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なんでも投下スレin避難所2
387
:
名無しさん@避難中
:2014/09/17(水) 21:34:19 ID:3uVNsryY0
ぜったいシカ嫌がるwww
388
:
名無しさん@避難中
:2014/09/18(木) 21:09:30 ID:sE.fNt1k0
「なるほど。話はわかった」
目の前に置かれた長い机には赤い布が被せられていて、物がないなりの工夫で気品を出している。
出された飲み物もおそらく貯蔵してあった果実酒なのだろう。赤く濃いそれはまるで血液を彷彿とさせた。
ソーニャが居心地悪そうに椅子に座りなおす。すると同じように机に着いている何人かがこちらを睨み付けてきた。
「和平交渉か。よもや怪物側から持ちだしてくるとは思わなかったぞ」
ソーニャ達怪物勢力は吸血鬼の提案した和平交渉をなんと承諾した。無論反対する者もいたが多くの怪物達は
全滅させられるよりかはマシだと判断したのだ。翌日には代表の三人が都市へと交渉に向かった。
入る前から聖女に探知され、兵士が来たときは一悶着あったがどうにか会談の席にまではこぎつけることが出来た。
怪物代表として連れてこられたソーニャ、吸血鬼、魔術師の三人が人間の代表であり今回最初に遣わされた聖女の正面に座り
その両脇をずらりと神の兵達が座っている。少しでもおかしな動きをすれば即刻殺される状況だ。
「この世界にはかつて五つの都市と二十の町。三百以上の村が存在したと言う。だが現在確認できたのは
二つの都市だけだ。おそらくは世界の人口も百分の一にはなってしまっただろう」
正面に座る聖女が語るように話す。会話するには少し離れているが部屋の構造のせいなのか、魔術の一種なのか
声はよく響き、聞き漏らすことはない。
「残りは二つまで追い込んで自分達が不利になったら『ごめんなさい、許してください』か。随分と身勝手なものだな。
もしも今回これだけの兵達が遣わされることがなかったら貴様らは人間が何を言おうが殺していたのではないか?」
「否定しません」
「そもそもな、これは交渉になどなっていないのだ。我々がそれに同意して得られるものはなんだ? 貴様らの活動できる
ごく僅かな時間の安全か? そんなもの貴様らを根絶やしにすれば得られるものだろう」
彼女の言う通りだ。怪物達の活動時間は大量の兵の誕生によりとても短くなっている。人間である魔術師は平気でも
比較的太陽に強い吸血鬼ですら日光を遮らないと昼間は当然として夜すらも月の影響が強すぎて、満足な活動が出来ない。
全ての怪物が活動できる時間は今となっては本当に深夜の短い時間だけになってしまった。
そして今の人間達にはその短い時間の安全を取り戻すだけの戦力を持っている。交渉を受けて得するとしたら討伐
しなくて済むから多少の時間の節約になる程度だ。しかし怪物達がいつ裏切るともわからない約束。とても受けるとは思えない。
「生存した民の中には怪物に親兄弟を殺された者もいる。ここで貴様らの首を撥ねて、それを手土産に怪物達を殲滅しに行きたい
と望んでいる者もいるだろう。それなのに和平交渉とは本当に笑わせてくれるな」
彼女は目の前に置かれた飲み物を少し飲んで、一呼吸をつく。
交渉は決裂に終わる。誰もがそう思っていた。
「わかった。降伏を承諾しよう。ただしこちらからの条件には従ってもらうぞ」
その場にいた全ての人間の動きが止まった。誰しもがその言葉を理解するのに数秒の時間を要した。
「ちょ、ちょっと待て。今なんて言った」
理解がみなより少し早かった騎士の一人が聞き返す。
「降伏を承諾すると言ったのだ」
「なんでそうなるんだ」
彼女はみんなの慌てようを楽しむように小さく笑う。言葉遣いもそうだがとても聖女には見えない仕種だ。
「我々は神に選ばれし兵である。ならば怪物共は当然として普通の人には選択しえぬ選択を取るべきだと思わんか?
ならば私の取る選択は蹂躙でも復讐でも、あるいは騙すことでもない。許すことなのだ。
しかし当然ながら厳しい罰は出させてもらう。もちろん全員が自害しろなどと無茶な事を言うつもりはない」
誰もがその言葉に反論を唱えない。いや、唱えられなかったのだ。先ほどまで人の悪そうな笑い片をしていた
その女は――今はその顔に静かな微笑みを湛え、名の通り聖女であったからだ。
「命の危険を犯してまで取ったこの行動が、その心より出た真の行動であると信じ、その勇気を報おう」
389
:
名無しさん@避難中
:2014/09/18(木) 23:47:24 ID:2Ak7lf060
なんと
390
:
名無しさん@避難中
:2014/09/19(金) 23:43:01 ID:GB04gE.E0
数万年に及んでいたとされる戦いは呆気なく終わりを告げた。しかしこれも仮初の平和かもしれない。
だがとりあえずは、具体的には神の兵が少なくなるまでは保たれるであろう平和だ。
怪物達は出された条件に従い、世界の端っこにあるという無人島に全員が押し込まれた。
聞いた話ではそこそこ大きさがあり、暗がりも多いので悪くは無いらしい。
また使役していたゾンビや死霊は全て完全なる死を与えられ、吸血鬼が管理していた生きた人間も返還された。
人間がいないのでは吸血鬼が死ぬのではないかと思ったが魔術師達は人間だし、人間と吸血鬼は子供を産むことが出来る
らしい。私を縫い付けたあの魔術師もいつも黒い布切れを被っていたが中身は若い女子だったはずだ。頑張れと応援しておこう。
吸血鬼の研究については全て聖女側に報告書という形で伝えられた。この報告書は人間側でもごく一部にしか内容を知らされることなく
閲覧禁止資料として町のどこかに封印されたようだ。聖女曰く「混乱を招きかねない」とのこと。確かに神を崇拝する普通の人間が
見るには少し過激な内容だったのかもしれない。神が全ての黒幕なわけだし。
都市の復興は徐々に進みつつある。人々の顔は活気と希望に溢れ、町全体が生き生きとしている。人類は輝かしき未来へと歩き始めたのだ。
こうしてこの世界の物語はひとまずの終了を迎えた。
391
:
名無しさん@避難中
:2014/09/19(金) 23:44:18 ID:GB04gE.E0
ここからは非常にどうでもいい話だが怪物達側に出された条件である『無人島への隔離』『使役している全てのゾンビ、死霊達への完全なる死』
『管理している生存者の返還』以外にもう一つあった。
それは私、つまり『シカ・ソーニャの身柄の引渡し』だ。理由としては「シカ・ソーニャは元々神の兵としてここに来たわけだから我々の元にいるべきだ」
とのこと。吸血鬼に言っていたことは正しかったようだ。そして怪物達側は二つ返事で了承した。
「おい! 私はやだぞ! なんで私だけ敵側に引き渡されなきゃいけないんだよ!」
「仕方あるまい。条件なのだ。みなのために犠牲になってくれ」
「ちゃんとあっちの長も理由を言ってただロ。まさかソーニャが間者だったとはナー」
当然のごとく私の意見は無視された。結構怪物側に貢献したと思っていたのだが、私には発言権や人望はなかったようだ。
そんなわけではぐれ怪物がいなければ、無人島に隔離されておらず、また存在する唯一の亡霊として、どういうわけか聖女の召使いをしていた。
もはや意味がわからなかい。怪物達の隔離が終わるまで地下牢に幽閉されていた私のところにやってきた聖女がドレスのような簡素な服を渡してきて
「早く着替えろ。召使いの仕事が待っているぞ」と言われた時の衝撃は誰にもわかるまい。わかってほしくない。その上、首には魔術の仕込まれた首輪
が付けられ、聖女の気が向いたら私の首が飛ぶようになっているそうだ。おかげで少しでも歯向かうと「そうかそうか。そんなに死にたいか」と脅してくる。
こちとら既に死んで亡霊化しているんだ。それでも死ぬのは嫌なので従うしかない。
今日も今日とて私は慣れぬ早起きをして聖女の身の回りの世話をする。
「私のかつて居た世界ではな、戦勝国は敗戦国の民を奴隷にしたりしていた。お前はそういうのと一緒なわけだ」
「あの時言っていた私が月の騎士云々は嘘なのか」
「あれは本当だぞ。最初にこの世界に送られたのは間違いなく私とお前だ。お前のほうが少し早かったようだがな。
驚いたぞ。来てみれば仲間のはずの騎士が既に裏切っていたのだ。本来であれば死罪に等しき大罪だぞ」
「その後すぐに二人目来たわけだしいいじゃねーか。殺したけど」
「そう考えるとむしろ殺さぬ理由もないな。やるか」
聖女が私を細く白い人差し指で指す。気のせいか息が苦しくなるほどの圧迫感を感じる。
「やめてくれ」
「既に一度死んでいるのだろう? 別に気にする必要もあるまいて」
「そうかもしれないけどそれでも嫌なの。そもそもお前だって死人じゃないのか」
「確かに私は一度死んだ。だがこの通り受肉している。お前はよほどまともな死に方をしなかったってことだろう」
「そんな理由なのか……?」
「いずれにしろ他の兵達も受肉しているし、お前だけが特例だということだろう。さて、湯あみでもしよう。服を持て」
「へいへい。この後、公務ないなら適当なのでいっか」
「お前のもだぞ」
「風呂ぐらい一人で入れよ」
「なんだか亡霊を消滅させたい気分になってきたぞ」
「はい、わかりました」
いつもこんな具合で脅してくる。私は毎回ぎょっとしてすぐに取り繕うが本当に消滅させる気があるのだろうか。
気になるが気軽には試せまい。
「それでよい」
ニヤリと笑うその顔は明らかに聖女のそれとは思えない。しかし一般人の前に出て、話をするときの彼女の顔は慈愛
に満ちたようなもので、もしかしたら多重人格じゃないかと思うときもある。
だがいずれにしろ、私が亡霊召使いソーニャであるのは当分変えられそうにない。
392
:
名無しさん@避難中
:2014/09/19(金) 23:47:08 ID:GB04gE.E0
これにて終了となります。長い間スレの独占化をしてしまい大変失礼いたしました。
今後このようなことが万が一あれば他のスレで投下します。申し訳ありませんでした。
では良い創作ライフを
393
:
名無しさん@避難中
:2014/09/20(土) 00:33:15 ID:KpyWTFJs0
メイドソーニャだと……!?
394
:
名無しさん@避難中
:2014/10/09(木) 01:02:12 ID:JCR969uY0
手を伸ばせば届きそうなほど低い雲が流れる、夜空のもと。
一人の男が岩だらけの草原を疾走する。
息を切らすふうでもなく、しかしその足はかなり速い。
どこかを目指しているわけではなかった。彼はただ、逃げていた。
肩越しに振り返れば、今しがた走ってきた道をたどり来る、追跡者たちの姿。
雲間から漏れる月光が頼りの夜闇にあって、その姿はおぼろげにしか見えない。
だが追われる者は、明るみの中で対峙した追手の姿を記憶している。
射しこむ光とよく似た、白銀の鎧。
繊細な装飾が施された鞘に納められている、幅広の剣(つるぎ)。
距離が開いていることを確認し、走り続ける逃走者。彼の姿はといえば、流れ者の代名詞たる
土色の外套をなびかせ、身を包むは着古した革製の上着と穴だらけのズボン。
これまた草臥れた靴を履き、手には滑り止めの付いた皮手袋。鎧の男たちと比べると、
襤褸同然のいでたちである。目にかかるほど伸びた髪と、顎のラインを縁取る無精髭が、
粗野な印象をさらに強めていた。
しかしながら、外套が翻るたびに覗くなにかがあった。
それは彼と後ろの男たちのささやかな共通点、美しい鞘に納まった幅広の剣。
闇の中の追跡劇は、身軽な逃亡者が逃げおおせるかに見えた。
だが、彼は突然歩みを止める。
追いついてきた鎧の男たちは罠を疑い、距離をとって標的を半包囲する陣形をとった。
しばらくして雲が切れ、柔らかな光が射してくるにつれて、外套の男が足を止めた理由が明らかになる。
背を向けて立つ彼のつま先で、大地が途切れていた。
外套の男は追手に向きなおると、すさんだ笑みを浮かべた――
さっきまで両の手を振って走っていた追跡者たちが、いつの間にか剣を抜いている。
文字通り崖っぷちに追いつめた鼠を逃がさぬよう、鎧の一隊はじりじりと距離を詰める。
数は四。追い詰められた側が、一戦交えるべきかと逡巡するうちに、相手から沈黙が破られた。
「……見下げ果てた男だ。死罪を恐れ、何より重んじるべき名誉を捨てて逃げ回るとは」
向かって左の男が発した声のようだったが、そこには失望と怒りと哀しみと憐れみと――
整理しえず、また言葉によっても定義できない感情が、冷たい炎のように渦巻いていた。
対し、面と向かって嘲られた男は、肩をすくめるだけで剣を抜こうとはしない。
皮肉るような笑みも、そのままに。
「まだ、そんないかれた騎士道を信奉してるのか。名誉は命より重いだの、
高潔な騎士は死したのち神になるだの――」
「黙れ! もっとも気高き騎士を……よりにもよって、
ジード・ウインチェスターを父に持つ貴様が、騎士団の典範を愚弄するなど!」
父親の名前を出された一瞬、青年の顔に憎悪がひらめいた。それは頽廃した薄笑いの仮面に
すぐ覆い隠されたが、垣間見せた眼光の鋭さは、鎧の男たちを怯ませるに足るほどのものであった。
殺気が生み出した硬直の刹那、ボロボロの靴が半歩後ろに踏み出す。彼の意図を悟った
騎士の一人が駆け寄ろうとするも、抜く手も見せず払われた剣の側面で右肩を強打され、
あわや断崖から落ちんというところまで転げた。陸地の終わりから覗き込む光景に、
途端に速まる心音。騎士はあわてて内陸側へ這い戻る。
追われる者は平然と、その縁から踵を飛び出させながら立っていた。その全体重は、
いまや両足の前半分だけで地に着いている。手にはやはり追手のそれと同じ得物。
戦闘用らしからぬ装飾が施された、両刃の剣が光る。
「気高き騎士、か。俺もあの日までは信じてたよ。だがな、敬虔な典範の信徒だった俺が、
最も大事なはずの名誉をかなぐり捨て、かつての仲間から逃げ回っているのは何故だと思う」
正面で彼と向かい合っていた騎士が、にわかに包囲を崩して間合いを詰めた。
後ろで束ねた長い金髪が風に揺れ、柔らかな銀の光に照らされた顔は若い。
白皙の美貌が、どこか傷ましい憎しみに歪んでいる。
「クリフ! 裏切りの由などッ!」
「待て、レヴィン! 奴は――」
仲間の制止を聞かず、若き騎士レヴィンが真っ直ぐに剣を突き出す。
だがそれよりも早く、クリフと呼ばれた男は背後の虚空に身を投げ出していた。
「復讐だよ」
制止する暇もなかった。風を切ってその身体が落ちていく音を耳にするに至って、
我に返ったレヴィンが縁から身を乗り出す。
すでに、眼下には落ちてゆく何者の姿も見えない。
ただいつの世も変わらぬ、白く波打つ雲海が広がるばかりであった。
(第一話『大空への船出』につづく)
395
:
名無しさん@避難中
:2014/11/01(土) 20:16:02 ID:eQwGYNgU0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org5392867.jpg
396
:
名無しさん@避難中
:2014/11/01(土) 20:29:45 ID:m6I8fHa60
事案発生wwwwwwwwww
397
:
名無しさん@避難中
:2014/11/02(日) 01:41:23 ID:7.gZIPgI0
うわあwwwwwww
398
:
名無しさん@避難中
:2014/11/27(木) 00:19:38 ID:uOQIQhHc0
意識が泥の中から静かに浮かび上がる。枕元にあるはずの時計は首の角度で見ることが出来ない。
少しばかし動けば見える。でも面倒だ。まとわりつく眠気を受け入れ、再び目を閉じる。
目を閉じたせいか、先ほどまで聞こえなかった音がする。雨だ。嵐と言うほどじゃないが小雨というほどでもない。
窓越しにサーと静かな音がする程度の雨。途端に気分は憂鬱になってきた。なぜ雨は気分を落ち込ませるのだろう。
こうして雨の音だけが聞こえる暗闇の世界にいると、知らぬ間にこの世は大洪水で流されたのではないかと想像してしまう。
でもだめだ。近くに川があるし、大洪水が発生したら私も流されてしまう。
いや、それもいいんじゃないかな。こうしてただただ眠りと覚醒を繰り返すだけならそうやって大洪水に流されるのも。
水に流されて、信号機とか近所のビルとかにぶつかりながらどこかへと流れ出す私。乱流が治まり、街灯に引っかかる私。
それを魚達が食べに来るんだ。そうやって魚達は力をつけて大洪水後の世界を支配するんだ。駅も学校も大きな百貨店も。
みーんなみんな海の底。魚達の住処。ショッピングモールを泳いでいくイルカが見えるに違いない。
私は水族館が好きだ。狭い水槽とはいえ、すいすい泳ぐ魚達は見ていて気持ちいい。ふわふわ浮くクラゲも可愛らしい。
地面に潜ったり、這ったりする虫とかはちょっとよくわからないけど、見ていて世界は広いなぁと思う。
動物園も好きだ。ちょっとに臭うけど像とかキリンとかでかいし、ライオンとかかっこいい。ヤギや羊はよくみると愛嬌がある。
パンダというのは見たことないがきっと可愛いに違いない。でも見るのに並ぶのかな。嫌だなあ。
私は人間以外の生物は好きなのだ。でも虫はちょっと苦手。足が多かったりするのはダメっぽい。
ふと鼻に今までと違う匂いが入ってきた。布団はいい香りだ。おかげでぐっすり眠れたのだ。芳香剤やお日様の匂いではない。
彼女の匂いがする。でも今の匂いは多分香草の匂いだ。彼女はそういうのが好きだから。空想に耽っている間に彼女がお茶の
用意をしたのだ。いや、私を起こさないように静かに準備してくれたのかな。彼女は否定するだろうけどそうやって人をさり気なく
思う心得を彼女は持っている。だから私は彼女が好きなのだ。
寝返りを打って、彼女の方を向く。二人分のカップと本を置いたら満員になる小さな机と今にも折れそうな華奢な椅子に腰掛ける彼女。
本を読みながら、カップを口に運ぶ所作は美しくまるでどこかの絵画のようだと毎回思う。
彼女が目線を上げて、私の顔を見ながら微笑む。
「おはよう。目覚めはどーだい?」
「おはよう。まだちょっと眠い」
「ならばもう少し寝ていれば良い。君を急かすものはここにはありはしないさ」
そう言って彼女はお茶を飲む。お言葉に甘えて惰眠を貪るのもいいかもしれない。でも彼女とお茶を飲める機会は多分今だけだ。
体をえいっと起こして、私はもう一つの椅子に座った。私のカップがお茶で満ちていき、それを口に入れたら心が満たされていく気がした。
習作 『憂鬱な寝起き』
399
:
名無しさん@避難中
:2014/12/14(日) 17:41:04 ID:8RvaQNzE0
「父王を弑せというのか。実の父親を、殺せというのか……」
テオドール・ゴットフリートはよろめいた。足元がおぼつかない。大地が消え失せ、心臓が浮くような墜落の感覚。
揺らぐ世界の中で、友の双眸だけが動かなかった。月光を跳ね返してきらめく翠の瞳が、
テオドールにいかなる現実逃避も許さなかった。
「それしか道はない。そして、君にしかできない」
冷徹な声が、苦悩せる王子を打ち据える。テオドールは友を恨もうとした。だができなかった。
少女めいた容貌の学友、ローラン・ローゼンクランツはいつも正しい道を知っている。
彼がそれしかないと言うのなら、ほかに取るべき方途などあるはずもないのだ。
「お父上はあまりにもたやすく譲歩しすぎた。彼はひとりの男として、父親としては善良だったが、
王座にあるべき器ではなかった。ダモクレスの剣に怯え、責任を取り除いてくれる強者が現れた途端に
嬉々として権力を譲り渡す……国民の憎悪が日に日に高まっていくのを肌で感じないか?
早晩、誰かがやるだろう。憂国の家臣か。怒れる民衆か。いずれにせよ、売国の王に未来はない」
父の行為を“売国”と表現したのは民意の代弁であり、ローラン個人の真意とは異なるはずであった。
それでも、テオドールの胸は痛んだ。ローランとて幼き日には、王宮の空中庭園で
父王が語る歴史物語に目を輝かせていたのだ……。
「だったら、私でなくてもいい。王子による父殺しなど、考え得る限り最悪の弑逆ではないか」
「いいや違う。聞け、テオドール。もし臣民が王を処刑したとなれば、それは
国民の手で、ゴットフリート王家による統治が否定されたということだ。
統一銀河連邦は政治的混乱の収束を掲げ、ここぞとばかりに介入してくるだろう。
奴らの思い通りに動く“民主主義的な”政府を立ち上げ、中央の巨大企業体群が
分社ステーションごと押し寄せてくる。自治権など在って無いようなものだ。
卓上で切り分けられるパイのように、国土と資源と人材が好き勝手に収奪され、リガローク王国は滅ぶ。
だが君が父王を討つなら、それはあくまで宮廷内部のこと、王族間の暗闘に過ぎない。
王座についてしまえば、国民は君を支持する。弑逆も父殺しも歴史の必然が正当化してくれる」
「それで彼らの介入を拒めると? 見通しが甘すぎはしないか、ローラン。
カーリンガルド星皇国を言いがかり同然の理由で攻め滅ぼした銀河連邦だぞ。
王位継承が不正に行われた、とでも言って無理矢理に介入してくるぐらい、やるかもしれん」
“不正によって王位を継ぐ”こととなる自分を揶揄しつつ、テオドールが反論を試みる。
ローランの眼に憐憫の影が差したと見えたが、彼が答えて明かす智謀は無慈悲をきわめた。
「僕のシナリオはもう動き始めている。王国解体に抵抗する右派貴族を抱き込み、
官僚どもを中心に、半年前から宮廷内部に切り崩しをかけてきた。王はもう孤立無援だ。
お膳立ては完璧に整っている。国の有力者すべてが王の死刑執行書にサインしているんだ。
あとは君がギロチンの紐を切って落とすだけ。政治的混乱などあるはずもない。
平民から大臣まで誰ひとり前王を擁護しないというのでは、連邦も介入の糸口を見つけられまい」
「……父を、もうそこまで追い込んでいたのだな」
刹那、二人の視線がぶつかった。氷と炎の交差だった。
「僕を恨むか、テオドール・ゴットフリート」
「いいや、恨まない。ローランが正しい」
「恨んでもいい。僕は国の未来のためと称して、もっとも残酷な役を君に割り振っている」
ふ、とテオドールが視線を落とした。俯く王子の秀麗な童顔に、覚悟の影が刻まれてゆく瞬間を、
ローランは戦慄とともに見守った。自分はいま、この誠実な学友を暗殺者に仕立て上げているのだ……。
「むしろ、感謝すべきかもしれん。いずれ誰かがやらねばならず、私こそが最適任である王家の汚れ仕事。
それを卿は、あえて陰謀家として使嗾してくれたのだろう。私ひとりに重責を負わせぬために……」
「買いかぶりすぎだぞ。僕はそこまでのお人好しじゃない」
「卿はそういう男だとも。知っているよ、ローラン・ローゼンクランツ」
テオドールは顔を上げ、諦めと悲しみ、そして確かに感謝を込めた微笑みでローランの献策に報いた。
「よい。臣民の旗頭となることが王族の務めであるなら、私は父に代わってその任を果たそう。
――明日、近衛兵団を率いて入城し」
父を殺す、とは言わなかった。それがテオドールの決意の形であった。
「……売国王、エルリッヒ・ゴットフリートを誅殺する」
400
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:21:52 ID:1jGjK.DY0
“新着メールなし”。
それが、すべてだった。
――これは、やっぱり“切られた”ってことだよね……。
解っていたつもりだけれど、あらためて思うと胸のあたりが冷えた感じがした。
メールを送ったのが今月アタマ、つまり2週間ちょっと前。
クリスマスまで、あと1週間もない。
きっと他の良い子がいたんだろう、“最初から”。
やるせなくなる。
――いっつもこうだ。上手く行っていたと思ったのに、いつの間にかダメになってる。
決定的な何かがあったわけじゃない。
向こうも、キライになったわけではないしわたしに落ち度があったわけでもないと言う(それはまあ、割り引いて考えるにしても)。
――だったら、付き合ったままでもいいじゃん。
そう詰ったこともある。今では、その言葉を吐いた自分を殴りたい。
お前とは別れても友達でいたい、気兼ねなく話せるし云々。
みたいなことも言われた。
――バッカじゃないの。
心底、そう思った。
そいつ自身と、そいつと付き合ってたわたし自身に。
12月に入ってから急に寒くなった。夜中の0時近くともなれば、さすがに冷え込んでくる。
スマートフォンのディスプレイには、友人の Instagram の投稿。
“イタリアンバルで、ちょっと早いX’masパーティー☆”だってさ。
コートを通して忍び込んでくる冷気が、いっそう惨めな気分にさせた。
401
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:23:43 ID:1jGjK.DY0
不意に、目の前に壁が現われて、ぶつかった。
「あっ、す、すみません」
ぶつかって、それがヒトの身体だったと気づく。
スマートフォンのディスプレイを見ながら歩いていて、気が付かなかった。
……訂正。
実は、気づいてはいた。
こっちに向かって歩いてくる男の人が自動販売機の明かりに照らされて見えたのを、目の端で捉えていた。
奇妙に思ったのは、その人がまるでうがいをしているみたいに目一杯、顔を上に向けながら歩いていたことだ。
――人通りの少ない夜とはいえ、ちょっとアレなヒトなんだろうか。だったらやだな、深夜だし。
そう思っていたのに、よりによってその男の人とぶつかってしまったのだ。
「ちょっと、ちゃんと前見て歩きなよ!」
イライラしていたので、思わずぶつけてしまう。
“歩きスマホ”の自分だって、他人のことは言えないのに。
「はい、すみません……」
男の人はしょげている。
背の高い、けどちょっと抜けていそうな男の子だった。
高校生だ。すぐに分かった。
去年わたしが卒業した高校と同じ制服だったからだ。
「あっと、お怪我はなかったですか」
その質問の間抜けさに、噴き出してしまった。
怪訝な顔をしている彼に、わたしは“後輩”気安さで尋ねる。
「ねえキミさ、あんなにあんぐり上を見上げながら歩いていて、危ないと思わない?」
嫌な訊きかただな、と思う。
案の定、彼はしょんぼりとしてスミマセンを繰り返すばかりだ。
402
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:26:30 ID:1jGjK.DY0
「何を見ていたの」
そう聞くと、彼が顔を上げた。
「星座を……この時間だと、よく見えるんで」
彼は至って真面目に答えた。
驚いた。
予想外過ぎる答えだった。
考える間もなく、わたしは次の質問をしていた。
「何が見えるの?」
彼はきょとんとしたのち、上を見上げて指さした。
「あれがオリオン座です。明るい星4つで四角をつくっていて、その中に星が3つ連なっていますよね」
――オリオン座くらい知ってるよ。
思ったけど、黙って先を聞く。
「そこから左下にもう一つ明るい星が見えますよね。おおいぬ座のシリウスです」
その名前は聞いたことがある。どんな星かは知らない。
「シリウスの左上の明るい星が、こいぬ座のプロキオン。これとオリオン座の右肩にあたるベテルギウスとで、『冬の大三角形』です」
それも聞いたことがある。きっと小学校の理科かなんかで習った。けれど、それをリアルで見ることが出来るとは思っていなかった。
ましてや、うちの近所で。
冬の夜空は、意外にも星がたくさん瞬いていた。
この辺は都会とは言えないけれど、都市も工場も住宅もあって、天体観測なんてできないと思い込んでいたのに。
「けっこう見えるものなんだね……」
わたしは思ったことを無防備に口に出していた。
「冬は空気が澄んでて、けっこう見えるんです」
彼としては誠実に答えたのだろうけど、“けっこう”を重ねたところが面白かった。
冬の午前0時には、オリオン座がちょうど頭の真上あたりに来る。
比較的見つけやすいオリオン座と、シリウスなど明るい星が周りに多いので、
この時間は星座を眺めるのに向いている時間なのだという。
403
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:29:24 ID:1jGjK.DY0
「キミ、N高校の生徒でしょ」
「えっ、なんで知ってるんですか?」
――制服見れば分かるっての。この子、大丈夫かな?
「あたし、そこの卒業生だから」
「あっ、じゃあ先輩ですね」
男の子は嬉しそうに言った。
――何をしてるんだろう。ここで、この“後輩”と仲良くなっても仕方がないのに。
ふと我に返って、
「じゃああたし、駅に行くから」
立ち去ろうとした。
「駅に行くならこっちが近いですけど……」
「え?」
初めて降りた駅だった。
バイトのヘルプで、いつもと違う店舗に来ていた。
帰りは駅までどう行けばいいか、店長が地図を持ちだして大げさに教えてくれようとしたのだけれど、
地図アプリで何とかすればいいと思って断ったのだ。
それが失敗だったらしい。わたしは見事に、自分の居場所を見失っていた。
結局、わたしは後輩の彼とともに駅に向かった。
あれこれ聞いてくるかな、と思ったけど、彼は何も聞いてこない。
かと言って黙りでもない。ここの犬は毎朝うるさいとか、誰々先生が健在だとか、無難な話題をポツリポツリ振ってきた。
わたしもそれに適当に答える。面倒くさいわけではないし、興味のない話題でもない。
駅に着くと、彼はここで別れるといった。
「僕の家、この近くなんで」
「ごめん、送らせちゃって」
彼はにっこり笑った。
高い身長に似合わない、子供っぽい無邪気な笑顔だった。
404
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:33:07 ID:1jGjK.DY0
電車に乗り、シートに腰掛けてほっと息をつく。
――彼女、いるんだろうな。
ふと思って、何を考えているのか、自分で自分を呪った。
――別に、どうこうなりたいわけじゃないし。
冷静になろうとした。心臓はトクトクと、いつもより大きく鳴っていた。
◇ ◇ ◇
23日になっても、向こうから連絡はなかった。“付き合ってる”というのは、わたしの勝手な思い違いだったみたいだ。
わたしはアドレスを消し、バイトに没頭することにした。
25日のシフトは急遽変更になって、前に行ったヘルプ店舗での勤務になった。
サンタ帽子を被って、売れ残ったケーキを売る仕事だ。
――これほど惨めなこともないよね。
自嘲と自棄を身に纏って、寒い店頭に立ち声を張り上げる。
何組ものカップルが目の前を通り過ぎる。
――かわいいとトクだよね。
そんなふうに思う自分が嫌だ。
けれど、現実はそうなのだ。かわいければすべてが許され、大事にしてもらえる……というか、粗末にされない。
――こんなだから、ダメになっちゃうんだろうな。
わかってる。でも、どうしたらいいのか分からない。
405
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:35:42 ID:1jGjK.DY0
腕時計を見る。
もう少しで上がりの時間だ。
ケーキはあと2個を残すのみ。これならノルマは果たしたと言えるだろう。
「あれ?」
不意に、目の前に背の高い人影が現われた。
「先輩、ここでバイトしてたんですか」
「うっさいなぁ。ケーキ、買いなさいよ。あと2個なんだから」
数日前に知り合った“後輩”に、また会ってしまった。
クリスマスの日にバイトをしている惨めな姿を、知り合いに見られたくないと思っていた。
けれど、不思議とわたしは嫌な気分にならなくて、ちょっと抜けてる“後輩”に遭遇したことを、面白がっていたりするのだ。
「これ売らないと帰れないんだよね」
「ええ、マジっすか! そりゃヒドい!」
――真に受けなくていいよ……。
苦笑する。
「じゃあ僕、買いますよ」
「ええ、いいよ! 無理に買わなくても」
「先輩、売らないといけないんでしょ?」
「そうだけど、無理に売りつけたいわけじゃないから!」
――この子は、本当にまっすぐだ。
すぐ捻くれた考えをしてしまうわたしとは、ぜんぜん違う。
朴訥とした容貌も、飾らない佇まいも、わたしには無いものだ。関わった友人その他にも、似た人は見当たらなかった。
406
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:37:59 ID:1jGjK.DY0
売れ残りのケーキをどうするか、真剣に悩んでいる彼の横顔を見ながら、わたしは何気ないふうを装って言った。
「じゃあさ、ワリカンでひとつ買おっか。それで、どっかで食べるの」
冗談っぽく言ったつもりだった。
買ったところで、食べるところなど無い。
24時間のファミレスに持ち込む訳にはいかないし、彼やわたしの家というのはもっと無理だ。
「あ、それイイですね。そうしましょう!」
彼は目を輝かせた。
そして、そのまま箱を持ってレジにずんずん向かってしまった。
◇ ◇ ◇
「先輩のお店じゃなくて恐縮なんですけど……」
彼が向かったのは、駅の反対側にある大きなコンビニだった。
店内にイートインコーナーがあり、カウンターではあるけれどちょっと落ち着けるスペースだった。
「たまに気分転換しに、ここでボーっとしてるんですよ。コーヒー飲みながら」
彼はケーキの箱をカウンターに置くと、飲み物を買いに行ってしまった。
――行くならわたしにも聞きなさいよ。
思ってからすぐに、
――こういう“採点クセ”がダメなんだよね……。
思って凹む。
気配りとかエスコートとか、必須じゃない。
気の利く人は嬉しいけど、それがなくても別の魅力があれば、ぜんぜん気にならない。
――“気が利かない”というのも、ちょっとかわいいしね。程度によるけど。
407
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:44:05 ID:1jGjK.DY0
カウンターで待つわたしのもとに彼は自分のコーヒーを持ってきて、そこで初めて気がついたようだった。バツの悪そうな顔をして、
「ごめんなさい、先輩のぶんも買ってくるんでした。コーヒーの他に紅茶もありますけど、僕がここ見てるので良かったら……/
「いいっていいって。じゃあ、買ってくるね」
苦笑いして、途中で終わらせる。
彼がいわゆる“気の利かないタイプ”だというのは分かった。
けど、それで何の問題が?
