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レス代行はここでおk その3

1名無しさん@避難中:2011/02/10(木) 00:29:06 ID:ZITdcemQ0
レス代行を依頼したい方はこちらへ

☆依頼時の注意
 1、どこのスレへ依頼したいのかを忘れずに書こう。
 2、依頼文中のどの部分をコピペして欲しいのをかわかりやすく書こう。
 3、トリップ付き作品の代行依頼時は、規制されている旨を該当スレ住人に説明する文も添付するといいかも。
   こっちでもトリップは共通なので生存報告も出来ます。

☆代行時の注意
 1、依頼レス内容の改変はやめよう。明らかな誤字脱字・用法ミスがあっても、勝手に変えてはいけないよ。
   ただし、ここで指摘して修整してもらうのはアリだ。
 2、依頼文をよく読んで、くれぐれも誤爆することなく代行を完遂しよう。
 3、代行被りを防ぐ為にも、行ってくる前と後に一言レスをつけよう。
 4、コピペしてそれが代行だとわかりにくいかもしれない場合は、名前欄かレスの後などにその旨を説明しよう。
 5、依頼されたもの全てを代行しなければならない訳ではないよ。
   スレにそぐわない意味不明なレスや明らかな煽り等は、各自の責任と判断でスルーしよう。
   荒らしを代行する奴も荒らしだ!

☆新・あると便利なテンプレート〜
【依頼に関してのコメントなど】
【スレ名】
【URL】
【名前欄】
【メール欄】
【本文】↓

--------
このスレでは一応スレ立て代行も受け付けます
もちろん↓へのレス代行でもおk
●○●○● スレ立て依頼所2 ●○●○●
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1280990767/

120名無しさん@避難中:2011/10/07(金) 21:19:19 ID:NsodQsSE0
「―――あの船の神秘は貴様ら如きが言いようにしていいものではないわ!身の程を知れぇ!」
「ったく、不法侵入しといて往生際が悪ぃ―――あんなガラクタのことよりも、街をしっちゃかめっちゃかにしてくれた落とし前は、
裁判でキッチリつけてもらうから覚悟しとけ!?」
「ほざけぇっ!ライトニングッ!」
一瞬の閃光と共に降り注ぐまさに「青天の霹靂」に、遠目で見ている小鳥ですら思わず背筋が震えた。
「―――すいません、この子のこともお願い出来ますか!?」
乱戦の中、部下と思しき騎士の一人が、立看板に隠れていた小鳥に声をかける。見てみれば、カタカタと小さな背を震わせる、
小さな女の子を腕に抱えている。
「なるべく被害がそちらに及ばぬよう尽力しますので、それまでお願いします!」
「えっ、あのちょっ―――!」
小鳥の返事を待たずして、騎士はその腕から下ろすと、ナイレンらの後を追って「戦場」へと舞い戻る。思わず手を伸ばして
待ったをかけようとしたが、出来なかった。
―――少女を下ろすその腕から流れる、赤黒い液体を目の当たりにした瞬間、息が詰まったように声が出なくなる。

 本人が気づいていない筈もないのに、それでも当然のように血を流したままのその腕は、今度は剣を力強く振り抜き、駆けていく。
どくどくと、心臓が早鐘のように脈打つ。オーディションに臨む時にどうしても付き物の「それ」とは、比べ物にならない速度で。
(―――大丈夫よ、落ち着いて。だって―――)
その先に続きそうになった言葉に気づいた瞬間、戦闘の中緊張しきった小鳥の脳を、一瞬の自己嫌悪が支配する。
自分が嫌になるのは、こんな時だ。
それまで当たり前で愛おしいと思ってた筈のこの日常を―――「これはどうせ夢」と、切り捨ててしまいそうになる時だ。

陰りのようなものなど何も見えなくても、この『世界』は交通事故よりも高い確率で、下手すれば明日の朝陽を拝めない危険を孕んでいる。
小鳥のみならず、人々が当たり前のように受け入れている事実。でも『音無小鳥』を、少なくとも目に見える危険も何もなかった世界を
思い出してしまった今は―――

―――自己嫌悪の海に沈みそうだった彼女の意識を呼び戻したのは、目の前を吹き抜けた金色の風だった。

「―――えっ?」

正確には、金糸のような髪が目の前を過ぎっていった。そのことに―――傍で震えていた筈の少女が、やおら立ち上がって走り出し、通りへ
飛び出していった瞬間を目の当たりにした時、サァッ、と冗談抜きで血の気が引いた。
「まっ―――待ちなさい、何やってるの!?」
耳を鋭く打つ剣戟と、呪文による総攻撃の波に怯えている暇はなかった。走り出した後に、唐突によりにもよって道のど真ん中へ座り込んだ少女を
連れ戻すべく、小鳥は飛び出していく。
「ここは危ないの!すぐに戻らないと―――」
怪我じゃすまない―――そう続けようとしたその瞬間。
見てしまった。ぐったりと、四肢を路面に横たわらせた、野良と思しき子猫。その腹が無惨にもバッサリと裂け、内蔵すら覗かせている惨状を。
反射的に、今の状況を忘れて口を押さえる。

「い、癒しの力よ・・・・・・ファーストエイド!」

幼くも鈴の鳴るような声が呪文を紡ぐと同時に、拳一つ分の天上の光を集めたような輝きが、少女の小さな掌に宿る。
そうして初めて、目の前の女の子の顔をしっかりと認識した。

121名無しさん@避難中:2011/10/07(金) 21:25:47 ID:NsodQsSE0
黄金の月を糸にしたような、儚い印象を覚える輝く金髪。恐怖に揺れながらも、強い意志を燃やしている蒼い瞳。真ん中で
分けられた前髪から覗くその白い額には、うっすらと玉の汗が浮かんでいた。
先程まで必死になって捜し回っていた「落とし主」がいる、という感動など介在する余地はなくて。
5、6歳程度にしか見えない彼女は、しかし目の前で尽き果てようとしている命を救わんと、必死になって尽力している。
―――頭を思い切り不意打ちで叩かれたようだった。
こんな幼い少女が、いつか見た法術という癒しの奇跡を用いていることではない。
少女は、震えながらもしっかりと見据えていたのだ。
雨あられと降り注ぐ魔術の恐怖から目を逸らさずに、炎や雷がすぐ間近で舞う状況の中でこの子猫を見つけ、そして飛び出していった。

小刻みに震える身体から確かに滲む恐怖。あの奇跡のような光を注いでも、子猫の傷はほんの少ししか塞がらない。
いくら法術といっても、やはり限界はあるのか。
普通の子供であれば目を背けても当然の筈の子猫の惨状を前にして、泣きそうな表情になりながらも、
それでも彼女は術をかけることをやめなかった。

「・・・・・・お願い、治ってっ・・・・・・!」

それは神か、それともこの世界の流儀ならば世界樹への祈りだったのか。震える手から灯る光は、絶える気配を見せない。
小鳥の視線が不意に、尚も戦い続ける騎士達の方へと向かう。
深手を負っても、逃げ遅れた人を避難させる者、倒れた仲間を介抱する者、発動する術にその身を晒しながらも飛び込む者達がいた。

躊躇わずに誰かを守るなんて、人の空想か漫画の中にしかいないと思っていた人達が、目の前にいる。
 その『現実』が、凝り固まってへばりついて、自分ではどうしようもないと思い込んでいた筈の澱を静かに吹き飛ばす。
気づけば、小鳥の手は、無駄な長さを誇る自分のスカートへと伸びていた。
ビィィッ、と裂かれる布が立てる耳障りな音によるものか、少女の目線がハッとこちらを映した。
「とりあえず、これ以上血が出ると危険だわ。今はこの子を連れて移動しましょう」
付け焼き刃の応急処置に過ぎないが、裂かれた腹部分に強引に布を巻き付ける。無論、この程度じゃ気休めにも
ならないだろうけど、せめて場所を移動させないと、これ以上は子猫どころか少女の身も危険だった。
「で、でも・・・・・・!」
「その子がこれ以上、呪文に巻き込まれるようなことになったら、今度こそ死んじゃうかも知れない。それでもいいの?」
直截的にも程がある、ともすれば恫喝するような勢いだったかも知れない。しかし少女は、ハッと我に返ったよう蒼い瞳を見開いた後、
しばし逡巡する様子を見せてから静かに頷いた。
少女と子猫を慎重に抱え上げ、さっきまで身を潜めていた立て看板へ視線を移す。
路地裏にでも身を移すべきか?いや―――

その数瞬の迷いの後、彼女らの後方から最悪のタイミングで次なる災禍が襲って来た。


「どけぇ、女!」

思いもかけず近い距離から降り懸かってきた声に振り返った時、頭から爪の先まで凍り付いたようだった。決死の形相で追い立ててくる騎士達を
振り切ったのであろう魔術師の一人が、血のように赤いドロドロした光を杖の先に纏わせて、突進してきている。
標的は考えるまでもない―――逃走経路の延長線上にいる、自分達だ。
しかし、鋭く息を呑む少女の気配を悟った瞬間、ほぼ反射的に、抱き上げる腕に力がこもる。
絶対放さない。避けられなくて、倒れてしまっても、せめて意識のある内は。

122名無しさん@避難中:2011/10/07(金) 21:29:07 ID:NsodQsSE0
「―――疾風!」

勇ましくも清涼な声が大気に融け、風となったようだった。
わずかなブレや歪みもない、定められた道筋に沿っているかのように虚空を駆けるその軌道が閃くと同時に、
くぐもった呻き声が木霊する。
数秒前まで固めていた覚悟を思い切り霧散させ、小鳥は今の状況を冷静に反芻しようとした。
(―――あ、ありのまま今起こったことをryっていやいや!)
某奇妙な冒険ネタを引き合いに出すようなコミカルな状況ではないが、小鳥本人の心情としてはこんなものだった。
ただ、こっちに呪文を浴びせようとしていた人間の身体を、わずか数本の矢が「引っ張って」いった。
見事に袖口や裾―――体を掠めることなく、衣服のみを射抜いて、建物の壁へ画鋲みたいに人を縫い止めるという妙技を
目の当たりにして、小鳥と少女は揃って口を半開きにするより他ない。
 彼女らの困惑を余所にして、技を放った『射手』は、静かな足取りでこちらへ歩み寄ってくる。
「・・・・・・怪我はありませんか?」
木製の弓を携えた救いの主は、驚いたことにまだ年端も―――といっても十歳前後ほどの少年のようだった。
褐色の肌と相反する透明な水色をした長い髪を肩先辺りまで垂らしているその少年は、
年不相応な落ち着きと気品を空気に纏って歩み寄ってくる。
「発動する前に取り押さえられてたと思っていましたが……そこにいる猫は、まさか今ので?」
「あ、いいえ、この子のは―――呪文のせいには違いないんですけど、もっと前の―――」
……確実に年齢は下の筈の相手に、無意識に敬語を用いていることに疑問を持つ間もなく小鳥が対応している時。

「―――コラコラ」

闖入者は、少年だけに留まらなかった。やんわりと諌めるようなしわがれた声と共に、長い白髪を高い位置で括った、如何にも好々爺といった雰囲気の老人が、
しかし隙のない足取りで現れてくる。
「森の獲物ならいざ知らず、まだ人に向けていいと許可した覚えはないぞ。まあ、相手は相手かも知れんがな」
「・・・・・・すいません、先生。つい、先走って飛び出してしまいました」
穏やかな口調のまま、しかしキッパリと窘められ、少年が小さく頭を下げる。見れば老人もまた、肩には矢筒を、背中に弓を掲げている。
察するに、師弟関係にあるのだろうか。
「まあ、致命傷を負わせていないのは由としておくがの。―――別嬪さんの前でいいトコを見せたかったか?」
不意にニヤ、とした視線を小鳥に馳せる老人に対し、少年は眉根を寄せた真剣な表情で弓を下ろしながら、
「先生、不謹慎ですよ」

―――その言葉の後、見えざる第二撃を放った。


「家庭あるご夫人を前にして、そういった発言は失礼かと思います」


ブロークンハートという言葉の意味が、本来とは違う趣で嫌という程伝わってくるようだった。
自分の格好を、頭の中微かに残された冷静などこかが徹底検証している。とりあえず一目で家事手伝いとまでは知れる、踝まで伸びているスカート丈の地味なワンピースに、
腰周りには白いエプロン。実際の年より結構上に見られてしまう、髪を纏め上げたシニョンカバー。ついでに言うと、メイドとしての執念だったのか肘にはしっかりと買い物籠が
ぶら下がっていて、そして何より腕には小さい女の子。
 ―――ご夫人=自分。
16歳である。決してまだチョメチョメとかいう擬音を入れるような年齢ではなく、更に言うなら義務教育を終えたばかりの年齢である。
そうだそれより子猫が治療を受けられる状態にしないとああそういえば鍵のことだってあったっていうか落とし主(多分)はすぐ傍にいるし―――

