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レス代行はここでおk その3

1名無しさん@避難中:2011/02/10(木) 00:29:06 ID:ZITdcemQ0
レス代行を依頼したい方はこちらへ

☆依頼時の注意
 1、どこのスレへ依頼したいのかを忘れずに書こう。
 2、依頼文中のどの部分をコピペして欲しいのをかわかりやすく書こう。
 3、トリップ付き作品の代行依頼時は、規制されている旨を該当スレ住人に説明する文も添付するといいかも。
   こっちでもトリップは共通なので生存報告も出来ます。

☆代行時の注意
 1、依頼レス内容の改変はやめよう。明らかな誤字脱字・用法ミスがあっても、勝手に変えてはいけないよ。
   ただし、ここで指摘して修整してもらうのはアリだ。
 2、依頼文をよく読んで、くれぐれも誤爆することなく代行を完遂しよう。
 3、代行被りを防ぐ為にも、行ってくる前と後に一言レスをつけよう。
 4、コピペしてそれが代行だとわかりにくいかもしれない場合は、名前欄かレスの後などにその旨を説明しよう。
 5、依頼されたもの全てを代行しなければならない訳ではないよ。
   スレにそぐわない意味不明なレスや明らかな煽り等は、各自の責任と判断でスルーしよう。
   荒らしを代行する奴も荒らしだ!

☆新・あると便利なテンプレート〜
【依頼に関してのコメントなど】
【スレ名】
【URL】
【名前欄】
【メール欄】
【本文】↓

--------
このスレでは一応スレ立て代行も受け付けます
もちろん↓へのレス代行でもおk
●○●○● スレ立て依頼所2 ●○●○●
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1280990767/

163名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 02:42:03 ID:hZrL8W3Y0
ごめん改行が多すぎるみたいなんで
どこか分割していいかしら

164名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 02:52:41 ID:JnWRG32k0
はい
最後以外の隙間でお願いします!

165名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 02:58:10 ID:JnWRG32k0
ありがとうございましたー!

166名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 03:01:07 ID:hZrL8W3Y0
行ってきました。

…が、名前欄のトリップを打ち込むと上記レスのとは違うようなんですが
大丈夫だったでしょうか?

167名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 03:25:39 ID:JnWRG32k0
大丈夫ですよー
重ね重ねですがありがとうございましたっ

168 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:23:21 ID:nGm6wZFQ0
【依頼に関してのコメントなど】
SSです。よろしくお願いします。
【スレ名】 【能力ものシェア】チェンジリング・デイ 避難所2【厨二】
【URL】 http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1308806660/
【名前欄】 【幻の能力者】 成世編 前編
【メール欄】 sage
【本文】 ↓次レスから

169【幻の能力者】成世編前編 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:26:19 ID:nGm6wZFQ0
【幻の能力者】 成世編 前編
─  Abilities are not Benefits ─


西暦2000年、2月21日。
あの日地球に降り注いだ隕石によって、私たちは不思議な力を授かった。

物理法則を超越した様々な特殊能力を、私たちはひとりにふたつ、使うことができる。
ひとつは夜明けから日没までの昼に使うことができる能力、
もうひとつは日没から夜明けまでの夜に使うことができる能力だ。

能力の内容も覚醒時期も人によってまちまちだけれど、
人間なら誰でも潜在的に超能力──“EXA(エグザ)”──を持っているという。

でも、新しい力は必ずしも幸福をもたらしてくれるとは限らない。
中には“能力”によって人生をどうしようもなく狂わされた者もいる──


-主人公
>成世美歩 (なるせ みほ)
>
>S大学に通う“普通の”女子大生。
>ただ1つ、普通の女子大生が違う所があるとすれば、
>それは……『自らが死んでしまう能力』に苦しみながら生活している事だろう。
────

170 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:27:45 ID:nGm6wZFQ0


胸が苦しい。

布団の中で、私は呻いた。

息が続かない。

全身の筋肉は、まるで金縛りにあったように動かない。

怖い、助けて。

胸の中で自分の肺が腐り落ちてゆく感触が分かる。




助けて、衛一君……




──遠くでケータイのアラームが鳴っている。

その音に導かれて、私の意識は現実へと引き戻されていった。

171 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:29:32 ID:nGm6wZFQ0
────
201X年、6月10日、朝。

「朝…?」

枕元に手を伸ばして、アラームを止める。

夢と現の狭間で、私の意識は少しずつ働き始めた。

夢の内容はまだはっきりと覚えていた。

私の“能力”が発現する夢。

「いつあなたの命を奪ってもおかしくない」と、医師に宣告された忌まわしい“能力”が。

それを止めるために、私は薬を飲み続けなければならない。多分、一生。

そうだ、今朝も飲まなければ……
小物入れから薬を取り出し、重たい足取りで洗面所へと向かう。

それにしても、どうして今さら、彼の名前が出てきたのだろう。
もう一年以上も会っていないのに……


洗面所へと向かう途中で、私はふと衛一(えいいち)の事を思い出す。
一年前から、彼との連絡は途絶えたままだった。何故かはわからない。
警察の捜索でも結局彼は見つからずじまいだった。

──警察の話では、“能力”がこの世に現れてから、こういう事件はよく起こるようになった、という事だった。

「諦めなさい」遠回しにそう言われたのだと私は理解したし。自分でも諦めたつもりだった。
でも、心の奥底ではずっと気になっていたのだろう。
だからこそ、何かの拍子に夢の中に現れた。──そう考えれるのが一番納得がいく。

ちょうど洗面所に辿りついたところで、私は今朝の夢について考えるのを止めた。

172 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:32:03 ID:nGm6wZFQ0

“      頓服薬
   ─ 能力鎮静剤 ─

  成世美歩(ナルセ ミホ) 様
6時間毎に2粒、または3時間毎に1粒
水と共に服用してください。         ”


薬の袋にはそう書かれていた。

この薬は普通の薬局では売っていない。
私の“能力”を抑えるために、特別に処方してもらったものだった。

中からカプセル状の薬を2粒取り出して、水とともに飲み込む。
カルキ臭い水道水と一緒に胃の中に錠剤が落ちていくのが分かった。


これで、10時半までは安心。
私はケータイを取り出して時間を確認した。

173 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:36:11 ID:nGm6wZFQ0

私の“能力”が明らかになったのは2年前のことだった。
海外旅行に行くためのパスポートを申請する際に、能力鑑定を受ける必要があったのだ。
窓口の下から出てきたレポート用紙を見たとき、私は愕然とする他なかった。


──昼の能力
体組織が壊死する能力。

──夜の能力
(未覚醒)


「どういう事? “能力”って──」

声を出さずにはいられなかった。
私の身の周りの人が持っている“能力”は、みんな当人にとって「いいこと」を起こしてくれる能力だった。
空を飛ぶ能力、ご飯を1秒で作る能力、嘘を見抜く能力……

それなのに、私の能力は……

壊死とは、細胞がに血が通わなくなって腐り落ちる事らしい。

これでは、先天性の病気と一緒だ。
すぐに精密検査を受ける事になったのは、言うまでもない。

さらに詳しい検査の結果、私が自分の能力で“死ぬ”確率は、概算で12時間に0.1%程度ということが分かった。
専門家によれば「12時間にたった0.1%の確率でも、毎日それが重なると、2年後に生きている確率は50%を切る」という。

174 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:36:40 ID:nGm6wZFQ0

能力研究の世界的権威である比留間(ひるま)博士が私の家を訪れてきたのは、検査の翌日の事だった。

「僕が開発中の新薬を飲めば、能力を抑える事が出来るかもしれない。ただし、効果のほどは保証できない」

比留間博士は私に、当時まだ開発中だった能力鎮静剤を試してみないかと提案してきた。
試す、と言えば聞こえはいいが、要は「実験台になってくれ」という意味である事は、高校生の私にも理解できた。

もちろん、私は提案を受け入れるよりも他に方法は無かった。
このまま何もしなかったら、2年以内に50%の確率で死んでしまうのだから。

「ありがとう。君の協力のお蔭で、薬の実用化も早まりそうだ。僕も君を救うために、全力を尽くそう」

比留間博士はそう言うと、契約書を私たちに書かせ、
自分の仕事に戻るために私たちの家を去っていった。

それ以来、私は日が昇る前に起きて、ずっとこの薬を飲み続けている。

博士の言った通り、初期の方の薬はかなり不安定だった。
気分が悪くて倒れた事もあったし、生理にも支障をきたすようだった。
言いかえれば、この二年間、私は薬の副作用と闘い続けてきた事になる。

比留間博士は時々私の様子を見に来て、そのついでに“能力”研究の最先端の話を少しずつ私と両親に教えてくれた。

『能力と魂』、『抑制薬の効かない能力』、『能力の進化と変化』、『世界への干渉』、『能力の遺伝性』、『Exミトコンドリア』…



…そして今、その比留間博士が客員教授を務めるS大学に、私は通っている。

175 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:39:37 ID:nGm6wZFQ0
午前10時。
私は授業を聞きながら、ノートを取っていた。私の友達は、隣の席で机に突っ伏して寝ている。
この授業を担当しているのは、鞍屋峰子(くらや みねこ)という助教授だ。

「量子力学的な視点では、何か新しい出来事が起こるたび、世界にほんの一瞬、“ブレ”が生じます。
こうしたブレを『量子揺らぎ』と呼びます。このブレの中には、その出来事に対して起こりうる、あらゆる結果が内包されています。
『シューレディンガーの猫』の話になぞらえて言えば、ブレのこっち側では猫は生きていて、あっち側では死んでいる、という事になります」

鞍屋先生は黒板に図を書きながら説明していた。印象的な銀色の髪の下で、緑色の目が時折ぱちぱちと瞬く。
幾何学的な“ブレ”の図とは対照的に、脇に描かれた“シュレーディンガーの猫”の絵がやけに可愛い。

「ブレの中の各状態は同時に存在していて、ミクロレベルで干渉し合っています。
通常、ブレはすぐに収束するため、1つの出来事に対しては1つの結果だけが残ります。
世界には沢山の出来事が絶えず起こっているので、宇宙内には無数の泡のようなブレが絶えず生成と消滅を繰り返しています」

彼女は20歳の時に量子力学の分野で大きな活躍をして、ノーベル物理学賞を受賞したらしい。
そして今、S大学で授業を受け持っている。

「通常、量子ゆらぎのスケールは非常に小さいので、私達の宇宙が歩む歴史は、全体として見ると1本の糸のように見えます。
そしてこの1本の糸を、私たちは唯一の世界、一つの歴史として認識しています。
ちょうど、紙の表面のデコボコを無視して、平面と見做すようなものです」

