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【シェアード】仁科学園校舎裏【スクールライフ】

427名無しさん@避難中:2014/06/21(土) 17:44:02 ID:WQR2iXWw0
役職 とり

おかしいだろwwwww

428サードアイ[1]:2014/06/29(日) 21:43:58 ID:qPkswdB60

 人は生まれながらに、ある程度「果たす役割」が決まっていると思っている。
 大学に行くべき奴は大学に行き、そこで何かを見つけて、就職する。
 オレはそうじゃないから、進学しないで就職する。

 何も目的のない奴が「とりあえず」大学に行ったって、カネと時間の無駄だと思う。
 いま、この時点で自分の役割を見いだせないなら、どこへ行っても見つからないし、何者にも成れない。

429サードアイ[1]:2014/06/29(日) 21:45:25 ID:qPkswdB60

 オレに選べる選択肢は少ない。
 目の問題があるからだ。

 いつかは分からないけれど、今よりも視力が落ちることは確実で、そうなったら世の中の多くの仕事に就くことが出来なくなるだろう。
だから今のうちから、そうなっても出来る職を探しておく必要がある。

 つまり、その職がオレの“役割“ってわけだ。

 ってのも、言い訳かもしれない。
自分で選ぶってのが面倒、と言うのはある。逃れられない状況に自分を追い込むために、目のせいにしているのかも知れない。

……まあ、そんなことはどうでもいいけどな。



☆ ☆ ☆

430サードアイ[1]:2014/06/29(日) 21:46:57 ID:qPkswdB60

 ドアがノックされた。控えめに、小さな音。iPodで音楽を聴いてたりしたら、絶対聴こえない。
 続いて、おふくろの声。

「マサヤ」
「なに?」
 ドアを開けずに、声だけで応じる。開けたところで一緒だからだ。

「母さん、ちょっと頭痛いから横になるけど……ミカミさんが肉じゃが作ってくれてるから、晩ご飯はそれ食べなさいね」

 ミカミさんってのは、ウチのお手伝いさんだ。オレが小さい頃からこの家に勤めているから、ほとんど親戚みたいなもんだ。

「ああ」

 オレは返事をして、おふくろの気配が遠のくのを待ってから、机の引き出しをそっと開け、“例のアレ”を取り出した。




  ☆ ☆ ☆

431サードアイ[1]:2014/06/29(日) 21:51:26 ID:qPkswdB60

 走るバスの窓から道路を見下ろす。
 夜8時を回った頃で、中途半端に田舎なこの街で、片側2車線の道路は走る車もまばらだ。

 白のレクサスが、バスに並んだ。並走するかたちでしばらく進む。逆輸入車だろう、左ハンドルだ。
オレはいつもバスの後方左側に座るから、レクサスの右側、助手席がよく見える。

 そう、よく見えるんだ。
助手席の女の、胸元の谷間が。
眺めているうち、女が視線を上げた。

――なんだ、キクタニか。

 クラスの女子。おとなしめの優等生。
同じクラスの、数学がよくできるいけ好かない野郎と付き合ってたはずだ。

 それが派手めなメイクと胸元の開いた服で、レクサスの助手席に収まっている。当然、運転手は別の男だ。
親や兄弟でないことはハッキリ分かる。それなら、あんな露出の多い服は着ない。

 キクタニは、オレと目が合った瞬間、はっとした表情をして目を逸らした。

――ヨロシクやれよ。

 オレはスポーツ新聞のエロ記事を読み耽るオヤジみたいな表情をしていただろう。
おもいっきり下品な笑顔を浮かべて、バスの中から手を振った。

 キクタニは、もうオレの方を見なかった。



☆ ☆ ☆

432サードアイ[1]:2014/06/29(日) 21:53:43 ID:qPkswdB60

 どうしてオレの目は、見なくてもいいものばっかり見ちまうんだろうな。
 視力は良いほうじゃない、むしろ徐々に悪くなっている。

 それでも、なぜか「そっちを見てみようか」と思うでもなしに目を向けた先に、見なくてもいいもの、見ちゃいけなかったものがある。
 キモいものとかグロいものとか、クラスメイトの醜い一面とか。

 もう、そういうのにも動じなくなった。何を見ようと何が起ころうと、驚かない。
 所詮この世の中はクソッタレだ。こんな世の中、いつおさらばしたって構わない。


.

433名無しさん@避難中:2014/06/29(日) 21:54:24 ID:qPkswdB60
↑以上で

434名無しさん@避難中:2014/07/01(火) 21:49:54 ID:BItiR7s20
オラクル、ストップときて、アイとは。
あったあったこんな時期w
若さゆえの鬱屈・・・そういうものを描くのが抜群にうまいよね。

435名無しさん@避難中:2014/07/02(水) 22:51:44 ID:TSPlDdiU0
そろそろまとめwikiどうにかしようと思うんだけど
あれ?ワンオラクルってこれまで入ってなかったん?
割とマジで驚いたんだがw

いや俺も二回くらい更新した記憶があるはずなのにな。
避難所ばっかり見てたから・・・?それで新スレに移行してて・・・とか?
でも日付的に避難所より早いから、俺がまとめに手を出してなかった時期のか?
謎だけどなんか悪かった。

でさ、3スレ目
265 :荵にわんわん ◆TC02kfS2Q2 :2010/07/23(金) 18:42:56 ID:jbWOBdc0
の直後にワンオラクル一回目の投下があった。
「荵にわんわん」がまとめでは投下順「078」になっているから
267 : ◆BY8IRunOLE :2010/07/29(木) 20:30:05 ID:gJp5lFDs ←ワンオラクル一回目の投下
これが事実上「079」になるんだよね。


つーわけでアンケってわけじゃないけど一応独断じゃないよってポーズのために

・投下順でやり直すと現行からズレるんだけど、もうこの際だからきっちりやってズラしていい?
・シリーズごとにタグを付けてみてはとか、そういう案をチラ聞きしたけどどうだろう?

436名無しさん@避難中:2014/07/03(木) 06:38:15 ID:GSYke9g20
いいよん。でもまとめられてない物のログを持ってないし順番も把握し切れてないから俺ちょっと無理w

437名無しさん@避難中:2014/07/03(木) 18:17:38 ID:bLWlRPE60
そっちは俺がやるから大丈夫。
案があれば考えておいて!(?)

438名無しさん@避難中:2014/07/04(金) 23:45:17 ID:2oloz4p60
いかんな脳細胞死んでる・・・
このスレがなかったころ、最初期って避難所のどこで雑談してたんだっけ?
覚えてる人いない?

439名無しさん@避難中:2014/07/04(金) 23:58:59 ID:2oloz4p60
ごめん、避難所じゃなくて独立してたんだっけ?
もう全然覚えてないけど、そんなレスを発見。

これで「仁科学園名場面セレクション」の1は幻になってしまったってことか
誰か保存して・・・ないかな

440名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 12:42:34 ID:/cR3w2d.0
まとめwikiのSSページだけ作るだけ作って投下順に追加。

投下順の順序を1レス目完全時系列に修正。

小ネタ集追加。

リンクとかは全然貼ってないし、順序変えた分今混線してる。

作者別・人物紹介もとりあえずは放置。
作者別はそんな手間じゃないからまた適当にやる。

あと絵は把握しきれん。申し訳ないけどこれも放置。
作者さんが「これまとめてよ」って用意してくれたら喜んでやるけど、
わりと途方もない作業っぽいので展望が開けるまでは動きたくないw

サードアイは今空白。完成したら呼んでおくれ。
ダブストもこれは一区切りしているのかちょっと判断つかんけど、投下があれば続きに追加するから安心してほしい。
ワンオラクルはどうも空白のページだけは既に作られていたらしくて、それでまとめられていると思ったみたい。終わりのタイミングがはっきりしなかったしな。
まあ収録できてよかったよかった。



ここまでモレがあったら指摘よろしく。

レスタイトル行を削除する過程でもしかしたら本文間違えて消しちゃってるかもしれんので
自分の作品だけでも確認しておいてくれな。

誤字脱字、改行、場面転換符の統一とかは例によってセルフなので作者様でどうぞ。
頼んでくれたら俺やるけど、たぶん自分でやった方が早いw

441名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 13:10:30 ID:/cR3w2d.0
ここからが問題なんだけど
初見にも見やすくするとか
新規が入りやすくなるとかそういう方向でなんかないかな?

個人的には、作者別まとめページとか仕様がちょっと手間に感じるのでどうにかしたいところ。

442名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 16:20:18 ID:3vmezeAA0
>>440
乙でした!

本編(作者順)ページでいちいち+ボタンクリックしないと作品一覧が出ないのが辛いので
そうじゃなくなるだけでもだいぶありがたいかなー
最上部に作者名リンクをずらっと並べてページ内リンクで各作者の作品一覧に飛べるようになると
個人的にとても見やすくなると思う

443名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 20:31:23 ID:/cR3w2d.0
・作者別作品一覧の作成
これは俺も思ってた。

作品同士のリンクはどうしよう。
投下順リンクって意味あんのかな。
いやまあシェアだから全然違う人が一人のキャラを積み上げていくわけで
同じ作者のだけリンクさせても・・・というのは分かるが、ぶっちゃけ使うか?あれ

444名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 20:54:23 ID:koqSOnG60
作者別でいいと思うよ。あんまりやると複雑すぎてあばばばばっばになる気がする。相関図くらいでいいかとw

445名無しさん@避難中:2014/07/06(日) 00:30:56 ID:ltq/e6sI0
俺ガラケーだから分からんのだが、スマホで使う分に不便はない?


相関図の強化もありだな。
大昔にもしたっけこんな話w
人物紹介の改変とか、紹介SSとか。


作者別リンク追加は暫定的に決定で。
投下順リンクは残すべきか、いっそ消すべきか。
関係の深い項目やSSにもリンク貼るってのもありかもしれない。

446名無しさん@避難中:2014/07/06(日) 14:52:13 ID:c2.8uGB.0
・作者別まとめ(実験版)追加
・作者別ページ追加
・トップページに新着5件のSSリンクを追加

作者別まとめのフォーマットはざっと案を出してみたので叩き台にしてくれ。
細かい字の大きさとかはどうとでもなるから後でいい。
リンク先に作者別ページがあることも念頭に置きつつ、どういう情報が欲しいかって話。

447名無しさん@避難中:2014/07/06(日) 18:12:33 ID:nDVVRX/E0
案2か9が好みだな

448名無しさん@避難中:2014/07/06(日) 22:53:14 ID:4fGHgheA0
>>435
wikiまとめありがとうございます。手間がかかるのに、申し訳ありません

当時は、あまりにもスレの雰囲気に合わなすぎる駄文なので収録しないでいただければと思っていましたが、
今となっては読んで下さっている方もいらっしゃるようなので、ありがたい限りです
感謝しております



449サードアイ[2]:2014/07/06(日) 22:56:17 ID:4fGHgheA0
.
 百円ショップで伊達メガネを見つけた。
 コスプレに使うのか、時代遅れの円いレンズの銀縁メガネだ。

――とりあえず、これでもかけとくか。

 視力は悪いけれど、眼鏡を作る気は無い。
ただのシャレだ。
 オレはそれを買った。明日学校でどんな反応が来るか、楽しみだった。




「そう言えばさ」

話しかけられ、面倒なので顔は向けず返事だけする。
「ん」

「お前、兄弟とか居たっけ?」
「いねーよ。オレ一人っ子」

気まずそうに黙ったのが分かる。
別にいいのに。サイトウは気を回し過ぎるんだ。こういう時はさっさと水を向けて流すに限る。
「それがどうかした?」

「……」
「んだよ、聞き逃げかよ」
「……あのさ。たとえば、自分の考えが、相手を越しちゃってるって気づいちゃったら……どうするかな、って思って」

「……?」

意味が分かんねえ。こいつは時々、こういうふうだ。

「越しちゃってる、てのは、なんつうのかな、考えてる深さが違うっていうか……」
「……」
「悪い、ヘンな話しちゃったな」

「あるよ」
一旦は目を伏せたサイトウが、はっと顔を上げてオレを見る。

「お前が言ってるのとは違うかも知んねーけどさ。オヤジとかと言い合ってて、ふと
『ああ、コイツにはこれ以上言っても無駄だわ』 って思う瞬間がある」

「……」

「なんか、違ったか?」
「……」

「おい」
「……あっ、ゴメン。なんでもないんだ」



……変な奴。今更だけど。

450サードアイ[2]:2014/07/06(日) 22:59:33 ID:4fGHgheA0
.
 サイトウは、変なことを脈絡なく聞いてくる奴だ。

 兄弟か……。あいつのトコは、たしか妹がひとり。あいつは「上の立場」だ。
オレはいわゆる「上の立場」になったことはない。一生なることはない。

 この、「長男だから」だの「一人っ子だから」だのの、レッテル貼りが大嫌いだ。
 それで人を把握しようとする連中にはうんざりする。

 だからオレは、敢えて「一人っ子」と自分から言うことにしてる。

 一人っ子だからどうだって言うんだ。わがまま? 一人行動が好き? 競争心がない? リーダーシップに欠ける?
 ……んなの、兄弟が居ようが居まいが、身につけてる奴は身につけてるし、ダメな奴はダメなんだ。
 血液型占いと同じで、根拠は無いのにみんな取り敢えず信じて話をしている。


 サイトウは、どういうつもりでそんな質問をしたんだ?

 まあ、あいつは何考えてるかよく分かんねえ奴だから、とくに深い意味もないかも知れないけどな。

451サードアイ[2]:2014/07/06(日) 23:02:42 ID:4fGHgheA0
.
 玄関を開けて、外にでる。
 まだ2月だ、夜は冷え込む。机の引き出しから取り出した“例のアレ”――つまりタバコだ――に火を点けて、ゆっくり吸い込む。

 たぶん、部屋で吸ってもおふくろは何も言わないだろう。オヤジはいい顔しないだろうが、それでもオレに強く言ってくることはない。
 でもオレは部屋では吸わないことにしている。なぜかって? ニオイがつくのが嫌だから。


 目が悪い代わりに、鼻はよく利く。クラスの女の、シャンプーの銘柄も生理のタイミングも、バッチリ分かる。
でも、だからどうだって言うんだ? 指摘したことは一度もない。無意味なことだから。


 バスで目が合った翌日、学校でキクタニに会ったらあいつ、しれっとしてやがった。
にこやかに、「タカハシくん、おはよう」だと。

――おはようキクタニ、昨夜は何時に帰った? 制服持って行って、そのままレクサスでご登校?

 もちろんそんなこと言うわけない、言ったところで無意味だ。


.

452名無しさん@避難中:2014/07/06(日) 23:08:04 ID:4fGHgheA0
↑ここまでで

453名無しさん@避難中:2014/07/07(月) 21:26:42 ID:IXKrkuZg0
こいつらタバコ大好きだなw

454名無しさん@避難中:2014/07/07(月) 22:13:04 ID:rlwCYMxw0
>>449
毎度、毎度…えぐる文章。そんな時代もあったよねと〜
時代っていうか、心理描写がすげー…その才能、ください!

>>426
からすまりんはレアキャラじゃないよ!!!
投下するなら、今しかねー!
七夕だねっ

http://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/835/karassuma01.jpg

455名無しさん@避難中:2014/07/08(火) 09:20:10 ID:6jvM8N4o0
どんだけ目立ちたいんだwwwww

456名無しさん@避難中:2014/07/10(木) 22:20:48 ID:eRMO9ixo0
懐のマッシブさw

457サードアイ[3]:2014/07/13(日) 21:43:38 ID:Z2YcY/eU0
.
 黒板の文字はろくに見えねえし、真面目に板書を写す気などハナっから無い。話を(いちおう)聞きながら
教科書を(いちおう)眺め、自分で勝手にノートを作る。作るというか、メモるというか。
問題を板書されたら、後ろか隣のやつに見せてもらう。それでどうにかやってこれている。


この学校は、基本的にみんな真面目だ。不真面目なのもいるが、迷惑を被るまではいかない。
けれど、水面下での嫌がらせみてえなのは、どこにでも存在するようだ。まあつまり、バスケ部の連中だがな。

っても、一部だ。気の良いやつもいる。



 次期部長のオガサワラは1年の時一緒のクラスだったこともあって、今でもオレによく話しかけてくる。
頭の回転が速いやつで、成績も良い。オレがバスケ部に戻る気が無いと知っていて、その話題は出さない。
部の一部のバカな連中に対する愚痴を言ってくる。オレはただ聞いているだけで、たまに皮肉を返すとあいつも喜んで乗ってくる。

 オレを一方的に敵視しているのは、結局ベンチに甘んじるしか無い連中だ。誰がどの程度の実力なのかは、
1年の時にだいたい分かってる。オガサワラから聞いているから、後輩にポジションを奪われた話だって知っている。


 それをオレにぶつけるな。テメーの失地はテメーで取り返せ、さもなくば別の場所を探せ。

 小せえやつらだ。

.

458サードアイ[3]:2014/07/13(日) 22:05:18 ID:Z2YcY/eU0

  中学の時のことがあったので、高校では部活には入らないことに決めていた。
だが1年の時、オレは見慣れないやつに声をかけられた。

「タカハシ マサヤ、だったよな。バスケ部、入るか?」
「はぁ?」

 オレは見覚えがない。後から聞いた話だが、オガサワラはオレの中学と対戦していて、オレのことを覚えていたようだ。

「オレは入らねえよ」

「他に入る部を決めてるのか?」

「ああ。帰宅部に決めてる」

「そっか、もったいないな。じゃあ、こうしよう。頼む、お願いだからバスケ部に入ってくれ。幽霊部員でいいからさ」

 オガサワラが、なんでそんなにオレを誘ったのか、未だに分からない。
オレは結局バスケ部に入り、1年足らずで辞めることになったし、そのことについてオガサワラはオレを責めない。
たまに、「無理言って済まなかったな」程度のことは言われるが、オレも気にしていないので、はっきり言ってどうでもいい。



☆   ☆         ☆



 部活を辞めるだの何だのってのは、高校生にとっちゃ最大の悩みどころなのかもな。
もしかすると自分の高校生活すべてを左右するかも知れねえし、色恋と違って他人が面白がれる要素が無いもんな。
 しかも、進路選択ほど深刻じゃない。世間的には“たかが部活”、けど当事者にとっちゃ“されど部活”だ。


 バスケ部に入部してしばらくしたら、1年生がなんとなく2つのグループに分かれた。オレは特にグループの中心人物ってわけじゃなかったが、
1年の時から試合に出ていたのはオガサワラとオレくらいだった。

 それが連中の気に入らないところだったのかもしれない。オレと親しくしていたやつらは2年になってからほとんどが辞め、もう一つのグループが
今も部に残っている。つまり、オレに敵対している連中というわけだ。
 オレはさして悩まなかったが、辞めていくやつはみんな真剣に悩んでいた。部活を辞めても、その部活にいた連中は同じ学内にいるし、
どこでも会うわけだからな。

相談を受けるたび、オレは繰り返す。

――辞めるこたねえだろ。無視してりゃいいんだよ。

その答えも決まっている。

――お前はそうだろうけどな。あんなやつらと3年間一緒に部活したくねえし。


 この世の中には、どーでもいいシガラミが多すぎやしねえか。それに縛られて、しなくてもいい苦労をしているやつも多すぎる。

――好きに生きたらいいじゃねえか。

 計画性がないだの不真面目だの、そんなのは他人が勝手につけるレッテルでしか無い。
手前できっちり責任背負って生きていけば、それでいいんじゃねえの?



☆   ☆         ☆

459サードアイ[3]:2014/07/13(日) 22:09:43 ID:Z2YcY/eU0
.


 帰り際、何の気なしに階段の向こうを見やる。
 サイトウが、女子と歩いているのが見えた。あれはナギサワだな。

 ――へえ。やるじゃん。

 ネタにしてやろうと思ったが、すぐ別のことが思い浮かんだ。


 ナギサワは、どっちかといえば控えめの目立たない女子だ。表面上は。
多分だが、ヤクザと関わりがある家の娘っぽい。それも、かなり深い関係の。脅されているとか、そういう一方的な感じでもない。


 オレが探偵みたいに探ったわけじゃない。たまたま見かけた、もとい“聞こえた”だけだ。
ナギサワが、若いチンピラをなじっているところ。それも、2回。チンピラの方は俯いて、恐縮しきっているふうだった。
 フツーの女子高生がチンピラをなじれるわけがない。力関係は明らかにナギサワのほうが上だった。


 サイトウのやつ、それを知ってるのか? まあ、知らないだろうな。
ナギサワは女子の間でも、学校の誰にも秘密にしていることだろう。

 オレもそんなことを忠告する気もない。だって、そのほうが面白そうだもんな。  


.

460名無しさん@避難中:2014/07/13(日) 22:16:52 ID:Z2YcY/eU0
↑ここまでで

461名無しさん@避難中:2014/07/13(日) 23:51:19 ID:cOWVKvc20
くずっぽい話になって来たなw
いいぞいいぞ!

462サードアイ[4]:2014/07/20(日) 21:25:51 ID:rm/MS4KU0

 隠してある原付のところまで行くと、数人がたむろしていた。
 見るからに頭の悪そうな連中だ。オレの原付に跨がり、ぎゃははは笑いながらダベっている。

 オレはスマホのムービーをオンにして、ブレザーの胸の内ポケットに入れた。

 連中はオレに気づき、これ見よがしに原付に跨ったままだ。


「それ、オレのなんだけど」


 言ってみるが、連中、当然無視。まあ、予想範囲内。
制服に開けた穴から覗くカメラが全員をまんべんなく映すように、体の向きを巡らす。

「人のモノの上に乗っかって、サル山のボスってか。サルはサルらしく、マスかいて満足か?」

 跨っていたやつがオレを睨み、鼻で嘲笑う。

「あのさぁ、タカハシくんよお」

 しゃがんでいたやつも立ち上がり、オレを囲む。

――4人か。学校に行ってない“センパイ”らしきのもいるな。

「群れなきゃ何もできねえってのも、まさにサルだな。あっ、サルに失礼か」

こっちも嘲笑ってみせる。だって、こいつらバカ過ぎて嘲笑うしかない。


 胸ぐらを掴まれ、頭突きが来る。
それも想定内。デコの一番硬い部分、サッカーでヘディングするところで受ける。

「…・・・痛ってえ。いきなり頭突きかよ」

 大げさに言い、胸元をそいつの面に向ける。

――正当防衛、成立。

 目の前の茶髪の膝を前蹴りし、すかさずみぞおちに拳を入れる。

「やんのか、コイツ」

 取り巻きがオレを引っ掴んで――


.

463サードアイ[4]:2014/07/20(日) 21:31:56 ID:rm/MS4KU0
.

 そこまで想像して、やめた。

――アホらし。厨房じゃあるまいし。

 様子を見ていた近所の住人が、人を呼んだようだった。
連中は周りを気にしながら、オレに悪態をついて去っていった。
 もちろん、オレの原付は倒されて足蹴にされ、あげくツバを吐きかけられた。

――まあ、いい。しょせん道具だし、戻ってきて今までどおり使えれば何の問題もない。



          ☆ ☆ ☆



――ちっ。面倒なことになったぜ。

 よりによって、おふくろを病院に送っていく日だ。帰ったらタクシーを呼んで、同乗して病院まで行って……
うんざりする。どう誤魔化そうか。



 中学の時だ。

 インネンつけてきた奴を殴って、そいつの取り巻きに囲まれて、ボコボコにされた。
 同じバスケ部のやつだった。そいつは、そのあと部を辞めて、ろくでもない連中とつるむようになっていた。


 よく、“スポーツで健全な精神を!” 的な標語を見かけるが、よくもそんな嘘っぱちを堂々と言えるもんだと思う。
スポーツやってようが、下衆なやつはいるもんだ。逆に、文化系でもちゃんとしたのはいる。

 そいつらは、“下衆な連中”だったわけだ。オレがSGになって、それまでSGだったそいつが控えに回った。

 ただ、それだけのことだ。

 それだけのことで、帰り道に待ち伏せされ、囲まれた。連中いわく、オレは「調子に乗っている」らしい。
 だから何だ? オレもイラッときたので、殴り合いになった。と言っても、オレが殴れたのは初めの1発だけで、
あとはヤラれる一方だったんだけどな。

464サードアイ[4]:2014/07/20(日) 21:38:10 ID:rm/MS4KU0

 汚れたワイシャツと鼻血が乾いた鼻の下を惨めに思いながら、「ただいま」と言って玄関を通過した。

 おかえりなさい、いつものおふくろの声。その後すぐに、

「……マサヤ。どうしたの」

 声が硬くこわばっていた。

「は? 何でも無えよ」

「嘘言いなさい!」

きつい口調で問い詰められた。


「血が出てるじゃない……!」

 居間から出てきたおふくろの顔は、血の気が引いて真っ青だった。



 あの時は、なんで分かったのか不思議だった。多分、血の匂いでバレたのだと思った。
すぐにミカミさんが飛んできて、オレの惨状を報告し、顔にマキロンを塗りたくられ、カットバンやらガーゼやらを
貼りまくられることになった。

 その大げさなくらいの手当てを鬱陶しく思いながら、外での揉め事は極力避けようと心に決めたのだ。



 当時はそんなふうに思っていたんだが、今考え直すと、おふくろが勘づいたのはきっと血の匂いだけじゃなかったんだろう。
オレの普段と違う声のトーンとか、そういうものをかなり敏感に感じ取る。

 おふくろに嘘をつくのは至難の業だ。

 だから、悩んだ。
さっきのこと、どうやっておふくろに感づかれないようにしたらいいんだ?



   ☆    ☆    ☆


.

465サードアイ[4]:2014/07/20(日) 21:42:53 ID:rm/MS4KU0

 病院の待合室というのは、退屈だ。

 診察が終わるまでの間、オレはボーっと過ごすことになる。テレビはくだらないワイドショーを流しているし、
週刊誌を読もうって気にもならない。

 もっとも、眼がおかしくなるから読みたくない。同じ理由で携帯ゲーム機のたぐいは持っていない。


 
 一緒に診察を受けたらどうかと、最近特によく言われる。一度も応じたことはない。受けたってどうにもならない。

 おふくろは定期的に診察を受けている。ほとんど失明している眼を診察することにどういう意味があるのか、オレには分からない。

 遺伝的なものだと聞いている。オレもいずれそうなるだろう。だったら、診察したって無意味だ。



 診察ブースからおふくろが出てきた。若い女性医師が寄り添っている。

「どうも、お世話になりました」
「お気をつけて」

女性医師はやわらかく笑いながら答えていた。

 近づいていくオレに、先に反応するのはおふくろのほうだ。

「マサヤ、おまたせ」

女医もオレを見る。
「こんにちは!」

 なかなかの美人だ。すらっとして背が高く、眼鏡がよく似合っている。
目の下の隈とストッキングの伝線がなけりゃ、最高だったのにな。

「こんちは」
軽く頭を下げると、おふくろの手を引いてさっさと退却した。

466サードアイ[4]:2014/07/20(日) 21:51:52 ID:rm/MS4KU0

 帰りのタクシー車内で、おふくろがポツリと言った。
「ナツメ先生は、とっても良い先生なの。気づかいが濃やかだし、専門的な話も分かりやすいし」

「ふーん」

 適当に流す。
 言いたいことは分かってる。

「だからね、」
「オレ、受けねえよ。診察」



「何の意味があるんだよ。目が良くなるってんなら受けるけどさ。どうもならねえんだろ」

「どうもならないことはないわよ。悪くなるのを遅らせるのだって……」

「つまり、治らないってことだろ。だったら無駄じゃん」



「……あなたには、選べる将来を狭めて欲しくない。世の中には治らない病気の方が多いんだし、その中でも出来ることを見つけて、
充実した日々を生きている人だっているのよ」

「じゃあ、オレはそうじゃない方の人間だってことだよ。もうその話はしないでくれ」


――だから嫌なんだよ、この役目。


 決まってこの話になる。病院じゃ本人確認とか言って、家族でないと付き添いとして認められない。
オヤジがやりゃあいいのに、おふくろがそれを拒む。お父さんは仕事があるんだから、だとよ。

 仕事ってのは、そんなに大事なのか? 
しょせん、食っていくための手段に過ぎねえじゃねえか。

 だったらオレも言ってやるよ、「部活があるから」。
辞めたけどな。


.

467名無しさん@避難中:2014/07/20(日) 21:53:19 ID:rm/MS4KU0
↑以上で

468名無しさん@避難中:2014/07/21(月) 18:36:46 ID:RBowWzgg0
読み込む度に胸がえぐられるな 。
そんな時代もあったねと。

469名無しさん@避難中:2014/07/23(水) 21:41:39 ID:R6NhT1po0
世間では夏休み?
うそだろー?
まだ梅雨も明けてな・・・あれ?

470名無しさん@避難中:2014/07/24(木) 12:35:00 ID:ObiBpY/o0
和穂「そーらを自由に飛びたいな」

471名無しさん@避難中:2014/07/24(木) 12:52:44 ID:REJSvJYo0
懐「はい、ジャイアントスイング!!」

先崎「やめろ」

472サードアイ[5]:2014/07/26(土) 21:24:46 ID:g7CQSGPo0

 図書館で調べ物がある、というサイトウと別れ、真っ直ぐ帰る気にもならなかったので、オレは放課後の校舎を
適当にぶらついてから帰ることにした。
 生徒数の多いマンモス校だ。2年近く居ることになるが、いまだに行ったことのない場所が多い。


 前を歩く女子生徒。ナギサワだ。
 音楽準備室を開け、中に入っていく。

――? あいつ、帰宅部じゃなかったっけ。

 長い廊下をのったり歩いていると、程なくコントラバスの音が聴こえ始めた。

 この学校にはオーケストラ部もあったはずだが、それには入ってなかったと思う。

――勝手な自主練か?

ヤクザとの絡みといい、いろいろと謎な行動の多いやつだと思う。


 音楽準備室を通り過ぎ、階段を降りる。

 階段を登ってくる足音が聞こえた。
聞き覚えのある音だ。オレは足を止め、そっと引き返して廊下の曲がり角の陰に引っ込んだ。


 しばらくして現れたのはサイトウだ。
図書館はこの棟には無い。あるのは音楽室と音楽準備室、その上の階に進路指導室と資料室だ。

 サイトウはゆっくりと階段を登っていく。

473サードアイ[5]:2014/07/26(土) 21:29:27 ID:g7CQSGPo0

 サイトウの“調べ物”は、図書館で調べるたぐいのもんじゃなかったってことだろう。
それが何かは分からないが、興味が無いからどうでもいい。


 進路指導室、だと。バイト案内所にしたほうがよっぽどいい。

 だいたい“進路指導”なんて、懇切丁寧にする必要性が分からねえ。レールから外れるやつは何やったって外れるし、
乗っかるやつはセンセの助けなしでも乗っかる。
 
――くっだらねえ。

 この手のことを考えると胸糞悪くなるだけだから、さっさと学校を出た。



   ☆           ☆            ☆



 冬の陽は早く落ちる。外ももう真っ暗だ。
きっちりマフラーを巻き込み、端を鼻まで引き上げて口を覆う。ハーフキャップのメットを頭に載せて、手袋を嵌める。

街路樹を嬲る風の音を聞くだけで寒さが増す。


――頼むぞ、かかれよ!


 キックを踏む時、エンジンがちゃんとかかってくれるかちょっと不安になる。かかったとしても、その後ヘタれて
エンストする時があるから気が抜けない。

 1速でゆっくり走らせ、大丈夫そうだと思ったら普通に車道に乗る。国道をのったり走りながら、ぼんやりと考えた。

474サードアイ[5]:2014/07/26(土) 21:32:46 ID:g7CQSGPo0

 もうじき期末テスト、そして春休みだ。明ければ3年に上がる。世間一般で言う“受験生”に、おそらく大部分のやつがなるんだろう。


 サイトウは悩んだ挙句、理系を選択したらしい。
 その選択が正しかったかどうかなんて、誰にも分からない。サイトウ本人にも分からないだろう、死ぬときに答えが出るんじゃないか。


 春休みに入る前に、卒業式がある。オレは2年だから関係ないはずだが、いちおう出席しなきゃならない。
無意味なセレモニー、あれで泣くやつの気が知れない。単に生活の環境が変わる、ただそれだけのことだ。


 センパイに世話になった覚えもない。“卒業生に向けて” なんて、何の意味があるってんだ。
そういうのは個人的に寄せ書き(これも大嫌いだが)でもしてりゃいい。


 卒業したら、ここの連中ともおさらばだ。嫌いなわけじゃないが、卒業してまで連絡を取り合うことはないと思う。
大学に受かったやつと落ちたやつ、専門に進んだやつとではお互い気まずいし、話だって合わないだろうしな。
そういうのを取り繕うのもまっぴらゴメンだ。オレは専門にいくか就職するかするから、大部分の連中と切れることになる。


 新しい環境に行ったら、そこでやってくしか無い。いつまでも前の環境を懐かしんでも何にもならない。
浮かない程度に馴染んで、疲れない程度に付き合う。

 それで十分だ。


.

475名無しさん@避難中:2014/07/26(土) 21:34:25 ID:g7CQSGPo0
↑以上で

季節およびスレの流れをガン無視ですみません。

476名無しさん@避難中:2014/07/31(木) 12:13:23 ID:wI6Pr6Cc0
タカハシはなかなか手強いな。
他のキャラと絡ませたときの化学反応が予想できないw

477ダブルストップ[7]:2014/08/03(日) 20:50:28 ID:XOoCJ1To0

 人気のない音楽室でコントラバスを弾いていると、ふと思う。

――オケ部に入っていたらどうだったかな。


 仲間がいなくて寂しい、というのは確かにある。
 でも一方で、面倒事がなくて気楽だな、とも思う。

――気の合う人たちだけで部活ができればいいのに。


 部活に関する悩みを聞かない日は無い。
 高校生相手に部活に限定した占いをやったら、恋愛と同じくらい相談事が来ると思う。

 中学生の頃は部活に入っているのが当たり前だったので、部活に所属していない今でも、放課後になると
何となく後ろめたい気持ちになる。
 コントラバスの“自主練”は、そんな自分に対する言い訳かもしれない。


 後輩に、「辞めたいんです」と相談されたことがある。
 辞めるつもりの友人の、引き留め役になったこともある。
 中学生にとって、部活を辞めるだの辞めないだのはけっこう大きな出来事だった。

 この学校は、もっと自由だ。

 部活に所属しなくても、何も言われない。「原則、全員何らかの部活動に所属すること」と決められていた中学校とは違う。
 みんな思い思いに、自分の時間を使っている。


 あまりに自由すぎて、何をするか迷ってしまう。
 何かバイトをしようかな、と思うけれど、なかなか一歩が踏み出せない。

 結局、コントラバスの練習か、図書室で本を読むか、まっすぐ帰るか。
この3パターンしかない。

 世間では「女子高生」というとなにかと持ち上げられるような感じがあるけれど、わたしのように冴えない日々を
送っている女子高生だって実際に居るのだ。

 みんながみんな奔放な生き方をしてるわけじゃない。


♪ ♪ ♪

.

478ダブルストップ[7]:2014/08/03(日) 20:53:55 ID:XOoCJ1To0

 9月はまだまだ夏の真っ只中だ。緑道の木漏れ日の下を歩いていても、この暑さはどうにもしがたい。

「あーあ。なんかイイ事、ないかなあ」
並んで歩くニシトちゃんがぼやいた。

「先崎くんは?」
何の気なしに振ってみた話題だったけれど、ニシトちゃんがこっちを見て、淋しそうに笑った。

「ナギちゃん、鋭いなぁ。やっぱりダメだね、あの二人の間に入れる気がしないもの」


――あっ。言わなきゃ良かったかも。


 先崎くんは後輩の女の子と仲が良い。傍から見てるとそれはとても親密で、誰も間に入れないというのは分かる。

「好きになっちゃダメな人ばっかり好きになっちゃうんだよねー。ナギちゃんは?」

「わたし? わたしは……そもそもあんまり、好きにならないから。それも寂しいけど」

「でも、辛い思いすることもないからね……こっちから追うより、向こうから来てくれたほうがラクかなぁ」
「そういうものかな……」

 1年生のとき以来、わたしは告白されていないし、“いい雰囲気”になったことすら無い。
彼氏がいたら楽しいだろうな、と思うことはあっても、誰がいいとか具体的に考えられない。

「ねえねえ、ナギちゃんはどういうタイプが好みなの?」
「えっと……」

――タイプ? ちゃんと考えたことあったっけ。
ていうか、もし今、クラスの誰かに告白されたら……どうしよう? よく分からないまま、また断っちゃうのかな。


「サイトウくんとか、どう?」
「へっ?」
「またまたぁ。一緒に歩いてるとこ、見たんだよ〜」
ニシトちゃんは楽しそうに言う。


 サイトウくんを、そういうふうに意識したことはなかったな。いい人だと思うけれど。

「タカハシはダメだからね、ナギちゃん! でもサイトウくんとタカハシくんってよくつるんでるよね」

 そうだったっけ。

「ニシトちゃん、よく見てるね。全然気づかなかった」
「ナギちゃんが関心無さ過ぎなんだと思うんだけど……」


♪ ♪ ♪

.

479ダブルストップ[7]:2014/08/03(日) 20:57:12 ID:XOoCJ1To0

 身の回りにいる男子をみて、「この人と付き合ったらどうなるだろう?」と考えてみることにした。


 タツジさん。

「お嬢さん、おはよござっす! 日傘、だいじょぶッスか。いちおう、キャバのスケからぶんど……っ、借りてきたヤツが
あるんスけど。なんなら自分、差します。あ、日焼け止めも」
「放っといて下さい」

――ダメだ。まったく想像できない。



 アキトさん。

「あらぁ、お嬢さま。今日も肌がキレイねぇ。夏の日差しはお肌の大敵よぉ。UVカットの防弾ガラスで、
バッチリ防御のア・タ・シのクルマなら安心よぉ。いろんな意味で」
「アキトさんのクルマには乗りません」
「ツレナイわねぇ」

――ダメダメ! アキトさんの車に乗ってたら、怖くて寿命が縮まる。



 クラスの男子。

 かっこいいヒトは、なんだか現実味がない。ジャニーズ系アイドルみたい。普通の男子でも、
なぜか “付き合う”イメージが湧かない。

――わたし、理想が高いのかな?

 違うと思う。理想なんて求めてない。
もし仮にクラスの誰かと付き合ったとして、わたしはその子に気持ちが行かなくて、ただ一緒に行動するだけに
なるような気がする。それでも、いいのかな?


 好きでもない人とキスなんてしたくない。手をつなぎたいとも思わない。
 デートしてるうちに、そういう気分になっちゃうのかな。
 流されてるみたいで、なんだか嫌だな。そういうの。

 もう、わけわかんないよ。

.

480名無しさん@避難中:2014/08/03(日) 20:59:17 ID:XOoCJ1To0
↑以上
前のお話の投下漏れ分でした
ややこしくなってしまってすみません

481名無しさん@避難中:2014/08/05(火) 18:10:27 ID:T16VoGoI0
ナギちゃん、かわいいぜ。

482わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/08/07(木) 21:39:10 ID:uHWZ51hI0
ナギちゃんをどうにかしてあげたい。

投下します。
山尾くん、お借りします。

483『ろうそくもらい』 ◆TC02kfS2Q2:2014/08/07(木) 21:39:52 ID:uHWZ51hI0

 お菓子作りが好きだ。
 筋道通して順序よく組み立てれば、必ず良い結果を残してくれるからだ。
 まるで、聞き分けのよい理数系の大学生みたいだ。やつらは理屈を重んじる。だからこそ、対話していて心地よい。
 分量、順序、時間。きちんとさえすればよいだけの話。テーブルのうえのクッキーを人つまみして、自分の腕前を確かめる。
 部活動は一休み、誰もいない部室にて、しとしとと残る梅雨の忘れ形見を背中にして、放課後のひとときを貪る。

 今日は七月七日。全国的に七夕。

 お菓子をあげることも好きだ。
 自分の成果が目に見えることは、一種の快感だ。

 お菓子についてならば、誰にも負けない自身は山尾修にはあった。

 山尾修はアーチェリー部だ。七月真夏の真っ盛りだけど、やはり腕前が気になるから。だが、雨ゆえに実射練習が出来ない。
梅雨も明けたばかりだし、雨天だから。仕方ないから、弓具の手入れを丹念に行っていたのだ。
 
 「……今度、何作ろうかな」
 
 繊細さと大胆さ、相反する能力を必要とするアーチェリーと、お菓子作りはこじつけのように似ている。「おいしい」の一言と、
矢が的中した瞬間に、清涼感溢れる快感が突き抜けるからかもしれない。
 修は手についたクッキーかすをウェットティッシュでぬぐい去った。面倒な弓具の手入れも、波に乗れば苦でもないし。

 矢をつがえる際、指に引っ掛けるタグにワセリンを塗りこんでゆく。手になじませて、よき相棒へと仕立て上げるためだ。
 直接指に付ける道具だから、丁寧に丁寧に、恋人へ囁くように皮を柔らかくする。タグは優しく返事をしていた。

 『ローソク出ーせー出ーせーよー 出ーさーないとー かっちゃくぞー おーまーけーにー噛み付くぞー』

 何の呪いか、聞き慣れない童歌が部室の入り口から流れてきた。
 一人、弓具の手入れをしていた山尾修は、不審にかられながらも引き続き手入れを続ける。
 こんこんと扉を叩く乾いた音が修の耳に響くから、重い腰をやれやれとあげる。
 できることなら面倒なことに巻き込まれたくはないもの、奇妙な次元に飲み込まれたままなのも、なんだか落ち着かないから、
ドアノブをがちゃりと回して招かざる来訪者を出迎える。

 「黒猫?」

 ちょこんと前足を揃えてつぶらな上目遣いを潤ませる一匹の黒猫。
 首からぶら下げたiTunesと、背中に背負った、小型スピーカーが違和感を誘う。
 そこから流れていた歌声は、修をの耳を奪った張本人だった。
 誰に話しても一笑に伏されるのがいい落ちだ。猫がお菓子をねだりに来た。そんなおとぎ話許されるの、小学生までだよねー。
山尾修は高校二年、メルヘンのメの字も忘れた。

 がたっと廊下の先で音がする。
 人影に黒髪がふわりと柳のようになびく。
 息を殺す声が現場に残る。
 すらりとした夏の制服姿が、からっと晴れた八月の廊下にひまわりの花びら散らす……夢を見る。
 彼女は黒猫の差し金・黒咲あかね一年生。

484『ろうそくもらい』 ◆TC02kfS2Q2:2014/08/07(木) 21:40:13 ID:uHWZ51hI0
 「クッキー先輩ですよねっ」
 「……」
 「ろうそくの代わりに黒猫です」

 確か、クッキーをあげたから、それ以来クッキー先輩と呼ばれている。
 もちろん、そんな呼び方をしているのは黒咲あかねぐらいだ。

 「『ろうそくもらい』ですよ。ご存知ですか」
 「ろうそく貰うの?いいの?」
 「北の大地の習わしですっ」

 額に汗した修は黒猫を抱き抱えたあかねの二の腕を見つめていた。湿り気を帯びた猫は黒さを増して、黒曜石にも負けない輝きだ。
 男子としては背の低い修だからか、女子としては背の高いあかねに対しては、自然と照れ隠しの目線となる。
 ただ、修としては、自分が先輩だからか言い訳としては何かと好都合だった。

 「北の大地の習わしって……黒咲さんって、もしかして北海道……」
 「違いますっ。おばあちゃんちが長崎ですっ」

 肌の白いあかねだったからと思いきや、それは、あてずっぽうの流れ矢だった。
 アーチェリーで的をはずすとくやしいし、このときも何故か同じぐらいくやしい。だが、ここで顔に出すのはオトナ気ないなと
先輩はぐっと奥歯をかみ締めていた。

 あかね曰く、ただの好奇心に掻き立てられてとのことだが、修も年上だ。あかねの企みに裏を見た。
 なぜ、修のいるアーチェリー部を狙ってわざわざやって来たのか。
 それは、一度、クッキーをあげたから。理由など、どんなものにだって存在する。

 「ろうそくもらいは、小学校の低学年ぐらいの子供たちが、各家庭にお菓子をもらいに来る行事ですっ」
 「へえ。ハロウィンみたいだね」
 「毎年七夕になると、こどもたちが歌を歌いながら家庭に訪れてお菓子をもらうんですっ。
  『お菓子をくれないと引っ掻くぞ、噛み付くぞ』って……こども……がです」
 「七夕?」

 頬を赤らめたあかねは、スカートの裾を握りしめた。
 一方、修はあかねから引っ掻かれたり、噛み付かれている自分の姿を想像していた。

 一般的に黒猫は人懐っこいらしい。人をひきつける魅力があるという。
 あかねが連れてきた黒猫は校舎に迷い混んだ野良だという。
 だから、役目を果たした野良猫と別れを告げた。もう、会わないかもしれない寂しさと、いつかきっと会えるという希望を胸に。
 手洗い場で修とあかねは蛇口から溢れる水の音に心を留めた。

 「……だって、わたしはコドモですよっ。みんなは『オトナっぽいねっ』とか、言ってくれるんだけど、全然ですっ」
 「そんなことないよ……、黒咲さんは」

 手を清める。
 ざっざとぬれた手を振り切って、水を切るあかねの仕草に微かな色気を感じた修は、先輩らしい対応で黙していた。

 「でも、やっぱり」

485『ろうそくもらい』 ◆TC02kfS2Q2:2014/08/07(木) 21:40:33 ID:uHWZ51hI0
    #

 わたしはかつて『あーちゃん』でした。
 ファッション雑誌の中だけで、誰からも羨ましがれる『読モ』……読者モデルをしていました。

 でも、あーちゃんなんて知りません。
 みんなから担ぎ上げられて、ふらふらと迷いの森に投げ込まれた名もなきコドモですよ。

 あるとき、はるか遠い北の大地から撮影の為に通っていた読モ仲間の『きー子』が嬉しそうに言いました。
 そのころ中学生になったばかり。コドモだと主張しても通るし、コドモじゃないんだからと駄々こねても許されるあいまいな時期。
 きー子は意気揚々として、わたしに自慢しました。

 「あーちゃんさー。ろうそくもらいで、子供たちにお菓子あげるぐらいにお姉さんになったんだよねー」
 「ろうそくもらい?」
 「うん。小学校の低学年ぐらいの子たちが、おうちにお菓子をもらいに来る行事だよ。北海道だけなのかなー」

 それ、わたしです。お菓子をもらいに行く方です。
 わたし、全然コドモだし。

 「やっぱ、あーちゃん……着こなしがオトナだぁ」

    #

 自覚はある。
 自分はコドモだと思い込んでいても、誰もがみなそれを認めてくれない事実。
 みどりの黒髪艶やかに、すらりと背の高いあかねが『背伸びして』子供ぶるよりか、心を許した黒猫に願いを託した方が良い。
 外の雨音もすっかり止み、雲の切れ目からは天への架け橋が下りていた。希望への架け橋とも言うらしい。

 「ほら。お菓子」

 修があかねに手渡したクッキーは割れていた。
 深々とお礼をしたあかねは、恥ずかしそうに顔を背けた。
 あかねが口にしたクッキーはバターの味が程よく効き、自己主張の控えめな上品さがあった。

 たった、お菓子を手に入れるだけに「ろうそくもらい」を口実に、黒猫連れてあかねはわざわざ修の元へやってきた。
 背は低くとも、修は先輩だ。そんなこと、とっくに見破っている。
 修はそれを思うと、背伸びとだだっこの挟間でもがくあかねが余計にコドモに見えてきたのだ。

 「また、来ます」

 振り返りざまのあかねの髪があまりにも完璧な曲線を描くので、ぎゅっと修は胸を締めつけられた。
 背の高い後輩なんかに、惑わされるものかと意地を張る。

 「いつでもおいでよ。ヒマだし」
 「来ます」

 あかねはこどもっぽく返答すると、黒猫を抱きかかえて顔を隠した。

 「来月、七日も所によって七夕ですっ。仙台とか……」



 ……… 

 
 
 夏休みの真っ只中、山尾修はアーチェリー部部室で弓具の手入れをしていた。
 休みだけども腕前が気になるから。すると、廊下から聞き覚えのあるわらべ歌。

『ローソク出ーせー出ーせーよー 出ーさーないとー かっちゃくぞー おーまーけーにー噛み付くぞー』

 今日は八月七日。所により七夕。


    おしまい。

486わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/08/07(木) 21:43:11 ID:uHWZ51hI0
あかね「クッキー先輩!これ、おいしいですっ」
修「え?鉄橋の音で聞こえない!!!」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/842/akane_yamao02.jpg

投下おしまい。

487名無しさん@避難中:2014/08/08(金) 00:04:33 ID:RMmw/7Ts0
乙です

488わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/08/11(月) 19:06:24 ID:WZ16PzfM0
>>477
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/843/nisito_nagisawa01.jpg

さて、ここからは「ダブルストップ」番外編で。
お二人お借りします。

489[ ◆TC02kfS2Q2:2014/08/11(月) 19:06:57 ID:WZ16PzfM0

 「ここのシュークリーム、美味しいんだよ」と、ニシトちゃんが幼な子にも似た輝きをした目で言うから、
わたしは寄り道というものをやってみた。二人並んで目当ての三瀬の前に立つと、わたしの心臓がごくりとつばを飲む音が聞こえてくる。

 「ナギちゃんとこんなお店に行けるのって、うれしいな」

 ニシトちゃんはきらきらと光る。
 ニシトちゃんはけらけら笑う。
 紅茶色のショートカットの髪型は、ニシトちゃんにおあつらえ。

 古びた煉瓦造りの店は、見るからに時代に取り残された香りが漂っていた。
 店の名は『茶々森堂』。
 わたしたちが通う学校から程近い場所に店舗を構える喫茶店だ。ご近所なのに存在すら知らなかったわたしは、
まるで幸せの青い鳥を肩に乗せたまま、青い鳥を探しているようなものだ。

 「先崎くんもよく来るらしいよ」

 お互いに知った生徒の名を使ってこの店の知名度を教えてくれるニシトちゃんは、本当に外の世界のことをよく知っているし、
使いこなしていると思う。扉を開けると鉄の鐘が 鳴りわたしたちを歓迎してくれた。世界の隅っこに生きるわたしでさえも、
顔パスだけでまけてくれる常連客同等に愛想よく迎えてくれる。
 ニシトちゃんのエスコートで陽射しのよい窓側の席に陣取ると、気分だけでも無邪気な英国貴族の娘になったつもり、
傍らにゴールデンレトリバーを携えて、ゆったりまったり机に肘をつきたくなる。

 落ち着く。
 ほんとうに。
 わたしの住む世界がうそのよう。

 店を囲む蔦が世俗から切り離してくれる。古城に幽閉されて助けを待つ姫君が、いっそずっとここにいてもいいかもと。
そんな気持ちを吐露しても、誰もが頚を縦に振ってくれそうな雰囲気だ。
 わたしが何者だろうとも、コーヒーの香りが分け隔てなく平等に静かな時間に誘う。

 「わたし、運動部でしょ?だから、体が糖分求めてるんだ」
 「体動かすしね」
 「そうだ。文化系の部活もかじっちゃおうかな?……うーん、漫画研究会とか」
 「あるの?」
 「知らない」
 「なにそれ」
 「あ!店員さーん。シュークリーム、ふたつ……、いや、みっつ!」

 注文を取りに来たウェイトレスがねこのような目を丸くして、ニシトちゃんの願いを聞いていた。
 大正浪漫というものか、袴にエプロンドレス、そして編み上げブーツ姿の彼女は、やけに乙女に見えるのは、
きっと、たぶん、わたしのせいだ。わたし自身の眼球がそう見ろと命令するのだ。間違っていないだろうか。

490『ダブルストップ・あなざー』 ◆TC02kfS2Q2:2014/08/11(月) 19:07:46 ID:WZ16PzfM0
 「みっつ?」
 「うん 。お土産用。ナギちゃんいる?」
 「うーん。やめとく」
 「お母さんには?」
 「多分、食べないと思うよ」

 わたしにはお土産を渡したくなるような素敵な人はいない。
 右手に拳銃、左手に仁義、そして口にはシュークリーム。似合うハズがない。
 ロンドン郊外の小さな煉瓦造りの喫茶店に、黒塗り高級車が乗り込んで、ずかずかとすね傷持った男たちがやってくる。

 似合うワケがない。

 『お嬢さん』
 『お嬢さん』
 『お嬢さん、ジュース買ってきましょうか』
 『一人前になったら、自分で自分のタマ守れよ』

 仁義に生きて、仁義に朽ちる。
 戒律はただそれだけ。
 そんなオトナに囲まれて、それがカタギではないと知ったときのこと。
 少女ノ夢と相反する、硝煙と杯で出来た世界に包まれて生まれた自分のこと。

 シュークリームだなんて。
 お土産だなんて。

 丁重にニシトちゃんの誘いを断ると、ニシトちゃんはにこにことシュークリームが届くのを待ちわびていた。

 窓の陽射しのから避けようと店内に目を向けると、わたしたちと歳の近い女子二人がクリームソーダをそれぞれ口にしていた。
この店は、女子を女の子にしてくれる。白いブラウスとメロン色のソーダ水は人を甘い気持ちにしてくれる。こんなわたしでも、
この店の中だけでも女の子にしてくれるのだろうか。ニシトちゃんに聞くのはこっぱずかしいし、ましてや、クリームソーダの二人にもだ。

 「どうしたの。ナギちゃん」

 シュークリームの出番を待ちきれないニシトちゃんだ。にこにことわたしの浮気をそっと修正。
 わたしは素直にクリームソーダの二人のことを話題にしてみた。
 一人は腰まで伸ばした黒髪。クローバーの髪留めが大人っぽさと子供っぽさを綱渡り。
 そして、一人は明るい色のボブショート。てっぺんからは跳ねたような髪の毛が目を引く。

 「なんだろう。お芝居の話かなぁ」
 「そうなの?ニシトちゃん」

 机に広げたノートにメモを走り書きさせながら、二人は雑談のような話し合いをしているように見えた。
 会話を楽しむよりかは、意見を交わし会うと言ったほうが近いかもしれない。

491『ダブルストップ・あなざー』 ◆TC02kfS2Q2:2014/08/11(月) 19:08:08 ID:WZ16PzfM0
 「『出番』とか『儲け役』とか『ト書き』とか言ってるけど、なんだろうね」
 「うーん。演劇部なのかな」
 「あ、それ、するどい。さすがニシトちゃんだ」

 確かに。ニシトちゃんの説を踏まえて二人の会話を盗み聞きしていると、ぽんぽんと膝を打ちまくりたくなる。
きっと彼女らは公演のための打ち合わせをしているのだろう。黒髪ロングの方から『シンデレラ』のワンフレーズが聞こえたことで、
わたしは全てに合点した。

 「わたしも舞台に立ってみたいな。バレー部じゃなくって、演劇部とか」
 「文化系?」
 「実は演劇部も体育会系だったり」

 ニシトちゃんは実に女の子だ。それに比べてわたしはステージのスポットライトから逃げ惑う名もなき通行人Aの人生を望む。
 ただ、それを胸はって主張するようなことでもないし。ニシトちゃんのような思考が自然にできるのならば、
わたしの視界も色鮮やかに見えるんだろう。女子高生の図鑑があるのならば、きっとニシトちゃんは大きく載るんだろう。
ついでに言うなら、わたしは欄外の豆知識だ。

 「ここで、王子さまが踵を返すっ」
 「『日陰者の生きざまに惚れるお前さんのことだ。おれが殺し屋だってことはカタギの奴らにはばらすな』。
  あかねちゃん、この台詞すごいぞっ」

 やはり、彼女らとは違う。
 リアリティの蚊帳の外にいるから。
 襟を正した紙の上にだけ存在する外れ者に憧れを抱く。一滴でも父の血がわたしの中に流れているうちは、
彼女らの妄想に胸をときめかせることもきっとない。

 「殺し屋さんかぁ。スーツが似合うんだろうな」

 確かに。
 ニシトちゃんの言うことは間違ってはないし。
 演劇部の会話を聞いているうちに、ニシトちゃんは演目に興味を抱いていた。
 「公演が始まったら、観に行こうよ」と胸高鳴らせるニシトちゃんだが、わたしはフィクションとリアル、双方ともおなかいっぱいだ。

 彼女ら演劇部の虚構会議にお耳傾けているうちに、大振りのシュークリームがみっつどっかとわたしたちの目の前に現れた。
げんこつのようなシュークリームは、見ているだけでも迫力がある。ねこ目のウェイトレスは表情を崩すことなく軽い会釈を
わたしたちにしてくれた。

 ニシトちゃんがシュークリームを持つと、とても幸せそうに見える。

 「クリームを注入する穴があるでしょ?ちっちゃい穴。そこから食べると、きれいに食べられるんだよ」

 ぱくりと小さな穴を塞ぐように似合うんだろうなニシトちゃんがシュークリームに食らいつく間、
わたしは再び演劇部の二人をチラ見してみた。黒髪ロングの方は、電話片手に誰かと連絡を取っていた。彼女らは彼女らで忙しい。
断片的だが、黒髪ロングのセリフをかじり聞き、電話の相手を想像してみた。

 「できましたっ。原作っ。初めて尽くしでごめんなさいっ」
 「わたしたちが書いた脚本……面白がって頂きまして……」
 「それが絵になって、セリフがふきだしから紙面を飛び出し、ページを捲る高揚感を煽る作品に仕上げて……」

 わかった。
 漫画研究会だ。

 漫画の原作を演劇部に依頼している……という、推理。
 ニシトちゃんの「なーんだ」という言葉に安堵を覚え、わたしはシュークリームにかぶりついた。
 煉瓦の館でひっそりと、そして、端っこに潜む幸せをかみ締めながら。


     おしまい。

492わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/08/11(月) 19:09:11 ID:WZ16PzfM0
おまけ。初めて迫先輩を描いたような。

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/844/sasusako01.jpg

おしまいです。

493名無しさん@避難中:2014/08/15(金) 01:32:32 ID:v.Id1rbU0
>>474
ひねくれすぎだろこやつw
しかしその皮肉げなところには半端に共感できてしまうから困る。
みんな一回くらいは麻疹に掛かったみたいにそんなことを考えるよね。
>>480
おおおなんか少女漫画っぽいぞ!
生っぽい!(?)
ニシトちゃん俺にください!

