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【シェアード】仁科学園校舎裏【スクールライフ】

1カップル撲滅運動被害者友の会:2011/02/13(日) 22:22:02 ID:sb7Fx65A0
創作発表板、『【シェアード】学園を創りませんか?』は、避難訓練を実施中です。
押さない、駆けない、喋らない!

雑談、作者同士の打ち合わせ、困ったときのレスや作品投下、何でもどうぞ。
新入生、初任者の教諭、季節外れの転校生なども歓迎。
以下本スレのテンプレより。


創作発表板に生まれた少し変わった学校、私立仁科学園。
このスレは、そんな仁科学園の世界観をSSや設定だけに留まらず、様々な表現で盛り上げ、また創っていくスレです。
貴方が創った生徒が学校の一員として誰かのSSに登場したり、気に入った生徒を自分のSSに参加させる事が出来ます。
部活動や委員会を設置するのもいいでしょう。細かい設定として校則を考えてみたり、制服を描いてみたりなどはいかがでしょうか。

また、体育祭や文化祭などの年間行事及び、生徒達の絆を深めるイベントや
仁科学園以外の学校や、生徒たちのバイト生活等世界観は仁科学園の外にまで広がります!
皆さんの想像力で、仁科学園の世界観を幅ひろーく構築していきましょう!

このスレはシェアードスレ(世界観を共有する)です。
ちょっとでも興味をもったらまとめWlikiをみて下さい。きっと幸せになれるはずです!

まとめWiki
http://www15.atwiki.jp/nisina/

現行スレ  学園を創りませんか? 4時限目
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281230460/

2名無しさん@避難中:2011/02/13(日) 22:27:31 ID:xfyPTz4MO
>>1
うわあ!
速攻出来てた! 乙です。とりあえず前管理人さんお疲れ様。
はぢめまして創発避難所。

3名無しさん@避難中:2011/02/13(日) 23:26:38 ID:z6igNd8g0
おお、仁科もついにこちらの避難所に来たんだね
本板は同じなのになんか距離が近くなった気がするw

4 ◆46YdzwwxxU:2011/02/14(月) 05:24:33 ID:BlxT54esO

「先輩、お待ちしておりました! まさに一日千秋の思いでした!」

 斜陽の死角となる校舎裏に俺の姿を認めるや、腐れ縁の後輩は輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
 そんな彼女に俺は、じっとりと冷たい半眼で心の底からの呆れを、大股歩きで不機嫌さを演出しながら近づい
ていった。

「……そんなことより何なんだよこれは……」

 鼻先にA4サイズの紙切れを突きつけてやる。帰宅しようと思ったら下駄箱に入っていた、タチの悪い“ラブ
レター”。乾いた糊でパリパリになったそれは、そよ風ていどではびくと
もしない。
 文面はこうだ。

『おまぇの工口カワィイ後輩は預かった。かェしてホしくば放か後ふつ―科こウしや裏まで1りで来られタし。
しやわせ撲滅運動』

 新聞や雑誌を文字単位で切り貼りした怪文書だった。「輩」は大きさの違う「非」と「車」を力技で組み合わ
せてまで漢字にしてあるなど、どうでもいいこだわりが散見される。……ちょっと素で怖かった。
 署名の“幸せ撲滅運動”とは、学園のカップルに制裁を加えて回っているという、実にご苦労様な不良三人組
である。
 ただし、当然だが、今回の件に関しては、彼らはひとつも悪さなどしてはいない。むしろ、俺を呼び出すダシ
にこの後輩に名前を騙られた被害者といえた。

「それ、私がこさえました」
「分かってた。……胸張るなぶっ飛ばすぞ」
「先輩にならトバされたっていいです! 性的な意味で!」
「“島”にほうりこんだろか……」

 俺は付き合わないけど。
 ……いつのまにか、説教する気力がへなへなと失せていた。イタズラするのに他人様の名を騙るのはよくない
とか、そういうマジメな教育的指導はこの後でみっちりしようと思う。

「んで? 何の用なんだ」

 ぞんざいな口調になって問い質す俺に、後輩は頭をこつんとやるあざとい仕草を添えながら答えた。

「いけない、いけない。こんな乙女ちっくな会話がしたくて先輩にご足労いただいたわけではないんでした」
「……お前って、河内さんや上原さんとちゃんと会話できてるの?」

 また話題が脱線すると分かっていながらついツッコミを入れてしまう、自分の性格が憎い。
 どちらも今年になって後輩がよくつるむようになった友人だった。とりわけ河内さんなんて“恋する乙女オー
ラ”がすごい子だし、トバすのどうのと鼻息荒くほざく後輩とは“乙女ちっく”の中身も別物という気がする。

「もちろんです。たぶん。……そこそこ、けっこう、マブダチっぽいです」
「聞けば聞くほど不安になるが、大丈夫なのかそれ」
「ええそりゃあもう! スカートひらりバミューダトライアングルと恐れられていますよ!」

 意味分からんが、それは……ダメだろ。

「とにかく先輩をお呼び立てした理由は他でもありません!」

 デリケートな話題を振り切るように、後輩はヤケっぱちっぽく叫んだ。

「『【シェアード】学園を創りませんか?』スレ、創作発表板避難所進出です! おめでとうございます!」



 おわり

5名無しさん@避難中:2011/02/14(月) 05:59:00 ID:BlxT54esO
没ネタから流用して書いた。いろいろアレだけど謝らない。
アレがアレなのでまとめWikiには入れないでください。

6名無しさん@避難中:2011/02/14(月) 11:20:25 ID:YU0XWLj.O
さっそく乙。
この二人はやはり見ていてニヤニヤしてしまうw

7 ◆akuta/cdbA:2011/02/14(月) 14:52:05 ID:kDWG7hcI0
したらば管理人さんお疲れ様ですー。

規制中につきこちらで失礼。

ttp://loda.jp/mitemite/?id=1760.jpg
修「蓮コラかと思った……」

8名無しさん@避難中:2011/02/14(月) 14:57:26 ID:YU0XWLj.O
>>7
そのデコやめろwwwww


それはそうと、こっちに絵を貼る時はh抜かさなくてもおkだったはずよ。

9名無しさん@避難中:2011/02/15(火) 01:00:18 ID:G9fSnblcO
美意識なきデコ文化に対する痛烈な皮肉というわけ……だ?
いやつか素でなんかグロいなw
華美を通り越して黴のようだ。

10仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc:2011/02/15(火) 15:50:29 ID:85GMJcfEO



 小咄:【虎のバレンタイン】



「あ、鰯雲だ。冬に見れるなんて珍しいなー」

 寒空見上げて呟いた。
 風駆け抜ける場所で感じる季節は、まだ冬のそれと一緒に春の気配を交わらせて。
 彼女は普段読む自然科学の本から得た知識を動員し、流れる雲の正体を見破る。風が吹けば寒いが、日が出ればぽかぽか暖かい。そんな微妙な季節。
 二月十四日。バレンタインデー。
 ここ日本では、女子が男子にチョコを渡し、一部では淡い春が始まり一方では怨念渦巻く悲哀の叫びを喚き散らす日。

 ぼーっと空を眺めていたが、黒鉄亜子ははたと思い出して傍らのビニール袋に目をやる。袋は自宅近くの大型スーパーの物。中身は、大量のチョコレート。

「これはで霧崎先輩で……。これはお兄ちゃんの友達で……。これは省君で……。これはあやめ先生で……。これは鬼瓦先輩で……」

 バレンタイン贈呈用のチョコレート。
 何故か女性や中間や全然知らない奴が混じっているがそこは御愛敬。自分のあげたい人にチョコをあげる。それが正義。それ故に、全部が全部義理チョコである。
 図書館によく出入りする亜子は霧崎とよく遭遇する。男っぽい仕種や言葉遣い、それとは対照的な長い黒髪を垂らした女性らしい姿のギャップは、体格が中の下の亜子のちょっとした憧れのようだ。お兄ちゃんの友達という区分。意外な事にトオル等のバンドメンバーではなくなんと台の事。よくつるんでいると知っている。
 その中で省だけはちょっと意識している。といっても以前のパンチラ事件の影響なのがなんとも悲しいのだが。
 あやめ先生とはなぜかよく遭遇する。空手バカな生活故にどうしても救護要員との節点は増えるのだ。といっても亜子自身がお世話になった事はあまりな無く、たいがいは亜子に挑んだ愚か者が亜子によって運ばれるのだが。
 鬼瓦先輩は単なる空手の先輩である。今後登場予定は一切無い。無い。

「えーと、あとコレとアレと……」

 ただの友達にあげる為に買ったチョコも含めると、結構な量となる。最近は女の子同士でのチョコ交換に違和感が無いという。野郎同士なら明らかに腐女子が喜びそうな関係になってしまう。

 一生懸命に仕分けしている姿は、年頃のただの女の子。
 虎と恐れられる次世代ゴットハンドも、基本的にはまだまだ中学三年生の普通の子なのだ。

「あ、あとこれ。お兄ちゃん用」

 最後にそう言って取り出したのは、ちょっと包装が違う箱。
 言葉通りに、兄である懐へ贈る為のチョコレート。

「今年はちゃんと気付いてくれるかなぁ……」

 去年も同じように送ったらしいが、その性格故か顔が広いバカ兄貴は毎年義理チョコを山ように持ち帰る。亜子が贈ったチョコもその一つと勘違いし、本人の目の前でガツガツ何も言わずに完食したのだ。
 そこそこショックだったらしく、おかげで懐は幻の右を喰らい病院送りとなった。お兄ちゃん子の亜子にとっては事件であるが、懐にとっては妹からの理不尽な家庭内暴力だろうか。
 兄の真似をして金髪にしてみたり、プロレス好きな兄に合わせて格闘技を習ってみたり。飲めもしない苦〜いエスプレッソを飲んでみたり。性格控えめな亜子にとっては、自由奔放まっしぐらの兄はバカだの空気読めないだの言われていても尊敬の対象なのだ。

「またいっぱい持って帰るんだろうなぁー。どう思う君?」

 遥か天空を漂う鰯雲に向かって問い掛けるが、返答などあるはずもなく。
 ただゆったり流れる雲。それを運ぶ風は、冷たい。

「寒い」

 立ち上がり、袋を持って場所を移す。ちなみにここは学園近くの土手。
 お尻に付いた草と土を手でぱっぱと掃い、歩きだす。
 さぁ、チョコを配りにいこう。
 虎と呼ばれる女の子は、仁科学園へと歩きだす。




※ ※ ※




「チョコうめぇええええええ!」
「うるさい! ゴミ散らかすな!」

 仁科学園コスプレ部室。
 いつもの闖入者と部屋の主。

「素晴らしい日だ。タダで大量のおやつが手に入る」
「歪んでるよそれ」
「ところで京さん、いくら義理でもチロルチョコのきなこ一個って酷くね?」
「それで十分よ、大量に抱えて来たクセにさ」
「なんだよおすそ分けしようとやって来たのに」
「私が貰ってどーすんのさ」

11仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc:2011/02/15(火) 15:51:51 ID:85GMJcfEO

「それにしても最近は市販のチョコも凝ってるよなぁ〜。高いんじゃないのこのトリュフ?」
「へぇ。良いものもらったじゃない」
「しかし箱が不細工だな。プロの仕事とは思えん」
「ふーん。……って、それホントに売ってるチョコ?」
「ほえ?」
「アンタこれ……。どうみても手作りよね。義理じゃないぢゃん! 本命チョコじゃん!」
「……なん……だと……?」
「誰から貰ったのよ?」
「……」
「ちょっと黙ってないで教えなさいよぉ〜」
「見逃していた……」
「……は?」
「見逃していた……。だっていっぱいくれるんだもん」
「あ……アンタ馬鹿ー!?」
「一体誰が……」
「私が知る訳……。あっ! 食ったバクバク食ったヤケ食いだ!」

 単なる甘い物好きと知ってか知らずか、皆やたらと懐にチョコを渡してくる。余り物すら随時受付の懐は、ポリバケツと比喩されながらも笑顔で毎年チョコを回収。
 おかげで、こういった珍事が稀に起こる。バカに幸あれ。



おわり。

12仁科タイガー ◆wHsYL8cZCc:2011/02/15(火) 15:52:16 ID:85GMJcfEO
後半部分は本当にただのオマケw

13名無しさん@避難中:2011/02/15(火) 22:21:40 ID:UMJvuCao0
ええなぁ。ちょこ貰えてw ウラヤマシイ……
亜子は相当のブラコンだなー

14名無しさん@避難中:2011/02/15(火) 23:02:23 ID:G9fSnblcO
情の深い面子が多いだけに、仁科のバレンタインデーは荒れそうだな。
ぎぎぎ……省……生かしてはおけぬ。このままゴールインなどさせんぞ。
女の子同士でチョコを食べさせ合う、そんなシチュエーションもいいなぁとふと思った。

15名無しさん@避難中:2011/02/22(火) 20:15:00 ID:PmvsLUmM0
すまね、>>7は誰かヨロシク

16名無しさん@避難中:2011/02/22(火) 20:15:26 ID:PmvsLUmM0
あ、wikiのことな!

17名無しさん@避難中:2011/02/22(火) 21:30:33 ID:5St8uQ7Y0
>>15
Wiki編集乙!
>>7は任されたよ!

18名無しさん@避難中:2011/02/22(火) 23:12:09 ID:IcFy/43kO
>>17
サンキュー。

19 ◆46YdzwwxxU:2011/02/27(日) 17:57:03 ID:K05wEeXAO
投下します

20名無しさん@避難中:2011/02/27(日) 17:57:36 ID:K05wEeXAO

「せせせ先輩、わわわ和英辞典を貸していただけないでしょうか!?」
「何スクラッチしてんだよ。ヤだよ。……絶対に嫌だよ!」
「そんなに!?」

 二時限目の授業を後に控えた休み時間のことだった。
 お馴染みの後輩が、珍しく本気で慌てたようすで俺の教室に滑りこんで来た。教科の重ならない他の学級の知
り合いから借りるという、忘れ物をしたときの常套手段を使うつもりだったようだが、当てにされた俺は断固と
して拒否した。
 斬って捨てられた後輩は、雷に撃たれたような表情で、その場に崩れ落ちた。

「がーん。なんという冷たい視線、なんという情け容赦なしのおことば……。これには、さすがの私も傷つきま
した。……スクラッチだけに」
「……割りかし余裕あるじゃねーか」

 それ言いたかっただけだろ。満足したならもう帰って欲しい。

「だいたい、どのツラ提げて和英辞典貸してくれ、だ。先週の“最低携帯着信事件”のこと、俺はまだ忘れてな
いからな」
「あれですか。嫌な事件でしたね……」
「ほんとにな」

 推理小説の登場人物が、後のち犯人の動機に関わってくる過去の悲劇を仄めかすようにしみじみと語る後輩だ
ったが、犯人はお前で被害者は俺だ。※『先輩、/犬派ですか/猫派ですか/閑花ちゃん派ですか?』参照。
 あんな行為を躊躇いなく実行する奴が、まさかリアルに出るとは思わなかった。ちなみに今、後輩の携帯電話
の着信音は、その件についての反省文になっている。……ちなみにそれにしても、別段激怒した俺が強要したの
ではない。

「私だって、あれから猛省しましたですもん! “Trust me!”/トラスト・ミー!/我を信じよ!」
「うるせーよ!」

 やけに流暢な発音がかえってこちらをおちょくっているようにしか聞こえず、憎たらしさ三倍増しだった。
 頑なな態度で突っぱね続ける俺に、後輩は腕時計をちらりと見て「ああもぉこんな時間……」と嘘くさい涙声
で呟き、泣き落としに作戦を変更してきた。

「ねぇ先輩、後生ですからっ! お借りした和英辞典にイタズラするほど、閑花ちゃん非常識じゃありません!
 性的な単語を蛍光ペンでなぞったり、みかんの油であぶりだしを仕掛けたり、カドにピ――(※自主規制)を
擦り付けてピ――(※自主規制)したり、英作したり、英和辞典と一ページずつ交互に挟んでいき引っ張っても
抜けないようにしたりなんて、そんなこと考えてもいません!」
「いや英作はしろよ」

 何のための和英辞典だよ。

21名無しさん@避難中:2011/02/27(日) 17:58:54 ID:K05wEeXAO

「貸したげたら? 先輩くん」

 後輩に思わぬ助け舟が出されたのは、そんな小競り合いを三度ばかり繰り返した後のことだった。
 まるっこい頭の左右にとんがりリボン、ブレザーを羽織った下にはだぶだぶ
ベスト。ミミズクみたいな近森ととろ。
 一時期は隣の席同士にもなったし、実際に活動のディープなとこまで目撃したから、彼女のちょっと変わった
“趣味”については俺もだいたい知っている。
 今回もまた、恋する乙女に味方してあれこれとお節介を焼くつもりなのだろう。

「近森先輩……」

 近森さんは不安げな後輩に「まかせて」と囁いて、お姉さんぶったウインク。し損ねて一瞬、もう片方の瞼ま
で閉じてしまったのを俺は見逃さなかった。……どうでもいいな。
 果たして近森さんは、使命感に燃える熱い瞳で、俺の前に立ちはだかったのだった。ナリはそう大きくもない
が、ある種、聳え立つ巨熊のような威圧感があった。

「先輩くん、ここは一度自分の気持ちを整理してみようよ」

 訳知り顔で人差し指なんぞ立ててみせる近森さん。相変わらず俺の名前を覚える気はないらしい。

「先輩くんは貸した英和辞典に『うへへ好きな子のリコーダーをチュッパチュッパ!』的なイタズラをされるの
がイヤなだけだよね?」

 細かい指摘をするなら、英和辞典ではなく和英辞典なんだが、……まあ、そうだ。知り合いが困っているとい
うのなら、貸すのだって吝かではない。
 だが、この後輩に限っては、その行為はいろいろな意味で“危険”だ。……最低な前科もあるし。

「わ、私そんなことしませんっ! 確かにこれが一週間前なら可愛らしいイタズラをちょこちょこやって、何も
知らない先輩を見て影でほくそ笑んでいたかもしれませんが、少なくとも謹慎中の今週だけは我慢の子です!」
「どんだけたち悪いんだよお前」

 涙ながらに訴えるロクデナシに、しかし近森さんは何ひとつ疑問を抱かないようすでうんうんと頷いた。

「だったら何とかなるよ、ゼッタイ大丈夫だよ! 大好きな人との約束だもん、女の子が守らないはずないよ!」
「む……」

 そうまで力説されると、女子に抱いている幻想も手伝って、信じてもいいような気がしてくる。後輩はむしろ
そういう“約束事”により強くこだわるタイプかもしれない。

22名無しさん@避難中:2011/02/27(日) 18:00:07 ID:K05wEeXAO
 俺の揺らぎを察して、近森さんが畳み掛けるように身を乗り出す。ちょっと、いやかなり怖い。

「あのね先輩くん。英語の授業って恋愛にも通じるって、あたし思うんだ」
「は……?」

 それから彼女は、まるで少女漫画のヒロインみたいに、胸にふたつの手を重ねてひとりで勝手に暖かな気持ち
になってから、陶然と脈絡のない持論を展開。

「自分の想いを伝えられるように、相手の気持ちを分かってあげられるように、そのためにどうやるのが一番い
いのかをいつだって思いやるの」

 「だから何なんだ」と俺がツッコむより早く、近森さんはクワッと目を見開き、変装後を思わせる奇態なポー
ズを見せつけて叫んだ。

「つまり、ちゃんと英語の授業を受けることが、後輩ちゃんをさらに魅力的な女の子にするであろうということ
は、たぶん間違いないと推測されるッ!!」

 ……?
 こいつは話をややこしくする天才だと思う。視界の端では、後輩が「ざっつらいと!」とガッツポーズ。

「気持ち、分かってやれよ」

 それで言いたいことは全て言い終わったのか、去り際に妙に男前に俺の肩を叩いてから、近森ととろは廊下側
の席に戻っていった。お前は何なんだ。

「先輩、和英辞典を貸してくださいませんか」

 ぐだぐだになった空気の中、後輩が改めて俺の対面に立って頭を下げる。

(なんかもう、どうでもいいや……)

 何が何だか分からないが、近森さんの介入を経て、いつのまにか後輩に対する意地みたいなものがへなへなに
萎えていることに、そのとき俺は気づいてしまった。あのどうしようもなく硬化していた気持ちを、今はもう思
い出せない。
 さすがは愛の戦士カップルウォッチャーといったところか。俺たちカップルじゃないけど。
 俺は観念して、鞄から和英辞典を引っ張り出す。この手に掛かるずしりと重さが、彼女のいう“思いやり”の
証しなのだろうか。感化されたわけではないが、ふとそんなことを考えた。

「……今回だけだ」

 不機嫌を装って重さを突き出す。
 後輩は、ぱっと表情を明るくして、うやうやしく和英辞典を受け取った。

「ありがとうございます! ……わぁい! だから先輩大好き!」
「ばか、声がでかい!」

 飛びついてくる後輩を躱しながら何気なく視線をやると、近森さんがお互いの健闘を讃えるように親指を立て
ていた。……そんなことをされても困るけれど。
 俺は返答代わりに少しだけ肩を竦めてみせた。



 おわり

23名無しさん@避難中:2011/02/27(日) 18:04:03 ID:K05wEeXAO
以上!
タイトルは

Se-Se-Se-Senpai, Could you lend me your Ja-Ja-Ja-Japanese-English dictionary!?

名前欄には長すぎた……

なんか学生らしいイベントないかなーと思って英和辞典の貸し借りで書いたが、
先輩が微妙にイヤなやつになってしまって苦労したですよ。

24名無しさん@避難中:2011/02/27(日) 19:54:39 ID:gsBs0uUcO
乙。
なんか複雑だなぁw にしても後輩、迷いなく十八禁発言するから困るw

25名無しさん@避難中:2011/02/27(日) 20:17:14 ID:1NAHiDmc0
投下乙です。
後輩はどこまでも演技っぽくかつ本気っぽいから大変だw
ととろはどこまでわかってるのかなー。二人の関係について

26名無しさん@避難中:2011/03/05(土) 20:10:15 ID:sRR.kBxsO
もう春だな。

卒業式は……やる奴はそういないだろうが、
時間軸にはおおらかなスレだし、入学式から合流で全然書けると思うんだけどなー。
うへへ新キャラがっぽがっぽ!

早く住人が増えて俺が書く気なくすくらい連日投下で溢れるスレになりますように……

27名無しさん@避難中:2011/03/06(日) 13:20:43 ID:5x2E9VDk0
卒業式か……やつらも卒業しちまうんだよな……ってか年が進んだら撲滅運動どうなるんだろw
でもそれも新しい展開になっていいかもしれないな。

自分最近全然書けてないからなー

28名無しさん@避難中:2011/03/06(日) 16:55:51 ID:SXH8SrRI0
時系列はたしかに面倒な問題www
あんまり気にしないことではあるけど……

29 ◆gIq0xA48Xk:2011/03/25(金) 22:30:08 ID:eiwqD1jwO

そういや最近書き込んでねーなぁ…掲示板に行こうかな

あれ、掲示板無い

ってなったのは俺だけでいい。
つまりは今北。



書き始めたのはいいけど、うちの子達の口調忘れかけてて怖い。

30名無しさん@避難中:2011/03/25(金) 22:31:33 ID:JL2dfbWE0
おかえりwww

いろいろあって移籍したのねんw

31名無しさん@避難中:2011/03/28(月) 00:28:31 ID:wtabF0aYO
「……スモールバード&イーグルが戻ったようだな……」
「ふっ。奴は仁科学園古参の中でも一番の名コンビ」
「読者どもめ。せいぜい首を洗って新作を待っていることだな……」
「ククククククク……」
「フハ! フハハハハハハッ!」
「クァーカカカカカカカカカカカカカカカカッ!!」

32名無しさん@避難中:2011/03/28(月) 17:25:42 ID:AVkCDQdU0
ツーバードよ、帰還祝いにまずはキャラによる作品紹介を引き継ぐのだw

33名無しさん@避難中:2011/04/08(金) 04:00:02 ID:XbMiWwHgO
仁科学園に七不思議があるとしたら、どんなのだろう。
変てこな人たちが多いだけに、不思議なことなど何もないような気がしてくるがw

34名無しさん@避難中:2011/04/08(金) 05:30:24 ID:GurzyJnk0
何でもない様なことが、奇怪だったと思う♪

35名無しさん@避難中:2011/04/08(金) 12:01:10 ID:V6Mlsej20
何でもない夜のーこーと

36名無しさん@避難中:2011/04/08(金) 15:28:32 ID:IQi.rYjU0
あやめ先生「二度とはもどれないよーるー♪」

37名無しさん@避難中:2011/05/16(月) 00:50:30 ID:UDSDaDH6O
過疎!絶対に過疎!

私事だが小学校で3月まで期限付することになった。
特別支援の一人学級とはいえ担任。初めてだらけで胃が痛い。
忙しくなるのは間違いないが、ほどほどに創作のネタを探そう。

38名無しさん@避難中:2011/05/16(月) 01:02:56 ID:0Tn9URY20
何てことだ学校の先生が住人に居たとはw
間違いなく俺は問題のある生徒でしたごめんなさいw

39名無しさん@避難中:2011/05/16(月) 08:35:01 ID:UDSDaDH6O
特支関係、それも小ばっかだから大してSSの役には立ってないけどなw
支援員のときやった雑用くらいか。

40 ヘ ノ: ヘ ノ
ヘ ノ

41名無しさん@避難中:2011/05/31(火) 01:50:09 ID:WaOw28BYO
こっちもアゲて存在をアピールしてやるぜフゥハハー!!

42名無しさん@避難中:2011/05/31(火) 01:55:32 ID:WaOw28BYO
上がってなかったぜヒャッハー!

43名無しさん@避難中:2011/06/09(木) 20:16:02 ID:9gVwdoxgO
おお我ながら何とムリヤリな展開……
こらアカン

44名無しさん@避難中:2011/06/30(木) 01:10:32 ID:83N8EwhcO
拓人と雄一郎はなんでアッー!にされてしまったんだwww
本スレwww

45名無しさん@避難中:2011/06/30(木) 01:47:10 ID:T3EAqBSYO
「だってそれは、最も自然で、美しい光景に思えたから――!」

「私は信じたい。このちょっぴりトクベツなラブ(愛)を。
こんなセカイでだって、ひとは、その弱さだけで立っていられるんだって」

「アッー」

「練習とはいえ、アイスの棒は細すぎやしないか?」

「エクソダス……するかい?」

「好きなものは好きだからしょうがない!」

「なんてこと。もうやるしかないじゃないか」

「真に崇高な愛にくらぶれば、男女のそれはいささか打算的であると言わざる得ない」

「貴様っ! 貴様っ! 実の兄すら毒牙に掛けるかっ!」

「だってち●こ付いてないじゃん!!」

「思うんだ。君が女の子だったら。君が女の子だったら、こうも君を愛することはできなかったのじゃないかってね……」

「ハッ、くだらねえ。――来いよ」

「人間がふたりいれば派閥ができる。男がふたりいれば、うふッ、……まァそういうことよ」

「分かってもらえたかな。友情と、愛と。大した違いではないのだ」

「忘れないで。空がこんなに青いってこと。ボクたちの夏はきっと、過ちなんかじゃなかったってことを――!」

「やらないか」

46名無しさん@避難中:2011/06/30(木) 06:02:39 ID:N0xQg4kE0
なにしてんだwwwwwwwwwwwwwwww

47名無しさん@避難中:2011/07/10(日) 18:44:56 ID:UZCXWdw2O
Wiki編集乙っす!

>>23どうしようかな。タイトル長すぎ?

48名無しさん@避難中:2011/07/10(日) 20:00:18 ID:V4V/rAKI0
>>47
や、入ったし大丈夫じゃないかな? 避難所の分をすっかり更新忘れてたよ。
更新遅れに遅れてゴメンね。
久しぶりの更新だから、間違ってたりしてたら対応しますので言って下さいねー

49名無しさん@避難中:2011/07/10(日) 20:31:50 ID:UZCXWdw2O
そか。
いつもありがとぉー!

50名無しさん@避難中:2011/07/11(月) 02:59:26 ID:QmEyVoPk0
おつー

51名無しさん@避難中:2011/07/11(月) 23:34:01 ID:1vvhM0CY0
「メタ構造」というアイデアで一つネタを考えてみたけど余りにくどいのと説教臭いのでこちらに投げてみる。
念のために予防線張っておくけどホントにフィクションで冗談なので

52名無しさん@避難中:2011/07/11(月) 23:34:32 ID:1vvhM0CY0
「つまりさ、学園という存在は現実たり得ない訳なんだよ」
放課後の創作部部室。絵を描いたり文字を書いたりペーパークラフトやプラモデルを作ったりと、気ままな時間を過ごす
学生がほとんどを占める中で、その3人がいる一角だけは狂気じみたオーラを発していた。
1人は「犬」とあだ名される学生。もう1人は「禿」というあだ名の学生。もう1人はあなただ。
さきほどから「犬」が持論を展開している。
「学園とはつまり舞台装置だ。「現実」に通うべき対象としての学校ではあり得ない。
 「現実」に存在する、君が通った――あるいは今現在通っている――学校は屋上に自由に出入り出来たり、
 焼きそばパンの争奪戦をしたり、学校祭でメイド喫茶を催したりしない。今アニメや漫画を作っている連中の大半は高等学校を卒業しているだろう。
 何故彼らや俺達が現実の物として認識した「学校」と、虚構の世界の「学園」はここまで食い違う?
 いや、ここまで食い違っていても、何の疑問も持たず自分の「現実の学校生活」と比べたりする?
 世界が現実に沿っていれば沿っているほど、そこには何のワンダーも介在しなくなるのは明白だ。
 そして「現実」の学校生活を楽しめている人間にとって、「作られた学園という虚構」に、どれほどの意味や価値が存在するというのか。
 虚構の世界を「現実」として、そこに逃げ込むほか無い連中にとって、現実と虚構の境は実に曖昧だ。
 それ故「虚構」の世界でしか通用しない常識を「現実」のそれに当てはめてさらに幻滅するという悪循環が起きている」
いきなりまくし立てる「犬」に対して、あなたは阿呆のように聞き返すしかなかった
「幻滅?」
「例えば、弁当を作ってくれる幼なじみとか、金銭感覚が麻痺したお嬢様とか、そういう類型はおおよそアニメ的だ。
 だが学生名簿を一目見れば、そういう類の人間がうじゃうじゃ居ることがすぐに分かる。
 「虚構」の世界において彼らはごく当たり前の存在だ。が、「現実」の世界ではそう言うわけでもない。
 実際にいるのは、猿並みの知性もないDQN。脳の代わりに空気が詰まっているバカ女。陰険で何を考えているか分からないオタク野郎。
 四六時中携帯をいじっているジャンキー。だが逆に彼らは「虚構」の中には存在しない。
 「虚構」の世界を求めている奴にとって、そういう輩は敵意こそあれ生かしておく必然性が丸でないからだ」
「つまり、現実の世界にいるそういう連中が気にくわない人こそが、虚構の世界を求めるのだと?」
「そのとおり。「学校」という現実世界において「学園」のような非日常的状況にであうことはない。だからこそ「学園」の世界に没頭する意味がある。
 しかし、その「学園」の中においても日常と変わらない普通の日々――朝学習があり、小テストがあり、非常識な量の宿題があり、恋愛沙汰はない――であればどうだろう?
 人はまた、「学園」という虚構の中において非日常を求めるのではないか?  つまりそこには現実と虚構の入れ子構造があり、
 そこでは現実と虚構は、しばしばその意味を持たない。俺はね名無しちゃん、「その人にとって心地よい世界」こそが、その人にとっての「現実」だと思うんだよ。
 人生は現実と向き合うだけでは余りに辛すぎる。没頭出来る「虚構」の世界を見つけて、そこを「現実」とすることは、一つの世渡り術だろう。
 だからこそ俺達はこうやって、紙と文字――時にはモニターと電子データ――の世界でもがき続けるんだ」
一通り言い終わると、「犬」は席を立ち学生カバンを担いだ。ペットの犬の世話があるから先に帰るのだという。
あだ名の通り彼は犬好きだ。今もなんとかハウンドという品種の犬を大事にしているらしい。
去っていく「犬」の背中を眺めつつ、あなたは「禿」に今の話をどう解釈するかを聞いてみる。

53名無しさん@避難中:2011/07/11(月) 23:35:19 ID:1vvhM0CY0
「あのねぇ、アニメなんて親に隠れてこそこそ見る物なの! それを現実の物として受け入れちゃうっていうのはとても危険なことなんです!
 それが、商売として一定のラインに乗っている物なんだから、それにどっぷり浸かるのは大金を払いながらカウンセリングを受けるみたいなもので、
 リアリストでは中年以降の世代を突破出来ないという自覚があるからこそ、アニメや漫画以外の趣味を見つけなさいよ、と僕は!」
そういうと「禿」は先ほど「犬」が言っていた学生名簿をパラパラめくり、あなたに突きつけた。
「こんなアニメ的でまるで生を感じられない女の子のお○んこ、ぼく舐めないよ!」
一瞬にして室内にいる人間全ての視線が「禿」に向けられた。しかし発言の主が彼だと分かると、波が引くかのようにまた思い思いの作業に取りかかっていった。
「客は徹底的に素人です。素人は絶対に自分の好みを揺るがしにしませんから。萌える絵、萌えるねーちゃん、
 萌えるヌード……萌えるもの、ぱっと見れば見た瞬間は気持ちいいです。が、2回見ますか? 
 不思議と2回、3回見ていいものは、萌えるだけのものでは絶対にないんですよ。そこは忘れていただきたくない」
「ではどうすれば良いんです。個性ある人間を作れと?」

54名無しさん@避難中:2011/07/11(月) 23:35:55 ID:1vvhM0CY0
「そのための方法論は、説明できたらとっくにやってます。映画の2、3本作ってます。説明出来ないから大人も子供も大騒ぎしてるわけです。
 これが実態です。あと、名無しちゃんは個性という言葉をどういう風に理解しているか知りませんけれども、今までの理解は捨ててください。
 もうはっきり言います。自分に個性があると思うな! で、あったとしてもその程度の個性だったら使い物にならないんだから捨てろ!
 その替わりあなたが今厳然として生きている、その生きた目線で見て今の時代って言うのはこうでこうでこうでこうで、だから俺はこういうものを作りたいんだっていう風に
 バックしてくるフィルターにしなさい。僕っていう人間、私っていう個性、肉体を持った人間が、本当にじゃあそれはただのフィルターなんですか? フィルターです。
 そんなつまらない? つまらなくない! フィルターを通した瞬間に、自分では全視野的にいろんな情報を取り入れて作品を作ったつもりでいても
 フィルターを通すんです。通した瞬間にそれは全部個性が出てくるんです。嫌でも出てきます! どんなに無個性にしようとしても個性は出てきます。
 つまり個性とかエゴとか、日本語では我と言いますが、我というのはとっても激しくってとっても強烈なものなんです」
「わがままという意味でのエゴのみが生きているというわけですか」
「「私」が持っている不満、苦しみ、つらい気持ち、世間に対して分かってくれと思っている思いは、ほかならぬ「私」が苦しいだけに、
 「私」固有のものだと思っているクリエイターが多すぎると思うのです。そのために何が起こるかというと、
 日記のような――自分の思いのたけのみを書き付けた――作品をまき散らしても平気だという作家や企業まで現れます。
 小生は本や演劇を見ろと言いたい。世の中に数多ある「名作」と呼ばれる絵画や、音楽や、映画や、オペラがどうして名作なのかという考えに目を向けずに、
 自分の好きな物、大抵アニメや漫画だったりするんですけれども、そういったものを土台にして縮小再生産を繰り返している。 
 だから、いまの日本の深夜アニメやライトノベルというのはつまらないのです。笑いごとじゃないんですよ?
 創作部の皆さん方の作品のなかで、それはもう始まっています。つまり表現のスタイルとして、結局どこかのコピーをやっているんだけれども、
 自分のオリジナルだと思っている作品が、この前の展示会のなかにもありました。自分の痛みや自分のつらさ、逆にアイデアや発想を分かってくれという
 自分固有の思いを、第三者に伝えようとしたとき、日記風の表現をしているかぎり、それを認めてくれる人、
 気づいてくれる人しか読んでくれませんし、見てくれません。「私の悩みを,みなさん分かってくださいよ」「私のアイデアをみなさん見て下さいよ」と言うときの
 「分かってくださいよ」という部分の表現は、1万人、100万人にあまねく伝わるような形をとらないかぎり、決して伝わることはないのです。
 つまり作品を発表する、表現するということの根本的な意味は、100万人に伝わる言葉遣い、100万人に伝わる表現方法を、
 スキルでもってアピールしないかぎり、絶対に伝わらないということです」
言うだけ言ってから、「禿」は「えこんて」なる奇妙な物を仕上げるために帰るとあなたに言い、そそくさと部室を去っていった。
二人が抜けただけの部室は、にもかかわらず熱気の大半を失ったかのようにどんよりと静まりかえっていた。
言葉の濁流に呑み込まれたあなたは、それでもその意味を理解し咀嚼しようと試みる。
二人とも偉そうな言い方だ、というのが第一印象だったが、そこで思考停止することに全く意味はないと知っているあなたは、
言葉の端々から少しでも教訓を得ようともがく。20分か、30分か、下校を知らせるチャイムが鳴るまでゆったりと思考を働かせていたあなたはようやく考えが纏まり、
他の部員同様部室を後にする。明日会ったら彼らに意見をぶつけてみよう、とあなたは思った。
「学園」という「個性」の中で生きるために、自分もまたその構成員なのだから。

55名無しさん@避難中:2011/07/12(火) 00:47:59 ID:fqvLDOgoO
投下乙。
普段はこんな感想の書き方しないんだけど、今回は特別だ。

……犬はなんかズレてんなぁ。
娯楽ってのが、つまり作り手読み手の理想の再現なのは一部はそうだと思う。当たり前だが。
でも虚構と現実については犬の強弁かなぁ。

禿は、言わんとしていることは分かる。だがそれは無茶ぶりってもん。
あと語っている禿自身もソレに陥ってしまっているのが皮肉だよね。

56名無しさん@避難中:2011/07/12(火) 02:47:54 ID:ZMk0oiFI0
主人公と思われる名無しさんは書いてる本人であろうなw
禿が言ってる事、この投下そのものに込められている気がする。

57名無しさん@避難中:2011/08/03(水) 23:47:59 ID:n5xu/Ook0
住人の数の割にはまとめに出入りしている人かなり多いな。ロボスレですら合計三万くらい。
対する仁科はロボスレ住人の半分どころか三分の一以下だと思うが、九千人w

58名無しさん@避難中:2011/08/14(日) 03:50:00 ID:IjaQCVLYO
ここは意外と作者同士でちゃんと感想付けるんだよなぁ
ほぼ同じメンツではあるがw

59名無しさん@避難中:2011/08/14(日) 03:52:59 ID:Jx6cvH5c0
同じメンツしかいないからなw

60名無しさん@避難中:2011/08/14(日) 05:17:58 ID:g8R/kZXo0
まあ同じメンツだよなw

61名無しさん@避難中:2011/08/14(日) 09:08:29 ID:IjaQCVLYO
しかし今回俺はまだ感想書いてないのに既に二つ……だと……?

62名無しさん@避難中:2011/08/16(火) 02:52:45 ID:WOlSWD1.0
後輩とバカの仁科っぽくない話やろうと思ったけど後輩の把握がまず非常に難しいことに気づいた。全部何回も読んでるのに底が見えんというかなんというか。

後輩、恐ろしい子!ガビーン

63 ◆46YdzwwxxU:2011/08/16(火) 11:13:40 ID:CHfFPgq.O
後輩と男子(先輩以外)ってシチュ自体がほとんどないからねー。演劇の時に台と一回だけ? 俺も書いた記憶ない……。
時期にもよるけど……安定期なら表面上はまあそこそこ普通かもしれん。

後輩から懐に関わっていくパターンはないと思っていいが、
自販機関係の逆恨みがあるので、醤油とソースの蓋をこっそり取り換えておくとか、
そういう場当たり的で労力のいらない範囲でさりげなく嫌がらせするかもしれん。
(計画的にやったりはしない。そもそも関わりたくないと思っているので)

懐から後輩に関わっていくパターンは
・話し掛ける→嫌そうな顔or無視or「いえ別に」とか素っ気なく逃げる
・困っているところを助けてもらう→礼は言う。が、内心では余計なことをとか思ってるかも
・何らかの事情からいっしょにいなくてはいけなくなる。逃げられない状況
→会話のしつこさ次第でブチキレる
・初対面ではまず深いとこまでは喋らないし、踏み込もうとしたら逆襲に出る。

後輩は、スポーツマンとかバンドメンみたいな花形?の男にトラウマ持ちなので
逃げられない状況では余裕をなくして逆に攻撃的になる可能性がある。


先輩が一緒なので参考にはならないかもしれないけど、昔挫折したやつを置いとく。

64名無しさん@避難中:2011/08/16(火) 11:15:50 ID:CHfFPgq.O
「でさ、そっちのオカズと、これ交換しない?」
「するわけないでしょ!? 殺しますよっ!?」
「お前少しは落ち着け」

 今日の後輩怖え……。
 つか俺のオカズなのに何でお前が決めるの。

「だって先輩、こういうヤリチンは社会から抹殺するべきです! 根絶(こんぜつ)ヤシです!」
「うん、それな? たぶん“ねだやし”って読むのな」

 後輩は嘘臭い涙目で訴えるが、もう黒鉄が可哀想だ。

「ヤリッ……」

 ほら見ろ、ショックで固まっているじゃないか。こういうヤツに限って意外と繊細だったりするんだ。
 かくいう俺も女の子の口からそんな単語聞きたくなかった……。

「ちょ、ちょい待ちちょい待ちちょい待ち」
「待ちません! マスター、塩酸お願いします!」
「ほい」
「あるの!?」
「何する気っ!? ちょ、待っ、止め……」
「あなたもヤリチンの端くれなら、そんな台詞は聞き飽きているのじゃないですか? 今までどれだけの女の子
を無理矢理っ」
「そもそもヤ●チンじゃないよオレ!?」
「ヤリチンはみんなそういうです」

 男性の黒鉄のほうが伏せ字にしてるのが涙ぐましい。後輩は物ともしていないが。
 塩酸の入った瓶を俺は必死で確保した。

「後輩ほんっとーに待て。お前のそれは何かの偏見だっ! 黒鉄はたぶん真剣に音楽やってる奴だ!」
「でも金髪じゃないですか!」
「え……?」
「そこ!? そこは許してやれよ!?」

 後輩がこれだけ取り乱すのは、あれか、過去がらみか?



うん。これだけなんだ。すまない。

65名無しさん@避難中:2011/08/16(火) 11:34:31 ID:CHfFPgq.O
あ、↑の懐はキャラ把握できてない時に書いてるので、そのへんは気にしないでください。
楽しみにしていいようなら楽しみにしてます。

66名無しさん@避難中:2011/08/16(火) 17:44:17 ID:Rvf.yv0M0
おお、乙ww明らかに塩酸ぶっかけるという恐ろしい事しようとしてるのになんかワロタwww
しかし説明聞くだに、やはり後輩奥が深いな。


ていうか一番怖いのは塩酸の注文を通すマスターだろwww

67名無しさん@避難中:2011/08/16(火) 19:16:45 ID:WOlSWD1.0
>>64
ふと思ったがなぜ奴が繊細だとバレてるんだ。そんなの書いた覚えないのに……!

68名無しさん@避難中:2011/08/17(水) 00:00:16 ID:PRPt/n7sO
奥深いというか不安定なキャラなので、案外ローテンションかツンツンのままうまく話せるかもしれない。
そこは俺にもちょっと分からない。あるていどブレて作者のしたいようにできるかもしれない。


「だいたい何なんですか。あなたを見ていると、いらいらが止まりません」
「え? ちょ、オレなんか怒らせるようなことした?」
「……存在?」
「……いきなりひでぇよこの子!?」
「更にそのチンピラ風金髪」
「うっ!?」
「その半端な美形」
「ぐっ!!」
「その全身からほとばしるバカっぽさ」
「げふううううっ!! ……がくっ」
「ふん(微妙に勝ち誇りモード)」


……あり得る。

69名無しさん@避難中:2011/08/17(水) 00:31:01 ID:GxMOrQPo0
半端な美形で噴いた。そして有り得るw

逆にキレさせるほうが難しいかもしれないな。キレるっつっても>>64みたいなのもあれば最悪思いっきり殺意を行動に表すまでいろいろあるし。
といっても後輩は結構策略家なのでやらないとは思うが、仮に鈍器で殴って来てもありそうで怖い……。そして懐殴られても大丈夫っぽい……

70名無しさん@避難中:2011/08/19(金) 18:06:12 ID:IQQPMH8M0
ちょっくら書き始めたところで先に謝っておく。後輩マジ切れさせて本音ズバズバの大ゲンカさせちゃいましたごめんなさい。
こんなんで良いのかわからんが書いてて俺の後輩像が如実に形になってきた。この子なんとかしてやりたくなるw 無理だろうけど……

71名無しさん@避難中:2011/08/19(金) 18:36:14 ID:qNLFxhwYO
いーよいーよ。ありがたい話だ。楽しみにしている。


後輩の「人間は怪物」に対して、先輩の人間観は「そんなものだから諦めろ(覚悟して割り切るしかない)」なんだよな。
これはたとえば台の「世界は意外と綺麗」あたりとは完全に逆になるはず。
多分、後輩も先輩の思想に引っ張られてるとこがあるんじゃないかな。
どっちが正しいというのじゃなく、後輩には先輩以外の誰かが必要なのかも。

72名無しさん@避難中:2011/08/19(金) 20:36:53 ID:r.0ICd8s0
あー、台のその台詞は意識して書いてたな。そういえば。
台は一度堕ちかけたけど周りに助けられたから、
意外と最後の一線では人の良心を信じてるタイプなんですよね。
そう言う意味では先輩とは真逆なのかもとか勝手に思いながら書いてました。
それがあってるかは分からないですが……

73名無しさん@避難中:2011/08/19(金) 21:51:09 ID:mxG0Bp2g0
喧嘩シーンは書いたはいいがバカと後輩がはち会うシチュを考えるのがことさら面倒だw
時間かかるかもしれんので気長に待ってくれ……

74名無しさん@避難中:2011/08/20(土) 01:29:33 ID:W0azzCvIO
>>72
合ってる。
先輩はなまじ頑丈だった分、一人でガラクタになるまでこつこつダメージを溜めていった感じ。
その上で開き直って他人に優しくもできるから、ある意味で後輩以上にどうしようもない。
先輩にとって人の良心は期待してないけど付いてくるオマケみたいな感覚だろうか。

>>73
乙です。
スルーしてしまってたけど、SS読んでくれて、理解しようとしてくれて本当にありがとう。

75名無しさん@避難中:2011/09/05(月) 17:26:34 ID:SNYSL6us0
駄目だ! まったく書けねぇ! どうしよう!

76名無しさん@避難中:2011/09/05(月) 21:12:32 ID:h6fZn65k0
あー。もうだめだ。俺が後輩に手を出すには実力が足りな過ぎた。
もっと腕磨いてからにする。でも後輩大好きだよどうしよう。ぶっちゃけ自キャラとかどうでもいいくらい好きだよw

77名無しさん@避難中:2011/09/06(火) 07:43:17 ID:TBFeNM4oO
ちょw
リアクションに困るw

でもありがとー

78名無しさん@避難中:2011/09/06(火) 16:57:20 ID:4aJkwspY0
すまんのう。なんとか考えてみたんだが何も思いつかんかった。
俺が後輩を書くことによって俺の中の後輩幻想が無くなるって感じもあったし、なんか手がつかんかったw

すまんのう。すまんのう……。

79名無しさん@避難中:2011/09/06(火) 19:02:45 ID:tQCy8m7w0
ええよ、ええよ。
後輩ちゃんに、ととろに、荵。妹系たちを集めてみたいな。
どうするかって…?わしにもわからん。

80名無しさん@避難中:2011/09/06(火) 19:47:26 ID:UGSi8amY0
後輩→頭脳派。
葱→諜報担当
ととろ→実行部隊
亜子→武闘派
和穂→ゲリラ作戦担当

なんという組織だ。

81名無しさん@避難中:2011/09/07(水) 01:03:12 ID:6W4kt9tQO
妹系ってそいつらでいいのか?w

82名無しさん@避難中:2011/09/07(水) 04:40:38 ID:/4mFw4mM0
意外とお姉さん系の方が充実しているよなw

83名無しさん@避難中:2011/09/08(木) 22:11:05 ID:/u2yFSE2O
お題を振られたわけだが

84名無しさん@避難中:2011/09/08(木) 22:19:11 ID:sHRIrLMc0
実は考えてた。が、ほかの書いてるw

85名無しさん@避難中:2011/09/09(金) 23:03:00 ID:Ji3YoQ02O
俺も久し振りにクロスで書こうかと思って、今ネタ出し中。
まあネタ出しってもだいたいいつも行き当たりばったりなんだが。
神は……降りて来ない。

86名無しさん@避難中:2011/09/19(月) 02:59:57 ID:JyiJTTNA0
>>76がつくづく惜しい・・・

87名無しさん@避難中:2011/09/19(月) 04:38:01 ID:Qu9XFczs0
すまんのう。二人の関係が離れ離れ過ぎて、筆力が足りない上に単発じゃ終わりそうになかったものでのう……

88名無しさん@避難中:2011/09/19(月) 14:18:25 ID:04ch/EWcO
どこまで出来てたん?

89名無しさん@避難中:2011/09/19(月) 17:14:16 ID:Qu9XFczs0
>>88
冒頭の懐がコーヒーを飲むところと、お互い大泣きしながら口喧嘩するとこ。
あとはまだぼやっと脳内にあるだけ。



うん。まとまらなかったんだ。なんでもないところの後輩の書き方も解らんかった。

90名無しさん@避難中:2011/09/19(月) 23:42:01 ID:04ch/EWcO
おー。
いつか読めることを祈る。

91名無しさん@避難中:2011/09/22(木) 08:23:00 ID:n76x1qwQO
後輩ちゃんより先輩のツッコミの方が難しいお

92名無しさん@避難中:2011/09/22(木) 16:02:03 ID:.yp9La2A0
真面目なクセに数少ない高性能ツッコミ要員というw
おまけにオリジナルが一人称だったから妙に内心知ってるので、ちょい役ならいいけどちょっと多めにだそうとするとコピーに困る。その上、妙に達観してるというか、二面性どころか三面性があるので始末が悪い。
おまけにその流れで遠慮なくツッコミも出来る。なんなんだ先崎はw

93名無しさん@避難中:2011/09/24(土) 23:17:21 ID:LcX./E4sO
ほっ、褒め殺しになんて屈しないんだからねっ! 違うか。

あくまでメインはコメディとしたい。
俺としてはもうあんまりシリアスに行きたくないというのがある。向いてなさそうだしね。
コメディ部分を台無しにしてるんじゃないかと絶えずおどおどしていた。

でも先輩のツッコミは確かに悩むことあるなぁ……。
結局、いつも後輩とセットで考えてるからそっちを殺さないように合わせてる感じかな。
一時期からちょっと変なところにツッコむパターンが増えたかも。
もっと他に根本的におかしいところがあるはずなのに、敢えて外してツッコむみたいな。

『恋する乙女の第一歩』は他作者が二人の掛け合いまでやったかなり珍しいSSだけど、
これの先輩はもっとウィットに富んだ感じだったな。
後輩の比喩を利用して変則ツッコミまでしてるあたり、俺のより先輩かも。

94名無しさん@避難中:2011/09/25(日) 03:18:21 ID:rQpP3rnY0
この二人のシリアス展開はむしろ希望したいところだがwww

95名無しさん@避難中:2011/09/26(月) 23:21:33 ID:Jx7I4EToO
考えとくw

今は取り敢えず……夏の大三角形かな。
久し振りすぎてCWととろが分からないw

96名無しさん@避難中:2011/10/04(火) 20:50:21 ID:sFgRkY620
今、霧崎様でちょっと書いてるが、実はほとんど出番がないのなこの人w

97名無しさん@避難中:2011/10/04(火) 22:04:50 ID:AeotJRB.O
あー確かに珍しいね。

98名無しさん@避難中:2011/10/04(火) 22:10:33 ID:Sl1dKlLs0
この際だからおもくそ美人にしてやんよ!w

99名無しさん@避難中:2011/10/04(火) 23:41:40 ID:AeotJRB.O
やめたげ……やったげてよぉ!

100名無しさん@避難中:2011/10/05(水) 04:44:41 ID:KDQ8IZZg0
パッと出る脳内イメージからして黒髪のやばい美人だから問題あるめぇw

101名無しさん@避難中:2011/10/18(火) 20:22:13 ID:yBQyjznM0
遅筆をなんとかしたいのう。酒やめればすぐなんだろうけどw

102名無しさん@避難中:2011/10/22(土) 16:23:22 ID:pzsKyAwEO
俺もコーヒー断ちして創作に専念するべきなのかな……

でもコーヒーなかったら死にそうだな

103名無しさん@避難中:2011/10/22(土) 21:12:52 ID:IYhTNSGs0
書いては居るんだけど酒飲んで雑談してるほうが楽しいからねw
集中すればいいんだけど時間が出来るとついつい飲んじゃう。でもようやく投下までこぎつけそうだぞ!

104名無しさん@避難中:2011/10/23(日) 16:09:08 ID:RXHW7iqc0
コーヒー、タバコ、酒……
仁科のあんちくしょう共には縁の遠い物だなぁ。うっかり飲んでしまった連中はいたけどw

105名無しさん@避難中:2011/10/24(月) 04:46:06 ID:4ZkXTB/60
ちょいっと聞きたいのだが
wikiの設定と投下ルールのところを読んだんだけどほかに気をつけるところや禁止事項ってある?
例えば他スレの他人の作品は当然として設定が既に突飛な桃花を出すとか
ほかの人のキャラを怪我させるのはもちろんとして学年一位とかそもそも勝手に定期テストとか

106名無しさん@避難中:2011/10/24(月) 17:32:21 ID:JROnWpZoO
最初期に揉めたことあったねー。
学年主席とか入学式祝辞とか相談なしにやるのはどうよ?って話が上がってさ。
未だに生徒会がない遠因でもあるんだけど、まあこれはそこまで気にしなくてもいいんじゃないかな。
突飛な設定では、

鈴絵……退魔
ふーちゃん……幽霊
大里……かつては裏社会に身を置いていた狂人
ととろ……岩を砕く破壊力(?)や相手を拘束したりする武器
松戸……マッドサイエンティスト。もっとも発明品についてはまだ自己申告で、トンデモな物が実際に出てきたことはない
亜子……コンクリート塊をぶち抜くパンチ

このあたりは許容されている現状があるが、はっきりした基準はない。
ただ、桃花のようなよそのキャラを世界観ごと持ち込んでくれるなというのが当時の結論。
最低限仁科学園スレに投下されたSSのみで把握でき、仁科学園の空気(というと曖昧だが)を破壊しない範囲でという感じ。
今グレーなやつもいるけどなw

107名無しさん@避難中:2011/10/24(月) 17:43:05 ID:JROnWpZoO
桃花を出したいなら、あくまで「仁科学園スレと他スレとのクロス」という形にするか、
桃花の突飛な設定を裏に追いやり、ある程度普通の女子高生らしく見せ掛ける。
とか、そんな感じがいいのでは?

テストとかは全然いいと思うよ。
ただし、ここはスレが一丸となってタイミングを合わせてイベントをやるような企画はあまりない。
だから必ずしもフォロワーが現れるとは限らない。
もし、他作家のキャラの成績表を付けるなら、原作者に相談して擦り合わせるのが望ましい。

※あくまで俺の意見で、スレの総意でも何でもないけど

108名無しさん@避難中:2011/10/24(月) 18:07:16 ID:4ZkXTB/60
個人的にも桃花を出すにしても常に帯刀しているやべぇ女子高生程度にすると思うよ。きっとたぶん。
参考になったよ。ありがとう

109名無しさん@避難中:2011/10/25(火) 04:22:12 ID:OyJOsE/w0
コンクリぶち抜く亜子もそれ以外はただの中学生。桃花がいきなり来たら「学校いいから寄生退治行けよ」とはなるw
あくまで仁科学園が舞台だしね。

ただし仁科がよそにお邪魔するって場合はどうなんだろう。
名前だけ借りた事はあるが出てはないしネタだったしw
学校通ってる連中が他スレでいいるんだが、いい感じの学校が思い浮かばないので仁科って事にしようか考えた事はあるw

110名無しさん@避難中:2011/11/06(日) 20:36:28 ID:fByRTiQU0
創発の野望じゃととろが普通に数千人倒してたりしてるw

今回のシェアシェアがどうなるか楽しみだなぁ

111名無しさん@避難中:2011/11/06(日) 22:44:42 ID:NgAYsBtc0
仁科の名前を売るチャンスだぜ。って言っても知名度だけならあるんだがw
俺は丸投げ静観の構えだけどw

112名無しさん@避難中:2011/11/12(土) 00:18:01 ID:A1LKjaGUO
ネギってムズいなw
いやわんこ氏のは基本的にムズいんだけど、特に何考えて何言うか読めん

あと懐もムズい。

113名無しさん@避難中:2011/11/12(土) 02:20:53 ID:WeDnieOs0
書いてる本人ですら未だ扱い切れてないから仕方ないw

114わんこ ◆TC02kfS2Q2:2011/11/13(日) 21:25:09 ID:NiQYeo3.0
>>112
わたくしも、ネギはわからん。
特にセリフ。キーボード打ってて、何言わせたかの記憶が無い。いや、マジで。

そんな荵をはじめ、演劇部の面々を よろしくおねがいしまうー。

115名無しさん@避難中:2011/11/13(日) 21:27:12 ID:vDQQMbfI0
懐も95パーはノリで喋ってるし雰囲気次第で何でもやりそうだから好きかってやっていいのよんw

116名無しさん@避難中:2011/11/20(日) 00:40:48 ID:.tWOA4Gs0
ぶっちゃけ葱の脳内容姿が3パターンくらいあってどれがどれだかわからん。
うpしてないけど結構描いてるがいまだにデザイン決まらないw

117名無しさん@避難中:2011/11/20(日) 16:09:54 ID:jTMzFC5kO
飴色に炒めた玉葱はルーにコクを与える

ttp://a.pic.to/b1wxs

触発されて葱を描いてみたが、絵なんて久しぶりだわ……
バランスいまいちだがデザインのイメージの話っつーことでひとつ

118名無しさん@避難中:2011/11/20(日) 21:12:18 ID:e6tOhZMY0
>>117
わおーん!イヌミミ!

119名無しさん@避難中:2011/12/29(木) 01:44:09 ID:Zry8jly.C
age

120名無しさん@避難中:2012/01/19(木) 02:34:19 ID:ZuSZuttoO
あー、いかん、>>52をWikiに入れ忘れてた。すまん。前回避難所の投下見てなかったんだわ。
次回俺が更新するときはやるから許してね。

121 ◆46YdzwwxxU:2012/03/06(火) 22:32:04 ID:b4hSqK3o0
きりがいいので投下します。

122後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/06(火) 22:34:33 ID:b4hSqK3o0


 ※



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 料理部からのお知らせ 20XX/2/1


【恋する乙女】やもり先生と☆手作り☆バレンタインチョコ教室【集まれー!!】


 もうすぐ2月14日、そう、“バレンタインデー”!
「今年こそは、ずっと気になってたカレに本命チョコを渡して、誰もが羨むラブラブスクールライフを実現しち
ゃうんだ〜っ!」
 ……な〜んてベッドの中で都合のいい未来を妄想しながら胸を熱くしている、恋するおんなのこの諸君! せ
っかくのバレンタインチョコ、手作りだったらもっと想いが伝わると思わない!?
「でもどうやって……? アタシお料理なんてできないし……いじいじ」
 そんなイマイチ自信の持てないあなたに朗報アリ!
 なんと、あの伝説のラブウォリアー“白壁やもり先生”が、手作りバレンタインチョコの作り方、ばっちり教
えてくれちゃいます!
 料理部特別企画! 名づけて、
『やもり先生と☆手作り☆バレンタインチョコ教室』っ!!
 合言葉は“ラブ(愛)”! みんなも女子力最大のラブラブチョコをくり出して、気になるカレの心のガード
を粉砕しちゃお!


 日 時・場所:参加申込時にお教えします
 講    師:白壁やもり先生
 参加申込方法:料理部員または白壁やもり先生に連絡してください。参加費は無料です

 持ってくる物(必須):チョコレートと相性のよい食品(応相談)/エプロン、三角巾
 持ってくるとよい物 :トッピング食品/型抜き/ラッピング用品(いずれも応相談)


 調理用のチョコレートはこちらで充分な量を用意しているから安心してね。おまけに失敗したときの代用品に
10円チョコも山盛り!(文責:料理部部長)


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 ――以上が。

123後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/06(火) 22:35:43 ID:b4hSqK3o0
 今から半月前。
 時季も如月に入るや否や、学園内の至る所の掲示板・伝言板に貼られた、一枚のチラシの全貌である。
 部活動勧誘やイベント告知のポスターその他を情け容赦なく隅っこに追いやり、我が物顔でコルクボードのド
真ん中に陣取る、侵略的外来掲示物。
 誰にもそれを阻むことはできなかった。今日というこの日、“Xデー”が過ぎ去るまでは。
 桃色の色画用紙に染みこんだ甘いチョコレート菓子の香りに惹かれて、危険な奴らが集まってくる!
 どこに。
 ――清潔な流し台。
 ――ガスコンロに電子レンジ。
 ――大型の冷蔵庫。
 ――棚や引き出しに収まる食器に調理器具のあれこれ。
 私立仁科学園にも、当然ながら、そういう設備によって規定される特別教室が存在する。
 一般的には“家庭科室”という呼び名が罷り通っているが、それはあくまで併設する被服実習室や作法室を全
てひっくるめての総称だった。そのあたりについては漠然とした了解があって、移動教室などに際しても連絡に
混乱を来すようなことは、実際にはそうはない。
 ないのだが、被服実習室でも作法室でもないこの“第三の教室”を明確に区別しようと思うなら、もちろんち
ゃんと正式な名前があったりする。
 すなわち。
 調理実習室。
 二月十三日。放課後の仁科学園調理実習室は、謎のエプロンたちの占領下にあった。いずれも、女。幾人かは
鬼気迫る形相で周囲を睥睨し、教室は異様な雰囲気に包まれていた。
 “香り”というには些かきつい、むせかえるようなカカオと砂糖の匂い――。
 明日(みょうにち)のバレンタイン・デイ、恋の勝率を一厘でも上げるためには手段を選ばぬという、海千山
千の肉食系ども、総勢二十余名がそこには集結していた。

「はーい、みなさーん注目注目ちゅーうーもーく」

 そして、もう一頭、狼の群れを率いる狼の王。
 よほど根性のねじ曲がった癖っ毛を、今は純白の三角巾にくるんだ女だ。爬虫綱有鱗目トカゲ亜目ヤモリ科の
小動物ちっくな名前も、ドメスティックな(家事に関する、家庭的な)手を蝕むドラスティックな(過激な、思
い切った、深刻な)肌荒れも、全てひっくるめて自分を愛してくれるような誰かを密かに待ち焦がれる、夢見が
ちな二十代後半独身。
 白壁やもり高等部家庭科教諭。
 彼女こそが、この料理部発案のバレンタイン・デイ特別企画イベント『手作り☆バレンタインチョコ教室』の
特別講師として招かれた、“エプロンの親玉”とでもいうべき存在なのである!

「今から班決めするよー。クジ引いてってー?」

 今ひとつ通りのよろしくない声で、白壁やもり教諭が厚紙の箱を揺する。クジの擦れるガサガサ音。

124後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/06(火) 22:36:52 ID:b4hSqK3o0
 調理台の十台に対して、参加人数は二十人と少し。調理台をフル活用するなら、ひと班あたり二、三名に分か
れることになる。
 ここでの班分けは完全に運任せらしい。
 気の置けない友だちと和気藹々と料理するつもりでいた一部の女子からわずかなどよめきが漏れるが、結局表
立った反対はなかった。バレンタインチョコの手作りがなれ合い無用の孤独な戦いであるという、特別講師(二
十代後半独身)の信条を汲んだからなのかもしれない。

「おっ。静奈、閑花、何班ー?」

 調理実習室の隅、普通科一年の上原梢の声に、彼女と三人揃って参加した河内静奈と後鬼閑花が掴んだばかり
のクジを持ち寄る。

「あたしはねー」

 明るい茶髪のツインテールは三角巾で後ろに流されて普段より窮屈そうだったが、人懐こい笑顔はいつもの通
り。プレゼントのリボンをほどくような調子で、真っ先にクジを開いてみせる。
 そこで上原梢は、一転して困惑の表情を浮かべた。

「……“キューピッド”? 何これどういうこと。そっちは何て書かれてた?」
「わたしのは、“愛染明王”?……でいいのかな?」

 河内静奈が、自信なさげに漢字を読みながら、梢によく見える高さまで紙片を摘み上げる。
 四つ折りにされた紙切れの中に記されていたのは、クジ定番の数字などではなく、意味不明の名詞だった。い
や、キューピッドくらいは当然知っているし、明王というからにはたぶん仏様のひとりなんだろうと想像もつく
けど、何でまた?
 どこからか、仔犬系演劇部員の「お客様ー! お客様の中に、“アフロディーテ”のクジを引かれた方はいら
っしゃいませんかー!?」という深刻なんだかネタなんだか分からない悲鳴が聞こえてくるにいたって、河内静
奈はどうにかその意味を理解した。 

「……たぶん、班の名前を愛の神様にしてるんじゃないかな? あっちのほうで“アフロディーテ”とか“トラ
ソルテオトル”とか聞こえたから」
「なんかよく分からないけどマヤ系!? マイナーすぎるよ!」
「マヤではなくアステカの女神さまですね」

 後鬼閑花が知った顔で訂正するが、そもそもマヤとアステカってどこがどう違うのだっけ、そこから既に分か
らない。

「やもり先生も謎なことを。……そういう閑花は?」
「私はエロスです」
「知ってる」

 思わず真顔で即答してしまってから、上原梢は聞き直した。

「……ごめん。じゃなくて。何て?」
「だから“エロス”ですよ。エロス班」
「あ、ああ。エロスってそういう?」
「ぴったりでしょ?」

 後鬼閑花はふふんと胸を張った。
 同じく二年の“先輩”先崎俊輔に執着的な愛情を抱くハイテンションな“後輩”、それがしばしば学園の話題
に上る彼女の立ち位置だった。当たって砕けて復活してはまた当たりに行く、失恋を知らぬ女。エロスというよ
りは、現在進行形で言動が下品な方向にエスカレートしているといったほうが妥当かもしれない。

125後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/06(火) 22:39:29 ID:b4hSqK3o0
 ところで、そんな後鬼閑花の服装は、仲間たちの中で明らかに浮いていた。
 いやってほどたっぷりとフリルをあしらった実用性度外視のエプロンドレスにカチューシャ。上履きまでエナ
メルのストラップシューズに替えるという念の入れよう。
 デザインだけ見ればそこそこ清楚なのだが、闇の接客業で人気を博しているコスプレ給仕服と言われればそん
な気もしてくる。
 さすがにここまで常軌を逸した格好をしている者は他にいなかった。

(メイド服を着た可愛い後輩が溶かして固めたバレンタインチョコ……。これで先輩がこの閑花ちゃんを襲わず
にはいられなくなるであろうことは、たぶん間違いないと推測される!)

 「フリルはドリルより強し」――秋月京(コスプレ部部長)の言葉である。
 何か間違った気合に、周囲の女生徒たちも気持ち一歩引きながら、じんわりと生温い視線を送っていた。

「……それにしても、三人ともバラバラになっちゃったね」

 河内静奈が、班分けの結果にしょんぼりと呟いた。
 彼女は、同級生の牧村拓人に手作りチョコを渡すためにこのイベントに参加した。チラシを見掛けた当初は、
生来の引っこみ思案が顔を出してしばらく悩んでいたが、ふたりに背中を押されるかたちで、“手作りチョコを
贈る”ところまでは決意を固めることができたのだった。……渡し方はともかく。
 やはり少し、心細くはある。

「まー、いいじゃない。そうだ、後で見せ合いっこしようよ!」
「いいですね。なんだか燃えてきました」

 上原梢の前向きな提案に、後鬼閑花も乗っかる。
 バレンタインチョコ作りが終わって、完成した自信作を手にみんなでお喋りする、そんな素敵な未来に期待す
ることにしようと。それなら、きっと、寂しくない。

「……うんっ」

 河内静奈ははにかむように微笑んだ時、ちょうど白壁やもり教諭が調理台の指定に入った。

「では」
「うん」
「ぐっどらっく」
「がんばろうね」

 言葉を掛け合い、こうして三人は袂を分かった。
 それぞれの戦いを始めるために。

(さぁ、やりますか――)

 場違いな給仕服で颯爽と、後鬼閑花は最奥の調理台に赴く。
 歩みの先で彼女を待ち受けるのは、もうひとりのエロス。……いや、同じくギリシア神話の恋愛神エロスの名
を刻まれたクジを引き当てた少女だ。

「――あなたもエロスなが?」

 聞き覚えのある訛りに、後鬼閑花はわずかに硬直した。
 チームメイトは、ただならぬ存在感をもって後輩となる少女を出迎えた。
 ――それはタイフーンガール。
 古杣(ふるそま)の斧音妖しくこだまする四国の深山を越えてやって来たという、噂のタイフーンガール。
 土佐の女傑“はちきん”の豪快さとやりたい放題な気性で、全てを台無しにするというタイフーンガール。
 普段は謎めく創作部でひとり陶芸活動に没頭し、たまに騒音公害をも引き起こす土佐弁少女。仁科学園普通科
二年、浅野士乃とは彼女のこと!

「……よろしくお願いします」
「ヨロシク」

 “エロス”と、“エロス”。もったいぶった動作で、クジを見せつけ合うふたり。正体不明の緊張感に、嵐の
匂いがわずかに混じる。
 ここから、何か(ろくでもないこと)が始まろうとしていた――!!

126後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/06(火) 22:42:02 ID:b4hSqK3o0
ここまで。
次回からようやく本番だ。

しかしなんでかすげー荒れてるな俺の文章……。

127名無しさん@避難中:2012/03/06(火) 22:57:54 ID:N.9r11VE0
荒れてるというか狂言回しというか、なんつーか小ネタ多いw

128後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/31(土) 02:33:34 ID:O22R8Gt60
終わらなかったけどモチベのために投下するっすー

129後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/31(土) 02:37:55 ID:O22R8Gt60




 ※


 誰だっけ?
 見覚えはあるんだけど。
 後鬼閑花は表情をぴくりともさせずに考えた。
 部活動見学の折に見た顔だった。確か“創作部”とかいう仲良し四人組の一員。ひとりひとりと自己紹介を交
わした記憶もなく、当然、名前など知らない。もっとも、もしその時に名前を聴いていたとしても、後鬼閑花は
覚えていないだろう。根本的に他人に興味が薄い人間とはそういうものだ。

「……誰やったっけ?」

 こちらは単純にその時に話を聞いていなかったために思い出しようもない浅野士乃。知らないものは当然知る
わけないと胸を張る。

「その節はどうも、先輩」
「ん? あ、どーもどーも」

 自分の名前を忌避してさらりと問い掛けをスルーする閑花と、まあいいかと生来の大雑把さを発揮する士乃。
結果、その場しのぎのテキトーな挨拶が飛び交う。

「そろそろいいですか?」

 班員同士の交流がひと段落したタイミングを見計らって、白壁やもり教諭が声を上げる。

「では、まずは、必要なものが机の上に揃っているか確認してください」

 そのまま手元のメモを読み上げていく。
 鍋、温度計、包丁、まな板、ボウル(大)、ボウル(中)、ボウル(小)、ゴムベラ、チョコレート型、板チ
ョコ、デコレーションのための食品……。もちろんこれは最低限のもので、世界にひとつだけのバレンタインチ
ョコを作るためにと、あれこれと家庭から持参している者も多い。

「OK。これもある、OK。OK……っと。温度計とか使うんだね」
「お菓子作りは分量と温度が大事なんですよー」
「まさか理科室からってことはないよね、やもり先生」
「ちゃんと調理用ですぅー」

 白壁やもり教諭は粗忽なことで有名だ。準備に何らかの手落ちがあってもおかしくはない。
 配布資料に首っぴきで指差し確認する者から、「そもそもやもり先生のメモからして完璧かどうか分かんなく
ね?」と一から手順をシミュレートする者まで、少女たちは本気と書いて真剣だった。

「全部ありますか?」
「あるがやない?」

 そのへんの事情をまだいまいち分かっていないエロス班のふたりは、はたから聞く者を不安にさせる会話を交
わし合っていた。
 
「大丈夫です!」
「やもりん先生にしては珍しく揃っています!」

130後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/31(土) 02:39:18 ID:O22R8Gt60
「さすが先生!」
「先生!」
「先生ッ」

 不備なしとのめでたい報告が続々と上がっていき、可愛い教え子たちのまばゆい笑顔が、白壁やもり教諭(教
師歴四年目)を取り巻く。誰からともなく拍手が沸き起こった。
 謎の感動に包まれる調理実習室。
 
「ま、まーね……」

 教師冥利に尽きるような光景だったが、当の白壁やもり教諭は口の端を引き攣らせていた。
 実は今朝になって慌てて“先輩”に調理器具のチェックを手伝ってもらったなどと、真実を口にできる雰囲気
ではなかった。
 それでも、生徒はいっしょうけんめいに手をたたいた。白壁やもり教諭がどうしてもこれまで完璧にできなか
ったことを、みんなが知っていたので。

「こほん。ではさっそくお料理を始めましょう」

 わざとらしくも咳払いをひとつ。
 彼女とて社会人の端くれ、気を引き締めるにはそれで充分。

「まず、包丁とまな板がよく乾いていることを確かめてから、板チョコを細かく刻みます。キャベツの千切りの
ようなイメージでしょうか。刻んだチョコはボウル(小)へ」

 これはチョコレートをお湯の熱さで手早く溶かすために小さく砕いておくのですだらだらと熱に晒していると
チョコレートの味が変わってしまいますからね云々と続く長ったらしい説明をざっと聞き流し、浅野士乃と後鬼
閑花、ふたりの魔女は刃物をぎらつかせてチョコレートの塊に跳び掛かった。その形相はちょっと、エンカウン
トしたら死ぬ系のモンスターっぽかった。

「だりゃあああっ!! 悪は滅びや!!」
「原子の塵に変えてやる……!」

 まな板の中でみるみるココアパウダーと化していくチョコレート。これ一番ちっこくしたヤツが優勝な!的な
ものでもあるまいし、何もそこまでせんでもという気もするが、この時他人に構っている余裕は誰にも(教諭に
も)なかった。

「お鍋でお湯を沸かしましょう。二人分ってことを忘れないでくださいね。
 湯煎で使うお湯の温度はだいたい五〇度から六〇度、温度計で計ってください。ちなみに摂氏温度です。お菓
子だけど、摂氏なのです」

 摂氏温度にして二度は体感気温の下がる発言だったが、視線を向ける者すらここにはいなかった。

131後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/31(土) 02:40:03 ID:O22R8Gt60

「……いかん、刻みゆうときに前もってお湯の用意しちょったら早かったに」
「すぐに沸きますよ」

 それなりに料理を経験した者ならば、そういう同時進行も可能だろうが。ややこしい手順にテンパっては、テ
ンパリング(チョコを溶かして固める時にする調温やら何やら)などできっこないという講師の深い考えあって
のことだった。

「ボウル(大)にお湯、ボウル(中)に氷水を入れましたね? ボウル(大)のお湯に、チョコの入ったボウル
(小)のお船を浮かべます。ボウル越しにお湯の熱が伝わってチョコが溶けだすので、ゴムベラで滑らかになる
まで混ぜましょう。
 間違っても、ボウル(大)にボウル(小)の中身をぶちまけてはいけませんよ」

 熱湯と氷水を駆使するテンパリングの温度管理は複雑だった。
 ふたりで悪戦苦闘しながらダマのない状態に持っていくエロスの戦士。

「うう……。ただ溶かして固めればいいってものではないのですね……。甘く見ていました」
「よっしゃ! ジャスト32度ッ!」

 温度計と睨めっこしていた士乃から、勝鬨にも似た歓声。

「やりましたね。型、使いますか――」

 リトライのためにチョコの温度を氷水で28度まで下げている最中の閑花が視線だけで促すと、士乃はふるふ
ると首を振って否定。
 カッ!!と目を見開き、自らが持ってきた手提げ袋に手を伸ばす。
 その中から、何か。
 巨大なものが――
 現れる――
 
「すまんけんど、あたしのチョコは、型に嵌るようなもんやないがやきッ!!」

 創作部の嵐を呼ぶ女、浅野士乃が、ついに牙を剥く!!

132後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/31(土) 02:40:50 ID:O22R8Gt60


 ※


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 コラム 『料理部が選んだ“チョコレートと相性のよいもの”!』


 「持ってくる物(必須):チョコレートと相性のよい食品って言われてもぉ、○○○(←あなたの名前を入れ
てね!)困っちゃぁう!」と、チラシを前にカマトトぶってるそこのあなた! そう、あなた! ご安心くださ
い! 我々料理部が厳選した、オススメの食べ物をこっそりばっちり教えてあげちゃいます! まさに至れり尽
くせりなずな御形はこべら仏の座ッ!


【フルーツ】
 オススメ度★★★★★
「定番中の定番ですね。バナナ、イチゴ、ミカンなど。風味が強く、あまり水っぽくならないものがよいでしょ
う。カンヅメも◎」

【ナッツ】
 オススメ度★★★★★
「ナッツに限りませんが、お菓子屋さんもやっている組み合わせなら大概はイケます」

【どんぐり】
 オススメ度★☆☆☆☆
「ナッツといっても、原則、どんぐりは止めておきましょう。野性味や縄文人っぽさをアピールするのは、何も
今でなくたってよいハズ! ゾウムシさんの幼虫とかもいるかも!」

【スナック菓子】
 オススメ度★★★★☆
「美味しさ、チョコレートとの相性、バリエーションの豊富さ、いずれも最強ランク。ただしあまりにも特徴的
な味のものと組み合わせてしまうと、恋する乙女としてのキラキラ感や、手作りのありがたみが薄れてしまう諸
刃の剣。……砕いて使うなど、うまく工夫して!」

【キャラメル、マショマロ、ジェリー等の砂糖菓子】
 オススメ度★★★★★
「既製品でありながら、スナック菓子ほどはそれを感じさせない優れモノ。もっとも、アメちゃんなど単体で口
の中に残るものは避けたほうが無難です。変に海苔だけ堅いお寿司みたいになってしまいますよ!」

【酢昆布】
 オススメ度★☆☆☆☆
「合いません」


 いかがでしたでしょうか? みんなもこれを参考に、女子力にいっそう磨きを掛けてくださいね!
 最後に、白壁やもり先生から、ありがたいお言葉をいただいています!

「これは闇鍋でも、魔女のサバトでも、陶芸でも、ましてや化学テロの下準備でもありません! 貴重なタンパ
ク源や危険物、その他わけのわからない物を持ちこまないでください。食べられない雑草や小石、ガンプラ、素
焼きの陶器、自分のハダカなどをウケ狙いでチョイスするのも絶対にやめましょう!(過去いました)。食べら
れる雑草ならギリOK!」


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133後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2012/03/31(土) 02:42:16 ID:O22R8Gt60
今回はここまで。

こうやって細切れにするの、よくないとは思ってるんだけどね。
ごめんち☆

134名無しさん@避難中:2012/03/31(土) 05:45:55 ID:W48Y32vQ0
最後の小ネタの集合はなんなんだよw

135わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 22:19:14 ID:XS6f9qE60
こっちに投下したりー。

136犬と鷲 ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 22:19:46 ID:XS6f9qE60

 売店最後の一個の牛乳。それが目の前で他人の物になっていく様子は鷲ヶ谷和穂の脳裏でスロー再生されていた。

 毎日、必ず買っているパック牛乳。一日でも欠かすと、落ち着かない。

 カルシウム?そんなものは他でも補える。ただ、鷲ヶ谷和穂にとっては「牛乳を飲むこと」自体が出来ないことが悔しいのだ。
仕方が無いのでテレビでお馴染みの乳酸飲料を代わりに買って、学園の中庭で小さなランチを開きましょ。だが、腑に落ちない。
 小さなことだけど、思い返すとなんだか腹立たしい。そんなこと忘れてしまえ、小さなヤツだと思われるぞ。と、自分自身を
省みるものの、和穂にとっては『小さな』という言葉が非常に頭に残って仕方が無い。

 「小さくないもん!ぼくは……ちょっと、普通より」

 小さいだけの女の子だ。

 「鷲ヶ谷」という苗字に相対しているかのような和穂は、見た目小学生だ。高等部の制服を身にまとっていても何故か違和感がある。
ただ、神は和穂を見捨てたわけではない。その小さい体が与えた恩恵は大きい。
 体で補えと言わんばかりに和穂は小学生男子に負けず劣らずの元気を持ち合わせ、小学生の中に紛れても自然に過ごせるという。

 それが、和穂には面白くない。
 スカートというより、半ズボン。
 携帯というより、糸電話。
 パスタというより、スパゲッティ。
 ぼくだって、箸が転がっても笑っちゃう……女子高生だよ!

 神様、何すんの!

 それに比べて、妹は……。

 和穂は神に出会ったら、ぱちんこでまつぽっくりをぶつけてやりたいと思っていた。

137犬と鷲 ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 22:20:11 ID:XS6f9qE60

    #

 「雄一郎ーっ」
 
 いつも隣にいるはずの、小鳥遊雄一郎が見当たらない。恋人というわけでもなく、だからといって友達でくくるにはもったいない
くらいの仲を保つ和穂と雄一郎。お昼ごはんを一緒にと思い、中庭で待ち合わせしていたのだが姿が見えぬ。
 二人とも高等部の一年だ。雄一郎は学年の割にはがたいがよい。おそらく、初見で私服の二人を見たならば、間違いなく
雄一郎の方を怪しんでしまうかもしれない。よくて『歩行者専用』の道路標識か。やはり、神の悪ふざけなのか……。

 「雄一郎がいないなら、ぼくだけで食べようっと」

 きょうのお昼はピザパンと乳製品の飲み物。がさがさっと袋を開けると、音に誘われたのかハトが和穂の足元に集まる。
ベンチに腰掛けて、振り子のように脚をぶらつかせる和穂はそのスピードを速め、ハトを追い返していた。
 なんだか……、一人っきりなのかなあ。と、ピザパンを口にするとトッピングのコーンがスカートに落ちた。
 春うららかな風が藍色のセミロングを揺らし、和穂も同じようにコーンと雄一郎の行方で気持ちを揺らしていた。

「牛乳が飲めないなんて、ぼく、どうしたらいいの?」

 同じ乳製品とはいえ、和穂が欠かさず飲んでいるものとは、似て非なるもの。
 ストローづたいに舌の上でじんわり広がる舐めざわり感。後を引く喉越しに、命の息吹を思いおこさせる、なぞの白い液体。

 和穂はベンチに腰掛けて、同じようにランチをとる学友たちを眺めていた。
 きゃっきゃっと歓談しながらサンドイッチを摘む高等部の女子たち。一人が何気なく太ももを上げて足を組む。
白い脚が折り重なる質感、はだけるスカート、そして大人にひとつ背伸び。和穂も彼女の真似をしようと心に思ってみたが、
自分には似合わないと諦めた。ピザパンを平らげると、自宅から持ってきたデザートで口休め。
 きょうのデザートはいりこだ。牛乳と一緒なら、格別な味に。そして……今は、多くは語らず。

 ぼりぼりと袋に詰めたいりこを食べつづけると喉が渇く。頭の先を甘噛みし、大洋の恵を口に含む。そして徐々に噛みながら
一匹一匹口にすることで、咀嚼する回数を出来るだけ多くしようとした。牛乳もいりこもよく噛んで!が和穂の正義だった。
 いりことは合わないから乳製品の飲料は先に飲み終えた。口の中が乾燥するので、途中でいりこを食べるのをやめて水呑場へ。

 何もかもが小さく見える世界って、楽しいのだろうか。
 羽根を持たずに誰かを眺めることが出来るなんて。

 天を仰ぐと、小鳥たちが空を気兼ねなく飛んでいるのが見えた。小鳥でさえも、ぼくを見下ろすことが出来るというのに……。

 ふと。視線を和穂が立つ地上へと降ろす。

138犬と鷲 ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 22:20:37 ID:XS6f9qE60

 中庭では和穂が買うはずだった牛乳をかっさらっていった少女がスカートの裾を持ち上げてしょんぼりと立っているのが見えた。
売店でのあの動きをしていたとは思えないほど、彼女は酷く落ち込んでいるように見えた。見間違えは無い。
 悲しそうな顔をしたあと、まだまだ早い夏の雲の切れ目を覗かせたように彼女は白い歯を見せて沈んだ気持ちから立ち直ってみせた。
制服についた砂埃を払うと、パンに群がるハトが二、三羽飛び上がる。しかし、肝心な牛乳に塗れた足元を拭おうとしないことに、
やるせない気持ちを抑えつつ和穂は不思議に思い、子犬のような彼女に近寄った。
 身の丈は和穂よりか、僅かに高いくらい。どんぐりの背くらべと言っても過言ではない。年上か、年下か。判断に困る。

 「もしかして、ハンカチとか忘れたとかですか?」
 「え?そう!そう!そう!全部部室に忘れちゃったんだよねー。どうしよっかなあ」

 どうするも、こうするも、このままでは靴にも彼女にもよろしくない。
 彼女の足元にはパック牛乳が地面にひしゃげ、ぴかぴかに磨かれたローファーも、午前中を共に過ごした紺ハイソも、
牛乳によって白く汚されていた。その傍らには食べかけのコッペパンが転がり、ハトが群がっていた。
ティッシュを探すが生憎持ち合わせがない。焦って探す姿を見かねた和穂は少女に自分のティッシュを貸してあげた。

 「ありがとう。コケちゃったのねー」
 「え……」

 和穂があげた淡い水色のティッシュで、丁寧に靴と靴下を拭いている少女はあっけらかんと答えた。

 「パンも牛乳も台無しだよ。校庭にミニチュアダックスが迷い込んできてね、追いかけたんだよ。お昼食べてる途中だけどね。
  そしたらパンの神様のバチが当たっちゃったのか、コケちゃった。パンも落っことして、すねで牛乳パック潰しちゃった」 

 和穂が飲むはずであろう牛乳が迎えた悲しい末路だった。二人を囲むハトたちはそんな事情などお構い無しにパンを奪い合う。

 「いつか、ティッシュのお礼しなきゃね。わたしは久遠荵だよ。高等部の一年だからねっ」
 「同じ学年……なんだ」
 「奇遇だねっ」
 「あのっ」

 同い年で、自分のようにちみっちゃい。
 きっと、同じ悩みを抱えているんだろうな。と、和穂は勝手な想像を繰り広げ、思いつくままの質問をぶつけたくなった。
どんな結果が戻ってくるかはわからないけど、なんとなく和穂は荵を放っとけなくなっていた。

 「久遠さんも、牛乳好きなんですか?」

 『さん』付けされようが、何もかも知った昔からの友人と話すように、荵はにこにこと頷いた。

 「牛乳は小さい頃から欠かさず飲んでるだよね」
 「えっ?毎日?」
 「そう。毎日。大好きだよ」

139犬と鷲 ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 22:20:59 ID:XS6f9qE60

 和穂は解せなかった。
 荵も毎日牛乳を飲んでいるというのに、物理的に同じ目線で話し合えることに。

 「にぼしは……」
 「にぼしも好きだよっ」
 「チーズとか」
 「それも!」

 食べ物に裏切られることほど生きていてショックなことはない。
 牛乳ばかり追い求めていた和穂は牛乳にであったら目を合わすことができないのだろか、とさえ思った。 

 「なんか、理不尽だよね。雄一郎がこの牛乳が好きって言っていたから、ぼくも飲んでるのに」
 「雄一郎?」

 和穂がジト目で視線を横にそらした先は、がたいの良い男子が子犬に追い回されていたところだった。
 そっと和穂は雄一郎を荵のために指差した。
 雄一郎を追い回していた子犬は、荵の方へと駆け寄って来ると、一度は牛乳に塗れた荵の足元に子犬は鼻先を近付けた。
突然な獣の襲来に驚いたハトたちが一斉に飛び立つ。きゃんきゃん吠えていた子犬も荵のに近寄ると大人しくなり、
元気よく尻尾を振りながら舌を出してぺろっと荵の紺ハイソをひとなめ。
 嫌がることなく荵は子犬の乱行を許し、和穂に秘密を打ち明けるように呟いた。

 「それから……」

 とめどなく話のループを繋げる荵。和穂は荵の世界に引きずりこまれそうになっていた。
 だって、パン落としたんだよ。牛乳、落としたんだよ。お昼抜きみたいなものだよ。悲しくないの?

 「ん?ごめんなさいねっ。クセになっちゃってるみたい。迫先輩やあかねちゃんからいつも言われてるんだよねー。
  大人びてるから説得力あるし、それに『何でもいいから、会話を途切れさせないこと』ってね。あっ!ハト!飛べ!飛べー!!」

 和穂の疑問を見透かしているような、それともただ和穂と関わることだけが楽しくて、というような。
小学生的で無邪気なその場しのぎで、自分の不幸でさえも遊び道具に使っていることに荵は気付いていなかった。

 「どういうこと?久遠さん」
 「即興の練習かな。わたし、演劇部だよっ。そうだ。ティッシュのお礼に今度さ、あかねちゃんを紹介してあげよう。わおーん」
 「同じ学年?」
 「そうだよ。背が高くて、髪が長くて……なのに」

 わざと荵は話すことを止めて、和穂をじらしてみた。
 
 「あかねちゃん。牛乳とかダメなんだって」


    おしまい。

140わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/05/19(土) 22:22:15 ID:XS6f9qE60
鷲ヶ谷さん、お借りしました。

わおーん!投下、おしまい。

141名無しさん@避難中:2012/05/23(水) 07:09:26 ID:ewdczsAg0
あーちゃんは牛乳がダメ把握。

142名無しさん@避難中:2012/05/25(金) 11:21:28 ID:QAacuu860
牛乳好きは背が小さいは定説にして良いと思う

143名無しさん@避難中:2012/06/17(日) 21:11:46 ID:iLq5NehkO
>>140
このふたりってそういや結構似てるところあるかも。

「ちっちゃくないよ!」
謎の白い液体(後を引く喉越し・命の息吹ときたら、それはもう)、まつぼっくり、いりこ……
……これはもはや18禁。まったく合法ロリは最高だぜ!

どんぐりもいいが、まつぼっくりも、いいね。

144名無しさん@避難中:2012/08/04(土) 06:12:08 ID:gCyjpnwI0
後輩があのバカをどう思ってるかは前に答えを頂いたので、そろそろあのバカから後輩がどう見えてるか書きたいものだ。
しかしどう考えてもソリが合わんなこの二人w

145名無しさん@避難中:2012/08/08(水) 07:18:04 ID:jvc8/OTwO
まじっすか……!

ソリが合わないのが逆に面白そうではある。
変な化学反応起こして大爆発!みたいな。

146名無しさん@避難中:2012/08/08(水) 16:33:31 ID:5U/V68VE0
でもわんこさんみたいな楽しいのは無理っぽいw
懐から見ても後輩は苦手な人物なのだw

147名無しさん@避難中:2012/08/08(水) 20:57:15 ID:SJX1g/Ns0
懐と後輩の間に仲介役を入れればいいじゃーん。とかね。

148名無しさん@避難中:2012/08/08(水) 21:03:55 ID:5U/V68VE0
また先輩の仕事が増えるw

149先輩と桃太郎 ◆46YdzwwxxU:2012/11/25(日) 18:33:30 ID:kVp89hJ20
投下します

150先輩と桃太郎 ◆46YdzwwxxU:2012/11/25(日) 18:34:21 ID:kVp89hJ20

『ごめんしゅんくんおねぎかってきておねぎ』
『何に使うネギ?』
『ひみつおんぷ』
『青ネギと白ネギ、どっちを買えばいい?』
『みどりっぽいほうがすてき』
『了解』
『あとにゅうぎゅうもかってきてくれるとおかあさんうれしいなって』
「乳牛はスーパーで売ってねえよ!?」

 母さんとのメールのやり取りに思わず口頭でツッコんでしまった。
 帰りのホームルームが終わって数分後というタイミング。ほとんどのクラスメイトは既に教室から捌(は)け
ていたとはいえ、これはかなり恥ずかしい。我ながらもう既にだいぶ病んだ人みたいだが、せめて以後は気をつ
けなくては。

『こっちはしろいほうでおねがい』

 ……ごく素直に牛乳のことだと解釈していたが、変な指定のせいでちょっと疑わしくなる……。もう面倒くさ
いから牛乳を買って帰るけど。
 母さんとの会話は、後輩とは別の意味で疲れる。天然ぼけっぽい振る舞いのためよく可愛らしい人と評される
が、実は狙ってやっているんじゃないかと思う。生まれてこのかた、一度としてボロを出したところを見たこと
がないので断定はできないが。
 ……どうでもいいか。

「ありがとうございました――」

 俺はスーパーに立ち寄り、青ネギと牛乳と確か切れていたマヨネーズをレジに通し、帰路についた。唐突なお
遣いのためにマイバッグの持ち合わせはなく、ビニール袋を買うことになった。教科書やノートでいっぱいの学
生鞄に一リットルの牛乳パックはさすがに入らないし、ネギは臭いがつきそうで嫌だ。
 ビニール袋をガサつかせながら、通学路にしている川沿いの堤防上を歩く。陽が落ちるのが日に日に早くなる
季節ではあるが、今日の空はまだ紅く色づいてはいない。水面が反射するのは明朗な青だ。
 頬に秋の風。日課のジョギングを楽しむ仲睦まじい老夫婦や、補助輪が外れたばかりと思しき自転車が、鮮や
かに俺を追い抜いて行く。
 子どもがサッカーできる程度に広い河川敷の広場は手入れが行き届いており、そこら中にゴミが散乱している
ようなこともない。汗を流しているのがどこの誰なのかまでは知らないが、ほんとうに頭が下がる。たまには、
うちの美化委員もボランティアで清掃活動などしていたはずで、俺も少し手伝ったことはあるが。
 もちろん、ポイ捨てをする不心得者など何をどうしたところで必ず一定数は出てくるもので、空き缶ひとつな
いということもない。
 ――人間の善意には限界がある。

「怪物だらけ、か」

 いつかの後輩の叫びを思い出す。
 傲慢だ何だといわれても、あちらもどうにかしなくてはいけないのかもしれない。それなりに深刻にそう思っ
ているのだが、完全に行き詰ってしまっている。
 現状を打開するために意を決して“本棚の魔女”なんて呼ばれる怪しげな文芸部部長にも相談してみたが、い
まいちピンと来る助言は返ってこなかった。どうも彼女は、『後輩は今のままでもそれはそれでよい』というス
タンスでいるらしく、今後もあまり当てにはなりそうもない。
 思わず封印したはずの溜め息を吐きそうになって、それではいかんと時間を掛けて鼻から抜く。喉の奥の唸る
ような声とともに、弱気に取り憑かれそうな身体に力が入った気がする。

151先輩と桃太郎 ◆46YdzwwxxU:2012/11/25(日) 18:35:20 ID:kVp89hJ20
 そんな時だった。

「あえいうえおあおわんわんおーっ!!」 

 大きな声がした。俺たちが普段出さないような種類の、腹の底からの発声だ。河川の対岸にまで届き、跳ね返
って来る。背後からの大声は、先週毛先を整えたばかりの俺の頭をちりちりさせた。
 何事かと振り返った俺の至近距離に、人影!?