少なくとも彼は、ひとを粗末に扱ったり騙そうとしたりするひとじゃない。
「意外に、けっこう美味しいですね。コンビニのケーキなんて大したことないと思ってました」
「甘党なの? コンビニデザート、意外に侮れないよ」
「甘いモノはわりと好きですけど、コンビニでは買わないですねー」
レジでプラスチックのフォークをふたつ貰い、それをナイフ代わりにして、不格好に切り分けて食べる。
惨め、という感じは無かった。むしろ、子供の頃に戻ったような楽しさがあった。
「星座を見るのが好き?」
ケーキを食べ終えて、コーヒーと紅茶をたがいに飲みながら、なんとなく聞いた。
彼はちょっと考えて、
「そうですね……星座というか、宇宙のことが好きというか」
「“宇宙”かぁ。大きく出たね」
「ヘンですか?」
「ううん。宇宙の研究なんて夢があるな、と思って」
彼は俯いて、小さく言った。
「でも、きっと無理です。僕には……」
「なんでよ」
「僕の親、医者なんです」
408
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:48:01 ID:1jGjK.DY0
ああ、と納得。
どことなく育ちが良さそうなのも、どおりで。
「エリートじゃん」
「……そう言われるのが、すっごくイヤです。僕自身の力じゃないところで、そう見られてるのが」
そう言ってカップを口に運び、苦そうな、しかめっ面をする。
ミルクと砂糖、入れてあげようか。
「本当は理学部か工学部に行って宇宙工学をやりたいけど……、医学部を受けないといけないんです。
こんなの、ゼイタクな悩みかも知れないですよね。だから誰にも相談できない」
恵まれた環境にいる、というのを、彼は知っている。そして、それが “彼にとっては” 恵まれていない、ということも。
「勝手にしたらいいじゃん」
言い方がちょっときつくなってしまう。
彼は寂しげに笑って、
「そうですね……。父は勤務医なんですが、何も言いません。母は医者でもなんでもないくせに、医者になれとうるさく言ってきます。
親戚も同じで、正直ウザいです」
それはそうだろうな、と思う。
黙っていると、
「あっ、そろそろ電車無くなっちゃいますよ! 早く駅に行かないと」
壁の時計を見ながら、彼はケーキの箱を素早く畳んで立ち上がった。
わたしの記憶では終電まで30分以上あるし、本数が少ないから駅に行っても待つだけなのだけれど、彼が言うなら従おう。
◇ ◇ ◇
409
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:51:11 ID:1jGjK.DY0
駅に向かう途中、ふと夜空を見上げる。
教えてもらったオリオン座は、すぐに見つけられた。
視線を左に持って行き、青白く輝くシリウスを捉える。そこから上に上がって、ちょっとオレンジ色っぽく見えるのがベテルギウスだったっけ。
「『冬の大三角形』の見つけ方はマスターしたよ」
明るい声で言うと、デクのボーは
「まあ、分かりやすいですからね」
しれっと答えた。
――コンニャロー。女子をホメるという術を知らんのか。失言で損するタイプだな。
ぐっと左に視線を向ける。ひときわ明るい星が輝いて見えた。
「ね、あれは? ほら」
「どれですか?」
彼は身をかがめ、夜空に指差すわたしの顔のすぐそばまで寄ってきて、空を眺めた。
――ち、近いだろ……。
不意な急接近に、なぜかドキドキしてしまう。
「あ、木星ですね」
なんともなしに言った。
「へ?」
――あの、木星?
意外だった。
「へえー。惑星も見えるんだ」
「太陽系の惑星は、他の恒星よりも明るく見えますよ。だから観測する時の目印になるんです。月と一緒です」
知らなかった。
木星や土星なんて、天体望遠鏡で見るものだと思っていた。
惑星なんて、太陽の周りを回るだけなのに。
自分で光を発することもない、太陽の光を反射して輝くしかないのに。
410
:
上を向いて
:2014/12/23(火) 14:54:07 ID:1jGjK.DY0
「こうやって見ると、あらためて“近くの星は良いなあ”って思いますね」
彼はきっと、なんの含みもなく、純粋に星のことを言ったのだろう。
けれどその言葉は、曲解されてわたしの心に、すとんと落ちた。
近くなら、自ら光を発しなくても見てくれる人がいる。
――わたし、物事をヘンにとらえ過ぎだと思う。
けれど、スマートフォンのディスプレイを眺めながらあれこれ考えるよりは、首が痛くなるくらい夜空を見上げているほうが、
気分が良かった。
――上を向こう。遠くを見よう。
「……よし」
つぶやくと、彼がわたしを見た。
「どうしたんですか?」
「吹っ切れたの。いろんなことが」
彼の顔を見る。
「キミのお陰でね」
電車の到着を告げるアナウンスが駅から響いてきた。
じゃあ、と別れて改札を抜ける。
彼の名前もメアドも知らない。
けれどなんとなく、また会える気がしていた。
それが“また会いたい”に変わるまで、もう少しこのままの距離感でいたいと思った。
.
411
:
名無しさん@避難中
:2014/12/23(火) 14:55:06 ID:1jGjK.DY0
↑以上で
412
:
名無しさん@避難中
:2014/12/26(金) 20:43:31 ID:vVGV2KWQ0
なんか敗北感があって悔しいのでコメントしたくなかったが書いちゃう。ビクンビクン
>>400-410
面白かった。
世慣れない未熟さがありながらもまっすぐな“彼”と、その若さの輪郭を捉えながらも彼を許容できる“わたし”に
それぞれ文章の中へ人を誘う魅力がある。
過度な理想化をせず、それでいて現実を悲観してもいない、生の人間が持つ微妙な距離感を
よくも表現できるものだ、と素直に感心する。どうも自分の話の登場人物を
極端にキャラクタライズしてしまうきらいのある身としては、見習いたい点が多々あった。
あと作品自体と関係ない個人的なことだけど
こういう横書きに特化した大胆な改行ができるようになりたい。
413
:
名無しさん@避難中
:2014/12/30(火) 01:06:34 ID:qrywbkZo0
>>412
丁寧なコメント、ありがとうございます!
こんな感想をいただける自分は果報者です
改行については、実はちょっとやり過ぎな気もしていますw ケータイ小説みたくなってますよね
PCでテキストに落としている時はここまでしないのですけど、投下する段になって適宜改行を入れています
ブラウザは行間が詰まりすぎていて、文が長くなると極端に読みづらくなるので・・・ご勘弁を
あと、端っこまでだらだら伸ばすと怒られるのでw 適当なところで折り返すようにしています
文字数でぱっきり折ってもいいと思うのですが、またがるのが好きでないので句読点で折ることが多いです
今年の投下は以上です
ますます書けなくなっています(ヤバい!)
読んでくださった方、ありがとうございます。本年もお世話になりました
来年もどうぞよろしくお願いいたします
来年は、ほとんど投下できなかったメインのほうをがんばろうと思います(←去年も言った気がw)
では、良いお年をお迎えくださいm(_ _)m
414
:
名無しさん@避難中
:2015/03/18(水) 03:30:44 ID:6Ofyra3w0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org219846.jpg
415
:
名無しさん@避難中
:2015/03/18(水) 08:13:44 ID:2YrmtFmIO
天狗やっほい!!! 天狗やっほい!!!!
416
:
名無しさん@避難中
:2015/03/18(水) 09:09:39 ID:T30i2xKM0
うるま天狗はレジェンド天狗
417
:
名無しさん@避難中
:2015/03/23(月) 17:25:17 ID:Yj./Dvog0
「私は今まで美しいという言葉の意味を間違っていた。君と出会い、それがわかった」
「この世界に存在するのは私と餌とそれ以外であったが、これからはそこに彼という項目を加えなければならない」
「君を知るには一生は短い」
「彼と過すには一生が長い」
「君の孤独をかき消すほどの思い出を」
「彼の記憶を埋め尽くすほどの思い出を」
「君を思えば、死は怖くない。ただ少し悲しい」
「彼を思えば、死は悲しくない。ただ少し怖い」
「幾千もの人間の死を見てきた。
人が獣を殺し、食らうのと同じように。
ただ初めて私は人の死を見て、違う感情を持った。
それは悲しみだった」
「再び世界は三つのものに分類されるようになった」
「朝、寝ぼけた私が隣に手を伸ばし空を掴む」
「彼の一生は私の一瞬であったが、幸福は一生分であった」
「記録媒体が読み込めなくなり、思い出の家は朽ちて行く。
やがて君の名を刻む墓石が風化してなくなっても
私だけは君の名を、姿を覚えているだろう」
「彼への想いを片道切符に、私も永き旅に出かけよう」
『吸血鬼の詩』
418
:
名無しさん@避難中
:2015/05/11(月) 00:16:58 ID:pyK1bMKY0
夏の日差しが降り注ぐ屋外の階段。
鉄製のそれは触るだけでジワッと焼けてしまいそうに熱く、君は日陰になってややましな温度の場所に座る。
暑いね。
僕の後ろの空を見上げながら言う彼女に僕は彼女越しに湧き立つ雲を見ながら答える。
そうだね。
やおら視線を下げて僕のことを見る。そして微笑む。
いつだって手を伸ばせばそこに彼女がいた。駄菓子屋に行ってチューベットを買っても片方の相手に困らないくらい。
それで良かった。それが良かった。ただ踏み入るのが怖くて。離れるのが怖くて。その距離のまま。
ずっとそうでありたかった。彼女もそう思っている。僕はそう思い込んでいた。
私、告白されたんだ。
知ってる。僕は口に出さない。
君と同じクラスの――って人。
知ってる。僕は口に出さない。
それでね。私、付き合うことにしたの。
知ってる。
僕が口にしたいのはきっとその言葉じゃない。
じゃあ彼女はどうなのだろうか。僕が言いたい言葉を彼女も望んでいるのだろうか。
教科書を開いても、インターネットで検索しても、きっとその答えは見つからない。
おめでとう。愛想付かされないようにな。
彼女が静かに微笑む。嬉しそうな、悲しそうな。
そうだね。
トントントンと小気味良く音を鳴らしながら彼女は去っていく。
僕は彼女のいた場所に腰を下ろして、今度から一人用のアイスを買わないととぼんやり思った
419
:
名無しさん@避難中
:2015/05/11(月) 13:44:11 ID:RF7g7z5M0
切ねえじゃねえかよう……
420
:
名無しさん@避難中
:2015/05/13(水) 20:46:52 ID:s9RhNUyM0
中学の時は周辺の小学校からそのまま進学してくる人が多かったので制服になったということくらいしか目新しいことはなかった。
友人関係もその延長のものであり、無論三年間の学校生活の中でその間に友人が出来るということもあった。
しかし高校進学はそれとはわけが違う。
その先、大学や就職など将来の事を見据えて選ぶ人もいるし、そもそも学力や経済事情、通学時間などで選ばざるを得ないという人もいる。
そうなると中学までの友人とはバラバラになり、新しい友人関係の基盤を作らなければいけなくなる。
これは後の貴重な高校生活という青春を全うするためにとても重要なものなのだ。
特に髪を染めたり、あるいはガリ勉タイプでもない割かし普通の人間であると自負している俺はクラスカーストにおける真ん中程度の地位に治まるために
第一印象では普通、しかしそこそこ絡みやすい明るい性格というものを与えなければならないと考えていた。幸いにもこのような計算はするものの
中学では運動系の部活だったため、その部分はそんなに苦労することはなかった。自己紹介を終えて、周辺のクラスメイトの紹介も聞いたところ
どの方面もなかなか良い友人になれそうな人間が揃っていてこれからの高校生活に期待が持てる一歩が踏み出せそうだ。
しかしどうしても気になる人がいる。窓際に座っている彼女。女子だからと言って一目惚れしたからというわけではない。俺がこの教室に入ってきたときから
他の子も彼女を見て、こそこそ話をしていた。専らそのおかげで俺の前の席の男子からも話しかけられたので彼女には感謝したいくらいなのだが。
いよいよもって彼女が自己紹介をする。名前とどこの中学から来たか、そして趣味。普通だ。そして着席する。言わない。
クラスメイトみんなを代表してか担任の先生が口を開く。
「その格好はなんだ?」
「防寒具です」
時は四月。桜舞い落ち、緑に染まる頃。黒マントに黒い三角帽子を付けた、どうみても魔女のコスプレをした彼女は事も無げにそう答えた。
421
:
名無しさん@避難中
:2015/05/13(水) 21:08:29 ID:DwL2detc0
魔女ww
422
:
名無しさん@避難中
:2015/05/15(金) 23:36:07 ID:CWVLP3L.0
ある日、ふと夜の闇に紛れ込みたくなって家を抜け出した。暗い暗い世界に包まれて溶けだして霧散したくなった。
もちろんそんなことは出来なかったがそれ以来私は夜中に散歩をするようになった。
十一時を過ぎると人通りはなくなり、時折車が通るだけ。それも道路から少し離れれば無人だ。
だが人気がないわけではない。完全に人家のない場所にはさすがにいけない。
しかし人目はない。それだけで私にとっては幸福なものだった。
いつも散歩する道のりはまちまちだが今日は少し離れた場所にある小高い丘の公園に行く事にした。
十分ほどの道のり。大通りから外れて住宅街を通っていく。ぽつりぽつりと電気はついているが不思議と音はしない。
もしかしたら世界は張りぼてで私しかいないんじゃないか。そんな愉快な想像をしてしまう。
公園に着いたら外周沿いに歩き始める。目的地は最奥の屋根があるベンチ。木々の奥にひっそりとあるお気に入りの場所。
街灯同士の間隔は広く、まるでお互いに距離を取りあっているようにも見える。しかし光の輪は途切れず少しずつ繋がっていく。
ハリネズミのジレンマ。いや、これは違う。予算上のジレンマ? おかしくなってクスクスと笑う。
目的地のベンチがはっきりと見え始めた時、私は足を止めた。誰かがいる、ように見える。
こんな夜中にこんな場所に来るような人間はまともなはずがない。変質者なのではないか。
人影は椅子に座ってじっとしている。寝ているのだろうか。私はしばし考えた後、ゆっくりと近づく事にした。
ようやくその姿がわかったとき、向こうもこちらの存在に気付いたのか俯いていた顔を上げる。
見た目は若い男性だ。二十代前半ぐらいだろうか。私の姿を見て、少し驚いている。
「若い女の子がこんな時間にこんな場所に出歩くものじゃないよ」
その人は意外にも常識らしいことを言う。
「あなたみたいな人でもこんな時間にこんな場所にいたらおかしいと思うけど」
私が言い返すと彼は頭を掻きながら「まぁそうかもな」と同意した。
そしてゆっくりと立ち上がると
「俺は人待ちをしていたのだがな、どうやら来ないようだ」
と言い、伸びをする。その時、彼が片手に持っている物に気付いた。
長いロープだ。
「誰を待っていたの?」
思わず尋ねた私に彼はにやりと笑いながら答える。
「魔女だよ。彼女立会いの下、ここで死ねば使い魔にしてくれるという約束だったんだ」
「私もなる」
私の返答を聞き、彼は顔をしかめる。今の私は彼と正反対にきっと満面の笑みだろう。
やっとこの時が来たんだ。この世界から、この何もない世界にさよならして新しい世界に行くチャンスが。
月も見ていない木々に隠れた夜の闇の中で私は片道切符を掴んだ。
423
:
名無しさん@避難中
:2015/06/07(日) 01:32:51 ID:3HieOgRE0
>>420
、
>>422
続きものか、別人による同一モチーフか・・・
いずれにしても面白いので続きの投下を待つ!
>>418
正統派の切ない話。こういうの好きです。GJ!
424
:
名無しさん@避難中
:2015/07/01(水) 20:43:05 ID:UPZgvaAE0
「キミは確かに願ったはずだ」
そうだ、その通りだ。俺は願ったのだ。
その日は木星と金星が地球に接近して、肉眼で見えると聞いたからベランダで西の空を眺めていたんだ。
夏至過ぎて昼の伸びた空が青から赤、やがてそれが混じり黒になっていくのをぼんやりと見ていた。
肉眼で見る二つの惑星は小さく、とても惑星のそれとは思えないほど矮小な光で、望遠鏡でもあればもっと惑星らしく見えるのだろうか。
そんなことを考えていたんだ。
その時、光が流れた。流れ星だ。実際に見たことなんて初めてだったと思う。俺は思わず、そしてありきたりではあるが願掛けをしたんだ。
『過去の俺を殺したい』
すると急に視界が眩しい光に包まれた。咄嗟に腕で光を遮るほど。それでも瞼を貫通して光が目を焼くほどの明りが俺を照らした。
やがて光が収まり、眩む目をゆっくりと開けたら妙な光の玉が目の前に浮いている。
そしてそれから視線を下ろすと赤ん坊が眠っていた。
「キミは確かに願ったはずだ」
光はゆっくりと明滅しながら繰り返す。
「過去の自分を殺したいと。ワタシはそれを聞き遂げた」
俺はその赤ん坊を見つめる。そうか。これは俺なのか。赤ちゃんの時の俺。
見渡せば見覚えのある家だ。俺が生まれた頃はまだ父方の祖父母の家にいたんだ。
今でもお盆になると帰省している。何も無い、普通の田舎だ。
「この子供はいずれキミにもなりえる存在だ。さぁ殺したまえ」
「俺、にも?」
光の言葉に違和感を感じて聞き返す。
「そうだ。この子供には多分の不確定要素が揺らいでいる。この先、どのように育つのはまだ不明だ。
ただその成長した先にキミという可能性が含まれている。無論、今のキミ以外の可能性も含まれている」
「俺なのに俺にはならないのか?」
「今のキミは既に確定した存在になってしまったが、本来であれば全ての人間は幼き頃未確定の存在なのだ。
その成長次第ではあらゆる可能性を秘めた存在。それを多数の選択を積み重ね、可能性の取捨選択を行い
一つの確定した存在に辿り着く。今のキミのようにね。
安心したしたまえ。この子が如何なる成長を遂げようがこの時点で殺せば、今のキミを含む全ての可能性は消滅する。
キミの遠回りな自殺も成就するのだ。殺した瞬間、死という確定要素が出来るからね」
それじゃあまるで――。
その言葉が口からは出ない。代わりに頭の中で続きの言葉が連なる。
俺がこの未来を選択したみたいじゃないか。
でもその通りなのだ。
俺は小学校に入るまで祖父母の家で過した。自然豊かな田舎で子供らしく育ったと思う。
都心に引っ越して小学校に入り、最初は驚きの連続だった。でもそのうち俺は周りに打ち解けていったんだ。
この頃の俺はまるで今の俺には繋がらない存在だった。
でもゆっくりと歪みはじめた。小さな石のようなものはやがてゆっくりと俺の人生を今の未来へと導いていった。
その小石がなんだったのかは今の俺にもわからない。だけどその歪みから抜け出す方法はいくらでもあったはずだ。
でも選ばなかった。違う、俺はより大きく歪むほうを選択したんだ。途中からはそうなることがわかっていたのに。それでも俺は。
気付けば無気力なただ生きているだけの存在。死んでいないだけの存在に辿り着いたんだ。
「キミの手でこの子の首を絞めればそれで終わるよ」
でも俺はこの子を殺していいのか? 殺すべきなのか? この子に罪はないのではないか?
この子はまだ何者にも成っていないのに。
「……やめるよ」
「やめるのか? 願いなんだろ? 殺したいんじゃないのか?」
「この子にはまだあらゆる未来が詰まっているんだろ? 俺みたいな奴がその未来を確定させるなんて出来ないよ。
きっとやっちゃいけないんだ」
「なるほど、わかった。じゃあ元の世界に……」
「いや、代わりに別の時間に飛ばしてほしいんだ。出来たら――」
見慣れた部屋だ。どこに何があるかすぐにわかる。俺はいつかの修学旅行で買った木刀を手にする。
窓は開いている。だって俺が開けたんだから。ベランダではぼんやりと俺が空を眺めている。
俺は木刀を振り下ろした。
425
:
名無しさん@避難中
:2015/07/02(木) 22:30:21 ID:7n7tN4OQ0
東の森に魔女がいる。地元の人間なら誰でも知っているし、今の時代魔女などそう珍しいものでもない。
彼女が魔女に会いに行くと、家の外で何かを作っていた。
近づいて見るとどうやら自動二輪のようだ。
「魔女さんバイク乗るの?」
彼女が興味深げにそれを見ながら魔女に問う。
魔女は顔を上げて、額に浮き出た汗を手で拭った。拭った後は油か汚れか、黒い跡が残った。
「あたしは乗らないよ。これを修理して中古店に売ろうと思ってね」
「変なの」
『神々の黄昏』を迎えてから数十年の月日が流れたが、未だに人の文明はかつての繁栄を取り戻せていない。
人々は壊滅した文明から遺産を掘り起こし、それを利用、研究、修繕しながら今も細々と生きている。
魔女の修理しているこのバイクもその遺産の一つだ。少しばかしボロくなってはいるがかつて存在した日本の会社のロゴが入っている。
損傷が少ない理由は発掘されたのが時間凍土であったというのが理由だ。
時間凍土では時間そのものが凍結された空間が多数存在し他所からの干渉がない限り、どのような物も凍結当時の姿を保つことが出来る。
バイクを始め、様々な遺産が凍結凍土から発見されており、その上高値で取引されることもあるのでそれを目当てにする輩も多い。
ただし時折強固な時間凍結箇所が存在し、そこに立ち入った遺産探しの人間を凍結させる事故が発生する。
凍結した人間は傍目から見てもわかるため、危険な箇所の目印にされ、凍結解除に自信のある人間以外からは放置される。
魔女がバイクを持っているのは自ら時間凍土に探しに行ったわけではなく、依頼の報酬として譲り受けたのだ。
魔女の中には遺産探しで生計を立てる物もいるが、この東の森の魔女は出無精なため移動するのはせいぜい近くの村までだ。
「よし、これで直ったかな」
魔女が再び額の汗を拭い、さらに汚す。やってきた彼女はその様子を楽しげに見ている。
機械の修理というのは本来専門の人間に任せるものなのだが、東の魔女のように自分で修理して売るという人間も少なくは無い。
そうすれば修理代が浮くからだ。ただし直すのには知識や道具がいるため、そう易々と出来るわけではない。
東の魔女は趣味でそういった事が書かれた書物を持っていたため出来ただけだ。
直して早々魔女はあることに気付く。
「しまった。燃料がない」
機械には当然燃料が必要になる。魔法で機械を本来通り動かすことが出来ない。試運転するには燃料が必要になる。
しかし燃料は少しばかし値が張るのだ。製油技術も衰退して久しく、油田開発もわずかにしか進んでいない。
魔法を用いた製油技術が確立した以降はある程度の値段にはなったが、それでも毎日乗るには少し躊躇う程度の値段だ。
それを聞いてやって来た彼女が待ってましたとばかりに答える。
「実はさ、村から依頼があったんだけど」
「む、そうなのか。よし、なら依頼料を燃料に当てよう」
魔女は水桶で手を洗い、額は汚したまま彼女を連れ立って村へと向かった。
426
:
名無しさん@避難中
:2015/07/15(水) 23:35:09 ID:sx7tSqEM0
「師匠って不敗の魔女って言われてますよね」
「まぁそう呼ぶ人もいるね」
「どうすれば不敗で居られるのですか?」
「どうすれば、ねぇ」
師匠、帽子を取って頭を掻く。戻す。
弟子、身動きせず師匠を見つめる。
「まずはだね。私が戦ってるところって見た事ある? 決闘形式で」
「……いえ、ないですね」
「その時点で怪しいと思わないとダメだよ」
師匠、弟子に指をつきつける。
弟子、たじろぎながら上半身だけ後ろへ逸らす。
師匠、手を戻し、足を組み直す。
「まず私は戦わない。戦ってない。戦わなければ負けない。屁理屈だけど事実だね」
「でもそれだけでは不敗とは呼ばれませんよね」
「うん。そうだね。それじゃあ不敗じゃなくて不戦の魔女になるもんね」
師匠、立ち上がり本棚から大きな本を持ってくる。机の上にそれを広げる。
弟子、その本を除きこむ。
「えーっとだね。あった、ここだね。昔私が希少生物の保護観察権利を巡って決闘した時の記事だね」
「希少生物ですか」
「うん。流れがなかったり、あるいは弱い場所に生息する水草でね。水上に葉のように見える平たい皿を出すんだよ。
実際はそれは花でね。乗った生き物に小さな種子をつけて他の水辺に運んでもらうって生き物なんだけどね。
これが面白いことに他の生き物を呼ぶために鳴くんだよ。蛙みたいに」
弟子、本から師匠に視線を動かす。怪訝な目つき。
師匠、得意げな顔。
「草が鳴くんですか」
「うん。ゲーコゲーコって。それで蛙とか蛙を捕食する生物を呼ぶの。すごいよねー」
「でもどうやって鳴くんですか」
「わかんない」
「え、だって保護観察権利を巡って決闘までしたんですよね」
「途中で研究飽きちゃった」
弟子、呆然とする。
「あの時の決闘は暑い日だったんだよね。決闘上も草一本生えない荒地だったし。だからね。周りに結界張って閉じ込めたの。
全魔力注いでね。それで目の前で美味しそうに水を飲むの。そうしたら相手が降参してくれてねー」
弟子、頭を抱える。
「不敗なんて言ってもさ。結局戦い方次第だよ。戦う必要がなければ戦わない。どうしても戦う時は出来るだけ穏便に済ませる。
試合前に毒の入った飲料飲ませたり、天候変えて中止にしたり、魔物呼んで中止にしたり」
「碌でもないことをしてますね」
「まぁね」
師匠、胸を張る。
弟子、溜息をつく。
「まぁ一番手っ取り早いのは鈍器で相手の頭ぶん殴ることかな。勝てば負けないし」
弟子、ずっこける。
427
:
名無しさん@避難中
:2015/07/22(水) 20:20:03 ID:rubDiiRc0
その吸血鬼は退屈をしていた。
吸血鬼とは吸血鬼として生まれた原種と原種により感染、吸血鬼化した眷属というのが存在する。
眷属は吸血鬼の感染能力を持たないものの、血液に対する貪欲な欲求、特に同種の生物に対しての強い血液欲求感情が発症する。
また定期的に血液を摂取しないと肉体が枯れることも判明している。そのため眷属は自らの欲求と生命維持のために常に血液を求めている。
それだけでなく、銀や十字架、にんにく、流水、鏡、日光等言い伝えあるいは迷信として言われてきた弱点に対しても全く抵抗力がない。
それらの欠点の代償として得られるものは同種と比べると少し長い寿命、運動能力の向上、翼による短時間の飛行能力。それだけである。
原種の気まぐれで眷属となった吸血鬼は日光に怯え、夜になると町を彷徨う人間を血眼で探す哀れな生物と成り果てるのだ。
一方、原種とはどういうものか。
吸血鬼以外の生物を眷属化させる感染能力を持っているが、特にする利点はないのでやる時は大抵暇だからやっている。血を吸えば全て眷属化、というわけではない。
血液の欲求もさほどなく、さらに味に関して非常にうるさい。まずいとやつあたりで眷属化させたりする。おいしいと館に囚われて、一生を過すことになる。
前述した吸血鬼の弱点は一切効かない。夏場になると自宅の庭で昼間から水遊びしている。強いて言うなら汚い物が苦手な原種が多い。
蝙蝠への変身、見かけを遥かに越える運動能力、翼による自由な飛行、さらに強力な自然治癒能力を持ち合わせ、人型生物としては最も優れた生物と言える。
そして最大の特徴とも言うべきものはその寿命である。四百年、五百年は優に生き、千年以上生きる個体も存在する。これに関しては全生物でも上位と言えよう。
だが同時にこれは原種吸血鬼において最大の問題でもある。それはなぜか。暇なのだ。そんなに生きてもやることがない。とても暇なのだ。
故にその原種吸血鬼もとても暇をしていた。
同様に長寿である竜の類は時折長い睡眠を取ることがある。数百年に渡る睡眠だ。だが吸血鬼にはそのような習慣はない。
冬山で同様の長期間睡眠を試みる吸血鬼もいたがせいぜい一年程度しか眠れない。実際試したが半年で起きてしまった。
知的欲求の高い個体は延々と書物を漁り、見聞を広め、それらを本としてまとめる者もいる。なんでそんな面倒なことをしているのか理解が出来ない。
見た目は麗しい少女だが実年齢でまだ二百歳にも届かない程度の自分ですらこれだけ暇なのだからあとこれを三回、四回繰り返すと考えると気が遠くなる。
なんとかして暇を潰すことを考えねばならない。出来れば百年単位で潰れるようなこと。うんうんと頭を悩ませるが一向に思いつかない。
なので知識を借りに行く事にした。
428
:
名無しさん@避難中
:2015/07/22(水) 20:20:22 ID:rubDiiRc0
「暇つぶしねぇ」
黒い三角帽子はどれだけ荒く使われたのか完全にくたびれていて溶けるようにへなへなになっている。継ぎ接ぎも多い。
ローブはおそらく実験中の何かを零したのだろう。多彩な色をしている。辛うじて黒い面積が多いので黒のローブだったということがわかる。
顔にかけている眼鏡はその道では有名な高給店に頼んだオーダーメイド物で、これ一つで一軒家が買える。
装飾がされているわけではないが、個人に合わせて出来ているので掛け心地がとても良く、掛けていることを忘れそうになるほどだそうだ。
傷一つなく、また定期メンテナンスもされているので歪みも一切ない。そのお金をもっと別のところに使うべきだと常々思う。
そんな魔女の友人は悩んでいるのか振り子のように頭を左右に揺らしている。
「そうだ、暇つぶしだ。貴様も少しは浮かぶだろう?」
「なーんで頼む側がそんなに上から目線なんだろうねぇ」
魔女の友人とはさほど長い付き合いでもない。魔女と言っても所詮人間なので長い付き合いにはなれないし、そもそも彼女はまだ十代だ。
以前村の人間を一人眷属化させて、何日で村人全員眷属になるか遊んでた時に偶然やってきて、眷族を駆逐したのだ。
当然暇つぶしを潰されたので彼女に対して迫り、血液を吸い尽くしてやろうかと思ったが話しているうちに言いくるめられて、今に至っている。
「あ、そうだ」
彼女が立ち上がり、本と埃に積もった本棚から一冊の本を取り出した。
表紙には『楽しい迷宮の作り方』と書いてある。
「なんだ、これは」
「少し前、って言っても私が生まれる前だけどさ。ダンジョンブームってあったの。知ってる?」
言われてみればそんなのがあった気がする。自作ダンジョンに誰かを迷い込ませて、その様子を見て楽しむというものだ。
流行り過ぎた結果、ダンジョン同士が繋がり、作成者同士が喧嘩するトラブルが増えたのでブームは終焉に向かった。
あとダンジョンのせいで無駄に強くなった冒険者達が人間以外の魔物だとか怪物を駆逐しまくったのも良くなかった。
あれのせいで一時期人間達が幅を利かせて、大変な目に合ったのだ。嫌な事を思い出してしまった。
「それがどうかしたのか」
「うん、だからね、ダンジョン作ろう」
「そんなものとうの昔に飽きたわ」
「いや、それがね。最近は研究も進んでダンジョン製作も楽になったし、場所も異世界に作れるようになったんだよ」
「ほお?」
少し興味が出てきた。彼女もそれを察したのか本を開いて説明する。
大見出しに『簡単お手軽異世界直結魔法陣の書き方(自己責任)』という不安を煽るようなことが書いてある。
「異世界なら仕掛けとかも色々いじれるし、この世界じゃ作れないような仕掛けも出来るんだよ」
「ふむふむ。前回の時は土地の問題もあったからな。ダンジョン同士がぶつかったりもした」
「それも異世界なら問題解決だね。異世界って言っても要は別次元空間に作るわけだし」
「無重力も出来るのか……いいな、無重力ダンジョン……」
想像する。ふわふわと浮きながらダンジョンを飛んで回る。自力で飛行するよりも不便ではあるが、その不便さが楽しいのだ。
でもスカートだと下着が見えてしまうからズボンを履かないといけないのが難点だ。
「でも無重力空間はあまり多めに作れないみたいだねぇ。ダンジョン自体の崩壊を招くって書いてあるよ」
「そうなのか。でも自作の魔物も配置出来たり、今の魔術は進んでいるな!」
「日進月歩だからねぇ」
吸血鬼は立ち上がって決意した。
ダンジョンを作ろうと。魔女と一緒に。
429
:
名無しさん@避難中
:2015/07/22(水) 20:20:44 ID:rubDiiRc0
三日後、完成した。
吸血鬼と魔女による、あらん限りの発想を詰め込んだ夢のダンジョンが。
正直、大規模かつ複雑すぎて本人達も全容を完全に把握しきれていない。しかしそれでいいのだ。
魔女と吸血鬼は握手をして、喜びと苦労を分かち合う。そのまま打ち上げと称して、ワインをたらふく飲んだ。
本来ならば法律的に飲んではいけない魔女も三日徹夜ということもあって、自分から進んで飲んだ。
浴びるように飲んだ。そして二人ともぶっ倒れた。こうして吸血鬼達の狂乱と、そして平穏だった日々が終わった。
揺り動かされているのに気付き、重い瞼を開けると困惑した表情の魔女がそこにいた。珍しい表情だ。
何事かと思い、手を付いて立ち上がろうとして気付いた。木の床に寝転がっていたはずが、なぜか土の上になっている。
周りを見渡す。魔女の家だったはずなのに暗い洞窟の中だ。ほの暗いが吸血鬼は夜目が利くし、床や壁の一部が光っているので見渡せないほどでもない。
「やっと起きたねぇ」
「うーん。確かワインを貴様の口に突っ込んだ後、貴様にやり返されて……」
「うん。それでお互い魔法を使おうとしたんだよね」
「その後の事が思い出せない……」
「多分私達の魔力に反応して、魔法陣が起動し、ダンジョンに放り込まれたんだろうね」
「は?」
「多分私達の魔力に反応して、魔法陣が起動し、ダンジョンに放り込まれたんだろうね」
吸血鬼が額を押さえて考える。繰り返し言われた言葉を酒に浸かっていた脳味噌で理解する。
「それはなんだ。私達はダンジョンに放り込まれたということか」
「そうだねぇ」
「脱出は」
「出来るよ。このダンジョンを抜ければ」
このダンジョンを抜ければ。三日間、狂気と悪魔の発想をひたすら詰め込み、一体誰を潜らせることを想定したかもわからないほど巨大化した迷宮。
笑いながらその辺の人間を眷属にして、突っ込めばいいんじゃないかなと大迷惑な考えを口にしながら製作された命の保障が全くない迷宮。
本棚から適当な本を引っ張り出してはこの怪物を入れようと古今東西の神話の怪物達が詰め込まれた神話動物園と化した迷宮。
「これはまずいんじゃないか」
吸血鬼と魔女による、大迷宮への挑戦が今、始まろうとしていた。
430
:
名無しさん@避難中
:2015/09/02(水) 23:08:31 ID:7LJYX/Xw0
「この食物を知っているかね」
そういうと彼女は懐から拳よりも少し小さい野菜を取り出した。
ごつごつとした見た目は石のようでありながらも広く食されていることを知っている。
「ジャガイモですね」
「然り。ジャガイモだ。
ではこの野菜がどのようにして世界に広まったのか知っているかね?」
少し考えてみる。世界的に流通している野菜のはずだ。原産地すらどこかすらわからない。
「いや、知らないです」
「そうであろう。一般人であれば、それがどこから生まれ、どのようにして世界に広まり、そして今日に至ったかなど考えすらしない」
「私も一般人ですか」
彼女の言い分にムッとなり、思わず言い返す。私を一般人と呼ぶにはあまりにも定義がおかしい。
一般人というくくりでみれば、彼女こそその一般人ではなかろうか。
「この野菜は原産地を南米アンデス山脈の高地とし、十六世紀ほどにヨーロッパに伝えられたと推測されている。
そこから家庭へすぐに普及したわけではなく、戦争や飢饉などを要因に家庭へ普及。十八世紀には北アメリカへと渡ったとされているようだ。
そして世界中へと広まった、というわけだな」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なにかね?」
調子よく高説していた彼女を慌てて止める。最初に話しておくと私はこれでもそのへんにいる一般人よりかは遥かに博識である。
じゃがいもの由来は知らなかったが博識なのだ。実際困り事があると私に元へ尋ねる人間は多い。
そんな私をいつも小バカにしているのは彼女だけなのだ。
「地名と思しき場所に全く心当たりがないです。あとは……その年号ですか? それも」
「これだから勉強不足の若造は困るよ」
私よりも二回りは年下であるはずの彼女の言葉が私のストレスを溜めていく。
「それじゃあその勉強不足の若造にわかりやすくご教授いただけますかね?」
「ふむ、いいだろう。これを見たまえ」
そういうと彼女は懐から今度は一枚の巻紙を取り出し、テーブルに広げた。
広げた拍子にじゃがいもが転がって床に落ちそうになったで慌てて、止める。
「この地図はなんだかわかるかな?」
彼女が地図というそれはやたらと陸地の多い地図だった。どこかの地方を拡大したものだろうか。
しかしこんな形の地形はなかったはず……。そうして私は一つの結論に辿り着いた。
「まさかこれは例の異界の」
「その通りだ。この世界に隣接する魔法無き世界。その地図だ」
なぜそのようなものを持っているかはこの際訊かない。私は目を皿にして、それを見渡す。
中央よりやや右上に三角形のような形をした大陸、下にも同じような形のやや小さな陸地。
左手には右のものよりも広大な土地が広がっていることがよくわかる。中央は大きな海になっているようだ。
下にも他に比べて小さめながらはっきりと形のわかる陸地とその上に細かい島が連なっている。
「これはすごい。妄想にしてもよく出来てますね」
「何を言うか本物だ。話をじゃがいもに戻そう。実はこのじゃがいももあちらの世界の物なのだ」
地図から顔を上げ、彼女の顔を見る。これからすごいことを言うぞという顔だ。
「それはつまりじゃがいもという存在があちらとこちら、両方の世界に存在しているということですか」
「然り。しかも調べたところ生育法もさほど変わらない。厳密には違う種ではあるだろうが、同じ植物であると見ていいだろう」
「本来では干渉し合わないはずの世界で同一の植物が存在し、そして両方とも世界中に食物として広まっている。これはつまり」
「うむ」
431
:
名無しさん@避難中
:2015/09/02(水) 23:08:54 ID:7LJYX/Xw0
意味ありげに彼女が頷き、私は思わず生唾を飲む。
「……じゃがいもには世界の壁を乗り越える力を持っているのかもしれない」
盛大にずっこけた。
「何を真面目に言っているんですか。例えば遥か昔、両世界を行き来した存在がいるとか、あるいは第三の世界の干渉だとか
はたまた二つの世界は元々一つだったとかいろいろあるでしょう」
「そんなわけなかろう」
じゃがいもに意味不明な力を付与しようとしている人間には言われたくはない。
「しかも調査したところこのじゃがいもという植物はあちらの世界の物語の中でもポピュラーなのだ。
物語の中でだぞ? 何を取り狂ってこんな芋を物語に登場させねばならんのだ。
おそらくはじゃがいもという植物は本来自立型の生物で、外宇宙からやってきた侵略生物なのだ」
彼女が自分の世界へと突入したのを確認してから、地図を私の懐にしまい、じゃがいもを野菜の入ったかごに入れる。
こうやってかごに入れればとても別世界のものとは思えない。この世界にも当たり前にある野菜だ。
しかしこの話。もうすこし裏づけを取れば、魔法使い学会で発表出来るかもしれない。
私がそんなことを内心ほくそ笑んでいる影で、野菜のかごからは「ケケケ」と何かが鳴いたことには二人とも気づかなかった。
432
:
名無しさん@避難中
:2015/09/19(土) 21:05:10 ID:4sG8FWDU0
人類滅亡までの予測時間が一日を切った昼下がりのこと。
地球に迫りつつある彗星は今や太陽の下でも目視するほど近く、ある種の非現実感すら漂ってすらいた。
人と国が手を組んで行われた、彗星破壊作戦も失敗に終わり、あれを破壊する手立ては残っていない。
神に祈る者。欲望を解放つ者。最期の時を穏やかに過す者。先に命を断つ者。滅びを歓迎する者。
人類滅亡が確定してから一ヶ月。世界中の人間がそれぞれ思うように行動していた。
だが日本は違った!!