>>486
・夏と鉄製の構造物ってなんでこんなに合うんだろうね?
・あーちゃんなんて知りませんって台詞に漂ってた子供っぽさの正体に触れた感じがする。
しかしクッキー先輩w
>>492
・こんな二人、街で見たことある!ほんとにこんな感じだった!
・この二人のこういうやり取りもいいな。
実はワンオラクルの人とわんこ氏って相性いいというかよく似てると思う。
小道具で一気に空気作っちゃうとことか内面への踏みこみ方とかそういうの。
・イタズラっぽいあの字もスイカバーも可愛すぎんよー
でも尻尾はねえだろこいつ風紀委員に通報したw

494名無しさん@避難中:2014/08/15(金) 01:33:21 ID:v.Id1rbU0
投下しなきゃ!

495先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:37:58 ID:v.Id1rbU0
投下しなきゃ!

496先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:39:59 ID:v.Id1rbU0



「先輩、スイカ割りしましょう!」
「……ここで?」
「おおっとスイカ割りと聞いちゃ、黙っちゃいられねえぜ!」

 夕方のくせに白昼としか視えない光の強さに目を細めながら学園の正面玄関をくぐったところ、いつもの後輩
といつもの後輩ではない後輩たちが、スイカをモーニングスターのようにブン回しながら襲来した。危なっ。

「スイカって地球に似ていると思いません? 緑の大地、群青の海、赤い溶岩、そして蠢くうざい種! すごい
ですねガイア理論ですね宇宙の神秘を感じますね。……破壊しましょう! そしてモホロビチッチ不連続面まで
食べつくしちゃいましょう!」
「お!? 何その偏差値高そうな台詞っ!!」
「地球に喩えた意味あった?」

 一人でも手に負えないのに、今日なんか同じくらいやかましい久遠荵と二人掛かりである。嫌がらせか。

「ばうわう、ザッキー先輩!」
「……よう、久遠」

 何それ知らない。わんわん王国の公用語ですか? 久遠は相変わらず仔犬みたいな落ち着きのなさ、もとい元
気のよさで駆け回っている。

「こんにちは、先崎先輩」
「こんにちは」
「私もがんばってウォラメロ、割っちゃいます」
「発音!!」

 ……念のため確認しておくが、ウォラメロとはウォーターメロン=スイカのことである。
 烏揚羽蝶のような黒髪の黒咲あかねに会釈を返す。久遠と同じ演劇部で、よくつるんでいる子である。初めは
綺麗な長い髪のせいで深窓の令嬢めいた印象だったが、実際に会話してみるとこれがけっこう一筋縄ではいかな
い感じだった。

「先輩先輩、あかねちゃんの髪に見惚れている場合じゃないですよ。長いのがお好きなら伸ばしますし。そんな
ことよりスイカですよ」

 後輩がようよう抱えたスイカを平手でベシベシ叩く。なんか味が落ちそうなのでやめてもらいたい。

497先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:43:00 ID:v.Id1rbU0
「ていうか……」

 俺は今更だがバカみたいな大玉スイカを見て慄然とした。

「でっか!? ……絶対ぬるくなってて不味いし、割ってもこんな食えないだろ」
「調理実習室の冷蔵庫借りました」
「私が貸しました」

 突然の声に振り返ると、白壁やもり教諭が音もなく背後に立っていた。この夏で一番怖かった。白壁教諭は胸
を張って続けた。

「何故なら、冷たくないスイカはスイカでないからです」
「白壁先生っ、ピントのズレた言い訳ありがとうございます!」
「それに、スイカ割るってあちこちで宣伝してきたから、きっと処理係も集まります」

 もはや割ることにしか興味がなさそうな白壁教諭は、とても家庭科教諭とは思えなかった。
 どうせなら「スイカは夏の水分補給にいいんですよ」とかそういう解説をして欲しい。

「ところで西瓜割りって漢字で書くとなんかエロい……」
「わう?」
「よく分からんが何だかすごく久遠の教育に悪い感じだから黙っとけ」
「ひどいです! 私はどうでもいいとおっしゃるのですかっ!?」
「お前がエロ言ったんだろ!」

 後輩がむくれて頬を膨らませた。

「いつもそう……。カマトトぶっている女ばかり天然とか純粋とか持て囃される……ぶぅ……」
「最低限、お下劣な頭の中身をお外に出力しない努力をしてから言えよ?」
「そこまでっ! 夫婦喧嘩はわんこも食わないっ」
「誰が夫婦だ不吉なこと言うな!」
「さっすが荵ちゃん分かってる!」

 後輩の周囲は今日も混沌としていた。……巻き込まれて毎回その一部になってしまっている俺はもう何も言え
ない。フェードアウトする方法を教えてくれる親切な人か、身代わりになってくれる親切な人か、俺に優しくし
てくれる親切な人を熱烈希望だ。

「ご婚約おめでとう」

 たぶん親切な人ではない黒鉄懐が、目尻の嘘の涙を拭いながら肩を叩いてきた。金ぴかの頭髪が第二の太陽と
化し、体感温度をじりじり上げてくる。何て奴だ。

「あの小さかったシュンが……変わり果てた姿になって……」
「そこは立派にしておけ」

 だいたい黒鉄は俺の幼少期など知るまい。会ったのは今年になってからだ。

498先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:44:02 ID:v.Id1rbU0
 後輩が何とも言い難い顔をして、「あっ」と思いついたように久遠を追って脱兎と駆け出した。黒鉄のような
派手なタイプは苦手らしく、あまり近づきたがらない。

「押忍です先輩、兄がいつもお世話になっております。……ほら、行くよ、兄貴っ!」

 妹さんの黒鉄亜子が慌ただしくやって来て、慌ただしくお辞儀して、慌ただしく兄貴の耳を引っ張ろうとして
背が足りず摘み損ね、慌ただしく兄貴の手首を掴んで去っていった。「えっ、ちょ、スイカがオレに食べられた
がってんだけど……?」「ちょっと離れるだけ。兄貴が先輩といると……はかどりすぎるのよ」「何が?」「魅
紗が」「ああ……」

 理解しがたい会話をしながら遠ざかっていく黒鉄兄妹をボケーっと見送る。
 いつの間にか、正面玄関前の人工密度がえらいことになっていた。見知った顔、見知らぬ顔、みんなそんなに
スイカが好きなのか、暇で仕方がないのか。あれよあれよと参加することになっている俺に言われたくはないだ
ろうケド。

「相変わらず、サキザキの周囲は混沌としてるね」

 黒鉄兄妹と入れ替わりに声を掛けて来たのは、隣のクラスのサイトウだった。聞き捨てならないことを言う。
どう見ても核になっているのは俺ではなく後輩だと思うが。

「スイカを割るって聞いて。せっかくだからご相伴にあずかろうかと」
「スイカ好きなのか」
「夏っぽいから」

 ……サイトウの考えることはよく分からん。俺が言うのも何だが、社交的に見えて、教室の隅からクラスを見
渡してフッと笑っているような斜に構えた感じもあり、妙に子供っぽいところもあるのだ。
 昆虫のサナギの中でそれまで幼虫だったものは一度全てドロドロに溶けてから再構成されるというが、人間も
同じで、高校生くらいの年齢ではまだ完全に固まりきっていないのかもしれない。肉体も精神も毎日のように更
新され、あるいはその日の気分で見える世界が変わりさえする。
 サイトウを見ていると、何となくそんなことを考える。そういう奴である。
 
「あーっ、サイトウ先輩じゃんっ!」

 サイトウを発見して飛んできたのは小柄な鷲ヶ谷和穂。フリーダムイーグルというお察しなあだ名で知る人ぞ
知る騒動屋だった。

「今日もトロッコ持ってる!? また占ってよボクのこと!」
「タロットだろ」

 「芥川カナ?」「そうに違いないのだわ!」「“鼻”……一体何の暗喩なんだ……?」「決まってますよそん
なの!」 ……歴史研究会だったかの面子と大型魅紗の濃ゆい意味深トークをBGMに、鷲ヶ谷は過干渉の父親
を見るような目で俺を見た。背が低いので見下しの角度を作るために必死に仰け反っているのがいっそ微笑まし
い。

「センザキ先輩ちょー細かい……。そんなんじゃモテないよ?」
「いいのっ! 先輩には私がいます!」
「何をっ! 犬の引き取り手を探させたら、わたしの右に出る者はないっ」

 クソッ何だこいつら。俺をボケの波状攻撃で殺す気か? “フリーダムイーグル”鷲ヶ谷和穂、“後輩”後鬼
閑花、“わんわん王”久遠荵。女三人寄ればというやつで、若さを失いつつある俺では長期戦では分が悪い。

499先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:44:59 ID:v.Id1rbU0
 箸休めではないが、距離感が一定でまだ落ち着いて話せるサイトウに逃げる。

「しかし、サイトウはタロットカードなんてやってたんだな」

 意外と言う意味ではなく、身近では初めて会った。あまつさえカードセットを学校に持ってくるまでする人は
かなりの珍種という気がする。

「あそびだけどね」
「ほう。俺は卓上同好会部長の加藤だが、タロットカードなら我々の活動内容とも合わないことないな」
「同じく副部長の田中。サイトウくん、卓上同好会に入らないか? 我々は君のような戦士を待っていた!」
「今なら即レギュラーだぜ!?」

 俺とサイトウの会話は弾む前にシャボン玉のように弾けて消えた。春からずっと新入会員を募集していたらし
い卓上同好会の上級生がどこからともなく現れ、馴れ馴れしくサイトウに絡んでいく。

「入ってくれるんなら俺たちの分のスイカもあげるぜ!?」
「俺はあげないぜ? 田中のはあげるぜ?」
「俺が勝負で加藤から巻き上げていれば同じだぜ?」
「……こういう卓上的な発想も身に付くから将来的にもお役立ちだし、今なら即レギュラーだし、これもう入ら
なきゃ嘘だぜ?」

 この人たち三年なのに良いのかなぁ受験とか……と思うが、口には出さない。俺だって突っ込み先を選ぶくら
いできるのだ。いやほんとに。

「ちょっと勧誘なら後にしてよっ! サイトウ先輩はボクと先約があるんだっ!」
「まあ、そういうことなんで」

 鷲ヶ谷が両腕を猛禽類の翼のように広げ、怪鳥音を発して卓上同好会を威嚇。サイトウもやかましい先輩より
はやかましくも可愛い後輩のほうがマシと思ったか乗っかる。「ぐわっやられた!」「やはり卓の上でなければ
力が出ないか」 ノリのいい二人が体をくねらせながら退場。こわい。

「並べるからちょっと待って」

 サイトウが準備万端用意していたマットの上にタロットカードを展開。タロット業界ではスプレッドというの
だったか。

「今日こそ【世界】のカード当てるんだっ」

 ……そういうゲーム的な物ではまったくなかったと思うが、まあ鷲ヶ谷楽しそうだからどうでもいいや。わざ
わざまた顰蹙を買いにいくこともないだろう。
 何となく、よく鷲ヶ谷と一緒にいる小鳥遊雄一郎を探す。鷲ヶ谷の隣だとまず鷲ヶ谷がやたら目立つし背の高
低差がちょっと面白いためかすぐ分かるのだが、単品ではウォーリーと化す。

500先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:45:56 ID:v.Id1rbU0
 少々厳つい顔をしたウォーリーは、花壇のそばで二年の近森さんと歓談中だった。近森さんの瞳は好奇心に爛
らんと輝いている。

「どうなのどうなの?」
「別にどうも……」
「お似合いだと思うけどなぁ! どっちも鳥類だしね!」

 これはあれか、鷲ヶ谷との関係について質問責めにされてるのか。俺のクラスメイトでもある近森ととろさん
は、好いた惚れた切った張ったの恋愛沙汰に目がないのだ。……たまーにああやって焚き付けたりもする。

「私と先輩もお似合いだと思います。どっちも人類ですしね」
「どんな台詞でも手当たり次第に拾ってテキトーに改変して使うお前の執念と応用力はある意味すごいと思う」

 俺の顔を見上げてはにかんでみせる後輩を躱す。
 相手が俺でなければ通用することもあっただろうにな。つくづく残念な子ではある。

『いよよーしッ! そろそろスイカ割り大会、始めますよ! 司会はワタクシッ、報道部部員、B72でお送り
しますっ!!』

 校庭から重量挙げ部の筋肉愛好家たちの手で神輿のように運ばれてきた朝礼台。その上で、マイクを握った女
子が拳を突き上げる。

『アタッカーになりたい人は、ちゃんと名前書いたかな? 読める字でお願いね!』

 形式としては、参加希望者が名前を書いたくじを、司会者がボックスから引き、その順番でスイカにアタック
を掛けていく。
 この実際にスイカを割るという行為に挑む者を“アタッカー”と呼ぶ。
 アタッカーはアイマスクで目隠しをした上で、先端を地に突いた木製バットの尻に額を当てたまま十周以上回
転する。そうして方向感覚を狂わせた後、規定位置からスタート。距離にして十五メートルほどだろうか。
 アタッカーに対する支援及び妨害は自由参加。何人掛かりでも構わない。日頃の行い、人望が物を言う競技か
もしれない。ただし、認められる手段は声掛けのみとされていた。

『つーまーりー! アタッカーのカラダに触ったり、スイカをずらしたり、スイカを包丁で切り分け始めたり、
スイカをドーム状の鉄板で覆ったり、バットをスポーツチャンバラのやつにすり替えたり、まきびしをばらまい
たり、バナナの皮を敷き詰めたりしては、ぜーったいにっ、いけません! 過去いました』
「違反者は、スイカにありつけないどころか、パワーオブザゴリラなお仕置きを受けてもらうからな!!」

 白壁やもり教諭がせいいっぱいの威厳を絞り出して注意し、真田基次郎教諭が不敵に笑いながら拳を鳴らす。
マイクを使わないのにさすがの大声だ。あれで美術教師というのだから世の中分からない。

『さぁて!! さぁてさぁて!! スイカ割り大会、栄えある第一の刺客を発表しますよ――!?』

 司会者報道部B72のアオリと、軽音部のドラムロールが、場のテンションを最高潮に持っていく。地を揺る
がすような歓声の中、誰かがごくりと唾を呑む。
 たかだかスイカ割りにえらい騒ぎだと正直自分の中のつまらない部分が思うが、よくよく考えるとこんなイベ
ントはもう一生のうちでもそうそうあるものではないかもしれない。

 ――夏っぽいから

 そう答えたサイトウは、あるいは俺よりもよほどまともな感性をしているのかもしれなかった。
 ちょっと気になりだしたじゃないか。
 この二度とはないかもしれない青春のひと時、その口火を切るのが一体誰なのか――



 つづく

501名無しさん@避難中:2014/08/15(金) 01:47:46 ID:v.Id1rbU0
投下終わり。
例によって広く浅いクロス。

アタッカーのリクエスト募集中です。

502名無しさん@避難中:2014/08/16(土) 00:54:31 ID:uDiq3IwU0
くうう…すいか割り。

503名無しさん@避難中:2014/08/17(日) 20:08:39 ID:DmSpGkBI0
夏らしくていいね! これは・・・「つづく」んだよね!? 楽しみ!

504名無しさん@避難中:2014/08/19(火) 08:00:35 ID:vIn2YjJ20
荵率いる「小動物チーム」
アゲル率いる「パワーリフターチーム」
水玉パンツ率いる「お姉さんチーム」
か。

505名無しさん@避難中:2014/08/19(火) 23:02:20 ID:UWstTHVM0
懐と先輩だとはかどるのかー(意味深

506名無しさん@避難中:2014/08/28(木) 22:33:30 ID:Ispnd.460
雑談スレでここを紹介されたものの・・・私みたいなのが参戦して良いのだろうか?

あと、仁科学園の設定を調べるためにwikiを確認してたら、『格闘茶道部』ってのがある・・・ことのみ設定されている以外は特に記載が無いけど、
元々は何きっかけでの誕生だったのかしら?
もし私が『格闘茶道部』に関する設定をいじってもOKなら、そこを間借りしたい。

507名無しさん@避難中:2014/08/28(木) 22:40:49 ID:Dpy0ya.60
ようこそ!
格闘の人卒業しちゃったし、
別に部活のひとつやふたつ新設したっていいんだよ?

508名無しさん@避難中:2014/08/28(木) 23:13:37 ID:Ispnd.460
なるほど、前いた人が残していった設定なのね > 格闘茶道部

現状として薄ぼんやりとした設定のみの状態ですが、どこぞの「物語は存在しない」とバイオリン職人に評されたピンクの人みたく世界を破壊しないよう、
とりあえず自分なりの『格闘茶道部』設定で書いてみようかと思います。
実際、『茶道部』ではなく『格闘茶道部』という名称のほうが今考えている設定とすり合わせやすいので、この偶然の出会いに感謝!だったりです。

ただ、完成するかは・・・?(無責任発言)

509名無しさん@避難中:2014/09/01(月) 20:12:39 ID:xHg4Jcfc0
    , - 、
  ヽ/ 'A`)ノ ダレモ イナイ・・・
   {  /   トウカ スルナラ イマノウチ・・・
   ヽj

510記憶の中の茶道部() ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:16:54 ID:xHg4Jcfc0
初めて、仁科学園の方に投下させていただきます。
稚拙ではありますが、お目汚しによろしかったらどうぞ。

--------------------------------------------------------------

511記憶の中の茶道部(第一話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:19:08 ID:xHg4Jcfc0
しまった・・・途中で送信してしまった・・・
すみません、ここからスタートです・・・

-------------------------------------------------------------

そう遠くない未来、20XX年。
地球が核の炎に包まれることも暴力だけが支配する荒廃した世界になることも無く、ただただ平和な時間が平等かつ均等に流れていた。

「……ふぅ、それじゃあ今日の稽古はここまでね。」
太陽光線によって橙色に染まる、仁科学園の体育館。
その中では、先生と数人の中等部生徒で構成される剣道部の練習が今終了しようとしていた。
「礼!」
「「「ありがとうございました!!」」」
響き渡る生徒たちの若々しい声。
そして、挨拶が終わると生徒たちは着替えのために体育館を急ぎ足で退散するのであった……が、例外が居た。
「……あれ?先生、どうしたんですか??何か……ものすごぉくアンニュイな顔してますけども……。」
先生のもとへ駆け寄る一人の生徒。
一方の先生は、まるで放心したかのように体育館の天井を寂しく……ただ一点のみを見つめていた。
「……先生?」
「何と言うかね……長年お世話になった体育館が壊されるんだなぁ……って思うと……うん……ね?」
「仕方ないですよ、老朽化してますし……それに、現行の法律的にはグレーゾーンな建築扱いなんですから……あ。
 そういえば、先生はこの学園の卒業生で、かつ剣道部の副主将だったんでしたっけ?だったら……アンニュイになりますよね、
 思い入れとかありますでしょうに。」
話しかける生徒。
だが、『ある単語』が先生の耳に入った途端、その表情は少し曇った様相を呈した。
「……いいえ、私は……何て言ったら良いのかな……?」
喉に何かが引っかかったかのような受け答えをし始める先生。
その様子に生徒は困惑していると、先生は突然こう切り出した。
「……ちょっとだけ、私の昔話に付き合ってくれる?」
「……はい?」
「とりあえず、まずは制服に着替えてきなさい。それと……話が長くなりそうだから、あなたの家まで送りがてら車の中で話すわ。」
「え……あ……はい……じゃあ、着替えてきます。」
そう言って、生徒はそそくさと体育館を後にするのであった。

512記憶の中の茶道部(第一話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:25:25 ID:xHg4Jcfc0
太陽が沈み、夜の闇に包まれた道路をまっすぐ進む一台の車。
運転席には先生、その隣りの助手席には先程の生徒が座り、生徒の住む街へと向かうのであった。
「……ところで、先生?わざわざ、私を車に呼んでまで話したい昔話って何ですか?」
生徒が切り出す。
一方の先生は夜の闇で表情が判別しにくい状況になっていたものの、声質については何らかの物悲しさを語っていた。
「あなた、あの体育館の端にある『茶室』のことって知ってる?」
「茶室?……ああ!今は使ってない、何故か体育館の端にポツネンとある……。」
「私と剣道部の歴史を話すにおいて、あの茶室がどうしても必要なのよ。」
「茶室……剣道……先生……すいません、話の文脈が全然繋がらないんですが。」
「あれは、私が仁科学園中等部の一年生として所属していた頃の話だわ……。」

こうして、先生……いや、天江ルナは自身がかつて経験した不思議な物語をゆっくりと語りだすのであった。

豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃……からはかなり先の未来、つまり天江ルナが仁科学園中等部の一年生としていた頃の20XX年。
琵琶湖の南に『金目教』という怪しい宗教が流行っていたかどうかは知らないが、
とりあえず平和な時間が全ての人に対して平等かつ均等に流れており、もちろん彼女も平和な時間の恩恵を受けていた……が、
今思えば『あの出来事』をきっかけに彼女を流れる時間は狂い始めたのかもしれない。
「……ここ……だよな?」
あの日、左手には竹刀、右手にチラシ、そして右肩には道着と防具が入った袋をかけた出で立ちで、ルナは体育館の前に立っていた。
「『剣道部員求む』……か。村の剣道大会で優勝経験のある私にとっては願ったり叶ったりの部員募集ね!……とは言うものの?」
部員募集のチラシを再確認した後、チラシを左手に持ち替えて、体育館の戸をゆっくりと開けるルナ。
しかし、時間的にはどこも部活動を行っている時間にもかかわらず、体育館の中は静寂を保っていた。
「『剣道部 水曜夕方と土曜午後より体育館で絶賛練習中』……って、全く人の気配が無いんですけど。」
チラシにツッコミを入れるルナ。
とりあえず、教職員に確認を取ろうと体育館を後にしようとした…その時であった。

513記憶の中の茶道部(第一話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:31:54 ID:xHg4Jcfc0
突然現われる人の気配。
いきなりの出来事に対し、彼女は『気配』をまるで『殺気』のように感じ取ってしまい、
おもわずチラシを投げ捨てて竹刀を構えてしまう。
「誰?!」
誰も居ないはずの体育館に響き渡るルナの大声。
しかし、その『気配』は彼女の問いかけに一切答えることは無かった……が、
自身がどこに存在しているかについては強いプレッシャーで彼女に伝えていた。
「……!あそこか。」
プレッシャーが発せられている方向を見るルナ。
その目線の先には、体育館には似つかわしく無い『茶室』が映し出されていた。
「茶室……?しかも、運動部が使う体育館の中に何で……うん??」
ただでさえ疑問符が浮かぶ状況に、ルナは茶室に掲げられていた看板を見てさらに困惑する。

看板に書かれていた言葉……それは『格闘茶道部』という聞きなれない物であった。

「か……格闘ぅ?」
「そう、ここは格闘茶道部。」
大声をあげるルナへ突然耳に入ってくる女性の声。
その声の主は明らかに、この茶室に存在していた。
「誰だっ?!」
「誰だと言われても……とりあえず、茶室に入ったらいかがですか?」
丁寧にルナへ返答する謎の声。
一方のルナは理解不能な状況に竹刀を構え続けていたが、状況を打破出来る訳でも無かったため、
竹刀を下ろして茶室の中へと踏み入れるのであった。

彼女の目に飛び込む光景……まだ香りのする若い畳、『格闘茶道部』と書かれた掛け軸と小さな生け花、
鉄製の茶釜、そして……仁科学園の制服を着た『一人の女性』であった。
「あなたは……?」
ルナが問いかける。
一方の女性は手元にあった抹茶を一口飲んで呼吸を整えたのち、彼女の問いかけに答えるのだった。
「私は中等部三年、御地憑イッサ。ここ『格闘茶道部』の部長にして、ただ一人の部員ですわ。」
「……その、『格闘茶道部』って何ですか?ただの茶道部とは違うんですか??」
ルナの問いかけに、イッサは再び抹茶を一口飲み、そして呼吸を整えて返答する。
「本当は茶道部にしたかったのですが、敷地の関係で文化系部活動の場所が確保出来なくて……
 ただ、運動部扱いなら体育館の一部が借りられるとのことでして『格闘茶道部』と相成った……訳ですわ。」
「何それ……ところで、剣道部の方を知りませんか?私、天江ルナという中等部一年の者で、剣道部への入部希望なんですが?」
三度問いかけるルナ。
すると、イッサは残りの抹茶をゆっくりと飲み干し、ルナに対して一つの提案をするのであった。

514記憶の中の茶道部(第一話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:40:36 ID:xHg4Jcfc0
「剣道部希望……ですか?」
「ええ。こう見えても私、地元の柄玉村で行われた剣道大会で小学五年・六年と二年連続制覇したことあるくらい強い方なんですよ!」
「へぇ……じゃあ、せっかくだから私と手合わせしてみません?」
「え……良いですけど、大丈夫なんですか?茶道部の方……ですよね??」
「心配ありませんわ。私も多少は剣道をかじっている方ですし……それと、ちょっとした賭けをしません?」
「……賭け?」
「私が勝ったら……天江ルナさん、あなたはこの格闘茶道部に入部する。もし、あなたが勝ったら……そうね、その時はその時で考えましょう。」

その言葉にルナは苛立ちを覚えた。
理由は簡単である……いくら剣道をかじったことがあるとは言え、所詮相手は茶道部。
そんな相手が、まるで自分の方が強いかの様に言う言動に『怒り』以外、何を得られようか。

こうして、ルナとイッサによる剣道の試合が始まった……のだが、ここでもルナの苛立ちはイッサの行動によって増すのだった。
「あの……何ですか、その格好は?」
道着に身を包み、そして防具で完全武装した状態で竹刀を構えるルナ。
一方のイッサは竹刀を構えるものの、頭に面を被る以外は先程の制服姿のままであった。
「ごめんなさい、防具が見つからなくて……でも、私は十分これで戦えるわ。」
『これでも十分戦える』……イッサの余裕宣言ともとれる言葉とふざけた格好にハラワタが煮えるほどの怒りを覚えるルナ。
だが、イッサはルナの心に灯った怒りの炎に更なる油を注ぎこむのだった。
「……あ、言い忘れてたわ。試合時間は十秒……諸事情で十秒ほどしかあなたとお付き合い出来ないのよ。
 でも、十秒で決着がつかなかったらあなたの勝ちで良いから……ね?」

「……ふ……ざ……け……る……なぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

怒りを爆発させ、力任せに竹刀を握りながら突撃するルナ。
もし、彼女が平静さを保っていたなら防具の無い『胴』は狙わず、『面』を狙うはずであっただろう。
しかし、怒りによって我を忘れていたルナは逆に『胴』を狙い、ふざけた態度をとるイッサを叩きのめすことしか考えられなかったのであった。
「胴っ!……?!」
体育館を次元ごと斬る勢いで水平に振られる竹刀。
だが、彼女の手には一切手ごたえが無く、そして正面にあったはずのイッサの姿も煙のように消えていた。
「ふふっ、どこを狙ってますの?」
突如、後ろから聞こえてくるイッサの声。
「そこかっ!……?!?!」
一方のルナもすぐさま反応して竹刀を振るうが、やはりイッサの姿は無かった。
「どういうこと……???」
「こ・お・い・う・こ・と。」
イッサの言葉と同時に聞こえてくる、右手を上下にスナップさせるような音。
その音の方向をルナが見ると、そこには試合場の印である白線の端に立つイッサの姿……と認識した直後、
彼女の体は人間技とは到底思えない超高速でルナの目前まで移動するのであった。

515記憶の中の茶道部(第一話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:46:59 ID:xHg4Jcfc0
「スリー!」
イッサの一撃によって宙に飛ぶルナの竹刀。
「ツー!!」
間髪入れず、彼女の防具へと叩きこまれる『胴』の一閃。
「ワン!!!」
トドメの一撃と言わんばかりに炸裂する、頭部への『面』の一撃。
「……タァイム、アウト。」

試合時間十秒ジャスト、試合内容は完全にイッサの完勝……いや、ルナの完全敗北であった。

「そんな……茶道部に……負けた……。」
邪悪な存在が産まれそうな勢いで絶望するルナ。
一方、面を脱いだイッサは先程までののほほんとした雰囲気から真面目な様相へと姿を変え、彼女に語りかけるのであった。
「……あなた、私のことを『どうせ、茶道部だから余裕だろう』、『ふざけた態度を取ってる奴に負けるはずが無い』って思ってたでしょう?」
「……!」
「図星のようね。それがあなたの敗因……私の戦い方の基本は『敵の精神を揺さぶる』……
 こんなふざけた格好で戦ったのも、私が余裕そうな言動をとったのもこのため……あと、このスナップ音もね。
 でも、それ以前にあなたの基礎体力と私の基礎体力とではかなり差があったみたいだけど。」
淡々と、そして冷酷に言い放つイッサ。
一方のルナは言い返す言葉が無かった。
「さて……約束よ。剣道部への入部は諦めて我が『格闘茶道部』へ入部しなさい。」
そう言って、どこからか入部届けをペラリと取り出すイッサ。

その時、ルナの頭に一つの疑問が浮かんだ。

「……一つだけ……質問して良いですか?」
「あら、何?」
「イッサさんは、どうしてこんなに剣道が強いんですか?」
「言ったじゃない。『多少は剣道をかじってる』って。」
「いやいや……かじるだけでそこまで強くは……。」
「う〜ん……じゃあ、まず入部届けにサインして。そうしたら、ちゃんとした理由を教えてあ・げ・る!」
「え……。」
「どうする?」
「……。」
「どうする?」
「……。」
「ど・お・す・る?」
「……?」
「君ならどうする?」
「……分かりましたよっ!!!」
ヤケクソになり、汚い字で入部届けを殴り書くルナ。
「やった!これであなたは、今日から格闘茶道部の副部長就任よ!!」
「……で?!あなたが強い理由は?!?!」
ルナが息を荒らげて質問したその時だった。
「『部長』!ランニング終わりました!!」
ルナの後ろから聞こえてくる、数名の学生の声。
声の方向を見ると、そこにはルナが探していた『剣道部員』の姿があった。
「『部長』……?この人は格闘茶道部の人じゃ??」
ルナが剣道部員の一人に問いかける。
「何言ってるんだ、君は!御地憑先輩は確かに、そこの格闘茶道部の部長でもあるけど、メインは我が仁科学園剣道部の部長だぞ!!」
「……はぁああああ?!」
驚くルナを後目に、別の部員も口を開く。
「しかも、剣道の腕は日本一……いや、世界一だ!現に、二年前のパリ……あと、昨年のオーストラリアはブリスベンで行われた国際剣道大会で、
 全て試合時間十秒の一本勝ちをするという驚異の記録を立てた方なんだぞ!!」
「そういうことなの、ごめんね。」
謝る素ぶりを見せるイッサ。
一方のルナは放心するのみであった。
「ところで……部長、この子は何なんですか?」
「ええ、私に勝負を挑んできてね……体力的なものに関しては合格ラインだけど、精神的なものに関しては鍛える必要があってね……
 とりあえず、格闘茶道部のほうで預かることにしたって訳。」
「……さいですか。」
「そんなこんなで……よろしく頼むわよ、天江ルナ副部長!」
そう言って、ルナの肩を叩くイッサ。

しかし、彼女の意識が回復するまでにそれ相当の時間を要したことは言うまでも無かった……。

つづく
-------------------------------------------------------------

以上です。
お目汚し、失礼しました。

516名無しさん@避難中:2014/09/01(月) 22:17:12 ID:0qz79bnA0
あ、熱い!
つ、続きを !

517 ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 22:59:15 ID:xHg4Jcfc0
>>516
さっそくありがとうございます。
続きに関しましては現在未着手ですが、可能な限り書いていく予定(3人目の格闘茶道部部員登場予定)ですので、
御迷惑でなければ今後もお付き合いお願いします。

518名無しさん@避難中:2014/09/02(火) 23:40:08 ID:PtNTzYGw0
投下乙。
世界観フェイントで何事かと思ったw
仮面ライダーファイズみたいな戦闘しやがって!

しかしそこまでして格闘茶道部を存続させる部長の目的とは一体・・・?

519 ◆n2NZhSPBXU:2014/09/03(水) 00:55:35 ID:3nKy7RgM0
>>518
ありがとうございます。
一応、『格闘茶道部存続理由』については自分なりに決めてはいますが・・・まあ、そこまで辿り着くかどうか・・・
(少なくとも、あと4話ぐらいは必要になる計算状況なので)

ついでなので、自分で小ネタの解説。
プロローグの始まりは『北斗の拳』のナレーション、本編の始まりは『仮面の忍者 赤影』のナレーション、
イッサの格好は『内村プロデュース』の剣道回練習における内村P、戦闘スタイルはご指摘のように『仮面ライダー555』のアクセルフォーム、
最後の方のルナとイッサの掛け合いは『電子戦隊デンジマン』のエンディング・・・ってな感じだったりです。

520名無しさん@避難中:2014/09/07(日) 19:11:37 ID:b6fLzGZA0
ルナのような真面目女子キャラは貴重だな。

521 ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 21:59:39 ID:fHZ4Bbrc0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ トウカ シヨウ・・・
   {  /   ソソマエ ニ ヘンシン ダ・・・
   ヽj

>>520
格闘茶道部における御地憑イッサと本日登場の粟手トリスがボケキャラなので、必然的にツッコミポジとなった次第です。
ちなみに、個人的には『アイドルマスター』・・・と言うより『ぷちます!』の秋月律子的な感じで書いてます。

522記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:04:14 ID:fHZ4Bbrc0
今から五十年近く前……地球は怪獣や侵略者の脅威に晒されていた。
人々の笑顔が奪われそうになった時、遥か遠く光の国から彼らはやって来た……『ウルトラ兄弟』と呼ばれる、頼もしいヒーローたちが!
……しかし、それはテレビの中……もしくは他次元における地球でのお話し。
この次元の地球には、ウルトラの父によって派遣された若き勇者が来ることも、アスカ・シンの声に導かれたウルトラセブンの息子が来ることも、
そして未来ある若者を宿主に選んだ未来のウルトラ戦士が来ることも無かった。
無論、地底世界に住むウルトラ戦士も……である。

では、来たのは誰か?
ペギラか?ケロニアか??アイロス星人を追って来たクラタ隊長か???

その答えは……。

その日、夜にもかかわらず、天江家の庭では竹刀を強く振る音と竹刀を振っていた天江ルナの大声が交互に発せられていた。
「どりやぁ!とぅあっ!!セイヤーっ!!!うぉおおおお!!!!……ふぃ。」
三十分近く続けていた素振りに疲れを覚え、竹刀を下ろすルナ。
その直後、庭へと通じる大きな掃き出し窓がガラガラと音を立てて開き、そこから一人の男が顔を出すのであった。
「ルナ、食事の用意が出来たけど……タイミング的に大丈夫か?」
その男……ルナの父である天江ライトが話しかける。
「あ、うん。シャワー浴びたら、すぐに食べるよ。」
「それにしても……最近どうしたんだ?前々から庭で素振りをしてはいたが、何と言うか……全ての怒りをここにぶつけているような?」
「……そりゃね……怒りもね……溜まりますよ……!セイッハァアアアアッ!!」
突然、宙に向かって竹刀を一閃するルナ。
その足元には、竹刀であるにもかかわらず、まるで真剣で斬ったかのように縦に真っ二つとなったスズメバチの姿があった。
「お見事。」
「……シャワー浴びてきます。」

「ところで、ルナ?例の……『超次元茶道部』だっけ、あれはどうなったんだ??」
「お父さん……『超次元』じゃなくて『格闘』。それじゃあ、まるで宇宙刑事の戦闘母艦じゃない。」
ツナサラダと中華風ツナステーキを食べつつ、天江親子はマニアックな会話を続ける。
「ごめんごめん……で、その格闘茶道部はどうなんだ?そりゃ、剣道部に入れなかったのは不本意だろうけど……
 でも、その剣道チャンピオンの人の近くに居れば、おのずと技を盗め……。」
会話に花を咲かせようとするライト。
しかし、ルナの表情は複雑であった。

523記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:09:55 ID:fHZ4Bbrc0
「あのね、お父さん……私がいつもしてる素振りの量を、最近二倍にした理由って分かる?あの女ねぇ……
 やることが適っ!当っ!!過ぎるのよっ!!!」
大声をあげるルナ。
「ひぇっ?!」
その声に、ライトはただただ怯えるしか無かった。
「聞いてよ、お父さん!この間もね……。」

それは数日前の出来事であった。

体育館の中に響き渡る、竹刀と竹刀がぶつかり合う音。
そして、汗ばんだ素足と床が合わさることで発生するキュッキュッという音……
それは、まさに剣道部の在るべき光景だった。
しかし……本来、その場に加わるべきであったルナは、茶室のフスマを挟んだ環境でその音を聞かざるを得ない状況と化していた。
理由はただ一つ……彼女は今、『格闘茶道部』の副部長として、知識の無いまま部長である御地憑イッサの点てた抹茶を
受け取らなくてはならない環境に居たからであった。
「さぁ……お茶をどうぞ。」
「……はい、頂きます。」
不満な気持ちを抱きつつも、とりあえず自分の知っている範囲の知識でイッサから茶碗を受け取るルナ。
そして、慎重な動作で茶碗を回した後、茶碗を口元へと傾ける。
「えぇっと……結構な、お……お手前で……。」
『苦み』以外の特徴に関して何も言えず、再び自分が知っている範囲の知識で返答するルナ。
一方のイッサはニコリと笑いながら彼女をジッと見る。
「あらあら……ところで、お茶菓子は召し上がらないのですか?」
「……あの……そのこと何ですけど……。」
「はい?」
困惑するルナと満面の笑みを続けるイッサ。
そんな混沌した環境を茶室に作り出していた要因となっていたのは『電雷!なぁぷりん』と大きく描かれたラベルの貼ってある
『プリン』であった。
「お茶菓子って……このプリンですか?」
困惑した表情のまま、ルナがイッサに質問する。
「そうよ?この間、学園近くのスーパーに行ったら安売りしててね……しかも、私プリンって大好きなのよ。
 せっかくだから、この格闘茶道部で!って思ってね。」
「……あの……安売りしてたのは分かりますけど……。」
そう言いながら、さらに困惑した表情を見せるルナ。
その表情に気付いたのか、今度はイッサがルナへ問いかける。
「今度は何?」
「……お皿とか無いんですか……それ以前に……スプーンは?」

プリンを容器から落とす皿が無い……プリンを食べるのに必要なスプーンが無い……
この二つの要因が彼女の困惑にさらに拍車をかけるのだった。

524記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:16:18 ID:fHZ4Bbrc0
「ごめんなさいね。格闘茶道部設立に当たって、茶室やら茶釜やら手配したら小物の手配に気が回らなくて……。」
「……あの……どうやって食せと?」
「どうしましょう……ちょっとマナー違反だけど、口の上でプッチンして食べて……ね?」
「……はぁ?!」
「ね?」
「……。」
「ね?」
「……。」
「ね?」
「……。」
イッサの、たった一文字の圧力に対し、ルナはただただ屈服するしかなかった。
「……分かりましたよ。」
そう言ってプリンの容器を持ち上げ、底部にあるピンを倒してプリンを口に放り込むルナ。
とりあえず、口に残った抹茶の苦みをプリンの甘みで消すためにプリンを口の中で転がすルナであった……が、この直後にイッサは一言呟いた。

「……あら?このプリン……消費期限が一週間前だわ。」

この直後、『黄色いしぶき』が茶室入り口のフスマに飛び散ったのは言うまでも無い。

「うわぁ……そりゃ災難だったなぁ。」
話を聞き、悲しそうな表情を見せるライト。
一方のルナは、『思い出し笑い』ならぬ『思い出し怒り』をしつつ、茶碗に残った飯を勢いよくかっ込むのであった。
「ホント……モグモグ……嫌になる……モグモグ……わよ……モグモグ……おかわりっ!!」
「おいおい……怒りながら飯食うのは良いが、調子に乗ると太るぞ。」
「……!ハッ、いかんいかん。」
「まぁ……とりあえず、半分にしとくか?」
「いや、要らなくなってきちゃった……ごめんなさいね。」
そう言って、コップに入った麦茶を飲み、一息つくルナ。
「私……どうしたら良いんだろう……。」
ルナの口から洩れる呟き。
しかし、呟いたからと言って何かが状況が一変する訳でも無かったため、
彼女は台所の奥に置かれた『写真立て』をただただ見つめるしか出来ずにいたのであった。
「お母さん……。」

それから一週間後……。
かなりの時間が経過したにもかかわらず消えることの無かった憂鬱な気持ちを抱えたまま、
ルナは仁科学園中等部一年の教室に居た。
昼休みを迎えた今、周りの生徒は昼食や談笑を楽しんでいる。
しかし、ルナには何かを『楽しむ』気力など存在していなかった。
今、彼女に出来る最大限の行動……それは机に突っ伏して寝ることで、現実が逃れる……
まさに、それは彼女のみしか存在しない『閉鎖空間』形成への過程であった。

525記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:23:07 ID:fHZ4Bbrc0
そんな時、ルナの閉鎖空間へと突入を試みる一人の女子生徒が居た。

「どうしたんよぉ、ルナちゃん?」
「……その声……ヒビキさんか。」
顔を突っ伏したまま返答するルナ。
一方の女子生徒=粟手ヒビキは心配そうにルナへと話し続ける。
「ルナちゃん、元気無いねぇ。部活決まったんじゃないの?」
「決まったは決まったけど……。」
「だったら、元気ゲンキ!私なんて、和太鼓やりたかったけど部活動に無くて……
 最終的に学園近くの公民館でやってるサークルに入ることになったんだし。」
「相変わらず好きねぇ……太鼓。」
「そうとも!太鼓とゴーヤーは私のフェイバリットさね!!……ところで、何部?」
「それが……その……。」
机に突っ伏すの止め、気まずそうにルナが顔を上げたその時であった。
「……おーい!ヒビキちゃ〜ん!!」
入り口のほうから聞こえてくる小さな声。
その方向を二人が振り向くと、そこには中学生とは思えないほど小さな女子生徒が一生懸命に飛びながらその存在をアピールしていた。
「……誰?」
「ルナちゃん、ちょっと待ってて……どしたの?」
入り口に向かいつつ、小さな女子生徒に対応するヒビキ。
そして、女子生徒と二言三言の会話をすると、彼女は自身の机から一冊の本を取り出し、女子生徒へと渡すのだった。
どうやら、その女子生徒はヒビキから英和辞書を借りたかったようであった。
「……あ、跳ねながら帰ってった……何だろう、あのミニウサギ的なぷち感……。」
入り口での光景を見て、おもわずつぶやくルナ。
一方のヒビキは、一仕事終えた様相で再びルナの前に現われる。
「ヒビキさん、何かあったの?」
「いやね、英語の辞書忘れたらしくて。いやはや、そそっかしいなぁ……。」
「……あ、ところで誰なの?あの、ミニウサギ的な生徒は??」
ルナが問いかけたその時だった。
「ちょっと失礼。」
ルナとヒビキの間を割り込むように聞こえてくる声。
その声に方向を二人が見ると、そこにはルナにとって『会いたくない人物』が居た……無論、それは御地憑イッサのことである。
「部長?!」
「……ルナちゃん、この方は?」
ヒビキの問いかけにルナが答えようとする……が、再び二人の間をイッサの声が割り込む。
「副部長、部活動のことで問題が発生しましたわ。今すぐ、家庭科室に来てください。」
そう言って、そそくさと去るイッサ。
一方のルナたちは、イッサの一方的な行動にただただ黙るしかなかった。
「……ルナちゃん……とりあえず行くのがベストだべな。」
「……んだ。」