「お、お姉さん、お姉さん……?」

先程呪文の嵐の只中にあっても歪まなかった女の子の顔が、泣きそうな顔でこっちを見ている。何とか笑顔で答えようとするも、悪気のない矢を心にぶっ放された
今の小鳥は、それに気づける余裕がなく。

「……?先生、彼女はどうしたんでしょう」
「……わしゃー知らんぞ、この節穴が。乙女心をズタズタにしよってからに」


―――その後、少女の必死な呼びかけの末、小鳥が意識を取り戻すのはもうしばらく先のことだった。

123名無しさん@避難中:2011/10/07(金) 21:36:59 ID:NsodQsSE0
(あとがき)
規制に巻き込まれて、代行スレにお願いしました。投稿直後での出来事だったので、
微妙に凹んでおります(orz)
結構な長編を予定している上にアイドル達登場までは時間が掛かりそうですが、
一人でもこの拙作を楽しんで下さる方がいれば幸いです。

124名無しさん@避難中:2011/10/07(金) 21:42:17 ID:NsodQsSE0
↑以上です。
後すいません、名前欄がタイトルだというのをうっかり失念していたので、
【名前欄】TOWもどきim@s異聞〜序章〜
とつけておいて貰えると助かります。

時間のある親切な方はよろしくお願いします。

125名無しさん@避難中:2011/10/07(金) 21:48:21 ID:pjfrmplw0
いってきます

126名無しさん@避難中:2011/10/07(金) 21:55:41 ID:pjfrmplw0
いってきました

127名無しさん@避難中:2011/10/08(土) 09:03:54 ID:J2KLeQ7M0
↑作者です、こんなに早く対応して下さるとは思いませんでした、ありがとうございます。
これから板を見に行ってみます。

128名無しさん@避難中:2011/12/29(木) 01:48:33 ID:nLAW0tYwC
age

129名無しさん@避難中:2012/01/20(金) 23:19:26 ID:DsdEY6SY0
【依頼に関してのコメントなど】また規制……レス代行お願いします
【スレ名】動画創作関連総合スレ
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1298783451/
【名前欄】なし
【メール欄】なし
【本文】↓

創発の野望 第三十七話 後編 投下です
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16745107
やっと完成……遅れて申し訳ありません。
今年はうp速度アップしたいなあ。(願望)

130名無しさん@避難中:2012/01/20(金) 23:40:24 ID:ZvMM4lno0
いってくりゅ

131名無しさん@避難中:2012/01/20(金) 23:41:15 ID:ZvMM4lno0
いってきた

132名無しさん@避難中:2012/01/20(金) 23:46:03 ID:DsdEY6SY0
ありがとうございます。助かりました!

133名無しさん@避難中:2012/01/28(土) 04:14:26 ID:6esTN.7s0
【依頼に関してのコメントなど】規制されてしまいました。レス代行お願いします
【スレ名】記憶喪失のロリババァが安価で冒険
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1326866701/
【名前欄】1レス目だけ↓
規制されたのでレス代行お願いしました。感謝
【メール欄】
【本文】↓三レスあります

134規制されたのでレス代行お願いしました。感謝:2012/01/28(土) 04:16:01 ID:6esTN.7s0
意識が戻ったのは、暗闇の中であった。

「いつっ!」

体を起こそうとすると鈍い痛みが走った。床を触ると冷たい石の感触。ここで寝ていれば痛くもなろう。

「起きたか」

ろうそくを持った男が近づいて来る。中世風の鎧を着ていて、動きづらそうにガシャガシャ歩くのが可笑しかった。

「ここは……牢屋?どうしてこんなところに……」
「どうしてってお前、密航しておいてよく言えるな。普通なら外に放り出されても仕方なかったんだぞ」
「密航ですって」

これには少女も目を丸くする。

「密航……ということは、ここは船か何かなの?」

男があからさまに怪訝な顔をする。

「自分がどこに乗り込んだのかも分かってないのか。
ここは大型星間航行戦艦兼漁船“千塵丸(ちぢりまる)”だ」

早口で三回も言えなそうな名前である。それより、

「ひとつ気になる単語があるわね。星間、って、まさか……」
「?そのままの意味だが。アルネメ〜パスパゥ間を繋ぐ、二万三千光年コースだ」

意味の分からない単語もあるが、文脈から推察するに、

「つまり、ここは宇宙ってこと?」

135創る名無しに見る名無し:2012/01/28(土) 04:17:55 ID:6esTN.7s0
アルネメ、パスパゥとは惑星の名前らしい。この船はその二万三千光年間を約30日かけて“ゆっくりと”航行する船なのだとか。

「元々は里星の近海でマグロを獲っていた小さな船だったんだが、今はこんな大所帯になっちまった」

そう語る目は、懐かしいものを思い返しているようだった。

「それにしてもお前、どうやって23日もバレずに過ごしてこれたんだ?それとも考えづらいが、3日前の補給の時に乗り込んだのか」
「私は確か通路に倒れていたって話だったわね。だったらここへ着いたのは、おそらくその時よ。転移装置のようなもので飛ばされたから」

それを聞いて男は驚いたような、呆れたような顔をする。

「な。ワープしてきたっていうのか」
「星間航行するくらいの技術があるなら、ワープも出来ないの?」
「出来る。この船も半分ワープしながら動いているようなものだ。
だが高速で移動する船の中に、ピンポイントで到達出来るような技術はないし、あってもそんな危険な賭けに出る奴はいないだろう」

男は「理解しがたい」とかぶりを振る。

「だから、んん。もしそれが本当だったとしても、尋問の時に話したところで信じてもらえんぞ」
「あら、これは尋問ではなかったのね」
「こんな緩い尋問があるか。大体俺は看守じゃねえよ」
「へ?」

その立派な鎧は別に罪人を見張るためのものではなかったのか。

と、その時扉の開く音がする。

「おっと、本物の看守が戻ってきたようだぜ。じゃあな」

言うなり男はろうそくを消し、“音もなく”部屋の隅の闇に姿を消した。

(隠し通路でもあるのかしら)

男のことも気になるが、それよりも今は自分の身のことを考えなければ。


与えられた選択肢は思ったよりは多い。このまま狸寝入りをして考える時間を稼ぐか、無垢な少女を演じて同情をさそうか、自分の無罪を主張して正々堂々尋問に挑むか。
幸い、というか何故かポケットの三発弾が入った拳銃は没収されておらず、特に身体を拘束もされていない。

考えている間にほら、もう足音が近づいてきた――


>>35少女の取る行動

136名無しさん@避難中:2012/01/28(土) 04:18:46 ID:6esTN.7s0
以上です。
2レスで収まりました。お願いします

137名無しさん@避難中:2012/01/28(土) 04:26:57 ID:8OxjNcn60
ほいほい

138名無しさん@避難中:2012/01/28(土) 04:28:31 ID:8OxjNcn60
おっけーい

139名無しさん@避難中:2012/01/28(土) 04:46:16 ID:6esTN.7s0
ありがとうございます!

140名無しさん@避難中:2012/01/30(月) 12:48:39 ID:xd.vAr160
【依頼に関してのコメントなど】再びお世話になります。今回は規制喰らった訳ではないのですが、投下してる途中で突然
創発板そのものにアクセス出来なくなりました。お時間ある方はよろしくお願いします。
【スレ名】THE IDOLM@STER アイドルマスター part7
【名前欄】TOWもどきim@s異聞〜第一章〜春香編 25
【メール欄】sage
【本文】↓


「―――おい新入り!そろそろ休憩入るぞ、しっかり身体休めとけ」
「―――はい、ではお先に」

―――参った。いや非常に。
フロランタン村の入り口すぐ近く。都からやって来た祭の設営支援スタッフとして入り込んでいた青年は、
その悪意があるとしか思えない偶然に珍しく渋面を作っていた。頭に被った日除け用タオルは顔半分を覆い、
土埃にまみれたタンクトップに
「よりにもよって、こんな時にねぇ」
この世界で会えるなんて予想はしていなかったが、出来ればこんな形でまみえたくはなかった。出会うならもっと、街角でバッタリとか
平和的かつロマンスのある形が良かったのだが、これではどう足掻いても物騒なことになりそうだ。
「・・・・・・ごめんなさい、こういう時どんな顔すればいいのかわからないの」
「ちょっ、それ遠回しに『笑ってもいいか』って訊いてるの!?いや、ホントにアイドルなんだよ!?」
理由はわからないが、噛み砕いてアイドルという職業に就いていること、そしてアイドルの委細について
説明を聞いた僧侶の少女に、そんなにべもない言葉でバッサリ一蹴され、涙目になっている知り合いがいた。
そりゃ最近では半ばバラドルみたいな扱いされてるけど、あそこまで言われる程だろうか―――とちょっと気の毒になる。

「まあ、ここにはアイドルの概念自体ないも同然だけどね。
……仲がいいのは結構だけど、こうなるとやり辛くなっちゃうなぁ」
「・・・・・・おい、何ブツブツ言ってるんだよ」
ポーズではなく本心からの苦笑いでひとりごちていると、やがて同じように潜伏していた同僚がやって来た。
それが同じ事情を抱える仲間であったことに軽く口の端を上げると、
「いやー・・・・・・目標を見つけたはいいんだけど、こういう時に会いたくない子が一緒でね」
「はぁ?おい、何いっ・・・・・・―――!?」
顎で促したその先にいた存在に気づいて、彼の言葉が一端途切れる。
筆舌に尽くしがたい驚愕が、振り向きもしないのに伝わってくるようだった。
流石に声は控えているが、こちらへ近寄って動揺のあまり襟首を引っ掴んで乱暴に引き寄せると、
「―――な、何であいつが!?おい、まさかアイツもギルドのメンバーだっていうんじゃ」
「いや、幸いなことにただの顧客らしいし、僕らが『引っ張る』理由はないよ。・・・・・・ただ、ちょっと彼女の場合
ややこしいことになってるみたいだけど」
コッソリと聞いていた経緯をザッと説明すると、案の定予想していた通りの渋面を作る。
「盗み聞きかよ、あんまいい趣味じゃねえな。・・・・・・要するに何だ?アイツ、こっちでの記憶だけ抜け落ちてる状態なのか?」
「まあそういうことになるかな。・・・・・・けど、彼らも報告で聞いていたよりもいい子達みたいだね。荒唐無稽だってわかってる筈なのに、
何だかんだで受け入れてくれてるみたいだ」
―――参った。重ねて言うが、本当に。
多分、それは彼も―――冬馬も同じことだろう。
商売敵同士彼女とは取り立てて親しい間柄という訳ではない。
向こう側において、一見平凡でありながら舞台の上では一番の強敵であると看做している存在だった。
歌うことの楽しみや喜びを、誰かと分かちあうことを何よりも尊ぶ、まだ荒削りな原石ではあるがアイドルという言葉を体現したような少女。
 これで彼女にここでの記憶が―――この不穏な世界で一個の生命として根を下ろした彼女であれば、まだ躊躇いはなかったかも知れない。
だが、目の前にいるのは『765プロ』の天海春香だ。誰かの血を流すような悪意や脅威とは、無縁の場所にいる、『向こう側』の。
「・・・・・・夕刻までには確保するようにって言われてるけど、出来れば彼女から離れるのを待つ方向でいかないか?」
「―――努力はするさ。まあ、俺とお前でかかりゃどうにか出来るだろ」

141名無しさん@避難中:2012/01/30(月) 12:52:52 ID:xd.vAr160
↑本文修正


「―――おい新入り!そろそろ休憩入るぞ、しっかり身体休めとけ」
「―――はい、ではお先に」

―――参った。いや非常に。
フロランタン村の入り口すぐ近く。都からやって来た祭の設営支援スタッフとして入り込んでいた青年は、
その悪意があるとしか思えない偶然に珍しく渋面を作っていた。頭に被った日除け用タオルは顔半分を覆い、
土埃にまみれたタンクトップに迷彩柄のツナギなんて野暮なスタイルを見たら、
この世界にはいない自分の天使(大真面目)達はどう思うだろうか。
「よりにもよって、こんな時にねぇ」
この世界で会えるなんて予想はしていなかったが、出来ればこんな形でまみえたくはなかった。出会うならもっと、街角でバッタリとか
平和的かつロマンスのある形が良かったのだが、これではどう足掻いても物騒なことになりそうだ。
「・・・・・・ごめんなさい、こういう時どんな顔すればいいのかわからないの」
「ちょっ、それ遠回しに『笑ってもいいか』って訊いてるの!?いや、ホントにアイドルなんだよ!?」
理由はわからないが、噛み砕いてアイドルという職業に就いていること、そしてアイドルの委細について
説明を聞いた僧侶の少女に、そんなにべもない言葉でバッサリ一蹴され、涙目になっている知り合いがいた。
そりゃ最近では半ばバラドルみたいな扱いされてるけど、あそこまで言われる程だろうか―――とちょっと気の毒になる。