なぜか相変わらず動く公共機関!!
電車の遅延に文句を言う会社勤め!! 行われる振り替え運送!!
一度は遊ぶことを決意したのに上司から電話来たから出社する人間!!
「人類滅亡する前に契約を取ってこい」と謎の命令が下される営業!!
テレビではなぜか流れる明日の天気予報!! 一週間予報も!!
発売予定のゲームを予約するオタク達!! 来週のアニメの続きを期待するオタク達!!
その様子を見て「実は日本は助かる方法を知っているのではないか」と疑われる!!
「ないです」と答える政治家!! 「だが日本には」。そんな期待が世界中から集まる!!
学校のお昼休み。紙パックの牛乳を飲みながら見上げた空には彗星が輝いている。
「やっぱり絶滅するのかなぁ」
そう問うと隣で菓子パンを食べていた彼女が
「でしょうねぇ」
と答える。
世界中で大騒ぎになってはいるが彼女たちの身の周りではあまり変化がない。
一応は学校に空席が目立つようになったがそれでも登校する生徒はいるし、先生も来る。
「今日、宿題出されちゃった。明日提出だって」
「人類滅亡したら宿題提出しなくていいんじゃない?」
「あったまいー」
紙パックの少女と菓子パンの少女はそんなことを気だるく話していると空から一筋の光が落ちてきた。
紙パックの少女が気づいて指を刺す。菓子パンの少女も見上げて、流れ星かなと言っているとその光がドンドン近づいてきた。
やばそうな雰囲気を察知し、逃げようとする二人に光が襲いかかった。
眩しさに瞑っていた眼をゆっくりと開けるとそこには球体の変な生き物が浮いていた。
その生き物は口がどこにあるかもわからないのにこんなことを言い始めた。
「地球人よ。君達は滅びるべきじゃない。私と協力して、あの彗星を撃ち砕こう」
「え、喋ったよ」
「ちょっとスマホで撮ってツイッ○ーに上げよう」
「そんなことはいいから聞いて」
切実な声を出すので二人は渋々スマホをしまう。
「私は遥か遠くの銀河から来た者だ。私には君達の潜在能力を引き出す力を持っている。
我々は君達にはまだ可能性があると考えている。だから君達を助けたいんだ」
「なんで私達?」
「地球人で最も強い潜在能力を持っているのは純潔の若い女性だけなんだ」
「あ、ダメだよ」
「何がだ?」
「私処女じゃない」
「私も」
心なしか蒼ざめる宇宙人!!
どーする宇宙人! どーなる地球の未来!!
続かない!!!
433
:
名無しさん@避難中
:2015/10/05(月) 17:48:56 ID:bxcTbAcs0
「世界の人口はこれからも増え続ける。しかしそれを賄うための物資は不足するだろう。
人々はその事に気づいている。その最も単純で簡単な解決法を手に取らぬよう他の解決法を模索し続けている。
だがそれは未だに見つからない。いつまで探すと言うのだ? 終末時計が十二時を迎えるまでか?
綺麗事を並べ、全人類の繁栄を謳う時代は終わったのだ。
私は自らの行為に何ら後悔も躊躇もない。
誰かがやらねばならぬことなのだ。
誰かがその手を赤く濡らさなければならぬのだ。
誰かが人類の最悪の敵にならねばならぬのだ。
その誰かを人は他人に任せ続けてきた。
だから私が引き受けたのだ。全ての業を。
私が英雄として語られることはない。それでいいのだ。
私が英雄として語られる時、人類は再び滅亡の時にいるのだから。
……私を止めるかね?」
人類最悪の核テロを起こそうとしている人間は犯罪者か。それとも未来を憂う聖人か。
人々の胸に宿る正義、そして人類の未来はどこへと向かおうとしているのか。
『正義の行方』
434
:
名無しさん@避難中
:2015/12/08(火) 00:04:22 ID:IPQlPXIE0
妹の級友「休日とかどこで遊んでんの? 渋谷? 原宿?」
妹「え、家から出ないなぁ……たまに武術の師匠んとこに稽古つけてもらいにいくけど……」
級友「あ、そーなんだ。家では何してるの?」
妹「お兄とゲームやってるよ。モンハンとかボンバーマンとか」
級友「へ〜兄妹仲いいんだね。うちなんか兄貴と口もきかないのに」
妹「うん。買い物も一緒に行くしー、お兄が美術館とか図書館行くときはくっついて行っちゃう」
級友「……ほ、ほぉ」
妹「いっしょにお風呂入るのは最近ダメって言われちゃったんだけど、隣で寝るのはまだOKしてくれるよ」
級友「あ、あのさ。あんたそれ、おかしくない? ブラコンってやつなの?」
妹「えー! 普通じゃないの? 共風呂も添い寝もしないの!?」
級友「しねーわ! うちのキモい兄貴とそんなこと考えただけで乙女の純潔が穢れるわ!」
妹「……兄妹仲が悪いと大変だね」
級友「いや! たぶんうちのが普通ですから! 洗濯物も男物と自分のは分けて洗いますから!」
妹「お兄さんかわいそう(´・ω・`)」
級友「ていうか逆によ? 汚いと思わないわけ? 男のパンツとか靴下とかと、自分の下着が一緒に洗われるんぞ?」
妹「ぜんぜん? お父さんもお兄も、不潔っぽくないし」
級友「あーダメだこれわ。メンタルがお子様のまんまで、女の自覚を養えないとこうなってしまうのか」
妹「……(家庭内不和がないと大人の女になれないなら、子供のままがいいなあ……)」
主人公の妹@JCと級友の噛み合わない会話。
435
:
名無しさん@避難中
:2015/12/31(木) 18:13:04 ID:PYw3F4RY0
区役所で配布されている、魔法少女に関する微妙にやる気のないFAQ
Q.魔法少女って何ですか? アニメ?
A.202X年頃から世界各地で観測されるようになった超自然現象、ないし知的生命体です。
人の住む場所に実態を持って出現し、人間と変わらない容姿のG型、二頭身のぬいぐるみのようなD型、
一頭身で饅頭のようなY型などが確認されています。発生過程は解明されていません。
すべての個体が外見に共通の特徴を持つことから、形質のベースとなった人間がいるのではないか、
という説もありますが、現在までに該当する人物は見つかっていません。
Q.魔法少女は危険なものですか?
A.こちらから魔法少女のいやがることをしなければ無害です。
「魔法少女のいやがること」については別紙の事例集を参考にしてください。
[別紙より抜粋]
事例1:千葉県の男性(38)がG型魔法少女に自身の性器を露出し、わいせつな行為に及ぼうとした。
→男性(38)の性器は発光するタケノコ状の器官に変質させられた。
日常生活に支障はないようだが、性的には不能であり、現在も元に戻っていない。
事例2:東京都の男性(24)がD型魔法少女の前で自分の息子(当時6)に対し、殴る蹴るの暴行を加えた。
→男性(24)はその場で姿を消し(息子証言)、三か月後にシベリア東部で発見された。
Q.魔法少女を叩いたり投げたりしても大丈夫ですか?
A.何が彼女たちの防御反応を引き起こすか解明されていないので、攻撃と取られる行動は避けてください。
G型、D型については何らかの強力な防御フィールドが働いているらしく、現在の人類が持つ武器では
傷一つ付けられないとのデータが提出されています。(資料:米軍による実験結果を参照)
Y型は強い圧力をかけると切断することが可能ですが、切断されたパーツそれぞれが変形し
新たなY型固体として再生します。切れば切るほど増えていくことになるので、切らないでください。
Q.家の軒先で魔法少女が寝ています。どうするのがよいでしょうか?
A.寝かせておいてあげましょう。
邪魔な場合はまず起こして、どいてくれるよう頼めば、たいていは他所へ移動してくれます。
Q.D型を一匹飼いたいのですが……
A.魔法少女は犬や猫ではなく、前述のとおり非常に強大な力を秘めています。ペットにするのは危険です。
女性や子供がY型を持ち歩いて護身用グッズにしている、という話もありますが、これも危険です。
Q.魔法少女にお願いすると叶えてくれるって本当?
A.そのような事例も報告されています。しかし「お願い」の結果、あなたの知らないところで
他人が迷惑することも考えられます。また、魔法少女を使って犯罪を行えば、当然罪に問われます。
(例:魔法少女にお金を出してくれるよう頼む→不正な番号の日本銀行券が生成される→通貨偽造罪)
Q.魔法少女は触るとどんな感じですか?
A.G型はぷにぷにしています。D型はふわふわしています。Y型はもちもちしています。
G型はあまりきわどいところに触れると「送られ」てしまうので、接触には注意してください。
Q.飲食店を経営しているのですが、魔法少女が客として入ってきた場合、普通に料理を出していいのでしょうか?
A.モノやサービスを売買する際は、魔法少女は正規に流通している貨幣を使うことがわかっています。
彼女たちが金銭を手に入れる方法については不透明ですが、客として遇することに問題はないでしょう。
Q.魔法少女にごはんやお菓子をあげても大丈夫ですか?
A.特に問題はありません。蕎麦やうどんが好きなようです。
Q.魔法少女が外で魚を焼いていました。一尾もらったのですが、食べても平気ですか?
A.問題ありません。なかなかおいしいとの評判もあります。
Q.Y型をクッションにしても大丈夫ですか? 送られますか?
A.その程度なら大丈夫ですが、気分次第でどこかへ行ってしまうので、普通のクッションを買いましょう。
Q.魔法少女と会話は可能ですか?
A.G型は流暢な日本語及び英語を話すことが確認されています。D型は3〜6歳児程度の日本語を話します。
Y型は喃語のような音を出しますが、単なる鳴き声だという解釈もあるようです。
436
:
名無しさん@避難中
:2016/01/29(金) 21:02:54 ID:89W6vUio0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org716968.jpg
437
:
名無しさん@避難中
:2016/01/29(金) 21:08:53 ID:dUWjUO.60
気抜くなw
438
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 01:14:24 ID:F6fQaJZ20
安定のドテラ
439
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 01:19:02 ID:h1DNpaWA0
見る側もそっちのがしっくりくるわw
440
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 01:40:09 ID:F6fQaJZ20
では発子に似合わない衣装は何か考察しましょう
441
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 02:24:23 ID:h1DNpaWA0
礼服
442
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 06:56:09 ID:F6fQaJZ20
おしゃれな服似合わなそう
443
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 09:03:36 ID:a.QallZUO
未だに中学時代の体操服を家着にしてそう
444
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 11:11:51 ID:Kqg0vZwo0
>>436
俺の目から出た汗を返せwwwww
445
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 11:47:28 ID:VwbGZTEI0
踊り子の服着れなさそう
446
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 12:22:58 ID:Kqg0vZwo0
なにげにパンツスーツでシルクハットとかかぶると似合いそうな気がする、と今なんとなく思った
問題は頭身だな。こたつみかん頭身だとコドモマジシャンになってしまう
447
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 16:06:00 ID:F6fQaJZ20
男装というか親父ファッションが似合う。かわいいのはダメだ
448
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 16:27:44 ID:Kqg0vZwo0
頭身低めの時はドテラに腹巻きクソ似合うもんなぁ・・・
449
:
名無しさん@避難中
:2016/01/30(土) 17:13:05 ID:F6fQaJZ20
でも夏場はキャミ一枚がなじんでいる
450
:
名無しさん@避難中
:2016/01/31(日) 12:36:28 ID:tRITRlms0
そりゃ、夏場は親父は脱ぐしかないからな
451
:
名無しさん@避難中
:2016/01/31(日) 14:58:52 ID:yHuILM3AO
親父扱いかよ!w
452
:
名無しさん@避難中
:2016/02/01(月) 11:18:33 ID:ftBQoHac0
いや、違う、そうじゃないw
夏場に親父ファッションしようとしても、マッパになるわけにゃいかんだろ?
だからキャミ一枚という女の子ファッションになるのもむべなるかな、というわけだw
453
:
名無しさん@避難中
:2016/02/01(月) 23:56:37 ID:PlAnei120
キャミ一枚でバター一本食いしてるんだぜ……
454
:
名無しさん@避難中
:2016/02/03(水) 23:35:12 ID:2odbnZhw0
我が家の空き部屋を貸している魔女から使いを頼まれた。
この魔女と言うのもさる事情から縁もあって間借りさせているわけだがその意識がひどく薄い。
離れということもあってか、時折妙な実験をしては奇怪な音を立たせている。
もしも何かあれば弁償させるぞと脅してみるが、平気平気と傷を指でなぞって消すものだから性質が悪い。
なにせこちらは魔術については門外漢なのだ。それが修復なのか偽装なのかは見分けがつかない。
さて、その魔女の使いというのが近くに古い馴染みが来たから迎えに行って欲しいというのだ。
自分で行ったらどうだと問うたらこちらも準備で忙しいと顔も向かせず答える。了承する以外他ならないようだ。
感謝の言葉を述べた後、魔女は相手の風貌を述べた。
曰く、犬歯が鋭いそうだ。以上。
呆れて物も言えない。犬歯とは即ち八重歯のことだろう。元気娘の目印の一つによくなっている。
それだけでわかるからと何もわからぬまま部屋から追い出されて、仕方なく重く立ち込めた冬空の下、歩き出した。
待ち合わせに指定された駅前は天気に反して混雑していた。なんてことはない。学生の帰宅時間なのだ。
男女の学生グループがやんややんやと楽しそうに歩いているのを見るとひどく心が痛む。
頭の底へと沈めたよからぬ記憶が浮上するのを感じたので周りを見やって意識を変える。
魔女の馴染みであるのならばそれもまた魔女か、あるいはその類であろう。ならば風体は奇抜なはずだ。
世間に置いては魔女というのは空想伝承物語の物とされている。事実、私自身も彼の魔女に会うまではそういうものだと思っていた。
だが人々が宇宙人や魑魅魍魎に気づかないように魔女に気づいていないだけであったのだ。
だが前述した二つの存在に比べ、魔女は人間社会に溶け込みきれていないように思える。
彼の魔女にしろ、それ以外に遭遇した魔女にしろ格好も言動も全てが一般のそれとはかけ離れているためおそろしく目立つのだ。
つまりこれから来る馴染みも一目見るだけでそれとわかるはずだ。例えば真っ赤なコートを羽織っていたり、だ。
だが待てど暮せどそのような人物は来ない。気づけば学生の帰宅ラッシュも終わり、先程に比べて閑散としてきた。
その上、ついに雲がぐずり初めて雪まで降って来た。上着は羽織ってきたが、外にそう長い間出る事は想定していない。
もしかして相手は普通の格好をしているのではないか。実は先ほどの学生軍団に混ざっていたのではないか。そんな考えが頭を過ぎる。
魔女の馴染みは魔女と決めつけていたのがおかしいのだ。奴はなんと言った。犬歯が鋭いだけだ。クソの役にも立たない言葉だ。
そのとき、駅の出入り口から一人の少女が出てきた。妙に目を引いたのはその髪だ。信じられないことに膝裏まではあるなじゃないかという
長く、そして美しい黒。着ている学生服は先ほど見ていたものと同じだ。彼女は何かを探すように周りを見ている。
やはりそうだったのだ。おそらくは私も彼女もお互いを見逃して通り過ぎてしまった。しかしこれで会えたのだ。
片手を上げて近寄ろうと一歩を踏み出した途端、彼女はあらぬ方向を向いて走り出した。その先には同じ位だろうか。制服を来た少年がいた。
ひどく悲しくなった。なぜ私はここにいるのか。こんな雪降る中、素性も知れぬ相手をなぜ待たねばならぬのか。
どこからかやってきた猫が足に体を擦り付けている。先ほどの彼女に比べてなんてみずぼらしくて汚い猫だ。しかし今はその体ですら慰めになる。
頭をなでてやると嬉しそうに目を細めて、お前が迎えの者だなと低い男らしい声で言うので仰天してひっくり返った。小便を漏らすかと思った。
なんてことはない。相手は猫だったのだ。犬歯も鋭いはずだ。猫だが。
おわり
455
:
名無しさん@避難中
:2016/02/04(木) 04:08:56 ID:Om7ePD2Y0
どういうオチか知ってたし分かってたけどこの勢い好き
456
:
名無しさん@避難中
:2016/02/06(土) 23:16:16 ID:Unk1d32c0
いくつかの瓦礫を協力してどかすと、暗い穴の中に陽の光が射した。
久しぶりの太陽に思わず目がくらみ、腕で遮る。
「マスター。地上のようです」
『うん、久しぶりだね。汚染レベル調べてくれない?』
「はい。少々お待ちください」
私のパートナーが大きく深呼吸して息を止める。本人は気づいていないようだが息を吸うときゆっくりと目を閉じるのが可愛らしい。
本人に言ったらどう反応するだろうか。そんなことを考えていると、パートナーはゆっくりと息を吐き出した。
「汚染は確認されませんでした。ここは既に浄化されているようです」
『それは助かる。このヘルメット蒸し暑いからね』
首の左右前後にある金具を外し、ヘルメットを持ち上げる。汗ばんだ肌に当たる久しぶりの外気はとても気持ちがいい。
パートナーに習って深呼吸をする。薬品で精製された独特の臭気があるそれと違い、とても美味しく新鮮に感じる。
「気持ちいー。天気も晴れてるし、空も青い!」
「大体半年振りの地上ですね。酸素缶の中身も入れ替えますか?」
「うん。お願い。ここはどの辺りだろう」
パートナーが付いていた酸素缶の中身を装置を使って入れ替えている間に地図を開く。
移動補助装置の記録と照らし合わせながら、場所を推測する。
第三基地から出て、三日目。ひたすら東を目指していたので大分距離を稼いだ。
「酸素缶の入れ替え終わりました。場所はわかりましたか?」
「うーん……多分ねー……新宿辺りかな」
「聞いた事あります。新宿には旧時代から迷宮があったと」
「君ってアンドロイドなのに知識が妙に偏ってるよね」
地図を畳み、改めて周りを見渡す。
高層ビル群が立ち並んだ都心と言える場所でもあり、電車という乗り物の道が集合していたという新宿。
今はただの瓦礫の山でも崩れかけたそれらがかつての栄光を示していた。
それらもいずれ草に蝕まれて、自然の一部に戻るのだろう。
「マスター! 水ですよ! 水!」
「だいじょうぶ? 毒性とかない?」
「確認しますね」
両手で掬って、喉を数回小さく鳴らして飲む。この子も新宿がかつての姿をしていた時代にはいなかったのだ。
読んだ限りでは本当に簡素なロボットしか存在しなかったという。
技術とは必要に応じて発展するもの。旧時代はアンドロイドの代わりになるほど人間がたくさんいたのだろう。
「問題ありません。煮沸せずに飲めますし、体も洗えます」
「体も洗えるんだ……」
「洗いますか!?」
「なんでそんな乗る気なのかな。アンドロイドは体洗う必要ないでしょ」
「いえいえ、マスターの体を洗いたいだけですし……うひ」
「たまに君が本当にアンドロイドか疑いたくなるよ」
多少危険な人物は近くにいるがそれ以外は誰もいない。こちらを襲うような生物がいる気配もない。
なによりも蒸したスーツで体は汗まみれ。とても気持ちが悪い。肌着もべたついている。
意を決してスーツを脱ぎ捨てて下着姿になる。隣で盛り上がっているアンドロイドを無視して下着も脱ぐ。
絞ってみると汗が少しだけ溢れて、落ちた。
「ついでに洗濯もしようかな」
「やります! マスター! 私やります!」
「舐めないよね?」
「さすがに女性の下着を本人の目の前では舐めません」
「目の前じゃなくても舐めないでよ……」
おわり
457
:
名無しさん@避難中
:2016/02/10(水) 23:53:36 ID:y/H.IiWM0
5000万人。
人類はいずれ来るであろう人類にとって最悪の日である最終戦争を回避するべく、あるコンピューターを開発した。
巨大化したネットワーク、発展した科学技術が注ぎ込まれたそれはこの世界では史上初の自我を持つことに成功した。
人類が到底到達することの出来ない、世界中の情報と知識を手に入れたそれはマザーという名が付けられ
そして人類はその未来をマザーに託したのだった。
マザーは星の均衡、そして人類という種族の存続のために一つの計画を発案した。
『人口数調整計画』。それは言ってしまえば世界規模の粛清だった。
最終戦争による結末を防ぐために作り出されたマザーによる粛清計画。
戦闘による滅亡か、粛清による計画的削減か。そこに選ぶ余地などなかった。
5000万人。マザーが提案した人類の適正人口数は想像よりも遥かに多かった。
日本に提案されたその数字も現人口の半分の削除で済むというものだった。
削除だけではない。過疎地に住む住民は強制的な移住により、いくつもの町が消滅した。
都道府県というくくりもなくなり、地方それぞれの町による自治が行われるようになった。
交通手段も減少し、海外どころか他の町にすら旅行感覚で移動するようになった。
かつての世界にあった利便性は失われた。しかし人類は確実に平和で、そして幸福な時代を迎えることとなった。
だがそれも全人類が、ではない。
計画発動直後から削除対象になった人間が逃げ出したという事案が多発したのだ。
逃げ出した人間がレジスタンスを組んで、長い時間をかけて考えた作戦を実行して、人類に真の平和を取り戻す的な序章
を書こうと思ったのだがなかなかうまくいかないからここでぽい
458
:
名無しさん@避難中
:2016/02/19(金) 03:10:27 ID:GNx2.Wz60
この夜の向こうから、次の一年がやってくる。
女は雪降る空を見上げた。睫毛に乗った氷の粒を、瞬きで払い落す。雲の裂け目から
覗いた星は、黒い宇宙に青く燃えていた。
果たして今日この大晦日に、天から墜ちる星はあるか。
女は視線を地上へと流した。赤レンガの壁に挟まれた狭い路地、そこへ若い男が
ひとり歩いてくる。ぼろぼろのコート、ひしゃげた帽子、汚れ色褪せた靴。瞳だけが、
翳りの中に炎を宿してぎらぎらと輝いている。
「鋭くて、脆そうな眼をした奴が来たね」
青年は彼女の前で立ち止まり、訝しげな顔で相手の出で立ちを眺め回した。
降る雪に似た白い肌、襟首でカールした長い金髪。右手には、身の丈より長く、
先端に赤い石の付いた杖を持っている。
「……まだ子供のようだが。〈マッチ売り〉とは、君のことか」
「はいな。お兄さん、コレ買いに来たの……」
女の左手に提げた籠が揺れる。中には、ありふれたマッチの箱が重ねられていた。
「一本擦れば三十秒、天国を覗けるよ。一箱まるごと燃やせば、魂は身体から
ぶっ飛んだまま、天国に永住できる」
「魂に、天国とは。商売の割に信心深い方なのか」
「死んだおばあちゃんの受け売りだよ。あたしは無宗教」
マッチ売りは外套で包んだ肩をすくめる。小柄さに見合う、細い肩だ。
男はたじろいだように見えた。
「本当に、大丈夫なのか……」
「何なら一本擦ってみる? 一本単位(バラ)でも買えるんだけど」
「〈幻燈燐(マッチ)〉のことじゃない、君だ」
女は――あるいは、少女は――きょとんとした顔で、自分を指差した。男は頷く。
「〈マッチ売り〉は、火と幻術を使う魔女でもあると聞いた」
「ああ――〈幻燈燐〉じゃなくてこっち目当ての人ね」
マッチ売りは微笑み、右手の長杖を持ち上げて見せた。
「見たとこ、苦学生って態(なり)だけど。わかってんの。魔女を雇うにゃあ、高くつくよ」
「覚悟の上だ。明後日のことを考えずに済むとなれば、忌々しい金を出し惜しむ必要もない。
むろん、君が本物であればの話だが」
そうかい、と魔女は言った。
「なら、手付金として一杯おごってちょうだいな。詳しい話はそれからってことで」
魔女は両手それぞれに、人ひとりの世界を変える力を売っているという。
左手の籠には〈幻燈燐(マッチ)〉。内なる世界、人の心に映る景色を至福へと塗り替える、幻の火。
見た目は何の変哲もないマッチ棒だが、着火すると幻覚作用のある気体を生じ、
吸った人間に無限の多幸感を与える。依存性のある物質でこそないものの、
乱用によって精神の平衡を欠く者が後を絶たず、いまは禁止薬物に指定されている代物だ。
ならば、魔女の右手には?
炎の杖が握られている、と人は伝える。巨大なマッチ棒にも似たその武器、
〈起炎杖(イグニッション・ロッド)〉は、外なる世界を変える暴力の火である、と。
**********************
↑『マッチ売りの少女』が生き延びていたら、というコンセプトで書きだした話だったが
マッチ売りが必殺仕事人めいたサツバツ存在になってしまったのでお蔵入りに。
459
:
名無しさん@避難中
:2016/02/19(金) 04:21:23 ID:L02YDxP.0
ええやんかっこいいやんw
460
:
名無しさん@避難中
:2016/02/19(金) 22:16:30 ID:UGyTR1Uc0
強そう(小並感)
461
:
進学の買い物
◆BY8IRunOLE
:2016/03/25(金) 22:46:38 ID:9GqFd.bg0
デパートのファッションフロアを歩く俺の、数歩後ろをトテトテとついてくる。
アイリンは半分夢でも見たように、頼りなく歩く。
「コートは? 学校指定のがあるのか」
「へっ? えっと……。無かったと思う、たぶん」
「ホントかー? ったく、自分の入る高校のことなんだからちゃんと調べとけよ」
「だって……」
しょんぼりしている風を見せる。
めでたく娘の高校進学が決まったので、俺はデパートの洋品店に制服を作りに行った。
学校指定の店で、同じ年代と思しき親子連れが何人もいた。いつものことだが、こういう時はたいてい母親が来るものだ。
母親でなく父親が来るのは、よほどの理由がある家庭、つまりウチだ。
そういう気まずさも、もう慣れっこだ。じっと順番を待ち、採寸して、さっさと店を後にする。
今日の目的は達したが、通学のことをいろいろと考えていてふと思った。それで、訊いた。
――学校指定のものがないなら。
若い女性をターゲットとしているセレクトショップの前に来ていたので、ちょうどいいと思った。
.
462
:
進学の買い物
:2016/03/25(金) 22:48:41 ID:9GqFd.bg0
「だったら、ここでコートもついでに買っていこう」
娘はきょとんとしていた。
「え、だって、おとーさん」
「いいから。好きなの選べよ」
娘はおどおどした様子でセレクトショップの中に迷い込んで行った。
女の買い物は時間がかかる。それは覚悟していた。けれど、いくら待っても動きがなさ過ぎる。
「決まったか?」
声をかけると、彼女は今にも泣き出しそうな顔で首を振った。
「わかんないよぉ……」
俺は頭を掻いた。
――決められない、ってことなのか?
店員が寄ってきたので、ちょうどいいと思った。
「お探しですか?」
にっこりと声をかけてきた若い女性店員に言った。
「娘なんですけど、今度高校になるんです。学校指定のコートが無いみたいなんで……なんかテキトーに見繕ってもらえたら。できれば、野暮ったくなりすぎず、かつセンパイに目をつけられない程度で」
俺の要望を聞いていた女性店員は目を光らせ、
「承知しました。おまかせを!」
と言って自信ありげに微笑んだ。
@ @ @
463
:
進学の買い物
:2016/03/25(金) 22:51:16 ID:9GqFd.bg0
数分後。またもや娘が
「どっちがいいかなぁ……」
と言ってフィッティングルームから出てきた。
「あのな、アイリン。これは、お前の問題なんだ。お前が着る服なんだから、お前が決めるべきなんだ」
「うん……でもさ、『しいていうなら』どっちかな? おとーさんどっちが好き?」
選んだアイテムはどちらも黒のコートだ。
片方は膝下くらいの丈で、軽やかで洒落ている。雨の日に長靴に合わせても良さそうだ。
もう一つは脛くらいまである長めの丈で、ポケットやベルトもなくそっけない。実用第一という感じだ。けれど薄めのウールのライナーが入っていたりして作りがしっかりしていた。
――しょうがねえな。
俺は店員に、
「これ、どっちもください。支払いはこのカードで」
と言い、娘には
「サイズ、大丈夫なんだよな?」
と言った。
「おとーさん、大丈夫なの」
包装を待っている間、不安そうにする娘が言う。
「この店の服の値札、見たか? お前の制服、ここの2着分だ」
目を丸くする娘に
「制服って高いんだよ。でも心配するな、予算想定内だから」
何ごとか考えているふうのところへ、
「おまたせしました〜」
買ったコートを包んだ手提げを持って先の店員が微笑んでいた。
店を出て、少し歩く。
娘はちょっとだけ楽しそうだ。
「靴は?」
「先週新しいの買ったよ」
「そうか、ならいい」
新しい環境に、みすぼらしい格好で送り出したくない。
春はお金のかかる季節だ。でも、それはちっともイヤじゃなかった。
464
:
◆BY8IRunOLE
:2016/03/25(金) 22:52:15 ID:9GqFd.bg0
↑以上です
465
:
名無しさん@避難中
:2016/04/10(日) 00:01:12 ID:043PvSLM0
ラストはその日黄色い花の咲く高原に辿り着いた。
マスターと離れた後、ラストはただひたすらまっすぐ歩くことにした。
町から抜けて、荒地を歩き、草原を歩き、川の中を歩き、森を歩き、山を歩いた。
雨や風、あるいは雪など天気の悪い日は木陰で一日休みを取り、晴れや歩きやすそうな日は黙々と歩いた。
町を出た事がなかったラストは時折世界が見せてくれる美しい景色に足を止めて感動することもあった。
その旅は一人ではあったが、決して孤独でつらいものではなかったのだ。
しゃがんで黄色い花を良く見る。間違いなくタンポポだ。多少高度がある場所だが良く咲いている。
見渡す限りの黄色い絨毯。こんなにも群生するものなのか。ラストは感心しながら黄色い花の中に建つそれに注目した。
明らかに人の住居だ。遠目で見たところは普通の住居にガラス張りの温室がくっ付いているように見える。
しかしここは何度も言うように高原なのだ。周りにはそのような人工物は一切無い。
一体どうやって、そして誰がここにあんなものを建てたのか。疑問に思いつつもラストはそれに近づいていった。
壁はレンガ模様になっているが、驚くべきことにそれはおそらく一つの岩を加工して作ったものだということがわかった。
人の家に成り得るほどの大きな岩をここに持ってきて、それを加工して家にしたのだ。窓などは付いていないので
中を伺うことは出来ない。温室のほうから覗いて見たがどこかの庭園を思わせるような噴水と石畳の床に真っ白な椅子とテーブルが見えただけだ。
家の周りを観察した跡、改めて玄関に立つ。木製のシンプルなドアだ。表面は経年劣化したらしく、少しざらついている。
人の気配はないがノックをした。こういった礼儀は大事なのだ。
「はいはい、どちら様」
中から人が出てきて、心底驚いた。眼鏡をかけた女性だ。年のころは二十過ぎだろうか。黒い髪が肩の上にかかっている。
「あなたが、この住居の主ですか」
少しつっかえながらも質問をする。
「ええ、そうよ。お客様なんて珍しいわね。どうぞ、入って」
「いいのですか? 私がどのような人物かもわからないのに」
「こんなところまでやってくる人を無下に扱ったりはしないわ」
そう言ってこちらに背を向けて部屋の中へ戻って行く。嘘ではなく、本当に警戒をしていない。
あるいは罠だろうか。しかし今更自分が罠にかかったところで問題はないじゃないか。
ラストはそれでも周りに警戒しつつ、おずおずと中に入った。
家の中は普通の住居と同じだ。ただ家電の類は見当たらない。電気やガスというものを利用していないようだ。
ベッドもシングルが一つのようなので一人住まいということもわかる。
そして家の奥はそのまま温室に繋がっていた。扉もないようだ。
誘われるままに温室まで入ると温度の違う空気が体を覆った。夏の熱気を思い出す。
「ごめんなさい。ハーブティーしかないけどいいかしら」
彼女はしゃがんで薬草を抜いているようだ。雑然としているように見えたが一応の整理は出来ているらしい。
「いえ、私は結構です」
「あら、そう? でも他に飲み物は……」
「その、私は」
一度言葉を区切る。
「アンドロイド、なので」
「あら、やっぱり?」
彼女がうふふと笑う。これでも自分は人類が生み出したラストナンバーの一体なので人間との相違に関しては
ほぼゼロであると自信を持っている。それなのに彼女は特に驚くこともなく、むしろ気づいていたかのように反応した。
466
:
名無しさん@避難中
:2016/04/10(日) 00:01:39 ID:043PvSLM0
時間なのでここまで。特にあらすじとかは考えていない行き当たりばったりな話
467
:
名無しさん@避難中
:2016/04/27(水) 23:26:06 ID:kB/5tD520
↑面白そうなのでage
気長に続きを待つぜ!