526記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:30:42 ID:fHZ4Bbrc0
それから数分後、ルナの姿はイッサと共に家庭科室の中にあった……が、
何故自身が家庭科室に呼ばれた理由に関しては依然として不明だったため、ルナはイッサに問いかけるのであった。
「あの……部長?要件は何なんでしょうか??」
「大変なことが起きました……。」
「……はい?」
「……以前、スーパーで大量購入したプリン……その消費期限が全て切れてしまい、
 我が格闘茶道部におけるお茶菓子の在庫が無くなってしまいました。」
「……。」
逃げ出したくなる衝動に駆られるルナ。
彼女の心の中はトップギアからクラッチを踏みつつ二速、三速へとギアチェンジしつつ……であったが、
それを無視してイッサは話を続ける。
「そこで、副部長……何か作ってください。」
「……は?」
「材料に関しましては、家庭科室に残っている物を使って良いと許可は貰いました。さぁ……作りなさい!
 Allez cuisine(アレ・キュイジーヌ)!!」
「……いやいやいや……ちょっとストップ。」
怒りを通り越し、呆れ顔になるルナ。
「大事な昼休みの最中、呼び出されたと思えば……しかも、私……料理に関しては苦手では無いですけど、
 だからと言って得意でも無いですし……。」
「……そうですか。ならば……最終兵器しかありませんね。」
「???」
「副部長、裸になりなさい。」
「……?!?!?!?!?!な……何で、そんなに話が飛躍するのよ!!!!!!」
イッサのいきなりな発言に、おもわずタメ口で返答するルナ。
「副部長……こうなったら、あなたが裸になるしかありません。この日本には『女体盛り』という伝統文化があります。
 アレ的な感じで……まあ、問答無用で私にお茶菓子として食べられて下さい。」
「何をふざけ……?!?!?!?!?!?!?!」
再び言い返すルナ…であったが、目に飛び込んだイッサの様相におもわず黙ってしまった。

宙を揉みしだくかのようになめらかに動くイッサの両手、血走るイッサの両目、興奮によって紅潮するイッサの両頬、
そしてその両頬を伝うかのようにして口からあふれ出るヨダレ……。

ルナの目の前に居たのは『格闘茶道部の部長』ではなく『若い女性を喰らう物の怪』としか言いようが無かった。

527記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:37:15 ID:fHZ4Bbrc0
同時刻、仁科学園内の廊下を走る一人の生徒の姿があった。
それは、先程ルナが教室で見かけた『ミニウサギのような生徒』であり、彼女の目的地は家庭科室であった。
「あっちゃっちゃぁ……ヒビキちゃんに辞書借りたのは良いけれど、まさか家庭科室に肝心のプリントを忘れるとは……。」
英和辞書を小脇に抱えつつ、小さい体を一生懸命に揺らしながら家庭科室の前へとやって来る生徒。
そして、力を込めて彼女にとっては重めの扉を開けると、広がった隙間から見えてきたのは……『修羅場』だった。

『……そうですか。ならば……最終兵器しかありませんね。』
『???』
『副部長、裸になりなさい。』
『……?!?!?!?!?!な……何で、そんなに話が飛躍するのよ!!!!!!』
『副部長……こうなったら、あなたが裸になるしかありません。この日本には「女体盛り」という伝統文化があります。
 アレ的な感じで……まあ、問答無用で私にお茶菓子として食べられて下さい。』
『何をふざけ……?!?!?!?!?!?!?!』

「……?!」
突然の出来事にパニックになるものの、何を思ったのか瞬時に自身の気配を消し、
家庭科室で行われている光景に対して釘付けになる生徒。
「……凄い……これが『百合』ってやつかぁ……。」
何か間違っている気のする知識を展開する生徒であったが……彼女がこの光景に集中し過ぎたあまり、
彼女は小脇に抱えていた英和辞書を落としてしまうのであった。

廊下のタイルとぶつかることで発生する、バサリという紙の束の音。
その音は生徒の耳だけでなく家庭科室に居たルナとイッサの耳にも届き、
家庭科室で展開していた修羅場の矛先は彼女にも向けられた。

「あ……あ……。」
二人に気付かれたことに気付き、恐怖で動けなくなる生徒。
一方の物の怪……もとい、イッサはルナを押し倒そうとする行為を中止すると、無言で生徒のもとへと歩み寄る。
「私……私……。」
次第に涙目になる生徒。
しかし、そんな彼女に構うこと無く彼女のもとへと辿りついたイッサは、彼女の体をヒョイと持ち上げ、
そして彼女を家庭科室の机の上に座らせてこう問いかけた。
「あなた……お茶菓子は作れます?」
「あ……あの……はい。」

528記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:44:18 ID:fHZ4Bbrc0
それから数時間後……授業やホームルームも終わり、部活動の時間となった仁科学園。
格闘茶道部の拠点である茶室ではイッサが抹茶を点て、それをルナが……そして、先程の生徒が受け取る光景が展開されていた。
「それにしても……ごめんね、怖い思いをさせたみたいで……正直、私も死ぬかと思ったけど。」
抹茶が入った茶碗を手で押さえながら、ルナが生徒に声をかける。
「まぁ……何とかダイジョーブですよ。それに、部長さんに私のお菓子も喜んでもらえたようですし。」
そう言って、イッサの方向を見る生徒。
その目線の先には、先程の事件後、家庭科室にあるあり合わせの材料で作ったわらび餅……の姿形は既に無く、
まぶされていたきな粉の一部が皿代わりに置かれた小さな和紙の上に存在する状態と化していた。
「一時はどうなるかと思いましたけど……あなたのおかげで、この格闘茶道部の部活動が無事に行えました。
 それに、この美味なる手作りお茶菓子……部長として『ありがとう』と言わせていただきますわ。」
ニコリと笑うイッサ。
一方の生徒は、自身にとっては大き目の茶碗と格闘しつつ、その小さな口へ抹茶を運びながら答える。
「……格闘……茶道部……何だかよく分からないですけど、楽しそうな名前ですね。」
「……実態は全然楽しく無いんだけどね。」
「何か言いました?」
ルナの小声に瞬時に反応するイッサ。
対して、ルナは茶碗を口に運んで誤魔化す。
「……そうだ!私も入部して良いですか?!」
ザ・グレートカブキの如く、今度は茶室のフスマに向けて『緑のしぶき』を噴射するルナ。
しかし、生徒とイッサはそれを無視して会話を続ける。
「私、お菓子作りは得意中の得意なんです!きっと、部長さんや副部長さんのお役に立てますよ。」
「そうですか……入部はこちらとしても大歓迎です。あなたを格闘茶道部の部員第三号として……
 あ、そう言えば……まだ名前を聞いていませんでしたね。あなたのお名前は?」
「私、中等部二年の粟手トリスって言います!」
「……粟手?」
ルナがトリスに問いかける。
「粟手って……私のクラスに粟手ヒビキってのが居るけど……?」
「ヒビキちゃんは私の妹ですよ……ってことは、あなたがヒビキちゃんの言ってた『ルナちゃん』なのね!」
「へぇ、ヒビキさんのおね……?!」

確かに、彼女は『中等部二年』と自己紹介した……また、兄弟・姉妹なのに弟・妹の方が高身長……という場合も時々ある……
しかし……目の前に居る粟手トリスは……何と言うか……ぷち過ぎる……『中等部一年』と言われても違和感が無いどころか、
おそらく小学二年生と名乗られても頷ける雰囲気……なのに……私の先輩……そして、ヒビキさんのお姉さん……。

「じゃあ……粟手トリスさん、今日からあなたを格闘茶道部の部員として認めます。今後とも、よろしくお願いします。」
「こ……こちらこそお願いします。」
そう言って、お互いに手をついて頭を下げるイッサとトリス。
「それと……ルナちゃん!格闘茶道部の仲間として、これからも……ルナちゃん?」
ルナの顔の前で小さな手を振るトリス。
しかし、『トリスがヒビキの姉であること』を理解出来ずにいたルナは、
まるで処理速度が遅くなったコンピューターのようにただただ上の空で居続けていた。
「あの……おーい?」
「……大丈夫よ、この子はいつもこういう感じだから。」
そう言って、イッサは抹茶を口へと運ぶのだった。

私の知る『格闘茶道部』は、こうして始動した……。

つづく
---------------------------------------------------------------------------------------------

以上です。
お目汚し、失礼しました。

529記憶の中の茶道部(人物設定) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 23:03:52 ID:fHZ4Bbrc0
wikiのほうに『投下時のルールとして、新キャラ・新設定に関する旨を書く』とあったのですが、
前回うっかり忘れてしまったので、人物設定について。

(天江ルナ)
『記憶の中の茶道部』における主人公であり、仁科学園中等部の一年生。
剣道部希望だったが、緒地憑イッサに負けて格闘茶道部副部長にさせられた女子高生。
過去に自身の母が失踪しており、そのため精神的に弱い一面を持つ。

(緒地憑イッサ)
仁科学園中等部の三年生で剣道部および格闘茶道部の部長。
見た目は清楚だが、甘味とエロスのことになると暴走する変態女・・・だが、剣道の腕は銀河系最強と言っても過言ではないほど。
ただし、謎の多い部分もあるようで・・・?

(粟手トリス)
仁科学園中等部の二年生で、格闘茶道部へはルナの後に入部。
ルナに「ミニウサギみたい」と評される程のぷちサイズだが、お菓子作りに関しては超天才である。

(粟手ヒビキ)
トリスの妹で仁科学園中等部の一年生(ルナとは同クラス)。
和太鼓とゴーヤーが好きな女の子で、仁科学園の部活には所属せずに近所の公民館で行われている和太鼓サークルに入った。
何故か、女好きのイッサからは嫌われている・・・?

(天江ライト)
ルナの父。
母親の居ない天江家を支える大黒柱。

・・・一応、今決めているのはこんな感じです。
今後、修正は入るかもしれませんが、このような形で仁科学園へ参加させていただきます。
よろしくお願いします。

530記憶の中の茶道部(人物設定) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 23:05:57 ID:fHZ4Bbrc0
間違えた!(汗)

× 女子高生
○ 女子中学生

531名無しさん@避難中:2014/09/12(金) 07:52:54 ID:VjDFyrl20
>>521
変態淑女はいいもんさ。

秋月りっちゃん……ならば、メガネっ娘、メガネっ娘なのか?ルナはー

キャラも揃ってきて、続きが楽しみじゃのう

532わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/09/12(金) 18:48:34 ID:Lj2meaqY0
新シリーズにわくわく。小動物系いいなぁ。どんどんルナが振り回されるのを楽しみにしてたりして。
ルナと荵、ルナと亜子……はっ?

>>496
スイカ割りも続行中ですよ。
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/858/suika_01.jpg
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/859/suika_02.jpg

懐くん、からすまりん、お借りします。

533『信長とカラス』 ◆TC02kfS2Q2:2014/09/12(金) 18:49:09 ID:Lj2meaqY0

 世の中の何もかもを手中に収め、抱えきれない権力が黒鉄懐に憑依する。
 袖からは逞しい二の腕の筋肉が岩石にも匹敵する硬度を誇らしげに見せる。
 天を突く追うな長身とともに、長く神々しい輝きに満ちた金髪が髷のように括られて、勇ましさを兼ね備えた雅さを演出していた。

 「そこで頼み事じゃ」

 ばっと片手で広げた扇子には金粉、細工、香が仕込まれ、うすぼけた教室を一瞬にして絢爛豪華なる二条城御殿黒書院へと
トリップさせる力があった。そんなウソさえ誠にしてしまう魔力に、半紙の前で筆を弄ぶ烏丸アリサが飲み込まれた。

 アリサは習字を嗜んでいる。
 黒髪をポニーテールに結んだ、碧色の瞳を持ったエキゾチックな雰囲気を持つハーフの女子高生だ。
 アリサは一日一時間、いや五分でも寸暇をいとわず筆を手に取る。
 彼女の周りは墨の芳しい香りが漂うという。
 文字には不思議な力が宿るから、わずかでもいいから恩恵を受ける。
 毎日筆を取って文字に魂を込めつづけるも、彼女の思いが日に当たることは少なかった。

 「別に急ぐ返事ではないぞ」
 「え〜。どうしようかな〜。烏丸、そんな頼み事されるのは初めてです〜」
 「ははっ。お前さんの好きにすればいいのじゃ」
 「……えーと〜」

 語尾を延ばす癖を恥じているわけでもない。凪打つ漆黒の墨汁が湛える硯に筆を置いたアリサの心中は、
それとは反してさざ波立っていた。自分はなかなか思い切れず、決断の一歩が踏み出せない子だということは分かっているのに、
今一歩躊躇う自分がいる。

 「今すぐでなくていいんだぞ?この信長が目を止めたんだ。誇りに思え」
 「確かに信長さんの格好ですね〜?」

 突き抜ける高笑いともやもやとしたアリサの疑問と迷いを残して、桔梗の紋が眩しい織田信長のコスプレに身を包んだ黒鉄懐は
アリサの部屋から姿を消した。懐が消えた部屋はビルを発破解体した後のような静けさと空虚感が残っていた。

 信長……いや、懐からの要望に困り果てたアリサに残された手段はただ一つ。

 誰かに聞くこと。

 眉をしかめたアリサは幼なじみに電話をかける。彼ならきっとアリサに救いの手を差し延べてくれるはずだ。
 いつも困ったときには彼が居てくれた。だから、アリサが迷ったときに、正しい選択を示してくれた。
 だが、幼なじみとの電話は弛んだ糸が絡み付いたのか、一向に繋がらなかった。万事休す、刀折れ矢尽きる。
ふわりとアリサの頬を撫でる風さえも、今は煩わしく感じるぐらいにアリサは落ち着かなかった。

 気分は晴々としないのに、お腹だけは空く。心と体は別物だ。お年頃の女子だから、すぐに何かを摘んじゃいたくなる。
甘い物がいいな。アイスクリームなどどうだろう。牛乳たっぷりの濃い味は疲れた体を癒すし。いや、甘さ控え目なあんこも捨て難い。
エキゾチックな容姿に心を抱くハーフのアリサはゆらゆらと和か洋かと迷う。
 そうだ、食べに(学食)行こう。例えば、京都には日本中の海の幸山の幸が集まるが、学食だって負けてられない。
種類が豊富なことで名だたる学食へアリサが向かうと、そこはうつけ者の館だった。
 信長が天下統一を成し遂げ、いち早く京に上ってきたのか。それとも、戦の勝どきで、はたまた敵の武将の勇猛果敢な戦いを讃え、
黄金の髑髏(どくろ)で美酒を味わっているのか。

534『信長とカラス』 ◆TC02kfS2Q2:2014/09/12(金) 18:49:30 ID:Lj2meaqY0

 「はははっ。今日の宴は最高じゃ」

 信長……いや、懐の前にずらりと並んだカツ丼、カレー、肉うどん。そして、ピザトーストと、見ているだけで満腹中枢を
麻痺させる品々に腹を鳴らせていたのだ。椅子に胡座をかき、扇子を乱暴に扇いだ懐は遠慮することなくピザトーストを手にして、
がぶりと口に入れた。野生味溢れる食べっぷりに遠巻きに眺めていたアリサもつばきを飲み込む。

 「桶狭間の戦いで、今川善元殿を討ち破ったとき以来の気分じゃな!あの時はどしゃぶりの中、攻め時を迷ったものじゃ」

 続いて、カツ丼。肉厚なカツと程よいぐらいの衣の歯ごたえが、しゃくしゃくと小気味よい音と共に伝わってくる。
甘すぎず、辛すぎずのたれが白米との調和に見事に合致して、日本人の心意気を胃袋から褒め称えていた。
 たれの香りに釣られたアリサは一歩一歩学食の中に吸い込まれる。そして、肉うどん。甘さと辛さの微妙な距離を保ちつつ、
腰のない麺が嫌でも出汁を吸い込み続ける。時間が経つとみるみる増える魔法のうどんは腹持ちが良いと男子生徒の間では評判だ。
ただ、空腹に耐え兼ねたアリサは例外だ。手を伸ばせば麺に届く距離まで近付いたアリサは懐の姿を見て我に帰った。

 「どうだ。うつけ者の宴はどこの誰にも負けんぞ」

 うどん越しに見える懐の表情は、天下を手中に収めた信長そのものだった。
 安土城の天守閣からの眺めに現を抜かす、日本国王の威厳とも表現できるではないか。

 はっ。

 刹那に光り輝く閃光。
 青白く稲光のように、そして静寂さが吹き荒れる。
 アリサのポニーテールがゆらりと揺れる。
 足元から風吹き上がる。

 「来る……わたしに来ます……」

 自分の体の中に空海・橘逸勢・嵯峨天皇、日本史が誇る書道の神『三筆』が宿った。アリサに潜み、燻っていた大和魂が今、
聖霊と共に開花していた。硯に降臨した書の神が、雷電と共にアリサの手元を通じて現代に蘇る。三筆と信長では時代は違いすぎるが
この国に宿り、文化を育んだ者たちと言えば、まさに『神』と言えるような者ばかりだ。

 アリサの耳には遠い時空の雲から詔が聞こえてきたのだった。

 もっと、美しく。
 もっと、可憐に。
 
 剣豪の鮮やかな殺陣廻りを目の当たりにした。
 それ以上の衝撃が学食中に広がる。

 一筆一筆に花びらが散って、桜の国の四季を一度に見るかのような。
 呼吸をすることも忘れたアリサは夢中で書に魂をこめ続けた。 
 学食の机に半紙と筆、墨汁を湛えた硯を並べたアリサは、決して上手くはない筆使いで文(ふみ)を書き連ね始めた。
目の前で書道を始めたアリサに懐は声をかけようと箸を止めたが、聖霊に取り付かれたアリサに近寄ることも、話し掛けることも
恐れ多すぎて、禁じられてるように感じた。

535『信長とカラス』 ◆TC02kfS2Q2:2014/09/12(金) 18:49:52 ID:Lj2meaqY0
 「できました〜」

 信長……いや、懐は言葉を失い、そして扇子で口元を隠した。
 いつのもどおりのアリサに戻り、菜の花畑の風が流れる。
 アリサが書き連ねたものは『カツ丼 カレー 肉うどん ピザトースト……』と、懐が並べていた物と同じ物だった。
 筆を置いたアリサは疲れきった表情で額の汗を拭いていた。頬を掠める風が今は心地好い。

 「おしながきです〜。和食は見て楽しむものです〜。今日の品々と合わせて楽しんでください〜」
 「ピザトーストもか?」
 「あ……書いちゃいました〜」

 懐に指摘された後のアリサの汗は、今までのものとは違った。
 懐のツッコミは続く。

 「アイスクリーム……か?おれは頼んでないが」

 しまった。
 ついついアイスクリームを食べたいあまり、自然とおしながきに書いてしまったことに顔を赤らめたアリサは
ぶんぶんと両手を振っていた。

 「あの、あの〜。迷ったんでます〜。アイスクリームか……」
 「はははっ。よし。南蛮渡来のアイスクリン、ここに参れ!」

 声高らかに、そして、柏手を打った懐はそのまま信長の姿のまま食券売場へと向かった。

 アリサの携帯が鳴った。
 幼なじみからのリダイアルだ。
 幼なじみに頼ったことすら忘れ、あたふたと慌てて電話に出たアリサは、またも別の汗をかいた。

 「だ、大丈夫です〜。迷ってないです〜」

 かたんとアリサの前にアイスクリームが。
 信長からの賜り物だ。

 「はははっ。迷うことは誰にもあるよのう」
 「あ……ありがたき、幸せ〜」

 白い褒美を口から垂らしたアリサに懐は、名古屋城のしゃちほこさえも見上げる高笑いをしていた。


  おしまい。

536わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/09/12(金) 18:54:41 ID:Lj2meaqY0

「タロットカード化企画まとめ」より。
http://www15.atwiki.jp/nisina/pages/299.html

8【剛毅】黒鉄亜子
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/860/ako_STRENGTH.jpg

「ウチのバ……うつけもの兄貴がすいません!」

投下おわり。

537 ◆n2NZhSPBXU:2014/09/12(金) 22:18:38 ID:nX7m2adE0
>>531
『真面目さ』のイメージベースを律っちゃんにしているだけで、別にメガネの有無は設定していません。
(現状はノーメガネのイメージで執筆)

・・・でも、メガネキャラってどこかで登場させたいなぁ。
ただ登場した場合、そのキャラにウルトラセブン・ネタをさせることになるのは火を見るよりも明らかな訳で・・・。

>>532
投下乙です、そして感想ありがとうございます。

久遠荵、黒鉄 亜子についてはご指摘を受けて気付いた次第ですが、これに粟手トリスが加わっての
ピョンピョコ・トリオによるサイドストーリーを!!・・・誰かが書いてくれたらなぁと思う今日この頃です。

538名無しさん@避難中:2014/09/15(月) 00:33:12 ID:GT0MHDrU0
格闘茶道部の設立が思った以上にカオスだったw

あと懐wwww最近なにしてんwwwww

539名無しさん@避難中:2014/09/23(火) 11:49:15 ID:NsjdjTdw0
体育祭はやっぱり秋だよなー。
騎馬戦は重量挙げ部が強そうだし、何気に幸撲委活躍しそうだし。

540名無しさん@避難中:2014/09/23(火) 12:39:14 ID:Hr8P/uRc0
でも上に乗るほうも重量級だから混合チームをだな

541名無しさん@避難中:2014/09/23(火) 15:55:28 ID:5FerQ66U0
ああ。そっか。
ここで格闘茶道部の登場か。

542名無しさん@避難中:2014/09/24(水) 23:14:43 ID:Bxh0kY3Q0
創作部の水鉄砲も強いんです。
「葎っちゃん!一網打尽やち!」

543わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:15:51 ID:pn5UZ3WM0
>>537
>ピョンピョコ・トリオによるサイドストーリーを!!・・・誰かが書い(ry

書きました。

544わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:16:37 ID:pn5UZ3WM0

 学校からの帰り道にゴーヤーと久遠荵に時間を奪われる予定などなかったと、制服姿で箱を抱える黒鉄亜子は目を背けた。
 緑色の植物のために力を惜しむのならば、一秒でも早く空手の道着に袖を通して、時を操る神々に正拳突きを食らわせたい。

 段ボール箱一杯に満たされたゴーヤーを二人力合わせて運ぶ。
 一人で持てない訳でもないが、段ボール箱が歪んでバランスが保てないからだ。
 亜子の金色の髪と対比して、緑色のゴーヤーが鮮やかに箱を埋める。

 「亜子ちゃんが通りがかってくれて助かるなっ」
 「わたしは迷惑です」

 急いでいるにも関わらず、荵に手を貸す亜子はまだまだ子供どもだ。そりゃ、女子中学生なんて世間様じゃ『JC』だなんて付加価値を
付けてくれるものの、ほんのちょっと前までは、ランドセル背負ってた小学生だし、子どもから中学生にいきなり背伸びの成長痛だし。
 いくら亜子が空手で心身を鍛えようとも、世の中は理不尽なもので、勝てないものは勝てないのだった。

 「ふう……。ここで休憩しようよっ」

 校舎入り口の土間でどっさと段ボールを下ろすと、箱が揺れて、中身のゴーヤーが荷崩れを起こした。
慌てた荵は、子犬がおもちゃに飛び付くように、ゴーヤーを両手で掴まえた。
 
 さて、ジャージにブルマ姿でゴーヤー片手の荵に突っ込みを入れるとすれば……。

 「なんでこんなにゴーヤーを?」

 亜子の疑問は素直だ。正直過ぎて、突っ込みのお手本にはならない。
 正拳付きの質問に、荵はそのコブシに絡み付くように答えた。

 「ほらっ。『拾ってやって下さい』だって。校門に置かれてたんだからっ」
 「なにそれ」

 確かに段ボール箱には、そんな文句がマジックで書かれた貼り紙がされてある。
 ただ、何故にゴーヤーを拾ってやって下さいなのかは、二人しても謎が解けぬ。
 三人よればなんとやら、三人目に期待を寄せると手段を捨てて、荵は手にしていたゴーヤーを元の段ボール箱に戻した。

 「わたし、早く……」
 「あー。そっか」
 「これからグローブ空手の組稽古があるんです!門下生の分際で時間に遅れるなんて言語道断です!」
 「そうだねっ。亜子ちゃん、ありがとっ」

545わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:17:24 ID:pn5UZ3WM0
 急いで帰る理由がある。袈裟懸けにしたスクールバッグからぶら下げた、ボクシンググローブが道場の空気を吸いたがる。

 腕が鳴る。
 敵を拳で打つ快感が蘇ってくる。
 伊達にグローブを携えているわけではない。
 真紅の鉄拳が血を求める。

 フルコントクトが認められたグローブ空手は亜子のポテンシャルを最大に引き出す舞台。だから、抑えきれない衝動を
胸のうちからはちきれさせようとすっくと気合を入れた。

 亜子が踵を返してダッシュをかまそうとした瞬間、前方から接近した台車と正面衝突の人身事故に遭った。

 「ぐぎゃあ」と、亜子の悲鳴があがる。

 相手は前方不注意、スピード違反、示談にするには安すぎる。女子学生だからと言って、甘えちゃいけない。
 事故の衝撃で台車の運転手はミニウサギのようにすっ飛んで、ゴーヤー満載の段ボール箱へと突っ込んだ。
 突っ込みのお手本としてはアグレッシブが過ぎると、荵は尻尾を巻いて尻餅で激痛を体中に走らせた。

 「いててて……。ぐぉ、ぐぉめんなはい!ふぇがあひまへんれしたらー?」

 ゴーヤーを口にミニウサギのような女子学生が振り向いた先には、突っ伏して倒れた亜子の姿があった。
 肝を潰したミニウサギは、ぽろんとゴーヤーを口から離す。

 「ご、ごめんなさいー!怪我ありませんでしたかー?」

 ぴょんと台車を飛び越して、女子学生は亜子の傍らに着地すると目を丸くしてうっすらと涙を浮かべていた。
 女子学生は制服からして亜子と同じ中等部だ。ただ、制服がなければ小学生としても違和感は感じない。
 むしろ、ランドセルかリコーダーが必要なぐらいだし、おまけに名札も付けようかと憂うぐらいだ。

 「ごめんなさい!」
 「わたしは……大丈夫です。足元のガードを油断していたわたしに過ちがあります」

 むっくり立ち上がった亜子は、試合に負けたときの顔つきで手を払っていた。

 「あの、あの、あの。お詫びにゴーヤー一つ持っていて下さい!」
 「いや、いいから」
 「でないと、あの、あの、あの、わたしの気持ちが納まりません!」

 荵はゴーヤーを一本手に取って、亜子とミニウサギの側にぴょんと近付き、ミニウサギを目にも止まらぬ電光石火で羽交い締めした。
 荵の鼻がミニウサギのつむじに当たり、ゴーヤーがミニウサギのありもしない胸に当たる。

546わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:17:48 ID:pn5UZ3WM0
 「や、やめてくださいー!」
 「わおーっ。甘噛みすんぞっ」
 「甘噛みって、イヌじゃないんですからー!」
 「わたしはイヌだっ」

 たらりと額に一筋の汗。
 子犬がミニウサギにじゃれついている間に、亜子は風のように消え去った。 

 「ミニウサ子はお菓子の香りがするぞっ」
 「誰ですか、ミニウサ子って」
 「お菓子の香りがする子だよっ」
 「ですから、誰ですか?」

 答えに言葉はいらない。荵はもう一度『ミニウサ子』を羽交い締めして、くんかくんかと髪の匂いを肺一杯に吸い込んだ。

 「ミニウサ子じゃありません!わ、わ、わたしは粟手トリスです!」

 ウサ耳が似合いそうな小動物系少女はじたばたと足をばたつかせていたが、慌てれば慌てるほど、荵は顔をトリスの髪に埋める逆効果。

 「ゴーヤーを返してください!」
 「え?だって」
 「わたしが仁科市場で買い込んだゴーヤーですよ?今から家庭科教室に運ぶんです」

 トリスが指差す緑色の植物。ぐりぐりと表面がうねり、見てくれはお世辞にもイケメンとは言えないが、
苦味が美味だと名高い南の果ての野菜だ。
 買い物帰り、買い込み過ぎた。学校近くの道だから、知った顔が通りすぎるだろうとたかをくくってたら、
それは甘い考えだった。放課後とは言え、誰もいない。仕方なく道端に放置されていた適当な箱に積めて、学校の台車を借りに
行っていた矢先のこと、ゴーヤーが姿をくらました。

 「ってか、どーしてゴーヤーを箱ごと持っていこうとしたんですか?」
 「うー、箱に『拾ってやって下さい』って」
 「あ。マジだ……」

 初めて貼り紙の存在に気付いた。きっと、この中にイヌネコの類いがいたんだろう。
 誰かに拾われたか、どこぞへと消えたか、主を失った段ボール箱に、トリスが引きずっていたゴーヤー一杯のエコバックを
放り投げたのが原因だった。

547わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:18:19 ID:pn5UZ3WM0

 「ごめんなさい……。ゴーヤーどろぼうかと思っちゃって」
 「こちらこそですっ。でも、こんなに沢山、ゴーヤーをどうするのっ?」
 「妹が好きなんです。家庭科教室でゴーヤー三昧、グッド・ガストロノミーです」

 小さな身体のトリスから妹というフレーズが飛び出す。
 荵が尻尾を立てていると、もくもくと荵の目の前にトリスの妹の姿が妄想された。
 きっと、もっと小さな子なんだろう。姉がミニウサ子ならば、妹はもしかしてプチウサ美かもなっ。
 なのに、ゴーヤーなど苦味を楽しむ食材を好むなど、なんという大人びた子だっ。荵は口をあけた。

 「いけないっ。早く体育館に戻らないと、迫先輩から『めっ』だっ」
 「部活ですか?」
 「演劇部だよっ」
 「ちょ、ちょっと待ってください!ご迷惑かけたお詫びにゴーヤーを……」

 きゅっと踵を返す。シューズの底が軋む。ジャージの裾がふわりと舞う。濃紺のブルマがサブリミナルでちらり。
 これが先輩だっ。伊達に先に生を受けていない。粟手トリスちゃん、目に焼き付きやがれぃ。
 あわてふためきながら廊下を全力疾走する荵を、トリスは珍しい生き物を初めて見る目で見送っていた。


     #


 ゴーヤーを積載量ぎりぎり台車に載せて、トリスは家庭科教室へ向かった。これだけゴーヤーがあるのだから、
気軽に作れる一品を。誰もいない放課後の家庭科教室と、たった一人の演奏会はよく似ている。

 「あーあ。きょうも暑かったなー」

 夏も過ぎて、秋の始まり。とは言え、汗ばむ日々はまだ続く。
 ゴーヤーの苦味を生かしつつ、すっと心地好い清涼感を味わえるお菓子を。
 ゴーヤーの皮をすりおろす。優しく、撫で回すように丁寧に緑色の野菜を回すも、頑張りすぎると苦味を許してしまう。
 適度にすりおろされたゴーヤーからは濃厚な汁が滴る。それこそ秘宝の輝きだと、トリスはほくそ笑んだ。

 「あのイヌみたいな人、演劇部って言ってたっけ」

 久遠荵。まだ、トリスは名を知らない。
 トリスの中での演劇部とは、マンガで見た世界のようなもの。
 たった一人で舞台に立たされて、実家の食堂では母親が一人で病床の元で、陰ながらに応援しているのだろう。
 中等部なんて、字に書いたような中坊の集まりだ。いずれ自分たちも華麗に女子高生に変身できると、
子供じみた妄想を膨らませつつ、擦ったゴーヤーの身をざるにかける。

 「あの金髪の子は……」

 黒鉄亜子。まだ、トリスは名を知らない。
 トリスと同じ中等部だというのに、遠く年の離れた姉御のように感じるオーラだ。
 トリスはゴーヤー汁を搾りきったことをついつい忘れてしまう。

 「いけない!わたしのばかばか!」

 スイッチの切り替えの早いトリスは、頭をコツンと自分の拳で叩くと、小さくベロを出し気持ちをリセットした。
 摩り下ろしたゴーヤーを甘ったるいバニラアイスに混ぜて、きんきんに冷凍する。ただそれだけ、ゴーヤーのアイスクリーム、
出来上がりの時を座して待て。

548わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:18:50 ID:pn5UZ3WM0
 「ミニウサ子っ。返しに来たよっ」

 まだまだ待て。

 「演劇部の……」

 じっと待て。

 「いつの間にかにゴーヤーの尻尾が生えてたっ」

 惑わされずにしばし待て。

 「ふふっ。やっぱり来ましたね!」

 頭の中がぐるぐると、振り回されずに待ちやがれ。

 「ゴーヤーの尻尾がおブルマにはさまってたんだっ。迫先輩が指差すから、おかしいぞって思ったらいつの間にっ」

 確かに荵がくるっと上半身を半回転させると、ジャージを押し退けてブルマに半分はさまった緑色の物体が尻尾のように飛び出している。
 いぼが荵の小さな尻に突き刺さり、奇妙な快感とテンションを与えていた。

 「作戦成功ですね!」
 「なにーっ」

 トリスは荵が踵を返すと同時に光の速さで荵のブルマにゴーヤーを挟んだのだった。
 これならイヤでもゴーヤーを渡すことが出来ると、トリスが睨んだ結果だ。

 「これ、なんなの?」
 「ゴーヤーです。受け取ってください」
 「やだいっ」

 ゴーヤーの尻尾をブルマから引き抜く。
 いくら愛しき尻尾でも、自分が引き起こした過ち故の償いのゴーヤーは受け取れない。
 だって、ミニウサ子には迷惑なんかかけたくないし。

 「あ……、先輩。なんですね」
 「えっ?わたしのことかなっ。久遠荵ですっ。高等部ですっ。あっ、亜子ちゃんだっ」

 話の急旋回にトリスは振り回されて、荵が指差す窓に目を向けた。
 金髪の少女が顔を真っ赤にして駆けてくるのだ。グラウンドに咲いた菜の花のような光景は、失礼ながらも滑稽に映る。
 何故ならば、手には緑色の野菜があったからだ。

 「せっかくのゴーヤーを受け取ってくれないんです」
 「亜子ちゃんもかぁー。どうやって渡した?」
 「ちょうどうまい具合にゴーヤーがボクシンググローブに入ってですね」

 背伸びで亜子の帰還を迎えるトリスは、ミニウサギっぽい笑みを浮かべてゴーヤーアイスクリームを一口含んだ。
 高みの見物でゴーヤーアイスクリームに舌鼓を打つトリスと荵は、しばらく亜子が校庭を走り回る光景を肴にすることにした。


   おしまい。

549わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:21:46 ID:pn5UZ3WM0
トリスかわいいよトリス。
小動物系かわいいよ。

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/866/torisu01.jpg

おわり。

550 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/06(月) 00:08:55 ID:hjIcL8mM0
>>543-549
>> ピョンピョコ・トリオによるサイドストーリーを!!・・・誰かが書い(ry
> 書きました。

         / ̄ ̄ ̄ \
      /   :::::\:::/\
     /    。<一>:::::<ー>。 ありがとうございます・・・
     |    .:::。゚~(__人__)~゚j  そして、本当に申し訳ありません・・・
     \、   ゜ ` ⌒´,;/゜
    /  ⌒ヽ゚  '"'"´(;゚ 。
   / ,_ \ \/\ \
    と___)_ヽ_つ_;_ヾ_つ.;._

他力本願丸出しな願いを、しかもイラスト付きで叶えていただき、ありがとうございます。
『ヒビキ』という名前だけで決めた「トリスには和太鼓とゴーヤーが好きな妹がいる」設定をここまで生かしていただき、申し訳ないです。

蛇足ですが、トリス&ヒビキ姉妹についての裏話。
雑談スレでも書きましたが、元々は『粟(あわ)トリス』という完全に下ネタな名前でした。
(部長を変態にするのが決まっていたので、当初は「(名前が性的に)興味深い」という理由で無理やり入部させる展開を考えていた)
しかし、流石に酷過ぎるので『慌て→あわて→粟手』とし、慌てん坊キャラに設定した経緯があったりです。

また、ヒビキに関しては設定にのみ留める予定だったのですが、自身の考える物語における今後の展開において、
4人目が必要となり、『トリス』の名前の元ネタでもあるウィスキーから名前に適した名前を拝借した次第です。

何にしても、私も『創作』で何かお礼をせねば・・・。
繰り返しになりますが、本当にありがとうございます。

551名無しさん@避難中:2014/10/08(水) 21:17:18 ID:KycGuB8M0
次は天江ルナの番、ですか。
真面目系暴走少女…誰と絡ませるかが問題だ。

552名無しさん@避難中:2014/10/09(木) 16:48:55 ID:hbiPnWIk0
敢えての水玉パンツさん

553名無しさん@避難中:2014/10/11(土) 15:33:26 ID:PZkELEBY0
水玉先輩って、仁科のなかでは唯一って言っていい常識人だよね。
ん?

554名無しさん@避難中:2014/10/11(土) 17:43:49 ID:Tx0K9ot60
某先輩とかは常識の塊な気がする

555名無しさん@避難中:2014/10/11(土) 21:06:51 ID:E9kYQTj60
某先輩の相方がぶっ飛びすぎて。

天月さんも推します。

556わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:45:21 ID:eHBBJu6I0
お借りします。格闘茶道部じゃなくって、ごめんよー。

557『コスプレの家庭教師』 ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:46:56 ID:eHBBJu6I0

 「コスプレは数学」だと力説している秋月京(みやこ)に欠点を求めるならば、一つ下の牧村拓人に聞けば良いだろう。
 きっと拓人は「メイド服着ながらやらなきゃいけませんか?」と恥ずかしげに呟くだろう。
 その答えを期待していたのか京は、意気揚々とした顔で「だって、わたしの専属モデルだし」と言葉を返す。

 年上の先輩から手取り足取り数学を教えてもらう。
 拓人のお年頃ならば、誰もが夢見るエロゲ的イベント。
 寿命を売り払ってでも手に入れたいシチュエーションだが、京の一言でそんな憧れは初夏の雲に散って消えた。

 純潔の証、白いエプロン。
 奉仕の誓い、フレアスカート。
 無邪気の表れ、ニーソックス。
 そして恥じらいの定め、絶対領域。

 生物学上も戸籍上も社会的にも健全なる男子である牧村拓人がそんなメイド服を纏うと、筆で書き表すことさえも
恐れ多い輝きを増す不思議に、きめ細やかな汚れなき肌眩しくて、大人の捻くるまだ染まらぬ黒髪がメイド服に息吹を与える奇跡が起こる。
 太ももを合わせる恥辱に耐える仕種に京の視線が釘付けになりつつも、しっかりと数学の手ほどきを伝授する。
 京の一言さえなければ完璧なる先輩像なのに。『ザンネン』というフレーズが今日ほど消費したくなる日もそうそうない。
そして、この世に『ザンネン』という言葉があって、本当によかった。

 「テストのポイント教えてあげるから、メイド服着てみてよ」

 確かに拓人と京の数学担当教師は同じだったから。出題される傾向と対策は京からすれば、まるで砂の城を
攻め落とすようなものだった。だが、等価交換の原則を踏みにじる京からの提案に拓人は二の足踏んだ。

 「音楽を聴きながら勉強すると頭に入るわよね?」
 「確かにそんな話は聞きますけど」
 「それじゃ、メイド服着ながら勉強すれば頭に入るんじゃないの?」
 「あの、言っている意味がわかりません」
 「メイド服着ながら勉強したら捗るって言ってるの」

 拓人の額からたらりと流れる汗さえも、京の理屈に閉口していた。
 そっと拓人の汗を京がハンカチで拭う仕種は先輩としては満点だ。それを赤点レベルに突き落とす京の趣味に振り回されながら、
拓人は『男の娘』へのチェンジを選んだ。

 「そう。O(3、―4)を基点に動かす。イメージを忘れないで」
 「xを―3、yを+4ですよね」
 「視点を変えれば答えが見えてくるわ。コスプレと同じね」

558『コスプレの家庭教師』 ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:47:27 ID:eHBBJu6I0
 シャーペンが止まる。
 理由はだいたい分かるはず。
 京が言うには「コスプレは数学」らしい。

 「コスプレも数学も一つの解に向かって突き詰める。似てるわ」
 「こじ付けじゃありませんか」

 たった一つの解答を求めるためにあまたの数学者が格闘してきた。
 たった一人のキャラクターに成り切るためにあまたのコスプレイヤーたちが競ってきた。

 「正しい解法ならば、コスプレも数学も裏切らないし」

 拓人の顔に頬を近付けた京は、くんくんと恥じらいの汗を嗅いだ。

 「そうだ。良い点とれたら、牧村くんにご褒美あげるわ」
 「気を使わなくてもいいですよ」
 「良い点……っていうか、テストを頑張ったら」
 「基準がわかりません」

 京の思い付きは警戒した方がいいかもしれない。いつも、この甘い汁に騙された。カブトムシが群がる甘露も結局は、
子供たちの欲望のためなのだから。相手はコスプレ部の魔女だ。若い燕を射落とすならば、どんな呪いを唱えるのか予想はしがたい。
秋月京という魔女は、どんな裁きにかけられようともびくともしないだろうし。

 「今度のテストの日ね。頑張ってね」
 「京先輩もじゃないですか、テストは。先輩だって……」

 拓人のささやかな反抗をもくぐり抜けた京は、エプロンの下に指を入れてつんつんと脇腹を突いた。


     # 


 夏は、この戦いの後に待ちわびている。

 ざわざわと波立つテスト当日は戦場に旅立つ若者たちの有様だ。
 手にした兵器はペン一つ、真っ白な雪原を戦場に、和平への扉へと駆け抜ける。

 「まきむー、ヤマカン教えろいっ」

 切羽詰まった表情で飛び付いた同級生は兵隊を急襲する伏兵……ではなく、野犬だ。
 わおん!と心配そうに尻尾を降り続け、ぱたぱたと犬耳を慌てさせている女子生徒は、買ったばかりのように
手垢がほとんど付いていない真っさらなノートを拓人に見せ付けた。

559『コスプレの家庭教師』 ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:47:47 ID:eHBBJu6I0

 「久遠さんが悪いんじゃないの……。ちゃんと復習しないから」
 「数学なんかわからんちんっ」

 残念ながらこちらもテスト対策で余裕などないから、いち女子・久遠荵に構っている暇はない。
 困り果てた顔で振り切ろうと席を立った拓人のその細く白い腕を荵はがぶりと噛み付いた。

 「まきむーが勉強したこと、全部忘れろっ」
 「むちゃくちゃな」

 どうしてこうも自分の周りの女子は、こうも尋常でない者ばかりなのか。
 ぼくはただ清く正しく大人しい学園生活を送りたいだけなのに。

 とにかく教室から逃げ去ろう。貴重な休憩時間を荵のわんわんに費やすのは悲しいことだが、背に腹は返られない。
 ぶんぶんと腕に絡まる荵を薙ぎ払おうと、拓人は慌てふためいていると、とみに腕の感覚が軽くなった。荵が尻尾を巻いて、
耳を抑え、きゅんと小さくなってしゃがんでいるのだ。

 「み、京先輩っ。耳は弱いんだなっ」

 荵の背後で魔法少女の決めポーズよろしく、出入口近くで教室の床を踏み締めていたのは、紛れもなく秋月京だった。

 「さあ、いちゃいちゃはここまで。言うこと聞かないと、また耳に息吹き掛けちゃうわよ?」

 荵の弱点を掴み、手の平で転がす京の魔術に拓人は感謝を込めて突っ込んだ。
 京からは『つっこんで(はあと)オーラ』ぷんぷんなのだから、突っ込むのは礼儀以外の何者ではなかった。
 このときばかりは。

 「そのメイド服、この前ぼくが着ていたものですね」
 「そうね」

 拓人の奇妙なものを見る目に京は何故どうしてと目を白くして、一通の封書を拓人に渡した。確かにそうだ。
 フリルあしらわれ、コケティッシュな香り漂うワンピースタイプのメイド服。おまけに猫耳尻尾のオプション付きだ。
小柄な拓人が着ていたときにはさほど感じなかったが、身長のある京が身につけると自然にスカート丈が短くなる。

560『コスプレの家庭教師』 ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:48:04 ID:eHBBJu6I0
 「女の子がメイド服着てておかしい?」
 「いや……おかしくはないんですが」

 教室、もっと言えばテスト開始前の教室に猫耳メイドのコスプレだ。拓人やカタギの人間の目線からすれば奇妙な光景だが、
心底コスプレに陶酔している京からすれば、制服に毛が生えた程度のことなのでなんともないらしい。
 京は手にしていた小さな淡い桃色の封筒を拓人に手渡した。 

 「じゃ、お手紙よんでね。テスト頑張って、待ってるわ」
 「京先輩もテストですよね?」

 猫尻尾を揺らしながら教室を去る京の姿を荵は遠い目で眺めていた。
 間もなくテスト開始の鈴が鳴る。


     #

 
 テストはつつがなく終わった。
 冷静さを取り戻しつつ、わんわんを忘れると案外自分でも覚えているんもんだと、
頭をすっと夏の風を吹かせていた拓人はテストの間すらすらとシャーペンを滑らせていた。
 ただ、この効能を京のコスプレのお陰だとは思いたくはなかった。

 「むずいっ、むずかったっ。まきむーのばかばかっ」

 折角、勝利の余韻に浸っていたのに久遠荵が邪魔をする。
 八つ当たりのように拓人の腕に噛み付く荵を引きずりながら、拓人は昼休みの廊下を急ぐ。

 「どこに行くっ」
 「中庭だよ」
 「なぜにっ」

 正解は『京が呼ぶから』。
 理由を言う必要はないと判断した拓人が中庭に出ると、職員室の窓にメイド服姿の京が硬い表情で立たされているのを目撃した。
 四角い窓の範囲からは、誰と向かって立っているのかは判断しかねる。おそらく、おそらくだが、教師の誰かに呼び出されたのだろう。
 「そんな格好でテストを受けるつもりなのか」と一喝されているのだろう。拓人の勝手な想像だが、あながち間違っている自信はない。
 憮然とした表情の京は反撃を食らわせることなどは控え、ぐっとその場を耐え忍んでいた。

 「わおっ」

 執拗に拓人の足を踏んでくる荵に気をとられて脇見をしていると、職員室の窓から京は姿をくらませていた。

561『コスプレの家庭教師』 ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:50:25 ID:eHBBJu6I0
     #


 拓人が京が指定した場所に着くと、小さなお茶会が設営されていた。
 緑いっぱいの芝生に立てられた日傘、洋風のテーブルに品のよい腰掛。
 据えられたケーキスタンドに並ぶ洋菓子からは、甘い香りと気品がふわりと蝶のように舞う。
 白く光を反射して、花の絵柄に彩られたティーセット。カップとソーサーが触れ合う磁器の音色の調べはちょっとした音楽会だ。

 「ようこそ。牧村くん……に?」

 シフォンケーキを片手にメイド服姿の一人の娘が拓人と荵を招き入れた。
 
 「わおっ」
 「あの……久遠さんは、勝手に」
 「香りがわたしを呼びつけるっ」

 拓人の足をぎゅっと両腕で握り締めて、拓人に引きずられる荵に対しても娘はにっこりと微笑み返し。
 
 さあ、牧村くん。
 お茶会の始まりよ。
 聞き分けの無い仔犬を連れて、わたし秋月京からのささやかな贈り物をどうぞ。

 「テストを頑張ったごほうびよ」
 「……どういう基準で」
 「お姉さんの贈り物は、お姉さんがお姉さんのうちに頂いておくものよ」

 ケーキを一口つまんだ京のの口が、たった一歳上だけなのに遥かにオトナに見えてくる。少女から魔女へ。
 魔女の魔法は解け難く、気がつけば拓人と荵は京の宴に酔いしれる至福の時間を共有していた。
 外で頂くケーキがこんなにも美味だとは。拓人は白い肌を季節外れの桜色に染めた。

 「さ。次の召し物は神戸屋かなぁ。肌のきれいな牧村くんには空色のギンガムチェックが似合うわ」
 「うらやましいぞっ」
 「今度は牧村くんがわたしにごほうびをしてくれる番よ?」

 拓人はケーキを口にしたことを後悔した。
 
 

    おしまい。


牧村くんらんどだよ!わぁい!
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/867/makimura_maid01.jpg

562 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/18(土) 21:48:59 ID:.QHLjfZI0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ キョウノ トウカハ バンガイヘン・・・
   {  /   ヒビキニ セマル ジンブツノ ショウタイトハ・・・
   ヽj

>>557-561
前回に引き続き、投下乙です。
何と言いますか、こういう『学生たちが自由に動いて学園生活を送っている風景』が思い浮かぶ描写、
流行りの言葉で言うなら『ありのままの姿見せ』てる雰囲気って好きです。

563 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/18(土) 21:56:27 ID:.QHLjfZI0
その出来事のきっかけは、和太鼓サークル部長である達磨オルドの一言からであった。

ある土曜日の午後、粟手ヒビキは仁科学園中等部での午前授業を終え、制服姿のまま公民館へ参上、
ジャージに着替えて和太鼓の練習へと傾れ込む予定……のはずが、彼女を待っていたのは『別の用事』だった。
「柚鈴天神社……ですか?」
仁科学園のジャージを着たヒビキがオルドに問いかける。
「ああ……申し訳ないが、今日はそっちに行ってくれるか?」
「分かりましたけど……どーして私が?」
「神柚くんからの指名なんだ。和太鼓に慣れてて、かつ仁科学園の生徒で……ってね?」
「なるほど……で、要件は?」
「いや、その……僕もよく知らないんだ。まあ、彼女に詳しく聞いてみるのが一番かもね。」
「……うーむ、不安だぁ。」
『不安』と言いつつも、いつもの呑気な表情を浮かべるヒビキ。
しかし、その表情を延々と見せ続ける訳にもいかないため、彼女はジャージ姿のまま荷物を抱えて柚鈴天神社へと向かうのであった。

それから十数分後、ヒビキの姿は柚鈴天神社内にある建物の一室にあった。
用意された座布団の上にちょこんと座るヒビキ、その体は誰が見ても分かるくらい強い緊張感に包まれていた。
理由はいくつかある。
「何故、私は柚鈴天神社の人に呼ばれたのか?」「これから何が始まるのか?」「神聖な場所だから静かにしてなくては」……だが、
一番の理由は『目の前に居る先客の女性』の存在感であった。
ヒビキの目の前に居る女性……その姿から察するに仁科学園高等部の制服を着ているのは分かる。
しかし、問題はその『容貌』にあった。
片方の眼(まなこ)を隠すほどに伸びた髪……パンツがチラリと見えているにも関わらず、
まるで問題が無いかのようにあぐらをかくその姿……背中には、まるで妖刀破軍を背負うかのように背負われたクラシックギター……
そして、何人も近づけさせないかのような雰囲気を醸し出して黙り続ける姿勢……それはまるで、
絵に描いたような『不良少女と呼ばれて』であった。
「えぇっと……。」
緊張しっぱなしの雰囲気に耐えきれず、持ち前の明るさで何とか目の前の女性に話しかけようとするヒビキ。
しかし、彼女が動こうとする度に女性の眼は、まるで威嚇するかのようにギョロリと動くため、結局ヒビキは何も出来ないまま、
最終的には20分ほど目の前の女性と時間を共にするのであった。

564 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/18(土) 22:02:10 ID:.QHLjfZI0
「いやはや……大変遅くなりました。」
突如部屋の扉が開き、二人のもとへと現われる『巫女服姿の女性』。
それに対しヒビキは姿勢を正し、もう一人の女性はヒビキの時と同様に眼を動かすのみであった。
「初めまして、私は仁科学園高等部3年の神柚鈴絵……この神柚神社では巫女として宮司である父のお手伝いをしたりしてますわ。」
自己紹介をする鈴絵。
その言葉を聞き、『ああ、この人が達磨さんの言ってた「神柚くん」さんかぁ……』と思いながら、ヒビキが問いかける。
「……あ、私は中等部1年の粟手ヒビキです!ところで、神柚さん……御用件は何なんでしょうか?
 和太鼓サークルの達磨さんに何も教えてもらってないもので……。」
「そうね……結論から言うと、粟手さん……あと、天月さん……あなたたちに手伝って欲しいことがあるのよ。」
そう言って、先程から黙り続ける女性 = 天月音菜の方を見る鈴絵。
しかし、音菜は黙り続けていた。

……と言うより、何らかの事情で黙らざるを得ない雰囲気と化していた。

「……。」
「……?」
「……。」
沈黙が続く空間。
そんな時、鈴絵は何かに気付いたのか人差し指で『1』の形を作ると、
まるで気を注入するかのように露わとなっている音菜の足の裏へと突き刺すのであった。
ズブリとめり込む鈴絵の指。
その瞬間、音菜の体には決壊したダムから溢れた水の如く痛みと痺れが走り、
それに耐えられなくなった彼女は紙面で書き記せないほどの絶叫をあげながら、畳から50cmほど上空へと飛び上がるのだった。
「……くぅううう……神柚さん!何するんですかっ?!」
「やっぱり足が痺れてたのね。あぐらって意外と足に負荷掛かるのよ。」
「あ……それじゃあ、待ってる難しい顔してたのも……。」
「……そうだよ、足が痺れて動けなかったからだよ。粟手……だっけ?お前さんが来たからあぐら止めようと思ったけど、
 足の痺れが極限まで達して……言っとくが、お前さんが私のパンツ見てたことにコッチは気付いてたからな。」
「……う。」
「でも、別に責めはしねぇよ……コッチが原因の事故なんだし。」
「本当にすみません。天月さんが虎さんマークのパンツはいてたことについては墓場まで持っていきます。」
「……前言撤回。粟手、絶対に許さねえっ!!」
「ぴぃいいいい?!」

565 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/18(土) 22:08:13 ID:.QHLjfZI0
「パンツぐらいで喧嘩しないの。私のパンツ見せてあげるから機嫌直して……ほ〜ら、水玉模様。」
そう言って、長いスカートを捲し上げる鈴絵。

その光景に対し、対応は様々であった。
「うわぁ?!何やってるんですか、神柚さん?!?!」
ツッコミを入れる音菜。
「えぇっと……お二人のパンツ見せてもらったので、私もお見せした方が良いですよね。私はサメの……。」
そう言って、ジャージのズボンを下ろそうとするヒビキ。
その様子に、期待と鼻息を膨らませながら彼女の股に注目する鈴絵。
「てめぇら……いい加減にしろっ!!!」
再びツッコミを入れる音菜……であった。

「……ところで、神柚さん。今度こそ私たちを呼んだ理由を教えてください。
 『パンツの見せ合いのため』とか言ったら、いくら先輩でも怒りますよ。」
「さすがに違うわよ。これよ……コレ。」
そう言って、どこからか古い巻物を取り出す鈴絵。
その巻物を広げると、そこには年月の経過により薄まったインクで記号やら直線やらが描かれた……
まるでスパイの暗号文のような物が記されていた。
「……なーんですか?」
頭に疑問符を浮かべるヒビキ。
一方の音菜は、何かに気付いたのか口を開く。
「これって……もしかして、和琴とかで使う楽譜か?」
彼女の言葉を聞き、うなずく鈴絵。
「そう……これは柚鈴天神社に伝わる『英雄の詩』という祭事に演奏される曲、
 それを初代宮司……私の曾々お爺様が楽譜として書き起こした物です。」
「へー。」
理解したのかしていないのか分からない表情のまま、とりあえず返事をするヒビキ。
「そして、曾お爺様は楽譜完成後、自分の息子……つまり、お爺様にこう伝えたそうです。
 『99年後の例大祭になったらこの曲を演奏しなさい。そうすれば、次の99年後まで仁科の地の静寂は守られるだろう』……と。」
「ふーん……99年目の『柚鈴天神社例大祭』、通称『竜神祭』でこれを演奏……うん?」
突然、何かに気付く音菜。
「もしかして、今回私と粟手を呼んだ理由って……?」
「ええ、この曲を99年目……つまり、今年の『龍神祭』で私と演奏して欲しいのです。」
「おおっ、すごい!」
「ちょっ……待てよ!私の専門はギターだし、いくら和楽器の楽譜は読めても和楽器の演奏は無理だぞ!!」
「……と言うと思いましたので、ハイ。」
そう言って、音菜とヒビキに数枚組の楽譜を渡す鈴絵。
そこにはギター用、そして和太鼓用にコンバートされた『英雄の詩』の楽譜が記載されていたのであった。

566 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/18(土) 22:14:41 ID:.QHLjfZI0
「随分と用意周到だこと。でも、これは……クラシックよりもエレキの方がやりやすそうだなぁ……うん?どうした、粟手??」
何かに気付き、ヒビキに声をかける音菜。
その目線の先では、ヒビキが楽譜を手にしながら三度緊張の表情を見せる光景が展開されていた。
「うぅっ……和太鼓始めて数ヶ月……初めての人前での演奏……神事で用いられる神聖な曲……胃が痛い……。」
「……ったく、こんなんで大丈夫かよ。」
「まぁ、ゆっくり練習していきましょう。『龍神祭』まではまだ時間あるし。」
「でも……正直言って、不安しかないです。」
「落ち着いて、ヒビキちゃん。不安になることなんて無いわ……もし、不安になったらお姉さんたちが相談に乗ってあげるから。」
「……まあな。乗りかかった船だ、先輩としてサポートしてやるよ。」
「神柚さん……天月さん……。」
「まったく……世話の焼ける後輩だよ。」
「私……絶対に和太鼓パート成功させます!お二人の水玉パンツと虎さんパンツに誓って!!」
「……余計なひと言さえなければ良い娘なんだろうな、コイツ。」
「ところで……ヒビキちゃんのパンツってどうなの?さっき見れなかったし。」
「ええ、ですからサメの……。」
「だ・か・らっ!堂々とストリップを始めるんじゃねぇっ!!」

こうして、不思議な組み合わせの女性バンドは結成され、『龍神祭』へ向けてプロジェクトが進みだすのだった。
つづく……?
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以上です、お目汚し失礼しました。
あと、既存キャラを改変してしまった感があるのですが・・・大丈夫でしょうか?