「まあ、ここにはアイドルの概念自体ないも同然だけどね。
……仲がいいのは結構だけど、こうなるとやり辛くなっちゃうなぁ」
「・・・・・・おい、何ブツブツ言ってるんだよ」
ポーズではなく本心からの苦笑いでひとりごちていると、やがて同じように潜伏していた同僚がやって来た。
それが同じ事情を抱える仲間であったことに軽く口の端を上げると、
「いやー・・・・・・目標を見つけたはいいんだけど、こういう時に会いたくない子が一緒でね」
「はぁ?おい、何いっ・・・・・・―――!?」
顎で促したその先にいた存在に気づいて、彼の言葉が一端途切れる。
筆舌に尽くしがたい驚愕が、振り向きもしないのに伝わってくるようだった。
流石に声は控えているが、こちらへ近寄って動揺のあまり襟首を引っ掴んで乱暴に引き寄せると、
「―――な、何であいつが!?おい、まさかアイツもギルドのメンバーだっていうんじゃ」
「いや、幸いなことにただの顧客らしいし、僕らが『引っ張る』理由はないよ。・・・・・・ただ、ちょっと彼女の場合
ややこしいことになってるみたいだけど」
コッソリと聞いていた経緯をザッと説明すると、案の定予想していた通りの渋面を作る。
「盗み聞きかよ、あんまいい趣味じゃねえな。・・・・・・要するに何だ?アイツ、こっちでの記憶だけ抜け落ちてる状態なのか?」
「まあそういうことになるかな。・・・・・・けど、彼らも報告で聞いていたよりもいい子達みたいだね。荒唐無稽だってわかってる筈なのに、
何だかんだで受け入れてくれてるみたいだ」
―――参った。重ねて言うが、本当に。
多分、それは彼も―――冬馬も同じことだろう。
商売敵同士彼女とは取り立てて親しい間柄という訳ではない。
向こう側において、一見平凡でありながら舞台の上では一番の強敵であると看做している存在だった。
歌うことの楽しみや喜びを、誰かと分かちあうことを何よりも尊ぶ、まだ荒削りな原石ではあるがアイドルという言葉を体現したような少女。
 これで彼女にここでの記憶が―――この不穏な世界で一個の生命として根を下ろした彼女であれば、まだ躊躇いはなかったかも知れない。
だが、目の前にいるのは『765プロ』の天海春香だ。誰かの血を流すような悪意や脅威とは、無縁の場所にいる、『向こう側』の。
「・・・・・・夕刻までには確保するようにって言われてるけど、出来れば彼女から離れるのを待つ方向でいかないか?」
「―――努力はするさ。まあ、俺とお前でかかりゃどうにか出来るだろ」

142TOWもどきim@s異聞〜第一章〜春香編 26:2012/01/30(月) 12:55:14 ID:xd.vAr160
嫌な方向に強くなったものだな、と。冬馬の横顔を見ているとそう思う。いばる上司に顎でこき使われる縦社会も同然の騎士の世界よりも、
丁度目の前の『確保対象』のような―――何にも縛られぬ立場で信念の為剣を振るえていれば、よっぽど『らしかった』気がするが、
貧乏籤を引きやすいのだろうか。
同時に、大袈裟な身振り手振りで何とか説明している『彼女』に視線を馳せる。
こっちとあっちが溶け合った時の混乱具合は、自分も冬馬も身をもって思い知っている。それが彼女の場合、向こう側での意識しかない状態で
この世界に放り出されたも同然の状態では、立ち振る舞い方もままならないだろうに。
―――そんな状態で出来た友人を、いきなり取り上げるようで申し訳ないが。

「―――これが、こっちでの俺達の仕事なんだよね。ごめんね、春香ちゃん」

ギルド『モンデンキント』メンバーの、無力化及び確保。
祭の前準備という賑やかな空気とは似つかわしくないそんな任務を負った伊集院北斗は、
どうか彼女に見つからないことを切に願いつつ―――

服の下に隠した得物に手を伸ばしていた。

143名無しさん@避難中:2012/01/30(月) 13:01:27 ID:xd.vAr160
投下終了。
先日(一ヶ月以上前になりますが)は、別所での投下云々について様々な方から
貴重かつ真摯なご意見を頂けたこと、誠に感謝しております。
ひとまずはテイルズファンもいつか訪れてくれるかなという淡い期待を胸に秘めて
投下はこっちに限定してみようかと思いますが、その内警告されているにも関わらず
魔が差してしまうかも知れません…。
今回出てきた3人はテイルズシリーズでも個人的にコアな気がしたので軽く紹介しておきます。

ロア・ナシオン……レディアントマイソロジー2(以下RM2)の主人公。記憶喪失でぶっちゃけて言うとディセンダーだが、今作品でどう転ぶか不明。天然にして万能イエスマン。
カノンノ・イアハート……RM2のヒロイン。別称『夏カノンノ』。またを添え物ヒロイン。
ロッタ……RMシリーズのNPC傭兵キャラの僧侶。尾張行先生のコミカライズ版RM2の番外編では結構活躍するツンデレ少女。自称姫。

144名無しさん@避難中:2012/01/30(月) 13:15:31 ID:d9ZQDswA0
あー、今2ちゃんそのものが落ちてるから、誰も行けないんだw
復活したらたぶん自分で行けると思うので、しばらく待ってみては?

145名無しさん@避難中:2012/03/18(日) 01:34:11 ID:DOv5DBxE0
【依頼に関してのコメントなど】規制中だったのでお願いします
【スレ名】ネギまバトルロワイヤル31 〜NBR ⅩⅩⅩⅠ〜
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1281248719/
【名前欄】ラジオの影響で流れ無視
【メール欄】なし
【本文】↓4レスくらいです

146名無しさん@避難中:2012/03/18(日) 01:34:36 ID:DOv5DBxE0
自分で言うのも何だが私は頭がいい方だ。
勉強は勿論だが頭の回転、状況判断等そちらの頭もいいと思っている。
そんな私が今の状況を推察する。

正解は死

化物揃いのクラスメイトの中でちょっと優秀なだけの人間が生き残るのは不可能だ。
上手く立ち回ればそれなりに生き残ることはできるが、いずれにせよ結局は地力が違う。

つまり詰みである。

無駄な事はしない。ならば最後に出来ること、私にしか出来ない事は何か?

私はデイバッグとは違う、自分の鞄に手を差し込んだ。
取り出したのはデジカメと幾つものメモリースティック。

それだけを手にして民家を出た。


最初に見つけたのは大河内アキラだった。彼女は仰向けで全身穴だらけだった。
何十枚も写真を撮り、彼女のクラスでの雰囲気を話しながら動画で撮影した。

次は釘宮円と柿崎美沙だった。二人は寄り添うように下腹部から血を流していた。
アキラと同じように写真と動画に納めた。

147名無しさん@避難中:2012/03/18(日) 01:35:05 ID:DOv5DBxE0
途中で長谷川千雨に出会った。彼女は私に銃口を向けてきた。私は構わずカメラを回す。
彼女はもう3人殺したようだ。レンズ越しで見る彼女の瞳はとても悲しそうでとても3人も殺してるようには思えない。
狂った人間を装っているが本当は違うのは分かった。

――きっと誰よりもこのクラスが好きだった。

そんな印象を受けた。
結局彼女は私を殺さず何処かに去ってしまった。

その後も何人もの死体を撮影していった。普段なら嘔吐して精神がおかしくなってしまう光景。
しかしレンズ越しで見ているせいか全くそんな気分にならない。
もしかしたら既におかしくなっているのかもしれない。


銃声が聞こえた。

長瀬楓が戦っている。相手は見えないが会話から察するに龍宮真名だ。
リアルな戦闘を余すことなく撮影する。
何時間にも感じるが撮影時間を見ると数分も経っていない。
楓の膝が折れた。その瞬間楓の頭が弾け飛んだ。
龍宮が現れ死体を確認している。彼女を傷だらけで立っているのも辛そうだ。

確認が終わるとこちらに発泡をしてきた。左肩を撃たれたがカメラだけは守った。
死を覚悟した時、私と龍宮の間に煙が上がった。と同時に私は誰かに担がれた。

私を助けてくれたのは春日美空だった。廃工場に着くと彼女は止血を始めた。
その様子も勿論撮影する。「撮ってる場合か!」と叱られたが「コレが仕事だから」と答えるとそれ以降何も言わなくなった。

148名無しさん@避難中:2012/03/18(日) 01:35:44 ID:DOv5DBxE0

「これで大丈夫」

彼女は笑顔で包帯をしまう。しかし私は知っている。その笑顔は嘘だと。
恐らく私は長くはない。自分の身体は自分が一番知っている。
彼女に問い正した。躊躇ったが悲しそうな顔で答えた。

「弾丸に魔法が細工されている。普通の人間だと1時間もあれば……」

それを知って私はカメラを自分に向けた。


えーどうも、撮影者の朝倉和美です。えー、動画はこれまでとなります。
これが今麻帆良学園中等部3-Aで行われている『バトルロワイヤル』です。
動画にはショッキングな映像が沢山ありましたが全て本物です。
私は今話しにあったようにこれから死んでしまいますが、ここに映像を残した事で私の意志は生き続けると思います。
このような悲劇を繰り返さない、そんな私の意志をどうかしってくれたらと撮影をしました。
この動画が世界中に拡散されることを祈って。

149名無しさん@避難中:2012/03/18(日) 01:36:01 ID:DOv5DBxE0
私は録画の停止ボタンを押した。
今までの記録データを全て美空に渡した。
必ずこれを持ち帰って欲しいと。全世界で公開してほしいと。
受け取った彼女はとても辛そうだった。

「最期に会ったのが美空でよかったよ。逃げ足だけは速いからね」

「だけって……何だよ。私が死んだらどうすんだよ……」

「私の直感だと美空は生き残りそうなんだけど、無理ならペットボトルにでも入れて海に流してよ」

「勝手ッスね……まあ死なないようにするよ。どんなに無様でも朝倉の分まで生き延びてやるよ」

「ありがと。それじゃ……おやすみ」

「ああ……おやすみ」

十字を切り祈りの言葉を呟くと、満足気な顔をした朝倉を写真に収めた。

150名無しさん@避難中:2012/03/18(日) 01:37:40 ID:DOv5DBxE0
以上です。よろしくお願いします

151名無しさん@避難中:2012/03/18(日) 01:43:46 ID:l3KjogK20
完了です

152名無しさん@避難中:2012/03/18(日) 01:45:00 ID:DOv5DBxE0
ありがとうございます

153名無しさん@避難中:2012/03/19(月) 23:39:22 ID:0wAgjufg0
 お願いします!

【スレ名】【駄洒落で】ダジャレー夫人の恋人2【創作】
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1293809844/l50
【名前欄】
【メール欄】sage
【本文】下記1レスお願いします。

154名無しさん@避難中:2012/03/19(月) 23:39:59 ID:0wAgjufg0

 今年も男のもとに長崎に住む高校時代の友人からカラスミが送られてきた。

 たがいに地元を離れ、それぞれの場所で暮らしている。
二十代の頃は連絡を取り合い、年に一二度帰省するたびに酒を酌み交わしていたが、
共に転勤を繰り返し、気がつけば北と南、気軽に遊びに行けるとは言えない距離に
まで離れてしまった間柄である。
 
 長崎ってなに有名なんだ? カステラとかカラスミとかハウステンボスじゃね?
 じゃあカラスミな。 ああ、後で送るわ。

 三年前、転勤になる際に携帯電話越しに交わした言葉がきっかけだった。
 珍味、何かの魚の卵を干したようなもの。
確かに食べたことはない。が、かといってカラスミを食べたいと強く願っているわけでもなく、
ありきたりな成り行き話で終わるはずだった。
 だが忘れた頃に突然友人から送られてきたカラスミに男は愕然とする。
珍味という認識は確かにあったが、それでも男は単に高級なたらこや辛し明太子の類似品と思っていた。
しかし大袈裟な木箱の中に鎮座する一はらの真空パックに、男の持つカラスミに対する価値観は
木っ端微塵に打ち砕かれる。
 早々友人宛てに無難な贈答用のビール詰め合わせと今住んでいる地域では割と有名な
日本酒を送り、その夜久しぶりに連絡を入れた――

 三度目なればカラスミの食し方もパターン化されてくる。
初めて口にしたときは日本酒を飲みながらだったが、ちょっとくせのあるチーズを思わせる濃厚さは
日本酒よりワインに合うのではと、二年目からは辛口の白ワインがテーブルに並ぶようになった。
 ご飯の上に乗るたらこほどの大きさで切り、ガスコンロで軽く炙ってちまちまとかじりながら
缶ビール二本を飲む。その後はコンロの上で温めたバターにおろしたカラスミを混ぜ、トーストした
フランスパンに塗りながら白ワインを飲む。付け合せは三杯酢をかけただけのレタスとハムのサラダ。
さらにはお気に入りのCDと雑誌、古本屋で100円で手に入る読みきりの漫画数冊が肴になる。
 カラスミ以外さほど高価なものはない。男にとっては贅沢品だが白ワインも一本980円の国産品だ。
しかしカラスミの存在が、午後に戯れる貴族にでもなったかの様に男を優雅な気持ちにしてくれる。
そして待ちに待った休日の今日がその日だった。