468
:
名無しさん@避難中
:2016/05/05(木) 18:10:59 ID:N80cDvTs0
待たせるのも悪いのではっきりと申し上げますと
続きは一切合切考えておりませんので諦メロン
469
:
名無しさん@避難中
:2016/05/05(木) 22:34:51 ID:yknH9MZA0
http://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/1033/souhatsu205.jpg
470
:
名無しさん@避難中
:2016/05/05(木) 23:00:11 ID:HtVY6myc0
三姉妹になったwwwww
471
:
名無しさん@避難中
:2016/05/21(土) 00:13:20 ID:TizEfllE0
趣味の悪い衣装のフーリャン
http://imefix.info/20160520/541217/rare
472
:
名無しさん@避難中
:2016/05/21(土) 00:16:01 ID:qMfm9D0w0
なに、せくしぃじゃないか!
473
:
名無しさん@避難中
:2016/05/21(土) 00:16:51 ID:KAn/lGLY0
肉々しい…w
474
:
名無しさん@避難中
:2016/05/21(土) 01:34:30 ID:r4uArXFc0
女子レスラーフーリャン把握
475
:
どっかで書く予定のやつの世界観の練習の一コマ
:2016/06/09(木) 00:59:47 ID:56Ewi75M0
ひっ、と声を上げた。
トーリは持っていた麻の袋を落としてしまい、中に詰めた木の実がこぼれて、土の上を転がった。
山道で人に会う事すら珍しいが、その異様な姿は、単純に怖い。そう思わせた。
「おっと、これはお見苦しいところを」
黒いマントの男がゆっくりと立ち上がる。血まみれの口をマントの裾で拭って、トーリを見て微笑んだ。
手に持ったウサギの脚がぼたぼた血を垂らしている。半分ほど生皮を剥がれている。
「あまり危険なところではないとはいえ、油断しすぎたかな。まさかずぼらなところを見られるとは。言いふらさないでくれよ」
トーリは男の顏を見る。知っている。
この国の人間なら、誰もが知っていて当たり前の人物だった。
トーリはそのまま深々とお辞儀をしたら、背負っていた籠から獲物のウサギが二羽、トーリの頭の上を転がって行った。
「らららラウファー卿!?」
頭を下げたまま言う。
視界に転げたウサギが目に入る。
「君は、このあたりの猟師の子だね」
「ははは、はい」
「そんなかしこまらなくてもいいんだ。ほら」
肩に手を置かれ、そのまま姿勢を正された。地面に転がったウサギを持って、背負った籠に入れてくれた。
「このあたりはウサギが多いんだな。簡単に捕まえられた。不作法な食事で済まなかった。見るに堪えなかったろう」
「いえ、そんな、その、ああ、ははは初めまして、トーリと申します今年で十二歳になります家はこの麓で父は猟師で私はそのお手伝いで」
「そんなまくしたてないでくれ。トーリだね。初めまして。俺のことは、知ってる様子だね」
「はははいもちろん知らない人なんてもう居ないくらいでらららラウファー卿」
「ああ、やめてくれ、その呼び名は。俺の名前はアルドだ」
「あああアルド……様?」
「様も要らない。俺はただのアルドだ。ラウファーは俺の偉大なご先祖様の名を引き継いでいるだけ。俺個人は、あくまでアルド、だ」
「でででもそんな呼び捨てなんてしたらわわわ私は……!」
「失礼とは思わないぞ。友達はみんなアルドと呼ぶ。だからアルドでいい。わかったかいトーリ」
「ともだち」
「そうだ。改めて、初めまして。トーリ」
「は、はい。アルド様……いやいやいやアルド」
「初めまして」
アルド・ラウファー・シュレイカー。
この国の英雄が、背の小さいトーリの前に跪いている。それで目線がちょうど同じくらいの高さだった。
アルド率いるラウファー隊は鎧をほとんど身に着けない。せいぜい胸当てやすね当てくらいだ。その隊長であるアルドもまた、そのような出で立ちだった。
真っ黒なマントに最小限の鎧、そして、腰にぶら下げた大剣。伝説として今も語られる、数百年前にドラゴンすら屠ったという宝剣、ミヌイアルだ。
じっとそれを見ていたら、アルドが言った。
「俺の伝説のご先祖様が使っていた剣らしいのだが、どうやら俺には使う才がないらしい」
「え?」
「この剣は真に伝説の通りなら朝焼けの空のように赤銅色に輝いて、持つ者の魔力を食い、熱を放ち、そしてドラゴンの炎と同じく、夜を昼に変えるほどの力があるという。だが俺が使う限りそんなことはないな」
トーリはアルドとミヌイアルを交互に何度も、目をきょろきょろさせて見比べた。
「刀身は真っ黒。魔力なんてぜんぜん宿らないし、床にほっとけば他の剣と同じく冷たくなる。実はさっきのウサギもこれで仕留めで捌いてたんだ」
「ひっ!」
「なんだ猟師の子だろ? ウサギはよく食べるだろう。背中に背負ってるじゃないか」
「わわわ私たちはちゃんと料理してから食べます! そんな焼きの煮もせずそのまま食べるなんて、まるで魔人……あっ」
「魔人みたい?」
「ひっ! ごごごごごめんなさい。許して死刑にしないで……!」
「魔人を見たことは?」
「えっ」
「やつらは怖いぞ。君みたいに小さなかわいい女の子が一人で歩いてるところを見つかったら、あっと言う間に捕まって、鍋でスープにされちまう!」
「ひぃっ!」
「もし腹が減ってるヤツだったら、その場で噛り付いて骨まで食べられちゃうかも!」
「あばばばばば!」
「それならまだいい……。もし奴らの集落があったら、そこに連れて行かれて、一生そこで……!」
「……ぎぁあ!!」
「冗談だ。このあたりに魔人はいないし、ほかの魔物も見かけたことはない。ちょっとからかっただけ」
「い、いぢわる……」
「ははは。でも魔人が怖いのは本当だ。もちろん、奴らの悪事を防ぐために俺たちが働いてる。勝手な真似はさせないさ」
476
:
どっかで書く予定のやつの世界観の練習の一コマ
:2016/06/09(木) 01:00:23 ID:56Ewi75M0
英雄、アルドの仕事はまさにそれだ。
先の大戦にも参加せず、自身の部隊を引き連れて各地を巡る。
魔人討伐の専門部隊。
人間のみならず魔人ですらアルドを畏れる。その地に来たというだけで、魔人の姿がぱったりと消えるほどだ。
消えない魔人は、ミヌイアルで斬り捨てられていった。
伝説の英雄の血は、今なお英雄であり続けた。
「それに生のまま食べるのはちゃんと理由があるんだぞ。火なんて起こしたら居場所を知らせるようなものだからね。焼くにも時間がかかるし、それに現場で働く連中はせっかちなものさ」
「はぁ」
「あとな、意外とおいしいんだ」
「えぇ?」
「真似はしないでくれよ。君のお父さんに見つかったら俺が怒られてしまうよ」
「しませんよ!」
「それでいい。さて」
アルドが立ち上がった。
「君のお迎えが来たようだ。君を呼ぶ声が聞こえる」
トーリには聞こえなかった。ただそよ風が草を揺らす音が、かすかに聞こえる程度だ。
きっと外で闘う戦士は耳もよいのだろう。猟師の子である自分ですらまったく聞えないのだ。
「トーリ、まだお手伝いの途中なんだろう。早く戻るといい。きっと君を呼んでいるのは君のお父さんだね」
ああ、と思い出す。
罠にかかったウサギを回収して、道中で木の実を拾っていたのだ。
「俺も実は仕事の途中なんだ。峠を越えて将軍が駐留してる陣地に行くんだ。そろそろ行くとしよう」
トーリは地面にこぼれた木の実を拾って、アルドもそれを手伝った。
袋に一杯になった木の実に、アルドが飴玉を一つ混ぜた。
「おみやげだ。城からくすねてきたんだ。誰にも言わないでくれよ。それじゃ、またね、トーリ」
はい、と答えて、深々とお辞儀をしようとして、トーリはやめた。
「あっ」
「そう。友達にそんな別れの挨拶をするやつはいない」
そしてアルドは山道を進んでいった。
「あ、アルド!」
背に向かって言う。
「さようなら! またね!」
元気よく手を振った。アルドは微笑んで、手を振って答えた。
※
「トーリ!」
父は怒っていた。帰りが遅いと心配していた様子だ。
「いったいどこで油を売ってたんだ! ケガでもしてたんじゃないかと!」
相当おかんむりのようだ。
「ここは魔物どころか狼も猪も出てこないが、それでも子供一人で山道を歩くのは危険なんだ! やっぱり山の仕事を手伝わせるのは早かったか」
「ごめんなさい」
とりあえず謝る。
父も自分を心配して怒っているのは分かっていたので、反抗は出来ない。
「いったい何をしていたんだ。歩いて時間のかかるような道でもないだろう」
「途中で人がいて、それで……つい話し込んでて」
父はカッと目を見開いて、さらに怒りの形相をした。
「ますます山の仕事は早かったようだ! こんな山道で知らない人と話してた? 人さらいだったらどうする気だ!」
「違うよ! 知ってる人だよ!! お父さんだって知ってる人だよ! さっきまでここに居たんだもん!」
「誰が居たって言うんだ」
「アルド……じゃない、ラウファー卿が……」
「この期に及んでそんなウソつくのか!? ラウファー卿がこんな静かな山になんの用だ!」
「ほんとなんだって! 峠の向こうの将軍の陣地に行くって言ってたもん!」
「だとしても! お前みたいな小娘を相手にしてくれるお方じゃないだろ!」
「違うよ! すっごく優しかったよ! 飴玉くれたし!」
トーリは飴玉を麻袋から飴玉を取り出した。大きな赤い一粒の飴玉だ。
「はぁ。まぁいいさ。飴玉なんて買おうと思えば誰でも買えるものだ。で、そのラウファー卿なこんなところで何をしてたっていうんだ? ん?」
「それは……」
ウサギを食べていた、とトーリは言いかけた。
だが。
「いや、お前はウソは言ってないようだな」
「ほんとだもん……」
「あそこを見ろ。魔人が居た跡がある。ここらも危なくなってきたみたいだな。そんな通達は城から来てないから、調査に来たのかな?」
父は地面を指差す。
血のりが固まって、ウサギの骨と、毛皮が散らばっている。
「魔人がウサギを食べた跡だ。生のウサギなんてまずくて食えたもんじゃない。食うのは魔人だけだ。まぁ魔人が出ても安心だな。ラウファー卿が来たんじゃ奴らひとたまりもないだろう」
アルドがウサギを生で貪っていた、とは言えなかった。
477
:
名無しさん@避難中
:2016/07/02(土) 04:58:28 ID:kBiL5u8s0
ボツにしたやつ供養
トンネルを抜けるとそこは雪国であった。
有名な川端康成の小説の冒頭の一文だ。
この一節で物語の世界感の情景が一気に浮かぶ。ああ、長いトンネルを抜けた先、しんしんと降る雪。夜の底が白くなったと続く文で、底冷えする汽車の様子が目に浮かぶ。
さて、同じような表現で今の状況を言おう。
玄関開けたらふなっしーがいた。腹の底がムカついた。部屋が暑いのでエアコンのスイッチを入れた。
なにがなんだかわからない。だって私もよくわかってないんだから。これで情景が目に浮かぶ人はよほど想像力にあふれるか、妄想癖があるか、もしくはエスパーである。
とりあえず靴を脱いで鞄を床に放り投げた。
「暑いね。来てたんならエアコンつけとけばよかったのに」
「勝手に上がりこんでた上に家電まで勝手につけるほどあつかましくないっしー!」
「なんか飲む?」
「コーラとかあるとうれしいなっしー!」
ふなっしーの中身は声で察することが出来る。というか私の家の合鍵を持ってて勝手に入れるヤツはウチの爺さんとアイツしか居ない。
冷蔵庫に缶のコーラがあったので手渡す、ことは出来ないので、イリュージョンと言われる前に口の中に放り込んだ。
プルを開ける音がくぐもって聞こえて、ごくごく飲むのも聞こえてくる。よっぽど暑かったのだろう。
「リアクションする気はないからもう脱いだらそれ?」
ふなっしーがもぞもぞ動いている。中でコーラを飲んだ手を着ぐるみの袖に通しているのだ。
そのまま私の頭を叩いてきた。
なにすんだこのガキ。
「せっかく! こんな大仕掛けで! キャラまで崩して頑張ったのに冷たくない!?」
「うるさいな。面白いどころかなんか腹が立つんだけど?」
「彼方さん」
「なに?」
「背中のチャック開けて」
「後ろ向け」
背中にあったわかりやすいチャックを下すと、そこから顏が飛び出した。
やはりと言うかなんというか、とにかくふなっしーの中身は直りんことハイパーヤンデレ女子高生、鈴江直子さんでした。
「あっつい! すっごい蒸れる!」
「ごめん、今日ほど直りんがバカに思えた日は無いわ」
すこぶる機嫌が悪そうだ。スルーされたのがそんなに嫌か。
しかし玄関開けたら自分の部屋にふなっしーが居た私の気持ちも考えてほしい。やるにしても、もっと新しいヤツがあったろ。ネタが古いんだよ。
頭が出たらあとは自分でどうにかなるようで、器用に腕を出し、チャックを下していく。珍しく学校の制服のままだ。
よっぽど蒸れてたのか夏服の白のブラウスが汗で張り付いて、下のキャミソールはもちろん、ブラジャーまで少し透けて見える。
大股開いてふなっしーを脱ぎ捨てたら、その拍子にパンツが丸見えになった。そんな膝上のミニスカ履きやがって。私のそんな時代はとっくに通り過ぎたというのに。長い髪の毛が汗で頬に張り付いて、小娘のクセにけっこうセクシーじゃないか。
ていうか制服着てる直りんって初めて見た気がする。
こう見るとちゃんと女子高生だ。
「コーラおかわり」
「そんな暑かった?」
「うん。死ぬかと思った。彼方さんが帰ってくるのがあと三十分遅かったら諦めてた」
「早々に諦めてくれてもまったく問題はなかったのに」
「
478
:
名無しさん@避難中
:2016/07/13(水) 23:29:31 ID:l5O447HM0
2016年、南シナ海の領有権を巡る問題に対し、裁判所は『法的な根拠はなく、中国は国際法に違反している』という判決を出した。
これに対し、中国は『裁判は紙くずであり、拘束力はない。無効だ』と批判。あくまでも領有権を固持した。
さらに中国は仲裁裁判を申し立てたフィリピンとの平和的な話し合いを求めていたが、それに先んじてフィリピンの漁船が互いが領有を主張している
海域を運航。これを中国側が違法操業とみなし、軍艦で砲撃し、撃沈させるという事件が発生した。
世界中からの批判を浴びた中国はあくまでも領海侵犯に対する処置であるということを主張し、さらに中国が主張する南シナ海への外国船の侵入を
一切禁ずるという宣言をした。これと同時に当海域を運航していた日本を含む各国の民間船、そして米国所属の艦隊を爆撃。これを撃沈する。
これを発端に米国内での中国に対する批判が続出。対立は決定的なものとなる。
アメリカは国内の中国の政府要人の銀行口座を凍結する制裁を出し、EUを始めとした各国もそれに続いた。
中国は到底受け入れられない制裁だと批判。これ以上の不当な行為に対し、我々は話し合い以外の手段を引き出さなければならないと発言。
そしてロシアが中国との貿易を制限するという宣言が出された日。中国は世界に宣戦布告。同時に各ミサイルを周辺対立国に発射。
これの着弾により、ロシアの連絡網は壊滅。自動報復システムである死者の手が稼働し、アメリカに向けて核ミサイルを発射する。
アメリカはこれに対し、同じく核ミサイルを発射。世界を核の嵐が覆う。
後にこれは第三次世界大戦と言われる。しかし核の応酬により、世界のほとんどの国が壊滅。さらに放射能により、世界中のほとんど生物が死滅することになった。
それから一万年後。
世界はかつての文明を忘れ、太古の時代へと回帰していた。
大型生物が跋扈する弱肉強食の世界で、人間は魔法という力を携え生きていた。
ほとんどの人間はかつての文明について興味はなく、日がな一日楽しく暮らすことをモットーにしていた。
そんな世界で生きるとある少年は世界は球体であるという事実を確かめるべく、東の果てへと目指すことにしたのだった。
479
:
中二文章の練習してたらいつのまにか…
:2016/07/28(木) 05:01:04 ID:cSuL.CjE0
男は迷っていた。
自分が今しようとしている事がなにを意味しているのか…そしてそれをしてしまえば戻れない事を知っているからだ。
しかし、目の前で繰り広げられる光景は決して、男が迷う事を許してくれない。
選択の時間は既にない、答えを出さなければ、もう心臓の鼓動が3度、響いたあと、その音を止めるだろう。
男は苦悩して手をあげる。
腰に光が宿り、やがてそれがベルト状に巻き付いた。
男は自分の世界はひびが入るのを感じた。
これより始まるのは自己形成。
それは全ての起源から彼方までを文字通り作り直す。
それは己への革命であり、反乱でもある。もはやそれは変革ではない。
過去の自分への否定、新しい自分をその力によって上書きするという違法行為。
それは呪いだと誰かは言った。
それは祝いだと誰かは言った。
それは償いだと誰かは言った。
男は手をあげる。
意思を現すようにして、構える。
形成が始まる。皮膚が硬化し裏返る。
自分が自分でないものに変質していくのを感じる。
それは何も外面だけではない、己が小宇宙を陵辱し、破壊し、蹂躙し尽くす。
なんという悪行か、これは許されていいものなのか…。
男はその行為を黙して受け止める。
世界は崩壊を始まった。
北と南の氷は溶け始め、水位は増す。
山々まで陥没し、世界をただ青いだけの地平へと書き直す行為だ。
それを感じて男は言う。
「変――身!!!!!」
さあ、開闢の時は来た。
始まりの鐘が鳴る。
天地創造は今こそなる。
死を感じさせるほどの激痛とともに男の姿は光に包まれその容姿を劇的に変えていく。
男はついに人の姿を捨て、怪物となる事を選んだ。
怪物の力を身に宿し、その魂魄諸共怪物に染め上げた怪物を倒すための怪物。
鋭利な爪、甲殻類を思わせる顔つき。
それは人間とよべるものではなかった。
異形の姿となった男は、眼前で人々に襲いかかる自分と同種の怪物に襲いかかる。
その姿に周りの人々は怪物が増えたとおびえ逃げ惑う。
男の背には少年がいた。
少年を背に決して少年に怪物の魔の手が迫らぬように戦う男。
少年はその姿を見て、自分の知る知識の中で男の印象に最も近い言葉を漏らす。
「仮面ライダー」
怪物と怪物の戦いは始まったばかりだった。
480
:
名無しさん@避難中
:2016/07/28(木) 06:00:30 ID:oj1OeHCg0
かっこいい…
481
:
名無しさん@避難中
:2016/07/28(木) 07:24:48 ID:9MWpJzkwO
いいねぇ
482
:
名無しさん@避難中
:2016/09/10(土) 12:57:16 ID:AX/BUxKE0
プロローグを書こうとしてただの設定説明になってしまったためボツった文章↓
------
未曽有のナノマシン・ハザード、“ハロルド禍”から二年が経っていた。
十億人以上と言われる死者を出し、星圏を一度は滅ぼしたとさえ評されるその技術災害は、
しかし統一銀河連邦にとって好機でもあった。法定テクノロジー・レベルの引き上げに伴う諸問題を、
星圏政府の崩壊と人口の激減が超法規的に解決してくれたからだ。
技術レベルの引き上げには危険が伴う。自明の常識である。蒸気機関に惑星を破壊する力はないが、
原子力なら不可能ではなく、重力制御技術まであれば星ひとつ砕く程度のことはむしろ容易い。
ゆえに、連邦構成国に課せられた技術レベル上限の引き上げは、滅多なことでは認められない。
一方で、連邦を牛耳る企業連にとって技術レベルの変動は巨大な商機である。
支分国のいずれかで引き上げが行われる気配あらば、資本投下の優先権を巡って
熾烈な争奪戦が行われる。そして当時のフォルグ星圏では、現地の政府も住民も
外部の介入を拒否し得る状態になかった。必然、企業連は連邦議会を動かして、
フォルグ復興の先鞭を競売にかける所業に及ぶ。崩壊しかけた国家の主権などは、
強大な星間企業体群の入札を些かも妨げられるものではない。
競りに勝ったのはナノテク産業の帝王、ドレクスラー・コーポレーション。
“ハロルド禍”の残留汚染除去を名目とした下級ナノアセンブラの投入計画を発表し、
そのために十三段階もの技術レベル引き上げを連邦技術管制局に追認させた。
“ハロルド禍”を生き延びた二億人は、十億の犠牲を利権の具としか見ない企業のやり口に、
初めのうちこそ反発していた。しかし外星系から流れ込む移民に圧倒され、希釈され、
星圏の産業形態を根本から変えてしまう新技術に対応しようと日々を過ごすうち、
いつしか怒りを生活の倦怠に埋没させていった。
そして十五年。
時は流れ、世は変わった。
------
483
:
名無しさん@避難中
:2016/09/10(土) 14:15:14 ID:GnXu1ASg0
一言
設定説明は別にSFやる上では必須だから…別にええんやで…
484
:
名無しさん@避難中
:2016/09/10(土) 18:38:44 ID:AX/BUxKE0
必須だからこそ入れ方に悩むんだびょ
485
:
名無しさん@避難中
:2016/09/11(日) 10:39:46 ID:FWGKAYBk0
設定の提示なら「ハロルド禍」がどんなものか説明が欲しくなる
結果を数字だけで表すんじゃなくて原因と経過も大事なわけで
真相にかかわるもので最初の段階では明かせないとしても
推測や虚偽の情報でいいから誰がどうやって起こしたかぐらいは欲しい
「ナノマシンハザード」にもいろいろあって「ハロルド禍」なんだから
ハロルド禍は統一銀河連邦にとっては技術レベルを引き上げる好機だった
技術レベルの引き上げは企業連にとっては商機だった
で、連邦を企業連が牛耳ってるってことは企業連が連邦を動かしたわけで
三段落目は四段落目とまとめられると思う
要は連邦と企業連が星圏政府を無視したんだから
統一銀河連邦と星圏の関係が不透明なのもなんとかしたい
連邦にはいくつの星圏があってハロルド禍はどの程度まで及んだのか
外星系とは星圏の外?連邦の外?
「フォルグ星圏」も唐突な感がある
ハロルド禍や二億の生き残りってフォルグ星圏の中だけの話?
フォルグ星圏は連邦内でどのくらいの位置づけ?
と、こういう風に疑問を出していくと
だんだん設定の説明が長くなっていって最終的に設定だらけになるのがSFだ
うまく物語の内容に組み込めればいいんだけどプロでも無理だから
説明放棄してあとで設定だけ投げとくか注釈を入れてすませるのだ
486
:
名無しさん@避難中
:2016/09/11(日) 15:39:48 ID:3TnbXkP20
それをとことん極端にすると富野由悠季になる
487
:
名無しさん@避難中
:2016/09/11(日) 18:56:56 ID:uAR33ksE0
黒歴史が来るぞー!
488
:
『最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ』はなぜ最強なのか
:2016/09/18(日) 01:14:36 ID:dgcAHd/o0
『最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ』はなぜ最強なのか
ホメロース・テノバース(巨大ロボット評論家)・著 ちくわ新書 \690(税込み)
【序論】
国際的な正義の組織・E自警団のはぐれ研究員たちが知恵とお金を絞って製造した、
“最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ”。そのパイロット、田所カッコマン。
彼らは未来都市ロボヶ丘の郊外にあるセイギベース3からドヒュン出撃しては、
悪の怪ロボットと勝手に戦い続けている。
一説にはメカアメリカ第七艦隊に匹敵するとも言われる、その強さの秘密に迫る。
489
:
『最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ』はなぜ最強なのか
:2016/09/18(日) 01:16:15 ID:dgcAHd/o0
【本論】
①防御力が最強
装甲とフレームが一体化した堅牢な構造。
その全てが、原子レベルで物質を変性・制御することで素材の理論強度を引き出す宇宙の物質
ネクソニウムを贅沢に使用した、超ネクソン黒鋼で構成されている。
あまりに防御力があるため、コックピットに特別の安全装置は実装されていない。テストパイロットからは
現代のタイタニック号と恐れられた。
これなもんだから同級の超級ロボットとの殴りっこでもびくともしない。強い。
②攻撃力が最強
最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは、身長29.3メートル・体重690.2トンを誇る肥満気味のスーパーロボットである。
鈍重とはいえこんなボディで殴る蹴るの暴行に及べば相手がどうなるかは自明の理と言える。そう挽き肉である。強すぎる。
③内蔵兵器が最強
両目の下の穴から金属粒子ビーム・ネクソンクロガネビームを出す。これはビルをも貫いたり貫かなかったりする。
各所にもネクソンクロガネミサイルやネクソンクロガネバルカンを搭載し、遠近共に隙がない。
更には追加装備としてネクソンクロガネバズーカやネクソンクロガネキャノンなども鋭意企画中である。まだ強くなる。
④パイロットが最強
パイロットの田所カッコマンは、三年に一度の天才と言われている。
E自警団のゴッサハ=アル・カモネ研究員の考案したカッコマン指数で124を記録した。一般人は100前後だから
これは大変なことだよ。
基地からカタパルトで爆裂射出される最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを現場にて軟着陸させられるのは
世界広しといえど田所カッコマンくらいのものだろう。強くないわけがない。
490
:
『最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ』はなぜ最強なのか
:2016/09/18(日) 01:17:53 ID:dgcAHd/o0
⑤サポート体制が最強
はぐれ研究員・龍聖寺院光を所長とするセイギベース3による万全のバックアップは万全である。
ここで最強無敵ロボ・ネクソンクロガネは傷を治したり、弾薬を補給したり、お風呂に入ったりする。
医務室やトレーニングルーム、食堂、お風呂といったパイロットのための設備も充実している。
強さはこういうところから生まれる。
⑥歌うから最強
最強無敵ロボ・ネクソンクロガネにはカーステレオとスピーカーがついており、
クソやかましいよさこいのトレーラーみたいに周囲に音楽をまき散らす。
それが街を襲う怪ロボットから避難する人々の心を高揚させ、勇気付ける。強いし、優しい。
⑦名前が最強
この名前は当初E自警団十大技師長ギゼン・シャシェフスキらに猛反対されたが、
断行したと言われている。
巨大な悪やまだ見ぬ強敵たちを前に“最強無敵ロボ”を名乗ること。
そのプレッシャーを跳ね除けて、セイギベース3チームは今日も名乗り続ける。メンタルまで強い。
491
:
『最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ』はなぜ最強なのか
:2016/09/18(日) 01:19:15 ID:dgcAHd/o0
【結論】
やはり最強無敵ロボ・ネクソンクロガネはどこを切ってどこからどう見ても絶対的に最強であったことが明らかになった。
しかし最強無敵ロボ・ネクソンクロガネだけにいつまでも頼ってはおれない。
明日の平和、人類の未来を守るのは君だ。強くなれ。
492
:
『最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ』はなぜ最強なのか
:2016/09/18(日) 01:19:36 ID:dgcAHd/o0
おわり
なんだこれ
493
:
名無しさん@避難中
:2016/09/18(日) 19:24:41 ID:cPjVl3Gw0
>>488-491
ある種のアイデアを示唆するために「アイデアを体現した物語」を物すのは時間がかかりすぎる
それなら「物語」を既に書かれたものとして扱い、その物語を批評したり、注釈をくわえるような構成にするのが手間がかからずによい
といっていたボルヘスを思い出した
結論としてネクソングロガネをほっぽりだして"君"に期待しているところに
全体を通底する統一感(ネクソンクロガネとその仲間たちはぞんざいに扱われている)を感じられてよかった
494
:
名無しさん@避難中
:2016/09/18(日) 22:37:57 ID:dgcAHd/o0
そこまで大層な話でもないけどw
本編からしてぞんざいなのは確かだ
続き書かないとなぁ・・・
495
:
名無しさん@避難中
:2016/10/10(月) 18:57:37 ID:RljccvH20
_/\_
'´  ̄ ヽ
|´ののの)
j lb ゚ ー゚ノd
,⊂リ V jリつ
( (/ ≧≦ ヽ))
,ヽ、_∥__ノ
ζ~~))_
'´~~ `ヽ
|´ののの)
j lb ゚ ー゚ノd
,⊂リ V jリつ
( (/ ≧≦ ヽ))
,ヽ、_∥__ノ
496
:
名無しさん@避難中
:2016/10/10(月) 19:22:54 ID:zO7OHrxw0
かわいい
497
:
名無しさん@避難中
:2016/10/10(月) 19:55:01 ID:RljccvH20
\ ヽ | / /
\ ヽ / /
‐、、 殺 伐 と し た 戦 場 に ホ タ テ マ ン が ! ! _,,-''
`゙''ー‐、_ r:. 、 _ ,.-''"
ヽ、 ,{.ノ,; }`i'^,ヽ、 \∧∧∧∧∧∧∧/ _,.-''"´
〉‐-‐'_.:ノ ,} < 海のミルク!!! >
└匕__,.(@) /∨∨∨∨∨∨∨\
__ 〃ヽ〈_
γ´⌒´--ヾvーヽ⌒ヽ-:,,
――― /⌒ y.. _ ); `ヽ-:,, ―――――――――
/ ノ\__,(――)フ イ ヽ"-:,,
! ,,,ノ爻ヘ._ ̄ __.ノr;^ > ) \,
.| <_ \ヘ,,___,+、__,rノ /\ /: ヽ,,
|ヽ_/\ )...、__,+、_アソ〃 / \
| ヽ、___ ヽ.=―――-〈 ソ "-., \
| 〈J .〉、 , |ヽ-´ ゝ ゙''ー、_
| /"" ヽ、/ | ミ `丶
| レ : / リ "-:,, ヽ、
全 軍 統 括 班 第 4 大 連 隊 隊 長
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,,ll, li,,,,il lll l ll lll ,,,,,,,,,,,,,,,,,,,, ll
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'll,,,,,ll'' ll, ,,,,,,ll'''' ''''ll,,,,,,,,lll
''''' ''''
498
:
名無しさん@避難中
:2016/10/10(月) 19:59:48 ID:zO7OHrxw0
はやすぎるwwwwww
499
:
名無しさん@避難中
:2016/10/10(月) 22:22:08 ID:1H9ibvg20
なんだこれはwww
500
:
名無しさん@避難中
:2016/10/10(月) 22:29:56 ID:RljccvH20
._,.-‐一 、_
, ' `ヽ
/ ',
∥ ∩´ .∩´ |
.| ┛┗ ∪ ∪. |
.| ┓┏ |
| |__i___|
! \|//
| |
/ |
501
:
名無しさん@避難中
:2016/10/10(月) 22:51:29 ID:RljccvH20
.(⌒~⌒)
| |
/ ̄ ̄\
| (0):::::::(0) | <騒ぐ奴はァ…パン生地にしてやるグォわ!!!
| / ̄\ .|
| \二/_.. ッ". -'''" ̄ ̄^ニv..........,、
,.. -―'''';;]_,゙二二__,,/ _..-''" ゙゙゙̄''ー `'-、
,,-'"゙゙,゙ニ=ー''''"゙゙シ'"_,゙,゙,,,,,,,_ `'''T゛ \
/_..-'"″ '''^゙>'''"゛ ´ `!、
_..イ'"゛ ./ \ ,..-''''''''''''''ー.., .l
/ / ./ `゙''‐ .、 \.,,,│
/ l 「 l " .`''、
/ l゙ i ! .,! . .,!