「うわびっくりしたぁ!?」
「鬼さん役見っけた、見っけたよ!! いきなりでごめんなさいだけど手伝ってもらうーっ!!」
「……はい? え、ちょっ、んな、なに、何だって!? てかきみ誰!?」

 声の主は問答無用とばかりに俺の手首を掴み、そのまま強引に引きずっていく。ナリはちっこいくせに、すご
い力。ずるずる。 
 それは、よく見なくても女の子だった。スカート。仁科学園の制服?
 通り掛かった散歩中の大型犬と飼い主の女性が、揃って目を丸くしていた。思えば、この状況はああいう感じ
に見えなくもないかもしれない。
 なかなか歩こうとしないぐうたらな犬(俺)を飼い主(彼女)が引っ張っているのか、興味を惹かれて駆け出
した犬(彼女)を飼い主(俺)が抑えようとして力負けしているのか――
 どっちに見えるかで、そのひとの心の清らかさが分かるんじゃないかな?
 どっちもアウトだろ!!
 自分自身にツッコミを入れる虚しさを味わう。それはそうと。

 ――犬で思い出した。この子のこと。
 
 演劇部の一年生だ。仔犬のように生き生きした子。
 名前は確か、荵といったはずだ。苗字は覚えていない。どうして中途半端に下のほうだけ知っているのかとい
うと、演劇部の公演のチラシを眺めていた時に一瞬“葱(ネギ)”と読んでしまい、確認してああ何だ“荵(し
のぶ)”かそりゃそうだよなぁと安堵したのが印象に残っていたからだと思われる。

「なあ、きみ、演劇部だろう? ……演劇の手伝いがいるのか?」
「おおお? さっすが話が早いねっ!」
「何がさすがか」

 まあいい。取り敢えず、話を聴いてみよう。
 何だかよく分からないが、切羽詰まっているのは確かなようだ。

「演目は、桃から生まれた――す桃太郎!」
「ちょっと待てそいつ生まれたの本当に桃から?」
「わんわんっ! 冗談! ふつうに桃太郎だよ!」

 ……俺にとって話していると疲れる人というのは、母さんと後輩の他にまだもうひとりいたらしい。

「先輩には、鬼ヶ島の鬼さん役をやって欲しいんだ! 観客は一〇人ばかりのちびっ子たち! 大道具も小道具
も練習もなしの即興青空演劇! ……これはキミにしかできない重要な任務なのだっ! 分かるねっ!?」

 だんだん状況が把握できてきた。

152先輩と桃太郎 ◆46YdzwwxxU:2012/11/25(日) 18:36:32 ID:kVp89hJ20
 この小さな演劇部員さんが自主トレ的にやっているちょっとした芝居に付き合って欲しいということだろう。
 正直なところアドリブなんてまったく自信がないが、桃太郎ならまだ何とかなりそうではある。

「あんまり多くを望まれても困るが――引き受けた」
「ありがとうっ!!」

 ちびっ子を出されては、俺の答えはもちろん決まっている。
 そして、“引き受けた”からには、全力でやろう。やる。
 大雑把な説明が終わるころには、舞台らしき場所が見えてきた。といっても、目印は駆け回って遊んでいる子
どもたちと、出演者らしい数人の影だけだったが。
 ステージは芝生の植わった高水敷。照明は太陽。袖はないので役者は出番あるまで座っとけ。そういわんばか
りの潔さだ。

「待たせたな皆の衆っ!!」

 仔犬のような演劇部員さんが、意気揚々と堤防の斜面を滑り降りる。足元から青臭い香り。
 引っ張られて俺もその背中を追う。捕獲されているのとは逆のほうの腕で、提げたビニール袋がリズミカルに
踊った。どうでもいいが、女の子に手首を掴まれるのが、これほどときめかないものだとは思わなかった。お相
手がこの子だからなのか、それとも、手を握るのとはまた違うのだろうか。

「あー! 戻ってきた! 鬼さん探してくるって飛び出してった時はどうなることかと……」

 俺と同じような境遇らしい男女。いずれも仁科学園の制服を着ていた。

「あれー“先輩さん”じゃないですか。お久です」
「やあ、上原さん。――上原さんも?」
「そうなんですよー。いきなりでびっくりしたけど、楽しそうだったから、いいかなって」

 見覚えのある明るい薄茶色の頭、その左右で軽やかに跳ね回るしっぽ。笑顔のほうもそんな感じ。
 上原梢さん。一年生。俺の“後輩”後鬼閑花の、友達のひとり。

「デキそうな人で良かったー。ナイスお葱!」
「葱ってゆーな! “お”を付けたって、許しません!」

 じゃれ合う二人から視線を外し、他の共演者を確認する。
 ……視界の端っこで金髪のロン毛が陽光に輝いてすこぶるウザい。まずはそいつから。

「うす。初めまして、俺が臼です。猿のやつめには俺が止めを刺してやります」
「勝手に演目をサルカニ合戦に変えてやるなよ、黒鉄」

 黒鉄懐? こいつかよ!
 俺と同じ二年生で、初めましてを言い合うような関係ではまったくない。親しいとまでは行かないが、まあそ
れなりの知り合いである。

153先輩と桃太郎 ◆46YdzwwxxU:2012/11/25(日) 18:39:42 ID:kVp89hJ20
 俺個人の印象を語らせてもらえば、鹿苑寺金閣のような男だ。……自分でもよく分からないが、見た目の派手
さやバカっぽさ以上のしっかりしたものを持っているというような意味だと思ってくれていい。……何かそこは
かとなくムカツクから意地でも本人を前にしては言わないけど。
 何でもできるイメージの強い器用な男で、そういえば演劇部がしつこく勧誘するほどの才能だとか小耳に挟ん
だことがあった。

「いやー葱すけにキビ団子やるからって言われてさー」
「わんわんっ! 言ってないよそんなこと? あと次葱すけ言ったら噛む」
「まさか、もう役に入り始めてる!? あれ、でも確か黒鉄先輩って桃太郎役じゃ……」
「黒鉄なのか。……彼女が主役だと思っていた」

 彼女だの、演劇部員の子だの。女の子を下の名前で呼ぶのを避ける以上、いい加減に演劇部員の子の苗字を聞
き出さないと面倒臭いな……。
 誰に当てたものでもない先ほどの俺の言葉を、上原さんが拾って配役を紹介してくれる。

「えーっと。鬼が先輩さん、桃太郎が黒鉄先輩、おじいさんと犬は荵で、おばあさんと猿はあたし」
「――そして、雉はボクだよ!」

 太陽を背に凛々しく立つ影がある。
 ……だが悲しい哉、皆を圧倒するに充分な迫力を出すにはやや背が低すぎた。
 上原さんの意志を継いで、そいつは堂々宣言する。
 ぱっちりとした大きな瞳。セミロングの髪の色は光の具合で綺麗な藍にも見えた。袖の余り気味な両腕を広げ
て怪鳥のようなポーズをキメる。

「イヌ! キジ! サル! ……これって何コンボになるのかな? とにかくボク、参上っ!!」

 何だかよく分からないが特撮番組のヒーローのようなノリで現れた彼女は、鷲ヶ谷和穂だったろうか。彼女も
一年生。いつもいっしょにいる小鳥遊雄一郎が隣で比較対象になっていなくても小さい。
 ……なんか、奇しくも仁科学園一年生のエネルギッシュなちびっ娘たちがここに勢揃いしているような気がし
たが、口には出さない。これはこれでお供に統一感が出ていいのか?

「これで全員だね! ちょびっとだけ打ち合わせして、始めよっか!」

 首謀者の演劇部員の子が、勇んで拳を突き上げ、俺たちもまばらにそれに倣う。
 そうして数分後――
 飴玉を餌に集めた子ども達を前に、即席劇団の幕は下ろされた。

『むかーしむかし。あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山に鬼退治に、お
ばあさんは川に桃退治に出かけました』
「ちょ、ナレーターがいきなりアドリブかよ!? 鬼ヶ島消滅してるし!」

 演劇部員が初っ端からハードルを上げてきた。

(あの人って自分ちでテレビとか見てる時もああやってツッコミ入れてるのかな?)
(もちろんさ。超一流のツッコマーになるためには、そういう弛まぬ努力が必要だからね。あいつもあれで苦労
してるんだよ)

 ひそひそ話傷つくっ!! 鷲ヶ谷さんはまだともかく、黒鉄は何を言っている?

154先輩と桃太郎 ◆46YdzwwxxU:2012/11/25(日) 18:41:00 ID:kVp89hJ20

『しかし、おじいさんは鬼に返り討ちに遭い、手ひどくやられて帰って来ました』
「くっ……儂にもっと力があれば……」
「あらあらおじいさん、おいたわしや……。そうだ、川から流れてきた桃の最後の一切れを食べて、元気を出し
てくださいな」

 ……桃から生まれるべき主役はどうなったんだろう?
 その後、物語は破綻しつつも、子ども達の興奮に支えられながらどうにか勢い任せにイベントを拾っていき、
クライマックスを迎えた。

(――俺の出番だ)

 武者震いする。
 分かっているな、先崎俊輔。お前に演技力などない。
 学童保育だのの出し物で、節分の鬼だのサンタクロースだのに扮することはある。一般の生徒よりは機会に恵
まれているだろう。
 しかし、だからこそ分かっているはずだ。“演劇”の才能はないことに。……演技じたいは目も当てられない
レベルだ。
 だが、それでも、“引き受けた”からには、やれ。

 ――やる。

 さいわい、俺が経験を通して身に染みていることがひとつだけある。それは、“どんな稚拙な演技でも、真剣
にやればその想いは子どもたちにも伝わる”ということだ。
 思い出せ、その時の本気を。あの感覚を。

「わんわんおーっ!! 鬼ヶ島に着いたぞっ!!」
「ここに鬼たちの王、サキザ鬼大王がいるんだね……!?」
「いっちょ、鬼退治といくかー!!」
「みんなの力を合わせれば、きっと勝てるさ!!」

 桃太郎たちが来る。おじいさんとおばあさんの想いを受け継ぎ、頼もしい仲間たちとともに。悪い鬼をやっつ
けて、きっと世の中を平和にするために。

 ――何だろう。

 どうということはない演劇ではあるが。
 何か大切なことを思い出せそうな気がした。

(鬼が改心してみんなが友達になるエンディングなんてどうだろう)

 後のアドリブの台詞を考えながら、俺はよくぞ来たと声を張った。




 おわり

155先輩と桃太郎 ◆46YdzwwxxU:2012/11/25(日) 18:42:20 ID:kVp89hJ20
以上。
いろいろお借りしました。
お借りしたわりにあんまり出てこないのがアレだけど。

156名無しさん@避難中:2012/11/25(日) 20:05:58 ID:DZkjE4Uk0
おかあさんwwwww

157名無しさん@避難中:2012/11/26(月) 13:02:50 ID:ioeUCP8UO
先輩が保父さんに見えてくる不思議

158名無しさん@避難中:2012/11/29(木) 04:29:15 ID:H08tgJK.0
あー分かった。なんでバカと後輩で書きにくいかっていえば水と油もいいとこの二人が絡んだ話だとどちらかの心情の変化ってのがどうしても出てきちゃうからだ。

159名無しさん@避難中:2012/11/29(木) 10:03:04 ID:mZDWRCnAO
懐がどういうスタンスでどういうことを言うのか断定できなかったけど、
なんか分かり合えないイメージはある。本音ぶつけ合うだけぶつけ合って結局ケンカ別れみたいな。
変化は会話の内容次第だろうけど、懐は変わるべきじゃないと(個人的に)思うし、後輩を会話だけで劇的に変えるのは無理かなとも思う。

160名無しさん@避難中:2012/11/29(木) 15:47:35 ID:H08tgJK.0
そうなんだよ。変わりそうもないけどそれだと何も起こらず終っちまうんだw
つまりSSにならないw

161先輩、先輩には眼鏡が似合うと思うのです ◆46YdzwwxxU:2012/11/29(木) 21:22:24 ID:fZXKwbsM0
難しいね。


メモ帳いじってたらいつのまにか書けていたので投下します。

162先輩、先輩には眼鏡が似合うと思うのです ◆46YdzwwxxU:2012/11/29(木) 21:24:23 ID:fZXKwbsM0


 昼食は、たまの贅沢で学食の焼肉定食にした。
 休み時間も半ばを過ぎて食堂の人口密度はだいぶ下がってはいたが、まだまだ食後の飲み物を手に仲間と談笑
する生徒たちで賑わっている。
 透き通った玉葱の甘味に舌鼓を打っていると、いつもの後輩が市松人形みたいな髪をさらさら靡かせながらや
って来た。

「……」

 いつもは“閑花”という名前が悲しくなるほどにうるさい彼女が、今日に限って珍しくひと言も発しない。何
だろう。にこにこ微笑んでいるだけだ。

「……」

 俺のほうから声を掛けてもよかったのだが、何となく別にそうしなくてもいい気がして止めた。訊くまでもな
い。どうせ、押してダメならとかそっち系の作戦に決まっている。
 向かいの席に座った後輩は、テーブルに肘を突いて組んだ両手の上に細い顎を乗せ、しばらく俺がご飯を掻き
こむようすを満ち足りたような貌で見ていたが、ふと思い出したように妙なことを言い始めた。

「先輩。……先輩って、コンタクトレンズも似合いそうですよね」
「コンタクトレンズに似合うも似合わないもねーだろ」

 あ。いつもの後輩だ。
 ……何だったんだよ!? 心の中だけで襟を掴んで問い詰めておく。奇行には慣れたつもりだが、稀にしおら
しく振る舞ってみたり、こういう変化球を投げたりして来るから怖い。

「……間違えました。眼鏡です。白状しますと、先輩の眼鏡を掛けたお姿を妄想して●●してました!」
「ここ学食ー!!」

 もういっそずっと喋らなければ可愛いのに……。
 疲労感でいっぱいになった俺は大胆に話題を軌道修正。

「そも、俺の視力は矯正が必要なほど低くないぞ」
「知ってます。どちらのお目目も視力は一.三でしたよね。裸眼で。全裸で」

 何言ってんだこいつ。
 ……いや、そんなことより、何か俺の個人情報がものすごい勢いで流出しているんだが……。
 いったいどこから? いや、だいたいは自分の欲望のためには手段を選ばないこの後輩が悪いのだ、どこであ
ってもただ責めるのは酷というものだろう。

163先輩、先輩には眼鏡が似合うと思うのです ◆46YdzwwxxU:2012/11/29(木) 21:25:34 ID:fZXKwbsM0
 けど特にこういうの、意外と犯人はおかんだったりするんだよな。この世にゃ夢も希望もないのか。

「あっ、でも、最近はカラーコンタクトとかもありますし? もちろん眼鏡ほどではないですが、想像してみた
らこれはこれでなかなかかっこいいかも」
「興味ないな」
「ね、ね、どうです? 片目、片目だけでも!」
「片目だけとか余計恥ずかしいわ!」

 鼻息荒く迫る後輩を押し退ける。
 これでも、そういうのは中学一年生の夏に卒業したんだ、俺は。ときどき発言が怪しいけど。

「でも左右で瞳の色が違う美少女キャラとか、男の子の憧れのはずでしょう? 実際に、閑花ちゃんが赤と緑の
カラーコンタクト入れて誘惑したら、先輩は人類の可聴域を半歩逸脱したような奇声を発しつつ跳びはね、怪し
げな手つきで襲い掛かって来ると思いますね」
「でもで繋がる話なのかそれは。……思うんだが、まんがやライトノベルならともかく、現実で他人の虹彩が何
色かなんて、そんなに注意して見てるものかな」
「うは、メタ発言」
「……ごめん俺ちょっと今日のお前がマジで分からないんだけど教室戻っていい?」

 言い放ち、定食を平らげた後のトレーを片づけに中座する。態度がきつすぎるかもしれないが、これくらいで
めげるような後輩なら後輩をやっていない。
 コーヒーを二パック自動販売機で買って帰ると、かなり分かりやすい嘘泣きをしながらごめんなさい。……怒
る気にもならない。
 ふたりしてコーヒーを一口。

「あっ、そうだ。先輩。今日の放課後ですが」
「何だ」
「私も眼鏡店にごいっしょしてもいいですか?」
「何で俺が率先して眼鏡買いに行くことが前提になってんだ!?」

 あ、危ない危ない……。今、俺、「別に構わないが」とか言い掛けていたぞ……?

「でっ、でもでも、先輩には眼鏡が似合うと思うのです。“眼鏡なんてものは単に目が悪いひとが掛けるだけの
もの”、事実その通りではあるのですが、知的で聡明な印象を強調できるのもまた確かかと」
「興味ないな」
「ね、ね、どうです? 片目、片目だけでも!」
「片方だけだったらいいかって妥協できるようなもんじゃねーんだよ!」

 なんかデジャブーが……と思ったらこれつい数分前にやってたわ。

164先輩、先輩には眼鏡が似合うと思うのです ◆46YdzwwxxU:2012/11/29(木) 21:26:22 ID:fZXKwbsM0

「まったく我が儘さんですね。そう仰ると思って、がさごそ、はい、後輩は買ってまいりました」

 会話の流れをさらりと無視して、後輩はどこからともなく薄茶色の紙袋を俺に差し出す。
 膨らみの具合から中に何か入っていると分かる。

「……何だこれ」
「眼鏡のサンプルです。これを掛けてみれば、先輩もきっと眼鏡も悪くないって思えるようになるはず! 閑花
ちゃんとしましても、先輩にならきっとよくお似合いになると自信を持って選びました」
「そこまでするかね」

 俺はまったく期待せずに袋を開き、淡々と中身を改めた。……我ながらつくづく付き合いがいい。
 手にしてみれば、それは異様に柔らかいフレームの眼鏡だった。奇妙なことに、あるべきところにレンズが嵌
っておらず、並んだふたつの輪っかの間に挟まれて何やら肌色の付属物が――

「って鼻眼鏡じゃねーか!」

 出てきたパーティーグッズを力いっぱい床に叩きつける。
 あわれびよんびよんと跳ねて転がる鼻眼鏡。

「痴的さアップです」
「サンプルが鼻眼鏡じゃ説得力ゼロなんだが。……お前今“やまいだれ”付けてなかっただろうな」

 後輩の得意気な顔の腹立つことと言ったら。
 俺は教会の神父のように恭しく、そこに拾い上げた鼻眼鏡を乗せてやった。変な縁と面白い鼻とバカっぽい髭
が、後輩の見た目を性格に違わぬお調子者に変身させる。

「……意外と似合っているんじゃないか?」

 ――にゃあああああ!?

 あざとい悲鳴に被って、折よく昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。
 俺はすっかりおめでたい感じになった後輩を尻目に、午後に待ち受ける試練に臨むべく自分たちの教室へと歩
き始めたのだった。




 おわり

165先輩、先輩には眼鏡が似合うと思うのです ◆46YdzwwxxU:2012/11/29(木) 21:28:14 ID:fZXKwbsM0
以上。
たまにはふつうのコメディっぽくできないかとやってみたけど難しかった。

166名無しさん@避難中:2012/11/30(金) 01:57:00 ID:eG.DQbnQ0
乙。
これくらいで
めげるような後輩なら後輩をやっていない。が如実に後輩のなんたるかを表しているw

167名無しさん@避難中:2012/12/07(金) 02:04:22 ID:NTIH0S7M0
投下する

168先輩、お勉強中ですか? ◆46YdzwwxxU:2012/12/07(金) 02:05:23 ID:NTIH0S7M0


「あれあれ先輩、お勉強中ですか? 私のステディはスタディ中、なーんて」
「使い古されすぎたネタに失望すら覚える」

 出来る限り冷たく聞こえるように言い捨ててから、俺は教本を閉じた。後輩が背後から手元を覗きながら俺の
肩に顎を乗せようとしていたので、手で追い払う。ステディ(彼氏)という部分を否定する台詞を付け加えるこ
とも忘れない。
 今日も後輩は、俺の休み時間の邪魔をする。

「うわぁ、世界史ですかぁ」

 目ざとく表紙を確かめた後輩は、いかにもイヤがっているように眉を寄せた。ただし口元は笑っている。

「あまり得意じゃないんだ、世界史は」
「意外ですね?」
「そうか?」

 もちろん試験ともなれば、それなりの点は採ってみせる。
 別に歴史が嫌いなわけでもない、むしろ大変に興味深いのだが、暗記科目はとにかく俺の時間を食う。それは
困る、というだけだ。

「先輩は歴史上の人物で誰が一番好きです?」

 ほとんど間を置かず、後輩から質問が飛んでくる。
 ……こいつのこういう質疑応答、絶対に話が変な方向に行くからイヤなんだけどな。前回の“究極の選択”も
そうだったし(※『先輩、/犬派ですか/猫派ですか/閑花ちゃん派ですか?』参照)。

「あ。リンゴジャンキーだからってニュートンさんとかナシですよ、真面目にお願いします。あ、ちなみに今の
は林檎と梨を引っ掛けた洒落です。面白いこと言いよってからにーこいつめー、って褒めてくださってもいいん
ですよ?」
「その前に誰がジャンキーだ……」
「……ええのんよ?」

 断固拒否する。
 しかし褒めて褒めて光線はひと睨みていどでは散らない。

「ちなみに私の尊敬する歴史上の人物は、先崎俊輔です! あとの海千山千はわりとどーでもいいです!」
「海千山千ってそれ有象無象か何かと間違えてねーか?」

 それから下手したら俺死んでないか? “歴史上”って言い回し。
 ……。

169先輩、お勉強中ですか? ◆46YdzwwxxU:2012/12/07(金) 02:06:22 ID:NTIH0S7M0
 深くは踏みこまず、話を進めることにする。俺も小学生のころには、図書室に通って伝記などを読み漁ってい
たものだ。その中から何人か。
 ……と思ったが、これが意外と難しいことに気づく。
 多すぎるのだ。

「大抵の偉人はそれなりに尊敬しているが、今パッと名前が出るのは、伊能忠敬とか、関孝和?」
「ふんふん」

 何故にこのふたりが真っ先に浮かんだのか不明だが、過去に何らかの強烈な印象があったのだろう。

「あとは、マリア・スクウォドフスカ・キュリー、キュリー婦人とか」
「まさかの人妻……!?」
「フローレンス・ナイチンゲールとか」
「まさかのナース……!?」
「ジャン・アンリ・カジミール・ファーブルとか」
「まさかの蟲プレイ……!?」
「グレゴール・ヨハン・メンデルとか」
「まさかのメンデレ……!?」

 何それ。
 後輩がいちいち仰け反る理由が今ひとつ分からない。取り敢えず、偉大な先人たちをダシに何か良からぬ妄
想をしていたということだけは確かっぽい。もうこいつに構うの止めようかな……。

「他にもたくさんいるが、もういいだろう」
「ま、まあ、卑弥呼とか言わなかっただけ今回はよしとしましょう」

 後輩は謎の上から目線で物を言い、偉そうに腕を組んでみせた。

「卑弥呼」

 何でそこで卑弥呼が? 史料があまりないぶん、正直なところ、影が濃いようで薄い。まして“尊敬”とい
う感情を抱くのは難しいように思うのだが。

「巫女フェチは罪です。見るだにおめでたい紅白に彩られた、まさに邪教の出で立ち」
「お前何教徒だよ」
「紙の飾りのついた棍棒をめったやたらにふりまわし、悪霊を撲殺する」
「幣な」
「それに、奴ら竹箒に股がってマッハでヒャッハー空を飛びますしね!」
「飛ばねーよ」

 ああ、とそこで思い出す。まだ嫌ってたんだな、神柚鈴絵先輩のこと。
 ……嫌っているのとは違うか。

「ところで先輩、尊敬する人物の中に、後輩キャラはいないのですか?」
「よく知らない」
「それはつまり、先輩にとっての後輩のイメージは、ほぼ私が独占ということ……!? や、やだー」
「何だかおかしい理屈だが……その図々しさはある意味尊敬に値するかもな」

 はしゃぐ後輩を適当にあしらいながら、俺はまた世界史の教科書に目を落とした。




 おわり

170先輩、お勉強中ですか? ◆46YdzwwxxU:2012/12/07(金) 02:07:37 ID:NTIH0S7M0
以上です。みじかっ。
USBの奥底から発掘した書きかけに手を加えてみた。いつもに比べてすごく簡素な感じ。
連続ネタだけ珍しい?

171名無しさん@避難中:2012/12/07(金) 05:43:42 ID:y2X6ZDgE0
躱し方が匠の域に入りつつあるw

172わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/10(月) 00:05:38 ID:3EHGEXFE0
後輩ターンの流れに乗じます。

173「先輩!イヌ耳です!尻尾です!」 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/10(月) 00:07:11 ID:3EHGEXFE0

 「先輩!イヌ耳ですよ!尻尾ですよ!わおーん!」

 跳び上がる小犬と見紛うが如く後鬼閑花は白い歯を見せて吠えた。密閉されたタイル張りの空間はオペラハウスよろしく良く響く。
放課後の女子トイレは秘密の花園とはよく言ったもの、だからこそ秘密を分かち合う仲間との絆は鎖よりも固い。

 「閑花ちゃんはイヌ耳が似合うね」
 「わんわん言ってるだけのどこかのわんわんじゃないですよ!遠賀先輩!」

 鏡に映ったイヌ耳姿にはしゃぐ閑花を実の妹のように、メガネ文系女子大生・遠賀希見は頬を緩めた。

 「先輩!尻尾ですよ!触って下さい!先っちょを包み込むもよし、根元から優しく握るもよし!」
 「閑花ちゃん、その調子!」
 「耳ですよ!今日だけはアマガミしても許しちゃいます!」

 イヌ耳を勧めたのは遠賀だ。遠賀は仁科大学の女子大生、閑花たちの先輩にあたる。学園近所の喫茶店で閑花が先輩こと
先崎俊輔への異常な程の求愛行動をとり、呆れ果てた先崎が閑花を置いて帰ってしまったことからお話は始まる。
 対角線の位置にて遠賀が一人寂しくお茶をしていたが、あまりの常軌を逸した閑花の行動に心引かれるものがあったからだ。


     #

 吐息淡く落ち込む閑花に遠賀が近付き、にっと白い歯を見せて囁いた。
 敬愛する先崎先輩から振り切られ意気消沈の閑花は遠賀からコーヒー代を奢ってもうらことで意気を吹き返した。
 始まりは全てここからだった。

 「茶々森堂はよく来るんですか?」
 「隠れ家みたいなものかな」
 
 茶々森堂を背に銀杏の葉が舞い散る学園都市の歩道、三冬始まる時期は空気が澄み切って二人揃って歩く女子の姿は無駄に絵になる。
 遠賀の黒タイツとは対照的に閑花は白い生脚だ。反抗的に紺のハイソックスでアクセントを付けるもの、所詮はJK、女子高生。
まだまだ伸び盛りの閑花は黙って背伸びするしかなかった。街の匂いを楽しんで歩いているうちに遠賀がとある提案を示した。

 「あ……。ねえ」
 「どうしました?」
 「ちょっと、大学生気分を感じてみる?」

 閑花はある意味、体を震わせていた。
 初めての体験。初めての初体験。そして、初めてで最初の初体験。
 遠賀も閑花と同じくある意味、体を震わせていた。

 そう。お互い尿意を不意に感じたから、大学の女子トイレに閑花を誘ったのだった。ご不浄の後、遠賀はショルダーバッグから
イヌ耳とイヌ尻尾を自慢げに見せた。思いのほか閑花は『わんわんぷれい』に興味を抱き、遠賀は勧めた者として得意げになった。
 新しいものにチャレンジすれば、自ずと未知なる世界への扉が開く。例え、それがイヌ耳だとしても。

 誘われた。
 イヌ耳ついた。
 嬉しかった。

 それでいいじゃないか。
 新しいことに足踏み入れるって、わくわくする。

 遠賀の目の前で閑花は小さな胸を押さえていた。

174「先輩!イヌ耳です!尻尾です!」 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/10(月) 00:08:33 ID:3EHGEXFE0


 「新しいことするのに誰かから怒られるって、いいよね」
 「え?遠賀先輩、怒られるってなんですか?新しいことガンガン始める子って魅力的なのに!それに怒られるっていいよねって?」

 メガネの淵を指でなぞることで自分を落ち着かせていた遠賀は冷静に閑花の疑問を受け止めた。

 「閑花ちゃんのそういうところ、好きだな」

 革新の始発列車に乗り遅れた者たちの叫び。耳を塞げばいいのだが、いつまでも塞いでいるつもりなのか。
 ホームに取り残された、いや乗車を拒否した者たちが拒否した理由を受け止めろ。

 「高校時代、演劇かじっててね。あるとき『シンデレラ』をやることになって、シンデレラをイヌ耳にしてみたの」

 閑花にはイヌ耳生やして尻尾を壊れたメトロノームよろしく振り回す久遠荵の姿が嫌でも浮かんだ。
 わんわんの国からやって来た、わんわんするために生まれてきた子犬系女子高生……、と言っても過言ではない閑花の同級生だ。
 そして、また遠賀の後輩でもある演劇部員・荵は……。いや、荵の話はここまでにしておこう。行数の無駄だ。

 閑話休止。話はシンデレラ。

 煤けた服に身を包み、継母や姉たちに蔑まられても尻尾を振って素手で便器を洗う灰被り姫。あまりにも有名過ぎる童話だ。

 「王子主催の舞踏会のあと、ガラスの靴の合う娘を妃に迎えるまでは一緒。でもね」
 「女子憧れのシーンですね!わたしも先崎先輩のシンデレラになる!」
 「シンデレラが靴を履く番になって、シンデレラはガラスの靴を地面に投げつけて壊してしまうの」

 イヌ耳を付けたままの閑花が無言で遠賀の話に耳澄ます姿は奇妙かつ童話的だった。ゆっくり話の続きをしたいから
遠賀は閑花と共に大学の女子トイレをあとにして、校舎から冬空のキャンパスに出た。

 イヌ耳を生やした少女が大学のキャンパスを歩く。文化祭でもないのに不思議な光景だった。すれ違う人の群れはみな
閑花のイヌ耳に尻尾に目を奪われて、面白いように振り返り改めて目を疑う。普通、イヌ耳なんか生やさないし、尻尾なんか生やさない。
学生諸君のリアクションは決して間違っていないことは特筆事項である。
 遠賀と閑花はキャンパス内の池にやって来た。このあたりは昔からの溜池が多い。キャンパス内でも憩いの場として池を残しているのだ。

 「ここから高等部の建物が見えるんですね」と、閑花の初々しい喚起の声がキャンパスに響く。
 「そんなに時間がたってないのに、遠くに見えるなんて不思議だね」と、遠賀は高校時代を忘却の彼方から思い出す。

 風が寒くて気持ちよい。きらきらと眼鏡にみなもの光反射させ、遠賀は水切り遊びに興じ『イヌ耳シンデレラ』の結末を話した。
 閑花はじっと水面に写る自分の姿を見つめていた。

175「先輩!イヌ耳です!尻尾です!」 ◆TC02kfS2Q2:2012/12/10(月) 00:08:56 ID:3EHGEXFE0

 「『イヌ耳娘なんてこの街でわたしぐらいなのに、わざわざガラスの靴で試すんですか?』って。
  『顔は忘れても、イヌ耳と尻尾は忘れられないはず』って」
 「ガラスの靴は他の誰かに王子が一目惚れした娘だと認めさせる為ですか?」
 「そうね。シンデレラはガラスの靴なんかなくても自分を認めてくれるのか試したの……ね!」

 語尾を力んで石を水面に投げつけたので、遠賀の失速した石は溺れ、池の底へ沈み、みなもに写る閑花の影を崩した。

 「そんなストーリー提案したら、みんなから怒られた。『ふざけるな。真面目にやれ』って。真面目ですよ、こちらは」

 全力で飛んだ石ころが池に消え、光り当たる場所から遠ざかる。遠賀は儚い石の顛末と自分を重ね合わせていた。

 「多分。これからもわたしはいろんな人から怒られてゆくんだろうな。全力でぶつかった結果で怒られるから後悔ないけどね」
 「わたしも先崎先輩から怒られてばっかりです!」
 「よしっ。叱られろ!!わたしが魔法をかけてあげる」

 イヌ耳と尻尾を風に靡かせてキャンパスを走る一匹のイヌ。大好きなご主人様に一秒でも早く辿り着きたい。
 「走れシンデレラ」。王子の元へと駆けてゆけ。でなければ、王子はウソツキ者となってしまうぞ。妃に迎えたい少女がいたってことが
王子の大々的な妄想として捨て去られてもいいのか、と。途中、裏切りの休息を得ても構わないが、忠誠だけは尻尾の名において忘れるな。
 恋に全力、変に全力な閑花を見送った遠賀は小石を水平に池に向かって投げた。白いしぶきを点々と残し跳ねる小石は恋模様に花咲く
草原の一輪の花、後鬼閑花のようだった。

 「ごめんね荵ちゃん。わたしの魔法は一度しか使えないの。閑花ちゃんにかけちゃったから」

 ショルダーバッグから取り出した『イヌ耳シンデレラ』の台本をゴミ箱に捨て、後輩たちに叱られに行くかと遠賀は
キャンパスを後にして高等部の校舎の方へと足音を鳴らした。


     #
 

 「先輩!!」

 先崎俊輔は銀杏の葉が散る歩道でパック牛乳を飲んでいた。一面に黄色い枯葉が絨毯のように敷き詰められたステージなんて、
どんな舞台美術の第一人者でも再現できないワンシーン。それを考えると後鬼閑花は果報者だ。イヌ耳カチューシャを整えた閑花は
肩で息を切らしていた。天幕が灰色の空だけじゃ寂しいので細く裸になった銀杏の木の枝が申し訳なさそうに彩っていた。

 「先輩!イヌ耳ですよ!尻尾ですよ!わおーん!」
 「わんわん言ってるだけのどこかのわんわんの真似しても仕方ないぞ」

 早速怒られた閑花は嬉しそうに尻尾を丸めた。


  おしまい。

176わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/10(月) 00:10:09 ID:3EHGEXFE0
後輩ちゃんは果報者。
投下おしまいです。

177名無しさん@避難中:2012/12/10(月) 00:31:55 ID:NmLQCSVU0
恐ろしいほど吠える犬になるであろうw

178名無しさん@避難中:2012/12/10(月) 07:18:13 ID:G9htJA9MO
ついに耳が! 尻尾が! まったく……いつかやるんじゃないかと思ってたんだよ!
「まじめですよ、こちらは」って台詞がなんかいいなと思った。

わんこ氏の後輩には独特の朗らかさというかほんわかした癒しの雰囲気があるよね。
……自分の書いたのではそんなまともな可愛さ感じたことがないというのに。
一体どこで差がついているのか。慢心、環境の違い。

179わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/21(金) 00:56:32 ID:bochQFO20
いきます。

180バカとコーヒーとおツンデレ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/21(金) 00:57:11 ID:bochQFO20

 「先輩!コーヒー飲みますか?熱々な舌の焼けるようなドリップコーヒーですよ!」
 「どうみてもただのカップ自販機のヤツだけどな」
 「今なら閑花ちゃんがふーふーしてあげちゃいます」
 「そんなことされるぐらいならミルク入れるから」
 「ならば閑花ちゃんが特製ミルクを入れてあげましょう!」
 「それに、さっき飲んだばかりだから」
 「報われないコーヒーの為にわたしが頂きましょう。先輩、ミルクを下さい!」

 『先輩』こと先崎俊輔が口を真一文字に結んで、そそくさとその場を去ることは初めてではなかった。
 たった一杯のコーヒーを健全なる少年ならば赤面を禁じ得ない『後輩』こと後鬼閑花の一言でなきものにするのは実に惜しい。
後ろ指刺されて慰み者として切り捨てられるよりかはマシかと先崎は校舎の中へと消えた。

 「わたしは今、このコーヒーのようにほろ苦い思いをしました。また、ひとつオトナに近付けたのでしょうか」

 温かいコーヒーカップで手は温もるのに、何故か胸にすき間風が走る。ため息の数だけ幸せが逃げる。
 でも、逃げるのは幸せだけ。先輩が逃げるんじゃないから、わたし大丈夫と、閑花はため息を躊躇うことなく、はぁ……とついた。

 「あはははは!」

 笑われた。
 何が悔しいかって、よりによって黒鉄懐と久遠荵だ。ライオンと子犬だ。乙女の夢破れ、指差されて笑われる子になってしまった
哀れな哀れな後鬼閑花。街がそわそわと肩を揺らしだすクリスマス近い冬の昼下がりだった。

 「ってか、黒鉄先輩。カッターだけで寒くないんですか?」
 「暑いぜ!見ろ、後輩!この黄金比率!」

 見ているだけでもこちらが凍えそうな薄着姿の懐はボタンを撒き散らしてカッターシャツを脱いだ。路上で行えば即通報だが、
残念ながらここは学園内。むしろ約一名による喝采の声が懐の背後から聞こえてくる。

 「きゃー!どーべるまん!」
 「はは!ネギは相変わらずだな!」

 花道のファッションモデルよろしくターンを決め、彫刻のような胸筋と隆々とした上腕筋を荵にこれでもかと見せつけた。
 玄界灘よりも広く荒々しい懐の背中を見上げながら、閑花は眉を吊り上げて声を絞り出した。

 「やせ我慢して風邪ひいてもわたしにうつさないでくださいね!久遠さんにうつして下さい!」
 「OK!!でも、おれが風邪をひいたらバカじゃなくなるな!」
 「わんわん!犬風邪はお断りです!」

 これ以上、懐と絡むことは身を切る思いしかしない。冷たい風に晒されるよりも痛い思いなどお断りだ。
 少し冷えかけたコーヒーで温まろうと、静かに口を付けた閑花は背中をネコのように丸めた。

 「ちょっと寒くなったな。後鬼、そのコーヒーをくれないか?」と、再びターンを決めた懐の臑に閑花の上靴が突き刺さった。
 嬉しそうに痛みを堪える懐を一族の恥かの如く、木の陰から覗いている金髪少女に子犬が吠えた。
 番犬としては難ありだが、連れているだけで人を呼ぶ。

 「あ!黒鉄先輩!おツンデレだ!」

 一度は姿を引っ込めたもの、ものの数秒で再びオコジョっぽく顔を見せ、ウサギのように荵へと駆け寄ってきた。
何か包みを携えているが、武器のようなものではなし。かと思いきや、荵を摺り抜けた金髪少女は金髪野郎の背中目掛けてハイジャンプ!
金髪野郎は野生の本能に目覚め、我が身を半回転させたのち、小さな金髪少女を片腕で受け止めた。

 「マイ・シスター。修業が足らぬ」
 「うざっ……」
 「聞いてるか?何故か俺には力が沸いてこない。何故か俺にはふつふつと漲る大地のパワーが……、
  残量の表示がエンプティを示しているんだ。エマンジェーシーだぜ!亜子よ、妹よ!俺に力を分けてくれ!」

181バカとコーヒーとおツンデレ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/21(金) 00:57:37 ID:bochQFO20
 亜子と呼ばれた金髪少女は自らの脚力を利用して、懐の腹筋に足を突き刺して鋼の腕(かいな)からの生還を果たし、
片手に持っていた包みをダンクシュートよろしく投げつけた。ザッツ、それはお弁当箱。

 「お弁当いらないよね!?わたし、食べちゃうから」
 「きゃー!おツンデレ!」

 兄の忘れ物を届けた金髪少女は吠える子犬を無視するのに必死だった。一方、一部始終を目の当たりにした後鬼閑花はごくりと
喉を鳴らし、コーヒーを飲み干した紙コップを握り潰した。

 「ネギ!大地の恵も手に入れたし、残り二ヶ月だし、ラストスパートかけるぜ!」
 「わおー!」

 ライオンと子犬。そんな比喩さえちっぽけに見える二人、上半身裸の懐と尻尾さえ見えてきそうな荵は校舎の奥に消えた。

 「ったく、バカ兄貴」

 ケダモノを見るような目で実兄の背中を見ていた亜子に興味を示したのは閑花だった。お互いミクロ系女子だし、妹系だし……、
はたから見れば似た者同士ながらも静と動、光と陰、月と太陽のような二人だからこそ閑花は亜子のキャラをつまみ食いしたくなったのだ。

 放課後、閑花は学園のパソコンルームにいた。あまたに広がる情報の波、そして飲み込まれるほどの渦。IT社会の恩恵を受けて
閑花はアンサンブルを奏でる小学生のようにキーボードを叩く。静けさとキーの音が一定のテンポで繰り返されていた。
 画面にはとあるポータルサイトのトップページ。ここさえ来れば何でも知った気になれるという都市伝説。ならば、それを
使いこなしてあげましょうと目に焔(ほむら)立てながら閑花は調べ物に身をやつしていた。

 「なるほどー。ツンデレは愛情の裏返しね」

 基本的情報を手に入れさえすればよい。閑花はにまにまと先輩との甘い時間の妄想に浸りながらネットの海を彷徨っていた。

 別の日の放課後。

 「先輩!」「先輩!」「先輩!」と何度も口の中で「先輩!」と繰り返しつつ、片手にリボンの付いた小箱を持って
先輩の教室を目指す閑花の姿があった。一直線の目が閑花を凜と際立たせ、吹きすさぶ嵐の前兆に似た静寂を呼んでいた。
 手にしているのはこの界隈ご用達の喫茶店・茶々森堂謹製のちょっとした贈り物。白いレースのささやかな気遣いが品格を上げる。

 あの教室の前を通るまでは……。

 「お、お兄ちゃんの為じゃないからね!」
 「くくく……。おれの邪気眼にはお前のこざかしい邪意が読み取れるわ!」
 「ほ、ほら!いやなら受け取らなくていいんだし!」
 「うっ!くくく……、くそっ!おれの右手が!右手が疼く!鎮まれ!右手!受け取るな!」

 金髪野郎と子犬が午後の日差し込む教室で、芝居がかったやり取りをしているのを目撃した閑花の足は立ち尽くすしかなかった。
 金髪野郎・懐の右手にはリボンの付いた紙袋がすっぽりと収まり、仰々しい台詞を並べながら断崖が崩れるようにひざまづいた。

 「……ふっ。どうだ?おれのヘンゼル」
 「台本を越えたね!」

 話の節々を聞いていると、どうやら『ヘンゼルとグレーテル』の一場面を演じているらしい。ヘンゼルも厨二全開、グレーテルも
ツンツンしてるしデレてるし、あまりにも思い切った演出だった。その中で、お菓子の家の場面だというのは何となく閑花は理解した。
 しかし、懐の持つ小箱だ。いくら聞いても「あと二ヶ月だからな!」と相手にしない。

182バカとコーヒーとおツンデレ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/21(金) 00:58:00 ID:bochQFO20
 「ぐ、ぐ、ぐああああ!!受け取ってしまった!魑魅魍魎なる魔族が支配する、忌まわしきパンドラの箱がおれの手をおぉ!」
 「お兄ちゃん、ばーかばーか!あーあ、お兄ちゃんのお陰でのど渇いちゃったから……べ、別に奢ってねってわけじゃないから!」
 「やめろ!!神の憤りと裁きをネメシスから受ける身に堕ちてしまったのか!」

 大柄な黒鉄懐のスイングで小箱は宙を舞って、一直線に弾丸となる。そして閑花の持った小箱へとジャストにミート。
 腕の良いライフルの撃ち手さえも諸手を挙げるほどの出来事に閑花は固まった。目は月のように丸く、閑花の髪のように黒々と。

 (こんなバカに時間を取られている暇はないんだ!早く先輩の元へ!)

 閑花は廊下に転がった小箱を拾い上げ、そそくさとその場を去っていき、入れ替わりに懐が小箱を拾いに慌てふためいてやって来た。

 「わうー!黒鉄先輩!やりすぎ!!」
 「ネギ、ちょっと待ってくれ。おれの小箱はどこに行ったんだ?」
 「もう!わたしが茶々森堂さんに特別製でお願いした……先輩のばかっ」

 廊下には閑花が持っていた小箱が転がっていた。
 白いレースが薄汚れていた。

 閑花はついに先輩こと、先崎俊輔を発見した。猪突猛進、閑花の足は思考よりも速かった。両足揃えて先輩との鼻の先前で止まり、
眉を吊り上げる表情を作る。膨れっ面の味付けも閑花のおかっぱヘアーにお誂え。満を持した閑花の開口一番が先輩につかみ掛かった。

 「せ、先輩のために持ってきたんじゃないですからね!」
 「じゃあ来るなよ」
 「ほ、ほら!クリスマスプレゼントじゃないんだから、勘違いしないで下さいね!」

 渡したリボンの付いた小箱を閑花から受け取った先輩は中身を見て膝を打った。

 「ああ。そうだな。それにしても気がはえーよ」と。

 紙袋の中には『セント・バレンタインデー』と書かれた肉球チョコが入っていたのだから。


     #


 後日。

 荵は懐から一通の手紙を受け取った。極太のマジックで書かれたロケンロールな息遣い感じる文字だった。
 内容はこの間の件、荵はコーヒー片手、口にして手紙を読んだ。

 『葱へ。バレンタインデーの公演まで近付いてきました。今回も客演させて頂くことになりまして感謝しております。
  さて、今回の公演で使用致します小道具の「グレーテルからヘンゼルへのバレンタイン・チョコ」ですが、なんとか
  手前が交渉した末に茶々森堂さんの理解を得て作って頂けることになりまして、ほっと胸を撫で下ろしています。
  では、二月の公演、いっしょに頑張りましょう。
  
  師走の月に於いて。久遠葱へ。

                                 黒鉄壊 』



   おしまい。

183わんこ ◆TC02kfS2Q2:2012/12/21(金) 00:58:58 ID:bochQFO20
おしまいですわん。
投下終了です。

184名無しさん@避難中:2012/12/21(金) 01:14:37 ID:HZ9tdARc0
ツッコミどころ多いww気が早すぎる上に手紙が割とマジメwww後輩も盗みはすなwww

185名無しさん@避難中:2012/12/23(日) 07:17:54 ID:jcpBp.dUO
わんこ氏の後輩が可愛くて生きるのが辛い。うちのと交換しようぜ(?)
「また、ひとつオトナに近付けたのでしょうか」って台詞がいかにもな感じする。
バレンタインとかほんと気が早ぇよ。たぶんツンデレも微妙に誤解してるしw

葱の犬っぽい語彙とか、黒鉄一族とか、キャラがはじけててすごく楽しかった。

186名無しさん@避難中:2012/12/28(金) 23:50:44 ID:.PGw9D5EO
本スレ落ちた?

187名無しさん@避難中:2012/12/29(土) 02:10:11 ID:DG32ANBo0
みたいw 今みたら容量がけっこういっぱいいっぱいだった。
特にテンプレ変更なければ立ててこようか?

188名無しさん@避難中:2012/12/29(土) 02:20:18 ID:4gSptBgE0
あれ立てた瞬間落ちた件

189名無しさん@避難中:2012/12/29(土) 02:20:59 ID:DG32ANBo0
あ、大丈夫だった。なんだったんだろ

190名無しさん@避難中:2012/12/29(土) 02:22:56 ID:DG32ANBo0
と言う訳で新スレです

【シェアード】学園を創りませんか? 5時限目
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1356715113/

191名無しさん@避難中:2012/12/29(土) 18:32:56 ID:CeAzDw/YO
乙!

しかし今投下できそうな手持ちがないw

192名無しさん@避難中:2013/01/01(火) 18:02:56 ID:CWhCdKB20
あけたな……

193名無しさん@避難中:2013/01/01(火) 23:38:01 ID:ym25Dv4c0
本スレ>>9
何気ないワンシーンだけどほっこり。
乙です。

194名無しさん@避難中:2013/01/15(火) 07:08:27 ID:8HW9cz.kO
あ゚あ゚あ゚あ゚
あと1ヶ月しかない!やばい

195名無しさん@避難中:2013/01/15(火) 15:44:20 ID:NOVcRSgE0
書いたのもう二年前か―。成長してない……

196 ◆wHsYL8cZCc:2013/02/14(木) 16:01:02 ID:YfPv2eWA0
ええとこで連投喰らってもうた。

なんとなく霧崎様お借りしましたごめんなさい。

197名無しさん@避難中:2013/02/14(木) 22:20:08 ID:Co0mWq6EO
投下乙!
何を謝ることがある!……といいつつ厳密には俺のキャラってわけでもないんだけど。本当は。

この二人も結構相性いいよね。
「ヘイトを重ねたらヤバいの」って台詞がいい味出してる。
てか懐は誰相手にどんな(おかしな)言動をしても違和感がない。
おちゃらけながら自然体で自分を出していける人なのかなと思った。

ハッピーバレンタイン!俺はハッピーじゃないけど!

198 ◆wHsYL8cZCc:2013/02/15(金) 03:23:16 ID:Xy1w/TwU0
横に並んでるのも嫌だったから避難所転載しようと思ったけどあぼんしたらどうでもよくなった。
しばらく避難所推奨ですねぇ。age投下がイケなかったか。

199後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2013/02/15(金) 07:17:19 ID:UbkfaWwk0
投下します

>>132からの続き

200後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2013/02/15(金) 07:18:11 ID:UbkfaWwk0


 ※


 浅野士乃が取り出した物。
 それは、

「ろ、ろくろ……?」

 轆轤(ろくろ)であった。
 すなわち、回転可能な円型の台。主に陶芸などに利用されるものであるが。
 浅野士乃という女ときたら一切の躊躇なく、そのド真ん中にいい感じに粘性の上がったチョコレート塊をでん
と乗せた。

(えええええええええええー?)

 閑花困惑。
 それも当然である。この場にいる誰かひとりでも、この展開、果たして予想できたか。

「フンンンンンンンン……!!」

 呼吸によって充実していく気力。
 少女の細指が、軟体生物の触手のように蠢いて――
 創造が始まる。
 創作が始まる。
 最初の人間を轆轤の上でかたち作ったという、エジプト神話のクヌム神を後鬼閑花は想う。

(チョ……チョコで陶芸してる――!?)

 回転台の上で、チョコレートは黒い竜巻となって伸び上がり、大きく歪んで、やがて滑らかにその姿を変えて
いった。
 唇を引き結んで一心に土を捏ねる人間国宝の陶工のようなツラで、浅野士乃は思うがままにカカオ菓子を成形
していく。作品に命を吹きこむひとりの創作者として、また未来への限界に挑むひとりの女子として、どこまで
も真摯に、しかしどこまでも自由に!

(ふざけているのかと思ったけど……)

 我が事の合い間、歳に似合わぬ職人芸をちらと横目で窺いながら、後鬼閑花は感嘆を禁じ得なかった。

(すっごい真剣……!)

 そして、およそ数分という時間が経過し、

「凝ッ固ッ!!」

 今、浅野士乃の熱い想いがかたちとなる。

201後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2013/02/15(金) 07:19:13 ID:UbkfaWwk0
 見るがいい。
 それは、“湯呑み”だ。黒々としたチョコレートでできた、湯呑み。素っ気ない味わいの、ジャパニーズ・ワ
ビ・サビの体現といえるか。

「いつもごくろーさまの気持ちをこめて、あったかいものをあげるが! どう? このチョコ、熱湯を注げば内
側が溶け出してココアになるがでっ!!」
(かちかち山の泥舟みたいになりそう……)

 と白壁やもり教諭は思ったが、口には出さない。

「あっ。チョコがいい塩梅になったらぁ、型に流しこんで、固めましょうっ! 固まりきる前にアラザンやスラ
イスナッツなどをトッピングすれば、手作りらしい素朴さを演出しながら味も手堅く仕上げることができます。
……とはいえ、飾りつけの工夫は無限大! 今こそみんなの愛とセンスを見せつける時かも!?」

 何と言葉を掛けたものか少し悩み、取り敢えず全体指導に戻っていく。
 殊更に大声を発するのは、心の痛みを鈍らせるためだ。

「そ、それから、ひとくちサイズの果物やお菓子を持って来ている人もいるかと思います。爪楊枝や箸を使って
チョコにつけてみましょう。くるくる回してみると、きっといい感じにくるまれるはず!」
 
 ――白壁やもり、教師として苦い敗北であった。
 ビターチョコレートのように苦い敗北であった。

「その相手の男性を思いやる気持ち! 閑花ちゃん感激です!」

 教諭(もうすぐ三十歳)がヘタレている一方で、戦友の狂気が感染したように、もうひとりの魔女、後鬼閑花
は両の拳をぐっと握り締めていた。

「私だって――」

 巾着から取り出しましたるは、事前に厳選に厳選を重ねて準備していた食品。
 黄金色に輝く、“飴玉”であった。

「アメ? あんまりオススメせんって言いよったで?」

 浅野士乃はチラシのコラムを思い出していた。

「飴は飴でも、これ、中は空洞で脆いので」
「あー、吹いて膨らませたやつ?」

 何でそんなものを?

202後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2013/02/15(金) 07:19:41 ID:UbkfaWwk0
 そういう疑問形のニュアンスを感じ取ったのか、後鬼閑花は憂いを帯びた表情で語り出した。

「……以前、私の■の■や■■をエッセンスにしたお菓子は、気持ち悪がられて食べてもらえませんでした」
「お、おう……」
「――でも、“吐息”なら?」

 !?

「一見ただの食感重視の儚い口どけ! しかし、実は知らず吐息を舌で味わっているというエロティックでロマ
ンチックな甘い罠! お口の中が閑花ちゃん!」
(……何言いゆうが? この子)

 士乃困惑。
それも当然である。この場にいる誰かひとりでも、この変態、果たして予想できたか。

「はああああああああ……!!」

 呼吸によって充実していく気力。
 悪質な工作が始まる。
 極めて悪質な工作が始まる。

「あれが女子力なんだ……! わ、わたしも見習わないと……!」
「やめときなさい」

 遠く、河内静奈が何やら悪影響を受けそうになっていたが、そちらは上原梢がしっかり止めた。「閑花ちゃん
のほうは止めなくていいの?」 ひそひそと尋ねた知人に、上原は気の毒げに目を伏せて答えたという。「もう
手遅れっぽい」

「――完ッ成ッ!!」

 ――明日はバレンタイン・デイ。
 恋する少女たちの愛と勇気と何かいろいろな物がどこへゆくのか。
 それは、神のみぞ知るっちゅうこっちゃ。



 おわり

203後輩とトラソルテオトルと焔のチョコ ◆46YdzwwxxU:2013/02/15(金) 07:20:46 ID:UbkfaWwk0
以上。
何度か書き直したけどなんだかうまくいきませんでした。
ごめんなさい。

204名無しさん@避難中:2013/02/15(金) 15:57:00 ID:SMMMXygA0
何をつくっとるだw

205名無しさん@避難中:2013/04/12(金) 01:18:20 ID:jb.ij/XY0
http://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/342/z%E3%81%82%E3%81%93.png

206名無しさん@避難中:2013/04/12(金) 02:13:10 ID:bSX70WwM0
四枚ずつ保存した

207名無しさん@避難中:2013/04/12(金) 23:39:36 ID:4GDKsVGYO
華やかなのに澄ました表情がかーわいい。
亜子は人気あるな。

208名無しさん@避難中:2013/04/13(土) 03:41:34 ID:2YGxB3JA0
兄貴涙目

209名無しさん@避難中:2013/04/22(月) 22:37:20 ID:X.8LAjuw0
「……お前には……心というものが無いのか?!」
「こ・こ・ろ……?」
「そうだ、心だ……愛しさとか!切なさとか!!Yシャツとか!!!大五郎とか!!!!」
「……何、その昇龍拳が出そうで出ない感じの羅列。」

某・アニメを見て思いついたは良いものの、相変わらずどこにも使えそうにない台詞なのでココに投棄。

210209:2013/04/22(月) 22:39:17 ID:X.8LAjuw0
ごめん、誤爆スレと間違えてリアル誤爆した
失礼しました・・・

211名無しさん@避難中:2013/05/10(金) 19:25:47 ID:jlpdNoM.0
真田アリス・ウェルチ姉妹と修&千鶴、お借りしました。
もっと前に出ようぜ!

『アリスと檸檬』
ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/411/alice_and_lemon.jpg

212名無しさん@避難中:2013/05/10(金) 19:31:07 ID:Pwwc53Qc0
BBAだ!wwwww

213名無しさん@避難中:2013/05/23(木) 20:17:44 ID:yXiHFKKo0
age

214名無しさん@避難中:2013/05/23(木) 21:25:35 ID:pFdefjCE0
亜子、後輩、ネギがいればご飯三杯いける。

215名無しさん@避難中:2013/05/26(日) 06:42:44 ID:NCSU0Wi20
懐、台 ゴリラが居ればコーヒー三杯噴く

216名無しさん@避難中:2013/06/04(火) 11:49:39 ID:H9lCy5QI0
懐、迫先輩、那賀のホストクラブがあればお酒三杯頼む。
……那賀?

>>211
何だそのゲームはw
真田……あれ? ……梶井……基次郎……

>本スレ43
俺はあかねちゃんが好き、あかねちゃんも俺が好き!(錯乱)
エロタイツは知っていたが、クローバーの髪留めなんて付けてたのか。ここテストに出すか。
ところで、サンプルボイスを100回ぽちぽちクリックしたけど何もないんですが……?

217名無しさん@避難中:2013/06/04(火) 15:22:09 ID:ITKSQgM60
なんてやかましそうなホストだw

218先輩とファンタスティック・テクニック ◆46YdzwwxxU:2013/06/07(金) 06:43:03 ID:RjnUHle20
投下しますかね

219先輩とファンタスティック・テクニック ◆46YdzwwxxU:2013/06/07(金) 06:44:34 ID:RjnUHle20


「先輩! お勉強で分からないところがあるので教えてください!」
(えー……イヤだなぁ……)
「ありがとうございます! やったぁ! 先輩大好きっ!」

 ……俺はまだ了承などしていない。
 俺が下唇を裏返してみせたのを、いったい誰が責められるだろう? というか責めたやつ、頼むから俺と大至
急代わってくれ!

「最近のお前ってほんとうに俺の話聴かないよな」
「必要ありませんもの。相思相愛、以心伝心。先輩のお心は丸裸です!」

 ちょっと照れたのか得意気な顔に朱の散った後輩はそれは可愛らしかったが、俺たちは相思相愛の仲ではない
し、彼女が分かると嘯く“俺の心”などまずもって独り善がりの妄想にすぎない。俺のほうも後輩の考えている
ことなんて知らないし、というか知りたくない。こわい。

「勉強で分からないというのは四字熟語の意味か。それとも人物の心情の読解のほうか」
「えー? 違いますよ?」

 後輩は不意打ちで俺の耳元に唇を寄せて囁いた。

「保健です。……先輩お得意の保健のお勉強です。先輩のファンタスティック・テクニック、また閑花ちゃんに
味わわせてください……」

 もしも、これと同じことを手のひらでもメガホンにして大声で教室中に言いふらすようなマネをしていたら、
さしもの俺も真剣にこの後輩との絶交を考えているところだった。俺を怒らせないぎりぎりの線で引くそのあた
りの手管には少し感心する。
 “保健”とか“テクニック”とか、中学生あたりなら水とアルカリ金属のように激しく反応するかもしれない
言い回しに関しては当然無視だ。後輩にしてはオリジナリティがない。……そんなことはどうでもいいか。

「調べ学習と暗記の科目に、得意不得意もテクニックもないだろう」
「ご存じないですか? ――保健にも実技ってあるんですよ?」

 面白みゼロの返答で話をぶち壊しにしようと思ったら、向こうが踏みこんできた。湿り気を帯びた吐息にぞっ
とし、俺は露骨に嫌そうな表情を作って顔を背ける。

「よそは知らんがうちの学園にはないんだよ、一年生」
「今年度からできたかも」

 後輩がさらに身を乗り出す。

「どのみち、今の二年はその授業を受けていないから俺に教えられることは何もないな」
「じゃ、私が手取り足取り教えてあげます」
「お前は何しにここに来たんだ」
「さあ? 何でしたっけ。……忘れてしまいました」

 ……なんだか、らしくないと思った。
 俺たちのやり取りにはもっと、こう、何と言ったらいいのか、関係の進展について暗黙の了解があったように
思う。いや、後輩にとってはこれもまだそのちょっとした延長なのかもしれないが、“後輩が攻め、俺が躱し、
後輩がほどほどのところで退く”、そんな俺たちの関係がひどく危ういバランスの下に成り立っていたのだと、
思い知らされた気分だった。
 彼女が少し退かずに粘っただけで、俺はひどく動揺していたのだ。
 後輩が本気になったら、俺も本気にならざる得ない。恐らく俺か後輩かその両方が不幸になる形で破綻してし
まうだろう。

220先輩とファンタスティック・テクニック ◆46YdzwwxxU:2013/06/07(金) 06:46:04 ID:RjnUHle20
 後輩は俺に対して一見やりたい放題しているように見えて、実はあれでもかなり言動に気を遣っている。
 たとえば、後輩は料理ができる。
 実に要領よく並行作業をこなし、家庭料理としては誰に出しても恥ずかしくないレベルの三品四品を鼻歌混じ
りに作ってみせる、それくらいの調理技能を持っている。家庭科の白壁教諭はおろか、俺やうちの母よりたぶん
うまい。
 そんな具合だから、いつかの事件が落着を見てしばらく、彼女は俺に毎日の手作り弁当を作らせて欲しいとし
きりに言ってきた。

『ねー先輩ー。いいでしょ? 愛妻弁当です! 愛後輩弁当! 実は先輩のお母様のお許しももら……え? い
らない? ……そう……』
『閑花ちゃんは先輩に自分をアッピールするチャンスもいただけないのですか……?』
『っよし! 分かりました! もう結婚しましょう! それが先輩にとっても一番いいと思います! 閑花ちゃ
んあったまいー!』

 全て固辞した。
 そして俺が拒否する限り、彼女が不意打ち気味に“実際に弁当を作ってくる”ことはなかった。一度もだ。
 もしそういうことをされていたら、受け取るべきかどうか、どういう対価を払うべきか、そんなことで俺は本
気で困惑したに違いない。
 それが分かっていたから、後輩は自ら退いたのだ。まんざらただのお馬鹿さんではない。
 もっともその分、調理実習の菓子類やバレンタインチョコでは箍が外れがちで、とんでもないものが繰り出さ
れることもしばしばだったが、まあそれはこの際いいだろう。

「思い出しました」

 ようやく――
 ようやく、だと思った。

 ――ごめんなさい、悪ふざけがすぎました? でもどきどきしたでしょ?

 気まぐれな黒猫のように、後輩がさっと俺から離れた。掛かる吐息が消えたことに密かに安堵しながら、俺は
彼女の表情を窺う。
 可憐な口元に満足げな笑み、しかし俺を捉えるその眼差しにはこちらの内心を見透かすような、どこか悪魔的
なものがあった。俺はせめてもの抵抗に、顎を引いてやる気のない半眼で圧し返す。その時にはもう、彼女はに
っこり笑って、瞼で瞳を覆い隠していた。

「保健の勉強で教えて欲しいところがあったんですが」

 ――もう分かりました。私がその気になれば、すぐにでも先輩を私の物に出来るんだって

 それは幻聴だったのか、どうか。
 後輩がその気になったら、俺もその気になるしかない。そうすれば、俺か後輩かその両方が不幸になる形で破
綻してしまうだろう。
 そうは言ったが、不幸せを予言したとしても、彼女の戒めにはならない。それはそうだ。後鬼閑花の考える彼
女の幸福と、俺の考える後鬼閑花の幸福はずいぶん違っているのだから。

「ここです。“防衛機制について”」

 目の前に該当ページの開かれた保健の教科書が差し出される。かっこうつけた専門用語が見出しになった、俺
の大嫌いな単元だった。やりたくないことを催促されているような気になってくるのだ。嫌がらせのようなタイ
ミングである。

「私も早く防衛機制を華麗に使いこなせる女になりたいです!」
「そういうもんじゃないから」

 ふたりしていつもの調子に戻っても、俺の頭の中には“これからのこと”がずっとこびりついたままだった。



 
 おわり

221先輩とファンタスティック・テクニック ◆46YdzwwxxU:2013/06/07(金) 06:48:41 ID:RjnUHle20
以上。
謎のシリアス回。
予定ではもっと明るかったはずなのにどうしてこんなんなったんだろうね?
次はコメディ寄りにしたいなぁ。

222名無しさん@避難中:2013/06/07(金) 12:18:29 ID:Jrl.ggDY0
そこはかとなく切ない

223名無しさん@避難中:2013/06/21(金) 18:59:21 ID:FDUb24mA0
かきたいから、何かお題ぷりーず

224名無しさん@避難中:2013/06/21(金) 19:10:11 ID:LBlXa4QM0
私服の仁科の連中

225名無しさん@避難中:2013/06/21(金) 22:49:41 ID:FDUb24mA0
にゃ!

226名無しさん@避難中:2013/07/13(土) 23:33:12 ID:dqdtpXLw0
>>224

後輩ちゃんの私服姿で先輩のハートを鷲掴みんぐ!!
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/508/kouhai.jpg

227名無しさん@避難中:2013/07/14(日) 00:01:29 ID:pNLgSExs0
わぁい!

228ワンオラクル[7]:2013/07/24(水) 22:43:07 ID:PcnBtueQ0

夏休みに入った。
部活が無いなら夏期講習に行くかバイトをするか、どちらかをしろと鬼のような形相で母親から言われ、僕は夏期講習を選んだ。

部活が無いわけじゃない。僕だって一応、部活に所属してはいる。
潰れる寸前の『数学研究部』。
本気で研究とやらをやろうとするものは誰も居ない。実質、帰宅部同然のユルい部活。

見学に行ったとき、部室でカードゲームをしていたのが、入部を決めた理由だった。
もともと、テーブルトークRPGや麻雀をやってみたいと思っていたから。

けれど、2年になってから僕は一度も部室に行っていない。
カードゲームは相手がいないと出来ないのに、ゲームをしていた先輩たちはいつの間にか来なくなり、代わりに質の悪い連中が
出入りするようになった。
カツアゲされるくらいなら、さっさと帰ったほうがいい。

この夏は連中も来ないだろうが、先輩たちも来ないだろう。
というわけで、僕は予備校の夏期講習に通うことになるのだ。

今は2年生。受験なんて、すぐにやってきてしまうんだろうな。
出来ることなら考えたくもないのだけれど。

予備校には、いずれ通わなければならなくなる。
予備校に行かずに受かってやるぜ! と豪語して憚らない奴もいるが、たいてい某通信教育講座をせっせと提出していたりするので、
やっていることは大差ない。

大人しくそこへ通う自分に、なんとなくブロイラーのイメージが重なる。

会社の言いなりに鬱々と仕事をこなす人を揶揄して『社畜』というそうだ。
僕のような人間は、さしずめ『学畜』とでもいうのだろうか。


                         *

229ワンオラクル[7]:2013/07/24(水) 22:45:02 ID:PcnBtueQ0

予備校の雰囲気というのが、僕はけっこう苦手だ。

好きな人なんて居ないだろうが、熱心に勉強している連中のうちには、予備校を愛して止まないのではと思えるような連中がいる。
問題の解き方を、まるでゲームの攻略法を話すかのように得意気に講釈している。
スポーツの出来る奴が技を見せつけるのと同じように、彼らは自分の頭脳がどれだけ優れているかを見せつけているのだ。
それも、本人の自覚なしにやっていると僕は思っている。

運動のできる奴には、体育の時間、気まずい思いをする人間の気持ちは分からない。
勉強のできる奴には、テスト前の億劫な気持ちは、本質のところで理解出来ない。

僕みたいな、特に取り柄も無く、かつ目立った欠点もない人間の気持ちはどうなのだろう。
僕は、そのどちらとも深いところで共感していない。
ドラマや漫画だったら「その他大勢」で括られるタイプだ。

なんて薄っぺらい人生なんだ。
代わりはいくらでも居る。

僕の存在意義って、何なのだろう?
机の前で、はたと考えてしまう。

高校二年の夏休みの夜。僕は予備校の問題集を前に、ぼーっとしている。
いま、この時間もやがて「輝ける青春時代なんちゃら」となるのだろうか。
とてもそうは思えない。
テレビで見るような、スポーツ選手や芸能人らが語るような人生と僕のそれとは、まったく濃さが違うように思える。


                            *

230ワンオラクル[7]:2013/07/24(水) 22:47:57 ID:PcnBtueQ0

――くそ、暑いな。

夜になってから、一段と湿度が増した気がする。

コンビニに行ってくる、と言い残して家を出た。
途中までは言ったとおりコンビニに寄って、ミントタブレットとマンガ雑誌を買う。

その足で公園へ向かう。
幼い頃はブランコを漕ぐためか、雲梯を渡り切るか、はたまた砂場で超大作要塞を造るために訪れていた場所だ。

午後11時を回っている。
当然ながらこの時間、そんな野望を持った勇者は現れない。
代わりに居る可能性があるのは飲み過ぎたおっさんか、OLを口説くイケてないリーマンか、
今時シンナーもねえだろ! ってツッコミ待ちのヤンキーくらいだ。

それも、ごくたまーに居るくらいで、基本的には寂れた公園。
そしてそこは今夜も無人だった。



ベンチにかけると、ポケットからそれを取り出す。
タカハシから貰ったMarlboro menthol、通称『マルメン』のボックス。
百円ライターで火を点け、心持ちゆっくり吸い込む。


1年の文化祭の頃だった。
僕はタカハシとつるむようになっていて、クラスの出し物を作ったり、体育祭に向けて練習(よさこいを踊るのだ)したりした帰りには、
寄り道しながら二人でよくダベっていた。

夜の公園で、他愛もない話をしている時だったと思う。
タカハシは無造作にタバコを出して、火を点けた。
それは手慣れているようにも見えたし、僕に見せつけるようでもあった。
そして、
「どうよ? お前も」
といって差し出した。

罪悪感は無かった。見つかるかもしれない、という緊張も無かった。
僕はそれを受け取ると、それを咥え、タカハシを見た。

「ちょっと吸ったら口の中に溜めて、鼻でもう一回吸うんだよ」
ライターの火を差し出しながらいった。

咽るだろうと思ったけれど、案外すんなりと煙は入って、僕は拍子抜けした。
コツを確かめるためにもう2回吸ってみた。
タバコの匂いが口の中から鼻の裏側に抜ける感じがして、何とも奇妙だった。

「お、初体験にしちゃ上出来じゃん」
タカハシは嬉しそうに言い、自分も煙を吐き出した。

僕もなんとなく嬉しい感じがあったけれど、それは不良っぽいことをしてるからとか、そういうのとはちょっと違っていて、
タカハシと秘密を共有している為かもしれないけれど、結局のところその「嬉しい気持ち」の正体は分からなかった。


                          *

231ワンオラクル[7]:2013/07/24(水) 22:51:05 ID:PcnBtueQ0

僕は一体、何者に成れるんだろうか?
ふと、文字に起こすと恥ずかしくてとてもじゃないけど正視できないような問いが、頭の中に沸き起こる。

中学の、卒業が間近に迫った頃だった。
将来何になるか、という話題で話しあう授業があったのだ(今にして思えば、なんとベタでこっ恥ずかしい話題だったと思う)。
とりあえずでも、何か適当で無難な目標を出しておけばよかったのだが、僕はそう頭の回る中三じゃなかった。
だから馬鹿正直に言ってしまったのだ。

「ぼくは、自分が何になりたいかわからなくて、なやんでいます」

なんであんなことを言ってしまったのだろう。とくに「なやんでいます」あたりが悔しくて恥ずかしい。
案の定、「セイシュンだねー」などと冷やかされ、僕は顔が火照ってくるのを感じていた。
出来ることなら今すぐにでもあの時に戻って、僕自身を蹴り飛ばしたい気分だ。

けれど今、タバコをふかしながら僕が考えていることは、あの時とまったく変わっていない。
進路ひとつ決めかねて、高二の夏休みに突入してしまった。
勉強は、とりあえず予備校の問題集を予習して講義を聞いて答え合わせして、学校が始まれば適当に授業受けて試験受けて、成績が決まっていく。
流れ作業だ。
けれど、授業を取るにも選択授業なんかが入ってきて、自分の進路に合わせて選択する……

だーっ! 
なんだ、どこへ行っても進路、進路、進路! 
決められないって言ってるじゃんか!
猶予はないのか猶予は! 
そもそも、決めたら途中変更なしって、何この不親切設計なゲーム!

そうだ、ゲームだ。
受験も就職も、結局ゲームなんだ。
勝ち組がいて、必勝法とか攻略法があって、どうしても勝てない下手な奴もいる。

僕は、ゲームの仕組みを把握する前に負けてしまうタイプだ。
友達とゲーセンに行くと、大概そうなる。


赤い光が、向こうの路地を横切った。
パトカーが音を鳴らさず赤色灯だけ光らせて、住宅街をゆっくり回っていた。
ハイブリッド車は音がしないから、いきなり現れてドキッとさせられる。
僕は慌ててタバコを消し、箱をパンツの中に隠して、ミントタブレットをジャラッと口に流し込んだ。

平静を装って、パトカーが向かった方と反対側の入口から出る。
ミントが鼻に抜けて、わさびを食ったようなツーンとした刺激が目に刺さる。
涙目になりながら、僕は家へ帰った。

232名無しさん@避難中:2013/07/24(水) 22:52:01 ID:PcnBtueQ0
↑ここまでで 失礼しますた

233名無しさん@避難中:2013/07/27(土) 10:16:08 ID:54p3J/760
>>228-232
苦い青春ってやつですかね、青いなぁ…

234名無しさん@避難中:2013/07/27(土) 20:05:51 ID:gjLxBrIk0
仁科に足りないもの。それは…

メガネっ娘だ!


いたっけ?いないよね?ってか、下さい!!!

235ワンオラクル[8]:2013/07/31(水) 23:17:52 ID:S6irFZSo0

進路相談室へ行くには、南棟の3階へ上がり、西棟への渡り廊下を通るのがもっとも早い。
けれど僕は、1階へ降りて西棟へ入り、そこから上へ上がっていくルートを通ることにしていた。

西棟の2階には、音楽室と音楽準備室がある。
ナギサワがコントラバスを弾いている音を聴くため……というと、なんかヘンタイっぽいな。
けれど、人気のない西棟のなかで響くコントラバスの音色は、なんというか「寂しげなのだけれど、悪くない」感じで、
僕はそれを期待しているところはあった。


いつも思う。
こんなことをするくらいなら、声でも掛ければいい。いつぞやのバス停で遭った時みたいに。
僕は素知らぬ顔をして2階を通り過ぎる。
あ、つっかえたな。とか、良いメロディだな。などと、聴こえる音だけをもとに想像するだけだ。
それに何の意味があるのだろう? 


「気になってるなら、話しゃいいだろ」
タカハシは呆れ顔で言う。

「だから、そういうんじゃないんだって」

なにが“そういうのじゃない”だ。僕自身が一番よく分かってるはずだ。



夏休みに入り、僕には学校に行く理由がない。
当然、ナギサワのコントラバスも聴けない。
話のひとつもしておけば、来週に予定されている商店街の夏祭りに、一緒に行けたかもしれない……

「何が? 笑っちゃうよ」

自分で自分を嘲笑う。
そんなこと、僕にできるはずがない。だいいち、ナギサワにだって彼氏くらい居るかもしれないじゃないか。


夏祭り。
中学2年からは行かなくなった。
小学生の頃は友達と行っていた。中学に上がって最初の夏休み、友達がつかまらなかったので一人で行った。

中学に入って疎遠になった連中を見かけた。
髪を染めて派手な柄のシャツを着て、背の高い怖そうな上級生たちと、大きな声で笑いながら歩いていた。

近寄りがたい雰囲気だった。
向こうは僕に気づいていなかったようだったけれど、もし気づいていたとしても快い再会とはならなかっただろうと思った。

女の子たちは、まるで別人のように化粧をしていたし、とても大人びて見えた。
それほど見かけの変わらない娘も見かけたけれど、隣には別のクラスの男子がいた。
腕を絡ませて、楽しげに歩いている。


僕はその日以来、夏祭りには行かないことを決めた。少なくとも、一人では。




236ワンオラクル[8]:2013/07/31(水) 23:24:31 ID:S6irFZSo0

「タカハシ、夏祭り行く?」
電話で聞いてみる。答えは分かりきっている。

「はぁ? 何の冗談だよ」
「行かないんだな。僕も行かないから、どこか違ったところへ行こう」

アテがあるわけではなかった。人混みの嫌いなタカハシと、とにかく家に居たくなかった僕は、蒸し暑い夏の夜にとりあえず出かけたのだった。



湿度の高さが実感できる。濡れたラップが腕に貼り付くような感覚だ。

「どこに行くんだよ」
タカハシは原付をのったり走らせながら喚く。

古びたマンションの前で自転車を止めた。
大きいマンションだが、オートロックなどはついていない。ここの屋上へは、わりと簡単に出入りできるのを僕は知っていた。

小学校の頃の友達の一人が、ここに住んでいたので屋上へも上がったりしていたのだ。
もちろん、設備点検用のはしごを使うのだが、人目に触れず鍵も掛かっていなかったので、僕らは探検気分でよく上っていた。
今もその通りかどうかは分からず不安だったが、何年ぶりかの屋上へのはしごは、相変わらずだった。

「なんだよ、よく知ってんじゃんお前」
タカハシは意外にも乗り気ではしごを上った。



屋上へ出ると、風が吹き抜けていくらか涼しかった。
もやに覆われた朧月が輝いている。

占いをするのにはぴったりなシチュエーションだ。
僕は屋上フロアの真ん中に座り込むと、ウエストバッグからタロットを取り出した。




237ワンオラクル[8]:2013/07/31(水) 23:28:57 ID:S6irFZSo0

カードを切り、ときおり本を参照しながら、屋上のコンクリートのにカードを裏向きにして伏せていく。
うろついていたタカハシは僕の行動を見ても無言だった。立ったまま、並べられたカードを見ている。

『スリーカード』という、見たまんまなスプレッド。3枚のカードを横に並べ、それぞれ左から過去・現在・未来を暗示する。
スプレッドとは、カードの並べ方のことだ。本には、他に『ホース・シュー(馬蹄)』と『ケルト十字』が載せられていたが、難しそうなのでやめた。


伏せられた3枚のカードを前に、僕は深呼吸した。

まず一枚目。中央のカードをめくる。


【月】のカード。正位置なので、カードのままの意味だ。


「……」

黙っている僕を、タカハシが怪訝そうに見る。

朧月のもとで月のカードを引くとは、ちょっと出来過ぎな気もする。けれど、このカードの意味はあまり良くないと思った。

迷い、裏表、虚偽、欺き……
とらえどころ無く姿を変える月になぞらえたカードの意味は、そのようなものだ。


たしかに僕は今、迷っている。
進路のことが主だけれど、それだけじゃない。
自分の今の生活についての漠然とした不安とか、……よく分からないけど、たぶんナギサワのことも。


タロットカードは、ぴたりとそのことを言い当てているような気がした。
僕は少し怖ろしく思いながら、月のカードを見つめていた。

「それは月のカードか。今の状況にピッタリだな」
タカハシはたぶん、月の照らす屋上での僕等のことを言ったのだろうけど、僕はドキリとして思わず顔を見上げた。

タカハシの顔越しに、朧月が見える。
月というのは綺麗だけれど、なかなか本性を見せてくれないレアモンスターみたいなところもあるなと思った。

238ワンオラクル[8]:2013/07/31(水) 23:52:33 ID:S6irFZSo0

「何について占ってんの」
タカハシが尋ねる。僕は、「自分のこと」と短く答えた。
彼はそれ以上は聞かず、黙って見守っていた。


二枚目。一枚目の左側、『過去』を意味する位置だ。


【女教皇】の逆位置。


正位置ならば聡明、理知的なんかを意味するカードだ。逆位置ということは……
利己的、無理解……なんかの意味だったはずだ。

これは、どう解釈したらいいのだろう。
タロットには、ほかに【教皇】というカードもある。男性か女性かの違いは、カードの意味にも影響している。

僕のイメージでは、【教皇】はベテランの老教授。酸いも甘いも噛み分けた、知性の塊だ。
対し、【女教皇】のイメージは、デキる女性塾講師。綺麗で頭も良く、テキパキしているけれどちょっと冷たい印象で近寄りがたい。

逆位置はネガティブなイメージが表に出ている状態と僕は解釈している。
すると、ヒステリーや妬み、非情なんかの言葉が上がってくる。

妬みを受けた覚えはない。気づいていないだけかもしれないけれど、そもそも僕は、人に妬まれるほどの何かを持ったことはない。


――待てよ。

僕の周りが、じゃなくて、僕自身を指しているのだとしたら?

僕はどこかで人に冷たくしたり、近寄りがたいと思わせる態度をとっていたりしたのだろうか?
それが、今の状況の遠因になっているのだとしたら……。

思い当たるフシがないわけではない。
僕は誰ともぶつからないよう、自分で言うのもナンだけれど、人当たり良く接してきたつもりだ。
でも、その実、誰とも打ち解けられないと思ってもいた。
どうせ誰にも理解されないのだから、自分の意見なんか口に出さないほうがいい……僕は、そう思って過ごしてきたかもしれない。

その態度を、見えない壁を作っているように思う人間がいたとしても不思議じゃない。

でも、それって悪いことか? 誰にも迷惑をかけない、良い対処法じゃないのか?

239ワンオラクル[8]:2013/07/31(水) 23:58:02 ID:S6irFZSo0

あらためてカードを眺める。
3枚のカードのうち、右端だけが裏側に伏せられている。

この伏せたカードが、僕の将来を暗示するカードだ。

現状は、「迷い」。過去は、「非情、冷ややか」。

はっきり言って、良い要素が無い。
カードをめくるのが怖い。
これで、3枚目も良い意味に解釈できなかったら……


ああ、と呻くように再び顔を上げる。

月明かりに照らされた腕が、僕の鼻先にタバコを差し出した。
タカハシは既に煙を燻らせ、顔をしかめながらいたずらっぽく笑ってみせる。

僕はそれを無言で受け取り、唇に挟んだ。
タカハシがマッチを擦る。
ちょっと懐かしいような燐の匂いと、パッと目の前が明るくなった感じで、僕はいくらか勇気づけられた気がした。


火をもらって、僕は大きく煙を吸い込み、ゆっくりと吐く。
いくらか気分は落ち着いたかも知れない。


――よし。

意を決して、3枚目のカードをめくる。

240ワンオラクル[8]:2013/08/01(木) 00:20:42 ID:wufM1qxU0



【死神】の逆位置。




この期に及んで、死神とは。
どこまでも出来過ぎていると思った。


死神のカードは文字通り、死や終焉を意味するけれど、逆位置となると話が違ってくる。

再生やポジティブな意味でのリセット、しがらみを断ち切るような意味合いになる。
僕はホッとした。少なくとも、未来に希望が持てるカードが出たからだ。
そして、それは僕自身が願ってやまないものでもあった。

この鬱屈から逃れたい。余計なものを切り捨てて、新しい自分になりたい。
そういう願望を、このカードは示していた。


タロットは、怖い。
術者の心理を反映しすぎる。

自分で自分のことを占うのはやめようと思った。これでは心がもちそうにない。


すべて出揃った3枚のカードを眺めながら、僕は再びタバコを口に咥えた。
安っぽいメンソールの香りが鼻から抜ける。


僕もタカハシも、無言だった。二人でタバコをふかしながら、夏の夜の屋上で、月を眺めながら座っている。
奇妙な、たぶん今しか無い瞬間だと思った。

241名無しさん@避難中:2013/08/01(木) 00:22:09 ID:wufM1qxU0
↑以上で

242名無しさん@避難中:2013/08/03(土) 04:28:18 ID:vuaZtvGc0
>>226
かわいい!ありがとう!
黒ニーソに白い靴ってエロいアイテムだよね。
後輩は衣装持ちなイメージだけど、こういうフォーマルっぽい?のがよく似合う気がする。いや俺の好みもあるけど!
あとこういうドヤ顔も似合う。

>>234
そういえばいなかった……ような……。
リアルの眼鏡率から考えればこれは異常なこと。一刻も早く是正されなくてはならない。
差し当たってさす迫先輩を女装させよう!

>ワンオラクル
おお、お久。
このハードボイルド小説みたいな?隙間風を感じさせない文章、雰囲気があってかなり嫌いじゃない。
青春にありがちな鬱屈さの中にも爽やかなものを感じる。
占いってのも自分の内面に斬りこんでいく面白いツールなんだなと思った。
関係ないけど今ちょうどペルソナ3に嵌ってたところだし幻影ヲ何とかってアニメやってるし、タロットキてるなこれ。



俺も投下しまっすー。
なんかワンオラクルさんの余韻の中でこんなの投下するのもアレなんだけど、時期的にヤバい。

243先輩、山で!海で!里で!:2013/08/03(土) 04:30:00 ID:vuaZtvGc0


「先輩、夏休みの予定を立てましょい!」
「しょい!?」

 一日を一年に置き換えるとすると昼休みは夏休みになるんじゃないかな?などと死ぬほどどうでもいいことを
薄らぼんやり考えていると、いつもの後輩が上級生を蹴散らす勢いで飛んできた。

「……ちょっと舌が回りすぎましたね。然るべき時のためにとディープな練習をしすぎたせいでしょうか」
「俺に近寄らないでくれるかな」

 そういう方向にオープンな女子って好みじゃない俺。

「もう補習すべきおバカさんたちの炙り出しも終わった七月半ばですよ! サマーヴェイケイションをとことん
楽しむためには綿密な計画を立てなくちゃ嘘です!」

 「…補習……」「……おバカさん……」「……サマーバケー……ヴェイケイション……」 流れ弾を食らって
ダメージを受ける補習者たちには一瞥もくれてやらず、後輩はぐいぐいこちらに身を乗り出してくる。

「先輩、可愛い閑花ちゃんといっしょに、ひと夏のときめきメモリアルをしこたまこさえましょうではありませ
んか! 山で! 海で! 里で!」
「里……」

 そっちは別に誤用というわけでもないはずなんだが、なぜか妖怪図鑑の出没場所の区分けみたいだと思ってし
まったのは、この後輩に対する俺の心証のあらわれなのだろうか。執念深さと情の深さは妖怪というより悪霊ぽ
いけど。
 とびきりタチの悪いやつね。

「夏休み、ねえ……」

 七月終盤から八月末日まで、仁科学園にも夏期休暇がある。しかし、日頃から学園の中で充実した高校生をや
っている俺にしてみれば、みんなほど心待ちにしているわけでもない。

「よし、俺は家で大学受験の勉強をしてよう」
「あはは。ありえませんねー」

 何がだよ。後輩ごときに一笑に付されると地味に傷つく。
 俺にとっては高校二年の夏休みとなるわけで、来年はバリバリの受験生だ。
 のんきに遊んでいる時間など……時間など……、まあそれはまだなきにしもあらずなのだが、この後輩を遠ざ
ける口実として受験勉強というのは悪くない。

「せっかくの性春ですよ、一回こっきりの高校性活ですよっ、可愛い彼女もとい食わぬは恥の据え膳ちゃんもい
るんですよ!」
「せめてもといの前後、逆にしないか」

 何だか微妙にアクセントがおかしかったことには触れない。蛇のいる藪を突つく馬鹿はいない。

「お勉強なんてのは、特進クラスの瓶底メガネどもに任せておけばいいのです」
「なんであらゆる方向に毒吐いてんだ今日のお前は」
「お勉強なら誰でもできますが、私と遊べるのは先輩だけなんですからね?」
「可愛らしい台詞に見せ掛けてすごい自分本位だな!? 俺が勉強するの、俺自身のためだからな?」

 一蹴するも後輩はめげない。

244先輩、山で!海で!里で!:2013/08/03(土) 04:32:00 ID:vuaZtvGc0

「じゃあこうしましょう。ふたりっきりで合宿! お泊り! 山で! 海で! 里で! お城っぽい外装のホテ
ルで!」
「はは、お前とは絶対行かないわ」
「そ、それって、ホテルの話ですよね? 山と海と里ならごいっしょしていただけるんですよね……?」
「寄るなうっとーしい!」

 いきなりすがりつくような弱気の目になる後輩だったが、邪険に追い払うとけろりとした顔であっさりと定位
置に戻った。こういう切り替えの早さには感心する。

「でも我ながら合宿っていいアイディーアだと思うんですよね。先輩はお勉強、私は花嫁修業。お義父様お義母
様は夫婦水入らず新婚気分で先輩に息子と弟がいっぺんにできちゃうかも!
 ……はー。完壁です。関わった人みんなが幸せになる完壁な提案です。頭いいです」

 後輩は教室後ろの小黒板に飛びつき、カカカッとチョークで「もう完壁!!」と書き、これでもかと幾重にも円
で囲んで強調した。

「完璧の漢字間違ってるぞ。お前こそ補習に出て書き取りでもしたら?」
「んっふっふー。こう見えても私、書き取りは毎日お家でやってるんですよね」

 後輩はどこからともなく取り出した大学ノートで恥ずかしそうに口元を隠した。不自然な話の流れとコントみ
たいな準備のよさに、もうロクでもないというかおぞましい内容だと察しがつく。
 うんざりと顔を背ける俺に、後輩は頼みもしないのに手ずからページをめくって「ほらほら」とノートの中身
を見せつけてくる。
 そこには、黒鉛を塗りこめるように、同じ文字列がびっしりと書きこんであった。


先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたがし大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はたわしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き先輩はわたしが大好き
先輩が机ふくの台ふき!!


 ……そんなこったろうと思ったよ。
 見たくもなかったが、よく見るとこれ、後輩自身の気持ちじゃなくて俺の気持ちの捏造じゃねぇか……。こん
な自己暗示掛けてて悲しくならないのだろうかこいつは……。

245先輩、山で!海で!里で!:2013/08/03(土) 04:32:46 ID:vuaZtvGc0
 ツッコミどころは満載だが、どれも意外性に乏しくツッコミ甲斐がない。……リアクション芸人でもあるまい
に、ツッコミ甲斐がないなんて評価基準は我ながらどうなんだという気もするが、まあそんなことはこの際どう
でもいいか。

「えへへ。これコピペ使ってないんですよ」

 呪いのノートの横から飛び出る後輩の褒めて欲しげな顔がわけもなくムカツク。

「手書きだからな。分かるよ」
「寂しくて眠れない時に、夜な夜なベッド(私のいい匂いがします)から這い出しては机(私のいい匂いがしま
す)の上で書きつけている私(いい匂いがします)のヤンデレ後輩ノート……」
「エタノールで拭けそんな机」

 ヤンデレなどと言ってはいるが、後輩のはしょせんファッションヤンデレであって特別の脅威には感じない。
いるんだよなぁ、自分で自分のことをヤンデレとか言っちゃう女。……いや、やっぱ聞いたことねぇなそんなヒ
ロイン。
 ……ちなみにこの病的なノートだが、後輩がネタのために一夜漬けで作成した小道具などではなく、ガチのブ
ツだったという嫌すぎる事実が判明するのは、これからおよそ一ヶ月後のことである。

「それはともかく……楽しみですね? 夏休み。合宿」
「合宿に行くとは言ってないからな。別の話題を挟んで撹乱しようとしても無駄だ」

 油断も隙もない後輩だが、俺もまた油断などしていないし隙も作らない。

「陸で! 海で! 空で!」
「自衛隊の広報みたいだな」

 ……空?
 聞こえなかったフリでゴリ押しする後輩をいなしながら、俺は教室の窓から注ぐ夏の陽射しを顔で受けた。
 ……あー。
 ……空、飛びてぇな……。



 おわり

246先輩、山で!海で!里で! ◆46YdzwwxxU:2013/08/03(土) 04:34:24 ID:vuaZtvGc0
以上。
コピペは本当に使いませんでした。

247名無しさん@避難中:2013/08/03(土) 11:20:52 ID:kALCC4PA0
>>243-246
投下乙!
後輩ちゃん、熱い、暑苦しいwww
でも萌えw

248名無しさん@避難中:2013/08/03(土) 19:21:09 ID:Nwp7jfHM0
>>243
相変わらず後輩ちゃんはかわいいなぁ! ネタ的にも合宿って良いね
部活陣で誰か書かないかしら |д゚)チラッ

>コピペは本当に

ホラーだww

249名無しさん@避難中:2013/08/03(土) 22:46:45 ID:gFYGBTo60
ガチモノなんですかwww

250名無しさん@避難中:2013/08/09(金) 04:39:41 ID:sinLUN/sO
暇だしワンオラクル復活したからタロットの21の大アルカナに仁科のキャラを当てはめてみる企画で雑談しようぜ。
当てはめるのは正位置逆位置の大雑把な意味。本人の属性(性格や部活等)でもいいし、実際の行動、今後するべき行動の示唆でもいい。
今回正と逆は表裏一体と考えて別々にはしない。(いや、俺本当はタロットよく知らないんだけど)


0【愚者】黒鉄懐 ※正:楽天・型破り・新しい発想・天才/逆:愚か・極端・自分勝手


ひとりめ。こいつは確定でいいだろw
そのまんま。
マイナスの意味の言葉も当然出てくるが、あくまでカードの解釈なので気にしないで欲しい。
全て当てはまるとも限らない。

251名無しさん@避難中:2013/08/09(金) 18:11:43 ID:G5p9G0BA0
マイナス面もほぼそのままじゃねーかwww

252名無しさん@避難中:2013/08/09(金) 19:20:46 ID:cM720Ijk0

1【魔術師】浅野士乃 ※正:始まり・個性・独創・技能の進歩/逆:創造性の欠如・トラブル・神経質・反抗的


ふたりめ。
かなり悩んだけど創作関係っぽい意味もあるし、士乃かなぁ……。
とりあえす個性的なトラブルメーカーなのは間違いない。そして今日も騒動が始まる。



2【女教皇】
※正:理知的・良識・優しさ・清純/逆:激情・無神経・わがまま・不安定


いきなり難しくなったw
神柚鈴絵、秋月京、黒咲あかね、黒鉄亜子、優陸地奈あたりが候補?

253名無しさん@避難中:2013/08/09(金) 19:44:02 ID:cM720Ijk0

3【女帝】
※正:繁栄・母性・愛情・家庭的/逆:挫折・過保護・虚栄心・嫉妬・浪費

ようするにカーチャンっぽいカード。
神柚鈴絵、白壁やもりが候補だと思う。あと女帝といえば真田アリスのあだ名がそうでしたね。
先崎のおかん?そ、それは最後の手段!


4【皇帝】大型台 ※正:支配・安定・有能・行動力・勝利/逆:未熟・横暴・傲慢・独断的

うほっ。
いくつかてんで的外れな意味も混じっているが、男らしいイメージ的にはそんなに遠くない……はずだ。
横暴といえば嫉妬でカップル狩って回るほど横暴なこともあるまい。
ちょっと他のキャラは思いつかない(真田基次郎くらい? 先崎俊輔もちょっとカブっている気はする)が、台には別のアルカナも当てはまりそう。

254名無しさん@避難中:2013/08/10(土) 22:31:58 ID:5Sk0YtIA0
6【恋人】
※正:合一、恋愛、性愛、趣味への没頭、楽観、絆、試練の克服
 逆:誘惑、不道徳、失恋、空回り、無視

閑花「先輩!タロット占いです!閑花ちゃんと先輩との輝ける未来を確かめましょう!」

255名無しさん@避難中:2013/08/11(日) 05:40:16 ID:TPvfFfe60
空回りクソフイタ

256名無しさん@避難中:2013/08/11(日) 08:30:18 ID:TPvfFfe60

5【法王】
※正:教養・慈悲・慎重・協調性・全体への援助・目上の人物/逆:守旧性・躊躇・虚栄・お節介・鈍感

迫文彦、先崎俊輔が候補。個人的には迫先輩推し。


6【恋人】は飛ばして、


7【戦車】
※正:勝利・成功・克服・向上心・行動力/逆:暴走・自信過剰・強引・不注意・傍若無人

むずい。
大学生の彼女がいる那賀さんか、重量挙げ部かな。
大学生の彼女はひきょうだよな。

257名無しさん@避難中:2013/08/11(日) 08:34:22 ID:TPvfFfe60
8【剛毅】ロニコ・ブラックマン ※正:勇気・力量の大きさ・意志・不撓不屈・信念・本能と理性の統合/逆:過信・見栄っ張り・派手・逆境・権力の乱用

せっかくの女性柄なのでロニコさんがいいんじゃないだろうか。
強い!絶対に強い!


9【隠者】霧崎 ※正:経験則・理論的・高尚な助言・秘匿・深慮/逆:閉鎖性・陰湿・消極的・偏屈・誤解・悲観的

これもイメージ優先。
【愚者】と関わりのあるカードらしいが、SSでも懐とよく絡んでいるのでなんか笑った。


10【運命】
※正:サイクル・ローテーション・幸運・出会い・変化・発明/状況の急激な悪化・衰退・離別・すれ違い・アクシデント・反逆

これはSS内容から当てはめるしかないかな。ちょっと置いておこう。

258名無しさん@避難中:2013/08/11(日) 22:10:56 ID:KnGCnBUg0
>>257
8【剛毅】
自分的には黒鉄亜子ちゃんのイメージでした。

ググると『ライオンを手懐ける女性』…はっ!ライオン…懐?
ちっこい体で実は空手の実力者だったりするし。ってね。

9【隠者】天月音菜 http://www15.atwiki.jp/nisina/pages/74.html
  ※正:経験則・理論的・高尚な助言・秘匿・深慮/ 

 なんか、合うなあ。自分的には。
 SSにあまり登場にないから、もっと活躍させたいなっ。いいキャラなのに。
 ギター少女って、カッコいいやん。

 とんで。

17【星】黒咲あかね
  正:希望、ひらめき、願いが叶う
  逆:失望、無気力、高望み

  「あーちゃんなんて、知りません」
  過去を捨てて、未来を望む。でも、それは高望みだったりする。

 異論はい大いに受けます。ってか、突っ込んで(下さい)!