 新品のガスボンベと魚焼き網がセットされたカセットコンロ。切り分けられたフランスパンとカラスミ。
氷を張られた底の浅いボウルに佇む銀色の缶ビール二本とフルボトルの白ワイン。締めの一杯のための
お茶漬けの素と冷や飯。絶好調になった場合の予備のアルコールとスナック菓子。準備は万端である。
 取っ手の付いた二重底になっているタイプで食材にガス臭さが移ることはないが、なにかの儀式の
ように男は念入りに焼き網の位置と火加減を確認する。そして大ぶりに切られたべっ甲色のカラスミを
網の上に乗せ、焼き過ぎないように何度も何度も焼き目をひっくり返す。
 頃合を見て缶ビールを開ける。そして網の上のカラスミを直接手で取る。
熱と一緒になんとも言えぬむせ返るような、ある種の淫靡ささえ感じさせる匂いが漂う。大きく喉が鳴る。
しかし自ら罰を与えるように、手にしたカラスミをわざと鼻の前でとどめ、男はその余韻に浸る。
つばを何度も飲み込む。そしていよいよその時が来る。

 手にしたカラスミを舌先でなぶる。
皮と切り口の肉感の違いを、老獪な策士のような笑みを浮かべ楽しむ。口の中はすでに唾液であふれ
かえっている。そして缶ビールを左手に、満を持して男は力強くカラスミを噛み込んだ。

「!!!――っ」

 癖のあるチーズに似た、濃厚で芳醇な旨みが口いっぱいに広がるはずだった。
しかし男の口に響き渡ったのは、よもや頭蓋をも震わせる何かを砕く後味の悪い音だった。
 反射的にカラスミを吐き出し、舌先で歯を確認する。
折れたり欠けたりしたところはない。とりあえず胸を撫で下ろす。そして男は噛み切られたカラスミの断面を見る。

 至福の時から急転直下、ありえない現実に男は呆然とつぶやいた。

「カラスミから……炭?」

155名無しさん@避難中:2012/03/19(月) 23:40:36 ID:0wAgjufg0
以上よろしくお願いします。

156名無しさん@避難中:2012/03/19(月) 23:41:55 ID:2k8mZxEo0
完了です

157名無しさん@避難中:2012/03/19(月) 23:54:24 ID:0wAgjufg0
確認しました。あり!

ただ、なぜか――が??になってた。大して影響はないがw

158名無しさん@避難中:2012/03/19(月) 23:55:50 ID:2k8mZxEo0
ありゃ?本当だ。
すいません

159 ◆BVLuHix1X.:2012/04/09(月) 02:02:52 ID:JnWRG32k0

お願いします。
【スレ名】創作大会しようぜ! 景品も出るよ
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1284467791/645n-
【名前欄】#千野
【メール欄】sage
【本文】下記1レス

160 ◆BVLuHix1X.:2012/04/09(月) 02:05:30 ID:JnWRG32k0
あ、メル欄はageでお願いします

 春の朧を照らす宵月。
 堅く冷たいアルミサッシの部分に肘を載せ、開け放した窓から侵入する夜気を浴びながら、色と言うのは空気に映っているのだと、今、気付いた。
 遠い夜の黒。あるいは、深い藍色も。照らされた雲の白い造型も。
 眼前に広がる雲のような桜でさえも、その空気の色を纏い、湿った風に滲むように揺れる姿を投影する。
 研究棟から見上げる僕の網膜に映る夜景は、そんな色をしていた。
 月のライトが、手に届きそうな位置に咲く桃色の花束を白く咲かしているのが目に入る。
 そして、もう一つ。
 吹き散る桜の中に、黒い人影が。
「時に少年。少し、いいか?」
 死ぬほど驚いた。
 桜の木の上に、女性が登っていたのだ。
 時が止まったような、刹那の間。突然の一陣の夜風が彼女の長い黒髪と、彼女を包む桜の花の枝先を揺らし、僕の心を巡っていった。
 その湖の深淵のような、僕を見つめる深い色の瞳に覗き込まれ、吐く息を呑んだ。
 息が止まりそうな程、美しい人だった。
 夜だというのに長い睫毛が見える程の至近距離。桜の花びらのような赤い口唇から、緩やかな息遣いが聞こえてくる。
「研究棟の鍵を忘れてしまってね。すまないが、そこから入れてもらえないだろうか」
「あ……は、はい」
 窓際に寄りかかる体を退かすと、彼女は黒猫のように枝から外壁のとっかかりに足をかけた後、窓枠を優雅に飛び越えた。
「や、どうもありがとう」
 彼女が廊下に降り立った際、彼女の体に引っ付いていた桜の花びらがひらひらと舞い落ちた。
 そして気付く。
「あの。頭に花びらが」
「ん。そうか。とってくれ、少年」
 そう言って、僕に謝るように頭を垂れた。
 そっと、壊れものに触れるように、美しい黒髪の頭部に手を伸ばす。
「ありがとな」
 彼女が笑うだけで、僕の心は締め付けられた。
 暗い廊下。
 月明かりに照らされた桜の花びらが舞う景色を背に、笑う彼女の姿が浮かび上がる。
 それはまるで夢のようでーー


 ガクンと肘が落ち、夢から醒める。
 よだれを見られてはいないかと、研究室を見回すと、どうやら自分たけが残っていた様子で、その心配はなかった。
 時計は既に十二時を過ぎていた。
 先輩が卒業してから、二週間。
 嵐のような人だった。
 卒業式の日まで白衣を振り回し騒ぐから、別れを惜しむ暇がなかった。
「はは……」
『何が可笑しいんだ?少年』
 声が聞こえた気がして、顔を上げるが、伽藍とした研究室が広がるだけだった。
 失ってから、彼女はもう居ないのだと、初めて気付いた。
「……うぐっ……」
 みっともないな、とは思っても、流れる涙を止めることはできない。
 机に突っ伏したまま、僕は泣いた。


「何やってるんだ、僕は……」
 赤く腫れた目を冷ます為、しばらく外を歩いていたら、研究棟の鍵を研究室に置きっぱなしにして出てきてしまったらしい。
 仕方ないから、昔の先輩みたいに桜の木に登って入ろうとしたら、二階の窓が開いておらず、現在絶賛立ち往生中だ。
 桜の花は満開で、あの日と同じように満月が藍色の空に登っていて、僕を照らしていた。
 いずれ桜は散り、月は沈む。
 いずれは僕も同じようにこの場所を去り、彼女の事を忘れてしまうのだろうか。
 月に照らされた雲のように広がる桜も。
 その花弁の一片一片さえも。
 それらを背景にしても尚美しい黒髪の女性を。
「絶対に忘れない。忘れるはずがない」
「時に少年。君は面白いと前から思っていたが、月を見上げて独り言とはロマンチストなのかな?」
 体を跳ね起き、危うく落ちかけながら
 よっと、敬礼の仕草で彼女が窓を広げて僕の目の前に立っていた。
「忘れ物があったので戻ってきたが、君が寝ていたので、起きるまでそこでコーヒーを飲みながら桜を鑑賞していたのだよ。安心しろ。君の寝顔は既に私の携帯のメモリーの中だ」
「先輩。これは夢……ですか?」
「夢か。君がそう思うのなら、夢かもしれないな」
 ところで夢というのは云々と彼女が説明し始めたのを遮って、尋ねた。
「夢なら、何しても許されますよね」
「夢の中で犯した犯罪を裁く法律は聞いた事はないな」
 ハハハ。思わず笑ってしまう。
 夢の中の彼女は、間違いなく先輩で、だから僕は目の前の女性に全てを懺悔しようと決めた。
「僕、先輩の事が好きです。ずっと好きでした」
 先輩が缶コーヒーをカランと落とし、みるみるうちに顔が桜色に染まっていくのを確認してから、自分の頬を抓ってみた。

 死ぬほど痛かった。

161 ◆BVLuHix1X.:2012/04/09(月) 02:06:12 ID:JnWRG32k0
コミカルを意識して書きました。

162名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 02:38:44 ID:hZrL8W3Y0
行ってくる

163名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 02:42:03 ID:hZrL8W3Y0
ごめん改行が多すぎるみたいなんで
どこか分割していいかしら

164名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 02:52:41 ID:JnWRG32k0
はい
最後以外の隙間でお願いします!

165名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 02:58:10 ID:JnWRG32k0
ありがとうございましたー!

166名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 03:01:07 ID:hZrL8W3Y0
行ってきました。

…が、名前欄のトリップを打ち込むと上記レスのとは違うようなんですが
大丈夫だったでしょうか?

167名無しさん@避難中:2012/04/09(月) 03:25:39 ID:JnWRG32k0
大丈夫ですよー
重ね重ねですがありがとうございましたっ

168 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:23:21 ID:nGm6wZFQ0
【依頼に関してのコメントなど】
SSです。よろしくお願いします。
【スレ名】 【能力ものシェア】チェンジリング・デイ 避難所2【厨二】
【URL】 http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1308806660/
【名前欄】 【幻の能力者】 成世編 前編
【メール欄】 sage
【本文】 ↓次レスから

169【幻の能力者】成世編前編 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:26:19 ID:nGm6wZFQ0
【幻の能力者】 成世編 前編
─  Abilities are not Benefits ─


西暦2000年、2月21日。
あの日地球に降り注いだ隕石によって、私たちは不思議な力を授かった。

物理法則を超越した様々な特殊能力を、私たちはひとりにふたつ、使うことができる。
ひとつは夜明けから日没までの昼に使うことができる能力、
もうひとつは日没から夜明けまでの夜に使うことができる能力だ。

能力の内容も覚醒時期も人によってまちまちだけれど、
人間なら誰でも潜在的に超能力──“EXA(エグザ)”──を持っているという。

でも、新しい力は必ずしも幸福をもたらしてくれるとは限らない。
中には“能力”によって人生をどうしようもなく狂わされた者もいる──


-主人公
>成世美歩 (なるせ みほ)
>
>S大学に通う“普通の”女子大生。
>ただ1つ、普通の女子大生が違う所があるとすれば、
>それは……『自らが死んでしまう能力』に苦しみながら生活している事だろう。
────

170 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:27:45 ID:nGm6wZFQ0


胸が苦しい。

布団の中で、私は呻いた。

息が続かない。

全身の筋肉は、まるで金縛りにあったように動かない。

怖い、助けて。

胸の中で自分の肺が腐り落ちてゆく感触が分かる。




助けて、衛一君……




──遠くでケータイのアラームが鳴っている。

その音に導かれて、私の意識は現実へと引き戻されていった。

171 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:29:32 ID:nGm6wZFQ0
────
201X年、6月10日、朝。

「朝…?」

枕元に手を伸ばして、アラームを止める。

夢と現の狭間で、私の意識は少しずつ働き始めた。

夢の内容はまだはっきりと覚えていた。

私の“能力”が発現する夢。

「いつあなたの命を奪ってもおかしくない」と、医師に宣告された忌まわしい“能力”が。

それを止めるために、私は薬を飲み続けなければならない。多分、一生。

そうだ、今朝も飲まなければ……
小物入れから薬を取り出し、重たい足取りで洗面所へと向かう。

それにしても、どうして今さら、彼の名前が出てきたのだろう。
もう一年以上も会っていないのに……


洗面所へと向かう途中で、私はふと衛一(えいいち)の事を思い出す。
一年前から、彼との連絡は途絶えたままだった。何故かはわからない。
警察の捜索でも結局彼は見つからずじまいだった。

──警察の話では、“能力”がこの世に現れてから、こういう事件はよく起こるようになった、という事だった。

「諦めなさい」遠回しにそう言われたのだと私は理解したし。自分でも諦めたつもりだった。
でも、心の奥底ではずっと気になっていたのだろう。
だからこそ、何かの拍子に夢の中に現れた。──そう考えれるのが一番納得がいく。

ちょうど洗面所に辿りついたところで、私は今朝の夢について考えるのを止めた。

172 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:32:03 ID:nGm6wZFQ0

“      頓服薬
   ─ 能力鎮静剤 ─

  成世美歩(ナルセ ミホ) 様
6時間毎に2粒、または3時間毎に1粒
水と共に服用してください。         ”


薬の袋にはそう書かれていた。

この薬は普通の薬局では売っていない。
私の“能力”を抑えるために、特別に処方してもらったものだった。

中からカプセル状の薬を2粒取り出して、水とともに飲み込む。
カルキ臭い水道水と一緒に胃の中に錠剤が落ちていくのが分かった。


これで、10時半までは安心。
私はケータイを取り出して時間を確認した。

173 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:36:11 ID:nGm6wZFQ0

私の“能力”が明らかになったのは2年前のことだった。
海外旅行に行くためのパスポートを申請する際に、能力鑑定を受ける必要があったのだ。
窓口の下から出てきたレポート用紙を見たとき、私は愕然とする他なかった。