! ./│ ._/ .ヽ,_, ,│ │ ! .!、
,, -ー'''" ./ .ヽ _.. ‐″ .`'. " `゙''―- ....,,,_ _.../ │ l 丿 .′
′ .i゙'''゛ `'''r‐―‐'´ ヽ .l _,. .ヽ
|, _,,,,,....、 / .‐ , .`'i .`'' .″ ヽ
,,.. . .ヽ. .ン._,,,,,,... .、,`'ー、、 ,. _..l, │ / ヽ .../ '
゙l、.i ′ ゛ `"´ '"´ ,.ゝ ! .| l/
‐'│゙.l i ,r'" " l .l ,, 'ソ゛ `
,i゙.l .\ ‐- ........ ‐' 、 ,r‐'' |, .ヽ _,, イ゛ .'、
/ l. | _i,,,...... -----.... ....;;_ / " ....l .ヽ .,/´ .ゝ .ヽ
_,,, ‐" l",゙,,...... ---――ー- ....,,,,,,_"'''ー ..,,_ ,L-'゛ ヽ } / / ヽ `
-'" ̄ ̄゛ .!.´ `"'ー ..,゙.\.l .,/ ヽ ゙./ .l .`_,,,,,
502
:
名無しさん@避難中
:2016/10/11(火) 02:25:47 ID:ochfjiiU0
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∴∵∴∵∴∵ / ハ i ハ ヽ _ン ノ ! | | ∵∴
∴∵∴∵∴∵/∥ //从>,、 _____ ,.イ∨\||∵∴∵
∵∵∵∴∵∴∵∴∵∴ ∵∴∵∴∵∴∵
∵∵∵∴∵∴∵∴∵ ∵∴∵∴∵
∵∴∵∴∵/ /∵∴ ∵∴
∵∴∵∴ ,/ /∵∴ ∵∴∵`-、 \
∵∴∵∴/ /∴ ∵∴∵ \ ヽ、
∵∴∵/ / ∵∴∵`) 'ヽ
∵∴∵`tt,ノ (___ \
ヽ(_i-''゙
503
:
名無しさん@避難中
:2016/10/11(火) 05:22:56 ID:ochfjiiU0
_人人人人人人人人人人人人人_ _ ,,....,, _
> ゆっくりしていってね!!! <,-' ::::::::::::::::: " ' :; ,,,
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄:::::::::::::::::::::::::::::::/"
/::〃`v´ヽ::::::::::::::::::|
,.ヽ\-|ヽ- 、_ /:::::::::::\/:::::::::::::::::::::|
.,-' | ! -、 _, '",,ニ二二二―ト、::::::::::::::!._
/ //. `ゝ、 、'":::, '´ ,' ; `"''‐-=ブ、_,:::::"'''- ,,
く ヽ\ ゝ ヽ_/i. σ ) σ ) σ ) ヽ `、
/ ゝ、 ヽノ/ > (、ゝ- '__,ゝ-''ゝ、__.''∧ ,' !
< l ( ヒ_] ヒ_ン)イ > ヽ .i! (ヒ_] ヒ_ン ) |. !; !
/ ノ ノ '" ,___, "'i_ノ | | i '" ,___, "' '! | i!
/ ハ i ハ ヽ _ン ノ ! | | i,.人. ヽ _ソ ,ノ ) 、 `、
/∥ //从>,、 _____ ,.イ∨\|| ヽρ)> ,、 ._____,. ,( α_,ノ ヽ、ゝ
504
:
名無しさん@避難中
:2017/01/28(土) 22:39:20 ID:.JfG9r9M0
駅前の繁華街から少し外れた下水の臭いがする路地に立ち並ぶ薄汚れた雑居ビルの二階。
窓には赤いテープで探偵事務所と書かれているが、日があまり差さない場所なので大概暗くて見えない。
その事務所で一人の男が灰になっていくタバコをじっと見ていた。
口にそれを運ぶわけでもなく、ただちりちりと燃えている火を観察する。
グラスに入った氷がからりとなると同時に錆びたドアが勢い良く開き、その音に驚いた男が椅子から飛び上がったため
タバコの灰が灰皿から外れて机に落ちた。
「まーた暗い部屋で格好つけてたんですか。そもそもタバコなんて吸えないんだからやめてください」
入ってきた少女はつかつかと歩き、男の机の上に買い物袋を置く。中にはお菓子やジュースが入っている。
さらに男の後ろの窓をがらりと開けて、タバコの煙を追い出す。外から見ると探偵事務所は探事務所になってしまった。
「あ、あのだね。君はね、もう少しね、探偵のね、助手としてだね」
「今まであなたが探偵の仕事したことありますか」
男は閉口した。
少女は買い物袋からポテチとジュースを取り出し、ところどころ穴の開く皮張りの椅子に座り、持っていた学生カバンから一枚の紙を取り出した。
「それは何かね? 宿題かね?」
「近くの女子高生が行方不明になっているのは知ってますよね? それについてのビラを駅前で配っていたんです」
「行方不明?」
「知らないんですか? あんなにテレビでやっているのに」
「いや、しかしだね。ここにはテレビが……」
少女は大きな溜息をつく。この事務所にはテレビはない。あるのは二人掛けの皮張りの椅子と安物の長机。時折不審な音を立てる冷蔵庫。
そしてこの質素でちんけな事務所に全く見合わないとても立派な男専用の大型の机。無駄な見栄なのは一目瞭然だ。
「探偵の癖にアンテナ低すぎですよ。地中にでも潜っているんですか」
「いや、その……。だがその事件を解決して名を上げれば我が事務所もきっと」
「警察も見つけられないのに、事件すら知らない探偵が解決できるんですか?」
男は再び黙る。しかも自分よりも十は下であろう少女にぼろくそに言われて、目の端に涙すら溜めそうな顔をしている。
しかし少女はそんなことを意に介さず、ビラに載っている行方不明の女子高生の顔をじっと見る。
顔は少々ふっくらしていて、眉も目も細い。平安時代ならモテたかもしれない顔つきをしている。
「うーん……」
「……やはり同じ年頃の子が行方不明になると気になるかね」
「まぁそれもありますけど、この顔どこかで……」
「見たのか」
「それが思い出せなくて……」
男が立ち上がり、彼女の肩越しにビラを覗く。
「この子、どこぞの納豆のパッケージに載っていなかったか?」
「それも似てますが、そうじゃなくて……」
「こんな顔ならすぐに見つかると思うのだが」
「……ああ、そうだ! 思い出しました。うちの近くの日本人形を売っているお店で見たんですよ」
「それは本当かね? 人形の間違いでは?」
「立って動いてました」
「私のアンテナがモグラと仲良くなっている間に立って歩く日本人形が開発されたというニュースは?」
「ありませんよ。そんな恐ろしい物」
男は自分の机に戻り、椅子にかけていた丈の長いコートを着込み、鹿撃帽を被った。
「よし、我々も調査してみよう」
「そうですね。あとお菓子代の代金もらえますか?」
「いや、そんなもの経費で」
「給料」
男は渋々サイフを取り出した。
おわり
505
:
名無しさん@避難中
:2017/02/09(木) 00:12:52 ID:wS1b7EXI0
(再)
NANODASHI of Nantoka Fight
http://imefix.info/20170209/341201/rare
506
:
名無しさん@避難中
:2017/02/09(木) 00:16:07 ID:t4D24vac0
おかしい、セクシィだぞ!!
507
:
名無しさん@避難中
:2017/02/09(木) 00:17:23 ID:v/OD7btc0
hutomomo!
508
:
名無しさん@避難中
:2017/03/15(水) 01:06:44 ID:UTdtxR6U0
ベノレ・ビード・ベレウスのじいさんは毎朝早く起きて、空港のフェンス越しに
航天舟<ヴィマーナ>の離床を見送るのが日課だった。
じいさんは航天舟が飛ぶのを神の力のおかげだと固く信じていて、おれがいくら重力工学やら
拡張相対性理論やらの解説をしても耳を貸そうとしなかった。じいさんにとって物理学とは
神の力の様々なる現れを説明し計算するためのものであって、あくまで諸力の根源は神なのだった。
「大いなる御霊の力を人間が何と名付けたところで、本質が変わるわけではない。
あのヴィマーナの威容を見よ。神々しいだろう。心が震える。それこそが最も尊い真実だ。
高き天の御国より降りそそぐ祝福だけが、あのような空飛ぶ神殿を可能ならしめるのだ」
じいさんはおれたちを不信仰者と言って説教ばかりしたし、おれたちはじいさんを馬鹿にしていた。
じいさんは狂人であり変人であり病人だった。頭のかわいそうな、孤独で貧しい老人だった。
なによりおれは信仰心なんか欠片も持っちゃいなかった。毎日“ジール車”をガラガラ回して
勤行の義務をこなしながら、頭の中では他星系の大学に行きたいとか人型全領域戦闘機に乗ってみたいとか
そういうことばかり考えていたのだ。
いまは違う。おれは掛け値なしに神を信じる。短い間だったが、おれは“天使”と心を通わせたのだから。
“天使”は女だった。そして、きっと幼かった。実際は解らない。おれは彼女の声しか知らない。
初めて彼女の声が聞こえたのは、棄罪の谷<ゲヘナ>で拾ったラジオを修理したとき。
トランスミッターをぶち込むと同時に、ノイズの中から聞こえた。歌みたいで、その声だけがクリアで、
俺は油と埃にまみれたまっくろの顔を赤く染めて恥じ入った。俺は汚かった。彼女は――美しかった。
《所属を言え! イスハはおまえが敵であるなら焼かなければならない。投降は受けつけ……“投降”ってなんだ?》
天使の声は周波数80.7Mhz。空きチャンネルに合わせたラジオはあの日、天国に通じていた。
509
:
名無しさん@避難中
:2017/03/26(日) 16:35:44 ID:nU.HEv9s0
◆Roast&Milk Cafe"Chateaubriand"の常連客リスト
・鼠人の掃除夫ホラサンダ【ムーシアン/男/21才/掃除夫】
臆病な小男で強者の腰巾着。噂好きで真偽を確かめずにデマも撒き散らす。
非力ゆえに自分の言葉一つで他者が慌て、右往左往するのに快感を覚える。
・半水牛人の料理人プラヴァニー【ハーフ・ブバリシアン/女/32/料理人】
胸も体格も大きい女料理人。鷹揚で面倒見の良い任侠肌。怒ると怖い。
貿易商で留守がちの夫に代わり、二人の子供を守る母親。
・虎人の猟師ムディンガオ【テインダクトゥス/男/23/猟師】
粗野で豪快な大男で身体能力が極めて高い。モラランを見る目も狩人そのもの。
祖父や父親を負傷させた幻獣、ヤズ(八頭)を狩るのが生涯の目的。
・半兎人のシャルティカ【ハーフ・レプシアン/女/17/雑貨店(魔法道具店)手伝い】
雑貨店(魔法の設定が公知の場合は魔法道具店)の娘で、快活な看板娘。
足の速さを生かして商品運送も行うが、配達先でトラブルに巻き込まれやすい慌て者。
・龍人の学生ピスキ【ドラゴニュート/女/14/学生】
利発な学生。幼く見えるが本人曰く「発育が悪いだけだもん」。
学舎で様々な分野について学んでいるが、将来についてはまだまだ迷いの中。
・蛇人の薬師ラアルサンプ【ボイガイアン/男/38/薬師】
他国で政争に巻き込まれて在野となった熟練薬師。失意から厭世的かつ冷笑的。
寡黙で毒にも詳しいことから周りに恐れられている。
・半人馬の牧童トゥルガナ【ケンタウロス/男/18/牧童】
トゥルガナ牧場を経営する半人馬。旅用や軍用まで様々な騎獣の調教と育成に長ける。
若干の英雄願望を持つカウボーイ的な好青年だが、悪質な酔っ払い方をするのが玉に瑕。
・羊人の織物師アチェリ【オヴィシアン/女/19/織物師】
街の織物工。寂しがり屋で店でもシャルティカやピスキとつるんでいることが多い。
いつかは最上級の織物"銀嶺雪"を織りたいと考えており、伝承や文献での研究を重ねている。
・猩猩の金細工師タンシーファイ【猩猩/男/52/金細工師】
頑固で偏屈な猿顔の爺。官吏嫌いでワヤンと仲が悪い。かなりの大金を溜め込んでるとの噂。
生国の滅亡で北大陸から流れて来た。密かに故国復興を期して皇族の生存者を探している。
・鳥乙女の歌姫ミーティサリヤ【セイレーン/女/27/歌手】
美貌の歌い手。結婚しているが浮気性で恋愛体質の托卵妻。三日前の約束は覚えていない。
退屈な街の生活に飽き飽きし、刺激を求めて夜遊びを繰り返す。
・半犬人の徴税人ワヤン【ハーフ・カニシアン/男/24/徴税人】
政府の忠実な犬。脱税は決して許さない(政体の基本設定が不明な間は上について喋らない)。
病気がちの母親を案じているせいか、常に余裕がなく、短気で苛ついているような印象。
・豚人の博徒ベロッホ【スーシアン/男/32/無職】
定職のない遊び人の男。あくせく働くのが嫌いな怠け者。ギャンブラーとしては三流
出世する同郷の仲間たちに焦りを持つが、地道に働いても追いつけないので一発逆転を望む。
迷ったけど、投下はこっちにしておこうかな
510
:
名無しさん@避難中
:2017/03/31(金) 01:32:35 ID:NLkuZNxQ0
小学校の同窓会。自分では無く、父の同窓会だ。何でも幹事の発案で参加者は子供を連れて来い。そういうことになったらしい。
父は五十を目前に控え、自分は二十歳になった。成る程。自分の出世や給料自慢から子供の出世自慢に移行したということか。偏見に満ち、捻くれた考え方かも知れないが同窓会に成人した子供を連れて来いなどというのだ。きっと自慢の軸が変わったに違いない。少なくとも自分にはそんな下劣さを感じた。
しかし、父の同級生に連れられた律儀な子供達は、何と言うか実に無難で面白味というものが全く感じられなかった。揃いも揃って
面白味が無い。スポーツや勉学、芸術。後はサブカルチャーとか。何か特別に秀でた所があるわけでも無い。他には犯罪歴だとか喧嘩自慢だとかも無い。良くも悪くも普通で無難で毒にも薬もならない。残念だけど自分も含めて。
こんな馬鹿馬鹿しい企画の発案者が子供がいないどころか未婚だというのだから話にならない。自分を安全な場所に置いて、優れた子供を誉めそやすか、劣った子供を乏しめるという意図だったのだろう。
生憎と集まったのは揃いも揃って、褒めるべき点も無ければ、乏しめる点も無い人畜無害の後継者。当てが外れたらしく幹事の中年も乾杯前のテンションとは打って変わって大人しい。内心で「ざまあみろ。アホが」と思ってから一時間程が過ぎた。
父と並んでバーカウンターに座り瓶ビールを酌み交わす。父が美味そうにビールを呷る。
「子供と酒を呑む日が来るのを楽しみにしていた」
父は笑顔で言った。そう言えば二十歳の誕生日は年上の彼女の部屋で過ごしたんだった。そして、家族と酒を飲むのは今回が初めてだということに気付いて少しだけ申し訳ない気分になった。
「お久しぶり」
何て言い繕おうか。そう思っていると上品な熟年の女性から声がかかる。当然だが彼女の目当ては自分に無く父に、だ。
「ああ。久しぶりだね」
父が上機嫌に返事をする。酔って上機嫌になる程飲んでいない。どれだけ歳を重ねても男は男。そういうことなんだろう。心なしか遠巻きにこちらを眺める父の同級生たちがニヤニヤしている気がする。彼等の下卑た顔が自分の直感は思い違いでは無いことを証明してくれた。別に嬉しくとも何とも無いが。
「今日は息子さんと?」
「ああ。先月に成人してね。ようやく夢がまた一つ叶ったよ」
「親孝行な息子さんで羨ましいわ。ウチの娘なんてちっとも」
511
:
名無しさん@避難中
:2017/03/31(金) 01:33:04 ID:NLkuZNxQ0
「今年で高校生だろう? そういうものさ」
退屈で面白味が無い。至って普通の雑談のように見えて、お互いに探るような会話だと思った。だから、聞き耳を立てているいい歳をした野次馬のおっさん、おばさん達に一つ余興を提供してやるついでに好奇心を満たすことにした。
「もしかして若い頃に付き合ってたとか?」
「おいおい……」
父が困ったように頬をかいている。もしかしたら片想い止まりだったのかも知れないが、女性の方は満更でも無さそうに笑みを浮かべている。これなら調子に乗っても怒られることは無さそうだ。
「別に浮気とか不倫ってわけじゃないんだから隠さなくたって良いんじゃない? 別に初恋の人と結婚しなきゃいけないってわけじゃないんだし」
実際に聞いたわけでは無いけど母だって父が初カレってわけでは無いはずだ。自分も今の彼女が初カノってわけじゃないのに両親にだけそれを求める程、狭量でも無ければ子供でも無い。第一、お互い初めての相手と結婚するなんてアニメや漫画の世界じゃあるまいし、今時、その方がレアケースだ。折角の同窓会だ。今一時だけの青春に浸るくらいは許される。少なくとも自分にはそう思えるだけの理解はあるつもりだ。
「まあ後は二人でごゆっくり」
自分はよく彼女から「貴方は気が利かない」なんて言われるけれど、今日の自分は自分史上、最高に気が利いている。それはきっと未来の自分も認めざるを得ないだろう。口ごもる父を置き去りにしてバーカウンターを後にする。給仕の女性から果実酒を受け取り会場内を散策する。女性だけ、男性だけで固まっているグループもあれば、男女混合だったり、父のように二人きりで過去の青春を取り戻そうとしている人達もいる。
さて、自分はどうしようか。改めて父と父の初恋の女性(多分)の方に目を向けると周囲の目には気付いていないらしく、二人の世界に入り込んでいる様子だった。仲睦まじそうな様子の父と女性の姿を見ても特に思うことは無い。父にもそういう時代があったのだろうな、そう思う程度。強いて言えば何故、母と結婚すると決意したのかということの方が気になった。
愛着? 愛情? 責任感? それとも年齢的にそろそろ結婚しないとヤバいという危機感?
だから帰り道で父に聞いてみることにした。
「なんであの女の人と結婚しなかったの?」
「ん……そうだな」
父は特に言い訳をする風でも無く過去を思い返すような表情で唸り、髭を撫でながら口を開く。
512
:
名無しさん@避難中
:2017/03/31(金) 01:33:33 ID:NLkuZNxQ0
「色々あったが一番の理由は、当時の俺では彼女を支えてやることが出来なかったからだろうな。手をこまねいている内に一番支えが必要な時に何もすることが出来なかった。そうこうしている内に離れ離れになってしまった……そんなところだ」
何、ハードボイルドを気取っているんだ。そう思わなくも無いが、あの光景を見てしまっては茶化す気にはなれなかった。
「支えられていたら?」
「どうだろうな。それからも色々な出会いや別れがあったからな」
まだまだ本音で話が出来る程、自分は大人には見られていないらしい。二人が飲んでいたオレンジ色のカクテル『オリンピック』の酒言葉。それは『待ち焦がれた再会』だ。今はお互いに家庭のある身だから表面的には何も無いのかも知れない。多分。だけど、その心では青春時代の後悔や未練のようなものが未だ燻り続けているのかも知れない。今日はそんな父の一面を知った一日だった。
そして、気付いた。お題はちょっと燻ってる【愛】であって【恋】では無い。
513
:
名無しさん@避難中
:2017/04/05(水) 20:48:18 ID:lcDpM42E0
【迷い子/1】
(午前に魔法道具店の配達を終えた、シャルティカ・アトリエルは馴染みのカフェに足を運ぶ)
(彼女は雪のような白髪から長い耳を伸ばすが、身体のシルエットは人間に近い、兎の半獣人だ)
(顔見知りのいる席に着いたシャルティカは、店員に注文を頼むと手荷物の青い籠を卓上にそっと置く)
えーっと、午後の宅配先はメヌー村だけね♪
ラッカ蝶の翅の粉末が二袋分に同量の硫砂。
アチェリの紡いだ霊糸が、八十五巻き……と。
(昼の暑熱を牛乳で冷まして一息吐くと、店の違和感に気付くシャルティカ)
(このカフェのマスコットらしき、鞠のように丸い小型獣、モラランが不在だ)
あれ、今日はいつもの子がいなくなーい?
調子に乗り過ぎて、とうとう美味しいココソース・ステーキに変わっちゃったのかしら。
そういえば、配達途中の森でモラランが虎に追われてるのを見たけど、この店の子と似て……なくないかっ☆
(昼休みを終えたシャルティカは、店を出て通りへ)
(足には、いつの間にか蒼白く光り輝く奇妙な靴)
(彼女が使う靴の魔法の一つ、馳せ足の靴だ)
514
:
名無しさん@避難中
:2017/04/05(水) 20:49:36 ID:lcDpM42E0
(・∀・)ひ、ひいーっ!
【ある日のこと、毬型の珍獣モラランは大きな虎に追われながら、必死に森の中を跳ね回っていた】
【多くの野獣や猛禽や大蛇や、その他諸々の肉食の生物たちにとってモラランは自然界の軽食】
【それを忘れて、美味しい果実を楽しもうと、遠くの森まで足を伸ばしたのが事の発端である】
【モラランは枝から垂れ下がる蛇や、飢えた猿の群れを避けて、どんどん森の奥へ……】
★ ★ ★【迷い子/2】★ ★ ★
【蔦や雑木で密生した森を抜けると、疲労困憊のモラランは崖から迫り出す古城を発見した】
【バハラマルラが連邦制となる以前の戦乱期、他国からの侵攻に備えるべく造られたティドワ城塞だ】
【執拗な虎の追跡から逃走するモラランは、石壁に刻まれた矢狭間に体を押し込み、城の内部へ潜り込む】
助かった、ここへ逃げよう(・∀・)
515
:
名無しさん@避難中
:2017/04/05(水) 20:53:38 ID:lcDpM42E0
【迷い子/3】
ティドワ城塞の一室にて。
城主たる迷宮魔法使い、クウィンス・ラビリンスレッタは眉を潜めていた。
「……珍妙な賊が、我が迷いの庭へ入り込んだようだ。
見たところ畜生のようだが、糞尿を撒き散らされては叶わない。
孤の迷宮魔法で速やかに始末して、この聖域に静けさを取り戻すとしよう。
知能の低い獣風情なら、吊り天井や火吹き筒でも殲滅には過分な威力かもしれないが」
城主の視線の先は壁に掛かる古びた大鏡。
なぜか、この磨き抜かれた鏡面は室内の光景を反射していない。
代わって映して出しているのは、茶色い鞠のような獣が城の廊下で跳ね回る姿だ。
「マスター、あれはモラランという生き物でコケッ!
手も足もなく、跳ね回るだけが取り柄という茶色い毛玉。
シチューにすれば美味ですから、生け捕りになされた方が宜しいかと。
果実で肉質を高めてから、丸ごと煮込むのが通の食べ方らしいでコケコッコー!」
精巧な鶏の木像が嘴を必死に動かし、主と仰ぐクウィンス・ラビリンスレッタに奏上する。
奇怪な鶏擬きの正体は、主の居城内でのみ疑似の生命で動き、人語で話す使い魔だ。
「なぜ、そのようなことを知っている?
城から出たことも無い木彫りの癖に」
使い魔の博識を主は訝しむ。
「まだティドワ城塞に人が大勢いた頃、兵士たちが話しておりましてコケッ!」
ふーむ、と得心したような顔の迷宮魔法使い。
「では、落とし穴に落ちたら蓋でもして閉じ込めておくか。
落ち着いて考えれば、獣風情に迷宮魔法など無駄の極みというもの。
あれがどこかの陥穽に落ちたら適当な果実でも投げ与えておけ、孤はもう眠る」
そう言い残すと、異国風の名前を持つ小人はミニチュア的なベッドに横たわって瞼を閉じた。
使い魔たる木鶏も主人の眠りを妨げないよう、スタスタスタと静かな足音で部屋を出てゆく。
516
:
名無しさん@避難中
:2017/04/05(水) 20:55:49 ID:lcDpM42E0
(・∀・)なかなか快適だし、ここはオイラの城にしよう
【しばらく、ぽよんぽんと城の廊下を跳ねていたモラランが、大扉の前で立ち止まる】
【手も足も無いボール状の生物では、閉まった扉は開けられないのだ】
【くるりと辺りを見回すと、近くには登り階段がある】
★ ★ ★【迷い子/4】★ ★ ★
【当然のようにモラランは上の階へ目指す】
【螺旋の階段を跳ね上がると、待っていたのは南国の日差しだ】
【どうやら見張り塔の屋上まで出てしまったようで、眼下には一面の緑が広がっている】
100万マルラの野景だ(・∀・)
517
:
名無しさん@避難中
:2017/04/05(水) 20:57:28 ID:lcDpM42E0
【迷い子/5】
ティドワ城塞の城主、クウィンス・ラビリンスレッタの使い魔。
名も無き木彫りの鶏はトテテテッと全力で走り、見張り塔まで向かった。
何も考えてなそうな顔のモラランは、暢気にもまだ塔の屋上の石床で弾んでいる。
「汝、狼藉者! 跳ねるのを止めるでコケッ!」
生ける木彫り鶏の警告で、モラランが振り向く。
「この城は吾輩の主、クウィンス・ラビリンスレッタ様の居城。
畜生風情が闊歩して良い場所ではないコケッ、コッコー!
成敗して、スパイス煮込みシチューにしてくれるでコケッ!」
堅そうな鶏冠を向けると、翼を広げながら突進する木製の鶏。
それをモラランは軽やかに跳ねて躱し――唐突に姿を消した。
「むむ、逃したコケッ……?」
石壁に激突した木彫りの使い魔は、背後を振り返ると悔し気に零した。
そこに小さな獣の気配はなく、爽やかな森の香りが風に流れるだけだ。
518
:
名無しさん@避難中
:2017/04/05(水) 20:58:10 ID:lcDpM42E0
(・∀・)ふるふる、空を飛んでるよ……
【モラランの体は宙へ持ち上げられていた】
【丸い体には、猛禽類の鉤爪がギュウギュウと容赦なく体に食い込んでいる】
【飛翔しながら獲物を探していた大鷲が、軽率にも目立つ場所で跳ねている軽食相当を捕獲したのだ】
★ ★ ★【迷い子/6】★ ★ ★
【大鷲は棲家の岩山を目指して飛んでゆく】
【可愛い雛鳥たちへ生き餌を与えるために】
【手も足も無いモラランでは逃れる術もない】
オイラ、これからどうなっちゃうの?(・∀・)
519
:
名無しさん@避難中
:2017/04/05(水) 20:59:19 ID:lcDpM42E0
【迷い子/7】
アリサラ祭で使う仕掛け一式ですねっ♪
全部で22500マルラでーっす$
(半兎人の娘、シャルティカ・アトリエルはメヌー村に辿り着くと、村長に届け荷を渡した)
(だが、値段を聞くと陸亀族の村長は渋い顔となって、品質がどうのこうのと愚痴り出す)
(呆れ顔で聞いていたシャルティカも、すぐに相手の思惑が商品を値切ることだと悟った)
うちの魔法道具店の品質が不安ですって?
そ・れ・な・らっ! 今ここで試してみましょうか!
(シャルティカは小壺の中から虹色の粉末を一撮みすると、木の棒に巻かれた糸へそれを塗す)
(そして、糸が巻き付けられる棒を釣り竿さながら、天に向かって勢いよく一振りした)
(みるみる解ける糸の先端は、風に流れながら大きな兎の形を象ってゆく)
(この一連の動作を端的に説明するなら、一種の凧揚げである)
そーれっと☆
520
:
名無しさん@避難中
:2017/04/05(水) 21:00:26 ID:lcDpM42E0
(・∀・)さよならモララン王国、さよなら愉快な仲間たち
【大鷲の巣へ運ばれる途中のモラランの眼前で、唐突に光り輝く虹色の兎が跳ね躍った】
【それは魔法の糸で織られた兎型の凧で、糸の下端は真下の村で半兎人の娘が握っている】
【被食者には運良く、捕食者には運悪く、ここは魔法の凧が揚げられたメヌー村の上空だったのだ】
★ ★ ★【迷い子/了】★ ★ ★
【進路の邪魔者に驚いた大鷲は目を剥いて体勢を崩し、その拍子に折角捕まえた美味しそうな獲物を手放してしまう】
【くるくる回転しながら落下するモラランは、木々の枝葉に勢いを弱められつつ、最後は森の腐葉土で大バウンドした】
【かくして、幸運にも飢えた虎と魔法の木鶏と獰猛な鷹から逃れたモラランは、弾みながら快適な住み処へ戻ってゆく】
ただいまモララン王国、ただいま愉快な仲間たち(・∀・)
521
:
名無しさん@避難中
:2017/04/05(水) 21:01:12 ID:lcDpM42E0
魔法が公知/普及/非体系的のケースだと、こんな感じかな。
一つ弄るだけで社会の常識や制度もガラッと変わるから、決定稿にはできないけど。
522
:
名無しさん@避難中
:2017/04/16(日) 00:22:49 ID:Z8LmbBgE0
【願いの壺】
災神であるザイサパットはバハラ列島の密林を歩いていた。
彼は生前こそ高名な王であったが、死後は災神となって各地を放浪している。
役割は疫病を流行らせたり、人を殺したり、不幸に陥れたりといったところだ。
全身が真っ黒な肌に真っ黒な髪という影のような姿で、彼を見れば大抵の生物は驚く。
尤も、普段は隠身の術で人の目になど触れないのだが。
「ふむ、災神……か。
この程度の幽鬼が神を名乗れるとは程度の低い世界よのう」
ザイサパットが密森の泉で水を飲んでいると、泉に沈む壺が声を掛けてきた。
膨らんだ中央部の表面に獣の顔が浮き彫りとされた青銅の壺で、声は獣面から出ているようだ。
もちろん、ただの壺ならば喋れず、自分の正体も言い当てられない。
この見下すような態度から推察すれば、おそらくは高位の神が壺に憑依か変化しているのだろう。
内心で面倒な奴に絡まれたと愚痴を零しつつも、ザイサパットは壺神の相手をしてやることにした。
「どこぞの神とお見受けするが、私に何か用ですかな」
「特に用はないぞ。
が、少し退屈を持て余しておって様々な星や世界を渡り歩いておるのだ」
招かれざる来訪者はザイサパットの想像より厄介なもののようだ。
「他の星から来られたのですか。
何やら随分と不自由そうな体をしていますが」
水面から浮き上がった壺が、ザイサパットの横にドスンと音を立てて着地する。
「ほれ、この通り。
何も不自由はない」
「なるほど……先ほど退屈を持て余していると仰られましたが、それなら少し都合が悪い。
この島は争いがなければ住民たちも素朴、無聊を慰めるには不向きな土地かと。
文化風俗の爛熟した北の大陸へ赴かれては?」
ザイサパットは得体の知れない壺を追い払うべく、自らが土を踏む場所に後ろ向きな評価を下す。
「構わん、構わん。
わしは誰かの願いをアシストして、どのように変わってゆくかを見るのが何よりの愉しみでな。
別に平和な地であろうと、未開の地であろうと何も不都合はないのだ」
「進んで他人の願いを叶えようとは、災神の私より喜ばれそうですな。
与えるのは金や女、権力といったところですか。
魔法なり奇跡なりの胡乱な術で出してやれば、さぞ喜ばれましょう」
「これだから経験の浅い神は分かっておらん。
単純に地位や物を与えるのでは、何も芸がないではないか。
わしは心の奥底から願望を浮き上がらせ、それを叶えるための力を与えてやるのだよ」
風流なものですな、と機嫌を損ねないように持ち上げると壺は更に話を続けた。
「うむ、現実に不満を持つものは、心の底に己だけの世界を造るものだ。深く広大な理想の別天地を。
わしは、その心象界の原理が別の階層でも機能するように――――」
ザイサパットは壺神から益体も無い話を聞かされ続ける。
自慢話にも似た話を右から左に聞き流し、話の切れ目が出来た所でようやく三ヶ月に別れる事ができた。
前の目的はもう忘れていたので、新たに疫病を流行らせようと思い付いて近くの都市へ向かう。
いかがわしい相手から解放されたせいか、足取りも軽い。
壺神の方は様々な国で混乱を齎し、後世に戦乱期と呼ばれる大分裂を作り出した後、とある街で拾われる事となった。
523
:
名無しさん@避難中
:2017/04/16(日) 00:25:07 ID:Z8LmbBgE0
神様も干渉/非干渉かで世界に与える影響が大きそう(小学生並みの感想)。
これも見送りしとこう。
524
:
名無しさん@避難中
:2017/04/21(金) 07:03:47 ID:mz9fKZFo0
【雪想】
Chateaubriandの奥まった席で、半龍人と羊人の女が向かい合って座っている。
半龍人のピスキは緑髪の少女で、顔と胴は人族だが、皮翼と尾と双角を持ち、手足は群青の鱗で覆われていた。
羊人族のアチェリは体型を人に近づけた白羊という感じの獣人で、艶やかな真紅の巻衣を着ている。
この二人は友人同士であり、今日も連れだって店を訪うと、名物の青い飲料を飲んでいた。
原料こそ不明だが、謎の飲み物の評判は悪くなく、街の新しもの好きからの人気も高い。
「アチェリ、銀嶺雪ってどんなものだと思う?」
ピスキは同席する友人に聞いた。
彼女がいう銀嶺雪とは、古代の文献に名前だけが出てくる織物の用語だ。
学舎の書庫で知った古代織物の存在をピスキが教えて以降、羊人の織物工は熱心に研究を続けている。
「生地のことなのか、柄を差すのかも判然としませんけれど、きっと雪のような印象の織物だと思います」
アチェリは年下の友人へ丁寧に、しかし、やや自信なさげに応えた。
古い文献の記載だけに、まだ確かなことは分からないのだ。
「雪かあ」
二人はまだ見ぬ雪景色について思いを巡らす。
彼女たちは雪を見たことが無いので、その名を冠する織物もイメージを掴めなかった。
水を飲めば飲むだけ、それが汗に変わってしまうようなバハラ列島の住民には普通のことなのだが。
「旅の茶商の方から聞いた話なのですが……。
雪の日には、砕いた白亜や塩にも似た白さが景色の一面を覆うそうです」
アチェリは窓の外で揺れる陽炎の先に想像の白を塗す。
厳冬のない島に生まれたものには多いことだが、アチェリも寒さや冷たさに対して幻想的な憧れを持っていた。
銀嶺雪という単語の響きに強く惹かれて、古代織物の再現を試みようとしているのも、そのせいだろう。
「なんだか、よく分かんない表現だね。
北の大陸に行けば観れるかな?」
ピスキの問いかけで空想から現実に引き戻され、幻の雪も上手く描けぬまま儚く溶けてしまった。
「ええ……でも、ホラサンダさんは政情が不安定な国も少なくないって仰ってました」
アチェリは鼠人族の男が喜々として語っていた北の大陸の話を思い返し、蒼褪めた顔で言葉を濁す。
血が凍りつくような戦争や虐殺。それに伴う数々の悲惨。
何ヶ月も船上の人となってまで、そんな大陸に赴く覚悟は持てそうになかった。
「それなら絵は?」
ピスキの提案に羊人の織物工は愁眉を開く。
大陸の絵は幾つも輸入されているので、雪の絵があってもおかしくない。
雪景の名画を持つのは富豪だけだろうが、北の大陸まで赴くよりは現実的だ。
もちろん、雪を見るだけでは銀嶺雪も再現できないが、雪を知らずして雪の名を冠した織物を紡ぐのは滑稽と思える。
「絵なら……そうですね、雪の風景も観れますね。
いくつかの心当たりを探してみます」
アチェリは明るい声で昼休みを終えた。
菜食者にとっては今一つ腹の満たされない店なのだが、昼食をとらない彼女に問題はない。
席を立った二人が大路に出ると、肌に熱気が纏わりつく。
「今日は風ないから、あついー……」
テンションの低い声で愚痴を零しながらピスキは学舎に戻り、アチェリも仕事場の織物工房に戻っていった。
525
:
名無しさん@避難中
:2017/04/21(金) 07:04:15 ID:mz9fKZFo0
今回のは魔法が一般的に使える社会だと成り立たなそうな会話だな、とか思ったり。
近所に高い山があっても雪は見れそう。
526
:
名無しさん@避難中
:2017/05/05(金) 23:58:30 ID:xkh7y7q60
目を覚ますと見知らぬ部屋にいた。
体を起こして、寝起きの頭で周りを見渡す。床には赤い絨毯が敷かれ、天井からは豪華絢爛を形にしたようなシャンデリアがぶら下がっている。
横になっていたベッドは手を付くと、面白いほど沈む。一体何で出来ているのだろうか。これだけ柔らかいと逆に寝にくくなりそうだ。大きさも自分が三人は転がれる
スペースがあり、しかも天蓋まで付いている。部屋の広さは何畳あるかはわからないがテニスコートぐらいありそうだ。言うまでもないが自分の部屋ではない。
目覚めてきたおかげで段々と奇妙なことに気付いた。まず昨日の記憶が自室でゲームをしていたところで途切れている。ネトゲのボス戦中に寝落ちするようなヘマは
しない。音声チャットもつけていたのでなおさらだ。さらにこの部屋には家具がこのベッドしかない。タンスであったり、化粧台であったり、テーブルであったり、椅子であったり
そういった家具も一切ない。生活感がからっきしだ。ついでに窓もない。壁は一面下半分ほどが木、上が白で統一されている。唯一あるのはドアだけ。
夢だろうかと頬を抓ってみるが痛い。痛いという錯覚を起こしているのかもしれないと両手を広げて空を飛ぼうとしたが飛べない。やはり夢ではないようだ。とりあえず部屋から
出ようとベッドから降りたところで違和感を覚え、自分の体を見た。素っ裸だった。息子がこんにちはしている。
ドアが開き見知らぬメイド服の女性が入ってきた。自分のことを確認すると「起きていたのですね。おはようございます」と丁寧に挨拶をしてくれた。つられて挨拶を返すが
裸なのを思い出してベッドに戻って布団を被る。女性のメイド服は昨今よく見かけるミニスカートや胸の開いたものではなく、濃紺の長袖にロングドレスのワンピースと純白のエプロンドレスの
クラシックスタイルのものだ。髪も仕事に邪魔にならないように後ろでまとめているようだ。フリルの付いた白いカチューシャが髪が流れないように抑えている。
「どこか痛いところはありませんか?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「そうですか。お食事のご用意もすぐ出来ますが如何しますか?」
特に空腹は感じないのでそれも断る。
「それよりもここはどこですか? これは一体……」
「……これからお話することは事実です。決して取り乱さないよう落ち着いて聞いてください」
彼女はそう前置きし、一呼吸置くとこう語った。
「ここはあなたのいた西暦2017年から約80年後の人類滅亡後の未来であり、あなたは我々の時空転移実験により
召喚されたこの世界で唯一の人間になります」
ここで終わり
527
:
名無しさん@避難中
:2017/05/16(火) 03:37:47 ID:Gyf8Z2fc0
【馬車/1】
バハラマルラの人口密集地から二十分も馬車で揺られると、もう辺りは一面の田園風景。
右も左も広々とした畑で、人家は木造のものが疎らに点在しているばかり。
丈の高い緑は黄米の穂、隣の畑に整然と並ぶ低木はカサバ芋だろう。
どの畑も青々としていて、作物の育ちは悪くないみたいだ。
やっぱり、こっちまで仕入れに来た甲斐があった。
だけど、ちょっと問題あってね……。
「……クッションを持ってくるんだった」
そう、のどかな景色を台無しにするのが、この振動。
街から農村方面へ伸びる街道は、窪みが多くて荒れ放題なのだ。
当然ながら馬車もガタガタと激しく揺れるから、お尻も痛くて痛くて仕方ない。
肝心の敷物は綿が薄くて緩衝能力なんて皆無。座席の狭さも加わって拷問のようだ。
前列席と中列席、後列席にそれぞれ四人ずつが乗っているけど、定員オーバーとしか思えない。
「馬上より揺れるな。
時化の海のようだ」
アタシの愚痴に応じたのは、中列席の端に座る乗客。
まだ若い人族の男で、見た限りせいぜい十を超えたばかり。
黒髪黒目だけど、顔の作りからはバハラ列島の生まれには見えない。
着ているのも鳥の刺繍が施された異国風のもので、確か華服とか言ったっけ。
「ま、百歩譲って揺れるのは仕方ないさ。
でも、硬すぎる座席と押し潰されそうな過密さは頂けないね」
今度は御者にも聞こえるよう言ってみる。
すると、錆びた声がこちらへ帰って来た。
「嫌なら降りてもいいんだぞ、牛女」
「そんな仕事ぶりじゃ、客を逃がすよ。
不味い飯を出す上に、店主の性格まで悪い。
そんな店があったら、アンタはまた足を運ぼうって気になるかい?」
言い返すと、御者は不機嫌そうに黙ってしまう。
だいたい、アタシは半水牛人族であって牛族じゃないっての。
アタシは無愛想な御者から視線を外して、同乗者たちに目を向けた。
どいつもこいつも馬車の揺れに慣れていないようで、疲れ切った顔ばかりだ。
よく見ると人族はさっきの少年一人しかいなくて、半獣人の中に黒髪のものはいない。
「ん、少年。
もしかしてアンタ、一人旅なのかい?」
異国の少年が、一人で旅をするのは珍しい。
商人や芸人でもなさそうなら、尚更のことだ。
「船旅の途中で最後の従者が死んでしまったので、そうなるのだろう。
こうして一人にはなってしまったが、目的地までは赴くつもりだ。
奴らによれば、スルリャニパラト国に頼れる者がいるらしい」
この少年、もしかして身分の高い人物だったのかね。従者たちがいたってことは。
そういえば、佇まいや言葉使いからして市井の人っぽくない気もするような。
でも、誰かを頼りに行くってことは、身寄りがないわけじゃないのか。
いや、ちょっと待って……スルリャニパラトって確か……。
「あそこって首長国じゃなかったかい」
528
:
名無しさん@避難中
:2017/05/16(火) 03:39:03 ID:Gyf8Z2fc0
【馬車/2】
人族の少年は、やや困惑した表情となった。
アタシが訝しげな顔になったので、不安を覚えたのかもしれない。
「寡人が首長国に赴くと、何か問題でもあるのか?