入門講座と言う事もあって、鞍屋先生は分かりやすく説明してくれているけれど、
20世紀のとある科学者の言葉によれば「量子力学は人間に理解できるモノではない」そうだ。
その最先端を研究している、彼女の頭の中身は一体どうなっているのだろう。

176 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:42:22 ID:nGm6wZFQ0

「と、ここまでは20世紀の科学で分かっていた範囲の事です、
ここからは、21世紀になってから新たに分かった事になりますが……」

良く通る声で解説を続けながら、鞍屋先生は黒板に新たな図を描き足した。

「ごく稀に、世界がブレたまま戻らず、ブレの範囲が宇宙全体に拡大してしまい、
宇宙が2本の歴史に分岐してしまうことがあります。
この分岐してしまった世界を、いわゆる『並行世界(パラレルワールド)』と呼びます。
資料によっては『世界線(ワールドライン)』と書かれている場合もありますが、あまり専門的な呼称ではありませんね。
また、この分岐点は、『ジョンバール分岐点(ジョンバールヒンジ)』と呼ばれます」

矢継ぎ早に繰り出される専門用語をノートに書き取り続けながら、私は思った。
彼女と私の歳の差は、10歳もない。私も数年後には、鞍屋助教授のようになれているだろうか。
それとも、あれが天才と凡人の差なのだろうか。

「『並行世界』になってしまった場合、もはや2つの世界同士が干渉することはありません。
私達は今、こうした『並行世界』のうちの、どこかの世界にいることになります。
もちろん、他の『並行世界』にも、別の私達がいる事になります……」

177 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:44:01 ID:nGm6wZFQ0

「むにゃ…」

と、私の横で寝ていた友達が起きた。

「ミホちゃん、ノート見せて……」

小さな声で囁く友達に、私は呆れ顔でルーズリーフの前のページを手渡す。

「さて、授業時間も終わりに近づいて来ましたので。今日はここまでにしましょう。
いつも通り、疑問点や感想を出席カードに書いて提出してくださいね」

原理はよく分からなかったけれど、並行世界のくだりはなんとなく理解できたと思う。
別の世界の私は、どんな風に暮らしているのだろうか。
能力が発現せずに安全に暮らしているかもしれない。それとも……

考えが悪い方向に行く前に、私は出席カードに書く文章を考え始めた。

隣の友達は「並行世界が分岐する事があるという話でしたが、逆に収束する事はありますか?」なんて書いている。
ずっと寝ていたのだから、私のノートを急いで読んで、適当に思いついたことを書いたに違いない。

私は、少し考えて、こんな事を書いた。
「並行世界があると21世紀になって新たに分かったということは、
並行世界の存在を知る方法が21世紀になって発見されたということでしょうか?」


普通、質問の答えが返ってくるのは、次の授業の初めだ。
しかし、この質問に対する答えは、私の予想よりもずっと早く返ってくる事となる。

178 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:46:40 ID:nGm6wZFQ0
授業の合間。
私は大学のトイレで薬の袋を開けていた。
薬は一度に二粒までしか飲めない。そして大学の授業は1コマ90分と長い。
下手をすれば、授業中に薬の効果が切れてしまう。
なので、私はうまく授業の合間を縫って薬を飲まなければならなかった。


──と、後ろからいきなりドンと押された。
袋から薬がこぼれ落ちる。

「んにゃっ!?」

どこかで、というよりついさっきも聞いたような声質。
振り向くと、鞍屋助教授がばつの悪そうな顔でこちらを向いていた。

駆け込んできた拍子に体がぶつかってしまったようだ。

「あ、先生」

「ごめんなさ……あ、成世さん、丁度良かった」

鞍屋先生は床に転がったカプセルを拾って私に手渡しながら言った。

「貴方に話したい事があったのだけれど、授業後すぐに教室を出ていかれちゃったから、追いかけられなかったわ」

「そうですか…すみません」

私はさりげなく、薬の袋を手で隠した。一般には流通していない薬なので、なるべく隠しておくように比留間博士から言われていた。
しかし、鞍屋助教授の目は私の動作よりも早く、書かれていた文字を読み取っていた。

「“能力鎮静剤”……ああ、比留間博士のアレね?」

「ご存じなのですか?」

「ええ、実は私もその薬、使っているのよ」

179 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:47:53 ID:nGm6wZFQ0

「先生も?」

私以外にこの薬を飲んでいる人がいたなんて知らなかった。
でも、考えてみれば、新薬の効果を一人だけで試す、というのは、科学者からしたらありえない話だ。
私以外に飲んでいる人がいても、全然おかしくはない。

「ええ、私の“夜の能力”は少し厄介で、自分の力ではコントロールできないから……」

「そうなのですか……あの、どんな“能力”なのですか?」

「『夜の間は猫になる能力』よ。貴方は?」

鞍屋先生がそんな“能力”を持っていた事も、私は知らなかった。
猫になるというのはどんな感覚なのだろう。

「私は……」

私は言うのをためらった。
私の“能力”を、いや、能力とすら呼べないそれを、他人に知られるのは、正直、嫌だった。
私の能力は、ごく親しい友人と両親、それに比留間博士だけしか知らない。

「話したくなければいいのよ。
それより、貴方の薬、汚れちゃったわね……私のと取り替えてあげましょう」

「いえ、そんな」

「いいの、今日は使わないから。たまには猫になってみるのもいいものだわ」

先生は腰につけたポーチから薬を取り出して、私に手渡した。

「“能力”のことで何か相談したい事があったら、気軽に言ってね。力になってあげられるかもしれないから…」

「ありがとうございます」

私は先生に頭を下げた。先生はそれを見てにこりと笑う。

180 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:51:09 ID:nGm6wZFQ0

「…そうそう、本題だけど、さっき比留間博士が貴方を探していたわ」

「比留間博士が?」

私は思わず聞き返した。

「ええ、比留間博士よ。貴方、博士の授業を何か取ってたかしら?」

「ええ、まあ…」

「まあいいわ……
それで、『成世君に会ったら授業の空き時間にでも研究室まで来てくれるように伝えて欲しい』って言われたの。
ということで、後で行ってあげてね」

「分かりました」

「それじゃ」

そう言って、先生は洗面所の奥へと消えていった。



洗面所を出た後で、私は先生との会話を思い返す。

『夜の間は猫になる能力』……先生の“猫好き”は有名だったけれど、どうりで猫好きなわけだ。
いや、そんな事はどうでもいい。
私と同じく、自分の能力に苦しんでいる人がこの大学にいた。
思えば、私の事を理解してくれる友達はそれなりにいるけれど、私と同じ境遇の人を見つけたのは初めてかもしれない……

181 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:52:30 ID:nGm6wZFQ0
4時半すぎ。
今日の授業が終わった。
私は比留間博士の元へ向かう。

比留間博士のいる超能力学部棟は、大学の裏門に近い場所に位置していた。
チェンジリング・デイ以降、 “能力”は私達の生活の一部となった。
それに伴い、20世紀までは鼻で笑われていた「超能力」という現象も、科学者達から真面目に注目されるようになった。

当初は超能力を研究分野として受け入れるべきかどうか、学会のほうで一悶着あったようだけれども、
結局、今では大学に専門の学部が作られるほどに学問として定着しているのだ。

そして、その超能力研究のパイオニアが、比留間博士だった。

「超能力だろうと幽霊だろうとUFOだろうとオカルトだろうと、この宇宙内に現象として顕れさえすれば、科学はそれを探究する事ができる」
という比留間博士の格言がある。
彼は生物学の分野から“能力”の存在を立証するとともに、超能力研究に“統計”“実験”“観測”の三本柱を徹底して導入し、
科学的事実としての超能力を「噂話」や「詐欺」などのでたらめから区別した。
これによって、ようやく国際科学会議も「超能力学」をまともな科学の一分野として認めるようになったのだった。

とりあえず、私の“超能力学”についての認識は、こんな感じだ。
それとは別に、私自身、個人的に比留間博士とはつながりがある。(もちろん薬の事で)

学会の見解がどうとか、そんな話は私にとっては正直、どうでもいい。
私としては、早く博士の能力鎮静剤が完成してほしいと思う。
科学は、人を幸せにしてこその科学なのだから。

182 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:53:28 ID:nGm6wZFQ0

比留間博士が私を探していたのは一体なぜだろう。
私は夕日に照らされた超能力学部棟の階段を登りながら考えていた。

時期的にはたぶん、期末レポートに関することだとは思うけれど…
今朝の夢の事が気がかりだった。

階段を登って廊下を少し歩くと、目的の部屋についた。
超能力学部研究室。

私はここの研究室で授業を受けたことはない。
でも比留間博士とは大学に入る前から個人的につき合いがあったため、この研究室にも何度か来た事があった。

壁に掛かったホワイトボードに「比留間慎也 - 在籍中」の文字を確認すると、私は部屋をノックした。

「どうぞ」

という比留間博士の返事が聞こえたのを確認して、私は中に入った。

研究室は、中学校の理科室を思わせる造りをしている。
非人間的なほど清潔感の溢れた白い壁に、フラスコや蒸留装置や試験管などのガラス製品が並べられた棚。
白い薬品や結晶がこぼれてもすぐに気づくよう作られた黒い机は、ずれたり傾いたりしないように床に固定されている。
中学校の理科室と違うのは、人体模型の代わりに大きな装置が置かれている事だった。
博士の話によると遠心分離機や攪拌装置や分析器といった研究器具だそうだ。

私が部屋に入ると、比留間博士は何か顕微鏡のような装置の前で試験管やシャーレを片づけていたところだった。

「ああ、成世君。わざわざ呼び出して済まないね」

と、博士は相変わらずのフランクな喋り方をする。

183 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:54:07 ID:nGm6wZFQ0

「鞍屋先生に言われて来ました。何の用でしょうか?」

「ちょっと込み入った話なんだ。ここで話すのも何だし、教員室に移動してから話そう。
……ちょっと待ってくれ、今片づけるから」

「手伝いましょうか?」

「ああ、さすが成世君、気が効くな。
じゃあ空の試験管を分けて棚に戻しといてくれ」

言われた通りに私は空っぽの試験管を選んで棚に戻した。

その一方で、博士は良く分からない透明な液体の入ったものを冷蔵庫にしまう。私にはよく分からないけれど、たぶん中身は何かの薬品だろう。
博士は今でこそ“超能力学”を研究しているけれど、元は生理学者なので、そういう方面から能力を研究しているらしい。