──昼の能力
体組織が壊死する能力。

──夜の能力
(未覚醒)


「どういう事? “能力”って──」

声を出さずにはいられなかった。
私の身の周りの人が持っている“能力”は、みんな当人にとって「いいこと」を起こしてくれる能力だった。
空を飛ぶ能力、ご飯を1秒で作る能力、嘘を見抜く能力……

それなのに、私の能力は……

壊死とは、細胞がに血が通わなくなって腐り落ちる事らしい。

これでは、先天性の病気と一緒だ。
すぐに精密検査を受ける事になったのは、言うまでもない。

さらに詳しい検査の結果、私が自分の能力で“死ぬ”確率は、概算で12時間に0.1%程度ということが分かった。
専門家によれば「12時間にたった0.1%の確率でも、毎日それが重なると、2年後に生きている確率は50%を切る」という。

174 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:36:40 ID:nGm6wZFQ0

能力研究の世界的権威である比留間(ひるま)博士が私の家を訪れてきたのは、検査の翌日の事だった。

「僕が開発中の新薬を飲めば、能力を抑える事が出来るかもしれない。ただし、効果のほどは保証できない」

比留間博士は私に、当時まだ開発中だった能力鎮静剤を試してみないかと提案してきた。
試す、と言えば聞こえはいいが、要は「実験台になってくれ」という意味である事は、高校生の私にも理解できた。

もちろん、私は提案を受け入れるよりも他に方法は無かった。
このまま何もしなかったら、2年以内に50%の確率で死んでしまうのだから。

「ありがとう。君の協力のお蔭で、薬の実用化も早まりそうだ。僕も君を救うために、全力を尽くそう」

比留間博士はそう言うと、契約書を私たちに書かせ、
自分の仕事に戻るために私たちの家を去っていった。

それ以来、私は日が昇る前に起きて、ずっとこの薬を飲み続けている。

博士の言った通り、初期の方の薬はかなり不安定だった。
気分が悪くて倒れた事もあったし、生理にも支障をきたすようだった。
言いかえれば、この二年間、私は薬の副作用と闘い続けてきた事になる。

比留間博士は時々私の様子を見に来て、そのついでに“能力”研究の最先端の話を少しずつ私と両親に教えてくれた。

『能力と魂』、『抑制薬の効かない能力』、『能力の進化と変化』、『世界への干渉』、『能力の遺伝性』、『Exミトコンドリア』…



…そして今、その比留間博士が客員教授を務めるS大学に、私は通っている。

175 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:39:37 ID:nGm6wZFQ0
午前10時。
私は授業を聞きながら、ノートを取っていた。私の友達は、隣の席で机に突っ伏して寝ている。
この授業を担当しているのは、鞍屋峰子(くらや みねこ)という助教授だ。

「量子力学的な視点では、何か新しい出来事が起こるたび、世界にほんの一瞬、“ブレ”が生じます。
こうしたブレを『量子揺らぎ』と呼びます。このブレの中には、その出来事に対して起こりうる、あらゆる結果が内包されています。
『シューレディンガーの猫』の話になぞらえて言えば、ブレのこっち側では猫は生きていて、あっち側では死んでいる、という事になります」

鞍屋先生は黒板に図を書きながら説明していた。印象的な銀色の髪の下で、緑色の目が時折ぱちぱちと瞬く。
幾何学的な“ブレ”の図とは対照的に、脇に描かれた“シュレーディンガーの猫”の絵がやけに可愛い。

「ブレの中の各状態は同時に存在していて、ミクロレベルで干渉し合っています。
通常、ブレはすぐに収束するため、1つの出来事に対しては1つの結果だけが残ります。
世界には沢山の出来事が絶えず起こっているので、宇宙内には無数の泡のようなブレが絶えず生成と消滅を繰り返しています」

彼女は20歳の時に量子力学の分野で大きな活躍をして、ノーベル物理学賞を受賞したらしい。
そして今、S大学で授業を受け持っている。

「通常、量子ゆらぎのスケールは非常に小さいので、私達の宇宙が歩む歴史は、全体として見ると1本の糸のように見えます。
そしてこの1本の糸を、私たちは唯一の世界、一つの歴史として認識しています。
ちょうど、紙の表面のデコボコを無視して、平面と見做すようなものです」

入門講座と言う事もあって、鞍屋先生は分かりやすく説明してくれているけれど、
20世紀のとある科学者の言葉によれば「量子力学は人間に理解できるモノではない」そうだ。
その最先端を研究している、彼女の頭の中身は一体どうなっているのだろう。

176 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:42:22 ID:nGm6wZFQ0

「と、ここまでは20世紀の科学で分かっていた範囲の事です、
ここからは、21世紀になってから新たに分かった事になりますが……」

良く通る声で解説を続けながら、鞍屋先生は黒板に新たな図を描き足した。

「ごく稀に、世界がブレたまま戻らず、ブレの範囲が宇宙全体に拡大してしまい、
宇宙が2本の歴史に分岐してしまうことがあります。
この分岐してしまった世界を、いわゆる『並行世界(パラレルワールド)』と呼びます。
資料によっては『世界線(ワールドライン)』と書かれている場合もありますが、あまり専門的な呼称ではありませんね。
また、この分岐点は、『ジョンバール分岐点(ジョンバールヒンジ)』と呼ばれます」

矢継ぎ早に繰り出される専門用語をノートに書き取り続けながら、私は思った。
彼女と私の歳の差は、10歳もない。私も数年後には、鞍屋助教授のようになれているだろうか。
それとも、あれが天才と凡人の差なのだろうか。

「『並行世界』になってしまった場合、もはや2つの世界同士が干渉することはありません。
私達は今、こうした『並行世界』のうちの、どこかの世界にいることになります。
もちろん、他の『並行世界』にも、別の私達がいる事になります……」

177 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:44:01 ID:nGm6wZFQ0

「むにゃ…」

と、私の横で寝ていた友達が起きた。

「ミホちゃん、ノート見せて……」

小さな声で囁く友達に、私は呆れ顔でルーズリーフの前のページを手渡す。

「さて、授業時間も終わりに近づいて来ましたので。今日はここまでにしましょう。
いつも通り、疑問点や感想を出席カードに書いて提出してくださいね」

原理はよく分からなかったけれど、並行世界のくだりはなんとなく理解できたと思う。
別の世界の私は、どんな風に暮らしているのだろうか。
能力が発現せずに安全に暮らしているかもしれない。それとも……

考えが悪い方向に行く前に、私は出席カードに書く文章を考え始めた。

隣の友達は「並行世界が分岐する事があるという話でしたが、逆に収束する事はありますか?」なんて書いている。
ずっと寝ていたのだから、私のノートを急いで読んで、適当に思いついたことを書いたに違いない。

私は、少し考えて、こんな事を書いた。
「並行世界があると21世紀になって新たに分かったということは、
並行世界の存在を知る方法が21世紀になって発見されたということでしょうか?」


普通、質問の答えが返ってくるのは、次の授業の初めだ。
しかし、この質問に対する答えは、私の予想よりもずっと早く返ってくる事となる。

178 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:46:40 ID:nGm6wZFQ0
授業の合間。
私は大学のトイレで薬の袋を開けていた。
薬は一度に二粒までしか飲めない。そして大学の授業は1コマ90分と長い。
下手をすれば、授業中に薬の効果が切れてしまう。
なので、私はうまく授業の合間を縫って薬を飲まなければならなかった。


──と、後ろからいきなりドンと押された。
袋から薬がこぼれ落ちる。

「んにゃっ!?」

どこかで、というよりついさっきも聞いたような声質。
振り向くと、鞍屋助教授がばつの悪そうな顔でこちらを向いていた。

駆け込んできた拍子に体がぶつかってしまったようだ。

「あ、先生」

「ごめんなさ……あ、成世さん、丁度良かった」

鞍屋先生は床に転がったカプセルを拾って私に手渡しながら言った。

「貴方に話したい事があったのだけれど、授業後すぐに教室を出ていかれちゃったから、追いかけられなかったわ」

「そうですか…すみません」

私はさりげなく、薬の袋を手で隠した。一般には流通していない薬なので、なるべく隠しておくように比留間博士から言われていた。
しかし、鞍屋助教授の目は私の動作よりも早く、書かれていた文字を読み取っていた。

「“能力鎮静剤”……ああ、比留間博士のアレね?」

「ご存じなのですか?」

「ええ、実は私もその薬、使っているのよ」

179 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:47:53 ID:nGm6wZFQ0

「先生も?」

私以外にこの薬を飲んでいる人がいたなんて知らなかった。
でも、考えてみれば、新薬の効果を一人だけで試す、というのは、科学者からしたらありえない話だ。
私以外に飲んでいる人がいても、全然おかしくはない。

「ええ、私の“夜の能力”は少し厄介で、自分の力ではコントロールできないから……」

「そうなのですか……あの、どんな“能力”なのですか?」

「『夜の間は猫になる能力』よ。貴方は?」

鞍屋先生がそんな“能力”を持っていた事も、私は知らなかった。
猫になるというのはどんな感覚なのだろう。

「私は……」

私は言うのをためらった。
私の“能力”を、いや、能力とすら呼べないそれを、他人に知られるのは、正直、嫌だった。
私の能力は、ごく親しい友人と両親、それに比留間博士だけしか知らない。

「話したくなければいいのよ。
それより、貴方の薬、汚れちゃったわね……私のと取り替えてあげましょう」

「いえ、そんな」

「いいの、今日は使わないから。たまには猫になってみるのもいいものだわ」

先生は腰につけたポーチから薬を取り出して、私に手渡した。

「“能力”のことで何か相談したい事があったら、気軽に言ってね。力になってあげられるかもしれないから…」

「ありがとうございます」

私は先生に頭を下げた。先生はそれを見てにこりと笑う。

180 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:51:09 ID:nGm6wZFQ0

「…そうそう、本題だけど、さっき比留間博士が貴方を探していたわ」

「比留間博士が?」

私は思わず聞き返した。

「ええ、比留間博士よ。貴方、博士の授業を何か取ってたかしら?」

「ええ、まあ…」

「まあいいわ……
それで、『成世君に会ったら授業の空き時間にでも研究室まで来てくれるように伝えて欲しい』って言われたの。
ということで、後で行ってあげてね」

「分かりました」

「それじゃ」

そう言って、先生は洗面所の奥へと消えていった。



洗面所を出た後で、私は先生との会話を思い返す。

『夜の間は猫になる能力』……先生の“猫好き”は有名だったけれど、どうりで猫好きなわけだ。
いや、そんな事はどうでもいい。
私と同じく、自分の能力に苦しんでいる人がこの大学にいた。
思えば、私の事を理解してくれる友達はそれなりにいるけれど、私と同じ境遇の人を見つけたのは初めてかもしれない……

181 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:52:30 ID:nGm6wZFQ0
4時半すぎ。
今日の授業が終わった。
私は比留間博士の元へ向かう。

比留間博士のいる超能力学部棟は、大学の裏門に近い場所に位置していた。
チェンジリング・デイ以降、 “能力”は私達の生活の一部となった。
それに伴い、20世紀までは鼻で笑われていた「超能力」という現象も、科学者達から真面目に注目されるようになった。

当初は超能力を研究分野として受け入れるべきかどうか、学会のほうで一悶着あったようだけれども、
結局、今では大学に専門の学部が作られるほどに学問として定着しているのだ。

そして、その超能力研究のパイオニアが、比留間博士だった。

「超能力だろうと幽霊だろうとUFOだろうとオカルトだろうと、この宇宙内に現象として顕れさえすれば、科学はそれを探究する事ができる」
という比留間博士の格言がある。
彼は生物学の分野から“能力”の存在を立証するとともに、超能力研究に“統計”“実験”“観測”の三本柱を徹底して導入し、
科学的事実としての超能力を「噂話」や「詐欺」などのでたらめから区別した。
これによって、ようやく国際科学会議も「超能力学」をまともな科学の一分野として認めるようになったのだった。

とりあえず、私の“超能力学”についての認識は、こんな感じだ。
それとは別に、私自身、個人的に比留間博士とはつながりがある。(もちろん薬の事で)

学会の見解がどうとか、そんな話は私にとっては正直、どうでもいい。
私としては、早く博士の能力鎮静剤が完成してほしいと思う。
科学は、人を幸せにしてこその科学なのだから。