そういえば、バハラ列島に来てから何度か首長という言葉を聞いた。
この島の君主号だとは思うが王とは違うのか? 賊や蛮族が僭号でもしているのか?」
どうやら、この子は目的地の情報が何も無しで足を運ぼうとしてたようだ。
こりゃ、アタシが少しばかり教えてやった方が良いだろう。
「ニュアンスとしちゃあ、国王ってより族長の方が近いんじゃないかね。
まずね、バハラ列島では様々な種族が、自分たちにとって過ごしやすい共同体を作ってんだよ。
で、単一の種族が人口の大多数を占める共同体の指導者を首長、それらを戴く諸国を首長国って呼ぶのさ」
「なるほど……確か、進言した従者たちは猿頭の宦官だった。
あやつらが想定していた有力者となれば、やはり猿人に相違あるまい。
このまま寡人が単身で猿人の国へ赴いたところで、庇護を得るのは難しかろうな」
そう言って少年が考え込む。
「事情は知らないけど、何やら大変そうだねえ……」
「時に、連邦制というのは首長たちの盟約で出来たのか?
様々な種族を見かける割に対立を感じないように思うが」
「生憎、アタシゃ政治はさっぱりでね。
悪いんだけど、詳しいのは料理だけ」
苦笑いで返すと、少年は感心したようだった。
「ほう、貴嬢は料理人だったか」
子供から貴嬢なんて呼ばれる歳じゃないんだけどね……アタシは。
「そ、そ、こんな風に馬車へ乗ってんのも食材調達の仕入れってわけで。
一端の料理人としては、やっぱり食材の質にも拘らなきゃなんないからね。
そういや、近くに馴染みの喫茶店があるんだけど、アンタも寄ってかないかい?
あの店でも猿人族の客は何人か見たから、スルリャニパラトに詳しい奴だっているかもだし」
「では、有り難く馳走になろう」
「三流御者、やっぱり降りるわ。
そこの喫茶店の前で止めて」
御者に声を掛けると馬車は勢いを緩め、ほどなく店の前で止まった。
529
:
名無しさん@避難中
:2017/05/16(火) 03:40:14 ID:Gyf8Z2fc0
首長はイスラム世界の君主・アミール、サモアの伝統的指導者・マタイなどの和訳に使われる語。
これらは、かつて土侯や酋長とか訳してたんだけど、ポリコレ的な理由で首長って呼び方に変えたらしい。
個人的には酋長の方が南洋の族長的なイメージをしやすいけど、連邦政府が構成国の長を侮蔑的な表現で呼ぶのも変か。
この国が連邦制を取る必要があったってことは、それなりに外国の圧力もあったりするのかな……?
ともあれ、前に出るつもりのないものが土台の部分を決めるのもどうかと思うので、この辺りも寝かせておこう。
そういえば、常連客は都市民として設定してたから、田舎のカフェに足繁く通うのは不自然かも。
人口比率や需要を考えると、掃除夫、博徒、歌手、学生辺りが特に微妙なような。
織物工も工房に努めてる設定だと、常連になるのは難しそう。
そのままでいいのは、猟師や牧人くらいか。
530
:
名無しさん@避難中
:2017/05/25(木) 22:50:45 ID:UBaSSwdY0
【魔法の在り方】
┌個別的(多くの個人が独自の魔法に目覚める社会。異能ものが近いだろう)
┌普及┴体系的(魔法学校が存在し、多くの一般市民もそこで学ぶような社会)
┌日常┴独占(魔法を扱うのは専門職のみ。魔術師ギルドのような組合は存在するかも)
│ ┌尊崇(一般人は魔法を伝説としてしか知らないが概ね肯定的、童話や奇談的な世界観)
┌―有―┴神秘┴秘匿(魔法使いが迫害や社会混乱を恐れて秘匿したため、一般に魔法の存在が知られていない社会)
│
└―無―┬肯定(魔法は存在しないはずだが広く信じられ、肯定的に見られている。ケルトなどの古代社会が近いか)
├嫌悪(魔法の存在しない世界だが、魔法使いは悪と見做される。中世の魔女狩り的な社会)
└否定(魔法は存在せず、存在も信じられていない。現代の先進国など)
その他のケース……
融合並存型=社会で一般的に扱えるようになった魔法と、非体系的な魔法の並存する社会
分断並存型=各領域間で魔法の原理自体が断絶している社会(ある地域では魔法が使えるが、別の地域では全く使えない等)
531
:
名無しさん@避難中
:2017/06/04(日) 04:24:14 ID:GpNztPZQ0
【列島古代史・スラーディヤ帝国】
かつて、バハラ列島の統一に最も近づいた帝国。
全盛期の統治者は獅子族の賢帝イシュファクで、彼は融和主義を掲げて列島の統一戦争に加わる。
戦乱の分裂期にあっても皇帝は敵部族を殺さず、厚遇して自国の一員とする方針を取った。
急激な人口増加と領土の膨張で、瞬く間に他種族国家となるスラーディヤ帝国。
百族も皇帝を戴き、列島の大半は十数年で帝国の版図となった。
最後に残ったのは、人族がバハラ島の片隅に築いた小さな国家、マルラ王国のみ。
スラーディヤ帝国は総勢三十万の軍勢、マルラ王国の兵は一万に満たず。
もはや、誰の目にも小国が呑み込まれるだけの状況なのは明らか。
だが、マルラ王国は圧倒的な不利な状況から、奇跡の逆転劇を演じる。
会戦の詳細な記録は残ってないが、史実としてスラーディヤ軍は破れた。
この大敗北から帝国は急速に崩壊する。
広範な地域で反乱が相次ぐという形で。
求心力を失った帝国の各地で、反乱の火の手が上がる。
そう、帝国発祥の地でさえも……。
イシュファクは融和主義の実践として、豊かな獅子族の領土に多数の異種族を入れていた。
皆で豊かさを享受しようと考えての皇帝の理想だが、これは獅子族にとって災いする
帝国の威信低下に乗じて、異種族の重臣たちが一斉に反乱を起こしたのだ。
かつての敵部族は、優遇されても心から従ったわけではない。
内部には依然として多くの敵を抱えていたのだ。
帝国に敗れた異種族の王侯は、皇帝の方針で軍権や財務を司る重職を与えられていた。
だから、彼らは個々に大きな軍閥を形成しており、反乱を起こすのも容易だった。
内乱の連続で皇帝は殺され、帝国も後継者たちによる分裂を繰り返す。
これが、スラーディヤ帝国滅亡の経緯である。
以後は分裂期と同様に小国が乱立し、現在の連邦制に繋がってゆく。
現在の連邦政府の所在地もマルラ王国時代の城下街であり、各所には石碑や旧跡が残る。
――――――――――
また、余計なことを考えてしまった。
過去の政体は分かった。なら現在の政体は?ってなるから、こういうのはどうにも出し辛い。
まず、バハラマルラは都市名であって国名ではないはず(都市国家でなければ)。
連邦の一員なのは確かだけど、連邦王国、連邦共和国、共和国連邦、と色々な形態が考えられる。
ファンタジーなら現実にはない神権連邦制なんかもありうるかな……。
まあ、いつも思考の断片を貼り付けてるだけなんだけど。
532
:
名無しさん@避難中
:2017/06/19(月) 21:58:23 ID:NqgjWqMo0
名前:ラトナ
年齢:6
性別:女
身長:121cm
体重:17kg
種族:半人鳥(アラン)
職業:スリ
性格:荒んでいる、大人に不信を持ち反抗的
能力:窃盗
武器:蛇行刃の短剣(クリスナイフ)
防具:薄汚れた茶色い巻衣
所持品:その日の盗品
容姿の特徴・風貌:薄い褐色の肌、黒い瞳、短い黒茶の髪、左の背には白茶の翼、尾も白茶の尾羽
◆簡単なキャラ解説
渡り鳥の性質を持つ半人鳥、アラン族の女。
体格は人間に比べて小さいものの、顔つきは幼児的ではない。
生まれつき片翼なので飛べず、子供の時に越冬地の島へ置き去りとされ、以降は孤児として過ごした。
しばらくは、森や山岳で大芋虫や小動物などを食べていたが、食料の乏しい時期に街へ赴く。
そこで都市の浮浪児集団・イスラに加わり、街で盗みを働くようになった。
言葉遣いは荒く、一人称はオレ。
社会常識や筋力こそ乏しいが、それなりの判断力は持つ。
盗みを行うので本名のラトナでなく、種族名のアランを偽名として使うことが多い。
親が彼女を置き去りにしたのは多を生かす為だが、切り捨てられた側が納得するはずもなく、親や同族を恨む。
◆アラン
渡り鳥の習性を持つ半人鳥の種族。雑食で主食は甘い樹液や果実、昆虫、小動物など。
顔と胴と腕は人族のようだが肩甲骨から翼、仙骨からは尾羽を生やす。
脚も鳥類のような鉤爪なので、地上の走行には向いていない。
平均身長120cm、平均体重18kg、翼開長は250cm近く。
飛行の邪魔になるので衣服の類は嫌う。
空を飛ぶために体格/体重は小さく、骨も強靭なわりに軽い。
容貌は人間の基準で言えば中性的。他の種族には男女の区別も困難である。
ただし、雄は鮮やかな青や緑の系統、雌は茶系統の翼を持つので、翼色で性別の判定が可能。
アランはノルディア大陸に夏営地を構え、冬季は南洋の島々で過ごす。
長い距離を旅する習性から常に中〜大集団を作り、単独行動することはない。
彼らは山岳などに唾液や羽毛などを混ぜた土の塔を築き、そこを季節ごとに巡回する。
主な生業は大陸と列島間での交易(軽量品が中心)、情報や流通関係の職、略奪や窃盗など。
繁殖形態は卵生で、産卵から孵化までは3週間ほど。
生まれて半年で空を飛び、6〜7才くらいから繁殖行動を始める。
毎年4〜5個の卵を産むものの、多産多死の種族なので成人まで育つ者は少数。
アランはマイナーな種族なのでハーピーと同一視されることも多い。
が、生物分類学では哺乳鳥綱・鳥人目・アラン属で、両腕が翼のハーピーとは属が違う。
一応は哺乳鳥とされるものの餌は鳥類と同様で、授乳能力の方も退化しており、胸はさして膨らまない。
平均寿命は30才。遺体は風葬にするのが一般的。
533
:
名無しさん@避難中
:2017/06/28(水) 19:14:22 ID:yOYPGegA0
【モラランひみつ大図鑑・2】
★種族:フレイムモララン
性別:♀ 状態:怒り
LV:10 HP:56/56 MP:18/18 攻撃:30 防御:32 敏捷:28 魔力:18
――――――――――――
★スキル
【炎の息吹:LV5】【体当たり:LV3】【自己燃焼:LV1】
――――――――――――
体高33cm。体重5kg。体毛/真紅色。
特殊なガスを体内で生成し、炎を発するモララン。
過度のストレスを与えることによって、赤モラランから進化するケースが多い。
堅い毛皮に覆われているが、無数の亜種と同じように手足を持たず、跳ねて移動する。
真紅の体表は常に赤く燃えているように見えるが、これはガスによる発光で温度にして40度ほど。
炎のブレスも吐く為、モラランにしてはかなり強く、炎を苦手とする獣たちでは相手にならない。
主に葉や木材や種を食べるのだが、沼の沼気や山地の硫黄を吸うことも好む。
糞は燃料となるものの、森林の多い地域なら利用価値も薄いだろう。
肉には油臭さがあって不味く、食用に適さない。
534
:
【ドラゴンズリング】ティターニア
◆KxUvKv40Yc
:2017/07/19(水) 22:40:49 ID:yuWlPScU0
自由に使っていいスレということで規制時の連絡場として使わせてもらっておる
ここを連絡場に指定した途端に早速規制……指定した後で良かったというべきか
1レス目からいきなり埋め立て疑惑規制って同じプロバイダーの人が多いのだろうか……
以下2レス本文
535
:
ティターニア
◆KxUvKv40Yc
:2017/07/19(水) 22:41:58 ID:yuWlPScU0
>「分かった。スレイブの野郎をまた殴るのはちょっとつらいけどよ」
>「……わたくしは、クリスタルの前で待っていますの。
万が一、塔の中まで潜り込まれても……好き勝手になんか、絶対させませんの」
対空攻撃手段を持つティターニアは屋上、パワーファイターのジャンは正面扉、
索敵能力に優れたフィリアはクリスタルの前で、それぞれ襲撃に備える。そして――
《この気配は……風の指環! 気を付けて! ウェントゥスに指環を貸し与えられたようです!》
とのテッラの警告の直後、彼は現れた。おそらく気付いたのは3人ほぼ同時。
建造物を足場にまるで飛ぶように跳ぶ人影が近づいてきて、風の塔正面の境界の十字架の上に屹立する。
>「やはり立ちはだかると思っていたぞ、指環の勇者たちよ……!」
>「……あら、わたくしは別に、指環の勇者じゃありませんの。まだ指環に認めてもらえてないし」
>「……指環の勇者じゃねえ、ジャン・ジャック・ジャンソンだ。
その指環、借りてきたんだな。アクアが教えてくれるぜ。
借り物でいきがってる馬鹿がいるってよ」
「ジャン殿よ、こやつに長いフルネームは覚えられまい。ティタぴっぴと愉快な仲間達でどうだ」
フィリアと同じく、洗脳を切り崩せはしないかとほんの僅かな可能性に期待して言ってみるも、当然無意味であった。
元のスレイブならたとえ命のやり取りの最中であろうと即突っ込んできたはずだ。
>「……お前達も、ヒトの為に戦うんだな。ヒトの願いの為に世界を変えようとしてるんだな」
「何、指環を集める旅をしていたら結果的に人助けイベントに巻き込まれているだけだ」
実際に、この三人は全員人間ではない。フィリアに至っては虫族の未来のために行動すると明言している。
ここでいうヒトとは人間という意味ではなく、もっと大きな概念を指すのだろう。
この世界に生きる個々の存在、と言ってしまっていいほど広い概念かもしれない。
そうすると、今のスレイブはその中に含まれない存在の側に立っているということ。
個々の存在の思惑を超越した何か――彼のバックにあるのはそんな存在なのだ。
とはいえ、ウェントゥスとエーテル教団勢力がどこまで一枚岩なのかは未だ不明。
ウェントゥス自体が洗脳されている可能性すらある。
「借り物とはいえウェントゥス自身が貸し与えたものだ……侮れぬぞ!」
>「自分本位で薄汚いヒトの欲望だ。この街の全ての人間と共に……俺が叩き潰す」
>「『エアリアルスラッシュ』」
スレイブが指を翻すだけで、塔が真っ二つになりそうな程のふざけた威力の真空刃が放たれる。
とっさにフィリアが魔剣に呑み尽くしを要請する。
>『飲み干せバアルフォラス!』
>「……あなたの手の内にあるべきは、その指環じゃない!」
>「覚えているでしょう!あなたの相棒が、誰なのかを!
この心優しき魔剣が、あなたの手中にない事を……悔しいと、返せと、あなたは思えるはずですの!」
考えてみれば知性を食らうなんて物騒な魔剣が、こんな持ち主想いの性格になったとは不思議なものだ。
しかしとある伝説によると、ヒトが知恵を身に着けたことそれ自体が原罪だという。
彼が罪の意識を忘れるために使われたのは必然だったのかもしれない。
536
:
ティターニア
◆KxUvKv40Yc
:2017/07/19(水) 22:42:39 ID:yuWlPScU0
>「指環を飲んだナウシトエは認められずとも竜みてえな姿になった。
指環を借りたお前もこんな魔法が使える。
だったらよ、指環に認められた俺は……」
指環の力によって、ジャンの姿が竜化していく。
《あれは"竜装"――彼はアクアと相当連携が取れているようですね。私達も負けられませんよ! "竜装"――ダイナスト・ペタル!》
>「オオオォォォォガアァァァァ!!!
桁外れのウォークライが、バアルフォラスで防ぎきれなかった真空刃を迎え撃つ。
「――プロテクション」
ティターニアによって塔の前に展開された巨大な魔力壁が、二つの妨害を潜り抜けて到達した真空刃の余波を防ぐ。
通常のプロテクションではなく、大地の指環の力によるものだ。
そしてジャンと同じく、ティターニアもまた姿が変化している。
髪は新緑のような緑色と化し、背には竜の翼が現れ、随所に竜の鱗が現れ籠手や脚絆を身に着けたような姿。
竜装"ダイナスト・ペタル"――大地の属性のうち、植物を司る側面を前面に押し出したものだ。
「これは……!?」
《より心の深いところを見せてくれましたからね――シンクロ率が上がったということです》
ティターニアはジャンが水流の槍を投げるのに合わせ、エーテルセプターを振るう。
そこから伸びた無数の魔力的な蔦がスレイブを拘束せんと襲い掛かる。
>『ティターニア、スレイブ以外の奴はこの辺りにいるか?
指環のおかげで頭が良くなったのかもしれねえ、さっきから
嫌な予感がするんだ。スレイブを連れ去った奴が塔に直接来るんじゃねえかとか、
増援が来るんじゃねえかとかそういう予感が頭をよぎる!』
ジャンが指環を通して念話を送ってきた。
この場に増援が来るとしたら、メアリか、ウェントゥス自身か、といったところだろう。
(テッラ殿、光の指環が近づいている気配は無いか!? それとウェントゥス本体の動向にも注意だ)
そうテッラに心の中で問いかける。
メアリはスレイブ洗脳するだけして去ったと思われるが、そう見せかけて近くで様子を見ている可能性も否定できない。
王様気質のウェントゥスはスレイブが元気な間は自分では出張ってきそうにはないが――警戒しておくに越したことはないだろう。
537
:
ティターニア
◆KxUvKv40Yc
:2017/07/19(水) 23:28:05 ID:yuWlPScU0
色々試してみたら1レス目だけ投下できたが2レス目が投下出来ず
日付超えてからまた試してみよう…
538
:
名無しさん@避難中
:2017/07/20(木) 11:24:25 ID:Tlf2UaRc0
埋め立て規制はスクリプトを防止するためのものです
一定以上の容量の書き込みを6レス以上続ける事で発生します
この6レスのカウントは日付を跨いでも変わりません
容量の少ない短いレスを一回挟めばカウントはリセットされます
ということをAA板で知ったので取り急ぎ一報
板が変わったのに合わせて設定も変わったみたいです
539
:
名無しさん@避難中
:2017/07/20(木) 11:26:40 ID:Tlf2UaRc0
正確にはAA長編板の案内からです
540
:
ティターニア
◆KxUvKv40Yc
:2017/07/20(木) 21:45:28 ID:h1A61IaQ0
>538-539
おかげさまで投下できた! 真にかたじけない!
そういう絡繰りだったとは……! 道理で避難所告知の短文は投下できたわけだ
541
:
ギルム@蜥蜴人の私兵
:2017/08/02(水) 01:30:35 ID:W2TOr5cw0
【炎毬兎の駆除・5/9】
「チッ、北の街区へ逃げてゆく……。
あっちは俺たちの管轄じゃないが、市場を荒らした奴を放ってもおけんな。
追い駆けよう」
ギルムがチラリと振り返ると、商人や住民たちが慌てて消火を始めていた。
バハラマルラの市街地は、ロガロ河から引かれた水路が取り囲む。
街中でも女たちが頭に水瓶を乗せて運ぶ姿も珍しくない。
豪商の私兵たちが指揮せずとも、消火活動に不自由はないだろう。
実際、市場の住人たちが忙しく水瓶を運び、瞬く間に火も鎮まってゆく。
その外側では、小火と見て様子を窺っている野次馬も少なくなかったが。
「しかし、あの害獣を捕まえるのは厄介そうだ。
あちこち飛び跳ね回っては、出鱈目に炎を噴く」
モラランは素早く、跳躍力が高い上、動き方まで不規則だ。
狭い隙間に入り込んだり、僅かな段差を利用して屋根の上まで登ってしまう。
捕獲の厄介さを考えるだけで、ギルムの表情も渋いものとなってゆく。
「屋敷から応援を呼ぶか?」
542
:
アドゥ@蜥蜴人の私兵
:2017/08/02(水) 01:32:09 ID:W2TOr5cw0
【炎毬兎の駆除・6/9】
「いらんいらん、面白いものを見せてやろう」
アドゥは屋根の上に登ったフレイムモラランに視線を合わせたまま、不敵に口角を吊り上げる。
「キシャァァッ!」
蜥蜴人が甲高く叫ぶと、市街を取り囲む水路から透明な蜥蜴たちが何匹も這い出して来た。
人の腕の長さほどの蜥蜴たちは、全身が透き通っており、体内には血も骨も内臓も見られない。
その数は総勢で二十を超え、跳ね回る毬兎の行く手を塞ぐにも充分な数。
彼らは己の体より狭い川岸の木柵に体を押し込み、その隙間を水のように擦り抜けてゆく。
市街地に入り込んだ透明な蜥蜴たちは道を走り、壁を登り、フレイムモラランに近付くと一斉に飛び掛かった。
543
:
フレイムモララン@珍獣
:2017/08/02(水) 01:32:58 ID:W2TOr5cw0
【炎毬兎の駆除・7/9】
(・∀・)止めるわさ、染められるまま何色にも染まる、心なき石竜子たちよ
【何匹もの水蜥蜴に取り付かれ、自由を奪われたフレイムモラランは屋根から墜落する】
【頼みの炎の息吹を吹きかけても、蜥蜴の肉体は焦げ付くことすらない】
ぼへえぇぇっ……!(・∀・)
544
:
ギルム@蜥蜴人の私兵
:2017/08/02(水) 01:34:07 ID:W2TOr5cw0
【炎毬兎の駆除・8/9】
「確かに変わったものを見れた。
この蜥蜴どもは飼い慣らした戦獣なのか?」
透明な蜥蜴を触りながら、アドゥに問い掛けても先輩兵士は曖昧に笑んで応えない。
水を固めて出来たかのような水蜥蜴には弾力があり、ひんやりとした冷たさを指先に感じる。
「こちらの厄介者はどう片付ける」
ギルムは透明な蜥蜴たちにへばりつかれ、身動きの取れないフレイムモラランをしげしげ眺めた。
「見た所、証明札の類はない。
戦獣や騎獣なら、しっかり調教されてるはずだ。
愛玩用でもないとすれば、食料として輸入したものか?
まさか、こいつが水路を泳いだり、飛び跳ねて来るわけもあるまい」
市街地を囲む水路は幅広で、街側に木柵が聳える。
野生の獣では越えにくい構造だ。
各所の橋にも番兵がいるので、モラランが突発的に入り込む可能性は低い。
十中八九、市街地に持ち込まれた同属から変異したものだろう。
「そういえば、最近は関税逃れの為か、愛玩獣を食用と偽って街に入れる密輸業者も現れたらしい。
モラランみたいな畜生を愛でるべきだのと何だのと、馬鹿げたことを言っているとか」
ギルムは槍の穂先で発光する毬状生物の頭を小突きながら言う。
545
:
アドゥ@蜥蜴人の私兵
:2017/08/02(水) 01:35:32 ID:W2TOr5cw0
「あ〜、生魔物愛護団体とかほざいてる、頭の茹ってそうな連中のことか?