184 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:55:32 ID:nGm6wZFQ0

片づけを終えて、私達は研究室の隣の教員室に移動する。

比留間博士の研究の“三本柱”のうち「観測」を行うのが野外で、「実験」を行うのがさっきの研究室だとすれば、そして「統計」を行っているのがこの教員室という事になる。
パソコン机と事務机が交互に並び、壁の棚は本やファイルで埋まっている。
机の上には棚に入りきらない資料やマグカップなどが乱雑に置かれている。

ちょうど今の時間は誰もいないらしく(もしかしたら比留間博士が人払いをしておいたのかもしれない)、
パソコンの画面はみな真っ黒かスクリーンセーバーだった。

「まあ取り敢えず、そこに腰かけてくれ。今飲み物を入れてくるから」

と、博士は回転椅子を指差した。

博士は私の好みを知っているので、研究室に定番のコーヒーではなく、紅茶を淹れてくれた。
紙コップにポットからお湯を注ぎ、ティーバッグを落とす。

「お待たせ」

と、博士は私の所まで戻ってくると、机に紙コップを置いた。
熱くないように紙コップを二重にしているあたり芸が細かい。

私が紅茶に口をつけている間に、博士は机の鍵つきの引き出しから封筒を取り出して、私の隣の椅子に腰かけた。


封筒には「Classified」(機密事項)と書かれている。


「さて、本題に入ろうか」
博士の口調はいつも通り……のはずなのに、
私には何故だか、場の雰囲気そのものが重くなったように感じられた。

185 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:58:50 ID:nGm6wZFQ0
「まず、基本的な確認をしておこう。
成世君の“能力”は《アポトーシス》。【無意識性】【変身型】。12時間に0.1%程度の確率で体細胞が大規模に壊死する。
だったね」

私は黙って頷く。
奇妙なまでに静まりかえった教員室に、空調の音のみが響く。

「それで、今までその発動を抑えるために、私の能力鎮静剤を服用し続けていた」

「はい」

「ところが、違うんだ」

「違うって?」

まさか──

「これを見てくれ」

博士は封筒の中から紙を取り出した。政府の押印と透かしが入っている、どう見ても正式な文書だった。

“ 成世 美歩 (Naruse Miho)
Ex Ability
 Day … ■■■■■
  EXA name: "Event-Leap"
  Sort: Conscious, Creative
  Details
  Time-space traveling for creating another worldline whose time is delaied about 12 hours,
  maybe confuse the history. So we should watch her and seal this ability.
 Night … Unawaken ”

一ヶ所だけ上から黒く塗りつぶされていたけれど、私に関する資料である事は分かった。
私が英語の文章を解読するよりも先に、博士がその内容を読み上げていた。

186 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:01:35 ID:nGm6wZFQ0

「成世 美歩。昼の“能力”、《イベントリープ》。【意識性】【具現型】。
12時間程度時間軸のずれた別の世界線を創り出す事による時空間移動能力。
歴史を混乱させる恐れがある。彼女を監視しこの能力を封印する事を推奨する。
なお、夜の能力は未覚醒」


淡々と読み上げられる文章。
私はその意味は理解できたが、それの意味する事はすぐには把握できなかった。

「……どういう事ですか? 博士」

「つまり、《アポトーシス》はまったくのでたらめだったという事だよ。
今まで君が自分の“能力”だと思っていたものは、真の“能力”を隠すためにでっちあげられた偽りの“能力”だったということだ」

「まさか、博士」

そんな事があっていいの?

「そう、政府が騙していた。それだけ、君の真の能力が恐ろしいものだから」

「でも、私の能力は一度だけ発症しかけた事が……」

「能力移植だ。特殊な薬を飲まされると、一時的に他人の“能力”を会得する現象がある」

それじゃ、私のこの2年間は?
薬の副作用に耐え続けて、不自由と恐怖に悩まされてきたこの2年間は?

全部、仕組まれたものだったと言うの?

187 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:03:52 ID:nGm6wZFQ0

心臓の鼓動が早まり呼吸が荒くなるのが、自分でも分かった。

「博士、この事にはいつ……?」

「僕が気づいたのは、つい半年ほど前だ。
済まないな、君に言うべきかどうか迷っていた。結果的に私も騙す側に回ってしまった」

「そんな……」

「とにかく、落ちつこう。
これからどうするべきか、相談しようか」

私の様子を見て、博士は言った。

博士の言うとおりだ。
自分でも気が動転しているのは分かっている。
でも、落ちつけるわけがない。
私の心臓はバクバクと暴れ続けている。

「物事を良い方に考えるんだ。もう意味の無い能力に怯える事はないんだ。
これからは鎮静剤の代わりに偽薬を処方する。政府の目を騙すために飲み続けなさい」

「それから……言いにくい事だけど、もし良かったら僕にこの能力を少し研究させてくれ。
もしかしたら危険性がない事を政府に示せるかもしれない」

「研究?」

私は声を荒げた。
この期に及んで研究? この博士は何を考えているの?

188 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:09:12 ID:nGm6wZFQ0

「……私、過去へ戻ります」

私は椅子から立ち上がった。

政府も、この人も同じだ。私の事を危険因子としてしか、あるいは実験や観察の対象としてしか見ていない。

「落ちつきなさい、そんな事をしても意味がない」

「落ちついているわ。博士だって、私を騙そうとしている」

「済まなかった。君に言うべきかどうか迷ったんだ」

「嘘よ。半年も黙っていたのは、私の能力を研究する準備を進めていたから、そうよね?」

「……」

博士は言葉を詰まらせた。

──やっぱりそうだ。
誰もが自分勝手な都合で私を振りまわす。
歴史や研究のためなら、人を不幸にしていいの?

「いいえ、半年かどうかだって疑わしい。
この文章だって、博士が書いたものでしょ? 2年前に」

「それは違う……と言っても信じてくれそうにないな」

「私は、こんな世界に居たくありません。
私をモルモット扱いしかしてくれない、こんな世の中に」

「待ってくれないか」

踵を返して部屋の出口へと向かおうとする私の袖を、博士が引っ張る。

「離して下さい」

「薬が効いているんだろう。“能力”は使えないぞ」

──あ、

189 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:10:31 ID:nGm6wZFQ0

うっかりしていた。
そういえば、昼過ぎも鎮静剤を飲んだばかりだった。

明日の朝になってから“能力”を使っても、また「この時」に戻されるだけだ。
どうしよう……

と、その時──


「その娘は薬を飲んでいないわ、博士」


部屋の入り口から澄んだ声が響いた。
その声は、何故だか私には救世主のように聞こえた。

「峰子君、いつの間に?」

本当にいつの間にか、鞍屋先生がドアを開けて部屋の入口に立っていた。

「さて、いつの間でしょう? それより、聞こえました?」

「ああ、薬を飲んでいないって?」

突然の展開に、私は思考停止した。

「彼女の薬は“何者か”によって入れ替えられていました。見てください」

鞍屋先生は少し早足でこちらに近づくと、薬を机の上に投げ出した。
博士と私はそれに目を落とす。

“─ 能力鎮静剤 ─
成世美歩(ナルセ ミホ) 様”

190 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:11:20 ID:nGm6wZFQ0

理解が状況に追いつかない。
私が驚いているうちに、比留間博士は次の手を打っていた。

「峰子君、失礼」

パチン、と指を鳴らす音が聞こえた。
窓越しの夕日が、一瞬で暗闇へと変わった。

それと同時に、鞍屋先生の姿が視界から消えた。

「僕の“能力”を使わせてもらった。もう君に力は使わせない」

聞いていなかった、そして迂闊だった──慎也博士が“能力”を持っていたなんて。
考えれば分かること。能力研究の第一人者だ。
自分の能力を覚醒させようとしないはずがない。

と、博士の近くの机の上に一匹の猫が姿を表した。
緑色の瞳、銀色の髭。昼間の授業で黒板に描いてあった、あの猫とそっくりだ。

「仕方ないわね。緊急事態だもの」

猫が喋った。
鞍屋先生の声で。

「鞍屋先生……?」

「昼間も説明したでしょう? この姿は私の“夜の能力”──《グレマルキン》よ」

夜の能力……?
すると、慎也博士の“能力”は──

191 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:12:02 ID:nGm6wZFQ0

「さて、もう一度落ち着いて話し合おうか」

私は博士の瞳に、狂気に満ちた科学者の邪悪な輝きを見た。

「落ち着けるか!!」

わたしは思わず、手元にあったマグカップを博士に投げつけた。

博士はそれを片手で受け止める。

その隙に私は出入り口のドアへと全速力で走った。

「峰子君、取り押さえろ」

「どう考えても“任務外”ですけれど、仕方ないわね」

走る私を黒猫──鞍屋助教授がもの凄い速度で追い抜いた。

彼女は体当たりでドアを閉めると、音も無くその前に浮かんだ。

「どいて! 先生!」

しかし先生は私を無視して、私の後ろから迫ってくる人物に対して話しかけた

「退路は阻んだわ──これでいいかしら? 博士」

「ああ、ご苦労」

後ろを振り向くと慎也博士が目の前に立っていた。

192 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:13:09 ID:nGm6wZFQ0

「こうなっては仕方ないな。私も君を野放しにしてはおけなくなった。私の研究所まで来てもらおう」

博士は私の腕をしっかりと掴んでいた。

何か方法はないの? どうすれば?
せめて、もう少し考える時間が欲しい。時間が……

──その思いは、私のなかで一つの形になった。


「これは……!?」

目の前を覆う銀色の霧に、慎也博士は目を見開いて後ずさった。

「どうやら覚醒したようね。彼女の“夜の能力”が」

鞍屋先生は澄ました顔で喋るのが聞こえる。

「まさか……このタイミングで覚醒するとは」

「貴方は彼女を窮地に追いやったことで、彼女のもう1つの能力を覚醒させてしまった」

私の意志が込められた銀色の霧。
これがどういう効果をもたらすのか、私にははっきり分かっていた。
銀色の霧は薄いヴェールとなり、慎也博士をゆっくりと包み込んでゆく。

「昼夜を逆転させた時点で、この展開は予想して然るべきだった
──博士、貴方の負けよ」


『時間を凍らせる能力』。


銀色のヴェールに覆われた博士の体は、微動だにしなくなった。

193 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:15:16 ID:nGm6wZFQ0

「行きなさい。
私には貴方を止める気はないわ。止めようと思っても無理でしょうし。
──あなたは真の自由を手に入れた。自分の力で道を切り開いたのよ」

博士が凍りついた様子を見て、鞍屋教授は私に語りかけた。

「先生、ありがとうございます」

「と、行く前に部屋の戸締りはちゃんとしておくのよ」

鞍屋先生の声で喋る猫はそう言うと、優雅な足取りで部屋から出ていった。

194 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:15:50 ID:nGm6wZFQ0
数分後、私は研究室棟の階段を下っていた。
周囲はいつの間にか、夕方に戻っていた。