182 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:53:28 ID:nGm6wZFQ0

比留間博士が私を探していたのは一体なぜだろう。
私は夕日に照らされた超能力学部棟の階段を登りながら考えていた。

時期的にはたぶん、期末レポートに関することだとは思うけれど…
今朝の夢の事が気がかりだった。

階段を登って廊下を少し歩くと、目的の部屋についた。
超能力学部研究室。

私はここの研究室で授業を受けたことはない。
でも比留間博士とは大学に入る前から個人的につき合いがあったため、この研究室にも何度か来た事があった。

壁に掛かったホワイトボードに「比留間慎也 - 在籍中」の文字を確認すると、私は部屋をノックした。

「どうぞ」

という比留間博士の返事が聞こえたのを確認して、私は中に入った。

研究室は、中学校の理科室を思わせる造りをしている。
非人間的なほど清潔感の溢れた白い壁に、フラスコや蒸留装置や試験管などのガラス製品が並べられた棚。
白い薬品や結晶がこぼれてもすぐに気づくよう作られた黒い机は、ずれたり傾いたりしないように床に固定されている。
中学校の理科室と違うのは、人体模型の代わりに大きな装置が置かれている事だった。
博士の話によると遠心分離機や攪拌装置や分析器といった研究器具だそうだ。

私が部屋に入ると、比留間博士は何か顕微鏡のような装置の前で試験管やシャーレを片づけていたところだった。

「ああ、成世君。わざわざ呼び出して済まないね」

と、博士は相変わらずのフランクな喋り方をする。

183 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:54:07 ID:nGm6wZFQ0

「鞍屋先生に言われて来ました。何の用でしょうか?」

「ちょっと込み入った話なんだ。ここで話すのも何だし、教員室に移動してから話そう。
……ちょっと待ってくれ、今片づけるから」

「手伝いましょうか?」

「ああ、さすが成世君、気が効くな。
じゃあ空の試験管を分けて棚に戻しといてくれ」

言われた通りに私は空っぽの試験管を選んで棚に戻した。

その一方で、博士は良く分からない透明な液体の入ったものを冷蔵庫にしまう。私にはよく分からないけれど、たぶん中身は何かの薬品だろう。
博士は今でこそ“超能力学”を研究しているけれど、元は生理学者なので、そういう方面から能力を研究しているらしい。

184 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:55:32 ID:nGm6wZFQ0

片づけを終えて、私達は研究室の隣の教員室に移動する。

比留間博士の研究の“三本柱”のうち「観測」を行うのが野外で、「実験」を行うのがさっきの研究室だとすれば、そして「統計」を行っているのがこの教員室という事になる。
パソコン机と事務机が交互に並び、壁の棚は本やファイルで埋まっている。
机の上には棚に入りきらない資料やマグカップなどが乱雑に置かれている。

ちょうど今の時間は誰もいないらしく(もしかしたら比留間博士が人払いをしておいたのかもしれない)、
パソコンの画面はみな真っ黒かスクリーンセーバーだった。

「まあ取り敢えず、そこに腰かけてくれ。今飲み物を入れてくるから」

と、博士は回転椅子を指差した。

博士は私の好みを知っているので、研究室に定番のコーヒーではなく、紅茶を淹れてくれた。
紙コップにポットからお湯を注ぎ、ティーバッグを落とす。

「お待たせ」

と、博士は私の所まで戻ってくると、机に紙コップを置いた。
熱くないように紙コップを二重にしているあたり芸が細かい。

私が紅茶に口をつけている間に、博士は机の鍵つきの引き出しから封筒を取り出して、私の隣の椅子に腰かけた。


封筒には「Classified」(機密事項)と書かれている。


「さて、本題に入ろうか」
博士の口調はいつも通り……のはずなのに、
私には何故だか、場の雰囲気そのものが重くなったように感じられた。

185 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 00:58:50 ID:nGm6wZFQ0
「まず、基本的な確認をしておこう。
成世君の“能力”は《アポトーシス》。【無意識性】【変身型】。12時間に0.1%程度の確率で体細胞が大規模に壊死する。
だったね」

私は黙って頷く。
奇妙なまでに静まりかえった教員室に、空調の音のみが響く。

「それで、今までその発動を抑えるために、私の能力鎮静剤を服用し続けていた」

「はい」

「ところが、違うんだ」

「違うって?」

まさか──

「これを見てくれ」

博士は封筒の中から紙を取り出した。政府の押印と透かしが入っている、どう見ても正式な文書だった。

“ 成世 美歩 (Naruse Miho)
Ex Ability
 Day … ■■■■■
  EXA name: "Event-Leap"
  Sort: Conscious, Creative
  Details
  Time-space traveling for creating another worldline whose time is delaied about 12 hours,
  maybe confuse the history. So we should watch her and seal this ability.
 Night … Unawaken ”

一ヶ所だけ上から黒く塗りつぶされていたけれど、私に関する資料である事は分かった。
私が英語の文章を解読するよりも先に、博士がその内容を読み上げていた。

186 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:01:35 ID:nGm6wZFQ0

「成世 美歩。昼の“能力”、《イベントリープ》。【意識性】【具現型】。
12時間程度時間軸のずれた別の世界線を創り出す事による時空間移動能力。
歴史を混乱させる恐れがある。彼女を監視しこの能力を封印する事を推奨する。
なお、夜の能力は未覚醒」


淡々と読み上げられる文章。
私はその意味は理解できたが、それの意味する事はすぐには把握できなかった。

「……どういう事ですか? 博士」

「つまり、《アポトーシス》はまったくのでたらめだったという事だよ。
今まで君が自分の“能力”だと思っていたものは、真の“能力”を隠すためにでっちあげられた偽りの“能力”だったということだ」

「まさか、博士」

そんな事があっていいの?

「そう、政府が騙していた。それだけ、君の真の能力が恐ろしいものだから」

「でも、私の能力は一度だけ発症しかけた事が……」

「能力移植だ。特殊な薬を飲まされると、一時的に他人の“能力”を会得する現象がある」

それじゃ、私のこの2年間は?
薬の副作用に耐え続けて、不自由と恐怖に悩まされてきたこの2年間は?

全部、仕組まれたものだったと言うの?

187 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:03:52 ID:nGm6wZFQ0

心臓の鼓動が早まり呼吸が荒くなるのが、自分でも分かった。

「博士、この事にはいつ……?」

「僕が気づいたのは、つい半年ほど前だ。
済まないな、君に言うべきかどうか迷っていた。結果的に私も騙す側に回ってしまった」

「そんな……」

「とにかく、落ちつこう。
これからどうするべきか、相談しようか」

私の様子を見て、博士は言った。

博士の言うとおりだ。
自分でも気が動転しているのは分かっている。
でも、落ちつけるわけがない。
私の心臓はバクバクと暴れ続けている。

「物事を良い方に考えるんだ。もう意味の無い能力に怯える事はないんだ。
これからは鎮静剤の代わりに偽薬を処方する。政府の目を騙すために飲み続けなさい」

「それから……言いにくい事だけど、もし良かったら僕にこの能力を少し研究させてくれ。
もしかしたら危険性がない事を政府に示せるかもしれない」

「研究?」

私は声を荒げた。
この期に及んで研究? この博士は何を考えているの?

188 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:09:12 ID:nGm6wZFQ0

「……私、過去へ戻ります」

私は椅子から立ち上がった。

政府も、この人も同じだ。私の事を危険因子としてしか、あるいは実験や観察の対象としてしか見ていない。

「落ちつきなさい、そんな事をしても意味がない」

「落ちついているわ。博士だって、私を騙そうとしている」

「済まなかった。君に言うべきかどうか迷ったんだ」

「嘘よ。半年も黙っていたのは、私の能力を研究する準備を進めていたから、そうよね?」

「……」

博士は言葉を詰まらせた。

──やっぱりそうだ。
誰もが自分勝手な都合で私を振りまわす。
歴史や研究のためなら、人を不幸にしていいの?

「いいえ、半年かどうかだって疑わしい。
この文章だって、博士が書いたものでしょ? 2年前に」

「それは違う……と言っても信じてくれそうにないな」

「私は、こんな世界に居たくありません。
私をモルモット扱いしかしてくれない、こんな世の中に」

「待ってくれないか」

踵を返して部屋の出口へと向かおうとする私の袖を、博士が引っ張る。

「離して下さい」

「薬が効いているんだろう。“能力”は使えないぞ」

──あ、

189 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:10:31 ID:nGm6wZFQ0

うっかりしていた。
そういえば、昼過ぎも鎮静剤を飲んだばかりだった。

明日の朝になってから“能力”を使っても、また「この時」に戻されるだけだ。
どうしよう……

と、その時──


「その娘は薬を飲んでいないわ、博士」


部屋の入り口から澄んだ声が響いた。
その声は、何故だか私には救世主のように聞こえた。

「峰子君、いつの間に?」

本当にいつの間にか、鞍屋先生がドアを開けて部屋の入口に立っていた。

「さて、いつの間でしょう? それより、聞こえました?」

「ああ、薬を飲んでいないって?」

突然の展開に、私は思考停止した。

「彼女の薬は“何者か”によって入れ替えられていました。見てください」

鞍屋先生は少し早足でこちらに近づくと、薬を机の上に投げ出した。
博士と私はそれに目を落とす。

“─ 能力鎮静剤 ─
成世美歩(ナルセ ミホ) 様”

190 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:11:20 ID:nGm6wZFQ0

理解が状況に追いつかない。
私が驚いているうちに、比留間博士は次の手を打っていた。

「峰子君、失礼」

パチン、と指を鳴らす音が聞こえた。
窓越しの夕日が、一瞬で暗闇へと変わった。

それと同時に、鞍屋先生の姿が視界から消えた。

「僕の“能力”を使わせてもらった。もう君に力は使わせない」

聞いていなかった、そして迂闊だった──慎也博士が“能力”を持っていたなんて。
考えれば分かること。能力研究の第一人者だ。
自分の能力を覚醒させようとしないはずがない。

と、博士の近くの机の上に一匹の猫が姿を表した。
緑色の瞳、銀色の髭。昼間の授業で黒板に描いてあった、あの猫とそっくりだ。

「仕方ないわね。緊急事態だもの」

猫が喋った。
鞍屋先生の声で。

「鞍屋先生……?」

「昼間も説明したでしょう? この姿は私の“夜の能力”──《グレマルキン》よ」

夜の能力……?
すると、慎也博士の“能力”は──

191 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:12:02 ID:nGm6wZFQ0

「さて、もう一度落ち着いて話し合おうか」

私は博士の瞳に、狂気に満ちた科学者の邪悪な輝きを見た。

「落ち着けるか!!」

わたしは思わず、手元にあったマグカップを博士に投げつけた。

博士はそれを片手で受け止める。

その隙に私は出入り口のドアへと全速力で走った。

「峰子君、取り押さえろ」

「どう考えても“任務外”ですけれど、仕方ないわね」

走る私を黒猫──鞍屋助教授がもの凄い速度で追い抜いた。

彼女は体当たりでドアを閉めると、音も無くその前に浮かんだ。

「どいて! 先生!」

しかし先生は私を無視して、私の後ろから迫ってくる人物に対して話しかけた

「退路は阻んだわ──これでいいかしら? 博士」

「ああ、ご苦労」

後ろを振り向くと慎也博士が目の前に立っていた。

192 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:13:09 ID:nGm6wZFQ0

「こうなっては仕方ないな。私も君を野放しにしてはおけなくなった。私の研究所まで来てもらおう」

博士は私の腕をしっかりと掴んでいた。

何か方法はないの? どうすれば?
せめて、もう少し考える時間が欲しい。時間が……

──その思いは、私のなかで一つの形になった。


「これは……!?」

目の前を覆う銀色の霧に、慎也博士は目を見開いて後ずさった。

「どうやら覚醒したようね。彼女の“夜の能力”が」

鞍屋先生は澄ました顔で喋るのが聞こえる。

「まさか……このタイミングで覚醒するとは」

「貴方は彼女を窮地に追いやったことで、彼女のもう1つの能力を覚醒させてしまった」

私の意志が込められた銀色の霧。
これがどういう効果をもたらすのか、私にははっきり分かっていた。
銀色の霧は薄いヴェールとなり、慎也博士をゆっくりと包み込んでゆく。

「昼夜を逆転させた時点で、この展開は予想して然るべきだった
──博士、貴方の負けよ」


『時間を凍らせる能力』。


銀色のヴェールに覆われた博士の体は、微動だにしなくなった。

193 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:15:16 ID:nGm6wZFQ0

「行きなさい。
私には貴方を止める気はないわ。止めようと思っても無理でしょうし。
──あなたは真の自由を手に入れた。自分の力で道を切り開いたのよ」

博士が凍りついた様子を見て、鞍屋教授は私に語りかけた。

「先生、ありがとうございます」

「と、行く前に部屋の戸締りはちゃんとしておくのよ」

鞍屋先生の声で喋る猫はそう言うと、優雅な足取りで部屋から出ていった。

194 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:15:50 ID:nGm6wZFQ0
数分後、私は研究室棟の階段を下っていた。
周囲はいつの間にか、夕方に戻っていた。


こんな騒ぎを起こしてしまったのでは、どのみち、このままではいられない。

私の“能力”を知っている人がいるかぎり、私は誰かにつけ狙われるだろう。

それを止めさせるためには──

私の力で、過去をやり直すしかない。

この間違った2年間を。


私は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をした。
意識が、そして体が、今までに感じた事の無い方向に落ち込んでいくのが分かった。

195 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:16:21 ID:nGm6wZFQ0
(成世編後編に続く)

196 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:22:24 ID:nGm6wZFQ0
・設定

《名前》
成世 美歩
S大学に通う“普通の”女子大生。
ただ1つ、普通の女子大生と違う所があるとすれば、
それは……その“能力”のために不幸な人生を送ってきた事。


《昼の能力》
名称 … アポトーシス
【無意識性】【変身型】
体が突発的に壊死する能力。
12時間に0.1%程度の確率で発動するといわれている。

成世美歩の真の“能力”を隠すために「でっちあげられた」能力。
尚、夜の能力は未覚醒


  ↓


《昼の能力》
名称 … イベントリープ
【意識性】【具現型】
半日前にタイムトラベルする能力。

政府の機密文書では
「12時間程度時間軸のずれた別の世界線を創り出す事による時間移動能力。
歴史を混乱させる恐れがある。彼女を監視しこの能力を封印する事を推奨する。」
と解説されている。


《夜の能力》
名称 … タイムホライゾン
【意識性】【操作型】
対象の時間を停止させる。
時間を止められた対象は鏡のようなヴェールで覆われ、一切の事象の干渉を受けなくなる。
夜が明ける(ヴェールの外側が「昼」になる)と解除される。
ベール自体に重力が働いているらしく、地球の遠心力で対象が飛んで行ってしまうようなことはない。

197 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 01:22:59 ID:nGm6wZFQ0
【本文】↑で以上です。よろしくお願いします。

198名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:27:15 ID:sB3Tujqo0
本当に代行スレ来てたのか
いくよー

199名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:33:01 ID:sB3Tujqo0
>>178投下時点でさるさん

200名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:33:39 ID:sB3Tujqo0
投下時点というか投下後

201名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:37:39 ID:ig4DkuyQ0
じゃあ代わりに行ってくるー
>>179からでいいのよね?