567 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/20(月) 22:02:41 ID:6upeOVjw0
今更ですが、>>565の訂正

× それを初代宮司……私の曾々お爺様が楽譜として書き起こした物です。

○ それを初代宮司……私の曾お爺様が楽譜として書き起こした物です。

568名無しさん@避難中:2014/10/21(火) 13:24:51 ID:4CCnOGyg0
天月さんは虎。
きっとホワイトタイガー

569名無しさん@避難中:2014/10/22(水) 01:30:27 ID:Hpi9Q2.g0
亜子「呼ばれた気がした」

570名無しさん@避難中:2014/10/22(水) 23:48:21 ID:CHlk60hs0
ならば、龍は…

571名無しさん@避難中:2014/10/25(土) 17:28:50 ID:0r7ExZss0
虎にライオン、鷲に烏に犬。

572名無しさん@避難中:2014/10/26(日) 07:12:17 ID:WXgKTkTY0
桃はどこじゃ

573ハロウィンの三人[1]:2014/10/31(金) 22:47:55 ID:qWKuS7Zs0

サイトウの場合;

 オレンジ色のケープを翻して、ネコ耳をつけた小学生くらいの女の子が走って行く。
 今日はハロウィンだ。いつの間にか、クリスマスやバレンタインと同じくらいメジャーなイベントになったと思う。
 本来は仮装するものだけど、一般の人はとんがり帽子をかぶるくらいがせいぜいだろう。コスプレイヤーじゃあるまいし。

 子供は無邪気でいいなと思う。Trick or Treatの、TreatばかりでTrickが無い気がするけど、はた迷惑なイタズラは
勘弁だから良しとする。

 その一方で、誰かが派手なイタズラをかましてくれないかな、とも思う。ふだんエラそうにしている連中に
一泡吹かせるような、痛快なやつを。

 それを自分がするわけじゃない。誰かが大きなことをするのを期待して、それを見ている側にいる。

 大きなイタズラって、なんだろう。

 学校のプールに金魚を大量に投入する? もうプールの授業はないから、これはダメだ。
 校庭にナスカの地上絵ばりの落書きを……って、どこかで見たようなネタだな。
 チョークを全部クレヨンに替えとくのは? 後始末が大変そうだ。見た目でバレそうだし。

 いろいろネタを考えても、結局実行はしないだろうなと思う。

 世の中がもっと面白くなればいいと思う。ライトノベルではある日突然主人公が超能力に目覚める、というのが
定番のひとつだけど、いっそのこと世界中の人間ぜんぶが超能力者になっちゃったら……。
 超能力者どうしのバトルも、クラスメイトとのケンカ程度の当たり前具合なんだろうか。それはカオスなのか、
はたまたギャグなのか。

 よく分からないけど、もしそうなったら僕はどんな能力を持つんだろう?

574ハロウィンの三人[2]:2014/10/31(金) 22:51:15 ID:qWKuS7Zs0

ナギサワの場合;

「トリック・オア・トリート!」
「あ、かわいい。それ、どうしたの?」

 ニシトちゃんが右手にはめているカボチャ頭のパペットが、両手を上げたり下げたりしている。
「手芸部でもらったの」
「へぇ。こんなのくれるんだ」

 カボチャ頭はユーモラスな顔で、パジャマのような服を着ている。

「ナギちゃんもお菓子くれなきゃイタズラするぞ〜」
声色を変えて、ニシトちゃんが小芝居を打つ。
「えー。なにか持ってたかな?」

 大抵のコはアメかチョコかクッキーかをカバンに常備しているけれど、わたしは入れていないことが多い。
グループでいるとなにかと“おすそ分け”があるので、もらってばかりでは申しわけないから持っておくようにしようと
思うのだけど、習慣がないと忘れがちだ。ニシトちゃんはそういうのをまったく気にせず、逆にわたしが引け目に
思わないようフォローしてくれる。例えば、こんなふうに。

「ワシにシュークリームを食べさせたまえぇぇ。近くのあのお店でなければ呪いをかけるぅぅ」
ヘンな声色のまま、ニシトちゃん(のパペット)が言う。

「わかったよ。帰りに寄ってこ」
言いながら、カボチャ頭をぽんぽんと叩いた。
 ニシトちゃんは、作戦どおり、という笑みを浮かべた。

575ハロウィンの三人[3]:2014/10/31(金) 22:55:03 ID:qWKuS7Zs0

タカハシの場合;

 原付に跨って信号待ちをしていると、通りに面した不動産屋から、魔女の格好をしたガキどもが大勢出てきて
横断歩道を渡っていった。

――あれ、そういやここは……。

 小学生の頃、塾に通わされていた。自分の意志で行っていたわけじゃない。
 個人でやっている小さな塾で、私立のお受験とは無縁のところだ。1階が不動産屋になっている雑居ビルの2階にあって、
同じフロアに雀荘とスナックが入っていた。今にして思えば、とても子供の教育環境としてふさわしくない場所だったが、
当時はそこがどういうところかも分かっていなかったので、なんとも思わなかった。

 ごくたまに大人たちとすれ違ったが、なんとなく近寄りがたい雰囲気があったのはそのせいだったと、気づいたのは
小学校卒業と同時に塾を辞めた後だった。

 そのビルが、信号待ちをしているオレの左側にある。普段は原付で通り過ぎるだけなので、すっかりそのことを忘れていた。
 1階の不動産屋は別の会社になっていた。テレビでCMもやっている小奇麗なやつだ。雑居ビルの上を見上げると、2階は
旅行会社になっていた。オレの通っていた塾も雀荘もスナックも、無くなってしまったらしい。

――諸行無常、ってやつか。

 店も人も、いつまでも良い時が続くわけじゃない。落ちぶれて去っていくのは必ずいる。
 今日だけは、どんなにヘンテコな格好をしてても怪しまれなさそうだ。コンビニ強盗をやるならハロウィンに限る。
ストッキングをかぶるよりもオオカミ男のフリのほうがバレないだろう。

576名無しさん@避難中:2014/10/31(金) 23:04:40 ID:qWKuS7Zs0
↑以上で
時事小ネタです。学園あんまし関係なくなってるけど・・・

>わんこ ◆TC02kfS2Q2 さま
遅ればせながら、コラボありがとうございます!
めっちゃニヤニヤしながら読みましたw 良いかたちでお返しできず、すみません。


◆46YdzwwxxU さま もありがとうございます! 
卓上同好会は当初、サ(ry を所属させようかと思っていました。しかしキャラ濃いなあw

クロス不得意なので反応乏しいですが、使って頂けた作品はどれも嬉しく読ませて頂いています。
ありがとうございました

577名無しさん@避難中:2014/11/08(土) 22:58:58 ID:fKMkeNa.0
ワン・ダブル・サードのシリーズ大好きだ!
もっと、いじくりこんにゃくしていいですか?

578名無しさん@避難中:2014/11/14(金) 20:15:13 ID:MpXo4X9A0
>>551>>552
天江ルナルナと水玉パンツ先輩です。
イキます。

579わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/11/14(金) 20:16:00 ID:MpXo4X9A0

 油絵の筆を手に取ることと、王笏を掲げることはよく似ている。

 覇権を収め領土を好みの色に塗りたくる。思うがままに、無垢なる大地を凌辱する。土とキャンバス、ただそれだけの違いだ。
 そんな理屈を吹き飛ばす秋の嵐が五穀豊穣なる緑の波を立てて、白紙一杯に埋め尽くす快感を教えてくれる。
 神柚鈴絵・美術部部長。天高く蒼い空のもと、校庭で入魂の一作を描いていた。
 さっきまでの雨天も鳴りを潜めて灰色の空の存在さえも忘れてしまう。

 油の匂いは贅沢に、一筆一筆絵の具を丁寧にキャンバスに乗せながら、校庭が見せる四季の片隅を切り取るだけ。
 それだけで、誰もが目を引く一瞬をゼロから作り上げることが出来る。

 本調子の波がやって来る。逃がしまいと尻尾を掴む。
 四角四面のキャンバスに一つの世界が創成されるに瞬間に立ち会う。
 禁断の麻薬にも似た快感が突き抜ける。

 「九分九厘完成ね」

 虹が架かる。
 空の渚と渚を結ぶアーチ橋。
 鈴絵は自慢気に七色の曲線を筆で描いた。

 最後の一筆を突き立てた刹那、閃光が鈴絵の前に稲光り、世界が二つに引き裂かれた。モーゼが理性を失ったというのか。
 轟音と共に怒り狂うガイア。咎を受ける筋合いはなく、呆然と筆を抱えたままの鈴絵が声を蘇らせるとき、
凛とした目付きの少女が竹刀を中段の構えで大地を踏み締めている光景があった。

 「うぬぬぬ、おのれパンツ泥棒!」

 目に炎浮かべ、剣先を鈴絵に突き付けてじりりと尻足で間合いを取る少女。着こなしている制服から、中等部と見える。
 鈴絵は対話での解決は不可能、実力行使は不可避と見て、右手の筆を短剣に見立てて形だけ構えた。

 「誰がパンツ泥棒ですって」
 「足音を追い掛けてたんです。あなたのような大和撫子が悪事を働くとは、高等部である先輩とはいえ許しがたいです!」

 少女の竹刀が降り上がる。
 上段の構え。
 そのまま正面、と見せかけて右小手……とはいかず、竹刀が地面に落ちる。
 竹の乾いた音。
 少女の慟哭、そして苦悶。

580わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/11/14(金) 20:16:30 ID:MpXo4X9A0
 「筆に、筆に負けるなんて……」

 一瞬の隙を突いて、筆を矢のごとく突き投げた鈴絵の完勝だった。

 「一体なにがあったと言うんですか?」
 「い、いや。パンツ泥棒が」
 「わたしがパンツ泥棒とでも?」


      #


 「これより、格闘茶道部『奥叛通』練習試合を執り行います」

 体育館の片隅に設けられた茶室。大海原に浮かぶ方舟のよう。
 格闘茶道部部長・緒地憑(おちつき)イッサの宣言により、茶室がバトルフィールドへと変わり果てようとしていた。
雨上がりの風がひんやりと和室を駆け巡り、抹茶も深い味わいで愉しめるだろう。四季折々の景色と天気が変わるなら、
それに応じたたしなみ方があるのが茶道だ。

 清楚を絵にして飛び出したような部長の緒地憑は、静かに茶釜を柄杓でかき回し、ほんのりと茶室に湯気を上げる。
 一動作一動作隙のない振る舞いに、緊張感さえ漂い、お茶を楽しむ空気さえも感じることは出来なかった。
 無論、ここは、ただの茶道部ではなく格闘茶道部だからだと返せば、誰だって理解するだろう。
 緒地憑は湯を充分に温まった萩焼の茶碗に注ぎ、茶筅でリズムを取るように抹茶を立て始めた。
 澄んでいた湯も抹茶は茶筅が踊るほどに泡立ち、舌触り上品な抹茶へと生まれ変わる。

 「どうぞ」

 立て終わった抹茶を勧めるため、茶碗を正面で、そして正座で待つ天江ルナに渡した。
 耳元で悪魔が頬擦りしてくる。一頻り茶碗を回しているルナは暫く黙っていたが、作法では茶碗を褒めなければならない。
新入生のルナは緊張、動揺、そして理不尽ゆえに言葉を発することを遠退かせていた。

 ルナは剣道の達人だった。
 村の大会でも名を上げた実力者だ。
 自らの腕を鍛え上げるため、この学園の門を潜り、剣道部の門を叩いた……はずだった。

581わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/11/14(金) 20:16:51 ID:MpXo4X9A0

 「格闘茶道部に入ってもらいます」

 井の中の蛙ゆえの誤算。自分よりも腕のたつ者がいた。しかし、理不尽だ。
 剣道で慣れているはずの正座がやけに他人行儀に痺れる。
 足の指先の感覚が消え失せ、作り物にすり替えられた気分だ。
 スカートからちらりと見える健康的な太ももさえもほんのりと焦りの香りが漂い、涼しげな雨上がりの空気は、ルナの脚には厳しすぎる。

 「見事な……色合いで……」
 「青白縞模様!」

 矢のような声で緒地憑が叫ぶ。

 「ご、御名答」

 ちーん。

 脇の時計のスイッチを叩く。

 「三分二十五秒六一。膝上三寸三厘において新記録ね。でも、天江さんならもっと上を目指せるわ。次は膝上四寸にチャレンジね」

 自分の記録を示す時計を緒地憑は誇らしげに眺め、ルナはスカートの裾を両手で掴む。
 ここに奥叛通の一戦を終えた二人は一息をついた。
 足を痺れさせたルナの両足を擽る奥緒地は、バッグから取り出して得意気に茶室に並べられたパンツ……ショーツを披露した。
 一見、容疑者から押収した物品のようにも見えるが、これはれっきとした試合道具だ。

 「奥叛通(おぱんつ)の意味するところは、女性らしさの追及だわ。何事にも動じない古来からの大和魂の継承かしら」
 「お茶を頂く間、正座した脚からパンツを覗く……ことがですか。理解できません」
 「それは天江さんにまだまだ隙があるからだわ。剣道の読みと奥叛通は通じるものを感じない?」
 「全く感じません」
 「しかし、天江さんは才能あるわ。たどたどしく茶器を褒める演技で気を引かせて、太ももから視線を反らす。策士だわ。
  ただ、薄暗い箇所でも可視性の高い明るめの縞パンを選択したのは、まだまだだったわね」

 パンツの話に変わると饒舌さを極め、緒地憑はくまさんパンツを手に話を続けた。

 「パンツ言葉をご存知かしら。縞パンは『恥じらい』、黒のレースは『高潔』。そして、水玉パンツは……あれ、ない!水玉パンツが!」

 事件勃発。
 水玉パンツ窃盗事件。

582わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/11/14(金) 20:17:08 ID:MpXo4X9A0

 「どうしましょう」
 「どうしましょうって」
 「確か更衣室に居るときには見たはずなのよね。そしてバッグにパンツたちを取り込んで一旦出た後、
  練習試合の準備で更衣室に戻ったの。それ以降目にしていないってことは」

 不穏な空気が流れる。ふすまを開ければ虹が見えた。さわやか爽快の気分が吹っ飛んだ。

 「わかるわね。パンツ泥棒が更衣室に忍び込んだってことね。キラッ」

 チェキのポーズを構えた緒地憑にルナは赤面した後に憤怒の表情で立ち上がった。痺れた足はルナを豪快に転倒させた。


     #


 「それで、パンツ泥棒はどこに逃げたのかしら」
 「う……。パ、パンツ泥棒!盗人猛々しいとは」
 「残念ながらその時間、わたしはここにいたわ。物理的にパンツを奪い去ることは不可能ね」

 地面に散らばったキャンバスの切れ端を拾い上げる屈辱は、ほんの十分前からすれば予想だにしなかったことで、
千年の恋が破れたぐらいに胸を引き裂かれる思いだった。それに加えてパンツ泥棒との濡れ衣だ。

 無実を証明するために鈴絵は切れ端を天江に見せた。

 「ご覧なさい。切れ端から虹が見えるでしょ。この雨上がりを切り取りたくて、キャンバスを掲げたのよ」

 確かにこの時間は空に虹が出ていた。
 タイムマシンが発明されたなら、もう一度その時間にまで遡り、同じ天体ショウを観賞したくなるほどの眺めるだったらしい。

 「虹ぐらいいつでも描けるはずだ!」
 「そうかしら。絵は気持ちで描くものよ。虹を見ずして虹なんて描けるかしらね?」

 鈴絵の台詞が終わるか終わらないと同時に、ぱしんと竹刀を水平に振って、キャンバスの切れ端をはたき上げた天江ルナ。
剣の達人とは言え、不安定な年頃の娘の行動に鈴絵は軽く口角を震わせた。

 「ええ。素晴らしい刀裁きですわね。戦国の世に生を受けなかったことが全ての不運ですのね」
 「ルナ!それまで!パンツ泥棒はいなかった!」
 「はっ」

583わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/11/14(金) 20:17:54 ID:MpXo4X9A0

 竹刀を構えた少女がもう一人。
 清楚を絵にしたような、季節外れの桜が咲いた。
 竹刀の先には水玉パンツ、虹の欠片を引っ掻けて。

 「部長……。あったんですか?」
 「ごめんなさいね。準備していた水玉パンツがなくなった。何処にいったって必死に探した。
  だけど、額の上のメガネを探すお父さんと同じわけだったのね」
 「すなわち?」
 「だから、『額の上のメガネを探すお父さん』」

 緒地憑部長はスカートの裾を指先で摘んでルナに答えを促した。

 「そうだ。パンツ言葉の続きです。これを心に止めておくだけで、『奥叛通』を深く味わうことができます。
  縞パンは『恥じらい』、黒のレースは『高潔』。そして、水玉パンツは……」
 
 鈴絵の眉がかすかに動く。剣士が風を読み取るように。
 緒地憑は人差し指をくちびるに当てて、恋人を焦らす味付けでパンツ言葉を繋いだ。

 「水玉パンツは『繊細』」

 ルナは口をつぐんだまま鈴絵の描いていた絵の切れ端を拾った。

 「はっ。繊細?なんですね」
 「え?なんですって?」

 緒地憑の言葉に動揺し、そして軽く笑みを見せていたのは鈴絵だった。
 曲線が美しい七色の虹がルナの持つキャンバスの切れ端に光っていた。


   おしまい。
 
「うぐぐぐ」
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/877/amae01.jpg

584 ◆n2NZhSPBXU:2014/11/16(日) 09:05:03 ID:7JohDt460
>>578-583
投下乙です。
・・・今更ですが、『格闘茶道部』ってこういう部活だったんですね。

ライト「正座時のわずかな隙間からパンツの柄を当てる『奥叛通』……実に興味深い。」
ル ナ「……お父さん、そのセリフ回しだと『園崎家』の人みたいになってるけど……。」  サイクロン! >[]
ライト「俺には見えている……この『奥叛通』に勝つ姿が!!」
ル ナ「……もうツッコむの止めた方が良い?」  トッキューイチゴー>皿]

それと、以前のトリスに続いて、ルナのイラスト化もサンクスです。

585名無しさん@避難中:2014/11/24(月) 20:30:22 ID:cg/z.yDQ0
ちょっとずつ中等部が動き出した。
初等部って、誰か…

586わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/12/24(水) 19:30:26 ID:eSHkUWt20

 「迫先輩から演劇を奪い去ったらどうなりますかっ」

 どうする。迫文彦・演劇部部長をつとめる高等部三年生。
 考えたこともないシチュエーションだ。だから咄嗟に答えは出ない。
 目の前は真っ暗だ。

 「黒咲、前が見えない」

 演劇部の部長だからこそ、そんなイマジネーションを働かさせるスキルは必要じゃないかと後悔しても、
あまりにも迫にとってはありえない世界。マフラーを巻いて、学園前の停留所にてバスの到着を待ち続ける放課後。
 黒咲あかねは迫の背後に廻って、両手で迫の視界を遮り続けていた。

 ひんやりとするオンナノコの手のひらが、迫のまぶたを塞ぎ続け、ほのかにオトコノコの頬を赤くする。
 メガネを愛用している迫が、ふとレンズを拭こうとメガネを外した瞬間にあかねに羽交い締めされた上、
あろうことにも視界を遮られた。小娘ごときに身柄をほしいままにされるとはこのことか。
 メガネが役割を失って暇をもて余していた。

 「どうなると思う?黒咲わかるか?」
 「わかりませんっ」

 真っ暗だからあかねの声がよく聞こえる。五感のうちの一つの自由が奪われただけで、鼓膜のスキルが加速する。
あかねの表情を伺えないのは悔しい。冷静さを保ちつつ、先輩の面目をも保つ。冬の夕暮れの無理ゲーだ。クリアしても得はない。
 意図もせずに迫はあかねを十分にじらした上に端的に答えをまとめた。

 「それでもおれは演劇を追い続けるな」

 あかねの表情が変わった。勿論、迫は知る由もない。

 「止められてもですか」
 「ああ。知ってるだろ。おれの性格を」
 「どんなに尊敬する人物から咎められてもですか?」
 「ああ」
 「わたしのような若輩者が拝み倒してもですか」
 
 自他共に認める演劇バカ。
 だからこそ、演劇部の部長をつとめているんだと、迫は自負していた。
 そう言えば、演技指導に力を入れるあまりに声が大きくなっていた。
 そう言えば、脚本にこだわるあまりに議論を重ねに重ね、先輩と対立してしまった。

 それ故、公演を無事に終えた喜びは文字にすら書き表すことも困難なぐらい。贅沢過ぎる一瞬の為。

 「一秒たりとも部のこと、演劇のこと、部のことを忘れたことないぞ」
 「部のことが恋人みたいですねっ」
 「……」
 「わたしのこともですかっ」

587わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/12/24(水) 19:30:50 ID:eSHkUWt20
 あかねの白い息が迫の後頭部に吹きかかった。迫よりも背が高いあかねだから。
 先輩の襟首がマフラーで見えないことが、どうしようもできないもどかしさであかねは眉を吊り上げる。
迫の返事が続かないこともあかねの心中を濁す原因の一つでもあった。

 「今、わたし。台本書いてるんですっ。まだ、部員の誰にも見せてない書き下ろしですっ」
 「おれにも見せてくれ」
 「まだですっ。だからこうして目隠ししてますっ」
 「どんな話かぐらいは教えてくれ」

 初めてあかねは笑みを見せた。ただ、迫には見えないが。
 先輩の肌は優しい。無駄に潤いがある。いつまでも迫の顔を塞いでいたいとう邪心があかねを揺さぶる。
 こんなにすべすべとした体で、どうしてあんなに厳しい鬼のような言葉を投げつけられるのか。
 演劇に魂を売りつくしてしまった故か。

 「笑わないで下さいっ」

 くすりとも頬を緩ませることのない迫に、あかねがぽつんと呟いて中指に力を入れていた。

 あかねの書いたストーリーは単純だった。
 高校生同士のごく普通の恋愛。
 ありふれて、風の流れに吹き飛ばされそうなぐらい。恥ずかしくも、初々しくもある、男女のすれ違い。
 恋愛なんかあまたの数存在するだろうに、思春期のころの恋愛がまるで一生かけて稼ぐ金でも買うことが出来ない値が付くような。
 だからこそ、誰もがよってたかって物語にしようとするのだろう。

 「でも、途中で書けなくなりましたっ。どうしてでしょう」

 迫を包んだ黒の世界が灰色に染まる。
 ぱぁっと、あかねが手を離したからだ。途端に迫の顔が冷される。全ては冬の空気のせい。迫が振り返りメガネをかけると、
既にあかねの表情から笑みが消えていた。あかねの演技について迫が一言二言鞭打っているときに見せる顔だった。

 「失恋がどういうものか分からないからですっ」

 誰かを好きになっても、傷付くことに怯えていた。
 遠くから花を眺めていることで、自分自身を守っていた。
 誰かのコイバナを傍で聞いていて、「わー」「きゃー」騒ぐだけの存在でいることが楽しかった。
 失うことの価値すら知らずに、桜の木々をやり過ごし、海の恩恵も得ず、一雨ごとに冷たくなる通学路を通り抜け、
そして雨後の夕焼けの美しい季節を無駄にしていた。

 「主人公の男子が失恋することから物語は始まります。でも、書き出しが書けないんですっ」
 「なにも書けてないんじゃないのか」

 演劇部の端くれだと自負しているだけに、そこは強く否定した。

588わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/12/24(水) 19:31:09 ID:eSHkUWt20
 「でも、大丈夫です。迫先輩の言葉で救われましたっ」

 迫の乗るバスが停留所に到着した。ブザーの音で扉が開き家路へと誘う。
 お乗り間違えがございませんように。
 だが、迫には今やバスなど家路などどうでもよくなっていた。丁寧に、そしてそれを悟られないようにあかねの指先を観察する。

 あれはあかねがホンキで話している匂いだ。
 くんかくんかと嗅いでみてもいい。
 きっと、ウソをつく香りはしないはず。

 「恋人から振られても、振られても、その子のことはずっと忘れない。迫先輩って、男の子ですっ」
 「待て。そんなこと言ってないし、未練がましいなどもってのほかだ」
 「恋人にしたいぐらい演劇、演劇部のことが好きなんですよねっ。迫先輩のお陰で、いい台本が書けそうですっ」

 紅潮したあかねはぐっと拳を作り、ぐるりと踵を返した。長い黒髪がふわりと木枯らしの歩道に舞った。
 走り去るバスを追いかけるように、あかねは小走りする。
 すたすたと黒タイツに包まれた脚を学園へと走らせているあかねを呼ぶ声が響いた。

 迫だ。
 演劇部部長・迫文彦。
 人呼んで『演劇バカ』。

 「今から書くつもりだろ」

 その一言で救われる。
 言葉と言う文字は、武器にもなり、薬草にもなる。おいそれ使うわけにはいかないし、軽んじてはいけない。
 言葉の偉大な力を良く知るあかねは、頷くことによって返事に代えた。

 「おれも力になる」
 「わたしが書きたいんですっ」
 「演劇部でやるんだろ。おれの目を信じろ。悪いようにはしない」
 「そうするつもりですけど、お断りしますっ」

 乗るはずだったバスをやり過ごし、迫はマフラーを巻き直し大きく息を吐いた。
 恋人がどんどん遠ざかる。恋人が他人に戻るなんて、どんなにあがいても忘れられるわけないし。

 「とことん見てやるから、黒咲は書け」

 振られても、振られても、恋人のことを忘れられない迫のことだ。
 頷くことによって返事に代えたあかねは、迫の恋人との間を取り持つことにした。


 おしまい。


タロット企画。

【星】黒咲あかね
http://download4.getuploader.com/g/sousaku_2/889/akane_star.jpg
【法王】迫文彦
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/890/sako_THE+HIEROPHANT.jpg

589名無しさん@避難中:2014/12/29(月) 22:28:29 ID:BumTIIZo0
先輩!来年も閑花ちゃんの独壇場ですよ!

って、せんぱーい

590 ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:11:48 ID:HRkRpzMc0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ テンカイ テキ ニ
   {  /   ギロン ヲ ヨンダラ スミマセン゙・・・
   ヽj

『記憶の中の茶道部』第三話、ここからは若干独立した展開を考えているのですが、
もし皆さんが考えている展開を邪魔するようなことになってしまったら大変申し訳ないです。

591記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:14:18 ID:HRkRpzMc0
その『物語』は、天江ルナの耳に突然飛び込んだ『強烈なバイクのエンジン音』を開始のファンファーレとして始まった。
「?!……何、今のお……?!」
驚き、音の方向へ振り向くルナ……であったが、彼女は今自分が置かれている状況に気付き、再び驚いた。

見知らぬ空……見知らぬ大地……そして、そこには自分ひとり……。

自分は今まで……何をしていた?
……どうしても思い出せない……でも……少なくとも『ここ』には居なかった……。

ルナの頭をグルグルと駆け廻る疑問符。
だが、そんな彼女を放置するかのように『物語』は進行を始めていた。

「仁科学園ん〜っ!格闘茶道部ぅ〜うっ!!」

またしても彼女の耳に割り込む音……その声はどこかで聞いた覚えのある声ではあったが、混乱状態の彼女には判別出来なかった。
「今度はな……何アレ……!危ないっ!!」
とっさに横へ跳ぶルナ。
その直後、『白い大きな塊』がまるで,意志を持って彼女を叩き潰そうとしている流星かのように何個も飛来するのであった。

「ほ……本当に……な……何なの……よ……うん?」
ギリギリで全てを避け、息も絶え絶えになりながら『白い大きな塊』を見るルナ。

彼女は気付いた。
その塊は『文字』であること……そして、その塊群はある『言葉』を示していたことを……。

    / ̄フ           久    「 ̄ゝ 「 |    「 ̄ゝ 「 ̄ゝノス   「 二 二 二 二 7
  /  /  [ ̄ ̄ ̄フ   ム フ  ヽ/ | |   「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄フ   | |.   「 |   ||
 ム  く     ̄ ̄ ̄      」 L  「 ̄ゝ| |   ヽ_> ̄ ̄T  /    .| | |三 .三ヨ | |
  / /             [    ] ヽ/ / |     [二 ̄フ  ̄    | |  .[ 口 ]  | |
  / / [ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄フ    . 7 / [二二二  フ     ==' 丶==     | | .ム| |ヽゝ.| |
. / /   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      ../ /       ム/      く_/        L二 二 二 二」
.  ̄                 ̄
         格     闘     茶     道     部     編

                〜  記 憶 の 中 の 茶 道 部  〜

592記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:20:19 ID:HRkRpzMc0
「……これって……さっき聞こえた声と同じ……。」
呟くルナ。
その直後、彼女の耳に三度音が飛び込んできた……と言うよりは、彼女の脳内に直接アンプを取り付けられたかのように、
先程の声の主による,歌とも御経とも……言うなれば『音楽』と呼べるのかも不明なレベルの音が彼女を包み込んでいた。
「何……これ……。」
耳を押さえ、その場を逃げるように走り出すルナ。
その直後、彼女が駆け出したのが合図かのように爆炎が発生、その火柱は彼女を追いかけ回すかのようにジリジリと、
そして高熱と爆裂音を発しながら移動するのだった。
「何なのよ……何なのよ!」
声を荒らげる彼女。
だが、1〜2分すると彼女の脳内で強制再生されていた音は弱まり、爆炎もピタリと止まるのであった。
「……え?」
戸惑うルナ。

……だが、それは『終わり』ではなく『始まり』の合図であった。

『仁科学園中等部1年:天江ルナは格闘茶道部副部長である!』
突然聞こえてくる、聞き覚えがある声……しかし、ルナはその声の主の正体を思い出せずにいた。
『剣道部に入部しようとしたところを、格闘茶道部部長である御地憑イッサの魅力に取り憑かれ、
 彼女の物として格闘茶道部に入部したのだ!!』
「……。」
ただただ聞くしかなかったルナであったが、このナレーション風の言葉を聞いて、彼女はようやく声の主の正体を思い出す。
「部長……いや、御地憑イッサ!アンタ、一体何のつもりなんだ?!」
今までの仕打ちに怒りを覚え、声を荒らげながら空へ吠えるルナ。
「それに……何が『魅力に取り憑かれ』だ!嘘ついて格闘茶道部に……てか、
 茶道部というなの変態サークルに無理やり入れただけじゃないか!!」
『あら、そうでしたっけ?』
ナレーションのはずが、ルナの声に反応して答える天の声……いや、御地憑イッサ。
「この爆破と隕石攻撃は何なんだ!あと、不思議ソングまがいの騒音!!
 そんな卑怯な攻撃するぐらいなら、正々堂々勝負しろっ!!」

「……じゃあ、その前に私が相手してあげる!」
突然参戦する謎の声。
驚いたルナが声の方向を見るとそこには誰も居ない……ではなく、
気付いてもらおうとピョンピョコ跳ねる格闘茶道部員:粟手トリスの姿があった。
「……え?粟手さん??」
「うん!確かに、私は粟手トリスだよ!!でもね……『御地憑イッサでもありますの。』」
突然声色の変わるトリス。
その瞬間、ルナの目に映っていたはずのトリスは、まるで混線したホログラフィのように瞬間的ながらイッサの姿を映し、
そしてその手にはいつの間にか竹刀が握られていたのだった。
「何……これ……。」

593記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:25:21 ID:HRkRpzMc0
「ルナちゃあん、お姉ちゃんだけじゃあなかとよ。」
事態を飲み込めない状態にいるルナの肩へ、軽く手を置く謎の声の主……それは、彼女の親友であり、
またトリスの妹でもある粟手ヒビキであった……いや、正確に言うならば、彼女の姿もイッサの姿が時々混在する形で存在していた。
「何……何……なに?!」
「ルナちゃん……『あなたも私の物になりなさい』……格闘茶道部の仲間なんだから……。」
「私もお姉ちゃんを手伝うとね……『そうすれば、もう何も悩む必要なんて無い』……。」
『さあ、素直になって……そして、私の物になりなさい。』
「いや……いや……。」
極限状態に陥り、尻もちをついてその場に倒れ込むルナ。
だが、そんな彼女に構うこと無く、ふたりの少女たちはルナの体を『かごめかごめ』の要領で取り囲む。
ふたりで展開される『かごめかごめ』。
だが、その人数はいつの間にかひとり増え、またひとり増え……気が付いた時には、
『御地憑イッサの物』となった仁科学園の生徒で溢れかえる恐怖の塊と化していた。
『さあ……私の物になるのよ!』
空間全体に響き渡るイッサの声。
その声が号令となり、ルナを拘束するかのように動きながら取り囲んでいた生徒たちは移動を停止……そして、
彼女から全てを奪い去ろうとするかのようにルナへと一斉に飛び掛かるのであった。

目の前の光景が一瞬にして暗黒と化するルナ。

私という存在が消えようとしている……。

そんな気持ちがルナの心に芽生えたその時だった。
『あきらめるなぁああああっ!』
暗黒空間のどこかから聞こえてくる声……この声……聞き覚えがある……。
最後の力を振り絞り、目を開くルナ。

その目線の先に居たのは……自分と同じ仁科学園の……男子生徒……?

「待って!」
大声をあげるルナ。
その瞬間、彼女の体は暗黒空間と化していた夢の世界から解き放たれ、現実世界に存在する自室のベッドの上へと転移していた。
「……あれは……夢?」
今いる現状を頭の中で確認しつつ、叫びながら起きてしまったために鼓動が早まった心臓を落ち着かせようと深呼吸をするルナ。
そして、数往復ほど肺内の空気を交換させると、彼女は少し離れた場所に置いた目覚ましを手に取る。
「……6時45分……まあ、いいか。」
そう言って、彼女はベッドから降りると、居間へと向かうのであった。

594記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:30:19 ID:HRkRpzMc0
あの変な夢から数時間後……天江ルナは仁科学園中等部の校舎屋上にて、冬の透き通った空を見ていた。
ちょうど昼休みに入ったので、彼女は太陽に近い屋上で昼食を済ませると同時に『あの夢』について整理してみようと考えていた。
「あれは……夢……なのかな?」
自問自答する。

確かに、あんなカオスな世界観は夢以外に何物でも無い。
だが……『カオスな世界観』とは評したものの、妙なリアル感も存在していたのは確かであった。
そして、暗闇の中で聞こえた声……さらには薄らと見えた『男子学生』の存在……。

「自分という存在が消える……自分が自分で無くなる……。」
ポツリと呟くルナ。
そして、そのまま彼女は黙ってしまった……のだが、数秒して彼女の心の中にとある欲求が生まれる。
「……音楽聞こう。」
そう言って、弁当箱を入れていた手さげ袋の内ポケットをガサゴソと探すルナ。
そして、何かを掴んで持ち上げると、彼女の手には密閉型ビニール袋に入ったMP3プレイヤーが握られていた。
本来なら校則違反の代物であるが、ルナは妙な寂しさに襲われると、
父から誕生日プレゼントにもらったMP3プレイヤーで時々心を癒していたのだった。
「今日は……これだな。」
そう言って、MP3プレイヤーに登録した曲のうちのひとつを再生するルナ。
その直後、彼女の耳には軽快なエレキギターによるイントロが再生され、曲が彼女の体を包み込む。
「……良い……いつ聞いても良い……。」
しみじみするルナ。
「ギターも良い……歌詞も良い……サックスの音色も……サックス?」
突然、顔色が変わるルナ。

顔色が変わるのも無理は無かった。
何故なら、この曲は彼女が100回近く再生しているお気に入り曲……だからこそ、どんな曲であるかも、何で演奏されているかも知っている。
しかし、今自分の耳には今まで聞いたことの無いサックスの音色……まさか、101回目以降はボーナスで……何て聞いたことが無い。

「え?え?え?」
慌ててMP3プレイヤーのイヤフォンを外すルナ。

本来なら、もう彼女の耳に音楽は入ってこないはずである。
……だが、彼女の耳には『サックスの音のみ』が再生され続けていた。

「何……また夢なの……いや……いや……いやぁああああっ!!!」

595記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:35:04 ID:HRkRpzMc0
「?!」
学園内に響き渡るルナの悲鳴。
その直後、サックスの音は止み、ひとりの女性が彼女のもとへと駆けつける。
「どうした?」
女性の声にハッとし、女性を見るルナ。

……その女性の手には、一台のサックスが握られていた。

「……。」
「……?」
「……すみません、急に取り乱して……って、あれ?高等部の……神柚さん!」
「え……あ〜前にあなた、私をパンツ泥棒と勘違いした人ね。名前は……あ……あ……アルテミスちゃん?」
「ルナです、天江ルナです。」
「あら、ごめんなさい。」
「ところで……神柚さんって、確か美術部ですよね?……なのに、何故にサックスの練習を?」
そう言って、神柚鈴絵の手に握られたサックスを指差すルナ。
「これ?ちょっとね……今年の柚鈴天神社例大祭で神事の曲を演奏することになってね……その練習。」
「例大祭……あ〜確か、ヒビキさんも言ってたなぁ。『今度、「龍神祭」で和太鼓を高等部の先輩方と演奏するんだぁ』って。」
「あら、天江さんは粟手さんと知り合いなのね……ところで……さっき、どうしたの?急に大声あげて……。」
「あ……いえ……その……何と言いますか……『夢の続き』……みたいだったんで……。」
「……夢?」

鈴絵が問いかけたその時であった。
「ルナちゃ〜ん!」
彼女らの後ろから聞こえてくる、何者かの声。
その声に気付き、ふたり同時に声の方向を見ると、
その目線の先では先程彼女らの話題に少しだけ登場した粟手ヒビキ本人が手を振っていた。
「どうしたの、ヒビキさ〜ぁん?」
ルナが大声で問いかける。
「先生がルナちゃんを探してたよぉ〜!この前に提出してもらったプリントに不備があったんだってぇ〜!!」
ヒビキも同様に大声で答える。
「ありゃ……神柚さん、私はこれで失礼します。ウチのヒビキさんをよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げると、ルナは荷物を手に急いでヒビキの所へと急ぐのだった。

596記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:40:20 ID:HRkRpzMc0
「……どうしたの?」
周りからは誰も居なくなったはずの中等部校舎で声をあげる鈴絵。
その直後、今まで無かったはずの『もうひとりの気配』が現われ、彼女の前に影のような姿を見せる。
「あの子か……。」
ポツリとつぶやく『影』。
「……ええ、そしてもうひとり……。」
「『御地憑イッサ』……奴はどうする?」
「どうするもこうするも……天江さんの言葉から察するに、危機が迫っているのは確かね。」
そう言うと、鈴絵は『影』に問いかけた。
「ところで、あなたの方はどうなの?」
「予想通りだった……最悪の方のな。」
「そう……。」
「今は『用務員の姿を借りている』から何とかなっているが……それも時間の問題だ。」
「……Xデーは?」
「分からん。」
「……そんな即答するレベルなの?」
「ああ……確かに、危機は迫っている……だが、今出来るのは『タイミング』まで待つ……それのみだ。」
「そう……。」
「とりあえず……Xデーが来るまで、そのサックスは練習しとけ……また会おう。」
そう言うと『影』は一瞬にして屋上から姿を消すのだった。

天江ルナの夢に現われた、男子生徒の正体とは?
そして、神柚鈴絵と『影』の言う「危機」とは何なのか?!

大きな謎を残したまま、仁科学園中等部で展開される格闘茶道部の物語は、新たな局面を迎えようとしていた……。

つづく

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以上です。
お目汚し、失礼しました。

597名無しさん@避難中:2015/01/06(火) 13:11:44 ID:R37CzbeE0
仁科では貴重な熱血漢(?)だな、ルナルナは。
剣道少女とエレキのサウンドは、これまた意外というか新たな魅力ぼ取り合わせ。
つ、続きを…

598 ◆n2NZhSPBXU:2015/01/06(火) 21:42:50 ID:xsRLiLR60
>>597
ワタクシの駄文を読んでいただき、ありがとうございます。
続きに関しましては、少々お待ち下さい(多分、残り3〜4話を予定しています)。

ここで小ネタ解説と裏話。
前半の『ルナの悪夢』は、仮面ライダーV3のオープニングにマクー空間や幻夢界の風味を足したイメージで書いてます。

あと、当初は「他の方が提案されたキャラのイメージを壊したくない」という考えから自発キャラで主要ストーリーを展開していく予定でしたが、
番外編や奥叛通(おぱんつ)の話を組み込むにあたり、神柚鈴絵の出番が増える・・・といった状況になっています。

・・・一応、イメージを壊さないよう気をつけて入る・・・つもりです(汗)

次回は、ルナと『用務員の姿に似たあの人』との対話を予定してます。

599名無しさん@避難中:2015/01/10(土) 07:54:07 ID:pqXvoZMA0
仁科学園高等部入試模擬

激闘!天江ルナVS〇〇

〇〇を埋めよ。配点10

600 ◆n2NZhSPBXU:2015/01/12(月) 21:05:11 ID:.fU/j/aQ0
創作にあたって、ちょっとお聞きしたいこと。
女性用務員のよーちゃんに関して、本名の設定ってあります?(wikiを見る限りは見当たらなかったので)

もし無い場合、『横嶋菜(ヨコシマナ)キモチ』って名前を登場させたいのですが、大丈夫でしょうか?

601名無しさん@避難中:2015/01/13(火) 00:23:15 ID:RiMw6zdc0
記憶にある限りは無い気がする。とうとうよーちゃんの本名が明かされるのか!