密輸目的ならまだ分かるんじゃが、善意でやってるなら狂気としか言えんのぅ」
生魔物という単語は、カフェ"Chateaubriand"のマスターが作った造語である。
常識で考えれば、生魔物愛護団体の成立は生魔物という単語が作られて以降。
そして、"Chateaubriand"には"モラランふれあいコーナー"という、徒にモラランへの愛護精神を育む場がある。
以上の点を突き止め、そこから類推すれば、当該団体の発祥地も容易に推測できよう。
それが酔狂な愛護団体なのか、愛護精神を隠れ蓑にした密輸業者なのかまでは不明だが。
「騒動の元凶には、ツケを払わせなきゃならん。
こいつは生かしたまま屋敷へ連れ帰るとしよう」
槍を収めたアドゥが先輩風を吹かせて言う。
バハラマルラの住民は全体的に温和な気風を持ち、彼らの観測範囲でも揉め事を嫌うものは多い。
政府に引き渡して調査を任せたとしても、結果を期待できるかは怪しいところだ。
もちろん、彼らが厳しく尋問しても、常に錯乱したような害獣が真面な受け答えをするとは限らない。
モラランたちは人真似をして人語も喋るが、高い知性を持つわけではないのだ。
「さぁて、それじゃそろそろ行こうかのぅ……シャー!」
水蜥蜴たちに火吹き害獣の護送を命じると、アドゥは騎鳥の首を南に向けた。
ギルムもそれに倣い、二人組の兵士は共に雇用主の元へ戻ってゆく。
かくして、しばしの混乱が生まれた街区も無事に平穏を取り戻した。
【炎毬兎の駆除・了】
546
:
名無しさん@避難中
:2017/08/02(水) 01:38:05 ID:W2TOr5cw0
治安の良いはずの街がずっと混乱してるのもアレなので、とりあえずスレをニュートラルな状態にしておこう。
と思ったら規制されてしまいました……。
Burned BBQ (proxy60)だから、6レスカウントの規制でもないはず。
1時間待っても解除されないので、とりあえず残りはここへ置いておこうかな……。
547
:
名無しさん@避難中
:2017/09/08(金) 22:56:19 ID:vZP18RN60
バハラは舵取り役もいないし休止は致し方ないか。
あそこは大きな目的を作り難い、対立構造の非推奨、土台が曖昧と、描き難い条件が揃ってはいる。
背景となる基礎部分が設定されなかったのは、おそらくPCたちが他者の自由度を侵害しないようにと考えた結果なのだろう。
現地事情に通じないキャラ設定も、街の設定を積極的に描かなかった理由なのかもしれない。
NPCが独立して存在する形式も、精神的にNPCを自レスの中へ組み込み難くした可能性が考えられる。
PCが決めない……とはいえ、NPCがPCを差し置いて世界観の根幹を決めるというのは、やはり望ましくない。
なので、色々と考えても投下はしなかったけど、ここなら別に良いかな。
現行及び後続PCのタスクを奪うようなことも、もうなさそうだし。
NPCが気の向いた時にレスするようなスレもいい、と言ってくれているPCもいるけど、
自分で立てたスレではない訳だし、コンセプトに沿ってない使い方は、やはり迷うところ……。
548
:
名無しさん@避難中
:2017/09/08(金) 22:58:14 ID:vZP18RN60
●バハラ列島通史
【神代】
・真獣が自然や精霊で満ちた大地トゥリズを創造し、己の眷属たちを住まわせる。
・真獣と外なる神の間で激戦が起こり、広大な大陸は千々に砕けて無数の島嶼と化す。
・大戦で傷ついた真獣は暃陵(ひりょう)の地ンディナカイムに去り、神代が終わりを告げる。
【原始】
・真獣に代わり、聖獣たちが同属の庇護を行う。
・獣類と獣人類を中心とした血縁社会が列島各地に出現して、小規模な集落が作られる。
・舟が作られ、列島間での移動が発生。
【古代】
・近縁の獣類と獣人たちによる部族制社会が成立。大集落ごとに力や知恵のある聖獣や獣人を族長として戴く。
・多くの村は真獣からの託宣を受ける神権社会であり、族長たちも真獣から譲られた魔法を操る。
【中世】
・複数の種族を擁して強大化した幾つかの部族が、王制へ移行。
・人類的な都市国家の形成に伴い、獣人と聖獣の意識に乖離が発生。
・聖獣たちの多くは人類社会から離れ始め、辺境に獣類中心の領土を築く。
・富を巡る戦乱と分裂の時代。獅子人族のバハラーディヤ大王が獣帝を名乗る。
・それまで様々な呼ばれ方をしていた列島群が、帝国名に因んだバハラ列島で定着する。
・バハラーディヤ帝国が始めた統一戦争を人族のマールラップ王国が阻み、戦国の時代も終了。
【近代】
・船の大型化による貿易の隆盛から市民層が台頭。大陸式の制度や文化・宗教・魔法などが多く流入する。
・マールラップ王国が王制廃止。首都をバハラマルラと改称して評議会を置き、九人長官制で国家運営を開始。
・有力豪族が持ち回りで長官を選出する共和制が形成され、祭政的な制度も衰退してゆく。
・北方のノルディア大陸からの侵攻、イジェルカンド王国が列島北部の島嶼群を占拠。住民を拉致。
・海外の脅威が認識され、バハラマルラを盟主とする都市国家連邦が成立。
・バハラ連邦軍が列島北部の軍を退けた後、イジェルカンドとの和平交渉が成立して全島返還。
【現代】
・数十年の安定期間を経た繁栄期。
・ノルディア大陸南東のブリティウム帝国がバハラ列島との交易を開始。
549
:
名無しさん@避難中
:2017/09/08(金) 23:00:27 ID:vZP18RN60
●人々の世界観
原古には無限の海が広がり、他は太陽と月と暃(ひ)があるのみであった。
一つの空に三つの光が輝いていた時代、異なる光が合わさった中から真獣が生まれる。
太陽と月と暃の子である真獣は、己の血を海に滴らせ、それが固まって大地となった。
ある時、太陽と月と暃は、誰が最も強く輝けるのかを争う。
三者の争いは太陽が勝ち、月と暃は太陽から隠れて、昼と夜、現世と幽世とが分かたれた――。
地域によって微細な違いはあるが、以上がバハラ列島に広く分布する原初神話である。
世界の構造に関しては、多くの人々に平面だと信じられている。
海の端については、高い氷壁があるとも、巨大蛇に取り巻かれているとも語られる。
あるいは、無限に広がり続けていて果てなどない、とも。
実際には、世界が平面だと地平線や水平線の存在に不合理が発生する。(平面なら遠方は霞む)
その場合は地球と異なる自然法の存在、もしくは結界などで遠方を見通せないと説明すべきか。
●人々の死生観
死者は暃陵(ひりょう)――この世に存在しない丘――ンディナカイムに行く。
そこは太陽や月でなく、往古に消えた暃の光で照らされているという。
具体的な位置については地底、天上、海底、異界など、諸説あってはっきりしない。
また、溺死や事故死や刑死の場合はンディナカイムでなく、別の異界に赴くとする文化も存在する。
死後の生活は生前の継続とされる時代があり、貴族は現世と変わらぬ生活を送ろうと陵墓の副葬品を豪華にした。
トレジャーハントと称した墓荒らしが成り立つ理由でもある。
550
:
名無しさん@避難中
:2017/09/08(金) 23:04:46 ID:vZP18RN60
●種族の定義
全ての獣類や獣人たちの始祖であり、バハラ列島の創造者であるものを真獣と呼ぶ。
それは百獣の要素を一身に持つ獣とも、千に化身する獣とも伝えられる。
列島の各地には、己に近しい姿の真獣像を造って信仰する部族も数多い。
聖獣は真獣の最初の子たち。
虫や鳥や魚の姿でも聖獣と称する。
強い力を持つ彼らは人里離れた各地に独自の領土を持ち、獣たちの王として畏敬される。
魔獣は世に甚大な害を齎す獣たちで、神代に封じられた獣、その子孫、海外渡来の猛獣など種類は様々。
妖獣は何らかの要因で妖力を得た獣。(魔獣や獣との境目は曖昧)。
獣人は獣の要素を持つ人類。
猿類の獣人は猿人、鳥類の獣人は鳥人、魚類の獣人は魚人と呼ぶ。
半獣人は獣人と人族のハーフで、人族をベースに獣のパーツがついているといった風貌。
亜人は獣人や半獣人でこそないが、人類と見做される種族たち。
エルフ、ドワーフなどの獣の要素を持たない妖精、妖魔など。
バハラ政府の定義では、人族の縮尺が違うだけの巨人や小人は亜人でなく人族の範疇に含む。
精霊は地水火風などの元素で構成される非実体的な知性体。
彼らは自然現象の担い手であり、システマティックな存在。
魔法的な盟約を結んで強引に従わせることはできるが、破約した時は即座に支配下から離れる。
何らかの代償を対価に盟約を結んでいた時は破約と同時に取り立てられる。交渉や妥協は通じない。
我々の世界でホモ・サピエンスに相当する種族を呼ぶ時は、人族という固有名詞を使う。
人族は無毛猿の獣人という説もあるが、神代の列島にはいなかったともされ、よく分かっていない。
大陸からの来訪説では、文字の無い原始時代に列島への定住を始めたとするのが一般的。
土地によっては、獣人たちに富の喜びを教えた魔的な誘惑者/妖魔的な扱いなどもされる。
ただし、人族は他の獣人との間に子供を作れることから、やはり獣人の一種という見方も根強い。
真実はともあれ、バハラ連邦では人族や小人族や亜人、半獣人、獣人の全てを人間/人類と定義する。
551
:
名無しさん@避難中
:2017/09/08(金) 23:07:54 ID:vZP18RN60
●魔法の歴史
真獣は幽世に去ったが、古代から列島の住民は祭祀を通じて大いなる祖先と意思を通じ合わすことができた。
彼らの祈りはンディナカイムに届き、真獣は己の力の一部を現世に送り込む。
その力は、世界を構成する理法/自然法を歪める魔法として現れる。
真獣魔法の習得方法は真獣を祀る儀式を行い、忘我の中で真獣から力を譲ってもらうこと。
特別な儀式を行わずとも、夢の中で真獣の精神と同調して、突発的に覚醒するものもいる。
どのケースであれ、真獣魔法を得るには真獣に認められなければならない。
また、真獣魔法は与えられると共に禁忌(タブー)を課され、破約を行えば力を喪失する。
歴史の初期では族長の一族たちが真獣魔法を占有していた。
やがて、外敵との争いが増えるにつれて、戦士階級も真獣と接触するようになり、真獣魔法が一般にも浸透する。
獣人以外の種族は精霊信仰を持っていたようだが、文字の無い時代なので詳しくは分からない。
中世は戦いの時代であり、魔法の最盛期でもある。
戦士階級の真獣魔法使いたちは、戦乱時代の各王国で要職を占めた。
魔法使いを多く輩出する種族こそ、高い社会的階級を持つ時代となったのだ。
真獣への祭祀は常に行われ、戦士階級以外の真獣魔法使いも量産された。
近代には海外からバハラ列島へ異質な文化の数々が入り込む。
今までは獣人や聖獣が独占していた魔法だが、この時代には人族や亜人の魔法使いも増えてゆく。
また、異国由来の病癒の術が発展し、真獣魔法には見られない種類の施療魔法などは特に広まった。
真獣から魔法を授与されない者たちにとっては、学習で習得可能な異国の魔法は魅力に映ったのだ。
とはいえ、自らの祖である真獣への信仰が廃れたわけではない。
現代のバハラマルラでも、真獣魔法の使い手は真獣と意を交わすものとして尊崇を得られる。
対して、異国から来訪した魔法の使い手は、伝統を重んじる保守層からは不審の眼で見られるようだ。
都市の治安を司る槍の評議会も、彼らの所在や力の把握を試みたいようで、異国の魔法使いの調査は頻繁に行う。
●宗教
真獣信仰を主とするシャーマニズムが、古代以来から広い範囲で普及している。
その主な担い手である真獣魔法使いたちは、神官と戦士と指導者を兼ねたような立場として見られる。
正式な聖典が存在しないせいもあってか、教条主義や狂信性とは無縁で、総じて他の宗教にも寛容。
伝承も相互に矛盾する逸話が少なくないのだが、列島の人間はあまり気にしていない。
近代には海外からラグズ教やナシュラータ教なども入り込む。
ラグズ教は一神教で、ラグズとは神に従う者の意。
預言者イスマエルが唯一神の啓示を受けて創始したという。
一神教なので他の神の存在は一切認めず、真獣も悪魔的な存在として見做される。
この宗教には、人族こそが万物の霊長という概念が存在する。
獣人や亜人は人間と称されず、人族のみを人間や人類と呼ぶ。
同大陸では、人族は神の似姿として創造された種族とされ、人族の獣人説は冒涜的な迷信として忌まれる。
人族は自然の上位に立つ種であり、動植物や鉱物は利益のために搾取しても正当化されうる資源と見做す。
また、唯一なる神の使いとして人族に翼が生えたような天使という存在が伝わる。
彼らは真獣と敵対し、神代のバハラ列島を襲ったという。
古の伝承からラグズ教は獣人たちに忌避されているが、人族の間ではそれなりに普及している。
ナシュラータ教は多神教で、神々が住まうというナシュラータ天山が由来。
様々な神と宗派を持ち、人型の神もいるのだが、バハラ列島では獣形の神々の人気が特に高い。
彼らナシュラータの獣神たちは、土着の真獣信仰と融合して真獣の兄弟姉妹とされた。
実際のところは全く関係ないのかもしれないが。
552
:
名無しさん@避難中
:2017/09/08(金) 23:10:10 ID:vZP18RN60
●列島の地理
真獣に創られし大地、トゥリズが神代に砕けた結果、大小無数の島が海上に点在する。
バハラ列島は島々の配置構成が全体として「く」型に近い。
最大の島であるバハラ島は列島中央の西海域に浮かび、幾つかの都市国家を擁する。
気候は熱帯雨林気候〜亜熱帯湿潤気候などで、暖かな雨季と暑い乾季を持つ。
●列島外の地理
海を越えた列島の北部にはノルディア大陸があり、バハラマルラから約二ヶ月の航海で到達する。
そこは広大無辺の大地であり、砂漠性の気候から寒帯の地域までも含む。
数々の種族と国が割拠し、文化や宗教も多様。
大陸南方のイジェルカンド王国、南東のブリティウム帝国などが列島と接触している。
なお、海外への貿易や渡航には政府の許可が必要。
●バハラマルラの地理と人口
都市国家バハラマルラはバハラ島の北域と南域の中間に位置し、東は海に面した港湾。
西からはロガロ河の水が街へ向かって流れ、下流でデルタ地帯を形成し、市街を取り囲む天然の濠と化す。
ロガロ河はデルタ地帯外部の農村地帯でも農水路として活用されているようだ。
バハラマルラ国の周囲は森林や丘陵の多い地で、国境付近では部族制の辺境村落などが見られる。
人口は市街地に住むのが約十万人。
周辺に散在する数十の農村漁村や、小集落を含む総人口は都市の3〜4倍程度。
市街地は面積を100ha〜200haほどとすれば、徒歩での横断は20〜40分くらいが妥当か。
●バハラマルラの政体
大農園所有者や豪商、真獣魔法使いなど有力氏族による共和政体。
国名はバハラマルラ共和国ではなく、単にバハラマルラ国と呼ぶ。
行政機関としては三つの独立した評議会があり、九人の長官(ラデン)で国政を運営する。
ただし、祭礼を司る役職だけは長官でなく祭師(スフン)と呼ばれ、必ず真獣魔法使いでなければならない。
秤の評議会……財務/農政/建築など、都市運営の物質的部分に関わる。
筆の評議会……司法/外交/祭礼など、都市運営の精神的部分に関わる。
槍の評議会……軍事/治安/運輸など、兵力が必要な業務の全般を司る。
長官の選出は氏族間の力関係で決まる。任期は三年だが再選も可能。
副官や属吏は長官が選び、選挙や公募の類はない。
長官たちを呼ぶ時はラデン・ルアサンガやラデン・シャトーブリアンなど、称号/名前の順となる。
政庁は都市南東部に位置して海を臨む旧マールラップ王国の宮城、カラン宮殿。
なお、バハラ連邦とバハラマルラの政府は別である。
バハラ連邦は都市国家単位の連邦制で、その構成員は各国の元首たち。
評議を行う際には、カラン宮に各国の元首を招く。
周辺農村地帯の外側に当たる狩猟採取民の村落は、中央政府の統治も及び難い。
従って、その付近では伝統的に現地の族長たちが司法行政権を持つ。
553
:
名無しさん@避難中
:2017/09/08(金) 23:11:37 ID:vZP18RN60
●言語
バハラ列島には数十の言語があるものの、諸言語間には方言程度の違いしかない。
公用語や標準語に近い扱いなのは帝国時代に広まったバハラ語で、現在も列島の各地で一般的に使う。
本来はバハラ語も異界言語なのだが、それでは読む際に不便なので日本語として表現する。
大陸からの外来言語は列島語とは体系が違うので、基本的に外国人とは会話できない。
ただし、大陸語を使う人々も列島に入り込んで数世代は経つので、覚えやすい単語くらいは普及している。
通常の獣類は人語を用いないが、知能の高い妖獣や魔獣の中には人語で会話する種もなくはない。
モラランのように知能が低いながらも、人真似をする種族もいる。
また、真獣魔法を使う者同士や精神感応を使うものならば、種族や言語が違っても意思は通じる。
●名前
・名前1
・名前1/名前2
・名前1/名前2/名前3
・名前/姓
・名前1/名前2/姓
……など、バハラマルラでの住民の命名則には様々なパターンがある。
古くは名前一つだけだったのだが、人口増加につれて重複が多くなったためだろう。
名前を連ねるパターンは、概ね親や祖父の名を使う。
名前一つだけの者はニアズ村のゼム、東風のゼム、木工のゼムなど、出身や綽名などで同名異人と区別する。
●建築
木造で茅葺きの家が伝統的な工法で、日差しが強くても屋内は風通しが良い。
近代からは大陸風の石材や煉瓦の建造物も多く見られる。
都市外の村々でも、やはり豊富な森林資源を生かして建物を作る。
土の塚を築く種族や、石窟に住む種族、樹上を居とする種族もいないではない。
554
:
名無しさん@避難中
:2017/09/08(金) 23:13:32 ID:vZP18RN60
●服飾
バハラ列島の服飾は、大きく三系統に分かれる。
一つ目はノルディア大陸由来の文化である洋服や胡服。
これらは人体の形に合わせた衣服なので動きやすいが、人間型以外の種族には合わないこともある。
現在は洋服も広く普及しており、多くの国で都市住民が纏う。
二つ目も異国由来の華服や和服(※1)。
これは前者の洋服とは違い、ノルディア大陸西端のスイ(隋)国から伝来したものである。
前が割れていて、前を合わせて着た後に帯を締める着装。要するに着物である。
体型に左右されず長く使えるのだが、着用者はそれほど多くない。
三つめは巻衣。
大型の一枚布を巻きつけたり、掛けたり、垂らしたりして出来上がる衣服。貫頭衣形式もある。
古来からの自然発生的なものであるので広く普及しており、愛好者も多い。
色鮮やかで刺繍の施されたものも少なくなく、地域によっては刺繍や巻き方で階級を示すこともある。
腰周りにのみ衣料を装着する場合は蛮衣と呼ぶ。
かつての住民たちは裸体を晒すことを恥と考えず、温暖湿潤な気候から腰布のみの恰好もメジャーであった。
だが、大陸文化が流入するにつれて、半裸で腰を覆うだけの格好は蔑みのニュアンスを加えて蛮衣と呼称された。
やがて蛮衣は下層民の服装とされるが、亜人や獣人や未開部族の中には今も蛮衣を纏うものが少なくない。
それ以外の服飾文化としては、一部の種族が葉や枝や魚鱗などを衣服替わりとするようだ。
また、少数ながら服飾文化を全く解さず、完全な裸体を保つ人型種族もいる。
その場合でも、血と肉を持つ種族であれば、泥などを塗りつけて肌を保護するケースが多い。
毛皮を持たない人型種族たちが裸体で都市に現れることは滅多にないが、立ち入ってしまった時は混乱や諍いを生む。
逆に、それらの種族の勢力圏へ人間が立ち入ってしまうと、こちらもトラブルになる。
常に服を纏う人間型種族は裸体種のテリトリーに侵入した場合でも脱衣を拒むので、不審な目で見られるのだ。
武装に関しては、金属鎧は気候や文化から好まれない。
※1
「和」という語は便宜の為に翻訳した際の当て字であり、日本の古名である倭・大和を意味しない。
「洋」も外国との意を持つ別世界語の単語を、翻訳の際に漢字として変換しただけである
555
:
名無しさん@避難中
:2017/09/08(金) 23:14:56 ID:vZP18RN60
●税制
税は夏秋の二度、政府へ納税する。
納めるものは穀物や現金、材木、布、金属など、営む業種によって違う。
商売をする場合は、行商でも店舗でも売買税が課税される。
関税も存在していて、港湾や国境を通過する品には一割程度の税がかかるが、食料だけは必要ない。
魔法的な物品に関しては、輸出の際にも関税がかかる。
その他、船舶や馬車の登録など税が必要なものは少なくない。
実際の徴税事務に当たっては、秤の評議会に委託された徴税人が行う。
●兵制
現在のバハラマルラは傭兵制を取り、徴兵は行われていない。
人員を集めるのは槍の評議会で、能力に応じて市街の治安維持、国境周辺の監視、輸送警備などの任を割り振る。
国境周辺の防備などは魔獣や妖獣も相手にするので、それなりの腕を持っていなければならない。
官兵の他にも各村落で編成した自警団や、商人や豪農が個人で持つ私兵なども存在する。
とはいえ、都市民の多くは国防が職業軍人頼りで平和も長いため、軍事に関しては無関心。
●奴隷制
中世には捕虜を奴隷とすることは珍しくなかったが、長く戦争が起きていない現在は奴隷制も廃れている。
ただし、列島全ての国で皆無なわけではなく、バハラマルラでも犯罪者に労役を科す場合がある。
人族中心主義の海外国家へ目を向ければ、獣人の権利は総じて高くない。
それらの国々は密かにバハラ列島の各地で奴隷調達を行っているようだが、規模や実態は不明。
●結婚
バハラマルラの人間は総じて早婚である。
人族を例に見れば、十代半ばで結婚して二十には数人の子を儲けているケースも珍しくない。
平均寿命の短さや幼児死亡率の高さが、全般的な早婚の原因と推定される。
富裕層の結婚も氏族間の結びつきを重視するため、やはり若くなる傾向が強い。
とはいえ、種族間での成熟度にはかなりの差があるので、具体的な結婚可能年齢というものは決まっていない。
婚姻する際は、対価として男側から女側へ結納金を支払うのが一般的。
自由恋愛からの結婚はそれほど多くなく、大抵は経済力が優先される。
一夫多妻制は認められており、夫人全員の同意があれば新たな妻を迎えるのも可能。
逆の一妻多夫は法でこそ認められていないが、一部の鳥人族などは公然と行う。
乱婚や近親婚、レビラト婚、ソロレート婚は一般的でないが、絶対数の少ない種族の中には見られる。
このように、各種族独特の習俗も、ある程度は尊重されるようだ。
ただし、掠奪や売買による婚姻は禁じられ、法で罰則も科される。
異種族間での結婚に関しては、忌避感を持つものが少ない。
バハラ連邦の盟主という立場から、人種の坩堝なのが原因なのだろう。
556
:
名無しさん@避難中
:2017/09/08(金) 23:15:53 ID:vZP18RN60
●通貨の歴史
現在の通貨単位、マルラはバハラマルラの前身であるマールラップ王国に由来する名称。
連邦政府発行の紙幣に加えて各国の独自貨幣もあるが、種類に拘わらず単位は全てマルラ(м)。
紙幣――政府発行の券。連邦内の全てで使用可能。
金貨/銀貨/銅貨――金属貨幣。バハラ連邦に属していない国などが採用。
貝貨――七色貝の貝殻。紙幣を好まない辺境諸島群などで使われる。
珠貨――天然石や真珠のビーズを紐で繋げ、数珠のような形にした貨幣。
紙幣や金属貨幣は大陸由来であり、歴史は浅い。
その為、部族制社会には不信があるようで、都市を離れれば近代以前から使われる貝貨や珠貨が未だに現役。
知性の高い獣類も何某かの通貨を持つようだが、例によって詳しくは不明。
貨幣価値についても参考程度に考察する。
ココの実一杯分の牛乳は10マルラなのは確定。
椰子(ココ)の実の中に詰まっているジュースを平均800ccとして、
国際金融情報センターの出す牛乳の各国の平均価格からマルラを円換算すれば以下の通り。
インド:1マルラ=6円
オマーン:1マルラ=6円
アメリカ:1マルラ=8円
インドネシア:1マルラ=10円
オーストラリア:1マルラ=13円
日本:1マルラ=17円
インド基準だと、牛乳1Lは78円、石芙蓉茶1杯は600円。
オーストラリア基準だと、牛乳1Lは166円、石芙蓉茶1杯は1300円。
とは言え、酪農や流通の規模を考えると牛乳価格だけでの単純比較も出来ない。
牛乳屋で殺菌やパック詰めをしていないとなれば、人件費を割り引く必要もある。
さらには魔法の有無や規模、神秘か公知かなどが不明な段階では、文明レベルや社会インフラの程度も設定し難い。
魔法での運輸、酪農技術の発展度合も牛乳価格に影響を与えるだろう。
つまり、上記の考察は全く物価の参考にならない。
ただ、個人的には1マルラ=10円が覚えやすいように思う。
557
:
名無しさん@避難中
:2017/09/09(土) 09:38:54 ID:gkfc86S20
うおーなんかすっごいのがきた
558
:
水鉄砲使い
:2017/09/13(水) 23:00:34 ID:GcM95Mww0
>>547
すごい設定集乙! 文化人類学とか勉強してそうだな、と思った!
国王とかNPCでネタ振りしてくれてた人かな
南国で繰り広げられる2人+1匹のあのゆるゆるした(?)生活、とっても好きだった
休止はひとえに相方が消えて我に単独で続けるだけの技術も根気も無いことに所以する
時々覗くので対面進行でもやりたいという奇特な人が現れればいつでも再開は可能だ
独り言もOKなぐらいだし住民の動向やエピソード等は本スレでいいと思うけど
設定の投下は気が向いたら使ってください的な扱いでこちらで正解だと思う
559
:
名無しさん@避難中
:2017/09/16(土) 23:59:45 ID:cfm/rank0
上の方の設定は、ウィキペディアなどの色んなサイトやブックオフの(安い)本が主体なので、これといった勉強はしてません……。
書いてて思ったのは、ファンタジーで中世ヨーロッパ風(に似たJRPG)以外の世界観を構築しようとすると、検索コストが高いなということ。
特に南洋系はウェブ上に溢れてる中世ヨーロッパの情報と違って見つけにくく、それっぽくするのも苦労しそう。
本スレは長期稼働PCが二人とも記憶喪失の異界人という、主体的に動き辛く、かつ現地事情にも通じない設定。
となれば、街を描くには現地人のPCが入るか、NPCを使うしかない。
……が、私は街の住民を描くには、まず最初に街の設定(政体や魔法の有無や認識など)を構築してからでないと難しい。
土台となる基本設定が無い状態では、何も背景がないキャラや、その場限りのキャラしか動かせない。
ジワリジワリと設定を作ってゆくという方針が私にはあまり合っていないのでしょう。
そして、NPCはPCの出した1を2にするのはセーフだけど、0から1を作るのはアウトというスタンスなので、
NPCも踏み込んだことはしておらず、さして役には立ってない。
(後、キャラを動かすのもあんまり得意ではない……)
この辺りがスレに発展性を欠き、相方さんの消えた理由にも繋がっているような気もします。
つまり、白紙の本は書き込む余白が多いものの、白紙の本自体は読んで楽しいものではない……というような。
まあ漂流者さんのいない状態で続けるのも……という感じはわかりみが強いので、ひとまず本スレは揺り籠の中で眠らせておきましょう。
「独り言もOK」とあってもPCのソロプレイ、名無しの呟きなど、複数の解釈が出来て、やはり少し踏み込み辛いので……。
560
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 00:05:24 ID:ffOpzOSk0
【市場の様子・1/2】
バハラマルラの市場は、朝から夕方まで常に喧しい。
値の交渉をする買い手、商品の宣伝に勤しむ売り手、商家に向かう荷運びたちの掛け声、役畜の嘶き。
子供を叱る老人やココの実を売り歩く少年の声などなど、喧騒は様々な人と獣の声で作られていた。
この南国の街で交易に従事する者は多い。
無数の島嶼から成るバハラ列島は、単独で全ての生産を賄えないからこそ、交易業が発達してきた。
船を通じて運ばれた南方の物産は港で荷下され、倉庫の品々と入れ替えられて北へ向かう。
同様に北からの貿易船は南へ。
各地の物産は簡易屋根を設えた市場に並べられ、場所を取れなかった商人は道端に露店を広げる。
野菜や果物、衣類、家畜、食器に楽器、服飾品まで、おおよそ揃わない生活用品はない。
この南北の品々と文化が集う市場を若い男が歩いていた。
サイムサーム。バハラマルラで生まれ育った人族で、富裕な貿易商人の子息だ。
ゆったりとした青い巻衣で褐色の肌を覆い、頭の黒髪には日差しを避ける為の白い布を巻く。
彼は歩きながら左右の商品台に瞳を向けつつ、目ぼしいものを値踏みしていた。
「これはサイムの若旦那。
また目利きの腕を磨きにでも?」
サイムサームは不意に横合いから声を掛けられた。
話し掛けてきたのは山猫人族の茶商、ラスードディク。
何度か父親の店を訪れており、取引をしたこともある相手だ。
「久しぶりだな。
今日は何か良いものを仕入れたか」
「ええ、南北の佳茶から大陸産の高級茶まで取り揃えました。
その味わいは最高の蜂蜜や年代物の美酒に勝り。
芳しい香気は百花の森を閉じ込めたよう。
きっと、旦那もお気に召すでしょう」
短躯の茶商は済ました顔で言う。
「お前のお勧めは?」
「大陸西域で産する雪片螺針です。
香りは夜風に晒された五彩の花の仄かな甘さ。
一杯飲めば、身体を冷やして暑気を取り、血の流れも良くします」
561
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 00:07:29 ID:ffOpzOSk0
真新しい紙包みが開かれ、清涼な芳香が辺りに広がった。
自慢げに差し出されるのは、捻子巻くような形の白い茶葉だ。
サイムサームが試飲をしてみると、臓腑が清流で洗われたかのような心地良さを感じた。
「値は?」
「品質を考えれば5000マルラほど頂かなくては」
「それでは売り損なうのではないか。
物が良くても、4000を越えれば売れまい」
「いいえ。
幸いにも上得意が出来まして」
「長官か祭師の誰かか?
だが、あいつらは贅沢好きで飽きっぽい。
前に売れたからといって、次も売れるとは限らないぞ」
ケチを付けるが、内心では気に入ったもののせいか、やや上ずった声が出る。
当然、ラスードディクも買い手の心を容易く見透かす。
「雪片螺針は数年も熟成させれば香りが濃くなり、味も繊細さを持ちます。
そうなれば値段は倍となりますので、急いで売る必要などはありません」
サイムサームの顔が僅かに紅潮した。
茶商の品を値切るつもりだが、全く押し切れない。
その後も数分は粘るが、押しても引いても手応えがなかった。
商いの道に関しては、相手の方が遥かに上手なのだろう。
「仕方ない、参った。
そちらの言い値で買うよ」
諦めたように言うと、茶商も薄く笑う。
立場が逆なら、一割くらいは値引けただろうから。
もちろん、そのようなことはおくびにも出さないのだが。
「若旦那、適切な値段で物を売り買いするのも、一流の商人には必要なことですよ。
値切っても、必ずしも得をするとは限りませんからね。
特に腕の良い職人を値切ると、彼らは普通に質を落として来る」
「なるほど、覚えておこう」
交渉を終えるとサイムサームは大陸産の銘茶を小袋に仕舞い、大事そうに抱えながら市場を去った。
それを暫く見つめていたラスードディクも、すっと笑顔を消して雑踏の中へ消えてゆく。
【市場の様子・了】
562
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 00:19:36 ID:ffOpzOSk0
【森の紅玉を求めて・1/14】
暖かな風が枝葉を揺らす森を一人の男が歩いていた。
彼の輪郭は細身の人型であったが、肌は赤茶の鱗で覆われ、蛇の頭部を持つ。
服装は暗黄色の巻衣を纏っており、樹皮のサンダルで落ち葉を踏み締めている。
この男、ラアルサンプは蛇人族の薬師で、今は薬の原料を探すために僻地の森まで訪れていた。
バハラマルラの国境を北西に越えた地帯は、シュラフニ(百鳴の森)と呼ばれる大森林だ。
南国の強い日差しと豊富な雨に育まれ、この森の樹群は七十ル―トル級の高さを誇る。
無数の枝葉に遮られた最下部の林床は常に薄暗く、蛸足のような巨木の杖根やシダの繁茂が目立つ。
湿度は極めて高く、じっとしているだけでも汗ばむほどだ。
「……ここもか」
林床に立つ蛇人が見つめるのは薄闇に覆われた大地。何かを掘ったような跡だ。
スコップを使った綺麗な掘り跡は、この森の植物を採取した跡だろう。
濃厚な土の匂いに混じった僅かな刺激臭が、今はそこにない植物の存在を教えている。
「この辺りの火雫草も取り尽くされている。
薬種になると知らねば、それも仕方ないが……。
しかし、根まで採ってゆくとは栽培でもするつもりなのか」
ラアルサンプは苦い顔で溜め息を吐く。
彼の探す火雫草とは真紅の種を実らせ、赤い花を咲かす植物だ。
その種は北の大陸で香辛料として珍重され、高い換金性が知られてからは、森の紅玉とも呼ばれる。
市場で同量の銀と取引きされているのを見れば、近場の群生地が乱獲されるのも当然といえよう。
563
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 00:24:13 ID:ffOpzOSk0
「北の大陸で赤膚病が流行り始めたのは三ヶ月前。
となれば……もはや、いつバハラマルラまで来てもおかしくはない」
認識を明確にしたことで、ラアルサンプの心で焦りが滲む。
彼が口にした赤膚病とは体を腐らせる疫病だ。
罹患すれば皮膚に赤い斑点が浮かび、全身に広がりながら肉を腐らせてゆく。
悪疫は体内に瘴気を生んで外部からの魔力を阻害するので、魔法による治癒も目立った効果がない。
死後に赤く爛れた骸が残ることから、別名は赤屍病。
ノルディア大陸では死神のように恐れられているが、バハラ列島ではあまり知られていない死病だ。
だが、この不治の病の治療法をラアルサンプだけは知っている。
かつて他国で宮仕えをしていた医官時代、死刑囚を使っての薬効実験で発見したのだ。
それで残虐で胡乱な医術を行っていると讒訴され、国を追われることとなってしまったが……。
「悪評で追われて尚、薬師を続けているというのも滑稽な話だ。
いや、これしか食っていく術がないだけか……」
自嘲を吐き捨てると、薬師は森の奥に視線を移す。
先を見通せない暗緑色の前では、眼窩から極彩色の花を咲かせる髑髏が転がっていた。
「あの辺りから先が聖獣の領域か。
村の話を信じれば、骸は警告の見せしめかもしれないな。
やはり、不用意に足を踏み入れないほうが良いだろう」
目当ての薬種は、シュラフニの外側を隈なく探しても見つけられない。
手に入れようとするならば、危険を承知で禁足の地へ踏み入れるしかないだろう。
そう結論付けると、まずは街まで戻って人手を募ろうと考え、ラアルサンプは踵を返す。
「……そういえば、馴染みの店にも狩人はいたな」
564
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 00:30:30 ID:ffOpzOSk0
蛇人の薬師は森林地帯を抜けると、一昼夜を掛けて南東へ歩き続けた。
やがて農村地帯へ至ると、彼は街道に面した店へ入ってゆく。
Chateaubriand。牛乳屋を改装して開店したカフェだ。
経営者は男女の二人組で、素性は分からないが容貌からして異国人だろうと噂されている。
ただ、この辺りは交通の要衝であるためか農村地帯であっても閉鎖的ではない。
異国の主人であっても、店はそれなりに繁盛していた。
各テーブルでは肌を南国の色に焼いた半獣人や、毛皮も暑苦しい獣人たちが、茶や牛乳を喫している。
「奴は不在か。
もし猟に出たとすれば、二、三日は戻らないかもしれないな」
どの卓を眺めても探し人である虎人の猟師、ムディンガオの姿がない。
諦めてラアルサンプが店から出ようすると、一人の女が「いらっしゃいませ」と声を掛けて来た。
確かメルルと呼ばれる女給だったと、自身が店の常連でもある薬師は思い出す。
「済まないが、店に張り紙をさせてもらって構わないか。
薬種を集めたいのだが、採取地の危険度が予測できないので護衛を求めたいのだ。
最初はここの常連の狩人を……とも思ったのだが、どうやら不在のようでな」
ラアルサンプはメルルに頼み込む。
護衛を募集すれば、それなりの知識や力量を持つ人物が現れるかもしれないと考えて。
都市と辺境の中間に位置する街道沿いの店には、様々な人物が立ち寄るのだ。
「……」
要請を受たメルルは何も答えず、にこやかな笑顔を作るのみ。
互いに見つめ合ったままの奇妙な沈黙が続く。
「あー……石芙蓉の茶を一杯頼む」
注文を頼むと、即座にメルルからは張り紙OKの応えが返って来た。
話題の少ない田舎では、変わった話が伝わるのも早い。
だから、張り紙を見た客から目当ての狩人へ話が伝わるのも、そう時間は掛からなかった。
565
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 00:35:38 ID:ffOpzOSk0
「……ダメだ」
依頼内容を聞いた虎人(テインダクトゥス)の第一声が、それだった。
ムディンガオは黒縞の入った黄色い毛皮と隆々たる筋肉を持つ、若いながらも熟練の狩人だ。
彼は虎の獣人であり、人族の特徴が強い半獣人とは違って顔貌は虎のものである。
従って、纏うのが腰布だけでも違和感は少なく、周りの客も気にした風はない。
狩人は円卓の席にどっかと座りながら、薬師に向けて話を続ける。
「聖獣の領域が不可侵ってのは、アンタも知ってンだろォ。
だいたい、その死病ってのは本当なのか。
薬になるのは森の紅玉だけってのもよォ。
治癒の魔法を使う奴らだっているだろう?」
蛇人の薬師は首を振る。
「この死病に魔法は無駄だ。体内に生じる瘴気が阻む。
病んだ毒気を吸ってくれる火雫草も、シュラフニの周辺では草ごと採り尽くされていた。
香辛料として同量の銀に等しい有様では、無理からぬことだが……。
残る群生地は、まだ採取者たちが足を踏み入れてないであろう中心部しかない」
「ハッ、、シュラフニの周辺に行ったって? よく無事だったな!