202名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:38:27 ID:LFVD87M60
>>179はいきました!

203名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:38:34 ID:sB3Tujqo0
おk
頼んだ

204名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:45:03 ID:LFVD87M60
>>188投下後猿です

205名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:46:55 ID:ig4DkuyQ0
じゃオイラいくわ

206名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 01:58:04 ID:ig4DkuyQ0
いてきた

207名無しさん@避難中:2012/04/10(火) 02:12:04 ID:oBgMYyyE0
代行リレーワロタw乙w

208 ◆VECeno..Ww:2012/04/10(火) 09:35:13 ID:nGm6wZFQ0
>>198 >>201 >>205
ありがとうございました!
長くて申し訳ない…

209名無しさん@避難中:2012/04/18(水) 00:09:33 ID:R702v2Cc0
お願いします!

【スレ名】ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+2匹目
【URL】http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1283595918/l50
【名前欄】
【メール欄】sage
  このレス以降の8レスをお願いします。
 メール欄はすべてsageで
 名前欄1〜7レスは「 グレートサラマンダーZ 」にてお願いします。
 8レス目は未記入でお願いします。

210[:2012/04/18(水) 00:10:43 ID:R702v2Cc0

―― ストーンサークル……? 時計、いや……

 視聴覚モニターには、時計の文字盤に似た直径5メートルほどの円状に並べられた石と、その周りを
取り囲むように座っている子供達。そしてその子供を見守る大勢の人々の姿が映っていた。
 12時3時6時9時の場所にはそれぞれひと目で大きいと分る石が陣取っている。そしてその延長線上
には鳥居ように組み合わされた背の高い柱が立っていた。

 グレートサラマンダーZに乗り込んだうぱ太郎たちが案内されたのは、石置きという行事が行なわれる
場所から少し離れた土手のような、先の広場を見下ろすには都合のいい場所だった。
 チィミコと共にその場に着いたが村人達はグレートサラマンダーZに特に興味を示すこともなく、
おのおの談笑に夢中だった。当のチィミコは村長に話をしてくるとすぐにその場から離れ、広場へ駆けていった。
 ナビの時計表示は午前6時を廻ってしばらく経つ。
かすかに混じる薄い蜜柑色の光もやがては消えゆき、抜けるような空色に変わるだろう。

「ねーねー、あれって日時計?」
「……たぶんカレンダー。10日ごとに石置いて春分の日用に大きい石置くと思う。
あとあの柱は太陽の位置見るためだと思う。チィミコちゃんそんなこと言ってたから。
……ピラミッドなんかもそんな役割果たしているから昔の人の知恵で太陽の位置測ってるんだと思う」

 すでに完成している石の円12時から3時までの外周を、更になぞるように石が置かれている。
区切りの日となる今日、内側の円と同様3時の位置に大きな石を置くことになるだろうと容易に推測できた。

「倫ちゃん詳しいね。古代文明とか好きなの?」
コックピットの中、モニターを見つめたまま、それでも機嫌を伺うようにうぱ太郎はうぱ倫子に話しかける。
「……知ってることしか解らない」
「あはは。そりゃそうだよね……」
しかしながら、いまだうぱ倫子との会話の距離感は掴めていない。
気を取り直し今度はうぱ華子に話題を振ってみる。

「華ちゃんはストーンサークルとか古代文明とかそういうの興味ある?」
「残念ながら興味はないわね。それに忘れてるかも知れないけどあたしはメキシコ生まれよ。
地元の古代の話だってろくに解らないのに日本の古代のことなんか知ったこっちゃないわ」
さばさばとうぱ華子は答えた。
しまったと苦笑いを浮かべながらもうぱ太郎は続ける。

「あ、そう言えばそうだったね。……メキシコってなんだろ? サボテンとかアステカとか
しか思いつかないな」
「普通そんなもんでしょ? あえて言えばマヤ文明が有名だけど、あたしもB級雑誌の人類滅亡
とかのゴシップ記事読んでそんなのあったなってレベルだからたいそうなことは言えないわ」
「マヤ文明か……。僕も何かで読んだ気がするな。なんで人類滅亡するんだっけ?」
「……長期暦。マヤ文明でもいろんなこよみの計算があって、その中で一番長い何千年単位で
計算される長期暦の終わる時が2012年の冬至の頃。
 長期暦の終わりが来たら新しいこよみを迎えるために全てのものが終わって新しく生まれ変わる。
って、輪廻転生みたいな思想もマヤ文明の一部にあって、それで人類滅亡に繋がってるんだと思う。
……わたしは大丈夫だと思うけど」

211「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:11:53 ID:R702v2Cc0

―― ワームホールとか言ってたしやっぱ好きなんだ。でも、それ言ったらまた止まるから……

 不自然にならないように少し考えてうぱ太郎は口を開く。

「なるほど。でもさっきのチィミコちゃんの1年の数え方もそうだけど、星とか月とか太陽見て
こよみ計算するなんて凄いよね、古代の人って。そう言えば三蔵法師だっけ? 日食の日わかってて
それ利用して妖怪退治するの」
「……そう。でも三蔵法師は実在したみたいだけど西遊記はフィクションだから、その時代の人が
日食や月食の正確な日にち理解してたかどうかはわからない」
ほんのちょっとだがうぱ倫子の声が弾んだように思えた。

「ふーん、なるほど。……ちなみに倫ちゃんは日食の日とか計算できるの?」
「……季節ごとの星座の位置とかは知ってるけど、日食月食の日までは解らない」
「さすがにそこまでは無理だよね」
「……うん」
 少し近づけたかなと、心の中でガッツポーズをとる。
そしてさらに盛り上げようと、うぱ太郎は昨日の夜のことを話し始めた。

「昨日倫ちゃんたちすぐ寝ちゃったけど、僕あのあと外に出てみたんだ。
なんて言うか、なんかびびっちゃうぐらいに星が凄かった。ちょっと怖いって思うほどだったもん。
僕は北斗七星とオリオン座ぐらいしか分らないけど下手なプラネタリウムより凄いんじゃないかな。
倫ちゃんも夜になったら見てみればいいと思うよ。大袈裟じゃなくてびっくりすると思うから」
「あはははは。朝っぱらからチィミコちゃん元気だなー」

 唐突にうぱ民子が笑い出した。

―― 朝っぱらからジャイアンリサイタル開いてる民ちゃんほうがよっぽど元気だよ。
   って言うか空気読めよ。

 何事かとモニターを見れば、村長との話が終わったのかこちらに向け走ってくるチィミコの姿が
小さく映し出されていた。
 そしてうぱ太郎が苦々しく思うことも束の間、無邪気な子鹿のようにあっという間に土手の
斜面を駆け上り、チィミコはグレートサラマンダーZの隣に立った。

「……お待たせ。……えーと、タロウちゃん以外にも聴こえているんだよな?」
吐く息はまだ白い。はぁはぁと少しあがった息をチィミコは身だしなみと共に整える。
「えーと、うん。大丈夫。みんな声も聴こえるし石置きの広場も見えてるよ」
「つくづく凄いな。一体どうなってんだグレマン様って?」
「……まぁ、いろいろと。持って生まれた力というか」
「あはは、そうなんだ」

 返事を深く追求しようともせずチィミコは明るく笑う。
そして合図を送るように大きく両手を振った後、通常姿勢のグレートサラマンダーZの隣に膝を
かかえ座り込んだ。
 しばらく止んでいた太鼓の音がひとつ響き、ざわついていた村人達が静まりかえる。
間もなく村長と思われる男が石の円の中央に立ち、話を始めた。しかしそれほど長い話でもなく、
連打される太鼓の音と一緒に円から外れていく。

「さあ、石置きの始まりだ。面白いと思うからみんなで見ててくれ」
身体をひねり覗き込むようにしてチィミコはグレートサラマンダーZに話しかけた。
「うん」
平然と返事はするが、モニターいっぱいに映るチィミコの笑顔に戸惑いうぱ太郎は思わずのけぞる。
「チィミコちゃんっていちいち顔近いよねー」
「……可愛い」
「眉毛の手入れぐらいしないのかしら?」
マイクが音を拾わないことをいいことに、うぱ太郎の後ろでは好き勝手に言い放っている。

212「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:12:48 ID:R702v2Cc0

 どどどど、どんっ。

 広場に太鼓の音が響き渡る。
神聖な儀式なのだろう、太鼓の音に合わせ膝を折りチィミコは広場に向け襟を正した。

 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
太鼓のリズムに合わせ、村人達から掛け声が沸き起こる。

―― お御輿……?

 モニターの片隅に、木製のはしごのようなものを担ぐ4人の男が映る。
中央の台座には大玉なスイカほどの黒っぽい石が乗っている。太鼓と村人の掛け声に合わせ、
その神輿のようなものは4人の担ぎ手によってゆっくりと広場の石の円に向かっていく。
 
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょーっ。
ひときわ大きい掛け声とともに、神輿は円から10歩ほど離れた場所に下ろされた。
 村長の声が響く。
同時に4人の男に入れ替わり、遠目でも幼稚園児ほどと分る4人の子供が神輿の四隅についた。

―― 子供だけで担ぐつもりなのか……? 何キロあるか分らないけど無理だ。

 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
また掛け声が始まる。しかしうぱ太郎の予想通り神輿は子供の力ではびくともしなかった。
 どんどん、よいしょ、どんどん、よいしょ。
それでも掛け声は続く。徐々に笑い声や励ます声が混じりはじめる。
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょーっ。
まったく動かせないまま4人の子供は神輿から手を離した。それでも広場には労をねぎらう声が上がった。
そして少し恥ずかしそうにしている4人に、出番を待っていたかのようにさらに4人の子供が加わった。

―― 子供でも8人ならいけるかな?

 一呼吸置いて太鼓が鳴り始めた。
掛け声もあがる。だが次第に頑張れ踏ん張れと応援の声が増してくる。
 神輿が少し持ち上がったのが分る。その都度広場は歓声で盛り上がる。
だがやはり担ぎ上げられることはなく、最後の掛け声も虚しく神輿はその場から動けずにいた。

―― 今度の4人は中学生くらいか……

 動かない神輿の前にさらに4人が加わった。
大人とは言い切れないが最初の子供に比べ明らかに身体は大きく、2度目に加わった子供と違い、
事前の8人になにやら指示を出し場所を確認しながら神輿に全員揃って手を掛けた。
そして神輿の先頭をになう一人が大きく片手を揚げる。

 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
みたび、掛け声が沸き起こる。しかし今までとは違いどこか確信めいた力強さがあった。
 声援も笑いも無い。ただひたすらに太鼓と掛け声だけが広場に響く。
そして最後に加わった4人が8人の子供を促すようにひときわ威勢よく叫んだ。

 よいしょー!!!

