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レス代行はここでおk その3

122名無しさん@避難中:2011/10/07(金) 21:29:07 ID:NsodQsSE0
「―――疾風!」

勇ましくも清涼な声が大気に融け、風となったようだった。
わずかなブレや歪みもない、定められた道筋に沿っているかのように虚空を駆けるその軌道が閃くと同時に、
くぐもった呻き声が木霊する。
数秒前まで固めていた覚悟を思い切り霧散させ、小鳥は今の状況を冷静に反芻しようとした。
(―――あ、ありのまま今起こったことをryっていやいや!)
某奇妙な冒険ネタを引き合いに出すようなコミカルな状況ではないが、小鳥本人の心情としてはこんなものだった。
ただ、こっちに呪文を浴びせようとしていた人間の身体を、わずか数本の矢が「引っ張って」いった。
見事に袖口や裾―――体を掠めることなく、衣服のみを射抜いて、建物の壁へ画鋲みたいに人を縫い止めるという妙技を
目の当たりにして、小鳥と少女は揃って口を半開きにするより他ない。
 彼女らの困惑を余所にして、技を放った『射手』は、静かな足取りでこちらへ歩み寄ってくる。
「・・・・・・怪我はありませんか?」
木製の弓を携えた救いの主は、驚いたことにまだ年端も―――といっても十歳前後ほどの少年のようだった。
褐色の肌と相反する透明な水色をした長い髪を肩先辺りまで垂らしているその少年は、
年不相応な落ち着きと気品を空気に纏って歩み寄ってくる。
「発動する前に取り押さえられてたと思っていましたが……そこにいる猫は、まさか今ので?」
「あ、いいえ、この子のは―――呪文のせいには違いないんですけど、もっと前の―――」
……確実に年齢は下の筈の相手に、無意識に敬語を用いていることに疑問を持つ間もなく小鳥が対応している時。

「―――コラコラ」

闖入者は、少年だけに留まらなかった。やんわりと諌めるようなしわがれた声と共に、長い白髪を高い位置で括った、如何にも好々爺といった雰囲気の老人が、
しかし隙のない足取りで現れてくる。
「森の獲物ならいざ知らず、まだ人に向けていいと許可した覚えはないぞ。まあ、相手は相手かも知れんがな」
「・・・・・・すいません、先生。つい、先走って飛び出してしまいました」
穏やかな口調のまま、しかしキッパリと窘められ、少年が小さく頭を下げる。見れば老人もまた、肩には矢筒を、背中に弓を掲げている。
察するに、師弟関係にあるのだろうか。
「まあ、致命傷を負わせていないのは由としておくがの。―――別嬪さんの前でいいトコを見せたかったか?」
不意にニヤ、とした視線を小鳥に馳せる老人に対し、少年は眉根を寄せた真剣な表情で弓を下ろしながら、
「先生、不謹慎ですよ」

―――その言葉の後、見えざる第二撃を放った。


「家庭あるご夫人を前にして、そういった発言は失礼かと思います」


ブロークンハートという言葉の意味が、本来とは違う趣で嫌という程伝わってくるようだった。
自分の格好を、頭の中微かに残された冷静などこかが徹底検証している。とりあえず一目で家事手伝いとまでは知れる、踝まで伸びているスカート丈の地味なワンピースに、
腰周りには白いエプロン。実際の年より結構上に見られてしまう、髪を纏め上げたシニョンカバー。ついでに言うと、メイドとしての執念だったのか肘にはしっかりと買い物籠が
ぶら下がっていて、そして何より腕には小さい女の子。
 ―――ご夫人=自分。
16歳である。決してまだチョメチョメとかいう擬音を入れるような年齢ではなく、更に言うなら義務教育を終えたばかりの年齢である。
そうだそれより子猫が治療を受けられる状態にしないとああそういえば鍵のことだってあったっていうか落とし主(多分)はすぐ傍にいるし―――

「お、お姉さん、お姉さん……?」

先程呪文の嵐の只中にあっても歪まなかった女の子の顔が、泣きそうな顔でこっちを見ている。何とか笑顔で答えようとするも、悪気のない矢を心にぶっ放された
今の小鳥は、それに気づける余裕がなく。

「……?先生、彼女はどうしたんでしょう」
「……わしゃー知らんぞ、この節穴が。乙女心をズタズタにしよってからに」


―――その後、少女の必死な呼びかけの末、小鳥が意識を取り戻すのはもうしばらく先のことだった。


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