602名無しさん@避難中:2015/01/13(火) 13:34:37 ID:tRtXEDcg0
用務員のよーちゃん、かわいいな。

603名無しさん@避難中:2015/01/16(金) 22:19:50 ID:WKOEamB20
>>600
お待ちしてますwww

登場させるときは、ぜびビジュアル面の描写を。
いいってことよ。

604 ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 22:48:22 ID:ou9wL54c0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ トウカペース オソクテ
   {  /   ホントウ ニ スミマセン・・・
   ヽj

15日ぶりの投下です。
お待ちしている方がいらっしゃるかどうか分かりませんが、もしいましたら・・・遅くなってすみませんでした。

あと、よーちゃんの名前ですが『横嶋菜ココロ』にしましたことを報告します。

605記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 22:52:37 ID:ou9wL54c0
その日の放課後、天江ルナはふたつの気持ちを胸に抱きながら、格闘茶道部の拠点となっている体育館内の茶室へと向かっていた。
彼女が抱く気持ち……ひとつは「また、面倒な部長の気まぐれを相手しなくちゃならないのか……」という『憂鬱』、
もうひとつは「そういえば、今日は粟手さんが新作茶菓子を持ってくるって言ってたっけ……それは楽しみかも」という『僅かな希望』。
そんなアンバランスな気持ちを抱いていたからか、彼女の表情は曇りつつも、口角のみは小刻みな嬉しさを表現するのであった。
「……むふ……ハッ、いかんいかん。」
無意識の笑みに気づき、自身の額を軽く叩くルナ。
そして気合いを入れ直し、あえて真面目な表情で茶室へと向かおうとした……その時、彼女の目線の先に見覚えのある学生が二人、
さらにルナの知らない女子学生が一人いることに彼女は気づくのであった。
「あれは……ヒビキさん?……それに、粟手さん!」
知った顔と気づき、声をかけようとするルナ。
だが、彼女の声が粟手トリス・ヒビキ姉妹の耳に届く前に、声を荒らげる存在がいた。
「てめぇ!どういうつもりなんだっ?!」
廊下にいる学生全員が振り返る程の音量で叫ぶ、ルナの知らない女子学生。
一方の粟手姉妹は、声の暴力に震えつつも、自分なりの意見を言うのだった。
「……だって……どうしても出来ないんです!何度練習しても……いつも、同じ場所で失敗して……もう……私なんて……才能無いんです!!」
「失敗するだぁ?そんなことで、簡単に何でも辞めちまうのか?!そんなことで、私や神柚さんを簡単に見捨てるつもりなのかよっ?!?!」
「だって……だって……。」
「止めてください、天月先輩!いくら高等部の方とはいえ、妹を泣かして何が楽しいんですか?!」
「何だと?!」
口喧嘩にまで発展する、粟手姉妹ともう一人の女子学生=天月音菜。
そんな光景を見て、ルナはすぐさま仲裁に入ろうとその場へ駆けつける。
「ちょっ……ちょっ……タンマ!ヒビキさんが何を……って、その制服は……。」
「……ぁん?誰だ、お前は??いきなり現われてファッションチェックったぁ……随分とふてぇい野郎だなぁ?!」
「ファッションチェックって……私は『神柚さん』と同じ高等部の制服だなぁって思っただけなのに……。」
ポツリと呟くルナ。
そんな時、一方の音菜はルナの発言の中にあったあるワードに態度を一変させるのだった。

606記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 22:57:53 ID:ou9wL54c0
「……お前、『神柚さん』の知り合いなのか?」
「……え……あ……まあ……簡単にはですが。」
「なら、話が早い。」
「……はい?」
突然の展開に、話の流れを掴み切れていないルナ。
一方の音菜は、彼女の思いに気付くこと無く、淡々と『自分が何故、粟手兄弟に迫っていたか?』を語りだす。
「俺は天月音菜、高等部の2年生だ……多分、神柚さんから聞いてるかもしれないが、
 俺と神袖さん、そして目の前の粟手ヒビキの三人で、再来週に行われる『龍神祭』で神事の曲を演奏する予定だったんだ。」
「ええ……ヒビキさんからではありますが、断片的に聞いてます。サックスとエレキと和太鼓と……って。」
「ところがなぁ……最近、ヒビキが練習に来なくなってな……んで、聞いたら『和太鼓はもう辞める』とか言い出したんだよ。」
「……え?」
音菜の言葉を聞き、驚きの表情を見せるルナ。
それもそのはず……彼女の知る粟手ヒビキにとって、和太鼓とゴーヤは『自身のフェイバリット(好物)』と称する程の存在であり、
特に前者に関しては仁科学園内に和太鼓に関連した部活動が無かったため、地元の公民館で行われている和太鼓サークルへ
わざわざ入部して練習する程の熱の入れようであった。
そんなヒビキが和太鼓を『辞める』……ルナには到底信じられない言葉であったのだ。
「ヒビキさん、本当なの?あんなに和太鼓好きだったのに……。」
「……うん……私さ、才能が無いんだ……何度練習しても、いつも同じ場所でつまづく……そんな状況で本番なんさ迎えたら……
 笑い者になるだけだ……。」
「ヒビキさん……。」
ヒビキの言葉に同情心が芽生えるルナ。
だが、音菜の表情は険しいままであった。
「……それだけじゃねぇだろ、ヒビキ……お前、俺にさっき何て言った?」
「……。」
口をつぐむヒビキ。
その返答に、音菜は再度怒りを露わにするのだった。
「てめぇが言わねぇなら、俺が言ってやる!『嫌な思いをして和太鼓を続けるぐらいなら、
 格闘茶道部でお茶菓子を食べながらお姉ちゃんとのほほんとした方が良い』ってな!!」
「……え?」

607記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 23:04:54 ID:ou9wL54c0
「演奏出来なくてつらいのは分かる……何度もつまずいて苦しいのは分かる……だがな、それを理由にして全てを投げだすのは無責任過ぎるだろ!
 俺や神袖さんへの気持ちが、ヒビキ……おめぇには無ぇのか?!第一、『格闘茶道部』とか訳の分からぇね部活動に変な思いを抱くんじゃねぇ!!!」
「……何と言うか、一応『副部長』という立場なものの……現に変な部活動だしなぁ……まあ……ヒビキさん、あの……天月さん……でしたっけ?」
「おう。」
「天月さんの言う通りだよ。どこぞの歌じゃないけどさ、『諦めたらココが終点』……今はつまずき続けていてもさ、
 どこかをきっかけに脱却して次のステップへ行けるよ。それにさぁ……格闘茶道部に変な理想を求め過ぎよ。」

「いいえ……格闘茶道部こそ、粟手ヒビキさんの求める理想郷ですわ。」

ヒビキを説得するルナの耳へ届く、最も聞きたくない人物の声。
その声の主は、寸分違わず『格闘茶道部 部長』の緒地憑イッサであった。

「うわぁ……面倒な時に……。」
おもわず呟くルナ。
一方のイッサは、何人も近づけさせないようなオーラを放ちながらヒビキの前に立ち、そして彼女の震えた手を握りながら語りだすのだった。
「それで良いのよ、トリスちゃんの妹さん。あなたは自身の欲望に従ったまでのこと……欲望という物は抑えれば抑えるほど、
 どこかで反発を起こして大爆発を起こす危険な存在……そんな危険物を心から取り除くのが、我らが『格闘茶道部』なのですから。」
「……初めて聞いたんですけど。」
ツッコミを入れるルナ。
しかし、イッサはそれを完全無視して語り続ける。
「トリスちゃんの妹さん、今日はあなたのお姉さんプロデュースによる新作茶菓子発表の日……せっかくなので、あなたもいらっしゃい。
 そして、欲望を解放させなさい。」
「はい、ぜ……」
「……っって、ちょっと待てぇ!」
『是非に』と言おうとしたヒビキの声を遮る音菜。
そんな様子を見て、イッサは呆れた表情を浮かべながら答える。
「……何ですか、先輩である高等部の方が可愛い後輩の邪魔をするとは……。」
「いや、ツッコまざるを得ないだろ!俺たちはヒビキの欲望からの弊害を……しかも有無を言わさず受け入れろって言うのか?!
 確かに可愛い後輩だが……限度ってもんがあるだろっ!!第一……。」
「……あんなお祭りのどこが良いのですか?」
「……何だと?!」
「99年目の龍神祭だか何だか知りませんが……そんなどうでも良いイベントの、どうでも良い演奏に付き合わされるぐらいなら……
 抹茶をすすって心を落ち着かせた方が何十倍・何百倍……いや、何万倍と有意義なことか……。」
冷たい言葉を吐き捨てるイッサ。
その言葉に、音菜の怒りは頂点へと達するのだった。

608記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 23:10:22 ID:ou9wL54c0
「ふざけるなっ!俺だけじゃない……神袖さんまで侮辱するようなその言動、俺がこの拳で砕いてやるっ!!」
そう言って、強く握った拳をイッサの頬目がけて振り落とそうとする音菜……であったが、次の瞬間、
彼女の体はイッサの目の前から姿を消していた……正確に言うならば、まるで『殴られて吹き飛ばされた』かのように
音菜の体は彼女らのいる場所から離れた場所に現われ、また吹き飛ばされたショックなのか、彼女の意識は気絶によって完全消失していた。

……いや……違う。
天月さんは意味も無く吹き飛んだんじゃない……吹き飛ばされたんだ……。

ルナを包む、疑惑の思い。
何故なら彼女は見てしまったのだ……音菜がイッサへと殴りかかった瞬間、イッサの体から『影のような存在』が飛び出し、
それが音菜へ逆襲していた様子を……。

突然の事態に黙り込む、ルナを含めた女性三人。
その一方で、イッサは涼しい顔のまま吹き飛ばされた音菜の方へと向かっていく。

「どうやら、あなたにも必要なようね……さあ、『私の物になりなさい』……粟手姉妹のように……。」

気絶して廊下の壁に横たわる音菜の頭へ、自身の手をかざそうとするイッサ。
……だが次の瞬間、彼女の手首を掴む存在が出現した……それは、天江ルナであった。
「副部長……?」
突然の事態に、初めて困惑の表情を浮かべるイッサ。
一方のルナは必死の表情を浮かべていた。

『私の物になりなさい』……その言葉が聞き違いでなければ……あの夢と関係があるかどうかは分からないが……でも、言えることはひとつ……。

この手を……離してはいけない!

その瞬間、彼女は意識を失った。

609記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 23:15:33 ID:ou9wL54c0
ルナには分からなかった。
ここがどこなのか……今が何時(いつ)なのか……。
そして……私が……誰なのか……。
暗闇を、まるで水面に浮かぶかのように無力のまま漂うルナ……その様相は、
まるで彼女の現状の気持ちを体現したかのようであった。
「私は……何?」
孤独な闇の中でポツリと呟くルナ。
しかし、その言葉に対して返答してくれる存在など居なかった。

「……お前は天江ルナ……唯一無二の存在だ。」

突然、耳に聞こえてくる謎の声。
その声にハッとしたルナが体を起き上がらせると……彼女を包んでいた漆黒の闇は消え去り、
その存在は仁科学園の保健室へと転移していた。
「……また……夢?」
「いや、一応は現実だ。」
ルナの言葉に答える謎の声。
冷や汗をかいたまま声の方向へ体を向けると、そこには用務員服を着た女性が立っていた。
一瞬、眼の位置まで伸びた黒髪を見て『天月さん?』と思うものの、
髪の隙間から見えていた物が眼ではなく牛乳瓶底のようなメガネだったことから、
その女性が自身の知らない人物であることにルナは気付くのだった。
「あなたは……?」
「私は横嶋菜ココロ……仁科唯一の女性用務員で、みんなからは『よーちゃん』って呼ばれてるわ。」
「はぁ……でも、どうして用務員さんが保健室に……ってか、私も何故に保健室に?」
「一応、医師免許持ってるからね、時々保健室の非常勤やってるのよ。
 あと、あなたは当然気絶して……確か、高等部の……私みたいな髪型の子が運んできてくれたわ。」
「多分、天月さんかな……ふぅ。」
なんとなく溜め息を出すルナ。
「ところで……あなたが天江ルナさん?」
突然、よーちゃんが話を切り出す。
「え……はい……って、あれ?名乗りましたっけ??」
「ううん、あなたのことを鈴絵ちゃんから聞いたのよ。」
「……鈴絵ちゃん?」
「そうそう、神袖鈴絵ちゃん。」
「神袖さんから……ですか?」
「それでね、ちょっと真面目なお話しをしたいんだけど……あ、ちょっと私の手を見て?」
「???」
言われるがままに、よーちゃんの手のひらを見るルナ。
その瞬間、彼女の手からは閃光のような物が発せられ、次の瞬間には……彼女は先程まで居た夢の世界へと逆戻りしていた。

610記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 23:20:39 ID:ou9wL54c0
「……え?」
先程とは違い、漆黒の水面の上で体を起き上がらせるルナ。
しかし、彼女の存在は夢の世界に留まり続けていた。
「ごめんね、天江さん。どうしても、マンツーマンで……かつ、邪魔が入らない場所で話したくて。」
突然聞こえてくる声。
水のように絡む闇を体から払いつつ声の方向へ体を方向転換させると、
その目線の先には……この雰囲気には全く似合わないアヒルをかたどったボート、
そしてそれを運転するよーちゃんというシュール極まりない光景が展開されていたのであった。
「……横嶋菜さん?」
「ハイ!さあ、乗って!!」
ルナのもとへボートを横付けし、彼女を引き挙げるよーちゃん。
一方のルナはボートに乗船したものの、全くの理解不能と化していた。
「あのぉ……横嶋菜さん?」
「天江さん……いや、ルナちゃん!何か堅苦しいから『よーちゃん』で良いよ。」
「え……あ……よーちゃん……さん、ここはどこなんです?」
「あなたの夢……と言うよりかは、あなたの心の世界ね。」
「私の……心?この闇の世界が?!」
「……ただ、これに関しては致し方ない『事情』があるのよ。」
「事情?」
「何から話したら良いか……まあ、とりあえず空を見てみて。」
そう言われ、スワンボートから首を出すルナ。
すると、先程まで何も無かった闇夜には無数の光が存在していた……そして、
その光はどれも地球のような形状および色彩を放つのであった。
「いいえ、あれは地球そのもの。」
突然答えるよーちゃん。
「地球……そのもの?」
「ルナちゃんは多次元宇宙論って分かる?」
「……ええ、SF世界で言うパラレルワールドってやつですよね?」
「御名答!この世界は小さな物事から大きな物事まで……とにかく多種多様なきっかけで細分化していき、
 異なる世界を無限に形成していってる……その結果が、この泡ブクみたいな多次元宇宙って訳。んで……あれを見て。」
そう言って、ある方向を指差すよーちゃん。
その方向には、空間に存在する地球の中で最も大きな形状を呈していた。

611記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 23:27:49 ID:ou9wL54c0
「大きい……けど……。」
「どうしたの?」
「何か……違和感を感じる。」
「そこまで分かれば、キミモPerfect Body!」
「……はい?」
「あの地球は他と違うの……まず、動きを見て。」
「動き……!」
ルナはハッとする。

他の地球は、かつて授業で習ったように、自転しながらその存在をアピールしつつ分裂を繰り返している。
しかし、あの大きな地球だけは自転どころか微動だにしない。
また、死細胞のように分裂もしない……それはまるで……。

「時が止まっている……100点よ。」
「!!!」
「……って、ごめんなさいね。先行して答えちゃって。」
頭を掻きながら、反省してい無さそうな言動で反省の弁を述べるよーちゃん。
「一体……あなたは?」
「……そういえば、名乗るの忘れてたわね。」
そう言うと、よーちゃんは牛乳瓶底メガネを外して外へと放り投げ、そして髪を両手で掻き上げながらこう答えるのだった。
「時空間を司る魔王の一人……まあ、本名はмуйынравоКって言うんだけど、人間界じゃ発音し難いせいか、
『魔王』って呼ばれてるわ……まあ、今は諸事情で『よーちゃん』の姿を借りるから、呼ばれ方はもっぱら『よーちゃん』だけど……。」
ゴムを取り出し、髪をポニーテールへと束ねるよーちゃん。
次の瞬間、彼女らが乗っていたスワンボートは姿を消し、二人の体も数多くの地球が姿を見せる夜空の中で位置を固定したまま漂っていた。
「よーちゃんが……魔王……?」
理解が追い付かず、混乱し始めるルナ。
一方のよーちゃんは服装を用務員服から、まるでファンタジー小説に登場するかのような白銀の頑丈な鎧へと姿を変え、
この世界の真相を語り始めるのであった。
「前提条件の説明は終わったから、次はこの世界の時間が止まった理由なんだけど……何から説明したら良いやら……
 まあ、まずは根底部分について説明しておいた方が良いか。」
「……根底?」
「ええ、止まった世界を作り出した張本人である緒地憑イッサ……いや、『天江夕子』のことについて。」
「!!!」

『天江夕子』……その言葉を聞いて、険しくなるルナの表情。

それもそのはず……何故なら『天江夕子』とは、行方不明になっているルナの母親の名前であったのだから……。

つづく

---------------------------------------------------------------------------------------------

以上です。
お目汚し失礼しました。

それと、天月音菜に関して一人称を『俺』にしましたが、このスレ的に大丈夫だったのでしょうか・・・?
(先週の新ウルトラマン列伝からインスパイアされて、俺っ娘にしたのは内緒です)

612名無しさん@避難中:2015/01/25(日) 14:08:00 ID:.ECF9eds0
すごいのきた!

613 ◆n2NZhSPBXU:2015/01/26(月) 21:42:41 ID:OuhiKqLw0
>>612
読んでいただき、ありがとうございます。

ただ、今さらではありますが今回アップした物はチェックが不十分だったか、誤字や入れとくべきだった文言の脱字が多いので、
もしよろしかったら最終回アップ後にまとめwikiのほうへ修正版をアップしたいのですが、よろしいでしょうか?

それと、現状報告。
第5話を書いている最中ですが、7割近くが説明台詞という現状に自分でゲンナリしています・・・。
そして、最終話に向けていかに物語の伏線を全て回収するかもキチンとまとまっておらず、そっちに関してもゲンナリしています・・・。

614 ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:21:23 ID:Rm4pITlY0
, - 、        バ  ノ
  ヽ/ 'A` )ノ ゴ  ク  ウエニ A
 {  /   アリエナ  ギル・   Aズレ・・・
        ヽj サス    ・・

カエルのおもちゃのAAを貼ろうとして、盛大に失敗したのは私です。
・・・そんなことはさておき、今日も人様への迷惑を省みずに投下です。

よろしかったら、お付き合いください。

615記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:25:44 ID:Rm4pITlY0
その夜、天江ライトは娘である天江ルナに何らかの『異変』が起きていることに気付いた。
いつもなら、ニコニコと笑いながら夕飯に手を伸ばし、そして今日学校で何があったかを楽しそうに語るはず……だが、
今日のルナの表情は暗く、また、ただひたすらに無言を貫き通しながら夕飯をゆっくりと食べるのみであった。
「ルナ……何か、学校であったのか?」
声をかけるライト。
しかし、ルナの口から言葉が返ってくることは無かった。
「……。」
「……。」
お互いに黙ることで、虚無な空間が展開される天江家の食卓。
だが、それを打開する策を思いつかないライトは、結局黙ったまま、娘が食事し終わるのを見つめるしかなかったのだった。

一方のルナも黙るしか出来ないでいた。
それもそのはず……彼女が魔王=横嶋菜ココロから聞いた『この世界の真実』は、簡単には受け入れがたい内容であったからだ。

「止まった世界を作り出した張本人である緒地憑イッサ……いや、『天江夕子』のことについて。」
「!!!」
数多くの地球が闇夜にきらめく、天江ルナの深層心理世界……その中を漂うルナとココロ。
そんな二人の間を通り抜けていった『天江夕子』の名前……それは、ルナが物心つく前に失踪したと父から聞いている母の名前であった。
「よーちゃんさん!どうして母の名前を?!それに……母が部長ってどういうことなんです?!?!」
大声をあげるルナ。
一方のココロは、今だに何から説明したら良いか戸惑っているものの、話の方向性について自分の中でようやく決着が着いたのか再び口を開き始めた。
「まず……何故、あなたの母親である天江夕子が緒地憑イッサとしてこの世界に存在しているのか?
 緒地憑イッサ……あれは天江夕子の肉体を借りているから人間の体(てい)を成してるけど、本当は私と同じ……いや、
 私なんかよりもずぅううう……っと階級の低いランクの、時空間に住む魔族の一人だったの。」
「魔族……?」
「ええ……んで、その魔族ってのはね、仕事として……今ルナちゃんの空間を描いてる無数のパラレルワールドに関して、
 時には災いを起こして種の進化を促したり、時には幸いを与えて一時の平和を与えたり……あと、
 何らかのミスで時空間へと飛ばされてしまった種族を元の世界へ導いたり……んで、私はワタシで、
 上司の立場から指示や決定したり……ってな感じのを全体でやるんだけど……まあ、働きアリよろしく、
 中にはこの仕事に嫌気がさす魔族も少なからずいる訳でね……。」
「それが……部長……いや、緒地憑イッサ……。」
「Исса-обладал земли Вместе……あ、ルナちゃんに分かるように言うなら『緒地憑イッサ』ね。
 奴は『自分だけの世界』を得ようとして、我々魔族から離脱……あるパラレルワールドに侵入して世界を作り替えようとしたけど……奴はある失敗をした。」
「失敗……?」

616記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:31:03 ID:Rm4pITlY0
「『世・界・を・作・り・替・え・る』……と漢字・ひらがな合わせて8文字程度で簡単に片づけてるけど……元となった世界を作るだけでも、
 その行為には莫大な生命エネルギー……そして、何億・何十億もの年月が必要となる。それを、さらに自分の都合の良いように替えるってなると
 作った時の何倍もの年月かかるし……しかも、それをたった一人でやろうもんなら、私クラスのタフネスでも2万年経過したくらいで……ばたんきゅ〜だわさ。」
「……?待って下さい!でも……。」
「そう、だから緒地憑イッサ程度の低ランクな魔族には自分の世界を作り出すことなど無理なはず……だったの。
 でも、奴は我々の盲点を突いてきた……天江夕子の肉体を乗っ取るという方法でね。」
「母の肉体を……?」
「奴は、あるパラレルワールドに存在していたあなたの母……天江夕子の肉体を奪い、緒地憑イッサと名乗ることで自らを『その世界の意志のひとつ』となった
 ……さらに、奴は世界に自身の存在を認めさせただけでなく、その世界の意志そのものを完全に乗っ取るため、魔族としての力を解放し、
 その世界に住む存在へ『自分がこの世界の支配者である』という潜在意識を植え付けようとした……けど、これまた失敗。」
「……え?失敗??」
「うん、失敗……でも、この失敗が『最悪の事態』を引き起こしたのよ。緒地憑イッサの能力解放によって、
 その世界に住む人々には緒地憑イッサが世界の支配者であるという潜在意識が生まれ、奴自身が世界の意志となった……しかし、
 奴の不完全な能力解放によって、それは『世界を書き換えた』のではなく『新たなパラレルワールドを形成した』という形で成されたの。
 それが……『1年』という世界で時間が固定化された不完全な世界。」
「1年で……固定?」
「言うなれば……学園漫画でとかで見る、3月から4月に移行しても進級も進学もしない世界……かなぁ?
 でも……奴は、1年間限定とは言え『世界の支配者』になった。それと同時に時空間では大きな問題も発生した。」
「大きな問題って……まさか、あの地球の異様な肥大化ですか?」
「イエス……当たり前だけど、どの世界にも『時間』という概念は存在する。
 でも、緒地憑イッサの行為によって1年という概念しか存在しなくなった不完全な世界は、
 自身の世界を維持するために他のパラレルワールドも取り込むようになり……現状として、
 この時空間の中で最も大きな醜態を晒している訳。
 それだけじゃない……鈴絵ちゃんも……私が肉体を借りている横嶋菜という存在も……そして、
 あなたが知っている何人かの学生も、本来ならこの世界には存在していなかった。
 でも、世界間での吸収でこの世界の存在とされ……緒地憑イッサの物となった証として『名前』を奪われた。」
「名前を……?」
「横嶋菜心は横嶋菜ココロに……粟手響は粟手ヒビキに……天月音菜は天月オトナに……。」
「……!天月さんまでも?!」
「鈴絵ちゃんに関しては大丈夫だと思うけど……油断は出来ない。それに、今は数人のみの洗脳に済んでるけど、
 これを無限に続く1年の中で繰り返されたら……。」
「全ての世界が緒地憑イッサの物に……何か打開策は無いんですか?!」
声を荒らげるルナ。
それに対し、ココロは複雑な表情を浮かべた。
「……よーちゃんさん?」
「……あるにはあるの……ただ……分からないことが多いのよ。」

617記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:35:27 ID:Rm4pITlY0
「分からないこと……?」
「まず……!危ない!!」
突然、ルナを突き飛ばすココロ。
結果、突き飛ばされたことで体勢を崩したルナはそのまま落下し、再び漆黒の水辺へと着水するのだった。
「……ゲホッ……い……いきなり、何……?!」
声をかけようとしたその瞬間、彼女は自らの視界に入った光景を見てただただ呆然とするのみであった。

闇夜に浮かぶ、時間の止まった大きな地球……だが、それは周囲の地球を無尽蔵に吸収しながら肥大化、
唯一無二の存在と化しようとしていた。
それだけではない……肥大化する地球を背景にして、居るはずの無い緒地憑イッサがまるで人形を持ち上げるかのように
ココロの首を片手で空高く掴む光景もそこにはあった。
「Исса……どうしてここに……?」
「あら、あなたが言ったんでしょう?『この世界に取りこまれて、私の物になった』って。
 あなたの物は私の物、あなたの聞こえる音は私の聞こえる音……ってね?」
「わざと……泳がしてたのね……うっ……かっ……。」
強まるイッサの手の力、そして締まるココロの首。
その様子を見て、ルナは声を荒らげる。
「止めて!部長……いや、お母さん!!」
「ふふっ……この世界の支配者たる存在に、軽々しく『お母さん』と言えるなんて……
 さすが私が見込んだことだけはあるわね、副部長……いえ、天江ルナ。」
「肉体の無いアンタは母でも何でも無い!私が母として呼びかけてるのは、
 その手の意志の持ち主である天江夕子……それだけだ!!」
「肉体が無い……ですって?」
「……ふっ……ルナちゃん……グッジョブよ……ぐはっ?!」
下にいるルナに向けて親指を立てるココロ。
そんな光景に、イッサは怒りを覚えて手の力をさらに強める。
「ならば……天江ルナ、あなたに教えてあげましょう。あなたがこの世界にいる意味の『真実』を。」
「私がいる意味の……真実……?」
「あなたは、本来ならこの世界には存在しない……いえ、正しく言うならば『私の世界の時間』には存在しない。」
「……は?訳の分からないことを……。」
「ならば、噛み砕いて教えてあげる。本来、この時間軸には天江夕子や粟手姉妹……そして、
 パラレルワールドからの存在として神袖鈴絵や天月音菜、あとこの女もいた……皆、仁科学園の学生やら用務員やらとしてね。
 でも……あなたは違う。確かに、仁科学園中等部の生徒としてあなたは存在する……ただし、
 天江夕子とあなたの父である雑津来人が結婚した『未来』での存在としてね。」
「私が……未来からの存在?!」
「そう……私は天江夕子の肉体を手に入れ、緒地憑イッサとしてこの世界を影で支配してきた。
 でもね、いくら支配者になったとは言え、1年後には経験したことある世界に何度も戻る……そんな経験を753回も繰り返すとね、
 『最高です』なんて言えない訳。だからね、完全なる世界の支配を目論んだのよ。」
「完全なる……支配?」
「今、私の世界は365日が経過すると最初の1日目に戻ってしまう……でも、
 もし……366日目以降を知る人物がこの世界に現われたらどうなると思う?」
「……?」

618記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:40:21 ID:Rm4pITlY0
「その記憶は世界の意志のひとつとなる。そして、世界はその意志が正しいことであるとするため、世界にその人物が知る366日目以降の記憶を形成しようとする。
 すると……?」
「……!その世界は1年で固定されなくなる!!」
「そう、あなたの本当の世界である『未来』を手に入れることでね。だから、私は魔族としての能力を再び使って未来の記憶を手に入れ、
 それを与えることで『この世界の未来』の形成を現在の時間軸で促した……この肉体の女と将来結ばれることになっていた雑津来人へ
 『自分は天江夕子の婿養子で、中学生の娘がいる』という記憶をね……その結果、雑津……いや、天江ライトとなった男の記憶からは
 未来の断片が生まれ、そしてその未来はこの世界の意志として現在の時間に形成された……それが、天江ルナ……あなたなのよ!」
「!!!」
自身が本来なら未来に生まれる存在だったことを知り、衝撃を覚えるルナ。
一方のイッサは、今まで秘密にしていたことをようやく言えた解放感からか笑みを浮かべ、
それと同時にココロの首を掴む力をさらに強めるのだった。
「ぐっ……あ……がっ……。」
血の気が失せた苦悶の表情を浮かべるココロ。
だが、イッサはさらに笑みを強めて言葉を続ける。
「そして、これが最終段階!私があなた……つまり、天江ルナの肉体を乗っ取る……そうすれば、
 この世界の意志は未来を持つ!!私の世界は千年王国となるの!!!」
興奮のあまり、笑いだすイッサ。
だが、ルナにとってその様子は狂気以外の何物でもなかった。
「まず!千年王国設立への前夜祭として花火をお目にかけよう!!
 目の前の勘違い女が汚ぇ花火と化す姿をその目に焼き付けるがよい!!!」
高らかな声とともにエネルギーが集まるイッサの手。
そんな状況に自らの最期を悟ったのか、ココロがルナへ最後の力を振り絞って話しかける。
「ルナ……ちゃん……。」
「よーちゃんさん!」
「最期に……なる前に……これ……だけは……忘れないで……。」
目を閉じ、最後の力を振り絞って手から紅い光球を放つココロ。
その光はルナを包み込み、そして上空へと舞い上がるのであった。
「よーちゃんさん……よーちゃんさんっ!!」
叫ぶルナ。

その瞬間、ルナの耳にある言葉が響いた。

『未来は他人から奪い取る物じゃない……未来は自らの手で築き上げる物……。』

『どんな暗闇な未来が待ち構えていようとも……それを受け入れて……そして……それを希望へと導いて……。』

二つの言葉を聞き、再び叫ぼうとするルナ。
だが次の瞬間、ココロがいたと思わしき場所では強烈な光を有する大爆発が発生、一瞬にしてルナも……そしてこの世界も閃光に包まれ、
それと同時にルナは意識を失うのだった。

619記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:45:28 ID:Rm4pITlY0
次にルナが意識を取り戻したのは、自室のベッドの上であった。
「……!ここは……家?」
汗だくになりながら起き上がるルナ。
すると、タイミング良く父のライトがドアの向こうから現われて問いかける。
「おおっ!ルナ、大丈夫か?」
「あ……お父さん。あれ?私……学校で気を失って……。」
現状を理解出来ないルナに、ライトがこれまでの経緯を説明し始めた。

曰く、学校で気を失ったルナを『天月オトナ』という高等部の学生が付き添いつつ『横嶋菜ココロ』という用務員さんが車で運んでくれたとのこと。
その際、お礼も兼ねて「コーヒーでもお入れしますか?」とライトが聞いたところ、
二人は口を揃えて「格闘茶道部での新作茶菓子発表会に参加したいので」と言い、足早に去っていったのだと言う。

「『格闘茶道部』ってルナの部活だよな……名前は変だけど、用務員さんにも一目置かれるほどとはねぇ……どうした、ルナ?」
黙り込むルナを見て、声をかけるライト。
だが、ルナは現状を理解、そのまま黙り続け、最終的には冒頭の夕飯までベッドに潜りこむのだった。

今も沈黙の続く、天江家の食卓。
そんな状況下、ルナは半分以上ご飯の残ったお茶碗を目の前にして沈黙を貫き続け、一方のライトも娘に対する最善策が分からず、
同様に黙ってしまっていた。
しかし、ルナが「……ごちそうさま」と力無く言って立ち去ろうとした瞬間、
ほんの少しだけ沈黙が破られたことをきっかけに何かが芽生えたのか、彼は娘へと話しかける。
「え……あ……ルナ!今日は妙に元気が無いじゃないか……
 いつもだったら『おかわりっ!』って元気に言ってるじゃないか!!……ねぇ?」
妙に大声をあげて話すライト。
しかし、ルナはやはり沈黙を続ける。
「……ルナ、ひとつだけ良いか?」
恥ずかしそうに頭を掻きながら、ライトはある言葉をかけた。

「『諦めるな』……そして『どんな暗闇な未来が待ち構えていようとも受け入れ、それを希望へと導け』。」

ライトの言葉を聞き、ハッとするルナ。
『諦めるな』……それはルナが夢の中で聞いた、あの男子学生の言葉……
『どんな暗闇な未来が待ち構えていようとも受け入れ、それを希望へと導け』……
それは、自身の深層心理世界が消滅する瞬間に聞いた言葉……。

620記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:50:37 ID:Rm4pITlY0
「……お父さんが学生時代、いつも心に抱いてた言葉……それが『諦めないこと』だった。
 どんな壁も諦めずに……しつこいぐらいに挑み続ければ越えられる……それが信念だった。
 でも、ある人と出会ってその考えも少し変った……それがお前の母さん……天江ユウコの
『どんな暗闇な未来が待ち構えていようとも受け入れ、それを希望へと導け』だった。」
そう言って、ライトは昔話をし始めた。

それは、天江ライト……いや、雑津来人がまだ仁科学園中等部に属していた頃だった。
かつての彼は、今のルナ同様に剣道をやっており、仁科学園の剣道部に所属することでその地位と名声をさらに高めようと画策していた。
だが、その計画はある存在をきっかけに白紙と化した……それは天江夕子であった。
練習や外部との試合を重ね、『斬撃の強者』へと成長した来人。
だが、一方の夕子も剣道の腕を上げ、3年次にはまさに『強き竜の者』と評される存在と化しており、
また来人にとっては『唯一勝てない相手』となっていた。
『自らの越えるべき壁』……そんな思いを抱き、機会があれば夕子へ一対一の勝負を挑んでいた来人。
しかし、何度挑戦しようとも……いや、何十・何百と挑戦しようとも、彼は夕子に勝つことが出来なかった。

「……ま……まだだっ!もう一本勝負を!!」
夕刻の体育館……息も絶え絶えになりながら、再び竹刀を構えようとする来人。
一方、試合相手の夕子も疲労困憊の表情を見せながら、迷惑過ぎる彼からのエンドレス・チャレンジに呆れ果てていた。
「雑津くん……いい加減にしてよ、私だって……そんなタフネスじゃないんだから……。」
「……駄目なんだ……天江さんは俺の……越えるべき最後の壁!あなたを超えて……俺は本当の最強に……なる!!」
「最強を目指すのは結構だけど……いい加減諦めてよ……私だって、見たいテレビがあるのに……だったら、
 これでほんっとぉおおおお……に!最後にしてねっ!!ラスト・ワンよ!!!」
「……分かった……勝負!」
お互いに竹刀を構え、短時間で決着をつけようと全速力でぶつかろうとする二人。

だが、その試合は意外な展開を迎えた。

夕子の面へと叩きこまれる来人の竹刀。
一方の夕子は、胴を狙ったと思われる水平打ちが来人の体を捕えることなく、まるでタイミングを外したかのように空を切っていた。

「……。」
「……あなたの勝ちね、雑津くん。」
そう言って、その場を去ろうとする夕子。
だが、来人は気付いていた。
「天江さん……どうしてワザと負けたんです?!」
「何言ってるのよ、どう見てもあなたの勝ちじゃない。」
「じゃあ……これは何だ?!」
そう言って、床から何かを拾い上げる来人。
それは、縦に真っ二つとなったスズメバチの死骸であった。

621記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:55:33 ID:Rm4pITlY0
「あなたは、僕らに間に割って入ったスズメバチ退治を優先した!いくらスズメバチが危険だからって……僕との勝負を捨ててまでなのか?!」
詰め寄る来人。
そんな彼を見て、夕子が優しく答える。
「いいえ……私は勝負を捨ててはいないわ。」
「止めてくれ!そんなウソは……。」
「確かに、私は割って入ってきたスズメバチに気付き、スズメバチを斬った。でもね……水平切りの動作からすぐに突きの構えへと入ろうとしたけど、
 今までの疲れで動きが遅れて……結果はご覧の通りよ。」
「……でも!そんな偶然に左右された試合結果なんて……天江さんは何で納得してるんですか?!」
「雑津くん……未来ってのはね、何が来るか分からない暗闇の存在なの。確かに、あなたのような『諦めない精神』でそんな未来を光に
 無理やり変えることも必要だけど……私の場合は、あえてその暗闇を受け入れることが必要だと考えてるのよ。」
「暗闇を……受け入れる?」
「ええ、今の場合ならスズメバチの乱入……それに自分の肉体疲労……これらの要素が加わったことであなたとの試合に負けた。
 でも、そこでブーブー文句言っても仕方が無い……必要なのは、負けた要因に対して対策を検討し、
 それを次に生かす……悪運的なことに関してはちょっと考えつかないけど、まずは体を鍛える必要があることが分かったし……ね?
 それでまた、次の機会に雑津くんと勝負して、勝てれば万々歳……ってとこ。」
「……でも!もし、僕が天江さんとの勝負をもし拒否したら……?」
問いかける来人。
それに対し、夕子は額の汗をぬぐいながら嬉しそうに答えるのだった。
「そうしたら……剣道に関してはそれまでだけど、諦める気は毛頭無いわよ……あなた同様にね。
 全校テストなり、体育祭なりで無理やりにでも勝負を挑むから問題無いわよ。」

諦めないだけじゃない……。
負けたとしても、それを糧に新たな未来を切り開く……。

「……それが、彼女の強さの秘密であり、彼女の魅力だった。だから俺は……彼女を……ユウコを好きになったのかもな。」
黙り続けるルナへ、話しかけるライト。
一方のルナは……目から溢れんばかりの涙を流していた。

諦めない気持ちを抱き続けた父……。
同様に諦めない気持ちを持つだけでなく、柔軟な発想を持つことで精進していった母……。
そんな二人の時間が、自分勝手な怪物によってめちゃくちゃにされ、さらにはこの世界全ての時間をも狂わせようとしている……。

今、この事実を知っているのは私だけ……そして、この事態を打破できる可能性を持っているのは……。

「……お父さん。」
涙を拭いながら、ルナが言う。
「……私、お父さんとお母さんのこと……知れて良かった。」
「……そうか。」
「……お風呂……入ってくるね。」
そう言って、ルナはその場を後にした。

622記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 22:01:23 ID:Rm4pITlY0
次の日の朝……。

朝食を作るため、完全に起きていない頭で台所へと向かうライト。
いつもなら、まず朝の寒さで冷えた台所の空気が彼の顔を刺してくる……のだが、今日に限って彼の顔を包んだのは、温かい味噌汁の香りであった。
「……ん?これは……ん?」
少し前に作られたと思われる味噌汁の鍋の近くに置かれた、一枚の手紙とMP3プレイヤーに気付くライト。
その紙には、娘であるルナの文字でこう書かれていた。

『自分の未来を確かめに行ってきます。』

つづく
-------------------------------------------------------------

以上です、お目汚し失礼しました(文章の切り方が変で、また説明台詞も長々としててすみません)。
ちなみにですが、次回が最終回です。

623名無しさん@避難中:2015/02/12(木) 00:59:49 ID:aAI90HgI0
そろそろバレンタインですね。
女子生徒のみなさんは準備できましたか?

624馬楝多飲[1/3]:2015/02/13(金) 23:47:20 ID:J79ElRUY0

「ナギちゃんさぁ」

ニシトちゃんが、何の気なしに聞いてくる。

「『義務チョコ』って、知ってる?」



1月の終わり、放課後の教室。
今日は部活がないらしい。
ニシトちゃんが放課後にどこへも行かずグダグダと教室に残っているなんて、珍しい。

「麦チョコなら知ってるけどねー」

わたしは極めて真面目に答えたつもりだった。
ニシトちゃんは一瞬止まって、その後笑いを堪えるのに必死な様子だった。

「いやー、ナギちゃんやっぱ面白いわ」

ようやく落ち着いてから、わたしの肩をバンバン叩いてニシトちゃんが言う。

――今のやりとりに面白い要素があったかな? 

少し悩んでからすぐ諦める。どうせ、考えたって答えは出ないし意味が無い。

625馬楝多飲[2/3]:2015/02/13(金) 23:52:52 ID:J79ElRUY0

「もうすぐバレンタインじゃん。なーんか、面倒くさくってさー」
ニシトちゃんがぼやく。

バレンタインデー。わたしは誰にもチョコをあげる予定がない。
いや、訂正。わたしはニシトちゃんと一緒にデパートに行って、お互い一番と思うのを買って食べ比べしようかと
密かに妄想していたのだ。

けれど約束したわけじゃない。ニシトちゃんは部活もあるし、彼氏候補がいるとしたらそっちが優先だから。


ニシトちゃんの言う「面倒くさい」というのはわたしも同じだ。

わたしはクラスの男子に義理チョコを配るなんて発想も無いけれど、
否が応でも気にしなきゃいけない、この空気がどうにもイヤだと思う。

目当ての男子がいれば良い。
でも、そうでないなら苦痛でしか無い。

せめて「チョコレートのお菓子の新製品がたくさん出るから食べ比べてみる時期」くらいに思っていないと
やってらんない。

626馬楝多飲[3/3]:2015/02/14(土) 00:01:41 ID:HMLGjrrI0

「ナギちゃん、あげる人いる?」

訊かれて我に返る。
また頭の中の世界に迷い込んでしまっていたらしい。

「……あっ、うん、えっと。いないいない全然。まったく。これっぽっちも」

いないことを力説するわたしは相当寂しい奴だと思う。

ニシトちゃんは意に介さず、
「あげたい人がいるとさぁ、何ていうか張り合い? みたいのがあるんだけどさー」

――サキザキくん……っと、思いかけて取り消す。いけないいけない、そうだった。


「どしたの? ナギちゃん」
ニシトちゃんがわたしの顔を覗き込む。

黙ってるとクールな感じなのに、仲良くなると人懐っこくて、世話やきなニシトちゃん。
部活をやっているときは猫みたいにすばしっこくて、弾ける笑顔が眩しい。

わたしは息を吸い込んで、言った。
「あのさ、ニシトちゃん。わたし、ニシトちゃんにあげていいかな? チョコ」

ニシトちゃんはきょとんとして、吹き出した。
そして泣き出しそうな笑顔でわたしに抱きついて、

「ありがとね」

耳元で囁いた。

627名無しさん@避難中:2015/02/14(土) 00:03:01 ID:HMLGjrrI0
↑以上で

やっつけです。

628 ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 17:51:16 ID:7o6bAq7w0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ ダレモ イナイ・・・
   {  /   トウカ スルナラ イマノウチ・・・
   ヽj

『記憶の中の茶道部』の最終回になります。
この板にご迷惑をかけますが、不都合等がございませんでしたら、お目汚しにどうぞ。

ちなみに、書いたら2回分の量になってしまったので、前編・後編と分けさせていただきます。
再びご迷惑、すみません。

629記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 17:55:05 ID:7o6bAq7w0
「……そう。」
夕陽から放たれる太陽光線により橙色へと染まりつつある仁科学園の体育館。
その片隅に設置された茶室には、自ら入れた抹茶を口にする緒地憑イッサの姿があり、対面には剣道の道着に身を包んだ天江ルナ、
そしてその側には見届け人のようにこの場を見守る『格闘茶道部員五名』の姿もあった。
「ルナちゃん……何で格闘茶道部辞めるとよ?」
粟手ヒビキが問いかける。
だが、ルナは黙ったままであった。
「そうよ、こんなに楽しい部活動は無いじゃない!」
「俺もそう思うな……名前は変だが、十分楽しいぜ?」
粟手トリスと天月音菜……いや、天月オトナも声をかける。
「……天月ルナさん、あなたがこの部活を辞めると言うならば……それだけの代償を払える覚悟はおありなのですね?」
問いかけるイッサ。
「……部長、『賭け』をしませんか?」
「賭け?」
「ええ……かつて、あなたが私を入部させた時のように……私とあなたが剣道で勝負する。
 私が勝ったら、退部を許可する……私が負けたら、私を永久副部長として如何様にでも……。」
「あなたにしては、随分と大胆かつ無謀な提案ね。じゃあ、さっそく……。」
「ただし!」
「……うん?」
立ち上がろうとするイッサを止めるルナ。
「今回は三本勝負とし、先に二回勝った方が勝者……というルールはいかがです?」
「三本勝負……あなた、完璧超人にでもなったつもりなの?まあ……いいわ、そのルールであなたを完膚なきまでに倒してあげる……
 あなたの母親の肉体を存分に使ってね……。」

剣道用の防具を着け、体育館の中央で互いに竹刀を構えるルナとイッサ。
その光景を見て、格闘茶道部の部員たちはイッサを応援する。
「部長!頑張って!!」
「ファイト!部長!!」
一人として聞こえてこない、ルナを応援する声。
そんな孤独な空間の中で、ルナの戦いが始まろうとしていた。
「いざ……勝負!」
声と共に、体当たりせん勢いでイッサへと突っ込むルナ。
しかし、次の瞬間に彼女の質量はルナの前から失せ、その存在はかつての戦い同様にルナの後ろへと瞬間移動していた。

630記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:00:19 ID:7o6bAq7w0
「この間から強くなったかと思いきや……またしても10秒で片がつきそうね。それじゃあ……スタートアップっ!」
体育館内に響き渡るイッサの声。
その瞬間、低レベルながらも時空間を司る魔族としての能力が発揮され、彼女の体は今の時間概念を超えた超高速移動を実現させるのだった。
「ふふっ……スリー!」
イッサの一撃によって宙に飛ぶルナの竹刀。
「ツー!!」
間髪入れず、彼女の防具へと叩きこまれる『胴』の一閃。
その一撃に、ルナは思わず膝を立てて体勢を崩す。
「ワン!!!」
トドメの一撃と言わんばかりに炸裂する、頭部への『面』の一撃……のはずだった。
「……何?」
完全にルナの頭頂部へと振り下ろされていた竹刀。
だが、その竹刀から彼女の頭を守る存在があった……それは、宙に吹き飛ばされたはずの竹刀であった。
「何て運の良い……でも、胴での一本でまずは私の勝ち。もう一本取れば……。」
「フフフ……くっくっくっ……はぁっハッハッハ!!」
突如、防具越しに大笑いしだすルナ。
この光景にイッサだけでなく、他の部員たちも困惑するのみであった。
「……ど……どういうつもり?!」
「……。」
今まで見せたことのない、焦りの声をあげるイッサ。
だが、ルナは無言のまま第二試合へと突入する構えを見せる。
「……くっ、スタートアップっ!」
再び高速移動でルナの懐へと飛び込むイッサ。
そして、間髪入れずに彼女の持つ竹刀をまたしても吹き飛ばそうとする……が、常人の目には見ることのできない程のスピードで動いているイッサの
目の前からルナの姿はすでに消えていた……いや、その姿はイッサを上回るスピードで彼女の背後へとすでに移動していたのだった。
「何?!……!そこかっ!!」
背後の気配にようやく気づき、竹刀を振るイッサ。
だが、その一撃もルナにブロックされ、先ほどの戦いとは逆にイッサのほうが追い込まれていた。
「そんな……人間ごときが……。」
「十秒過ぎたようね。さあ……ショータイムだっ!」

631記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:07:42 ID:7o6bAq7w0
叫び声と共に、今度はイッサの懐へと飛び込むルナ。
一方のイッサは竹刀を構えるが、超高速移動を失った今ではただの人間でしかなく、ルナの気迫のこもった力押しにただただ押し込まれるのみであった。
「うぉおおおおっ!!」
「くっ……う……うわっ?!」
力比べに負け、バランスを崩すイッサ。
その瞬間、彼女の『胴』は無防備と化していた。
「胴っ!」
時空をも斬らん勢いでイッサの防具へと炸裂するルナの一撃。

その力は、一撃の強さを物語るほどの亀裂を防具に与えるほどであり、ルナがイッサに初めて勝利したことを証明するには十分すぎる物証となっていた。

「部長が……負けた……。」
「これで……互いにイーブン!」
ざわめきだす部員たち。
一方のイッサも、予想していなかった『自らの敗北』に冷静さを失っていた。
「こんなこと……受け入れられない!私は負けない……私は負けない!!」
「……どうやら、その表情を見ると……『現実を受け入れられない!』とか言ってる感じね?」
そう言って、面を外すルナ。
「ひとつ言っておくわ……私、体育館に入る前からこれを付けてたの。」
そう言うと、ルナは両耳に指を置き、何かを取り出すのであった。

それは、耳栓であった。

「部長……いや、緒地憑イッサ……私はある実験のためにこんな戦いを挑んだの。」
「実験……だと?」
「ひとつ……かつて、私はあなたに負けた。その原因は、あなたのその超高速移動能力もあるけど……一番の要素は、
 あなたの軽口に乗っかったことで冷静さを失ってしまった私。だから、あなたの口車に乗らないために、こんなお芝居じみたことをわざわざした訳。
 それともうひとつ……私なりに、今居る『偽りの未来』とあるべき『本当の未来の姿』を再確認したかったの。」
「……偽り?……本当の……姿?」
「あなたは言ったはず……私は、あなたが一年しか存在しない世界に『未来の記憶を持つ者』を呼び込むことで、未来の記憶を世界の意志のひとつとさせ、
 未来の時間を持った世界に変える……と。」
「……それがどうしたって言うの?!」
「そのためにお父さんは、あなたにとっての『都合の良い未来の記憶』を植えられ、その記憶から私はこの世界に誕生させられた……でもね?
 私、思ったの……人の記憶って結構曖昧な存在なの。だから……もし、自分にとって都合の良い記憶……
 つまり、自分の『想像』が世界の意志のひとつとして時間の中に取り入れられた時、 その意志が結果……
 つまり『未来』へと変化するんじゃないか……ってね?」

632記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:15:25 ID:7o6bAq7w0
「……まさか!では、私の攻撃を全て受け止められたのは……あなたの『想像』がこの世界の未来へとなった結果だとでも言うの?!」
「そうね……一回目に関しては耳栓をしていたから『面へ強烈な攻撃が来たら困る』と思ったの。その結果、吹き飛ばされた竹刀が狙い澄ましたように背面に落下し、
 偶然にもあなたの攻撃を阻止した。そして、二回目……無音の中で、空気の動きを感じつつ『敵に背後から攻撃を仕掛けられる前に、こちらが背後へと回るには?』
 『このあたりから攻撃が来るかも?』という想像を働かせながら戦った結果……私はあなたを上回る移動能力を一時的に得られ、
 そしてあなたからの攻撃も面白いように私の意図通りとなった……ってこと。アンダースタン?」
「嘘だ……嘘だ……嘘だぁああああっ!私は……この世界の支配者……こんな女の手の平に転がされるような……存在ではないっ!!」
大声をあげるイッサ。
だが、その言葉にルナは耳を貸さなかった……いや、貸す気など毛頭無かった。
「ようやく理解してくれたようね、自分の行ってきたことが人に及ぼす悪魔のような影響力を……だから、私はもう想像の力を使わない……これ以上、
 偽りの未来には留まらない!そう……ここからは私の……いや、『私たち』のステージだぁああああっ!!」
竹刀を構え、再びイッサの懐へと飛び込もうとするルナ。
一方のイッサも、冷静さを失いながらもルナの攻撃に答えようと突撃を試みる。
体育館の中央で激突せんとする二人の剣士。
だが、その二人の間を割り入るように乱入しようとする存在があった……それは、一匹のスズメバチであった。
「……!あ……危ない!!」
スズメバチの存在に気づき、声を荒らげるトリス。
しかし、ルナとイッサのスピードは一切減速する事無く、ついにはスズメバチを挟み込む形で体育館の中央で激突するのだった。

無音の体育館内に響き渡った、竹刀が防具を弾く音。
その瞬間、ルナとイッサの戦いに終止符がついた……が、外野からはどちらが勝者か判別できずにいた。
「どっちが勝った?!」
「……!」
何かに気づき、何かを指さす者。
その指先に示されていたのは……真っ二つとなったスズメバチの死骸、そしてその一閃が放たれたと推測される方向の延長戦にあったのは……。
「……何故……私が……。」
「……かつて、私のお父さんとお母さんが剣道勝負した際、今みたいにスズメバチが乱入してきたそうなの。
 その時、お母さんはスズメバチを撃退し、そこからお父さんへ攻撃しようとしたけど……残念ながら負けてしまった。」
語りだすルナ。
それと同時に、ルナから放たれた一閃を二度も喰らい、強度を失ったイッサの防具は崩壊を始めていた。
「もし、お母さんの敗北が『過去』とするなら……今の戦いが、自分なりの『未来』……『諦めない精神』……
 『どんな暗闇な未来が待ち構えていようとも受け入れ、それを希望へと導く』……そして、『強くなる』……それが私の未来だ!!
 想像の力で作られた曖昧な時間の流れではない、強硬たる真の未来の姿がこれだ!!!」

スズメバチを挟む形で二人が激突した瞬間、ルナは胴への一閃をする形でスズメバチを引き裂いた……だが、
彼女の攻撃はこれで終わりでは無かった。
彼女は一閃の勢いそのままに己の体を回転させ、胴への再攻撃……その結果、
ルナは新たな『未来』を手に入れたのであった。

