフルムーンの触手を外に出してみたわ。
外気に触れた触手は霧化して崩れた。
『開けた窓』と『壊した窓』、どれ程の差があるものか……
いきなり壁をぶっ壊して、外気に身体が触れた途端、霧になって蒸発…なんて、たまったもんじゃないわ。
後者はリスクを除外して考えても、そんなことが現実に可能なの?
いくらよね君の能力が万能だからって、4階建ての建物を一瞬で消去したり、別のものに変質させるなんて
そんな都合のいい事が出来るの?」
それにしても今日のよねは饒舌すぎる。いつもの彼とて寡黙ではないが、
実現すら難しい『方法』に拠った希望的観測を長々と披露するほど現実逃避に走るタイプではない。
閉鎖空間におけるゲームで精神が疲弊してしまったのか、焦っているのか…?
「イチかバチかのギャンブル頼みなんて、よね君らしくないわね。
それに、何故私がライブラリ入室前後に限定して『4階で何をしていたか』を尋ねたのか、質問の意図を聞かないの?
タイムリミットが迫って焦るのは解るけど、冷静さを損なうとそれだけ生き残りの道は険しくなるだけよ」
ひとみ自身の焦りもあって、口調は徐々に詰問めいてくる。
その時―――
『メーーーガーーーネーーーー君ーーーーー♪♪』
独特の甲高い声がホールに響いた。
壊れていた筈のスポットライトが光を取り戻し、舞台を照らしている。
光の円の中心に立っているのは、白い『あのネズミ』だ。
『くひひっ♪ウッカリ距離感を間違えて、こんな所で実体化しちゃったよぉ〜〜♪
ここからじゃあ遠すぎて誰も捕まえられないナァ〜〜♪
メガネ君、君の能力で奴らの動きを封じてくれないかナァ〜〜♪
頼むよぉ〜♪メガネ君、僕達オトモダチじゃ〜〜ん♪』
ネズミは舞台の上から動こうとしない。にやにやと嫌らしい笑みを顔に貼り付けてよねを見つめている。
額と鼻に刻まれた幾本もの皺が、白い笑顔の悪辣さをことさら際立たせていた。
286
:
25 :吉野 ◇HQs.P3ZAvn.F
:2011/01/19(水) 22:52:59
>「それとも、何を『再現』するべきか、あんたにその考えがあるって言うの?」
「生憎ですが、そこまではありませんわ。ただ、先程と出来る限り条件を揃えてやれば、
もしもそれで成功したのなら僥倖。失敗したのなら、そこには何か条件が足りなかったと言う事になります。
その真空地帯を浮き彫りに出来るのなら、と思ったのです」
要は成功には勿論、失敗にだって必ず理由がある。
その理由を明確に突き止める事が出来れば、結果的に成功に歩み寄れるのではないかと言う事だ。
提案の根幹にあるのは、人を不幸にする事で相対的な幸せを目指した、彼女の逆説の思考回路だ。
>「…そうだ。一つ良いお知らせがあります……もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
合流したよねの言葉に、吉野は微かに反応を示した。
自分が囮になる事なく脱出出来るなら、当然それが最良だ。
だが無条件に食い付いたりは、しない。
彼女は佐藤と同じく、思考を基本的にはロジックの積み重ねによって為していく人間だ。
しかし彼女が問いを発する前に、佐藤がよねを問い詰める。
故に吉野は沈黙を守る結果となった。
>『くひひっ♪ウッカリ距離感を間違えて、こんな所で実体化しちゃったよぉ〜〜♪
ここからじゃあ遠すぎて誰も捕まえられないナァ〜〜♪
メガネ君、君の能力で奴らの動きを封じてくれないかナァ〜〜♪
頼むよぉ〜♪メガネ君、僕達オトモダチじゃ〜〜ん♪』
彼女の沈黙は『ザ・ファンタジア』が現れても、
如何にも「よね」が味方だと言わんばかりの言動が続いても、守られた。
彼女は依然沈黙したまま、だが密かに、無事な右手をポケットに潜らせて予備の果物ナイフを握った。
【質問に答えつつ、割り込ませていただきました】
287
:
26 :よね ◇0jgpnDC/HQ
:2011/01/19(水) 22:53:45
/「"市民会館自体を無くしてしまえばいい"…それって建物を壊す…壁や窓を壊して脱出するってこと?