 神輿が担ぎ上げられた。
 怒号に似た歓声が響いた。
太鼓と掛け声が小気味よく続く中、神輿は12人の手により円の3時の位置にじわじわと向かっていった。

213「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:13:35 ID:R702v2Cc0

「意味のないことやってると思うだろ?」
「え……? あ、うん」

 突然、チィミコに話を振られ、うぱ太郎は言葉に詰まる。

「はじめから終わりまで大人が担げばいいだけのことなんだけど。……でも、そうじゃないんだ」
「…………」
どう答えればいいのか分らずうぱ太郎はコックピットの中で黙り込んだ。
かまわずチィミコは話を続ける。
「私の村はな、生まれて6年たったら村の仕事にたずさわるんだ。それで一番最初の仕事が
この石置きなんだ」

―― 1年の数え方は教わった。でも何月何日なんて数え方じゃない。
   6年目とか言うけどそもそも村の人誕生日なんてわかってるのか?
  
「えーと、チィミコちゃん。ここの村の人は自分がいつごろ生まれたってみんな知ってるのかな?」
少し気になりうぱ太郎は尋ねる。

「みんな知ってるよ」
「どうやって?」
うぱ太郎の問いにチィミコは胸元に手を入れ、衣服の下、紐で首にかけられていた文庫本ほどの
大きさの木片をグレートサラマンダーZの顔の前に差し出した。

「あ……」

 その木片上部には、眼下の石の円に似た円状の模様が刻まれていた。
そして下部の上の位置に手の形に似た5本の放射状の線の塊が3組。

「よその村のことはよく分らないけど、うちの村では生まれたときにこの札をつけてもらうんだ。
あの石置きの丸と同じなんだけど、私は春の分かれの日の前に生まれたからここに印がついている。
それで生きた年は手の指の印で数えてて、ひとつ5年でそれがみっつで15年だ」
そう言いながらチィミコは木片の印に指をさした。
「当然小さいときは生きた年数の印自分じゃつけられないからその家の人につけてもらうんだけど、
6年目から自分でつけれるように、それまでみんなで教えるんだ。それで生きた年、6年になったら
その次の分かれの日の石置きのときから石を担ぐんだ」
「それ村の人全員持ってるの?」
「ああ、全員持ってるよ。みんな少なくても分かれの日ごとに必ず見てるから忘れることはない。
あと間違って燃やしたり割ったりする人いるけど、そのときは作り直す。怒られるけどな」

―― 昔の人の知恵か……。

 カレンダー代わりの石の円を眺めながらうぱ太郎は想う。
そしてあらためて現代社会とはかけ離れた場所に来てしまったことを痛感する。
木片を胸元に戻し、チィミコはどこか懐かしむような優しげな微笑を浮かべ広場を向いた。

「小さな子供だけじゃ石置きの石担げないことはみんなわかってる。それでも最初は子供4人に
担がせるんだ。初めて担ぐ子はその重さに驚く。そしていかに大人に力があるかを思い知る。
でも、子供だけでも力を合わせれば何とかなることに気づく。そこが一番大事なことなんだ」
「…………」
「ただ、石を動かせばいいってことではない。石が落ちたりしたら危ないからな。
それでそうならないように面倒を見るのが何回も石置きをやってきた年上の者だ。
小さい子が怪我しないように注意しながらみんなをまとめ、力をあわせ石を担ぐんだ。
 でも何も初めてやる子だけが教わるんじゃないんだ。何回も石置きをやった上の子もそうやって
自分が教わってきたことを下の子へ伝えることをちょっとずつ学んでいくんだ。
この村の者はみんな石置きをやって大きくなってきた。石置きはこの村の大事なならわしなんだ」
「…………」

214「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:14:09 ID:R702v2Cc0

―― 蛇食べるって聞いたときどうなることかと思ったけど、ちゃんと考えてるんだな……。

 カレンダーはおろか紙さえも無いと思われる時代。だが少なからず秩序や道徳的な教えはある。
自ら作りあげてしまった幻想を恥ずかしく思い、うぱ太郎は胸の中で小さく反省する。

 モニターには神輿から石を降ろし、収まる穴に向け石を転がす男の姿が映っている。
占いの要素でもあるのか、石が動くたびに広場は歓声やため息で埋まった。
そして石が穴に収まったところでひときわ大きい拍手と歓声が沸き、続いて村長の話が始まった。
ところどころで横やりな声が掛かる。どっと笑い声があがる。だがたいして長い話でもない。
長く続く拍手が終わりを告げていた。

「よし。じゃあみんなそろそろ行こうか」
儀式を見届け、チィミコは立ち上がり軽く衣服をはたいた。

「……うん」
少しどきりとする。そしていよいよかと心の中でため息をつく。

 大勢の人の前に出る。
人の姿の無いうぱるぱ王国で過ごしてきたうぱ太郎にとって未知の経験である。
 うぱるぱ救出活動で何度も人とやりあって来た。何度も理不尽な目にも遭った。
しかしその体験どれもがグレートサラマンダーZという鎧に守られての事である。

「うおー、盛り上がってきましたよー!」
「……民ちゃん、いちいちうるさい」
「あんたら余計なこと言わないでよ」
人の気も知らないで。と、後ろの席で遠足気分ではしゃぐうぱ民子を少し恨めしく思う。
 
「それでさ、私が村のみんなに話すから悪いんだけどタロウちゃん、私の言うとおりグレマン様
動かしてもらっていいかな?」
屈託のない笑顔でチィミコはグレートサラマンダーZに話しかける。
「いいけど……。どんなことするのかな?」
少し自信なさげな声でうぱ太郎は聞き返した。

「うん。私やテンやツギは見たからいいけど、グレマン様いきなり立ったり口開けたりしたら村の
みんなびっくりすると思うからあらかじめ見せておきたいんだ。それにそうなったときは危ないから
近寄るなって小さい子にも言っておきたいし。その後タロウちゃんたち出てきてもらえればさっき
ハナちゃんが言ったみたいにさわろうとする子もいなくなると思うから」
「あー、うん、わかった。じゃあチィミコちゃんに任せるよ」
「うん。悪いようにはしないから安心しててくれ」

―― 大丈夫。チィミコちゃんがフォローしてくれる。

 気づかれないように大きく息を吐き、ハンドルの位置を確かめた。
そして坂を下るチィミコに続き、うぱ太郎はゆっくりとアクセル踏み込んだ。

215「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:14:44 ID:R702v2Cc0

「昨日も話したけど、しばらく村にいてもらうグレマン様だ。
でな、昨日私の家でいろいろグレマン様と話したんだけど、とにかく凄いんだ。
ウマ。まぁオオシカでいいんだけど、オオシカも凄かった。でもそんなもんじゃない。
とにかく凄い。みんなびっくりすると思う。ホントにびっくりするはず。
って言うことでグレマン様よろしく」
「……どうも。……よろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします!」
「「「 ……………。」」」

 チィミコに連れられて、いよいようぱ太郎たちを乗せたグレートサラマンダーZは
村人達の前に出た。だが案内された場所はよりにもよって石置きが行なわれた石の円の内側で、
ばちがあたるのではと、うぱ太郎の不安と緊張をさらに増幅させた。
 乳飲み子を抱く女から杖を持つ老人まで100人近くと思われる村の人々が、チィミコの
指示に従い半円を取り囲むように立ち並んだ。
 円の内側に入らなければどれだけ近づいてもいい。というチィミコの声に、小さな女の子が
いの一番で最前列に立った。そして怖いもの見たさか数人の若い男女が少女の隣に並んだ。

―― たしかあの子昨日も返事くれたよな。蛇とかトカゲとか好きなのかな?

 ほとんどの村人は無言で、不安げにグレートサラマンダーZを見つめている。
その中での少女の元気な返事は、ほんのわずかだがうぱ太郎の心の支えになった。

「えー、昨日私とテンとツギは見たんだけど、実はグレマン様って2本足で立てるんだ。
それでまずはみんなにグレマン様立ったところ見てもらいたいんだ。いきなり暴れたりは
しないから大丈夫。怖がらなくていい。じゃあグレマン様よろしく」
「え、えーと。じゃあこれから立ちます。……いきなり暴れたりしないから大丈夫です」
簡単な打ち合わせどおりにチィミコは話を進めた。声に従い、モニターで人が危険な位置にいないことを
確かめ、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを立ち上がらせた。

「おいおいおいおい!」
「待て待て待て待て!」
「うわ、でかっ!」
「そりゃ反則でねーすか?」

 グレートサラマンダーZの動きに村人からどよめきが沸いた。
かまわずチィミコは場慣れした司会者のように話を続けた。

「はい、次はちょっと怖い。小さい子は泣いちゃうかもしれないからお母さん方よろしく。
当然と言えば当然だけど、グレマン様も口開けるときがある。でも何も知らないでその姿見ると
喰われちゃうかもって心配になってしまう。だから前もってその姿を見ておいてほしいんだ。
じゃあグレマン様、口開けてくれないか? できればなるべくゆっくりでお願いします」
「はい。えー、これから口開けます。いきなり暴れたりしないから大丈夫です」

 ぱかっ!

「「「 ――っ!? 」」」

「おいおいおいおい!」
「待て待て待て待て!」
「うわ、怖っ!」
「や、やんのかコノヤロー!!!」
「びゃー、えーんえーん」
「そりゃ反則ですって……」

216「 グレートサラマンダーZ 」:2012/04/18(水) 00:15:56 ID:R702v2Cc0

―― やっちゃった……。

 緊張のせいか、うぱ太郎は無造作に口開閉スイッチを操作してしまう。
案の定、少女やもの好き連中含め、村人がいっせいに身を引いた。
慌ててチィミコがフォローを入れる。

「暴れたりしないから大丈夫。ホントに大丈夫だから心配しないでくれ。
……泣いちゃった子はさがってもらったほうがいかな。ごめんな。
それでな、グレマン様立ったり口開けてるときは近づかないで欲しいんだ。危ないから。
て言っても、あはは。これじゃ誰も近づきたいなんて思わないよな」

「「「 …………。」」」

「えー、グレマン様、口閉じていつもの格好に戻ってもらえるかな?」
「じゃあ、これからいつもの格好に戻りますです」
気まずさを隠すようにチィミコは笑顔を振りまいた。
うぱ太郎もそそくさとグレートサラマンダーZの口を閉め、通常状態に姿勢を戻した。

 安堵のため息が広場を埋め尽くす。

「うわー、グレマン様、凄い!面白い!」
「まぁ今日はこのぐらいで勘弁してください」
「こいつ本当におとなしくしてるのか? オオシカみたいに機嫌悪かったら蹴ったりしないのか?」
「たまげたなぁ。ほんとに化け物っているんだ」

 ひと通り村人の反応を見回した後、チィミコはごほんと咳を打った。
そして最前列はしゃがみ後ろの人は前に詰めるようにと村人をまとめ、本題を切り出した。
「えー、世の中には私たちの知らない、信じられないことやびっくりすることがたくさんある。
オオシカの時もそうだし、隣で言うのもなんだけどグレマン様にもびっくりだ」
 チィミコの声に最前列の少女が興味深げにこくこくとうなずいた。
釣られるように、周りからもうんうんと声が漏れた。

「でも本当に凄いのはこれからだ。またグレマン様に口を開けてもらう。暴れはしないから
怖がらずにみんなよく見ててくれ。
 たぶんみんな信じられないと思う。けど信じてもらうしかない。
これからグレマン様から降りてもらう。みんなびっくりする準備してくれ。
まぁ、簡単に言えば人の言葉を喋る手の生えたナマズだ。神様じゃないけどとにかく凄いぞ。
じゃあタロウちゃんたち。グレマン様から降りてくれないかな?」

―― いよいよか……。

 覚悟を胸に秘め、うぱ太郎はゆっくりと口開閉スイッチを操作する。
 振り返る。
昨日チィミコの前に出たこともあり、無表情だがうぱ華子、うぱ倫子も準備は出来ている。
「 …………。」
だが何故かうぱ民子はへらへらと笑っている。
「……民ちゃん。もうちょっと真面目に出来ないのかな?」
深刻になれとは言わない。しかしうぱ民子の態度はうぱ太郎にはあまりにも不謹慎に思えた。
「あはは。太郎ちゃん緊張しすぎ。表情硬いよ?」
だが、うぱ民子はあいかわらずの調子だった。

「はいはいはい。太郎ちゃんいちいちイラつかない。サクっとやっつけるわよ。サクっと」
「……太郎ちゃん。いつもあんな感じだから右から左へ受け流せば大丈夫」
「あれれ? わたし悪者?」

「いいよ、もう。じゃあ行こうか?」
何もかもが馬鹿らしく思えた。爆発させたい怒りを押し殺し、うぱ太郎は後ろを振り返らずに
グレートサラマンダーZから降りはじめた。

217名無しさん@避難中:2012/04/18(水) 00:16:38 ID:R702v2Cc0
今日はここまで。

218209:2012/04/18(水) 00:19:27 ID:R702v2Cc0
>>210名前欄コピペミスです。「 グレートサラマンダーZ 」でおねがいします。

以上、よろしくお願いします。

219名無しさん@避難中:2012/04/18(水) 00:23:09 ID:dGgwZfGQ0
途中で猿さんなるかもですが、行ってきます
なんか本スレagaってますけど、ほかに誰か行こうとしてますかね?
30分まで待って動きなければ行きます


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