こんな騒ぎを起こしてしまったのでは、どのみち、このままではいられない。

私の“能力”を知っている人がいるかぎり、私は誰かにつけ狙われるだろう。

それを止めさせるためには──

私の力で、過去をやり直すしかない。

この間違った2年間を。


私は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をした。
意識が、そして体が、今までに感じた事の無い方向に落ち込んでいくのが分かった。

195 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:16:21 ID:nGm6wZFQ0
(成世編後編に続く)

196 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:22:24 ID:nGm6wZFQ0
・設定

《名前》
成世 美歩
S大学に通う“普通の”女子大生。
ただ1つ、普通の女子大生と違う所があるとすれば、
それは……その“能力”のために不幸な人生を送ってきた事。


《昼の能力》
名称 … アポトーシス
【無意識性】【変身型】
体が突発的に壊死する能力。
12時間に0.1%程度の確率で発動するといわれている。

成世美歩の真の“能力”を隠すために「でっちあげられた」能力。
尚、夜の能力は未覚醒


  ↓


《昼の能力》
名称 … イベントリープ
【意識性】【具現型】
半日前にタイムトラベルする能力。

政府の機密文書では
「12時間程度時間軸のずれた別の世界線を創り出す事による時間移動能力。
歴史を混乱させる恐れがある。彼女を監視しこの能力を封印する事を推奨する。」
と解説されている。


《夜の能力》
名称 … タイムホライゾン
【意識性】【操作型】
対象の時間を停止させる。
時間を止められた対象は鏡のようなヴェールで覆われ、一切の事象の干渉を受けなくなる。
夜が明ける(ヴェールの外側が「昼」になる)と解除される。
ベール自体に重力が働いているらしく、地球の遠心力で対象が飛んで行ってしまうようなことはない。

197 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:22:59 ID:nGm6wZFQ0
【本文】↑で以上です。よろしくお願いします。

198名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:27:15 ID:sB3Tujqo0
本当に代行スレ来てたのか
いくよー

199名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:33:01 ID:sB3Tujqo0
>>178投下時点でさるさん

200名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:33:39 ID:sB3Tujqo0
投下時点というか投下後

201名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:37:39 ID:ig4DkuyQ0
じゃあ代わりに行ってくるー
>>179からでいいのよね?

202名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:38:27 ID:LFVD87M60
>>179はいきました!

203名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:38:34 ID:sB3Tujqo0
おk
頼んだ

204名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:45:03 ID:LFVD87M60
>>188投下後猿です

205名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:46:55 ID:ig4DkuyQ0
じゃオイラいくわ

206名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:58:04 ID:ig4DkuyQ0
いてきた

207名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 02:12:04 ID:oBgMYyyE0
代行リレーワロタw乙w

208 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 09:35:13 ID:nGm6wZFQ0
>>198 >>201 >>205
ありがとうございました!
長くて申し訳ない…

209名無しさん@避難中:2012/04/18(水) 00:09:33 ID:R702v2Cc0
お願いします!

【スレ名】ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+2匹目
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1283595918/l50
【名前欄】
【メール欄】sage
  このレス以降の8レスをお願いします。
 メール欄はすべてsageで
 名前欄1〜7レスは「 グレートサラマンダーZ 」にてお願いします。
 8レス目は未記入でお願いします。

210[:2012/04/18(水) 00:10:43 ID:R702v2Cc0

―― ストーンサークル……? 時計、いや……

 視聴覚モニターには、時計の文字盤に似た直径5メートルほどの円状に並べられた石と、その周りを
取り囲むように座っている子供達。そしてその子供を見守る大勢の人々の姿が映っていた。
 12時3時6時9時の場所にはそれぞれひと目で大きいと分る石が陣取っている。そしてその延長線上
には鳥居ように組み合わされた背の高い柱が立っていた。

 グレートサラマンダーZに乗り込んだうぱ太郎たちが案内されたのは、石置きという行事が行なわれる
場所から少し離れた土手のような、先の広場を見下ろすには都合のいい場所だった。
 チィミコと共にその場に着いたが村人達はグレートサラマンダーZに特に興味を示すこともなく、
おのおの談笑に夢中だった。当のチィミコは村長に話をしてくるとすぐにその場から離れ、広場へ駆けていった。
 ナビの時計表示は午前6時を廻ってしばらく経つ。
かすかに混じる薄い蜜柑色の光もやがては消えゆき、抜けるような空色に変わるだろう。

「ねーねー、あれって日時計?」
「……たぶんカレンダー。10日ごとに石置いて春分の日用に大きい石置くと思う。
あとあの柱は太陽の位置見るためだと思う。チィミコちゃんそんなこと言ってたから。
……ピラミッドなんかもそんな役割果たしているから昔の人の知恵で太陽の位置測ってるんだと思う」

 すでに完成している石の円12時から3時までの外周を、更になぞるように石が置かれている。
区切りの日となる今日、内側の円と同様3時の位置に大きな石を置くことになるだろうと容易に推測できた。

「倫ちゃん詳しいね。古代文明とか好きなの?」
コックピットの中、モニターを見つめたまま、それでも機嫌を伺うようにうぱ太郎はうぱ倫子に話しかける。
「……知ってることしか解らない」
「あはは。そりゃそうだよね……」
しかしながら、いまだうぱ倫子との会話の距離感は掴めていない。
気を取り直し今度はうぱ華子に話題を振ってみる。

「華ちゃんはストーンサークルとか古代文明とかそういうの興味ある?」
「残念ながら興味はないわね。それに忘れてるかも知れないけどあたしはメキシコ生まれよ。
地元の古代の話だってろくに解らないのに日本の古代のことなんか知ったこっちゃないわ」
さばさばとうぱ華子は答えた。
しまったと苦笑いを浮かべながらもうぱ太郎は続ける。

「あ、そう言えばそうだったね。……メキシコってなんだろ? サボテンとかアステカとか
しか思いつかないな」
「普通そんなもんでしょ? あえて言えばマヤ文明が有名だけど、あたしもB級雑誌の人類滅亡
とかのゴシップ記事読んでそんなのあったなってレベルだからたいそうなことは言えないわ」
「マヤ文明か……。僕も何かで読んだ気がするな。なんで人類滅亡するんだっけ?」
「……長期暦。マヤ文明でもいろんなこよみの計算があって、その中で一番長い何千年単位で
計算される長期暦の終わる時が2012年の冬至の頃。
 長期暦の終わりが来たら新しいこよみを迎えるために全てのものが終わって新しく生まれ変わる。
って、輪廻転生みたいな思想もマヤ文明の一部にあって、それで人類滅亡に繋がってるんだと思う。
……わたしは大丈夫だと思うけど」

211「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:11:53 ID:R702v2Cc0

―― ワームホールとか言ってたしやっぱ好きなんだ。でも、それ言ったらまた止まるから……

 不自然にならないように少し考えてうぱ太郎は口を開く。

「なるほど。でもさっきのチィミコちゃんの1年の数え方もそうだけど、星とか月とか太陽見て
こよみ計算するなんて凄いよね、古代の人って。そう言えば三蔵法師だっけ? 日食の日わかってて
それ利用して妖怪退治するの」
「……そう。でも三蔵法師は実在したみたいだけど西遊記はフィクションだから、その時代の人が
日食や月食の正確な日にち理解してたかどうかはわからない」
ほんのちょっとだがうぱ倫子の声が弾んだように思えた。

「ふーん、なるほど。……ちなみに倫ちゃんは日食の日とか計算できるの?」
「……季節ごとの星座の位置とかは知ってるけど、日食月食の日までは解らない」
「さすがにそこまでは無理だよね」
「……うん」
 少し近づけたかなと、心の中でガッツポーズをとる。
そしてさらに盛り上げようと、うぱ太郎は昨日の夜のことを話し始めた。

「昨日倫ちゃんたちすぐ寝ちゃったけど、僕あのあと外に出てみたんだ。
なんて言うか、なんかびびっちゃうぐらいに星が凄かった。ちょっと怖いって思うほどだったもん。
僕は北斗七星とオリオン座ぐらいしか分らないけど下手なプラネタリウムより凄いんじゃないかな。
倫ちゃんも夜になったら見てみればいいと思うよ。大袈裟じゃなくてびっくりすると思うから」
「あはははは。朝っぱらからチィミコちゃん元気だなー」

 唐突にうぱ民子が笑い出した。

―― 朝っぱらからジャイアンリサイタル開いてる民ちゃんほうがよっぽど元気だよ。
   って言うか空気読めよ。

 何事かとモニターを見れば、村長との話が終わったのかこちらに向け走ってくるチィミコの姿が
小さく映し出されていた。
 そしてうぱ太郎が苦々しく思うことも束の間、無邪気な子鹿のようにあっという間に土手の
斜面を駆け上り、チィミコはグレートサラマンダーZの隣に立った。

「……お待たせ。……えーと、タロウちゃん以外にも聴こえているんだよな?」
吐く息はまだ白い。はぁはぁと少しあがった息をチィミコは身だしなみと共に整える。
「えーと、うん。大丈夫。みんな声も聴こえるし石置きの広場も見えてるよ」
「つくづく凄いな。一体どうなってんだグレマン様って?」
「……まぁ、いろいろと。持って生まれた力というか」
「あはは、そうなんだ」

 返事を深く追求しようともせずチィミコは明るく笑う。
そして合図を送るように大きく両手を振った後、通常姿勢のグレートサラマンダーZの隣に膝を
かかえ座り込んだ。
 しばらく止んでいた太鼓の音がひとつ響き、ざわついていた村人達が静まりかえる。
間もなく村長と思われる男が石の円の中央に立ち、話を始めた。しかしそれほど長い話でもなく、
連打される太鼓の音と一緒に円から外れていく。

「さあ、石置きの始まりだ。面白いと思うからみんなで見ててくれ」
身体をひねり覗き込むようにしてチィミコはグレートサラマンダーZに話しかけた。
「うん」
平然と返事はするが、モニターいっぱいに映るチィミコの笑顔に戸惑いうぱ太郎は思わずのけぞる。
「チィミコちゃんっていちいち顔近いよねー」
「……可愛い」
「眉毛の手入れぐらいしないのかしら?」
マイクが音を拾わないことをいいことに、うぱ太郎の後ろでは好き勝手に言い放っている。

212「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:12:48 ID:R702v2Cc0

 どどどど、どんっ。

 広場に太鼓の音が響き渡る。
神聖な儀式なのだろう、太鼓の音に合わせ膝を折りチィミコは広場に向け襟を正した。

 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
太鼓のリズムに合わせ、村人達から掛け声が沸き起こる。

―― お御輿……?