即興で考えた適当な方法だというのに佐藤らは真剣に考えている。
「そこまでは考えていません。ですが、契約に"内部を『場』とする"とありますから、今我々が居る場所を"内部"でなくしてやれば良いと思っているのです。
そうですね……窓を壊す、も建物を消すも正解のようで不正解です。一気に倒壊させる、と言いましょうか。
なにより、『窓から手を出す』という行動は能動的です。それに対し、例えば今ここで我々が立ったまま急に建物全体が崩れ始めたら…
受動的で自ら望んで外に出たわけでもなく、かつ既にそこは"市民会館内部"ではないわけですから。
とはいえ、やはりそんなことは不可能ですね。
自分一人の力では……あるいは全員が力をあわせればなんとかなるかもしれませんが」
だが、よねはここで気付いた。
佐藤が何か腑に落ちない様子だということを。
それでもよねはあくまでよねであり続ける。冷静を装い。平然と。
/ それに、何故私がしつこく『4階で何をしていたか』を聞いたのか、質問の意図を聞かないの?
「質問の意図……ですか。……確かに冷静でなかったかもしれませんね。すいませ――」
その時だった。
/『メーーーガーーーネーーーー君ーーーーー♪♪』
聞き覚えのある声がよねを現実に引き戻した。
そうだ、私は生きてここから出るのだ、と。そしてその為には目の前の佐藤らを陥れる必要があるのだ、と。
/ 頼むよぉ〜♪メガネ君、僕達オトモダチじゃ〜〜ん♪』
そう聞くと、よねは遂に決心した。
動きを出来る限り悟られないように、最も脅威となるであろうスタンド使い―頭が切れ、カンも鋭く何より厄介な能力を持つ佐藤―の背後に近付いて足元の床に手を付いた。
「悪く思わないでくださいね……Sum41 Re・Birthッ!!この床は水に変化するッッ!」
Sum41は対象が無生物である場合、書き換えの範囲を決めることが出来る。
かつて、暴風と突風のスタンド"イダテン"を操る老人、秋名高次との戦いにおいて重宝した能力のルールである。
そして佐藤の足が水となった床に沈んだのを確認すると、
「Sum41ッ!この水はチタンになるッ!」
チタンはよねが知る限り、強度が通常の金属よりも高い金属である。
そこに足が埋まってしまっている。徳井の能力があったならばそれすらも無意味な抵抗であっただろう。
そして佐藤という一つの司令塔の動きを止めることで、今後の戦闘を有利に運べる。そうよねは判断したのだ。
「覚悟は良いですね……すいません、騙したようで。皆さんが助かる希望なんてもう無かったんですよ。
……災厄の元凶、パンドラの箱を開けて最後に出てきた物は"希望"。真の"絶望"とは、その"希望"すらも失われること……」
ちらりとザ・ファンタジアの方を見る。
「出来る限り早く佐藤の始末をよろしくお願いします。私は他のスタンド使い達を……」
だが、よねは知らなかった。
吉野が、ここに"人間を殺す"つもりで来ているということを。そして、ポケットには鋭利なナイフを忍ばせているということも。
その上、生天目や天野の能力を直接見たことが無かったのだ。
それがよねにとっては大きな痛手になるかもしれないというのに。
【佐藤さんを拘束。よねは吉野さんが能力を失っていることと、生天目さんと天野さんの能力の正体を知りません】
288
:
27 :生天目 ◇BhCiwB2SCaJ5
:2011/01/19(水) 22:54:16
>『くひひっ♪ウッカリ距離感を間違えて、こんな所で実体化しちゃったよぉ〜〜♪
ここからじゃあ遠すぎて誰も捕まえられないナァ〜〜♪
メガネ君、君の能力で奴らの動きを封じてくれないかナァ〜〜♪
頼むよぉ〜♪メガネ君、僕達オトモダチじゃ〜〜ん♪』
「!!…なんか様子がおかしいって思ったらそういうことだったのねーッ!?