259名無しさん@避難中:2013/08/12(月) 00:26:49 ID:OElrI83M0
【剛毅】黒鉄亜子がこんなに合うとは思わなかったw
ライオンの下りが素晴らしい。これ確定でいいかもなw

天月さんは登場回数が少なすぎてなんか……なwそういう意味でも【隠者】かw
候補に入れておこう。

【星】は【運命】【審判】【世界】と並ぶ悩みどころでなぁ・・・

260名無しさん@避難中:2013/08/12(月) 02:07:51 ID:L/WMEfho0
亜子ワロタw なんだあの兄妹はw

261名無しさん@避難中:2013/08/12(月) 13:33:20 ID:PPejW06c0

11【正義】カップルウォッチャーととろ ※正:公明正大・均衡・善意・決着・清算・正当性からの視点/逆:不正・偏向・不均衡・一方通行・不人情

暫定。
パッと見た時から「正義? ととろでいいんじゃない?」とか安直に考えていたが、
一度「あれ……実はこれあんまり合ってなくね?」と思ってしまうと悩ましいw
しかし他には先崎俊輔くらいしかいないか。生徒会長とか風紀委員とか出てこないからなぁ……


12【刑死者】先崎俊輔 ※正:試練・犠牲・努力・忍耐・魂の成長・自己犠牲/逆:徒労・痩せ我慢・状況の悪化・弱まる理性

これも暫定。
先崎はやたらそれっぽいのがあるから困る。


13【死神】ふーちゃん ※正:終末・破滅・死の予兆・改革・完全な停止・孤独/逆:再生・新展開・復活・立ち直る

あとは本家ワンオラクルのサイトウあたり……
って、SSで引いていたからって安直だな!安直の王様だな!

262名無しさん@避難中:2013/08/13(火) 05:54:45 ID:cOnm1Bc60
>>261
11【正義】カップルウォッチャーととろ

嵌ってるw
ととろ自身は「善意」だと信じて行動してるからなw それがかわいいわけで、かわいいは正義だ。

13【死神】… こんな子いた。
       『ヤンデル子ちゃん』西園寺聖子 http://www15.atwiki.jp/nisina/pages/241.html
       初等部だそうで、ととろと対決しちゃってます。

終末とか破滅とか孤独とかヤンデル子ちゃんや!
で、これの逆ってポジティプなのが面白い。前向きな死神w
しかし、15【悪魔】でも合いそうだな…この子。

12【刑死者】先崎俊輔…なるほど、後輩ちゃんに吊るされるんですね。

>>527
10【運命】
※正:サイクル・ローテーション・幸運・出会い・変化・発明/状況の急激な悪化・衰退・離別・すれ違い・アクシデント・反逆

遠賀先輩かな…。演劇部関連でしか出てこないけど、逆境の中のファイターって感じだ。

263名無しさん@避難中:2013/08/13(火) 09:57:18 ID:kOQNjp.g0
ととろは逆位置のほうが当たってる気がする。
偏向とかそのへんw

聖子ちゃんは物騒なイメージが合うからと俺も検討はしたんだけど、
「完全な停止」の【死神】を小学生に背負わせるのはちょっと酷かなと思ったw

264名無しさん@避難中:2013/08/13(火) 18:39:03 ID:kOQNjp.g0
14【節制】河内静奈 ※正:節度・献身・順応・感受性・中庸・倹約・調和/逆:浪費・不運・感情的・衝動的・仲間内や家庭の不和

イメージ偏重すぎ?
でも俺マジ好きなんすよ静奈ちゃんいやマジ好きなんすよ


15【悪魔】西園寺聖子 正:堕落・裏切り・打算的・野心・誘惑に弱い・利己主義・束縛/逆:回復・反省・覚醒・悪い状況からの脱却

基本白っぽい仁科では貴重なネガ持ち。しかも可愛い。


16【塔】大里巧 ※正:崩壊・災害・悲劇・不幸・喧嘩・改革/逆:瓦解・失敗・突然のアクシデント・誤解・一番大事な物が残る

正位置も逆位置もろくでもないw
背が高いやつを無理矢理起用してもいいけど。

265名無しさん@避難中:2013/08/14(水) 22:38:07 ID:zCdl2NIs0

17【星】黒咲あかね ※正:希望・理想・ひらめき・願いが叶う・発見/逆:失望・無気力・高望み・見通しがつかない

あの字ちゃんは【月】と迷ったけどこっちの方が合っている気がした。


18【月】サイトウ ※正:不安・幻惑・現実逃避・潜在する危険・嘘・裏切り/逆:夢想・徐々に好転・迷いが晴れる・過去からの脱却・漠然とした未来への希望

迷いながら答えを探していく感じが。
ところで下の名前何だっけ?


19【太陽】久遠荵 ※正:幸福・成功・誕生・祝福・無邪気・追い風/逆:不調・落胆・暗転・衰退・難航

陽性キャラの筆頭という気がするわんわん王。
笑顔は太陽!

266わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/08/15(木) 03:19:38 ID:RygRYY8k0
>>265
わおーん!わんわん王だじぇ!
そして、タロットの権威も威厳も神聖さも台無しにしてみた。
ぴく渋とか参考にしたんですけどね…。

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/544/shinobu_himawari_.jpg

>>258>>259
天月さんはもっと前に出るべきやん!
だからこそ、SS書いちゃう。以下、どーぞ。

267『チョlココロネと続かない夏』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/15(木) 03:20:30 ID:RygRYY8k0

 評判のパン屋で最後に残った誉高きチョココロネが奪われて近森ととろは不機嫌になった。
 次の焼きたてが並ぶ時間はしばらくかかるし、悠長に待っているひまなどない。

 ほんの迷った隙だった。チョココロネ狙いだったととろ、隣に並んだ明太子パンについ気を取られ、「あ」と言う差で
アイツのトングに挟まれてしまった。奪ったアイツはぞんざいな扱いでトレーにチョココロネを滑らせる。学校帰りに極上の生地を
口一杯頬張りながら味わおうと考えていた矢先だった。ラスイチのチョココロネを買って帰る男子高校生の面倒くさそうにしている
素振りをととろは心底憎んだ。食べ物と恋の恨みはなんとやら。

 「激おこぷんぷん丸なんだから!くーっ」

 どうせならもっとうれしそうな顔をしろと奥歯を噛み締めるもの、敵はすでに店から姿を消して、パンの甘い香りだけが漂っていた。
こんなに悔しい思いをしたのはいつ振りだろうか、思い出すにも悲しくなる。長居は無用、ここに居残るのはどんな拷問よりも辛いから、
そそくさとととろは退出した。ドアのチャイムが物悲しく聞こえた。
 誰もが競って手に入れたがるものだからこそ非常に悔しい。なんだか今日一日が落ち込んでしまいそうだ。手を繋いだ男女が
ととろの肩をかすってすれ違った。

 「いいなっ。チョココロネは諦めるから、その幸せちょっとちょうだい!」

 うらやましいというより、幸福のおすそ分けをプリーズ。ととろは日頃、学内外問わずに幸せそうなカップルを端から観察し、
恋愛小説を読むようににまにまとのぞき見する趣味があった。誰が呼んだか『カップルウォッチャーととろ』なのだ。
 平常心を保つには幸せが必要だ。とろけるようなシュガーな気持ちにさせてくれ。ととろはスクールベストの裾をぎゅうっと握って、
上の空へと飛び立つ身支度を始めた。今日、何があった?今日も幸せそうな女子を見たんだ。

 「そうだ。今日も後輩ちゃん、ナイスファイトだったな」

 『後輩ちゃん』こと後鬼閑花、ととろより一つ下の高等部一年の恋する乙女だ。
 想い人の為にアグレッシブに、行き過ぎやり過ぎ閑花ちゃんにはまだまだ手緩いと、愛情表現豊かな女子だった。
 恋する後輩ちゃんと(勝手に)お相手の彼、先輩との一部始終がこれだ。


    ♪


 「先輩!問題です!頭のエクササイズです!またの名をブレイン体操です!コレが解けたらIQ200超えの天才児!」
 「なんかイヤな煽り文句だな」
 「あなたはバスの運転手です。はじめに二人お客さんが乗りました」
 「あれだろ」
 「次のバス停で一人乗りました」
 「使い古された問題だよな」
 「次のバス停で五人乗りました。次のバス停で三人乗って二人降りました。次のバス停で四人乗って五人降りました」
 「小学生のとき聞いたんだけどな」
 「さて、運転手さんの好きな人は誰でしょう!」
 「帰る」
 「5!4!2!1!ブッブー、時間切れ!先輩、残念でしたーっ!正解は閑花ちゃんでした……って、せんぱーい!」


    ♪


 「あれは効くなぁ。遠回しのふりをして実は真っ直ぐに射抜くテク。後輩ちゃんの健気さにわたしの胸が疼いちゃうよ」

 ちまちまと、そして恋愛『愛』溢れる表現でスマホに記録された『ととろの観察にっき』を読み返しながら、
ととろは後鬼閑花に、そして地球上の恋する人たちにささやかなるエールを送った。

 「世界中のカップルに幸多かれ!」

268『チョlココロネと続かない夏』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/15(木) 03:20:53 ID:RygRYY8k0
 観察にっきの毎回最後に記す言葉だった。自分が書いたとはいえ、ととろはまたも胸が疼いていた。
 書いている途中はランナーズハイの如く名文だと自惚れながら、そして読み返すとこっ恥ずかしくなるような文章なのだが、
今のととろに理性的な突っ込みをしても暖簾に腕押しなのだ。

 「きっと後輩ちゃんはチョココロネのようなハートを持ってるんだ。チョココロネのように……ん?」

 チョココロネのことを思い出したか、ふと、ととろは足を止めた。いや、違う。チョココロネはチョココロネだが、
最後のチョココロネを奪っていった男子高校生をコンビニの店内で発見したのだ。
 レジに並ぶ彼は右手にコンビニおでん、左手に少年誌、そしてそれで隠すように黒いストッキングを持っていたのだ。
 ととろの勘がぴこんと働く。頭に生やしたリボンが向きを変えた。

 「チョココロネを手に入れた上にコンビニおでん。チョココロネはきっと誰かにあげる為に買ったんだ。
  おでんは熱々に限るから自分で食べるんだ。名探偵ととろの推理が今日も冴えます!」

 男子高校生はすっと少年誌の下に黒ストッキングをしのばせた。
 アンバランスな買い物に少年の顔は羞恥のせいでいくばくか赤く見える。

 「きっとお使いだね、黒ストは。自分で履くなら堂々と白昼に買うのは不自然だからね。自然に導かれる答は……」

 ぎゅうっとスクールベストの裾を握ると、瞳の奥が桃色に染まる。
 網膜にハートが浮かび上がり男子高校生の顔に重なった。
 アイツが摘んだおでんの卵はミラーボールのように輝き、しらたきはネオンサインのように彩る。
 木目の絵柄の器はジュークボックス。ナイスなナンバーで舌を揺すぶらせる。
 フィーバータイムで踊って踊りまくれ!ハニーナイト!
 夏はまだまだ続くんだから。

 「アイツから恋する女子の香りがする!」

 つまり……男子に黒ストを買わせるまでに気を許した女子がいる!
 カップルウォッチャー・ロックオン!!リミッター解除せよ!!

 「すっごい見たい!すっごい見たいよ、アイツの桃色っぷり!アイツの彼女さんナイスファイトだよ!」

 はあはあっ……。
 息遣い激しく、チョココロネなどどうでもよく、会計を済ませたアイツがおでんを頬張りながらととろとすれ違う。
 太もも疼き、抑えきれない興奮ゆえ、不注意にもととろはアイツの肩にぶつかった。

 「ご、ごめん」

 男子高校生は卵をぷっと吐き出して、面倒くさそうにととろに謝ったが、ととろ本人は申し訳なさそうな顔の裏に
ニヤリと笑みを浮かべていた。

 「カップルウォッチャーは突然なのよ。相手はオトナっぽい子だね。アイツに幸あれっ」


     #

269『チョlココロネと続かない夏』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/15(木) 03:25:40 ID:RygRYY8k0

 「天月、文句言うなよ。一つしか残ってなかったんだ」
 「一つで十分さ。恋の味にも似ている」
 「なんだよ、それ」
 「恋は一度だけ。美しい言葉と思わないか、向田」

 学校屋上で交わされる会話は聞き流すに限るが、天月音菜に限っては心に止めておいた方がいい。
向田誠一郎は前者のスタンスだったが、最近は徐々に後者に移っている気がしてきた。

 澄み切った青空を背景に向田が買ってきたチョココロネをリスのようにちびちびとくわえ味わっている天月音菜は
見た目だけは名前のとおりオトナだ。制服の上から分かる位素晴らしいスタイル、冷ややかな目と泣きぼくろ、
そして左目を隠す髪はアンニュイな雰囲気を醸し出す。ただ、チョココロネの食べ方といい、向田以外の者には
あまり関わろうとしないことに加え、夏服に黒ストッキングという出で立ちにより、自他ともに認める変人の立ち位置を取る
やや残念なる美人だった。

 「お使いご苦労。ふふ、恥ずかしかっただろ?替えのストッキングが切れていたんだ」
 「こんなもん無駄買いさせて。俺は単行本派なんだ」
 「向田。リアルタイムで物語を追うスリルと、まだ出会わぬ新たなる漫画家との邂逅もたまにはいいぞ。
  ところで、アニメ界にはびこる『日常もの』の作品が流行る三つの理由を発見したんだが……」
 「それっ、天月、黙せっ」

 フリスビーのように買ってきたばかりの黒ストッキングを天月音菜に投げた向田は一緒に買った少年誌をぱらりとめくった。

 屋上はよく風が通る。学内において体全体で風を感じることが出来る場所はここぐらいだろう。天月音菜は白い雲に導かれたのか、
それとも青い空気に吸い込まれたか、いつも学校の屋上にいる。下界を眺める気分は根拠のない力を得た気になる。

 チョココロネを食べ終えた天月音菜は考えた。夏はいつまで続くんだろうと。四季折々の変化が五感で味わえる屋上、
変わり者だと囁かれるけど、ここにくればふっと風に流される。ちょっと変わってたって、わたしはオトナだし。

 「夏が続くといいな」
 「は?天月、何言ってんだ?」
 「夏クールのアニメが秀作でな、嬉しい寝不足なんだ。暖色寒色を見事に組み合わせ、目の覚めるような色使いが心地良……」

 チョココロネを食べてるうちは静かだったのに、これ以上ほって置くと天月音菜のアニメ語りは止まらない。
 チョココロネが一つしか手に入らなかったことを向田は後悔した。

 
     #
 

 その日の空が紅く染まる頃、公園のブランコで近森ととろはむふむふと頬を赤らめていた。
 コンビニおでんのちくわをくわえ、ふーふーと笛のように吹いていた。
 しかし、おでんにはまだまだ暑い。美味しく頂けるのはツクツクボウシが鳴き止む頃かなぁ、とやかましい公園の立ち木を見上げた。

 「絶対突き止めてやんからねー」

 まだ見ぬ魚は大きいはず。一度釣りかけた魚をみすみす逃したくないし、出来ればご賞味させて頂きたいし。
ととろは名前さえ知らぬ天月音菜に仄かな憧れを乗せて太ももを疼かせた。

 「夏は続かないけど、恋の美味しい秋がもうすぐ来るよっ」



   おしまい。

いくぜっ!天月さん。
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/545/amatsuki_otona.jpg

残念美人、かわいいよ!
失礼しました。以下、タロット雑談どうぞ。投下おしまい!

270名無しさん@避難中:2013/08/17(土) 15:05:29 ID:6WlrIFTc0
>>266-269
乙乙!何気ない日常がいいですね
恋の美味しい秋にも期待w

271名無しさん@避難中:2013/08/17(土) 21:05:00 ID:r12Cfk920
>>269
うおっまぶしっ! 太陽かとおもったらわんわん王陛下のご尊顔であった。
ひまわり超似合うなコイツ……。


チョココロネみたいなハート……ツイストしているってことかー!
おでんのディスコって超シュールだなw何だその発想w

復活! 天月音菜復活! そういやオタクだったねぇ。
ギターとキタローヘアーのほうの印象が強かった。イラストまさに。ていうかこんな巨乳だったのかッ。
天月さんの作者さん……帰ってこないかな……

わんこ氏の文章、コミカルでコケチッチュで、そのくせ情緒があって好き。ムードに流されて結婚して!とか言いそうになる。
世界で一番愛してるわ! 今すぐ私と結婚して!

272名無しさん@避難中:2013/08/17(土) 21:09:06 ID:r12Cfk920
それでこっちも


10【運命】鷲ヶ谷和穂 ※正:サイクル・ローテーション・幸運・出会い・変化・発明/状況の急激な悪化・衰退・離別・すれ違い・アクシデント・反逆

本人の思いがけない出来事による変化、みたいな意味なので
ことりあそびくんにとっては彼女が【運命】と言ってもいいんじゃないだろうか(苦しい)
ひょ、表情もころころ変わるし!


20【審判】遠賀 ※正:再生・復活・再会・覚醒・仲直り・最終的な決断/逆:執着・挫折・離別・沈滞・悲観的・再起不能

これがむずい。
何度でも蘇る松戸白秋かなぁとも思ったけど、あんまり合わない気がした。
「決断、将来の目標の確立、過去の清算などによって、前向きな気持ちで生活できる」とか何とか。
単に元通りになるってだけでもないみたい。


21【世界】小鳥遊雄一郎 ※正:成功・完成・統合・幸福・目的達成・運命の出会い/逆:挫折・低迷・失敗・未完成

いやちょっと待って欲しい。みんな俺がテキトーに決めたと思っているだろうが、
彼をこのアルカナに選んだのには理由があるんだ!
彼は……帰国子女なんだ……。


ということで暫定だけどまとめてみた(↓)。
いろいろままならない事情で、完全に全員のイメージ通りというわけにもいかなかったかもしれない。
と思ったが不思議と腹は立たなかった。

273名無しさん@避難中:2013/08/17(土) 21:17:46 ID:r12Cfk920

0【愚者】黒鉄懐     ※正:楽天・型破り・新しい発想・天才/逆:愚か・極端・自分勝手
1【魔術師】浅野士乃  ※正:始まり・個性・独創・技能の進歩/逆:創造性の欠如・トラブル・神経質・反抗的
2【女教皇】神柚鈴絵  ※正:理知的・良識・優しさ・清純/逆:激情・無神経・わがまま・不安定
3【女帝】真田アリス  ※正:繁栄・母性・愛情・家庭的/逆:挫折・過保護・虚栄心・嫉妬・浪費
4【皇帝】大型台     ※正:支配・安定・有能・行動力・勝利/逆:未熟・横暴・傲慢・独断的
5【法王】迫文彦     ※正:教養・慈悲・慎重・協調性・全体への援助・目上の人物/逆:守旧性・躊躇・虚栄・お節介・鈍感
6【恋人】後鬼閑花   ※正:合一・恋愛・性愛・趣味への没頭・楽観・絆・試練の克服/逆:誘惑・不道徳・失恋・空回り・無視
7【戦車】重利挙     ※正:勝利・成功・克服・向上心・行動力/逆:暴走・自信過剰・強引・不注意・傍若無人
8【剛毅】黒鉄亜子   ※正:勇気・力量の大きさ・意志・不撓不屈・信念・本能と理性の統合/逆:過信・見栄っ張り・派手・逆境・権力の乱用
9【隠者】天月音菜   ※正:経験則・理論的・高尚な助言・秘匿・深慮/逆:閉鎖性・陰湿・消極的・偏屈・誤解・悲観的
10【運命】鷲ヶ谷和穂  ※正:サイクル・ローテーション・幸運・出会い・変化・発明/状況の急激な悪化・衰退・離別・すれ違い・アクシデント・反逆
11【正義】カップルウォッチャーととろ ※正:公明正大・均衡・善意・決着・清算・正当性からの視点/逆:不正・偏向・不均衡・一方通行・不人情
12【刑死者】先崎俊輔  ※正:試練・犠牲・努力・忍耐・魂の成長・自己犠牲/逆:徒労・痩せ我慢・状況の悪化・弱まる理性
13【死神】ふーちゃん  ※正:終末・破滅・死の予兆・改革・完全な停止・孤独/逆:再生・新展開・復活・立ち直る
14【節制】河内静奈   ※正:節度・献身・順応・感受性・中庸・倹約・調和/逆:浪費・不運・感情的・衝動的・仲間内や家庭の不和
15【悪魔】西園寺聖子  ※正:堕落・裏切り・打算的・野心・誘惑に弱い・利己主義・束縛/逆:回復・反省・覚醒・悪い状況からの脱却
16【塔】大里巧      ※正:崩壊・災害・悲劇・不幸・喧嘩・改革/逆:瓦解・失敗・突然のアクシデント・誤解・一番大事な物が残る
17【星】黒咲あかね   ※正:希望・理想・ひらめき・願いが叶う・発見/逆:失望・無気力・高望み・見通しがつかない
18【月】サイトウ     ※正:不安・幻惑・現実逃避・潜在する危険・嘘・裏切り/逆:夢想・徐々に好転・迷いが晴れる・過去からの脱却・漠然とした未来への希望
19【太陽】久遠荵     ※正:幸福・成功・誕生・祝福・無邪気・追い風/逆:不調・落胆・暗転・衰退・難航
20【審判】遠賀      ※正:再生・復活・再会・覚醒・仲直り・最終的な決断/逆:執着・挫折・離別・沈滞・悲観的・再起不能
21【世界】小鳥遊雄一郎 ※正:成功・完成・統合・幸福・目的達成・運命の出会い/逆:挫折・低迷・失敗・未完成


異論は認める

274名無しさん@避難中:2013/08/26(月) 22:49:54 ID:YNmnq4uU0
本スレ>>51
ごめんちごめんち。最近(どうせ書きこめないから)本スレ行ってなくてさ。気づかなかったってわけ。

さっそくさす迫先輩を女装させるとは……。しかもうれしいセミロンガー。
わんこ氏は話を聞いていないようで聞いていて作品にしてくるからこわいのだ。
さす迫先輩は自分の中ではなぜかそこそこ長身のイメージが定着していたが別にそんなことはなかった。

>肉は腐りかけ〜
この言い回しの残念っぷりときたらw

平和なSSなごむー。


さて。
創発五周年だからSS書こうと思ったけど、むりでした。
代わりに小ネタ集置いてきます。

275名無しさん@避難中:2013/08/26(月) 23:27:57 ID:YNmnq4uU0

 仁科学園小ネタ集「ネーミング」



●1 後鬼閑花対先崎俊輔
「先輩は昔は名無しも同然だったのに、先輩キャラがたくさんになってきて紛らわしいからって名前ついたんで
すよね」
「メタ発言やめろ。ここでそんなんしてるのお前だけだぞ」
「でも安心してください。どんなになっても私の先輩は先輩だけです。そして私の将来の苗字も先崎以外ありえ
ないです。先崎閑花ちゃん爆誕のお知らせ」
「お前それハンドルネームにして購買コムのレビューでやりたい放題やるのそろそろやめろよ」


●2 近森ととろ対大型台
「大型台? あの木工やる部屋?にあるんじゃない?」


●3 霧崎対黒鉄懐
「黒の一字のわりに、髪は金色なのだな」
「またまたぁ。霧崎様にしては抜けてるなぁ。黒が懐かしいって書いてるでしょ?」
「染髪代で懐の金を失うということじゃないのか」
「国テツ(かねへんに矢)ネタかよ」


●4 松戸白秋対迫文彦
「さす迫くん。君の名前、いいね。実にいい。しんにょうに乗った機動力のある白。これは――やはり――白衣
ということでいいのかな?」
「いえ……?」


●5 鷲ヶ谷和穂対迫文彦
「♪迫るー先輩ーさすがのげーきーだんっ」


●6 大型台対先崎俊輔対後鬼閑花
「先輩が先崎、後輩が後鬼。こいつは出来すぎだな」
(お前らにだけは言われたくない!)


●7 黒咲あかね対黒鉄亜子
「あーちゃんなんて知りません。あなた誰ですか」
「え!?」


●8 黒咲あかね対真田ウェルチ
「アーチェリーなんて知りません」
「いきなりどした?」

276名無しさん@避難中:2013/08/26(月) 23:29:45 ID:YNmnq4uU0

●9 小鳥遊雄一郎
「よくタカとワシでコンビ扱いされるけど……俺ってどっちかというと、小鳥じゃないのか?」


●10 先崎俊輔の母対先崎俊輔
『しゅんくんおじゃがかってきておじゃが』
『どっちのじゃがいも?』
『はくしゃくじゃないほう』
「大手柄でも立てたか男爵」


●11 カップルウォッチャーととろ対ザザビーちゃん
『ザビビッ。実は影より密やかに仁科のマスコットキャラの座を狙っているザビ』
「ザビエルちゃんってあたしにしか見えないじゃん」
『ザザビーだっつーの!』
「サザビーじゃなかった?」
 ※ザザビーです。


●12 黒鉄懐対白壁やもり
「先生……」
「なに懐くん」
「俺、ガキのころ、やもり飼ってたんだ。こんくらいの水槽に砂利と水草入れて、“サラマンダー”ってかっこ
いい名前も付けて、毎日世話してた。サラマンダーはよく食べ、よく泳ぎ、よく石の下に隠れた。俺たちはいつ
もいっしょだった。心が通じ合っていたんだ。だけどあの日、夏の最後の、花火大会の日だよ、サラマンダーは
死んだ。突然だったよ。俺はショックでさ、泣いた。
 でも俺、思ったんだ。サラマンダーは死んだけど、俺の前からいなくなったけどっ、絆は残っているんだって
さ! 俺はその絆を勇気に、これからも生きていく。
 俺は……先生を見る度に、その決意を思い出す……!
「懐くん……」
「……俺の言いたかったのはそれだけだ。もしかしたら、ずっと、誰かに聞いて欲しいって思っていたのかもし
れない」
「それたぶん、いもりです」


●13 鷲ヶ谷和穂対上原梢対久遠荵
「さて、ここに奇しくも仁科合法ロリ三人娘が集まったわけだけど」
「いや……まだ違法じゃない?」
「わんわん! そもロリじゃないよ! 小型犬なだけだよ!」
「犬でもないでしょ」


●14 中型那賀対小型省対真田基次郎
「真田姉妹が真田先生の娘? どこからそんなデマが。あのな、金髪ってのは父親側から遺伝するんだぞ。真田
先生なんてどう見ても外国人じゃないだろ」
「金髪はともかく、真田先生って中央アフリカから来たんじゃないんスか? アンゴラとかあのへん」
「ゴリラの生息地は今関係ないだろ!」
「お前ら……いい度胸だな」


●15 鷲ヶ谷和穂対小鳥遊雄一郎対カップルウォッチャーととろ対後鬼閑花対先崎俊輔
「ボクがワシ、雄一郎がタカでしょ。そうそう、こないだミミズクの人も見掛けたんだよ」
「え。誰?」
「カップルウォッチャーととろ! 理科室を爆破しながらも、今日も学園のカップルを救った!」
 ……あいつか。
「ミミズクなのか? あの耳」
「元ネタ的にはね」
「元ネタとかいうなよ」
「ほら、先輩! あいつですあいつ! 私以外にもメタ発言している子!」
「いいよもうどうでも……」



 おしまい

277名無しさん@避難中:2013/08/26(月) 23:38:11 ID:YNmnq4uU0
以上。
名前ネタってちょっとデリケートな気もするけど、
あまり気にしないでくれると助かる。
五周年おめでと、創作発表板! 人増えろ! 規制解けろ!

278名無しさん@避難中:2013/08/27(火) 00:15:22 ID:klDyaeYY0
くそじわじわ来るw

279わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:24:44 ID:rm5Ky7n.0
わおー。5周年おめでとうごじゃいます!

合法ロリ三人娘w これは跳ねるw
あかねとウェルチのからみって、なんかよさそう。百合とかじゃなくって(そうでもいいけど)!

>>248
>ネタ的にも合宿って良いね
>部活陣で誰か書かないかしら |д゚)チラッ

書いたよ!合宿ネタ。
あと、板設立5周年企画のテーマの『ホラー』も…。

280『合宿わん!』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:26:22 ID:rm5Ky7n.0

 「よっしゃ!わおー!絵皿できたよ!」

 初めてだから不格好なのは承知だ。いきなり上手いヤツなどいない。
 へりの曲がった絵皿の前で久遠荵はいっぱつ遠吠えをかましてみた。その傍らで出来の悪い妹を愛でるように荵を眺める
少女がニコニコと微笑んでいた。彼女は荵からして一つ上の浅野士乃。南国の訛りの効いた温かみのある労いの言葉をかける。
 イヌの絵が描かれた未完成の絵皿は輝きの魔法をかけられるのを待つだけだった。

 「上出来、上出来。あとは焼くだけやねや」

  侘び寂びだらけにつくされる焼き物の世界も彼女らのて手に掛かれば、華やかなティータイムへと返信する不思議。
 泥だらけの手を洗面器の水で洗いながら荵は「わんっ」と鼻を鳴らした。

 「わたし、上手いですか?」
 「焼いてみないと分からんけど、わたしのモンより上手に作ったら『めっ』やけんよ」

 焼き物なら腕に覚えあり、どの子よりもいい仕事してみせる、とこの分野には譲れないものがあったが、荵の初々しい作品に
自分が焼き物の世界に足を踏み込んだ頃を思い出していたのだ。

 浅野士乃は創作部の二年生だ。部員各々思い思いのものを創作するとあう自由な方針をもつこの部。
 夏休みだからと浅野士乃は荵を誘って合宿を開いた。

 「士乃先輩と一緒にお泊りだなんて尻尾がばりばりだっ」
 「一応、合宿ってことで生徒会に届けておるけど、『高知家』に来たつもりで楽しんでくれや。もうすぐしたら、
  葎たちも来ると思うで」
 「わお!葎っちゃん先生!」

 学校の一室を借りて泊まり込む。表向きは部員相互の向上心だの切磋琢磨だの漢字を並べ立てるような目的だが、
言うまでもなくお泊り会だ。夜の帳が降りた学園はいやがうえにも創作意欲を掻き立てる。

 がちゃがちゃしたオモチャ箱のような部屋の中、焼き物に水鉄砲にポエムのようなもじられる綴られた大学ノートがあたりに
散らかっているけど、整然と並ぶよりかは安心感が漂うのが創作部の不思議であった。荵もまたそんな空気に飲み込まれる。

 制服姿の士乃も暗くなってから眺める教室が銀河の中を行き交う列車の一車両ではないのかと眩んできた。
 ガタゴトと黒潮を車窓に走る鈍行列車、士乃の故郷の土佐の国の暖かな風がほんのりと流れてきた……気がした。

 ふと。荵が悪戯っ子の顔をする。

 「士乃先輩。これ、何ですか」

 荵の指差す花瓶は個性的な姿で佇んでいた。芸術か、前衛か、アチャラカか。見るものをみな惑わせる作品だった。
 ただ、色つやはよく、まるで地中深くに人の目に晒されること無く眠っていた鉱物の輝きにもにた光を放ち、琥珀にも似た色合いで
平坦な蛍光灯の明かりで健気にも自分の価値を荵に主張をしていた。荵がつんと指で表面をさすると心地よい音が響き、ある種、
楽器とも受けとれるような一品と言っても過言ではなかった。しかし、士乃は淀んだ目でその花瓶を朦朧と見つめる。

 「それ、失敗……やけに」
 「やけに?」
 「チャレンジしてみたの。光の当て方で机に落ちる影が人じゃったり、熊じゃったり……ちゅう計算じゃったが、上手くいかねかった」
 「わたしはイヌに見えます!……かな。わおっ!ボーダーコリーみたいです!」
 「みんなは褒めてくれるけど、納得いかんきす。一思いにばりーんちいきたいけど、裾を引っ張る手がね」

281『合宿わん!』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:26:46 ID:rm5Ky7n.0
 花瓶から目を逸らす士乃はダメな子を諌める姉の顔をしていた。
 それでも花瓶は士乃の顔を曲面にぼんやりと反射させていた。

 「割れなかったんですか」
 「割れんかったんじゃ。でも、なんかね」
 「じゃ、わたし割りますっ」

 士乃が瞬きをする間より素早く荵は花瓶を引ったくり机の上に飛び乗った。王者が雄叫びをあげる佇まい、
両手で頭上に持ち上げた花瓶に部屋の明かりが重なった。夜の校舎の窓を雲一つない星空に現れた流星群が染める。

   #

 時、同じ頃。
 同じく学内で合宿を行うものがもう一人いた。

 夜の学校はちょっとしたファンタジー。
 昼間の明かりと夜空の影のコントラストに初めて気づくちょっとしたイリュージョン。
 だから、合宿場所に開いた小さな教室を選んだ。

 「我ながらナイスアイデア。こんなこと思いつくのって、わたしぐらい?かな?」

 ケモ耳のようなリボンが頭に二つぴょんと跳ねる、自画自賛で満足げな女子が天を仰ぎ見ていた。
 彼女の名は近森ととろ。ちょっとキュートで、ちょっと世話焼きで、ちょっと変わった二年生だった。

 照明を消した教室の中で、ととろは授業中には見られない夏の星座を机を椅子がわりにして眺めていた。
 織り姫彦星がいちゃいちゃと瞬いてるのを遥か彼方からのぞき見する。七夕過ぎても想いは繋がっていると、
魚肉ソーセージを口にととろは胸を熱くする。口の中にじんわりと肉の味が広がる。
 
 人様のリア充っぷりを垣間見て幸せを少しだけつまみ食い。
 人呼んで『カップルウォッチャーととろ』。
 初めての夏、初めての夜、そして初めての朝を教室で過ごす戻れないミルキィウェイ。
 『ととろの一人合宿』が一筋の流れ星ともに幕を切った。

 「この夏もよいカップルに出会えますよーに!」

 よくいえば趣のある、悪くいえばポンコツな小さな部屋。おそらくかつては事務に使われていたのだろう、分厚い書籍が
ずらりと棚に並び、白熱電灯が不安定に室内を燈す。レトロ感漂う古ぼけた部屋にノートパソコンを持ち込んで、
今日ののぞき見成果をまとめあげる。日々の積み重ねこそ財産だ。形、時代は違えども、ノーパソに本棚と志は同じだ。

 「後輩ちゃん、オオカミだなっ。がお!肉食系のオンナノコはどう転んでも乙女なのだっ」

 彼女が手塩にかけて育てた後輩ちゃん。
 後輩ちゃんが笑えばととろも笑う。
 後輩ちゃんが傷つけばととろも傷つく。

 真剣に、全力に、ときには恋のから回り。それでも絶対後悔はしない。そんな姿を拝見させて頂くだけで、近森ととろは眼福です!
 今日はオオカミらしく恋する相手を惑わせてみた。触れるか触れないかのすれすれの想い。オオカミは虎視眈々とチャンスを狙う。

 「先輩!この学校……出るんですって!何がって?ほら!夏の風物詩ですよ!がおー!!」
 「いざとなったら、閑花ちゃん、先輩をお守りします!閑花ちゃんは先輩のガーディアンになります!」
 「犬が出るんですよ……、学園を守る魔犬が。このご時世にそんなオカルト、え?古いですか!?」
 「でも……閑花ちゃんがピンチになったら、先輩……のこと信じてます!よ?」

 どう聞いてもウソっぱちの作り話だ。だが、後輩ちゃんはめげない子。
 恋する相手の先輩があきれようとも突っ込もうともオオカミの尻尾を振りちぎる。
 そんな一方通行の恋心が傍から見ているととろには琴線に触れるどころか、エレキよろしく歯で爆音を鳴らし続けて、
ととろの桃色のハートに銀に鍍金された矢がざきざきと刺さりまくりであった。

282『合宿わん!』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:27:13 ID:rm5Ky7n.0
 「後輩ちゃんが先輩を守るところ・・・…ちょっと、見てみたいしー。出るかな?ってか、出てください!」
 
 上手くいけば喝采、下手すれば慰めてあげてね……と、リアルな恋愛ドラマを特等席で鑑賞していたととろ、この感動を残し、そして
辛いときには思い出し、明日への糧えと支えとエナジーチャージをするのであった。

 「合宿っていいなっ」

 この際、突っ込むことは控えておこう。意図する意図しないはさておき、すべてのボケに突っ込むことは正解でもない。
 一番ベターはチョイスは一緒にととろと幸せを分かち合うということである、今夜は。

 学園の窓を彩る流星群がやって来た。お星様が恋人たちの幸せを願うのに、ととろもちょっと便乗してみた。
 きっと、いいことあるかもね……と。

 気分が乗るとキーボードを打つ手も雄弁。調子に乗って後輩ちゃんのナイスファイトを書き記していたときのこと。
 ふっと周りが暗くなる。月が雲間に隠れたか?いや、違う。頭上の電灯が消えている。周りは闇、照り付ける太陽を失った海原のよう、
すがるすべは一叟の小船だけ。白熱電灯が天寿を全うし、真っ暗闇のなかととろは我を失った。

 「ちょ、ちょっと!今晩真っ暗な中で過ごすの?」

 とにかく代わりの電球をと考え無しに立ち上がる。やみくもに足を一歩出すと、ノーパソの電源コードに引っ掛かる。
 ぷちと憐れノーパソもデータを抱えたまま断ち切れて、完全完璧にブラックアウト。

 「あれ!やばい!やばい!」

 涙目浮かべるととろに追い打ちをかけるように、上の階から陶器のようなものが割れる音が響き渡った。
 耳をつんざくような鋭利な音はととろの平常心をざんざんと切り裂いた。こんなに人を恐怖のどん底へと陥れる音響があるものかと
ととろは目に涙を溜めながら疾風の如く部屋から飛び出していった。手にしていた魚肉ソーセージは宙を切り、床へと転がった。

 「きゃああああああ!!!!!」

 日中に貯めた幸せインジケータも見るに堪えないぐらいのマイナスレベルに振り切ったのは言うまでもないお話だった。

    #

 「流れ星だよっ。希望の一筋ですっ。きっと士乃先輩ならば涙滲む過去を振り切って、光溢れる未来を掴むことが出来ますっ」

 夜を切り裂く流星のように荵が投げ付けられた花瓶が一つ、作業用の土間で粉みじんになって砕けていた。

 その瞬間、静寂なる夜と荵との間につんざくような陶器が割れる音が響き渡ったことを士乃は目の当たりにしていた。
 お星様になった花瓶の破片をつまみ上げ、創造主である士乃は「これでよかった……かねや」と呟いた。

 全知全能の神などおらぬ、作り主は皆血が通う人間だ。
 だから目の前の残骸を認めれば良いではないか。

 「やきね……」

 小さく頷いた士乃は破片を机にことりと置くとちかちかと灯る蛍光灯を見上げた。

 「わたし、やるけんよ」

 創作の神が舞い降りた。
 何故に。
 それは士乃が人間だからだ。
 人間だからこそ、神を憑依させねばならぬ。
 何も力を持たぬ人間だからこそ、神の力を借りなければならぬ。

 その神が舞い降りた。
 もくもくと沸き立つ創作意欲、きらきらと輝く瞳、わなわなと武者震いする脚、そしてまだ見ぬ新たなる作品への想い。

 くるりと士乃は一回転するとふわりとスカートがめくれ上がった。

 「わお」

 荵は一人で戦いに挑む土佐のジャンヌダルクの姿を夜の教室に見た。

 士乃が新たな作品のイメージを膨らませ始めたので、おいてけぼりの荵はお手洗いに出掛けた。
 グレーのリノリウム敷き詰められた蒸し暑い廊下さえも、合宿気分でレッドカーペットにさえ見えてくる。
 両脇には手を振る観客、止まないフラッシュの嵐、ありもしないものだけど荵には見えてくる。
 ただ、へたりこんで仔犬のように震える近森ととろの姿は荵にははっきりと見えた。

283『合宿わん!』 ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:29:18 ID:rm5Ky7n.0
 「わんっ」

 こぶしを天高く突き上げて荵が小さく吠える。

 「きゃああああ!野犬だ!」

 ととろの断末魔のような叫び声に荵の方が驚いて、すとんと尻餅をついていた。
 上靴を片方残して振り返ることなくととろは荵から逃げ去ったり、荵はくんくんとととろの上靴を拾って嗅いでいた。

 「こいつは事件のにおいがするなっ!わおーん!!」

    #

 士乃が残る創作部の合宿部屋に他の部員がやって来た。士乃の同級生でもある金城葎だった。

 「しーのー……あれ?いるのいないの?」
 「……」
 「はっ。士乃らしいや」

 ジャージ姿にハーフパンツという女子としてはあまり色気のない出で立ちで、新たな自作のおもちゃの水鉄砲を抱えた葎は
まるで無邪気な男子中学生のようだ。葎に気付かない士乃の手元を盗み見すると、焼き物で出来たペンダントを発見した。

 「しーのーっ」
 「わあ!びっくりしちゅう!」
 「何?そのペンダント、作ったの?」

 葎の問いかけに士乃は小さく頷いた。
 さっきまで花瓶だった焼き物がささやかなペンダントになったのだ。
 破片は磨かれ、色つや美しく、星屑にも負けない輝きだった。
 
 不死鳥だ
 フェニックスだ。

 不死鳥は自分の死期を悟ると自らの体を祭壇の火で焼くという。焼き尽くされた体は灰となり、煙となるが……新たな命を宿して
再び輝きを戻すと言う。そう。花瓶は姿を変えて、不死鳥の如く蘇ったのだ。

 「創作が上手くいくように!のおまじないやき」

 ジャージを脱いで『金城』のゼッケンを付けた体操着姿の少女に士乃はペンダントを贈った。
 葎はちょっと二人きりとはいえ恥ずかしくなり、士乃にかるーく肘鉄をお見舞いした。


    おしまい。




 と、終わるのはまだ早い。

   #

 どたどたと廊下を駆け抜ける一筋の風。
 彼女の頭のケモミミリボンさえも付いてゆくのがやっとだった。
 そう。近森ととろは恐怖の余り、誰も居ない(はずと、ととろは思い込んでる)校内を全力疾走をしていた。

 「戻りたくないけど!戻らないと魔犬が来るよ!!」

 真っ暗な部屋にもんどり打って駆け込むととろ、外よりはましだ……合宿なんかするんじゃなかったと後悔の念。
足元が暗いから部屋から、飛び出すときに放り投げた魚肉ソーセージをぐにゅっと踏んづけてまたも金切り声を上げる。
片方の上履き履いていないもんだから、ダイレクトに肉感が靴下を通じてととろを襲った。なんともいえない心地悪い踏み心地だ。

 「わおーん!わお!」
 「ひゃああああ!でたぁぁ!!魔犬だぁぁ!!」

 荵の声が廊下にこだました。事件だ事件だと一人で心躍らせて、夜中の学校をお散歩さんぽ。
 しかし、ととろにはもはや野犬の叫びにしか聴こえなかった。後輩ちゃんの作り話はととろの願い通り真実となった。

 「わおーん!」
 「後輩ちゃーん!!」



   おしまい。

284わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/08/27(火) 19:29:32 ID:rm5Ky7n.0
ホラーでした。
そして、タロット企画。

>>252
> 1【魔術師】浅野士乃 ※正:始まり・個性・独創・技能の進歩/逆:創造性の欠如・トラブル・神経質・反抗的
>ふたりめ。
>かなり悩んだけど創作関係っぽい意味もあるし、士乃かなぁ……。
>とりあえす個性的なトラブルメーカーなのは間違いない。そして今日も騒動が始まる。

士乃「魔法をかけるきね!」 
葎 「方言魔法少女って、新しい……のかな。しかも土佐弁」

ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/547/shino_magi_.jpg

285名無しさん@避難中:2013/09/04(水) 11:15:21 ID:2i559F.w0
>>280->>283
その魚肉ソーセージ言い値で買おう(真顔)。

ホラーかこれwww
なごなごしてしまった。

葱すけはどこにでも現れて誰とでも仲良くなるな。そのくせ自己主張も忘れない、狡猾な子!
「じゃ、わたし割りますっ」じゃねーよw確かに破棄して気持ちをリセットするのはよくやるけど。
学園の魔犬……魔犬使い……うっ頭が……

高知家って何だ?と思ってたらちょうど下に広告が出ていて笑った。旬のネタにも敏感なわんこ氏だから!

ととろマジぼっち充。「一人でする合宿なんてなぁ合宿とは言わねぇんじゃねぇか?」
にしてもととろって後輩大好きすぎだよね。


>>279
跳ねる!?
ウェルチを最後に見たのはいつだったか……と思いをはせてみたら、漫画に出ていたので結構最近だった。
俺も一回あかねで何か書いてみたいんだけど、あの字ちゃんはあの字ちゃんで掴みどころのないところあるからなぁ……
個人的にハイテンションで強引に押し切れない分わんわん王より難しい。
もっと大量にネタが降って来るのを待つことにしよう。


>>284
ぎゅ、牛丼が燃えている!?
この得意気なツラがいかにも魔術師っぽい。
土佐弁の魔法少女……ああ、高知にはいざなぎ流残ってるしな。……。それ魔法少女違うです。
しかし士乃が魔法なんて覚えたら何かの弾みで学園が吹っ飛びそうだなw

286名無しさん@避難中:2013/09/06(金) 12:48:14 ID:ElhSQ0PMO
ちびっこばかり集めたい。
鷲とか犬とか後輩とか梢とか千鶴とか亜子とか。
そこにぽつんと先輩だけを投入。

287名無しさん@避難中:2013/09/06(金) 23:52:54 ID:XpSPbn7I0
いいなあそれ!

288名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 00:05:55 ID:UgFCE4NI0
先輩がKAROUSHIしてしまう!
KAROUSHIよDENGAKUは世界の共通語だ!

289名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 06:48:48 ID:xv4BzBwY0
だが奴のことだから華麗に捌ききるんだぜ、きっと……

290名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 11:21:15 ID:o0vBuR2MO
葱……ボケ
後輩……ボケ
鷲……ボケ
亜子……ツッコミ
千鶴……ツッコミ
梢……ツッコミ

何気に先輩抜きでも完璧な謎の均衡w
しかし後輩亜子千鶴ってちびっこのくくりで良いのか?w
体格設定はあんまり覚えてない俺

291ダブルストップ[1]:2013/09/07(土) 21:07:30 ID:HyRzu4dk0

――また、いる。

 気配で分かる。分かり易すぎる。
 後を、ぴったりとついてきている。
だんだんと慣れてきてはいるけれど、やっぱり気持ちが悪い。

“つけられている”という感覚。

――いい加減にしてほしい。今日こそ、言おう。

 心に固く決めて、電車に乗る。


 電車の車内は、中途半端に混んでいた。
シートに掛けている人と人の間に、座れそうで座れない程度の隙間が目立つ。

――少し詰めれば、もっと座れるのに……。

そう思っても、しょうが無い。そこに尻をねじ込むほどオバサンでもない。
けれど、車内には杖をついたお爺さんや子供を抱えた若いお母さんだっている。

――どうして、想像力を働かせないんだろう?

詰めてスペースを作れば、彼らが座れる場所ができる。

 一方で、別の可能性を考える。

――赤の他人にぴったりくっつくことは不審がられるから? 個人領域を侵されるようで嫌だから?

 分からないでもない。
何もないところで、やたら近づいてくる人はいる。電車に立って乗っていると、なおさらだ。

――でも、今は違うよね……。

 シートに座ってまで痴漢を仕掛けてくるヤツには、いまだ遭ったことが無い。
自分が無いだけで、他の子はあるのかもしれないけれど。

292ダブルストップ[1]:2013/09/07(土) 21:09:54 ID:HyRzu4dk0

 発車間際のベルが鳴っているところへ、若い男が閉まりかけのドアを押さえて割り込んできた。

 白いスーツに、黒い柄シャツ。胸元が大きく開いているところへ、金のネックレスが覗いている。

――まったく、もう・・・品がない。

 ため息を吐き、男の方を見ないようにしてつり革を握る。

 前に座っている同年代の男の子。足を大きく広げ、その間に大きなバッグ――きっと運動部だ――を置いて、たっぷり二人分を確保してスマートフォンを弄っている。

――その“長い足”を踏んづけてやろうか。

 思っても、そんな度胸はない。黙ってつり革を握っている。
無言の抗議、そんなものは彼らにとって何の意味もない。周りが見えていないから。
下手に注意などしようものなら大変だ、難癖つけられてこちらが危ない目に遭いかねない。

 だから、大人たちも誰も何も言わない。
迷惑はお構いなしに、大きな顔で振る舞う人間の天下だ。

「兄ちゃん、そこ詰めてもらっていいかい」
ドスの利いた声が、間近で聞こえた。

 さっきの男だ。剃ってしまって殆ど無い眉を逆への字にして、睨みつけている。
車内にさっと緊張が走る。

――ああ、起こってほしくない事態が起きてしまった。

もう、諦めの気持ちだった。

 前に座っていた少年は、気まずそうに、けれどのろのろと足を狭める。
男が――もう、こう言ったほうが早い――チンピラが、足元の大きなバッグを軽く蹴る。

「でかい荷物やなあ」

――もうダメだ。

 この後、どうするか懸命に考える。
出来たスペースに、チンピラが座る。

 ちょうど駅に着いた。
降りる駅ではないけれど、降りて別の車両に乗り直す。

少なくとも、最悪の事態は逃れた。

――でも……

いろいろ面倒な思いを抱え込んで、家路についた。



♪ ♪ ♪

293ダブルストップ[1]:2013/09/07(土) 21:12:52 ID:HyRzu4dk0

「お母さん、今日も居たんだよ。どうにかできないの」

 帰宅してすぐにぶちまけた。
母はきょとんとしていたけれど、すぐに、ああ、と笑って台所へ戻った。
台所へついていき、制服のまま、新聞紙の上の唐揚げの小さいのを摘む。

「こら、手を洗いなさい。それから着替えて」

揚げ物をしている母は、菜箸を片手にこっちを睨む。

「唐揚げかぁ。太っちゃうな」

 そう言いながら、自分の部屋へ向かった。
 母の唐揚げは、からっと揚がっていてジューシーで、生姜の香りが効いていて、つまり、すっごく美味しい。
いつも、つい食べ過ぎてしまう。



♪ ♪ ♪



 弓を弦に当てて、ゆっくりと引く。
チューニング・メーターの針が中央をさまよう。

 チューニングだけはしっかりやれ、と言われた。それからメトロノーム。
コツガイ先輩は、自分のパートはサックスのくせに他の楽器も詳しくて、「こういう感じに吹くんだ」と言ってはトランペットやフルートを
吹いてみせた。管楽器だけでなく、ピアノやチェロ、ドラムまで叩けた。

 それが、部の女の子と仲良くなるためだと教えてくれたのは、別の女性の先輩だった。

「コツガイ先輩には注意した方がいいよ」

そう言って教えてくれたのだ。

 たしかにノリが軽くてチャラい感じではあった。
けれど、音楽に対してはとても真剣で、うまく言えないけれど、先輩は “自分の表現” を常に追求しているような印象を持っていた。

294ダブルストップ[1]:2013/09/07(土) 21:17:19 ID:HyRzu4dk0

 コツガイ先輩が、実際にそういうちょっかいを出してくることはなかった。
自分が “そういう魅力” に欠けていたのかもしれないけれど。自分にとっては、ただ真摯に音楽のことを教えてくれる先輩だった。

コントラバスの大きさを持て余しているところに、弓とチューニング・メーターを買うこと、いつもメトロノームを鳴らすことを
熱心に教えてくれたのは、コツガイ先輩だった。

「ナギサワさん、頼むから、オレを助けると思って、メトロノームとロングトーン、やってくれ。ベースがしっかりすれば、絶対いい演奏になるんだ」

 コツガイ先輩の目は、血走るくらい真剣だった。自分より年下の、音楽もろくに分かっていない女の子に対して、頭を下げている。
当惑して、とりあえず言われた練習はしっかりやることを約束した。それは実際、続けるに苦ではないものだった。

 チューニングを合わせ、メトロノームを鳴らしてロングトーン。ゆっくり弓を引いて、左手のかたちを確かめながら。
それからスケール、クロマチック……。
 基礎練習は、嫌いじゃない。単純作業のようでいて、突き詰めると工夫の余地がいくらでもある。

「ベースがしっかりしたピッチ(音程)とリズムで弾いてくれりゃ、あとはどうにでもなる。ベースって、文字通り『土台』なんだよな」

 コツガイ先輩が言ったセリフを思い出した。それを聞きながらわたしは、

――先輩、間違ってます。「文字通り」だと綴りが違います。

と思いながら、でも言わなかったのだけれど。



♪ ♪ ♪

295名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 21:18:06 ID:HyRzu4dk0
↑すみません、以上で

296名無しさん@避難中:2013/09/07(土) 21:44:12 ID:ffDuqHiA0
おつん

297名無しさん@避難中:2013/09/08(日) 16:22:26 ID:lYPTGCY.O
つ、続きを!

298ダブルストップ[2]:2013/09/16(月) 18:38:07 ID:EnO3M.CE0

中学校を卒業した後、それまで住んでいた土地から逃れるように、ここに引っ越してきた。
新しい学校で、わたしの目標はただひとつ。極力、人目につかないこと。

カタギの暮らしをさせてやってくれ――と言ったのが本当かどうか、知らない。
けれど父は生前、ときどきそんなことを言っていたらしい。


父はいわゆるやくざ者で、田舎の小さいながらも一家の親分だったらしい。けれど歳の離れた嫁――つまりわたしの母だ――には、
その筋の世界から遠ざけるようにしていた。
……というのが本当かどうか知らない。お葬式の席で聞いた話なのだ。

けれど、ちっともそんなことはなかった。
小学校の頃から、運動会には学校の周りに黒塗りのベンツ(じゃないかもしれないけど、わたしには車はすべて同じに見える)が停まって、
授業参観日にはなぜか母に若いスーツの男が数人、付き従っていた。


小学校の4年生くらいから、自分の家は普通じゃないんだと悟った。
他の友だちと同じような家ではない。
クラスの友達に
「まいちゃんのお父さん、おしごと何してるの?」
と聞かれて、答えられなかった。

何をしているのか、わたしも知らなかったから。


♪ ♪ ♪

299ダブルストップ[2]:2013/09/16(月) 18:41:18 ID:EnO3M.CE0

「タツジさん」

駅に向かう途中の、人気のない通りで立ち止まり、声をかける。
返事はない。
振り返ると、電柱の陰に白いスーツのジャケットがはみ出ている。
隠れてもいない。だるまさんがころんだじゃあるまいし。
引き返し、電柱の影のスーツを引っ張る。

「あ、あぁお嬢さん。これはこれは、お早うございます」

たった今気がついた、というふうを、学芸会レベルの白々しい演技で装い、引き攣った笑顔を浮かべて応える。
しどろもどろになりながら目が泳いでいる。

「タツジさん、なんでつけてくるの」

30過ぎたばかりの、粋がっているくせに童顔で憎めないチンピラは、目を逸らして言う。
「つけてたなんて、そんな。オレはたまたま朝の散歩をしてただけで。あ、お嬢さん傘、持ってますか? 今日は午後から」
「この前も、わたしをつけて電車に乗ってきてたよね」
途中で遮って、詰め寄る。

「しかもインネンまでつけちゃって。どうしてそういうことするの」
ようやく彼がわたしを見た。困った顔だが、不満気な表情がありありだ。
「インネンったって、あのガキがフザけた座り方してやがるから。お嬢さんが乗ってきたってのに、どきもしねえし」

――まったくもう。
つまり行為は認めたわけだ。

「あのね、わたしは大丈夫ですから。放っといて欲しいんです。わたしも、お母さんも」
「はぁ……」
タツジさんは、肩を落としてしょぼんとしている。その姿だけは、叱られてうなだれた犬みたいでかわいい。



♪ ♪ ♪

300ダブルストップ[2]:2013/09/16(月) 18:43:46 ID:EnO3M.CE0

学校の音楽室で、コントラバスを弾く。

この高校に入ったとき、わたしは部活には入らないことを決めた。
音楽は好きだったし、できれば楽器は続けたかったのだけれど、目立たないことが最優先だ。

遠征などあれば、どこから嗅ぎつけたのか、誰かしら「若いもん」がつけていたりする。
黒い車を見るたび、げんなりした気分になる。


だから、部活に所属しないまま、楽器だけ弾いている。
オケ部が使わなくなった古いコントラバスが音楽準備室に放置されているのを知ったからだ。
駒が歪んで調整に出さなくてはならないのだけれど、持って行くのは大変だしお金もかかる。
代替の楽器があるので、こちらは使われていないということらしい。

音の低いコントラバスが主旋律を弾いてサマになる曲というのはあまりないと思っていたけれど、ジャズにはそういう曲がたくさんあるのを、中学の時に知った。
目下のわたしの課題曲は、『You’d Be So Nice To Come Home To(帰ってくれれば嬉しいわ)』という曲だ。
古くからある曲だそうで、それをコントラバスを主役に演奏しているCDを聴かせてもらった(それを持ってきたのもコツガイ先輩だった)。


その曲は中学の時に演奏する機会はなかったけれど、譜面はもらっていた。
譜面をもとにCDを聴きながら弾いていると、コントラバスの難しさ、音の深さを実感できる。
ちょっぴりもの悲しいメロディが気に入って、わたしはそれを練習するのを放課後の日課にしていた。


♪ ♪ ♪

301ダブルストップ[2]:2013/09/16(月) 18:48:02 ID:EnO3M.CE0

父の思い出は、あまりない。

あまり家に居なかったからだ。
ごくたまに帰ってくると、欲しいものないか、買い物行こうか、そんな話ばかりだったように思う。
父は母よりもずっと歳上で、いつもスーツを着た大人が取り巻いていた。
決まった顔ぶれなので、わたしも顔と名前くらいは知っている。

「お嬢さん、ジュース買ってきましょうか」
「お嬢さん、疲れてないですか」

大人がわたしの世話をするのを、どこかで変だと感じていた。
そんなわがまま言っちゃいけない。そんな無駄遣いしちゃいけない。
わたしは、もしかしたら恵まれた環境にあったのかもしれないけれど、それを享受するのに後ろめたい気があって、
拒んでいた。


父が亡くなった時は、もちろん悲しかった。
わたしのことを知っていてくれる人は、母だけになってしまった、そのことが深く心に残った。
一方で、やくざの(そういう)世界から脱出できる、とも思った。

わたしは「ふつうの女の子」になりたかった。

302ダブルストップ[2]:2013/09/16(月) 18:48:48 ID:EnO3M.CE0
↑以上で

303名無しさん@避難中:2013/09/16(月) 23:42:36 ID:5aoQp6.IO
わお

304わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/20(金) 19:01:17 ID:MnzBFMWI0
>>298-302

こんな事が起きてました。

305わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/20(金) 19:01:53 ID:MnzBFMWI0
   『月』


 『You’d Be So Nice To Come Home To』

 この曲の意味、きみは分かるかい。

 天月音菜は下駄箱に腰掛けて、小さな児を諭すように呟いた。岩場の影の人魚姫にも似た佇まい。

 目をぱちくりと瞬かせ、生まれたばかりのひよこにも似た顔をして、一人の少女が下駄箱の上の人魚姫を見上げていた。
 いや……彼女は人魚などではない。すらりと伸びた黒ストッキングの脚が少女の目の前でクロスする一人の少女だ。
 白いシュシュで結ばれた髪の毛が歳よりも落ち着いたように演出し、鬼太郎のように前髪で隠れた左顔は歳よりも子供っぽい。

 そんな娘に迷わされて二の腕をぎゅうっと掴む、簀の子の上の少女が一人、家路に付く前に立ち止まった。黒髪長く大人びた
スタイルと思いきや、おでこの四つ葉のピンが子供じみた少女だ。そんな子を天月は手の平で挑発しているようにも見えた。

 「よく聴こえるんだよ」
 「何がですか?」
 「コントラバスの調べは教室の声にも似ている。ジャズは人を酔わせるんだ」

 秋の放課後の下足場はしんとして空気が大分柔らかい。

 天月音菜という娘はその名の通り天に浮かぶ『月』だった。
 色白く見るものを惑わせる白銀の星、気にかけることはさほどないが、いつの間にやら姿を現し、気を許したらならば身をくらます。

 「わたしには聴こえませんっ」
 「ほう……」

 下駄箱の上の天月がまた脚を組み替えると、天高くちらつく黒ストッキング越しの白いおぱんつが朧月夜に見えてきた。
 いくら月が美しく季節でも、まだまだ月夜の時間は遠いが、いにしえの人が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したではないか。

 「You’d Be So Nice To Come Home To」
 「はいっ?」
 「『帰ってくれれば嬉しいわ』。そんな曲」

 黒髪の少女が聞き慣れない英文を耳にしたかとその刹那、ぴょんと天月音菜が空を舞う。うさぎが星屑の間を擦り抜けるように。
 ふわりと音菜のスカートが空気を包んで脚に纏わり付き、ブラウス越しからでも分かる完璧なるスタイルが蛍光灯に照らさる。
結んだ後ろ髪は蝶のようにひらめいていた。ふわりと花びら散らされて、あたり一面が白銀の色に染まる。

306わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/20(金) 19:02:14 ID:MnzBFMWI0

 「……」

 ばん!

 ヒーローよろしく簀の子に着地した音菜の髪が揺れる。
 長い髪の少女へと振り向きざまに一言胸踊る捨て台詞を残した。

 「また、あなたとはどこかで会いそうだね」

 下駄箱に残された少女が意味を噛み締めている間、天月音菜は朝方の月のようにすっと朧げに姿を消した。
 涼しかった朝焼けも、九月になると肌寒くなるSeptember。一人ぼっちの少女はぎゅうっと自分の二の腕を掴んだ。
 きょろきょろと周りを見渡し、気配が感じないことを確かめる。

 「……」

 ばん!

 肩に掛けていた通学かばんを投げ置いて、下駄箱に手を掛け、足掛けてよじ登る。長い髪を振り乱し、行き着く先は下駄箱の上。
天月のように腰掛けるとおぱんつが露になるからと、天井に頭ぶつけそうになり這いつくばって、髪掻き揚げてそっと耳を傾けた。
 まるで自分が岩山の頂を征したオオカミになったような気持ちだ。

 だが、オオカミは……孤独だった。

 聴こえてこない。
 コントラバスの搾るような重低音が。
 ただ、聴こえてくるのは『しん』とした放課後の声。
 真っ白いキャンバスに真っ白な絵の具で塗りたくったような真っ白な空気だった。

 やけに地上が霞む。
 たとえ、友人が近づこうとも気付くそぶりも出来ないなんて。

 「あかねちゃんっ。帰る前に部室寄ろ……って」」 
 
 下界からの声。もはや、天井の静けさを知った今、耳になど拒みたくなるような……いや、自分の名を呼ぶ声だ。
 この世に二つとない自分を表す文字羅列だから聞き逃せない。いわんや友の声をや。

 「……あかねちゃん?」
 「いや……あの」
 「何?新しい遊び?わたしも行くぞっ」
 「久遠っ。違うの、違うの!」

 尻尾を振りながら簀の子の上で久遠荵は手を突き上げた。

 あかねはふと、天月音菜の言葉を思い出して『帰ってくれれば嬉しいわ』と口にしようとしたけれども、
コントラバスの音が聴きたくて一先ず胸に引っ込めた。


   おしまい。

307わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/20(金) 19:03:40 ID:MnzBFMWI0
昨日はでっかい月、見えたよ!

おまけ。天月さんだよ!
ttp://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/583/okurimono.jpg

投下おしまい。

308名無しさん@避難中:2013/09/20(金) 19:24:07 ID:fKe6eyew0
み、見えそう…

309名無しさん@避難中:2013/09/21(土) 13:32:59 ID:dXgaWjAIO
音菜「見せてんのだよ」

310わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/25(水) 19:35:08 ID:Jvw8QISU0
連投、失礼致します!
アーチェリー部の誰かをお借りします。

311『夕陽音楽団』 ◆TC02kfS2Q2:2013/09/25(水) 19:35:50 ID:Jvw8QISU0

 忘れ物をしたと学園の女子高生・武政千鶴が教室への廊下を駆ける。
 放課後の校舎にわたし一人だけ、だから遠慮なく足音立てる。短い三つ編みがテンポよく揺れて、千鶴にちみっとついて来る。

 人を待たせているから。人を待たせているのにも関わらず、教室に大事な忘れ物をした。おまけに部活をサボってる。
 アーチェリー部だ。本当は出ようとしたんだけど、同じ学年の幽霊部員から誘われた。相川拓司というヤツだ。おまけにもう一人
犠牲になっていた。ちょっとは罪悪感を感じるろよ、いや、誰もが認める幽霊部員がやることならば、そんな正義感は期待しちゃ
ダメだろう。それに待たせている相手も同じく部活をサボっている同士だから世話はない。

 「もーっ!なんで忘れものしたんだろう!」

 憤りをぶつける相手も無いか仕方なしに叫んでみる。
 声を出せ、と誰かから唆されたように。
 不生産的な悪あがきをしているうちに二年生の教室へ脚が差し掛かった。千鶴はふうっと息を吐く。
 見慣れた教室が自分をせせら笑っているように見えてくるから不思議だ。
 夕焼けに染まる教室は赤と黒のコントラストでくっきりとサイケデリックに目に刺さる。

 がらりと教室の扉を騒々しく開けると、見ず知らずの少女が千鶴の席で寝ていたのだ。
 緑の黒髪長くつや美しく、前髪に四つ葉の髪留め付けた名前も知らない子が千鶴の椅子に腰掛けて、すやすやと遊び疲れた仔犬に
負けないぐらいの勢いで机に伏して寝ていた。千鶴は彼女を起こさないように足音を立てずに近づく。
 千鶴の忘れ物は机の中のノートだ。見ず知らずの少女にどいてもらわなければならない。しかし、夏の風がそよぐように眠る彼女を
起こすのは触るのも憚れる傷も無い焼き物の人形を割るようなことに似ていた。

 ちぇっ……と、ため息を漏らす千鶴の気配に気付いたか、髪の長い少女はゆっくりと俯していた顔を上げ、千年の時を越えて
目覚めたような光を放った。とは、ウソだが、千鶴はそんな比喩を浮かべる事で自分を落ち着かせた。目覚めた少女は千鶴を見るや
否や目を丸くして頬を紅く染めた。

 「ごめんなさい!わたし、一番前の席って憧れで!」
 「え?意味わかんない。ってか、そこ、わたしの席なんだけど」
 「だって……いつも、席替えでは一番後ろの席なんですっ」

 大人びた雰囲気を持ちつつ、四つ葉の髪留めに素っ頓狂な返答が子供っぽく見える少女に千鶴は額に汗を垂らした。
とにかく早くここをどいて欲しい。よくよく胸元の赤いリボンを見ると彼女は一年生のようだった。一つ先輩である二年生の千鶴は
……考えた。

 「一年生なのに、どうしてここにいるの?」

 もっともだ。それに自分の席に勝手に座ってちゃ、誰でも気になるし。一年生の少女は千鶴から顔を背けて話した。

312『夕陽音楽団』 ◆TC02kfS2Q2:2013/09/25(水) 19:36:15 ID:Jvw8QISU0
 「逃げてきました」
 「何?何かの組織から?」
 「そうですね」
 「マジ?追われてるんじゃない?」
 「追っ手ですか。来ますかね……?わざわざ、二年生の教室を逃げ場に選んだわたしを」

 黒髪の少女がすっと立ち上がると、背中まで伸ばした髪が木の葉のように揺れた。思わず千鶴は頭を上げた。それもそのはず……。
 背丈は男子とためを張るぐらいだ。千鶴の鼻は少女の首辺り、白い肌が襟元からちらり。
 背の低い千鶴は彼女を軽く見上げて、つばきを飲み込んだ。舞台の最前列で極上の演劇を見ているような気分だったからだ。
演劇は見たこと無い。でも、きっと最前列で鑑賞したのならば、こんな空気に吸い込まれてしまうんだろう。千鶴は瞬きを繰り返した。

 「先週もここに逃げてきました。その時頂いたクッキー……とても美味しかったですっ」

 ごく自然な立ち振る舞いで左向け左をした少女、髪が響くように靡く。
 大人のような目をして甘いクッキーを語る少女、まるで幼い娘。
 千鶴は「クッキー」というフレーズを非常に気にしていた。しかも、この教室で?

 「え?クッキー?もしかして、前髪の厚い、ちっこい男子だったからだたとか?」
 「男子でしたけど、はっきりと覚えてません」

 千鶴には思い当たりがあった。部活の同志だった。きっとそいつは山尾修ではなかろうか。
 山尾修はお菓子を作るのが趣味だ。味もそこそこ以上と周りから評価を得ている。手作りお菓子をいつも持ち歩いている
山尾修が黒髪の少女にお菓子を分けてあげること、それは容易に千鶴には想像出来るのだ。

 「クッキー先輩、いませんね」
 「いないよ。今、カラオケ店に向かってるし」
 「知っているんですか」
 「知ってるどころか」
 「また、ここに来ますかね」

 少女は窓の奥を見つめ、山尾修の姿を映していた。
 赤い空、黒く染まった雲。そこに山尾修。
 イケメンというより、イジラれくん。しかし、ヤツには武器がある。
 それがクッキーじゃないか。
 少女のハート突き抜ける洋菓子焼くなんて、なんてジェントルマン。それは言い過ぎか。だが、洋菓子は揺ぎ無い事実。 

 「また、食べたいな。あのクッキー」
 「ってか。組織は?いいの?」
 「よくありません。自分から逃げてきましたから」
 「捕まるんじゃない?」
 「むしろ、捕まえて欲しいかもです。部活サボって二年生の教室で油売ってるわたしのような子を」

 千鶴の背中に一筋の冷や汗が流れた。が、自分が部活をサボってカラオケに行くことを相川拓司と山尾修以外は知らないはずだ。

 「わたし、帰ります。部室に帰ります。また、クッキー下さい」

 少女は何かを伝えようとした千鶴を振り切って教室を飛び出した。けたたましく廊下が鳴き声を上げる。
 否や千鶴は目を丸くして彼女を追いかけていた。しんと静まり返るかわたれ時の廊下には、いやでも濃い影が落ちる。

 くるくると階段を降り、くるくると追いかける。必死に誰かを追いけるってこと、今まで生きてきたまでにあっただろうか。
 階段を上から覗き込むとめまいのような立ちくらみに吸い込まれそうで、それでも夢中に千鶴は走り、叫んだ。

 「修に言ったら!?それ!?」

313『夕陽音楽団』 ◆TC02kfS2Q2:2013/09/25(水) 19:36:43 ID:Jvw8QISU0
 真上からの声。さっきまで見上げていたはずの娘の声が階段の隙間を縫って真下から千鶴の元へ飛んでくる。
 一段飛ばし、二段飛ばしは当たり前。手すりにしがみつき、するするするっと彼女の元へ急ぐ。彼女のもとまであと5メートル。

 「すごく言いたいですっ」
 「じゃあ、カラオケ行く?一緒に?タクばっかりマイクの独り占めさせないよ!ね!わたし、あなたの歌声聴きいてみたいし!」

 少女は千鶴の何気ない言葉に心臓を鳴らせた。

 カラオケ……。

 少女の中ではカラオケは周りで拍手を送るだけのイベントだった。
 少女の中ではカラオケは友人たちの歌声を聴くだけの集まりだった。

 それは中学生まで。

 でも、今は女子高生。
 誰もが羨むJKですよ。
 カラオケぐらい行かせて下さい!

 わたし。黒咲あかねは……。
 
 「黒咲、早く部室に戻るんだ」

 踊り場に響く男子生徒の声。先輩だ。

 黒咲!?

 踊り場は小さなステージとなった。
 千鶴ははっと目を見開いて、最前列のシートで黒咲あかねの舞台を見ていた。

 「迫先輩!わたし……。『かっこう』をどう演じていいのかわかりません」
 「『セロ弾きのゴーシュ』。この舞台は黒咲が居ないとダメなんだろ?『黒咲あかね』の名前でみんなの前に出るんだろ?」

 千鶴が「黒咲あかね」の姿を再び見たとき、「黒咲あかね」の二の腕は一人の男子生徒によって掴まれていた。
 押さえつけられたウサギのように黒咲は大人しかった。千鶴の「待って!」の声も空しく、力なく。そして、黒咲あかねという子は
千鶴と一緒に降りてきた階段を……そして、逃げる為に走ってきた道を先輩と共に昇っていった。

 「あかねちゃん!!」

 階段の踊り場からあかねと迫と呼ばれた男子生徒が千鶴を見下ろす。
 ぴたと脚を止めて夕陽の逆光を浴びる。

 「部活……演劇部なんだよね。そうだよね?演劇……やるんだよね!わたしにはよく分からないんだけど……。ね! 
  それじゃさ!練習が終わってからでもいいから、カラオケおいでよ。間に合ったら、ラストの一曲歌わせてあげる」

 影だからあかねの表情は分からない。だが、千鶴には山尾修のクッキーを食べたときのような顔をしているんだと信じた。
 ゆらりと長い髪が縦に首振るあかねのシルエットとして赤く染まった窓ガラスに焼きついた。

 あかねが千鶴の前から消えたとき、千鶴の携帯電話がうなりを上げた。発信先はカラオケ店の相川拓司、今頃何曲目だろうか。
 夕陽が空を赤と紺色に分け隔て、その背景で山尾修がタンバリンを叩き、ステージでは相川拓司が一人でマイク握って
フィーバーしている姿が千鶴の目にぼんやりと浮かんでいた。待ってて。もうすぐ約二名加わりますから。新たな団員ですから。

 件名:「夕陽音楽団」。
 本文:「今行く。それからタク!最後の最後は取っておいて!」とメールを打ち、教室の忘れ物のことを忘れてカラオケ店へと急ぐ。



   おしまい。

314わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/09/25(水) 19:38:25 ID:Jvw8QISU0
投下おしまいです。

315ダブルストップ[3]:2013/10/03(木) 15:59:23 ID:zRDtC/EA0

「ナギちゃん、おはよー」
「おはよー」

 ニシトちゃんが笑顔で挨拶してくる。彼女はいつも笑顔を忘れない。
取り立てて楽しいわけじゃなくても、楽しそうに振舞っている彼女の気遣いを、本当に尊敬する。嫌味でなく。


 4時限目の授業中、窓の外を見ると空が真っ暗になっていた。
粘土が乗っかっているような、暗く厚い雲が空を覆っていて、風が強く吹いている。

「あちゃー、これは予報より早く降りだすね」
昼休み、ニシトちゃんはお弁当を食べながら窓の外を見て言った。

「部活、休みになんないかなぁ」
気弱そうに言う。普段の彼女らしくない。
彼女はバレー部だ。体育館の部活だけれど、こんな日は早く帰りたいだろうと思う。


 台風が予報よりもずいぶん早く上陸してしまい、5時限目には強い風に混じって横殴りの雨が降り始めた。
校内放送が、部活動は中止して早く帰宅するようアナウンスしている。風が校庭の木々を嬲っている。

「台風はいいよな、進路が決まってて」
誰かがぼやいているのが聞こえて、吹き出しそうになった。
進路に悩んでいるのはみんな同じなんだ、と思ったし、なんとも笑えて上手いと思った。


♪ ♪ ♪

316ダブルストップ[3]:2013/10/03(木) 16:02:52 ID:zRDtC/EA0

――まいったなぁ。

 傘を持ってきたけれど、この風じゃ役に立ちそうにない。
バス停に立っていても、濡れるばっかりだ。けれど今日は自転車で来ていないので、バスで帰るしかない。

「ナギちゃんはどうするの? あたし、お母さんが迎えに来てくれるんだけど、良かったら一緒に乗って行く?」
ニシトちゃんは、わたしを心配して言ってくれていた。

 けれど、それに甘える気にはならなかった。
ホントはすぐにでも甘えたい気分だったけど、送ってもらえば家の近くまで来てもらうことになる。
その途中で“組の人たち”に出くわすのが嫌だった。
 これまでの経験上、そういう時に限って遭ってしまうのだ。ほぼ100%。

「大丈夫、バスですぐ帰れるし」

「でも、」
言いかけるニシトちゃんから逃げるように、その場を後にした。


――仕方ない。帰ったらすぐお風呂に入ろう。

 わたしは役に立っていない傘を差しながら、バス停に向かった。

それでも数人はバス停に待っている人がいる。カッパを着込んでいる人も、ずぶ濡れだ。

――やっぱりポンチョを買っておくんだったな。

あらゆる方向から吹きつける風と雨で、制服は既に濡れて気持ちが悪い。



 黒塗りの高級車が、バス停前に停まった。
てっぺんに黄色いランプを載せているので、辛うじてタクシーだと分かる。

前の席のスモークが貼られた窓が開いて、
「ゴメンなさ〜い、お待たせしちゃった〜」

男の人がサングラスを外して、わたしの方を見ながら言った。

317ダブルストップ[3]:2013/10/03(木) 16:08:14 ID:zRDtC/EA0

――な、なんで来たの!?

タクシーは後ろのドアを開けて、待っている。
「早くぅ、雨が降り込んじゃうわよォ」
オネエ言葉で男の人が続ける。

――あちゃー、なんてこった。

 周りの人が、わたしとタクシーを見比べる。
その視線から逃げるように、タクシーに乗り込んだ。



「ごめんなさいねぇ。道が混んじゃってて」
左ハンドルの運転席で、サングラスの男が相変わらずオネエ言葉で話す。

「アキトさん……なんで、わたしの学校知ってるの」
「そりゃあ、ずっと前から……あっと、違うのよ、今日は奥様に頼まれたの。ホントよぉ」

――まさか、そんな。
うちの近くにいるならまだしも、学校にまで来るなんて。


――アキトさんの車にだけは乗りたくない。
そう思っていた。

 ひどく痩せていて、普段は物腰の柔らかいオネエなのだけど、車に乗ると人が変わる。
かなり飛ばすし、荒い運転でも信号無視でも何でもするのだ。



 小さいころ、遠足のバスに乗り遅れそうになったとき乗せてもらったことがある。
それはそれは怖い体験をした。映画のカーチェイスさながらで、アキトさんはそれをとっても楽しそうに
しているのが余計に怖かった。
 まあ、お陰で集合時間には間に合ったのだけど。


「アキトさん。ぜったい、安全運転してね」
前席のシート越しに言う。

「もちろんよぉ。アタシ今はちゃんとタクシー、やってるんだもの」

暴走するタクシーの映画があったような気がしてイヤな予感がしたけれど、
一番安全とされる運転席後ろに腰を落ち着ける。

318ダブルストップ[3]:2013/10/03(木) 16:11:51 ID:zRDtC/EA0

 雨は相変わらず激しく、フロントガラスを叩きつけている。
滝の中を走っているようで、前がまったく見えない。そんな中を、アキトさんは鼻歌を歌いながら
アクセルを踏む。速度を確認したくないけれど、きっと100キロくらい出ているに違いない。

――外を見るのはやめよう。速度をいやでも感じて怖くなる。

 車内に視線を巡らせた。
アキトさんの顔写真が、運転席の横にある。まるで犯人写真みたく、神経質そうな顔がこっちを
睨みつけるようにして写っている。

――こんな顔で、どうやって面接通ったんだろう。

聞いてみようかと思ったけれど、参考になる話は聞けないだろうと思い直して、やめた。



♪ ♪ ♪

319ダブルストップ[3]:2013/10/03(木) 16:16:24 ID:zRDtC/EA0

 バイトでもなんでも、働くときには試験や面接がある。

 クラスの子が、ある日髪を真っ黒にして来た時があった。

「バイトの面接あるからさー」

 普段はかなり明るめの茶髪だったので、代わり映えはひと目で分かった。
数日後、その子はもとの色合いに髪を“戻して”いた。

「先に入ってたヤツが最悪でさー、マジ使えねーの!」

 バイト先の話をしながら、茶色の髪を弄っている。


 なぜだろう?

面接の時は黒髪じゃないとダメで、採用されれば茶髪でもいい。

 髪の色なんて、正直言ってどうでもいいと思う。
好きな色にして、それでずっと過ごせばいいんじゃないの?
面接の時は黒髪に、ってなんのため? 黒髪じゃないとダメなら、どうして働き始めたらOKになるの?

よく分からない。



「ナギちゃんはいいよねー。地毛なんでしょ?」
ニシトちゃんが言った。

わたしの髪は、茶髪とまでは行かないけれど微かに栗色っぽい。
あまり気にしたことはなくて、これまで髪を染めようとか脱色しようとか思ったことはなかった。

 中学の頃から、髪の色を気にする友達が多くなった。それで注意される子も少なからずいた。

 ニシトちゃんは少しだけ脱色しているらしく、よく見ると茶色がかっている程度だけれど、
定期的に美容院に行って染めた話を聞く。

「自分でやると、うまくいかないんだよー。でも、その分ケアしてもらってるからいいけどさ!」

光が当たると紅茶色になる彼女の髪は、ショートカットと彼女の性格によく似合っていると思った。

320名無しさん@避難中:2013/10/03(木) 16:19:16 ID:zRDtC/EA0
↑以上で

>>304
『How High The Moon』か『Fly Me To The Moon』のほうが似合いそうなお話ですね。
ありがとうございました

321名無しさん@避難中:2013/10/05(土) 07:33:43 ID:7V2KNIREO
乙乙ー

「台風はいいよな。進路が決まっていて」ってセリフ、何気に気に入った

322名無しさん@避難中:2013/10/13(日) 21:49:36 ID:vhMo2aVQ0
>>321
もとはtwitterか何かでのネタのようです
2chのどこかのスレでコピペされてるのを見つけてメモって、使わせてもらいました
オリジナルでなくてすみません


では投下します↓

323ダブルストップ[4]:2013/10/13(日) 21:53:04 ID:vhMo2aVQ0

 体育祭の練習日。
 競技部分は入りと終わりだけ確認して省略し、全体を通してひと通り終わって、終了となった。

 後ろにまとめた髪を一旦解いて、頭を左右に強く振る。

――あーあ、きっと砂だらけだろうな。

 砂埃の舞う校庭で体育祭の練習をして、汗もいっぱいかいた。
身体をシートで拭くだけじゃぜんぜん物足りない。早く帰ってシャワーを浴びたい。

 手櫛をざっと通して、髪を再び後ろにまとめる。
面倒なのでダッカールで挟むだけにする。


 今日はポニーテールにしてきた。
髪をいろいろ弄るのが好きなので伸ばしているけど、長いと正直、面倒に思う時もある。

 服だって、この学校は制服指定じゃない。
いちおう制服はあるけれど、それでなくてもいいし、私服でも内申点に影響しない。

 お洒落なコたちは“なんちゃって制服”(制服風の私服)で通学しているし、実際それは、とってもかわいい。
 でも、ちゃんとした制服ではないし、いつも同じものを着ていると思われるのはやっぱり嫌だ。
 「制服」なら、そういう“批判の目”からはいくらか免れる。

 そういうズボラな理由で、わたしは“この学校の制服”を着ている。
 でも、制服はけっこう気に入っている。
 中学の時の野暮ったいブレザーとは違う。中等部からして洒落ていて、普通のコでも生意気に思えるくらいだ。


 その、気に入っている制服のブラウスのボタンを留めているときだった。
 ニシトちゃんがポツリと

「サキザキくんって、カッコいいよね」

と言ったのだ。

――それって、誰だっけ。

きょとんとしているわたしを見て、

「あっ、別に深い意味は無いよ! ちょっと言ってみただけだし」

慌てて弁解する。一足先に着替えたのに、まだ髪を弄っている。そんな彼女の姿をなんとなく眺めながら、

――さきざき、サキザキ……

と顔を思い出そうとした。


 聞き覚えはある名前だけれど、わたしは友達が多い方じゃないので、同じクラスでない人の名前は
思い出すのに時間が掛かる。

324ダブルストップ[4]:2013/10/13(日) 21:58:15 ID:vhMo2aVQ0

――ああ、あの彼か。

 1年の時、同じクラスだった。
「将来は公務員!」みたいな男子だ。わたしの勝手な印象だけれど。

 2年になった今では別のクラスだし、とくに気にも留めなかった存在だ。
ニシトちゃんは、その頃から“目をつけて”いたのかな?



 サキザキ君のことは、2回ほど後輩らしい女の子と一緒にいるのを見かけた。
彼氏・彼女というより、“飼い主とまとわりつく子犬”みたいに見えた。

 彼が何の部活に所属しているか、知らない。わたしには、彼がどう魅力的なのか分からない。
たぶんニシトちゃんにとっては魅力的なのだろう。


 ただ、彼が体育委員でもないのに黙々と用具の片付けをしたり掃除をしたりする姿に
好感が持てたのは事実だ。


♪ ♪ ♪

325ダブルストップ[4]:2013/10/13(日) 22:03:04 ID:vhMo2aVQ0

 第5ポジションの1弦。小指でFをどうにか押さえ、2弦の開放と一緒に弾く。

ダブルストップ――重音奏法とも言う。2つの音を同時に鳴らす奏法だ。

 特別なテクニックじゃない。ただ、わたしはこの奏法を気に入っている。
 開放のD、1弦のF。
 それぞれ、単音では素知らぬ顔をしていた音が、重なることでまったく気づかなかった表情を見せる。

「コード(和音)とは違うんだよ。でもさ、たった2音でも、すごく深いと思わない?」



 ダブルストップを教えてくれたのも、コツガイ先輩だった。

「これが1ヶ所、スパーンと入るだけで、ぜんぜん違うんだよ!」

そう力説して、わたしはワケも分からないまま、譜面にないその音をペンで書き加えた。



 コントラバスは、低音担当だ。弓で弾いたり、指で弾いたりするけれど、基本的には裏方だ。

 ダブルストップをやると、音が一気に華やかになる。
音が羽と色を持ったような、ふわりと浮かぶ感覚。けれど、派手に自己主張するわけじゃない。

よく聴けば分かる程度の、でもそれがないと面白みに欠けるというような、なんともよく分からない立ち位置。



 それは一世一代の見せ場のような気がして、それをカッコ良く決めるためにたくさん練習した。

 全体練習の時、なかなか上手く出なかったその音が、綺麗に出てアンサンブルに溶け込んだ。

326ダブルストップ[4]:2013/10/13(日) 22:06:09 ID:vhMo2aVQ0

――やった! 出来た!!

 嬉しくって、わたしは誰かに褒められることを期待したのだけれど、

「ナギサワさん。2ページ目の3段目、Fのとこだけど」

タクトを振っていた顧問の先生が、言った。



「ミュートできてないのかな? いっつもDが鳴ってる」

――えっ?

 イタズラがバレた時みたいに、わたしは頭のなかが真っ白になってしまった。

すかさずコツガイ先輩が、
「いや先生、オレがそう弾けって言ったんです」

「何でそういうことするの」

「単音じゃ音が細いと思ったし。これくらいのアレンジは、大目に見てくれて良くね?」



 沈黙。


わたしには、先輩と先生の間に火花が散っているように見えた。

「譜面にないことをやらせないでくれる? まして1年生に」
「……」
「勝手なことを演りたかったら、ジャズでもやってれば。でも、ビッグバンドだってちゃんと譜面通りに合わせているんだからね」
「……」

――ど、どうしよう!?

戸惑っているうちに、パート錬に戻ることになって、座が崩れた。
みんな何事もなかったようにバラけて楽器ごとに固まる。

327ダブルストップ[4]:2013/10/13(日) 22:17:22 ID:vhMo2aVQ0

「悪いね、ヤな思いさせちまった」

全体練のあと、コツガイ先輩がさっと寄ってきて、手で拝む仕草をする。

「あの、わたしはどうすれば……」

戸惑っているわたしにコツガイ先輩は、此方をじっと見て言った。

「オレの言ったことはとりあえず忘れて、譜面通り弾いてくれていい」



――え?


「練習では、ね。けど、本番だけは誰にも手出しはできねぇ。演ったもん勝ちだ」

ニヤリと笑って、続ける。

「ナギサワさん、バッチリ決まってたぜ。気持ち良かったろ? 絶対、あそこはダブルストップで弾くべきだ」

わたしの前にこぶしを差し出した。
それを見つめていると、

「何してんの、グー出しな」

言われるままに、じゃんけんのグーを出す。

そのこぶしに先輩のこぶしがぶつかる。


「やってやろうぜ。何言われようと、カッコいいこと演った奴が強いんだ」

――たぶん、“ミュージシャン”というのはこういう人のことなんだろうな。

混乱と得体の知れない高揚感とで、ろくに考えられないアタマで辛うじて思ったのは、その一言だけだった。



♪ ♪ ♪

328名無しさん@避難中:2013/10/13(日) 22:18:29 ID:vhMo2aVQ0
↑以上で。いろいろすみません

329名無しさん@避難中:2013/10/13(日) 22:29:09 ID:bzExpcwgO
先輩!コントラバスは何人乗りですか!?

…ではなく、投下乙乙!
段々とナギサワさんのことが見えてきてわくわくわくわく!

330わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/10/26(土) 11:41:40 ID:7gHgAyCE0
アーチェリー部・ウェルチ部長と山尾くんで書きました。わおん!

ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/612/welch_yama_Capybara.jpg

実際に撫でるとちくちくするよ!

以下より、どうぞ。

331『ウェルチ部長と山尾くん』 ◆TC02kfS2Q2:2013/10/26(土) 11:42:15 ID:7gHgAyCE0

 「ヤマくん、いつもお菓子ありがとう」
 「あげませんよ」
 「これだけ良い香りがするんだから、わたしを誘ってる他ないと思ったんだけどね」
 「部長の独りよがりです。黙って練習してください」

 部活の後輩のため息を切り裂く勢いで、アーチェリー部の部長はずばんと標的に向かって矢を射った。矢が弾くクリッカーの金属音が
心地よい。さらに、弦音の切れは美しいハープの演奏を聴くよう。しかし、ここはグラウンドだ。音楽室ではないことなど承知。

 至近距離からリリースされたアルミニウムの矢が立て掛けられた畳へと吸い込まれながら突き刺さる。
 畳が立て掛けられたのは部活が自主練の為に立て掛けられたかったから立て掛けられたのだ。……と、フランス人形のような顔して、
アーチェリー部部長・真田ウェルチはのほほんとのたまった。上質な錦糸にも似たポニーテールなアッシュブロンドの髪が眩しい。

 ウェルチ部長はいつもこうだ……と、ヤマくんこと山尾修は額に小粒の汗を垂らした。部活に顔出したらこれだ。

 確かに修はお菓子を手にしている。百均で買った包装セットで彩られた焼き菓子、勘のいいウェルチは修の姿を見なくとも、
お菓子の存在を想像できた。さくさくで、派手さのないビスケットが修の持つビニル袋で踊る。飼い犬が飼い主に似るように、
いつも控え目な修の性格は自分が作ったお菓子にまで移るのだ。

 「やっぱ、上手い子を見ると妬いちゃうよね」
 「何ですか」

 部長の話は気まぐれだ。かんかんと照りつける青空がくるくると変わる夏のように。ただ、今は秋。そろそろいい加減いしてほしい。

 「アーチェリーだよ、アーチェリー。個人競技だからウチの部ってマイペースな子が多いけどね……それでもやっぱ、
  上手い子を目の当たりにすると悔しいし。だから、こうやってこっそり自主練してるわけだけどね」

 なるほど、部長は部長なりの……と修が頷きかけた途端、部長の気まぐれが再発。

 「今日、変な物を見たよ」

 手にしていた弓を地面に向けて下ろしたウェルチは、くるりと背後の修に顔を向けた。
 金色のポニーテールの髪が真っ青な空に弧を描く。アーチェリー部の部長をつとめるだけあって、腕も魅力も確かなもの。
 大人びた外見裏腹に子供にも負けない愛嬌を時折見せるから油断ならないので、修は部長に突っ込むのを止めにした。

 「何ですか」
 「犬が女子高生を拾ってたんだよ」

 部長でなければ即スルー。
 作り話ならば願い下げ。
 修は袋をぎゅうっと握り締めてウェルチの話に仕方なく耳を傾けた。

332『ウェルチ部長と山尾くん』 ◆TC02kfS2Q2:2013/10/26(土) 11:42:36 ID:7gHgAyCE0

 「逆じゃないんですか、普通。女子高生が犬を拾うってふうに」
 「この世で普通に捕われちゃ駄目よ」

 平然とした顔を崩さぬまま本日34本目の矢をセットアップ。近射練習は数をこなせ。千本射ってダメなら万本だ。
 そして、またクリッカーが響く。

 「確かね、ウチの生徒だったわ。制服からして高等部、リボンからして一年生」
 「続くんですか」
 「ダンボール箱にちょこんって入ってすやすや寝てたの。そこに犬が拾いにやって来たわ」
 「メルヘンめいてますよ、部長」

 ウェルチにその突っ込むは効かなかった。弾かれた弦から胸を守るチェストガードにあしらわれた猫のイラストの
デコレーションからもウェルチに潜む幼心がよく分かる。その照れ隠しなのか、ウェルチはお姉さん気取りを忘れなかった。

 「『わおーん』だの『わんわんおー』だの吠えながら、その子は拾い主の犬について行ったわ」

 修は無表情でウェルチの話を聞きつつ、記憶の太い糸を手繰り寄せていた。
 そして、本日35本目の矢が乾いた音を鳴らして放たれる。ウェルチが弦を手放す前に鈍い光りを反射した矢がずばんと畳に
突き刺さる……とは言い過ぎかもしれないが、ウェルチの矢はそんな比喩さえ真実味を帯びるぐらいのキレがあった。

 「さすがですね、部長」
 「作り話じゃないって。お姉さんの言うことは聞きなさいよ」
 「そういうことじゃなくて」
 「で、ヤマくんのお菓子。下さい」

 修の話を振り切ってウェルチは本日36本目の矢を従えた。

 「部長が食べるものじゃないんです」

 その後、ウェルチは合計60本の矢を射って、本日の自主練を終えた。
 「お姉さんの言うことは聞きなさいよ」と修に片付けを手伝わさせ、そそくさと帰宅の準備をした。
 修の姿は犬のようだった。

 制服姿のウェルチは北欧のハイスクールに通う娘にも似ている。
 ポニーテールはそのままに、雪と氷河と神話の国のガイドブックからそのまま飛び出してきた。そんな言葉さえも
恥ずかしげなく与えられる気品がウェルチの周りを囲んでいた。

 「ヤマくん、イートイン出来るベーカリーが出来たんだってね。奢るから行きましょう」
 「ぼく、人と会う約束してるから……」

 きびきびと歩くウェルチのフォルムは清く正しい。姿勢が整って見えるのは部活での賜物だ。

 「そっかぁ。ならば、ヤマくんのビスケット頂きます」
 「あげません」

 ウェルチはニコリと目を潤ませた。

333『ウェルチ部長と山尾くん』 ◆TC02kfS2Q2:2013/10/26(土) 11:43:44 ID:7gHgAyCE0

    #

 「わおーん!ありがとう!ヤマ先輩!わんわんわんわんわんナンバーわん!」

 仔犬も平伏す程の勢いで修に飛び付いたのは修やウェルチと同じ学校の女子高生だった。彼女はくるくると修の周りを廻り、
ときにあまがみ、ときに修の袖を嗅ぐ。修は出来の悪い妹が出来たかのような顔をして、彼女の言動をやんわりと許した。

 くんくん。
 はすはす。
 くんかくんか。

 修の髄まで嗅ぎつくす。

 「ヤマ先輩とビスケットの匂いは同じだっ」

 有り難いのかどうか判断に困るコメント。修は百均で買った包装セットに彩られたお菓子を彼女に差し出した。
 彼女に犬の尻尾があるのなら、クライマックスを迎えた指揮棒のように動いていただろう。

 「ともくん、やったね!」

 彼女はしゃがんでお菓子の袋をともくんに見せた。
 ともくんに生えた尻尾はクライマックスを迎えた指揮棒のように動いていた。

 「わん!」
 「ほら、ともくん。ヤマ先輩にお礼を言いなさい」

 ともくんは人間の言葉を操ることは出来ない。「わん!」という鳴き声や、つぶらな瞳、たわわな尻尾で訴えることしか出来ないのだ。
 なぜならば、ともくんは柔らかな毛並みに包まれたミニチュア・ダックスだから。
 喜びを抑えきれないともくんの口が、がさごそと袋を咥えていた。聴覚でも喉がつばきで鳴りそうでもある。

 「荵さん。これでいいかな。人間が食べるものと違って無塩バターとか使ったり、硬めに焼いたんだけど」
 「ともくんも『美味美味』だって」

 犬に拾われた女子高生・久遠荵はしゃがんでともくんの頭を撫でた。少し、胸が躍る。修は袋から一欠けらのビスケットを拾い、
ともくんの足元にぽんと投げる喜びをかみしめた。ドッグビスケットを作ったのは初めてだ。犬へのプレゼントは言うまでも無い。
 ただ、食べてくれる者が人だろうが犬だろうがお菓子作りが趣味の者ならば喜びは変わらない。目の前であれだけ尻尾を振ってくれて
いるんだから、修はもう何も言うことはないのだ。

 「わたしを拾ってくれたお礼だっ。遠慮なく食べなさい」
 「拾ったって」
 「わたし、今日、ともくんに拾われたんだっ。段ボールの中でうとうとしていたら、起こしてくれたんです」

 修は手を顎に添えてじっとともくんを見つめていると、荵は修の持つ袋からドッグビスケットをひとかけら摘んだ。

    #

 日が傾いた頃、女子高生が犬に拾われた現場をウェルチが通りかかると、すでに段ボールの中身は空っぽだった。
 きっと、いい犬に拾われたんだろう。今頃美味しいものでもおなか一杯に食べているのに違いない、と胸をなでおろす。

 「妬いてるんだろうな。自分のお菓子と比べられるから」

 ウェルチの手の袋に詰まったパン屋のパンのかおりが香ばしく夕暮れを飾っていた。


  おしまい。



カピバラさんは人懐こいです。ネコみたいに擦り寄ってきますw
投下おしまいです。

334名無しさん@避難中:2013/11/04(月) 10:51:34 ID:QPlz7fcIO
先輩! あれ、せんぱーい……

335名無しさん@避難中:2013/11/04(月) 23:01:14 ID:DtnGZdTc0
後輩ちゃんの人、もう来ないのかな。

336ダブルストップ[5]:2013/11/05(火) 01:17:56 ID:dvVPNhTc0

「……ナギちゃんってさぁ」

ニシトちゃんが、呟くように訊いてきた。

「好きな人とかって、いたりする?」


――なんだ、この唐突な質問は。
多少面食らったけれど、いちおう女子高生。そういうこと訊きたい時もある。


「んー、今はいないかなぁ」
答えてから、しまったと思った。案の定、

「『今は』ってことは、前はいたってこと?」
目を輝かせて訊いてくる。


――困ったなぁ。



 この高校に入ってしばらくして、そう言えばちょうど1年前のこのくらいの時季だったと思う。
 クラスの男子に告白されたことがある。

 付き合って下さい、ただそれだけだったけど、わたしはどうしていいのか分からずに、
「あなたのこと良く知らないので、ごめんなさい」
と言って断ってしまった。

――“とりあえず”でも、付き合っておけば良かったのかな?
そうすれば、彼の良さを見つけたり、いつの間にか好きになっちゃったりしたのかな?
そうでなくとも、“付き合う”ことの意味が分かったり、「練習」になったりしたのかな?