 モニターの片隅に、木製のはしごのようなものを担ぐ4人の男が映る。
中央の台座には大玉なスイカほどの黒っぽい石が乗っている。太鼓と村人の掛け声に合わせ、
その神輿のようなものは4人の担ぎ手によってゆっくりと広場の石の円に向かっていく。
 
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょーっ。
ひときわ大きい掛け声とともに、神輿は円から10歩ほど離れた場所に下ろされた。
 村長の声が響く。
同時に4人の男に入れ替わり、遠目でも幼稚園児ほどと分る4人の子供が神輿の四隅についた。

―― 子供だけで担ぐつもりなのか……? 何キロあるか分らないけど無理だ。

 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
また掛け声が始まる。しかしうぱ太郎の予想通り神輿は子供の力ではびくともしなかった。
 どんどん、よいしょ、どんどん、よいしょ。
それでも掛け声は続く。徐々に笑い声や励ます声が混じりはじめる。
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょーっ。
まったく動かせないまま4人の子供は神輿から手を離した。それでも広場には労をねぎらう声が上がった。
そして少し恥ずかしそうにしている4人に、出番を待っていたかのようにさらに4人の子供が加わった。

―― 子供でも8人ならいけるかな?

 一呼吸置いて太鼓が鳴り始めた。
掛け声もあがる。だが次第に頑張れ踏ん張れと応援の声が増してくる。
 神輿が少し持ち上がったのが分る。その都度広場は歓声で盛り上がる。
だがやはり担ぎ上げられることはなく、最後の掛け声も虚しく神輿はその場から動けずにいた。

―― 今度の4人は中学生くらいか……

 動かない神輿の前にさらに4人が加わった。
大人とは言い切れないが最初の子供に比べ明らかに身体は大きく、2度目に加わった子供と違い、
事前の8人になにやら指示を出し場所を確認しながら神輿に全員揃って手を掛けた。
そして神輿の先頭をになう一人が大きく片手を揚げる。

 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
みたび、掛け声が沸き起こる。しかし今までとは違いどこか確信めいた力強さがあった。
 声援も笑いも無い。ただひたすらに太鼓と掛け声だけが広場に響く。
そして最後に加わった4人が8人の子供を促すようにひときわ威勢よく叫んだ。

 よいしょー!!!

 神輿が担ぎ上げられた。
 怒号に似た歓声が響いた。
太鼓と掛け声が小気味よく続く中、神輿は12人の手により円の3時の位置にじわじわと向かっていった。

213「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:13:35 ID:R702v2Cc0

「意味のないことやってると思うだろ?」
「え……? あ、うん」

 突然、チィミコに話を振られ、うぱ太郎は言葉に詰まる。

「はじめから終わりまで大人が担げばいいだけのことなんだけど。……でも、そうじゃないんだ」
「…………」
どう答えればいいのか分らずうぱ太郎はコックピットの中で黙り込んだ。
かまわずチィミコは話を続ける。
「私の村はな、生まれて6年たったら村の仕事にたずさわるんだ。それで一番最初の仕事が
この石置きなんだ」

―― 1年の数え方は教わった。でも何月何日なんて数え方じゃない。
   6年目とか言うけどそもそも村の人誕生日なんてわかってるのか?
  
「えーと、チィミコちゃん。ここの村の人は自分がいつごろ生まれたってみんな知ってるのかな?」
少し気になりうぱ太郎は尋ねる。

「みんな知ってるよ」
「どうやって?」
うぱ太郎の問いにチィミコは胸元に手を入れ、衣服の下、紐で首にかけられていた文庫本ほどの
大きさの木片をグレートサラマンダーZの顔の前に差し出した。

「あ……」

 その木片上部には、眼下の石の円に似た円状の模様が刻まれていた。
そして下部の上の位置に手の形に似た5本の放射状の線の塊が3組。

「よその村のことはよく分らないけど、うちの村では生まれたときにこの札をつけてもらうんだ。
あの石置きの丸と同じなんだけど、私は春の分かれの日の前に生まれたからここに印がついている。
それで生きた年は手の指の印で数えてて、ひとつ5年でそれがみっつで15年だ」
そう言いながらチィミコは木片の印に指をさした。
「当然小さいときは生きた年数の印自分じゃつけられないからその家の人につけてもらうんだけど、
6年目から自分でつけれるように、それまでみんなで教えるんだ。それで生きた年、6年になったら
その次の分かれの日の石置きのときから石を担ぐんだ」
「それ村の人全員持ってるの?」
「ああ、全員持ってるよ。みんな少なくても分かれの日ごとに必ず見てるから忘れることはない。
あと間違って燃やしたり割ったりする人いるけど、そのときは作り直す。怒られるけどな」

―― 昔の人の知恵か……。

 カレンダー代わりの石の円を眺めながらうぱ太郎は想う。
そしてあらためて現代社会とはかけ離れた場所に来てしまったことを痛感する。
木片を胸元に戻し、チィミコはどこか懐かしむような優しげな微笑を浮かべ広場を向いた。

「小さな子供だけじゃ石置きの石担げないことはみんなわかってる。それでも最初は子供4人に
担がせるんだ。初めて担ぐ子はその重さに驚く。そしていかに大人に力があるかを思い知る。
でも、子供だけでも力を合わせれば何とかなることに気づく。そこが一番大事なことなんだ」
「…………」
「ただ、石を動かせばいいってことではない。石が落ちたりしたら危ないからな。
それでそうならないように面倒を見るのが何回も石置きをやってきた年上の者だ。
小さい子が怪我しないように注意しながらみんなをまとめ、力をあわせ石を担ぐんだ。
 でも何も初めてやる子だけが教わるんじゃないんだ。何回も石置きをやった上の子もそうやって
自分が教わってきたことを下の子へ伝えることをちょっとずつ学んでいくんだ。
この村の者はみんな石置きをやって大きくなってきた。石置きはこの村の大事なならわしなんだ」
「…………」

214「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:14:09 ID:R702v2Cc0

―― 蛇食べるって聞いたときどうなることかと思ったけど、ちゃんと考えてるんだな……。

 カレンダーはおろか紙さえも無いと思われる時代。だが少なからず秩序や道徳的な教えはある。
自ら作りあげてしまった幻想を恥ずかしく思い、うぱ太郎は胸の中で小さく反省する。

 モニターには神輿から石を降ろし、収まる穴に向け石を転がす男の姿が映っている。
占いの要素でもあるのか、石が動くたびに広場は歓声やため息で埋まった。
そして石が穴に収まったところでひときわ大きい拍手と歓声が沸き、続いて村長の話が始まった。
ところどころで横やりな声が掛かる。どっと笑い声があがる。だがたいして長い話でもない。
長く続く拍手が終わりを告げていた。

「よし。じゃあみんなそろそろ行こうか」
儀式を見届け、チィミコは立ち上がり軽く衣服をはたいた。

「……うん」
少しどきりとする。そしていよいよかと心の中でため息をつく。

 大勢の人の前に出る。
人の姿の無いうぱるぱ王国で過ごしてきたうぱ太郎にとって未知の経験である。
 うぱるぱ救出活動で何度も人とやりあって来た。何度も理不尽な目にも遭った。
しかしその体験どれもがグレートサラマンダーZという鎧に守られての事である。

「うおー、盛り上がってきましたよー!」
「……民ちゃん、いちいちうるさい」
「あんたら余計なこと言わないでよ」
人の気も知らないで。と、後ろの席で遠足気分ではしゃぐうぱ民子を少し恨めしく思う。
 
「それでさ、私が村のみんなに話すから悪いんだけどタロウちゃん、私の言うとおりグレマン様
動かしてもらっていいかな?」
屈託のない笑顔でチィミコはグレートサラマンダーZに話しかける。
「いいけど……。どんなことするのかな?」
少し自信なさげな声でうぱ太郎は聞き返した。

「うん。私やテンやツギは見たからいいけど、グレマン様いきなり立ったり口開けたりしたら村の
みんなびっくりすると思うからあらかじめ見せておきたいんだ。それにそうなったときは危ないから
近寄るなって小さい子にも言っておきたいし。その後タロウちゃんたち出てきてもらえればさっき
ハナちゃんが言ったみたいにさわろうとする子もいなくなると思うから」
「あー、うん、わかった。じゃあチィミコちゃんに任せるよ」
「うん。悪いようにはしないから安心しててくれ」

―― 大丈夫。チィミコちゃんがフォローしてくれる。

 気づかれないように大きく息を吐き、ハンドルの位置を確かめた。
そして坂を下るチィミコに続き、うぱ太郎はゆっくりとアクセル踏み込んだ。

215「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:14:44 ID:R702v2Cc0

「昨日も話したけど、しばらく村にいてもらうグレマン様だ。
でな、昨日私の家でいろいろグレマン様と話したんだけど、とにかく凄いんだ。
ウマ。まぁオオシカでいいんだけど、オオシカも凄かった。でもそんなもんじゃない。
とにかく凄い。みんなびっくりすると思う。ホントにびっくりするはず。
って言うことでグレマン様よろしく」
「……どうも。……よろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします!」
「「「 ……………。」」」

 チィミコに連れられて、いよいようぱ太郎たちを乗せたグレートサラマンダーZは
村人達の前に出た。だが案内された場所はよりにもよって石置きが行なわれた石の円の内側で、
ばちがあたるのではと、うぱ太郎の不安と緊張をさらに増幅させた。
 乳飲み子を抱く女から杖を持つ老人まで100人近くと思われる村の人々が、チィミコの
指示に従い半円を取り囲むように立ち並んだ。
 円の内側に入らなければどれだけ近づいてもいい。というチィミコの声に、小さな女の子が
いの一番で最前列に立った。そして怖いもの見たさか数人の若い男女が少女の隣に並んだ。

―― たしかあの子昨日も返事くれたよな。蛇とかトカゲとか好きなのかな?