…ってことで私は逃げるから、じゃ。」
踵を返し皆に背をむけた生天目は、よねの裏切りの行動を見ることもなく
ホールから飛び出すと廊下から佐藤に携帯電話をかけた。
「もしもしひとみん?わたしです。有葵です。これから私は調理室とライブラリーにいきます。
あの時、誰かがそこに行ってネズミが消えたのなら、私が行ったらもしかしたらまたネズミが消えるかもしれません。
これってありの作戦でしょ〜?」
天野+吉野+記憶のない御前等+黒よね+佐藤の言葉×1時間=それが今の生天目のだした答え。
佐藤のスタンド地図で部屋の位置をある程度覚えていた生天目はまず始めに調理室にむかうらしい。
選択肢①
佐藤さんが生天目を一喝して引き返すように促す。
選択肢②
数分後。調理室に入った生天目から携帯電話。(時間軸。佐藤さんの任意のタイミングに合わせます)
調理室からの生天目電話「調理室につきました!ネズミは消えた?」
選択肢③
調理室で消えなかった場合。さらに数分後。ライブラリに到着。
ライブラリからの生天目電話「なんだこりゃ!?ライブラリにつきました!ネズミは?」(時間軸。同じく佐藤さん合わせ)
【生天目ホールを飛び出しました。後手キャンありです】
289
:
28 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/01/19(水) 22:54:46
>「心配しました。わた…いえ、自分だけ孤立してしまっていたようですね。ご迷惑をお掛けしました…申し訳ありません」
. . . . .
「初めまして。あなたがよねさんですね? 僕は天野晴季と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
天野たちは吉野以外全員ホールで一度会っている。にもかかわらず天野は「初めまして」と挨拶した。それも、本当に初対面のように
天野はなんとなく、このよねとは初めて会った気がしたのだ。だが、あくまで何となく。要するに勘である。なので天野はそこまで気にかけていなかった
だが、無意識のうちに「初めまして」と挨拶してしまった。自分でも気づかぬうちに
>「俺の名前をそんなメインなのに空気的扱いを受けている不遇のキャラみたく呼ぶんじゃあない。
イケメン谷ハンサム太郎――これこそが俺の本名でありソウル・ネームだ。コレ以外の呼称は許可しないッ。
人によっては御前等祐介などという偽名で呼ぶ輩がいるにはいるが、そんな連中の戯言など二秒で聞き流すが良い!」
「なるほど。よく分かりました。イケメン谷(笑)ハンサム太郎(笑)こと御前等祐介さんですね。これからは御前等さんと呼ぶことにします」
>「え?え?なに、今難しい話する空気?仕方あるまい天野くんあっちで俺と今季のアニメについて論を交わそうじゃないか」
御前等がなにやら誘ってきた。なので、
「ああ、そういえば銀魂4月からアニメ再開決定したらしいですね。楽しみです。早く4月にならないかなー。でもこの話はまた今度で」
取り合えず話に乗りつつ、真面目な方向へ持っていった
>「…そうだ。一つ良いお知らせがあります」
>「…もしかしたら、全員生きてここから脱出できるかもしれないんです」
よねが興味深いことを言ってきた。咄嗟の思い付きだろうか? それともずっと前から考えていたのだろうか?