633記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:20:09 ID:7o6bAq7w0
「……私の……せ……か……。」
バラバラとなるイッサの防具……いや、防具だけでなく彼女の体自体も崩壊を始め、
粉々となったイッサの体からは一人の『女性』が倒れこむように出現するのだった。
竹刀を放り投げ、女性を抱え込むルナ……彼女には女性の正体が既に分かっていた。
「……お母さん……おかえり……。」
「……ルナ……あなたが……未来の娘なのね……。」
涙をこぼす天江夕子。
そして、ルナも母親にようやく会えたことへの嬉しさから泣きそうになっていた……が、彼女らの背後に突如現れた、
只ならぬ気配に表情を変えるのであった。
「……そんな……まさか!」
母親を抱えたまま竹刀を右手で構えるルナ。
その竹刀の先に居たのは……先ほどまで応援団と化していたトリスやヒビキたちであった……いや、違う……
姿形は彼女らであったが、そこから発せられるマイナスエネルギーは完全に緒地憑イッサと酷似していた。
「『まだ、勝負は終わってないわ……天江ルナ。』」
「『この世界は私の物……無論、この者たちも私の物……。』」
「『例え、天江夕子の体を失おうとも……私の代わりはいくらでも存在する!』」
「……さあて……どうする?」
「このまま、軍門へと下るか?」
天江親子を囲む五人の格闘茶道部員たち。
その光景に、夕子も竹刀を手に構えようとするが、意識を取り戻したばかりの体には戦う力などほとんど残っていなかった。
「ルナ……あなたは逃げて……。」
か細い声で娘を守ろうとする夕子。
「お母さん!そんな体じゃ無理よ!!」
「『諦めない精神』……それが、雑津くん……いや、あなたのお父さんのポリシーであり……あなたのポリシーでもあるはず……
 そして……私のポリシーでもあるの……。」
「……でも……でも!」
「緒地憑イッサに体を奪われながらも……私はあなたの戦いを見てた……そして……あなたは自分なりの未来を掴んだ……
 それを確認できれば……それだけでお母さんは……この人生に感謝よ……。」
「!!!」
「『何をごちゃごちゃと……念仏なら、私に囚われた後にでも唱えていろ!!』」
一斉に襲い掛かる格闘茶道部員たち。
一方の夕子も娘を守るために竹刀を構えるが、手の力が入らず、そのまま己の体を盾のようにしてルナの前に立ち尽くすのだった。

振り下ろされる五本の竹刀。
全ての攻撃は標的を天江夕子に捕え、躊躇なく振り下ろされた。

……だが、彼女らの攻撃は夕子の体に当たる直前で止まっていた……いや、止められていた。

634記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:25:01 ID:7o6bAq7w0
「……!ルナ!!」
右手の感覚に気づく夕子。
その手は後ろに構えるルナによって夕子の手ごと竹刀が構えられ、またルナ自身も左手に竹刀を構え直すことで親子共同による二刀流を作り出し、
5本の竹刀から天江親子の体を守っていたのだった。
「お母さんも知ってるはずよ……私のポリシーは……『強くなる』こと!!」

響き渡る、ルナの魂の叫び。
その瞬間、彼女の声を合図としていたかのように、一曲の歌が体育館のスピーカーから流れだす。

それは、ルナがMP3プレイヤーで聞いているあの曲……そして……。

「これは……『英雄の詩』?」
「……!ルナ……あれ!!」
指さす夕子。
その目線の先では、音楽を聴いて苦しみだす格闘茶道部員たちの姿があった。
「『な……何だ……この歌は?!』」
「『私が……私で……無くなる……。』」
「『た……助け……て……。』」

「ルナ!夕子!!」
スピーカーから聞こえてくる男の声……それはルナの父である天江ライト……いや、本来の姿、そして本当の記憶を取り戻した雑津来人であった。
「お父さん?!どうしてここに……?」
「お前の残してくれたMP3プレイヤーだ!あれに、この『英雄の詩』が入っていただろう?」
「うん……でも、それが……?」
「あの曲は柚鈴天神社に古くから伝わる神事の曲であると同時に、偶然にも全く同じコードで発表された未来の曲でもあるんだ!
 『過去』と『未来』の両面を持つあの曲……それを偶然聞いたことで、自分自身の過去と未来を取り戻したんだ!!」
「あの曲に……そんな意味が……。」
「そんなことより!早く、緒地憑イッサに止めを!!」
「でも……どうやって?!」
「『あれが……苦しみの元凶か……。』」
割って入るトリス……いや、緒地憑イッサ。
「『ならば、あいつを……。』」
「『私の世界から……消す!』」
「……そうされちゃあ困るんだけどなぁ。」
「『……何?!』」
体を反転させ、粟手姉妹と天月オトナの体を抑え込む二人の影……それは、格闘茶道部員にされた神柚スズエと横嶋菜ココロ……
いや、神袖鈴江と魔王=横嶋菜心であった。
「『?!何故だ……貴様は私に消滅させられたはず!それに……どうして、お前は私の物とならない?!?!』」
「Исса……あなたに良いこと教えてあげる。」
「『……?』」
「『魔族と巫女さんは一日にしてならず』……ってね?」
「よーちゃん!何適当なこと言ってるのよ、『精神を支配されてたフリして、反撃の機会を待ってた』ってだけじゃない!!それよりも早く三人を!!!」
珍しく、鈴絵がツッコミを入れる。

635記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:30:48 ID:7o6bAq7w0
「リフレエクトゥ!レディ……オゥケェエイ!!リフレェエック!!!」
人の運命(さだめ)を勝手に決めそうな勢いのハイテンションで、三人の体へとエネルギーを送る魔王。
その瞬間、三人の体からは黒い結晶のような物が飛び出し、彼女らを元の姿である粟手トリス、粟手響、天月音菜へと戻すのだった。
「……あれ?私は何を……??」
「……!おい、何だありゃ?!」
「……!ルナちゃん!!」
叫ぶ三人……その目線の先には、人の形となった黒い結晶がルナと夕子に襲い掛かる光景が展開されていた。
「あれが……緒地憑イッサの正体……。」
つぶやく鈴江。
「くそっ……俺たちも天江を助けに行くぞ!」
「でも……どうやって?!」
「え……あ……えぇっと……とにかく、どうにかすんだよっ!」
「方法はあるわ。」
魔王が言う。
「どうやって?!」
問いかけるトリス。
その言葉に、今度は鈴絵が答える。
「粟手さん、天月さん……私たちが竜神祭に向けて練習してきた『英雄の詩』は、
 天江さんのお父様が言ったように『過去』と『未来』の音楽……その曲をあの悪魔にぶつければ、
 奴の中で固定化された時間は失われ、その存在は崩壊するはず!」
「な……何だって?!」
「でも……太鼓もギターもここには……。」
不安そうに話す響。
だが、魔王には秘策があった。
「チチンプイのぉ〜パッ!……ってね?」
指先で魔力を解放させ、何かを空間から呼び出す魔王。
それはサックス、エレキギター、和太鼓……まさに彼女らの『武器』であった。
「これは……あんたは何者なんだ?!」
「その説明は後!早く演奏準備、演奏準備っ!!」
「お……おう。」

-------------------------------------------------------------------------------------------

前編はここまでです。
後編は時間をおいてUPします。

636記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:31:51 ID:7o6bAq7w0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ スベテ ノ フクセン ハ
   {  /   カイシュウ デキタ デショウカ・・・?
   ヽj

----------------------------------------------------------------

一方、ルナ親子の立ち回りは今だ続いていた。
『体……世界……私の……。』
スピーカーから流れていた音楽が終わり、体育館内に響き渡る怨念のような声。
その声の主である、悪霊と化した緒地憑イッサが襲い掛かってくるのに対し、ルナと夕子も竹刀を手に攻防を続けるが、
いくら相手が体を失ったことで弱まっているとは言え、彼女らの耐久力は限界に近づいていた。
「何て……タフネスなの……。」
「よーちゃんさんが……言ってたわ……お母さん……魔族は……タフなんだって……。」
「……だからと言って……私たちが……諦める理由には……。」
「ええ……ならないわ……。」
「ルナ!夕子!!」
彼女らに助太刀するように飛び込む影……それは来人であった。
「お前たちはいったん退け!ここはお父さんに任せろ!!」
「そんなこと言われても……。」
「……!もしかして……雑津くん、『アレ』の場所が分かったの?!」
驚きの声をあげる夕子。
だが、来人の表情は少し曇っていた。
「いや……まだなんだ。だけど、『アレ』を探すタイミングは今しかない!俺があの悪霊を抑えてる間に……
 彼女らが演奏を終えるまでに!」
そう言って、後ろを指さす来人。
その先には、エレキギターを構える音菜、サックスを構える鈴江、そして和太鼓のバチを構える響の姿があった。
「よっしゃ!行くぜぇ!!」
エレキギターのサウンドを合図に展開される『英雄の詩』の生演奏。
その音を受け、再び悪霊は苦悶の声を発しながら狂ったように宙を舞いだす。
「お父さん、『アレ』って何なの?!」
叫ぶルナ。
その言葉に、代わりに夕子が答える。
「緒地憑イッサ……奴は自分の世界からこの世界へ移動する際、『時空転移装置』のような物を使ったらしいの。
 今、奴が別の世界で自分の存在を維持できているのはその装置があるからこそ……それを破壊できれば、
 あの悪霊を完全に倒せるはずなの。」

『水玉パンツは「繊細」』

突然、ルナの脳裏に響く緒地憑イッサの言葉。
「……まさか!?」

637記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:35:14 ID:7o6bAq7w0
「よし、これでフィニッシュだ!」
『英雄の詩』の演奏を完了させようとする音菜たち。
だが、曲の終盤に入ろうとした瞬間、それまで調和を保っていた音から和太鼓の音が消える。
「……!天月さん、ストップ!!」
「どうしたんです?!」
「……ダメです……どうしてもダメなんです!いつもここで間違える……どうしても演奏出来ない!!」
「粟手!しっかりしろ!!天江の親父さんが耐えてる間に、もう一回だ!!!」
「でも……でも……。」
臆病になる響。
だが、そんな彼女に割って入る存在があった。
「響ちゃん!」
「……お姉ちゃん?」
「私に任せて!あなたの練習を差し入れでサポートしてきた分、どこでどう間違えるか熟知してるつもり……
 だから、あなたの苦手な個所を太鼓の反対側からサポートしてあげる!!」
「なるほど!そいつは良い考えだ!!」
「でも……でも……。」
「ルナちゃんとルナちゃんのお母さんがコンビネーションを見せたなら……私たち姉妹もそれ以上のコンビネーションを見せるのがお返しってもの!
 やろう、響ちゃん!!」
「……分かった!私だって……強くなれる!!」
「おい!演奏はどうしたんだ?!」
聞こえてくる、来人の焦り声。
「……時間が無いわ。これがラストチャンスよ。」
「「「はいっ!」」」
号令をかける鈴江。
こうして、『英雄の詩』の演奏が再開された。

638記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:40:22 ID:7o6bAq7w0
「……あった!」
夕子、魔王と共に、茶室内にて『時空転移装置』を捜索するルナ。
捜索開始から数十秒ほどして、ルナの思い当たる『物』が彼女の目の前に姿を現した。
「ルナちゃん……本当に信用して良いの?」
母親とは言え、ルナの今回の提案に対して若干の不安を感じ、心配な声をあげる夕子。
だが、一方の魔王は真面目な表情を見せていた。
「確かに……もう時空を転移するほどのエネルギーは残ってないけど、この世界には存在しない波動を感じる……
 でも、どうして『これ』がそうだと?」
「『水玉パンツは「繊細」』……あの言葉が奴の妄言で無ければ……。」
「なるほど……よぉ〜し!魔王、こいつを暴走させちゃうぞぉ〜!!」
「「……え?」」
困惑する二人を余所に、『時空転移装置』にエネルギーを込める魔王。
その瞬間、『時空転移装置』に散りばめられた水玉模様は毒々しい光を発しながら、今にも爆発しそうな様相を呈していた。
「あとは……よし!竹刀に巻きつけて……完成!!頼んだわよ、ルナちゃん!!!」
「……ちょっと不安だけど……私、行ってきます!」

「もうすぐ演奏の前半が終了だ!ルナの親父さん、大丈夫か?!」
音菜が演奏しながら叫ぶ。
「ぐっ……まだ……何とか……。」
「しかし……まずいわ。天江さんのご両親が言う『時空転移装置』が破壊できなければ、あの悪霊はまだ倒せない……
 この歌はあくまでも封印のためであって、完全破壊するには……!天江さん!!」
ギターソロパート中に休憩していた鈴江が、竹刀に何かを括り付けたルナの姿に気づく。
「ルナ!……って、何だ?!そのパンツ括り付けた竹刀は?!」
『パンツを括り付けた竹刀』というRPGでも見たことが無いような『武器』を手に持つルナを見て、ギターを演奏しながらツッコミを入れる音菜。

だが、その『パンツ』……いや、『水玉パンツ』こそ『時空転移装置』であった。

「お父さん!今から、その悪霊ごと装置を破壊する!!スリー、ツー、ワンで悪霊を空中に放り投げて!!!」
「分かった!頼むぞ、ルナ!!」

「私たちももうすぐフィニッシュだ!響!!あと、響の姉ぇちゃん!!!準備は良いか?!」
「「ハイッ!」」

639記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:45:16 ID:7o6bAq7w0
「「スリー!」」
これまで悪霊を抑えていた力を抜き、わざと相手の体勢を崩させる来人。

「「ツー!」」
その直後、垂直に立てた竹刀を悪霊の下に潜り込ませ、来人は勢いまかせに竹刀を上へと突き上げる。

「「ワン!」」
突き上げた竹刀を再び床へ垂直に立てる来人。
それと同時にルナは走りだし、竹刀を足場に天高く跳ぶ。

「これで最期だっ!!!」

悪霊へと突き刺さる竹刀。
その体内へは暴走した『時空転移装置』が乱暴にねじ込まれ、悪霊の体内で火花を散らすのであった。

「お姉ちゃん!」
「響ちゃん!!」
響の失敗箇所をトリスがカバーしながら続けられる『英雄の詩』の演奏。
一方の音菜によるギター演奏、鈴江によるサックス演奏も終わりを迎えようとしていた。
「これで……フィニッシュ!!!」
ついに完成する、完璧な『英雄の詩』の演奏。
その瞬間、演奏完成への充実感に浸る間も無く、自分たちの居る地面の下から『何か』が飛び出そうとしている気配に鈴江は気づく。
「これは……まさか、この世界の……意志?」
演奏を終えると同時に、黄金のような光に包まれる4人の学生たち。
その光は一つの塊となり、そして空中で火花を散らしていた悪霊を包み込む。
『やめろ……やめ……ろ……や……め……。』
光に包まれ、その力を失う悪霊。
また、聞こえていた怨念のような音も次第に弱まり始め、そしてついには現れた光と共にその存在を失せるのだった。

こうして、緒地憑イッサと名乗る悪霊はこの世界から消えた。
それが、天江ルナの知る『格闘茶道部』の記憶であった……。

640記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:50:08 ID:7o6bAq7w0
「……さぁ、着いたわ。」
それから十数年後の世界……仁科学園の剣道部顧問となったルナは、老朽化した体育館が壊されるのをきっかけに、
一人の教え子へ『格闘茶道部』の思い出を自宅へ送るついでに話していた。
「先生……それって、本当の話なんですか?申し訳ないんですが……何だか創作っぽいなぁと……。」
教え子である仁科学園の生徒が答える。
「……『残念ながら本当の話よ、雑津ルナ……いえ、「天江ルナ」さん?』」
「……え?」
「『あのね、確かに「私」は……あの時、水玉パンツの暴走エネルギーで体の維持機能を失い、
 さらに変な歌に呼び寄せられた力で存在を失った。でもね……バックアップはちゃんと用意してたのよ、
 「天江ルナ」という存在を使ってね?』」
「先せ……!」
声をかけようとする雑津ルナ。
だが、彼女は気づいた……目の前に居る天江ルナ先生の姿に混じって、何者かの影が存在していることに……。
「『私は、雑津来人に未来の記憶を埋め込んだ際、自分の記憶も埋め込んだ……そして、天江ルナであり、
 緒地憑イッサでもある存在としてこの体を作り上げた。』」
今置かれている状況に恐怖し、車のドアを開けようとするルナ。
だが、ドアにはロックがかかっており、車は閉鎖空間と化していた。
「『そして、私は決めたの……もう、1年だけの世界で良い……もう未来なんて要らない……再び、あの世界を取り戻す……
 だから……未来の存在であるあなたを……消す!!!』」

「……はぁ〜い、それまでよ。」
突然、車内に響き渡る金属をノックするような音。
ルナ……いや、緒地憑イッサが音の方向を振り向くと、そこには二人の婦人警官の姿があった。
「そこの女教師さん、車に押し込んで子供をいじめるのは犯罪ですよぉ〜。」
「……ちょっとぉ〜、聞いてますかぁ〜?」
「『……フン。』」
車の窓ガラス越しに聞こえてくる、気の抜けた声。
しかし、イッサは無視し、ルナへと襲い掛かろうとする。
「……あのさぁ、『人の話はちゃんと聞く』って学校で習わなかったの?……って、魔族と妖怪には学校が無いっけ。こりゃ、うっかり。」
再び聞こえてくる声……だが、それは窓ガラス越しではなく、だれも居ないはずの後部座席からであった。
「『……!』」
声の方向を再び見るイッサ。
その方向には、先ほどまで外で気の抜けた声で話していた婦人警官の一人がくつろぐかのように後部座席に座る光景が展開されていた。

641記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:55:16 ID:7o6bAq7w0
「『ど……どうして?……まさか、お前は!』」
「ふっふっふ……ある時は美人用務員!また、ある時は美人警官!!その実態は……。」
「『くそっ!』」
「ちょ……まだ、名乗り終わってないわよ!!」
謎の婦人警官の口上を半ばに、車から逃げ出すイッサ。
だが、その逃走をもう一人の婦人警官が、竹刀片手に引き留める。
「待ちなさい!『娘』の体を奪った窃盗容疑で逮捕よ!!」
「『何だと……貴様らは?!』」
「その前に……ルナちゃん!」
「『何……?』……待ち続けて早十数年……待ってましたよ、この瞬間を!『……!そ……その声は……。』」
意図しない言葉を放ち、慌て出すイッサ。
だが、『体の持ち主』である天江ルナが全身に力を込めると、
彼女の体からはまるで蒸気が噴き出すかのように緒地憑イッサの正体である悪霊の生き残りが現れるのだった。
「夕子ちゃん!お願い!!」
車の窓から顔を出し、大声をあげる婦人警官=魔王。
その言葉を受け、もう一人の婦人警官に扮していた天江夕子は一枚の『紙』を取りだし、悪霊に向けて放り投げる。
『な……何だ?!……!わ……私の……か……ら……。』
水を吸い込むかのように、紙に吸い込まれる悪霊。
そして、紙に全てのエネルギーが吸い込まれたのを確認すると、魔王はその紙を拾い上げるのであった。
「ふぅ……さすが、柚鈴天神社の悪霊退散のお札ね。グンバツの効果だわ。」
ポツリとつぶやく魔王。
その後、何が起こったのか理解できない表情をした雑津ルナが車の外へと現れ、彼女らへと問いかける。
「……お母さん……その恰好……何?」
「ちょっとね……まあ……コスプレ?でも、ちょっとカッコいいでしょ?逮捕しちゃうぞ!……ってね。」
「……。」
年甲斐も無くポーズを決める天江夕子……いや、雑津夕子。
しかし、ルナは特に返答することなく、今度は天江ルナへと問いかける。

642記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 21:00:23 ID:7o6bAq7w0
「先生……あなたは本当に……天江先生ですよね?」
「ええ、今はね。外見も中身も天江ルナ……確かに奴の言うとおり、私の体には『緒地憑イッサ』としての因子が残っていることが後になって分かった。
 そして、奴は未来を奪うため、本来の『未来の私』であるあなたを消そうと画策していた。」
「でもね……そこを私が裏で手助けしてたって訳!」
魔王が話に割って入る。
「奴を倒した後、わずかながらルナちゃんの体から奴の波動が感じられたんだけど、状態としては冬眠に近かったから、あえて泳がし、
 なおかつルナちゃんの意識が支配されないよう、私のエネルギーを少なからずルナちゃんに送ってた。そして……今に至ると。」
「先生……私は……本当に『天江先生の未来』なんですか?」
「いいえ……確かに、あなたは母である天江夕子、父である雑津来人の娘として生まれた……ただし、私の知っている世界と違って、
 お父さんは婿養子にはならなかったみたいだけど。だから……あなたはあなた。『パラレルワールドの私』ってな言い方もできるけど……
 教え子に難しい説明をするのは野暮よね。だから、あなたはあなた!それで良いじゃない?」
「先生……。」
「来月、あなたは仁科学園の中等部に進学し、その過程で部活動を探すはず……でも、もうあの時のように『格闘茶道部』は存在しない……
 昔の私のように剣道部を探すも良し、別の部活動を探すも良し、あえて帰宅部になって勉強に専念するも良し……
 何にせよ、自分流の道を探しなさい。」
語りかける天江ルナ。
そして、自分の伝えたかったことを雑津ルナに伝え終えると、魔王と共に車へと乗り込むのだった。
「先生……どちらへ?」
「さぁね……一応は、自分なりの世界を探してくるわ。でも、その前に……ね?」
「ええ、この悪霊を封印したお札を時空間の奥底にでも押し込めてくるわ……もう二度と、こんな面倒な事件が起きないためにもね。」
そう言いながら、助手席のシートベルトに手をかける魔王。
「ルナちゃん……。」
「……お母さん、本当の私を……お願い。」
母と言うべき存在であった雑津夕子の言葉を聞き、車のエンジンをかけながら答えるルナ。
「じゃあね!」
夜の闇の中で、ルナの精一杯な明るい声が響く。
「さて、行きますかね?」
「そうね……あ!その前に明治時代の柚鈴天神社に行かなくちゃ!!今に至るまでの歴史を作るために、
 この『英雄の詩』を鈴絵ちゃんの曾お爺さんに伝えてこないと!!!」
そう言って、手元に握られたルナのMP3プレイヤーを振りながら見せる魔王。
「そうね……了解ぃ!それにしても、未来の記憶の中に存在してた曲が過去の曲でもあった理由が私とよーちゃんのせいだったとはね……。」
闇夜に大きく響く車のアクセル音。
しかし、その音もすぐに消え、車の姿もあっという間に暗闇の中へと消えるのだった。

643記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 21:05:55 ID:7o6bAq7w0
「私の……本当の……未来。」
「……行こう、ルナちゃん。お父さんも、お腹を空かせて待ってるから。」
「……うん!……でも、その前に良い?」
「何?」
「……あんまり、人前でコスプレとかしないでね。何と言うか……娘として、恥ずかしい。」
「え〜、いーじゃない〜……アヌビス星人ドギー・クルーガー!ジャッジメント!!でぇ〜でぇえええん!!!
 ……なんてね?」
「……。」

それから一か月後、雑津ルナは仁科学園に新たに設置された仮設体育館の前に居た。
「……ここ……だよな?」
左手には竹刀、右手にチラシ、そして右肩には道着と防具が入った袋をかけた出で立ちで、体育館の前に立つルナ。
「『剣道部員求む』……か。村の剣道大会で優勝経験のある私にとっては願ったり叶ったりの部員募集ね!
 ……とは言うものの?」
部員募集のチラシを再確認した後、チラシを左手に持ち替えて、体育館の戸をゆっくりと開ける……が、
時間的にはどこも部活動を行っている時間にもかかわらず、体育館の中は静寂を保っていた。
「『剣道部 水曜夕方と土曜午後より体育館で絶賛練習中』……って、全く人の気配が無いんですけど。」
チラシにツッコミを入れるルナ。
『とりあえずは教職員に確認を取ろう』と考え、体育館を後にしようとした…その時であった。
「……!」
いきなりの出来事に対し、彼女は『気配』をまるで『殺気』のように感じ取ってしまい、
おもわずルナはチラシを投げ捨てて竹刀を構える。
「誰?!」
誰も居ないはずの体育館に響き渡る彼女の大声。
しかし、その『気配』は彼女の問いかけに一切答えることは無かった……が、
自身がどこに存在しているかについては強いプレッシャーで彼女に伝えていた。
「……!あそこか。」
プレッシャーが発せられている方向を見るルナ。
その目線の先には……。

おわり

--------------------------------------------------------------

以上で『記憶の中の茶道部』としての物語は終了です。
wikiのほうへは、後日人物設定等も含めてUPさせていただきますので、よろしくお願いします。

駄文失礼しました。

644 ◆n2NZhSPBXU:2015/02/16(月) 23:22:29 ID:2CpqsyvE0
一応、wikiのほうをいじってみました(人物関係)。
文章は量が多いので、後でにします。

ところで、wiki見て気になったことについて。
「桐谷 広海(きりや ひろみ):他校の中学三年生」となっているのですが、仁科学園の学生の項ではなく、
『???』のカテゴリーに入れるべきでは?と思ったのですが、どうなんでしょうか?

645名無しさん@避難中:2015/02/19(木) 22:11:00 ID:pGsCTwRE0
>>624
ニシトちゃんをください!
仁科のなかで一番女子高生してる…と、個人的感想だっ

>>644
完走乙だじぇ!
で、桐谷 広海(きりや ひろみ)ちゃんは…そのままでもいいんじゃね?
ってか、書いてみたいんだけど?

646 ◆n2NZhSPBXU:2015/02/21(土) 01:11:00 ID:LxqGAcOI0
>>645
読んでいただき、ありがとうございます。
とりあえず、wikiのほうも修正しました(桐谷広海についてはそのままです)。

>ってか、書いてみたいんだけど?
私の場合、雑談スレでの戯言が本作に繋がっていたりするので、思いついたらとりあえず書いてみるのはいかがでしょうか?

647わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/03/15(日) 19:26:52 ID:CA/aW7Kg0
>>624
ニシトちゃんにケモ耳つけたい。
尻尾もつけたい。
そして、はたか(ry

ちょっとすぎたけど、季節ネタ。

 今日は13日の金曜日だから不穏な空気が流れるとクラスの男子はざわついているが、都合のよいことは起こらない。と、信じている。
 女子中学生も板に付いたし、そろそろ大人の螺旋階段を踏み出す歳なのに、そんなやつらに付き合うほど幼くないし。
 学校へと向かう際、お兄ちゃんも同じようなことを騒いでいたが、振り切って家を出たわたしはちょっと賢いかも。

 「亜子も背後には気を付けろよ」
 「はぁ?」
 「でも、ジェイソンが爪を伸ばしてきても、俺が助けてやるから安心しろよ。マイシスター」

 わざとお兄ちゃんの声を背中にして、雲ひとつない弥生の空を駆ける。
 わたしたちの学び舎が青空に光り輝くように聳え立つ。
 一瞬の青春を過ごす、わたしのステージは教室。
 今朝のシーンを振り返りながら、わたしは椅子に深く腰掛けていた。

 恐怖の大王が降ってこようとも、終末論を並べようとも、ホラー映画のような戦慄の展開が起きようとも、
わたしたちには素敵な明日がある。馬鹿兄貴の戯言を拭い去るつもりでわたしは図書館の本をスクバから取り出した。
 席に座って文学少女を気取って、ちょっと無理して分厚い本を捲っていると、クラスメイトの鼎ちゃんが目を丸くして
わたしの本をかっさらった。

 鷲ヶ谷鼎ちゃん。『わしがやかなえ』ちゃんだ。
 難しい字が並ぶ仰々しい名前とは裏腹に、ショートカットな藍色の髪と大きな瞳が印象的な女子中学生だ。

 「どうしよう。いよいよだよ」

 健康的な声を張り上げて、鼎ちゃんはくるくると指を回していた。
 何にあわてふためいて、誰に救いを求めて、ジェイソンの襲来に戦く男子にも匹敵する動揺ぶりだ。

 「そうね……。でもさー、本当の恐怖ってのは結局人間なんだよね」
 「え?」
 「だって。全ては人間が作ったものじゃない」

 鼎ちゃんは大きな瞳を丸くさせて人差し指を立てたままかたまった。なにかおかしいことを言ったのだろうかと不安だ。

648わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/03/15(日) 19:27:13 ID:CA/aW7Kg0
 「でも、鼎ちゃん。それって、素晴らしい発明だと思うよ」

 再び少女の煌めきを取り戻し、ぴょんと羽上がった鼎ちゃん。

 「男子から何もらえるかなぁ。ほら、明日」

 わたしは机に腰掛けて最強議論を重ねている男子をちらと一瞥した。期待するだけ無断だけど、明日はホワイトデーだし。

 「結城凱みたいなワイルドな人から……だなんて、無理かなぁ」
 「誰?どこのクラスの子」
 「ちっちっち。ブラックコンドルだよ。伝説となった『鳥人戦隊ジェットマン』だね」

 ちらほら聞こえてくる男子の会話に胸ときめかせて、鼎ちゃんはちょっと昔の戦隊物に想いを寄せていたのだった。

 「でさあ、鼎ちゃん。ブラックコンドルとジェイソン、どっちが強いの?」
 「亜子ちゃんって、男子みたいなこと言うね」

 少年のような瞳で鼎ちゃんはけらけら笑っていた。


   おしまい。

鷲ヶ谷鼎ちゃん、お借りしました。亜子ちゃんも!
http://www15.atwiki.jp/nisina/pages/132.html

いもうとキャラ。
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/929/ako_kanae.jpg

649名無しさん@避難中:2015/03/23(月) 04:41:04 ID:8KDkuq7k0
>>644
完結!乙でしたあー。キャラ豊かで見てて楽しかったです!
自分も書いてみたいなあ…
>>647
乙!!!!
うおおついに明らかになった鷲ヶ谷妹。あの姉してこの妹アリって漢字だ。
そして亜子ちゃんは相変わらずかわいいなあ…絵もいい…素晴らしいです。

650名無しさん@避難中:2015/03/23(月) 04:44:31 ID:8KDkuq7k0
ところでここの先生方or大人たちはどうして右も左も変な人ばかりなのだろう…
一番まともなのは誰かな。白壁せんせー、真田せんせーあたりかなあ

651名無しさん@避難中:2015/03/24(火) 07:56:21 ID:iFB84EH60
真田もあの美人姉妹がいるだけでへ(ry

652名無しさん@避難中:2015/03/24(火) 12:33:22 ID:Aeq9ZLsc0
やもりたんも相当際どいぞw

653名無しさん@避難中:2015/03/24(火) 22:33:43 ID:TMD9k8lw0
残るは茶々森堂の給仕さんですよ。
猫目かわいいし

654名無しさん@避難中:2015/03/27(金) 12:32:05 ID:G0KU9sqA0
黒髪多いね。鈴絵先輩とか

655名無しさん@避難中:2015/04/29(水) 10:01:45 ID:PQXe7UHs0
例の紐

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/939/a+string+in+question+ako.jpg

656名無しさん@避難中:2015/04/29(水) 10:58:43 ID:G39.0eYo0
……ふぅ

657名無しさん@避難中:2015/04/30(木) 03:03:39 ID:fq8UkTR.0
ぴたごらすいっちw

658名無しさん@避難中:2015/05/04(月) 17:11:47 ID:UmJ1Crv60
ちこくするー!
わお?わ、わおおおおおおん!

http://download4.getuploader.com/g/sousaku_2/944/shinobu_wanwan.jpg

659:2015/05/15(金) 11:25:16 ID:6NFKM1D.0
ぬこぽ

660名無しさん@避難中:2015/05/15(金) 12:49:43 ID:VZIow.Ls0
にゃ

661名無しさん@避難中:2015/05/16(土) 06:42:01 ID:rOit8wLk0
後輩「ぬこぽ」

662名無しさん@避難中:2015/05/17(日) 22:48:18 ID:zZB0mHfI0
あかね「ぬこっぽ?」

663名無しさん@避難中:2015/05/18(月) 00:03:11 ID:f9nHwNx60
亜子「に……にゃー……?」

664名無しさん@避難中:2015/05/19(火) 07:59:16 ID:CJtgDXaE0
こんこん

665名無しさん@避難中:2015/05/19(火) 11:10:35 ID:tmCZ4m2k0
【急募】狐キャラ

666名無しさん@避難中:2015/05/19(火) 12:11:34 ID:x7ZQ0ezs0
キツネと言えば…

667名無しさん@避難中:2015/05/19(火) 22:24:26 ID:KcMe3xpE0
狐キャラ>神秘的、近付きがたい、そしておっぱ…

668名無しさん@避難中:2015/05/21(木) 10:02:11 ID:x5r/blvk0
隠れ巨乳は多そうだけど巨乳がウリのキャラが居なかった

669名無しさん@避難中:2015/05/21(木) 20:31:36 ID:38Q6zTz.0
>>665
http://download4.getuploader.com/g/sousaku_2/954/suzue_fox.jpg

人口比は隠れ巨乳<<ロリ体型なのが学園スレです。はは

670名無しさん@避難中:2015/05/25(月) 01:35:50 ID:3zOonr1I0
おっぱい!! おっぱい!!!!!

671わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/05/30(土) 10:31:04 ID:qUpb/Q7k0
本スレのお題「教師」から。


 『さなだけ』

 
 台所で忙しそうにしている妹のアリスの目を盗んで、ちょっくらタコさんウインナーを失敬してみる。
 思った通りに目を丸くしてお冠なアリスの気持ちとは裏腹に姉のウェルチが破顔した。

 「一匹ぐらいいいじゃん」
 「お姉ちゃん!」
 「もう一匹いい?」

 いやいや、アリスは本気。

 ウェルチはタコさんウインナーを胃の腑に収めると、重そうなリュックを肩にくるりと踵を返していた。
 これからお出掛けだ。部活の朝練に向かうのだ。体を動かすには丁度いい季節になってきたねと、ウェルチは光を浴びた。

 朝の光はすこぶる気持ちが良い。この恩恵に文句をつけるとならば、どんなヤツだ。
 たとえば……真田アリスだ。

 いくらゆすぶっても起きない姉に愛想を尽かし、朝食とお弁当を準備していたアリスだ。
 だからせっかくのタコさんウインナーをちょろまかされたならば、歯軋りしてさわやかな朝を台無しにしなくてはならないだろう。
 フランス人形のように整った顔だちもこれではもったいない。

 呆れるアリスを尻目に、春眠暁を覚えずの故事そのままに、朝寝坊をしたウェルチはいつもよりの倍速で靴下を履いていた。
 アッシュブロンドの髪をポニーテールに結んでいるウェルチが台所で跳ねると、春の草原かのような風が吹いた。

 朝の光はすこぶる気持ちが良い。この恩恵に感謝しているのは、どんなヤツだ。
 たとえば……真田ウェルチだ。

 体育会系を絵にしたウェルチに『細かいこと』という文字は存在しない。
 木漏れ日も目を覆いたくなるぐらいの日光に変えてしまう魅力を持っている。

 「アリスは朝から励むね」
 「お父さんの分も作ってるんだから」

 同じくアッシュブロンドの髪を持つアリスは炒り卵を掻き回す手を止めて、壁の時計を一瞥するとそろそろ出掛ける時間だと言う。
 日曜日の朝だというのに何かとくるくる目が回る。

 重そうなリュックを背にウェルチはスカートを叩きながら今朝の出来事を思い出した。

 「お父さん、もう出掛けたんだけど……アリス、知らなかったの?」
 「え?これ、お父さんの分も作ってるのに」
 「ザンネンね」

 ウェルチとアリスは姉妹だ。明暗別れた表情が左右非対称に並んだ。
 出来上がった炒り卵を二つの弁当箱にきれいに詰めるアリスは貰い手のない我が子の行く末を案じていた。

672わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/05/30(土) 10:31:31 ID:qUpb/Q7k0
 「アリス。そろそろ出るね。朝ご飯は……いいや!遅刻遅刻!」

 真っ白なブラウスに空色のリボンとスカートがさわやかに。制服姿のウェルチがアリスを急かして玄関へと向かった。
 日曜日だけど、部活の自主練習へ行くと言うのだ。ちょっと!とコンロの火を止めて、慌てて仕上げたお弁当を手に
アリスが後を追うと、ウェルチは玄関でスニーカーの靴紐を結んでいるところだった。

 「聞いてなかった?『明日、美術部に顔を出さなければ』って、お父さんが言ってたの」
 「そうだっけ?多分、本を読んでたからかしら。丁度、ダイイングメッセージの解読するシーンだったし」
 「何か、お父さん。すごく張り切ってわよ。ってか、いってきまーす!!」

 ひょいとアリスから弁当箱をひったくると、ウェルチはグーサインを突き出してポニーテールを揺らした。自信に満ちた
ウェルチのすまし顔が朝からやけに目に焼きつく。とにかく前向き、ポジティブに。たかが、靴の紐を結ぶことでさえも
見るものに明るい未来を与えてくれるのだ。寝間着のアリスは読みかけの推理小説の粗筋を思い出しながら姉を見送っていた。

 「お父さんの仕事に対する情熱は自慢でもあるし……」

 二人の父親は教師だ。
 二人が通う高校の美術教師を勤めている。故に、美術部の顧問も同じく勤めているのだ。
 自宅には父親の作品が狭しと飾られている。繊細で、色鮮やかな筆遣い。細かく描かれた木葉に背景が良い例だ。
アリスは父親の描いたセキセイインコの絵を眺めつつ、弁当箱を抱えていた。勿論、父親の分だ。アリスは複雑な気分だった。

 こうも少女的なタッチを描くのに、クラスのみんなは父親……つまり、美術教師・真田基次郎のことをゴリラと呼ぶのだろう。
 さらに口の悪いヤツは画廊原人とも呼ぶ。そんな父のあだ名をBGMにして学園生活を送っているのはアリスには心苦しいことだ。
 でも、ウェルチに言わせれば「これだけ慕われていることよ」と。姉のフォローに納得しつつ、父の口を喜ばせることに全力を注ぐ。

 「さてと……あと一品作ってみるかな」

 台所のアリスは鍋で塩水を沸騰させると刻んだアスパラガスを投入した。

 にぎやかで、騒々しいクラスだけど、読書の静の時間とクラスでの動の時間がアリスには世界を感じるのだ。
 もちろん、姉のおかげ。そして、父のおかげ。

 そう言えば、クラスメイトに迫という男子がいた。
 演劇部の部長を勤めている。彼の後輩たちが迫を囲んでわんわん騒いでいるところを目撃したことがある。

 「だから言っただろ。言霊はその分自分に返ってくるんだ」
 「わおっ。迫先輩はオトナですっ」

673わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/05/30(土) 10:32:01 ID:qUpb/Q7k0
 アリスは一緒にいたウェルチと共に「まだまだ子供みたいだよね」と一歩引いていた。

 オトナっていうのは……。
 お父さんみたいに包容力があって。
 お父さんみたいに行動力があって。
 お父さんみたいに逞しくって。
 お父さんみたいに……繊細で。

 一言で言えばゴリラだ。

 聞くところによると、ゴリラは家族を大切にする生き物らしい。
 迫にはまだ、ゴリラの風格など備わっていないと、アリスとウェルチは口を揃えた。

 茹で上がったアスパラガスを湯から摘み、ベーコンを巻いて炒める。簡単だけど豚肉と野菜の食感を同時に味わえる
春の一品がバターの香ばしいにおいとともに出来上がった。

 「さてと」

 家に残った弁当箱に詰め込んで、台所で一人制服に着替え始める。
 こっそり覗いているのはセキセイインコだけ。但し、絵だけど。


     #


 お日様が眩しいぐらいな角度で上がってきた頃、アーチェリー部の射場ではウェルチが額に汗をかいていた。

 上手くいかない日は原因は他にあるはずだ。近距離なのに点数の伸びが芳しくない。
 五点、六点をさ迷って金的になかなか命中しないもどかしさ。
 フォームが悪いのか、クリッカーの音が良くないまま打ってしまうのか。チェストガードがいつもよりきつく感じる。
 食べ損なった朝御飯はアリスが作ってくれた弁当で済ませたからか、お昼への希望が途絶えたのが原因か。
ラストの一射を構えるとサイトの先が滲んで見えた。

 集中力が途切れそうなのを堪えていると、不思議な声が聞こえる。
 意識がどこかに行ってしまったのか。
 いや。違う。

 「お姉ちゃん。来ちゃったんだけど」

674わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/05/30(土) 10:32:26 ID:qUpb/Q7k0
 射場で妹の声を聞くとは思わなかった。
 ピンクのスクールベストで清潔感溢れる制服姿のアリスが弁当箱を持った救世主。
 無言でフォームを保つウェルチはカチッとクリッカーを鳴らすと、そのまま矢をリリースした。
 吸い込まれるように金的に突き刺さった結末に、ウェルチは久方ぶりの安堵を覚えた。

 「お姉ちゃん !」
 「アリス?よく来たね」

 弁当箱を掲げたアリスは朝のウェルチのようにグーサインを突き上げていた。
 今、ウェルチには弁当箱が財宝が詰め込まれた箱にも見えた。手を伸ばせばあり付くことが出来るお昼ご飯を自分の手で
逃してしまったウェルチにはウン億の価値にも見えるのであろう。
 しかし、これは……。

 「お父さんの分、持ってきたんだけど」
 「わざわざ?そっかー。わたしのお昼ご飯かと思ったのになー」
 「お姉ちゃん、お弁当渡したでしょ?」

 先に食べてしまった……という告白をアリスへ。
 イエス様の像の前で跪く迷える子羊。
 天のお許しを。
 愚かなわたしに裁きを。
 
 「お父さんも姉ちゃんも、部のことになると夢中になるから」

 さすが、我が妹。
 感極まったウェルチはアリスのことを尊敬の眼差しで見上げると細い手首を握り締めた。
 双子だから、自分と同じものを持っていると分かっているのに、触ってはいけないか弱い古美術のような感触がするではないか。

 「お姉ちゃん……」
 「アリス。

 初めて来るアーチェリー部の射場に飲み込まれそうなアリスだ。
 強引でもいい。こういうタイプはちょっと押しが強い方が効き目がある。ウサギのような勢いで姉は妹の手首を引っ張った。

 「よし。お父さんのところへ持って行こう!そして、何かごちそうしてもらおうかな」

 ウェルチは弓具を仕舞うと、片手でタオルで汗を拭った。
 アリスは王子様との夢を見ているようだった。

 美術室への廊下が朝の光よりも眩しい。

675わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/05/30(土) 10:35:19 ID:qUpb/Q7k0
      #


 「よく見て感覚を掴むのだ。この肉体美」

 真田基次郎は美術教室で自慢のバリトンボイスを響かせた。
 言うならば、動物園の檻をやぶってのこのこと現れてたゴリラがマンティングを披露しているかのようだった。

 デッサンは基本のキ、コンテと食パンを手にカンバスに命を吹き込め。真田基次郎の美術論は『動を静で表せ』だ。
 真田基次郎は今日に限って男子ばかり集めてみた。いわゆる実験かもしれない。男同士がぶつかりあうことで
ちょっとした化学反応を狙ったものだ。

 「台、ポーズの要望はないか」
 「せんせー。臀部を見せてくんねーかな。臀部」
 「おお。大事だな。臀部」

 机の上でくるりと回った真田基次郎は、まるでゴリラのように野性の構えを部員たちに見せつけた。
 ビキニパンツ一丁で余すとこなく部員たちに肉体を提供する男気。隆々とした腕っぷし、均整の取れた胸板、締まりのよい尻。
 ダビデの生き写しか、はたまた生まれ変わりか。

 真田基次郎は午前の光の中、まるでゴリラと化していた。
 ゴリラは優しき生き物だ。
 生徒たちの要望を聞き入れることはゴリラの使命だ。
 恥ずかしいことなど、一切無い。ゴリラは勇敢だから。

 「せんせー。あのー……正面のデッサンしたいんすが」

 手を伸ばしている男子生徒の願いは聞き入れなければならぬ。
 少年は宝なり。

 「おお。大切だな」
 「パンツ脱いでくれねーかな」

 真田基次郎がパンツのゴムに指を掛け、ゆっくりと太ももへとずりおろすカウントダウンを頭の中で始める。
 いいか。これは芸術だ。
 芸術は素直でなければならない。
 目の前のものを受け入れなければ、愚直にはなれない。
 いくら芸術を愛する詩人が「手術台の上でミシンとこうもり傘が不意に出会った美しさ」を語ろうとも、全ての根源を知らなければ
その美しさを感じることが出来ないのだ。

 だから、裸を恥じることは無い。
 なぜなら、自分はゴリラだからだ。
 ゴリラが自然に帰るだけだ。
 すっとビキニパンツと太ももの間に空気が流れる。
 覚悟のまま腕を下ろそうと心臓を爆発させたと同時に、教室の扉が全開し聞き慣れた声がユニゾンで響いた。

 「お父さ……」


おしまい。


アリス・ウェルチ「おとうさんと!」
http://download5.getuploader.com/g/sousaku_2/956/sanada_ke.jpg

676名無しさん@避難中:2015/07/11(土) 18:22:11 ID:rUkvh49k0
黒鉄亜子「ふう…静かだなぁ」

677名無しさん@避難中:2015/07/24(金) 18:22:29 ID:MiwpXE/A0
ぬこぬこぽっぽ

678名無しさん@避難中:2016/02/11(木) 21:34:37 ID:oVkR80C60
ぬこんぽ

679名無しさん@避難中:2016/02/12(金) 01:37:06 ID:pr1cQH5Y0
にゃぁ

680名無しさん@避難中:2016/02/13(土) 07:39:56 ID:IQf2.In60
ぬこわんっ

681名無しさん@避難中:2016/02/25(木) 22:17:56 ID:LPYEHd560
>>675
部活って・・・いいよな。青春している感じがする
ゴリラのような人間なのか、人間のようなゴリラなのか
それを判断するには僕たちはまだ幼すぎる

682先輩、スパゲッティプログラムです!:2016/02/27(土) 00:06:23 ID:jxyxOJPU0
投下・・・するんじゃない?

683先輩、スパゲッティプログラムです!:2016/02/27(土) 00:07:20 ID:jxyxOJPU0

「先輩!! ……別に呼んでみただけです」
「返事してからバラせよ」

 アホの後輩が今日もアホで安心する。
 俺と後輩が繁華街の洋食屋で席を同じくしているのはデートでも何でもなく、たまたま
の偶然だった。少なくとも俺の認識ではそうだ。

「このお店スパゲッティが美味しいんですよ」

 ずいずいと断りもなく相席する彼女には閉口するが、まあ四人掛けのテーブルを一人で
占領するのは心苦しいので、ちょうど良かったといえば良かった。

「先輩はスパゲッティのことをスパゲッティって呼ぶ派ですか? パスタって呼ぶ派?」
「基本的には、スパゲティ、かな」

 スパゲティはパスタの一種にすぎない。

「……」
「……」
「お前は?って訊き返してくれないんですか?」
「さっきごく自然にスパゲティって言ってたじゃないか」
「あれは……口からついです。ふ、普段はパスタって呼んでますよ? いかにもオシャレ
で、女子力ありそうじゃないですか? 結婚したくならないですか?」
「そうかな……」

 どっちでもいいと思う。

「でも、たらこスパはやっぱりたらこスパじゃないとですよね。たらこパスタなんて呼ん
でたら百年の恋も冷めます」
「たらこパスタ」
「あっ、店員さんすみませーん! たらこスパ一丁ぉ!」
「かしこまりぱすたー!」

 百年の恋が早く冷めて欲しい俺は間髪入れずに言ったのだが、オリーブオイルまみれの
スパゲッティのように後輩の右耳から入って左耳に抜けていった。
 ……地味に店員もおかしかったが、ツッコむのはよそう。どうせただの変な語尾を操る
程度なら、後輩のおかしさのほうが絶対おかしい。

「先輩は何を頼んだんですか。交換しましょうよ。唾液ごと交換しましょう」
「食欲が失せるから。ピラフだよ。えびの」
「焼き飯ですか」

 すごい女子力低そうな言葉出た!

「いや、ピラフは焼き飯じゃないだろう。ピラフとチャーハンと焼き飯は全部作り方が違
うはずだ」
「……そ、そうなんですか? 精進します。今日から武者修行です」

 花嫁修業じゃないのか?と言い掛けたが、藪を突いて蛇を出す行為と思い留まる。
 怪しい話題の取っ掛かりを察知して潰しておく、このへんの判断がこの子と先輩後輩付
き合いしていくコツだ。

684先輩、スパゲッティプログラムです!:2016/02/27(土) 00:08:26 ID:jxyxOJPU0
「はーいピラフ、お待たせしぱすた!」
「あ、どうもです」

 会話が途切れたちょうどいいタイミングでウェイターが料理を運んで来る。
 とたんに、後輩が目から嘘っぱちの涙を飛ばしながら叫んだ。

「そんな先輩! ここは私に構わず、どうか先に召し上がっててください!」
「……待ってるつもりだったけど、なんかムカついたからもう食べるわ……」
「そんな先輩!」
 
 どっちだよ。

「すじこスパゲティのお客様ー」

 俺の記憶が確かならこの席にはいなかったと思うが、魚卵がアホほど盛られたスパゲテ
ィが後輩の前にデンと置かれる。
 「わぁ美味しそう!」などと手の平を合わせて感激している後輩に、「お前の注文はた
らこだっただろ」と俺はものすごく言いたかったのだが、それを言ってどうなると思い直
して我慢した。
 ウェイターがそっと耳打ちしてきた。

「旦那、タイミング、合わせておきぱすた……ぜ!」

 自分の仕事によほど自信ありげに去っていくウェイターを、俺はじっとりとした半眼で見送った。
 ……オーダー間違えたくせに。

「ね、ね、ピラフ! 先輩を一口ください。代わりに閑花ちゃんあげます」
「黙って食えすじこ」

 ピラフは大変美味しかったのだが、何だかひじょうに疲れてしまった俺は、自分は二度
とこの愉快な店の暖簾をくぐることはないだろうなと思ったのだった。



 おわり

685先輩、スパゲッティプログラムです!:2016/02/27(土) 00:10:33 ID:jxyxOJPU0
おわり。リハビリがてら
学園でも何でもないけどな!

もう自分のトリを忘れてしまったですよ

686名無しさん@避難中:2016/02/27(土) 01:11:30 ID:TiE3xva60
きたー

687名無しさん@避難中:2016/03/01(火) 01:21:40 ID:OI5hyDBM0
仁科周りの飲食店はなぜ妙なところが多いのかw

688わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/03/19(土) 06:31:50 ID:Udj/fLyA0
 『たらこに☆スパに☆つなわたり』

  唄・後鬼閑花

 おまたせしました あっつあつ! 
 当店自慢のたらこスパ!
 ちょっぴり塩味アクセント! ほかほかつるつる星三つ!

 四六時中いつも考えている
 この一品をお届けするとき もしかしてもしかして
 もっともっともっともっと好きになっちゃうかも

 ただでさえ夢中なのに
 あの人と指が触れ合ったとき もしかしてもしてして
 もっともっともっともっとラヴになっちゃうかも

 たらこスパのつなわたりだよね 対岸に渡り終えたとき
 きらきら輝く豊饒の海へと ダイブしちゃってもいいですか?

 たらこスパのつなわたりだよね 対岸に辿り着けなくても
 きっときっとあの人がきっと ぴりゃーっと包み込んでくれますよね?

 おまたせしました あっつあつ! 
 当店自慢のたらこスパ!
 麺は絶妙アルデンテ! コナオトシなんかつまんない!

 四六時中いつも考えている
 この一品を口にしてくれたとき もしかしてもしかして
 もっともっともっともっとぎゅっとしてくれるかも

 塩味お留守のスパなんて
 恋愛が奪われた人生みたいだし もしかしてもしてして
 もっともっともっともっともっともっともっともっと
 もっともっともっともっともっともっともっともっと


 たらこマシマシしますか?