 ほとんどの村人は無言で、不安げにグレートサラマンダーZを見つめている。
その中での少女の元気な返事は、ほんのわずかだがうぱ太郎の心の支えになった。

「えー、昨日私とテンとツギは見たんだけど、実はグレマン様って2本足で立てるんだ。
それでまずはみんなにグレマン様立ったところ見てもらいたいんだ。いきなり暴れたりは
しないから大丈夫。怖がらなくていい。じゃあグレマン様よろしく」
「え、えーと。じゃあこれから立ちます。……いきなり暴れたりしないから大丈夫です」
簡単な打ち合わせどおりにチィミコは話を進めた。声に従い、モニターで人が危険な位置にいないことを
確かめ、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを立ち上がらせた。

「おいおいおいおい!」
「待て待て待て待て!」
「うわ、でかっ!」
「そりゃ反則でねーすか?」

 グレートサラマンダーZの動きに村人からどよめきが沸いた。
かまわずチィミコは場慣れした司会者のように話を続けた。

「はい、次はちょっと怖い。小さい子は泣いちゃうかもしれないからお母さん方よろしく。
当然と言えば当然だけど、グレマン様も口開けるときがある。でも何も知らないでその姿見ると
喰われちゃうかもって心配になってしまう。だから前もってその姿を見ておいてほしいんだ。
じゃあグレマン様、口開けてくれないか? できればなるべくゆっくりでお願いします」
「はい。えー、これから口開けます。いきなり暴れたりしないから大丈夫です」

 ぱかっ!

「「「 ――っ!? 」」」

「おいおいおいおい!」
「待て待て待て待て!」
「うわ、怖っ!」
「や、やんのかコノヤロー!!!」
「びゃー、えーんえーん」
「そりゃ反則ですって……」

216「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:15:56 ID:R702v2Cc0

―― やっちゃった……。

 緊張のせいか、うぱ太郎は無造作に口開閉スイッチを操作してしまう。
案の定、少女やもの好き連中含め、村人がいっせいに身を引いた。
慌ててチィミコがフォローを入れる。

「暴れたりしないから大丈夫。ホントに大丈夫だから心配しないでくれ。
……泣いちゃった子はさがってもらったほうがいかな。ごめんな。
それでな、グレマン様立ったり口開けてるときは近づかないで欲しいんだ。危ないから。
て言っても、あはは。これじゃ誰も近づきたいなんて思わないよな」

「「「 …………。」」」

「えー、グレマン様、口閉じていつもの格好に戻ってもらえるかな?」
「じゃあ、これからいつもの格好に戻りますです」
気まずさを隠すようにチィミコは笑顔を振りまいた。
うぱ太郎もそそくさとグレートサラマンダーZの口を閉め、通常状態に姿勢を戻した。

 安堵のため息が広場を埋め尽くす。

「うわー、グレマン様、凄い!面白い!」
「まぁ今日はこのぐらいで勘弁してください」
「こいつ本当におとなしくしてるのか? オオシカみたいに機嫌悪かったら蹴ったりしないのか?」
「たまげたなぁ。ほんとに化け物っているんだ」

 ひと通り村人の反応を見回した後、チィミコはごほんと咳を打った。
そして最前列はしゃがみ後ろの人は前に詰めるようにと村人をまとめ、本題を切り出した。
「えー、世の中には私たちの知らない、信じられないことやびっくりすることがたくさんある。
オオシカの時もそうだし、隣で言うのもなんだけどグレマン様にもびっくりだ」
 チィミコの声に最前列の少女が興味深げにこくこくとうなずいた。
釣られるように、周りからもうんうんと声が漏れた。

「でも本当に凄いのはこれからだ。またグレマン様に口を開けてもらう。暴れはしないから
怖がらずにみんなよく見ててくれ。
 たぶんみんな信じられないと思う。けど信じてもらうしかない。
これからグレマン様から降りてもらう。みんなびっくりする準備してくれ。
まぁ、簡単に言えば人の言葉を喋る手の生えたナマズだ。神様じゃないけどとにかく凄いぞ。
じゃあタロウちゃんたち。グレマン様から降りてくれないかな?」

―― いよいよか……。

 覚悟を胸に秘め、うぱ太郎はゆっくりと口開閉スイッチを操作する。
 振り返る。
昨日チィミコの前に出たこともあり、無表情だがうぱ華子、うぱ倫子も準備は出来ている。
「 …………。」
だが何故かうぱ民子はへらへらと笑っている。
「……民ちゃん。もうちょっと真面目に出来ないのかな?」
深刻になれとは言わない。しかしうぱ民子の態度はうぱ太郎にはあまりにも不謹慎に思えた。
「あはは。太郎ちゃん緊張しすぎ。表情硬いよ?」
だが、うぱ民子はあいかわらずの調子だった。

「はいはいはい。太郎ちゃんいちいちイラつかない。サクっとやっつけるわよ。サクっと」
「……太郎ちゃん。いつもあんな感じだから右から左へ受け流せば大丈夫」
「あれれ? わたし悪者?」

「いいよ、もう。じゃあ行こうか?」
何もかもが馬鹿らしく思えた。爆発させたい怒りを押し殺し、うぱ太郎は後ろを振り返らずに
グレートサラマンダーZから降りはじめた。

217名無しさん@避難中:2012/04/18(水) 00:16:38 ID:R702v2Cc0
今日はここまで。

218209:2012/04/18(水) 00:19:27 ID:R702v2Cc0
>>210名前欄コピペミスです。「 グレートサラマンダーZ 」でおねがいします。

以上、よろしくお願いします。

219名無しさん@避難中:2012/04/18(水) 00:23:09 ID:dGgwZfGQ0
途中で猿さんなるかもですが、行ってきます
なんか本スレagaってますけど、ほかに誰か行こうとしてますかね?
30分まで待って動きなければ行きます

220名無しさん@避難中:2012/04/18(水) 00:40:25 ID:dGgwZfGQ0
終了です
猿さんに捕まらず投下できました
ご確認下さい

221209:2012/04/18(水) 00:45:05 ID:R702v2Cc0
>>220
確認しました。あり!

規制が解けそうにないのでまた機会がありましたらどうぞよろしくお願いします。

222 ◆VECeno..Ww:2012/06/03(日) 05:19:52 ID:5IN3YO860
【依頼に関してのコメントなど】
途中まで投下してありますが規制されてしまいました。
よろしくお願いします。
【スレ名】 【能力ものシェア】チェンジリング・デイ 6 【厨二】
【URL】 http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1308806660/
【名前欄】 【幻の能力者】 成世編 後編
【メール欄】 sage
【本文】 ↓次レスから

223 ◆VECeno..Ww:2012/06/03(日) 05:20:51 ID:5IN3YO860
 
私の疑問を余所に、二人は会話を続ける。

「その子の“能力”はtop secretのはずだ。ナゼ余計なコトを教えた?」

「愚問ね。
この子の“能力”の価値は貴方達には分からない。
どうせ持て余しているなら、解き放ってあげるべき」

「それがお前の選択か? もしそう思うのならば、他のmemberにそう訴えるべきだった。
お前の行為は明らかに反逆だ」

「あらそうですか」

「正気か?」

「本気よ」


「先生!」

私は思わず口を挟んだ。

「逃げて。彼は私がなんとかするから」

鞍屋先生は私のほうを振り返って小声で話す。

「でも、先生……」

224 ◆VECeno..Ww:2012/06/03(日) 05:22:02 ID:5IN3YO860

状況はよく分からないけれど、

「巻き込んで、ごめんね、成世さん」

これだけは分かる。

鞍屋先生は、死ぬ気だ。

「そうか、覚悟があるなら別に構わない。
だが、犬死にするだけだぞ」

男は、そう言いながらサングラスを外し…

…そこまで見た所で、目の前を先生の手が覆う。

「見ては駄目。目を瞑ったまま逃げなさい。過去の世界でまた会いましょう」

先生は早口で説明する。
私は小さくうなずくと、“昼の能力”を使った。

再び、体が奇妙な方向へと引き込まれる。
私はまた新たな並行世界へと旅立った。
この世界の先生の無事を祈りながら……

225 ◆VECeno..Ww:2012/06/03(日) 05:22:33 ID:5IN3YO860






こうして、私の“旅”は始まった。

226 ◆VECeno..Ww:2012/06/03(日) 05:23:31 ID:5IN3YO860

ここまで。

227名無しさん@避難中:2012/06/03(日) 05:28:37 ID:Ivb3Whnc0
行ってきます

228名無しさん@避難中:2012/06/03(日) 05:32:41 ID:Ivb3Whnc0
行って来ました

229 ◆VECeno..Ww:2012/06/03(日) 11:30:50 ID:5IN3YO860
>>288
代行ありがとうございました!

230名無しさん@避難中:2012/07/06(金) 21:59:49 ID:t3zgK6BQ0
度々お世話になっております、どなたか宜しくお願い致します

【スレ名】モブ少女-3-
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1282395034/
【名前欄】特に指定無し
【メール欄】特に指定無し
【本文】↓
ご無沙汰しております、>>1こと>>2です
長々とお待たせしてしまって申し訳・・・って何回目だこの挨拶www
ちょうど区切りのいい所まで書けたので投下したかったのですが、現在規制にひっかかっておりまして書き込めません
そこで、また避難所の「個人スレ」をお借りして、続きを書き込もうかと思っています
てなわけで久しぶりの投下予告!
急ですが明日(7/7)の21時〜、レス数はだいたい20位です(ちょっと増えるかも)
修学旅行編の山場まで、いけるといいなぁ・・・

231名無しさん@避難中:2012/07/06(金) 22:02:33 ID:t3zgK6BQ0
さーせん、age忘れです

232名無しさん@避難中:2012/07/06(金) 22:24:37 ID:M..bK1a60
いってきまう

233名無しさん@避難中:2012/07/06(金) 22:25:45 ID:M..bK1a60
いってきました

234名無しさん@避難中:2012/07/06(金) 23:09:29 ID:t3zgK6BQ0
>>233
有り難う御座いました!助かりました

235名無しさん@避難中:2012/08/25(土) 05:51:58 ID:n./Cnuis0
お願いします!

【スレ名】【まとめ】創発板ウィキ・Wiki編集スレ2【保管】
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1280991457/l50
【名前欄】
【メール欄】
【本文】↓


過去に投下した自作を見てにやにやしたいというきわめて個人的な理由でありますが、
よろしければ下記過去スレのhtlm化をお願いしたい所存であります。


月間創作発表スレ
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1238396099/

【気軽に】職人がSSを書いてみる【短編】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219996415/

【三題使って】 三題噺その3 【なんでも創作】
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1287933564/


上記の3スレをお願いします。

*三題噺スレは新スレに移行しているので、合わせてそれも変更していただければこれ幸い。
現行スレ【三題使って】 三題噺その4 【なんでも創作】
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1345555392/l50


以上、よろしくお願いいたします。

236名無しさん@避難中:2012/08/25(土) 08:13:10 ID:Zz2M/0t.0
行って来た

237235:2012/08/25(土) 22:52:54 ID:Syq9FX1.0
遅くなりましたが確認しました。ありがとうございます!