 結局、わたしはまだ誰とも付き合ったことはないし、そうなる予定もないままだ。当然、「気になる人」もいない。
 きっと、今のニシトちゃんにとっては先崎くんが「気になる人」なんだろう。

337ダブルストップ[5]:2013/11/05(火) 01:20:37 ID:dvVPNhTc0

「ねえねえ、ナギちゃんの気になる人って誰?」
「あー、いないの、ホントに。ごめん、興味ないわけじゃないんだけど」

――なんで弁解してるんだろう、わたし。

「ええー。でもナギちゃんは、歳上のカッコいいお兄さんとか似合いそう! 25歳くらいの」

――その年齢設定で思いつくのは、眉毛が無かったり人相が悪かったりする “組の若いもん” だけなんだけど……
もちろんその人達とは距離を置きたいと思っているので、恋愛対象になりようもない。

――「恋する乙女」ってのはこんな感じなのかぁ。

 ニシトちゃんを見ていると、およそ自分とはかけ離れた世界のようで、なんだか一気に老けこんだような気になる。

「学祭をきっかけに、付き合うカップル多いんだって」
 ニシトちゃんは楽しそうだ。

 1週間後には体育祭を控えている。その1ヶ月後には文化祭。
 この学校は、体育祭より文化祭の方に力を入れている気がする。

 1年生のときに観た演劇は、圧巻だった。
 それまで演劇なんて興味なかったのだけど、クラスの子が出るからという理由で観に行って、その独特の雰囲気にヤられた。

 “お祭り”なのだから、何が起きてもおかしくない。
 それをきっかけに付き合うカップルが出るのも当然に思える。


 わたしは、自分のこととして考えられない。
 ときめく要素が、何もない。



♪ ♪ ♪

338ダブルストップ[5]:2013/11/05(火) 01:25:40 ID:dvVPNhTc0

 夕飯は銀鱈の粕漬けだった。焼き目が見た目にも美味しそうに焼けていて、身はほろっと柔らかく、
口に入れると甘く香ばしい香りと、じんわりとした旨味がある。

 この粕漬けは小さい頃から食べていた。その頃はあまり好きではなかったけれど、最近こういうのの
美味しさが分かってきた。
 実は結構高いものらしい。この前デパ地下で母の買い物に付き合っていたとき、初めて知った。


「お母さんさ、」

 テーブルの向かいで箸を動かす母に声をかける。
 なに、と目だけを上げてこちらを見る。

――なんで、お父さんと結婚したの。

 言おうとして、言葉が喉の奥でつっかえた。

――なんか、恥ずかしいな……。

 いつも話すように、気軽に聞いてみようとしたけど、なぜか構えてしまう。

「なによ、どうしたの」

 母は、もぐもぐしながら怪訝そうに見ている。

「あ、えっとね……」

――なんて聞こう。ただ聞けばいいだけなのに。

 口ごもっているわたしを見て、母はくすっと笑った。

「そっくりねえ」
「? 誰に?」

 箸を置いて、柔らかく笑う。

「お父さん」


「……」

 目が点になった。

 鏡を見てないから分からないけど、きっとそうなってた。

339ダブルストップ[5]:2013/11/05(火) 01:32:28 ID:dvVPNhTc0

「なにか言おうとしてるんだけど、口ごもっちゃって結局言えないの。
でも、何を言おうとしてるのか分かるのよ、態度でバレバレなの。ホントそっくり。だから可笑しくって」

 母はくすくす笑っている。

――わたしって、お父さんに似ていたんだ……。

 よく考えれば当たり前のことなのだけど、わたしは他人事のように思った。

「お父さんって、若いころどんなだったの?」

 すっ、と言えた。
 言ってから、「あ、言えた」と思った。

 そうねえ、と母は楽しそうにわたしを見ながら、父との馴れ初めを話してくれた。途中途中に挟むわたしの
質問にも、面倒がらず丁寧に答えてくれた。

 それは、母が父との思い出を大切に思っている何よりの証しに思えた。



 わたしはその時初めて、本当の意味で父のことを好きになれたと思う。




.

340名無しさん@避難中:2013/11/05(火) 01:34:25 ID:dvVPNhTc0
↑以上で

望まれた人の投下でなくてすみません・・・

341名無しさん@避難中:2013/11/05(火) 23:29:06 ID:hvntLUE60
父と娘のお話って、いいやん!

342ダブルストップ[6]:2013/11/23(土) 21:05:32 ID:doLwRopE0

「ゆっくりしていけばよろしいのに」
「いやいや、お嬢さんがお帰りになる前に退散しまっさあ。ホント、ついでに寄っただけっすから」

玄関先でガタイのいい職人風のおじさんが、奥に向かって話している。
喉が痛くて熱っぽいので学校を早退してきたわたしは、その場面に出くわした。


玄関先にいるのは、マサキさんだ。
父の“子分”の中では古株で、歳もわりかし食っている。母と同年代くらいだと思う。

「……こんにちは」
低いトーンで顔も見ずに言う。

「おっ、お嬢さん。お帰りなさいませ。奥方、ではあっしはこれで」
マサキさんは、そそくさと去っていった。


「おかえり。早かったのね」
「……」
無言で通り過ぎる。


「具合悪いの?」
「……」
答えず、自分の部屋に入る。

343ダブルストップ[6]:2013/11/23(土) 21:08:10 ID:doLwRopE0

――やな奴だ、わたし。

 不機嫌オーラを全開にしてマサキさんを追っ払い、お母さんを無視して部屋に逃げ込んだ。
 具合が悪いのはたしかだけど、そこまで重症じゃない。


――なんだろうな、さっきのは。

 マサキさんとお母さんが親しく話しているのを見て、なぜだか許せない気持ちになった。

――お母さんを独り占めしたいのかな?

 子供っぽいと思う。けど、マサキさんはお母さんと同年代だ。
 お母さんは、お父さんよりマサキさんと並んだほうが夫婦として見られる。


 そんなこと、あるはずがないけれど。
 想像しただけで吐き気がする。お母さんを嫌いになる。

――なんだろ、この嫌悪感。

 髪をぐしゃぐしゃにかき乱す。

 制服を脱ぎ散らかして、ベッドに潜り込む。

 布団の中で縮こまり、取り留めの無い考えに溺れる。


♪ ♪ ♪

344ダブルストップ[6]:2013/11/23(土) 21:12:13 ID:doLwRopE0

 夢を見ていた。
 体育祭の夢だ。

 昼休みになって、みんな家族の広げるピクニックシートのもとに帰る。
 まるで小学校の運動会のような光景に、わたしは高校生のまま、そこにいる。

 みんな、家族が大勢シートにいるのに、わたしの帰る先はお母さんひとりぼっちだ。
 しかも端の方に居て、そこへ帰るのがなんだか惨めな気分になる。

――あ、またこの夢だ……。

 以前にも見たような気がする。
 夢の既視感、というのがあるのか知らないけど、そういう感じだ。


 シートのところまで来ると、さっきまでは居なかった、“組の人たち”がお母さんと一緒に居た。
 みんな、わたしを受け容れてくれる。褒めてくれたりねぎらってくれたり。
 認められている、という感じがわたしをホッとさせる。


♪ ♪ ♪


――なんで、今頃あんな夢……。

 目が覚めて、溜息をつく。
 くだらないし、呆れる。

 高校生の体育祭に、家族の広げるピクニックシートはありえない。
 小学校の頃ならたしかに、お母さんだけだったけれど、近所の子の家族と一緒になって、みんなと同じく
シートを広げてお弁当を食べた。
 そこにお父さんは居なかったし、組の人も居なかった。

――わたし、寂しいのかな?

 だとしても、アレはありえない。

 気分が悪い。
 さっさと支度して忘れよう。

345ダブルストップ[6]:2013/11/23(土) 21:17:16 ID:doLwRopE0

 時間にはずいぶん早いけれど、家を出た。
 びっくりしているお母さんを横目に、お弁当も持たずに出た。
 途中のコンビニでサンドイッチでも買おう。


 イライラする。

 何に? 自分でもわからない。

 こんなでも、教室に入ればいつも通りだ。ニシトちゃんの笑顔に、同じく笑顔で挨拶する。
 退屈な授業も、他愛ないお喋りも、いつも通り。


 “いつも通り、仲の良いクラス” を装うことは簡単だ。本音を剥き出しにしてしまえば、余計なトラブルを抱え込むことになる。
たとえ表面上でも、和やかなふうにして摩擦を防ぐ。

 みんなそれを無意識にやっている。
 で、そのストレスを気のおけない友達の前で吐き出してすっきりする。
 でないと、やってられない。


 面倒くさいな、といつも思う。
 でも、ある意味 “マナー” や “しきたり” みたいなものだと思っている。

――これって、“嘘をついている” ことになるかな? 

 嘘とは違うと思う。
 でも、“なんか嫌だな”という思いが拭えない。

 それを、見透かすように見ている人がいる。

 例えば、タカハシくんだ。

346ダブルストップ[6]:2013/11/23(土) 21:21:10 ID:doLwRopE0

 タカハシくんも、1年の時同じクラスだった。すれ違えば挨拶くらいする。わたしも彼も部活に所属していないので、
放課後にふらふらしていると彼に遭遇することがある。

 特別親しいわけじゃない。どちらかと言うと、わたしは苦手なタイプだ。
 1年の時はバスケ部だったけど、先輩や同学年(タメ)と揉め事になって辞めたと聞いた。
 不良、というわけじゃないけど、どこか斜(はす)に構えた態度や人を喰ったような物言いは、なんとなく近寄りがたかった。


 タカハシくんは、見抜いている。
 わたしたちが、表面上でだけ仲良くしていること。
 ホントは嫌っているくせに、友達を装って親しげにしていること。

 何を言うでもない。
 ただ、わたしを見る彼の目は冷たい。
 自分の後ろ暗いところを突かれたようで、長く会話していたいと思わない。


♪ ♪ ♪


「ニシトちゃんさぁ、タカハシくんのこと知ってる?」
「バスケ部の? “元・バスケ部”か。あ、ナギちゃんもしかして!」

「とんでもない! やめてよ、もう。ぶっちゃけ、苦手なんだよね。あの人」
「あ、あたしも〜。なんか、上から目線っていうか」
「見下されてる感じするよね」
「正直言って、嫌い」


 タカハシくんの悪口で盛り上がった後、ニシトちゃんは
「ナギちゃん。悪いコト言わないから、あんなのやめといたほうがいいって」
「いや、そんなつもり1ミリも無いし」

 ニシトちゃんはその後、真面目な人が一番だの、グループの中の目立たないキャラにこそイイ男がいるだの、
個人的見解をたっぷり披露したのだった。


♪ ♪ ♪

347名無しさん@避難中:2013/11/23(土) 21:23:40 ID:doLwRopE0

以上で

348名無しさん@避難中:2013/11/27(水) 07:42:47 ID:6C1HxzfU0
ニシトちゃんかわいい。

349名無しさん@避難中:2013/12/27(金) 00:34:14 ID:JguT3Oog0

コンパクトに描くはずがつい長くでかくなるという
http://imefix.info/20131227/121201/rare

350 ◆wHsYL8cZCc:2013/12/27(金) 00:38:35 ID:QvAb36G20
ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

351名無しさん@避難中:2013/12/27(金) 04:58:51 ID:53rJVmjM0
かわいいけど強そう

352 ◆46YdzwwxxU:2013/12/28(土) 04:38:57 ID:4K7OZBow0
なんか心配かけたみたいでごめんなさい。
なんか気が滅入ってやる気ゼロだった。
感想とかは遅ればせながらおいおい……。

久し振りに投下でもしようかなって。

353先輩と氷の張るいつかへ ◆46YdzwwxxU:2013/12/28(土) 04:43:38 ID:4K7OZBow0

「先輩、最近めっきり寒くなりましたが、カイロなどいかがでしょうカイロ」
「いらない」
「私が寒いんです!」
「話の流れおかしくないかな」

 寒い。
 絶対に寒い。
 正面から吹きつける北風の冷気に、俺は学園制服の襟を引き寄せていた。そうする手からもみるみる熱が奪わ
れ、拳の皮が突っ張っていくのが分かる。寒いどころかもはや冷たい。
 ほうと吐いた息が白くなっているのを確かめて、俺はどこか安心にも似た感情を抱いた。これで白くなかった
らと思うと何とも切ないではないか。
 今年初めて実感できた、冬の到来だった。

「おかしい? 今、おかしいっておっしゃいましたっ?」

 このクソ寒いのに、後輩は今朝も元気いっぱいでうざい。普段何を食っていたらこんなテンションでいられる
んだろ……。まさか一般にそうは口にしないようなものを常食しているんじゃないだろうな。何かの幼虫とか。

「おかしくなんて、ありませんよ。よく雪山で遭難した方たちがやってるじゃないですか。ふたりでぎゅーっと
抱き締め合って、お互いの体温を奪い合う、あれ! あれがやりたいです!」
「最悪な表現の仕方だな」
「フッ……愛とは奪い合うもの」
「そういうこと言ってんじゃないんだよ」

 迷走気味で不毛なやり取り。寒さで頭が働かず、ツッコミも覚束ない。おお寒。木枯らしに怯えて、首が襟の
中に引っこむ。
 そんな俺の隣でくるくる動く後輩は、カイロほどではなくても、確かにここらで一番お手頃な熱源だっただろ
う。サーモグラフィーとかで見たらそこだけ浮いてそうだ。……ただでさえ普段の言動で浮いてるのに。

「とにかく、私たちも手と手を取り合えば嬉し恥ずかし赤外線通信で心も体もぽかぽか温かくなるに違いありま
せん。ほら先輩、お手っ!」
「その台詞でお前の手を取るのはMっ気あるやつだけ――」
「ちょ、あなたじゃないですよ、わんわん先輩。……あっ……、やめて、はっ、はなしてっ!」
「!?」

 ちょっと目を離した隙に、どこからともなく合流したわんこ系演劇部員久遠荵が、後輩の手をひしと掴んでい
た。指と指ががっぷり組み合った、いわゆる恋人繋ぎだ。
 訂正する、Mっ気あるやつだけじゃなかった。世の中には色んなやつがいる。差し出された手にむしゃぶりつ
かずにはいられないやつとか。

「よいではないかーよいではないかー野良犬に噛まれたと思って」
「保健委員に、通報しますよっ」

 それって保健委員会の管轄だったのか。初めて知ったぜ。

354先輩と氷の張るいつかへ ◆46YdzwwxxU:2013/12/28(土) 04:44:53 ID:4K7OZBow0

「おはよっ」
「おはよう」

 うーうーもーもー唸りながら、絡みついた指を一本一本引き剥がしに掛かる後輩を尻目に、俺も久遠と軽く挨
拶を交わす。

「どうしたーサッキー・ザッキー? テンション低いねっ」

 やたら愉快なニックネームをちょうだいするが、ツッコんでいくエネルギーがない。

「お前らがハイすぎるんだ」
「犬は喜び庭駆け回るっ」

 わおーん。久遠荵はこの寒さをも楽しむというのか。こたつで丸くなっていたい派の俺とは相容れない。
 ……しかしなるほど、案外、最初からこれくらい開き直って飛び出したほうが、おっかなびっくり外に出るよ
りマシなのかもしれない。ある程度までは心の問題でもある。
 ちょっと感心している横で後輩が息を切らしていた。

「固い、固すぎです……。さすが一度噛みついたら離さないブラックドッグ。……先輩、マッチを、マッチを売
ってください。火で炙ったら逃げてくかも」
「ヒルみたいだな」

 当然ながら、俺のような綺麗な肺をした高校生の持ち物の中に火種などあるわけもない。不思議な事情で持っ
ていたとしても、怖くて後輩にだけは貸せないが。

「ぐぬぬ、……わかりました。私の負けです。降参します。だからわんわん先輩、そっちの手もください」
「うん?」
「にくきゅう! にくきゅう!」
「ぎゃー」

 後輩が久遠の手のひらのツボを圧しまくってどうにか拘束を振りほどき、そのままダッシュで学園の正門を走
り抜ける。

「まてー!」

 背を向けて逃げる者あらば追わずにはおれない肉食獣の習性をいかんなく発揮して、久遠荵も駆け出した。
 白い息に霞んだそんな光景を微笑ましく眺めながら、俺自身も気持ち早足になっていたことに気づく。
 冬の到来である。
 氷が張るのはいつだろう? そんなことを考えた。



 おわり

355先輩と氷の張るいつかへ ◆46YdzwwxxU:2013/12/28(土) 04:46:31 ID:4K7OZBow0
以上です。
じゃあ俺は冬眠するのであとはヨロシク(?)

356名無しさん@避難中:2013/12/29(日) 12:30:47 ID:Srpn1stgO
噛むなwww

357わんこ ◆TC02kfS2Q2:2013/12/29(日) 18:50:30 ID:1jiXFCIc0
>>352
わお!荵だ!
しかし、後輩ちゃんの方が荵よりイヌ力(ちから)強いw

投下します。後輩ちゃん!

358カップルウォッチャーととろの冬 ◆TC02kfS2Q2:2013/12/29(日) 18:58:24 ID:Srpn1stgO

 おはー?近森ととろだよ!

 みんな、今日も素敵なデート日和だね!わたしたち高校生は金も名誉もないけれど、自由と可能性を秘めたお年頃だから、
過ぎ行く毎日を謳歌しなくちゃね!さもなければ、恋愛の神様からの激おこぷんぷんなバチが当たるんだぞ?
 さて。今年もあとわずか!寒くなって久しいし、日も落ちるのも早いけど、想い合う二人が急接近するには、絶好のチャンスだよ。
恋愛だってフリーダム!当たって砕けてイチャコリャしあって、一冬の過ち……いや、正しい恋だよ!ハイスクールをエンジョイだよ!
 そんな二人を陰ながらこっそりひっそりちゃっかり応援しちゃうのは、カップルウォッチャーの指命なんだよね。

 ただ、応援してるだけではもったいない!MOTTAINAI!わたし、近森ととろは二人を美味しくつまみ食いしちゃいますです!
 触れるとやけどしちゃいそうな男子女子を遠くからのぞき見……いやいやいやいやいやいや!つまみ食いするだけですから。
今日もわたしのオペラグラスが火を噴くぜ!

 風は寒いけど、空は鉛色だけど、笹森公園のお子様滑り台の上でのカップルウォッチング、はっじまるよー!

 「何か見えますか」

 おっと、黒咲あかねちゃん。
 演劇部の台本片手に恥ずかしそうにほっぺを赤くしてる様は、待ち合わせの時間迫った女の子みたいだね!
 黒髪ロングにクローバーの髪留め、黒タイツのおみ足は少女からオトナへの中途半端なお年頃を演出してるんだよね?知らないけど。
 そんなあかねちゃん、滑り台の上に登ってきやがれ!わたしのオペラグラスをのぞいてみるかい?
 凍てつく冬のささやかなホットココアだと思って、はい。召し上がりやがれい。

 「どう?恋したくなった?」
 「え……うそ?」

 え……って、それはわたしのセリフだよ?あかねちゃん。オペラグラスから何が見える?

 「ちょ、そんな大胆な……」
 「なに?」
 「見えちゃう……見えちゃうかも」
 「ええ?」
 「わたし……恥ずかしいですっ」

359カップルウォッチャーととろの冬 ◆TC02kfS2Q2:2013/12/29(日) 19:00:03 ID:Srpn1stgO
 待って!なぜ顔を赤くする?あかねちゃん?わたしがのぞき見してたのは、恋愛若葉の男子とゆるっと背伸び女子だよ?
指触れ合うのもためらう時期なのに、いきなりR指定の展開はいくらなんでもビター過ぎます!映倫が許してもわたしは許しません!
 わたしはとんびが油揚げをさらうようにあかねちゃんからオペラグラスを引ったくり、目の前モザイク覚悟でのぞいてみるっ。

 「あれ……いない」
 「うそですっ」

 あかねちゃん!更に顔赤くするなら、なぜうそをつく!
 恥ずかしそうにあかねちゃんは滑り台をつるっと滑っていった。

 「わおっ。ハスキーがやって来たよっ。これで連合犬隊の完成だっ」
 「久遠っ」

 相変わらず、荵ちゃんはわんわんわんわんだね。スマホをいじくりながらわんわんわんわんだっ。
 わんわんわんわんと滑り台を駆け上る姿は雪やコンコと庭駆け回るマメシバだっ。

 「あっ。ととろのお姉さまっ。マフラー暖かそうですねっ。アマガミさせて下さいっ」

 「荵ちゃん、そうは簡単にラブラブなおすそ分けはしてあげないぞ」
 「うーっ、いけっ!ハスキーにボーダーコリー!ととろのお姉さま、雁首揃えて堪忍しろいっ」

 スマホの中の『わんこれ(わんわんこれくしょん)』は三次元には効かないと思うよ……。


 「ふわぁ。サモエドがお年玉持ってきてくれないかなっ」

360カップルウォッチャーととろの冬 ◆TC02kfS2Q2:2013/12/29(日) 19:01:00 ID:Srpn1stgO
 荵ちゃんもあかねちゃんも演劇部の一年生。かわいい後輩なのに、白馬の王子さまの影も形も見えないのは、お姉さん悲しいぞ。
 いつか、荵ちゃんやあかねちゃんがラブラブどきゅんなピンライトを浴びるシーンをのぞき見してやんからね。

 「新年ですね!」

 そう。世間はお正月まっしぐら。おかっぱ黒髪ショートのあの子も滑り台の下からそう叫ぶ。

 「後鬼っ」
 「黒咲さん、上の名前で呼ばないで!」
 「閑花ちゃん静かにっ。ハスキーが逃げちゃうっ」
 「荵ちゃんは上手い事言ったつもりだけど、小さい頃からそう呼ばれ慣れてますから」




 後鬼閑花。人呼んで後輩ちゃん。彼女はハートが強い。

 世間は間もなく大晦日
 なのに、ケンカなんてめっだぞ。
 なのに、みんな……さみしくないの?
 初詣は憧れのあの人と密着するチャンスなのに。
 熱々の屋台のタコ焼きをお互いにあーんしあったり。
 神様に「誰それと結ばれますように」と無茶振りしたり。

 そんな風潮を物ともせずに、閑花ちゃんはスカートを翻しながら滑り台の階段を駆け上がってきた。
 わんわんわんと荵ちゃんは滑り台から飛び降りる。

 「わたしも先輩と年越しにひめはじめです。の、予定です。プリンセススタートです」


 そうね。閑花ちゃんには先崎くんっていう、素敵な王子さまがいるしね。王子さまというより、みどりの黒髪をなびかせた
剣の腕立つ幕末の志士って感じだけど。ツッコミがまるで抜けば球散る、名匠が鍛えた氷の刃のようなんだよね。
 閑花ちゃんと先崎くんとのコンビはこの学園に通う者なら誰しも知っているだろうなあ。この!この!ね!閑花ちゃん!

 「あれ?荵ちゃんと黒咲さんは?」

 きょとんと取り残された閑花ちゃん。気が付いたらわたしとふたりぼっちだよ?

 本当だ。
 マジだ。

 あれだけ騒いでいたわんわん王・久遠荵も黒タイツ・黒咲あかねも姿をくらましている。
 残されているのは演劇部のノートだけ。

 「あれ?メール?……あかねちゃんからだ」
 「ととろ先輩!そんな二人より、わたしの先輩との甘くてミルキィーな年末年始計画を聞いて下さい!
  まず、冬風寒い仁科橋の上で待ち合わせをします。真っ暗な中、川の流れを聞きながら待つ先輩を背後から襲撃します」
 「『オペラグラスで公園の入口方面を見てください』?」

361カップルウォッチャーととろの冬 ◆TC02kfS2Q2:2013/12/29(日) 19:02:29 ID:Srpn1stgO
 あ。
 見えた。

 あかねちゃんだ。
 荵ちゃんだ。
 あかねちゃんは誰かの役を演じてるみたいだ。
 同じく荵ちゃんも誰かの役を演じてるみたいだ。
 声は聞こえないけれど、この学園に通う者なら誰しも知っているようなやり取りを完全完璧に演じてる。

 言わずと知れた……先崎くんと閑花ちゃんだ。

 「新年の刹那は先輩と閑花ちゃんとの鼓動を分かち合いながらスタートです!
  わたしは両手で、先輩は背中でお互いのドキドキを伝えあうんです!当ててんのよ!」

 閑花ちゃんの浮足立つ演説に一秒違わずにシンクロする荵ちゃんの演技。それを先崎くんのツッコミを憑依させたと言っても
過言でないあかねちゃんの切り返し。わたしの目には、どう足掻いても閑花ちゃんと先輩くんのやり取りにしか見えない。
 もしかして、あかねちゃんが持っていた演劇部のノートに、そんなこんななストーリーが書かれているのかもしれないけれど、
それを確かめる術をわたしが持ち合わせているはずはなかった。聞けばいいんだけどねっ。

 遠くで丁々発止なサイレント劇が開演しているのも知らずに閑花ちゃんは桃色の目をしてわたしにラブプロジェクトを話し続けていた。

 「ふと先輩が見せる少年にわたしは大人の舌を教えてあげるんです!『先輩も初めてですか?はい!わたしもです!』って」

 わたし、近森ととろはオペラグラスを手にしながら、閑花ちゃんの年明けに幸多かれと祈ったのだった。


    おしまい。

わけあって携帯で。

おまけの後輩ちゃん。
ttp://download5.getuploader.com/g/sousaku_2/673/shizuka01.jpg

投下おしまい。

362名無しさん@避難中:2014/01/01(水) 02:23:45 ID:zY7eATb20
あけましておめでとうございます!
初投下はもらったぜ!

363SENPAI,STAND‐BY! ◆46YdzwwxxU:2014/01/01(水) 02:26:38 ID:zY7eATb20


「YO! YO!」
「!?」

 放課後になるや、いつもの後輩がやって来た。そこまでなら、まあ、いつも通りなのだが。
 異様だった。
 ……ここまでもいつも通りか。思えば、この娘は毎回登場の度に一味違う異様さを提供してくれているような
気がする。
 毎度のことなのでそれはもうだいぶん慣れたと思っていたのだが、そんな俺でも今日の後輩にはさすがに動揺
を禁じ得なかった。
 劇伴音楽とダンス付きだったのだ。
 彼女が肩に担いでいるのは、ラジオカセットレコーダー、いわゆる“ラジカセ”。カラーは高級感のある光沢
のワインレッド、なかなかのコンパクトさに、丸みを帯びた優美なフォルム。スピーカーからは心臓を突き上げ
るようなサウンドが迸る。
 内心で調子に乗りまくっていることが一目でわかる陶酔の表情。卸したて同然に綺麗な上履きのカカトが、前
後左右の床を小気味よく叩いていく。
 リズムに合わせてゴキゲンに体を揺すりながらだんだん近づいてくる黒髪おかっぱの彼女は、なんか新手の怪
談っぽかった。

「放課後KYOU‐SHITSU(教室)! 気になるAITSU(あいつ)!
 彼女はKOUHAI(後輩)! 俺はSENPAI(先輩)!
 寒い時代だ人心KOU‐HAI(荒廃)! 帰り道とかマジSHIN‐PAI(心配)!」

 YO! YO! YO! HO!
 メロディに乏しい曲を、音韻を踏んだ詞と軽やかなタップが形にしていく。俺としてはあまり馴染みがないジ
ャンルだが、ラップというやつだろう。

「家まで送るYO! 近頃BUSSOU(物騒)!
 悪いですYO! 惚れてしまいSOU!?
 遠慮すんなYO! 俺はSENPAI(先輩)!
 そこまで言うならやっぱりONEGAI(お願い)!
 心の! 壁をTEPPAI(撤廃)!
 ドキドキ! お布団STAND‐BY(スタンバイ)!」

 ラジカセがごとりと床の上に置かれ、自由になった両手が空気を掻き混ぜ始めた。
 二挺の指鉄砲が、落ち着きなく何度も俺に向かって突き出される。
 ……それにしても何というウザさだ。

「Ah〜ふたりー! 恋をしたりー! このまーまー! 朝まーでー!」

 何故かここだけはラップ調ではなく伸びやかに歌い上げていた(ダンスはそのまんまだったが)。

364SENPAI,STAND‐BY! ◆46YdzwwxxU:2014/01/01(水) 02:28:44 ID:zY7eATb20
 YO! YO! YO! HO!

「春は!? あけぼの! YOYO白く! なりゆく山際少しあかりて!
 紫だちたる! く・も・の! 細く! たなびき! たるYO!!」

 ブチッ。
 やっとラジカセが沈黙。後輩がかっこいいポーズをキメる。

「……」
「……」
「……アーハン?」
「……」

 謎のヒップホッパーと化した後輩に、俺は何と言葉を掛けてやるべきか悩んだ。
 ちなみに、この教室にはまだぼちぼち生徒が残っていたが、すぐに興味を失ったようで、自分の帰り支度に戻
っていった。不本意にもセットで扱われがちな俺としてはありがたい。

「先輩、いっしょに帰りましょう」
「何だったんだよ!!」

 テンションを戻して何事もなかったかのように微笑む後輩に、俺は心の底から叫んでいた。

「“ラップやってる女の子はCOOL、カップル成立楽しいSCHOOL”、そういう話を聞いたのです」
「そ、そうか」

 ……COOL(ここでは“かっこいい”の意だろう)であることについて異論を挟みたいわけでは全くない。
 だが、後輩がかっこよさの演出のためにそれをチョイスしたということに何だか漠然とした違和感のようなも
のが残るのだった。歌詞も意味不明だったし。

「ていうか、どうせただのウケ狙いの一発ネタだろうが! 嘘を吐くな、嘘を!」
「ネタぁ!? ひ、ひどいです! あんまりです! 私だって真面目に考えたんです! ……ほんとはそんなに
真面目じゃなかったかもですけど。
 これまで私は先輩にあらゆる手段を使ってコナかけてきました。コケチッシュに、キュートに、ガーリックに、
ロマンチックに、ドラスティックに、そしてセクシーに。でも、どれもうまく行かなかった。――何故か!? 
先輩はかっこいい女の子がタイプだったから! でしょ!?」
「ガーリックじゃないよ」
「話を逸らさないでッ」

 どうやら素で間違えたらしい。

365SENPAI,STAND‐BY! ◆46YdzwwxxU:2014/01/01(水) 02:29:39 ID:zY7eATb20

「ふふっ、閑花ちゃんともあろう者が騙されましたよ。先輩は、おとなしく、献身的で、癒し系の子がタイプな
んだろうと思ってました」
「そう思っててやってた言動があれかよ!」
「これからはかっこいい、さばさば、ふいに鯖味噌が食べたくなってきましたね、いっしょにいると落ち着く、
そんな閑花ちゃんでいたいです」
「まずは連想したことを垂れ流さずにはいられないその口どうにかしろ」
「え? それはちょっと難しい……」
 
 クールでさばさばした後輩など一生見られそうもなかった。

「それはそうと、俺は今日、大切な用事があるから付き合えない」
「奇遇ですね! 私もたった今、先輩に付き合う用事が発生したところです!」
「悪いが俺の用事は一人用なんだ。特定秘密保護ってやつだな」
「YO〜……」

 きっぱりと拒絶すると、分かったのか分かってないのか鳴き声のような返事。
 いや絶対分かってないわこれ。
 しかし、先約があるのは事実ではあるが、作詞作曲振付練習までしたその情熱を考えると、ここで突き放すの
は心苦しい。方向性を激しく間違えていてもだ。
 ……いや落ち着け先崎俊輔。ほだされてはいけない。心を鬼にするのだ。その気もないのに期待させるほうが
残酷というもの。優しさって、何だ?
 俺は鬼だ。女子供も笑って殺せるマシーン。奴らと同じ戦うためだけの生物兵器だ。誰だよ奴ら。意味の分か
らないセルフツッコミのせいで自己暗示をしくじる。長時間磁石に触れ続けた鉄塊が磁力を帯びるように、どう
やら最近は俺の言動もおかしくなりつつあるらしい。
 ほんとうの優しさを貫けず、ついどう埋め合わせしようなどと危ないことを考え始めてしまったところで、む
むむと不満げに唸り声を上げていた後輩のほうが先に我慢の限界を迎えた。

「もういいです! 先輩のバカ! あほ! ヤレヤレ系! 植物性プランクトン!」

 ……もしかして草食系男子と言いたかったのだろうか。
 よく分からんが、馬鹿と阿呆だけは分かった。何だとこのヤロウ。

「……何ですか都合が悪くなると用事、用事って。私と用事だったら、断然、私のほうが大事なはず……」
「都合が悪くなると用事というか、用事で都合が悪いんだけどな」

 拗ねたように目線を伏せてなじるその心情はさすがの俺にもそれなりに理解できる。まだ恋人でも何でもない
という一点さえ度外視すればではあるが。

「そんなに大切な用事が大切なら、私にだって考えがあります……」

 きっ!と鋭く俺に向けられた後輩の涙目は据わっていた。

「明日私といっしょに帰ること、先輩の大切な用事にしてください!」




 おわり

366SENPAI,STAND‐BY! ◆46YdzwwxxU:2014/01/01(水) 02:32:39 ID:zY7eATb20
以上!
今年もよろしくお願いします!
……よく見るとこれ正月全然かんけーねーな
あとごめん一気にはちょっと無理なので二つくらいずつ感想書いてく。


>ダブルストップ
ナギサワさんは女子高生らしい感受性や思慮深さと、大人びているようで世間ずれしきってない感じがよく出ていると思う。
実家がヤクザってのはえらいデリケートな事情だけど、やっぱり親子は親子なんだねぇ。

音楽の教養のまったくない俺にも、何となくはどんな感じになったのか想像できるあたりがすごい。
音楽の表現ってすごい難しいだろうに、よくやる!

先崎www公務員www言われてみるとそんな感じするかも。
ニシトちゃん女の友達っぽくて可愛い。

しかし一番好きなのはコツガイ先輩だったりする。情熱というか、男の子らしい無邪気さがいい。

投下毎じゃなくてまとめての感想になってしまってすまないが。



>>358
ととろのテンションが完璧w
G´sマガジンで連載されてるヒロイン目線のSSみたいだw

最近あかねちゃんの女子力が上がっている気がする。もっとクールビューティ系の人かと思っていたw二つ名が「黒タイツ」w
迫先輩、そろそろ手を出さないとホモだよ。

「ととろのお姉さま」ってなんか……いいな!

「聞けばいいんだけどねっ。」でなんだか世界が広がった感じがした。ここが一番好き。

>>361
こ、これは開脚してるけどスカート等で大事な所が隠れている画像ではないかね!
なんとはれんちな……
もうね……はれんちな……

367名無しさん@避難中:2014/01/17(金) 12:33:54 ID:ECQfsj7UO
ととろのお姉さまー

368名無しさん@避難中:2014/03/01(土) 21:18:37 ID:7hj0ea7w0

 学校の創作部の部室に入ったら、葎っちゃんたちが騒いどるけん何かちゅうたら

 「本板のサーバーが移転した」っちなぁ。

 サーバー?
 鯖より鰹やろ!
 鰹のタタキで真っ白なご飯何杯でもいけるきん!
 わたしの力作絵皿に鰹の盛り合わせでもりもりじゃ!

 はっ。

 忍び寄る影!

 頭だけ魚!

 聞こえる声!

 「鰹とは違うのだよ!鰹とは!」

 何言ってるちや!鰹こそ正義!高知では竜馬と鰹の悪口言うたら叩かれるけにな!

 ……って、誰や!?

 「鰹とは違うのだよ!鰹とは!」

 は……間黒?

 マグロ人間?泳ぐだけの人生さ?

 高知には『カツオ人間』がすでにおるきんな!
 ウソ思うたらググれ!『バ○ィさん』より『カツオ人間』の方がメジャーじゃきん!
 土佐をなめたらあかんぜよ!こっち来ん!タタキにしちゃるきん覚悟せいや!

ttp://dl1.getuploader.com/g/6%7Csousaku/812/shino_katuo.jpg
 

 『カツオ人間』
ttp://matome.naver.jp/odai/2134517710621386501

369名無しさん@避難中:2014/03/01(土) 21:19:28 ID:7hj0ea7w0
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1327657246/171

 こんばんは!高知の黒潮に育まれてやってきた!
 土佐の陶芸少女こと浅野士乃じゃきん!
 元ネタじゃきん!

370名無しさん@避難中:2014/03/01(土) 21:23:53 ID:kAXBW5BQ0
こわいってばwww

371名無しさん@避難中:2014/04/10(木) 01:33:05 ID:S9dJziQo0
ksks

372名無しさん@避難中:2014/04/12(土) 22:08:50 ID:Rl18IJHM0
黒鉄兄妹。
http://imefix.info/20140412/431201/rare
前回描いた亜子ちゃんの外人レイヤー臭がやばかったのでリベンジを。

373名無しさん@避難中:2014/04/12(土) 22:12:07 ID:nHCvOX8s0
おつおつ。兄ちゃんかこいいなw

374名無しさん@避難中:2014/04/13(日) 12:38:29 ID:v1Se.ZpI0
わぁぁああああああああああああああああああああああああい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

375名無しさん@避難中:2014/04/27(日) 00:50:59 ID:912.X6Ss0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org5020288.jpg

376名無しさん@避難中:2014/04/27(日) 00:53:01 ID:PIfRwqzI0
ハードロック彼方ざゃねーかw

377名無しさん@避難中:2014/04/27(日) 01:18:05 ID:dsq3qo2Y0
乗り込むなwwwww

378名無しさん@避難中:2014/04/27(日) 01:19:30 ID:dsq3qo2Y0
ていうか今みたら鶏の亡骸がやばいwwwwwwww

379名無しさん@避難中:2014/04/27(日) 10:14:04 ID:1rgeXXYY0
「なにー!わおー!ケモから乗り込んで来たっ!ほら、おもてなしだっ」

ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/793/shinobu10_2.jpg

380名無しさん@避難中:2014/04/27(日) 18:13:48 ID:MBzXHxko0
>>375
これってどちら様?

381名無しさん@避難中:2014/04/30(水) 13:54:14 ID:TlGMTzWkO
多分これから登場するんだよ。ニワトリ以外……

さて、タロット企画もまたはじめませうか。

382名無しさん@避難中:2014/04/30(水) 20:51:48 ID:I7URM8XY0
>本スレ
うわあああああああああああ
ドヤ顔、舌ぺろ、巨乳、全てがかわいい!
かわいいは、正義!

383名無しさん@避難中:2014/05/03(土) 18:13:18 ID:8FuJKGYsO
ととろ様のどや顔は至高なり

384名無しさん@避難中:2014/05/06(火) 15:29:42 ID:V5b2XL3I0
わんこ氏のおかげでキャラがますます好きになるから
困るよ
まったく罪なお人やよ

385名無しさん@避難中:2014/05/09(金) 20:57:23 ID:kx47F8TE0
>>305
てんつきさんマジ隠者! ……ん?月か。どっちだ!
いつになく表現が詩的というか、歌詞っぽい感じ

>>307
向田久し振りすぎだろw下の名前思い出すのに三秒掛かったぞ! 主人公属性の癖に(故に?)全然出てこないからなッ
しかし出所不明の不審なディスクを読ますとは勇気あるな。
……葱すけならビールス入りとかそういう怪しい臭いは嗅ぎ分けるのかもしれないが。流行りの利尿剤タクシーとか喰らわなそうだもんな。

>>311
あの字ちゃんは出てくるたびに可愛さがアップしている気がするんだ。
千鶴はいい女だ。

>>330
バケネズ……カピバラか。
動物に乗っている女の子って興奮するよね!(!?)
猫とかさりげに可愛い趣味していやがる。実はオオヤマネコとかかもしれんけど。

>>331
お菓子にも人格出るのか……まっじで?
「お姉さんの言うことは聞きなさいよ」とか言われてみたい台詞だなー。
何を隠そう、俺も小学生のみぎり、市販の犬用ビスケットをおやつにしてしまったことがあってね……。
意外とほどよい甘さで美味しいんだよなアレ。

>>368
かつおにはマヨネーズが合うよ。
食べ飽きたころには特に合うよ。

リアル士乃クソワロタ。
パプワくんの敵にこんなモンスターがいた気がする。

>>372
すげー力作w
腕を組んでいる仲良し兄妹というより暴走のあげく妹に逮捕されているように見えるがw
黒鉄兄はほどよいバカっぽ……もとい愛嬌のある懐の深さがいいな。
懐だけに。

>>379
何だ!?
お前らなんて怖くねーぞ!?
掛かって来い!(シュッ!シュッ!)

386名無しさん@避難中:2014/05/09(金) 22:16:37 ID:kx47F8TE0
本スレ>>63
亜子ちゃん……なんつーパワー……
兄貴の顔が濃くて笑う

本スレ>>65
何でだよ!
お前何を狙ってるんだよ!

本スレ>>66
りっちゃん……しばらく見ない間にこんなたくましいボトラーになっちまって……
もう完全にネギで覚えてるのかw
松戸とか意味ねーな。は? 続きって何のこと?

本スレ>>75>>76
文章とイラストが合わさり最強に見える。
たまにはボクシンググローブも悪くないわ。
執拗なまでの水玉模様がポップだ(←ホントはもっと別の表現がしたい)。

本スレ>>83
女の子特有のジレンマか。
俺も亜子ちゃんにボコボコにされたいジレンマ(?)
あまもとさあああああん! 袴っ娘って意外といな
いし、イラストが可愛くてマジ俺得なわけ。吊り目がちなのがいい。

>>87
ととろ目立ってるなw
亜子はなぜブルマーなんだw
しかしこうして見ると最近新入生いないな……

>>91
何故そんなハチャメチャなお題を……って答えちゃうのかよ!
獣耳っ娘学園ファンタジーはじまた。もはやキャットファイトなのかドッグファイトなのか。
吟遊詩人役がこんなに似合うJKもいないなw
レアキャラ烏丸ちゃんの喋り方が妙に新鮮で可愛く見える。先輩の威を借る後輩が何だかすごくらしいw
ロリエットが全部持って行ったけどw

>>118
何だこの可愛い衣装!?
どこかで見たよう……思い出せん!
う……うわあああ!?
こういうネギちゃんも、いいと思います!

387名無しさん@避難中:2014/05/09(金) 23:03:54 ID:kx47F8TE0


本スレ付け忘れちゃったじゃないか……


本スレ>>119
あかねさんは皿うどんの血を引いていたのか……初めて知ったぜッ
「街のご機嫌を窺う」って発想が面白い。
しかしおとしだまはあかんやろ……これでも清純派ァ(大嘘)
にしてもつくづく浮くのが得意な女だ。チェンジリングデイ世界がほっとかないな。オチまでつくしw
――長崎クイズ「長崎には下り坂より上り坂の方が多い。〇か×かッ」――

本スレ>>120
ネギすけ座り方座り方!!
あかねちゃんはむっつりやなぁ

本スレ>>121
この台詞何だか興奮するね!?
それは俺だけじゃあないはず

本スレ>>125
何だかんだでいい兄妹w
「口一杯に広がる白濁の宴」とかもう完全にエ●ゲーのテキストじゃないか!
こんな招き猫うちにも欲しい。幸福が欲しい? いればそれが幸福だちくしょおおおお!

本スレ>>128
クロスじゃなくても自分のキャラだけでもいいんだよ?
ヤンデレのようにいつまでも待ってるよ?

本スレ>>129
や……やめろぉっ!!
そんなことをいうのは
いろいろマズイッ!!
幸せ撲滅の不良三人組、わんわん王たる荵とあかね、強大な黒鉄兄妹、鳥コンビとか、いるしな!!
長期療養してるだけでもっといるんだよ?

本スレ>>131>>133
すまん!!
ちょっと見ないうちにリンク先が死んでた
……もう一回上げてくれなきゃ嘘だぜ?

本スレ>>136
童話とかとリンクさせてくるわんこ氏の手法えげつなくて好き。
な、なんかこいつら乙女してるぞ!?

本スレ>>139
烏丸ちゃんって初出がすぐには思い出せんかった。
葱すけは人間関係に貪欲だなぁ。
これは面白い試み。背景のシンボルが入れ替わってるw
しかし筆で果たし状とか古風な子やね?
まさかその髪に墨(ry



感想遅れて悪かったな
ちょっと死んでたから

388名無しさん@避難中:2014/05/11(日) 11:03:30 ID:EtzVc35wO
わわわ!何と言う!
もう一度、作品群読み返すじぇ!

389名無しさん@避難中:2014/05/11(日) 11:11:26 ID:4lbMo82.0
>>387の129にオラクルも入れよう。
なんか神聖視してしまっていたのか把握とかいう次元にないというか
……言い訳は止めよう。入ってなかったね。ごめんね!

390名無しさん@避難中:2014/05/13(火) 01:14:34 ID:TLx3hoZc0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org5057896.jpg

391名無しさん@避難中:2014/05/13(火) 01:38:47 ID:YsMBIooc0
わん!

392名無しさん@避難中:2014/05/13(火) 19:03:50 ID:mwQHlm.MO
わ、わん!

やったね!おぶるまだよ!おぶるま!

393名無しさん@避難中:2014/05/13(火) 19:23:02 ID:1AtfTivU0
やってくれたな!
やってくれたな>>390
ちょっとおすましな表情がいい。
ちなみに油すましは妖怪で、水すましは昆虫だ(製造業の用語でもあるけど)。
実はブルマじゃなくてスク水かもしれない。それは誰にも分からない。

394名無しさん@避難中:2014/05/14(水) 11:29:30 ID:pWZKMcE2O
後輩「〇〇!〇〇はぶるまが似合うと思うんです!」

問:〇〇を埋めなさい。(配点10点)

395名無しさん@避難中:2014/05/14(水) 12:02:03 ID:TB0oJpak0
ブルマ似合いそうなキャラ多すぎるからここは大型台で

396名無しさん@避難中:2014/05/14(水) 17:54:19 ID:5DBtkbNo0
何でや!
もっと似合う男の子おるやろ!

397名無しさん@避難中:2014/05/14(水) 18:56:25 ID:5iVPsmUI0
      ィ";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;゙t,
     彡;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ
     イ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;r''ソ~ヾ:;;;;;;゙i,
     t;;;;;;;リ~`゙ヾ、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ    i,;;;;;;!
     ゙i,;;;;t    ヾ-‐''"~´_,,.ィ"゙  ヾ;;f^!   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ト.;;;;;》  =ニー-彡ニ''"~´,,...,,.  レ')l. < おまえは何を言っているんだ
     t゙ヾ;l   __,, .. ,,_   ,.テ:ro=r''"゙ !.f'l.   \____________
      ヽ.ヽ ー=rtσフ= ;  ('"^'=''′  リノ
    ,,.. -‐ゝ.>、 `゙゙゙゙´ ,'  ヽ   . : :! /
 ~´ : : : : : `ヽ:.    ,rf :. . :.: j 、 . : : ト、.、
 : : : : : : : : : : ヽ、  /. .゙ー:、_,.r'゙: :ヽ. : :/ ヽ\、
  :f: r: : : : : : : : !丶  r-、=一=''チ^  ,/   !:: : :`丶、_
  : /: : : : : : : : :! ヽ、  ゙ ''' ''¨´  /   ,i: : : l!: : : : :`ヽ、
 〃: :j: : : : : : : ゙i   `ヽ、..,,__,, :ィ"::   ,ノ:: : : : : : : : : : : :\
 ノ: : : : : : : : : : :丶   : : ::::::::: : : :   /: : : : : : : : : : : : : : : :\

398名無しさん@避難中:2014/05/14(水) 19:11:54 ID:79Vk9/7M0
拓ちゃんブルマ不可避

399名無しさん@避難中:2014/05/14(水) 22:43:30 ID:YHQ9THHA0
迫先輩もだなっ

400名無しさん@避難中:2014/05/14(水) 23:01:10 ID:5DBtkbNo0
この方向性でいいのかなぁw

401名無しさん@避難中:2014/05/15(木) 01:17:04 ID:AU7xuzo20
女子はブルマよりスパッツ的なほうが好きw

402名無しさん@避難中:2014/05/15(木) 09:38:41 ID:7P7I5G620
※ブルマ一枚で次々とポージングを決める重量挙げ部の面々

403名無しさん@避難中:2014/05/15(木) 19:20:06 ID:Q72T8pz.0
そこはレオタードがいい

404名無しさん@避難中:2014/05/15(木) 22:11:27 ID:b/8RySfs0
演劇部出番なし。

405 ◆46YdzwwxxU:2014/05/31(土) 00:00:13 ID:pIMw0T3E0
よっし夏が来たな!?

投下だ投下だー!

406先輩、七不思議です! ◆46YdzwwxxU:2014/05/31(土) 00:02:05 ID:pIMw0T3E0
※一応閲覧注意です。有名な怪談都市伝説の概要が含まれています。



「先輩先輩先輩これですこれこれこれ見てください!」
「何だよ今日はまた一段と押し付けがましいな……」

 陽射しが日に日に鋭さを増していく初夏――
 登校したその足で飛んで来たらしい後輩は、やけに興奮した様子で、携帯電話の画面をこれでもかと俺の顔面
に突き出してきた。
 最近とうとう流行りのスマートフォンを買ったらしいが、ペアルック気取りか俺の前では俺のと同型の開閉式
のものばかり使っている。
 もはや窮屈げに思えてしまうと語るディスプレイには、搭載のカメラで撮影したらしい電子の写真。そこでダ
ブルピースして笑っているのは、最近俺とも知り合いになった下級生だった。
 一年、久遠荵。元気な仔犬を思わせる、というか本人が日頃から口癖でわんわん言っているので、もう生物学
的分類もイヌ科でいい気がする、そういう感じの子である。よくないか。

「わん……久遠じゃないか。これがどうした」
「『恐怖! 人面犬』」
「ちょっと何失礼なこと言ってるのお前」

 いくら何でもあんまりだ!

「というわけで夏! サマーなわけですが! 夏といえば怪談ですね! 私と怖いお話いっぱいして、このクソ
暑い夏を乗り切りましょう!」
「なんか……涼しくならなそう」

 “後輩”後鬼閑花のやかましさは栄養満タンのミンミンゼミに匹敵する。受け流してなお暑いのに、まともに
応対していたら熱中症で保健室送りは免れないだろう。

「確かに閑花ちゃんのキュートボイスでくすくす囁かれては、ホラーどころではないかもですね」
「そうじゃなくて全部ギャグにするだろお前!」
「ご存知ない? ホラーとギャグの親和性って高いんですよ?」
「ホラー要素が残ればの話だろそれは!」

 後鬼閑花、通った後にはぺんぺん草も生えない女である。
 もしかしたら別の意味で寒くなるとかはあるかもしれないが、そんな居たたまれない空気の納涼イヤすぎる。

407先輩、七不思議です! ◆46YdzwwxxU:2014/05/31(土) 00:03:52 ID:pIMw0T3E0

「まあまあ。別に何も怪談で涼しくならなくってもいいじゃありませんか。何なら私のお部屋には私専用のうち
わもあります。いい匂いします。先輩もきっと興奮します」
「話題振っておいて、怪談そこまでないがしろにしちゃうのかよ!」

 スマートフォンの前に扇風機買えばいいのにと密かに思うが、よそ様の事情に口は出すまい。……いやまあ、
どうせツッコミ待ちなだけで本当は扇風機とかクーラーとかあるんだろうけど。

「そもそも、私はただこの機会に怪談都市伝説をありったけ集めて、先輩とのピロートークのネタにしようと思
っただけですから」
「ピロートークってそういうんじゃなくね?」
「とにかくご期待ください、次は『怪奇! 口裂け女』を激写してやりますよ。ポマード! ポマード!」

 ……何となく、ろくなことをしないこいつの両頬を俺が引っ張り上げて「あ、口裂け女ここにいたわ」みたい
なしょうもないオチになりそうで、今からやってられない気分になる。

「ポマードッ!」

 後輩はポマードポマードポマードと大声で唱えながら去っていった。
 ……どうでもいいが、口裂け女を追っ払うための呪文を連呼しながらあいつは何を探しに行ったんだろう。



 ※


 翌日。
 再び訪ねてきた後輩は悄然と項垂れていた。もっと正確に言うと、そういう殊勝な態度をしているフリをして
いた。

「『怪奇! 口裂け女』は惜しくも取り逃がしました……。いえ、ほんと、あとちょっとだったんですよ? 今
の私こそが本当の『口先女』。きゃーうまいこと言っちゃいました!? 褒めてくれてもいいんですよ」
「やかましい」

 長台詞の中でテンションをこんな急激に上げ下げされると、地の文での補足描写が追いつかないから止めても
らいたい。

「しかしそこはさすがあなたの後輩、転んでもただでは起きない! 何といっても、口裂け女よりもレアな『殺
戮! 怪人赤マント』の盗撮に成功したのですから」
「さらっと俺をお前の同類にするんじゃない!」

 怪談都市伝説のあるじである現代の妖怪たちを執拗に付け狙うパパラッチ……。後輩は、俺の知らないところ
で、もはや赤マントなど及びもつかぬ怪人物へと変わり果てていた。かなりショックだ。……いや、そんなショ
ックでもないな。普段からわりとヤバかったし。

408名無しさん@避難中:2014/05/31(土) 00:05:34 ID:pIMw0T3E0

「怪人赤マント。先輩なら当然ご存じかとも思いますが、いい機会ですのでこの地方で一番ポピュラーなお話を
おさらいしますと」

 頼みもしないのに、後輩は声をわずか低くしておどろおどろしい語り口で話し始める。こういう演技というか
空気の演出は異様に得意な女なのである。問題は何が何でも笑いに結び付けようとする芸人根性だけだ。

「学校や公衆トイレの個室で紙がなくて困り果てていると、扉の前で『赤巻きぎゃみが欲しいか? 青まっ……
き紙がいいか? それとも黄みゃきぎゃみにするか?』という声がする」
「滑舌悪いな……」
「赤巻紙と答えた者は、鎌で首を切られ血塗れにされて殺される。青巻紙と答えた者は、顔面蒼白になるまで血
を抜き取られて殺される。黄巻紙と答えた者はたちまち黄疸に……それこそ『殺戮! 怪人赤マント』!」
「それって『赤い紙、青い紙』とかいう別の怪談じゃないのか」
「私にはそのへんの事情は分かんないです。あくまでこの地方では、派生バージョンとのミックスになっている
としか」

 ほんとかあ?
 むしろ後輩が最近になってミックスしたんじゃないか? そんなふうに疑わしく思うのは、それだけの信頼と
実績があるからである。むしろ前科と言ってもいい。

「かつては噂話のみで『赤マントがA町にやってきているらしい。三丁目の空き地で野良犬と争っているのを見
た』といったように伝えられ、大いに恐れられたとか」
「変な証言足すな」
「そんな赤マントの噂も、オイルショックの混乱が一段落してトイレットペーパーが潤沢になったあたりから人
々の口に上ることはなくなりました。そのはずでした」

 オイルショックとはたぶんまったく関係ないが、確かにあまり最近の流行りという感じではない。説明しづら
いが、赤マントなんていかにも昭和っぽい話だと思う。

「しかし、それから数十年、この仁科の地に、怪人赤マント再びあらわる! ご覧ください、『殺戮! 怪人赤
マント』、このまがまがしい姿を」

 後輩がようやく自信満々で見せてくれた問題の写真には、確かに赤いマントを翻す覆面の人物が写っていた。
 それはあまり関わり合いになりたくない格好の女だった。
 出来れば絶対に関わり合いになりたくない格好をした女だった。
 獣の耳らしき二つの突起物のあるヘルメット。鼻筋から上をハート型のバイザーに遮られてその面相は不明。
赤マントの下に見え隠れするのは仁科学園高等部女子制服。白い手袋が握るのは女児を対象としたアニメに出て
きそうな魔法の杖。

「おわかりいただけたでしょうか?」
「近森さんじゃんこいつ」

 近森ととろ、またの名をカップルウォッチャー。他人の告白やデートや修羅場を物陰から見物するのが趣味と
いう俺のクラスメイトが、たまにこういう奇抜な変装をしていた。

409名無しさん@避難中:2014/05/31(土) 00:06:21 ID:pIMw0T3E0

「いいえ先輩。足回りが運動靴ですし、頭部の形状も若干異なるようです」
「カップルウォッチャー2号いんのかよ。……これも久遠かな。隣に黒咲さんいる」

 何やってんだあいつも。後輩の中で都市伝説化されすぎだし。

「そんな! 間違いなく怪人赤マントですって! この現代日本で、赤いマント姿で街をうろつくなんてそうは
ありませんよ!」
「それはそうかもしれんが、これはちょっと怪談にはならないな」

 むきになって強弁する後輩をあしらう。
 ちょっと普通じゃない変装をしたデバガメ女がひとり増えただけだ。
 ……それもまあ怪談といえば怪談なような気もするが、中身を知っているだけに怖くも何ともない。

「せっかく激写したと思ったのに……おのれ、わんわん太郎……どこまで私の邪魔をすれば気が済むのか」
「とんだ逆恨みだ」

 怒っていいぞ、わんわん太郎。
 あ、わんわん太郎って言っちゃった。心内文でのことなので、心の中だけで詫びておく。変な名前にしてごめ
んな、わんわんむすめ。
 ……。
 あんま変わらねえ……。

「しかし! まだまだ閑花ちゃんのターンは終わっていません! 絶倫です私!」

 話もひと段落して安心したところ、後輩の妖力のほうはまだ尽きていなかった。

「絶倫です私!」
「聞いてたよ! 無視してるんだよ!」

 もう付き合っちゃえよとか無責任なことを言ってくれるクラスメイトどもに、むしろ俺が「お分かりいただけ
ただろうか」と言いたい。一秒たりとも会話を続けていたくなくなる貫録のウザさ。

「先輩は、仁科学園の七不思議はご存じですか?」

 俺はあからさまにイヤそうな顔をしていたと思うのだが、後輩は何食わぬ顔で継続。

「全部は知らない。真田教諭の親子関係、購買事件、あと防火扉の隙間女、初代学園長の埋蔵金……は違うか、
あとは……ああニッシーがあった、それから理科準備室の開かずの冷蔵庫? ふーちゃん……くらいかな」
「だいたい表七不思議ですね」

 ……表?

「そこでそこでっ、“閑花ちゃんが調べた!仁科学園裏七不思議”っ! 最恐裏ビデオ豪華ラインナップをここ
でずらっと紹介しちゃいます! 永久保存版ですよ! 録画するレディはゴーです?」
「それもう始めちゃってるだろ」

410先輩、七不思議です! ◆46YdzwwxxU:2014/05/31(土) 00:06:59 ID:pIMw0T3E0



●『戦慄! 屋上の幽霊ギター』 不思議度★★★☆☆/恐怖度★★☆☆☆/知名度★★★★★
【概要】放課後の屋上からギターの音が聴こえて来るが、行ってみると誰もいない。曲を最後まで聴くと死んで
しまう。しかしチョココロネをお供えするとその家は栄えるという。

「チョココロネは嘘臭いですかね」
「雑すぎんだろ」


●『逆襲! 妖怪どんぐりババア』 不思議度★☆☆☆☆/恐怖度★★★★★/知名度★★★★☆
【概要】いきなりどんぐりを投げつけてくる。どんぐりに当たると死んでしまう。

「有効な対策も対処法もなし、致死性の飛び道具持ち、気性の荒さと隙がないです」
「意味のわからなさがただただ怖い」


●『脳筋! 重量挙げ部』 不思議度★★☆☆☆/恐怖度★★★☆☆/知名度★★★☆☆
【概要】筋トレの果てに人間を辞めつつあるとか何とか。

「運動部の業の深さッ」
「お前もそろそろ人外じみてきたけどな」


●『邪悪! 三人ミサキ』 不思議度★★☆☆☆/恐怖度★★★★☆/知名度★★★★★
【概要】学園のカップルのもとに現れるという三人一組の悪霊。これに襲われたカップルはたちまち破局してし
まう。カップルを解消に追いこむと、三人のうち一人は成仏するが、別れさせられた男が新たな三人目として加
わるという。

「継ぎ足して作る秘伝のタレみたいな奴らだな……」
「中国四国地方には七人ミサキとかいうそんな妖怪の伝承があるんだとか」
「……そんなの下敷きにしてまで話作らなくていいのに」
「ふふん。まあ眉唾な話ですよ。だって、もしこんな連中が実在するなら、私たちのような熱愛カップルを放っ
ておくわけないからです」
「カップルじゃないからだよな?」


●『怨念! ふーちゃん』 不思議度★★★★★/恐怖度★★★☆☆/知名度★★★★☆
【概要】不思議な力を持っていたことが原因で、クラス全員から陰惨ないじめに遭った少女の怨霊ふーちゃん。
彼女は今も恐怖の噂を密やかに広め、またその力で物を隠したり、トイレットペーパーを水浸しにしたり、掲示
板に落書きをしたりとさまざまな悪さをしているという。

「なんかいきなりマトモになったな。怪談として」
「これは脚色してませんから。がちです」
 ――冤罪よ。
「やっぱり脚色してたんだ……」


●『妖精! しーちゃん』 不思議度★★★☆☆/可愛さ★★★★★(まだ成長中)/知名度★★☆☆☆
【概要】しーちゃん……一体誰なんだ……?

「この可愛さはもはや七不思議! ちなみに私は、閑花ちゃん。あなたの隣にいるの。一生」
「付き纏うな妖怪ッ」


●『怪獣! ニッシー』 不思議度★★★☆☆/可愛さ★★★☆☆/知名度★★★☆☆
【概要】裏山に棲むという謎の生き物。姿については目撃者によって証言が異なるが、毛むくじゃらだというこ
とだけは共通している。やまわろの一種とも、野生化した近所のガキンチョとも言われている。

「あ。しーちゃんでいじった恐怖度のパラメータを元に戻すの忘れてました」
「もう全然怖くないな」


●『魔壁! ネオ・コックリさん』 恐怖度★★★★☆/可愛さ★★★★☆/知名度★★★☆☆
【概要】ある生徒が行ったコックリさんの暴走によって、突如として謎の“壁”が学園を囲う。屋上よりよほど
高く聳え、それを越えることは何人にも不可能だった。運悪く中に閉じ込められた生徒たちは、邪悪な動物霊に
取り憑かれ、最後のひとりになるまで凄惨な殺し合いをさせられるという……。

「コックリさんの夏の最新モデルです。今大人気のバトルロイヤル要素や獣耳しっぽなんかも組み合わせてみた
りしてっ」
「ネオ……」

411先輩、七不思議です! ◆46YdzwwxxU:2014/05/31(土) 00:08:48 ID:pIMw0T3E0

「――いかがでしたでしょうか!?」

 ネオ・コックリさんのパラメータまた間違ってる……。
 不思議度の消えた七不思議ってそれ悲しすぎないだろうか。どうでもいいか。いいな。
 後輩がスマホから見せてくれた謎の動画は、何だかんだで出来が良かった。

「取り敢えず七不思議なのに八つもあるから、しーちゃんとかいうのをクビにしよう」
「あっ、それ、いいっ! いいですっ!」

 何でいきなり興奮してんだコイツと思ったが、すぐに理解が及ぶ。どうやら“しーちゃん”という呼び方がい
たく彼女の琴線に触れたらしい。
 ……これは不覚だ。俺としたことが完全に油断していた。
 かくなる上はこの時間帯の会話じたいを打ち切ることで、このにわかに桃色化してゆくたわけた空気を散らし
てしまおう。

「さて、怪談でだいぶ肝も冷えたことだし、俺はそろそろ教室に……」
「先輩! 怖くなっちゃっても、だいじょうぶっ! しーちゃんにおまかせです! このしーちゃんがおトイレ
にお風呂にベッドの下に! ばっちりごいっしょしますよ!」

 あ、隙間女ここにいたわ。



 ※


 その日。
 俺は家に帰ってから、一度だけベッドの下を覗きこんだ――



 おわり

412先輩、七不思議です! ◆46YdzwwxxU:2014/05/31(土) 00:09:30 ID:pIMw0T3E0
投下終わり終わりー!

……
最初はちゃんと怖い話にしようと思っていろいろ調べましたが、力及びませんでした。
口先女ってふつうに妖怪ウォッチにいたしね……
妖怪ウォッチのアニメ面白いね

わんわんごめんね

413名無しさん@避難中:2014/05/31(土) 08:14:08 ID:DeqQilns0
ツッコミが追い付かんwww

414名無しさん@避難中:2014/06/04(水) 07:56:44 ID:DXtOmjvYO
先輩が擦り切れるw

415わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/06/13(金) 19:44:14 ID:k2M11JbI0
>>412
わんわん太郎!「カップルウォッチャーを継ぐ者たち…の巻」はまだですか。

投下します。
上原梢ちゃん、初めて書いてみた。

416『上原梢のおせっかい』 ◆TC02kfS2Q2:2014/06/13(金) 19:45:28 ID:k2M11JbI0

 おいしっ!おいしい!
 缶詰みかんがおいしい!ジューシーさと控え目な酸味がお口の中で見事に溶け合う奇跡だよ!
 部活の後の疲れた体にあんまいフルーツは格別だよね!

 あっ!わたし、上原梢だよ!仁科学園高等部一年生!薄茶のツインテールがきれいだねってよく言われるよ!
あっ。自慢しちゃった!恋の相談があったらなんでも乗るよ!お金以外だったらね!

 だーけーど、このみかん、まじ美味だし、これ教えてくれた閑花ちゃんぐっじょぶだし!
 学校に来る途中に寄ったコンビニで偶然見つけて、迷ってる暇ないし、思わず買っちゃたんだよね。
でも、後先考えずに買っちゃたから、缶切りないのに気付いてとほほってたら、先輩さんが貸してくれたんだ!
 真面目で公務員ちっくで、眼鏡がきっと似合いそうな男子だよ!そんな先輩さん……白馬の王子様が手を差し延べてくれたんだよ!
閑花ちゃんがほの字なのも頷けるな!
 あっ。閑花ちゃんってのはわたしの親友だね。心友っても言うのかな、いつも恋に一生懸命な子なんだよ。
 だーかーら、わたしも一生懸命応援してるんだけど……なかなか意中の王子様は振り向いてくれないんだなー。
王子様とは先輩さんのことだ!わたしが先輩さんにときめいてどうするー!
 すやすや横で寝ているんだけど、やっぱり閑花ちゃんを見つめてると黒髪きれいだしー、こんないい子、他にはいないよー。
尽くしてくれるから早く振り向けー、先輩ー!

 「せん……ぱい、太いです」

 あれー。閑花ちゃん、寝言かなー。子猫みたいに大人しく夢心地の閑花ちゃん、夢の中でも先輩とちちくりあってるのかな。

 「先輩……は、ふてえ野郎です。おぬし叩き斬ってやるです」

 親友が幸せそうな顔をしている中、わたしもほんのちょっと幸せを摘んだり。
 閑花ちゃん、にくいヤツですなー。わたし、嫉妬しちゃおうかな。

 そうだ。

 わたしは缶詰みかんを摘んでそっと閑花ちゃんの頬に近付けてみた。寝息がわたしの指にふわりとかかる。
 平和な時間に甘んじた無防備な閑花ちゃんをだまくらかすのは赤子の腕を捻るぐらい簡単なんだよ。
 こっちもすこしどきどきだ。触るか触らないかのびみょーな距離を行き来して、そして、ぷにぷにと柔らかいみかんを
閑花ちゃんの頬に当ててみた。そう。この裏技、知ってる人は知っている。知らない人はどきどきだ。答えを明かす前に
うずうずしちゃうから、口より先に手が動く!缶切りのときのこと?そんなことよりどきどきが止まらない!

 ちゅっ!

 「ふわ……うわ?夢、じゃないよね?」
 「あれー。閑花ちゃんおはよう」
 「わたし、今、先輩の夢見てたんだよ。先輩がわたしのほっぺに……ふわあ!言えません!閑花ちゃんの口からは『
  閑花の隙を見せていいのはおれだけだからな』って言う先輩の台詞なんか!」

 あらー。
 顔を真っ赤にした閑花ちゃん、ほんのちょっとだけ幸せな時間を過ごせたよね。
 みかんの感触って、ちゅう!にそっくりらしーよ。
 わたしはまだわかんないけど!
 はかない泡沫の夢だけど、閑花ちゃんが喜ぶ顔が見れて嬉しいし。

 あれー。
 喜ぶどころか、まじ覚醒?
 まじめざめ?まじめざめっす?合体したいってまじめざめっす?

 「よし、梢ちゃん。このまま先輩に甘えてちゃダメです。攻撃こそ最大の防御、先輩に閑花ちゃんからのお返しです!」
 「あの……閑花ちゃん、違うの」
 「先輩!先輩の甘くて酸味の効いたフルーティーな〇〇を下さい!」

 あれー……閑花ちゃんって、考えるより行動派だからなー。
 後先考えろー、わけわかんないよー。


   おしまい。

417わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/06/13(金) 19:47:29 ID:k2M11JbI0
「閑花ちゃん!泳ぎに行こうよ!もちスク水で!」

ttp://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/819/kozue05.jpg

梢ちゃんは夏服が似合うと思います!
投下おわり。

418名無しさん@避難中:2014/06/15(日) 21:32:37 ID:fX2WhXtQ0
テンションたか!
梢は語尾が伸びるのが可愛い。
確かに元気っこは夏服似合うイメージある。

なんとなく高校生っぽい小道具(みかんとか)きれーに絡めてくるところは見習いたい
……缶詰みかんはそんなに高校生っぽくはないかw

しかし先輩はなんで缶きりなんて持ってたんだw
そして安定の下ネタだか何だかよく分からない後輩の台詞w

投下乙でした

419名無しさん@避難中:2014/06/17(火) 21:19:37 ID:AN9CBJwE0
梢と閑花と荵。三人そろえばかしましい。
そこに先輩を投入すれば、もう…。

420名無しさん@避難中:2014/06/17(火) 21:52:58 ID:IAuKY7/s0
幼稚園だな・・・

421名無しさん@避難中:2014/06/17(火) 22:14:19 ID:3hR6JRGo0
先輩の胃に穴が開くw

422名無しさん@避難中:2014/06/17(火) 22:26:33 ID:IAuKY7/s0
和穂もいれよう

・・・四天王やなもう

423名無しさん@避難中:2014/06/19(木) 11:24:34 ID:OAlGJPFwO
JK1年組が一番濃いw
そんな中に埋もれる静奈たん…

424名無しさん@避難中:2014/06/19(木) 18:15:49 ID:jJ2jp3GA0
静奈ちゃんは唯一の癒し

425名無しさん@避難中:2014/06/19(木) 22:20:44 ID:0AkBGzJQ0
静奈「あのー。わたし、キャラ薄いんですかね…。ごめんなさい!」
烏丸「そんなことないです〜。烏丸なんて、もっとひっそりしたいです〜」
あかね「みんな、十分キャラたってますっ。だから、舞台に出ませんか?」
静奈「ええええ?」
烏丸「無理です〜!烏丸には〜」

JK一年黒髪's。我、十分かわいい説を唱える。

426名無しさん@避難中:2014/06/21(土) 07:48:53 ID:CiQR2AeM0
梢・・・親友ポジ
閑花・・・ストーカー
荵・・・わんわん王
和穂・・・とり
静奈・・・恋する乙女
烏丸・・・レアキャラ
あかね・・・営業

こうか

427名無しさん@避難中:2014/06/21(土) 17:44:02 ID:WQR2iXWw0
役職 とり

おかしいだろwwwww

428サードアイ[1]:2014/06/29(日) 21:43:58 ID:qPkswdB60

 人は生まれながらに、ある程度「果たす役割」が決まっていると思っている。
 大学に行くべき奴は大学に行き、そこで何かを見つけて、就職する。
 オレはそうじゃないから、進学しないで就職する。

 何も目的のない奴が「とりあえず」大学に行ったって、カネと時間の無駄だと思う。
 いま、この時点で自分の役割を見いだせないなら、どこへ行っても見つからないし、何者にも成れない。

429サードアイ[1]:2014/06/29(日) 21:45:25 ID:qPkswdB60

 オレに選べる選択肢は少ない。
 目の問題があるからだ。

 いつかは分からないけれど、今よりも視力が落ちることは確実で、そうなったら世の中の多くの仕事に就くことが出来なくなるだろう。
だから今のうちから、そうなっても出来る職を探しておく必要がある。

 つまり、その職がオレの“役割“ってわけだ。

 ってのも、言い訳かもしれない。
自分で選ぶってのが面倒、と言うのはある。逃れられない状況に自分を追い込むために、目のせいにしているのかも知れない。

……まあ、そんなことはどうでもいいけどな。



☆ ☆ ☆

430サードアイ[1]:2014/06/29(日) 21:46:57 ID:qPkswdB60

 ドアがノックされた。控えめに、小さな音。iPodで音楽を聴いてたりしたら、絶対聴こえない。
 続いて、おふくろの声。

「マサヤ」
「なに?」
 ドアを開けずに、声だけで応じる。開けたところで一緒だからだ。

「母さん、ちょっと頭痛いから横になるけど……ミカミさんが肉じゃが作ってくれてるから、晩ご飯はそれ食べなさいね」

 ミカミさんってのは、ウチのお手伝いさんだ。オレが小さい頃からこの家に勤めているから、ほとんど親戚みたいなもんだ。

「ああ」

 オレは返事をして、おふくろの気配が遠のくのを待ってから、机の引き出しをそっと開け、“例のアレ”を取り出した。




  ☆ ☆ ☆

431サードアイ[1]:2014/06/29(日) 21:51:26 ID:qPkswdB60

 走るバスの窓から道路を見下ろす。
 夜8時を回った頃で、中途半端に田舎なこの街で、片側2車線の道路は走る車もまばらだ。

 白のレクサスが、バスに並んだ。並走するかたちでしばらく進む。逆輸入車だろう、左ハンドルだ。
オレはいつもバスの後方左側に座るから、レクサスの右側、助手席がよく見える。

 そう、よく見えるんだ。
助手席の女の、胸元の谷間が。
眺めているうち、女が視線を上げた。

――なんだ、キクタニか。

 クラスの女子。おとなしめの優等生。
同じクラスの、数学がよくできるいけ好かない野郎と付き合ってたはずだ。

 それが派手めなメイクと胸元の開いた服で、レクサスの助手席に収まっている。当然、運転手は別の男だ。
親や兄弟でないことはハッキリ分かる。それなら、あんな露出の多い服は着ない。

 キクタニは、オレと目が合った瞬間、はっとした表情をして目を逸らした。

――ヨロシクやれよ。

 オレはスポーツ新聞のエロ記事を読み耽るオヤジみたいな表情をしていただろう。
おもいっきり下品な笑顔を浮かべて、バスの中から手を振った。

 キクタニは、もうオレの方を見なかった。



☆ ☆ ☆

432サードアイ[1]:2014/06/29(日) 21:53:43 ID:qPkswdB60

 どうしてオレの目は、見なくてもいいものばっかり見ちまうんだろうな。
 視力は良いほうじゃない、むしろ徐々に悪くなっている。

 それでも、なぜか「そっちを見てみようか」と思うでもなしに目を向けた先に、見なくてもいいもの、見ちゃいけなかったものがある。
 キモいものとかグロいものとか、クラスメイトの醜い一面とか。

 もう、そういうのにも動じなくなった。何を見ようと何が起ころうと、驚かない。
 所詮この世の中はクソッタレだ。こんな世の中、いつおさらばしたって構わない。


.

433名無しさん@避難中:2014/06/29(日) 21:54:24 ID:qPkswdB60
↑以上で

434名無しさん@避難中:2014/07/01(火) 21:49:54 ID:BItiR7s20
オラクル、ストップときて、アイとは。
あったあったこんな時期w
若さゆえの鬱屈・・・そういうものを描くのが抜群にうまいよね。

435名無しさん@避難中:2014/07/02(水) 22:51:44 ID:TSPlDdiU0
そろそろまとめwikiどうにかしようと思うんだけど
あれ?ワンオラクルってこれまで入ってなかったん?
割とマジで驚いたんだがw

いや俺も二回くらい更新した記憶があるはずなのにな。
避難所ばっかり見てたから・・・?それで新スレに移行してて・・・とか?
でも日付的に避難所より早いから、俺がまとめに手を出してなかった時期のか?
謎だけどなんか悪かった。

でさ、3スレ目
265 :荵にわんわん ◆TC02kfS2Q2 :2010/07/23(金) 18:42:56 ID:jbWOBdc0
の直後にワンオラクル一回目の投下があった。
「荵にわんわん」がまとめでは投下順「078」になっているから
267 : ◆BY8IRunOLE :2010/07/29(木) 20:30:05 ID:gJp5lFDs ←ワンオラクル一回目の投下
これが事実上「079」になるんだよね。


つーわけでアンケってわけじゃないけど一応独断じゃないよってポーズのために

・投下順でやり直すと現行からズレるんだけど、もうこの際だからきっちりやってズラしていい?
・シリーズごとにタグを付けてみてはとか、そういう案をチラ聞きしたけどどうだろう?

436名無しさん@避難中:2014/07/03(木) 06:38:15 ID:GSYke9g20
いいよん。でもまとめられてない物のログを持ってないし順番も把握し切れてないから俺ちょっと無理w

437名無しさん@避難中:2014/07/03(木) 18:17:38 ID:bLWlRPE60
そっちは俺がやるから大丈夫。
案があれば考えておいて!(?)

438名無しさん@避難中:2014/07/04(金) 23:45:17 ID:2oloz4p60
いかんな脳細胞死んでる・・・
このスレがなかったころ、最初期って避難所のどこで雑談してたんだっけ?
覚えてる人いない?

439名無しさん@避難中:2014/07/04(金) 23:58:59 ID:2oloz4p60
ごめん、避難所じゃなくて独立してたんだっけ?
もう全然覚えてないけど、そんなレスを発見。

これで「仁科学園名場面セレクション」の1は幻になってしまったってことか
誰か保存して・・・ないかな

440名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 12:42:34 ID:/cR3w2d.0
まとめwikiのSSページだけ作るだけ作って投下順に追加。

投下順の順序を1レス目完全時系列に修正。

小ネタ集追加。

リンクとかは全然貼ってないし、順序変えた分今混線してる。

作者別・人物紹介もとりあえずは放置。
作者別はそんな手間じゃないからまた適当にやる。

あと絵は把握しきれん。申し訳ないけどこれも放置。
作者さんが「これまとめてよ」って用意してくれたら喜んでやるけど、
わりと途方もない作業っぽいので展望が開けるまでは動きたくないw

サードアイは今空白。完成したら呼んでおくれ。
ダブストもこれは一区切りしているのかちょっと判断つかんけど、投下があれば続きに追加するから安心してほしい。
ワンオラクルはどうも空白のページだけは既に作られていたらしくて、それでまとめられていると思ったみたい。終わりのタイミングがはっきりしなかったしな。
まあ収録できてよかったよかった。



ここまでモレがあったら指摘よろしく。

レスタイトル行を削除する過程でもしかしたら本文間違えて消しちゃってるかもしれんので
自分の作品だけでも確認しておいてくれな。

誤字脱字、改行、場面転換符の統一とかは例によってセルフなので作者様でどうぞ。
頼んでくれたら俺やるけど、たぶん自分でやった方が早いw

441名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 13:10:30 ID:/cR3w2d.0
ここからが問題なんだけど
初見にも見やすくするとか
新規が入りやすくなるとかそういう方向でなんかないかな?

個人的には、作者別まとめページとか仕様がちょっと手間に感じるのでどうにかしたいところ。

442名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 16:20:18 ID:3vmezeAA0
>>440
乙でした!

本編(作者順)ページでいちいち+ボタンクリックしないと作品一覧が出ないのが辛いので
そうじゃなくなるだけでもだいぶありがたいかなー
最上部に作者名リンクをずらっと並べてページ内リンクで各作者の作品一覧に飛べるようになると
個人的にとても見やすくなると思う

443名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 20:31:23 ID:/cR3w2d.0
・作者別作品一覧の作成
これは俺も思ってた。

作品同士のリンクはどうしよう。
投下順リンクって意味あんのかな。
いやまあシェアだから全然違う人が一人のキャラを積み上げていくわけで
同じ作者のだけリンクさせても・・・というのは分かるが、ぶっちゃけ使うか?あれ

444名無しさん@避難中:2014/07/05(土) 20:54:23 ID:koqSOnG60
作者別でいいと思うよ。あんまりやると複雑すぎてあばばばばっばになる気がする。相関図くらいでいいかとw

445名無しさん@避難中:2014/07/06(日) 00:30:56 ID:ltq/e6sI0
俺ガラケーだから分からんのだが、スマホで使う分に不便はない?


相関図の強化もありだな。
大昔にもしたっけこんな話w
人物紹介の改変とか、紹介SSとか。


作者別リンク追加は暫定的に決定で。
投下順リンクは残すべきか、いっそ消すべきか。
関係の深い項目やSSにもリンク貼るってのもありかもしれない。

446名無しさん@避難中:2014/07/06(日) 14:52:13 ID:c2.8uGB.0
・作者別まとめ(実験版)追加
・作者別ページ追加
・トップページに新着5件のSSリンクを追加

作者別まとめのフォーマットはざっと案を出してみたので叩き台にしてくれ。
細かい字の大きさとかはどうとでもなるから後でいい。
リンク先に作者別ページがあることも念頭に置きつつ、どういう情報が欲しいかって話。

447名無しさん@避難中:2014/07/06(日) 18:12:33 ID:nDVVRX/E0
案2か9が好みだな

448名無しさん@避難中:2014/07/06(日) 22:53:14 ID:4fGHgheA0
>>435
wikiまとめありがとうございます。手間がかかるのに、申し訳ありません

当時は、あまりにもスレの雰囲気に合わなすぎる駄文なので収録しないでいただければと思っていましたが、
今となっては読んで下さっている方もいらっしゃるようなので、ありがたい限りです
感謝しております



449サードアイ[2]:2014/07/06(日) 22:56:17 ID:4fGHgheA0
.
 百円ショップで伊達メガネを見つけた。
 コスプレに使うのか、時代遅れの円いレンズの銀縁メガネだ。

――とりあえず、これでもかけとくか。

 視力は悪いけれど、眼鏡を作る気は無い。
ただのシャレだ。
 オレはそれを買った。明日学校でどんな反応が来るか、楽しみだった。




「そう言えばさ」

話しかけられ、面倒なので顔は向けず返事だけする。
「ん」

「お前、兄弟とか居たっけ?」
「いねーよ。オレ一人っ子」

気まずそうに黙ったのが分かる。
別にいいのに。サイトウは気を回し過ぎるんだ。こういう時はさっさと水を向けて流すに限る。
「それがどうかした?」

「……」
「んだよ、聞き逃げかよ」
「……あのさ。たとえば、自分の考えが、相手を越しちゃってるって気づいちゃったら……どうするかな、って思って」

「……?」

意味が分かんねえ。こいつは時々、こういうふうだ。

「越しちゃってる、てのは、なんつうのかな、考えてる深さが違うっていうか……」
「……」
「悪い、ヘンな話しちゃったな」

「あるよ」
一旦は目を伏せたサイトウが、はっと顔を上げてオレを見る。

「お前が言ってるのとは違うかも知んねーけどさ。オヤジとかと言い合ってて、ふと
『ああ、コイツにはこれ以上言っても無駄だわ』 って思う瞬間がある」

「……」

「なんか、違ったか?」
「……」

「おい」
「……あっ、ゴメン。なんでもないんだ」



……変な奴。今更だけど。

450サードアイ[2]:2014/07/06(日) 22:59:33 ID:4fGHgheA0
.
 サイトウは、変なことを脈絡なく聞いてくる奴だ。

 兄弟か……。あいつのトコは、たしか妹がひとり。あいつは「上の立場」だ。
オレはいわゆる「上の立場」になったことはない。一生なることはない。

 この、「長男だから」だの「一人っ子だから」だのの、レッテル貼りが大嫌いだ。
 それで人を把握しようとする連中にはうんざりする。

 だからオレは、敢えて「一人っ子」と自分から言うことにしてる。

 一人っ子だからどうだって言うんだ。わがまま? 一人行動が好き? 競争心がない? リーダーシップに欠ける?
 ……んなの、兄弟が居ようが居まいが、身につけてる奴は身につけてるし、ダメな奴はダメなんだ。
 血液型占いと同じで、根拠は無いのにみんな取り敢えず信じて話をしている。


 サイトウは、どういうつもりでそんな質問をしたんだ?

 まあ、あいつは何考えてるかよく分かんねえ奴だから、とくに深い意味もないかも知れないけどな。

451サードアイ[2]:2014/07/06(日) 23:02:42 ID:4fGHgheA0
.
 玄関を開けて、外にでる。
 まだ2月だ、夜は冷え込む。机の引き出しから取り出した“例のアレ”――つまりタバコだ――に火を点けて、ゆっくり吸い込む。

 たぶん、部屋で吸ってもおふくろは何も言わないだろう。オヤジはいい顔しないだろうが、それでもオレに強く言ってくることはない。
 でもオレは部屋では吸わないことにしている。なぜかって? ニオイがつくのが嫌だから。


 目が悪い代わりに、鼻はよく利く。クラスの女の、シャンプーの銘柄も生理のタイミングも、バッチリ分かる。
でも、だからどうだって言うんだ? 指摘したことは一度もない。無意味なことだから。


 バスで目が合った翌日、学校でキクタニに会ったらあいつ、しれっとしてやがった。
にこやかに、「タカハシくん、おはよう」だと。

――おはようキクタニ、昨夜は何時に帰った? 制服持って行って、そのままレクサスでご登校?

 もちろんそんなこと言うわけない、言ったところで無意味だ。


.

452名無しさん@避難中:2014/07/06(日) 23:08:04 ID:4fGHgheA0
↑ここまでで

453名無しさん@避難中:2014/07/07(月) 21:26:42 ID:IXKrkuZg0
こいつらタバコ大好きだなw

454名無しさん@避難中:2014/07/07(月) 22:13:04 ID:rlwCYMxw0
>>449
毎度、毎度…えぐる文章。そんな時代もあったよねと〜
時代っていうか、心理描写がすげー…その才能、ください!

>>426
からすまりんはレアキャラじゃないよ!!!
投下するなら、今しかねー!
七夕だねっ

http://dl6.getuploader.com/g/sousaku_2/835/karassuma01.jpg

455名無しさん@避難中:2014/07/08(火) 09:20:10 ID:6jvM8N4o0
どんだけ目立ちたいんだwwwww

456名無しさん@避難中:2014/07/10(木) 22:20:48 ID:eRMO9ixo0
懐のマッシブさw

457サードアイ[3]:2014/07/13(日) 21:43:38 ID:Z2YcY/eU0
.
 黒板の文字はろくに見えねえし、真面目に板書を写す気などハナっから無い。話を(いちおう)聞きながら
教科書を(いちおう)眺め、自分で勝手にノートを作る。作るというか、メモるというか。
問題を板書されたら、後ろか隣のやつに見せてもらう。それでどうにかやってこれている。


この学校は、基本的にみんな真面目だ。不真面目なのもいるが、迷惑を被るまではいかない。
けれど、水面下での嫌がらせみてえなのは、どこにでも存在するようだ。まあつまり、バスケ部の連中だがな。

っても、一部だ。気の良いやつもいる。



 次期部長のオガサワラは1年の時一緒のクラスだったこともあって、今でもオレによく話しかけてくる。
頭の回転が速いやつで、成績も良い。オレがバスケ部に戻る気が無いと知っていて、その話題は出さない。
部の一部のバカな連中に対する愚痴を言ってくる。オレはただ聞いているだけで、たまに皮肉を返すとあいつも喜んで乗ってくる。

 オレを一方的に敵視しているのは、結局ベンチに甘んじるしか無い連中だ。誰がどの程度の実力なのかは、
1年の時にだいたい分かってる。オガサワラから聞いているから、後輩にポジションを奪われた話だって知っている。


 それをオレにぶつけるな。テメーの失地はテメーで取り返せ、さもなくば別の場所を探せ。

 小せえやつらだ。

.

458サードアイ[3]:2014/07/13(日) 22:05:18 ID:Z2YcY/eU0

  中学の時のことがあったので、高校では部活には入らないことに決めていた。
だが1年の時、オレは見慣れないやつに声をかけられた。

「タカハシ マサヤ、だったよな。バスケ部、入るか?」
「はぁ?」

 オレは見覚えがない。後から聞いた話だが、オガサワラはオレの中学と対戦していて、オレのことを覚えていたようだ。

「オレは入らねえよ」

「他に入る部を決めてるのか?」

「ああ。帰宅部に決めてる」

「そっか、もったいないな。じゃあ、こうしよう。頼む、お願いだからバスケ部に入ってくれ。幽霊部員でいいからさ」

 オガサワラが、なんでそんなにオレを誘ったのか、未だに分からない。
オレは結局バスケ部に入り、1年足らずで辞めることになったし、そのことについてオガサワラはオレを責めない。
たまに、「無理言って済まなかったな」程度のことは言われるが、オレも気にしていないので、はっきり言ってどうでもいい。



☆   ☆         ☆



 部活を辞めるだの何だのってのは、高校生にとっちゃ最大の悩みどころなのかもな。
もしかすると自分の高校生活すべてを左右するかも知れねえし、色恋と違って他人が面白がれる要素が無いもんな。
 しかも、進路選択ほど深刻じゃない。世間的には“たかが部活”、けど当事者にとっちゃ“されど部活”だ。


 バスケ部に入部してしばらくしたら、1年生がなんとなく2つのグループに分かれた。オレは特にグループの中心人物ってわけじゃなかったが、
1年の時から試合に出ていたのはオガサワラとオレくらいだった。

 それが連中の気に入らないところだったのかもしれない。オレと親しくしていたやつらは2年になってからほとんどが辞め、もう一つのグループが
今も部に残っている。つまり、オレに敵対している連中というわけだ。
 オレはさして悩まなかったが、辞めていくやつはみんな真剣に悩んでいた。部活を辞めても、その部活にいた連中は同じ学内にいるし、
どこでも会うわけだからな。

相談を受けるたび、オレは繰り返す。

――辞めるこたねえだろ。無視してりゃいいんだよ。

その答えも決まっている。

――お前はそうだろうけどな。あんなやつらと3年間一緒に部活したくねえし。


 この世の中には、どーでもいいシガラミが多すぎやしねえか。それに縛られて、しなくてもいい苦労をしているやつも多すぎる。

――好きに生きたらいいじゃねえか。

 計画性がないだの不真面目だの、そんなのは他人が勝手につけるレッテルでしか無い。
手前できっちり責任背負って生きていけば、それでいいんじゃねえの?



☆   ☆         ☆

459サードアイ[3]:2014/07/13(日) 22:09:43 ID:Z2YcY/eU0
.


 帰り際、何の気なしに階段の向こうを見やる。
 サイトウが、女子と歩いているのが見えた。あれはナギサワだな。

 ――へえ。やるじゃん。

 ネタにしてやろうと思ったが、すぐ別のことが思い浮かんだ。


 ナギサワは、どっちかといえば控えめの目立たない女子だ。表面上は。
多分だが、ヤクザと関わりがある家の娘っぽい。それも、かなり深い関係の。脅されているとか、そういう一方的な感じでもない。


 オレが探偵みたいに探ったわけじゃない。たまたま見かけた、もとい“聞こえた”だけだ。
ナギサワが、若いチンピラをなじっているところ。それも、2回。チンピラの方は俯いて、恐縮しきっているふうだった。
 フツーの女子高生がチンピラをなじれるわけがない。力関係は明らかにナギサワのほうが上だった。


 サイトウのやつ、それを知ってるのか? まあ、知らないだろうな。
ナギサワは女子の間でも、学校の誰にも秘密にしていることだろう。

 オレもそんなことを忠告する気もない。だって、そのほうが面白そうだもんな。  


.

460名無しさん@避難中:2014/07/13(日) 22:16:52 ID:Z2YcY/eU0
↑ここまでで

461名無しさん@避難中:2014/07/13(日) 23:51:19 ID:cOWVKvc20
くずっぽい話になって来たなw
いいぞいいぞ!

462サードアイ[4]:2014/07/20(日) 21:25:51 ID:rm/MS4KU0

 隠してある原付のところまで行くと、数人がたむろしていた。
 見るからに頭の悪そうな連中だ。オレの原付に跨がり、ぎゃははは笑いながらダベっている。

 オレはスマホのムービーをオンにして、ブレザーの胸の内ポケットに入れた。

 連中はオレに気づき、これ見よがしに原付に跨ったままだ。


「それ、オレのなんだけど」


 言ってみるが、連中、当然無視。まあ、予想範囲内。
制服に開けた穴から覗くカメラが全員をまんべんなく映すように、体の向きを巡らす。

「人のモノの上に乗っかって、サル山のボスってか。サルはサルらしく、マスかいて満足か?」

 跨っていたやつがオレを睨み、鼻で嘲笑う。

「あのさぁ、タカハシくんよお」

 しゃがんでいたやつも立ち上がり、オレを囲む。

――4人か。学校に行ってない“センパイ”らしきのもいるな。

「群れなきゃ何もできねえってのも、まさにサルだな。あっ、サルに失礼か」

こっちも嘲笑ってみせる。だって、こいつらバカ過ぎて嘲笑うしかない。


 胸ぐらを掴まれ、頭突きが来る。
それも想定内。デコの一番硬い部分、サッカーでヘディングするところで受ける。

「…・・・痛ってえ。いきなり頭突きかよ」

 大げさに言い、胸元をそいつの面に向ける。

――正当防衛、成立。

 目の前の茶髪の膝を前蹴りし、すかさずみぞおちに拳を入れる。

「やんのか、コイツ」

 取り巻きがオレを引っ掴んで――


.

463サードアイ[4]:2014/07/20(日) 21:31:56 ID:rm/MS4KU0
.