あそこは外側なら安全ってわけでもねェのによ」
「そうだったのか?」
「これだから余所者は……」
「話を戻すが、貿易商の話では三ヶ月前からノルディア南端で赤膚病が流行り始めたそうだ。
大陸から列島までの航海は約二ヶ月。
いつバハラマルラに疫病が流入してもおかしくない」
赤膚病の陰惨な症状についても説明がなされ、ムディンガオも考えあぐねたように虎貌を背ける。
「……人と獣の領域は、長い時間を掛けて決めたもンだ。
勝手に境界を越えれば、殺されたって文句は言えねェ。
街に迷い込んだ害獣が、人の手で狩られるようにな。
その慣習を破るってンなら、少なくとも評議会には話を通すべきじゃねェか」
「バハラマルラの評議会が流れ者の私を信用するとは思えない。
もし、お前が断るなら別の奴を当たるまでだ」
蛇人の薬師は、おもむろに話を打ち切ると席を立った。
行政や為政者への根強い不信ゆえである。
566
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 00:42:43 ID:ffOpzOSk0
数日後の早朝。
ラアルサンプは一人の同行者を伴って、シュラフニを目指していた。
森は幾つかの新しい花を咲かせ、僅かに前回の訪問時と姿を変えている。
ある花は幹から生え、別のものは枝や根に生え、もちろん地上から生えるものも少なくなかった。
色こそ様々だが、この森には筒形の花を持つ鳥媒花が特に多い。
花弁に黄青赤白桃の五色が宿る五彩花は、色無し蜂鳥のみを花粉の媒介に使う。
蛇木の花は螺旋に湾曲していて奥も深く、鳥頭蛇身のペルガ鳥でなければ入り込み難い。
石の硬さを持つ黒曜水仙の花蜜などは、細く長い嘴を持つ矢雀でなければ吸えない。
花弁の色と大きさは様々だが、どれも特定の鳥に最適化した形となっている。
送粉者の特化こそが、薬草・薬種の宝庫たる樹種の多様性を保持しているのだ。
しかし、森の民ならぬ薬師では、そこまでの因果関係は導けない。
「五彩花は血の安定、蛇木の樹皮は創傷、黒曜水仙は精神の病に効く。
少し、採取しておくか」
採取した鮮やかな花を手に取り、ラアルサンプはしげしげと見つめる。
「こういった複雑な花筒は、他の動物を排除するような構造だ。
獣同士が争わぬよう、真獣がそのように創ったという説明も聞くが……」
薬師の視線は下に落とされ、大地から生えた奇妙な草に移る。
それは鉤爪のような形の葉を持つ植物で、鷲掴みのような形でモラランを捕まえていた。
すでに獲物は半分溶けかけ、根本に赤い養分を滴らせてはいたが。
「……それでは、なぜこのような食獣植物がいるのか。
他にも樹洞に鳥を住まわせて虫を追い払う木もあれば、樹木に蔓を巻き付け宿主を絞め殺す植物もいる。
バハラ列島を創造したのは真獣だと聞くが、どんな思考で万物を創ったのやら」
ラアルサンプは真獣と意を交わすことはできない。
医術を求め、獣性を遠ざける心が、百獣の創造主の意志を遠ざけるのだろうか。
薬師の疑問に応じたのは、うんざりしたような顔つきの同行者だ。
「利ある相手と組み、害を為す奴はブッ殺すってだけだろ。
動物も植物も変わらン。
獣が草や種を食うなら、植物だって肉を食ったっておかしかァねェ」
結局、ムディンガオは聖獣の森に同行していた。
彼が生まれ育ったのは都市から離れた辺縁の土地だが、バハラマルラの住人であることには変わりない。
もちろん、致死の死病が流行すれば犠牲者は都市だけで終わらないだろう。
今、治療法を知る偏屈な薬師に死なれては困る。
なにせ、彼が護衛を引き受けた報酬は、赤膚病の優先的な治療権なのだから……。
567
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 00:53:42 ID:ffOpzOSk0
「確かに、そうかもしれないな。
人類と植物が対等という視点は欠けていたようだ。
寡聞にして、植物の聖獣というものを聞かないからかもしれないが」
「フン、詰まらんお喋りはそこまでにしとけよ。
もう聖獣の領域だ」
「まだ先だったような気もするが……」
「よく耳を澄ませろ。
妖鳥どもの羽ばたきにな」
今までは疎らに聞こえるだけだった鳴き声が、急速に数と音量を増した。
無数の鳥鳴は耳を圧するけたたましさで、樹上を見上げれば数百の視線がこちらを窺っている。
赤や青や緑の色鮮やかな鸚鵡たち、小型の蜂鳥や花鳥、大鷲や梟のような猛禽の数々。
人が乗れるほどの大型走鳥や、獣の胴を持つ奇形の妖鳥なども、木々の合間から姿を覗かせている。
「チッ、あっという間に取り囲まれた。
本当にヤベェのは三、四羽ってとこだが」
「……ノウンは鳥を操ると聞いた。
聖獣が拒んでいるなら引き返すべきか?」
見た事も無い数の鳥に包囲され、ラアルサンプは気圧された。
ムディンガオも投げ槍の柄を握り締める。
近隣の村落でも森の主、ノウンの恐ろしさについて知らないものはない。
奇怪な魔法を使う、武器でも傷一つ付かない、鳥を操る、人間を喰らうなど恐ろし気な伝承の数には事欠かず。
子供を叱り付ける時にも「悪い子はノウンが攫いに来るぞ」などと出汁にされるほどだ。
「いや、奴らの中にノウンはいねェ。
どいつもこいつも見たことがある。
単なる妖鳥風情なら群れで最も強い奴を撃てば退く、は、ず、だッ!」
ムディンガオが槍を一閃した。
力強い横薙ぎは、樹間を疾駆して向かって来る黒い猛鷲を撃ち落とす。
地面に落ちた黒鷲は、ひくひくと痙攣しながら呻き鳴いた。
その瞬間、狩人の経験が最大限の警告を発する。
突然に表れた頭上からの重圧で、全身の虎毛が逆立つ。
「上だッ! 何かいるぞ!」
見上げた先には大きな樹洞があり、薄闇の内部から巨鳥が這い出して来る。
それは優に人の二倍以上の体高で、鷲や梟や隼にも見えながら、そのどれにも似ていない極彩色の猛禽だ。
黒鷲が森の主を呼んだのか? 木の洞など先程はあっただろうか? そのような些細な疑問は全て吹き飛んでしまう。
「……ノウン」
呻くような声が重なった。
568
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 00:57:22 ID:ffOpzOSk0
(何を求めて来たか、我らと異なる領域を選んだ同胞よ)
大鳥の声は甲高い鳥の鳴き声だったが、その意味は鳥ならぬ闖入者にも伝わる。
精神感応による意志通達、自然の理法を超越した魔法の仕業だ。
これは人語を語っているわけではなく、伝達者の発した意志が受信者の心で母語に変換される。
たから聞く者は言語や知識の多寡に拘わらず、念話の内容を理解できるのだ。
そして、この魔法は一方的に意思を伝えるだけの代物ではない。
ノウンは意識に上ったラアルサンプの心の声をも拾う。
(……赤き死の病を退けるため、この森まで来たか)
(だが、汝らが火雫草の種を奪えば、翌年の火雫草は花を咲かせず、種を実らせない)
(汝らがすべきことは、百鳴の森から火雫草の種を奪うことではなく)
(人の領域で人の摘んだ種を取り戻すことではないのか)
「それは無理だ、ノウン。
火雫草を摘んだものたちは、草も種も列島外に売ってしまったようだからな。
効能を知らないがゆえのこととはいえ、疫病が流行れば街で大勢が死ぬ。
貴方が森の主ならば、我々に採取の許しを貰えないだろうか」
心を暴かれるような精神感応に戸惑いつつ、ラアルサンプは言葉に出して答えた。
(火雫草の種を奪えば、花蜜を吸う陽炎鳥も数を減らす)
陽炎鳥はバハラ島に固有の鳥だ。
火雫草の花蜜は陽炎鳥の餌であり、火雫草も陽炎鳥のみを花粉の媒介に使う。
双方は受粉と吸蜜で互いに依存している関係。
となれば、この森で火雫草の種を奪えば、陽炎鳥も少なからぬ打撃を受ける。
「同属の鳥類たちが減るのは受け入れがたい……ということか」
ラアルサンプは問い掛けるが、ノウンから返って来た意志は同胞意識とは異なるものだ。
(否とよ、万物の均衡こそが真獣の意志)
(守るべきは鳥だけに非ず、真獣の創りし森羅万象)
(だが、人間は木を伐り、土を掘り返しては水を引き、数多の建物を築く)
(そこに百獣は棲まず、千樹万草も茂らない)
「それは、人間が鳥獣と異なる生存の戦略を描いたまで。
家を建てて畑を耕すのは、蟻が塚を築き、栗鼠が樹洞に木の実を蓄えるのと同じことではないか。
いかに聖獣であろうと、人の営みを非難される覚えはない」
(あらゆる生物は己を守り、子を儲ける)
(そのために喰い、争い、奪い、騙し、あるいは共同を行う)
(生物の理を非難はせぬが、街と畑が広がれば獣の天地は減ってゆく)
ノウンは生物間の勢力均衡が崩れることを懸念しているのだ。
それと察し、聖なる鳥と薬師の意思疎通にムディンガオも加わった。
「ノウン、我ら獣人も真獣を祖とする。
ならば、万物の均衡の中には人類も入るはず。
だが、薬師の言う死の病が流行れば、とても調和を保つどころではない。
火雫草の種は陽炎鳥と折半する……という形では駄目だろうか。
陽炎鳥が数を減らすのが問題なら、シュラフニの外で獲らぬように他の狩人へ訴えかけてみるが」
ムディンガオにしては、些か丁寧な語調で語り掛けた。
彼は狩人という獣と関わらないではいられない生業ゆえ、聖獣に対する敬意も厚いのだ。
569
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 01:07:06 ID:ffOpzOSk0
ノウンは眼下の虎人に目を向けた。
(盛んなものは、翳らねばならない)
(陽炎鳥と人間、暃陵へ赴かねばならないのは何方か)
(人間陽と炎鳥、砕けたトゥリズに留まるべきなのは何方か)
「なっ……」
「ム」
ラアルサンプもムディンガオも絶句する。
ノウンは均衡の守護者であり、信条とするのは全ての種族の保持。
だから、彼は個々の生物の生死には頓着しないのだ。
肉食獣が他の獣を食うのも止めず、人類が鳥獣を狩るのも見逃す。
ただし、山猫が絶滅するまで栗鼠を食おうとすれば、山猫を狩って栗鼠を庇護するだろう。
そういった論理の元では、人間を減らすような疫病は猛威を振るった方が望ましいのではないか……?
ラアルサンプは背に冷や汗を流しつつ、交渉のアプローチを変えることにした。
「赤膚病は致死の病。
北方のノルディア大陸では、人口を三分の一まで減らした国もある。
この地に広がり、あちこちで赤い屍が転がれば、薬種を求めて大勢の薬種採りも現れるはずだ。
そうなれば、獣と人の間で大規模な争いが起きるのは必然。
未然に死病の流行を食い止めるのが、結局は均衡を保つことになるのではないか」
脅しにも似た反駁をするが、ノウンの態度に変わった様子はない。
ラアルサンプも焦りながら己の考えを練り直す。
そして、すぐに論理の穴に気付いた。
今、火雫草の効能は自分とムディンガオしか知らないのだ。
政府への不信感から、何も話を通さなかった結果だが……。
これでは、この場で自分たちが口を封じられれば、獣たちを脅かす薬種採りなど現れない。
「薬師、赤膚病に罹るのは人類だけか?」
ムディンガオが唐突に沈黙を破る。
「いや、人も獣も関わりなく平等に死を齎す……」
半分を応えかけたところで、ラアルサンプも同行者の意図を悟った。
ノウンの信条からすれば、希少な種族に致死の疫病が流行れば、癒し手を欲するはずだと。
「ノウン、この森の獣に死の病が蔓延するようなことがあれば、私が治療を行う。
それと引き換えではどうだ?」
新たな交渉材料にノウンも新たな思念を投げかける。
(知と業を差し出すつもりか)
(ならば蛇人の薬師よ、どれ程の対価を欲する)
570
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 01:11:05 ID:ffOpzOSk0
薬師は言葉に詰まった。
必要な薬種の量を定めるのは、生死の選別を行うのに等しい。
個人で軽々しく決められるものではないが、今を逃して再び交渉の機会を持てるとは限らない。
「バハラマルラの人口を考えれば、四百樽分の薬種でも少ないかもしれないが……」
慎重に考えると、ラアルサンプは身振りで樽の大きさを示す。
それだけの量を確保できれば、一人の死者すら出さずに済むかもしれないと考えて。
十万人の都市民に防疫を行うなら、実際にその程度は必要となるだろう。
しかし、精神感応を使う聖獣に過大な見積もりなど通じない。
(それは、狭き枯泉に大海の水を注ぐようなもの)
(お前が望むのは、樽とやらで三つ程のはず)
ノウンはラアルサンプの思考を読み、最低限の防疫に必要と感じた採取量を言い当てる。
精神感応は相手が慎重に考えば考えるほど、論理の過程を全て読むのだ。
「その量では……感染の拡大を阻止できなければ大勢が死ぬ」
(死なない命はない)
(水や風や土すらも死ぬ)
焦りを込めて訴えるが、返答はにべもないものだった。
(盟約は為された)
(陽が落ちるまで、火雫草の種を摘むが良い)
(それ以上留まれば、その身は森の木々へ変わるだろう)
ノウンが警告と共に枝を蹴って飛び上がり、七彩の翼を輝かせながら森の奥へと消えてゆく。
「待ってくれ!」
森の主を呼び止める言葉は虚しく消えた。
残った妖鳥たちは木々の枝に止まったまま、遠巻きに招かれざるものたちの様子を窺う。
彼らはノウンと君臣関係にあるわけではないが、自分より力を持つ存在の意向を尊重する。
だから、彼らも森の主が区切った時刻までは何もしない。
もちろん、それはタイムリミットを過ぎれば己の食欲を優先するということだが……。
つまり、薬種は日没までの僅かな時間で集め終えなければならない。
木々が鬱蒼と生い茂る広大な原生林の内部を彷徨って。
さらには妖鳥ほどの知性を持たない獣たちなら、ノウンの意志と関わりなく襲いかかって来るだろう。
採取の困難さを思い、ラアルサンプは暗澹たる気持ちとなった。
571
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 01:12:28 ID:ffOpzOSk0
「いつまで湿気た顔して、項垂れてンだ。
聖獣から三樽分も採るのを許されたってのによォ。
ホラ、さっさと採って街まで戻るぞ」
ムディンガオは叱咤と共に蛇人の背を叩く。
その表情は、いつものように自信で溢れた不適なものだ。
「どうやって採るつもりだ?
深い森の中に散在する花の種を。
それも継続的に採るのを許されたわけじゃなく、期限は今日の陽が沈むまでのようだ。
これでは一樽分を集めるのすら難しいだろう……」
「薬師サンは、随分と悲観的だな。
なぁに、そう難しいこっちゃアない。
陽炎鳥の巣を見つけられれば、その近くに火雫草もある。
奴らはな、火雫草の近くで営巣すンだよ」
すでに狩人の眼は、樹間の薄闇に飛ぶ陽炎鳥の姿を捕えている。
それも一羽だけではなく、二羽、三羽と。
「巣に戻る奴、餌を探す奴、逃げる奴。
狩人じゃない奴には分からンだろうが、動作や鳴き声の僅かな違いで獣の目的ってのは読み取れる。
まずは巣に戻る陽炎鳥を見つけて追うぞ」
ムディンガオが迷いなく薄暗い林床を歩き始めると、ラアルサンプも意を決したように続く。
「……ああ、そうだな」
572
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 01:16:28 ID:ffOpzOSk0
密林を行く人影は二つ。
広大かつ樹種の豊富な森で、一種の花を探すなど困難を極めるものだ。
しかし、虎人の眼は赤い鳥と赤い花を目敏く見つける。
「よッし、まずは一つ目の群生地だ。
全ては採り切らねェ方が良いかもなァ」
「では、少しだけ残して西の方を巡るとしよう」
幾つかの火雫草の群生地が、招かれざる客を迎えた。
薬種の採取はラアルサンプが担い、ムディンガオは警備担当だ。
縄張りを荒らされることを好まない獣も少なくないので、狩人の警戒は欠かせない。
「チッ」
樹上に目を光らせていたムディンガオが、いきなり手槍を投げた。
ガキンという堅い音がして、林床に槍が落ちる。
「……なんだ!?」
「どうやら、剣猿の群れに出くわしたようだ。
刃のように鋭い、刀葉樹の葉を投げてきやがる猿公どもにな。
アレが首にでも当たりゃア、スパッと落とされるぜ。
ヤツら、虎や熊まで狩っちまうクソッタレだ」
狩人は走り寄って、素早く手槍を回収する。
樹上を見れば、人族の赤ん坊ほどの大きさの黒猿が枝にぶら下がっていた。
異様に長い腕に刀のような形状の長い葉を持ち、侵入者に向けて敵意に満ちた視線を向けている。
剣猿は妖力こそ持たないが、狡猾さと膂力を併せ持ち、樹上から投擲攻撃を繰り出す危険な相手だ
ラアルサンプは新たに投げられた堅い葉を飛び退って躱し、ムディンガオも槍を合わせて弾く。
573
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 01:20:08 ID:ffOpzOSk0
「剣猿は三体のようだ。
ならば、もう投擲出来まい」
気の緩んだ様子のラアルサンプをムディンガオが怒鳴りつけた。
「甘く見てんじゃねェ、馬鹿!
刀葉樹の葉なんざ、樹上に幾つも隠してる!」
言い終わらない間に、僅かに弧を描く刀葉樹の葉が旋回しながらラアルサンプに迫って来る。
「ぐっ……」
横跳びの回避は僅かに遅れ、ラアルサンプは脇腹を斬り裂かれた。
少なくない量の血が噴き出し、湿った林床に滴る。
胴を寸断されずに済んだのは、狩人が警告したからだろう。
「おい、大丈夫か!?」
ムディンガオは即座に手槍を投げ、一匹の剣猿を串刺しにする。
「……死に至る程ではない。
すぐに血止めをすれば、だが」
ラアルサンプの傷の深さは指の第二関節程度。
すぐに死ぬほどではないが、浅手とも言えない。
薬師として血止めくらいは所持しているが、襲われている最中の治療は困難だ。
早急に剣猿の群れを片付けなければならない。
狩人も決着を急ぐ。
彼の主武装は手槍一本だけだが、飛び道具なら他にもあった。
ムディンガオは地面に落ちた刀葉樹の葉柄を握り、剣猿に投げ返す。
「グエェェッ――……!」
血も凍るような甲高い絶鳴の声。
刀のような葉身は剣猿の胴体をすっぱりと斬り裂いていた。
そのままムディンガオは走り抜け、手槍で滑落した剣猿の胸から己の得物を引き抜く。
「猿公、まだやるってのか?」
「キィギィィィッ!」
言葉は通じないはずだが、剣猿は牙を剥いて吠え叫んだ。
森の獣と狩人が、しばしの睨み合いを続ける。
「殺ンのか」
ムディンガオが槍の柄に力を込めた瞬間、剣猿も大きく飛び跳ねる。
ただし、枝葉の生い茂る後方へ向かって。
勝ち目がないと判断してか、最後の一匹は枝を伝って逃げてゆく。
「フー……ま、賢明な判断だな。
時間がありゃア獲物を持って帰れンだが、今日のところは鳥どもの餌か」
虎人は林床に転がる猿の死骸を眺めて、残念そうに呟いた。
574
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 01:24:09 ID:ffOpzOSk0
剣猿の撃退が終わった時、すでにラアルサンプも治療を始めていた。
まずは傷口を水で洗い、小袋から緑の粉末を取り出して手際よく創傷に塗り込む。
次は蛇木の花弁を傷口に貼り付け、流血を封じれば終わりと、極めてシンプルな止血方法だ。
薬草治療は治癒魔法ほどの即効性を持たないが、生命力の高い獣人たちにはこれでも充分である。
そもそも、人型の神の加護は獣人には効き辛く、真獣から授けられる魔法には他者を治癒するものが少ない。
治癒の魔法が存在していても、薬師たちが失職しない理由である。
「手慣れてンな」
ムディンガオは感心したように言う。
どうやら致命傷ではないと判断したようで、顔には心配の素振りもない。
「先程の狩りと同じくらいにはな」
「減らず口を叩ける程度には元気そうじゃアねェか。
毒々しい色の割には、なかなか効く薬のようだなァ」
「この緑の粉末なら毒だ。
適切に量を制御している限りは殺菌作用を持つ薬でもあるが……。
あるいは、聖なる獣たちにとっての種の均衡とは、こういうものなのかも知れないな。
個々の種族は天地にとっての毒であり、薬でもある」
「フン、俺にはどうでもいい話だな。
ところで、首の方は治療しなくていいのか?」
虎人は蛇人の首に目を向ける。
「首?」
ラアルサンプが頭をくねらせて己の身体に痣を探すと、首の腹鱗に鳥の足跡のような痣があった。
奇妙な形の黒い痣は、何度か撫でてみても痛みはない。
「さっきまでは、痣なんかなかったぜ。
枝にでもぶつけたか」
「……いや。
おそらくはノウンの魔法だろう。
盟約の証として刻印を付けたのかも知れない」
一しきり考えたラアルサンプは、あまり自信なさげに結論を口にする。
自身が魔法を使えないので、謎の痣についての確信までは持てないのだ。
「なァるほど。
約定を違えれば、魔法で罰されるって寸法か。
いや、さすがは聖獣、抜かりねェな。
そういや、森の木になるとか何とか言ってたが」
ムディンガオが感心したように独り言ちる。
完全に他人事の口調だ。
何らかの呪いを受けていなくても、妖鳥が一斉に襲い掛かって来れば死ぬのは同じだろうに。
ラアルサンプは護衛の虎人にも同様の痣がないかと探すが、残念ながら虎縞の毛皮には何も変化がなかった。
「私だけか……」
薬種の採取を終えると、二人は火雫草の群生地から立ち去った。
それを待っていたかのように、たちまち何匹もの妖鳥が剣猿の死骸に群がって、まだ温かい血肉を啄む。
屍が原型を失った後は大型の虫類が集い、最後は小さな虫たちによって分解される。
自然界ではありふれた光景だ。
575
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 01:30:12 ID:ffOpzOSk0
薬師は何とか定められた量を集め終えたようで、ずっしりと重い布袋を三つも背に担いでいる。
脇腹は刺すように痛むが、護衛の手を塞ぐわけにもいかないので薬師が持つしかない。
同行者の狩人は油断なく陽炎鳥の営巣地を探し、何度も猛獣を退け、最後まで薬師を護衛する任を果たしていた。
「ラアルサンプ、もういいだろ。
薬種も許された量に近ェし、間もなく夜だ。
何より、ノウンとの約定は違えられん」
「そうだな。
私も妖鳥どもの胃袋には入りたくない」
数多い妖鳥たちは、ずっと侵入者を監視している。
襲撃の刻限に備えて、獲物の力量を計っているのだろう。
背後に無数の視線を感じながら、二人は足早に森の外を目指し、聖獣の領域を出てゆく。
やがて木々の王国を抜けると、西の彼方ではまだ夜に押し潰されそうな残照が輝いていた。
時間切れが訪れる前に危険極まりない世界を抜けられたのだ。
「……ようやく、ヤツらの領域外か。
ノウンさえ来なけりゃ、他の雑魚なんか怖かねェ。
さァてと、これで一先ずは俺の仕事も終わったな。
後はアンタの職分だぜ、薬師さんよ」
ムディンガオは大きく息を吐くと、目測で現在地を割り出して街道へ向かい始める。
無数の妖鳥たちも、森の外側までは出て来ないようだった。
昼であれば空を我が物とする彼らとて、夜目は効かないものも多いのだろうか。
どこか未練がましい鳴き声を響かせるだけで、誰も藍色に塗られた空へは飛び立たない。
ラアルサンプはそれを確認すると、先を行く虎人の後を急ぎ足で追う。
「もちろん、力は尽くすさ。
命に絶対なんてものはないが」
そして、陽が沈む――。
【森の紅玉を求めて・了】
576
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 03:15:49 ID:BM22Ze3w0
おー、ええやん
577
:
名無しさん@避難中
:2017/09/17(日) 21:31:23 ID:lgWRZ1SA0
ムガさん良い奴だな…こういう関係性好き
578
:
シノノメ・アンリエッタ・トランキル
◆fc44hyd5ZI
:2017/09/20(水) 02:38:11 ID:sB7W6Z6I0
ひとまずレスは全部投下出来たけど、テンプレ落とそうと思ったら規制された……
次のターンまでに解除されてるといいなぁ……
以下テンプレ
名前:シノノメ・アンリエッタ・トランキル
年齢:20歳
性別:女
身長:152cm
体重:13kg
スリーサイズ:発展途上
種族:魔族(ナイトドレッサー族)
職業:王宮及び裁判所による判決、宣告の執行者
性格:生真面目だが抑うつ的。自傷癖がある
能力:闇属性の小規模魔法
武器:身体を構成する闇属性エーテル
防具:同上。返り血の目立たない黒色のコート
所持品:薬袋
容姿の特徴・風貌:深い青色の肌。淡い銀色の、短めの髪。金色の瞳。
表情が希薄。
簡単なキャラ解説:
お初にお目にかかります。私の名はシノノメ・アンリエッタ・トランキル。
……トランキル家の次期家長であり、今はキアスムスの、王宮及び裁判所による判決と宣告の執行官を務めております。
つまり……帝国や共和国でいうところの「死刑執行人」であり「拷問官」です。
かの国々では、執行官はどのような扱いを受けているのでしょう。
トランキル家は王宮からは多大な報酬を頂いてはいますが……食料や日用品すら、流れの商人か、旅人を介さなければ買う事も出来ません。
魔族にもヒトにも忌み嫌われる存在……帝国や共和国でも、やはり同じような境遇なのでしょうか。
……祖父は幼い頃、執行官とは規律と正義の番卒。
例えこの世の誰もが我らを蔑み嘲ろうと、誇り高くあれと、私に教えてくれました。
父は、執行官とは罪に対する罰の体現者。
例えこの世の誰もが我らを忌み嫌おうと、ただ厳粛に、残酷であれと、私に教えてくれました。
ですが……裁判所が下す刑罰は魔族であれば軽く、苦痛の少ないものに。
魔族以外の種族であれば重く、また犯罪や体制への反抗の抑止力として、激しい苦痛が伴うものになる。
等しく、殺せば死ぬ命なのに……一方は重く、一方は軽い。
それは正しい事なのでしょうか。正義とは、規律とは、一体なんなのでしょうか。
彼らは本当に、その生の最後を、苦しみに飾られなければならなかったのでしょうか。
……私には正義の番卒になる事も、残酷な死神に徹する事も出来ません。
……私に出来る事は、ただこのダーマに生きるあらゆる種族を、効率的に、或いは非効率的に、殺める事だけ。
ナイトドレッサーは、身体の殆どを闇属性の、半物質化したエーテルによって構成しています。
それを操る事で、私は受刑者を串刺しにする事も、八つ裂きにする事も、全身の骨を打ち砕く事も……どんな処刑法をも可能にします。
私が他者より優れているのは、たったそれだけ。目の前の受刑者を殺める為だけの、小規模で、致命的な、誰の為にもならない魔法……。
私は……ただ命を奪うだけの者です。
拠り所とする正義も決意もない。そのくせ、投げ出す勇気もない。
ただトランキル家に生まれてしまったから……それだけの理由で、私は数多の命を奪ってきました。
……私が、今の私じゃない、もっと違う何かになれる時は……来るのでしょうか。
579
:
【ドラゴンズリング】ティターニア
◆KxUvKv40Yc
:2017/09/20(水) 21:39:52 ID:PiwQmLO60
>578
代行しておいたが二重になってしまった。済まぬな。
580
:
名無しさん@避難中
:2017/11/29(水) 01:48:52 ID:duNaOiRk0
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1144/IMG_20171129_014538~01.jpg
581
:
名無しさん@避難中
:2017/11/29(水) 06:36:58 ID:P3bt/X4g0
あらかわいい
582
:
名無しさん@避難中
:2017/11/30(木) 18:37:15 ID:2hf5UKJk0
>>174
かわいい
583
:
名無しさん@避難中
:2017/12/17(日) 09:07:02 ID:IPKjtgyA0
お題「犬の乳首」
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1152/inu_tikubi.jpg
かぶりつけっ
584
:
名無しさん@避難中
:2017/12/19(火) 23:18:28 ID:QyEPcM8Y0
ふつうにおいしそう
585
:
名無しさん@避難中
:2017/12/20(水) 00:55:56 ID:prxPw1bs0
わろたw
586
:
名無しさん@避難中
:2018/01/09(火) 16:06:44 ID:M2edl7sk0
お題とか、お願いします
587
:
名無しさん@避難中
:2018/01/09(火) 18:25:43 ID:9LGC7Tlg0
ドラリンメンバーでオナシャス
588
:
名無しさん@避難中
:2018/01/24(水) 12:32:03 ID:f.rIB7Z20
「なぜ山に……」と言いかけた途端、電子音がわたしの言葉を遮った。
ピンポンというチャイムの音がけたたましく、そして小さなLEDのランプが灯る。
「ジョージ・マロニー!!」
初めて耳にする名前を聞いて、わたしが言うべき言葉は「正解です」だった。
ガッツポーズで目を細める目の前の少女がなんとも憎たらしい。だって、彼女は私のセリフを止めたのだから。
だけども彼女から言わせれば、わたしのセリフが短くなればなるほど尊敬の眼差しを向けてもらえるので、
もっとわたしのセリフを削ってやると目を輝かせていた。
「ドイツ語で『年……』」
「バウムクーヘン!」
「アマゾン川で……」
「ポロロッカ!」
「『働いたら負け』はニート。では、『動いたらま…』」
「だるまさんが転んだ!」
悔しい。
最後まで言わせろ。
「『動いたら負け』でお馴染みな子供の遊びは?」と。
「やっぱ、聞きやすいっす!黒咲ちゃん!」
「誰もいないの?ここ」
「それを言わないで!」
「問題。どうしてこの部には人がいないのでしょう!」
ボタンを手にかていた彼女はすっと手を引いた。
「出題者になってくれない?だって、演劇部だし、セリフとか上手いでしょ?」
そんな理由で、わたしが召還されたのだ。使い主は「クイズ研究会」の藤居ちゃん。
早押しクイズの練習の為に、わたしがクイ研の部室まで呼び出されたのだ。
声を褒めてくれるのは嬉しいけど、与えられたセリフをまっとう出来ないのは、役を演じる者として不満だ。
演劇に身を投じるものは、役柄が重要、重要でないに関わらず出番が多い方が良いと決まってる。
しかし、一秒でも早く、誰よりも正確に答ることに拘る藤居ちゃんだ。
「さ。早く次の問題!」と、わたしを急かす。
大学ノートに藤居ちゃんの文字でびっしりと書き込まれた『ベタ問集』を捲る。彼女が独自に作成し
早押しクイズの練習に使用している問題集だ。何度も何度も繰り返して問題文を暗記し即答を目指す。
そうはさせじ。わたしだって出題者の意地がある。
演劇部の者って必ずしもではないが、少なからず支配欲があるのではないのかと思う。舞台の上に立つと
全ての観客の視線を集めたいし、上演後だって自分自身の演技の賞賛を誰かから期待するからだ。
だから、クイズの出題者となるのは良いが注目が回答者に注がれることが忸怩たる思いなのだ。
出題者は司会者だ。会を司る者だ。次の問題こそ、わたしに光を。
「問題です」
589
:
名無しさん@避難中
:2018/01/24(水) 12:32:41 ID:f.rIB7Z20
藤居ちゃんが軽くボタンを握る。センサーが反応するぎりぎりまでボタンを押し込む。
コンマのタイムロスを軽減させるためだ。
「アニメ『イナズマイレブン、ゴ……』」
「千宮路大和!!」
ボタンを片手で弾く彼女の叫びにも似た回答。早押しブザーの音さえも遠慮気味にわたしの耳に届かない。
果たして、その答えは。
「正解……です」
問題文は「アニメ『イナズマイレブンGO』に登場するサッカーチーム『ドラゴンリンク』のメンバーで
『ご』と読める漢字が付かないのは誰?」だ。
藤居ちゃんの守備範囲は広い。どこでこういう情報を仕入れ、研究をしているのだろうかと尋ねてみたい。
「いやー、良問だね!」と、藤居さんは手を叩くが、わたしにはさっぱりだ。
「どうして分かったんですか?」と、バカな振りをして聞いてみる。
「まず一つ、出題のアクセントがね、『イナズマイレブン』に無かったから。二つ目、無印でなく『GO』を
問う問題だと分かったから。さらに三つ目、『GO』と言えば『ドラゴンリンク』、さらにさらに
その中で最も特徴的なものといえば「『ご』と読める漢字が付かないのは誰?」だし」
わたしは思わず「分かりませんっ」と音をあげる。
さらに藤居ちゃんは続ける。
「一つ目のね、『イナズマイレブンGO』にアクセントがあるのなら、『ドラゴンリンク』が正解と予測
出来るんだけど、黒咲さんはそこにアクセントをつけなかった。ならば、その先を問う問題だと感じてね」
藤居ちゃんの高笑いが響くクイ研部室。二人っきりの部屋は薄寒かった。
帰り際、わたしは演劇部部室に寄ってみた。なんとなく落ち着くからだ。
部室には部長の迫先輩は一人で本を読んでいた。いつもは隙が無い迫先輩なのだが、このときばかりは
何もかも神経を堕落させ、好きな本に没頭していることが分かる。
迫先輩は演劇部の部長を務めるだけあって、冷静沈着でクレバーなメガネ男子だ。
だからこそ、そんな男子がイジクリコンニャクにされてしまうような脚本があってもいいじゃないか。
最終問題で「得点は三倍になります!」「聞いてないよ!」のでんぐり返し。
わたしはちょっと舌を出してみる。
「迫先輩!」
声をかけても返答なし。本物だ。
そして、わたしの中に潜在する支配欲が覚醒した。
「迫先輩!問題です!」
「は?」
「アニメ『イナズマイレブンGO』に登場するサッカーチーム『ドラゴンリンク』のメンバーで
『ご』と読める漢字が付かないのは誰?」
制限時間十秒。三、二、いち。
「正解は『千宮路大和』でした!」
ハトマメの顔をした迫先輩は、非常に愉快に感じる。
「なんだ?いきなり」
そうです。クイズとはいきなりやってくる。人生はクイズの連続だ。
「問題です。ドイツ語で『年輪』という意味の名を持つお菓子は?」
「うっ」
「三、ニ、いち。ブー。正解は『バウムクーヘン』です」
「問題です。アマゾン川で年に一度、河口から流れが逆流する現象は?」
「えっと……聞いたことあるぞ。ポ」
「ブー。タイムアップ。ポロロッカです」
気持ちがいい。
博打の胴元になって、全員掛け金没収!そんな展開のようだ。
立場は逆かもしれないが、クイ研の藤居ちゃんの気持ちがほんのちょっと分かった気がする。
さて、メガネを白黒させている迫先輩にファイナルアタック。
「問題です。『なぜ山に登るのか』の問いに『そこに山があるからだ』と答えたイギリスの登山家は?」
「……は?さっぱり」
どうだ。ふふっ。わたしは人差し指を突き出して「ジョージ・マロニー」と正解を告げた。
迫先輩、敗者の弁を。
「イギリス人が日本語使うか」
おしまい。
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