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書き込みテスト
4007
:
尋常な名無しさん
:2021/11/23(火) 16:45:09 ID:HBpntXzM
申し上げます。
申し上げます。
旦那さま。
あの人は、酷い。
酷い。
はい。
厭な奴です。
悪い人です。
ああ。
我慢ならない。
生かして置けねえ。
はい、はい。落ちついて申し上げます。
あの人を、生かして置いてはなりません。
世の中の仇です。
はい、何もかも、すっかり、全部、申し上げます。
私は、あの人の居所を知っています。
すぐに御案内申します。ずたずたに切りさいなんで、殺して下さい。
あの人は、私の師です。
主です。
けれども私と同じ年です。
三十四であります。
私は、あの人よりたった二月おそく生れただけなのです。
たいした違いが無い筈だ。
人と人との間に、そんなにひどい差別は無い筈だ。
それなのに私はきょう迄まであの人に、どれほど意地悪くこき使われて来たことか。
どんなに嘲弄されて来たことか。
ああ、もう、いやだ。
堪えられるところ迄は、堪えて来たのだ。
怒る時に怒らなければ、人間の甲斐がありません。
私は今まであの人を、どんなにこっそり庇ってあげたか。
誰も、ご存じ無いのです。
あの人ご自身だって、それに気がついていないのだ。
いや、あの人は知っているのだ。
ちゃんと知っています。
知っているからこそ、尚更あの人は私を意地悪く軽蔑するのだ。
あの人は傲慢だ。
私から大きに世話を受けているので、それがご自身に口惜しいのだ。
あの人は、阿呆なくらいに自惚屋だ。
私などから世話を受けている、ということを、何かご自身の、ひどい引目ででもあるかのように思い込んでいなさるのです。
あの人は、なんでもご自身で出来るかのように、ひとから見られたくてたまらないのだ。
ばかな話だ。
世の中はそんなものじゃ無いんだ。
この世に暮して行くからには、どうしても誰かに、ぺこぺこ頭を下げなければいけないのだし、そうして歩一歩、苦労して人を抑えてゆくより他に仕様がないのだ。
あの人に一体、何が出来ましょう。
なんにも出来やしないのです。
私から見れば青二才だ。
私がもし居らなかったらあの人は、もう、とうの昔、あの無能でとんまの弟子たちと、どこかの野原でのたれ死じにしていたに違いない。
「狐には穴あり、鳥には塒、されども人の子には枕するところ無し」
それ、それ、それだ。
ちゃんと白状していやがるのだ。
ペテロに何が出来ますか。
ヤコブ、ヨハネ、アンデレ、トマス、痴こけの集り、ぞろぞろあの人について歩いて、脊筋が寒くなるような、甘ったるいお世辞を申し、天国だなんて馬鹿げたことを夢中で信じて熱狂し、その天国が近づいたなら、あいつらみんな右大臣、左大臣にでもなるつもりなのか、馬鹿な奴らだ。
その日のパンにも困っていて、私がやりくりしてあげないことには、みんな飢え死してしまうだけじゃないのか。
私はあの人に説教させ、群集からこっそり賽銭を巻き上げ、また、村の物持ちから供物を取り立て、宿舎の世話から日常衣食の購求まで、煩をいとわず、してあげていたのに、あの人はもとより弟子の馬鹿どもまで、私に一言のお礼も言わない。
お礼を言わぬどころか、あの人は、私のこんな隠れた日々の苦労をも知らぬ振りして、いつでも大変な贅沢を言い、五つのパンと魚が二つ在るきりの時でさえ、目前の大群集みなに食物を与えよ、などと無理難題を言いつけなさって、私は陰で実に苦しいやり繰りをして、どうやら、その命じられた食いものを、まあ、買い調えることが出来るのです。
謂わば、私はあの人の奇蹟の手伝いを、危い手品の助手を、これまで幾度となく勤めて来たのだ。
私はこう見えても、決して吝嗇の男じゃ無い。
それどころか私は、よっぽど高い趣味家なのです。
私はあの人を、美しい人だと思っている。
私から見れば、子供のように慾が無く、私が日々のパンを得るために、お金をせっせと貯ためたっても、すぐにそれを一厘残さず、むだな事に使わせてしまって。
けれども私は、それを恨みに思いません。
あの人は美しい人なのだ。
私は、もともと貧しい商人ではありますが、それでも精神家というものを理解していると思っています。
だから、あの人が、私の辛苦して貯めて置いた粒々の小金を、どんなに馬鹿らしくむだ使いしても、私は、なんとも思いません。
思いませんけれども、それならば、たまには私にも、優しい言葉の一つ位は掛けてくれてもよさそうなのに、あの人は、いつでも私に意地悪くしむけるのです。
一度、あの人が、春の海辺をぶらぶら歩きながら、ふと、私の名を呼び、
「おまえにも、お世話になるね。おまえの寂しさは、わかっている。
けれども、そんなにいつも不機嫌な顔をしていては、いけない。
寂しいときに、寂しそうな面容おももちをするのは、それは偽善者のすることなのだ。
寂しさを人にわかって貰おうとして、ことさらに顔色を変えて見せているだけなのだ。
まことに神を信じているならば、おまえは、寂しい時でも素知らぬ振りして顔を綺麗に洗い、頭に膏あぶらを塗り、微笑んでいなさるがよい。
わからないかね。
寂しさを、人にわかって貰わなくても、どこか眼に見えないところにいるお前の誠の父だけが、わかっていて下さったなら、それでよいではないか。
そうではないかね。
寂しさは、誰にだって在るのだよ」
そうおっしゃってくれて、私はそれを聞いてなぜだか声出して泣きたくなり、いいえ、私は天の父にわかって戴かなくても、また世間の者に知られなくても、ただ、あなたお一人さえ、おわかりになっていて下さったら、それでもう、よいのです。
私はあなたを愛しています。
ほかの弟子たちが、どんなに深くあなたを愛していたって、それとは較べものにならないほどに愛しています。
誰よりも愛しています。
ペテロやヤコブたちは、ただ、あなたについて歩いて、何かいいこともあるかと、そればかりを考えているのです。
けれども、私だけは知っています。
あなたについて歩いたって、なんの得するところも無いということを知っています。
それでいながら、私はあなたから離れることが出来ません。
どうしたのでしょう。
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