 そこまで想像して、やめた。

――アホらし。厨房じゃあるまいし。

 様子を見ていた近所の住人が、人を呼んだようだった。
連中は周りを気にしながら、オレに悪態をついて去っていった。
 もちろん、オレの原付は倒されて足蹴にされ、あげくツバを吐きかけられた。

――まあ、いい。しょせん道具だし、戻ってきて今までどおり使えれば何の問題もない。



          ☆ ☆ ☆



――ちっ。面倒なことになったぜ。

 よりによって、おふくろを病院に送っていく日だ。帰ったらタクシーを呼んで、同乗して病院まで行って……
うんざりする。どう誤魔化そうか。



 中学の時だ。

 インネンつけてきた奴を殴って、そいつの取り巻きに囲まれて、ボコボコにされた。
 同じバスケ部のやつだった。そいつは、そのあと部を辞めて、ろくでもない連中とつるむようになっていた。


 よく、“スポーツで健全な精神を!” 的な標語を見かけるが、よくもそんな嘘っぱちを堂々と言えるもんだと思う。
スポーツやってようが、下衆なやつはいるもんだ。逆に、文化系でもちゃんとしたのはいる。

 そいつらは、“下衆な連中”だったわけだ。オレがSGになって、それまでSGだったそいつが控えに回った。

 ただ、それだけのことだ。

 それだけのことで、帰り道に待ち伏せされ、囲まれた。連中いわく、オレは「調子に乗っている」らしい。
 だから何だ? オレもイラッときたので、殴り合いになった。と言っても、オレが殴れたのは初めの1発だけで、
あとはヤラれる一方だったんだけどな。

464サードアイ[4]:2014/07/20(日) 21:38:10 ID:rm/MS4KU0

 汚れたワイシャツと鼻血が乾いた鼻の下を惨めに思いながら、「ただいま」と言って玄関を通過した。

 おかえりなさい、いつものおふくろの声。その後すぐに、

「……マサヤ。どうしたの」

 声が硬くこわばっていた。

「は? 何でも無えよ」

「嘘言いなさい!」

きつい口調で問い詰められた。


「血が出てるじゃない……!」

 居間から出てきたおふくろの顔は、血の気が引いて真っ青だった。



 あの時は、なんで分かったのか不思議だった。多分、血の匂いでバレたのだと思った。
すぐにミカミさんが飛んできて、オレの惨状を報告し、顔にマキロンを塗りたくられ、カットバンやらガーゼやらを
貼りまくられることになった。

 その大げさなくらいの手当てを鬱陶しく思いながら、外での揉め事は極力避けようと心に決めたのだ。



 当時はそんなふうに思っていたんだが、今考え直すと、おふくろが勘づいたのはきっと血の匂いだけじゃなかったんだろう。
オレの普段と違う声のトーンとか、そういうものをかなり敏感に感じ取る。

 おふくろに嘘をつくのは至難の業だ。

 だから、悩んだ。
さっきのこと、どうやっておふくろに感づかれないようにしたらいいんだ?



   ☆    ☆    ☆


.

465サードアイ[4]:2014/07/20(日) 21:42:53 ID:rm/MS4KU0

 病院の待合室というのは、退屈だ。

 診察が終わるまでの間、オレはボーっと過ごすことになる。テレビはくだらないワイドショーを流しているし、
週刊誌を読もうって気にもならない。

 もっとも、眼がおかしくなるから読みたくない。同じ理由で携帯ゲーム機のたぐいは持っていない。


 
 一緒に診察を受けたらどうかと、最近特によく言われる。一度も応じたことはない。受けたってどうにもならない。

 おふくろは定期的に診察を受けている。ほとんど失明している眼を診察することにどういう意味があるのか、オレには分からない。

 遺伝的なものだと聞いている。オレもいずれそうなるだろう。だったら、診察したって無意味だ。



 診察ブースからおふくろが出てきた。若い女性医師が寄り添っている。

「どうも、お世話になりました」
「お気をつけて」

女性医師はやわらかく笑いながら答えていた。

 近づいていくオレに、先に反応するのはおふくろのほうだ。

「マサヤ、おまたせ」

女医もオレを見る。
「こんにちは!」

 なかなかの美人だ。すらっとして背が高く、眼鏡がよく似合っている。
目の下の隈とストッキングの伝線がなけりゃ、最高だったのにな。

「こんちは」
軽く頭を下げると、おふくろの手を引いてさっさと退却した。

466サードアイ[4]:2014/07/20(日) 21:51:52 ID:rm/MS4KU0

 帰りのタクシー車内で、おふくろがポツリと言った。
「ナツメ先生は、とっても良い先生なの。気づかいが濃やかだし、専門的な話も分かりやすいし」

「ふーん」

 適当に流す。
 言いたいことは分かってる。

「だからね、」
「オレ、受けねえよ。診察」



「何の意味があるんだよ。目が良くなるってんなら受けるけどさ。どうもならねえんだろ」

「どうもならないことはないわよ。悪くなるのを遅らせるのだって……」

「つまり、治らないってことだろ。だったら無駄じゃん」



「……あなたには、選べる将来を狭めて欲しくない。世の中には治らない病気の方が多いんだし、その中でも出来ることを見つけて、
充実した日々を生きている人だっているのよ」

「じゃあ、オレはそうじゃない方の人間だってことだよ。もうその話はしないでくれ」


――だから嫌なんだよ、この役目。


 決まってこの話になる。病院じゃ本人確認とか言って、家族でないと付き添いとして認められない。
オヤジがやりゃあいいのに、おふくろがそれを拒む。お父さんは仕事があるんだから、だとよ。

 仕事ってのは、そんなに大事なのか? 
しょせん、食っていくための手段に過ぎねえじゃねえか。

 だったらオレも言ってやるよ、「部活があるから」。
辞めたけどな。


.

467名無しさん@避難中:2014/07/20(日) 21:53:19 ID:rm/MS4KU0
↑以上で

468名無しさん@避難中:2014/07/21(月) 18:36:46 ID:RBowWzgg0
読み込む度に胸がえぐられるな 。
そんな時代もあったねと。

469名無しさん@避難中:2014/07/23(水) 21:41:39 ID:R6NhT1po0
世間では夏休み?
うそだろー?
まだ梅雨も明けてな・・・あれ?

470名無しさん@避難中:2014/07/24(木) 12:35:00 ID:ObiBpY/o0
和穂「そーらを自由に飛びたいな」

471名無しさん@避難中:2014/07/24(木) 12:52:44 ID:REJSvJYo0
懐「はい、ジャイアントスイング!!」

先崎「やめろ」

472サードアイ[5]:2014/07/26(土) 21:24:46 ID:g7CQSGPo0

 図書館で調べ物がある、というサイトウと別れ、真っ直ぐ帰る気にもならなかったので、オレは放課後の校舎を
適当にぶらついてから帰ることにした。
 生徒数の多いマンモス校だ。2年近く居ることになるが、いまだに行ったことのない場所が多い。


 前を歩く女子生徒。ナギサワだ。
 音楽準備室を開け、中に入っていく。

――? あいつ、帰宅部じゃなかったっけ。

 長い廊下をのったり歩いていると、程なくコントラバスの音が聴こえ始めた。

 この学校にはオーケストラ部もあったはずだが、それには入ってなかったと思う。

――勝手な自主練か?

ヤクザとの絡みといい、いろいろと謎な行動の多いやつだと思う。


 音楽準備室を通り過ぎ、階段を降りる。

 階段を登ってくる足音が聞こえた。
聞き覚えのある音だ。オレは足を止め、そっと引き返して廊下の曲がり角の陰に引っ込んだ。


 しばらくして現れたのはサイトウだ。
図書館はこの棟には無い。あるのは音楽室と音楽準備室、その上の階に進路指導室と資料室だ。

 サイトウはゆっくりと階段を登っていく。

473サードアイ[5]:2014/07/26(土) 21:29:27 ID:g7CQSGPo0

 サイトウの“調べ物”は、図書館で調べるたぐいのもんじゃなかったってことだろう。
それが何かは分からないが、興味が無いからどうでもいい。


 進路指導室、だと。バイト案内所にしたほうがよっぽどいい。

 だいたい“進路指導”なんて、懇切丁寧にする必要性が分からねえ。レールから外れるやつは何やったって外れるし、
乗っかるやつはセンセの助けなしでも乗っかる。
 
――くっだらねえ。

 この手のことを考えると胸糞悪くなるだけだから、さっさと学校を出た。



   ☆           ☆            ☆



 冬の陽は早く落ちる。外ももう真っ暗だ。
きっちりマフラーを巻き込み、端を鼻まで引き上げて口を覆う。ハーフキャップのメットを頭に載せて、手袋を嵌める。

街路樹を嬲る風の音を聞くだけで寒さが増す。


――頼むぞ、かかれよ!


 キックを踏む時、エンジンがちゃんとかかってくれるかちょっと不安になる。かかったとしても、その後ヘタれて
エンストする時があるから気が抜けない。

 1速でゆっくり走らせ、大丈夫そうだと思ったら普通に車道に乗る。国道をのったり走りながら、ぼんやりと考えた。

474サードアイ[5]:2014/07/26(土) 21:32:46 ID:g7CQSGPo0

 もうじき期末テスト、そして春休みだ。明ければ3年に上がる。世間一般で言う“受験生”に、おそらく大部分のやつがなるんだろう。


 サイトウは悩んだ挙句、理系を選択したらしい。
 その選択が正しかったかどうかなんて、誰にも分からない。サイトウ本人にも分からないだろう、死ぬときに答えが出るんじゃないか。


 春休みに入る前に、卒業式がある。オレは2年だから関係ないはずだが、いちおう出席しなきゃならない。
無意味なセレモニー、あれで泣くやつの気が知れない。単に生活の環境が変わる、ただそれだけのことだ。


 センパイに世話になった覚えもない。“卒業生に向けて” なんて、何の意味があるってんだ。
そういうのは個人的に寄せ書き(これも大嫌いだが)でもしてりゃいい。


 卒業したら、ここの連中ともおさらばだ。嫌いなわけじゃないが、卒業してまで連絡を取り合うことはないと思う。
大学に受かったやつと落ちたやつ、専門に進んだやつとではお互い気まずいし、話だって合わないだろうしな。
そういうのを取り繕うのもまっぴらゴメンだ。オレは専門にいくか就職するかするから、大部分の連中と切れることになる。


 新しい環境に行ったら、そこでやってくしか無い。いつまでも前の環境を懐かしんでも何にもならない。
浮かない程度に馴染んで、疲れない程度に付き合う。

 それで十分だ。


.

475名無しさん@避難中:2014/07/26(土) 21:34:25 ID:g7CQSGPo0
↑以上で

季節およびスレの流れをガン無視ですみません。

476名無しさん@避難中:2014/07/31(木) 12:13:23 ID:wI6Pr6Cc0
タカハシはなかなか手強いな。
他のキャラと絡ませたときの化学反応が予想できないw

477ダブルストップ[7]:2014/08/03(日) 20:50:28 ID:XOoCJ1To0

 人気のない音楽室でコントラバスを弾いていると、ふと思う。

――オケ部に入っていたらどうだったかな。


 仲間がいなくて寂しい、というのは確かにある。
 でも一方で、面倒事がなくて気楽だな、とも思う。

――気の合う人たちだけで部活ができればいいのに。


 部活に関する悩みを聞かない日は無い。
 高校生相手に部活に限定した占いをやったら、恋愛と同じくらい相談事が来ると思う。

 中学生の頃は部活に入っているのが当たり前だったので、部活に所属していない今でも、放課後になると
何となく後ろめたい気持ちになる。
 コントラバスの“自主練”は、そんな自分に対する言い訳かもしれない。


 後輩に、「辞めたいんです」と相談されたことがある。
 辞めるつもりの友人の、引き留め役になったこともある。
 中学生にとって、部活を辞めるだの辞めないだのはけっこう大きな出来事だった。

 この学校は、もっと自由だ。

 部活に所属しなくても、何も言われない。「原則、全員何らかの部活動に所属すること」と決められていた中学校とは違う。
 みんな思い思いに、自分の時間を使っている。


 あまりに自由すぎて、何をするか迷ってしまう。
 何かバイトをしようかな、と思うけれど、なかなか一歩が踏み出せない。

 結局、コントラバスの練習か、図書室で本を読むか、まっすぐ帰るか。
この3パターンしかない。

 世間では「女子高生」というとなにかと持ち上げられるような感じがあるけれど、わたしのように冴えない日々を
送っている女子高生だって実際に居るのだ。

 みんながみんな奔放な生き方をしてるわけじゃない。


♪ ♪ ♪

.

478ダブルストップ[7]:2014/08/03(日) 20:53:55 ID:XOoCJ1To0

 9月はまだまだ夏の真っ只中だ。緑道の木漏れ日の下を歩いていても、この暑さはどうにもしがたい。

「あーあ。なんかイイ事、ないかなあ」
並んで歩くニシトちゃんがぼやいた。

「先崎くんは?」
何の気なしに振ってみた話題だったけれど、ニシトちゃんがこっちを見て、淋しそうに笑った。

「ナギちゃん、鋭いなぁ。やっぱりダメだね、あの二人の間に入れる気がしないもの」


――あっ。言わなきゃ良かったかも。


 先崎くんは後輩の女の子と仲が良い。傍から見てるとそれはとても親密で、誰も間に入れないというのは分かる。

「好きになっちゃダメな人ばっかり好きになっちゃうんだよねー。ナギちゃんは?」

「わたし? わたしは……そもそもあんまり、好きにならないから。それも寂しいけど」

「でも、辛い思いすることもないからね……こっちから追うより、向こうから来てくれたほうがラクかなぁ」
「そういうものかな……」

 1年生のとき以来、わたしは告白されていないし、“いい雰囲気”になったことすら無い。
彼氏がいたら楽しいだろうな、と思うことはあっても、誰がいいとか具体的に考えられない。

「ねえねえ、ナギちゃんはどういうタイプが好みなの?」
「えっと……」

――タイプ? ちゃんと考えたことあったっけ。
ていうか、もし今、クラスの誰かに告白されたら……どうしよう? よく分からないまま、また断っちゃうのかな。


「サイトウくんとか、どう?」
「へっ?」
「またまたぁ。一緒に歩いてるとこ、見たんだよ〜」
ニシトちゃんは楽しそうに言う。


 サイトウくんを、そういうふうに意識したことはなかったな。いい人だと思うけれど。

「タカハシはダメだからね、ナギちゃん! でもサイトウくんとタカハシくんってよくつるんでるよね」

 そうだったっけ。

「ニシトちゃん、よく見てるね。全然気づかなかった」
「ナギちゃんが関心無さ過ぎなんだと思うんだけど……」


♪ ♪ ♪

.

479ダブルストップ[7]:2014/08/03(日) 20:57:12 ID:XOoCJ1To0

 身の回りにいる男子をみて、「この人と付き合ったらどうなるだろう?」と考えてみることにした。


 タツジさん。

「お嬢さん、おはよござっす! 日傘、だいじょぶッスか。いちおう、キャバのスケからぶんど……っ、借りてきたヤツが
あるんスけど。なんなら自分、差します。あ、日焼け止めも」
「放っといて下さい」

――ダメだ。まったく想像できない。



 アキトさん。

「あらぁ、お嬢さま。今日も肌がキレイねぇ。夏の日差しはお肌の大敵よぉ。UVカットの防弾ガラスで、
バッチリ防御のア・タ・シのクルマなら安心よぉ。いろんな意味で」
「アキトさんのクルマには乗りません」
「ツレナイわねぇ」

――ダメダメ! アキトさんの車に乗ってたら、怖くて寿命が縮まる。



 クラスの男子。

 かっこいいヒトは、なんだか現実味がない。ジャニーズ系アイドルみたい。普通の男子でも、
なぜか “付き合う”イメージが湧かない。

――わたし、理想が高いのかな?

 違うと思う。理想なんて求めてない。
もし仮にクラスの誰かと付き合ったとして、わたしはその子に気持ちが行かなくて、ただ一緒に行動するだけに
なるような気がする。それでも、いいのかな?


 好きでもない人とキスなんてしたくない。手をつなぎたいとも思わない。
 デートしてるうちに、そういう気分になっちゃうのかな。
 流されてるみたいで、なんだか嫌だな。そういうの。

 もう、わけわかんないよ。

.

480名無しさん@避難中:2014/08/03(日) 20:59:17 ID:XOoCJ1To0
↑以上
前のお話の投下漏れ分でした
ややこしくなってしまってすみません

481名無しさん@避難中:2014/08/05(火) 18:10:27 ID:T16VoGoI0
ナギちゃん、かわいいぜ。

482わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/08/07(木) 21:39:10 ID:uHWZ51hI0
ナギちゃんをどうにかしてあげたい。

投下します。
山尾くん、お借りします。

483『ろうそくもらい』 ◆TC02kfS2Q2:2014/08/07(木) 21:39:52 ID:uHWZ51hI0

 お菓子作りが好きだ。
 筋道通して順序よく組み立てれば、必ず良い結果を残してくれるからだ。
 まるで、聞き分けのよい理数系の大学生みたいだ。やつらは理屈を重んじる。だからこそ、対話していて心地よい。
 分量、順序、時間。きちんとさえすればよいだけの話。テーブルのうえのクッキーを人つまみして、自分の腕前を確かめる。
 部活動は一休み、誰もいない部室にて、しとしとと残る梅雨の忘れ形見を背中にして、放課後のひとときを貪る。

 今日は七月七日。全国的に七夕。

 お菓子をあげることも好きだ。
 自分の成果が目に見えることは、一種の快感だ。

 お菓子についてならば、誰にも負けない自身は山尾修にはあった。

 山尾修はアーチェリー部だ。七月真夏の真っ盛りだけど、やはり腕前が気になるから。だが、雨ゆえに実射練習が出来ない。
梅雨も明けたばかりだし、雨天だから。仕方ないから、弓具の手入れを丹念に行っていたのだ。
 
 「……今度、何作ろうかな」
 
 繊細さと大胆さ、相反する能力を必要とするアーチェリーと、お菓子作りはこじつけのように似ている。「おいしい」の一言と、
矢が的中した瞬間に、清涼感溢れる快感が突き抜けるからかもしれない。
 修は手についたクッキーかすをウェットティッシュでぬぐい去った。面倒な弓具の手入れも、波に乗れば苦でもないし。

 矢をつがえる際、指に引っ掛けるタグにワセリンを塗りこんでゆく。手になじませて、よき相棒へと仕立て上げるためだ。
 直接指に付ける道具だから、丁寧に丁寧に、恋人へ囁くように皮を柔らかくする。タグは優しく返事をしていた。

 『ローソク出ーせー出ーせーよー 出ーさーないとー かっちゃくぞー おーまーけーにー噛み付くぞー』

 何の呪いか、聞き慣れない童歌が部室の入り口から流れてきた。
 一人、弓具の手入れをしていた山尾修は、不審にかられながらも引き続き手入れを続ける。
 こんこんと扉を叩く乾いた音が修の耳に響くから、重い腰をやれやれとあげる。
 できることなら面倒なことに巻き込まれたくはないもの、奇妙な次元に飲み込まれたままなのも、なんだか落ち着かないから、
ドアノブをがちゃりと回して招かざる来訪者を出迎える。

 「黒猫?」

 ちょこんと前足を揃えてつぶらな上目遣いを潤ませる一匹の黒猫。
 首からぶら下げたiTunesと、背中に背負った、小型スピーカーが違和感を誘う。
 そこから流れていた歌声は、修をの耳を奪った張本人だった。
 誰に話しても一笑に伏されるのがいい落ちだ。猫がお菓子をねだりに来た。そんなおとぎ話許されるの、小学生までだよねー。
山尾修は高校二年、メルヘンのメの字も忘れた。

 がたっと廊下の先で音がする。
 人影に黒髪がふわりと柳のようになびく。
 息を殺す声が現場に残る。
 すらりとした夏の制服姿が、からっと晴れた八月の廊下にひまわりの花びら散らす……夢を見る。
 彼女は黒猫の差し金・黒咲あかね一年生。

484『ろうそくもらい』 ◆TC02kfS2Q2:2014/08/07(木) 21:40:13 ID:uHWZ51hI0
 「クッキー先輩ですよねっ」
 「……」
 「ろうそくの代わりに黒猫です」

 確か、クッキーをあげたから、それ以来クッキー先輩と呼ばれている。
 もちろん、そんな呼び方をしているのは黒咲あかねぐらいだ。

 「『ろうそくもらい』ですよ。ご存知ですか」
 「ろうそく貰うの?いいの?」
 「北の大地の習わしですっ」

 額に汗した修は黒猫を抱き抱えたあかねの二の腕を見つめていた。湿り気を帯びた猫は黒さを増して、黒曜石にも負けない輝きだ。
 男子としては背の低い修だからか、女子としては背の高いあかねに対しては、自然と照れ隠しの目線となる。
 ただ、修としては、自分が先輩だからか言い訳としては何かと好都合だった。

 「北の大地の習わしって……黒咲さんって、もしかして北海道……」
 「違いますっ。おばあちゃんちが長崎ですっ」

 肌の白いあかねだったからと思いきや、それは、あてずっぽうの流れ矢だった。
 アーチェリーで的をはずすとくやしいし、このときも何故か同じぐらいくやしい。だが、ここで顔に出すのはオトナ気ないなと
先輩はぐっと奥歯をかみ締めていた。

 あかね曰く、ただの好奇心に掻き立てられてとのことだが、修も年上だ。あかねの企みに裏を見た。
 なぜ、修のいるアーチェリー部を狙ってわざわざやって来たのか。
 それは、一度、クッキーをあげたから。理由など、どんなものにだって存在する。

 「ろうそくもらいは、小学校の低学年ぐらいの子供たちが、各家庭にお菓子をもらいに来る行事ですっ」
 「へえ。ハロウィンみたいだね」
 「毎年七夕になると、こどもたちが歌を歌いながら家庭に訪れてお菓子をもらうんですっ。
  『お菓子をくれないと引っ掻くぞ、噛み付くぞ』って……こども……がです」
 「七夕?」

 頬を赤らめたあかねは、スカートの裾を握りしめた。
 一方、修はあかねから引っ掻かれたり、噛み付かれている自分の姿を想像していた。

 一般的に黒猫は人懐っこいらしい。人をひきつける魅力があるという。
 あかねが連れてきた黒猫は校舎に迷い混んだ野良だという。
 だから、役目を果たした野良猫と別れを告げた。もう、会わないかもしれない寂しさと、いつかきっと会えるという希望を胸に。
 手洗い場で修とあかねは蛇口から溢れる水の音に心を留めた。

 「……だって、わたしはコドモですよっ。みんなは『オトナっぽいねっ』とか、言ってくれるんだけど、全然ですっ」
 「そんなことないよ……、黒咲さんは」

 手を清める。
 ざっざとぬれた手を振り切って、水を切るあかねの仕草に微かな色気を感じた修は、先輩らしい対応で黙していた。

 「でも、やっぱり」

485『ろうそくもらい』 ◆TC02kfS2Q2:2014/08/07(木) 21:40:33 ID:uHWZ51hI0
    #

 わたしはかつて『あーちゃん』でした。
 ファッション雑誌の中だけで、誰からも羨ましがれる『読モ』……読者モデルをしていました。

 でも、あーちゃんなんて知りません。
 みんなから担ぎ上げられて、ふらふらと迷いの森に投げ込まれた名もなきコドモですよ。

 あるとき、はるか遠い北の大地から撮影の為に通っていた読モ仲間の『きー子』が嬉しそうに言いました。
 そのころ中学生になったばかり。コドモだと主張しても通るし、コドモじゃないんだからと駄々こねても許されるあいまいな時期。
 きー子は意気揚々として、わたしに自慢しました。

 「あーちゃんさー。ろうそくもらいで、子供たちにお菓子あげるぐらいにお姉さんになったんだよねー」
 「ろうそくもらい?」
 「うん。小学校の低学年ぐらいの子たちが、おうちにお菓子をもらいに来る行事だよ。北海道だけなのかなー」

 それ、わたしです。お菓子をもらいに行く方です。
 わたし、全然コドモだし。

 「やっぱ、あーちゃん……着こなしがオトナだぁ」

    #

 自覚はある。
 自分はコドモだと思い込んでいても、誰もがみなそれを認めてくれない事実。
 みどりの黒髪艶やかに、すらりと背の高いあかねが『背伸びして』子供ぶるよりか、心を許した黒猫に願いを託した方が良い。
 外の雨音もすっかり止み、雲の切れ目からは天への架け橋が下りていた。希望への架け橋とも言うらしい。

 「ほら。お菓子」

 修があかねに手渡したクッキーは割れていた。
 深々とお礼をしたあかねは、恥ずかしそうに顔を背けた。
 あかねが口にしたクッキーはバターの味が程よく効き、自己主張の控えめな上品さがあった。

 たった、お菓子を手に入れるだけに「ろうそくもらい」を口実に、黒猫連れてあかねはわざわざ修の元へやってきた。
 背は低くとも、修は先輩だ。そんなこと、とっくに見破っている。
 修はそれを思うと、背伸びとだだっこの挟間でもがくあかねが余計にコドモに見えてきたのだ。

 「また、来ます」

 振り返りざまのあかねの髪があまりにも完璧な曲線を描くので、ぎゅっと修は胸を締めつけられた。
 背の高い後輩なんかに、惑わされるものかと意地を張る。

 「いつでもおいでよ。ヒマだし」
 「来ます」

 あかねはこどもっぽく返答すると、黒猫を抱きかかえて顔を隠した。

 「来月、七日も所によって七夕ですっ。仙台とか……」



 ……… 

 
 
 夏休みの真っ只中、山尾修はアーチェリー部部室で弓具の手入れをしていた。
 休みだけども腕前が気になるから。すると、廊下から聞き覚えのあるわらべ歌。

『ローソク出ーせー出ーせーよー 出ーさーないとー かっちゃくぞー おーまーけーにー噛み付くぞー』

 今日は八月七日。所により七夕。


    おしまい。

486わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/08/07(木) 21:43:11 ID:uHWZ51hI0
あかね「クッキー先輩!これ、おいしいですっ」
修「え?鉄橋の音で聞こえない!!!」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/842/akane_yamao02.jpg

投下おしまい。

487名無しさん@避難中:2014/08/08(金) 00:04:33 ID:RMmw/7Ts0
乙です

488わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/08/11(月) 19:06:24 ID:WZ16PzfM0
>>477
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/843/nisito_nagisawa01.jpg

さて、ここからは「ダブルストップ」番外編で。
お二人お借りします。

489[ ◆TC02kfS2Q2:2014/08/11(月) 19:06:57 ID:WZ16PzfM0

 「ここのシュークリーム、美味しいんだよ」と、ニシトちゃんが幼な子にも似た輝きをした目で言うから、
わたしは寄り道というものをやってみた。二人並んで目当ての三瀬の前に立つと、わたしの心臓がごくりとつばを飲む音が聞こえてくる。

 「ナギちゃんとこんなお店に行けるのって、うれしいな」

 ニシトちゃんはきらきらと光る。
 ニシトちゃんはけらけら笑う。
 紅茶色のショートカットの髪型は、ニシトちゃんにおあつらえ。

 古びた煉瓦造りの店は、見るからに時代に取り残された香りが漂っていた。
 店の名は『茶々森堂』。
 わたしたちが通う学校から程近い場所に店舗を構える喫茶店だ。ご近所なのに存在すら知らなかったわたしは、
まるで幸せの青い鳥を肩に乗せたまま、青い鳥を探しているようなものだ。

 「先崎くんもよく来るらしいよ」

 お互いに知った生徒の名を使ってこの店の知名度を教えてくれるニシトちゃんは、本当に外の世界のことをよく知っているし、
使いこなしていると思う。扉を開けると鉄の鐘が 鳴りわたしたちを歓迎してくれた。世界の隅っこに生きるわたしでさえも、
顔パスだけでまけてくれる常連客同等に愛想よく迎えてくれる。
 ニシトちゃんのエスコートで陽射しのよい窓側の席に陣取ると、気分だけでも無邪気な英国貴族の娘になったつもり、
傍らにゴールデンレトリバーを携えて、ゆったりまったり机に肘をつきたくなる。

 落ち着く。
 ほんとうに。
 わたしの住む世界がうそのよう。

 店を囲む蔦が世俗から切り離してくれる。古城に幽閉されて助けを待つ姫君が、いっそずっとここにいてもいいかもと。
そんな気持ちを吐露しても、誰もが頚を縦に振ってくれそうな雰囲気だ。
 わたしが何者だろうとも、コーヒーの香りが分け隔てなく平等に静かな時間に誘う。

 「わたし、運動部でしょ?だから、体が糖分求めてるんだ」
 「体動かすしね」
 「そうだ。文化系の部活もかじっちゃおうかな?……うーん、漫画研究会とか」
 「あるの?」
 「知らない」
 「なにそれ」
 「あ!店員さーん。シュークリーム、ふたつ……、いや、みっつ!」

 注文を取りに来たウェイトレスがねこのような目を丸くして、ニシトちゃんの願いを聞いていた。
 大正浪漫というものか、袴にエプロンドレス、そして編み上げブーツ姿の彼女は、やけに乙女に見えるのは、
きっと、たぶん、わたしのせいだ。わたし自身の眼球がそう見ろと命令するのだ。間違っていないだろうか。

490『ダブルストップ・あなざー』 ◆TC02kfS2Q2:2014/08/11(月) 19:07:46 ID:WZ16PzfM0
 「みっつ?」
 「うん 。お土産用。ナギちゃんいる?」
 「うーん。やめとく」
 「お母さんには?」
 「多分、食べないと思うよ」

 わたしにはお土産を渡したくなるような素敵な人はいない。
 右手に拳銃、左手に仁義、そして口にはシュークリーム。似合うハズがない。
 ロンドン郊外の小さな煉瓦造りの喫茶店に、黒塗り高級車が乗り込んで、ずかずかとすね傷持った男たちがやってくる。

 似合うワケがない。

 『お嬢さん』
 『お嬢さん』
 『お嬢さん、ジュース買ってきましょうか』
 『一人前になったら、自分で自分のタマ守れよ』

 仁義に生きて、仁義に朽ちる。
 戒律はただそれだけ。
 そんなオトナに囲まれて、それがカタギではないと知ったときのこと。
 少女ノ夢と相反する、硝煙と杯で出来た世界に包まれて生まれた自分のこと。

 シュークリームだなんて。
 お土産だなんて。

 丁重にニシトちゃんの誘いを断ると、ニシトちゃんはにこにことシュークリームが届くのを待ちわびていた。

 窓の陽射しのから避けようと店内に目を向けると、わたしたちと歳の近い女子二人がクリームソーダをそれぞれ口にしていた。
この店は、女子を女の子にしてくれる。白いブラウスとメロン色のソーダ水は人を甘い気持ちにしてくれる。こんなわたしでも、
この店の中だけでも女の子にしてくれるのだろうか。ニシトちゃんに聞くのはこっぱずかしいし、ましてや、クリームソーダの二人にもだ。

 「どうしたの。ナギちゃん」

 シュークリームの出番を待ちきれないニシトちゃんだ。にこにことわたしの浮気をそっと修正。
 わたしは素直にクリームソーダの二人のことを話題にしてみた。
 一人は腰まで伸ばした黒髪。クローバーの髪留めが大人っぽさと子供っぽさを綱渡り。
 そして、一人は明るい色のボブショート。てっぺんからは跳ねたような髪の毛が目を引く。

 「なんだろう。お芝居の話かなぁ」
 「そうなの?ニシトちゃん」

 机に広げたノートにメモを走り書きさせながら、二人は雑談のような話し合いをしているように見えた。
 会話を楽しむよりかは、意見を交わし会うと言ったほうが近いかもしれない。

491『ダブルストップ・あなざー』 ◆TC02kfS2Q2:2014/08/11(月) 19:08:08 ID:WZ16PzfM0
 「『出番』とか『儲け役』とか『ト書き』とか言ってるけど、なんだろうね」
 「うーん。演劇部なのかな」
 「あ、それ、するどい。さすがニシトちゃんだ」

 確かに。ニシトちゃんの説を踏まえて二人の会話を盗み聞きしていると、ぽんぽんと膝を打ちまくりたくなる。
きっと彼女らは公演のための打ち合わせをしているのだろう。黒髪ロングの方から『シンデレラ』のワンフレーズが聞こえたことで、
わたしは全てに合点した。

 「わたしも舞台に立ってみたいな。バレー部じゃなくって、演劇部とか」
 「文化系?」
 「実は演劇部も体育会系だったり」

 ニシトちゃんは実に女の子だ。それに比べてわたしはステージのスポットライトから逃げ惑う名もなき通行人Aの人生を望む。
 ただ、それを胸はって主張するようなことでもないし。ニシトちゃんのような思考が自然にできるのならば、
わたしの視界も色鮮やかに見えるんだろう。女子高生の図鑑があるのならば、きっとニシトちゃんは大きく載るんだろう。
ついでに言うなら、わたしは欄外の豆知識だ。

 「ここで、王子さまが踵を返すっ」
 「『日陰者の生きざまに惚れるお前さんのことだ。おれが殺し屋だってことはカタギの奴らにはばらすな』。
  あかねちゃん、この台詞すごいぞっ」

 やはり、彼女らとは違う。
 リアリティの蚊帳の外にいるから。
 襟を正した紙の上にだけ存在する外れ者に憧れを抱く。一滴でも父の血がわたしの中に流れているうちは、
彼女らの妄想に胸をときめかせることもきっとない。

 「殺し屋さんかぁ。スーツが似合うんだろうな」

 確かに。
 ニシトちゃんの言うことは間違ってはないし。
 演劇部の会話を聞いているうちに、ニシトちゃんは演目に興味を抱いていた。
 「公演が始まったら、観に行こうよ」と胸高鳴らせるニシトちゃんだが、わたしはフィクションとリアル、双方ともおなかいっぱいだ。

 彼女ら演劇部の虚構会議にお耳傾けているうちに、大振りのシュークリームがみっつどっかとわたしたちの目の前に現れた。
げんこつのようなシュークリームは、見ているだけでも迫力がある。ねこ目のウェイトレスは表情を崩すことなく軽い会釈を
わたしたちにしてくれた。

 ニシトちゃんがシュークリームを持つと、とても幸せそうに見える。

 「クリームを注入する穴があるでしょ?ちっちゃい穴。そこから食べると、きれいに食べられるんだよ」

 ぱくりと小さな穴を塞ぐように似合うんだろうなニシトちゃんがシュークリームに食らいつく間、
わたしは再び演劇部の二人をチラ見してみた。黒髪ロングの方は、電話片手に誰かと連絡を取っていた。彼女らは彼女らで忙しい。
断片的だが、黒髪ロングのセリフをかじり聞き、電話の相手を想像してみた。

 「できましたっ。原作っ。初めて尽くしでごめんなさいっ」
 「わたしたちが書いた脚本……面白がって頂きまして……」
 「それが絵になって、セリフがふきだしから紙面を飛び出し、ページを捲る高揚感を煽る作品に仕上げて……」

 わかった。
 漫画研究会だ。

 漫画の原作を演劇部に依頼している……という、推理。
 ニシトちゃんの「なーんだ」という言葉に安堵を覚え、わたしはシュークリームにかぶりついた。
 煉瓦の館でひっそりと、そして、端っこに潜む幸せをかみ締めながら。


     おしまい。

492わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/08/11(月) 19:09:11 ID:WZ16PzfM0
おまけ。初めて迫先輩を描いたような。

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/844/sasusako01.jpg

おしまいです。

493名無しさん@避難中:2014/08/15(金) 01:32:32 ID:v.Id1rbU0
>>474
ひねくれすぎだろこやつw
しかしその皮肉げなところには半端に共感できてしまうから困る。
みんな一回くらいは麻疹に掛かったみたいにそんなことを考えるよね。
>>480
おおおなんか少女漫画っぽいぞ!
生っぽい!(?)
ニシトちゃん俺にください!

>>486
・夏と鉄製の構造物ってなんでこんなに合うんだろうね?
・あーちゃんなんて知りませんって台詞に漂ってた子供っぽさの正体に触れた感じがする。
しかしクッキー先輩w
>>492
・こんな二人、街で見たことある!ほんとにこんな感じだった!
・この二人のこういうやり取りもいいな。
実はワンオラクルの人とわんこ氏って相性いいというかよく似てると思う。
小道具で一気に空気作っちゃうとことか内面への踏みこみ方とかそういうの。
・イタズラっぽいあの字もスイカバーも可愛すぎんよー
でも尻尾はねえだろこいつ風紀委員に通報したw

494名無しさん@避難中:2014/08/15(金) 01:33:21 ID:v.Id1rbU0
投下しなきゃ!

495先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:37:58 ID:v.Id1rbU0
投下しなきゃ!

496先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:39:59 ID:v.Id1rbU0



「先輩、スイカ割りしましょう!」
「……ここで?」
「おおっとスイカ割りと聞いちゃ、黙っちゃいられねえぜ!」

 夕方のくせに白昼としか視えない光の強さに目を細めながら学園の正面玄関をくぐったところ、いつもの後輩
といつもの後輩ではない後輩たちが、スイカをモーニングスターのようにブン回しながら襲来した。危なっ。

「スイカって地球に似ていると思いません? 緑の大地、群青の海、赤い溶岩、そして蠢くうざい種! すごい
ですねガイア理論ですね宇宙の神秘を感じますね。……破壊しましょう! そしてモホロビチッチ不連続面まで
食べつくしちゃいましょう!」
「お!? 何その偏差値高そうな台詞っ!!」
「地球に喩えた意味あった?」

 一人でも手に負えないのに、今日なんか同じくらいやかましい久遠荵と二人掛かりである。嫌がらせか。

「ばうわう、ザッキー先輩!」
「……よう、久遠」

 何それ知らない。わんわん王国の公用語ですか? 久遠は相変わらず仔犬みたいな落ち着きのなさ、もとい元
気のよさで駆け回っている。

「こんにちは、先崎先輩」
「こんにちは」
「私もがんばってウォラメロ、割っちゃいます」
「発音!!」

 ……念のため確認しておくが、ウォラメロとはウォーターメロン=スイカのことである。
 烏揚羽蝶のような黒髪の黒咲あかねに会釈を返す。久遠と同じ演劇部で、よくつるんでいる子である。初めは
綺麗な長い髪のせいで深窓の令嬢めいた印象だったが、実際に会話してみるとこれがけっこう一筋縄ではいかな
い感じだった。

「先輩先輩、あかねちゃんの髪に見惚れている場合じゃないですよ。長いのがお好きなら伸ばしますし。そんな
ことよりスイカですよ」

 後輩がようよう抱えたスイカを平手でベシベシ叩く。なんか味が落ちそうなのでやめてもらいたい。

497先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:43:00 ID:v.Id1rbU0
「ていうか……」

 俺は今更だがバカみたいな大玉スイカを見て慄然とした。

「でっか!? ……絶対ぬるくなってて不味いし、割ってもこんな食えないだろ」
「調理実習室の冷蔵庫借りました」
「私が貸しました」

 突然の声に振り返ると、白壁やもり教諭が音もなく背後に立っていた。この夏で一番怖かった。白壁教諭は胸
を張って続けた。

「何故なら、冷たくないスイカはスイカでないからです」
「白壁先生っ、ピントのズレた言い訳ありがとうございます!」
「それに、スイカ割るってあちこちで宣伝してきたから、きっと処理係も集まります」

 もはや割ることにしか興味がなさそうな白壁教諭は、とても家庭科教諭とは思えなかった。
 どうせなら「スイカは夏の水分補給にいいんですよ」とかそういう解説をして欲しい。

「ところで西瓜割りって漢字で書くとなんかエロい……」
「わう?」
「よく分からんが何だかすごく久遠の教育に悪い感じだから黙っとけ」
「ひどいです! 私はどうでもいいとおっしゃるのですかっ!?」
「お前がエロ言ったんだろ!」

 後輩がむくれて頬を膨らませた。

「いつもそう……。カマトトぶっている女ばかり天然とか純粋とか持て囃される……ぶぅ……」
「最低限、お下劣な頭の中身をお外に出力しない努力をしてから言えよ?」
「そこまでっ! 夫婦喧嘩はわんこも食わないっ」
「誰が夫婦だ不吉なこと言うな!」
「さっすが荵ちゃん分かってる!」

 後輩の周囲は今日も混沌としていた。……巻き込まれて毎回その一部になってしまっている俺はもう何も言え
ない。フェードアウトする方法を教えてくれる親切な人か、身代わりになってくれる親切な人か、俺に優しくし
てくれる親切な人を熱烈希望だ。

「ご婚約おめでとう」

 たぶん親切な人ではない黒鉄懐が、目尻の嘘の涙を拭いながら肩を叩いてきた。金ぴかの頭髪が第二の太陽と
化し、体感温度をじりじり上げてくる。何て奴だ。

「あの小さかったシュンが……変わり果てた姿になって……」
「そこは立派にしておけ」

 だいたい黒鉄は俺の幼少期など知るまい。会ったのは今年になってからだ。

498先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:44:02 ID:v.Id1rbU0
 後輩が何とも言い難い顔をして、「あっ」と思いついたように久遠を追って脱兎と駆け出した。黒鉄のような
派手なタイプは苦手らしく、あまり近づきたがらない。

「押忍です先輩、兄がいつもお世話になっております。……ほら、行くよ、兄貴っ!」

 妹さんの黒鉄亜子が慌ただしくやって来て、慌ただしくお辞儀して、慌ただしく兄貴の耳を引っ張ろうとして
背が足りず摘み損ね、慌ただしく兄貴の手首を掴んで去っていった。「えっ、ちょ、スイカがオレに食べられた
がってんだけど……?」「ちょっと離れるだけ。兄貴が先輩といると……はかどりすぎるのよ」「何が?」「魅
紗が」「ああ……」

 理解しがたい会話をしながら遠ざかっていく黒鉄兄妹をボケーっと見送る。
 いつの間にか、正面玄関前の人工密度がえらいことになっていた。見知った顔、見知らぬ顔、みんなそんなに
スイカが好きなのか、暇で仕方がないのか。あれよあれよと参加することになっている俺に言われたくはないだ
ろうケド。

「相変わらず、サキザキの周囲は混沌としてるね」

 黒鉄兄妹と入れ替わりに声を掛けて来たのは、隣のクラスのサイトウだった。聞き捨てならないことを言う。
どう見ても核になっているのは俺ではなく後輩だと思うが。

「スイカを割るって聞いて。せっかくだからご相伴にあずかろうかと」
「スイカ好きなのか」
「夏っぽいから」

 ……サイトウの考えることはよく分からん。俺が言うのも何だが、社交的に見えて、教室の隅からクラスを見
渡してフッと笑っているような斜に構えた感じもあり、妙に子供っぽいところもあるのだ。
 昆虫のサナギの中でそれまで幼虫だったものは一度全てドロドロに溶けてから再構成されるというが、人間も
同じで、高校生くらいの年齢ではまだ完全に固まりきっていないのかもしれない。肉体も精神も毎日のように更
新され、あるいはその日の気分で見える世界が変わりさえする。
 サイトウを見ていると、何となくそんなことを考える。そういう奴である。
 
「あーっ、サイトウ先輩じゃんっ!」

 サイトウを発見して飛んできたのは小柄な鷲ヶ谷和穂。フリーダムイーグルというお察しなあだ名で知る人ぞ
知る騒動屋だった。

「今日もトロッコ持ってる!? また占ってよボクのこと!」
「タロットだろ」

 「芥川カナ?」「そうに違いないのだわ!」「“鼻”……一体何の暗喩なんだ……?」「決まってますよそん
なの!」 ……歴史研究会だったかの面子と大型魅紗の濃ゆい意味深トークをBGMに、鷲ヶ谷は過干渉の父親
を見るような目で俺を見た。背が低いので見下しの角度を作るために必死に仰け反っているのがいっそ微笑まし
い。

「センザキ先輩ちょー細かい……。そんなんじゃモテないよ?」
「いいのっ! 先輩には私がいます!」
「何をっ! 犬の引き取り手を探させたら、わたしの右に出る者はないっ」

 クソッ何だこいつら。俺をボケの波状攻撃で殺す気か? “フリーダムイーグル”鷲ヶ谷和穂、“後輩”後鬼
閑花、“わんわん王”久遠荵。女三人寄ればというやつで、若さを失いつつある俺では長期戦では分が悪い。

499先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:44:59 ID:v.Id1rbU0
 箸休めではないが、距離感が一定でまだ落ち着いて話せるサイトウに逃げる。

「しかし、サイトウはタロットカードなんてやってたんだな」

 意外と言う意味ではなく、身近では初めて会った。あまつさえカードセットを学校に持ってくるまでする人は
かなりの珍種という気がする。

「あそびだけどね」
「ほう。俺は卓上同好会部長の加藤だが、タロットカードなら我々の活動内容とも合わないことないな」
「同じく副部長の田中。サイトウくん、卓上同好会に入らないか? 我々は君のような戦士を待っていた!」
「今なら即レギュラーだぜ!?」

 俺とサイトウの会話は弾む前にシャボン玉のように弾けて消えた。春からずっと新入会員を募集していたらし
い卓上同好会の上級生がどこからともなく現れ、馴れ馴れしくサイトウに絡んでいく。

「入ってくれるんなら俺たちの分のスイカもあげるぜ!?」
「俺はあげないぜ? 田中のはあげるぜ?」
「俺が勝負で加藤から巻き上げていれば同じだぜ?」
「……こういう卓上的な発想も身に付くから将来的にもお役立ちだし、今なら即レギュラーだし、これもう入ら
なきゃ嘘だぜ?」

 この人たち三年なのに良いのかなぁ受験とか……と思うが、口には出さない。俺だって突っ込み先を選ぶくら
いできるのだ。いやほんとに。

「ちょっと勧誘なら後にしてよっ! サイトウ先輩はボクと先約があるんだっ!」
「まあ、そういうことなんで」

 鷲ヶ谷が両腕を猛禽類の翼のように広げ、怪鳥音を発して卓上同好会を威嚇。サイトウもやかましい先輩より
はやかましくも可愛い後輩のほうがマシと思ったか乗っかる。「ぐわっやられた!」「やはり卓の上でなければ
力が出ないか」 ノリのいい二人が体をくねらせながら退場。こわい。

「並べるからちょっと待って」

 サイトウが準備万端用意していたマットの上にタロットカードを展開。タロット業界ではスプレッドというの
だったか。

「今日こそ【世界】のカード当てるんだっ」

 ……そういうゲーム的な物ではまったくなかったと思うが、まあ鷲ヶ谷楽しそうだからどうでもいいや。わざ
わざまた顰蹙を買いにいくこともないだろう。
 何となく、よく鷲ヶ谷と一緒にいる小鳥遊雄一郎を探す。鷲ヶ谷の隣だとまず鷲ヶ谷がやたら目立つし背の高
低差がちょっと面白いためかすぐ分かるのだが、単品ではウォーリーと化す。

500先輩とモホロビチッチ不連続面(前編) ◆46YdzwwxxU:2014/08/15(金) 01:45:56 ID:v.Id1rbU0
 少々厳つい顔をしたウォーリーは、花壇のそばで二年の近森さんと歓談中だった。近森さんの瞳は好奇心に爛
らんと輝いている。

「どうなのどうなの?」
「別にどうも……」
「お似合いだと思うけどなぁ! どっちも鳥類だしね!」

 これはあれか、鷲ヶ谷との関係について質問責めにされてるのか。俺のクラスメイトでもある近森ととろさん
は、好いた惚れた切った張ったの恋愛沙汰に目がないのだ。……たまーにああやって焚き付けたりもする。

「私と先輩もお似合いだと思います。どっちも人類ですしね」
「どんな台詞でも手当たり次第に拾ってテキトーに改変して使うお前の執念と応用力はある意味すごいと思う」

 俺の顔を見上げてはにかんでみせる後輩を躱す。
 相手が俺でなければ通用することもあっただろうにな。つくづく残念な子ではある。

『いよよーしッ! そろそろスイカ割り大会、始めますよ! 司会はワタクシッ、報道部部員、B72でお送り
しますっ!!』

 校庭から重量挙げ部の筋肉愛好家たちの手で神輿のように運ばれてきた朝礼台。その上で、マイクを握った女
子が拳を突き上げる。

『アタッカーになりたい人は、ちゃんと名前書いたかな? 読める字でお願いね!』

 形式としては、参加希望者が名前を書いたくじを、司会者がボックスから引き、その順番でスイカにアタック
を掛けていく。
 この実際にスイカを割るという行為に挑む者を“アタッカー”と呼ぶ。
 アタッカーはアイマスクで目隠しをした上で、先端を地に突いた木製バットの尻に額を当てたまま十周以上回
転する。そうして方向感覚を狂わせた後、規定位置からスタート。距離にして十五メートルほどだろうか。
 アタッカーに対する支援及び妨害は自由参加。何人掛かりでも構わない。日頃の行い、人望が物を言う競技か
もしれない。ただし、認められる手段は声掛けのみとされていた。

『つーまーりー! アタッカーのカラダに触ったり、スイカをずらしたり、スイカを包丁で切り分け始めたり、
スイカをドーム状の鉄板で覆ったり、バットをスポーツチャンバラのやつにすり替えたり、まきびしをばらまい
たり、バナナの皮を敷き詰めたりしては、ぜーったいにっ、いけません! 過去いました』
「違反者は、スイカにありつけないどころか、パワーオブザゴリラなお仕置きを受けてもらうからな!!」

 白壁やもり教諭がせいいっぱいの威厳を絞り出して注意し、真田基次郎教諭が不敵に笑いながら拳を鳴らす。
マイクを使わないのにさすがの大声だ。あれで美術教師というのだから世の中分からない。

『さぁて!! さぁてさぁて!! スイカ割り大会、栄えある第一の刺客を発表しますよ――!?』

 司会者報道部B72のアオリと、軽音部のドラムロールが、場のテンションを最高潮に持っていく。地を揺る
がすような歓声の中、誰かがごくりと唾を呑む。
 たかだかスイカ割りにえらい騒ぎだと正直自分の中のつまらない部分が思うが、よくよく考えるとこんなイベ
ントはもう一生のうちでもそうそうあるものではないかもしれない。

 ――夏っぽいから

 そう答えたサイトウは、あるいは俺よりもよほどまともな感性をしているのかもしれなかった。
 ちょっと気になりだしたじゃないか。
 この二度とはないかもしれない青春のひと時、その口火を切るのが一体誰なのか――



 つづく

501名無しさん@避難中:2014/08/15(金) 01:47:46 ID:v.Id1rbU0
投下終わり。
例によって広く浅いクロス。

アタッカーのリクエスト募集中です。

502名無しさん@避難中:2014/08/16(土) 00:54:31 ID:uDiq3IwU0
くうう…すいか割り。

503名無しさん@避難中:2014/08/17(日) 20:08:39 ID:DmSpGkBI0
夏らしくていいね! これは・・・「つづく」んだよね!? 楽しみ!

504名無しさん@避難中:2014/08/19(火) 08:00:35 ID:vIn2YjJ20
荵率いる「小動物チーム」
アゲル率いる「パワーリフターチーム」
水玉パンツ率いる「お姉さんチーム」
か。

505名無しさん@避難中:2014/08/19(火) 23:02:20 ID:UWstTHVM0
懐と先輩だとはかどるのかー(意味深

506名無しさん@避難中:2014/08/28(木) 22:33:30 ID:Ispnd.460
雑談スレでここを紹介されたものの・・・私みたいなのが参戦して良いのだろうか?

あと、仁科学園の設定を調べるためにwikiを確認してたら、『格闘茶道部』ってのがある・・・ことのみ設定されている以外は特に記載が無いけど、
元々は何きっかけでの誕生だったのかしら?
もし私が『格闘茶道部』に関する設定をいじってもOKなら、そこを間借りしたい。

507名無しさん@避難中:2014/08/28(木) 22:40:49 ID:Dpy0ya.60
ようこそ!
格闘の人卒業しちゃったし、
別に部活のひとつやふたつ新設したっていいんだよ?

508名無しさん@避難中:2014/08/28(木) 23:13:37 ID:Ispnd.460
なるほど、前いた人が残していった設定なのね > 格闘茶道部

現状として薄ぼんやりとした設定のみの状態ですが、どこぞの「物語は存在しない」とバイオリン職人に評されたピンクの人みたく世界を破壊しないよう、
とりあえず自分なりの『格闘茶道部』設定で書いてみようかと思います。
実際、『茶道部』ではなく『格闘茶道部』という名称のほうが今考えている設定とすり合わせやすいので、この偶然の出会いに感謝!だったりです。

ただ、完成するかは・・・?(無責任発言)

509名無しさん@避難中:2014/09/01(月) 20:12:39 ID:xHg4Jcfc0
    , - 、
  ヽ/ 'A`)ノ ダレモ イナイ・・・
   {  /   トウカ スルナラ イマノウチ・・・
   ヽj

510記憶の中の茶道部() ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:16:54 ID:xHg4Jcfc0
初めて、仁科学園の方に投下させていただきます。
稚拙ではありますが、お目汚しによろしかったらどうぞ。

--------------------------------------------------------------

511記憶の中の茶道部(第一話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:19:08 ID:xHg4Jcfc0
しまった・・・途中で送信してしまった・・・
すみません、ここからスタートです・・・

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そう遠くない未来、20XX年。
地球が核の炎に包まれることも暴力だけが支配する荒廃した世界になることも無く、ただただ平和な時間が平等かつ均等に流れていた。

「……ふぅ、それじゃあ今日の稽古はここまでね。」
太陽光線によって橙色に染まる、仁科学園の体育館。
その中では、先生と数人の中等部生徒で構成される剣道部の練習が今終了しようとしていた。
「礼!」
「「「ありがとうございました!!」」」
響き渡る生徒たちの若々しい声。
そして、挨拶が終わると生徒たちは着替えのために体育館を急ぎ足で退散するのであった……が、例外が居た。
「……あれ?先生、どうしたんですか??何か……ものすごぉくアンニュイな顔してますけども……。」
先生のもとへ駆け寄る一人の生徒。
一方の先生は、まるで放心したかのように体育館の天井を寂しく……ただ一点のみを見つめていた。
「……先生?」
「何と言うかね……長年お世話になった体育館が壊されるんだなぁ……って思うと……うん……ね?」
「仕方ないですよ、老朽化してますし……それに、現行の法律的にはグレーゾーンな建築扱いなんですから……あ。
 そういえば、先生はこの学園の卒業生で、かつ剣道部の副主将だったんでしたっけ?だったら……アンニュイになりますよね、
 思い入れとかありますでしょうに。」
話しかける生徒。
だが、『ある単語』が先生の耳に入った途端、その表情は少し曇った様相を呈した。
「……いいえ、私は……何て言ったら良いのかな……?」
喉に何かが引っかかったかのような受け答えをし始める先生。
その様子に生徒は困惑していると、先生は突然こう切り出した。
「……ちょっとだけ、私の昔話に付き合ってくれる?」
「……はい?」
「とりあえず、まずは制服に着替えてきなさい。それと……話が長くなりそうだから、あなたの家まで送りがてら車の中で話すわ。」
「え……あ……はい……じゃあ、着替えてきます。」
そう言って、生徒はそそくさと体育館を後にするのであった。

512記憶の中の茶道部(第一話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:25:25 ID:xHg4Jcfc0
太陽が沈み、夜の闇に包まれた道路をまっすぐ進む一台の車。
運転席には先生、その隣りの助手席には先程の生徒が座り、生徒の住む街へと向かうのであった。
「……ところで、先生?わざわざ、私を車に呼んでまで話したい昔話って何ですか?」
生徒が切り出す。
一方の先生は夜の闇で表情が判別しにくい状況になっていたものの、声質については何らかの物悲しさを語っていた。
「あなた、あの体育館の端にある『茶室』のことって知ってる?」
「茶室?……ああ!今は使ってない、何故か体育館の端にポツネンとある……。」
「私と剣道部の歴史を話すにおいて、あの茶室がどうしても必要なのよ。」
「茶室……剣道……先生……すいません、話の文脈が全然繋がらないんですが。」
「あれは、私が仁科学園中等部の一年生として所属していた頃の話だわ……。」

こうして、先生……いや、天江ルナは自身がかつて経験した不思議な物語をゆっくりと語りだすのであった。

豊臣秀吉がまだ木下藤吉郎だった頃……からはかなり先の未来、つまり天江ルナが仁科学園中等部の一年生としていた頃の20XX年。
琵琶湖の南に『金目教』という怪しい宗教が流行っていたかどうかは知らないが、
とりあえず平和な時間が全ての人に対して平等かつ均等に流れており、もちろん彼女も平和な時間の恩恵を受けていた……が、
今思えば『あの出来事』をきっかけに彼女を流れる時間は狂い始めたのかもしれない。
「……ここ……だよな?」
あの日、左手には竹刀、右手にチラシ、そして右肩には道着と防具が入った袋をかけた出で立ちで、ルナは体育館の前に立っていた。
「『剣道部員求む』……か。村の剣道大会で優勝経験のある私にとっては願ったり叶ったりの部員募集ね!……とは言うものの?」
部員募集のチラシを再確認した後、チラシを左手に持ち替えて、体育館の戸をゆっくりと開けるルナ。
しかし、時間的にはどこも部活動を行っている時間にもかかわらず、体育館の中は静寂を保っていた。
「『剣道部 水曜夕方と土曜午後より体育館で絶賛練習中』……って、全く人の気配が無いんですけど。」
チラシにツッコミを入れるルナ。
とりあえず、教職員に確認を取ろうと体育館を後にしようとした…その時であった。

513記憶の中の茶道部(第一話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:31:54 ID:xHg4Jcfc0
突然現われる人の気配。
いきなりの出来事に対し、彼女は『気配』をまるで『殺気』のように感じ取ってしまい、
おもわずチラシを投げ捨てて竹刀を構えてしまう。
「誰?!」
誰も居ないはずの体育館に響き渡るルナの大声。
しかし、その『気配』は彼女の問いかけに一切答えることは無かった……が、
自身がどこに存在しているかについては強いプレッシャーで彼女に伝えていた。
「……!あそこか。」
プレッシャーが発せられている方向を見るルナ。
その目線の先には、体育館には似つかわしく無い『茶室』が映し出されていた。
「茶室……?しかも、運動部が使う体育館の中に何で……うん??」
ただでさえ疑問符が浮かぶ状況に、ルナは茶室に掲げられていた看板を見てさらに困惑する。

看板に書かれていた言葉……それは『格闘茶道部』という聞きなれない物であった。

「か……格闘ぅ?」
「そう、ここは格闘茶道部。」
大声をあげるルナへ突然耳に入ってくる女性の声。
その声の主は明らかに、この茶室に存在していた。
「誰だっ?!」
「誰だと言われても……とりあえず、茶室に入ったらいかがですか?」
丁寧にルナへ返答する謎の声。
一方のルナは理解不能な状況に竹刀を構え続けていたが、状況を打破出来る訳でも無かったため、
竹刀を下ろして茶室の中へと踏み入れるのであった。

彼女の目に飛び込む光景……まだ香りのする若い畳、『格闘茶道部』と書かれた掛け軸と小さな生け花、
鉄製の茶釜、そして……仁科学園の制服を着た『一人の女性』であった。
「あなたは……?」
ルナが問いかける。
一方の女性は手元にあった抹茶を一口飲んで呼吸を整えたのち、彼女の問いかけに答えるのだった。
「私は中等部三年、御地憑イッサ。ここ『格闘茶道部』の部長にして、ただ一人の部員ですわ。」
「……その、『格闘茶道部』って何ですか?ただの茶道部とは違うんですか??」
ルナの問いかけに、イッサは再び抹茶を一口飲み、そして呼吸を整えて返答する。
「本当は茶道部にしたかったのですが、敷地の関係で文化系部活動の場所が確保出来なくて……
 ただ、運動部扱いなら体育館の一部が借りられるとのことでして『格闘茶道部』と相成った……訳ですわ。」
「何それ……ところで、剣道部の方を知りませんか?私、天江ルナという中等部一年の者で、剣道部への入部希望なんですが?」
三度問いかけるルナ。
すると、イッサは残りの抹茶をゆっくりと飲み干し、ルナに対して一つの提案をするのであった。

514記憶の中の茶道部(第一話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:40:36 ID:xHg4Jcfc0
「剣道部希望……ですか?」
「ええ。こう見えても私、地元の柄玉村で行われた剣道大会で小学五年・六年と二年連続制覇したことあるくらい強い方なんですよ!」
「へぇ……じゃあ、せっかくだから私と手合わせしてみません?」
「え……良いですけど、大丈夫なんですか?茶道部の方……ですよね??」
「心配ありませんわ。私も多少は剣道をかじっている方ですし……それと、ちょっとした賭けをしません?」
「……賭け?」
「私が勝ったら……天江ルナさん、あなたはこの格闘茶道部に入部する。もし、あなたが勝ったら……そうね、その時はその時で考えましょう。」

その言葉にルナは苛立ちを覚えた。
理由は簡単である……いくら剣道をかじったことがあるとは言え、所詮相手は茶道部。
そんな相手が、まるで自分の方が強いかの様に言う言動に『怒り』以外、何を得られようか。

こうして、ルナとイッサによる剣道の試合が始まった……のだが、ここでもルナの苛立ちはイッサの行動によって増すのだった。
「あの……何ですか、その格好は?」
道着に身を包み、そして防具で完全武装した状態で竹刀を構えるルナ。
一方のイッサは竹刀を構えるものの、頭に面を被る以外は先程の制服姿のままであった。
「ごめんなさい、防具が見つからなくて……でも、私は十分これで戦えるわ。」
『これでも十分戦える』……イッサの余裕宣言ともとれる言葉とふざけた格好にハラワタが煮えるほどの怒りを覚えるルナ。
だが、イッサはルナの心に灯った怒りの炎に更なる油を注ぎこむのだった。
「……あ、言い忘れてたわ。試合時間は十秒……諸事情で十秒ほどしかあなたとお付き合い出来ないのよ。
 でも、十秒で決着がつかなかったらあなたの勝ちで良いから……ね?」

「……ふ……ざ……け……る……なぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

怒りを爆発させ、力任せに竹刀を握りながら突撃するルナ。
もし、彼女が平静さを保っていたなら防具の無い『胴』は狙わず、『面』を狙うはずであっただろう。
しかし、怒りによって我を忘れていたルナは逆に『胴』を狙い、ふざけた態度をとるイッサを叩きのめすことしか考えられなかったのであった。
「胴っ!……?!」
体育館を次元ごと斬る勢いで水平に振られる竹刀。
だが、彼女の手には一切手ごたえが無く、そして正面にあったはずのイッサの姿も煙のように消えていた。
「ふふっ、どこを狙ってますの?」
突如、後ろから聞こえてくるイッサの声。
「そこかっ!……?!?!」
一方のルナもすぐさま反応して竹刀を振るうが、やはりイッサの姿は無かった。
「どういうこと……???」
「こ・お・い・う・こ・と。」
イッサの言葉と同時に聞こえてくる、右手を上下にスナップさせるような音。
その音の方向をルナが見ると、そこには試合場の印である白線の端に立つイッサの姿……と認識した直後、
彼女の体は人間技とは到底思えない超高速でルナの目前まで移動するのであった。

515記憶の中の茶道部(第一話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 20:46:59 ID:xHg4Jcfc0
「スリー!」
イッサの一撃によって宙に飛ぶルナの竹刀。
「ツー!!」
間髪入れず、彼女の防具へと叩きこまれる『胴』の一閃。
「ワン!!!」
トドメの一撃と言わんばかりに炸裂する、頭部への『面』の一撃。
「……タァイム、アウト。」

試合時間十秒ジャスト、試合内容は完全にイッサの完勝……いや、ルナの完全敗北であった。

「そんな……茶道部に……負けた……。」
邪悪な存在が産まれそうな勢いで絶望するルナ。
一方、面を脱いだイッサは先程までののほほんとした雰囲気から真面目な様相へと姿を変え、彼女に語りかけるのであった。
「……あなた、私のことを『どうせ、茶道部だから余裕だろう』、『ふざけた態度を取ってる奴に負けるはずが無い』って思ってたでしょう?」
「……!」
「図星のようね。それがあなたの敗因……私の戦い方の基本は『敵の精神を揺さぶる』……
 こんなふざけた格好で戦ったのも、私が余裕そうな言動をとったのもこのため……あと、このスナップ音もね。
 でも、それ以前にあなたの基礎体力と私の基礎体力とではかなり差があったみたいだけど。」
淡々と、そして冷酷に言い放つイッサ。
一方のルナは言い返す言葉が無かった。
「さて……約束よ。剣道部への入部は諦めて我が『格闘茶道部』へ入部しなさい。」
そう言って、どこからか入部届けをペラリと取り出すイッサ。

その時、ルナの頭に一つの疑問が浮かんだ。

「……一つだけ……質問して良いですか?」
「あら、何?」
「イッサさんは、どうしてこんなに剣道が強いんですか?」
「言ったじゃない。『多少は剣道をかじってる』って。」
「いやいや……かじるだけでそこまで強くは……。」
「う〜ん……じゃあ、まず入部届けにサインして。そうしたら、ちゃんとした理由を教えてあ・げ・る!」
「え……。」
「どうする?」
「……。」
「どうする?」
「……。」
「ど・お・す・る?」
「……?」
「君ならどうする?」
「……分かりましたよっ!!!」
ヤケクソになり、汚い字で入部届けを殴り書くルナ。
「やった!これであなたは、今日から格闘茶道部の副部長就任よ!!」
「……で?!あなたが強い理由は?!?!」
ルナが息を荒らげて質問したその時だった。
「『部長』!ランニング終わりました!!」
ルナの後ろから聞こえてくる、数名の学生の声。
声の方向を見ると、そこにはルナが探していた『剣道部員』の姿があった。
「『部長』……?この人は格闘茶道部の人じゃ??」
ルナが剣道部員の一人に問いかける。
「何言ってるんだ、君は!御地憑先輩は確かに、そこの格闘茶道部の部長でもあるけど、メインは我が仁科学園剣道部の部長だぞ!!」
「……はぁああああ?!」
驚くルナを後目に、別の部員も口を開く。
「しかも、剣道の腕は日本一……いや、世界一だ!現に、二年前のパリ……あと、昨年のオーストラリアはブリスベンで行われた国際剣道大会で、
 全て試合時間十秒の一本勝ちをするという驚異の記録を立てた方なんだぞ!!」
「そういうことなの、ごめんね。」
謝る素ぶりを見せるイッサ。
一方のルナは放心するのみであった。
「ところで……部長、この子は何なんですか?」
「ええ、私に勝負を挑んできてね……体力的なものに関しては合格ラインだけど、精神的なものに関しては鍛える必要があってね……
 とりあえず、格闘茶道部のほうで預かることにしたって訳。」
「……さいですか。」
「そんなこんなで……よろしく頼むわよ、天江ルナ副部長!」
そう言って、ルナの肩を叩くイッサ。

しかし、彼女の意識が回復するまでにそれ相当の時間を要したことは言うまでも無かった……。

つづく
-------------------------------------------------------------

以上です。
お目汚し、失礼しました。

516名無しさん@避難中:2014/09/01(月) 22:17:12 ID:0qz79bnA0
あ、熱い!
つ、続きを !

517 ◆n2NZhSPBXU:2014/09/01(月) 22:59:15 ID:xHg4Jcfc0
>>516
さっそくありがとうございます。
続きに関しましては現在未着手ですが、可能な限り書いていく予定(3人目の格闘茶道部部員登場予定)ですので、
御迷惑でなければ今後もお付き合いお願いします。

518名無しさん@避難中:2014/09/02(火) 23:40:08 ID:PtNTzYGw0
投下乙。
世界観フェイントで何事かと思ったw
仮面ライダーファイズみたいな戦闘しやがって!

しかしそこまでして格闘茶道部を存続させる部長の目的とは一体・・・?

519 ◆n2NZhSPBXU:2014/09/03(水) 00:55:35 ID:3nKy7RgM0
>>518
ありがとうございます。
一応、『格闘茶道部存続理由』については自分なりに決めてはいますが・・・まあ、そこまで辿り着くかどうか・・・
(少なくとも、あと4話ぐらいは必要になる計算状況なので)

ついでなので、自分で小ネタの解説。
プロローグの始まりは『北斗の拳』のナレーション、本編の始まりは『仮面の忍者 赤影』のナレーション、
イッサの格好は『内村プロデュース』の剣道回練習における内村P、戦闘スタイルはご指摘のように『仮面ライダー555』のアクセルフォーム、
最後の方のルナとイッサの掛け合いは『電子戦隊デンジマン』のエンディング・・・ってな感じだったりです。

520名無しさん@避難中:2014/09/07(日) 19:11:37 ID:b6fLzGZA0
ルナのような真面目女子キャラは貴重だな。

521 ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 21:59:39 ID:fHZ4Bbrc0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ トウカ シヨウ・・・
   {  /   ソソマエ ニ ヘンシン ダ・・・
   ヽj

>>520
格闘茶道部における御地憑イッサと本日登場の粟手トリスがボケキャラなので、必然的にツッコミポジとなった次第です。
ちなみに、個人的には『アイドルマスター』・・・と言うより『ぷちます!』の秋月律子的な感じで書いてます。

522記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:04:14 ID:fHZ4Bbrc0
今から五十年近く前……地球は怪獣や侵略者の脅威に晒されていた。
人々の笑顔が奪われそうになった時、遥か遠く光の国から彼らはやって来た……『ウルトラ兄弟』と呼ばれる、頼もしいヒーローたちが!
……しかし、それはテレビの中……もしくは他次元における地球でのお話し。
この次元の地球には、ウルトラの父によって派遣された若き勇者が来ることも、アスカ・シンの声に導かれたウルトラセブンの息子が来ることも、
そして未来ある若者を宿主に選んだ未来のウルトラ戦士が来ることも無かった。
無論、地底世界に住むウルトラ戦士も……である。

では、来たのは誰か?
ペギラか?ケロニアか??アイロス星人を追って来たクラタ隊長か???

その答えは……。

その日、夜にもかかわらず、天江家の庭では竹刀を強く振る音と竹刀を振っていた天江ルナの大声が交互に発せられていた。
「どりやぁ!とぅあっ!!セイヤーっ!!!うぉおおおお!!!!……ふぃ。」
三十分近く続けていた素振りに疲れを覚え、竹刀を下ろすルナ。
その直後、庭へと通じる大きな掃き出し窓がガラガラと音を立てて開き、そこから一人の男が顔を出すのであった。
「ルナ、食事の用意が出来たけど……タイミング的に大丈夫か?」
その男……ルナの父である天江ライトが話しかける。
「あ、うん。シャワー浴びたら、すぐに食べるよ。」
「それにしても……最近どうしたんだ?前々から庭で素振りをしてはいたが、何と言うか……全ての怒りをここにぶつけているような?」
「……そりゃね……怒りもね……溜まりますよ……!セイッハァアアアアッ!!」
突然、宙に向かって竹刀を一閃するルナ。
その足元には、竹刀であるにもかかわらず、まるで真剣で斬ったかのように縦に真っ二つとなったスズメバチの姿があった。
「お見事。」
「……シャワー浴びてきます。」

「ところで、ルナ?例の……『超次元茶道部』だっけ、あれはどうなったんだ??」
「お父さん……『超次元』じゃなくて『格闘』。それじゃあ、まるで宇宙刑事の戦闘母艦じゃない。」
ツナサラダと中華風ツナステーキを食べつつ、天江親子はマニアックな会話を続ける。
「ごめんごめん……で、その格闘茶道部はどうなんだ?そりゃ、剣道部に入れなかったのは不本意だろうけど……
 でも、その剣道チャンピオンの人の近くに居れば、おのずと技を盗め……。」
会話に花を咲かせようとするライト。
しかし、ルナの表情は複雑であった。

523記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:09:55 ID:fHZ4Bbrc0
「あのね、お父さん……私がいつもしてる素振りの量を、最近二倍にした理由って分かる?あの女ねぇ……
 やることが適っ!当っ!!過ぎるのよっ!!!」
大声をあげるルナ。
「ひぇっ?!」
その声に、ライトはただただ怯えるしか無かった。
「聞いてよ、お父さん!この間もね……。」

それは数日前の出来事であった。

体育館の中に響き渡る、竹刀と竹刀がぶつかり合う音。
そして、汗ばんだ素足と床が合わさることで発生するキュッキュッという音……
それは、まさに剣道部の在るべき光景だった。
しかし……本来、その場に加わるべきであったルナは、茶室のフスマを挟んだ環境でその音を聞かざるを得ない状況と化していた。
理由はただ一つ……彼女は今、『格闘茶道部』の副部長として、知識の無いまま部長である御地憑イッサの点てた抹茶を
受け取らなくてはならない環境に居たからであった。
「さぁ……お茶をどうぞ。」
「……はい、頂きます。」
不満な気持ちを抱きつつも、とりあえず自分の知っている範囲の知識でイッサから茶碗を受け取るルナ。
そして、慎重な動作で茶碗を回した後、茶碗を口元へと傾ける。
「えぇっと……結構な、お……お手前で……。」
『苦み』以外の特徴に関して何も言えず、再び自分が知っている範囲の知識で返答するルナ。
一方のイッサはニコリと笑いながら彼女をジッと見る。
「あらあら……ところで、お茶菓子は召し上がらないのですか?」
「……あの……そのこと何ですけど……。」
「はい?」
困惑するルナと満面の笑みを続けるイッサ。
そんな混沌した環境を茶室に作り出していた要因となっていたのは『電雷!なぁぷりん』と大きく描かれたラベルの貼ってある
『プリン』であった。
「お茶菓子って……このプリンですか?」
困惑した表情のまま、ルナがイッサに質問する。
「そうよ?この間、学園近くのスーパーに行ったら安売りしててね……しかも、私プリンって大好きなのよ。
 せっかくだから、この格闘茶道部で!って思ってね。」
「……あの……安売りしてたのは分かりますけど……。」
そう言いながら、さらに困惑した表情を見せるルナ。
その表情に気付いたのか、今度はイッサがルナへ問いかける。
「今度は何?」
「……お皿とか無いんですか……それ以前に……スプーンは?」

プリンを容器から落とす皿が無い……プリンを食べるのに必要なスプーンが無い……
この二つの要因が彼女の困惑にさらに拍車をかけるのだった。

524記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:16:18 ID:fHZ4Bbrc0
「ごめんなさいね。格闘茶道部設立に当たって、茶室やら茶釜やら手配したら小物の手配に気が回らなくて……。」
「……あの……どうやって食せと?」
「どうしましょう……ちょっとマナー違反だけど、口の上でプッチンして食べて……ね?」
「……はぁ?!」
「ね?」
「……。」
「ね?」
「……。」
「ね?」
「……。」
イッサの、たった一文字の圧力に対し、ルナはただただ屈服するしかなかった。
「……分かりましたよ。」
そう言ってプリンの容器を持ち上げ、底部にあるピンを倒してプリンを口に放り込むルナ。
とりあえず、口に残った抹茶の苦みをプリンの甘みで消すためにプリンを口の中で転がすルナであった……が、この直後にイッサは一言呟いた。

「……あら?このプリン……消費期限が一週間前だわ。」

この直後、『黄色いしぶき』が茶室入り口のフスマに飛び散ったのは言うまでも無い。

「うわぁ……そりゃ災難だったなぁ。」
話を聞き、悲しそうな表情を見せるライト。
一方のルナは、『思い出し笑い』ならぬ『思い出し怒り』をしつつ、茶碗に残った飯を勢いよくかっ込むのであった。
「ホント……モグモグ……嫌になる……モグモグ……わよ……モグモグ……おかわりっ!!」
「おいおい……怒りながら飯食うのは良いが、調子に乗ると太るぞ。」
「……!ハッ、いかんいかん。」
「まぁ……とりあえず、半分にしとくか?」
「いや、要らなくなってきちゃった……ごめんなさいね。」
そう言って、コップに入った麦茶を飲み、一息つくルナ。
「私……どうしたら良いんだろう……。」
ルナの口から洩れる呟き。
しかし、呟いたからと言って何かが状況が一変する訳でも無かったため、
彼女は台所の奥に置かれた『写真立て』をただただ見つめるしか出来ずにいたのであった。
「お母さん……。」

それから一週間後……。
かなりの時間が経過したにもかかわらず消えることの無かった憂鬱な気持ちを抱えたまま、
ルナは仁科学園中等部一年の教室に居た。
昼休みを迎えた今、周りの生徒は昼食や談笑を楽しんでいる。
しかし、ルナには何かを『楽しむ』気力など存在していなかった。
今、彼女に出来る最大限の行動……それは机に突っ伏して寝ることで、現実が逃れる……
まさに、それは彼女のみしか存在しない『閉鎖空間』形成への過程であった。

525記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:23:07 ID:fHZ4Bbrc0
そんな時、ルナの閉鎖空間へと突入を試みる一人の女子生徒が居た。

「どうしたんよぉ、ルナちゃん?」
「……その声……ヒビキさんか。」
顔を突っ伏したまま返答するルナ。
一方の女子生徒=粟手ヒビキは心配そうにルナへと話し続ける。
「ルナちゃん、元気無いねぇ。部活決まったんじゃないの?」
「決まったは決まったけど……。」
「だったら、元気ゲンキ!私なんて、和太鼓やりたかったけど部活動に無くて……
 最終的に学園近くの公民館でやってるサークルに入ることになったんだし。」
「相変わらず好きねぇ……太鼓。」
「そうとも!太鼓とゴーヤーは私のフェイバリットさね!!……ところで、何部?」
「それが……その……。」
机に突っ伏すの止め、気まずそうにルナが顔を上げたその時であった。
「……おーい!ヒビキちゃ〜ん!!」
入り口のほうから聞こえてくる小さな声。
その方向を二人が振り向くと、そこには中学生とは思えないほど小さな女子生徒が一生懸命に飛びながらその存在をアピールしていた。
「……誰?」
「ルナちゃん、ちょっと待ってて……どしたの?」
入り口に向かいつつ、小さな女子生徒に対応するヒビキ。
そして、女子生徒と二言三言の会話をすると、彼女は自身の机から一冊の本を取り出し、女子生徒へと渡すのだった。
どうやら、その女子生徒はヒビキから英和辞書を借りたかったようであった。
「……あ、跳ねながら帰ってった……何だろう、あのミニウサギ的なぷち感……。」
入り口での光景を見て、おもわずつぶやくルナ。
一方のヒビキは、一仕事終えた様相で再びルナの前に現われる。
「ヒビキさん、何かあったの?」
「いやね、英語の辞書忘れたらしくて。いやはや、そそっかしいなぁ……。」
「……あ、ところで誰なの?あの、ミニウサギ的な生徒は??」
ルナが問いかけたその時だった。
「ちょっと失礼。」
ルナとヒビキの間を割り込むように聞こえてくる声。
その声に方向を二人が見ると、そこにはルナにとって『会いたくない人物』が居た……無論、それは御地憑イッサのことである。
「部長?!」
「……ルナちゃん、この方は?」
ヒビキの問いかけにルナが答えようとする……が、再び二人の間をイッサの声が割り込む。
「副部長、部活動のことで問題が発生しましたわ。今すぐ、家庭科室に来てください。」
そう言って、そそくさと去るイッサ。
一方のルナたちは、イッサの一方的な行動にただただ黙るしかなかった。
「……ルナちゃん……とりあえず行くのがベストだべな。」
「……んだ。」

526記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:30:42 ID:fHZ4Bbrc0
それから数分後、ルナの姿はイッサと共に家庭科室の中にあった……が、
何故自身が家庭科室に呼ばれた理由に関しては依然として不明だったため、ルナはイッサに問いかけるのであった。
「あの……部長?要件は何なんでしょうか??」
「大変なことが起きました……。」
「……はい?」
「……以前、スーパーで大量購入したプリン……その消費期限が全て切れてしまい、
 我が格闘茶道部におけるお茶菓子の在庫が無くなってしまいました。」
「……。」
逃げ出したくなる衝動に駆られるルナ。
彼女の心の中はトップギアからクラッチを踏みつつ二速、三速へとギアチェンジしつつ……であったが、
それを無視してイッサは話を続ける。
「そこで、副部長……何か作ってください。」
「……は?」
「材料に関しましては、家庭科室に残っている物を使って良いと許可は貰いました。さぁ……作りなさい!
 Allez cuisine(アレ・キュイジーヌ)!!」
「……いやいやいや……ちょっとストップ。」
怒りを通り越し、呆れ顔になるルナ。
「大事な昼休みの最中、呼び出されたと思えば……しかも、私……料理に関しては苦手では無いですけど、
 だからと言って得意でも無いですし……。」
「……そうですか。ならば……最終兵器しかありませんね。」
「???」
「副部長、裸になりなさい。」
「……?!?!?!?!?!な……何で、そんなに話が飛躍するのよ!!!!!!」
イッサのいきなりな発言に、おもわずタメ口で返答するルナ。
「副部長……こうなったら、あなたが裸になるしかありません。この日本には『女体盛り』という伝統文化があります。
 アレ的な感じで……まあ、問答無用で私にお茶菓子として食べられて下さい。」
「何をふざけ……?!?!?!?!?!?!?!」
再び言い返すルナ…であったが、目に飛び込んだイッサの様相におもわず黙ってしまった。

宙を揉みしだくかのようになめらかに動くイッサの両手、血走るイッサの両目、興奮によって紅潮するイッサの両頬、
そしてその両頬を伝うかのようにして口からあふれ出るヨダレ……。

ルナの目の前に居たのは『格闘茶道部の部長』ではなく『若い女性を喰らう物の怪』としか言いようが無かった。

527記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:37:15 ID:fHZ4Bbrc0
同時刻、仁科学園内の廊下を走る一人の生徒の姿があった。
それは、先程ルナが教室で見かけた『ミニウサギのような生徒』であり、彼女の目的地は家庭科室であった。
「あっちゃっちゃぁ……ヒビキちゃんに辞書借りたのは良いけれど、まさか家庭科室に肝心のプリントを忘れるとは……。」
英和辞書を小脇に抱えつつ、小さい体を一生懸命に揺らしながら家庭科室の前へとやって来る生徒。
そして、力を込めて彼女にとっては重めの扉を開けると、広がった隙間から見えてきたのは……『修羅場』だった。

『……そうですか。ならば……最終兵器しかありませんね。』
『???』
『副部長、裸になりなさい。』
『……?!?!?!?!?!な……何で、そんなに話が飛躍するのよ!!!!!!』
『副部長……こうなったら、あなたが裸になるしかありません。この日本には「女体盛り」という伝統文化があります。
 アレ的な感じで……まあ、問答無用で私にお茶菓子として食べられて下さい。』
『何をふざけ……?!?!?!?!?!?!?!』

「……?!」
突然の出来事にパニックになるものの、何を思ったのか瞬時に自身の気配を消し、
家庭科室で行われている光景に対して釘付けになる生徒。
「……凄い……これが『百合』ってやつかぁ……。」
何か間違っている気のする知識を展開する生徒であったが……彼女がこの光景に集中し過ぎたあまり、
彼女は小脇に抱えていた英和辞書を落としてしまうのであった。

廊下のタイルとぶつかることで発生する、バサリという紙の束の音。
その音は生徒の耳だけでなく家庭科室に居たルナとイッサの耳にも届き、
家庭科室で展開していた修羅場の矛先は彼女にも向けられた。

「あ……あ……。」
二人に気付かれたことに気付き、恐怖で動けなくなる生徒。
一方の物の怪……もとい、イッサはルナを押し倒そうとする行為を中止すると、無言で生徒のもとへと歩み寄る。
「私……私……。」
次第に涙目になる生徒。
しかし、そんな彼女に構うこと無く彼女のもとへと辿りついたイッサは、彼女の体をヒョイと持ち上げ、
そして彼女を家庭科室の机の上に座らせてこう問いかけた。
「あなた……お茶菓子は作れます?」
「あ……あの……はい。」

528記憶の中の茶道部(第二話) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 22:44:18 ID:fHZ4Bbrc0
それから数時間後……授業やホームルームも終わり、部活動の時間となった仁科学園。
格闘茶道部の拠点である茶室ではイッサが抹茶を点て、それをルナが……そして、先程の生徒が受け取る光景が展開されていた。
「それにしても……ごめんね、怖い思いをさせたみたいで……正直、私も死ぬかと思ったけど。」
抹茶が入った茶碗を手で押さえながら、ルナが生徒に声をかける。
「まぁ……何とかダイジョーブですよ。それに、部長さんに私のお菓子も喜んでもらえたようですし。」
そう言って、イッサの方向を見る生徒。
その目線の先には、先程の事件後、家庭科室にあるあり合わせの材料で作ったわらび餅……の姿形は既に無く、
まぶされていたきな粉の一部が皿代わりに置かれた小さな和紙の上に存在する状態と化していた。
「一時はどうなるかと思いましたけど……あなたのおかげで、この格闘茶道部の部活動が無事に行えました。
 それに、この美味なる手作りお茶菓子……部長として『ありがとう』と言わせていただきますわ。」
ニコリと笑うイッサ。
一方の生徒は、自身にとっては大き目の茶碗と格闘しつつ、その小さな口へ抹茶を運びながら答える。
「……格闘……茶道部……何だかよく分からないですけど、楽しそうな名前ですね。」
「……実態は全然楽しく無いんだけどね。」
「何か言いました?」
ルナの小声に瞬時に反応するイッサ。
対して、ルナは茶碗を口に運んで誤魔化す。
「……そうだ!私も入部して良いですか?!」
ザ・グレートカブキの如く、今度は茶室のフスマに向けて『緑のしぶき』を噴射するルナ。
しかし、生徒とイッサはそれを無視して会話を続ける。
「私、お菓子作りは得意中の得意なんです!きっと、部長さんや副部長さんのお役に立てますよ。」
「そうですか……入部はこちらとしても大歓迎です。あなたを格闘茶道部の部員第三号として……
 あ、そう言えば……まだ名前を聞いていませんでしたね。あなたのお名前は?」
「私、中等部二年の粟手トリスって言います!」
「……粟手?」
ルナがトリスに問いかける。
「粟手って……私のクラスに粟手ヒビキってのが居るけど……?」
「ヒビキちゃんは私の妹ですよ……ってことは、あなたがヒビキちゃんの言ってた『ルナちゃん』なのね!」
「へぇ、ヒビキさんのおね……?!」

確かに、彼女は『中等部二年』と自己紹介した……また、兄弟・姉妹なのに弟・妹の方が高身長……という場合も時々ある……
しかし……目の前に居る粟手トリスは……何と言うか……ぷち過ぎる……『中等部一年』と言われても違和感が無いどころか、
おそらく小学二年生と名乗られても頷ける雰囲気……なのに……私の先輩……そして、ヒビキさんのお姉さん……。

「じゃあ……粟手トリスさん、今日からあなたを格闘茶道部の部員として認めます。今後とも、よろしくお願いします。」
「こ……こちらこそお願いします。」
そう言って、お互いに手をついて頭を下げるイッサとトリス。
「それと……ルナちゃん!格闘茶道部の仲間として、これからも……ルナちゃん?」
ルナの顔の前で小さな手を振るトリス。
しかし、『トリスがヒビキの姉であること』を理解出来ずにいたルナは、
まるで処理速度が遅くなったコンピューターのようにただただ上の空で居続けていた。
「あの……おーい?」
「……大丈夫よ、この子はいつもこういう感じだから。」
そう言って、イッサは抹茶を口へと運ぶのだった。

私の知る『格闘茶道部』は、こうして始動した……。

つづく
---------------------------------------------------------------------------------------------

以上です。
お目汚し、失礼しました。

529記憶の中の茶道部(人物設定) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 23:03:52 ID:fHZ4Bbrc0
wikiのほうに『投下時のルールとして、新キャラ・新設定に関する旨を書く』とあったのですが、
前回うっかり忘れてしまったので、人物設定について。

(天江ルナ)
『記憶の中の茶道部』における主人公であり、仁科学園中等部の一年生。
剣道部希望だったが、緒地憑イッサに負けて格闘茶道部副部長にさせられた女子高生。
過去に自身の母が失踪しており、そのため精神的に弱い一面を持つ。

(緒地憑イッサ)
仁科学園中等部の三年生で剣道部および格闘茶道部の部長。
見た目は清楚だが、甘味とエロスのことになると暴走する変態女・・・だが、剣道の腕は銀河系最強と言っても過言ではないほど。
ただし、謎の多い部分もあるようで・・・?

(粟手トリス)
仁科学園中等部の二年生で、格闘茶道部へはルナの後に入部。
ルナに「ミニウサギみたい」と評される程のぷちサイズだが、お菓子作りに関しては超天才である。

(粟手ヒビキ)
トリスの妹で仁科学園中等部の一年生(ルナとは同クラス)。
和太鼓とゴーヤーが好きな女の子で、仁科学園の部活には所属せずに近所の公民館で行われている和太鼓サークルに入った。
何故か、女好きのイッサからは嫌われている・・・?

(天江ライト)
ルナの父。
母親の居ない天江家を支える大黒柱。

・・・一応、今決めているのはこんな感じです。
今後、修正は入るかもしれませんが、このような形で仁科学園へ参加させていただきます。
よろしくお願いします。

530記憶の中の茶道部(人物設定) ◆n2NZhSPBXU:2014/09/10(水) 23:05:57 ID:fHZ4Bbrc0
間違えた!(汗)

× 女子高生
○ 女子中学生

531名無しさん@避難中:2014/09/12(金) 07:52:54 ID:VjDFyrl20
>>521
変態淑女はいいもんさ。

秋月りっちゃん……ならば、メガネっ娘、メガネっ娘なのか?ルナはー

キャラも揃ってきて、続きが楽しみじゃのう

532わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/09/12(金) 18:48:34 ID:Lj2meaqY0
新シリーズにわくわく。小動物系いいなぁ。どんどんルナが振り回されるのを楽しみにしてたりして。
ルナと荵、ルナと亜子……はっ?