 たらこスパのつなわたりだよね ずっと応援していてね
 数多に広がる星空の元 翼広げてちゃってもいいですか?

 たらこスパのつなわたりだよね たとえフォークを投げちゃっても
 ぜったいぜったいわたしは 匙なんか投げないからね?

 だってこの一言が聞きたいから ゆらゆら揺れるたらこスパの綱辿って
 

 『ごちそうさま』


 まいどありがとうございました! 
 いかがでしたかたらこスパ!
 ちょっぴり塩味アクセント! ごめんね海苔を乗せ忘れ!
 
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1020/247_cd_shizuka.jpg

689わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/03/19(土) 06:36:23 ID:Udj/fLyA0
>>682
やったー!後輩ちゃんはやっぱりかわいい!ごちそうになりぱすたー!
この掛け合いたまらんちん!

ジャケ写
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1021/247_cd01.jpg

690名無しさん@避難中:2016/03/19(土) 08:14:54 ID:qMf7TCmc0
言い値で買おう

691名無しさん@避難中:2016/03/21(月) 03:21:41 ID:wywvZ72U0
すげえ!すげぇよアンタ!
この電波ソングは完全に調子に乗ってる時の後輩ですわ
もっと連発のそこはかとない狂気

なんかイラストどんどん芸が細かくなってるw
うちの子可愛い
ありがとうございぱすた!

692先輩とダモクレスの犬 ◆46YdzwwxxU:2016/03/26(土) 15:48:43 ID:adnK4mC60
投下します
ネタがない時の名前ネタ

デリケートな話題のわりに特に配慮とかナシなのでごめんち

693先輩とダモクレスの犬 ◆46YdzwwxxU:2016/03/26(土) 15:50:29 ID:adnK4mC60

 いつもの後輩後鬼閑花となし崩しに帰ることになった日、玄関でいつもの後輩の友達で
俺にとってはそんなにいつものじゃない後輩の久遠荵と出くわした。

「荵ちゃんのくさかんむりって、やっぱりわんわん王だからなんですかね」

 二、三、何ということもない会話を交わしたところで、後輩が脈絡もなくそんなことを
言い出した。

「そだよ」
「いや、もともとわんわんおーの“おー”は王様の“王”じゃないから。……えっ!?」
「わはー! びっくりした? バウリンガルジョークでした!」
「ただのジョークとの違いはよく分からんが」

 正直めっちゃびっくりした……。後輩は明らかに笑いを取りに来ている時と素で間違え
てる時が分かりやすいが、久遠はなんか難しい。演劇部だから?(関係ない)

「ちなみに私の名前も、有閑マダムの閑にお花の花ですから、くさかんむりあります」
「もっといい単語なかったかな?」
「土佐犬みたいにブレイブなんだね!」

 ネギちゃんそれ違う。
 おさらいしておくが、久遠の下の名前は荵(しのぶ)ちゃんである。見ての通り、忍に
くさかんむりが付いた漢字で、みんなおなじみの野菜より二本だけ画数が少ない。

「私みたいな見た目神秘的で賢そうな女の子には月桂冠なんて似合うと思いません?」
「自覚はあったようで、思っていたより賢かった」

 ふと気になって後輩に聞いてみる。

「ところでお前、荵がどんな植物か知ってるのか?」
「私これでもお料理には自信があるんですよ」

 うっわ!
 荵を知らないどころか、ネタじゃなくて本気で葱と間違えてたのこの子!?

「……シノブ科夏緑性シダ植物。夏にしのぶ玉とか吊りしのぶって言って、根っこの部分
を丸めて軒先に吊るしたりしてるアレだ。ネギじゃないんだぞ」
「きゃうん!? 私吊るされちゃうよ!」
「博覧強記も結構ですけど、堅っ苦しい生物学的分類なんて、先輩ったら情緒ってものが
ありませんよ。花のJAの名前の話題ですよ?」
「私たちじぇいけーだよ?」
「JAは農協だぞ」

 こいつの名前のくさかんむりは、やっぱりおバカの王様だからなんだろうか。

694先輩とダモクレスの犬 ◆46YdzwwxxU:2016/03/26(土) 15:51:34 ID:adnK4mC60

「……そんなことより!!」

 誤魔化す気マンマンだが、武士の情けだ。しつこくは追及すまい。

「ちょうど夏なことですし! これって園芸部に行って、そのしのぶ玉だか忍たま●太郎
だかを見せてもらう流れじゃないですか? 荵ちゃんも行くよね?」
「へむへむへむ」

 意外と乗り気なのか久遠。……何かよく分からん返事だが乗り気でいいんだよな?
 まあ何についても実物を見るのが一番いい勉強である。

「わんわん中だけど、お供しまっす!」
「謎の活動!!」
「今思ったんですけど、園芸部と演劇部ってなんかちょっとカブってません?」
「うん、たまに木の役依頼したりしてるよ?」

 それって園芸かなぁ。
 ともかく三人揃って園芸部のエリアに出向く。傍目には謎の三人組だろうが、俺にとっ
ても彼女たちと放課後こうしてうろついているのは不思議だった。
 園芸部は、いわゆる学園農場寄り、ビニールハウスの並ぶ土地の一角に部室を持つ。最
大勢力である無印の園芸部の他に、園芸部(和)とガーデニング部(洋)と、園芸テロリ
スト集団として恐れられる裏・園芸部まであるが、たまたま(和)の次期部長と目される
普通科二年女子春野英知(はるの えいち)さんがいたので断りを入れておく。快いオー
ケーの後、ちょっと恥ずかしそうに「みんなも運命の一輪と……エンゲイジだよ!」とか
ポーズ付きで決め台詞のようなことを言っていた。部員獲得のためになりふり構わない、
次期部長の気迫がそこにはあった。

「運命の一輪とエンゲイジ(和)」
「許してやれ」

 実際のところ、春野さんはパッと見、いたずら好きな花の妖精というか、華やかで香り
の強い“洋”のイメージの女の子だ。無印の園芸部の重鎮金本と水が合わず、一度は裏・
園芸部に堕ちてスコップ片手に部員たちを闇討ちしていた時期もあったらしいが、園芸部
(和)部長壇ソノカ先輩を運命の一輪と見初めて表の世界に返り咲いたという噂だ。
 波乱万丈というか何というか、仁科学園の園芸部員どもは本当にちゃんと鉢の世話をし
ているのだろうか、変な抗争の話ばかり聞こえてくる。

「あのへんかな?」

 鼻を利かせていち早く駆けていく久遠の背中を追う。ビニールハウスに併設された屋根
付きの空間に、所狭しと花びらが咲き乱れていた。

「私、花とかそこまで好きじゃないけど、ここは乙女的なアピールポイントに違いない」
(わぁきれいなお花ですねぇ先輩!)
「……たぶん、本音と建前、逆だからな」
「私の方が綺麗だよ」
「……何だ!? 何が起こっている!?」

 たぶん後輩の中では、自分が「きれいなお花……」と感嘆したところで、俺が「きみの
方が綺麗だよ」と歯の浮くようなことを言ったのだろうが、何もかもぜんぶ間違えている。

695先輩とダモクレスの犬 ◆46YdzwwxxU:2016/03/26(土) 15:52:11 ID:adnK4mC60

「しのぶ玉どこかなー?」

 そんな中、自分の名前にまつわることだからか、久遠は真面目だった。匂いを嗅がんば
かりにあっちこっちの鉢植えに顔を近づけている。

「今更ですが、しのぶ玉ってネーミングがもう、忍者が敵を爆殺するために使う火薬玉の
類にしか聞こえません」
「言うなよ。あー、久遠それだ、それ」
「わう?」

 俺の指先を追って、久遠が視線を上げていく。棚というよりその支柱に、黒褐色の球体
が針金で固定されていた。
 しのぶ玉だ。
 球状に纏められた根茎は遠目に土塊のようだが、そこから飛び出して三角形を描く櫛状
の葉の緑は、強靭な生命力を感じさせた。
 みずみずしいとは印象が違う。吸い上げて我が物とした水を握り締め、苛酷な環境を生
き抜こうとする、無駄のなさ、強かさ。

「これが荵ちゃんなんですねー」
「その言いようやめろ」
「バイオスフィアって感じです。地球型惑星をテーマにした芸術品みたいな」

 後輩の感性は雄大だった。

「どうです? ん? わんわん玉になった気分は」

 ……人格は小物というかただの屑だったが。
 にやにやしながら久遠を肘でつつく後輩。悪意があるのかナチュラルに性格が悪いのか、
ただ親密な間柄だから冗談で言えるのか。
 ……どれでもいいか。

「殴っていいぞ。俺が許す」

 しかし久遠は温厚なレトリバーのように無邪気に笑っていた。

「とっても感動しました! 連れてきてくれてありがとう」

 別に久遠の方から頼んだわけでもないのに、この素直さ、この可愛らしさ、そしてこの
感受性。意地悪市松人形とどこでこうも差が付いてしまったのか。俺の後輩にしたい。今
も後輩だけど。

「ところで先輩、しのぶ玉ってどうやって遊ぶんですか?」

 後輩に与えると何だか人に投げつけたりしそうだが、しのぶ玉は観賞用であってそうい
うものではない。

「見てると涼しげじゃないか」
「ダモクレスの剣だね!」
「そうね」
「……」
「……」

 ――久遠荵という少女が何故ここで突然ダモクレスの剣なんて単語を口走ったのか――
 ――本気でしのぶ玉というものを勘違いしていたのか――
 ――それともバウリンガルジョークとやらの新作だったのか――
 ――それすら、俺の理解の及ぶところではなかった――
 ――しかし、俺はそれでいいと思うのだ――
 ――しのぶ玉が軒下で風に揺れる季節は、まだ始まったばかりなのだから――



 おわり

696先輩とダモクレスの犬 ◆46YdzwwxxU:2016/03/26(土) 15:54:49 ID:adnK4mC60
投下終わり
思ったけどこの二人にもう一人混ぜるのって難しいね・・・

697名無しさん@避難中:2016/03/27(日) 23:10:13 ID:CL68xyFM0
>>696
投下乙です!

>この二人にもう一人混ぜるのって難しいね・・・

そうなんだよねー
あまりにも二人のやり取りが完成されすぎていて。
後輩にツッコむのも、的確さ・冷静さで先輩の右に出るものはいないし
ボケるにしても後輩より面白くボケられても被るだけだし

結局、二人のやり取りを面白いねーって眺める傍観者になるしかないのかなぁ
でもそうすると絡ませる意味ないしなー

>>496-500 みたいな、わいわいした状況ならまた違うんだろーけど

698名無しさん@避難中:2016/03/29(火) 22:53:41 ID:70JoX/V60
改めて読み返すとこの話はいかんですな
余裕ができたらウィキでちゃんと書き直すです

スイカは夏にならないと書く気しないからまたね(二年越し)

699わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/04/02(土) 10:36:30 ID:4MDoSrWE0
>>696
後輩ちゃんかわいい!
先輩いつも突っ込みさえてるな!
ネギ…あいかわらずや!

先輩×後輩+αの絡みの方程式、どうやって解こうか…

「久遠、遅いよっ」
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1026/akane_shinobu03.jpg

700名無しさん@避難中:2016/04/03(日) 11:04:50 ID:yy9e.0aQ0
演劇部もランニングするんだね
葱ちゃんは瞬発力ありそうだけど持久力あんまりなさそう

701名無しさん@避難中:2016/04/08(金) 21:15:48 ID:P3xJQda.0
久しぶりになんか書きたいにゃ。
お題下さい。

702名無しさん@避難中:2016/04/08(金) 21:21:47 ID:QmzsYghQ0
昔のゲームで盛り上がる

703名無しさん@避難中:2016/04/15(金) 20:46:23 ID:Icy00c/w0
ゲーム・・・ゲームか・・・
フリーダムイーグルちゃんあたりそんなの好きそう

704わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/05/01(日) 11:37:44 ID:WTAvAC5Q0

 長崎のおばあちゃんちにあったからと、黒咲あかねがスーファミを演劇部の部室に持ってきた。
 久遠荵が理由を聞くと「現実逃避」と間髪いれずに返答した。

 『スーパー』と名乗るもの、『64』よりも古典的、『DS』よりも原始的。今の時代からすれば「いい仕事」した骨董品。
カセットなんて笑っちゃうぐらい分厚くて、それでもその頃のみんなはコイツに夢中になっていた伝説の名機だ。
 ビールジョッキを手にしたことないドイツ人と同じく、ゲームコントローラーを手にしたことない日本人はいないとも言われているほど。
 五本の指で世界を救える……と、アラサー世代はしこたま教育され、夢あふれる時代からやってきた往年のゲーム機が机に据えられる。

 部室の隅っこで燻っていたブラウン管のテレビの端子にケーブルを繋ぎ、ぱちんと電源が入ると、ブラウン管の奥から電気の音が聞こえる。
 さぁ。
 老兵の出陣。

 じわりと映し出された起動画面に心躍る。

 「わたし、ピーチ姫になりたかったの。わたしのために全力で走ってくれる誰かがいること」

 『ディスクシステム』のディすら知らない世代に生まれたあかねは乙女心を吐露した。

 「誰っ?『桃太郎』じゃなくって『桃姫』だっ?」
 「おばあちゃんちで、これやりながら思い描いていたわけでっ」
 「わうっ」
 「おばあちゃんちの側通る路面電車の音がリフレインしますっ」

 ブラウン管の正面に座してドット絵の画面と向き合うと、21世紀の何でもない世の中が未来の世界に見えてきた。
恐らくある程度の世代以降ならば、涙ちょちょ切らしながら誰もがそらんじることが出来る電子音のBGMが部室一杯に広がった。

 一人の男がうら若き姫を救いに走る。

 何というド定番。

 このゲームを臆面なく説明してみた。間違ってはなかろう。
 いい歳こいた、ヒゲの男を誰もが夢中になって一国を救うヒーローへと仕立てあげるという、単純かつ痛快なテレビゲーム。

 あかねは細い指で、無骨にごついコントローラーを握りしめていた。

705わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/05/01(日) 11:45:01 ID:WTAvAC5Q0
 十字のボタンを軽く押すと、軽快なメロディに乗せてドット絵の男が画面右へと駆け出す。

 真っ直ぐに伸びた道をひたすら進む。ただ、それを阻む者も存在する。敵は多い。

 気持ちのよいぐらいの青空の下、コイン拾い放題、キノコ食べ放題、カメ蹴飛ばし放題。身の丈以上の跳躍力を持つ身体能力で谷を越え、
目的地まで突っ走る。ここまで無我夢中に走る男はイニシャル『M』のアイツ以来だ。

 「あっ。うわっ。カメにかみつけっ」

 努々油断することなかれ。僅かの判断ミスが命取りに繋がるのだ。
 自動車のクラッシュテストさながら、カメとの正面衝突だった。

 墓標にこう記せ。

 『死因。カメに激突』

 心臓が止まったように萎縮した男は、これまた軽快なメロディで美しく死に体を晒すのだった。

 「あーあ。おばあちゃんだったら絶対ノーミスでクリアするのにな」
 「面白そうだなっ。わたしにもやらせろいっ」
 「だめですっ」

 ぐいっとコントローラーごと荵から遠ざけたあかねは有無を言わずに再チャレンジ。
 再び電子音が鳴り響きくなか、荵は両腕で抱きつく体勢であかねの背後にくっついて、頬をあかねの黒髪にくっつけていた。

 「あ。そういえば、迫先輩が」
 「……いけないっ」

 荵があかねの動きを制限するのだ。
 思うようにコントローラーを操作できず、画面の男も何となしに動きがぎこちない。

 「この間、あかねちゃんの書いた脚本読んでね……」
 「その話……」

706わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/05/01(日) 11:47:52 ID:WTAvAC5Q0
 本日二人目の殉職。
 闇よりも深い谷底に転落しようとも、耳を塞ぎたくなる断末魔さえあげることはなかった。
 もしかして、彼は走ることと同時に死を覚悟していたのかもしれない。死ぬ為に走る。武士道に通じる、命の散り際。
 潔いといえば潔い、リアルといえばリアルな最期。男気溢れる彼に弔いの花を。彼の名は永遠に語り継がれるだろう。

 そして、不死鳥の如く『テテッ、テッ、テレッテ!』と、甦る。
 輪廻という。

 しばらく口を閉ざしてコントローラーを握りつつ、俯いていたあかねが、城に閉じ込められた姫の姿と重なる。

 「わたしにもやらせろいっ」と、荵はあかねの黒髪に甘噛みすると、あかねが小さく声を漏らした。

 「あかねちゃん、頭ん中ぐるぐるだなっ」
 「んもっ」
 「髪の毛をくんくんすれば、大抵のこと分かるっ。迫先輩のことで動揺したねっ。水曜だけどっ」

 迫は演劇部の部長だ。
 以前、あかねは迫から演劇について「光るものがある」と評されていた。
 だからかあかねは渾身の力で脚本を書き上げた。

 「あかねちゃんもベタな話し書いたね。お姫さまを勇者が救うって」
 「基本のキだし。でも、うまく書けた覚えないし」

 好きなことなのに、上手くいかないことで苦しめられる理不尽に対してとったあかねの選択は「現実逃避」だった。

 「迫先輩が『おれのところへ来い』って。『一人で煮詰めると話が画一化される』って」
 
 荵の言葉にあかねの手が止まる……つまり、ヒゲの男は動かない。ダッシュさえ出来ない男に世界なんか救えるか。
 スーファミからカセットをいきなり抜いて、本体との接続部分の金属端子に強く息を吹き掛けた。
 
 ならば、わたしが。

 「ピーチ姫は彼が救いにやって来るのを待ってるの。でも、ピーチ姫だって、走らなきゃいけないってときもあるし」
 「わうっ」

 スカート翻して、あかねは演劇部部室を飛び出して、迫のもとへと馳せ参じた。
 荵はあかねが投げ飛ばしたコントローラーを握り締め、意味もわからずBボタンと十字ボタンを親指で強く押していた。

おしまい。

707わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/05/01(日) 11:49:02 ID:WTAvAC5Q0
三匹いればわんわんわん!三羽いたならちゅんちゅんちゅん!

>>703

荵 「でたな!ツインバード!」
和穂「え……、荵ちゃん。これ『ツインビー』だよ。縦スクロールシューティングの名作として名を馳せる……」
荵 「ほらっ!たかなっしー!ダブルプレーだ!」
小鳥遊「おれ、苦手なんだよな。シューティング」
荵 「じゃあ、よりツインビー感出すために……たかなっしー!和穂ちゃんを両手で抱えあげて!」
小鳥遊「えっ。こうか……?」
和穂「う、雄一郎!やめろ!」
荵 「両腕で天高く!空からくもじい見ながら、雲海を超えろっ」
和穂「うわぁ!お、落ちるーーーー!」
荵 「わおおおっ!ヴァーでチャルなリアリティだっ」


http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1030/kazuho02.jpg

708名無しさん@避難中:2016/05/10(火) 23:21:42 ID:.BEWW5AY0
小気味のいい文章は健在のようだな・・・
俺そのゲームやったことないけど友達がやってるのを横で見ながら邪魔したことはある

>接続部分の金属端子に強く息を吹き掛けた
これはやる

709名無しさん@避難中:2016/05/31(火) 22:26:07 ID:5zTXb2dg0
メガネっ娘が…欲しい…
うう、めメガネ…

710名無しさん@避難中:2016/06/01(水) 01:30:35 ID:TLvh0vkk0
逆転の発想で自分のとこの子に眼鏡かけさせればいいんじゃね!?

711名無しさん@避難中:2016/06/07(火) 22:29:20 ID:yc6OycN20
お、お題ぷりいず

712名無しさん@避難中:2016/06/07(火) 23:40:53 ID:RWL0pUYY0
やもり先生(アラサー女子)

713名無しさん@避難中:2016/06/10(金) 20:53:08 ID:5SzHXW1w0
やもりんこそ仁科で一番かわいい女子かもしれない。

714名無しさん@避難中:2016/06/10(金) 21:12:54 ID:dEcpnAms0
わからんでもない

715名無しさん@避難中:2016/06/11(土) 00:34:49 ID:BPQ.2d5g0
やもり先生が眼鏡をかけるって!?

716名無しさん@避難中:2016/06/17(金) 20:46:55 ID:gN9IG8aQ0
やもりん、メガネをかける。

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1044/yamori_001.jpg

717名無しさん@避難中:2016/06/18(土) 01:32:05 ID:3W8diago0
やったー!

718名無しさん@避難中:2016/06/22(水) 22:26:36 ID:dGiMvVKA0
お題、どんどんいきまっしょい。ぷりーず

719名無しさん@避難中:2016/06/25(土) 01:13:26 ID:dADJFdb20
アラサー女子やもりたんプールに行く

720名無しさん@避難中:2016/06/27(月) 15:02:10 ID:GoC74qpw0
あれ

721名無しさん@避難中:2016/07/07(木) 23:14:31 ID:wiKM2T0c0
やもり「ハウスキーパー☆やもり!」
あかね「え?白壁先生…」
荵「わお!家を守るのなら、わたしも番犬になるぞっ」
やもり(どうしよう…。このコスチューム、コスプレ部の京ちゃんに作ってもらったんだけど。やっぱ、めっちゃ恥ずかしいし…)

つづく…かもしれない。

722名無しさん@避難中:2016/07/08(金) 00:06:21 ID:PUtKHnPY0
続きなさいよっ!!

723名無しさん@避難中:2016/07/08(金) 21:55:23 ID:eKibRVR60
京「ふふっ。かわいい男の子は、みんな男の娘になぁーれ」
迫「秋月?ちょっと頼みごとが…って。何か言ったか?」
京「ん?…ふふっ。なんでもないの。演劇部の迫部長、どうしました?」
迫「いや。今度の公演で衣装をコスプレ部に担当してもらいたいんだが」
京「まかせて!この秋月京に不可能はありません!」
迫「そっか。なら、詳しくはまた伝えるぞ」
京「あの。迫さん…。演劇部ですよね、だったら…」
迫「ん?」
京「いや。なんでもありません!(黒髪、色白、程よい身長。そして、メガネ。絶好の餌食だわ。じゅるり…)」


そのころ。


荵「やもりん!おなかすいたっ」


いったいどうなる?

724名無しさん@避難中:2016/07/09(土) 07:57:32 ID:lhKHZrRs0
やもり「じゃあ、軽いものでも作ってあげよっか」
荵「わわうっ。ハウスキーパー★やもりの本領発揮だねっ」
やもり「え…まだその設定?」
あかね「白壁先生もまんざらではないんじゃないですか?」
やもり「いや…でも、この格好は、やっぱ無理かな〜」
荵「翔べ!!ハウスキーパー★やもり!!」
あかね「夜食で空腹を制圧するのだっ」
やもり(夜じゃないけどなぁ)

725名無しさん@避難中:2016/07/10(日) 19:30:22 ID:V8QsrQ820
やもり「生きとし生けるもの、命を分け与え、そして命を継ぐ。大地の恵に敬意をおおおお!!」
あかね「出たっ。ハウスキーパー★やもり、フライングライスの術っ」
荵「フライパンの中でお米が舞ってるぞっ」
やもり「秘伝!!サンダーポーク!!」
あかね「角切りポークが稲光を放った?」
やもり「ファイナルレイン!!!!!」
荵「にんにく醤油の雨っ」

726名無しさん@避難中:2016/07/10(日) 19:40:47 ID:V8QsrQ820
やもり「今、空腹は滅んだ」
あかね「白壁先生特製チャーハンですっ」
荵「わおっ。お腹が鳴るぞっ」
迫「卵スープです…」
あかね「あれ、迫先輩。ウェイトレスですかっ」
迫「聞くな」
荵「似合いすぎてくやしいぞっ。黒ニーソが反則だっ」
迫「やめろ。秋月に…おい!!噛むなあ」



台詞系むずい…
おわりおわり。

727名無しさん@避難中:2016/07/10(日) 21:15:16 ID:qhClbzKQ0
噛むなw

728名無しさん@避難中:2016/07/16(土) 23:16:33 ID:QMORAiLc0
やもり「ぬこぽっ」

729名無しさん@避難中:2016/07/17(日) 00:46:50 ID:o7I6bvJM0
あやめ「にゃっ」

730名無しさん@避難中:2016/07/17(日) 19:24:29 ID:epric6Sc0
後輩「あやめ先生の『にゃっ』は色っぽいですね」
先輩「お前にはまだ無理だな」
後輩「そんなことないですよ!!に…に、にゃああっ」
先輩(けもののようだ…)
後輩「先輩!!今、なに考えてましたか?もしかしてわたしって( )だなって思ったんですよね?」

問・括弧を埋めよ(10点)。

731名無しさん@避難中:2016/07/17(日) 19:28:57 ID:o7I6bvJM0
め、女豹?w

732名無しさん@避難中:2016/07/21(木) 18:12:58 ID:1R72vfFg0
あやめてんてー。夏休みですよー

733名無しさん@避難中:2016/08/02(火) 11:31:21 ID:VoOVx5cY0
この学園に足りないもの!!

それは…

734名無しさん@避難中:2016/08/02(火) 12:46:02 ID:/KuXrsXs0
イケメン

735名無しさん@避難中:2016/08/02(火) 22:43:13 ID:FFP.kMXw0

報道部員B72「仁科イケメンダービー!!!」

報道部副部長「なんですか…これ。こんな企画通した覚えはありませんけど」

報道部員B72「さあ!夏真っ盛り!草競馬の季節です!犬は喜びのた打ち回る…と言うわけで、わが校きってのイケメンでダービーを開催しちゃいます!部長公認です!」

報道部副部長「あ…。そうなの?わたし、報道部副部長のガンキミコです。詳しくは http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1248087645/703-706 をご覧ください」

報道部員B72「そうですね!仁科学園報道部も何気に歴史ある部だったりしちゃったり!うっしっし!ばっかやろう!」

報道部副部長「で、これって、我が仁科学園のイケメンを競わせるダービーを開催するわけですね?」

報道部員B72「ガン副部長ってイケメン大好物ですよね?では出走メンバーの紹介です!」

報道部副部長「わたしって、そんな設定ありましたっけ…?でも、嫌いじゃないですね。とりあえずお願いします」

報道部員B72「一枠!ツッコミなら天下一品!ラブモンスターも冷静沈着な一言で一網打尽!永遠の花婿『先崎俊輔』くん!」

報道部副部長「いきなりきました。オッズも二倍を切ってます。先輩くんのユーティリティーに期待しましょう」

報道部員B72「二枠!誰が呼んだかツインバード!命を懸けてこの小鳥、鷲を守ります!羽ばたけスカイラーク『小鳥遊雄一郎』くん!」

報道部副部長「性格イケメンは武器ですね」

報道部員B72「三枠!きらっと光る文系メガネ!仔犬に噛まれながら脚本一筋!ガラスの黒髪『迫文彦』くん!」

報道部副部長「わたしもメガネっ娘ですから同類憐れみを感じます。雨の日の自転車はつらいです…」

報道部員B72「四枠!金髪!筋肉!そしてバカ!三拍子そろった歩くアイアンレジェンド!歩くロックメタル『黒鉄懐』くん!」

報道部副部長「バカはバカらしく生きるのが正解ですね」

報道部員B72「五枠!わたしの素顔を見たければ、一緒に白衣に纏おうではないか!狂気の科学者『松戸白秋』くん!」

報道部副部長「…わたしが言うのも何ですがお久しぶりです。先輩。鉄仮面を脱ぐときは、この学園を去るときなんでしょうか?」

報道部員B72「では、オッズの発表です!倍率ドン!さらに倍!」

報道部副部長「で、どうなるんですか?」

報道部員B72「……部、部長ーーーー」

736名無しさん@避難中:2016/08/04(木) 12:19:01 ID:jQaIW/UI0
今ごろ、やもり先生は浜辺で西瓜割りまくってます。
割って割って割りまくり

737わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/08/12(金) 07:19:46 ID:vI6LXw/o0

 「ちーっす!迫ちー、マジ本読み?昨日もギャルゲで徹夜してたって?」
 「そんなものは一秒たりともやったことが無い」
 「ギャルゲの主人公顔して、マジウケルんだけどー?」

 演劇部部長を務めているとたくさんの人に会う。
 部長の迫が今まで出会ったキャラでも、ほとんど接点のない部類のキャラとの遭遇は、培われたアドリブ力が要求されるのだ。
 それが嘘っぱちのでっち上げでも、力説で否定しなければならない。

 遠慮なく部室内に入る少女の着崩した制服、明るい色の髪をゆるっくツインテール、ちょっと見た目軽めの少女が木目だらけの部室に
にじむ。遊んでる雰囲気をにこにこと漂わせた彼女は額にピースを決めてみた。
 対して、黒髪眼鏡で地味を王道でゆく迫は、腰に手を当てて片手で演目の台本を閉じ、極力彼女の目を合わせようと努力する。

 「まじ、この前のさー。迫ちーの演出、マジゴッドなんだけど」
 「おれだけの力じゃないけどな」
 「ぶっちゃけ、カッコイイ系の演出にガン見しちゃったし、ちょー深作じゃん、仁義なきじゃん」
 「小麦屋……客席にいたんだな」
 「いーじゃんいーじゃん。あの時さぁ、やる気ナッシングだったしー、まじ観客になりたかったしー。迫ちーの舞台、ごちです!」
 「高校の演劇部にしては冒険したけどな。小麦屋、本読みに参加するなら早く準備しろ」
 「ちーっす」

 額にピースをかざして迫の顔を覗き込む小麦屋仁子は自分の台本を机から引ったくり、ぱらぱらとページをめくって流し見していた。

 「なんだか、『じに子先輩』ひさびさに見るなっ」
 「小麦屋は気が向かないと来ない。それでもウチのエースだしな」
 「わお?」
 「エース……は言いすぎか。ダークホースか」
 「クロイヌ!!」

 じに子先輩と同じ台本を持った一年生の久遠荵は距離を取りつつ、一つ上のじに子先輩の目を見つめていた。
荵の鼻には、じに子のシャンプーの香りが多少きついらしい。
 じに子先輩が台本を読むだけという形ながらも、演劇に打ち込む姿を荵は遠巻きながらも眺めていた。
 演劇が好きならば毎日でも部室に顔を出してほしいのに。やはり、遊んでる雰囲気を漂わせるじに子先輩は、
どことなく取り付きにくい。なんとなく、自分とは住む世界が違うと感じていた荵は黙って尻尾を巻いて、
じに子先輩の本読みを聞くしかなかった。
 ただ、軽い雰囲気で登場したじに子先輩の姿は一切なく、立派な演劇部の部員であった。

 背中に電撃食らわす声。
 心臓を握り潰す気迫。
 どんな鋼鉄のハートをも打ち破る表情。
 たかが本読みなのに、気合い十分本番さながらの演技でじに子先輩は白黒だった台本に自分の色をつけていた。

738わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/08/12(金) 07:20:07 ID:vI6LXw/o0
 「『天使に魂を売り払うぐらいなら、悪魔に身を任せた方がよいではないか!』はい!しのちー!」
 「わ、わおっ?『そ、その理屈は……』」
 「……うわー、まじサイテー。しのちーの実力って、そんなもんじゃなくね?」

 台本をメガホンにして荵をご指名。じに子先輩は半目で空気が流れてゆく部室に溶け込みかけていた。
 赤ペンで台本を細かく修正しつつ、内容を固め整える迫にはじに子先輩も荵も同じぐらい演劇を愛していることに気付いていた。

 その日の活動を終えるとじに子先輩はやってきたときの調子のまま放課後の街へと消えてしまった。
 くすぶった気持ちのまま荵が帰り支度をしているなか、迫が台本の手直しをしつつノートPCでは過去の公演動画を流していた。

 「え、えっと。ちーっす……」
 「は?どうした、久遠」
 「じに子先輩の真似ですっ」

 子犬のような荵が借りてきた犬のようになっている。
 とんとんとノートを叩き、彩りを忘れた目をしている荵に迫は特に別の感情を覚えることはなかった。

 「うらやましいっ」

 羨ましいやら、悔しいやらで。かすかに聞こえるじに子先輩の声が荵の乾いたハートにずかずかと突き刺さる。
 動画でじに子先輩が麗しき灰を被ったシンデレラを演じているのだ。

 みすぼらしいその場しのぎのドレスを纏いつつも、華のある演技で注目を集めるのは、もはや天性としか表現できない。
 王子役の男子がふらっとシンデレラの手を掴む。一瞬、固まる。顔がのぼせる。早口になる。
 初めて触れる男の肌……の、じに子先輩の演技はリアルにリアルを重ね塗りをしたような説得感と存在感を見せ付けていた。

 「ちょ……ちょ!触れないでよ!ばかばか!わたし、こんな経験ないんだけど!」
 「なになに?誘ってるの?ウチはそんなに軽い女じゃなねーしー!ってか、どきどきしてねーしー!」

 慌てふためくじに子先輩の動画を荵はジト目で見流していた。


    #


 「ってか、スターウォーズって、ちょー黒澤なんだけど」

 迫が初めて小麦屋の声を聞いた言葉だった。
 小麦屋が初めて入る演劇部部室での会話がこれ。
 二年生に上がったばかりの迫と、高等部に上がったばかりの小麦屋が、初めて演劇部の空気を吸った日のことだった。
 高等部に上がったからなのか、垢抜けたばかりの小麦屋だが、所詮は付け焼き刃にしか見えない事実。
文学少年をこじらせた迫は小麦屋になんとなく後輩らしさを感じることができなかった。

 「あ……ちーっす!小麦屋仁子っす!ってか、演劇ってやばくない?」
 「はあ」
 「ウチらが違うキャラ演じるだけで、客席やばくできるからマジやばいじゃん?」

 初めての言語?
 理解不能?
 なんとなく分かる?
 迫が要約する隙もなく、彼女は二の句を継ぐ。

 「この国の演劇界、ウチらでガクブルさせよーぜ!」

739わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/08/12(金) 07:20:35 ID:vI6LXw/o0
    #


 ガクブルしている荵が必死に繰り返して読んでいる台本は、じに子先輩からの振りに答えられなかった部分だった。
 公園のブランコに座り、ゆらゆらと荵の感情のように揺さ振られる黄昏れどき。
 悔しくて。先輩だからか?いつもは自信のある演技が、滅多に顔を出さない先輩よりもダメダメだったからか?
 ぎいーっと鎖が軋む音が荵に追い打ちをかけていた。

 「うー、わおっ」

 唸り声も今日は幾許か力が入らない。
 芝居の世界に集中しようとも、それを邪魔するヤツがいる。
 シャンプーの香りだ。
 ふわりと、花の香りが荵をくすぐり台本の文字の邪魔をする。

 「ちーっす。なーんか、ウチ退屈なんだけどー」

 着崩した制服、ブラウンの髪をゆるっくツインテール、遊んでる雰囲気を醸し出す少女。
 じに子先輩だ。


 「じに子先輩っ」
 「はーぁ?言っとくけど、ウチの名前は『にこ』!『じんこ』じゃねーしー」
 「わたし、じに子先輩よりも演劇大好きだぞっ。レトリバーぐらい好きだっ」
 「まじで?じゃ、ウチはゴジラぐらい好きだしー、ちょーマジ・ゴジラ・リスペクト」

 ぽんっとじに子先輩の肩を叩く一人の男子。
 余りにも空気でさりげなく近づいてきていたので、間際になっても気付かなかった。

 迫だ。

 一瞬、固まる。顔がのぼせる。早口になる。
 ナニコレ、マジヤバインダケド。
 男の子に触れられるなんて、マジ初めてなんですけど。

 「ちょ……ちょ!触れないでよ!ばかばか!わたし、こんな経験ないんだけど!まじギャルゲとかやりすぎ迫ちーじゃね?」
 「ギャルゲってなんだよ」
 
 白目で迫はじに子先輩の発言をかわす。
 こんな公園の真ん中で叫ばないで欲しいと。
 事実無根だ。

 「今度、いつ部室に来るんだ?」
 「なになに?誘ってるの?ウチはそんなに軽い女じゃなねーしー!ってか、どきどきしてねーしー!」
 「勘違いするなよ、小麦屋」
 
 部室の中で見かけた動画のセリフとぴったり合う。
 もしかして、あれは渾身の演技ではなかったのでないのか。
 どうも制服姿のじに子先輩にシンデレラのドレスがダブって見える。
 横でイヌ耳立てながら荵は側でブランコをこぎ始めた。


     おしまい。

740名無しさん@避難中:2016/08/26(金) 22:30:53 ID:eDCmISww0
いぬぽ!

741名無しさん@避難中:2016/08/27(土) 01:33:28 ID:TmM9zFgE0
わん!

742名無しさん@避難中:2016/08/28(日) 18:48:17 ID:0knYDGxk0
鷲ヶ谷「わしぽっ」

743名無しさん@避難中:2016/08/28(日) 22:51:04 ID:kMch51pQ0
ピェーッ!

744名無しさん@避難中:2016/08/28(日) 23:37:24 ID:ZlsJsL3o0
え?誰?誰だ。そんな声だしたの?

745名無しさん@避難中:2016/08/29(月) 00:07:13 ID:.tpyWAo60
???「私だ」

746名無しさん@避難中:2016/08/29(月) 00:21:21 ID:HnIu46p20
鷲ヶ谷「え、えっとー。どうしてそんな格好してるの?」

747名無しさん@避難中:2016/08/31(水) 22:13:07 ID:/9e/osTc0
>>745
「わたしだ」
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1058/akane_%2Cmegane.jpg

748名無しさん@避難中:2016/09/01(木) 02:10:31 ID:zP0m0FMg0
ピェー……

749名無しさん@避難中:2016/09/13(火) 21:32:07 ID:DBkznO4.0
仁科学園文化祭「バードカフェ」開店!

750名無しさん@避難中:2016/09/15(木) 20:50:13 ID:2F.1KRB60
仁科には、ロリが足りない。

751名無しさん@避難中:2016/09/19(月) 00:17:15 ID:DZRIA18I0
巨乳艦隊とな。

752名無しさん@避難中:2016/09/22(木) 21:59:46 ID:sm.dw7zg0
保健室にて。

あやめ先生「おい、迫。あまり無理するんじゃない」
鈴絵   「そうですよ。わたしが、たまたま講堂の前で迫くんが倒れてたのを見つけたからいいものの」
迫    「あの…、その」
あやめ(オカマ)「病人は黙って寝てろ」
鈴絵   「そうですよ。お望みなら、神柚神社秘伝の坐薬でも」
迫    「それより…胸が」
あやめ(オカマ)「早く言え。上着を脱がせろ、神柚」
鈴絵   「お断りします(微笑み)」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1063/ayame_sako_suzue.jpg

753名無しさん@避難中:2016/10/03(月) 22:06:53 ID:khdv80JQ0
お題くださいん(お絵かきの)。

754名無しさん@避難中:2016/10/03(月) 23:52:09 ID:jeOq0S.20
亜子(寝起き)

755名無しさん@避難中:2016/10/07(金) 21:45:22 ID:z0bg4EMg0
>>754
亜子「ふぁぁ…。え?まじで?」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1066/ako_neoki.jpg

756名無しさん@避難中:2016/10/07(金) 21:55:08 ID:Kb3Ud8to0
ぐろーぶw

757名無しさん@避難中:2016/10/08(土) 14:54:22 ID:dhsLU/Jw0
なぜグローブww

758名無しさん@避難中:2016/10/11(火) 12:06:36 ID:VhxcYlj60
懐「亜子からグローブを取ったらどうなるんだ」

759名無しさん@避難中:2016/10/11(火) 14:30:54 ID:RT6B0bNw0
ただ可愛いだけになるじゃないか!

760名無しさん@避難中:2016/10/15(土) 22:32:10 ID:dO.vhlaY0
荵「そのせりふ、わたしにも言え!噛み付くぞっ」

761名無しさん@避難中:2016/10/15(土) 23:48:23 ID:PkuS9zpY0
だからはやく二人の百合をだな

762名無しさん@避難中:2016/10/18(火) 22:19:19 ID:YQi3WAjM0
あかね「わたし、ハブられてる…?」

763名無しさん@避難中:2016/11/01(火) 20:54:48 ID:e883tcTk0
犬の日だよ!わんわんおーー

764名無しさん@避難中:2016/11/03(木) 18:33:40 ID:mDw23HxU0
後輩ちゃん「先輩!文化祭行きましょう!」

1.行く
2.行かない
3.とりあえず〇〇する

〇〇とは?

765名無しさん@避難中:2016/11/03(木) 22:12:06 ID:M0WmdD9.0
無視

766名無しさん@避難中:2016/11/04(金) 21:56:20 ID:ZTaW9zI60
あかね「迫先輩!文化祭行きましょう!」

1.ひっかかりながらも、行く
2.断る
3.躊躇うことなく〇〇する

○○とは?

〇〇とは?

767名無しさん@避難中:2016/11/04(金) 22:45:22 ID:YGykhKvA0
これはパターンが複数あるから難しいぜ……!

768名無しさん@避難中:2016/11/04(金) 23:35:43 ID:ZTaW9zI60
あかね「やっぱり悩んでるでしょ。三秒以内に答えないと、この駄犬が噛みつきます」

さん、に、いち…

769名無しさん@避難中:2016/11/04(金) 23:54:47 ID:YGykhKvA0
噛ませよう(提案

770名無しさん@避難中:2016/11/05(土) 17:01:55 ID:Kc60/hNQ0
駄犬「がぶっ」

ぎゃああ!

駄犬「迫先輩が〇〇するまで離さないぞっ」

問・何するまで?

771名無しさん@避難中:2016/11/08(火) 21:01:48 ID:B7K3/PNo0
駄犬だらけの仁科

772名無しさん@避難中:2016/11/09(水) 09:51:30 ID:pTmtmPG60
きのうは「いいおっぱいの日」だったのに、この学園にはおっぱいが足らない。

773名無しさん@避難中:2016/11/22(火) 05:42:12 ID:qEHi7e1Y0
散歩するまでだろう
しかし離してくれないと散歩できない

774名無しさん@避難中:2016/11/23(水) 20:47:55 ID:w2UAAlUA0
荵「よっさーー!ホンキの散歩に行くぞっ」
亜子「ウザ…」

775名無しさん@避難中:2016/12/11(日) 23:15:40 ID:NbApja5s0
軽気の散歩もある
カルキの水道水も出る

776名無しさん@避難中:2016/12/13(火) 22:01:40 ID:NDqbFMr.0
後輩ちゃん「加爾基 ○○ 栗ノ花!!!って、先輩読めますか!」
先輩「○○が聞き取れにくかったんだが…。カルキ……栗の花か?確か、とある歌姫のアルバムの」
後輩「い、いわせんな!!!!!です!」

777わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/12/25(日) 09:30:16 ID:W8.UYqYM0

 迫先輩とはわたしからすれば子供だ。

 部活のことを熱く語っているところさえ、歳の離れた弟にさえ見える。でも、わたしには弟どころか一人っ子ゆえ
男の子というものについてよくは分かっていないのだから、男の子の基準はどうしても迫先輩になる。
 演劇部で出会った迫先輩と共有する空間はまだまだ未知なるものを秘めている。

 巨大怪獣、ヒーロー、陰謀説……そして演劇論、などなど。

 迫先輩にこれらを語れと時間を許すだけ与えるのならば、おそらくわたしが200ページほどの文庫本を読み終えても、
そして二冊目の中盤にさしかかるまで語っているのだろう。しかも、知識に基づいた分析や推測で固められた文字羅列で。
 もちろんわたしだって、大好きな本のことを語れと時間を与えられたのならば語るだろう。でも、それは単なる自己解放であって
迫先輩のように「りろん」で塗り固めた「もじられつ」を武器にしているものとは程遠いのだ。

 「黒咲。聞いていいか」

 迫先輩がわたしに語りかけてきた。
 果たして迫先輩を納得させられるような切り替えしができるのだろうかと、手にしていたホットの緑茶缶を握り締める。

 「女装少年と男の娘の違いってなんだか分かるか」

 分かりません。

 と、一蹴したい気持ちにもなったが、つれない返事は自分自身の試合放棄とも言える。舞台で言えばメロスが走らないのと一緒。

 「ググればいいんじゃないんですか」
 「黒咲、知識ってヤツはデータだけじゃないぞ」

 きんきんと冷えた学校の帰り道の会話なのか、これが。わたしはずぼっとマフラーに顔を埋めた。
 首筋にもぐりこむ北風がどうしても冷たくて。

 「それじゃ、敢えてネットとか情報を検索しないで、今まで自分たちが詰め込めた知識で推測するんだ」

 きりっとした迫先輩の瞳に思わず熱々の緑茶缶を引っ付けたくなった。わたしよりほんのちょっと背が低い迫先輩の視線は
丁度わたしが腕を伸ばした延長線上にあるのだから、わたしの作戦を成功させることは赤子の腕を捻るよりも容易い。
 でも、迫先輩のメガネがそれを阻むんだろう。メガネ男子、侮りがたし。

778わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/12/25(日) 09:33:07 ID:W8.UYqYM0
 「『少年』が『女装』、つまり……幼い男子が女性の装いをするんだ。そもそも女装とは人を欺くために用いられる手段だ。
  黒咲も知ってるだろ。ヤマトタケルと熊襲との話」

 女装少年の話になれば必ず引用される逸話だ。ヤマトタケルだって趣味で女子の格好を選んだわけでもないし、むしろ
自分の武勇伝として語ってもらいたかったに違いないし、結局それは迷惑千万なことだろう。
 でも、人々は言う。やれ、女装少年は日本古来の文化だ。やれ、日本はカワイイでできているだ……と。
 しかし、わたしに言わせればわざわざ過去の文献を味方にして女装を正当化しなくても、と疑問符をブーメランにして投げつけたくなるし。
 カワイイものはカワイイ。理由も理屈もないから「女装」が人々を魅了するのだろうか。

 「ただ。今日現れた勢力。それが『男の娘』だ」

 ざっと歩みを止めた迫先輩の後姿が多くを語る。

 「『女装少年』が男子の中身を女性のパッケージで包んだだけなものに対して、男の娘の出現は画期的だったんだ」

 わたしは今、後姿の迫先輩にわたしたち女子の制服で包んだ姿を妄想しているのだ。
 女装は引き算とはよく言ったもの、隠すべきところは隠す。というのが鉄則らしい。
 ただ、男子はどうしても女子と比べてたっぱがある。いくら素敵な召し物をまとっても背が高くてはせいぜいミスターレディだし。
 それを考えると迫先輩は男子のなかでも背は高いほうでもないので、有利にアドバンテージが働いている。

 きっとニーソックスも似合うだろうし、マフラーを巻いて髪モフさせてもよし。ちょっと大きめのカーディガンで萌え袖すれば完璧だし。

 「男の娘の絶対的な定義は『内面』。例えるのならば、欧米人が浴衣を着ただけのパターンA。そして浴衣を着てさらに侘び寂び、
  武士道、もののあわれを自分のものとしてコンプリートしたパターンB。前者は女装少年、後者が男の娘だ。わかるな」

 すいません。聞いてませんでした。
 わたしはどう足掻いても「女装少年」にも「男の娘」にもなることはできない。

 逆なら可能かもしれない。男装少女か。
 迫先輩の理屈ならばそれどまりだろう。だって、わたしには男の子の気持ちをコンプリートすることは無理だろう。

 「黒咲なら男装は似合うんじゃないのか」

 やばい。今、迫先輩も同じこと考えていたらしい。もしかして、わたしも迫先輩と同じような思考回路が感染したのだろうか。
 ということは男の子の気持ちをほんのちょっと理解できたのかもしれない。それはそれで、わたしの頬が赤らんだ。

 「確か……170ぐらいはあるんじゃないのか?身長」

 前言撤回。わたしはまだまだ男の子の気持ちには近づけない。
 168ですっ。と突っ返したい気持ちを押さえ込んで、わたしは熱々の緑茶缶を迫先輩の横っ面にぶち当てた。


    おしまい。

「寒いんですっ」 
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1078/akane+kurosaki_07_02.jpg

779名無しさん@避難中:2017/01/03(火) 19:14:29 ID:q8X1IDs20
お題下さい

780名無しさん@避難中:2017/01/04(水) 17:37:40 ID:g77VRcqQ0
迫先輩が初めて登場した時は、
まさか男の娘について熱く語るようになるなんて思いませんでした
高身長気にしてるあかねちゃんかわいい

781名無しさん@避難中:2017/02/18(土) 07:51:16 ID:mtrkfzEM0
やもりん先生、おっぱいを下さい

782名無しさん@避難中:2017/02/18(土) 11:44:42 ID:I8a8/nbc0
「両生類におっぱいはない」
「それたぶんイモリです」

783名無しさん@避難中:2017/02/18(土) 18:18:54 ID:x7tC4aFM0
貴重な仁科のお姉様枠の一人だ。おっぱいを下さい。おネエのほうは座ってて下さい。

784名無しさん@避難中:2017/02/20(月) 22:48:41 ID:ZB5KJj7s0
おネエ「そうだ。この学園にはおっぱいが足らんぞ」
○○○「う、う。わおおおおん?」

785名無しさん@避難中:2017/02/21(火) 00:20:23 ID:XyRkG9TY0
○○○は描くときも書くときも無いものと考えてたなぁ。

786名無しさん@避難中:2017/02/21(火) 22:59:43 ID:p.rGaUGU0
迫先輩も好きなんじゃないですか?健全な男子ですものねっ。
え?わたしですかっ?え…わたしには…そんな…ものって

787名無しさん@避難中:2017/02/22(水) 16:46:07 ID:sofr/jL20
>>785
猫の日だけど、かみつくぞっ

788名無しさん@避難中:2017/02/22(水) 17:53:41 ID:p6vemPfM0
つまり誰かに噛みつくわんわん王の何かが創られるということだな、

789名無しさん@避難中:2017/02/23(木) 18:57:14 ID:oKCXfLLo0
>>788
「わたしを追い越したら噛み付くぞっ」
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1090/shinobu_exp.jpg

790名無しさん@避難中:2017/02/23(木) 23:56:34 ID:nKJwELII0
ブルマだぁ!

791名無しさん@避難中:2017/03/02(木) 21:45:41 ID:OxDHFenM0
>>790
おネエ保健医「わたしが履いた姿、見たいだろ?」

792名無しさん@避難中:2017/03/03(金) 02:18:29 ID:UZ66Dsbc0
正直ちょっと見たいw

793名無しさん@避難中:2017/03/03(金) 23:11:55 ID:0OErhRQk0
ブルマってあの伝説の!?
地味に標識が笹森w

794名無しさん@避難中:2017/03/11(土) 21:54:58 ID:nILqAGz20
やもりん「わたしだって…ブルマを」

795名無しさん@避難中:2017/03/12(日) 09:31:40 ID:C13dI2es0
>>242
アラサー無理すんなw

796名無しさん@避難中:2017/03/12(日) 20:05:11 ID:ekRO2kYQ0
>>795
後輩ちゃん「わ、わたしはアラサーじゃありません!!!」
迫先輩「なぜ、おれは男の娘キャラなんだ」

797名無しさん@避難中:2017/03/20(月) 21:55:59 ID:K9.fm1rM0
わんわん 鳴いても いいですか

798名無しさん@避難中:2017/03/20(月) 23:05:49 ID:VxPw4G8A0
いいよ

799名無しさん@避難中:2017/03/22(水) 20:59:03 ID:QLvokNJ.0
おネエ「 >>797はわたしだ」

800名無しさん@避難中:2017/04/05(水) 21:01:50 ID:BGDUaI3.0
突如始まる学園大喜利。

学園内で…
「すごーい!君は○○が得意なフレンズなんだね!」
どんなフレンズ?