238235:2012/08/26(日) 07:06:10 ID:RJwCcvUc0
お願いします!

【スレ名】【まとめ】創発板ウィキ・Wiki編集スレ2【保管】
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1280991457/l50
【名前欄】218
【メール欄】
【本文】↓

>>219
確認しました。ありがとうございます。
また機会がありましたらよろしくお願いします。

239名無しさん@避難中:2012/08/26(日) 07:23:13 ID:hmNCdyZo0
ほいよ。

240名無しさん@避難中:2012/08/26(日) 07:24:31 ID:hmNCdyZo0
いってきたよ。ageでよかったんだよね?

241238:2012/08/26(日) 07:32:09 ID:RJwCcvUc0
>>240
確認しました。ありがとうございます。
あげでかまいません。

242名無しさん@避難中:2012/08/27(月) 00:04:16 ID:Er7cgXvo0
【依頼に関してのコメントなど】
代行お願いします。

【スレ名】【イラスト】お絵描き総合スレ2【画】
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1345648799/
【名前欄】色軍
【メール欄】
【本文】
http://imefix.info/20120824/151103/rare
四周年おめでとうございます!

243名無しさん@避難中:2012/08/27(月) 00:06:21 ID:Er7cgXvo0

【依頼に関してのコメントなど】
度々すみません。代行願います。

【スレ名】【魔王】ハルトシュラーで創作発表するスレ 3作目
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1283782080/
【名前欄】色軍
【メール欄】
【本文】
http://imefix.info/20120824/591102/rare

244名無しさん@避難中:2012/08/27(月) 00:09:48 ID:RcEOS4lc0
まず>>242行く

245名無しさん@避難中:2012/08/27(月) 00:10:55 ID:RcEOS4lc0
>>243も行く

246名無しさん@避難中:2012/08/27(月) 00:11:34 ID:RcEOS4lc0
完了

247名無しさん@避難中:2012/08/27(月) 00:14:00 ID:Er7cgXvo0
確認しました!
ありがとうございます!

248名無しさん@避難中:2012/08/27(月) 02:51:42 ID:8eXlBBdo0

お願いします!

【スレ名】○●○合作しようぜin創発板○●○ Part2
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281623915/l50
【名前欄】
【メール欄】age
【本文】↓

>>132
質問。
主人公の性別は男、女? ざっくり読んできたが正直主人公の性別がよく解らないので
今のままだと話が進められない(そういうのを狙っているのならごめん)

主人公が女で、名前をそちらで決めてもらえるなら続きを書こうかなと思っている。
(本当にざっくりとしか読んでいないので名前を見落としている可能性もあるがw)
ただしあっさり完結させるつもりなので、妖怪ハンターとして大活躍な展開を望んでいるならば
今回は縁がなかったということで遠慮する。

とりあえず検討してみてくだされ。

249名無しさん@避難中:2012/08/27(月) 10:15:01 ID:FehNA1Ko0
したよー

250248:2012/08/28(火) 00:22:13 ID:ttoQ9BzY0
>>249
遅くなりましたが確認しました。ありがとうございます!

251名無しさん@避難中:2012/08/28(火) 00:27:19 ID:ttoQ9BzY0
続けてお願いします!

【スレ名】○●○合作しようぜin創発板○●○ Part2
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281623915/l50
【名前欄】133
【メール欄】sage
【本文】↓

>>134

 連絡遅くなって申し訳ない。

どうも自分の固定観念で、一人称、語り手「私」だと自動的に女性を連想してしまうのであります。
ついでにざっとしか読んでないので「そこの妖孤の娘よ、さっき『妖怪の流行病』の話をしておったな?」
という住職の台詞で、妖狐(母)の子供(主人公。娘なので女)と認識してしまいました。

>>133
でも書きましたが、(投下作の設定を無視して)あっさり完結させるつもりだったのですが、
さすがに簡単でもキャラ設定を見せされると自分のやろうとしていることはあまりにも的外れ及び
不誠実と思われますので、今回は縁がなかったということですみませんが辞退させていただきます。
お騒がせさせて大変申し訳ありません。

 ちなみに自分が作ろうとした話。

母が妖怪化の発作を見せて数ヶ月経過。
(本堂の修復費用は建物保険でまかなうw為、妖怪ハンターの話は立ち消え)
妖怪の血の運命に翻弄される母娘。
(母。閉経とともに本来の妖怪の姿に戻り人間の姿には戻れない。閉経の頃は通常の人間より
大幅に早く四十歳前後。
娘。その話を母から聞かされて自分の行く末はどうなるのだろうかと大いに悩む)
そして母娘、それぞれの道を歩み始める。

 ついでにラストシーンw

 泣きじゃくる私を背にしても振り返ることはなかった。
山の裾野に広がる銀の海原に、一人静かに母は姿を消した。

 我が子を見守る親狐のしっぽのように、すすきの尾花が優しく私を包み込む。
そしてまるで別れを惜しむかのように、風のない空の下、いつまでもいつまでもそよぎ続けた。

 いやー、本当に申し訳ない。
心意気は買っているのでまた機会があれば懲りずに頑張ってください。

252名無しさん@避難中:2012/08/28(火) 20:47:27 ID:N95p55N20
依頼に関してのコメントなど】ネット繋がらないので、スマホからです。よろしくお願いします。
【スレ名】【能力ものシェア】チェンジリング・デ イ 6 【厨二】
【URL】 http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/ mitemite/1308806660/
【名前欄】名無し
【メール欄】 sage
【本文】
おお、カズさん小ネタ投下乙です〜
積極的なかれんちゃんもかわいいですねっw

以上、どうぞよろしくお願いします<(_ _)>

253名無しさん@避難中:2012/08/28(火) 22:49:38 ID:bQYDSlsE0
>>252

行ってきました

254名無しさん@避難中:2012/08/28(火) 23:36:40 ID:N95p55N20
ありがとう!!

255251:2012/08/29(水) 09:49:16 ID:x5iBIK720

251だけど誰も代行してくれないYO
もしかしてろくに話読まないで安請け合いして引っ掻き回して挙句の果てに断ってしまったので
代行人に反感買ってしまったか(でしゃばり過ぎた罰か。自業自得だがw)
合作スレの134の人はすでに見てると思うんだけど、こういうときのもどかしさは半端ねーぜw

自分本位ですみませんだが、このレスを再依頼として、また1日待ってみる。
重ね重ね合作スレ134の人申し訳ない。

256名無しさん@避難中:2012/08/29(水) 09:56:47 ID:YC.PkoZc0
あれ?……すまん、見過ごしてた。

257251:2012/08/29(水) 10:25:49 ID:x5iBIK720
>>256
確認しました、ありがとう。これで安心して仕事いけるYO

258名無しさん@避難中:2012/08/29(水) 10:31:10 ID:xqYnDgmk0
>>257
本スレの134です。

本スレのほうでも触れましたが、以前から書き込みを確認していたものの、自分が代行してしまうとIDの関係で自演みたいに見えてしまうので、
書き込みを控えていたのですが・・・なんか変な誤解を与えてしまったみたいですみません。
一応、本スレのほうに返信させていただきました。
今回の件は残念ではありますが、本作は『設定があるような無いような』な『斬鉄剣の性能』的作品ですので、
もし何かの機会がありましたら、>>251で書かれた作品が拝見出来る機会をお待ちしています。

259名無しさん@避難中:2012/08/30(木) 17:41:23 ID:tRewTDr60

お願いします!

【スレ名】【駄洒落で】ダジャレー夫人の恋人2【創作】
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1293809844/l50
【名前欄】
【メール欄】age
【本文】下記3レスお願いします。

260名無しさん@避難中:2012/08/30(木) 17:42:34 ID:tRewTDr60

「はじめまして。ヨン・シューネンいいます。ヨンと呼んで下さい。よろしくアルね」

 いま俺は大学でフランス語の講師をしているフランス人の友人ジャンと、安いだけが取り柄の
居酒屋で酒を飲んでいる。
 三年前、ジャンが講師を務める交換留学が盛んな大学の学園祭で知り合い、その後
交友を深め現在に至っている。地元から離れこの地で暮らしている俺にとって、ジャンは職場の
同僚以外では唯一の友達と言っていい存在だ。

「ジャン先生の率いるコスプレメンバーの一人を好きになってしまったアルが、どう打ち明ければ
いいか分からなくてジャン先生に相談したら、悩みを聞いてくれるいい人がいますと言われて
それで今日ジャン先生に同行させていただきました。どうぞ話を聞いて欲しいアルよ」

 安藤殿にちょっと相談がありましてとジャンから連絡があり、土曜の夜、繁華街に繰り出した。
どうやら相談というのは今日が初対面となるいまどき珍しいステレオタイプな中国人日本語を操る
ヨン君の恋愛相談のようだ。
 いちいち会話にアルが混じるのは玉にキズだが、それを除けばヨン君は痩せ型で前髪を上げた短髪、
オーソドックスな白の開襟シャツが眩しい爽やかな青年だ。

「お役に立てるか判らんが、俺でよかったら」

 そう言ってこれ見よがしに発泡酒の大ジョッキをぐびぐびと煽る。
だがしかし、正直ヨン君の相談に適切なアドバイスを送る自信は無い。人に恋愛指南出来るほど
女と付き合ったわけでもない。そして、なによりも俺自身いまだ過去の恋愛を引きずっているのだ。

 三年前の今頃から俺はコスプレ好きのアメリカ人留学生ジュンと付き合い始めた。
元々はジャンの嫁となったスージーという金髪が好きだったのだが、いろいろあって言葉は悪いが
ジュンに鞍替えした形である。
 楽しかった。まだ二十八だが生涯で一番輝いていた季節と言っても過言ではない。
外人さんと付き合うという特殊性も確かにあったが、それを差し置いても充実した日々だった。
 自分で言うのもなんだがジュンと会える日を待ちわびてバリバリと仕事をこなした。
映画、ドライブ、図書館でのお勉強、そして俺の部屋でいちゃついて過ごす甘いひととき。
 しかし蜜月はジュンの留学終了とともに終焉を迎える。
俺に引き止める勇気も追いかける覚悟も無かった。そしてジュンも両親との約束を破るつもりは無かった。
空を切り裂いた飛行機雲をただずっと目で追い続けた。一年前のことだ。