>>496
スイカ割りも続行中ですよ。
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/858/suika_01.jpg
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/859/suika_02.jpg

懐くん、からすまりん、お借りします。

533『信長とカラス』 ◆TC02kfS2Q2:2014/09/12(金) 18:49:09 ID:Lj2meaqY0

 世の中の何もかもを手中に収め、抱えきれない権力が黒鉄懐に憑依する。
 袖からは逞しい二の腕の筋肉が岩石にも匹敵する硬度を誇らしげに見せる。
 天を突く追うな長身とともに、長く神々しい輝きに満ちた金髪が髷のように括られて、勇ましさを兼ね備えた雅さを演出していた。

 「そこで頼み事じゃ」

 ばっと片手で広げた扇子には金粉、細工、香が仕込まれ、うすぼけた教室を一瞬にして絢爛豪華なる二条城御殿黒書院へと
トリップさせる力があった。そんなウソさえ誠にしてしまう魔力に、半紙の前で筆を弄ぶ烏丸アリサが飲み込まれた。

 アリサは習字を嗜んでいる。
 黒髪をポニーテールに結んだ、碧色の瞳を持ったエキゾチックな雰囲気を持つハーフの女子高生だ。
 アリサは一日一時間、いや五分でも寸暇をいとわず筆を手に取る。
 彼女の周りは墨の芳しい香りが漂うという。
 文字には不思議な力が宿るから、わずかでもいいから恩恵を受ける。
 毎日筆を取って文字に魂を込めつづけるも、彼女の思いが日に当たることは少なかった。

 「別に急ぐ返事ではないぞ」
 「え〜。どうしようかな〜。烏丸、そんな頼み事されるのは初めてです〜」
 「ははっ。お前さんの好きにすればいいのじゃ」
 「……えーと〜」

 語尾を延ばす癖を恥じているわけでもない。凪打つ漆黒の墨汁が湛える硯に筆を置いたアリサの心中は、
それとは反してさざ波立っていた。自分はなかなか思い切れず、決断の一歩が踏み出せない子だということは分かっているのに、
今一歩躊躇う自分がいる。

 「今すぐでなくていいんだぞ?この信長が目を止めたんだ。誇りに思え」
 「確かに信長さんの格好ですね〜?」

 突き抜ける高笑いともやもやとしたアリサの疑問と迷いを残して、桔梗の紋が眩しい織田信長のコスプレに身を包んだ黒鉄懐は
アリサの部屋から姿を消した。懐が消えた部屋はビルを発破解体した後のような静けさと空虚感が残っていた。

 信長……いや、懐からの要望に困り果てたアリサに残された手段はただ一つ。

 誰かに聞くこと。

 眉をしかめたアリサは幼なじみに電話をかける。彼ならきっとアリサに救いの手を差し延べてくれるはずだ。
 いつも困ったときには彼が居てくれた。だから、アリサが迷ったときに、正しい選択を示してくれた。
 だが、幼なじみとの電話は弛んだ糸が絡み付いたのか、一向に繋がらなかった。万事休す、刀折れ矢尽きる。
ふわりとアリサの頬を撫でる風さえも、今は煩わしく感じるぐらいにアリサは落ち着かなかった。

 気分は晴々としないのに、お腹だけは空く。心と体は別物だ。お年頃の女子だから、すぐに何かを摘んじゃいたくなる。
甘い物がいいな。アイスクリームなどどうだろう。牛乳たっぷりの濃い味は疲れた体を癒すし。いや、甘さ控え目なあんこも捨て難い。
エキゾチックな容姿に心を抱くハーフのアリサはゆらゆらと和か洋かと迷う。
 そうだ、食べに(学食)行こう。例えば、京都には日本中の海の幸山の幸が集まるが、学食だって負けてられない。
種類が豊富なことで名だたる学食へアリサが向かうと、そこはうつけ者の館だった。
 信長が天下統一を成し遂げ、いち早く京に上ってきたのか。それとも、戦の勝どきで、はたまた敵の武将の勇猛果敢な戦いを讃え、
黄金の髑髏(どくろ)で美酒を味わっているのか。

534『信長とカラス』 ◆TC02kfS2Q2:2014/09/12(金) 18:49:30 ID:Lj2meaqY0

 「はははっ。今日の宴は最高じゃ」

 信長……いや、懐の前にずらりと並んだカツ丼、カレー、肉うどん。そして、ピザトーストと、見ているだけで満腹中枢を
麻痺させる品々に腹を鳴らせていたのだ。椅子に胡座をかき、扇子を乱暴に扇いだ懐は遠慮することなくピザトーストを手にして、
がぶりと口に入れた。野生味溢れる食べっぷりに遠巻きに眺めていたアリサもつばきを飲み込む。

 「桶狭間の戦いで、今川善元殿を討ち破ったとき以来の気分じゃな!あの時はどしゃぶりの中、攻め時を迷ったものじゃ」

 続いて、カツ丼。肉厚なカツと程よいぐらいの衣の歯ごたえが、しゃくしゃくと小気味よい音と共に伝わってくる。
甘すぎず、辛すぎずのたれが白米との調和に見事に合致して、日本人の心意気を胃袋から褒め称えていた。
 たれの香りに釣られたアリサは一歩一歩学食の中に吸い込まれる。そして、肉うどん。甘さと辛さの微妙な距離を保ちつつ、
腰のない麺が嫌でも出汁を吸い込み続ける。時間が経つとみるみる増える魔法のうどんは腹持ちが良いと男子生徒の間では評判だ。
ただ、空腹に耐え兼ねたアリサは例外だ。手を伸ばせば麺に届く距離まで近付いたアリサは懐の姿を見て我に帰った。

 「どうだ。うつけ者の宴はどこの誰にも負けんぞ」

 うどん越しに見える懐の表情は、天下を手中に収めた信長そのものだった。
 安土城の天守閣からの眺めに現を抜かす、日本国王の威厳とも表現できるではないか。

 はっ。

 刹那に光り輝く閃光。
 青白く稲光のように、そして静寂さが吹き荒れる。
 アリサのポニーテールがゆらりと揺れる。
 足元から風吹き上がる。

 「来る……わたしに来ます……」

 自分の体の中に空海・橘逸勢・嵯峨天皇、日本史が誇る書道の神『三筆』が宿った。アリサに潜み、燻っていた大和魂が今、
聖霊と共に開花していた。硯に降臨した書の神が、雷電と共にアリサの手元を通じて現代に蘇る。三筆と信長では時代は違いすぎるが
この国に宿り、文化を育んだ者たちと言えば、まさに『神』と言えるような者ばかりだ。

 アリサの耳には遠い時空の雲から詔が聞こえてきたのだった。

 もっと、美しく。
 もっと、可憐に。
 
 剣豪の鮮やかな殺陣廻りを目の当たりにした。
 それ以上の衝撃が学食中に広がる。

 一筆一筆に花びらが散って、桜の国の四季を一度に見るかのような。
 呼吸をすることも忘れたアリサは夢中で書に魂をこめ続けた。 
 学食の机に半紙と筆、墨汁を湛えた硯を並べたアリサは、決して上手くはない筆使いで文(ふみ)を書き連ね始めた。
目の前で書道を始めたアリサに懐は声をかけようと箸を止めたが、聖霊に取り付かれたアリサに近寄ることも、話し掛けることも
恐れ多すぎて、禁じられてるように感じた。

535『信長とカラス』 ◆TC02kfS2Q2:2014/09/12(金) 18:49:52 ID:Lj2meaqY0
 「できました〜」

 信長……いや、懐は言葉を失い、そして扇子で口元を隠した。
 いつのもどおりのアリサに戻り、菜の花畑の風が流れる。
 アリサが書き連ねたものは『カツ丼 カレー 肉うどん ピザトースト……』と、懐が並べていた物と同じ物だった。
 筆を置いたアリサは疲れきった表情で額の汗を拭いていた。頬を掠める風が今は心地好い。

 「おしながきです〜。和食は見て楽しむものです〜。今日の品々と合わせて楽しんでください〜」
 「ピザトーストもか?」
 「あ……書いちゃいました〜」

 懐に指摘された後のアリサの汗は、今までのものとは違った。
 懐のツッコミは続く。

 「アイスクリーム……か?おれは頼んでないが」

 しまった。
 ついついアイスクリームを食べたいあまり、自然とおしながきに書いてしまったことに顔を赤らめたアリサは
ぶんぶんと両手を振っていた。

 「あの、あの〜。迷ったんでます〜。アイスクリームか……」
 「はははっ。よし。南蛮渡来のアイスクリン、ここに参れ!」

 声高らかに、そして、柏手を打った懐はそのまま信長の姿のまま食券売場へと向かった。

 アリサの携帯が鳴った。
 幼なじみからのリダイアルだ。
 幼なじみに頼ったことすら忘れ、あたふたと慌てて電話に出たアリサは、またも別の汗をかいた。

 「だ、大丈夫です〜。迷ってないです〜」

 かたんとアリサの前にアイスクリームが。
 信長からの賜り物だ。

 「はははっ。迷うことは誰にもあるよのう」
 「あ……ありがたき、幸せ〜」

 白い褒美を口から垂らしたアリサに懐は、名古屋城のしゃちほこさえも見上げる高笑いをしていた。


  おしまい。

536わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/09/12(金) 18:54:41 ID:Lj2meaqY0

「タロットカード化企画まとめ」より。
http://www15.atwiki.jp/nisina/pages/299.html

8【剛毅】黒鉄亜子
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/860/ako_STRENGTH.jpg

「ウチのバ……うつけもの兄貴がすいません!」

投下おわり。

537 ◆n2NZhSPBXU:2014/09/12(金) 22:18:38 ID:nX7m2adE0
>>531
『真面目さ』のイメージベースを律っちゃんにしているだけで、別にメガネの有無は設定していません。
(現状はノーメガネのイメージで執筆)

・・・でも、メガネキャラってどこかで登場させたいなぁ。
ただ登場した場合、そのキャラにウルトラセブン・ネタをさせることになるのは火を見るよりも明らかな訳で・・・。

>>532
投下乙です、そして感想ありがとうございます。

久遠荵、黒鉄 亜子についてはご指摘を受けて気付いた次第ですが、これに粟手トリスが加わっての
ピョンピョコ・トリオによるサイドストーリーを!!・・・誰かが書いてくれたらなぁと思う今日この頃です。

538名無しさん@避難中:2014/09/15(月) 00:33:12 ID:GT0MHDrU0
格闘茶道部の設立が思った以上にカオスだったw

あと懐wwww最近なにしてんwwwww

539名無しさん@避難中:2014/09/23(火) 11:49:15 ID:NsjdjTdw0
体育祭はやっぱり秋だよなー。
騎馬戦は重量挙げ部が強そうだし、何気に幸撲委活躍しそうだし。

540名無しさん@避難中:2014/09/23(火) 12:39:14 ID:Hr8P/uRc0
でも上に乗るほうも重量級だから混合チームをだな

541名無しさん@避難中:2014/09/23(火) 15:55:28 ID:5FerQ66U0
ああ。そっか。
ここで格闘茶道部の登場か。

542名無しさん@避難中:2014/09/24(水) 23:14:43 ID:Bxh0kY3Q0
創作部の水鉄砲も強いんです。
「葎っちゃん!一網打尽やち!」

543わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:15:51 ID:pn5UZ3WM0
>>537
>ピョンピョコ・トリオによるサイドストーリーを!!・・・誰かが書い(ry

書きました。

544わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:16:37 ID:pn5UZ3WM0

 学校からの帰り道にゴーヤーと久遠荵に時間を奪われる予定などなかったと、制服姿で箱を抱える黒鉄亜子は目を背けた。
 緑色の植物のために力を惜しむのならば、一秒でも早く空手の道着に袖を通して、時を操る神々に正拳突きを食らわせたい。

 段ボール箱一杯に満たされたゴーヤーを二人力合わせて運ぶ。
 一人で持てない訳でもないが、段ボール箱が歪んでバランスが保てないからだ。
 亜子の金色の髪と対比して、緑色のゴーヤーが鮮やかに箱を埋める。

 「亜子ちゃんが通りがかってくれて助かるなっ」
 「わたしは迷惑です」

 急いでいるにも関わらず、荵に手を貸す亜子はまだまだ子供どもだ。そりゃ、女子中学生なんて世間様じゃ『JC』だなんて付加価値を
付けてくれるものの、ほんのちょっと前までは、ランドセル背負ってた小学生だし、子どもから中学生にいきなり背伸びの成長痛だし。
 いくら亜子が空手で心身を鍛えようとも、世の中は理不尽なもので、勝てないものは勝てないのだった。

 「ふう……。ここで休憩しようよっ」

 校舎入り口の土間でどっさと段ボールを下ろすと、箱が揺れて、中身のゴーヤーが荷崩れを起こした。
慌てた荵は、子犬がおもちゃに飛び付くように、ゴーヤーを両手で掴まえた。
 
 さて、ジャージにブルマ姿でゴーヤー片手の荵に突っ込みを入れるとすれば……。

 「なんでこんなにゴーヤーを?」

 亜子の疑問は素直だ。正直過ぎて、突っ込みのお手本にはならない。
 正拳付きの質問に、荵はそのコブシに絡み付くように答えた。

 「ほらっ。『拾ってやって下さい』だって。校門に置かれてたんだからっ」
 「なにそれ」

 確かに段ボール箱には、そんな文句がマジックで書かれた貼り紙がされてある。
 ただ、何故にゴーヤーを拾ってやって下さいなのかは、二人しても謎が解けぬ。
 三人よればなんとやら、三人目に期待を寄せると手段を捨てて、荵は手にしていたゴーヤーを元の段ボール箱に戻した。

 「わたし、早く……」
 「あー。そっか」
 「これからグローブ空手の組稽古があるんです!門下生の分際で時間に遅れるなんて言語道断です!」
 「そうだねっ。亜子ちゃん、ありがとっ」

545わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:17:24 ID:pn5UZ3WM0
 急いで帰る理由がある。袈裟懸けにしたスクールバッグからぶら下げた、ボクシンググローブが道場の空気を吸いたがる。

 腕が鳴る。
 敵を拳で打つ快感が蘇ってくる。
 伊達にグローブを携えているわけではない。
 真紅の鉄拳が血を求める。

 フルコントクトが認められたグローブ空手は亜子のポテンシャルを最大に引き出す舞台。だから、抑えきれない衝動を
胸のうちからはちきれさせようとすっくと気合を入れた。

 亜子が踵を返してダッシュをかまそうとした瞬間、前方から接近した台車と正面衝突の人身事故に遭った。

 「ぐぎゃあ」と、亜子の悲鳴があがる。

 相手は前方不注意、スピード違反、示談にするには安すぎる。女子学生だからと言って、甘えちゃいけない。
 事故の衝撃で台車の運転手はミニウサギのようにすっ飛んで、ゴーヤー満載の段ボール箱へと突っ込んだ。
 突っ込みのお手本としてはアグレッシブが過ぎると、荵は尻尾を巻いて尻餅で激痛を体中に走らせた。

 「いててて……。ぐぉ、ぐぉめんなはい!ふぇがあひまへんれしたらー?」

 ゴーヤーを口にミニウサギのような女子学生が振り向いた先には、突っ伏して倒れた亜子の姿があった。
 肝を潰したミニウサギは、ぽろんとゴーヤーを口から離す。

 「ご、ごめんなさいー!怪我ありませんでしたかー?」

 ぴょんと台車を飛び越して、女子学生は亜子の傍らに着地すると目を丸くしてうっすらと涙を浮かべていた。
 女子学生は制服からして亜子と同じ中等部だ。ただ、制服がなければ小学生としても違和感は感じない。
 むしろ、ランドセルかリコーダーが必要なぐらいだし、おまけに名札も付けようかと憂うぐらいだ。

 「ごめんなさい!」
 「わたしは……大丈夫です。足元のガードを油断していたわたしに過ちがあります」

 むっくり立ち上がった亜子は、試合に負けたときの顔つきで手を払っていた。

 「あの、あの、あの。お詫びにゴーヤー一つ持っていて下さい!」
 「いや、いいから」
 「でないと、あの、あの、あの、わたしの気持ちが納まりません!」

 荵はゴーヤーを一本手に取って、亜子とミニウサギの側にぴょんと近付き、ミニウサギを目にも止まらぬ電光石火で羽交い締めした。
 荵の鼻がミニウサギのつむじに当たり、ゴーヤーがミニウサギのありもしない胸に当たる。

546わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:17:48 ID:pn5UZ3WM0
 「や、やめてくださいー!」
 「わおーっ。甘噛みすんぞっ」
 「甘噛みって、イヌじゃないんですからー!」
 「わたしはイヌだっ」

 たらりと額に一筋の汗。
 子犬がミニウサギにじゃれついている間に、亜子は風のように消え去った。 

 「ミニウサ子はお菓子の香りがするぞっ」
 「誰ですか、ミニウサ子って」
 「お菓子の香りがする子だよっ」
 「ですから、誰ですか?」

 答えに言葉はいらない。荵はもう一度『ミニウサ子』を羽交い締めして、くんかくんかと髪の匂いを肺一杯に吸い込んだ。

 「ミニウサ子じゃありません!わ、わ、わたしは粟手トリスです!」

 ウサ耳が似合いそうな小動物系少女はじたばたと足をばたつかせていたが、慌てれば慌てるほど、荵は顔をトリスの髪に埋める逆効果。

 「ゴーヤーを返してください!」
 「え?だって」
 「わたしが仁科市場で買い込んだゴーヤーですよ?今から家庭科教室に運ぶんです」

 トリスが指差す緑色の植物。ぐりぐりと表面がうねり、見てくれはお世辞にもイケメンとは言えないが、
苦味が美味だと名高い南の果ての野菜だ。
 買い物帰り、買い込み過ぎた。学校近くの道だから、知った顔が通りすぎるだろうとたかをくくってたら、
それは甘い考えだった。放課後とは言え、誰もいない。仕方なく道端に放置されていた適当な箱に積めて、学校の台車を借りに
行っていた矢先のこと、ゴーヤーが姿をくらました。

 「ってか、どーしてゴーヤーを箱ごと持っていこうとしたんですか?」
 「うー、箱に『拾ってやって下さい』って」
 「あ。マジだ……」

 初めて貼り紙の存在に気付いた。きっと、この中にイヌネコの類いがいたんだろう。
 誰かに拾われたか、どこぞへと消えたか、主を失った段ボール箱に、トリスが引きずっていたゴーヤー一杯のエコバックを
放り投げたのが原因だった。

547わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:18:19 ID:pn5UZ3WM0

 「ごめんなさい……。ゴーヤーどろぼうかと思っちゃって」
 「こちらこそですっ。でも、こんなに沢山、ゴーヤーをどうするのっ?」
 「妹が好きなんです。家庭科教室でゴーヤー三昧、グッド・ガストロノミーです」

 小さな身体のトリスから妹というフレーズが飛び出す。
 荵が尻尾を立てていると、もくもくと荵の目の前にトリスの妹の姿が妄想された。
 きっと、もっと小さな子なんだろう。姉がミニウサ子ならば、妹はもしかしてプチウサ美かもなっ。
 なのに、ゴーヤーなど苦味を楽しむ食材を好むなど、なんという大人びた子だっ。荵は口をあけた。

 「いけないっ。早く体育館に戻らないと、迫先輩から『めっ』だっ」
 「部活ですか?」
 「演劇部だよっ」
 「ちょ、ちょっと待ってください!ご迷惑かけたお詫びにゴーヤーを……」

 きゅっと踵を返す。シューズの底が軋む。ジャージの裾がふわりと舞う。濃紺のブルマがサブリミナルでちらり。
 これが先輩だっ。伊達に先に生を受けていない。粟手トリスちゃん、目に焼き付きやがれぃ。
 あわてふためきながら廊下を全力疾走する荵を、トリスは珍しい生き物を初めて見る目で見送っていた。


     #


 ゴーヤーを積載量ぎりぎり台車に載せて、トリスは家庭科教室へ向かった。これだけゴーヤーがあるのだから、
気軽に作れる一品を。誰もいない放課後の家庭科教室と、たった一人の演奏会はよく似ている。

 「あーあ。きょうも暑かったなー」

 夏も過ぎて、秋の始まり。とは言え、汗ばむ日々はまだ続く。
 ゴーヤーの苦味を生かしつつ、すっと心地好い清涼感を味わえるお菓子を。
 ゴーヤーの皮をすりおろす。優しく、撫で回すように丁寧に緑色の野菜を回すも、頑張りすぎると苦味を許してしまう。
 適度にすりおろされたゴーヤーからは濃厚な汁が滴る。それこそ秘宝の輝きだと、トリスはほくそ笑んだ。

 「あのイヌみたいな人、演劇部って言ってたっけ」

 久遠荵。まだ、トリスは名を知らない。
 トリスの中での演劇部とは、マンガで見た世界のようなもの。
 たった一人で舞台に立たされて、実家の食堂では母親が一人で病床の元で、陰ながらに応援しているのだろう。
 中等部なんて、字に書いたような中坊の集まりだ。いずれ自分たちも華麗に女子高生に変身できると、
子供じみた妄想を膨らませつつ、擦ったゴーヤーの身をざるにかける。

 「あの金髪の子は……」

 黒鉄亜子。まだ、トリスは名を知らない。
 トリスと同じ中等部だというのに、遠く年の離れた姉御のように感じるオーラだ。
 トリスはゴーヤー汁を搾りきったことをついつい忘れてしまう。

 「いけない!わたしのばかばか!」

 スイッチの切り替えの早いトリスは、頭をコツンと自分の拳で叩くと、小さくベロを出し気持ちをリセットした。
 摩り下ろしたゴーヤーを甘ったるいバニラアイスに混ぜて、きんきんに冷凍する。ただそれだけ、ゴーヤーのアイスクリーム、
出来上がりの時を座して待て。

548わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:18:50 ID:pn5UZ3WM0
 「ミニウサ子っ。返しに来たよっ」

 まだまだ待て。

 「演劇部の……」

 じっと待て。

 「いつの間にかにゴーヤーの尻尾が生えてたっ」

 惑わされずにしばし待て。

 「ふふっ。やっぱり来ましたね!」

 頭の中がぐるぐると、振り回されずに待ちやがれ。

 「ゴーヤーの尻尾がおブルマにはさまってたんだっ。迫先輩が指差すから、おかしいぞって思ったらいつの間にっ」

 確かに荵がくるっと上半身を半回転させると、ジャージを押し退けてブルマに半分はさまった緑色の物体が尻尾のように飛び出している。
 いぼが荵の小さな尻に突き刺さり、奇妙な快感とテンションを与えていた。

 「作戦成功ですね!」
 「なにーっ」

 トリスは荵が踵を返すと同時に光の速さで荵のブルマにゴーヤーを挟んだのだった。
 これならイヤでもゴーヤーを渡すことが出来ると、トリスが睨んだ結果だ。

 「これ、なんなの?」
 「ゴーヤーです。受け取ってください」
 「やだいっ」

 ゴーヤーの尻尾をブルマから引き抜く。
 いくら愛しき尻尾でも、自分が引き起こした過ち故の償いのゴーヤーは受け取れない。
 だって、ミニウサ子には迷惑なんかかけたくないし。

 「あ……、先輩。なんですね」
 「えっ?わたしのことかなっ。久遠荵ですっ。高等部ですっ。あっ、亜子ちゃんだっ」

 話の急旋回にトリスは振り回されて、荵が指差す窓に目を向けた。
 金髪の少女が顔を真っ赤にして駆けてくるのだ。グラウンドに咲いた菜の花のような光景は、失礼ながらも滑稽に映る。
 何故ならば、手には緑色の野菜があったからだ。

 「せっかくのゴーヤーを受け取ってくれないんです」
 「亜子ちゃんもかぁー。どうやって渡した?」
 「ちょうどうまい具合にゴーヤーがボクシンググローブに入ってですね」

 背伸びで亜子の帰還を迎えるトリスは、ミニウサギっぽい笑みを浮かべてゴーヤーアイスクリームを一口含んだ。
 高みの見物でゴーヤーアイスクリームに舌鼓を打つトリスと荵は、しばらく亜子が校庭を走り回る光景を肴にすることにした。


   おしまい。

549わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/05(日) 19:21:46 ID:pn5UZ3WM0
トリスかわいいよトリス。
小動物系かわいいよ。

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/866/torisu01.jpg

おわり。

550 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/06(月) 00:08:55 ID:hjIcL8mM0
>>543-549
>> ピョンピョコ・トリオによるサイドストーリーを!!・・・誰かが書い(ry
> 書きました。

         / ̄ ̄ ̄ \
      /   :::::\:::/\
     /    。<一>:::::<ー>。 ありがとうございます・・・
     |    .:::。゚~(__人__)~゚j  そして、本当に申し訳ありません・・・
     \、   ゜ ` ⌒´,;/゜
    /  ⌒ヽ゚  '"'"´(;゚ 。
   / ,_ \ \/\ \
    と___)_ヽ_つ_;_ヾ_つ.;._

他力本願丸出しな願いを、しかもイラスト付きで叶えていただき、ありがとうございます。
『ヒビキ』という名前だけで決めた「トリスには和太鼓とゴーヤーが好きな妹がいる」設定をここまで生かしていただき、申し訳ないです。

蛇足ですが、トリス&ヒビキ姉妹についての裏話。
雑談スレでも書きましたが、元々は『粟(あわ)トリス』という完全に下ネタな名前でした。
(部長を変態にするのが決まっていたので、当初は「(名前が性的に)興味深い」という理由で無理やり入部させる展開を考えていた)
しかし、流石に酷過ぎるので『慌て→あわて→粟手』とし、慌てん坊キャラに設定した経緯があったりです。

また、ヒビキに関しては設定にのみ留める予定だったのですが、自身の考える物語における今後の展開において、
4人目が必要となり、『トリス』の名前の元ネタでもあるウィスキーから名前に適した名前を拝借した次第です。

何にしても、私も『創作』で何かお礼をせねば・・・。
繰り返しになりますが、本当にありがとうございます。

551名無しさん@避難中:2014/10/08(水) 21:17:18 ID:KycGuB8M0
次は天江ルナの番、ですか。
真面目系暴走少女…誰と絡ませるかが問題だ。

552名無しさん@避難中:2014/10/09(木) 16:48:55 ID:hbiPnWIk0
敢えての水玉パンツさん

553名無しさん@避難中:2014/10/11(土) 15:33:26 ID:PZkELEBY0
水玉先輩って、仁科のなかでは唯一って言っていい常識人だよね。
ん?

554名無しさん@避難中:2014/10/11(土) 17:43:49 ID:Tx0K9ot60
某先輩とかは常識の塊な気がする

555名無しさん@避難中:2014/10/11(土) 21:06:51 ID:E9kYQTj60
某先輩の相方がぶっ飛びすぎて。

天月さんも推します。

556わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:45:21 ID:eHBBJu6I0
お借りします。格闘茶道部じゃなくって、ごめんよー。

557『コスプレの家庭教師』 ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:46:56 ID:eHBBJu6I0

 「コスプレは数学」だと力説している秋月京(みやこ)に欠点を求めるならば、一つ下の牧村拓人に聞けば良いだろう。
 きっと拓人は「メイド服着ながらやらなきゃいけませんか?」と恥ずかしげに呟くだろう。
 その答えを期待していたのか京は、意気揚々とした顔で「だって、わたしの専属モデルだし」と言葉を返す。

 年上の先輩から手取り足取り数学を教えてもらう。
 拓人のお年頃ならば、誰もが夢見るエロゲ的イベント。
 寿命を売り払ってでも手に入れたいシチュエーションだが、京の一言でそんな憧れは初夏の雲に散って消えた。

 純潔の証、白いエプロン。
 奉仕の誓い、フレアスカート。
 無邪気の表れ、ニーソックス。
 そして恥じらいの定め、絶対領域。

 生物学上も戸籍上も社会的にも健全なる男子である牧村拓人がそんなメイド服を纏うと、筆で書き表すことさえも
恐れ多い輝きを増す不思議に、きめ細やかな汚れなき肌眩しくて、大人の捻くるまだ染まらぬ黒髪がメイド服に息吹を与える奇跡が起こる。
 太ももを合わせる恥辱に耐える仕種に京の視線が釘付けになりつつも、しっかりと数学の手ほどきを伝授する。
 京の一言さえなければ完璧なる先輩像なのに。『ザンネン』というフレーズが今日ほど消費したくなる日もそうそうない。
そして、この世に『ザンネン』という言葉があって、本当によかった。

 「テストのポイント教えてあげるから、メイド服着てみてよ」

 確かに拓人と京の数学担当教師は同じだったから。出題される傾向と対策は京からすれば、まるで砂の城を
攻め落とすようなものだった。だが、等価交換の原則を踏みにじる京からの提案に拓人は二の足踏んだ。

 「音楽を聴きながら勉強すると頭に入るわよね?」
 「確かにそんな話は聞きますけど」
 「それじゃ、メイド服着ながら勉強すれば頭に入るんじゃないの?」
 「あの、言っている意味がわかりません」
 「メイド服着ながら勉強したら捗るって言ってるの」

 拓人の額からたらりと流れる汗さえも、京の理屈に閉口していた。
 そっと拓人の汗を京がハンカチで拭う仕種は先輩としては満点だ。それを赤点レベルに突き落とす京の趣味に振り回されながら、
拓人は『男の娘』へのチェンジを選んだ。

 「そう。O(3、―4)を基点に動かす。イメージを忘れないで」
 「xを―3、yを+4ですよね」
 「視点を変えれば答えが見えてくるわ。コスプレと同じね」

558『コスプレの家庭教師』 ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:47:27 ID:eHBBJu6I0
 シャーペンが止まる。
 理由はだいたい分かるはず。
 京が言うには「コスプレは数学」らしい。

 「コスプレも数学も一つの解に向かって突き詰める。似てるわ」
 「こじ付けじゃありませんか」

 たった一つの解答を求めるためにあまたの数学者が格闘してきた。
 たった一人のキャラクターに成り切るためにあまたのコスプレイヤーたちが競ってきた。

 「正しい解法ならば、コスプレも数学も裏切らないし」

 拓人の顔に頬を近付けた京は、くんくんと恥じらいの汗を嗅いだ。

 「そうだ。良い点とれたら、牧村くんにご褒美あげるわ」
 「気を使わなくてもいいですよ」
 「良い点……っていうか、テストを頑張ったら」
 「基準がわかりません」

 京の思い付きは警戒した方がいいかもしれない。いつも、この甘い汁に騙された。カブトムシが群がる甘露も結局は、
子供たちの欲望のためなのだから。相手はコスプレ部の魔女だ。若い燕を射落とすならば、どんな呪いを唱えるのか予想はしがたい。
秋月京という魔女は、どんな裁きにかけられようともびくともしないだろうし。

 「今度のテストの日ね。頑張ってね」
 「京先輩もじゃないですか、テストは。先輩だって……」

 拓人のささやかな反抗をもくぐり抜けた京は、エプロンの下に指を入れてつんつんと脇腹を突いた。


     # 


 夏は、この戦いの後に待ちわびている。

 ざわざわと波立つテスト当日は戦場に旅立つ若者たちの有様だ。
 手にした兵器はペン一つ、真っ白な雪原を戦場に、和平への扉へと駆け抜ける。

 「まきむー、ヤマカン教えろいっ」

 切羽詰まった表情で飛び付いた同級生は兵隊を急襲する伏兵……ではなく、野犬だ。
 わおん!と心配そうに尻尾を降り続け、ぱたぱたと犬耳を慌てさせている女子生徒は、買ったばかりのように
手垢がほとんど付いていない真っさらなノートを拓人に見せ付けた。

559『コスプレの家庭教師』 ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:47:47 ID:eHBBJu6I0

 「久遠さんが悪いんじゃないの……。ちゃんと復習しないから」
 「数学なんかわからんちんっ」

 残念ながらこちらもテスト対策で余裕などないから、いち女子・久遠荵に構っている暇はない。
 困り果てた顔で振り切ろうと席を立った拓人のその細く白い腕を荵はがぶりと噛み付いた。

 「まきむーが勉強したこと、全部忘れろっ」
 「むちゃくちゃな」

 どうしてこうも自分の周りの女子は、こうも尋常でない者ばかりなのか。
 ぼくはただ清く正しく大人しい学園生活を送りたいだけなのに。

 とにかく教室から逃げ去ろう。貴重な休憩時間を荵のわんわんに費やすのは悲しいことだが、背に腹は返られない。
 ぶんぶんと腕に絡まる荵を薙ぎ払おうと、拓人は慌てふためいていると、とみに腕の感覚が軽くなった。荵が尻尾を巻いて、
耳を抑え、きゅんと小さくなってしゃがんでいるのだ。

 「み、京先輩っ。耳は弱いんだなっ」

 荵の背後で魔法少女の決めポーズよろしく、出入口近くで教室の床を踏み締めていたのは、紛れもなく秋月京だった。

 「さあ、いちゃいちゃはここまで。言うこと聞かないと、また耳に息吹き掛けちゃうわよ?」

 荵の弱点を掴み、手の平で転がす京の魔術に拓人は感謝を込めて突っ込んだ。
 京からは『つっこんで(はあと)オーラ』ぷんぷんなのだから、突っ込むのは礼儀以外の何者ではなかった。
 このときばかりは。

 「そのメイド服、この前ぼくが着ていたものですね」
 「そうね」

 拓人の奇妙なものを見る目に京は何故どうしてと目を白くして、一通の封書を拓人に渡した。確かにそうだ。
 フリルあしらわれ、コケティッシュな香り漂うワンピースタイプのメイド服。おまけに猫耳尻尾のオプション付きだ。
小柄な拓人が着ていたときにはさほど感じなかったが、身長のある京が身につけると自然にスカート丈が短くなる。

560『コスプレの家庭教師』 ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:48:04 ID:eHBBJu6I0
 「女の子がメイド服着てておかしい?」
 「いや……おかしくはないんですが」

 教室、もっと言えばテスト開始前の教室に猫耳メイドのコスプレだ。拓人やカタギの人間の目線からすれば奇妙な光景だが、
心底コスプレに陶酔している京からすれば、制服に毛が生えた程度のことなのでなんともないらしい。
 京は手にしていた小さな淡い桃色の封筒を拓人に手渡した。 

 「じゃ、お手紙よんでね。テスト頑張って、待ってるわ」
 「京先輩もテストですよね?」

 猫尻尾を揺らしながら教室を去る京の姿を荵は遠い目で眺めていた。
 間もなくテスト開始の鈴が鳴る。


     #

 
 テストはつつがなく終わった。
 冷静さを取り戻しつつ、わんわんを忘れると案外自分でも覚えているんもんだと、
頭をすっと夏の風を吹かせていた拓人はテストの間すらすらとシャーペンを滑らせていた。
 ただ、この効能を京のコスプレのお陰だとは思いたくはなかった。

 「むずいっ、むずかったっ。まきむーのばかばかっ」

 折角、勝利の余韻に浸っていたのに久遠荵が邪魔をする。
 八つ当たりのように拓人の腕に噛み付く荵を引きずりながら、拓人は昼休みの廊下を急ぐ。

 「どこに行くっ」
 「中庭だよ」
 「なぜにっ」

 正解は『京が呼ぶから』。
 理由を言う必要はないと判断した拓人が中庭に出ると、職員室の窓にメイド服姿の京が硬い表情で立たされているのを目撃した。
 四角い窓の範囲からは、誰と向かって立っているのかは判断しかねる。おそらく、おそらくだが、教師の誰かに呼び出されたのだろう。
 「そんな格好でテストを受けるつもりなのか」と一喝されているのだろう。拓人の勝手な想像だが、あながち間違っている自信はない。
 憮然とした表情の京は反撃を食らわせることなどは控え、ぐっとその場を耐え忍んでいた。

 「わおっ」

 執拗に拓人の足を踏んでくる荵に気をとられて脇見をしていると、職員室の窓から京は姿をくらませていた。

561『コスプレの家庭教師』 ◆TC02kfS2Q2:2014/10/16(木) 18:50:25 ID:eHBBJu6I0
     #


 拓人が京が指定した場所に着くと、小さなお茶会が設営されていた。
 緑いっぱいの芝生に立てられた日傘、洋風のテーブルに品のよい腰掛。
 据えられたケーキスタンドに並ぶ洋菓子からは、甘い香りと気品がふわりと蝶のように舞う。
 白く光を反射して、花の絵柄に彩られたティーセット。カップとソーサーが触れ合う磁器の音色の調べはちょっとした音楽会だ。

 「ようこそ。牧村くん……に?」

 シフォンケーキを片手にメイド服姿の一人の娘が拓人と荵を招き入れた。
 
 「わおっ」
 「あの……久遠さんは、勝手に」
 「香りがわたしを呼びつけるっ」

 拓人の足をぎゅっと両腕で握り締めて、拓人に引きずられる荵に対しても娘はにっこりと微笑み返し。
 
 さあ、牧村くん。
 お茶会の始まりよ。
 聞き分けの無い仔犬を連れて、わたし秋月京からのささやかな贈り物をどうぞ。

 「テストを頑張ったごほうびよ」
 「……どういう基準で」
 「お姉さんの贈り物は、お姉さんがお姉さんのうちに頂いておくものよ」

 ケーキを一口つまんだ京のの口が、たった一歳上だけなのに遥かにオトナに見えてくる。少女から魔女へ。
 魔女の魔法は解け難く、気がつけば拓人と荵は京の宴に酔いしれる至福の時間を共有していた。
 外で頂くケーキがこんなにも美味だとは。拓人は白い肌を季節外れの桜色に染めた。

 「さ。次の召し物は神戸屋かなぁ。肌のきれいな牧村くんには空色のギンガムチェックが似合うわ」
 「うらやましいぞっ」
 「今度は牧村くんがわたしにごほうびをしてくれる番よ?」

 拓人はケーキを口にしたことを後悔した。
 
 

    おしまい。


牧村くんらんどだよ!わぁい!
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/867/makimura_maid01.jpg

562 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/18(土) 21:48:59 ID:.QHLjfZI0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ キョウノ トウカハ バンガイヘン・・・
   {  /   ヒビキニ セマル ジンブツノ ショウタイトハ・・・
   ヽj

>>557-561
前回に引き続き、投下乙です。
何と言いますか、こういう『学生たちが自由に動いて学園生活を送っている風景』が思い浮かぶ描写、
流行りの言葉で言うなら『ありのままの姿見せ』てる雰囲気って好きです。

563 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/18(土) 21:56:27 ID:.QHLjfZI0
その出来事のきっかけは、和太鼓サークル部長である達磨オルドの一言からであった。

ある土曜日の午後、粟手ヒビキは仁科学園中等部での午前授業を終え、制服姿のまま公民館へ参上、
ジャージに着替えて和太鼓の練習へと傾れ込む予定……のはずが、彼女を待っていたのは『別の用事』だった。
「柚鈴天神社……ですか?」
仁科学園のジャージを着たヒビキがオルドに問いかける。
「ああ……申し訳ないが、今日はそっちに行ってくれるか?」
「分かりましたけど……どーして私が?」
「神柚くんからの指名なんだ。和太鼓に慣れてて、かつ仁科学園の生徒で……ってね?」
「なるほど……で、要件は?」
「いや、その……僕もよく知らないんだ。まあ、彼女に詳しく聞いてみるのが一番かもね。」
「……うーむ、不安だぁ。」
『不安』と言いつつも、いつもの呑気な表情を浮かべるヒビキ。
しかし、その表情を延々と見せ続ける訳にもいかないため、彼女はジャージ姿のまま荷物を抱えて柚鈴天神社へと向かうのであった。

それから十数分後、ヒビキの姿は柚鈴天神社内にある建物の一室にあった。
用意された座布団の上にちょこんと座るヒビキ、その体は誰が見ても分かるくらい強い緊張感に包まれていた。
理由はいくつかある。
「何故、私は柚鈴天神社の人に呼ばれたのか?」「これから何が始まるのか?」「神聖な場所だから静かにしてなくては」……だが、
一番の理由は『目の前に居る先客の女性』の存在感であった。
ヒビキの目の前に居る女性……その姿から察するに仁科学園高等部の制服を着ているのは分かる。
しかし、問題はその『容貌』にあった。
片方の眼(まなこ)を隠すほどに伸びた髪……パンツがチラリと見えているにも関わらず、
まるで問題が無いかのようにあぐらをかくその姿……背中には、まるで妖刀破軍を背負うかのように背負われたクラシックギター……
そして、何人も近づけさせないかのような雰囲気を醸し出して黙り続ける姿勢……それはまるで、
絵に描いたような『不良少女と呼ばれて』であった。
「えぇっと……。」
緊張しっぱなしの雰囲気に耐えきれず、持ち前の明るさで何とか目の前の女性に話しかけようとするヒビキ。
しかし、彼女が動こうとする度に女性の眼は、まるで威嚇するかのようにギョロリと動くため、結局ヒビキは何も出来ないまま、
最終的には20分ほど目の前の女性と時間を共にするのであった。

564 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/18(土) 22:02:10 ID:.QHLjfZI0
「いやはや……大変遅くなりました。」
突如部屋の扉が開き、二人のもとへと現われる『巫女服姿の女性』。
それに対しヒビキは姿勢を正し、もう一人の女性はヒビキの時と同様に眼を動かすのみであった。
「初めまして、私は仁科学園高等部3年の神柚鈴絵……この神柚神社では巫女として宮司である父のお手伝いをしたりしてますわ。」
自己紹介をする鈴絵。
その言葉を聞き、『ああ、この人が達磨さんの言ってた「神柚くん」さんかぁ……』と思いながら、ヒビキが問いかける。
「……あ、私は中等部1年の粟手ヒビキです!ところで、神柚さん……御用件は何なんでしょうか?
 和太鼓サークルの達磨さんに何も教えてもらってないもので……。」
「そうね……結論から言うと、粟手さん……あと、天月さん……あなたたちに手伝って欲しいことがあるのよ。」
そう言って、先程から黙り続ける女性 = 天月音菜の方を見る鈴絵。
しかし、音菜は黙り続けていた。

……と言うより、何らかの事情で黙らざるを得ない雰囲気と化していた。

「……。」
「……?」
「……。」
沈黙が続く空間。
そんな時、鈴絵は何かに気付いたのか人差し指で『1』の形を作ると、
まるで気を注入するかのように露わとなっている音菜の足の裏へと突き刺すのであった。
ズブリとめり込む鈴絵の指。
その瞬間、音菜の体には決壊したダムから溢れた水の如く痛みと痺れが走り、
それに耐えられなくなった彼女は紙面で書き記せないほどの絶叫をあげながら、畳から50cmほど上空へと飛び上がるのだった。
「……くぅううう……神柚さん!何するんですかっ?!」
「やっぱり足が痺れてたのね。あぐらって意外と足に負荷掛かるのよ。」
「あ……それじゃあ、待ってる難しい顔してたのも……。」
「……そうだよ、足が痺れて動けなかったからだよ。粟手……だっけ?お前さんが来たからあぐら止めようと思ったけど、
 足の痺れが極限まで達して……言っとくが、お前さんが私のパンツ見てたことにコッチは気付いてたからな。」
「……う。」
「でも、別に責めはしねぇよ……コッチが原因の事故なんだし。」
「本当にすみません。天月さんが虎さんマークのパンツはいてたことについては墓場まで持っていきます。」
「……前言撤回。粟手、絶対に許さねえっ!!」
「ぴぃいいいい?!」

565 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/18(土) 22:08:13 ID:.QHLjfZI0
「パンツぐらいで喧嘩しないの。私のパンツ見せてあげるから機嫌直して……ほ〜ら、水玉模様。」
そう言って、長いスカートを捲し上げる鈴絵。

その光景に対し、対応は様々であった。
「うわぁ?!何やってるんですか、神柚さん?!?!」
ツッコミを入れる音菜。
「えぇっと……お二人のパンツ見せてもらったので、私もお見せした方が良いですよね。私はサメの……。」
そう言って、ジャージのズボンを下ろそうとするヒビキ。
その様子に、期待と鼻息を膨らませながら彼女の股に注目する鈴絵。
「てめぇら……いい加減にしろっ!!!」
再びツッコミを入れる音菜……であった。

「……ところで、神柚さん。今度こそ私たちを呼んだ理由を教えてください。
 『パンツの見せ合いのため』とか言ったら、いくら先輩でも怒りますよ。」
「さすがに違うわよ。これよ……コレ。」
そう言って、どこからか古い巻物を取り出す鈴絵。
その巻物を広げると、そこには年月の経過により薄まったインクで記号やら直線やらが描かれた……
まるでスパイの暗号文のような物が記されていた。
「……なーんですか?」
頭に疑問符を浮かべるヒビキ。
一方の音菜は、何かに気付いたのか口を開く。
「これって……もしかして、和琴とかで使う楽譜か?」
彼女の言葉を聞き、うなずく鈴絵。
「そう……これは柚鈴天神社に伝わる『英雄の詩』という祭事に演奏される曲、
 それを初代宮司……私の曾々お爺様が楽譜として書き起こした物です。」
「へー。」
理解したのかしていないのか分からない表情のまま、とりあえず返事をするヒビキ。
「そして、曾お爺様は楽譜完成後、自分の息子……つまり、お爺様にこう伝えたそうです。
 『99年後の例大祭になったらこの曲を演奏しなさい。そうすれば、次の99年後まで仁科の地の静寂は守られるだろう』……と。」
「ふーん……99年目の『柚鈴天神社例大祭』、通称『竜神祭』でこれを演奏……うん?」
突然、何かに気付く音菜。
「もしかして、今回私と粟手を呼んだ理由って……?」
「ええ、この曲を99年目……つまり、今年の『龍神祭』で私と演奏して欲しいのです。」
「おおっ、すごい!」
「ちょっ……待てよ!私の専門はギターだし、いくら和楽器の楽譜は読めても和楽器の演奏は無理だぞ!!」
「……と言うと思いましたので、ハイ。」
そう言って、音菜とヒビキに数枚組の楽譜を渡す鈴絵。
そこにはギター用、そして和太鼓用にコンバートされた『英雄の詩』の楽譜が記載されていたのであった。

566 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/18(土) 22:14:41 ID:.QHLjfZI0
「随分と用意周到だこと。でも、これは……クラシックよりもエレキの方がやりやすそうだなぁ……うん?どうした、粟手??」
何かに気付き、ヒビキに声をかける音菜。
その目線の先では、ヒビキが楽譜を手にしながら三度緊張の表情を見せる光景が展開されていた。
「うぅっ……和太鼓始めて数ヶ月……初めての人前での演奏……神事で用いられる神聖な曲……胃が痛い……。」
「……ったく、こんなんで大丈夫かよ。」
「まぁ、ゆっくり練習していきましょう。『龍神祭』まではまだ時間あるし。」
「でも……正直言って、不安しかないです。」
「落ち着いて、ヒビキちゃん。不安になることなんて無いわ……もし、不安になったらお姉さんたちが相談に乗ってあげるから。」
「……まあな。乗りかかった船だ、先輩としてサポートしてやるよ。」
「神柚さん……天月さん……。」
「まったく……世話の焼ける後輩だよ。」
「私……絶対に和太鼓パート成功させます!お二人の水玉パンツと虎さんパンツに誓って!!」
「……余計なひと言さえなければ良い娘なんだろうな、コイツ。」
「ところで……ヒビキちゃんのパンツってどうなの?さっき見れなかったし。」
「ええ、ですからサメの……。」
「だ・か・らっ!堂々とストリップを始めるんじゃねぇっ!!」

こうして、不思議な組み合わせの女性バンドは結成され、『龍神祭』へ向けてプロジェクトが進みだすのだった。
つづく……?
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以上です、お目汚し失礼しました。
あと、既存キャラを改変してしまった感があるのですが・・・大丈夫でしょうか?

567 ◆n2NZhSPBXU:2014/10/20(月) 22:02:41 ID:6upeOVjw0
今更ですが、>>565の訂正

× それを初代宮司……私の曾々お爺様が楽譜として書き起こした物です。

○ それを初代宮司……私の曾お爺様が楽譜として書き起こした物です。

568名無しさん@避難中:2014/10/21(火) 13:24:51 ID:4CCnOGyg0
天月さんは虎。
きっとホワイトタイガー

569名無しさん@避難中:2014/10/22(水) 01:30:27 ID:Hpi9Q2.g0
亜子「呼ばれた気がした」

570名無しさん@避難中:2014/10/22(水) 23:48:21 ID:CHlk60hs0
ならば、龍は…

571名無しさん@避難中:2014/10/25(土) 17:28:50 ID:0r7ExZss0
虎にライオン、鷲に烏に犬。

572名無しさん@避難中:2014/10/26(日) 07:12:17 ID:WXgKTkTY0
桃はどこじゃ

573ハロウィンの三人[1]:2014/10/31(金) 22:47:55 ID:qWKuS7Zs0

サイトウの場合;

 オレンジ色のケープを翻して、ネコ耳をつけた小学生くらいの女の子が走って行く。
 今日はハロウィンだ。いつの間にか、クリスマスやバレンタインと同じくらいメジャーなイベントになったと思う。
 本来は仮装するものだけど、一般の人はとんがり帽子をかぶるくらいがせいぜいだろう。コスプレイヤーじゃあるまいし。

 子供は無邪気でいいなと思う。Trick or Treatの、TreatばかりでTrickが無い気がするけど、はた迷惑なイタズラは
勘弁だから良しとする。

 その一方で、誰かが派手なイタズラをかましてくれないかな、とも思う。ふだんエラそうにしている連中に
一泡吹かせるような、痛快なやつを。

 それを自分がするわけじゃない。誰かが大きなことをするのを期待して、それを見ている側にいる。

 大きなイタズラって、なんだろう。

 学校のプールに金魚を大量に投入する? もうプールの授業はないから、これはダメだ。
 校庭にナスカの地上絵ばりの落書きを……って、どこかで見たようなネタだな。
 チョークを全部クレヨンに替えとくのは? 後始末が大変そうだ。見た目でバレそうだし。

 いろいろネタを考えても、結局実行はしないだろうなと思う。

 世の中がもっと面白くなればいいと思う。ライトノベルではある日突然主人公が超能力に目覚める、というのが
定番のひとつだけど、いっそのこと世界中の人間ぜんぶが超能力者になっちゃったら……。
 超能力者どうしのバトルも、クラスメイトとのケンカ程度の当たり前具合なんだろうか。それはカオスなのか、
はたまたギャグなのか。

 よく分からないけど、もしそうなったら僕はどんな能力を持つんだろう?

574ハロウィンの三人[2]:2014/10/31(金) 22:51:15 ID:qWKuS7Zs0

ナギサワの場合;

「トリック・オア・トリート!」
「あ、かわいい。それ、どうしたの?」

 ニシトちゃんが右手にはめているカボチャ頭のパペットが、両手を上げたり下げたりしている。
「手芸部でもらったの」
「へぇ。こんなのくれるんだ」

 カボチャ頭はユーモラスな顔で、パジャマのような服を着ている。

「ナギちゃんもお菓子くれなきゃイタズラするぞ〜」
声色を変えて、ニシトちゃんが小芝居を打つ。
「えー。なにか持ってたかな?」

 大抵のコはアメかチョコかクッキーかをカバンに常備しているけれど、わたしは入れていないことが多い。
グループでいるとなにかと“おすそ分け”があるので、もらってばかりでは申しわけないから持っておくようにしようと
思うのだけど、習慣がないと忘れがちだ。ニシトちゃんはそういうのをまったく気にせず、逆にわたしが引け目に
思わないようフォローしてくれる。例えば、こんなふうに。

「ワシにシュークリームを食べさせたまえぇぇ。近くのあのお店でなければ呪いをかけるぅぅ」
ヘンな声色のまま、ニシトちゃん(のパペット)が言う。

「わかったよ。帰りに寄ってこ」
言いながら、カボチャ頭をぽんぽんと叩いた。
 ニシトちゃんは、作戦どおり、という笑みを浮かべた。

575ハロウィンの三人[3]:2014/10/31(金) 22:55:03 ID:qWKuS7Zs0

タカハシの場合;

 原付に跨って信号待ちをしていると、通りに面した不動産屋から、魔女の格好をしたガキどもが大勢出てきて
横断歩道を渡っていった。

――あれ、そういやここは……。

 小学生の頃、塾に通わされていた。自分の意志で行っていたわけじゃない。
 個人でやっている小さな塾で、私立のお受験とは無縁のところだ。1階が不動産屋になっている雑居ビルの2階にあって、
同じフロアに雀荘とスナックが入っていた。今にして思えば、とても子供の教育環境としてふさわしくない場所だったが、
当時はそこがどういうところかも分かっていなかったので、なんとも思わなかった。

 ごくたまに大人たちとすれ違ったが、なんとなく近寄りがたい雰囲気があったのはそのせいだったと、気づいたのは
小学校卒業と同時に塾を辞めた後だった。

 そのビルが、信号待ちをしているオレの左側にある。普段は原付で通り過ぎるだけなので、すっかりそのことを忘れていた。
 1階の不動産屋は別の会社になっていた。テレビでCMもやっている小奇麗なやつだ。雑居ビルの上を見上げると、2階は
旅行会社になっていた。オレの通っていた塾も雀荘もスナックも、無くなってしまったらしい。

――諸行無常、ってやつか。

 店も人も、いつまでも良い時が続くわけじゃない。落ちぶれて去っていくのは必ずいる。
 今日だけは、どんなにヘンテコな格好をしてても怪しまれなさそうだ。コンビニ強盗をやるならハロウィンに限る。
ストッキングをかぶるよりもオオカミ男のフリのほうがバレないだろう。

576名無しさん@避難中:2014/10/31(金) 23:04:40 ID:qWKuS7Zs0
↑以上で
時事小ネタです。学園あんまし関係なくなってるけど・・・

>わんこ ◆TC02kfS2Q2 さま
遅ればせながら、コラボありがとうございます!
めっちゃニヤニヤしながら読みましたw 良いかたちでお返しできず、すみません。


◆46YdzwwxxU さま もありがとうございます! 
卓上同好会は当初、サ(ry を所属させようかと思っていました。しかしキャラ濃いなあw

クロス不得意なので反応乏しいですが、使って頂けた作品はどれも嬉しく読ませて頂いています。
ありがとうございました

577名無しさん@避難中:2014/11/08(土) 22:58:58 ID:fKMkeNa.0
ワン・ダブル・サードのシリーズ大好きだ!
もっと、いじくりこんにゃくしていいですか?

578名無しさん@避難中:2014/11/14(金) 20:15:13 ID:MpXo4X9A0
>>551>>552
天江ルナルナと水玉パンツ先輩です。
イキます。

579わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/11/14(金) 20:16:00 ID:MpXo4X9A0

 油絵の筆を手に取ることと、王笏を掲げることはよく似ている。

 覇権を収め領土を好みの色に塗りたくる。思うがままに、無垢なる大地を凌辱する。土とキャンバス、ただそれだけの違いだ。
 そんな理屈を吹き飛ばす秋の嵐が五穀豊穣なる緑の波を立てて、白紙一杯に埋め尽くす快感を教えてくれる。
 神柚鈴絵・美術部部長。天高く蒼い空のもと、校庭で入魂の一作を描いていた。
 さっきまでの雨天も鳴りを潜めて灰色の空の存在さえも忘れてしまう。

 油の匂いは贅沢に、一筆一筆絵の具を丁寧にキャンバスに乗せながら、校庭が見せる四季の片隅を切り取るだけ。
 それだけで、誰もが目を引く一瞬をゼロから作り上げることが出来る。

 本調子の波がやって来る。逃がしまいと尻尾を掴む。
 四角四面のキャンバスに一つの世界が創成されるに瞬間に立ち会う。
 禁断の麻薬にも似た快感が突き抜ける。

 「九分九厘完成ね」

 虹が架かる。
 空の渚と渚を結ぶアーチ橋。
 鈴絵は自慢気に七色の曲線を筆で描いた。

 最後の一筆を突き立てた刹那、閃光が鈴絵の前に稲光り、世界が二つに引き裂かれた。モーゼが理性を失ったというのか。
 轟音と共に怒り狂うガイア。咎を受ける筋合いはなく、呆然と筆を抱えたままの鈴絵が声を蘇らせるとき、
凛とした目付きの少女が竹刀を中段の構えで大地を踏み締めている光景があった。

 「うぬぬぬ、おのれパンツ泥棒!」

 目に炎浮かべ、剣先を鈴絵に突き付けてじりりと尻足で間合いを取る少女。着こなしている制服から、中等部と見える。
 鈴絵は対話での解決は不可能、実力行使は不可避と見て、右手の筆を短剣に見立てて形だけ構えた。

 「誰がパンツ泥棒ですって」
 「足音を追い掛けてたんです。あなたのような大和撫子が悪事を働くとは、高等部である先輩とはいえ許しがたいです!」

 少女の竹刀が降り上がる。
 上段の構え。
 そのまま正面、と見せかけて右小手……とはいかず、竹刀が地面に落ちる。
 竹の乾いた音。
 少女の慟哭、そして苦悶。

580わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/11/14(金) 20:16:30 ID:MpXo4X9A0
 「筆に、筆に負けるなんて……」

 一瞬の隙を突いて、筆を矢のごとく突き投げた鈴絵の完勝だった。

 「一体なにがあったと言うんですか?」
 「い、いや。パンツ泥棒が」
 「わたしがパンツ泥棒とでも?」


      #


 「これより、格闘茶道部『奥叛通』練習試合を執り行います」

 体育館の片隅に設けられた茶室。大海原に浮かぶ方舟のよう。
 格闘茶道部部長・緒地憑(おちつき)イッサの宣言により、茶室がバトルフィールドへと変わり果てようとしていた。
雨上がりの風がひんやりと和室を駆け巡り、抹茶も深い味わいで愉しめるだろう。四季折々の景色と天気が変わるなら、
それに応じたたしなみ方があるのが茶道だ。

 清楚を絵にして飛び出したような部長の緒地憑は、静かに茶釜を柄杓でかき回し、ほんのりと茶室に湯気を上げる。
 一動作一動作隙のない振る舞いに、緊張感さえ漂い、お茶を楽しむ空気さえも感じることは出来なかった。
 無論、ここは、ただの茶道部ではなく格闘茶道部だからだと返せば、誰だって理解するだろう。
 緒地憑は湯を充分に温まった萩焼の茶碗に注ぎ、茶筅でリズムを取るように抹茶を立て始めた。
 澄んでいた湯も抹茶は茶筅が踊るほどに泡立ち、舌触り上品な抹茶へと生まれ変わる。

 「どうぞ」

 立て終わった抹茶を勧めるため、茶碗を正面で、そして正座で待つ天江ルナに渡した。
 耳元で悪魔が頬擦りしてくる。一頻り茶碗を回しているルナは暫く黙っていたが、作法では茶碗を褒めなければならない。
新入生のルナは緊張、動揺、そして理不尽ゆえに言葉を発することを遠退かせていた。

 ルナは剣道の達人だった。
 村の大会でも名を上げた実力者だ。
 自らの腕を鍛え上げるため、この学園の門を潜り、剣道部の門を叩いた……はずだった。

581わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/11/14(金) 20:16:51 ID:MpXo4X9A0

 「格闘茶道部に入ってもらいます」

 井の中の蛙ゆえの誤算。自分よりも腕のたつ者がいた。しかし、理不尽だ。
 剣道で慣れているはずの正座がやけに他人行儀に痺れる。
 足の指先の感覚が消え失せ、作り物にすり替えられた気分だ。
 スカートからちらりと見える健康的な太ももさえもほんのりと焦りの香りが漂い、涼しげな雨上がりの空気は、ルナの脚には厳しすぎる。

 「見事な……色合いで……」
 「青白縞模様!」

 矢のような声で緒地憑が叫ぶ。

 「ご、御名答」

 ちーん。

 脇の時計のスイッチを叩く。

 「三分二十五秒六一。膝上三寸三厘において新記録ね。でも、天江さんならもっと上を目指せるわ。次は膝上四寸にチャレンジね」

 自分の記録を示す時計を緒地憑は誇らしげに眺め、ルナはスカートの裾を両手で掴む。
 ここに奥叛通の一戦を終えた二人は一息をついた。
 足を痺れさせたルナの両足を擽る奥緒地は、バッグから取り出して得意気に茶室に並べられたパンツ……ショーツを披露した。
 一見、容疑者から押収した物品のようにも見えるが、これはれっきとした試合道具だ。

 「奥叛通(おぱんつ)の意味するところは、女性らしさの追及だわ。何事にも動じない古来からの大和魂の継承かしら」
 「お茶を頂く間、正座した脚からパンツを覗く……ことがですか。理解できません」
 「それは天江さんにまだまだ隙があるからだわ。剣道の読みと奥叛通は通じるものを感じない?」
 「全く感じません」
 「しかし、天江さんは才能あるわ。たどたどしく茶器を褒める演技で気を引かせて、太ももから視線を反らす。策士だわ。
  ただ、薄暗い箇所でも可視性の高い明るめの縞パンを選択したのは、まだまだだったわね」

 パンツの話に変わると饒舌さを極め、緒地憑はくまさんパンツを手に話を続けた。

 「パンツ言葉をご存知かしら。縞パンは『恥じらい』、黒のレースは『高潔』。そして、水玉パンツは……あれ、ない!水玉パンツが!」

 事件勃発。
 水玉パンツ窃盗事件。

582わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/11/14(金) 20:17:08 ID:MpXo4X9A0

 「どうしましょう」
 「どうしましょうって」
 「確か更衣室に居るときには見たはずなのよね。そしてバッグにパンツたちを取り込んで一旦出た後、
  練習試合の準備で更衣室に戻ったの。それ以降目にしていないってことは」

 不穏な空気が流れる。ふすまを開ければ虹が見えた。さわやか爽快の気分が吹っ飛んだ。

 「わかるわね。パンツ泥棒が更衣室に忍び込んだってことね。キラッ」

 チェキのポーズを構えた緒地憑にルナは赤面した後に憤怒の表情で立ち上がった。痺れた足はルナを豪快に転倒させた。


     #


 「それで、パンツ泥棒はどこに逃げたのかしら」
 「う……。パ、パンツ泥棒!盗人猛々しいとは」
 「残念ながらその時間、わたしはここにいたわ。物理的にパンツを奪い去ることは不可能ね」

 地面に散らばったキャンバスの切れ端を拾い上げる屈辱は、ほんの十分前からすれば予想だにしなかったことで、
千年の恋が破れたぐらいに胸を引き裂かれる思いだった。それに加えてパンツ泥棒との濡れ衣だ。

 無実を証明するために鈴絵は切れ端を天江に見せた。

 「ご覧なさい。切れ端から虹が見えるでしょ。この雨上がりを切り取りたくて、キャンバスを掲げたのよ」

 確かにこの時間は空に虹が出ていた。
 タイムマシンが発明されたなら、もう一度その時間にまで遡り、同じ天体ショウを観賞したくなるほどの眺めるだったらしい。

 「虹ぐらいいつでも描けるはずだ!」
 「そうかしら。絵は気持ちで描くものよ。虹を見ずして虹なんて描けるかしらね?」

 鈴絵の台詞が終わるか終わらないと同時に、ぱしんと竹刀を水平に振って、キャンバスの切れ端をはたき上げた天江ルナ。
剣の達人とは言え、不安定な年頃の娘の行動に鈴絵は軽く口角を震わせた。

 「ええ。素晴らしい刀裁きですわね。戦国の世に生を受けなかったことが全ての不運ですのね」
 「ルナ!それまで!パンツ泥棒はいなかった!」
 「はっ」

583わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/11/14(金) 20:17:54 ID:MpXo4X9A0

 竹刀を構えた少女がもう一人。
 清楚を絵にしたような、季節外れの桜が咲いた。
 竹刀の先には水玉パンツ、虹の欠片を引っ掻けて。

 「部長……。あったんですか?」
 「ごめんなさいね。準備していた水玉パンツがなくなった。何処にいったって必死に探した。
  だけど、額の上のメガネを探すお父さんと同じわけだったのね」
 「すなわち?」
 「だから、『額の上のメガネを探すお父さん』」

 緒地憑部長はスカートの裾を指先で摘んでルナに答えを促した。

 「そうだ。パンツ言葉の続きです。これを心に止めておくだけで、『奥叛通』を深く味わうことができます。
  縞パンは『恥じらい』、黒のレースは『高潔』。そして、水玉パンツは……」
 
 鈴絵の眉がかすかに動く。剣士が風を読み取るように。
 緒地憑は人差し指をくちびるに当てて、恋人を焦らす味付けでパンツ言葉を繋いだ。

 「水玉パンツは『繊細』」

 ルナは口をつぐんだまま鈴絵の描いていた絵の切れ端を拾った。

 「はっ。繊細?なんですね」
 「え?なんですって?」

 緒地憑の言葉に動揺し、そして軽く笑みを見せていたのは鈴絵だった。
 曲線が美しい七色の虹がルナの持つキャンバスの切れ端に光っていた。


   おしまい。
 
「うぐぐぐ」
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/877/amae01.jpg

584 ◆n2NZhSPBXU:2014/11/16(日) 09:05:03 ID:7JohDt460
>>578-583
投下乙です。
・・・今更ですが、『格闘茶道部』ってこういう部活だったんですね。

ライト「正座時のわずかな隙間からパンツの柄を当てる『奥叛通』……実に興味深い。」
ル ナ「……お父さん、そのセリフ回しだと『園崎家』の人みたいになってるけど……。」  サイクロン! >[]
ライト「俺には見えている……この『奥叛通』に勝つ姿が!!」
ル ナ「……もうツッコむの止めた方が良い?」  トッキューイチゴー>皿]

それと、以前のトリスに続いて、ルナのイラスト化もサンクスです。

585名無しさん@避難中:2014/11/24(月) 20:30:22 ID:cg/z.yDQ0
ちょっとずつ中等部が動き出した。
初等部って、誰か…

586わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/12/24(水) 19:30:26 ID:eSHkUWt20

 「迫先輩から演劇を奪い去ったらどうなりますかっ」

 どうする。迫文彦・演劇部部長をつとめる高等部三年生。
 考えたこともないシチュエーションだ。だから咄嗟に答えは出ない。
 目の前は真っ暗だ。

 「黒咲、前が見えない」

 演劇部の部長だからこそ、そんなイマジネーションを働かさせるスキルは必要じゃないかと後悔しても、
あまりにも迫にとってはありえない世界。マフラーを巻いて、学園前の停留所にてバスの到着を待ち続ける放課後。
 黒咲あかねは迫の背後に廻って、両手で迫の視界を遮り続けていた。

 ひんやりとするオンナノコの手のひらが、迫のまぶたを塞ぎ続け、ほのかにオトコノコの頬を赤くする。
 メガネを愛用している迫が、ふとレンズを拭こうとメガネを外した瞬間にあかねに羽交い締めされた上、
あろうことにも視界を遮られた。小娘ごときに身柄をほしいままにされるとはこのことか。
 メガネが役割を失って暇をもて余していた。

 「どうなると思う?黒咲わかるか?」
 「わかりませんっ」

 真っ暗だからあかねの声がよく聞こえる。五感のうちの一つの自由が奪われただけで、鼓膜のスキルが加速する。
あかねの表情を伺えないのは悔しい。冷静さを保ちつつ、先輩の面目をも保つ。冬の夕暮れの無理ゲーだ。クリアしても得はない。
 意図もせずに迫はあかねを十分にじらした上に端的に答えをまとめた。

 「それでもおれは演劇を追い続けるな」

 あかねの表情が変わった。勿論、迫は知る由もない。

 「止められてもですか」
 「ああ。知ってるだろ。おれの性格を」
 「どんなに尊敬する人物から咎められてもですか?」
 「ああ」
 「わたしのような若輩者が拝み倒してもですか」
 
 自他共に認める演劇バカ。
 だからこそ、演劇部の部長をつとめているんだと、迫は自負していた。
 そう言えば、演技指導に力を入れるあまりに声が大きくなっていた。
 そう言えば、脚本にこだわるあまりに議論を重ねに重ね、先輩と対立してしまった。

 それ故、公演を無事に終えた喜びは文字にすら書き表すことも困難なぐらい。贅沢過ぎる一瞬の為。

 「一秒たりとも部のこと、演劇のこと、部のことを忘れたことないぞ」
 「部のことが恋人みたいですねっ」
 「……」
 「わたしのこともですかっ」

587わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/12/24(水) 19:30:50 ID:eSHkUWt20
 あかねの白い息が迫の後頭部に吹きかかった。迫よりも背が高いあかねだから。
 先輩の襟首がマフラーで見えないことが、どうしようもできないもどかしさであかねは眉を吊り上げる。
迫の返事が続かないこともあかねの心中を濁す原因の一つでもあった。

 「今、わたし。台本書いてるんですっ。まだ、部員の誰にも見せてない書き下ろしですっ」
 「おれにも見せてくれ」
 「まだですっ。だからこうして目隠ししてますっ」
 「どんな話かぐらいは教えてくれ」

 初めてあかねは笑みを見せた。ただ、迫には見えないが。
 先輩の肌は優しい。無駄に潤いがある。いつまでも迫の顔を塞いでいたいとう邪心があかねを揺さぶる。
 こんなにすべすべとした体で、どうしてあんなに厳しい鬼のような言葉を投げつけられるのか。
 演劇に魂を売りつくしてしまった故か。

 「笑わないで下さいっ」

 くすりとも頬を緩ませることのない迫に、あかねがぽつんと呟いて中指に力を入れていた。

 あかねの書いたストーリーは単純だった。
 高校生同士のごく普通の恋愛。
 ありふれて、風の流れに吹き飛ばされそうなぐらい。恥ずかしくも、初々しくもある、男女のすれ違い。
 恋愛なんかあまたの数存在するだろうに、思春期のころの恋愛がまるで一生かけて稼ぐ金でも買うことが出来ない値が付くような。
 だからこそ、誰もがよってたかって物語にしようとするのだろう。

 「でも、途中で書けなくなりましたっ。どうしてでしょう」

 迫を包んだ黒の世界が灰色に染まる。
 ぱぁっと、あかねが手を離したからだ。途端に迫の顔が冷される。全ては冬の空気のせい。迫が振り返りメガネをかけると、
既にあかねの表情から笑みが消えていた。あかねの演技について迫が一言二言鞭打っているときに見せる顔だった。

 「失恋がどういうものか分からないからですっ」

 誰かを好きになっても、傷付くことに怯えていた。
 遠くから花を眺めていることで、自分自身を守っていた。
 誰かのコイバナを傍で聞いていて、「わー」「きゃー」騒ぐだけの存在でいることが楽しかった。
 失うことの価値すら知らずに、桜の木々をやり過ごし、海の恩恵も得ず、一雨ごとに冷たくなる通学路を通り抜け、
そして雨後の夕焼けの美しい季節を無駄にしていた。

 「主人公の男子が失恋することから物語は始まります。でも、書き出しが書けないんですっ」
 「なにも書けてないんじゃないのか」

 演劇部の端くれだと自負しているだけに、そこは強く否定した。

588わんこ ◆TC02kfS2Q2:2014/12/24(水) 19:31:09 ID:eSHkUWt20
 「でも、大丈夫です。迫先輩の言葉で救われましたっ」

 迫の乗るバスが停留所に到着した。ブザーの音で扉が開き家路へと誘う。
 お乗り間違えがございませんように。
 だが、迫には今やバスなど家路などどうでもよくなっていた。丁寧に、そしてそれを悟られないようにあかねの指先を観察する。

 あれはあかねがホンキで話している匂いだ。
 くんかくんかと嗅いでみてもいい。
 きっと、ウソをつく香りはしないはず。

 「恋人から振られても、振られても、その子のことはずっと忘れない。迫先輩って、男の子ですっ」
 「待て。そんなこと言ってないし、未練がましいなどもってのほかだ」
 「恋人にしたいぐらい演劇、演劇部のことが好きなんですよねっ。迫先輩のお陰で、いい台本が書けそうですっ」

 紅潮したあかねはぐっと拳を作り、ぐるりと踵を返した。長い黒髪がふわりと木枯らしの歩道に舞った。
 走り去るバスを追いかけるように、あかねは小走りする。
 すたすたと黒タイツに包まれた脚を学園へと走らせているあかねを呼ぶ声が響いた。

 迫だ。
 演劇部部長・迫文彦。
 人呼んで『演劇バカ』。

 「今から書くつもりだろ」

 その一言で救われる。
 言葉と言う文字は、武器にもなり、薬草にもなる。おいそれ使うわけにはいかないし、軽んじてはいけない。
 言葉の偉大な力を良く知るあかねは、頷くことによって返事に代えた。

 「おれも力になる」
 「わたしが書きたいんですっ」
 「演劇部でやるんだろ。おれの目を信じろ。悪いようにはしない」
 「そうするつもりですけど、お断りしますっ」

 乗るはずだったバスをやり過ごし、迫はマフラーを巻き直し大きく息を吐いた。
 恋人がどんどん遠ざかる。恋人が他人に戻るなんて、どんなにあがいても忘れられるわけないし。

 「とことん見てやるから、黒咲は書け」

 振られても、振られても、恋人のことを忘れられない迫のことだ。
 頷くことによって返事に代えたあかねは、迫の恋人との間を取り持つことにした。


 おしまい。


タロット企画。

【星】黒咲あかね
http://download4.getuploader.com/g/sousaku_2/889/akane_star.jpg
【法王】迫文彦
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/890/sako_THE+HIEROPHANT.jpg

589名無しさん@避難中:2014/12/29(月) 22:28:29 ID:BumTIIZo0
先輩!来年も閑花ちゃんの独壇場ですよ!

って、せんぱーい

590 ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:11:48 ID:HRkRpzMc0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ テンカイ テキ ニ
   {  /   ギロン ヲ ヨンダラ スミマセン゙・・・
   ヽj

『記憶の中の茶道部』第三話、ここからは若干独立した展開を考えているのですが、
もし皆さんが考えている展開を邪魔するようなことになってしまったら大変申し訳ないです。

591記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:14:18 ID:HRkRpzMc0
その『物語』は、天江ルナの耳に突然飛び込んだ『強烈なバイクのエンジン音』を開始のファンファーレとして始まった。
「?!……何、今のお……?!」
驚き、音の方向へ振り向くルナ……であったが、彼女は今自分が置かれている状況に気付き、再び驚いた。

見知らぬ空……見知らぬ大地……そして、そこには自分ひとり……。

自分は今まで……何をしていた?
……どうしても思い出せない……でも……少なくとも『ここ』には居なかった……。

ルナの頭をグルグルと駆け廻る疑問符。
だが、そんな彼女を放置するかのように『物語』は進行を始めていた。

「仁科学園ん〜っ!格闘茶道部ぅ〜うっ!!」

またしても彼女の耳に割り込む音……その声はどこかで聞いた覚えのある声ではあったが、混乱状態の彼女には判別出来なかった。
「今度はな……何アレ……!危ないっ!!」
とっさに横へ跳ぶルナ。
その直後、『白い大きな塊』がまるで,意志を持って彼女を叩き潰そうとしている流星かのように何個も飛来するのであった。

「ほ……本当に……な……何なの……よ……うん?」
ギリギリで全てを避け、息も絶え絶えになりながら『白い大きな塊』を見るルナ。

彼女は気付いた。
その塊は『文字』であること……そして、その塊群はある『言葉』を示していたことを……。

    / ̄フ           久    「 ̄ゝ 「 |    「 ̄ゝ 「 ̄ゝノス   「 二 二 二 二 7
  /  /  [ ̄ ̄ ̄フ   ム フ  ヽ/ | |   「 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄フ   | |.   「 |   ||
 ム  く     ̄ ̄ ̄      」 L  「 ̄ゝ| |   ヽ_> ̄ ̄T  /    .| | |三 .三ヨ | |
  / /             [    ] ヽ/ / |     [二 ̄フ  ̄    | |  .[ 口 ]  | |
  / / [ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄フ    . 7 / [二二二  フ     ==' 丶==     | | .ム| |ヽゝ.| |
. / /   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      ../ /       ム/      く_/        L二 二 二 二」
.  ̄                 ̄
         格     闘     茶     道     部     編

                〜  記 憶 の 中 の 茶 道 部  〜

592記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:20:19 ID:HRkRpzMc0
「……これって……さっき聞こえた声と同じ……。」
呟くルナ。
その直後、彼女の耳に三度音が飛び込んできた……と言うよりは、彼女の脳内に直接アンプを取り付けられたかのように、
先程の声の主による,歌とも御経とも……言うなれば『音楽』と呼べるのかも不明なレベルの音が彼女を包み込んでいた。
「何……これ……。」
耳を押さえ、その場を逃げるように走り出すルナ。
その直後、彼女が駆け出したのが合図かのように爆炎が発生、その火柱は彼女を追いかけ回すかのようにジリジリと、
そして高熱と爆裂音を発しながら移動するのだった。
「何なのよ……何なのよ!」
声を荒らげる彼女。
だが、1〜2分すると彼女の脳内で強制再生されていた音は弱まり、爆炎もピタリと止まるのであった。
「……え?」
戸惑うルナ。

……だが、それは『終わり』ではなく『始まり』の合図であった。

『仁科学園中等部1年:天江ルナは格闘茶道部副部長である!』
突然聞こえてくる、聞き覚えがある声……しかし、ルナはその声の主の正体を思い出せずにいた。
『剣道部に入部しようとしたところを、格闘茶道部部長である御地憑イッサの魅力に取り憑かれ、
 彼女の物として格闘茶道部に入部したのだ!!』
「……。」
ただただ聞くしかなかったルナであったが、このナレーション風の言葉を聞いて、彼女はようやく声の主の正体を思い出す。
「部長……いや、御地憑イッサ!アンタ、一体何のつもりなんだ?!」
今までの仕打ちに怒りを覚え、声を荒らげながら空へ吠えるルナ。
「それに……何が『魅力に取り憑かれ』だ!嘘ついて格闘茶道部に……てか、
 茶道部というなの変態サークルに無理やり入れただけじゃないか!!」
『あら、そうでしたっけ?』
ナレーションのはずが、ルナの声に反応して答える天の声……いや、御地憑イッサ。
「この爆破と隕石攻撃は何なんだ!あと、不思議ソングまがいの騒音!!
 そんな卑怯な攻撃するぐらいなら、正々堂々勝負しろっ!!」

「……じゃあ、その前に私が相手してあげる!」
突然参戦する謎の声。
驚いたルナが声の方向を見るとそこには誰も居ない……ではなく、
気付いてもらおうとピョンピョコ跳ねる格闘茶道部員:粟手トリスの姿があった。
「……え?粟手さん??」
「うん!確かに、私は粟手トリスだよ!!でもね……『御地憑イッサでもありますの。』」
突然声色の変わるトリス。
その瞬間、ルナの目に映っていたはずのトリスは、まるで混線したホログラフィのように瞬間的ながらイッサの姿を映し、
そしてその手にはいつの間にか竹刀が握られていたのだった。
「何……これ……。」

593記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:25:21 ID:HRkRpzMc0
「ルナちゃあん、お姉ちゃんだけじゃあなかとよ。」
事態を飲み込めない状態にいるルナの肩へ、軽く手を置く謎の声の主……それは、彼女の親友であり、
またトリスの妹でもある粟手ヒビキであった……いや、正確に言うならば、彼女の姿もイッサの姿が時々混在する形で存在していた。
「何……何……なに?!」
「ルナちゃん……『あなたも私の物になりなさい』……格闘茶道部の仲間なんだから……。」
「私もお姉ちゃんを手伝うとね……『そうすれば、もう何も悩む必要なんて無い』……。」
『さあ、素直になって……そして、私の物になりなさい。』
「いや……いや……。」
極限状態に陥り、尻もちをついてその場に倒れ込むルナ。
だが、そんな彼女に構うこと無く、ふたりの少女たちはルナの体を『かごめかごめ』の要領で取り囲む。
ふたりで展開される『かごめかごめ』。
だが、その人数はいつの間にかひとり増え、またひとり増え……気が付いた時には、
『御地憑イッサの物』となった仁科学園の生徒で溢れかえる恐怖の塊と化していた。
『さあ……私の物になるのよ!』
空間全体に響き渡るイッサの声。
その声が号令となり、ルナを拘束するかのように動きながら取り囲んでいた生徒たちは移動を停止……そして、
彼女から全てを奪い去ろうとするかのようにルナへと一斉に飛び掛かるのであった。

目の前の光景が一瞬にして暗黒と化するルナ。

私という存在が消えようとしている……。

そんな気持ちがルナの心に芽生えたその時だった。
『あきらめるなぁああああっ!』
暗黒空間のどこかから聞こえてくる声……この声……聞き覚えがある……。
最後の力を振り絞り、目を開くルナ。

その目線の先に居たのは……自分と同じ仁科学園の……男子生徒……?

「待って!」
大声をあげるルナ。
その瞬間、彼女の体は暗黒空間と化していた夢の世界から解き放たれ、現実世界に存在する自室のベッドの上へと転移していた。
「……あれは……夢?」
今いる現状を頭の中で確認しつつ、叫びながら起きてしまったために鼓動が早まった心臓を落ち着かせようと深呼吸をするルナ。
そして、数往復ほど肺内の空気を交換させると、彼女は少し離れた場所に置いた目覚ましを手に取る。
「……6時45分……まあ、いいか。」
そう言って、彼女はベッドから降りると、居間へと向かうのであった。

594記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:30:19 ID:HRkRpzMc0
あの変な夢から数時間後……天江ルナは仁科学園中等部の校舎屋上にて、冬の透き通った空を見ていた。
ちょうど昼休みに入ったので、彼女は太陽に近い屋上で昼食を済ませると同時に『あの夢』について整理してみようと考えていた。
「あれは……夢……なのかな?」
自問自答する。

確かに、あんなカオスな世界観は夢以外に何物でも無い。
だが……『カオスな世界観』とは評したものの、妙なリアル感も存在していたのは確かであった。
そして、暗闇の中で聞こえた声……さらには薄らと見えた『男子学生』の存在……。

「自分という存在が消える……自分が自分で無くなる……。」
ポツリと呟くルナ。
そして、そのまま彼女は黙ってしまった……のだが、数秒して彼女の心の中にとある欲求が生まれる。
「……音楽聞こう。」
そう言って、弁当箱を入れていた手さげ袋の内ポケットをガサゴソと探すルナ。
そして、何かを掴んで持ち上げると、彼女の手には密閉型ビニール袋に入ったMP3プレイヤーが握られていた。
本来なら校則違反の代物であるが、ルナは妙な寂しさに襲われると、
父から誕生日プレゼントにもらったMP3プレイヤーで時々心を癒していたのだった。
「今日は……これだな。」
そう言って、MP3プレイヤーに登録した曲のうちのひとつを再生するルナ。
その直後、彼女の耳には軽快なエレキギターによるイントロが再生され、曲が彼女の体を包み込む。
「……良い……いつ聞いても良い……。」
しみじみするルナ。
「ギターも良い……歌詞も良い……サックスの音色も……サックス?」
突然、顔色が変わるルナ。

顔色が変わるのも無理は無かった。
何故なら、この曲は彼女が100回近く再生しているお気に入り曲……だからこそ、どんな曲であるかも、何で演奏されているかも知っている。
しかし、今自分の耳には今まで聞いたことの無いサックスの音色……まさか、101回目以降はボーナスで……何て聞いたことが無い。

「え?え?え?」
慌ててMP3プレイヤーのイヤフォンを外すルナ。

本来なら、もう彼女の耳に音楽は入ってこないはずである。
……だが、彼女の耳には『サックスの音のみ』が再生され続けていた。

「何……また夢なの……いや……いや……いやぁああああっ!!!」

595記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:35:04 ID:HRkRpzMc0
「?!」
学園内に響き渡るルナの悲鳴。
その直後、サックスの音は止み、ひとりの女性が彼女のもとへと駆けつける。
「どうした?」
女性の声にハッとし、女性を見るルナ。

……その女性の手には、一台のサックスが握られていた。

「……。」
「……?」
「……すみません、急に取り乱して……って、あれ?高等部の……神柚さん!」
「え……あ〜前にあなた、私をパンツ泥棒と勘違いした人ね。名前は……あ……あ……アルテミスちゃん?」
「ルナです、天江ルナです。」
「あら、ごめんなさい。」
「ところで……神柚さんって、確か美術部ですよね?……なのに、何故にサックスの練習を?」
そう言って、神柚鈴絵の手に握られたサックスを指差すルナ。
「これ?ちょっとね……今年の柚鈴天神社例大祭で神事の曲を演奏することになってね……その練習。」
「例大祭……あ〜確か、ヒビキさんも言ってたなぁ。『今度、「龍神祭」で和太鼓を高等部の先輩方と演奏するんだぁ』って。」
「あら、天江さんは粟手さんと知り合いなのね……ところで……さっき、どうしたの?急に大声あげて……。」
「あ……いえ……その……何と言いますか……『夢の続き』……みたいだったんで……。」
「……夢?」

鈴絵が問いかけたその時であった。
「ルナちゃ〜ん!」
彼女らの後ろから聞こえてくる、何者かの声。
その声に気付き、ふたり同時に声の方向を見ると、
その目線の先では先程彼女らの話題に少しだけ登場した粟手ヒビキ本人が手を振っていた。
「どうしたの、ヒビキさ〜ぁん?」
ルナが大声で問いかける。
「先生がルナちゃんを探してたよぉ〜!この前に提出してもらったプリントに不備があったんだってぇ〜!!」
ヒビキも同様に大声で答える。
「ありゃ……神柚さん、私はこれで失礼します。ウチのヒビキさんをよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げると、ルナは荷物を手に急いでヒビキの所へと急ぐのだった。

596記憶の中の茶道部(第三話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/03(土) 23:40:20 ID:HRkRpzMc0
「……どうしたの?」
周りからは誰も居なくなったはずの中等部校舎で声をあげる鈴絵。
その直後、今まで無かったはずの『もうひとりの気配』が現われ、彼女の前に影のような姿を見せる。
「あの子か……。」
ポツリとつぶやく『影』。
「……ええ、そしてもうひとり……。」
「『御地憑イッサ』……奴はどうする?」
「どうするもこうするも……天江さんの言葉から察するに、危機が迫っているのは確かね。」
そう言うと、鈴絵は『影』に問いかけた。
「ところで、あなたの方はどうなの?」
「予想通りだった……最悪の方のな。」
「そう……。」
「今は『用務員の姿を借りている』から何とかなっているが……それも時間の問題だ。」
「……Xデーは?」
「分からん。」
「……そんな即答するレベルなの?」
「ああ……確かに、危機は迫っている……だが、今出来るのは『タイミング』まで待つ……それのみだ。」
「そう……。」
「とりあえず……Xデーが来るまで、そのサックスは練習しとけ……また会おう。」
そう言うと『影』は一瞬にして屋上から姿を消すのだった。

天江ルナの夢に現われた、男子生徒の正体とは?
そして、神柚鈴絵と『影』の言う「危機」とは何なのか?!

大きな謎を残したまま、仁科学園中等部で展開される格闘茶道部の物語は、新たな局面を迎えようとしていた……。

つづく

---------------------------------------------------------------------------------------------

以上です。
お目汚し、失礼しました。

597名無しさん@避難中:2015/01/06(火) 13:11:44 ID:R37CzbeE0
仁科では貴重な熱血漢(?)だな、ルナルナは。
剣道少女とエレキのサウンドは、これまた意外というか新たな魅力ぼ取り合わせ。
つ、続きを…

598 ◆n2NZhSPBXU:2015/01/06(火) 21:42:50 ID:xsRLiLR60
>>597
ワタクシの駄文を読んでいただき、ありがとうございます。
続きに関しましては、少々お待ち下さい(多分、残り3〜4話を予定しています)。

ここで小ネタ解説と裏話。
前半の『ルナの悪夢』は、仮面ライダーV3のオープニングにマクー空間や幻夢界の風味を足したイメージで書いてます。

あと、当初は「他の方が提案されたキャラのイメージを壊したくない」という考えから自発キャラで主要ストーリーを展開していく予定でしたが、
番外編や奥叛通(おぱんつ)の話を組み込むにあたり、神柚鈴絵の出番が増える・・・といった状況になっています。

・・・一応、イメージを壊さないよう気をつけて入る・・・つもりです(汗)

次回は、ルナと『用務員の姿に似たあの人』との対話を予定してます。

599名無しさん@避難中:2015/01/10(土) 07:54:07 ID:pqXvoZMA0
仁科学園高等部入試模擬

激闘!天江ルナVS〇〇

〇〇を埋めよ。配点10

600 ◆n2NZhSPBXU:2015/01/12(月) 21:05:11 ID:.fU/j/aQ0
創作にあたって、ちょっとお聞きしたいこと。
女性用務員のよーちゃんに関して、本名の設定ってあります?(wikiを見る限りは見当たらなかったので)

もし無い場合、『横嶋菜(ヨコシマナ)キモチ』って名前を登場させたいのですが、大丈夫でしょうか?

601名無しさん@避難中:2015/01/13(火) 00:23:15 ID:RiMw6zdc0
記憶にある限りは無い気がする。とうとうよーちゃんの本名が明かされるのか!

602名無しさん@避難中:2015/01/13(火) 13:34:37 ID:tRtXEDcg0
用務員のよーちゃん、かわいいな。

603名無しさん@避難中:2015/01/16(金) 22:19:50 ID:WKOEamB20
>>600
お待ちしてますwww

登場させるときは、ぜびビジュアル面の描写を。
いいってことよ。

604 ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 22:48:22 ID:ou9wL54c0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ トウカペース オソクテ
   {  /   ホントウ ニ スミマセン・・・
   ヽj

15日ぶりの投下です。
お待ちしている方がいらっしゃるかどうか分かりませんが、もしいましたら・・・遅くなってすみませんでした。

あと、よーちゃんの名前ですが『横嶋菜ココロ』にしましたことを報告します。

605記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 22:52:37 ID:ou9wL54c0
その日の放課後、天江ルナはふたつの気持ちを胸に抱きながら、格闘茶道部の拠点となっている体育館内の茶室へと向かっていた。
彼女が抱く気持ち……ひとつは「また、面倒な部長の気まぐれを相手しなくちゃならないのか……」という『憂鬱』、
もうひとつは「そういえば、今日は粟手さんが新作茶菓子を持ってくるって言ってたっけ……それは楽しみかも」という『僅かな希望』。
そんなアンバランスな気持ちを抱いていたからか、彼女の表情は曇りつつも、口角のみは小刻みな嬉しさを表現するのであった。
「……むふ……ハッ、いかんいかん。」
無意識の笑みに気づき、自身の額を軽く叩くルナ。
そして気合いを入れ直し、あえて真面目な表情で茶室へと向かおうとした……その時、彼女の目線の先に見覚えのある学生が二人、
さらにルナの知らない女子学生が一人いることに彼女は気づくのであった。
「あれは……ヒビキさん?……それに、粟手さん!」
知った顔と気づき、声をかけようとするルナ。
だが、彼女の声が粟手トリス・ヒビキ姉妹の耳に届く前に、声を荒らげる存在がいた。
「てめぇ!どういうつもりなんだっ?!」
廊下にいる学生全員が振り返る程の音量で叫ぶ、ルナの知らない女子学生。
一方の粟手姉妹は、声の暴力に震えつつも、自分なりの意見を言うのだった。
「……だって……どうしても出来ないんです!何度練習しても……いつも、同じ場所で失敗して……もう……私なんて……才能無いんです!!」
「失敗するだぁ?そんなことで、簡単に何でも辞めちまうのか?!そんなことで、私や神柚さんを簡単に見捨てるつもりなのかよっ?!?!」
「だって……だって……。」
「止めてください、天月先輩!いくら高等部の方とはいえ、妹を泣かして何が楽しいんですか?!」
「何だと?!」
口喧嘩にまで発展する、粟手姉妹ともう一人の女子学生=天月音菜。
そんな光景を見て、ルナはすぐさま仲裁に入ろうとその場へ駆けつける。
「ちょっ……ちょっ……タンマ!ヒビキさんが何を……って、その制服は……。」
「……ぁん?誰だ、お前は??いきなり現われてファッションチェックったぁ……随分とふてぇい野郎だなぁ?!」
「ファッションチェックって……私は『神柚さん』と同じ高等部の制服だなぁって思っただけなのに……。」
ポツリと呟くルナ。
そんな時、一方の音菜はルナの発言の中にあったあるワードに態度を一変させるのだった。

606記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 22:57:53 ID:ou9wL54c0
「……お前、『神柚さん』の知り合いなのか?」
「……え……あ……まあ……簡単にはですが。」
「なら、話が早い。」
「……はい?」
突然の展開に、話の流れを掴み切れていないルナ。
一方の音菜は、彼女の思いに気付くこと無く、淡々と『自分が何故、粟手兄弟に迫っていたか?』を語りだす。
「俺は天月音菜、高等部の2年生だ……多分、神柚さんから聞いてるかもしれないが、
 俺と神袖さん、そして目の前の粟手ヒビキの三人で、再来週に行われる『龍神祭』で神事の曲を演奏する予定だったんだ。」
「ええ……ヒビキさんからではありますが、断片的に聞いてます。サックスとエレキと和太鼓と……って。」
「ところがなぁ……最近、ヒビキが練習に来なくなってな……んで、聞いたら『和太鼓はもう辞める』とか言い出したんだよ。」
「……え?」
音菜の言葉を聞き、驚きの表情を見せるルナ。
それもそのはず……彼女の知る粟手ヒビキにとって、和太鼓とゴーヤは『自身のフェイバリット(好物)』と称する程の存在であり、
特に前者に関しては仁科学園内に和太鼓に関連した部活動が無かったため、地元の公民館で行われている和太鼓サークルへ
わざわざ入部して練習する程の熱の入れようであった。
そんなヒビキが和太鼓を『辞める』……ルナには到底信じられない言葉であったのだ。
「ヒビキさん、本当なの?あんなに和太鼓好きだったのに……。」
「……うん……私さ、才能が無いんだ……何度練習しても、いつも同じ場所でつまづく……そんな状況で本番なんさ迎えたら……
 笑い者になるだけだ……。」
「ヒビキさん……。」
ヒビキの言葉に同情心が芽生えるルナ。
だが、音菜の表情は険しいままであった。
「……それだけじゃねぇだろ、ヒビキ……お前、俺にさっき何て言った?」
「……。」
口をつぐむヒビキ。
その返答に、音菜は再度怒りを露わにするのだった。
「てめぇが言わねぇなら、俺が言ってやる!『嫌な思いをして和太鼓を続けるぐらいなら、
 格闘茶道部でお茶菓子を食べながらお姉ちゃんとのほほんとした方が良い』ってな!!」
「……え?」

607記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 23:04:54 ID:ou9wL54c0
「演奏出来なくてつらいのは分かる……何度もつまずいて苦しいのは分かる……だがな、それを理由にして全てを投げだすのは無責任過ぎるだろ!
 俺や神袖さんへの気持ちが、ヒビキ……おめぇには無ぇのか?!第一、『格闘茶道部』とか訳の分からぇね部活動に変な思いを抱くんじゃねぇ!!!」
「……何と言うか、一応『副部長』という立場なものの……現に変な部活動だしなぁ……まあ……ヒビキさん、あの……天月さん……でしたっけ?」
「おう。」
「天月さんの言う通りだよ。どこぞの歌じゃないけどさ、『諦めたらココが終点』……今はつまずき続けていてもさ、
 どこかをきっかけに脱却して次のステップへ行けるよ。それにさぁ……格闘茶道部に変な理想を求め過ぎよ。」

「いいえ……格闘茶道部こそ、粟手ヒビキさんの求める理想郷ですわ。」

ヒビキを説得するルナの耳へ届く、最も聞きたくない人物の声。
その声の主は、寸分違わず『格闘茶道部 部長』の緒地憑イッサであった。

「うわぁ……面倒な時に……。」
おもわず呟くルナ。
一方のイッサは、何人も近づけさせないようなオーラを放ちながらヒビキの前に立ち、そして彼女の震えた手を握りながら語りだすのだった。
「それで良いのよ、トリスちゃんの妹さん。あなたは自身の欲望に従ったまでのこと……欲望という物は抑えれば抑えるほど、
 どこかで反発を起こして大爆発を起こす危険な存在……そんな危険物を心から取り除くのが、我らが『格闘茶道部』なのですから。」
「……初めて聞いたんですけど。」
ツッコミを入れるルナ。
しかし、イッサはそれを完全無視して語り続ける。
「トリスちゃんの妹さん、今日はあなたのお姉さんプロデュースによる新作茶菓子発表の日……せっかくなので、あなたもいらっしゃい。
 そして、欲望を解放させなさい。」
「はい、ぜ……」
「……っって、ちょっと待てぇ!」
『是非に』と言おうとしたヒビキの声を遮る音菜。
そんな様子を見て、イッサは呆れた表情を浮かべながら答える。
「……何ですか、先輩である高等部の方が可愛い後輩の邪魔をするとは……。」
「いや、ツッコまざるを得ないだろ!俺たちはヒビキの欲望からの弊害を……しかも有無を言わさず受け入れろって言うのか?!
 確かに可愛い後輩だが……限度ってもんがあるだろっ!!第一……。」
「……あんなお祭りのどこが良いのですか?」
「……何だと?!」
「99年目の龍神祭だか何だか知りませんが……そんなどうでも良いイベントの、どうでも良い演奏に付き合わされるぐらいなら……
 抹茶をすすって心を落ち着かせた方が何十倍・何百倍……いや、何万倍と有意義なことか……。」
冷たい言葉を吐き捨てるイッサ。
その言葉に、音菜の怒りは頂点へと達するのだった。

608記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 23:10:22 ID:ou9wL54c0
「ふざけるなっ!俺だけじゃない……神袖さんまで侮辱するようなその言動、俺がこの拳で砕いてやるっ!!」
そう言って、強く握った拳をイッサの頬目がけて振り落とそうとする音菜……であったが、次の瞬間、
彼女の体はイッサの目の前から姿を消していた……正確に言うならば、まるで『殴られて吹き飛ばされた』かのように
音菜の体は彼女らのいる場所から離れた場所に現われ、また吹き飛ばされたショックなのか、彼女の意識は気絶によって完全消失していた。

……いや……違う。
天月さんは意味も無く吹き飛んだんじゃない……吹き飛ばされたんだ……。

ルナを包む、疑惑の思い。
何故なら彼女は見てしまったのだ……音菜がイッサへと殴りかかった瞬間、イッサの体から『影のような存在』が飛び出し、
それが音菜へ逆襲していた様子を……。

突然の事態に黙り込む、ルナを含めた女性三人。
その一方で、イッサは涼しい顔のまま吹き飛ばされた音菜の方へと向かっていく。

「どうやら、あなたにも必要なようね……さあ、『私の物になりなさい』……粟手姉妹のように……。」

気絶して廊下の壁に横たわる音菜の頭へ、自身の手をかざそうとするイッサ。
……だが次の瞬間、彼女の手首を掴む存在が出現した……それは、天江ルナであった。
「副部長……?」
突然の事態に、初めて困惑の表情を浮かべるイッサ。
一方のルナは必死の表情を浮かべていた。

『私の物になりなさい』……その言葉が聞き違いでなければ……あの夢と関係があるかどうかは分からないが……でも、言えることはひとつ……。

この手を……離してはいけない!

その瞬間、彼女は意識を失った。

609記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 23:15:33 ID:ou9wL54c0
ルナには分からなかった。
ここがどこなのか……今が何時(いつ)なのか……。
そして……私が……誰なのか……。
暗闇を、まるで水面に浮かぶかのように無力のまま漂うルナ……その様相は、
まるで彼女の現状の気持ちを体現したかのようであった。
「私は……何?」
孤独な闇の中でポツリと呟くルナ。
しかし、その言葉に対して返答してくれる存在など居なかった。

「……お前は天江ルナ……唯一無二の存在だ。」

突然、耳に聞こえてくる謎の声。
その声にハッとしたルナが体を起き上がらせると……彼女を包んでいた漆黒の闇は消え去り、
その存在は仁科学園の保健室へと転移していた。
「……また……夢?」
「いや、一応は現実だ。」
ルナの言葉に答える謎の声。
冷や汗をかいたまま声の方向へ体を向けると、そこには用務員服を着た女性が立っていた。
一瞬、眼の位置まで伸びた黒髪を見て『天月さん?』と思うものの、
髪の隙間から見えていた物が眼ではなく牛乳瓶底のようなメガネだったことから、
その女性が自身の知らない人物であることにルナは気付くのだった。
「あなたは……?」
「私は横嶋菜ココロ……仁科唯一の女性用務員で、みんなからは『よーちゃん』って呼ばれてるわ。」
「はぁ……でも、どうして用務員さんが保健室に……ってか、私も何故に保健室に?」
「一応、医師免許持ってるからね、時々保健室の非常勤やってるのよ。
 あと、あなたは当然気絶して……確か、高等部の……私みたいな髪型の子が運んできてくれたわ。」
「多分、天月さんかな……ふぅ。」
なんとなく溜め息を出すルナ。
「ところで……あなたが天江ルナさん?」
突然、よーちゃんが話を切り出す。
「え……はい……って、あれ?名乗りましたっけ??」
「ううん、あなたのことを鈴絵ちゃんから聞いたのよ。」
「……鈴絵ちゃん?」
「そうそう、神袖鈴絵ちゃん。」
「神袖さんから……ですか?」
「それでね、ちょっと真面目なお話しをしたいんだけど……あ、ちょっと私の手を見て?」
「???」
言われるがままに、よーちゃんの手のひらを見るルナ。
その瞬間、彼女の手からは閃光のような物が発せられ、次の瞬間には……彼女は先程まで居た夢の世界へと逆戻りしていた。

610記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 23:20:39 ID:ou9wL54c0
「……え?」
先程とは違い、漆黒の水面の上で体を起き上がらせるルナ。
しかし、彼女の存在は夢の世界に留まり続けていた。
「ごめんね、天江さん。どうしても、マンツーマンで……かつ、邪魔が入らない場所で話したくて。」
突然聞こえてくる声。
水のように絡む闇を体から払いつつ声の方向へ体を方向転換させると、
その目線の先には……この雰囲気には全く似合わないアヒルをかたどったボート、
そしてそれを運転するよーちゃんというシュール極まりない光景が展開されていたのであった。
「……横嶋菜さん?」
「ハイ!さあ、乗って!!」
ルナのもとへボートを横付けし、彼女を引き挙げるよーちゃん。
一方のルナはボートに乗船したものの、全くの理解不能と化していた。
「あのぉ……横嶋菜さん?」
「天江さん……いや、ルナちゃん!何か堅苦しいから『よーちゃん』で良いよ。」
「え……あ……よーちゃん……さん、ここはどこなんです?」
「あなたの夢……と言うよりかは、あなたの心の世界ね。」
「私の……心?この闇の世界が?!」
「……ただ、これに関しては致し方ない『事情』があるのよ。」
「事情?」
「何から話したら良いか……まあ、とりあえず空を見てみて。」
そう言われ、スワンボートから首を出すルナ。
すると、先程まで何も無かった闇夜には無数の光が存在していた……そして、
その光はどれも地球のような形状および色彩を放つのであった。
「いいえ、あれは地球そのもの。」
突然答えるよーちゃん。
「地球……そのもの?」
「ルナちゃんは多次元宇宙論って分かる?」
「……ええ、SF世界で言うパラレルワールドってやつですよね?」
「御名答!この世界は小さな物事から大きな物事まで……とにかく多種多様なきっかけで細分化していき、
 異なる世界を無限に形成していってる……その結果が、この泡ブクみたいな多次元宇宙って訳。んで……あれを見て。」
そう言って、ある方向を指差すよーちゃん。
その方向には、空間に存在する地球の中で最も大きな形状を呈していた。

611記憶の中の茶道部(第4話) ◆n2NZhSPBXU:2015/01/18(日) 23:27:49 ID:ou9wL54c0
「大きい……けど……。」
「どうしたの?」
「何か……違和感を感じる。」
「そこまで分かれば、キミモPerfect Body!」
「……はい?」
「あの地球は他と違うの……まず、動きを見て。」
「動き……!」
ルナはハッとする。

他の地球は、かつて授業で習ったように、自転しながらその存在をアピールしつつ分裂を繰り返している。
しかし、あの大きな地球だけは自転どころか微動だにしない。
また、死細胞のように分裂もしない……それはまるで……。

「時が止まっている……100点よ。」
「!!!」
「……って、ごめんなさいね。先行して答えちゃって。」
頭を掻きながら、反省してい無さそうな言動で反省の弁を述べるよーちゃん。
「一体……あなたは?」
「……そういえば、名乗るの忘れてたわね。」
そう言うと、よーちゃんは牛乳瓶底メガネを外して外へと放り投げ、そして髪を両手で掻き上げながらこう答えるのだった。
「時空間を司る魔王の一人……まあ、本名はмуйынравоКって言うんだけど、人間界じゃ発音し難いせいか、
『魔王』って呼ばれてるわ……まあ、今は諸事情で『よーちゃん』の姿を借りるから、呼ばれ方はもっぱら『よーちゃん』だけど……。」
ゴムを取り出し、髪をポニーテールへと束ねるよーちゃん。
次の瞬間、彼女らが乗っていたスワンボートは姿を消し、二人の体も数多くの地球が姿を見せる夜空の中で位置を固定したまま漂っていた。
「よーちゃんが……魔王……?」
理解が追い付かず、混乱し始めるルナ。
一方のよーちゃんは服装を用務員服から、まるでファンタジー小説に登場するかのような白銀の頑丈な鎧へと姿を変え、
この世界の真相を語り始めるのであった。
「前提条件の説明は終わったから、次はこの世界の時間が止まった理由なんだけど……何から説明したら良いやら……
 まあ、まずは根底部分について説明しておいた方が良いか。」
「……根底?」
「ええ、止まった世界を作り出した張本人である緒地憑イッサ……いや、『天江夕子』のことについて。」
「!!!」

『天江夕子』……その言葉を聞いて、険しくなるルナの表情。

それもそのはず……何故なら『天江夕子』とは、行方不明になっているルナの母親の名前であったのだから……。

つづく

---------------------------------------------------------------------------------------------

以上です。
お目汚し失礼しました。

それと、天月音菜に関して一人称を『俺』にしましたが、このスレ的に大丈夫だったのでしょうか・・・?
(先週の新ウルトラマン列伝からインスパイアされて、俺っ娘にしたのは内緒です)

612名無しさん@避難中:2015/01/25(日) 14:08:00 ID:.ECF9eds0
すごいのきた!