「!? 確実かはともかく、気になりますね。詳しくお聞かせ願えませんか?」
やはり気になった天野。詳しく聞いてみることにした
>「…今思ったのですがとんでもなく馬鹿げた考え、簡単にいうとトンチです。
その上ギャンブル要素があります。気を楽にして聞いていただければ幸いですが…
この契約書を覚えていますか?
契約書にはこう書かれています。"第1条、甲は市民会館内部に創造された『場』の支配権を有する"と。
即ち、市民会館を『場』と扱い、その中ではエイドリアン・リムの支配が及ぶわけです。
何が言いたいか、お解かりでしょうか?
つまり………」
>「"市民会館自体を無くしてしまえばいい"のです。
そうすることでエイドリアン・リムの支配権は失われる、
と同時に『場』自体も崩壊するワケですから、外に出ても問題ない……ハズです。
ただ…ギャンブル要素と言ったのはこの表記です。
"市民会館内部に創造された"…これはつまり、"市民会館内部という限定的な空間のみでしか『場』は存在し得ない"のか、
それとも"『場』は市民会館に内包されているだけで因果は無い"というニュアンスを含んでいるのか……それが解らないのです」
「…なるほど。確かにギャンブルですね。成功するかはともかく、僕はあまり好きじゃないですね…。
曲がりなりにも僕は科学者ですので、貴方の“市民会館という場が消えればエイドリアンの能力の効果も無くなる”という仮説を実証しないことには…
それにこの巨大な市民会館を消すだなんてかなり困難ですよ。まぁ、どこぞの負完全が『市民会館をなかったことにした』とかするなら話は別ですが、
僕達の中にそんな都合の良すぎるスタンドを持ってる人がいるなんてとても思えませんし…」
よねの提案に正直に意見する天野
「まぁ、でも視野に入れておくのも悪くないと思います」
が、やはり情報は多い方がいい。一応視野には入れておこう、と提案する
佐藤もよねにいろいろ問い詰めていた。と、その時…
>『メーーーガーーーネーーーー君ーーーーー♪♪』
>『くひひっ♪ウッカリ距離感を間違えて、こんな所で実体化しちゃったよぉ〜〜♪
ここからじゃあ遠すぎて誰も捕まえられないナァ〜〜♪
メガネ君、君の能力で奴らの動きを封じてくれないかナァ〜〜♪
頼むよぉ〜♪メガネ君、僕達オトモダチじゃ〜〜ん♪』
例のネズミが現れた。口ぶりからして、よねと協力しているようだ
「ああ、見つかってしまいましたね…! しかもあのスタンド、あらゆる攻撃を無力化できるみたいですし…かなりピンチですよね…!」
290
:
29 :天野晴季 ◇TpIugDHRLQ
:2011/01/19(水) 22:55:14
>「悪く思わないでくださいね……Sum41 Re・Birthッ!!この床は水に変化するッッ!」
>「Sum41ッ!この水はチタンになるッ!」
よねのスタンド能力だろうか。佐藤の足元の床が水になったあと、金属…チタンに変わった
「床が変化した? そんな何でもありのような能力なんですか!? いえ、でも何か対策法はあるはずです。だって彼は炎で帽子を焼いているんですから…」
天野は考えた。どうすべきかを。
(僕はまだよねさんに能力を見せていない…後はこのアドバンテージをどう使うか、ですが…。
少し見ただけでも彼の能力は厄介ですね…)
「フリーシーズン。こっそり湿度と温度を上げますよ。気づかれないように、ゆっくりと」
小さな声でフリーシーズンに命令する天野。ホールの湿度と温度がじわじわ上がっていく。
(さて、問題は佐藤さんをどう助けるか、ですが…。溶かすにしてもチタンの融点は1668℃。
僕のフリーシーズンで上げられる気温は最高で100℃までですから、とても届きませんね…
だったらチタンを温めて、その後急激に冷やしてみましょう。今僕に出来るのはそれくらいしか…)
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