「えーと。コスプレチームの一員ということだけど、ヨン君が好きな子は俺の知ってる子?」

 傷心の俺に気遣ってか、ジュンが日本を去ったあともジャンは俺をコスプレ同好会みたいな
サークルの飲み会に誘ってくれた。
 部外者な俺だが三年前のある出来事をきっかけに何故か伝説の人となってしまい、飲み会でも
皆俺を歓迎してくれた。ジャン経由ではあるが休日で暇なときは、食事をしたり俺の車で観光案内に
出掛けたりと今も年々入れ替わるコスプレメンバーの留学生とは程々に交流がある。

 俺の質問に四人掛けテーブルの対面に座るジャンとヨン君は顔を見合わせた。
そして意を決したように二人小さくうなずきヨン君がちょっと重そうに口を開いた。

「……メアリーアルよ」
「うおっ、マジすか!?」
「マジアルよ」

 真っ直ぐに俺を見つめるヨン君の瞳に嘘は無かった。

 メアリー。二十二歳のアメリカ人留学生。金髪ポニーテールで背丈は俺とそれほど差はなく確実に
170センチ以上ある娘だ。チアガールの衣装を着たメアリーを見たことがあるが、端正なスタイルと
凛とした表情を持つ誰もが認めるアメリカンビューティーだ。

 うーん、爽やかなイケメンではあるがヨン君は確実にメアリーより背が低いしなあ……
口には出さないが胸の中では早くも諦めモードの俺。顔に出たのかすぐさまヨン君が俺に聞いてくる。

261名無しさん@避難中:2012/08/30(木) 17:43:49 ID:tRewTDr60

「ジャン先生から、アンドー殿もコスプレメンバーの一人と付き合っていたと聞きました。もし
よかったらヨンにアンドー殿の経験とコスプレさんと付き合う秘訣を教えていただきたいアルよ」
「うぬー、経験といっても俺の場合成り行き任せということもあったからなあ……」
「ヨンはいま二十一。でもいままで美人さんと付き合ったことありません。アンドー殿、どんな
ことでもかまいません。ヨンにデートの誘い方を教えてくださいアルね」

 真剣な眼差しで見つめられ思わずヨン君から目を逸らしジョッキを持って誤魔化す。
最初から判っていたが、いまだ自分のことでうだうだしてる人間だ。人様の恋愛沙汰にアドバイス
出来る立場には無い。

「安藤殿はジュンやスージーたちと初めてあったときどんなことを考えてましたか?」

 気まずさに堪えきれずジョッキを空にしたところでジャンから助け舟が入る。
ナイスタイミングと心の中でつぶやきながら、一旦空気をリセットするために店員を呼んで
ハイボールを注文する。

「……初めはコスプレの可愛い外人さんの写真撮れればいいかなってしか思わなかったけど、ジャンと
知りあえたから、だったら女の子とも仲良くなりたいなってデジタルカメラだけど写真プリントアウト
して、次の日写真撮らせてくれた女の子全員に配った。まあ用は自分が良く見られたいってことなんだけど
それでも女の子達は喜んでくれたから俺も嬉しかったよ。きっかけがあればあとはまめに話しかけたり
話を聞いてあげたりすればとりあえず知り合いぐらいにはなれる。付き合うとなるとまた話は違うと思うけど、
基本的にはその延長で、とにかく明るく誠実に色々と話をしてお互いを理解するのが大事だと思うけどね」

 ジャンの質問に答える形でヨン君に話しかける。
喋り終えたところで注文したハイボールが来たので喉を潤す。

「……まめアルか?」
ぽつりとヨン君がつぶやいた。しかし発音が微妙でヨン君の思うところが解らない。
「えーと、なんて言えばいいかな……」
まめ。の単語や英文を脳内で探す。しかし肝心のところで思い浮かばない。
すぐにジャンが英語でヨン君に話しかける。ジャンの言葉を追う。そしてああなるほどと納得する。
ジャンやジュン、スージーとともに過ごし、簡単な英会話も出来るようになった。が、まだまだ
道は険しい。同時期からスージーはフランス語を勉強し始めたがもうぺらぺら喋れる。きっと俺とは
頭の作りが違うのだろう。
そして、そうこう考えてるうちに暗雲が引けるようにヨン君の顔にぱーっと笑みが広がった。

「一生懸命話しかけて、一生懸命話を聞いて、いつも明るく元気に正直に誠実にってことアルな。
ヨンちょっと日本語と英語下手だけど頑張ります。アンドー殿ありがとう!」

 ジャンが知らぬうちに秘訣を付随して英語で説明したのか、それともヨン君が勝手に深読みして
くれたのか、俺の言ったこと以上にヨン君はすらすらと模範的で理想的な言葉を連ねた。
 うん。それが出来れば知人レベルなら簡単になれる。だけど簡単に思えて結構難しいわな。
それから先は本人の努力とメアリーとの相性か。メアリーちょっと固そうだしな……。
あとはメアリーが自分より背が低い男でもOKなことを祈る。
 色々と胸の内で心配するが当然表には出さない。
アドバイスにはなってないが、ちょっと長めに話しただけで納得してくれたなら俺的にはもう話す
ことは無い。綺麗にまとまったのに迂闊なことを言ってやぶへびになるのも避けたかった。

 本当にそれだけで上機嫌になったヨン君に、今度はこちらから話を振り続ける。
酒が入り、さらに饒舌になったヨン君は日本語韓国語英語中国語ともはや何を言ってるのか解らない
レベルで延々と喋り続けた。
 まだ二十八だが、若いっていいなと隠居した爺さんのようにしみじみとする。
そして、俺もそろそろ吹っ切らないと。と、心で思い、ヨン君に頑張れよとエールを送った。

 ヨン君の相談に乗って一ヶ月が過ぎた。
ジャンのマンションに招待され家飲みをする。その際、その後ヨン君はどうなったかと聞いたが
今のところ進展は無いと言うことだった。ただ、ふられたとかメアリーが迷惑しているという悪い
噂も聞かないので友達ぐらいにはなれたようだとジャンは言う。

262名無しさん@避難中:2012/08/30(木) 17:44:57 ID:tRewTDr60

 そして瞬く間にもう一ヶ月が過ぎた。

「アンドー殿、ありがとう。おかげ様でメアリーと付き合うことになったアルよ!」
「マジでっ!?」

 平日。ジャンから連絡があり、また安いだけが取り柄の居酒屋に出向いた。
仕事で遅れると連絡し三十分ほど遅刻して店に着くと、すでにジャンとヨン君は相当酔っ払っていた。

「これヨンの家で作ってるケイタイラン。若者向けに明るく可愛く作ってるので部屋に飾ってください。
本当にありがとう。アンドー殿のアドバイスが無かったらヨン諦めてたと思うアルよ」
席に着くなりヨン君から相談に乗ってくれたお礼にと中国の民芸品と思われる取っ手や台座のついた
お椀のようなものを貰った。
「うお、わざわざありがとう。それよりヨン君凄いな。どうやったんだ?」
速攻で店員に発泡酒の大ジョッキを頼み、ジャンやヨン君に追いつくべき煽る。
正直に白状すればヨン君にはハードル高すぎだろと思っていたので純粋に驚き、そして今度は
成り行きに俄然興味がわいてくる。

「どうやったもなにも、アドバイスどおり挨拶から始まって、あとメアリーと顔をあわせたら
少しでもいいから話すようにして、だんだん仲良くなって、でも嫌がられないように注意して、
メアリーが話したそうなときは一生懸命聞いて、友達にはなれたなと思って、それで昨日思い切って
告白したらOKもらったアル。
二ヶ月もかかったけど恋人出来ました。本当にアンドー殿とジャン先生のおかげ。ありがとう!」

 諦めたらそこで試合終了ですよ。
バスケマンガの名言が俺の心の中で何度も何度も繰り返された。

「ヨン君。私はただ安藤殿の言葉を解りやすく英語にしただけで何もしていません。それにアドバイスが
あったとしても実際にそれを行動に移したのはあなたです。ヨン君の努力の賜物ですよ」
「……そ、そうそう。俺のアドバイスなんて別に普通のこと普通に言っただけだから」

 危うく後悔という名の無間地獄に陥りそうになったが、ジャンの返礼に便乗して何とか踏みとどまる。

「たまものってよく解らないけどそれは違います。ヨン、いままで好きになった人いたら何も考えずに
付き合ってくださいって言ってたアルね。アドバイスで初めて気づかされました。付き合いたいと言うにも
順序があるということを。だから本当にアンドー殿のおかげ。ありがとうござります」
「いやいやいや。本当に俺なにもしてないから。ヨン君が頑張ったから結果がついてきたんだよ」
「いえ、もしあのアドバイスがなかったら、ヨンまた何も考えずに告白してふられてたと思います。
だからメアリーと付き合えるようになったのはアンドー殿のアドバイスのおかげアル。ありがとう」

 単に腰が低いのか、それとも中国に激しく相手を立てる風習があるのかヨン君はなかなか自分の
努力を認めようとしなかった。
 たいしたアドバイスでもないが、助言が実を結び感謝されるのは悪い気分じゃない。
だが、そろそろ延々同じ事の繰り返しになりそうなので、改めて言葉を探す。

「ヨン君。メアリーと恋人になれたことがゴールじゃない、そこはスタートなんだ。だからこれからも
あのアドバイスを忘れずに日々を過ごして欲しい。いずれにしてもヨン君はガッツと根性がある。
その何事も諦めないガッツと根性を、今度はメアリーを幸せにするために使ってやってくれないか?」
「……アンドー殿」

 俺の声をヨン君は少し意外そうな顔で受け止めた。そして姿勢を正し真顔になって俺に返事をくれた。

「アンドー殿、ありがとう。アンドー殿の言葉を胸に、ヨンはメアリーを幸せにするアルよ!」
俺が自分でふっておきながら、もはや聞いてるこっちが赤面しそうな気恥ずかしさ。
だが構わずに、酔いと勢いに身を任せヨン君を激励する。
「おう、その意気だ。影ながら応援するぜ。頑張れよ。ガッツと根性、諦めない心だ!」

 爽やかでどこか誇らしげな笑みを満面に浮かべる。そしてヨン君は高らかに声を掲げた。

「ありがとう、ヨン、頑張るアル。きっと大丈夫アル。ヨン、執念あるよ!」


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