613 ◆n2NZhSPBXU:2015/01/26(月) 21:42:41 ID:OuhiKqLw0
>>612
読んでいただき、ありがとうございます。

ただ、今さらではありますが今回アップした物はチェックが不十分だったか、誤字や入れとくべきだった文言の脱字が多いので、
もしよろしかったら最終回アップ後にまとめwikiのほうへ修正版をアップしたいのですが、よろしいでしょうか?

それと、現状報告。
第5話を書いている最中ですが、7割近くが説明台詞という現状に自分でゲンナリしています・・・。
そして、最終話に向けていかに物語の伏線を全て回収するかもキチンとまとまっておらず、そっちに関してもゲンナリしています・・・。

614 ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:21:23 ID:Rm4pITlY0
, - 、        バ  ノ
  ヽ/ 'A` )ノ ゴ  ク  ウエニ A
 {  /   アリエナ  ギル・   Aズレ・・・
        ヽj サス    ・・

カエルのおもちゃのAAを貼ろうとして、盛大に失敗したのは私です。
・・・そんなことはさておき、今日も人様への迷惑を省みずに投下です。

よろしかったら、お付き合いください。

615記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:25:44 ID:Rm4pITlY0
その夜、天江ライトは娘である天江ルナに何らかの『異変』が起きていることに気付いた。
いつもなら、ニコニコと笑いながら夕飯に手を伸ばし、そして今日学校で何があったかを楽しそうに語るはず……だが、
今日のルナの表情は暗く、また、ただひたすらに無言を貫き通しながら夕飯をゆっくりと食べるのみであった。
「ルナ……何か、学校であったのか?」
声をかけるライト。
しかし、ルナの口から言葉が返ってくることは無かった。
「……。」
「……。」
お互いに黙ることで、虚無な空間が展開される天江家の食卓。
だが、それを打開する策を思いつかないライトは、結局黙ったまま、娘が食事し終わるのを見つめるしかなかったのだった。

一方のルナも黙るしか出来ないでいた。
それもそのはず……彼女が魔王=横嶋菜ココロから聞いた『この世界の真実』は、簡単には受け入れがたい内容であったからだ。

「止まった世界を作り出した張本人である緒地憑イッサ……いや、『天江夕子』のことについて。」
「!!!」
数多くの地球が闇夜にきらめく、天江ルナの深層心理世界……その中を漂うルナとココロ。
そんな二人の間を通り抜けていった『天江夕子』の名前……それは、ルナが物心つく前に失踪したと父から聞いている母の名前であった。
「よーちゃんさん!どうして母の名前を?!それに……母が部長ってどういうことなんです?!?!」
大声をあげるルナ。
一方のココロは、今だに何から説明したら良いか戸惑っているものの、話の方向性について自分の中でようやく決着が着いたのか再び口を開き始めた。
「まず……何故、あなたの母親である天江夕子が緒地憑イッサとしてこの世界に存在しているのか?
 緒地憑イッサ……あれは天江夕子の肉体を借りているから人間の体(てい)を成してるけど、本当は私と同じ……いや、
 私なんかよりもずぅううう……っと階級の低いランクの、時空間に住む魔族の一人だったの。」
「魔族……?」
「ええ……んで、その魔族ってのはね、仕事として……今ルナちゃんの空間を描いてる無数のパラレルワールドに関して、
 時には災いを起こして種の進化を促したり、時には幸いを与えて一時の平和を与えたり……あと、
 何らかのミスで時空間へと飛ばされてしまった種族を元の世界へ導いたり……んで、私はワタシで、
 上司の立場から指示や決定したり……ってな感じのを全体でやるんだけど……まあ、働きアリよろしく、
 中にはこの仕事に嫌気がさす魔族も少なからずいる訳でね……。」
「それが……部長……いや、緒地憑イッサ……。」
「Исса-обладал земли Вместе……あ、ルナちゃんに分かるように言うなら『緒地憑イッサ』ね。
 奴は『自分だけの世界』を得ようとして、我々魔族から離脱……あるパラレルワールドに侵入して世界を作り替えようとしたけど……奴はある失敗をした。」
「失敗……?」

616記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:31:03 ID:Rm4pITlY0
「『世・界・を・作・り・替・え・る』……と漢字・ひらがな合わせて8文字程度で簡単に片づけてるけど……元となった世界を作るだけでも、
 その行為には莫大な生命エネルギー……そして、何億・何十億もの年月が必要となる。それを、さらに自分の都合の良いように替えるってなると
 作った時の何倍もの年月かかるし……しかも、それをたった一人でやろうもんなら、私クラスのタフネスでも2万年経過したくらいで……ばたんきゅ〜だわさ。」
「……?待って下さい!でも……。」
「そう、だから緒地憑イッサ程度の低ランクな魔族には自分の世界を作り出すことなど無理なはず……だったの。
 でも、奴は我々の盲点を突いてきた……天江夕子の肉体を乗っ取るという方法でね。」
「母の肉体を……?」
「奴は、あるパラレルワールドに存在していたあなたの母……天江夕子の肉体を奪い、緒地憑イッサと名乗ることで自らを『その世界の意志のひとつ』となった
 ……さらに、奴は世界に自身の存在を認めさせただけでなく、その世界の意志そのものを完全に乗っ取るため、魔族としての力を解放し、
 その世界に住む存在へ『自分がこの世界の支配者である』という潜在意識を植え付けようとした……けど、これまた失敗。」
「……え?失敗??」
「うん、失敗……でも、この失敗が『最悪の事態』を引き起こしたのよ。緒地憑イッサの能力解放によって、
 その世界に住む人々には緒地憑イッサが世界の支配者であるという潜在意識が生まれ、奴自身が世界の意志となった……しかし、
 奴の不完全な能力解放によって、それは『世界を書き換えた』のではなく『新たなパラレルワールドを形成した』という形で成されたの。
 それが……『1年』という世界で時間が固定化された不完全な世界。」
「1年で……固定?」
「言うなれば……学園漫画でとかで見る、3月から4月に移行しても進級も進学もしない世界……かなぁ?
 でも……奴は、1年間限定とは言え『世界の支配者』になった。それと同時に時空間では大きな問題も発生した。」
「大きな問題って……まさか、あの地球の異様な肥大化ですか?」
「イエス……当たり前だけど、どの世界にも『時間』という概念は存在する。
 でも、緒地憑イッサの行為によって1年という概念しか存在しなくなった不完全な世界は、
 自身の世界を維持するために他のパラレルワールドも取り込むようになり……現状として、
 この時空間の中で最も大きな醜態を晒している訳。
 それだけじゃない……鈴絵ちゃんも……私が肉体を借りている横嶋菜という存在も……そして、
 あなたが知っている何人かの学生も、本来ならこの世界には存在していなかった。
 でも、世界間での吸収でこの世界の存在とされ……緒地憑イッサの物となった証として『名前』を奪われた。」
「名前を……?」
「横嶋菜心は横嶋菜ココロに……粟手響は粟手ヒビキに……天月音菜は天月オトナに……。」
「……!天月さんまでも?!」
「鈴絵ちゃんに関しては大丈夫だと思うけど……油断は出来ない。それに、今は数人のみの洗脳に済んでるけど、
 これを無限に続く1年の中で繰り返されたら……。」
「全ての世界が緒地憑イッサの物に……何か打開策は無いんですか?!」
声を荒らげるルナ。
それに対し、ココロは複雑な表情を浮かべた。
「……よーちゃんさん?」
「……あるにはあるの……ただ……分からないことが多いのよ。」

617記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:35:27 ID:Rm4pITlY0
「分からないこと……?」
「まず……!危ない!!」
突然、ルナを突き飛ばすココロ。
結果、突き飛ばされたことで体勢を崩したルナはそのまま落下し、再び漆黒の水辺へと着水するのだった。
「……ゲホッ……い……いきなり、何……?!」
声をかけようとしたその瞬間、彼女は自らの視界に入った光景を見てただただ呆然とするのみであった。

闇夜に浮かぶ、時間の止まった大きな地球……だが、それは周囲の地球を無尽蔵に吸収しながら肥大化、
唯一無二の存在と化しようとしていた。
それだけではない……肥大化する地球を背景にして、居るはずの無い緒地憑イッサがまるで人形を持ち上げるかのように
ココロの首を片手で空高く掴む光景もそこにはあった。
「Исса……どうしてここに……?」
「あら、あなたが言ったんでしょう?『この世界に取りこまれて、私の物になった』って。
 あなたの物は私の物、あなたの聞こえる音は私の聞こえる音……ってね?」
「わざと……泳がしてたのね……うっ……かっ……。」
強まるイッサの手の力、そして締まるココロの首。
その様子を見て、ルナは声を荒らげる。
「止めて!部長……いや、お母さん!!」
「ふふっ……この世界の支配者たる存在に、軽々しく『お母さん』と言えるなんて……
 さすが私が見込んだことだけはあるわね、副部長……いえ、天江ルナ。」
「肉体の無いアンタは母でも何でも無い!私が母として呼びかけてるのは、
 その手の意志の持ち主である天江夕子……それだけだ!!」
「肉体が無い……ですって?」
「……ふっ……ルナちゃん……グッジョブよ……ぐはっ?!」
下にいるルナに向けて親指を立てるココロ。
そんな光景に、イッサは怒りを覚えて手の力をさらに強める。
「ならば……天江ルナ、あなたに教えてあげましょう。あなたがこの世界にいる意味の『真実』を。」
「私がいる意味の……真実……?」
「あなたは、本来ならこの世界には存在しない……いえ、正しく言うならば『私の世界の時間』には存在しない。」
「……は?訳の分からないことを……。」
「ならば、噛み砕いて教えてあげる。本来、この時間軸には天江夕子や粟手姉妹……そして、
 パラレルワールドからの存在として神袖鈴絵や天月音菜、あとこの女もいた……皆、仁科学園の学生やら用務員やらとしてね。
 でも……あなたは違う。確かに、仁科学園中等部の生徒としてあなたは存在する……ただし、
 天江夕子とあなたの父である雑津来人が結婚した『未来』での存在としてね。」
「私が……未来からの存在?!」
「そう……私は天江夕子の肉体を手に入れ、緒地憑イッサとしてこの世界を影で支配してきた。
 でもね、いくら支配者になったとは言え、1年後には経験したことある世界に何度も戻る……そんな経験を753回も繰り返すとね、
 『最高です』なんて言えない訳。だからね、完全なる世界の支配を目論んだのよ。」
「完全なる……支配?」
「今、私の世界は365日が経過すると最初の1日目に戻ってしまう……でも、
 もし……366日目以降を知る人物がこの世界に現われたらどうなると思う?」
「……?」

618記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:40:21 ID:Rm4pITlY0
「その記憶は世界の意志のひとつとなる。そして、世界はその意志が正しいことであるとするため、世界にその人物が知る366日目以降の記憶を形成しようとする。
 すると……?」
「……!その世界は1年で固定されなくなる!!」
「そう、あなたの本当の世界である『未来』を手に入れることでね。だから、私は魔族としての能力を再び使って未来の記憶を手に入れ、
 それを与えることで『この世界の未来』の形成を現在の時間軸で促した……この肉体の女と将来結ばれることになっていた雑津来人へ
 『自分は天江夕子の婿養子で、中学生の娘がいる』という記憶をね……その結果、雑津……いや、天江ライトとなった男の記憶からは
 未来の断片が生まれ、そしてその未来はこの世界の意志として現在の時間に形成された……それが、天江ルナ……あなたなのよ!」
「!!!」
自身が本来なら未来に生まれる存在だったことを知り、衝撃を覚えるルナ。
一方のイッサは、今まで秘密にしていたことをようやく言えた解放感からか笑みを浮かべ、
それと同時にココロの首を掴む力をさらに強めるのだった。
「ぐっ……あ……がっ……。」
血の気が失せた苦悶の表情を浮かべるココロ。
だが、イッサはさらに笑みを強めて言葉を続ける。
「そして、これが最終段階!私があなた……つまり、天江ルナの肉体を乗っ取る……そうすれば、
 この世界の意志は未来を持つ!!私の世界は千年王国となるの!!!」
興奮のあまり、笑いだすイッサ。
だが、ルナにとってその様子は狂気以外の何物でもなかった。
「まず!千年王国設立への前夜祭として花火をお目にかけよう!!
 目の前の勘違い女が汚ぇ花火と化す姿をその目に焼き付けるがよい!!!」
高らかな声とともにエネルギーが集まるイッサの手。
そんな状況に自らの最期を悟ったのか、ココロがルナへ最後の力を振り絞って話しかける。
「ルナ……ちゃん……。」
「よーちゃんさん!」
「最期に……なる前に……これ……だけは……忘れないで……。」
目を閉じ、最後の力を振り絞って手から紅い光球を放つココロ。
その光はルナを包み込み、そして上空へと舞い上がるのであった。
「よーちゃんさん……よーちゃんさんっ!!」
叫ぶルナ。

その瞬間、ルナの耳にある言葉が響いた。

『未来は他人から奪い取る物じゃない……未来は自らの手で築き上げる物……。』

『どんな暗闇な未来が待ち構えていようとも……それを受け入れて……そして……それを希望へと導いて……。』

二つの言葉を聞き、再び叫ぼうとするルナ。
だが次の瞬間、ココロがいたと思わしき場所では強烈な光を有する大爆発が発生、一瞬にしてルナも……そしてこの世界も閃光に包まれ、
それと同時にルナは意識を失うのだった。

619記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:45:28 ID:Rm4pITlY0
次にルナが意識を取り戻したのは、自室のベッドの上であった。
「……!ここは……家?」
汗だくになりながら起き上がるルナ。
すると、タイミング良く父のライトがドアの向こうから現われて問いかける。
「おおっ!ルナ、大丈夫か?」
「あ……お父さん。あれ?私……学校で気を失って……。」
現状を理解出来ないルナに、ライトがこれまでの経緯を説明し始めた。

曰く、学校で気を失ったルナを『天月オトナ』という高等部の学生が付き添いつつ『横嶋菜ココロ』という用務員さんが車で運んでくれたとのこと。
その際、お礼も兼ねて「コーヒーでもお入れしますか?」とライトが聞いたところ、
二人は口を揃えて「格闘茶道部での新作茶菓子発表会に参加したいので」と言い、足早に去っていったのだと言う。

「『格闘茶道部』ってルナの部活だよな……名前は変だけど、用務員さんにも一目置かれるほどとはねぇ……どうした、ルナ?」
黙り込むルナを見て、声をかけるライト。
だが、ルナは現状を理解、そのまま黙り続け、最終的には冒頭の夕飯までベッドに潜りこむのだった。

今も沈黙の続く、天江家の食卓。
そんな状況下、ルナは半分以上ご飯の残ったお茶碗を目の前にして沈黙を貫き続け、一方のライトも娘に対する最善策が分からず、
同様に黙ってしまっていた。
しかし、ルナが「……ごちそうさま」と力無く言って立ち去ろうとした瞬間、
ほんの少しだけ沈黙が破られたことをきっかけに何かが芽生えたのか、彼は娘へと話しかける。
「え……あ……ルナ!今日は妙に元気が無いじゃないか……
 いつもだったら『おかわりっ!』って元気に言ってるじゃないか!!……ねぇ?」
妙に大声をあげて話すライト。
しかし、ルナはやはり沈黙を続ける。
「……ルナ、ひとつだけ良いか?」
恥ずかしそうに頭を掻きながら、ライトはある言葉をかけた。

「『諦めるな』……そして『どんな暗闇な未来が待ち構えていようとも受け入れ、それを希望へと導け』。」

ライトの言葉を聞き、ハッとするルナ。
『諦めるな』……それはルナが夢の中で聞いた、あの男子学生の言葉……
『どんな暗闇な未来が待ち構えていようとも受け入れ、それを希望へと導け』……
それは、自身の深層心理世界が消滅する瞬間に聞いた言葉……。

620記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:50:37 ID:Rm4pITlY0
「……お父さんが学生時代、いつも心に抱いてた言葉……それが『諦めないこと』だった。
 どんな壁も諦めずに……しつこいぐらいに挑み続ければ越えられる……それが信念だった。
 でも、ある人と出会ってその考えも少し変った……それがお前の母さん……天江ユウコの
『どんな暗闇な未来が待ち構えていようとも受け入れ、それを希望へと導け』だった。」
そう言って、ライトは昔話をし始めた。

それは、天江ライト……いや、雑津来人がまだ仁科学園中等部に属していた頃だった。
かつての彼は、今のルナ同様に剣道をやっており、仁科学園の剣道部に所属することでその地位と名声をさらに高めようと画策していた。
だが、その計画はある存在をきっかけに白紙と化した……それは天江夕子であった。
練習や外部との試合を重ね、『斬撃の強者』へと成長した来人。
だが、一方の夕子も剣道の腕を上げ、3年次にはまさに『強き竜の者』と評される存在と化しており、
また来人にとっては『唯一勝てない相手』となっていた。
『自らの越えるべき壁』……そんな思いを抱き、機会があれば夕子へ一対一の勝負を挑んでいた来人。
しかし、何度挑戦しようとも……いや、何十・何百と挑戦しようとも、彼は夕子に勝つことが出来なかった。

「……ま……まだだっ!もう一本勝負を!!」
夕刻の体育館……息も絶え絶えになりながら、再び竹刀を構えようとする来人。
一方、試合相手の夕子も疲労困憊の表情を見せながら、迷惑過ぎる彼からのエンドレス・チャレンジに呆れ果てていた。
「雑津くん……いい加減にしてよ、私だって……そんなタフネスじゃないんだから……。」
「……駄目なんだ……天江さんは俺の……越えるべき最後の壁!あなたを超えて……俺は本当の最強に……なる!!」
「最強を目指すのは結構だけど……いい加減諦めてよ……私だって、見たいテレビがあるのに……だったら、
 これでほんっとぉおおおお……に!最後にしてねっ!!ラスト・ワンよ!!!」
「……分かった……勝負!」
お互いに竹刀を構え、短時間で決着をつけようと全速力でぶつかろうとする二人。

だが、その試合は意外な展開を迎えた。

夕子の面へと叩きこまれる来人の竹刀。
一方の夕子は、胴を狙ったと思われる水平打ちが来人の体を捕えることなく、まるでタイミングを外したかのように空を切っていた。

「……。」
「……あなたの勝ちね、雑津くん。」
そう言って、その場を去ろうとする夕子。
だが、来人は気付いていた。
「天江さん……どうしてワザと負けたんです?!」
「何言ってるのよ、どう見てもあなたの勝ちじゃない。」
「じゃあ……これは何だ?!」
そう言って、床から何かを拾い上げる来人。
それは、縦に真っ二つとなったスズメバチの死骸であった。

621記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 21:55:33 ID:Rm4pITlY0
「あなたは、僕らに間に割って入ったスズメバチ退治を優先した!いくらスズメバチが危険だからって……僕との勝負を捨ててまでなのか?!」
詰め寄る来人。
そんな彼を見て、夕子が優しく答える。
「いいえ……私は勝負を捨ててはいないわ。」
「止めてくれ!そんなウソは……。」
「確かに、私は割って入ってきたスズメバチに気付き、スズメバチを斬った。でもね……水平切りの動作からすぐに突きの構えへと入ろうとしたけど、
 今までの疲れで動きが遅れて……結果はご覧の通りよ。」
「……でも!そんな偶然に左右された試合結果なんて……天江さんは何で納得してるんですか?!」
「雑津くん……未来ってのはね、何が来るか分からない暗闇の存在なの。確かに、あなたのような『諦めない精神』でそんな未来を光に
 無理やり変えることも必要だけど……私の場合は、あえてその暗闇を受け入れることが必要だと考えてるのよ。」
「暗闇を……受け入れる?」
「ええ、今の場合ならスズメバチの乱入……それに自分の肉体疲労……これらの要素が加わったことであなたとの試合に負けた。
 でも、そこでブーブー文句言っても仕方が無い……必要なのは、負けた要因に対して対策を検討し、
 それを次に生かす……悪運的なことに関してはちょっと考えつかないけど、まずは体を鍛える必要があることが分かったし……ね?
 それでまた、次の機会に雑津くんと勝負して、勝てれば万々歳……ってとこ。」
「……でも!もし、僕が天江さんとの勝負をもし拒否したら……?」
問いかける来人。
それに対し、夕子は額の汗をぬぐいながら嬉しそうに答えるのだった。
「そうしたら……剣道に関してはそれまでだけど、諦める気は毛頭無いわよ……あなた同様にね。
 全校テストなり、体育祭なりで無理やりにでも勝負を挑むから問題無いわよ。」

諦めないだけじゃない……。
負けたとしても、それを糧に新たな未来を切り開く……。

「……それが、彼女の強さの秘密であり、彼女の魅力だった。だから俺は……彼女を……ユウコを好きになったのかもな。」
黙り続けるルナへ、話しかけるライト。
一方のルナは……目から溢れんばかりの涙を流していた。

諦めない気持ちを抱き続けた父……。
同様に諦めない気持ちを持つだけでなく、柔軟な発想を持つことで精進していった母……。
そんな二人の時間が、自分勝手な怪物によってめちゃくちゃにされ、さらにはこの世界全ての時間をも狂わせようとしている……。

今、この事実を知っているのは私だけ……そして、この事態を打破できる可能性を持っているのは……。

「……お父さん。」
涙を拭いながら、ルナが言う。
「……私、お父さんとお母さんのこと……知れて良かった。」
「……そうか。」
「……お風呂……入ってくるね。」
そう言って、ルナはその場を後にした。

622記憶の中の茶道部(第5話) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/04(水) 22:01:23 ID:Rm4pITlY0
次の日の朝……。

朝食を作るため、完全に起きていない頭で台所へと向かうライト。
いつもなら、まず朝の寒さで冷えた台所の空気が彼の顔を刺してくる……のだが、今日に限って彼の顔を包んだのは、温かい味噌汁の香りであった。
「……ん?これは……ん?」
少し前に作られたと思われる味噌汁の鍋の近くに置かれた、一枚の手紙とMP3プレイヤーに気付くライト。
その紙には、娘であるルナの文字でこう書かれていた。

『自分の未来を確かめに行ってきます。』

つづく
-------------------------------------------------------------

以上です、お目汚し失礼しました(文章の切り方が変で、また説明台詞も長々としててすみません)。
ちなみにですが、次回が最終回です。

623名無しさん@避難中:2015/02/12(木) 00:59:49 ID:aAI90HgI0
そろそろバレンタインですね。
女子生徒のみなさんは準備できましたか?

624馬楝多飲[1/3]:2015/02/13(金) 23:47:20 ID:J79ElRUY0

「ナギちゃんさぁ」

ニシトちゃんが、何の気なしに聞いてくる。

「『義務チョコ』って、知ってる?」



1月の終わり、放課後の教室。
今日は部活がないらしい。
ニシトちゃんが放課後にどこへも行かずグダグダと教室に残っているなんて、珍しい。

「麦チョコなら知ってるけどねー」

わたしは極めて真面目に答えたつもりだった。
ニシトちゃんは一瞬止まって、その後笑いを堪えるのに必死な様子だった。

「いやー、ナギちゃんやっぱ面白いわ」

ようやく落ち着いてから、わたしの肩をバンバン叩いてニシトちゃんが言う。

――今のやりとりに面白い要素があったかな? 

少し悩んでからすぐ諦める。どうせ、考えたって答えは出ないし意味が無い。

625馬楝多飲[2/3]:2015/02/13(金) 23:52:52 ID:J79ElRUY0

「もうすぐバレンタインじゃん。なーんか、面倒くさくってさー」
ニシトちゃんがぼやく。

バレンタインデー。わたしは誰にもチョコをあげる予定がない。
いや、訂正。わたしはニシトちゃんと一緒にデパートに行って、お互い一番と思うのを買って食べ比べしようかと
密かに妄想していたのだ。

けれど約束したわけじゃない。ニシトちゃんは部活もあるし、彼氏候補がいるとしたらそっちが優先だから。


ニシトちゃんの言う「面倒くさい」というのはわたしも同じだ。

わたしはクラスの男子に義理チョコを配るなんて発想も無いけれど、
否が応でも気にしなきゃいけない、この空気がどうにもイヤだと思う。

目当ての男子がいれば良い。
でも、そうでないなら苦痛でしか無い。

せめて「チョコレートのお菓子の新製品がたくさん出るから食べ比べてみる時期」くらいに思っていないと
やってらんない。

626馬楝多飲[3/3]:2015/02/14(土) 00:01:41 ID:HMLGjrrI0

「ナギちゃん、あげる人いる?」

訊かれて我に返る。
また頭の中の世界に迷い込んでしまっていたらしい。

「……あっ、うん、えっと。いないいない全然。まったく。これっぽっちも」

いないことを力説するわたしは相当寂しい奴だと思う。

ニシトちゃんは意に介さず、
「あげたい人がいるとさぁ、何ていうか張り合い? みたいのがあるんだけどさー」

――サキザキくん……っと、思いかけて取り消す。いけないいけない、そうだった。


「どしたの? ナギちゃん」
ニシトちゃんがわたしの顔を覗き込む。

黙ってるとクールな感じなのに、仲良くなると人懐っこくて、世話やきなニシトちゃん。
部活をやっているときは猫みたいにすばしっこくて、弾ける笑顔が眩しい。

わたしは息を吸い込んで、言った。
「あのさ、ニシトちゃん。わたし、ニシトちゃんにあげていいかな? チョコ」

ニシトちゃんはきょとんとして、吹き出した。
そして泣き出しそうな笑顔でわたしに抱きついて、

「ありがとね」

耳元で囁いた。

627名無しさん@避難中:2015/02/14(土) 00:03:01 ID:HMLGjrrI0
↑以上で

やっつけです。

628 ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 17:51:16 ID:7o6bAq7w0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ ダレモ イナイ・・・
   {  /   トウカ スルナラ イマノウチ・・・
   ヽj

『記憶の中の茶道部』の最終回になります。
この板にご迷惑をかけますが、不都合等がございませんでしたら、お目汚しにどうぞ。

ちなみに、書いたら2回分の量になってしまったので、前編・後編と分けさせていただきます。
再びご迷惑、すみません。

629記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 17:55:05 ID:7o6bAq7w0
「……そう。」
夕陽から放たれる太陽光線により橙色へと染まりつつある仁科学園の体育館。
その片隅に設置された茶室には、自ら入れた抹茶を口にする緒地憑イッサの姿があり、対面には剣道の道着に身を包んだ天江ルナ、
そしてその側には見届け人のようにこの場を見守る『格闘茶道部員五名』の姿もあった。
「ルナちゃん……何で格闘茶道部辞めるとよ?」
粟手ヒビキが問いかける。
だが、ルナは黙ったままであった。
「そうよ、こんなに楽しい部活動は無いじゃない!」
「俺もそう思うな……名前は変だが、十分楽しいぜ?」
粟手トリスと天月音菜……いや、天月オトナも声をかける。
「……天月ルナさん、あなたがこの部活を辞めると言うならば……それだけの代償を払える覚悟はおありなのですね?」
問いかけるイッサ。
「……部長、『賭け』をしませんか?」
「賭け?」
「ええ……かつて、あなたが私を入部させた時のように……私とあなたが剣道で勝負する。
 私が勝ったら、退部を許可する……私が負けたら、私を永久副部長として如何様にでも……。」
「あなたにしては、随分と大胆かつ無謀な提案ね。じゃあ、さっそく……。」
「ただし!」
「……うん?」
立ち上がろうとするイッサを止めるルナ。
「今回は三本勝負とし、先に二回勝った方が勝者……というルールはいかがです?」
「三本勝負……あなた、完璧超人にでもなったつもりなの?まあ……いいわ、そのルールであなたを完膚なきまでに倒してあげる……
 あなたの母親の肉体を存分に使ってね……。」

剣道用の防具を着け、体育館の中央で互いに竹刀を構えるルナとイッサ。
その光景を見て、格闘茶道部の部員たちはイッサを応援する。
「部長!頑張って!!」
「ファイト!部長!!」
一人として聞こえてこない、ルナを応援する声。
そんな孤独な空間の中で、ルナの戦いが始まろうとしていた。
「いざ……勝負!」
声と共に、体当たりせん勢いでイッサへと突っ込むルナ。
しかし、次の瞬間に彼女の質量はルナの前から失せ、その存在はかつての戦い同様にルナの後ろへと瞬間移動していた。

630記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:00:19 ID:7o6bAq7w0
「この間から強くなったかと思いきや……またしても10秒で片がつきそうね。それじゃあ……スタートアップっ!」
体育館内に響き渡るイッサの声。
その瞬間、低レベルながらも時空間を司る魔族としての能力が発揮され、彼女の体は今の時間概念を超えた超高速移動を実現させるのだった。
「ふふっ……スリー!」
イッサの一撃によって宙に飛ぶルナの竹刀。
「ツー!!」
間髪入れず、彼女の防具へと叩きこまれる『胴』の一閃。
その一撃に、ルナは思わず膝を立てて体勢を崩す。
「ワン!!!」
トドメの一撃と言わんばかりに炸裂する、頭部への『面』の一撃……のはずだった。
「……何?」
完全にルナの頭頂部へと振り下ろされていた竹刀。
だが、その竹刀から彼女の頭を守る存在があった……それは、宙に吹き飛ばされたはずの竹刀であった。
「何て運の良い……でも、胴での一本でまずは私の勝ち。もう一本取れば……。」
「フフフ……くっくっくっ……はぁっハッハッハ!!」
突如、防具越しに大笑いしだすルナ。
この光景にイッサだけでなく、他の部員たちも困惑するのみであった。
「……ど……どういうつもり?!」
「……。」
今まで見せたことのない、焦りの声をあげるイッサ。
だが、ルナは無言のまま第二試合へと突入する構えを見せる。
「……くっ、スタートアップっ!」
再び高速移動でルナの懐へと飛び込むイッサ。
そして、間髪入れずに彼女の持つ竹刀をまたしても吹き飛ばそうとする……が、常人の目には見ることのできない程のスピードで動いているイッサの
目の前からルナの姿はすでに消えていた……いや、その姿はイッサを上回るスピードで彼女の背後へとすでに移動していたのだった。
「何?!……!そこかっ!!」
背後の気配にようやく気づき、竹刀を振るイッサ。
だが、その一撃もルナにブロックされ、先ほどの戦いとは逆にイッサのほうが追い込まれていた。
「そんな……人間ごときが……。」
「十秒過ぎたようね。さあ……ショータイムだっ!」

631記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:07:42 ID:7o6bAq7w0
叫び声と共に、今度はイッサの懐へと飛び込むルナ。
一方のイッサは竹刀を構えるが、超高速移動を失った今ではただの人間でしかなく、ルナの気迫のこもった力押しにただただ押し込まれるのみであった。
「うぉおおおおっ!!」
「くっ……う……うわっ?!」
力比べに負け、バランスを崩すイッサ。
その瞬間、彼女の『胴』は無防備と化していた。
「胴っ!」
時空をも斬らん勢いでイッサの防具へと炸裂するルナの一撃。

その力は、一撃の強さを物語るほどの亀裂を防具に与えるほどであり、ルナがイッサに初めて勝利したことを証明するには十分すぎる物証となっていた。

「部長が……負けた……。」
「これで……互いにイーブン!」
ざわめきだす部員たち。
一方のイッサも、予想していなかった『自らの敗北』に冷静さを失っていた。
「こんなこと……受け入れられない!私は負けない……私は負けない!!」
「……どうやら、その表情を見ると……『現実を受け入れられない!』とか言ってる感じね?」
そう言って、面を外すルナ。
「ひとつ言っておくわ……私、体育館に入る前からこれを付けてたの。」
そう言うと、ルナは両耳に指を置き、何かを取り出すのであった。

それは、耳栓であった。

「部長……いや、緒地憑イッサ……私はある実験のためにこんな戦いを挑んだの。」
「実験……だと?」
「ひとつ……かつて、私はあなたに負けた。その原因は、あなたのその超高速移動能力もあるけど……一番の要素は、
 あなたの軽口に乗っかったことで冷静さを失ってしまった私。だから、あなたの口車に乗らないために、こんなお芝居じみたことをわざわざした訳。
 それともうひとつ……私なりに、今居る『偽りの未来』とあるべき『本当の未来の姿』を再確認したかったの。」
「……偽り?……本当の……姿?」
「あなたは言ったはず……私は、あなたが一年しか存在しない世界に『未来の記憶を持つ者』を呼び込むことで、未来の記憶を世界の意志のひとつとさせ、
 未来の時間を持った世界に変える……と。」
「……それがどうしたって言うの?!」
「そのためにお父さんは、あなたにとっての『都合の良い未来の記憶』を植えられ、その記憶から私はこの世界に誕生させられた……でもね?
 私、思ったの……人の記憶って結構曖昧な存在なの。だから……もし、自分にとって都合の良い記憶……
 つまり、自分の『想像』が世界の意志のひとつとして時間の中に取り入れられた時、 その意志が結果……
 つまり『未来』へと変化するんじゃないか……ってね?」

632記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:15:25 ID:7o6bAq7w0
「……まさか!では、私の攻撃を全て受け止められたのは……あなたの『想像』がこの世界の未来へとなった結果だとでも言うの?!」
「そうね……一回目に関しては耳栓をしていたから『面へ強烈な攻撃が来たら困る』と思ったの。その結果、吹き飛ばされた竹刀が狙い澄ましたように背面に落下し、
 偶然にもあなたの攻撃を阻止した。そして、二回目……無音の中で、空気の動きを感じつつ『敵に背後から攻撃を仕掛けられる前に、こちらが背後へと回るには?』
 『このあたりから攻撃が来るかも?』という想像を働かせながら戦った結果……私はあなたを上回る移動能力を一時的に得られ、
 そしてあなたからの攻撃も面白いように私の意図通りとなった……ってこと。アンダースタン?」
「嘘だ……嘘だ……嘘だぁああああっ!私は……この世界の支配者……こんな女の手の平に転がされるような……存在ではないっ!!」
大声をあげるイッサ。
だが、その言葉にルナは耳を貸さなかった……いや、貸す気など毛頭無かった。
「ようやく理解してくれたようね、自分の行ってきたことが人に及ぼす悪魔のような影響力を……だから、私はもう想像の力を使わない……これ以上、
 偽りの未来には留まらない!そう……ここからは私の……いや、『私たち』のステージだぁああああっ!!」
竹刀を構え、再びイッサの懐へと飛び込もうとするルナ。
一方のイッサも、冷静さを失いながらもルナの攻撃に答えようと突撃を試みる。
体育館の中央で激突せんとする二人の剣士。
だが、その二人の間を割り入るように乱入しようとする存在があった……それは、一匹のスズメバチであった。
「……!あ……危ない!!」
スズメバチの存在に気づき、声を荒らげるトリス。
しかし、ルナとイッサのスピードは一切減速する事無く、ついにはスズメバチを挟み込む形で体育館の中央で激突するのだった。

無音の体育館内に響き渡った、竹刀が防具を弾く音。
その瞬間、ルナとイッサの戦いに終止符がついた……が、外野からはどちらが勝者か判別できずにいた。
「どっちが勝った?!」
「……!」
何かに気づき、何かを指さす者。
その指先に示されていたのは……真っ二つとなったスズメバチの死骸、そしてその一閃が放たれたと推測される方向の延長戦にあったのは……。
「……何故……私が……。」
「……かつて、私のお父さんとお母さんが剣道勝負した際、今みたいにスズメバチが乱入してきたそうなの。
 その時、お母さんはスズメバチを撃退し、そこからお父さんへ攻撃しようとしたけど……残念ながら負けてしまった。」
語りだすルナ。
それと同時に、ルナから放たれた一閃を二度も喰らい、強度を失ったイッサの防具は崩壊を始めていた。
「もし、お母さんの敗北が『過去』とするなら……今の戦いが、自分なりの『未来』……『諦めない精神』……
 『どんな暗闇な未来が待ち構えていようとも受け入れ、それを希望へと導く』……そして、『強くなる』……それが私の未来だ!!
 想像の力で作られた曖昧な時間の流れではない、強硬たる真の未来の姿がこれだ!!!」

スズメバチを挟む形で二人が激突した瞬間、ルナは胴への一閃をする形でスズメバチを引き裂いた……だが、
彼女の攻撃はこれで終わりでは無かった。
彼女は一閃の勢いそのままに己の体を回転させ、胴への再攻撃……その結果、
ルナは新たな『未来』を手に入れたのであった。

633記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:20:09 ID:7o6bAq7w0
「……私の……せ……か……。」
バラバラとなるイッサの防具……いや、防具だけでなく彼女の体自体も崩壊を始め、
粉々となったイッサの体からは一人の『女性』が倒れこむように出現するのだった。
竹刀を放り投げ、女性を抱え込むルナ……彼女には女性の正体が既に分かっていた。
「……お母さん……おかえり……。」
「……ルナ……あなたが……未来の娘なのね……。」
涙をこぼす天江夕子。
そして、ルナも母親にようやく会えたことへの嬉しさから泣きそうになっていた……が、彼女らの背後に突如現れた、
只ならぬ気配に表情を変えるのであった。
「……そんな……まさか!」
母親を抱えたまま竹刀を右手で構えるルナ。
その竹刀の先に居たのは……先ほどまで応援団と化していたトリスやヒビキたちであった……いや、違う……
姿形は彼女らであったが、そこから発せられるマイナスエネルギーは完全に緒地憑イッサと酷似していた。
「『まだ、勝負は終わってないわ……天江ルナ。』」
「『この世界は私の物……無論、この者たちも私の物……。』」
「『例え、天江夕子の体を失おうとも……私の代わりはいくらでも存在する!』」
「……さあて……どうする?」
「このまま、軍門へと下るか?」
天江親子を囲む五人の格闘茶道部員たち。
その光景に、夕子も竹刀を手に構えようとするが、意識を取り戻したばかりの体には戦う力などほとんど残っていなかった。
「ルナ……あなたは逃げて……。」
か細い声で娘を守ろうとする夕子。
「お母さん!そんな体じゃ無理よ!!」
「『諦めない精神』……それが、雑津くん……いや、あなたのお父さんのポリシーであり……あなたのポリシーでもあるはず……
 そして……私のポリシーでもあるの……。」
「……でも……でも!」
「緒地憑イッサに体を奪われながらも……私はあなたの戦いを見てた……そして……あなたは自分なりの未来を掴んだ……
 それを確認できれば……それだけでお母さんは……この人生に感謝よ……。」
「!!!」
「『何をごちゃごちゃと……念仏なら、私に囚われた後にでも唱えていろ!!』」
一斉に襲い掛かる格闘茶道部員たち。
一方の夕子も娘を守るために竹刀を構えるが、手の力が入らず、そのまま己の体を盾のようにしてルナの前に立ち尽くすのだった。

振り下ろされる五本の竹刀。
全ての攻撃は標的を天江夕子に捕え、躊躇なく振り下ろされた。

……だが、彼女らの攻撃は夕子の体に当たる直前で止まっていた……いや、止められていた。

634記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:25:01 ID:7o6bAq7w0
「……!ルナ!!」
右手の感覚に気づく夕子。
その手は後ろに構えるルナによって夕子の手ごと竹刀が構えられ、またルナ自身も左手に竹刀を構え直すことで親子共同による二刀流を作り出し、
5本の竹刀から天江親子の体を守っていたのだった。
「お母さんも知ってるはずよ……私のポリシーは……『強くなる』こと!!」

響き渡る、ルナの魂の叫び。
その瞬間、彼女の声を合図としていたかのように、一曲の歌が体育館のスピーカーから流れだす。

それは、ルナがMP3プレイヤーで聞いているあの曲……そして……。

「これは……『英雄の詩』?」
「……!ルナ……あれ!!」
指さす夕子。
その目線の先では、音楽を聴いて苦しみだす格闘茶道部員たちの姿があった。
「『な……何だ……この歌は?!』」
「『私が……私で……無くなる……。』」
「『た……助け……て……。』」

「ルナ!夕子!!」
スピーカーから聞こえてくる男の声……それはルナの父である天江ライト……いや、本来の姿、そして本当の記憶を取り戻した雑津来人であった。
「お父さん?!どうしてここに……?」
「お前の残してくれたMP3プレイヤーだ!あれに、この『英雄の詩』が入っていただろう?」
「うん……でも、それが……?」
「あの曲は柚鈴天神社に古くから伝わる神事の曲であると同時に、偶然にも全く同じコードで発表された未来の曲でもあるんだ!
 『過去』と『未来』の両面を持つあの曲……それを偶然聞いたことで、自分自身の過去と未来を取り戻したんだ!!」
「あの曲に……そんな意味が……。」
「そんなことより!早く、緒地憑イッサに止めを!!」
「でも……どうやって?!」
「『あれが……苦しみの元凶か……。』」
割って入るトリス……いや、緒地憑イッサ。
「『ならば、あいつを……。』」
「『私の世界から……消す!』」
「……そうされちゃあ困るんだけどなぁ。」
「『……何?!』」
体を反転させ、粟手姉妹と天月オトナの体を抑え込む二人の影……それは、格闘茶道部員にされた神柚スズエと横嶋菜ココロ……
いや、神袖鈴江と魔王=横嶋菜心であった。
「『?!何故だ……貴様は私に消滅させられたはず!それに……どうして、お前は私の物とならない?!?!』」
「Исса……あなたに良いこと教えてあげる。」
「『……?』」
「『魔族と巫女さんは一日にしてならず』……ってね?」
「よーちゃん!何適当なこと言ってるのよ、『精神を支配されてたフリして、反撃の機会を待ってた』ってだけじゃない!!それよりも早く三人を!!!」
珍しく、鈴絵がツッコミを入れる。

635記憶の中の茶道部(最終回:前編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 18:30:48 ID:7o6bAq7w0
「リフレエクトゥ!レディ……オゥケェエイ!!リフレェエック!!!」
人の運命(さだめ)を勝手に決めそうな勢いのハイテンションで、三人の体へとエネルギーを送る魔王。
その瞬間、三人の体からは黒い結晶のような物が飛び出し、彼女らを元の姿である粟手トリス、粟手響、天月音菜へと戻すのだった。
「……あれ?私は何を……??」
「……!おい、何だありゃ?!」
「……!ルナちゃん!!」
叫ぶ三人……その目線の先には、人の形となった黒い結晶がルナと夕子に襲い掛かる光景が展開されていた。
「あれが……緒地憑イッサの正体……。」
つぶやく鈴江。
「くそっ……俺たちも天江を助けに行くぞ!」
「でも……どうやって?!」
「え……あ……えぇっと……とにかく、どうにかすんだよっ!」
「方法はあるわ。」
魔王が言う。
「どうやって?!」
問いかけるトリス。
その言葉に、今度は鈴絵が答える。
「粟手さん、天月さん……私たちが竜神祭に向けて練習してきた『英雄の詩』は、
 天江さんのお父様が言ったように『過去』と『未来』の音楽……その曲をあの悪魔にぶつければ、
 奴の中で固定化された時間は失われ、その存在は崩壊するはず!」
「な……何だって?!」
「でも……太鼓もギターもここには……。」
不安そうに話す響。
だが、魔王には秘策があった。
「チチンプイのぉ〜パッ!……ってね?」
指先で魔力を解放させ、何かを空間から呼び出す魔王。
それはサックス、エレキギター、和太鼓……まさに彼女らの『武器』であった。
「これは……あんたは何者なんだ?!」
「その説明は後!早く演奏準備、演奏準備っ!!」
「お……おう。」

-------------------------------------------------------------------------------------------

前編はここまでです。
後編は時間をおいてUPします。

636記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:31:51 ID:7o6bAq7w0
    , - 、
  ヽ/ 'A` )ノ スベテ ノ フクセン ハ
   {  /   カイシュウ デキタ デショウカ・・・?
   ヽj

----------------------------------------------------------------

一方、ルナ親子の立ち回りは今だ続いていた。
『体……世界……私の……。』
スピーカーから流れていた音楽が終わり、体育館内に響き渡る怨念のような声。
その声の主である、悪霊と化した緒地憑イッサが襲い掛かってくるのに対し、ルナと夕子も竹刀を手に攻防を続けるが、
いくら相手が体を失ったことで弱まっているとは言え、彼女らの耐久力は限界に近づいていた。
「何て……タフネスなの……。」
「よーちゃんさんが……言ってたわ……お母さん……魔族は……タフなんだって……。」
「……だからと言って……私たちが……諦める理由には……。」
「ええ……ならないわ……。」
「ルナ!夕子!!」
彼女らに助太刀するように飛び込む影……それは来人であった。
「お前たちはいったん退け!ここはお父さんに任せろ!!」
「そんなこと言われても……。」
「……!もしかして……雑津くん、『アレ』の場所が分かったの?!」
驚きの声をあげる夕子。
だが、来人の表情は少し曇っていた。
「いや……まだなんだ。だけど、『アレ』を探すタイミングは今しかない!俺があの悪霊を抑えてる間に……
 彼女らが演奏を終えるまでに!」
そう言って、後ろを指さす来人。
その先には、エレキギターを構える音菜、サックスを構える鈴江、そして和太鼓のバチを構える響の姿があった。
「よっしゃ!行くぜぇ!!」
エレキギターのサウンドを合図に展開される『英雄の詩』の生演奏。
その音を受け、再び悪霊は苦悶の声を発しながら狂ったように宙を舞いだす。
「お父さん、『アレ』って何なの?!」
叫ぶルナ。
その言葉に、代わりに夕子が答える。
「緒地憑イッサ……奴は自分の世界からこの世界へ移動する際、『時空転移装置』のような物を使ったらしいの。
 今、奴が別の世界で自分の存在を維持できているのはその装置があるからこそ……それを破壊できれば、
 あの悪霊を完全に倒せるはずなの。」

『水玉パンツは「繊細」』

突然、ルナの脳裏に響く緒地憑イッサの言葉。
「……まさか!?」

637記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:35:14 ID:7o6bAq7w0
「よし、これでフィニッシュだ!」
『英雄の詩』の演奏を完了させようとする音菜たち。
だが、曲の終盤に入ろうとした瞬間、それまで調和を保っていた音から和太鼓の音が消える。
「……!天月さん、ストップ!!」
「どうしたんです?!」
「……ダメです……どうしてもダメなんです!いつもここで間違える……どうしても演奏出来ない!!」
「粟手!しっかりしろ!!天江の親父さんが耐えてる間に、もう一回だ!!!」
「でも……でも……。」
臆病になる響。
だが、そんな彼女に割って入る存在があった。
「響ちゃん!」
「……お姉ちゃん?」
「私に任せて!あなたの練習を差し入れでサポートしてきた分、どこでどう間違えるか熟知してるつもり……
 だから、あなたの苦手な個所を太鼓の反対側からサポートしてあげる!!」
「なるほど!そいつは良い考えだ!!」
「でも……でも……。」
「ルナちゃんとルナちゃんのお母さんがコンビネーションを見せたなら……私たち姉妹もそれ以上のコンビネーションを見せるのがお返しってもの!
 やろう、響ちゃん!!」
「……分かった!私だって……強くなれる!!」
「おい!演奏はどうしたんだ?!」
聞こえてくる、来人の焦り声。
「……時間が無いわ。これがラストチャンスよ。」
「「「はいっ!」」」
号令をかける鈴江。
こうして、『英雄の詩』の演奏が再開された。

638記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:40:22 ID:7o6bAq7w0
「……あった!」
夕子、魔王と共に、茶室内にて『時空転移装置』を捜索するルナ。
捜索開始から数十秒ほどして、ルナの思い当たる『物』が彼女の目の前に姿を現した。
「ルナちゃん……本当に信用して良いの?」
母親とは言え、ルナの今回の提案に対して若干の不安を感じ、心配な声をあげる夕子。
だが、一方の魔王は真面目な表情を見せていた。
「確かに……もう時空を転移するほどのエネルギーは残ってないけど、この世界には存在しない波動を感じる……
 でも、どうして『これ』がそうだと?」
「『水玉パンツは「繊細」』……あの言葉が奴の妄言で無ければ……。」
「なるほど……よぉ〜し!魔王、こいつを暴走させちゃうぞぉ〜!!」
「「……え?」」
困惑する二人を余所に、『時空転移装置』にエネルギーを込める魔王。
その瞬間、『時空転移装置』に散りばめられた水玉模様は毒々しい光を発しながら、今にも爆発しそうな様相を呈していた。
「あとは……よし!竹刀に巻きつけて……完成!!頼んだわよ、ルナちゃん!!!」
「……ちょっと不安だけど……私、行ってきます!」

「もうすぐ演奏の前半が終了だ!ルナの親父さん、大丈夫か?!」
音菜が演奏しながら叫ぶ。
「ぐっ……まだ……何とか……。」
「しかし……まずいわ。天江さんのご両親が言う『時空転移装置』が破壊できなければ、あの悪霊はまだ倒せない……
 この歌はあくまでも封印のためであって、完全破壊するには……!天江さん!!」
ギターソロパート中に休憩していた鈴江が、竹刀に何かを括り付けたルナの姿に気づく。
「ルナ!……って、何だ?!そのパンツ括り付けた竹刀は?!」
『パンツを括り付けた竹刀』というRPGでも見たことが無いような『武器』を手に持つルナを見て、ギターを演奏しながらツッコミを入れる音菜。

だが、その『パンツ』……いや、『水玉パンツ』こそ『時空転移装置』であった。

「お父さん!今から、その悪霊ごと装置を破壊する!!スリー、ツー、ワンで悪霊を空中に放り投げて!!!」
「分かった!頼むぞ、ルナ!!」

「私たちももうすぐフィニッシュだ!響!!あと、響の姉ぇちゃん!!!準備は良いか?!」
「「ハイッ!」」

639記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:45:16 ID:7o6bAq7w0
「「スリー!」」
これまで悪霊を抑えていた力を抜き、わざと相手の体勢を崩させる来人。

「「ツー!」」
その直後、垂直に立てた竹刀を悪霊の下に潜り込ませ、来人は勢いまかせに竹刀を上へと突き上げる。

「「ワン!」」
突き上げた竹刀を再び床へ垂直に立てる来人。
それと同時にルナは走りだし、竹刀を足場に天高く跳ぶ。

「これで最期だっ!!!」

悪霊へと突き刺さる竹刀。
その体内へは暴走した『時空転移装置』が乱暴にねじ込まれ、悪霊の体内で火花を散らすのであった。

「お姉ちゃん!」
「響ちゃん!!」
響の失敗箇所をトリスがカバーしながら続けられる『英雄の詩』の演奏。
一方の音菜によるギター演奏、鈴江によるサックス演奏も終わりを迎えようとしていた。
「これで……フィニッシュ!!!」
ついに完成する、完璧な『英雄の詩』の演奏。
その瞬間、演奏完成への充実感に浸る間も無く、自分たちの居る地面の下から『何か』が飛び出そうとしている気配に鈴江は気づく。
「これは……まさか、この世界の……意志?」
演奏を終えると同時に、黄金のような光に包まれる4人の学生たち。
その光は一つの塊となり、そして空中で火花を散らしていた悪霊を包み込む。
『やめろ……やめ……ろ……や……め……。』
光に包まれ、その力を失う悪霊。
また、聞こえていた怨念のような音も次第に弱まり始め、そしてついには現れた光と共にその存在を失せるのだった。

こうして、緒地憑イッサと名乗る悪霊はこの世界から消えた。
それが、天江ルナの知る『格闘茶道部』の記憶であった……。

640記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:50:08 ID:7o6bAq7w0
「……さぁ、着いたわ。」
それから十数年後の世界……仁科学園の剣道部顧問となったルナは、老朽化した体育館が壊されるのをきっかけに、
一人の教え子へ『格闘茶道部』の思い出を自宅へ送るついでに話していた。
「先生……それって、本当の話なんですか?申し訳ないんですが……何だか創作っぽいなぁと……。」
教え子である仁科学園の生徒が答える。
「……『残念ながら本当の話よ、雑津ルナ……いえ、「天江ルナ」さん?』」
「……え?」
「『あのね、確かに「私」は……あの時、水玉パンツの暴走エネルギーで体の維持機能を失い、
 さらに変な歌に呼び寄せられた力で存在を失った。でもね……バックアップはちゃんと用意してたのよ、
 「天江ルナ」という存在を使ってね?』」
「先せ……!」
声をかけようとする雑津ルナ。
だが、彼女は気づいた……目の前に居る天江ルナ先生の姿に混じって、何者かの影が存在していることに……。
「『私は、雑津来人に未来の記憶を埋め込んだ際、自分の記憶も埋め込んだ……そして、天江ルナであり、
 緒地憑イッサでもある存在としてこの体を作り上げた。』」
今置かれている状況に恐怖し、車のドアを開けようとするルナ。
だが、ドアにはロックがかかっており、車は閉鎖空間と化していた。
「『そして、私は決めたの……もう、1年だけの世界で良い……もう未来なんて要らない……再び、あの世界を取り戻す……
 だから……未来の存在であるあなたを……消す!!!』」

「……はぁ〜い、それまでよ。」
突然、車内に響き渡る金属をノックするような音。
ルナ……いや、緒地憑イッサが音の方向を振り向くと、そこには二人の婦人警官の姿があった。
「そこの女教師さん、車に押し込んで子供をいじめるのは犯罪ですよぉ〜。」
「……ちょっとぉ〜、聞いてますかぁ〜?」
「『……フン。』」
車の窓ガラス越しに聞こえてくる、気の抜けた声。
しかし、イッサは無視し、ルナへと襲い掛かろうとする。
「……あのさぁ、『人の話はちゃんと聞く』って学校で習わなかったの?……って、魔族と妖怪には学校が無いっけ。こりゃ、うっかり。」
再び聞こえてくる声……だが、それは窓ガラス越しではなく、だれも居ないはずの後部座席からであった。
「『……!』」
声の方向を再び見るイッサ。
その方向には、先ほどまで外で気の抜けた声で話していた婦人警官の一人がくつろぐかのように後部座席に座る光景が展開されていた。

641記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 20:55:16 ID:7o6bAq7w0
「『ど……どうして?……まさか、お前は!』」
「ふっふっふ……ある時は美人用務員!また、ある時は美人警官!!その実態は……。」
「『くそっ!』」
「ちょ……まだ、名乗り終わってないわよ!!」
謎の婦人警官の口上を半ばに、車から逃げ出すイッサ。
だが、その逃走をもう一人の婦人警官が、竹刀片手に引き留める。
「待ちなさい!『娘』の体を奪った窃盗容疑で逮捕よ!!」
「『何だと……貴様らは?!』」
「その前に……ルナちゃん!」
「『何……?』……待ち続けて早十数年……待ってましたよ、この瞬間を!『……!そ……その声は……。』」
意図しない言葉を放ち、慌て出すイッサ。
だが、『体の持ち主』である天江ルナが全身に力を込めると、
彼女の体からはまるで蒸気が噴き出すかのように緒地憑イッサの正体である悪霊の生き残りが現れるのだった。
「夕子ちゃん!お願い!!」
車の窓から顔を出し、大声をあげる婦人警官=魔王。
その言葉を受け、もう一人の婦人警官に扮していた天江夕子は一枚の『紙』を取りだし、悪霊に向けて放り投げる。
『な……何だ?!……!わ……私の……か……ら……。』
水を吸い込むかのように、紙に吸い込まれる悪霊。
そして、紙に全てのエネルギーが吸い込まれたのを確認すると、魔王はその紙を拾い上げるのであった。
「ふぅ……さすが、柚鈴天神社の悪霊退散のお札ね。グンバツの効果だわ。」
ポツリとつぶやく魔王。
その後、何が起こったのか理解できない表情をした雑津ルナが車の外へと現れ、彼女らへと問いかける。
「……お母さん……その恰好……何?」
「ちょっとね……まあ……コスプレ?でも、ちょっとカッコいいでしょ?逮捕しちゃうぞ!……ってね。」
「……。」
年甲斐も無くポーズを決める天江夕子……いや、雑津夕子。
しかし、ルナは特に返答することなく、今度は天江ルナへと問いかける。

642記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 21:00:23 ID:7o6bAq7w0
「先生……あなたは本当に……天江先生ですよね?」
「ええ、今はね。外見も中身も天江ルナ……確かに奴の言うとおり、私の体には『緒地憑イッサ』としての因子が残っていることが後になって分かった。
 そして、奴は未来を奪うため、本来の『未来の私』であるあなたを消そうと画策していた。」
「でもね……そこを私が裏で手助けしてたって訳!」
魔王が話に割って入る。
「奴を倒した後、わずかながらルナちゃんの体から奴の波動が感じられたんだけど、状態としては冬眠に近かったから、あえて泳がし、
 なおかつルナちゃんの意識が支配されないよう、私のエネルギーを少なからずルナちゃんに送ってた。そして……今に至ると。」
「先生……私は……本当に『天江先生の未来』なんですか?」
「いいえ……確かに、あなたは母である天江夕子、父である雑津来人の娘として生まれた……ただし、私の知っている世界と違って、
 お父さんは婿養子にはならなかったみたいだけど。だから……あなたはあなた。『パラレルワールドの私』ってな言い方もできるけど……
 教え子に難しい説明をするのは野暮よね。だから、あなたはあなた!それで良いじゃない?」
「先生……。」
「来月、あなたは仁科学園の中等部に進学し、その過程で部活動を探すはず……でも、もうあの時のように『格闘茶道部』は存在しない……
 昔の私のように剣道部を探すも良し、別の部活動を探すも良し、あえて帰宅部になって勉強に専念するも良し……
 何にせよ、自分流の道を探しなさい。」
語りかける天江ルナ。
そして、自分の伝えたかったことを雑津ルナに伝え終えると、魔王と共に車へと乗り込むのだった。
「先生……どちらへ?」
「さぁね……一応は、自分なりの世界を探してくるわ。でも、その前に……ね?」
「ええ、この悪霊を封印したお札を時空間の奥底にでも押し込めてくるわ……もう二度と、こんな面倒な事件が起きないためにもね。」
そう言いながら、助手席のシートベルトに手をかける魔王。
「ルナちゃん……。」
「……お母さん、本当の私を……お願い。」
母と言うべき存在であった雑津夕子の言葉を聞き、車のエンジンをかけながら答えるルナ。
「じゃあね!」
夜の闇の中で、ルナの精一杯な明るい声が響く。
「さて、行きますかね?」
「そうね……あ!その前に明治時代の柚鈴天神社に行かなくちゃ!!今に至るまでの歴史を作るために、
 この『英雄の詩』を鈴絵ちゃんの曾お爺さんに伝えてこないと!!!」
そう言って、手元に握られたルナのMP3プレイヤーを振りながら見せる魔王。
「そうね……了解ぃ!それにしても、未来の記憶の中に存在してた曲が過去の曲でもあった理由が私とよーちゃんのせいだったとはね……。」
闇夜に大きく響く車のアクセル音。
しかし、その音もすぐに消え、車の姿もあっという間に暗闇の中へと消えるのだった。

643記憶の中の茶道部(最終回:後編) ◆n2NZhSPBXU:2015/02/15(日) 21:05:55 ID:7o6bAq7w0
「私の……本当の……未来。」
「……行こう、ルナちゃん。お父さんも、お腹を空かせて待ってるから。」
「……うん!……でも、その前に良い?」
「何?」
「……あんまり、人前でコスプレとかしないでね。何と言うか……娘として、恥ずかしい。」
「え〜、いーじゃない〜……アヌビス星人ドギー・クルーガー!ジャッジメント!!でぇ〜でぇえええん!!!
 ……なんてね?」
「……。」

それから一か月後、雑津ルナは仁科学園に新たに設置された仮設体育館の前に居た。
「……ここ……だよな?」
左手には竹刀、右手にチラシ、そして右肩には道着と防具が入った袋をかけた出で立ちで、体育館の前に立つルナ。
「『剣道部員求む』……か。村の剣道大会で優勝経験のある私にとっては願ったり叶ったりの部員募集ね!
 ……とは言うものの?」
部員募集のチラシを再確認した後、チラシを左手に持ち替えて、体育館の戸をゆっくりと開ける……が、
時間的にはどこも部活動を行っている時間にもかかわらず、体育館の中は静寂を保っていた。
「『剣道部 水曜夕方と土曜午後より体育館で絶賛練習中』……って、全く人の気配が無いんですけど。」
チラシにツッコミを入れるルナ。
『とりあえずは教職員に確認を取ろう』と考え、体育館を後にしようとした…その時であった。
「……!」
いきなりの出来事に対し、彼女は『気配』をまるで『殺気』のように感じ取ってしまい、
おもわずルナはチラシを投げ捨てて竹刀を構える。
「誰?!」
誰も居ないはずの体育館に響き渡る彼女の大声。
しかし、その『気配』は彼女の問いかけに一切答えることは無かった……が、
自身がどこに存在しているかについては強いプレッシャーで彼女に伝えていた。
「……!あそこか。」
プレッシャーが発せられている方向を見るルナ。
その目線の先には……。

おわり

--------------------------------------------------------------

以上で『記憶の中の茶道部』としての物語は終了です。
wikiのほうへは、後日人物設定等も含めてUPさせていただきますので、よろしくお願いします。

駄文失礼しました。

644 ◆n2NZhSPBXU:2015/02/16(月) 23:22:29 ID:2CpqsyvE0
一応、wikiのほうをいじってみました(人物関係)。
文章は量が多いので、後でにします。

ところで、wiki見て気になったことについて。
「桐谷 広海(きりや ひろみ):他校の中学三年生」となっているのですが、仁科学園の学生の項ではなく、
『???』のカテゴリーに入れるべきでは?と思ったのですが、どうなんでしょうか?

645名無しさん@避難中:2015/02/19(木) 22:11:00 ID:pGsCTwRE0
>>624
ニシトちゃんをください!
仁科のなかで一番女子高生してる…と、個人的感想だっ

>>644
完走乙だじぇ!
で、桐谷 広海(きりや ひろみ)ちゃんは…そのままでもいいんじゃね?
ってか、書いてみたいんだけど?

646 ◆n2NZhSPBXU:2015/02/21(土) 01:11:00 ID:LxqGAcOI0
>>645
読んでいただき、ありがとうございます。
とりあえず、wikiのほうも修正しました(桐谷広海についてはそのままです)。

>ってか、書いてみたいんだけど?
私の場合、雑談スレでの戯言が本作に繋がっていたりするので、思いついたらとりあえず書いてみるのはいかがでしょうか?

647わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/03/15(日) 19:26:52 ID:CA/aW7Kg0
>>624
ニシトちゃんにケモ耳つけたい。
尻尾もつけたい。
そして、はたか(ry

ちょっとすぎたけど、季節ネタ。

 今日は13日の金曜日だから不穏な空気が流れるとクラスの男子はざわついているが、都合のよいことは起こらない。と、信じている。
 女子中学生も板に付いたし、そろそろ大人の螺旋階段を踏み出す歳なのに、そんなやつらに付き合うほど幼くないし。
 学校へと向かう際、お兄ちゃんも同じようなことを騒いでいたが、振り切って家を出たわたしはちょっと賢いかも。

 「亜子も背後には気を付けろよ」
 「はぁ?」
 「でも、ジェイソンが爪を伸ばしてきても、俺が助けてやるから安心しろよ。マイシスター」

 わざとお兄ちゃんの声を背中にして、雲ひとつない弥生の空を駆ける。
 わたしたちの学び舎が青空に光り輝くように聳え立つ。
 一瞬の青春を過ごす、わたしのステージは教室。
 今朝のシーンを振り返りながら、わたしは椅子に深く腰掛けていた。

 恐怖の大王が降ってこようとも、終末論を並べようとも、ホラー映画のような戦慄の展開が起きようとも、
わたしたちには素敵な明日がある。馬鹿兄貴の戯言を拭い去るつもりでわたしは図書館の本をスクバから取り出した。
 席に座って文学少女を気取って、ちょっと無理して分厚い本を捲っていると、クラスメイトの鼎ちゃんが目を丸くして
わたしの本をかっさらった。

 鷲ヶ谷鼎ちゃん。『わしがやかなえ』ちゃんだ。
 難しい字が並ぶ仰々しい名前とは裏腹に、ショートカットな藍色の髪と大きな瞳が印象的な女子中学生だ。

 「どうしよう。いよいよだよ」

 健康的な声を張り上げて、鼎ちゃんはくるくると指を回していた。
 何にあわてふためいて、誰に救いを求めて、ジェイソンの襲来に戦く男子にも匹敵する動揺ぶりだ。

 「そうね……。でもさー、本当の恐怖ってのは結局人間なんだよね」
 「え?」
 「だって。全ては人間が作ったものじゃない」

 鼎ちゃんは大きな瞳を丸くさせて人差し指を立てたままかたまった。なにかおかしいことを言ったのだろうかと不安だ。

648わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/03/15(日) 19:27:13 ID:CA/aW7Kg0
 「でも、鼎ちゃん。それって、素晴らしい発明だと思うよ」

 再び少女の煌めきを取り戻し、ぴょんと羽上がった鼎ちゃん。

 「男子から何もらえるかなぁ。ほら、明日」

 わたしは机に腰掛けて最強議論を重ねている男子をちらと一瞥した。期待するだけ無断だけど、明日はホワイトデーだし。

 「結城凱みたいなワイルドな人から……だなんて、無理かなぁ」
 「誰?どこのクラスの子」
 「ちっちっち。ブラックコンドルだよ。伝説となった『鳥人戦隊ジェットマン』だね」

 ちらほら聞こえてくる男子の会話に胸ときめかせて、鼎ちゃんはちょっと昔の戦隊物に想いを寄せていたのだった。

 「でさあ、鼎ちゃん。ブラックコンドルとジェイソン、どっちが強いの?」
 「亜子ちゃんって、男子みたいなこと言うね」

 少年のような瞳で鼎ちゃんはけらけら笑っていた。


   おしまい。

鷲ヶ谷鼎ちゃん、お借りしました。亜子ちゃんも!
http://www15.atwiki.jp/nisina/pages/132.html

いもうとキャラ。
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/929/ako_kanae.jpg

649名無しさん@避難中:2015/03/23(月) 04:41:04 ID:8KDkuq7k0
>>644
完結!乙でしたあー。キャラ豊かで見てて楽しかったです!
自分も書いてみたいなあ…
>>647
乙!!!!
うおおついに明らかになった鷲ヶ谷妹。あの姉してこの妹アリって漢字だ。
そして亜子ちゃんは相変わらずかわいいなあ…絵もいい…素晴らしいです。

650名無しさん@避難中:2015/03/23(月) 04:44:31 ID:8KDkuq7k0
ところでここの先生方or大人たちはどうして右も左も変な人ばかりなのだろう…
一番まともなのは誰かな。白壁せんせー、真田せんせーあたりかなあ

651名無しさん@避難中:2015/03/24(火) 07:56:21 ID:iFB84EH60
真田もあの美人姉妹がいるだけでへ(ry

652名無しさん@避難中:2015/03/24(火) 12:33:22 ID:Aeq9ZLsc0
やもりたんも相当際どいぞw

653名無しさん@避難中:2015/03/24(火) 22:33:43 ID:TMD9k8lw0
残るは茶々森堂の給仕さんですよ。
猫目かわいいし

654名無しさん@避難中:2015/03/27(金) 12:32:05 ID:G0KU9sqA0
黒髪多いね。鈴絵先輩とか

655名無しさん@避難中:2015/04/29(水) 10:01:45 ID:PQXe7UHs0
例の紐

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/939/a+string+in+question+ako.jpg

656名無しさん@避難中:2015/04/29(水) 10:58:43 ID:G39.0eYo0
……ふぅ

657名無しさん@避難中:2015/04/30(木) 03:03:39 ID:fq8UkTR.0
ぴたごらすいっちw

658名無しさん@避難中:2015/05/04(月) 17:11:47 ID:UmJ1Crv60
ちこくするー!
わお?わ、わおおおおおおん!

http://download4.getuploader.com/g/sousaku_2/944/shinobu_wanwan.jpg

659:2015/05/15(金) 11:25:16 ID:6NFKM1D.0
ぬこぽ

660名無しさん@避難中:2015/05/15(金) 12:49:43 ID:VZIow.Ls0
にゃ

661名無しさん@避難中:2015/05/16(土) 06:42:01 ID:rOit8wLk0
後輩「ぬこぽ」

662名無しさん@避難中:2015/05/17(日) 22:48:18 ID:zZB0mHfI0
あかね「ぬこっぽ?」

663名無しさん@避難中:2015/05/18(月) 00:03:11 ID:f9nHwNx60
亜子「に……にゃー……?」

664名無しさん@避難中:2015/05/19(火) 07:59:16 ID:CJtgDXaE0
こんこん

665名無しさん@避難中:2015/05/19(火) 11:10:35 ID:tmCZ4m2k0
【急募】狐キャラ

666名無しさん@避難中:2015/05/19(火) 12:11:34 ID:x7ZQ0ezs0
キツネと言えば…

667名無しさん@避難中:2015/05/19(火) 22:24:26 ID:KcMe3xpE0
狐キャラ>神秘的、近付きがたい、そしておっぱ…

668名無しさん@避難中:2015/05/21(木) 10:02:11 ID:x5r/blvk0
隠れ巨乳は多そうだけど巨乳がウリのキャラが居なかった

669名無しさん@避難中:2015/05/21(木) 20:31:36 ID:38Q6zTz.0
>>665
http://download4.getuploader.com/g/sousaku_2/954/suzue_fox.jpg

人口比は隠れ巨乳<<ロリ体型なのが学園スレです。はは

670名無しさん@避難中:2015/05/25(月) 01:35:50 ID:3zOonr1I0
おっぱい!! おっぱい!!!!!

671わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/05/30(土) 10:31:04 ID:qUpb/Q7k0
本スレのお題「教師」から。


 『さなだけ』

 
 台所で忙しそうにしている妹のアリスの目を盗んで、ちょっくらタコさんウインナーを失敬してみる。
 思った通りに目を丸くしてお冠なアリスの気持ちとは裏腹に姉のウェルチが破顔した。

 「一匹ぐらいいいじゃん」
 「お姉ちゃん!」
 「もう一匹いい?」

 いやいや、アリスは本気。

 ウェルチはタコさんウインナーを胃の腑に収めると、重そうなリュックを肩にくるりと踵を返していた。
 これからお出掛けだ。部活の朝練に向かうのだ。体を動かすには丁度いい季節になってきたねと、ウェルチは光を浴びた。

 朝の光はすこぶる気持ちが良い。この恩恵に文句をつけるとならば、どんなヤツだ。
 たとえば……真田アリスだ。

 いくらゆすぶっても起きない姉に愛想を尽かし、朝食とお弁当を準備していたアリスだ。
 だからせっかくのタコさんウインナーをちょろまかされたならば、歯軋りしてさわやかな朝を台無しにしなくてはならないだろう。
 フランス人形のように整った顔だちもこれではもったいない。

 呆れるアリスを尻目に、春眠暁を覚えずの故事そのままに、朝寝坊をしたウェルチはいつもよりの倍速で靴下を履いていた。
 アッシュブロンドの髪をポニーテールに結んでいるウェルチが台所で跳ねると、春の草原かのような風が吹いた。

 朝の光はすこぶる気持ちが良い。この恩恵に感謝しているのは、どんなヤツだ。
 たとえば……真田ウェルチだ。

 体育会系を絵にしたウェルチに『細かいこと』という文字は存在しない。
 木漏れ日も目を覆いたくなるぐらいの日光に変えてしまう魅力を持っている。

 「アリスは朝から励むね」
 「お父さんの分も作ってるんだから」

 同じくアッシュブロンドの髪を持つアリスは炒り卵を掻き回す手を止めて、壁の時計を一瞥するとそろそろ出掛ける時間だと言う。
 日曜日の朝だというのに何かとくるくる目が回る。

 重そうなリュックを背にウェルチはスカートを叩きながら今朝の出来事を思い出した。

 「お父さん、もう出掛けたんだけど……アリス、知らなかったの?」
 「え?これ、お父さんの分も作ってるのに」
 「ザンネンね」

 ウェルチとアリスは姉妹だ。明暗別れた表情が左右非対称に並んだ。
 出来上がった炒り卵を二つの弁当箱にきれいに詰めるアリスは貰い手のない我が子の行く末を案じていた。

672わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/05/30(土) 10:31:31 ID:qUpb/Q7k0
 「アリス。そろそろ出るね。朝ご飯は……いいや!遅刻遅刻!」

 真っ白なブラウスに空色のリボンとスカートがさわやかに。制服姿のウェルチがアリスを急かして玄関へと向かった。
 日曜日だけど、部活の自主練習へ行くと言うのだ。ちょっと!とコンロの火を止めて、慌てて仕上げたお弁当を手に
アリスが後を追うと、ウェルチは玄関でスニーカーの靴紐を結んでいるところだった。

 「聞いてなかった?『明日、美術部に顔を出さなければ』って、お父さんが言ってたの」
 「そうだっけ?多分、本を読んでたからかしら。丁度、ダイイングメッセージの解読するシーンだったし」
 「何か、お父さん。すごく張り切ってわよ。ってか、いってきまーす!!」

 ひょいとアリスから弁当箱をひったくると、ウェルチはグーサインを突き出してポニーテールを揺らした。自信に満ちた
ウェルチのすまし顔が朝からやけに目に焼きつく。とにかく前向き、ポジティブに。たかが、靴の紐を結ぶことでさえも
見るものに明るい未来を与えてくれるのだ。寝間着のアリスは読みかけの推理小説の粗筋を思い出しながら姉を見送っていた。

 「お父さんの仕事に対する情熱は自慢でもあるし……」

 二人の父親は教師だ。
 二人が通う高校の美術教師を勤めている。故に、美術部の顧問も同じく勤めているのだ。
 自宅には父親の作品が狭しと飾られている。繊細で、色鮮やかな筆遣い。細かく描かれた木葉に背景が良い例だ。
アリスは父親の描いたセキセイインコの絵を眺めつつ、弁当箱を抱えていた。勿論、父親の分だ。アリスは複雑な気分だった。

 こうも少女的なタッチを描くのに、クラスのみんなは父親……つまり、美術教師・真田基次郎のことをゴリラと呼ぶのだろう。
 さらに口の悪いヤツは画廊原人とも呼ぶ。そんな父のあだ名をBGMにして学園生活を送っているのはアリスには心苦しいことだ。
 でも、ウェルチに言わせれば「これだけ慕われていることよ」と。姉のフォローに納得しつつ、父の口を喜ばせることに全力を注ぐ。

 「さてと……あと一品作ってみるかな」

 台所のアリスは鍋で塩水を沸騰させると刻んだアスパラガスを投入した。

 にぎやかで、騒々しいクラスだけど、読書の静の時間とクラスでの動の時間がアリスには世界を感じるのだ。
 もちろん、姉のおかげ。そして、父のおかげ。

 そう言えば、クラスメイトに迫という男子がいた。
 演劇部の部長を勤めている。彼の後輩たちが迫を囲んでわんわん騒いでいるところを目撃したことがある。

 「だから言っただろ。言霊はその分自分に返ってくるんだ」
 「わおっ。迫先輩はオトナですっ」

673わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/05/30(土) 10:32:01 ID:qUpb/Q7k0
 アリスは一緒にいたウェルチと共に「まだまだ子供みたいだよね」と一歩引いていた。

 オトナっていうのは……。
 お父さんみたいに包容力があって。
 お父さんみたいに行動力があって。
 お父さんみたいに逞しくって。
 お父さんみたいに……繊細で。

 一言で言えばゴリラだ。

 聞くところによると、ゴリラは家族を大切にする生き物らしい。
 迫にはまだ、ゴリラの風格など備わっていないと、アリスとウェルチは口を揃えた。

 茹で上がったアスパラガスを湯から摘み、ベーコンを巻いて炒める。簡単だけど豚肉と野菜の食感を同時に味わえる
春の一品がバターの香ばしいにおいとともに出来上がった。

 「さてと」

 家に残った弁当箱に詰め込んで、台所で一人制服に着替え始める。
 こっそり覗いているのはセキセイインコだけ。但し、絵だけど。


     #


 お日様が眩しいぐらいな角度で上がってきた頃、アーチェリー部の射場ではウェルチが額に汗をかいていた。

 上手くいかない日は原因は他にあるはずだ。近距離なのに点数の伸びが芳しくない。
 五点、六点をさ迷って金的になかなか命中しないもどかしさ。
 フォームが悪いのか、クリッカーの音が良くないまま打ってしまうのか。チェストガードがいつもよりきつく感じる。
 食べ損なった朝御飯はアリスが作ってくれた弁当で済ませたからか、お昼への希望が途絶えたのが原因か。
ラストの一射を構えるとサイトの先が滲んで見えた。

 集中力が途切れそうなのを堪えていると、不思議な声が聞こえる。
 意識がどこかに行ってしまったのか。
 いや。違う。

 「お姉ちゃん。来ちゃったんだけど」

674わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/05/30(土) 10:32:26 ID:qUpb/Q7k0
 射場で妹の声を聞くとは思わなかった。
 ピンクのスクールベストで清潔感溢れる制服姿のアリスが弁当箱を持った救世主。
 無言でフォームを保つウェルチはカチッとクリッカーを鳴らすと、そのまま矢をリリースした。
 吸い込まれるように金的に突き刺さった結末に、ウェルチは久方ぶりの安堵を覚えた。

 「お姉ちゃん !」
 「アリス?よく来たね」

 弁当箱を掲げたアリスは朝のウェルチのようにグーサインを突き上げていた。
 今、ウェルチには弁当箱が財宝が詰め込まれた箱にも見えた。手を伸ばせばあり付くことが出来るお昼ご飯を自分の手で
逃してしまったウェルチにはウン億の価値にも見えるのであろう。
 しかし、これは……。

 「お父さんの分、持ってきたんだけど」
 「わざわざ?そっかー。わたしのお昼ご飯かと思ったのになー」
 「お姉ちゃん、お弁当渡したでしょ?」

 先に食べてしまった……という告白をアリスへ。
 イエス様の像の前で跪く迷える子羊。
 天のお許しを。
 愚かなわたしに裁きを。
 
 「お父さんも姉ちゃんも、部のことになると夢中になるから」

 さすが、我が妹。
 感極まったウェルチはアリスのことを尊敬の眼差しで見上げると細い手首を握り締めた。
 双子だから、自分と同じものを持っていると分かっているのに、触ってはいけないか弱い古美術のような感触がするではないか。

 「お姉ちゃん……」
 「アリス。

 初めて来るアーチェリー部の射場に飲み込まれそうなアリスだ。
 強引でもいい。こういうタイプはちょっと押しが強い方が効き目がある。ウサギのような勢いで姉は妹の手首を引っ張った。

 「よし。お父さんのところへ持って行こう!そして、何かごちそうしてもらおうかな」

 ウェルチは弓具を仕舞うと、片手でタオルで汗を拭った。
 アリスは王子様との夢を見ているようだった。

 美術室への廊下が朝の光よりも眩しい。

675わんこ ◆TC02kfS2Q2:2015/05/30(土) 10:35:19 ID:qUpb/Q7k0
      #


 「よく見て感覚を掴むのだ。この肉体美」

 真田基次郎は美術教室で自慢のバリトンボイスを響かせた。
 言うならば、動物園の檻をやぶってのこのこと現れてたゴリラがマンティングを披露しているかのようだった。

 デッサンは基本のキ、コンテと食パンを手にカンバスに命を吹き込め。真田基次郎の美術論は『動を静で表せ』だ。
 真田基次郎は今日に限って男子ばかり集めてみた。いわゆる実験かもしれない。男同士がぶつかりあうことで
ちょっとした化学反応を狙ったものだ。

 「台、ポーズの要望はないか」
 「せんせー。臀部を見せてくんねーかな。臀部」
 「おお。大事だな。臀部」

 机の上でくるりと回った真田基次郎は、まるでゴリラのように野性の構えを部員たちに見せつけた。
 ビキニパンツ一丁で余すとこなく部員たちに肉体を提供する男気。隆々とした腕っぷし、均整の取れた胸板、締まりのよい尻。
 ダビデの生き写しか、はたまた生まれ変わりか。

 真田基次郎は午前の光の中、まるでゴリラと化していた。
 ゴリラは優しき生き物だ。
 生徒たちの要望を聞き入れることはゴリラの使命だ。
 恥ずかしいことなど、一切無い。ゴリラは勇敢だから。

 「せんせー。あのー……正面のデッサンしたいんすが」

 手を伸ばしている男子生徒の願いは聞き入れなければならぬ。
 少年は宝なり。

 「おお。大切だな」
 「パンツ脱いでくれねーかな」

 真田基次郎がパンツのゴムに指を掛け、ゆっくりと太ももへとずりおろすカウントダウンを頭の中で始める。
 いいか。これは芸術だ。
 芸術は素直でなければならない。
 目の前のものを受け入れなければ、愚直にはなれない。
 いくら芸術を愛する詩人が「手術台の上でミシンとこうもり傘が不意に出会った美しさ」を語ろうとも、全ての根源を知らなければ
その美しさを感じることが出来ないのだ。

 だから、裸を恥じることは無い。
 なぜなら、自分はゴリラだからだ。
 ゴリラが自然に帰るだけだ。
 すっとビキニパンツと太ももの間に空気が流れる。
 覚悟のまま腕を下ろそうと心臓を爆発させたと同時に、教室の扉が全開し聞き慣れた声がユニゾンで響いた。

 「お父さ……」


おしまい。


アリス・ウェルチ「おとうさんと!」
http://download5.getuploader.com/g/sousaku_2/956/sanada_ke.jpg

676名無しさん@避難中:2015/07/11(土) 18:22:11 ID:rUkvh49k0
黒鉄亜子「ふう…静かだなぁ」

677名無しさん@避難中:2015/07/24(金) 18:22:29 ID:MiwpXE/A0
ぬこぬこぽっぽ

678名無しさん@避難中:2016/02/11(木) 21:34:37 ID:oVkR80C60
ぬこんぽ

679名無しさん@避難中:2016/02/12(金) 01:37:06 ID:pr1cQH5Y0
にゃぁ

680名無しさん@避難中:2016/02/13(土) 07:39:56 ID:IQf2.In60
ぬこわんっ

681名無しさん@避難中:2016/02/25(木) 22:17:56 ID:LPYEHd560
>>675
部活って・・・いいよな。青春している感じがする
ゴリラのような人間なのか、人間のようなゴリラなのか
それを判断するには僕たちはまだ幼すぎる

682先輩、スパゲッティプログラムです!:2016/02/27(土) 00:06:23 ID:jxyxOJPU0
投下・・・するんじゃない?

683先輩、スパゲッティプログラムです!:2016/02/27(土) 00:07:20 ID:jxyxOJPU0

「先輩!! ……別に呼んでみただけです」
「返事してからバラせよ」

 アホの後輩が今日もアホで安心する。
 俺と後輩が繁華街の洋食屋で席を同じくしているのはデートでも何でもなく、たまたま
の偶然だった。少なくとも俺の認識ではそうだ。

「このお店スパゲッティが美味しいんですよ」

 ずいずいと断りもなく相席する彼女には閉口するが、まあ四人掛けのテーブルを一人で
占領するのは心苦しいので、ちょうど良かったといえば良かった。

「先輩はスパゲッティのことをスパゲッティって呼ぶ派ですか? パスタって呼ぶ派?」
「基本的には、スパゲティ、かな」

 スパゲティはパスタの一種にすぎない。

「……」
「……」
「お前は?って訊き返してくれないんですか?」
「さっきごく自然にスパゲティって言ってたじゃないか」
「あれは……口からついです。ふ、普段はパスタって呼んでますよ? いかにもオシャレ
で、女子力ありそうじゃないですか? 結婚したくならないですか?」
「そうかな……」

 どっちでもいいと思う。

「でも、たらこスパはやっぱりたらこスパじゃないとですよね。たらこパスタなんて呼ん
でたら百年の恋も冷めます」
「たらこパスタ」
「あっ、店員さんすみませーん! たらこスパ一丁ぉ!」
「かしこまりぱすたー!」

 百年の恋が早く冷めて欲しい俺は間髪入れずに言ったのだが、オリーブオイルまみれの
スパゲッティのように後輩の右耳から入って左耳に抜けていった。
 ……地味に店員もおかしかったが、ツッコむのはよそう。どうせただの変な語尾を操る
程度なら、後輩のおかしさのほうが絶対おかしい。

「先輩は何を頼んだんですか。交換しましょうよ。唾液ごと交換しましょう」
「食欲が失せるから。ピラフだよ。えびの」
「焼き飯ですか」

 すごい女子力低そうな言葉出た!

「いや、ピラフは焼き飯じゃないだろう。ピラフとチャーハンと焼き飯は全部作り方が違
うはずだ」
「……そ、そうなんですか? 精進します。今日から武者修行です」

 花嫁修業じゃないのか?と言い掛けたが、藪を突いて蛇を出す行為と思い留まる。
 怪しい話題の取っ掛かりを察知して潰しておく、このへんの判断がこの子と先輩後輩付
き合いしていくコツだ。

684先輩、スパゲッティプログラムです!:2016/02/27(土) 00:08:26 ID:jxyxOJPU0
「はーいピラフ、お待たせしぱすた!」
「あ、どうもです」

 会話が途切れたちょうどいいタイミングでウェイターが料理を運んで来る。
 とたんに、後輩が目から嘘っぱちの涙を飛ばしながら叫んだ。

「そんな先輩! ここは私に構わず、どうか先に召し上がっててください!」
「……待ってるつもりだったけど、なんかムカついたからもう食べるわ……」
「そんな先輩!」
 
 どっちだよ。

「すじこスパゲティのお客様ー」

 俺の記憶が確かならこの席にはいなかったと思うが、魚卵がアホほど盛られたスパゲテ
ィが後輩の前にデンと置かれる。
 「わぁ美味しそう!」などと手の平を合わせて感激している後輩に、「お前の注文はた
らこだっただろ」と俺はものすごく言いたかったのだが、それを言ってどうなると思い直
して我慢した。
 ウェイターがそっと耳打ちしてきた。

「旦那、タイミング、合わせておきぱすた……ぜ!」

 自分の仕事によほど自信ありげに去っていくウェイターを、俺はじっとりとした半眼で見送った。
 ……オーダー間違えたくせに。

「ね、ね、ピラフ! 先輩を一口ください。代わりに閑花ちゃんあげます」
「黙って食えすじこ」

 ピラフは大変美味しかったのだが、何だかひじょうに疲れてしまった俺は、自分は二度
とこの愉快な店の暖簾をくぐることはないだろうなと思ったのだった。



 おわり

685先輩、スパゲッティプログラムです!:2016/02/27(土) 00:10:33 ID:jxyxOJPU0
おわり。リハビリがてら
学園でも何でもないけどな!

もう自分のトリを忘れてしまったですよ

686名無しさん@避難中:2016/02/27(土) 01:11:30 ID:TiE3xva60
きたー

687名無しさん@避難中:2016/03/01(火) 01:21:40 ID:OI5hyDBM0
仁科周りの飲食店はなぜ妙なところが多いのかw

688わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/03/19(土) 06:31:50 ID:Udj/fLyA0
 『たらこに☆スパに☆つなわたり』

  唄・後鬼閑花

 おまたせしました あっつあつ! 
 当店自慢のたらこスパ!
 ちょっぴり塩味アクセント! ほかほかつるつる星三つ!

 四六時中いつも考えている
 この一品をお届けするとき もしかしてもしかして
 もっともっともっともっと好きになっちゃうかも

 ただでさえ夢中なのに
 あの人と指が触れ合ったとき もしかしてもしてして
 もっともっともっともっとラヴになっちゃうかも

 たらこスパのつなわたりだよね 対岸に渡り終えたとき
 きらきら輝く豊饒の海へと ダイブしちゃってもいいですか?

 たらこスパのつなわたりだよね 対岸に辿り着けなくても
 きっときっとあの人がきっと ぴりゃーっと包み込んでくれますよね?

 おまたせしました あっつあつ! 
 当店自慢のたらこスパ!
 麺は絶妙アルデンテ! コナオトシなんかつまんない!

 四六時中いつも考えている
 この一品を口にしてくれたとき もしかしてもしかして
 もっともっともっともっとぎゅっとしてくれるかも

 塩味お留守のスパなんて
 恋愛が奪われた人生みたいだし もしかしてもしてして
 もっともっともっともっともっともっともっともっと
 もっともっともっともっともっともっともっともっと


 たらこマシマシしますか?


 たらこスパのつなわたりだよね ずっと応援していてね
 数多に広がる星空の元 翼広げてちゃってもいいですか?

 たらこスパのつなわたりだよね たとえフォークを投げちゃっても
 ぜったいぜったいわたしは 匙なんか投げないからね?

 だってこの一言が聞きたいから ゆらゆら揺れるたらこスパの綱辿って
 

 『ごちそうさま』


 まいどありがとうございました! 
 いかがでしたかたらこスパ!
 ちょっぴり塩味アクセント! ごめんね海苔を乗せ忘れ!
 
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1020/247_cd_shizuka.jpg

689わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/03/19(土) 06:36:23 ID:Udj/fLyA0
>>682
やったー!後輩ちゃんはやっぱりかわいい!ごちそうになりぱすたー!
この掛け合いたまらんちん!

ジャケ写
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1021/247_cd01.jpg

690名無しさん@避難中:2016/03/19(土) 08:14:54 ID:qMf7TCmc0
言い値で買おう

691名無しさん@避難中:2016/03/21(月) 03:21:41 ID:wywvZ72U0
すげえ!すげぇよアンタ!
この電波ソングは完全に調子に乗ってる時の後輩ですわ
もっと連発のそこはかとない狂気

なんかイラストどんどん芸が細かくなってるw
うちの子可愛い
ありがとうございぱすた!

692先輩とダモクレスの犬 ◆46YdzwwxxU:2016/03/26(土) 15:48:43 ID:adnK4mC60
投下します
ネタがない時の名前ネタ

デリケートな話題のわりに特に配慮とかナシなのでごめんち

693先輩とダモクレスの犬 ◆46YdzwwxxU:2016/03/26(土) 15:50:29 ID:adnK4mC60

 いつもの後輩後鬼閑花となし崩しに帰ることになった日、玄関でいつもの後輩の友達で
俺にとってはそんなにいつものじゃない後輩の久遠荵と出くわした。

「荵ちゃんのくさかんむりって、やっぱりわんわん王だからなんですかね」

 二、三、何ということもない会話を交わしたところで、後輩が脈絡もなくそんなことを
言い出した。

「そだよ」
「いや、もともとわんわんおーの“おー”は王様の“王”じゃないから。……えっ!?」
「わはー! びっくりした? バウリンガルジョークでした!」
「ただのジョークとの違いはよく分からんが」

 正直めっちゃびっくりした……。後輩は明らかに笑いを取りに来ている時と素で間違え
てる時が分かりやすいが、久遠はなんか難しい。演劇部だから?(関係ない)

「ちなみに私の名前も、有閑マダムの閑にお花の花ですから、くさかんむりあります」
「もっといい単語なかったかな?」
「土佐犬みたいにブレイブなんだね!」

 ネギちゃんそれ違う。
 おさらいしておくが、久遠の下の名前は荵(しのぶ)ちゃんである。見ての通り、忍に
くさかんむりが付いた漢字で、みんなおなじみの野菜より二本だけ画数が少ない。

「私みたいな見た目神秘的で賢そうな女の子には月桂冠なんて似合うと思いません?」
「自覚はあったようで、思っていたより賢かった」

 ふと気になって後輩に聞いてみる。

「ところでお前、荵がどんな植物か知ってるのか?」
「私これでもお料理には自信があるんですよ」

 うっわ!
 荵を知らないどころか、ネタじゃなくて本気で葱と間違えてたのこの子!?