801名無しさん@避難中:2017/04/16(日) 14:10:58 ID:KuTzZTpQ0
皆と仲良くなって数の力で嫌いな教師をノイローゼに追い込む、学級崩壊が得意なフレンズ。

802名無しさん@避難中:2017/04/16(日) 18:39:06 ID:n.13kEOc0
それはセルリアンだYO!

803名無しさん@避難中:2017/04/18(火) 15:13:41 ID:iOtsf8iE0
ダークなストーリーだな、おい。
ぴったりなキャラはいるのだろうか。

804名無しさん@避難中:2017/04/22(土) 00:03:33 ID:hI2zLGMs0
「すごーい!君はドングリを拾うのが得意なフレンズなんだね!」

805名無しさん@避難中:2017/05/07(日) 22:48:42 ID:xA51wyH20
やもり(アラサー)「よーし!拾うわよ!ついてらっしゃい!」

806名無しさん@避難中:2017/05/16(火) 03:00:45 ID:Qr5afJ0k0
鷲々谷♪「ぬこっぽ」

807名無しさん@避難中:2017/05/21(日) 06:24:29 ID:3AcxiW/M0
赤巻紙ってなんですかっ

808名無しさん@避難中:2017/05/21(日) 11:07:33 ID:43SnBfDk0
軍隊にいかなきゃいけないやつ

809名無しさん@避難中:2017/05/21(日) 19:36:55 ID:3AcxiW/M0
兵力になりそうな部活は…

810名無しさん@避難中:2017/05/21(日) 23:14:48 ID:uXkU6sX20
重量挙げ部の連中しかいない

811名無しさん@避難中:2017/05/25(木) 12:20:20 ID:ZUinHGzA0
重量挙げ部の連中と他の部を戦わせてみよう。どうなりますか

812名無しさん@避難中:2017/05/27(土) 13:03:18 ID:YfzjdoOU0
何故か卓上ゲームの勝負になる

813名無しさん@避難中:2017/05/27(土) 15:53:24 ID:7g8rJBl60
卓の駒(ダンベル)

814名無しさん@避難中:2017/05/27(土) 22:52:20 ID:wjRhqq5s0
駒野卓(新入部員)。

815名無しさん@避難中:2017/06/10(土) 06:45:43 ID:MBG4gxgs0
重量挙げ部VS園芸部

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1103/ageru01.jpg

816名無しさん@避難中:2017/06/10(土) 07:38:19 ID:AemXwzqQ0
燃え尽きてるw

817名無しさん@避難中:2017/06/12(月) 21:32:49 ID:PxAXBg6A0
祝!英知ちゃんイラスト化!笑顔かわいい

818名無しさん@避難中:2017/06/18(日) 07:35:04 ID:l5K95ltA0
重量挙げ部VS園芸部、二回戦目。
ttp://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1105/ageru02.jpg

819名無しさん@避難中:2017/06/21(水) 12:44:45 ID:krG4phIg0
鍋にしようず

820名無しさん@避難中:2017/06/24(土) 06:39:19 ID:ys3OdlX20
重量挙げ部VSアーチェリー部
ttp://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1106/ageru04.jpg

821名無しさん@避難中:2017/06/26(月) 01:35:22 ID:df9gDXJw0
木「解せぬ」

822名無しさん@避難中:2017/06/26(月) 10:44:13 ID:J9F0kZPM0
英知ちゃんは木の精霊なのだ

823名無しさん@避難中:2017/06/29(木) 22:01:34 ID:CLrKrPc.0
818
それ農作業違うです?

824名無しさん@避難中:2017/07/07(金) 07:04:22 ID:gvfsGLUI0
>>804
すごーい
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1111/donguri.jpg

825名無しさん@避難中:2017/07/07(金) 09:13:17 ID:Na0ZpUks0
目隠しでイガ栗はあかんw

826名無しさん@避難中:2017/07/09(日) 01:01:39 ID:IaMjbKWo0
「迫先輩、得意ですよね」wwww

何をもって得意とするのか、なぜそんなことを知っているのか
傲慢かもしれないがツッコミを入れずにはおれなかった

827名無しさん@避難中:2017/07/09(日) 06:08:35 ID:2cG/wIbM0
重量挙げ部VSわんわん王
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1112/ageru08.jpg

828名無しさん@避難中:2017/07/15(土) 06:49:55 ID:UiNcAJL60
重量挙げ部VS○○女子。

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1115/ageru05.jpg

( https://www15.atwiki.jp/nisina/pages/253.html 「歴史少女日常系」より)

829名無しさん@避難中:2017/07/18(火) 20:28:25 ID:rIlOTJAM0
肉Tシャツはやばいだろ

830名無しさん@避難中:2017/07/21(金) 07:13:56 ID:uv0XSYUI0
>>829
何故にw

831名無しさん@避難中:2017/07/21(金) 20:26:21 ID:YgkjSPYU0
センスがだよぉ!

832名無しさん@避難中:2017/08/13(日) 12:02:16 ID:2pcMTDk20
実際、重量挙げ部って普段、何してるんだろう?

833名無しさん@避難中:2017/08/13(日) 12:16:44 ID:uQ5SyYFM0
何だろう
重量挙げじゃないかな?

834名無しさん@避難中:2017/08/14(月) 08:55:40 ID:e4UHbr0w0
しってるか、重量挙げ部は数少ない普通のスポーツの部活

835名無しさん@避難中:2017/08/14(月) 21:45:29 ID:4.ZK3bZ20
イノシシと体当たりしたり、木持ち上げるのが普通だと…

836名無しさん@避難中:2017/08/17(木) 07:07:03 ID:MKQT3Fnc0
重量挙げ部VS書道少女

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1118/ageru07.jpg

837名無しさん@避難中:2017/08/19(土) 17:26:35 ID:ng3O4oBc0
かわいいw

838名無しさん@避難中:2017/08/20(日) 21:14:02 ID:9qfTriN60
たわわ

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1120/ageru06.jpg

839名無しさん@避難中:2017/08/23(水) 00:35:07 ID:IsAFKqnQ0
シリーズ化おめ!
ゆりんゆりんですな
オチまでついてるけど

840名無しさん@避難中:2017/09/10(日) 12:38:23 ID:M3mor9/60
お題を下さいましまし

841名無しさん@避難中:2017/09/12(火) 02:17:11 ID:o7kv6I820
お花見(秋)

842名無しさん@避難中:2017/09/17(日) 19:41:57 ID:ZmBg9b620
>>841
「秋のお花見ですわ!」
「桜、咲いてませんよ」
「今から咲かせてみせますわ!」
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1123/aki_hanami.jpg

843名無しさん@避難中:2017/09/24(日) 23:32:10 ID:kwybH.Rk0
どっからもってきたw

844名無しさん@避難中:2017/10/01(日) 09:10:06 ID:K9WsCp4Y0
秋のお花見・その2。

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1127/sakura_de.jpg

845名無しさん@避難中:2017/10/01(日) 09:20:42 ID:X94OvBVw0
嗅ぐなw

846名無しさん@避難中:2017/10/01(日) 19:08:03 ID:8v1ps0s20
英知ちゃんがハンター属性に!?

847名無しさん@避難中:2017/10/04(水) 09:20:28 ID:pUG/f6jY0
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1129/aeon_mall.jpg

あかね「今度の日曜、イ○ンモールいきましょ!」
荵「じゃあ、朝10時に駅前で!」
鷲ヶ谷「秋からニチアサの時間ずれちゃうから…」

848名無しさん@避難中:2017/10/05(木) 21:59:36 ID:XeDNbW6I0
気まずいw

849名無しさん@避難中:2017/10/06(金) 20:32:39 ID:CQlZq3xk0
ジェットマンw鳥つながりってことになるのか
……

①わんわん王→
②鷲→鳥類→
③あかね→猩々or尻真っ赤→

!?俺は今何か恐ろしいことに気づいてしまったかもしれない

850名無しさん@避難中:2017/10/13(金) 07:02:30 ID:iPehcibI0
>>849
あかね「どうしてわたしだけお尻なんですかっ」

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1134/momotaro.jpg

851名無しさん@避難中:2017/10/17(火) 21:28:06 ID:nQDpmiZQ0
>>850
そんなこと知り真っ赤!

鬼ぐろいぞw

852先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 02:54:05 ID:pLgRaLN.0
投下します

853先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 02:54:55 ID:pLgRaLN.0

「先輩、運を試してみませんか!?」

 舞台の筋書きでそうなっているかのように急速に教室外にはけていくクラスメイトたちと入れ替わりに後鬼閑
花がやって来た。「失礼します」の一言があるくらいで、上級生の教室に入るのにもまったく物怖じしない。
 というよりも、この後輩は、他人にどう思われようがさして興味がないのだろうと思う。一時期の彼女は人間
関係というものにほとんど絶望しかけていて、その時の心の傷はいまだに癒えていない。
 その唯一の例外となったのが、学園の先輩にあたる俺だった。
 というと自惚れのようだが、事実、行動を共にするようになってから、彼女は俺に対する好意を隠さずにいる。
 後輩はこれを一生に一度の恋愛感情だと信じ、俺と男女の関係になることを強く望んでいるのだった。とても
そうは思えないと俺がはっきりと拒んでいるにも関わらず、まだ諦めておらず、こうして毎日のように何らかの
アプローチを仕掛けてくる。
 “まずは先輩後輩から始める”程度の付き合いというだけならまだしも、だいたいが突拍子もない言動を伴う
のが困り物だった。
 今日の後輩は、得体の知れない段ボール箱を抱えて現れた。両腕をまっすぐ下に伸ばして持つ彼女のお腹が隠
れるくらいの大きさがある。
 後輩はそれを断りもなく、俺の空っぽの机の上にどすんと置いた。
 中で、プラスチックのような軽くて硬い物同士がぶつかり合う音がした。

「ねぇねぇすごくないですかこれ? すごいですよね?」
  
 脱色も染色も知らない無垢な黒髪のおかっぱ頭と夢みる瞳は実年齢の十五か六よりもだいぶ子供っぽく映るが、
いつも甘えているような声がそれでぎりぎり異様に聞こえない。
 ただし、周囲をして「何をしてくるか分からない」と言わしめる、その振る舞いの無軌道ぶりは、“子供っぽ
い”では済まない、ある種狂気じみたものを感じさせた。
 その彼女が持ち込んだ代物である。目の前にそびえるこの段ボール箱もまた、ただのびっくり箱であるはずが
なかった。ただのびっくり箱であればどれだけ楽だか知れない。

「何だこれ」
「んふふー、さて、何でしょう?」
「夏休みの工作」

 既に晩秋である。夏休みはとうに過ぎていた。

「工作、の、何?」

 とぼけたのをさらりと流された。
 簡単に答えを明かす気はないようなのでまじめに考える。
 段ボール箱は一辺三十から四十センチメートル。縦方向にやや長い。
 手に取ってみる。
 俺に向けられていた一面だけ、上半分が切り取られ、そこに濃青の色付きセロファンが張られている。外側か
らべったりとガムテープを使って固定しているのだった。
 その“窓”からは内部が見える。まるで潜水艇からの眺めのようだ。
 箱の中身は球体のカプセルだった。透明な半球と色付きの半球を組み合わせて景品を入れる、よくある形のも
のだった。たくさんある。
 また、同じ面の右下には、直径五センチメートルばかりの“ツマミ”のようなものが外付けされていた。恐ら
くは軸は段ボールを貫通しており、箱の内側でナットの役割を果たす部品で受けているのだろう。一見して、回
転させる気マンマンといった感じだった。ただ、段ボールの厚さが心もとなく、ツマミ部分はしょんぼりと俯い
ていた。
 ツマミから左方向に視線を水平移動すると、キッチンの流し台などでお馴染みのラバー製の菊割れ蓋が、ガム
テープで雑に取り付けられていた。まず間違いなく、段ボールの横っ腹に開けた穴の覆いだろう。
 全体的に、あまり丁寧な仕事ではなかった。
 不器用な小学生の作品でも、少なくとも少しでも綺麗に仕上げようとした努力の跡がどこかに漂っているもの
だが、これからそういう意思は一切感じられない。
 素材の良さを活かしたと言わんばかりに未塗装で『青果』の文字がどこかの面に残っていたり、一手間で摘み
取れるようなささくれがそのままだったり、ガムテープがよれて山脈のようになっていたりする。
 後輩はその気になれば何でもそつなくこなせるタイプだから、時間かやる気の問題だろう。たぶんやる気の方
だろうが。

854先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 02:55:45 ID:pLgRaLN.0
 俺は答えた。

「カプセルトイの、ハコか?」

 言ってから、ようやく“筐体”という言葉を思い出した。俺個人はその手の遊びにはさほど関心がない。
 後輩は、まさに我が意を得たりという顔をした。

「ぴんぽーん! 大正解! これはですね、『後輩ガチャ』と申しまして――」

 『後輩ガチャ』――?
 こんなに関わり合いになりたくないネーミングもない。
 これまで彼女にさんざん振り回された俺の経験が、その名前から受ける印象をひどく禍々しいものにしていた
のだった。少なくとも絶対にろくなことにはならない、というか、カプセルの中身をダシにして後輩が行うであ
ろう行為がろくでもない。

「ガチャガチャとこのツマミを回しますとぉ、あっ、回してください、どうぞ」
「……」

 俺は後輩のいいなりに、しょぼくれたツマミをひねった。
 やるのやらないので下手な応酬をするより、そのほうが早いからだ。少なくとも一日の単位では、そうだ。俺
はそれを長い付き合いで学んでいた。あまりにも跳ねつけすぎるとより面倒臭い方向に暴走し始める、そういう
危うさを持った少女である。

「ガチャガチャガチャ〜? ポン! ……こうして後輩カプセルが出てくるわけですよ。夢と希望がしこたま詰
まった、後輩カプセルがね」
「出てくるっつって取り出したの、お前だけどな」

 俺がツマミを一周させている間に、後輩は排出口の菊割れ蓋にほっそりした手を突っ込み、プラスチック製の
球体をほじくり出していたのだ。まず張りぼてだろうと踏んでいたのでツッコミもおざなりだ。
 今更どうでもいいが、『ポン』はカプセルを開けた時の擬音ではないのだろうか。

「さあさあ! 初めての『後輩ガチャ』の後輩カプセルですよ、開けてみてください! 夢と希望がしこたま詰
まった、後輩玉ですよ!」
「それさっきも聞いたよ。名前変わってるけど」

 これは当然ツマミを回した先輩の物ですよね?みたいな顔をした後輩に、後輩の夢と希望がしこたま詰まった
後輩玉を押し付けられる。

「何が入っているのかなー?」

 幼児を相手にしているような白々しい口調に、嫌味が口を突きかけたが、我慢した。なんだか年上をやってい
る感ある。

「わあっ! 梅干し!」
「おにぎりの具みたいだな」

 カプセルの中身は、大粒の“梅干し”だった。ビニールの袋に個別包装されたものだ。先のツッコミでは流れ
を踏まえてああ言ったが、おにぎりの具というよりは間食用の品だろう。ふやけてしまわずに摘まれた時のまん
まるな形を保っていて、さぞかし小気味よい歯ごたえがするに違いない。
 後輩はさっと俺から梅干を没収し、袋を破って自分の口に放り込んだ。

「すっぱぁい!」
「お前が食うんかい」

 わざとらしく両手に頬を添えてわざとらしく嬌声を上げる。彼女の動作はだいたいいつもわざとらしい。

855先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 02:56:28 ID:pLgRaLN.0

「俺に回させた意味あったか?」
「このようにですね、『後輩ガチャ』を回すと、出てくる後輩エッグのお題に従って、あなたの可愛い後輩がう
れし恥ずかしいことをしてくれる、こくん、わけです。ま、うはうは王様ゲームのようなものですかね」
「いや食べたじゃん! 種まで食べた!」
「……先輩そんなに梅干し食べたかったんですか……? でもご安心! このガチャの景品は、ただのオヤツの
梅干しなどではないのです。お題はまだまだ継続中ですよ!」

 後輩はそこで一旦言葉を区切り、囁くように言った。

「だって豪華景品それは、梅干しの味のする、この私のキスなのですから……」
「そんなことだろうと思った。いりません、そんなもの」

 もちろんそんな既成事実になりそうな話には乗らない。

「ちょっと先輩早く早く! カモンカモン!  梅干しの味が! なくなってく!」
「こっちに寄るんじゃない」

 さすが後輩、俺の話を聞いているようで聞いていない。
 ぐいぐい迫り来るデコを俺は掌底で迎え撃ち、腕を突っ張る。駄々っ子と化した後輩が「うにゃー」とかなん
とかあざとく鳴きつつ弱っちそうな拳を振り回すが、それ以上の接近は許さない。

「むー」

 後輩はひとしきり暴れてから、ふいっと気まぐれな猫のように俺から離れていった。赤い革バンドの腕時計を
嵌めていないほうの手首で、しきりに額をさすっている。注意して見てみたが、手を押し当てていたアトは、付
いていない。

「女の子に恥を掻かせるなんて、このチキンー」

 端正な眉は無念そうに下がっていたが、唇には満足感が漂っていた。
 後輩の目的は、どちらかというと、俺とのこういう他愛ないじゃれあいそのものにあるのかもしれない。

「俺はお前を女の子に分類するか、痴女に分類するか、最近真剣に考えてる」
「先輩以外にこんなことしてませんよ!? なんていちずな子なんだろう!」
「俺の感想をちゃっかり捏造するのやめろ」
「なんていけずな人なんだろう!?」

 うまいこと言ったので褒めて欲しい風な光が瞳にちらついたが、キリがないので黙殺する。

「ほらほら先輩、もう一回やりましょうよ! ねっ? いいでしょ? まだまだ後輩カプセルのストックは豊富
ですよー! これ! ごろごろこれぇ!」

 気を取り直したらしい後輩が、『後輩ガチャ』の筐体を激しく揺さぶる。カプセルがボール紙を叩いてガタゴ
トいう音と、カプセル同士が我を張り合うカチンカチンという音がした。爆弾の詰まった箱に見えてきた。

「……なあ、これ全部でいくつカプセルが入ってるんだ」
「私の歳と同じ数になるよう厳選しました」
「多いよ!」
「欲望が止まらなくなってぇ」

 後輩がきゃっと恥ずかしそうにゆるみきった頬を手で押さえた。
 恋する乙女は欲張りで、あれもしたいし、これもしたいのだ。
 自分の口の端が引き攣ったのが分かった。そんなのに付き合わされてはたまったものではない。後輩との会話
では、自分がへとへとになるのと対照的に相手の顔色はつやつやになっていくので、まるで若さが吸い取られて
いるかのように錯覚する。

856先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 02:57:12 ID:pLgRaLN.0

「『後輩ガチャ』は無料にして無制限。一日一回だけなんてケチくさいソシャゲみたいなことは、私、言いませ
ん。何度だって引いていいんですよ? でも先輩だけですけど」
「このガチャが基本いいものっていうその自信はどこから来るんだ? 引きたくないぞ、俺は」
「じゃあ私が引きます!」
「はー?」

 風雲急を告げる展開だった。
 後輩はわけのわからないことを言うやいなや、ツマミには目もくれずに、いきなり排出口にズボッと右手を突
き込む暴挙に出た。

「ガチャの意味!! それ!! くじ!!」
「――出ました。これぜったいアタリ」

 掴み取ったカプセルを掲げて得々とした笑みを浮かべる後輩を見る俺の眼差しには、ある種の戦慄が篭ってい
たに違いない。
 ……いやまあ、どのみちこのツマミはただのお飾りで、景品の排出は手動なんだから、現象としちゃ同じなん
だけど、同じなんだけどさぁ……。
 こいつ自分が苦労して作った物をよくそこまで蔑ろにできるな。

「ガチャガチャ! ポン! ……これは、芋ようかんですね」
「……何だって?」
「だから芋ようかんですよ。一口サイズに切ったのを、アルミホイルに丁寧に包みました。レアですよ」

 何やってんだこのバカは。あまりにも自信満々に言うもんだから、一瞬、俺のほうがおかしいのかと思ってし
まった。どう考えてもおかしいのはお前だ。

「一応お聞きしますが、芋ようかん味のキスなどは――?」
「梅干しが芋ようかんに挿げ変わるだけなのかよ!」
「じゃあ他にどうしろって言うんですか!!」
「自分自身の止まらなかった欲望に聞けば?」

 後輩はブーたれながら、再びガチャに手を伸ばした。

「ポン! ……チョコレートキャンディですね。甘さひかえめで美味しいですよ。最近私たちの間で流行ってる
んです」
「そういう情報が欲しいのと違う」

 ここに来て明らかに後輩は意地になっていた。『後輩ガチャ』を見る目の色が変わっている。賭け事にハマっ
て身を持ち崩すタイプだったのか。これまでも少なくとも恋には盲目だったけど。

「おせんべい。の、カケラ。……おのれ、もう一回!」
「ちっさい乾燥剤をいっしょに入れておくくらいの配慮ができるのだったら、もっと根本的なところから考えて
て欲しかった!」

 もうガチャともポンとも言わない。
 後輩は無雑作に『後輩ガチャ』の中身を抜いていく。それはもはやただの作業だった。

「……チョコレートキャンディがダブりました」

 薄幸の後輩は、そこで心が折れたようで、がっくりと肩を落とした。
 いつの間にか、筐体の屋根と机の天板には、カプセルの残骸と手つかずのお菓子が散乱していた。

「ていうか、『後輩ガチャ』、実態はただのオヤツの箱じゃねえか!!」
「選べるファーストキスの味ですよ!!」
「選べるんならガチャにする必要ないだろ!!」

 混乱の極みに達した後輩相手に虚しい勝利を収めて、この放課後は終わった。
 俺たちは同じ味のキャンディを舐めながら、とぼとぼと夕陽の中を帰った。
 『後輩ガチャ』はこの日以来、歴史の闇に姿を消し、二度と浮かび上がってくることはなかった。



 おわり

857先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 03:00:01 ID:pLgRaLN.0
以上

先輩の台詞が辛辣になりがちで調整に苦労した
ツカレタ

858名無しさん@避難中:2017/10/24(火) 11:29:05 ID:I70bNRU.0
後輩ちゃんの行動力は半端ないw
他の子のガチャも作って並べてみよう

859名無しさん@避難中:2017/10/29(日) 09:07:55 ID:AxSlniD.0
「わおっ」

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1136/engekibu_gacya.jpg

860名無しさん@避難中:2017/10/29(日) 09:10:59 ID:zJC7.eIU0
痛恨のミスw

861名無しさん@避難中:2017/10/30(月) 21:04:56 ID:Ponsp4HE0
ダイヤルもないぞw

862わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/11/04(土) 05:05:39 ID:sMF9cBC.0
久しぶりに書いてみた。


 
 迫先輩には何をやっても敵わないのが、物凄く悔しい。それが黒咲あかねの感想だ。
 例え、それが部活の演劇であろうとも、どんなにくだらないものだろうとも、
わたしは迫先輩の足元に及ばずに、ただただ奥歯を噛み締めるしか出来ないのだ。

 「スピードでおれに勝てると思ってたのか?」

 数字の順番通りに持ち手のカードをどれだけ早く捌くことが出来るか。反射神経、冷静な判断力。
そして、運。この三つをいかに味方に付けるかが、明暗を分けるトランプゲーム「スピード」 。
単純だからこそ、スリルとドラマがあり、テクニックが要求される。

 「黒咲、まだまだだな」
 「これからですっ」
 「これからって、どこからだ」
 「えっと……」

 迫先輩は理屈っぽい。でも、両手で数える程の枚数の持ち手カードの重みが、ひしひしと
わたしの実力不足を現実として物語ってた。

 「あかねちゃん、泣くなっ」
 「全然泣いてないし」
 「あかねちゃんは大人だっ」

 わたしと迫先輩との対戦を端で観ていた久遠荵が、余裕のないわたしをからかう。
久遠なりの励まし方だと分かっていても、悔しいものは悔しいし。でも、言っておく。
 わたしは泣いてないし、迫先輩にそういうことをさせたくないし。

 「迫先輩っ。もう一度勝負ですっ」
 「泣きの一回か」
 「泣いてませんっ」

 とにかく、どんなことでもいいから迫先輩を越えたい。お遊びでもいいから。
女子の武器を捨ててでも……だ。わたしのお願い事に気圧されたのか、迫先輩はメガネを鈍く光らせて
「分かった」と承知した。

 「次は負けませんっ」
 「ふふっ」

 からかうつもりなのか、どうだか。

863わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/11/04(土) 05:07:31 ID:sMF9cBC.0
 「妹とよくスピードをしていたからな」

 迫先輩がどや顔で語る。

 「なんだとっ」
 「なんですって」
 「妹がいるなんて」 
 「そこかよ。食い付くとこ」
 「破廉恥なっ」

 迫先輩の妹だ。きっと、先輩のような理知的な面持ちで可憐さを持ち合わしているんだろうな。
 会ったこともない迫先輩の妹に、嫉妬をしているつもりは毛頭ない。ただ、妬いているのかもしれない。
 わたしがくちびるを噛んでいる間に、久遠はスピードの再戦を整え、尻尾を振っていた。

 「違う校区の中学に通ってるんだけど。やりたい部活があるからって」
 「演劇ですか?」

 迫先輩は静かに首を振った。口で「違う」と言えばいいものの、これだから男子は面倒くさい。

 「そうだ。迫先輩。スピードの再戦の件ですけど……」

 対面に構えた先輩にわたしは口火を切った。

 「ただの勝負では面白くも痒くもありませんっ。何かをかけて勝負に挑みましょう」
 「別にいいが……」
 「でも、お願い事があります」

 迫先輩の期待を裏切らない返答を確実に耳にしたわたしは、ずいっと演劇部部室のロッカーから
衣装の入った紙袋を突き出した。さらに、わたしは迫先輩にその衣装を着ることを命じた。

 ふんわりと、甘い香りがした。
 甘い色が、漂っていた。
 男子がいちばん、憧れる。あの芳しくも……麗しい色香。
 それは、衣装から……。

 「何故、おれがスカートを履かなければいけないんだ」
 「カーディガンもリボンありますっ。ウィッグももちろんっ。ただでJKになれるんですよっ?」
 「そういう問題か?」
 「大問題ですっ。賭けるものは……パンツです。パンツを見せてくれませんかっ」

 スカートを手にした先輩は眉を歪ませていたが、わたしには知ったことではない。

864わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/11/04(土) 05:07:49 ID:sMF9cBC.0
 「迫先輩が女子高生になりきることにより、この賭けは成立することで意味を成します。
  仮にこのままの男子高校生と女子高生の姿で、どちらかのパンツを見せるという賭け勝負は
  犯罪極まりありませんっ。破廉恥過ぎますっ。よって、迫先輩が女子高生になりきることにより、
  わたしが迫先輩のズボンを引きずり下ろす○○な行動も避けられ、迫先輩がわたしのスカートを
  昭和のアニメよろしく捲る行為も、ゆりゆりカンケイとして緩和することが出来るのですっ……はぁ」
 
 深呼吸でわたしはわたしを落ち着かせる。
 その間に久遠が迫先輩の腕に噛みつきながら、無理やり迫先輩をカーテン裏へと連れ去っていった。

 もごもごと二人分の膨らみがカーテンをたゆませ、小さな悲鳴が聞こえてくる。
カーテンの裾から迫先輩のズボンが落ちるのが見えた。リアルタイムで迫先輩が少女へと変わりゆく姿が
カーテン越しに伺える。きっと迫先輩の妹も迫先輩が着替える姿を目の当たりにしているだろうし、
迫先輩も妹の生着替えを目にしているのだろう。
 それを考えると、だんだん迫先輩の妹に対する感情が胃から喉の辺りまで込み上げてきた。

 中学生?JCじゃないですかっ。
 そのころのわたしは……あーちゃんなんて、知りません。

 「着替えたぞっ」

 久遠の声と共に女子高生になりきった迫先輩が俯き加減で現れた。思わず、くんくんと鼻を効かす。
小柄で細い方の迫先輩は男子の振る舞いを考慮すれば、フローラルの香り漂う文化系メガネっ娘女子高生
そのものであった。女子高生に変身した迫先輩は口を閉ざしたまま、わたしたちの目を見ようとはしない。
 分かってる。男子心って難しい。そして、面倒くさい。

 「せっかくだから、名前つけようっ」

 久遠の尻尾が揺れる。

 「えっと……ゆきちゃん」
 「久遠、やめろ。黒咲、笑うな」

 反射神経の敏感な久遠は流石だ。
 男子としては白い肌の迫先輩とゆきちゃんという印象はアドリブで命名したとは思えぬはまり具合だった。
 迫先輩……もとい、ゆきちゃんは頬を赤らめていた。
 でも、わたしにはそんなことすらどうでもいい。パンツだ。パンツがかかっているんです。
 黒タイツを透かしてとはいえ、パンツを見せてたまりますかっ。絶対に負けられない戦いだこそ……



 パンツなんですっ。

865わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/11/04(土) 05:08:07 ID:sMF9cBC.0
 「始めましょうっ」

 ゆきちゃんと向かい合わせで席につく。
 メガネ越しに見える瞳はゆきちゃんではなく迫先輩だ。そして、切られた火蓋。

 「スー、ピー、ド!」

 好調な滑り出しだ。ゆきちゃんに変身した故の動揺が見え隠れしているものの、試合運びは
迫先輩そのものだった。迫先輩とスピードに興じている妹も、きっと集中力の高い子に違いない。
遊びを遊びともせず、一種の賭場のような雰囲気をたたずませて、迫先輩の一喜一憂を目に
焼き付けているのだろう。
 と、ゆきちゃんのカードが止まった。わたしの手札を
 消化するチャンス。ゆきちゃんが俯く姿は天才将棋少女にも見えてくる。
 きっと、ゆきちゃんは将棋も強いんだろう。そして、わたしの手札も止まった。

 ゆきちゃんはスカートを気にせず脚を開いている。開放感からくる気の緩み。
 そんな女子高生は二次元ならばお払い箱だ。そして、その気の緩みがカードに如実に表れてきた。
 山にはハートの5。ゆきちゃんはスペードの4、わたしはスペードの6の持ち札が。
 なのにも関わらず、捌けるはずのカードを見逃し、わたしにスペードの6を許してしまった。
 ここからゆきちゃんのペースが崩れた。

 「くっ」

 今、わたしは鬼にならねば。だって、パンツだし。
 カードは黙りを続ける。幾度となく続く「スピード」の掛け声。そして山のカードが残り一枚に。
 次の掛け声で決まる。ゆきちゃんの運が勝つか、わたしか。

866わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/11/04(土) 05:09:30 ID:sMF9cBC.0
 「スー、ピー、ド!」

 決まった。

 ゆきちゃんはカードをもう出せない。というか、出しても時遅し。

 わたしの勝利だった。

 勝利の美酒に酔うよりも、パンツが守られた安堵感でどっと疲れが肩にのし掛かってきた。
 もっとも、わたしが言い出したことだし。

 「ゆきちゃんのおパンツを見せろいっ」

 久遠がゆきちゃんの腕に噛みついた。
 振り払おうとあわてふためくゆきちゃんは椅子を蹴り倒して立ち上がった。

 「ま、待て!電話が……」

 電話を片方の手で掴み、もう片方の手で久遠を押さえつつ、ゆきちゃんは電話に応答していた。
 ウィッグの髪が乱れ頬に張り付いている。

 「う、うん。分かった。明太フランスパンだな」
 「うー、わうっ」
 「今、部室だ。え?おれは脚本を書くのが好きなんだ」
 「見せろいっ」
 「由妃こそ部活はどうしたんだ。中学の。みんなと合わせたくないって?」
 「わおっ」
 「もう切るぞ。こっちも……って、おい!由妃!」

 その言葉を最後に、部室に静寂が戻った。
 わたしと久遠はお互いに顔を見合わせ……
 「由妃ちゃんだって。『ゆき』ちゃん」
 「ゆきパン食べて、おパンツ見せろいっ」

 迫先輩……もとい、ゆきちゃんはスカートを押さえながら太ももに噛みつく久遠を振り払っていた。


 おしまい。

867名無しさん@避難中:2017/11/11(土) 06:42:05 ID:xSFaIHDU0
わんわんわんわんの日。

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1141/pokey_game.jpg

868名無しさん@避難中:2017/11/17(金) 11:30:43 ID:1mVRswQo0
お題欲しいにゃ

869名無しさん@避難中:2017/11/22(水) 11:49:38 ID:tbZvinxY0
ロボット

870名無しさん@避難中:2017/11/25(土) 07:06:59 ID:8EiC9Pjw0
ロボットと言えば……!

871わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/12/03(日) 09:10:35 ID:bdaY6cqk0
>>869
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1146/wan_rob.jpg

だ…だれか、ロボ描くの上手い人…

872名無しさん@避難中:2017/12/03(日) 10:43:41 ID:wycKUTnk0
ロボスレ民に頼もう

873名無しさん@避難中:2017/12/22(金) 08:02:50 ID:NSo9vcxw0
「妹と○○」で、お題下さいまし

874名無しさん@避難中:2017/12/22(金) 08:18:40 ID:whxadIDg0
ゲーム

875名無しさん@避難中:2017/12/27(水) 07:14:58 ID:Rv635Th20
姉より妹の方が魅力的なのは、どうしてですか

876名無しさん@避難中:2018/01/15(月) 07:01:49 ID:ihB/kubc0
妹とゲーム

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1156/sako_imouto.jpg

877名無しさん@避難中:2018/01/29(月) 23:27:14 ID:0FpbKz8w0
仁科人生相談

鷲ヶ谷「妹に勝てる技を教えて下さい」

878名無しさん@避難中:2018/02/03(土) 19:03:59 ID:wuDOIMEI0
「妹の××」でお題、下さい

879名無しさん@避難中:2018/02/04(日) 23:16:27 ID:QBqdbITo0
米蔵

880名無しさん@避難中:2018/02/11(日) 21:35:30 ID:euHzlHk60
妹の米蔵ってなんじゃい

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1161/komegura_ako.jpg

881名無しさん@避難中:2018/02/16(金) 21:17:36 ID:IBGPGAWw0
なんじゃろうな

882名無しさん@避難中:2018/03/03(土) 21:56:21 ID:5gzV8Tcg0
>>866
あかねちゃんは最初の印象からどんどん(エキセントリックに)変わっていくキャラだなぁw
「パンツです。パンツを見せてくれませんかっ」って何だよw
>>867>>871>>876>>880
そこはかとない狂気を感じる
疲れているときに見る夢のような不思議でそこはかとない狂気をだ
ゆるふわポプテとでもいおうか
恐ろしい才能の片りんを感じる

883名無しさん@避難中:2018/04/23(月) 21:07:02 ID:V99.G3720
荵「わっしー、イエーイ!」

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1171/akane_shinobu_kazuho001.jpg

884名無しさん@避難中:2018/04/29(日) 00:59:32 ID:ZXILGVFE0
チャリオットかよ
お前が漕げよっ

ジェットマン多すぎw

885名無しさん@避難中:2018/05/02(水) 06:53:31 ID:RiDUr95o0
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1178/ageru_pool.jpg

食べ物描くの楽しい

886名無しさん@避難中:2018/05/11(金) 22:45:33 ID:rEqXXwH.0
「空手少女」と…で、お題を。

887名無しさん@避難中:2018/05/13(日) 01:32:30 ID:u.X7Ma.Y0
剣豪のひ孫

888名無しさん@避難中:2018/06/06(水) 07:09:18 ID:k0YOctbw0
恋愛相談

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1184/totoro001.jpg

889名無しさん@避難中:2018/06/06(水) 21:33:18 ID:vcpLvJos0
やらしいっ

890名無しさん@避難中:2018/06/20(水) 22:59:07 ID:vZGKC6dg0
質問…
演劇部の中途入部の女子高生。さて、どんな子!?

891名無しさん@避難中:2018/06/21(木) 12:23:21 ID:OMo1Dp1U0
どんな些細なことでもミュージカル仕立てにする

892名無しさん@避難中:2018/06/26(火) 23:55:23 ID:SiFNYN9c0
発声練習のあえいうえおあおを覚えられず
あいうえお!・・・あお!と言ってごまかしている

893名無しさん@避難中:2018/07/14(土) 21:54:36 ID:1G6f832M0
質問2…
こんな演劇部の顧問はかわいい
どんな先生?

894名無しさん@避難中:2018/07/15(日) 09:53:13 ID:vQ0jh.7k0
元宝塚

895名無しさん@避難中:2018/07/20(金) 23:42:19 ID:30iLuD1M0
生徒がいない時こっそり鏡の前で舞台衣装を自分に合わせてみる

896名無しさん@避難中:2018/08/15(水) 08:41:29 ID:Z0pXPpLs0
問)夏休みの恒例行事を教えて下さい

897名無しさん@避難中:2018/09/01(土) 14:19:37 ID:O5mFZIv.0
登校日!

898名無しさん@避難中:2018/09/15(土) 07:03:48 ID:0NguDkVM0
登校日!!

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1199/toukoubi.jpg

899名無しさん@避難中:2018/09/22(土) 22:49:05 ID:dTAAob0w0
お題下さい

900名無しさん@避難中:2018/09/22(土) 23:10:29 ID:eMRyimSw0
水泳の秋

901名無しさん@避難中:2018/09/23(日) 14:20:55 ID:8S9EDZiM0
水泳の秋…のつもりやったんや。

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1201/suiei_no_aki.jpg

902名無しさん@避難中:2018/09/23(日) 16:11:32 ID:QI/59ykY0
変態だーっ!!

903名無しさん@避難中:2018/09/23(日) 19:04:42 ID:aUlH8dDQ0
久々に名前を見かけまして

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1203/gekka.jpg

904名無しさん@避難中:2018/10/04(木) 07:14:59 ID:zg0l/Gk60
ここの学園って野球部とかバレー部とか普通の部活はないの?

905名無しさん@避難中:2018/10/14(日) 09:22:07 ID:p2167IWk0
お題を…

906名無しさん@避難中:2018/10/16(火) 13:52:55 ID:8x9CnXu.0
テスト

907名無しさん@避難中:2018/10/17(水) 10:03:45 ID:ukF4C/CY0
メジャー級のイベントなのに忘れてた

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1207/test01.jpg

908名無しさん@避難中:2018/11/11(日) 09:39:51 ID:19/5kdHc0
ポッキーの日

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1210/pokey_game.jpg

909名無しさん@避難中:2018/11/30(金) 12:04:40 ID:pBaBKCF.0
お題下さい

910名無しさん@避難中:2018/11/30(金) 14:46:10 ID:Ga3q8kZMO
異世界転生

911名無しさん@避難中:2018/12/04(火) 06:50:39 ID:HAXOHCno0
異世界転生ものの人気のワケってなんだろう

912名無しさん@避難中:2018/12/23(日) 21:41:00 ID:NVXEPa8U0
現実の制約・しがらみをリセットして親や社会から独立したいという願望を満たせる
立身出世物の構造を持つものも多い
優越感・万能感を得やすい素地がある

913わんこ ◆TC02kfS2Q2:2018/12/27(木) 07:58:32 ID:QWeL3UUE0
 リアルな書店の中を巡り歩くのは、一体何ヶ月ぶりだろうと独り言のように呟く。
 生身の人間の眼がずきずきとわたしに突き刺さる、と思い込むのは、実に勝手だ。
 誰もわたしのことなど知らない。知ってるはずはない。希望的観測で自分自身を勇気付けて、厚く覆ったマフラーで口元を隠し
目深にニットの帽子をかぶってこの世を忍ぶ。

 かつては誰からも憧れと羨望のまなざしで手を振られる存在であった。
 きらきらと輝く水晶石にも似た存在でもあった。
 だが、脆く、危うい、その石のごとく。崩れ去ったというのも、誰かの浅はかな行いのせい。

 だから、隠れる。消える。この世に存在していなかったことと等しく。

 わたしは活字の森に身を隠す木の葉だ。
 風が吹けばひらりと舞い、どこかへと身を墜落させる。そして、やがて土に返ることを願いつつ、またふわりと。

 「あっ。ごめんなさい」

 不注意で男子高校生の肩にぶつかる。素直に相手は謝罪の意を示してくれたのだが、どうにもわたしの声が出ない。
 意思はあるのだが、脳が反応しない。声帯が拒否る。まともに人と話すということ自体が久しぶり。
 ただ、額に冷や汗だけが一筋。

 「ご……ごめんな……さい」

 こんな声ではなかったはずだ。か弱い羊のような声だ。
 甘くて、客席にたむろする男どもに向けて発するあの声と。

 かつてはわたしはアイドルという身分だった。正しくは『地下』という接頭語が付く。その集団の一人だった。
 舞台の上でマイクを握り、この身を切り売りしながら、代わりに金と名声を握る。
 でも、世間様はそっぽを向いた。世間様は悪くない。正しい、神だ。たった些細な出来事で神の機嫌を損なった。

 出来ることならもう一度。生まれ変わってもいい。
 転生することは誰もが夢見ることかもしれない。
 だからか、と言うのは乱暴だけどわたしはライトノベルの棚の前で気づいた。

 『異世界転生もの』。

 なんと、そんなコーナーがご丁寧にこしらえられているではないか。

 ネットの噂には聞いていた。というか、ネットの深い海に身を潜ませていたわたしは、リアルと虚構が合致した瞬間を見た気がした。

 異世界に転生するのも悪くない。
 誰も知らない。誰からも知られていない。
 でも、わが身はものすごく知っている。
 翼が欲しい。イカロスのような蝋で出来た翼なんかではなく、太陽の光に輝く金糸のような翼だ。

 わたしだって、出来ることなら舞台に立ちたい。あのサイリウムの光が見たい。地下でひっそりと知る人ぞ知る存在だったと
しても、アイドルだったことは間違いないし……でも、もうそのグループはもう現世で生きることすらる許されず。

 それは、誰かのせいだ。
 わたしと時間を共にした誰かが。
 誰かは、泣いていた。
 メンバーは「大丈夫だよ」と慰めていたが、本心はどうだか。この世界に身を投じている者ならば見抜くことなど容易い。
 わたしは何も声をかけられなかった。

 ふと。わたしのスマホが鳴く。滅多にないことなのでびくっと挙動不審。
 無論。誰かからかも解りきっている。妹だから。

 そして、目を疑う。

 『お姉ちゃん。高校の演劇部の顧問(仮)になってくれない?ってか、なりなさい』 
 
 蓆田(むしろだ)いおり、22歳。代表作……これといってない、元地下アイドル。

 なんの因果で演劇部という異世界に転生しなきゃならんのだ。
 抗うこともできず、『うん』と、返信だけ送った。


つづくのかはわからん

914名無しさん@避難中:2018/12/27(木) 21:59:03 ID:0fHi.uEo0
乙です
そう来たか!

915わんこ ◆TC02kfS2Q2:2018/12/29(土) 18:06:47 ID:n6h3N.4s0

 わたしのブレイクファーストの邪魔をするな。

 座り心地の良い便座に、殺風景な四角い空間。誰彼の侵入を拒む校舎内でも離れた場所。
 パンパンに膨れたビニルの包装を破くと、真っ白な菓子パンが顔を見せる。ふわふわした食感が好きだ。貴重なわたしだけの時間に、あむっとパンを一口。
 なんでこんなことを引き受けたんだろうと、少々の後悔が甘い菓子パンをほろ苦くさせてくれる。でも、やらなきゃ……と、言い訳できるのは、わたしがちょっと大人になったからか。
 こんな大人になるはずじゃなかったと、過去を呪いたいだけ呪い、目が眩む未来へと足を踏み出すわたし、カッコイイ!!って、自惚れるほどわたしってバカじゃないし。
 今日から大人にならなきゃ……って鼓舞する力も空元気だし。
 だから……。
 どうして、演劇部の顧問なんて引き受けたんだろうと後悔先立たず。

 「あえいうえおわんっ」

 なんだ、廊下の向こうから聞こえてくる声は。
 発声練習なのは分かってる。以前はわたしも散々やらされた。お腹から声を出せ。喉で声を出すな。理屈で分かっていてもダメ。体で覚えなきゃ。
 地下アイドルだって、アイドルの端くれだ。かつては、わたしもその集団に在籍してたのだから。

 そんな真っ暗闇なわたしたち地下アイドルのなかで、発声が抜きん出てレベルが高かったのは『めめぽん』だった。
 歌唱力もずば抜けている。おまけにスタイルもよし、顔面偏差値もかなり高い。それゆえファンからの人気は誰よりも勝っていたのは言うまでもない。
 なんということか、そんな『めめぽん』のお陰でわたしたちは小さな夢を絶たれた。『めめぽん』の軽率な行動故の罰として。

 『めめぽん』の涙を浮かべる姿を思い出しては、薄っぺらい絆を誰もが陰でせせら笑っていたことを忘れない。
 そんなもんだと、冷ややかな視線だけを残して、わたしたちは表舞台(表にも出ていないのだが)から消えた。
 なのにこんな元地下アイドルに、この高校は何を期待するんだと……。

 演劇部の部室の扉は軽かった。どんな者でも歓迎するかのように、がらりと開いた扉の先には、犬小屋がちんまりと建っていた。
 段ボールでこしらえられた犬小屋は、恐らく小道具で製作されたものだろう。演劇部の部室にあってっもおかしくはないし。
 ふぅと溜め息つくと同時に犬小屋から少女のような子犬……ではない。子犬のような少女が顔を見せた。ボブショートの彼女はうつ伏せでわたしの顔を見上げた。

 「何物だっ。名を名乗れっ」
 「お兄ちゃんどいて!そいつ噛みつけない!『しっぽくびわ』の甘噛み担当、いおりんでーす」と、脳内が響く。
 今思い出しても、なんだこれはと言わざる得ない自己紹介。それを誰もが許していたのは一種の集団心理だとしか思えない。
 そう。わたしはもう『いおりん』なんかじゃないし、『しっぽくびわ』も存在すら許されないし。
 
 「はじめまして。今日からこの演劇部の顧問をつとめさせて頂く、蓆田いおりです」
 「むしろだっ?」

 この子らとやっていけるのかと思うと、途端に脚に乳酸がたまっていく感じでいっぱいだ。

916名無しさん@避難中:2019/01/01(火) 23:12:53 ID:ZD62yzR60
ことよろ…お題おねしゃす

917名無しさん@避難中:2019/01/04(金) 01:45:35 ID:OnTRhTsUO
あけおめことよろ

お題→冬のハイテンション

918名無しさん@避難中:2019/01/22(火) 09:21:00 ID:c7C94Wqk0
はいてんしょん

https://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/1218/dog_run.jpg

919名無しさん@避難中:2019/03/31(日) 20:02:36 ID:gYA8SQ4M0
鷲ヶ谷「いよいよ新元号発表だね。それにしても平成ライダーもこれで歴史となってしまうのかぁ」
荵「あの『グロンギ』的なっ」
鷲ヶ谷「荵ちゃん、よく知ってる!イケメンライダーは当初不安だったけど、今や仮面ライダーといえばだよね!」
あかね「でも、わたしの「仮面ライダー」のイメージはおやっさんですっ」
鷲ヶ谷「立花藤兵衛!それでいて地球防衛軍のキャップの姿も」
あかね「いいえっ。十文字家の執事のイメージでっ。執事萌えですっ」
鷲ヶ谷(うわぁ。ガチ原作だし)
あかね「そういうことで、平成もいよいよ残すところあとわずか。平成ライダーの『平成』で、あいうえお作文ですっ」
荵「わおっ」
鷲ヶ谷「なにそれ!関係ないし!」
あかね「『へ』んしん
    『い』らない
    『せ』っかくの
    『い』ケメン見れないなんてっ」
鷲ヶ谷「わぁ!なんでだよ!変身してもかっこいいよ!」
あかね「誰にも言いませんよカードを…」
鷲ヶ谷「違う番組だよ!」
荵「新しい時代のライダーはどうなるんだろう?」
鷲ヶ谷「あっ。いよいよ新元号発表だよ!」

……

荵「わおっ」
鷲ヶ谷「そう来たかぁ」
あかね「じゃあ、新しい時代のライダーを新元号であいうえお作文っ。はいっ、荵」
荵「わおお?えっと…


 つづくとかつづかないとか。

920名無しさん@避難中:2019/04/01(月) 19:56:16 ID:exUZ3ytk0
あかね「きまりましたねっ!新元号」
鷲ヶ谷「令和ライダーの活躍に期待だね」
あかね「きっと今までにない仮面ライダーになるんじゃないのかな」
鷲ヶ谷「『ドライブ』みたいにバイクしばりじゃないとか?」
荵「『れ』ッツゴー!ライダー!
  『い』ぬぞり
  『わ』んこたちっ」
鷲ヶ谷「アラスカなの???舞台は???」
荵「新時代だから、新しい方向性とかだなっ」
あかね「『れ』き代ライダー
    『い』ちばん
    『わ』るい」
鷲ヶ谷「ダークヒーロー!!」

921名無しさん@避難中:2019/04/01(月) 19:56:55 ID:exUZ3ytk0
あかね「きまりましたねっ!新元号」
鷲ヶ谷「令和ライダーの活躍に期待だね」
あかね「きっと今までにない仮面ライダーになるんじゃないのかな」
鷲ヶ谷「『ドライブ』みたいにバイクしばりじゃないとか?」
荵「『れ』ッツゴー!ライダー!
  『い』ぬぞり
  『わ』んこたちっ」
鷲ヶ谷「アラスカなの???舞台は???」
荵「新時代だから、新しい方向性とかだなっ」
あかね「『れ』き代ライダー
    『い』ちばん
    『わ』るい」
鷲ヶ谷「ダークヒーロー!!」

922名無しさん@避難中:2019/04/09(火) 06:58:17 ID:ypZA2mZk0
平成最後のお題を

923名無しさん@避難中:2019/04/09(火) 09:12:16 ID:Ms0/kGg.0
未来

924名無しさん@避難中:2019/06/08(土) 08:09:17 ID:nomZfvDk0
>>915
忍ちゃんとうとう部室に犬小屋をおったてたのか・・・!
がっこうぐらししてそう

過去地下アイドルってキャラ設定はなんか珍しい気がする
なまなまC

925名無しさん@避難中:2019/07/06(土) 06:48:19 ID:sYdSwYBE0
がっこうぐらしするには、何がいりますか?

926名無しさん@避難中:2019/07/12(金) 15:43:30 ID:Z8dSK6f6O
エロ本!

927名無しさん@避難中:2019/09/04(水) 22:13:38 ID:CVA.l3TA0
パワーショベル!

928名無しさん@避難中:2019/09/24(火) 15:57:03 ID:olpNPBGk0
なんでパワーシャベルじゃないんだろうね


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