「……シノブ科夏緑性シダ植物。夏にしのぶ玉とか吊りしのぶって言って、根っこの部分
を丸めて軒先に吊るしたりしてるアレだ。ネギじゃないんだぞ」
「きゃうん!? 私吊るされちゃうよ!」
「博覧強記も結構ですけど、堅っ苦しい生物学的分類なんて、先輩ったら情緒ってものが
ありませんよ。花のJAの名前の話題ですよ?」
「私たちじぇいけーだよ?」
「JAは農協だぞ」

 こいつの名前のくさかんむりは、やっぱりおバカの王様だからなんだろうか。

694先輩とダモクレスの犬 ◆46YdzwwxxU:2016/03/26(土) 15:51:34 ID:adnK4mC60

「……そんなことより!!」

 誤魔化す気マンマンだが、武士の情けだ。しつこくは追及すまい。

「ちょうど夏なことですし! これって園芸部に行って、そのしのぶ玉だか忍たま●太郎
だかを見せてもらう流れじゃないですか? 荵ちゃんも行くよね?」
「へむへむへむ」

 意外と乗り気なのか久遠。……何かよく分からん返事だが乗り気でいいんだよな?
 まあ何についても実物を見るのが一番いい勉強である。

「わんわん中だけど、お供しまっす!」
「謎の活動!!」
「今思ったんですけど、園芸部と演劇部ってなんかちょっとカブってません?」
「うん、たまに木の役依頼したりしてるよ?」

 それって園芸かなぁ。
 ともかく三人揃って園芸部のエリアに出向く。傍目には謎の三人組だろうが、俺にとっ
ても彼女たちと放課後こうしてうろついているのは不思議だった。
 園芸部は、いわゆる学園農場寄り、ビニールハウスの並ぶ土地の一角に部室を持つ。最
大勢力である無印の園芸部の他に、園芸部(和)とガーデニング部(洋)と、園芸テロリ
スト集団として恐れられる裏・園芸部まであるが、たまたま(和)の次期部長と目される
普通科二年女子春野英知(はるの えいち)さんがいたので断りを入れておく。快いオー
ケーの後、ちょっと恥ずかしそうに「みんなも運命の一輪と……エンゲイジだよ!」とか
ポーズ付きで決め台詞のようなことを言っていた。部員獲得のためになりふり構わない、
次期部長の気迫がそこにはあった。

「運命の一輪とエンゲイジ(和)」
「許してやれ」

 実際のところ、春野さんはパッと見、いたずら好きな花の妖精というか、華やかで香り
の強い“洋”のイメージの女の子だ。無印の園芸部の重鎮金本と水が合わず、一度は裏・
園芸部に堕ちてスコップ片手に部員たちを闇討ちしていた時期もあったらしいが、園芸部
(和)部長壇ソノカ先輩を運命の一輪と見初めて表の世界に返り咲いたという噂だ。
 波乱万丈というか何というか、仁科学園の園芸部員どもは本当にちゃんと鉢の世話をし
ているのだろうか、変な抗争の話ばかり聞こえてくる。

「あのへんかな?」

 鼻を利かせていち早く駆けていく久遠の背中を追う。ビニールハウスに併設された屋根
付きの空間に、所狭しと花びらが咲き乱れていた。

「私、花とかそこまで好きじゃないけど、ここは乙女的なアピールポイントに違いない」
(わぁきれいなお花ですねぇ先輩!)
「……たぶん、本音と建前、逆だからな」
「私の方が綺麗だよ」
「……何だ!? 何が起こっている!?」

 たぶん後輩の中では、自分が「きれいなお花……」と感嘆したところで、俺が「きみの
方が綺麗だよ」と歯の浮くようなことを言ったのだろうが、何もかもぜんぶ間違えている。

695先輩とダモクレスの犬 ◆46YdzwwxxU:2016/03/26(土) 15:52:11 ID:adnK4mC60

「しのぶ玉どこかなー?」

 そんな中、自分の名前にまつわることだからか、久遠は真面目だった。匂いを嗅がんば
かりにあっちこっちの鉢植えに顔を近づけている。

「今更ですが、しのぶ玉ってネーミングがもう、忍者が敵を爆殺するために使う火薬玉の
類にしか聞こえません」
「言うなよ。あー、久遠それだ、それ」
「わう?」

 俺の指先を追って、久遠が視線を上げていく。棚というよりその支柱に、黒褐色の球体
が針金で固定されていた。
 しのぶ玉だ。
 球状に纏められた根茎は遠目に土塊のようだが、そこから飛び出して三角形を描く櫛状
の葉の緑は、強靭な生命力を感じさせた。
 みずみずしいとは印象が違う。吸い上げて我が物とした水を握り締め、苛酷な環境を生
き抜こうとする、無駄のなさ、強かさ。

「これが荵ちゃんなんですねー」
「その言いようやめろ」
「バイオスフィアって感じです。地球型惑星をテーマにした芸術品みたいな」

 後輩の感性は雄大だった。

「どうです? ん? わんわん玉になった気分は」

 ……人格は小物というかただの屑だったが。
 にやにやしながら久遠を肘でつつく後輩。悪意があるのかナチュラルに性格が悪いのか、
ただ親密な間柄だから冗談で言えるのか。
 ……どれでもいいか。

「殴っていいぞ。俺が許す」

 しかし久遠は温厚なレトリバーのように無邪気に笑っていた。

「とっても感動しました! 連れてきてくれてありがとう」

 別に久遠の方から頼んだわけでもないのに、この素直さ、この可愛らしさ、そしてこの
感受性。意地悪市松人形とどこでこうも差が付いてしまったのか。俺の後輩にしたい。今
も後輩だけど。

「ところで先輩、しのぶ玉ってどうやって遊ぶんですか?」

 後輩に与えると何だか人に投げつけたりしそうだが、しのぶ玉は観賞用であってそうい
うものではない。

「見てると涼しげじゃないか」
「ダモクレスの剣だね!」
「そうね」
「……」
「……」

 ――久遠荵という少女が何故ここで突然ダモクレスの剣なんて単語を口走ったのか――
 ――本気でしのぶ玉というものを勘違いしていたのか――
 ――それともバウリンガルジョークとやらの新作だったのか――
 ――それすら、俺の理解の及ぶところではなかった――
 ――しかし、俺はそれでいいと思うのだ――
 ――しのぶ玉が軒下で風に揺れる季節は、まだ始まったばかりなのだから――



 おわり

696先輩とダモクレスの犬 ◆46YdzwwxxU:2016/03/26(土) 15:54:49 ID:adnK4mC60
投下終わり
思ったけどこの二人にもう一人混ぜるのって難しいね・・・

697名無しさん@避難中:2016/03/27(日) 23:10:13 ID:CL68xyFM0
>>696
投下乙です!

>この二人にもう一人混ぜるのって難しいね・・・

そうなんだよねー
あまりにも二人のやり取りが完成されすぎていて。
後輩にツッコむのも、的確さ・冷静さで先輩の右に出るものはいないし
ボケるにしても後輩より面白くボケられても被るだけだし

結局、二人のやり取りを面白いねーって眺める傍観者になるしかないのかなぁ
でもそうすると絡ませる意味ないしなー

>>496-500 みたいな、わいわいした状況ならまた違うんだろーけど

698名無しさん@避難中:2016/03/29(火) 22:53:41 ID:70JoX/V60
改めて読み返すとこの話はいかんですな
余裕ができたらウィキでちゃんと書き直すです

スイカは夏にならないと書く気しないからまたね(二年越し)

699わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/04/02(土) 10:36:30 ID:4MDoSrWE0
>>696
後輩ちゃんかわいい!
先輩いつも突っ込みさえてるな!
ネギ…あいかわらずや!

先輩×後輩+αの絡みの方程式、どうやって解こうか…

「久遠、遅いよっ」
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1026/akane_shinobu03.jpg

700名無しさん@避難中:2016/04/03(日) 11:04:50 ID:yy9e.0aQ0
演劇部もランニングするんだね
葱ちゃんは瞬発力ありそうだけど持久力あんまりなさそう

701名無しさん@避難中:2016/04/08(金) 21:15:48 ID:P3xJQda.0
久しぶりになんか書きたいにゃ。
お題下さい。

702名無しさん@避難中:2016/04/08(金) 21:21:47 ID:QmzsYghQ0
昔のゲームで盛り上がる

703名無しさん@避難中:2016/04/15(金) 20:46:23 ID:Icy00c/w0
ゲーム・・・ゲームか・・・
フリーダムイーグルちゃんあたりそんなの好きそう

704わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/05/01(日) 11:37:44 ID:WTAvAC5Q0

 長崎のおばあちゃんちにあったからと、黒咲あかねがスーファミを演劇部の部室に持ってきた。
 久遠荵が理由を聞くと「現実逃避」と間髪いれずに返答した。

 『スーパー』と名乗るもの、『64』よりも古典的、『DS』よりも原始的。今の時代からすれば「いい仕事」した骨董品。
カセットなんて笑っちゃうぐらい分厚くて、それでもその頃のみんなはコイツに夢中になっていた伝説の名機だ。
 ビールジョッキを手にしたことないドイツ人と同じく、ゲームコントローラーを手にしたことない日本人はいないとも言われているほど。
 五本の指で世界を救える……と、アラサー世代はしこたま教育され、夢あふれる時代からやってきた往年のゲーム機が机に据えられる。

 部室の隅っこで燻っていたブラウン管のテレビの端子にケーブルを繋ぎ、ぱちんと電源が入ると、ブラウン管の奥から電気の音が聞こえる。
 さぁ。
 老兵の出陣。

 じわりと映し出された起動画面に心躍る。

 「わたし、ピーチ姫になりたかったの。わたしのために全力で走ってくれる誰かがいること」

 『ディスクシステム』のディすら知らない世代に生まれたあかねは乙女心を吐露した。

 「誰っ?『桃太郎』じゃなくって『桃姫』だっ?」
 「おばあちゃんちで、これやりながら思い描いていたわけでっ」
 「わうっ」
 「おばあちゃんちの側通る路面電車の音がリフレインしますっ」

 ブラウン管の正面に座してドット絵の画面と向き合うと、21世紀の何でもない世の中が未来の世界に見えてきた。
恐らくある程度の世代以降ならば、涙ちょちょ切らしながら誰もがそらんじることが出来る電子音のBGMが部室一杯に広がった。

 一人の男がうら若き姫を救いに走る。

 何というド定番。

 このゲームを臆面なく説明してみた。間違ってはなかろう。
 いい歳こいた、ヒゲの男を誰もが夢中になって一国を救うヒーローへと仕立てあげるという、単純かつ痛快なテレビゲーム。

 あかねは細い指で、無骨にごついコントローラーを握りしめていた。

705わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/05/01(日) 11:45:01 ID:WTAvAC5Q0
 十字のボタンを軽く押すと、軽快なメロディに乗せてドット絵の男が画面右へと駆け出す。

 真っ直ぐに伸びた道をひたすら進む。ただ、それを阻む者も存在する。敵は多い。

 気持ちのよいぐらいの青空の下、コイン拾い放題、キノコ食べ放題、カメ蹴飛ばし放題。身の丈以上の跳躍力を持つ身体能力で谷を越え、
目的地まで突っ走る。ここまで無我夢中に走る男はイニシャル『M』のアイツ以来だ。

 「あっ。うわっ。カメにかみつけっ」

 努々油断することなかれ。僅かの判断ミスが命取りに繋がるのだ。
 自動車のクラッシュテストさながら、カメとの正面衝突だった。

 墓標にこう記せ。

 『死因。カメに激突』

 心臓が止まったように萎縮した男は、これまた軽快なメロディで美しく死に体を晒すのだった。

 「あーあ。おばあちゃんだったら絶対ノーミスでクリアするのにな」
 「面白そうだなっ。わたしにもやらせろいっ」
 「だめですっ」

 ぐいっとコントローラーごと荵から遠ざけたあかねは有無を言わずに再チャレンジ。
 再び電子音が鳴り響きくなか、荵は両腕で抱きつく体勢であかねの背後にくっついて、頬をあかねの黒髪にくっつけていた。

 「あ。そういえば、迫先輩が」
 「……いけないっ」

 荵があかねの動きを制限するのだ。
 思うようにコントローラーを操作できず、画面の男も何となしに動きがぎこちない。

 「この間、あかねちゃんの書いた脚本読んでね……」
 「その話……」

706わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/05/01(日) 11:47:52 ID:WTAvAC5Q0
 本日二人目の殉職。
 闇よりも深い谷底に転落しようとも、耳を塞ぎたくなる断末魔さえあげることはなかった。
 もしかして、彼は走ることと同時に死を覚悟していたのかもしれない。死ぬ為に走る。武士道に通じる、命の散り際。
 潔いといえば潔い、リアルといえばリアルな最期。男気溢れる彼に弔いの花を。彼の名は永遠に語り継がれるだろう。

 そして、不死鳥の如く『テテッ、テッ、テレッテ!』と、甦る。
 輪廻という。

 しばらく口を閉ざしてコントローラーを握りつつ、俯いていたあかねが、城に閉じ込められた姫の姿と重なる。

 「わたしにもやらせろいっ」と、荵はあかねの黒髪に甘噛みすると、あかねが小さく声を漏らした。

 「あかねちゃん、頭ん中ぐるぐるだなっ」
 「んもっ」
 「髪の毛をくんくんすれば、大抵のこと分かるっ。迫先輩のことで動揺したねっ。水曜だけどっ」

 迫は演劇部の部長だ。
 以前、あかねは迫から演劇について「光るものがある」と評されていた。
 だからかあかねは渾身の力で脚本を書き上げた。

 「あかねちゃんもベタな話し書いたね。お姫さまを勇者が救うって」
 「基本のキだし。でも、うまく書けた覚えないし」

 好きなことなのに、上手くいかないことで苦しめられる理不尽に対してとったあかねの選択は「現実逃避」だった。

 「迫先輩が『おれのところへ来い』って。『一人で煮詰めると話が画一化される』って」
 
 荵の言葉にあかねの手が止まる……つまり、ヒゲの男は動かない。ダッシュさえ出来ない男に世界なんか救えるか。
 スーファミからカセットをいきなり抜いて、本体との接続部分の金属端子に強く息を吹き掛けた。
 
 ならば、わたしが。

 「ピーチ姫は彼が救いにやって来るのを待ってるの。でも、ピーチ姫だって、走らなきゃいけないってときもあるし」
 「わうっ」

 スカート翻して、あかねは演劇部部室を飛び出して、迫のもとへと馳せ参じた。
 荵はあかねが投げ飛ばしたコントローラーを握り締め、意味もわからずBボタンと十字ボタンを親指で強く押していた。

おしまい。

707わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/05/01(日) 11:49:02 ID:WTAvAC5Q0
三匹いればわんわんわん!三羽いたならちゅんちゅんちゅん!

>>703

荵 「でたな!ツインバード!」
和穂「え……、荵ちゃん。これ『ツインビー』だよ。縦スクロールシューティングの名作として名を馳せる……」
荵 「ほらっ!たかなっしー!ダブルプレーだ!」
小鳥遊「おれ、苦手なんだよな。シューティング」
荵 「じゃあ、よりツインビー感出すために……たかなっしー!和穂ちゃんを両手で抱えあげて!」
小鳥遊「えっ。こうか……?」
和穂「う、雄一郎!やめろ!」
荵 「両腕で天高く!空からくもじい見ながら、雲海を超えろっ」
和穂「うわぁ!お、落ちるーーーー!」
荵 「わおおおっ!ヴァーでチャルなリアリティだっ」


http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1030/kazuho02.jpg

708名無しさん@避難中:2016/05/10(火) 23:21:42 ID:.BEWW5AY0
小気味のいい文章は健在のようだな・・・
俺そのゲームやったことないけど友達がやってるのを横で見ながら邪魔したことはある

>接続部分の金属端子に強く息を吹き掛けた
これはやる

709名無しさん@避難中:2016/05/31(火) 22:26:07 ID:5zTXb2dg0
メガネっ娘が…欲しい…
うう、めメガネ…

710名無しさん@避難中:2016/06/01(水) 01:30:35 ID:TLvh0vkk0
逆転の発想で自分のとこの子に眼鏡かけさせればいいんじゃね!?

711名無しさん@避難中:2016/06/07(火) 22:29:20 ID:yc6OycN20
お、お題ぷりいず

712名無しさん@避難中:2016/06/07(火) 23:40:53 ID:RWL0pUYY0
やもり先生(アラサー女子)

713名無しさん@避難中:2016/06/10(金) 20:53:08 ID:5SzHXW1w0
やもりんこそ仁科で一番かわいい女子かもしれない。

714名無しさん@避難中:2016/06/10(金) 21:12:54 ID:dEcpnAms0
わからんでもない

715名無しさん@避難中:2016/06/11(土) 00:34:49 ID:BPQ.2d5g0
やもり先生が眼鏡をかけるって!?

716名無しさん@避難中:2016/06/17(金) 20:46:55 ID:gN9IG8aQ0
やもりん、メガネをかける。

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1044/yamori_001.jpg

717名無しさん@避難中:2016/06/18(土) 01:32:05 ID:3W8diago0
やったー!

718名無しさん@避難中:2016/06/22(水) 22:26:36 ID:dGiMvVKA0
お題、どんどんいきまっしょい。ぷりーず

719名無しさん@避難中:2016/06/25(土) 01:13:26 ID:dADJFdb20
アラサー女子やもりたんプールに行く

720名無しさん@避難中:2016/06/27(月) 15:02:10 ID:GoC74qpw0
あれ

721名無しさん@避難中:2016/07/07(木) 23:14:31 ID:wiKM2T0c0
やもり「ハウスキーパー☆やもり!」
あかね「え?白壁先生…」
荵「わお!家を守るのなら、わたしも番犬になるぞっ」
やもり(どうしよう…。このコスチューム、コスプレ部の京ちゃんに作ってもらったんだけど。やっぱ、めっちゃ恥ずかしいし…)

つづく…かもしれない。

722名無しさん@避難中:2016/07/08(金) 00:06:21 ID:PUtKHnPY0
続きなさいよっ!!

723名無しさん@避難中:2016/07/08(金) 21:55:23 ID:eKibRVR60
京「ふふっ。かわいい男の子は、みんな男の娘になぁーれ」
迫「秋月?ちょっと頼みごとが…って。何か言ったか?」
京「ん?…ふふっ。なんでもないの。演劇部の迫部長、どうしました?」
迫「いや。今度の公演で衣装をコスプレ部に担当してもらいたいんだが」
京「まかせて!この秋月京に不可能はありません!」
迫「そっか。なら、詳しくはまた伝えるぞ」
京「あの。迫さん…。演劇部ですよね、だったら…」
迫「ん?」
京「いや。なんでもありません!(黒髪、色白、程よい身長。そして、メガネ。絶好の餌食だわ。じゅるり…)」


そのころ。


荵「やもりん!おなかすいたっ」


いったいどうなる?

724名無しさん@避難中:2016/07/09(土) 07:57:32 ID:lhKHZrRs0
やもり「じゃあ、軽いものでも作ってあげよっか」
荵「わわうっ。ハウスキーパー★やもりの本領発揮だねっ」
やもり「え…まだその設定?」
あかね「白壁先生もまんざらではないんじゃないですか?」
やもり「いや…でも、この格好は、やっぱ無理かな〜」
荵「翔べ!!ハウスキーパー★やもり!!」
あかね「夜食で空腹を制圧するのだっ」
やもり(夜じゃないけどなぁ)

725名無しさん@避難中:2016/07/10(日) 19:30:22 ID:V8QsrQ820
やもり「生きとし生けるもの、命を分け与え、そして命を継ぐ。大地の恵に敬意をおおおお!!」
あかね「出たっ。ハウスキーパー★やもり、フライングライスの術っ」
荵「フライパンの中でお米が舞ってるぞっ」
やもり「秘伝!!サンダーポーク!!」
あかね「角切りポークが稲光を放った?」
やもり「ファイナルレイン!!!!!」
荵「にんにく醤油の雨っ」

726名無しさん@避難中:2016/07/10(日) 19:40:47 ID:V8QsrQ820
やもり「今、空腹は滅んだ」
あかね「白壁先生特製チャーハンですっ」
荵「わおっ。お腹が鳴るぞっ」
迫「卵スープです…」
あかね「あれ、迫先輩。ウェイトレスですかっ」
迫「聞くな」
荵「似合いすぎてくやしいぞっ。黒ニーソが反則だっ」
迫「やめろ。秋月に…おい!!噛むなあ」



台詞系むずい…
おわりおわり。

727名無しさん@避難中:2016/07/10(日) 21:15:16 ID:qhClbzKQ0
噛むなw

728名無しさん@避難中:2016/07/16(土) 23:16:33 ID:QMORAiLc0
やもり「ぬこぽっ」

729名無しさん@避難中:2016/07/17(日) 00:46:50 ID:o7I6bvJM0
あやめ「にゃっ」

730名無しさん@避難中:2016/07/17(日) 19:24:29 ID:epric6Sc0
後輩「あやめ先生の『にゃっ』は色っぽいですね」
先輩「お前にはまだ無理だな」
後輩「そんなことないですよ!!に…に、にゃああっ」
先輩(けもののようだ…)
後輩「先輩!!今、なに考えてましたか?もしかしてわたしって( )だなって思ったんですよね?」

問・括弧を埋めよ(10点)。

731名無しさん@避難中:2016/07/17(日) 19:28:57 ID:o7I6bvJM0
め、女豹?w

732名無しさん@避難中:2016/07/21(木) 18:12:58 ID:1R72vfFg0
あやめてんてー。夏休みですよー

733名無しさん@避難中:2016/08/02(火) 11:31:21 ID:VoOVx5cY0
この学園に足りないもの!!

それは…

734名無しさん@避難中:2016/08/02(火) 12:46:02 ID:/KuXrsXs0
イケメン

735名無しさん@避難中:2016/08/02(火) 22:43:13 ID:FFP.kMXw0

報道部員B72「仁科イケメンダービー!!!」

報道部副部長「なんですか…これ。こんな企画通した覚えはありませんけど」

報道部員B72「さあ!夏真っ盛り!草競馬の季節です!犬は喜びのた打ち回る…と言うわけで、わが校きってのイケメンでダービーを開催しちゃいます!部長公認です!」

報道部副部長「あ…。そうなの?わたし、報道部副部長のガンキミコです。詳しくは http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1248087645/703-706 をご覧ください」

報道部員B72「そうですね!仁科学園報道部も何気に歴史ある部だったりしちゃったり!うっしっし!ばっかやろう!」

報道部副部長「で、これって、我が仁科学園のイケメンを競わせるダービーを開催するわけですね?」

報道部員B72「ガン副部長ってイケメン大好物ですよね?では出走メンバーの紹介です!」

報道部副部長「わたしって、そんな設定ありましたっけ…?でも、嫌いじゃないですね。とりあえずお願いします」

報道部員B72「一枠!ツッコミなら天下一品!ラブモンスターも冷静沈着な一言で一網打尽!永遠の花婿『先崎俊輔』くん!」

報道部副部長「いきなりきました。オッズも二倍を切ってます。先輩くんのユーティリティーに期待しましょう」

報道部員B72「二枠!誰が呼んだかツインバード!命を懸けてこの小鳥、鷲を守ります!羽ばたけスカイラーク『小鳥遊雄一郎』くん!」

報道部副部長「性格イケメンは武器ですね」

報道部員B72「三枠!きらっと光る文系メガネ!仔犬に噛まれながら脚本一筋!ガラスの黒髪『迫文彦』くん!」

報道部副部長「わたしもメガネっ娘ですから同類憐れみを感じます。雨の日の自転車はつらいです…」

報道部員B72「四枠!金髪!筋肉!そしてバカ!三拍子そろった歩くアイアンレジェンド!歩くロックメタル『黒鉄懐』くん!」

報道部副部長「バカはバカらしく生きるのが正解ですね」

報道部員B72「五枠!わたしの素顔を見たければ、一緒に白衣に纏おうではないか!狂気の科学者『松戸白秋』くん!」

報道部副部長「…わたしが言うのも何ですがお久しぶりです。先輩。鉄仮面を脱ぐときは、この学園を去るときなんでしょうか?」

報道部員B72「では、オッズの発表です!倍率ドン!さらに倍!」

報道部副部長「で、どうなるんですか?」

報道部員B72「……部、部長ーーーー」

736名無しさん@避難中:2016/08/04(木) 12:19:01 ID:jQaIW/UI0
今ごろ、やもり先生は浜辺で西瓜割りまくってます。
割って割って割りまくり

737わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/08/12(金) 07:19:46 ID:vI6LXw/o0

 「ちーっす!迫ちー、マジ本読み?昨日もギャルゲで徹夜してたって?」
 「そんなものは一秒たりともやったことが無い」
 「ギャルゲの主人公顔して、マジウケルんだけどー?」

 演劇部部長を務めているとたくさんの人に会う。
 部長の迫が今まで出会ったキャラでも、ほとんど接点のない部類のキャラとの遭遇は、培われたアドリブ力が要求されるのだ。
 それが嘘っぱちのでっち上げでも、力説で否定しなければならない。

 遠慮なく部室内に入る少女の着崩した制服、明るい色の髪をゆるっくツインテール、ちょっと見た目軽めの少女が木目だらけの部室に
にじむ。遊んでる雰囲気をにこにこと漂わせた彼女は額にピースを決めてみた。
 対して、黒髪眼鏡で地味を王道でゆく迫は、腰に手を当てて片手で演目の台本を閉じ、極力彼女の目を合わせようと努力する。

 「まじ、この前のさー。迫ちーの演出、マジゴッドなんだけど」
 「おれだけの力じゃないけどな」
 「ぶっちゃけ、カッコイイ系の演出にガン見しちゃったし、ちょー深作じゃん、仁義なきじゃん」
 「小麦屋……客席にいたんだな」
 「いーじゃんいーじゃん。あの時さぁ、やる気ナッシングだったしー、まじ観客になりたかったしー。迫ちーの舞台、ごちです!」
 「高校の演劇部にしては冒険したけどな。小麦屋、本読みに参加するなら早く準備しろ」
 「ちーっす」

 額にピースをかざして迫の顔を覗き込む小麦屋仁子は自分の台本を机から引ったくり、ぱらぱらとページをめくって流し見していた。

 「なんだか、『じに子先輩』ひさびさに見るなっ」
 「小麦屋は気が向かないと来ない。それでもウチのエースだしな」
 「わお?」
 「エース……は言いすぎか。ダークホースか」
 「クロイヌ!!」

 じに子先輩と同じ台本を持った一年生の久遠荵は距離を取りつつ、一つ上のじに子先輩の目を見つめていた。
荵の鼻には、じに子のシャンプーの香りが多少きついらしい。
 じに子先輩が台本を読むだけという形ながらも、演劇に打ち込む姿を荵は遠巻きながらも眺めていた。
 演劇が好きならば毎日でも部室に顔を出してほしいのに。やはり、遊んでる雰囲気を漂わせるじに子先輩は、
どことなく取り付きにくい。なんとなく、自分とは住む世界が違うと感じていた荵は黙って尻尾を巻いて、
じに子先輩の本読みを聞くしかなかった。
 ただ、軽い雰囲気で登場したじに子先輩の姿は一切なく、立派な演劇部の部員であった。

 背中に電撃食らわす声。
 心臓を握り潰す気迫。
 どんな鋼鉄のハートをも打ち破る表情。
 たかが本読みなのに、気合い十分本番さながらの演技でじに子先輩は白黒だった台本に自分の色をつけていた。

738わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/08/12(金) 07:20:07 ID:vI6LXw/o0
 「『天使に魂を売り払うぐらいなら、悪魔に身を任せた方がよいではないか!』はい!しのちー!」
 「わ、わおっ?『そ、その理屈は……』」
 「……うわー、まじサイテー。しのちーの実力って、そんなもんじゃなくね?」

 台本をメガホンにして荵をご指名。じに子先輩は半目で空気が流れてゆく部室に溶け込みかけていた。
 赤ペンで台本を細かく修正しつつ、内容を固め整える迫にはじに子先輩も荵も同じぐらい演劇を愛していることに気付いていた。

 その日の活動を終えるとじに子先輩はやってきたときの調子のまま放課後の街へと消えてしまった。
 くすぶった気持ちのまま荵が帰り支度をしているなか、迫が台本の手直しをしつつノートPCでは過去の公演動画を流していた。

 「え、えっと。ちーっす……」
 「は?どうした、久遠」
 「じに子先輩の真似ですっ」

 子犬のような荵が借りてきた犬のようになっている。
 とんとんとノートを叩き、彩りを忘れた目をしている荵に迫は特に別の感情を覚えることはなかった。

 「うらやましいっ」

 羨ましいやら、悔しいやらで。かすかに聞こえるじに子先輩の声が荵の乾いたハートにずかずかと突き刺さる。
 動画でじに子先輩が麗しき灰を被ったシンデレラを演じているのだ。

 みすぼらしいその場しのぎのドレスを纏いつつも、華のある演技で注目を集めるのは、もはや天性としか表現できない。
 王子役の男子がふらっとシンデレラの手を掴む。一瞬、固まる。顔がのぼせる。早口になる。
 初めて触れる男の肌……の、じに子先輩の演技はリアルにリアルを重ね塗りをしたような説得感と存在感を見せ付けていた。

 「ちょ……ちょ!触れないでよ!ばかばか!わたし、こんな経験ないんだけど!」
 「なになに?誘ってるの?ウチはそんなに軽い女じゃなねーしー!ってか、どきどきしてねーしー!」

 慌てふためくじに子先輩の動画を荵はジト目で見流していた。


    #


 「ってか、スターウォーズって、ちょー黒澤なんだけど」

 迫が初めて小麦屋の声を聞いた言葉だった。
 小麦屋が初めて入る演劇部部室での会話がこれ。
 二年生に上がったばかりの迫と、高等部に上がったばかりの小麦屋が、初めて演劇部の空気を吸った日のことだった。
 高等部に上がったからなのか、垢抜けたばかりの小麦屋だが、所詮は付け焼き刃にしか見えない事実。
文学少年をこじらせた迫は小麦屋になんとなく後輩らしさを感じることができなかった。

 「あ……ちーっす!小麦屋仁子っす!ってか、演劇ってやばくない?」
 「はあ」
 「ウチらが違うキャラ演じるだけで、客席やばくできるからマジやばいじゃん?」

 初めての言語?
 理解不能?
 なんとなく分かる?
 迫が要約する隙もなく、彼女は二の句を継ぐ。

 「この国の演劇界、ウチらでガクブルさせよーぜ!」

739わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/08/12(金) 07:20:35 ID:vI6LXw/o0
    #


 ガクブルしている荵が必死に繰り返して読んでいる台本は、じに子先輩からの振りに答えられなかった部分だった。
 公園のブランコに座り、ゆらゆらと荵の感情のように揺さ振られる黄昏れどき。
 悔しくて。先輩だからか?いつもは自信のある演技が、滅多に顔を出さない先輩よりもダメダメだったからか?
 ぎいーっと鎖が軋む音が荵に追い打ちをかけていた。

 「うー、わおっ」

 唸り声も今日は幾許か力が入らない。
 芝居の世界に集中しようとも、それを邪魔するヤツがいる。
 シャンプーの香りだ。
 ふわりと、花の香りが荵をくすぐり台本の文字の邪魔をする。

 「ちーっす。なーんか、ウチ退屈なんだけどー」

 着崩した制服、ブラウンの髪をゆるっくツインテール、遊んでる雰囲気を醸し出す少女。
 じに子先輩だ。


 「じに子先輩っ」
 「はーぁ?言っとくけど、ウチの名前は『にこ』!『じんこ』じゃねーしー」
 「わたし、じに子先輩よりも演劇大好きだぞっ。レトリバーぐらい好きだっ」
 「まじで?じゃ、ウチはゴジラぐらい好きだしー、ちょーマジ・ゴジラ・リスペクト」

 ぽんっとじに子先輩の肩を叩く一人の男子。
 余りにも空気でさりげなく近づいてきていたので、間際になっても気付かなかった。

 迫だ。

 一瞬、固まる。顔がのぼせる。早口になる。
 ナニコレ、マジヤバインダケド。
 男の子に触れられるなんて、マジ初めてなんですけど。

 「ちょ……ちょ!触れないでよ!ばかばか!わたし、こんな経験ないんだけど!まじギャルゲとかやりすぎ迫ちーじゃね?」
 「ギャルゲってなんだよ」
 
 白目で迫はじに子先輩の発言をかわす。
 こんな公園の真ん中で叫ばないで欲しいと。
 事実無根だ。

 「今度、いつ部室に来るんだ?」
 「なになに?誘ってるの?ウチはそんなに軽い女じゃなねーしー!ってか、どきどきしてねーしー!」
 「勘違いするなよ、小麦屋」
 
 部室の中で見かけた動画のセリフとぴったり合う。
 もしかして、あれは渾身の演技ではなかったのでないのか。
 どうも制服姿のじに子先輩にシンデレラのドレスがダブって見える。
 横でイヌ耳立てながら荵は側でブランコをこぎ始めた。


     おしまい。

740名無しさん@避難中:2016/08/26(金) 22:30:53 ID:eDCmISww0
いぬぽ!

741名無しさん@避難中:2016/08/27(土) 01:33:28 ID:TmM9zFgE0
わん!

742名無しさん@避難中:2016/08/28(日) 18:48:17 ID:0knYDGxk0
鷲ヶ谷「わしぽっ」

743名無しさん@避難中:2016/08/28(日) 22:51:04 ID:kMch51pQ0
ピェーッ!

744名無しさん@避難中:2016/08/28(日) 23:37:24 ID:ZlsJsL3o0
え?誰?誰だ。そんな声だしたの?

745名無しさん@避難中:2016/08/29(月) 00:07:13 ID:.tpyWAo60
???「私だ」

746名無しさん@避難中:2016/08/29(月) 00:21:21 ID:HnIu46p20
鷲ヶ谷「え、えっとー。どうしてそんな格好してるの?」

747名無しさん@避難中:2016/08/31(水) 22:13:07 ID:/9e/osTc0
>>745
「わたしだ」
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1058/akane_%2Cmegane.jpg

748名無しさん@避難中:2016/09/01(木) 02:10:31 ID:zP0m0FMg0
ピェー……

749名無しさん@避難中:2016/09/13(火) 21:32:07 ID:DBkznO4.0
仁科学園文化祭「バードカフェ」開店!

750名無しさん@避難中:2016/09/15(木) 20:50:13 ID:2F.1KRB60
仁科には、ロリが足りない。

751名無しさん@避難中:2016/09/19(月) 00:17:15 ID:DZRIA18I0
巨乳艦隊とな。

752名無しさん@避難中:2016/09/22(木) 21:59:46 ID:sm.dw7zg0
保健室にて。

あやめ先生「おい、迫。あまり無理するんじゃない」
鈴絵   「そうですよ。わたしが、たまたま講堂の前で迫くんが倒れてたのを見つけたからいいものの」
迫    「あの…、その」
あやめ(オカマ)「病人は黙って寝てろ」
鈴絵   「そうですよ。お望みなら、神柚神社秘伝の坐薬でも」
迫    「それより…胸が」
あやめ(オカマ)「早く言え。上着を脱がせろ、神柚」
鈴絵   「お断りします(微笑み)」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1063/ayame_sako_suzue.jpg

753名無しさん@避難中:2016/10/03(月) 22:06:53 ID:khdv80JQ0
お題くださいん(お絵かきの)。

754名無しさん@避難中:2016/10/03(月) 23:52:09 ID:jeOq0S.20
亜子(寝起き)

755名無しさん@避難中:2016/10/07(金) 21:45:22 ID:z0bg4EMg0
>>754
亜子「ふぁぁ…。え?まじで?」

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1066/ako_neoki.jpg

756名無しさん@避難中:2016/10/07(金) 21:55:08 ID:Kb3Ud8to0
ぐろーぶw

757名無しさん@避難中:2016/10/08(土) 14:54:22 ID:dhsLU/Jw0
なぜグローブww

758名無しさん@避難中:2016/10/11(火) 12:06:36 ID:VhxcYlj60
懐「亜子からグローブを取ったらどうなるんだ」

759名無しさん@避難中:2016/10/11(火) 14:30:54 ID:RT6B0bNw0
ただ可愛いだけになるじゃないか!

760名無しさん@避難中:2016/10/15(土) 22:32:10 ID:dO.vhlaY0
荵「そのせりふ、わたしにも言え!噛み付くぞっ」

761名無しさん@避難中:2016/10/15(土) 23:48:23 ID:PkuS9zpY0
だからはやく二人の百合をだな

762名無しさん@避難中:2016/10/18(火) 22:19:19 ID:YQi3WAjM0
あかね「わたし、ハブられてる…?」

763名無しさん@避難中:2016/11/01(火) 20:54:48 ID:e883tcTk0
犬の日だよ!わんわんおーー

764名無しさん@避難中:2016/11/03(木) 18:33:40 ID:mDw23HxU0
後輩ちゃん「先輩!文化祭行きましょう!」

1.行く
2.行かない
3.とりあえず〇〇する

〇〇とは?

765名無しさん@避難中:2016/11/03(木) 22:12:06 ID:M0WmdD9.0
無視

766名無しさん@避難中:2016/11/04(金) 21:56:20 ID:ZTaW9zI60
あかね「迫先輩!文化祭行きましょう!」

1.ひっかかりながらも、行く
2.断る
3.躊躇うことなく〇〇する

○○とは?

〇〇とは?

767名無しさん@避難中:2016/11/04(金) 22:45:22 ID:YGykhKvA0
これはパターンが複数あるから難しいぜ……!

768名無しさん@避難中:2016/11/04(金) 23:35:43 ID:ZTaW9zI60
あかね「やっぱり悩んでるでしょ。三秒以内に答えないと、この駄犬が噛みつきます」

さん、に、いち…

769名無しさん@避難中:2016/11/04(金) 23:54:47 ID:YGykhKvA0
噛ませよう(提案

770名無しさん@避難中:2016/11/05(土) 17:01:55 ID:Kc60/hNQ0
駄犬「がぶっ」

ぎゃああ!

駄犬「迫先輩が〇〇するまで離さないぞっ」

問・何するまで?

771名無しさん@避難中:2016/11/08(火) 21:01:48 ID:B7K3/PNo0
駄犬だらけの仁科

772名無しさん@避難中:2016/11/09(水) 09:51:30 ID:pTmtmPG60
きのうは「いいおっぱいの日」だったのに、この学園にはおっぱいが足らない。

773名無しさん@避難中:2016/11/22(火) 05:42:12 ID:qEHi7e1Y0
散歩するまでだろう
しかし離してくれないと散歩できない

774名無しさん@避難中:2016/11/23(水) 20:47:55 ID:w2UAAlUA0
荵「よっさーー!ホンキの散歩に行くぞっ」
亜子「ウザ…」

775名無しさん@避難中:2016/12/11(日) 23:15:40 ID:NbApja5s0
軽気の散歩もある
カルキの水道水も出る

776名無しさん@避難中:2016/12/13(火) 22:01:40 ID:NDqbFMr.0
後輩ちゃん「加爾基 ○○ 栗ノ花!!!って、先輩読めますか!」
先輩「○○が聞き取れにくかったんだが…。カルキ……栗の花か?確か、とある歌姫のアルバムの」
後輩「い、いわせんな!!!!!です!」

777わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/12/25(日) 09:30:16 ID:W8.UYqYM0

 迫先輩とはわたしからすれば子供だ。

 部活のことを熱く語っているところさえ、歳の離れた弟にさえ見える。でも、わたしには弟どころか一人っ子ゆえ
男の子というものについてよくは分かっていないのだから、男の子の基準はどうしても迫先輩になる。
 演劇部で出会った迫先輩と共有する空間はまだまだ未知なるものを秘めている。

 巨大怪獣、ヒーロー、陰謀説……そして演劇論、などなど。

 迫先輩にこれらを語れと時間を許すだけ与えるのならば、おそらくわたしが200ページほどの文庫本を読み終えても、
そして二冊目の中盤にさしかかるまで語っているのだろう。しかも、知識に基づいた分析や推測で固められた文字羅列で。
 もちろんわたしだって、大好きな本のことを語れと時間を与えられたのならば語るだろう。でも、それは単なる自己解放であって
迫先輩のように「りろん」で塗り固めた「もじられつ」を武器にしているものとは程遠いのだ。

 「黒咲。聞いていいか」

 迫先輩がわたしに語りかけてきた。
 果たして迫先輩を納得させられるような切り替えしができるのだろうかと、手にしていたホットの緑茶缶を握り締める。

 「女装少年と男の娘の違いってなんだか分かるか」

 分かりません。

 と、一蹴したい気持ちにもなったが、つれない返事は自分自身の試合放棄とも言える。舞台で言えばメロスが走らないのと一緒。

 「ググればいいんじゃないんですか」
 「黒咲、知識ってヤツはデータだけじゃないぞ」

 きんきんと冷えた学校の帰り道の会話なのか、これが。わたしはずぼっとマフラーに顔を埋めた。
 首筋にもぐりこむ北風がどうしても冷たくて。

 「それじゃ、敢えてネットとか情報を検索しないで、今まで自分たちが詰め込めた知識で推測するんだ」

 きりっとした迫先輩の瞳に思わず熱々の緑茶缶を引っ付けたくなった。わたしよりほんのちょっと背が低い迫先輩の視線は
丁度わたしが腕を伸ばした延長線上にあるのだから、わたしの作戦を成功させることは赤子の腕を捻るよりも容易い。
 でも、迫先輩のメガネがそれを阻むんだろう。メガネ男子、侮りがたし。

778わんこ ◆TC02kfS2Q2:2016/12/25(日) 09:33:07 ID:W8.UYqYM0
 「『少年』が『女装』、つまり……幼い男子が女性の装いをするんだ。そもそも女装とは人を欺くために用いられる手段だ。
  黒咲も知ってるだろ。ヤマトタケルと熊襲との話」

 女装少年の話になれば必ず引用される逸話だ。ヤマトタケルだって趣味で女子の格好を選んだわけでもないし、むしろ
自分の武勇伝として語ってもらいたかったに違いないし、結局それは迷惑千万なことだろう。
 でも、人々は言う。やれ、女装少年は日本古来の文化だ。やれ、日本はカワイイでできているだ……と。
 しかし、わたしに言わせればわざわざ過去の文献を味方にして女装を正当化しなくても、と疑問符をブーメランにして投げつけたくなるし。
 カワイイものはカワイイ。理由も理屈もないから「女装」が人々を魅了するのだろうか。

 「ただ。今日現れた勢力。それが『男の娘』だ」

 ざっと歩みを止めた迫先輩の後姿が多くを語る。

 「『女装少年』が男子の中身を女性のパッケージで包んだだけなものに対して、男の娘の出現は画期的だったんだ」

 わたしは今、後姿の迫先輩にわたしたち女子の制服で包んだ姿を妄想しているのだ。
 女装は引き算とはよく言ったもの、隠すべきところは隠す。というのが鉄則らしい。
 ただ、男子はどうしても女子と比べてたっぱがある。いくら素敵な召し物をまとっても背が高くてはせいぜいミスターレディだし。
 それを考えると迫先輩は男子のなかでも背は高いほうでもないので、有利にアドバンテージが働いている。

 きっとニーソックスも似合うだろうし、マフラーを巻いて髪モフさせてもよし。ちょっと大きめのカーディガンで萌え袖すれば完璧だし。

 「男の娘の絶対的な定義は『内面』。例えるのならば、欧米人が浴衣を着ただけのパターンA。そして浴衣を着てさらに侘び寂び、
  武士道、もののあわれを自分のものとしてコンプリートしたパターンB。前者は女装少年、後者が男の娘だ。わかるな」

 すいません。聞いてませんでした。
 わたしはどう足掻いても「女装少年」にも「男の娘」にもなることはできない。

 逆なら可能かもしれない。男装少女か。
 迫先輩の理屈ならばそれどまりだろう。だって、わたしには男の子の気持ちをコンプリートすることは無理だろう。

 「黒咲なら男装は似合うんじゃないのか」

 やばい。今、迫先輩も同じこと考えていたらしい。もしかして、わたしも迫先輩と同じような思考回路が感染したのだろうか。
 ということは男の子の気持ちをほんのちょっと理解できたのかもしれない。それはそれで、わたしの頬が赤らんだ。

 「確か……170ぐらいはあるんじゃないのか?身長」

 前言撤回。わたしはまだまだ男の子の気持ちには近づけない。
 168ですっ。と突っ返したい気持ちを押さえ込んで、わたしは熱々の緑茶缶を迫先輩の横っ面にぶち当てた。


    おしまい。

「寒いんですっ」 
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1078/akane+kurosaki_07_02.jpg

779名無しさん@避難中:2017/01/03(火) 19:14:29 ID:q8X1IDs20
お題下さい

780名無しさん@避難中:2017/01/04(水) 17:37:40 ID:g77VRcqQ0
迫先輩が初めて登場した時は、
まさか男の娘について熱く語るようになるなんて思いませんでした
高身長気にしてるあかねちゃんかわいい

781名無しさん@避難中:2017/02/18(土) 07:51:16 ID:mtrkfzEM0
やもりん先生、おっぱいを下さい

782名無しさん@避難中:2017/02/18(土) 11:44:42 ID:I8a8/nbc0
「両生類におっぱいはない」
「それたぶんイモリです」

783名無しさん@避難中:2017/02/18(土) 18:18:54 ID:x7tC4aFM0
貴重な仁科のお姉様枠の一人だ。おっぱいを下さい。おネエのほうは座ってて下さい。

784名無しさん@避難中:2017/02/20(月) 22:48:41 ID:ZB5KJj7s0
おネエ「そうだ。この学園にはおっぱいが足らんぞ」
○○○「う、う。わおおおおん?」

785名無しさん@避難中:2017/02/21(火) 00:20:23 ID:XyRkG9TY0
○○○は描くときも書くときも無いものと考えてたなぁ。

786名無しさん@避難中:2017/02/21(火) 22:59:43 ID:p.rGaUGU0
迫先輩も好きなんじゃないですか?健全な男子ですものねっ。
え?わたしですかっ?え…わたしには…そんな…ものって

787名無しさん@避難中:2017/02/22(水) 16:46:07 ID:sofr/jL20
>>785
猫の日だけど、かみつくぞっ

788名無しさん@避難中:2017/02/22(水) 17:53:41 ID:p6vemPfM0
つまり誰かに噛みつくわんわん王の何かが創られるということだな、

789名無しさん@避難中:2017/02/23(木) 18:57:14 ID:oKCXfLLo0
>>788
「わたしを追い越したら噛み付くぞっ」
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1090/shinobu_exp.jpg

790名無しさん@避難中:2017/02/23(木) 23:56:34 ID:nKJwELII0
ブルマだぁ!

791名無しさん@避難中:2017/03/02(木) 21:45:41 ID:OxDHFenM0
>>790
おネエ保健医「わたしが履いた姿、見たいだろ?」

792名無しさん@避難中:2017/03/03(金) 02:18:29 ID:UZ66Dsbc0
正直ちょっと見たいw

793名無しさん@避難中:2017/03/03(金) 23:11:55 ID:0OErhRQk0
ブルマってあの伝説の!?
地味に標識が笹森w

794名無しさん@避難中:2017/03/11(土) 21:54:58 ID:nILqAGz20
やもりん「わたしだって…ブルマを」

795名無しさん@避難中:2017/03/12(日) 09:31:40 ID:C13dI2es0
>>242
アラサー無理すんなw

796名無しさん@避難中:2017/03/12(日) 20:05:11 ID:ekRO2kYQ0
>>795
後輩ちゃん「わ、わたしはアラサーじゃありません!!!」
迫先輩「なぜ、おれは男の娘キャラなんだ」

797名無しさん@避難中:2017/03/20(月) 21:55:59 ID:K9.fm1rM0
わんわん 鳴いても いいですか

798名無しさん@避難中:2017/03/20(月) 23:05:49 ID:VxPw4G8A0
いいよ

799名無しさん@避難中:2017/03/22(水) 20:59:03 ID:QLvokNJ.0
おネエ「 >>797はわたしだ」

800名無しさん@避難中:2017/04/05(水) 21:01:50 ID:BGDUaI3.0
突如始まる学園大喜利。

学園内で…
「すごーい!君は○○が得意なフレンズなんだね!」
どんなフレンズ?

801名無しさん@避難中:2017/04/16(日) 14:10:58 ID:KuTzZTpQ0
皆と仲良くなって数の力で嫌いな教師をノイローゼに追い込む、学級崩壊が得意なフレンズ。

802名無しさん@避難中:2017/04/16(日) 18:39:06 ID:n.13kEOc0
それはセルリアンだYO!

803名無しさん@避難中:2017/04/18(火) 15:13:41 ID:iOtsf8iE0
ダークなストーリーだな、おい。
ぴったりなキャラはいるのだろうか。

804名無しさん@避難中:2017/04/22(土) 00:03:33 ID:hI2zLGMs0
「すごーい!君はドングリを拾うのが得意なフレンズなんだね!」

805名無しさん@避難中:2017/05/07(日) 22:48:42 ID:xA51wyH20
やもり(アラサー)「よーし!拾うわよ!ついてらっしゃい!」

806名無しさん@避難中:2017/05/16(火) 03:00:45 ID:Qr5afJ0k0
鷲々谷♪「ぬこっぽ」

807名無しさん@避難中:2017/05/21(日) 06:24:29 ID:3AcxiW/M0
赤巻紙ってなんですかっ

808名無しさん@避難中:2017/05/21(日) 11:07:33 ID:43SnBfDk0
軍隊にいかなきゃいけないやつ

809名無しさん@避難中:2017/05/21(日) 19:36:55 ID:3AcxiW/M0
兵力になりそうな部活は…

810名無しさん@避難中:2017/05/21(日) 23:14:48 ID:uXkU6sX20
重量挙げ部の連中しかいない

811名無しさん@避難中:2017/05/25(木) 12:20:20 ID:ZUinHGzA0
重量挙げ部の連中と他の部を戦わせてみよう。どうなりますか

812名無しさん@避難中:2017/05/27(土) 13:03:18 ID:YfzjdoOU0
何故か卓上ゲームの勝負になる

813名無しさん@避難中:2017/05/27(土) 15:53:24 ID:7g8rJBl60
卓の駒(ダンベル)

814名無しさん@避難中:2017/05/27(土) 22:52:20 ID:wjRhqq5s0
駒野卓(新入部員)。

815名無しさん@避難中:2017/06/10(土) 06:45:43 ID:MBG4gxgs0
重量挙げ部VS園芸部

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1103/ageru01.jpg

816名無しさん@避難中:2017/06/10(土) 07:38:19 ID:AemXwzqQ0
燃え尽きてるw

817名無しさん@避難中:2017/06/12(月) 21:32:49 ID:PxAXBg6A0
祝!英知ちゃんイラスト化!笑顔かわいい

818名無しさん@避難中:2017/06/18(日) 07:35:04 ID:l5K95ltA0
重量挙げ部VS園芸部、二回戦目。
ttp://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1105/ageru02.jpg

819名無しさん@避難中:2017/06/21(水) 12:44:45 ID:krG4phIg0
鍋にしようず

820名無しさん@避難中:2017/06/24(土) 06:39:19 ID:ys3OdlX20
重量挙げ部VSアーチェリー部
ttp://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1106/ageru04.jpg

821名無しさん@避難中:2017/06/26(月) 01:35:22 ID:df9gDXJw0
木「解せぬ」

822名無しさん@避難中:2017/06/26(月) 10:44:13 ID:J9F0kZPM0
英知ちゃんは木の精霊なのだ

823名無しさん@避難中:2017/06/29(木) 22:01:34 ID:CLrKrPc.0
818
それ農作業違うです?

824名無しさん@避難中:2017/07/07(金) 07:04:22 ID:gvfsGLUI0
>>804
すごーい
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1111/donguri.jpg

825名無しさん@避難中:2017/07/07(金) 09:13:17 ID:Na0ZpUks0
目隠しでイガ栗はあかんw

826名無しさん@避難中:2017/07/09(日) 01:01:39 ID:IaMjbKWo0
「迫先輩、得意ですよね」wwww

何をもって得意とするのか、なぜそんなことを知っているのか
傲慢かもしれないがツッコミを入れずにはおれなかった

827名無しさん@避難中:2017/07/09(日) 06:08:35 ID:2cG/wIbM0
重量挙げ部VSわんわん王
http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1112/ageru08.jpg

828名無しさん@避難中:2017/07/15(土) 06:49:55 ID:UiNcAJL60
重量挙げ部VS○○女子。

http://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1115/ageru05.jpg

( https://www15.atwiki.jp/nisina/pages/253.html 「歴史少女日常系」より)

829名無しさん@避難中:2017/07/18(火) 20:28:25 ID:rIlOTJAM0
肉Tシャツはやばいだろ

830名無しさん@避難中:2017/07/21(金) 07:13:56 ID:uv0XSYUI0
>>829
何故にw

831名無しさん@避難中:2017/07/21(金) 20:26:21 ID:YgkjSPYU0
センスがだよぉ!

832名無しさん@避難中:2017/08/13(日) 12:02:16 ID:2pcMTDk20
実際、重量挙げ部って普段、何してるんだろう?

833名無しさん@避難中:2017/08/13(日) 12:16:44 ID:uQ5SyYFM0
何だろう
重量挙げじゃないかな?

834名無しさん@避難中:2017/08/14(月) 08:55:40 ID:e4UHbr0w0
しってるか、重量挙げ部は数少ない普通のスポーツの部活

835名無しさん@避難中:2017/08/14(月) 21:45:29 ID:4.ZK3bZ20
イノシシと体当たりしたり、木持ち上げるのが普通だと…

836名無しさん@避難中:2017/08/17(木) 07:07:03 ID:MKQT3Fnc0
重量挙げ部VS書道少女

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1118/ageru07.jpg

837名無しさん@避難中:2017/08/19(土) 17:26:35 ID:ng3O4oBc0
かわいいw

838名無しさん@避難中:2017/08/20(日) 21:14:02 ID:9qfTriN60
たわわ

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1120/ageru06.jpg

839名無しさん@避難中:2017/08/23(水) 00:35:07 ID:IsAFKqnQ0
シリーズ化おめ!
ゆりんゆりんですな
オチまでついてるけど

840名無しさん@避難中:2017/09/10(日) 12:38:23 ID:M3mor9/60
お題を下さいましまし

841名無しさん@避難中:2017/09/12(火) 02:17:11 ID:o7kv6I820
お花見(秋)

842名無しさん@避難中:2017/09/17(日) 19:41:57 ID:ZmBg9b620
>>841
「秋のお花見ですわ!」
「桜、咲いてませんよ」
「今から咲かせてみせますわ!」
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1123/aki_hanami.jpg

843名無しさん@避難中:2017/09/24(日) 23:32:10 ID:kwybH.Rk0
どっからもってきたw

844名無しさん@避難中:2017/10/01(日) 09:10:06 ID:K9WsCp4Y0
秋のお花見・その2。

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1127/sakura_de.jpg

845名無しさん@避難中:2017/10/01(日) 09:20:42 ID:X94OvBVw0
嗅ぐなw

846名無しさん@避難中:2017/10/01(日) 19:08:03 ID:8v1ps0s20
英知ちゃんがハンター属性に!?

847名無しさん@避難中:2017/10/04(水) 09:20:28 ID:pUG/f6jY0
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1129/aeon_mall.jpg

あかね「今度の日曜、イ○ンモールいきましょ!」
荵「じゃあ、朝10時に駅前で!」
鷲ヶ谷「秋からニチアサの時間ずれちゃうから…」

848名無しさん@避難中:2017/10/05(木) 21:59:36 ID:XeDNbW6I0
気まずいw

849名無しさん@避難中:2017/10/06(金) 20:32:39 ID:CQlZq3xk0
ジェットマンw鳥つながりってことになるのか
……

①わんわん王→
②鷲→鳥類→
③あかね→猩々or尻真っ赤→

!?俺は今何か恐ろしいことに気づいてしまったかもしれない

850名無しさん@避難中:2017/10/13(金) 07:02:30 ID:iPehcibI0
>>849
あかね「どうしてわたしだけお尻なんですかっ」

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1134/momotaro.jpg

851名無しさん@避難中:2017/10/17(火) 21:28:06 ID:nQDpmiZQ0
>>850
そんなこと知り真っ赤!

鬼ぐろいぞw

852先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 02:54:05 ID:pLgRaLN.0
投下します

853先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 02:54:55 ID:pLgRaLN.0

「先輩、運を試してみませんか!?」

 舞台の筋書きでそうなっているかのように急速に教室外にはけていくクラスメイトたちと入れ替わりに後鬼閑
花がやって来た。「失礼します」の一言があるくらいで、上級生の教室に入るのにもまったく物怖じしない。
 というよりも、この後輩は、他人にどう思われようがさして興味がないのだろうと思う。一時期の彼女は人間
関係というものにほとんど絶望しかけていて、その時の心の傷はいまだに癒えていない。
 その唯一の例外となったのが、学園の先輩にあたる俺だった。
 というと自惚れのようだが、事実、行動を共にするようになってから、彼女は俺に対する好意を隠さずにいる。
 後輩はこれを一生に一度の恋愛感情だと信じ、俺と男女の関係になることを強く望んでいるのだった。とても
そうは思えないと俺がはっきりと拒んでいるにも関わらず、まだ諦めておらず、こうして毎日のように何らかの
アプローチを仕掛けてくる。
 “まずは先輩後輩から始める”程度の付き合いというだけならまだしも、だいたいが突拍子もない言動を伴う
のが困り物だった。
 今日の後輩は、得体の知れない段ボール箱を抱えて現れた。両腕をまっすぐ下に伸ばして持つ彼女のお腹が隠
れるくらいの大きさがある。
 後輩はそれを断りもなく、俺の空っぽの机の上にどすんと置いた。
 中で、プラスチックのような軽くて硬い物同士がぶつかり合う音がした。

「ねぇねぇすごくないですかこれ? すごいですよね?」
  
 脱色も染色も知らない無垢な黒髪のおかっぱ頭と夢みる瞳は実年齢の十五か六よりもだいぶ子供っぽく映るが、
いつも甘えているような声がそれでぎりぎり異様に聞こえない。
 ただし、周囲をして「何をしてくるか分からない」と言わしめる、その振る舞いの無軌道ぶりは、“子供っぽ
い”では済まない、ある種狂気じみたものを感じさせた。
 その彼女が持ち込んだ代物である。目の前にそびえるこの段ボール箱もまた、ただのびっくり箱であるはずが
なかった。ただのびっくり箱であればどれだけ楽だか知れない。

「何だこれ」
「んふふー、さて、何でしょう?」
「夏休みの工作」

 既に晩秋である。夏休みはとうに過ぎていた。

「工作、の、何?」

 とぼけたのをさらりと流された。
 簡単に答えを明かす気はないようなのでまじめに考える。
 段ボール箱は一辺三十から四十センチメートル。縦方向にやや長い。
 手に取ってみる。
 俺に向けられていた一面だけ、上半分が切り取られ、そこに濃青の色付きセロファンが張られている。外側か
らべったりとガムテープを使って固定しているのだった。
 その“窓”からは内部が見える。まるで潜水艇からの眺めのようだ。
 箱の中身は球体のカプセルだった。透明な半球と色付きの半球を組み合わせて景品を入れる、よくある形のも
のだった。たくさんある。
 また、同じ面の右下には、直径五センチメートルばかりの“ツマミ”のようなものが外付けされていた。恐ら
くは軸は段ボールを貫通しており、箱の内側でナットの役割を果たす部品で受けているのだろう。一見して、回
転させる気マンマンといった感じだった。ただ、段ボールの厚さが心もとなく、ツマミ部分はしょんぼりと俯い
ていた。
 ツマミから左方向に視線を水平移動すると、キッチンの流し台などでお馴染みのラバー製の菊割れ蓋が、ガム
テープで雑に取り付けられていた。まず間違いなく、段ボールの横っ腹に開けた穴の覆いだろう。
 全体的に、あまり丁寧な仕事ではなかった。
 不器用な小学生の作品でも、少なくとも少しでも綺麗に仕上げようとした努力の跡がどこかに漂っているもの
だが、これからそういう意思は一切感じられない。
 素材の良さを活かしたと言わんばかりに未塗装で『青果』の文字がどこかの面に残っていたり、一手間で摘み
取れるようなささくれがそのままだったり、ガムテープがよれて山脈のようになっていたりする。
 後輩はその気になれば何でもそつなくこなせるタイプだから、時間かやる気の問題だろう。たぶんやる気の方
だろうが。

854先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 02:55:45 ID:pLgRaLN.0
 俺は答えた。

「カプセルトイの、ハコか?」

 言ってから、ようやく“筐体”という言葉を思い出した。俺個人はその手の遊びにはさほど関心がない。
 後輩は、まさに我が意を得たりという顔をした。

「ぴんぽーん! 大正解! これはですね、『後輩ガチャ』と申しまして――」

 『後輩ガチャ』――?
 こんなに関わり合いになりたくないネーミングもない。
 これまで彼女にさんざん振り回された俺の経験が、その名前から受ける印象をひどく禍々しいものにしていた
のだった。少なくとも絶対にろくなことにはならない、というか、カプセルの中身をダシにして後輩が行うであ
ろう行為がろくでもない。

「ガチャガチャとこのツマミを回しますとぉ、あっ、回してください、どうぞ」
「……」

 俺は後輩のいいなりに、しょぼくれたツマミをひねった。
 やるのやらないので下手な応酬をするより、そのほうが早いからだ。少なくとも一日の単位では、そうだ。俺
はそれを長い付き合いで学んでいた。あまりにも跳ねつけすぎるとより面倒臭い方向に暴走し始める、そういう
危うさを持った少女である。

「ガチャガチャガチャ〜? ポン! ……こうして後輩カプセルが出てくるわけですよ。夢と希望がしこたま詰
まった、後輩カプセルがね」
「出てくるっつって取り出したの、お前だけどな」

 俺がツマミを一周させている間に、後輩は排出口の菊割れ蓋にほっそりした手を突っ込み、プラスチック製の
球体をほじくり出していたのだ。まず張りぼてだろうと踏んでいたのでツッコミもおざなりだ。
 今更どうでもいいが、『ポン』はカプセルを開けた時の擬音ではないのだろうか。

「さあさあ! 初めての『後輩ガチャ』の後輩カプセルですよ、開けてみてください! 夢と希望がしこたま詰
まった、後輩玉ですよ!」
「それさっきも聞いたよ。名前変わってるけど」

 これは当然ツマミを回した先輩の物ですよね?みたいな顔をした後輩に、後輩の夢と希望がしこたま詰まった
後輩玉を押し付けられる。

「何が入っているのかなー?」

 幼児を相手にしているような白々しい口調に、嫌味が口を突きかけたが、我慢した。なんだか年上をやってい
る感ある。

「わあっ! 梅干し!」
「おにぎりの具みたいだな」

 カプセルの中身は、大粒の“梅干し”だった。ビニールの袋に個別包装されたものだ。先のツッコミでは流れ
を踏まえてああ言ったが、おにぎりの具というよりは間食用の品だろう。ふやけてしまわずに摘まれた時のまん
まるな形を保っていて、さぞかし小気味よい歯ごたえがするに違いない。
 後輩はさっと俺から梅干を没収し、袋を破って自分の口に放り込んだ。

「すっぱぁい!」
「お前が食うんかい」

 わざとらしく両手に頬を添えてわざとらしく嬌声を上げる。彼女の動作はだいたいいつもわざとらしい。

855先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 02:56:28 ID:pLgRaLN.0

「俺に回させた意味あったか?」
「このようにですね、『後輩ガチャ』を回すと、出てくる後輩エッグのお題に従って、あなたの可愛い後輩がう
れし恥ずかしいことをしてくれる、こくん、わけです。ま、うはうは王様ゲームのようなものですかね」
「いや食べたじゃん! 種まで食べた!」
「……先輩そんなに梅干し食べたかったんですか……? でもご安心! このガチャの景品は、ただのオヤツの
梅干しなどではないのです。お題はまだまだ継続中ですよ!」

 後輩はそこで一旦言葉を区切り、囁くように言った。

「だって豪華景品それは、梅干しの味のする、この私のキスなのですから……」
「そんなことだろうと思った。いりません、そんなもの」

 もちろんそんな既成事実になりそうな話には乗らない。

「ちょっと先輩早く早く! カモンカモン!  梅干しの味が! なくなってく!」
「こっちに寄るんじゃない」

 さすが後輩、俺の話を聞いているようで聞いていない。
 ぐいぐい迫り来るデコを俺は掌底で迎え撃ち、腕を突っ張る。駄々っ子と化した後輩が「うにゃー」とかなん
とかあざとく鳴きつつ弱っちそうな拳を振り回すが、それ以上の接近は許さない。

「むー」

 後輩はひとしきり暴れてから、ふいっと気まぐれな猫のように俺から離れていった。赤い革バンドの腕時計を
嵌めていないほうの手首で、しきりに額をさすっている。注意して見てみたが、手を押し当てていたアトは、付
いていない。

「女の子に恥を掻かせるなんて、このチキンー」

 端正な眉は無念そうに下がっていたが、唇には満足感が漂っていた。
 後輩の目的は、どちらかというと、俺とのこういう他愛ないじゃれあいそのものにあるのかもしれない。

「俺はお前を女の子に分類するか、痴女に分類するか、最近真剣に考えてる」
「先輩以外にこんなことしてませんよ!? なんていちずな子なんだろう!」
「俺の感想をちゃっかり捏造するのやめろ」
「なんていけずな人なんだろう!?」

 うまいこと言ったので褒めて欲しい風な光が瞳にちらついたが、キリがないので黙殺する。

「ほらほら先輩、もう一回やりましょうよ! ねっ? いいでしょ? まだまだ後輩カプセルのストックは豊富
ですよー! これ! ごろごろこれぇ!」

 気を取り直したらしい後輩が、『後輩ガチャ』の筐体を激しく揺さぶる。カプセルがボール紙を叩いてガタゴ
トいう音と、カプセル同士が我を張り合うカチンカチンという音がした。爆弾の詰まった箱に見えてきた。

「……なあ、これ全部でいくつカプセルが入ってるんだ」
「私の歳と同じ数になるよう厳選しました」
「多いよ!」
「欲望が止まらなくなってぇ」

 後輩がきゃっと恥ずかしそうにゆるみきった頬を手で押さえた。
 恋する乙女は欲張りで、あれもしたいし、これもしたいのだ。
 自分の口の端が引き攣ったのが分かった。そんなのに付き合わされてはたまったものではない。後輩との会話
では、自分がへとへとになるのと対照的に相手の顔色はつやつやになっていくので、まるで若さが吸い取られて
いるかのように錯覚する。

856先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 02:57:12 ID:pLgRaLN.0

「『後輩ガチャ』は無料にして無制限。一日一回だけなんてケチくさいソシャゲみたいなことは、私、言いませ
ん。何度だって引いていいんですよ? でも先輩だけですけど」
「このガチャが基本いいものっていうその自信はどこから来るんだ? 引きたくないぞ、俺は」
「じゃあ私が引きます!」
「はー?」

 風雲急を告げる展開だった。
 後輩はわけのわからないことを言うやいなや、ツマミには目もくれずに、いきなり排出口にズボッと右手を突
き込む暴挙に出た。

「ガチャの意味!! それ!! くじ!!」
「――出ました。これぜったいアタリ」

 掴み取ったカプセルを掲げて得々とした笑みを浮かべる後輩を見る俺の眼差しには、ある種の戦慄が篭ってい
たに違いない。
 ……いやまあ、どのみちこのツマミはただのお飾りで、景品の排出は手動なんだから、現象としちゃ同じなん
だけど、同じなんだけどさぁ……。
 こいつ自分が苦労して作った物をよくそこまで蔑ろにできるな。

「ガチャガチャ! ポン! ……これは、芋ようかんですね」
「……何だって?」
「だから芋ようかんですよ。一口サイズに切ったのを、アルミホイルに丁寧に包みました。レアですよ」

 何やってんだこのバカは。あまりにも自信満々に言うもんだから、一瞬、俺のほうがおかしいのかと思ってし
まった。どう考えてもおかしいのはお前だ。

「一応お聞きしますが、芋ようかん味のキスなどは――?」
「梅干しが芋ようかんに挿げ変わるだけなのかよ!」
「じゃあ他にどうしろって言うんですか!!」
「自分自身の止まらなかった欲望に聞けば?」

 後輩はブーたれながら、再びガチャに手を伸ばした。

「ポン! ……チョコレートキャンディですね。甘さひかえめで美味しいですよ。最近私たちの間で流行ってる
んです」
「そういう情報が欲しいのと違う」

 ここに来て明らかに後輩は意地になっていた。『後輩ガチャ』を見る目の色が変わっている。賭け事にハマっ
て身を持ち崩すタイプだったのか。これまでも少なくとも恋には盲目だったけど。

「おせんべい。の、カケラ。……おのれ、もう一回!」
「ちっさい乾燥剤をいっしょに入れておくくらいの配慮ができるのだったら、もっと根本的なところから考えて
て欲しかった!」

 もうガチャともポンとも言わない。
 後輩は無雑作に『後輩ガチャ』の中身を抜いていく。それはもはやただの作業だった。

「……チョコレートキャンディがダブりました」

 薄幸の後輩は、そこで心が折れたようで、がっくりと肩を落とした。
 いつの間にか、筐体の屋根と机の天板には、カプセルの残骸と手つかずのお菓子が散乱していた。

「ていうか、『後輩ガチャ』、実態はただのオヤツの箱じゃねえか!!」
「選べるファーストキスの味ですよ!!」
「選べるんならガチャにする必要ないだろ!!」

 混乱の極みに達した後輩相手に虚しい勝利を収めて、この放課後は終わった。
 俺たちは同じ味のキャンディを舐めながら、とぼとぼと夕陽の中を帰った。
 『後輩ガチャ』はこの日以来、歴史の闇に姿を消し、二度と浮かび上がってくることはなかった。



 おわり

857先輩、『後輩ガチャ』です! ◆46YdzwwxxU:2017/10/22(日) 03:00:01 ID:pLgRaLN.0
以上

先輩の台詞が辛辣になりがちで調整に苦労した
ツカレタ

858名無しさん@避難中:2017/10/24(火) 11:29:05 ID:I70bNRU.0
後輩ちゃんの行動力は半端ないw
他の子のガチャも作って並べてみよう

859名無しさん@避難中:2017/10/29(日) 09:07:55 ID:AxSlniD.0
「わおっ」

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1136/engekibu_gacya.jpg

860名無しさん@避難中:2017/10/29(日) 09:10:59 ID:zJC7.eIU0
痛恨のミスw

861名無しさん@避難中:2017/10/30(月) 21:04:56 ID:Ponsp4HE0
ダイヤルもないぞw

862わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/11/04(土) 05:05:39 ID:sMF9cBC.0
久しぶりに書いてみた。


 
 迫先輩には何をやっても敵わないのが、物凄く悔しい。それが黒咲あかねの感想だ。
 例え、それが部活の演劇であろうとも、どんなにくだらないものだろうとも、
わたしは迫先輩の足元に及ばずに、ただただ奥歯を噛み締めるしか出来ないのだ。

 「スピードでおれに勝てると思ってたのか?」

 数字の順番通りに持ち手のカードをどれだけ早く捌くことが出来るか。反射神経、冷静な判断力。
そして、運。この三つをいかに味方に付けるかが、明暗を分けるトランプゲーム「スピード」 。
単純だからこそ、スリルとドラマがあり、テクニックが要求される。

 「黒咲、まだまだだな」
 「これからですっ」
 「これからって、どこからだ」
 「えっと……」

 迫先輩は理屈っぽい。でも、両手で数える程の枚数の持ち手カードの重みが、ひしひしと
わたしの実力不足を現実として物語ってた。

 「あかねちゃん、泣くなっ」
 「全然泣いてないし」
 「あかねちゃんは大人だっ」

 わたしと迫先輩との対戦を端で観ていた久遠荵が、余裕のないわたしをからかう。
久遠なりの励まし方だと分かっていても、悔しいものは悔しいし。でも、言っておく。
 わたしは泣いてないし、迫先輩にそういうことをさせたくないし。

 「迫先輩っ。もう一度勝負ですっ」
 「泣きの一回か」
 「泣いてませんっ」

 とにかく、どんなことでもいいから迫先輩を越えたい。お遊びでもいいから。
女子の武器を捨ててでも……だ。わたしのお願い事に気圧されたのか、迫先輩はメガネを鈍く光らせて
「分かった」と承知した。

 「次は負けませんっ」
 「ふふっ」

 からかうつもりなのか、どうだか。

863わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/11/04(土) 05:07:31 ID:sMF9cBC.0
 「妹とよくスピードをしていたからな」

 迫先輩がどや顔で語る。

 「なんだとっ」
 「なんですって」
 「妹がいるなんて」 
 「そこかよ。食い付くとこ」
 「破廉恥なっ」

 迫先輩の妹だ。きっと、先輩のような理知的な面持ちで可憐さを持ち合わしているんだろうな。
 会ったこともない迫先輩の妹に、嫉妬をしているつもりは毛頭ない。ただ、妬いているのかもしれない。
 わたしがくちびるを噛んでいる間に、久遠はスピードの再戦を整え、尻尾を振っていた。

 「違う校区の中学に通ってるんだけど。やりたい部活があるからって」
 「演劇ですか?」

 迫先輩は静かに首を振った。口で「違う」と言えばいいものの、これだから男子は面倒くさい。

 「そうだ。迫先輩。スピードの再戦の件ですけど……」

 対面に構えた先輩にわたしは口火を切った。

 「ただの勝負では面白くも痒くもありませんっ。何かをかけて勝負に挑みましょう」
 「別にいいが……」
 「でも、お願い事があります」

 迫先輩の期待を裏切らない返答を確実に耳にしたわたしは、ずいっと演劇部部室のロッカーから
衣装の入った紙袋を突き出した。さらに、わたしは迫先輩にその衣装を着ることを命じた。

 ふんわりと、甘い香りがした。
 甘い色が、漂っていた。
 男子がいちばん、憧れる。あの芳しくも……麗しい色香。
 それは、衣装から……。

 「何故、おれがスカートを履かなければいけないんだ」
 「カーディガンもリボンありますっ。ウィッグももちろんっ。ただでJKになれるんですよっ?」
 「そういう問題か?」
 「大問題ですっ。賭けるものは……パンツです。パンツを見せてくれませんかっ」

 スカートを手にした先輩は眉を歪ませていたが、わたしには知ったことではない。

864わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/11/04(土) 05:07:49 ID:sMF9cBC.0
 「迫先輩が女子高生になりきることにより、この賭けは成立することで意味を成します。
  仮にこのままの男子高校生と女子高生の姿で、どちらかのパンツを見せるという賭け勝負は
  犯罪極まりありませんっ。破廉恥過ぎますっ。よって、迫先輩が女子高生になりきることにより、
  わたしが迫先輩のズボンを引きずり下ろす○○な行動も避けられ、迫先輩がわたしのスカートを
  昭和のアニメよろしく捲る行為も、ゆりゆりカンケイとして緩和することが出来るのですっ……はぁ」
 
 深呼吸でわたしはわたしを落ち着かせる。
 その間に久遠が迫先輩の腕に噛みつきながら、無理やり迫先輩をカーテン裏へと連れ去っていった。

 もごもごと二人分の膨らみがカーテンをたゆませ、小さな悲鳴が聞こえてくる。
カーテンの裾から迫先輩のズボンが落ちるのが見えた。リアルタイムで迫先輩が少女へと変わりゆく姿が
カーテン越しに伺える。きっと迫先輩の妹も迫先輩が着替える姿を目の当たりにしているだろうし、
迫先輩も妹の生着替えを目にしているのだろう。
 それを考えると、だんだん迫先輩の妹に対する感情が胃から喉の辺りまで込み上げてきた。

 中学生?JCじゃないですかっ。
 そのころのわたしは……あーちゃんなんて、知りません。

 「着替えたぞっ」

 久遠の声と共に女子高生になりきった迫先輩が俯き加減で現れた。思わず、くんくんと鼻を効かす。
小柄で細い方の迫先輩は男子の振る舞いを考慮すれば、フローラルの香り漂う文化系メガネっ娘女子高生
そのものであった。女子高生に変身した迫先輩は口を閉ざしたまま、わたしたちの目を見ようとはしない。
 分かってる。男子心って難しい。そして、面倒くさい。

 「せっかくだから、名前つけようっ」

 久遠の尻尾が揺れる。

 「えっと……ゆきちゃん」
 「久遠、やめろ。黒咲、笑うな」

 反射神経の敏感な久遠は流石だ。
 男子としては白い肌の迫先輩とゆきちゃんという印象はアドリブで命名したとは思えぬはまり具合だった。
 迫先輩……もとい、ゆきちゃんは頬を赤らめていた。
 でも、わたしにはそんなことすらどうでもいい。パンツだ。パンツがかかっているんです。
 黒タイツを透かしてとはいえ、パンツを見せてたまりますかっ。絶対に負けられない戦いだこそ……



 パンツなんですっ。

865わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/11/04(土) 05:08:07 ID:sMF9cBC.0
 「始めましょうっ」

 ゆきちゃんと向かい合わせで席につく。
 メガネ越しに見える瞳はゆきちゃんではなく迫先輩だ。そして、切られた火蓋。

 「スー、ピー、ド!」

 好調な滑り出しだ。ゆきちゃんに変身した故の動揺が見え隠れしているものの、試合運びは
迫先輩そのものだった。迫先輩とスピードに興じている妹も、きっと集中力の高い子に違いない。
遊びを遊びともせず、一種の賭場のような雰囲気をたたずませて、迫先輩の一喜一憂を目に
焼き付けているのだろう。
 と、ゆきちゃんのカードが止まった。わたしの手札を
 消化するチャンス。ゆきちゃんが俯く姿は天才将棋少女にも見えてくる。
 きっと、ゆきちゃんは将棋も強いんだろう。そして、わたしの手札も止まった。

 ゆきちゃんはスカートを気にせず脚を開いている。開放感からくる気の緩み。
 そんな女子高生は二次元ならばお払い箱だ。そして、その気の緩みがカードに如実に表れてきた。
 山にはハートの5。ゆきちゃんはスペードの4、わたしはスペードの6の持ち札が。
 なのにも関わらず、捌けるはずのカードを見逃し、わたしにスペードの6を許してしまった。
 ここからゆきちゃんのペースが崩れた。

 「くっ」

 今、わたしは鬼にならねば。だって、パンツだし。
 カードは黙りを続ける。幾度となく続く「スピード」の掛け声。そして山のカードが残り一枚に。
 次の掛け声で決まる。ゆきちゃんの運が勝つか、わたしか。

866わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/11/04(土) 05:09:30 ID:sMF9cBC.0
 「スー、ピー、ド!」

 決まった。

 ゆきちゃんはカードをもう出せない。というか、出しても時遅し。

 わたしの勝利だった。

 勝利の美酒に酔うよりも、パンツが守られた安堵感でどっと疲れが肩にのし掛かってきた。
 もっとも、わたしが言い出したことだし。

 「ゆきちゃんのおパンツを見せろいっ」

 久遠がゆきちゃんの腕に噛みついた。
 振り払おうとあわてふためくゆきちゃんは椅子を蹴り倒して立ち上がった。

 「ま、待て!電話が……」

 電話を片方の手で掴み、もう片方の手で久遠を押さえつつ、ゆきちゃんは電話に応答していた。
 ウィッグの髪が乱れ頬に張り付いている。

 「う、うん。分かった。明太フランスパンだな」
 「うー、わうっ」
 「今、部室だ。え?おれは脚本を書くのが好きなんだ」
 「見せろいっ」
 「由妃こそ部活はどうしたんだ。中学の。みんなと合わせたくないって?」
 「わおっ」
 「もう切るぞ。こっちも……って、おい!由妃!」

 その言葉を最後に、部室に静寂が戻った。
 わたしと久遠はお互いに顔を見合わせ……
 「由妃ちゃんだって。『ゆき』ちゃん」
 「ゆきパン食べて、おパンツ見せろいっ」

 迫先輩……もとい、ゆきちゃんはスカートを押さえながら太ももに噛みつく久遠を振り払っていた。


 おしまい。

867名無しさん@避難中:2017/11/11(土) 06:42:05 ID:xSFaIHDU0
わんわんわんわんの日。

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1141/pokey_game.jpg

868名無しさん@避難中:2017/11/17(金) 11:30:43 ID:1mVRswQo0
お題欲しいにゃ

869名無しさん@避難中:2017/11/22(水) 11:49:38 ID:tbZvinxY0
ロボット

870名無しさん@避難中:2017/11/25(土) 07:06:59 ID:8EiC9Pjw0
ロボットと言えば……!

871わんこ ◆TC02kfS2Q2:2017/12/03(日) 09:10:35 ID:bdaY6cqk0
>>869
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1146/wan_rob.jpg

だ…だれか、ロボ描くの上手い人…

872名無しさん@避難中:2017/12/03(日) 10:43:41 ID:wycKUTnk0
ロボスレ民に頼もう

873名無しさん@避難中:2017/12/22(金) 08:02:50 ID:NSo9vcxw0
「妹と○○」で、お題下さいまし

874名無しさん@避難中:2017/12/22(金) 08:18:40 ID:whxadIDg0
ゲーム

875名無しさん@避難中:2017/12/27(水) 07:14:58 ID:Rv635Th20
姉より妹の方が魅力的なのは、どうしてですか

876名無しさん@避難中:2018/01/15(月) 07:01:49 ID:ihB/kubc0
妹とゲーム

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1156/sako_imouto.jpg

877名無しさん@避難中:2018/01/29(月) 23:27:14 ID:0FpbKz8w0
仁科人生相談

鷲ヶ谷「妹に勝てる技を教えて下さい」

878名無しさん@避難中:2018/02/03(土) 19:03:59 ID:wuDOIMEI0
「妹の××」でお題、下さい

879名無しさん@避難中:2018/02/04(日) 23:16:27 ID:QBqdbITo0
米蔵

880名無しさん@避難中:2018/02/11(日) 21:35:30 ID:euHzlHk60
妹の米蔵ってなんじゃい

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1161/komegura_ako.jpg

881名無しさん@避難中:2018/02/16(金) 21:17:36 ID:IBGPGAWw0
なんじゃろうな

882名無しさん@避難中:2018/03/03(土) 21:56:21 ID:5gzV8Tcg0
>>866
あかねちゃんは最初の印象からどんどん(エキセントリックに)変わっていくキャラだなぁw
「パンツです。パンツを見せてくれませんかっ」って何だよw
>>867>>871>>876>>880
そこはかとない狂気を感じる
疲れているときに見る夢のような不思議でそこはかとない狂気をだ
ゆるふわポプテとでもいおうか
恐ろしい才能の片りんを感じる

883名無しさん@避難中:2018/04/23(月) 21:07:02 ID:V99.G3720
荵「わっしー、イエーイ!」

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1171/akane_shinobu_kazuho001.jpg

884名無しさん@避難中:2018/04/29(日) 00:59:32 ID:ZXILGVFE0
チャリオットかよ
お前が漕げよっ

ジェットマン多すぎw

885名無しさん@避難中:2018/05/02(水) 06:53:31 ID:RiDUr95o0
https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1178/ageru_pool.jpg

食べ物描くの楽しい

886名無しさん@避難中:2018/05/11(金) 22:45:33 ID:rEqXXwH.0
「空手少女」と…で、お題を。

887名無しさん@避難中:2018/05/13(日) 01:32:30 ID:u.X7Ma.Y0
剣豪のひ孫

888名無しさん@避難中:2018/06/06(水) 07:09:18 ID:k0YOctbw0
恋愛相談

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1184/totoro001.jpg

889名無しさん@避難中:2018/06/06(水) 21:33:18 ID:vcpLvJos0
やらしいっ

890名無しさん@避難中:2018/06/20(水) 22:59:07 ID:vZGKC6dg0
質問…
演劇部の中途入部の女子高生。さて、どんな子!?

891名無しさん@避難中:2018/06/21(木) 12:23:21 ID:OMo1Dp1U0
どんな些細なことでもミュージカル仕立てにする

892名無しさん@避難中:2018/06/26(火) 23:55:23 ID:SiFNYN9c0
発声練習のあえいうえおあおを覚えられず
あいうえお!・・・あお!と言ってごまかしている

893名無しさん@避難中:2018/07/14(土) 21:54:36 ID:1G6f832M0
質問2…
こんな演劇部の顧問はかわいい
どんな先生?

894名無しさん@避難中:2018/07/15(日) 09:53:13 ID:vQ0jh.7k0
元宝塚

895名無しさん@避難中:2018/07/20(金) 23:42:19 ID:30iLuD1M0
生徒がいない時こっそり鏡の前で舞台衣装を自分に合わせてみる

896名無しさん@避難中:2018/08/15(水) 08:41:29 ID:Z0pXPpLs0
問)夏休みの恒例行事を教えて下さい

897名無しさん@避難中:2018/09/01(土) 14:19:37 ID:O5mFZIv.0
登校日!

898名無しさん@避難中:2018/09/15(土) 07:03:48 ID:0NguDkVM0
登校日!!

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1199/toukoubi.jpg

899名無しさん@避難中:2018/09/22(土) 22:49:05 ID:dTAAob0w0
お題下さい

900名無しさん@避難中:2018/09/22(土) 23:10:29 ID:eMRyimSw0
水泳の秋

901名無しさん@避難中:2018/09/23(日) 14:20:55 ID:8S9EDZiM0
水泳の秋…のつもりやったんや。

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1201/suiei_no_aki.jpg

902名無しさん@避難中:2018/09/23(日) 16:11:32 ID:QI/59ykY0
変態だーっ!!

903名無しさん@避難中:2018/09/23(日) 19:04:42 ID:aUlH8dDQ0
久々に名前を見かけまして

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1203/gekka.jpg

904名無しさん@避難中:2018/10/04(木) 07:14:59 ID:zg0l/Gk60
ここの学園って野球部とかバレー部とか普通の部活はないの?

905名無しさん@避難中:2018/10/14(日) 09:22:07 ID:p2167IWk0
お題を…

906名無しさん@避難中:2018/10/16(火) 13:52:55 ID:8x9CnXu.0
テスト

907名無しさん@避難中:2018/10/17(水) 10:03:45 ID:ukF4C/CY0
メジャー級のイベントなのに忘れてた

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1207/test01.jpg

908名無しさん@避難中:2018/11/11(日) 09:39:51 ID:19/5kdHc0
ポッキーの日

https://download1.getuploader.com/g/sousaku_2/1210/pokey_game.jpg

909名無しさん@避難中:2018/11/30(金) 12:04:40 ID:pBaBKCF.0
お題下さい

910名無しさん@避難中:2018/11/30(金) 14:46:10 ID:Ga3q8kZMO
異世界転生

911名無しさん@避難中:2018/12/04(火) 06:50:39 ID:HAXOHCno0
異世界転生ものの人気のワケってなんだろう

912名無しさん@避難中:2018/12/23(日) 21:41:00 ID:NVXEPa8U0
現実の制約・しがらみをリセットして親や社会から独立したいという願望を満たせる
立身出世物の構造を持つものも多い
優越感・万能感を得やすい素地がある

913わんこ ◆TC02kfS2Q2:2018/12/27(木) 07:58:32 ID:QWeL3UUE0
 リアルな書店の中を巡り歩くのは、一体何ヶ月ぶりだろうと独り言のように呟く。
 生身の人間の眼がずきずきとわたしに突き刺さる、と思い込むのは、実に勝手だ。
 誰もわたしのことなど知らない。知ってるはずはない。希望的観測で自分自身を勇気付けて、厚く覆ったマフラーで口元を隠し
目深にニットの帽子をかぶってこの世を忍ぶ。

 かつては誰からも憧れと羨望のまなざしで手を振られる存在であった。
 きらきらと輝く水晶石にも似た存在でもあった。
 だが、脆く、危うい、その石のごとく。崩れ去ったというのも、誰かの浅はかな行いのせい。

 だから、隠れる。消える。この世に存在していなかったことと等しく。

 わたしは活字の森に身を隠す木の葉だ。
 風が吹けばひらりと舞い、どこかへと身を墜落させる。そして、やがて土に返ることを願いつつ、またふわりと。

 「あっ。ごめんなさい」

 不注意で男子高校生の肩にぶつかる。素直に相手は謝罪の意を示してくれたのだが、どうにもわたしの声が出ない。
 意思はあるのだが、脳が反応しない。声帯が拒否る。まともに人と話すということ自体が久しぶり。
 ただ、額に冷や汗だけが一筋。

 「ご……ごめんな……さい」

 こんな声ではなかったはずだ。か弱い羊のような声だ。
 甘くて、客席にたむろする男どもに向けて発するあの声と。

 かつてはわたしはアイドルという身分だった。正しくは『地下』という接頭語が付く。その集団の一人だった。
 舞台の上でマイクを握り、この身を切り売りしながら、代わりに金と名声を握る。
 でも、世間様はそっぽを向いた。世間様は悪くない。正しい、神だ。たった些細な出来事で神の機嫌を損なった。

 出来ることならもう一度。生まれ変わってもいい。
 転生することは誰もが夢見ることかもしれない。
 だからか、と言うのは乱暴だけどわたしはライトノベルの棚の前で気づいた。

 『異世界転生もの』。

 なんと、そんなコーナーがご丁寧にこしらえられているではないか。

 ネットの噂には聞いていた。というか、ネットの深い海に身を潜ませていたわたしは、リアルと虚構が合致した瞬間を見た気がした。

 異世界に転生するのも悪くない。
 誰も知らない。誰からも知られていない。
 でも、わが身はものすごく知っている。
 翼が欲しい。イカロスのような蝋で出来た翼なんかではなく、太陽の光に輝く金糸のような翼だ。

 わたしだって、出来ることなら舞台に立ちたい。あのサイリウムの光が見たい。地下でひっそりと知る人ぞ知る存在だったと
しても、アイドルだったことは間違いないし……でも、もうそのグループはもう現世で生きることすらる許されず。

 それは、誰かのせいだ。
 わたしと時間を共にした誰かが。
 誰かは、泣いていた。
 メンバーは「大丈夫だよ」と慰めていたが、本心はどうだか。この世界に身を投じている者ならば見抜くことなど容易い。
 わたしは何も声をかけられなかった。

 ふと。わたしのスマホが鳴く。滅多にないことなのでびくっと挙動不審。
 無論。誰かからかも解りきっている。妹だから。

 そして、目を疑う。

 『お姉ちゃん。高校の演劇部の顧問(仮)になってくれない?ってか、なりなさい』 
 
 蓆田(むしろだ)いおり、22歳。代表作……これといってない、元地下アイドル。

 なんの因果で演劇部という異世界に転生しなきゃならんのだ。
 抗うこともできず、『うん』と、返信だけ送った。


つづくのかはわからん

914名無しさん@避難中:2018/12/27(木) 21:59:03 ID:0fHi.uEo0
乙です
そう来たか!

915わんこ ◆TC02kfS2Q2:2018/12/29(土) 18:06:47 ID:n6h3N.4s0

 わたしのブレイクファーストの邪魔をするな。

 座り心地の良い便座に、殺風景な四角い空間。誰彼の侵入を拒む校舎内でも離れた場所。
 パンパンに膨れたビニルの包装を破くと、真っ白な菓子パンが顔を見せる。ふわふわした食感が好きだ。貴重なわたしだけの時間に、あむっとパンを一口。
 なんでこんなことを引き受けたんだろうと、少々の後悔が甘い菓子パンをほろ苦くさせてくれる。でも、やらなきゃ……と、言い訳できるのは、わたしがちょっと大人になったからか。
 こんな大人になるはずじゃなかったと、過去を呪いたいだけ呪い、目が眩む未来へと足を踏み出すわたし、カッコイイ!!って、自惚れるほどわたしってバカじゃないし。
 今日から大人にならなきゃ……って鼓舞する力も空元気だし。
 だから……。
 どうして、演劇部の顧問なんて引き受けたんだろうと後悔先立たず。

 「あえいうえおわんっ」

 なんだ、廊下の向こうから聞こえてくる声は。
 発声練習なのは分かってる。以前はわたしも散々やらされた。お腹から声を出せ。喉で声を出すな。理屈で分かっていてもダメ。体で覚えなきゃ。
 地下アイドルだって、アイドルの端くれだ。かつては、わたしもその集団に在籍してたのだから。

 そんな真っ暗闇なわたしたち地下アイドルのなかで、発声が抜きん出てレベルが高かったのは『めめぽん』だった。
 歌唱力もずば抜けている。おまけにスタイルもよし、顔面偏差値もかなり高い。それゆえファンからの人気は誰よりも勝っていたのは言うまでもない。
 なんということか、そんな『めめぽん』のお陰でわたしたちは小さな夢を絶たれた。『めめぽん』の軽率な行動故の罰として。

 『めめぽん』の涙を浮かべる姿を思い出しては、薄っぺらい絆を誰もが陰でせせら笑っていたことを忘れない。
 そんなもんだと、冷ややかな視線だけを残して、わたしたちは表舞台(表にも出ていないのだが)から消えた。
 なのにこんな元地下アイドルに、この高校は何を期待するんだと……。

 演劇部の部室の扉は軽かった。どんな者でも歓迎するかのように、がらりと開いた扉の先には、犬小屋がちんまりと建っていた。
 段ボールでこしらえられた犬小屋は、恐らく小道具で製作されたものだろう。演劇部の部室にあってっもおかしくはないし。
 ふぅと溜め息つくと同時に犬小屋から少女のような子犬……ではない。子犬のような少女が顔を見せた。ボブショートの彼女はうつ伏せでわたしの顔を見上げた。

 「何物だっ。名を名乗れっ」
 「お兄ちゃんどいて!そいつ噛みつけない!『しっぽくびわ』の甘噛み担当、いおりんでーす」と、脳内が響く。
 今思い出しても、なんだこれはと言わざる得ない自己紹介。それを誰もが許していたのは一種の集団心理だとしか思えない。
 そう。わたしはもう『いおりん』なんかじゃないし、『しっぽくびわ』も存在すら許されないし。
 
 「はじめまして。今日からこの演劇部の顧問をつとめさせて頂く、蓆田いおりです」
 「むしろだっ?」

 この子らとやっていけるのかと思うと、途端に脚に乳酸がたまっていく感じでいっぱいだ。

916名無しさん@避難中:2019/01/01(火) 23:12:53 ID:ZD62yzR60
ことよろ…お題おねしゃす

917名無しさん@避難中:2019/01/04(金) 01:45:35 ID:OnTRhTsUO
あけおめことよろ

お題→冬のハイテンション

918名無しさん@避難中:2019/01/22(火) 09:21:00 ID:c7C94Wqk0
はいてんしょん

https://dl1.getuploader.com/g/sousaku_2/1218/dog_run.jpg

919名無しさん@避難中:2019/03/31(日) 20:02:36 ID:gYA8SQ4M0
鷲ヶ谷「いよいよ新元号発表だね。それにしても平成ライダーもこれで歴史となってしまうのかぁ」
荵「あの『グロンギ』的なっ」
鷲ヶ谷「荵ちゃん、よく知ってる!イケメンライダーは当初不安だったけど、今や仮面ライダーといえばだよね!」
あかね「でも、わたしの「仮面ライダー」のイメージはおやっさんですっ」
鷲ヶ谷「立花藤兵衛!それでいて地球防衛軍のキャップの姿も」
あかね「いいえっ。十文字家の執事のイメージでっ。執事萌えですっ」
鷲ヶ谷(うわぁ。ガチ原作だし)
あかね「そういうことで、平成もいよいよ残すところあとわずか。平成ライダーの『平成』で、あいうえお作文ですっ」
荵「わおっ」
鷲ヶ谷「なにそれ!関係ないし!」
あかね「『へ』んしん
    『い』らない
    『せ』っかくの
    『い』ケメン見れないなんてっ」
鷲ヶ谷「わぁ!なんでだよ!変身してもかっこいいよ!」
あかね「誰にも言いませんよカードを…」
鷲ヶ谷「違う番組だよ!」
荵「新しい時代のライダーはどうなるんだろう?」
鷲ヶ谷「あっ。いよいよ新元号発表だよ!」

……

荵「わおっ」
鷲ヶ谷「そう来たかぁ」
あかね「じゃあ、新しい時代のライダーを新元号であいうえお作文っ。はいっ、荵」
荵「わおお?えっと…


 つづくとかつづかないとか。

920名無しさん@避難中:2019/04/01(月) 19:56:16 ID:exUZ3ytk0
あかね「きまりましたねっ!新元号」
鷲ヶ谷「令和ライダーの活躍に期待だね」
あかね「きっと今までにない仮面ライダーになるんじゃないのかな」
鷲ヶ谷「『ドライブ』みたいにバイクしばりじゃないとか?」
荵「『れ』ッツゴー!ライダー!
  『い』ぬぞり
  『わ』んこたちっ」
鷲ヶ谷「アラスカなの???舞台は???」
荵「新時代だから、新しい方向性とかだなっ」
あかね「『れ』き代ライダー
    『い』ちばん
    『わ』るい」
鷲ヶ谷「ダークヒーロー!!」

921名無しさん@避難中:2019/04/01(月) 19:56:55 ID:exUZ3ytk0
あかね「きまりましたねっ!新元号」
鷲ヶ谷「令和ライダーの活躍に期待だね」
あかね「きっと今までにない仮面ライダーになるんじゃないのかな」
鷲ヶ谷「『ドライブ』みたいにバイクしばりじゃないとか?」
荵「『れ』ッツゴー!ライダー!
  『い』ぬぞり
  『わ』んこたちっ」
鷲ヶ谷「アラスカなの???舞台は???」
荵「新時代だから、新しい方向性とかだなっ」
あかね「『れ』き代ライダー
    『い』ちばん
    『わ』るい」
鷲ヶ谷「ダークヒーロー!!」

922名無しさん@避難中:2019/04/09(火) 06:58:17 ID:ypZA2mZk0
平成最後のお題を

923名無しさん@避難中:2019/04/09(火) 09:12:16 ID:Ms0/kGg.0
未来

924名無しさん@避難中:2019/06/08(土) 08:09:17 ID:nomZfvDk0
>>915
忍ちゃんとうとう部室に犬小屋をおったてたのか・・・!
がっこうぐらししてそう

過去地下アイドルってキャラ設定はなんか珍しい気がする
なまなまC

925名無しさん@避難中:2019/07/06(土) 06:48:19 ID:sYdSwYBE0
がっこうぐらしするには、何がいりますか?

926名無しさん@避難中:2019/07/12(金) 15:43:30 ID:Z8dSK6f6O
エロ本!

927名無しさん@避難中:2019/09/04(水) 22:13:38 ID:CVA.l3TA0
パワーショベル!

928名無しさん@避難中:2019/09/24(火) 15:57:03 ID:olpNPBGk0
なんでパワーシャベルじゃないんだろうね


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