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レス代行はここでおk その3

118名無しさん@避難中:2011/10/07(金) 21:01:14 ID:NsodQsSE0
所々苔むした部分もあるのに、汚さみたいなものは感じさせない立ち並ぶ白い家々。
牧歌的な普段着で井戸端会議に興じる主婦もいれば、物騒な鎧や仰々しいローブに身を包んだ冒険者達といった人々が混在する大通り。
「あちら」でアイドルを目指すようになってから過ごすことの多くなった、けばけばというかゴテゴテした混沌の都会とは違う、
健やかな活気が溢れ返っているようだ。
大量のパンを詰め込んだ買い物籠の重量によろめきそうになりながら、城への家路へつこうとした時だった。
シャラ、というか細い音と共に、ブーツのつま先に何かが当たる気配がした。

「・・・・・・あれ?」
銀色の鎖に通された、元はペンダント状であったのだろうそれは、何てことはない一本の鍵だった。
「だった」というのは他でもなく、元は輪っかをなしていたであろうその鎖は、途中でぷっつりと切れていたからだ。
どこかの家の鍵だろうか―――何気なく拾い上げてみたその時に、不意に脳裏を掠める一つの記憶。
さっきの店の中、小鳥の一つ前でレジで並ぶ、王冠のような金色に輝いているサラサラの後ろ頭がやけに印象的だった女の子。右手で不器用に料金を払う一方、
もう片方の手が強く胸元で「何か」を握りしめていたようなちぐはぐな仕草が、やけに引っかかっていた。
(・・・・・・考えすぎ、かも知れないけど)
でもそれは、身をもって体験した覚えのある仕草だったようにも思う。
「向こう側」では母子家庭として育った小鳥があの少女と同じ年頃だった時分、ギュッと手にして放そうとしなかったもの。万が一にでも手放してしまえばオシマイだ、みたいな
思いこみが根付いていたアイテム。
確証はない。けれど―――そっと、手のひらの上で銀色にきらめいているその小さな鍵には、ささやかだがほのかな温度の余韻が残されているような気がして。
それを知覚した途端、足は城とは逆方向目指して反転していた。


こういう時、仕方のないことなのだろうけど交番のようなシステムを持つ施設がないことが悔やまれる。
「金髪の女の子ねぇ・・・・・・それだけだとちょっと。街の中は色んな髪の子もいるから」
聞き込みに応じてくれた、買い物籠をぶら下げ井戸端会議中のマダム達は困り顔でそう返答した。まあ確かに―――と、改めて周囲を振り返る。
自分のような黒髪の者もいれば、赤に茶、時には銀髪と様々な髪色の者達で入り交じっている街並みで、ロクに顔を見ていないその女の子を捜そうなんて途方ない無茶かも知れない。
「あなたも奇特ねぇ。そんなに気になるんなら、どこかのギルドに頼んで捜してもらったら?」
「い、いえ。流石にそこまでは・・・・・・」
『ギルド』は総合的に言うならば、規模は様々なれどこの世界における『何でも屋』の代名詞だ。ある程度腕の立つ冒険者達が組み合って、大きい依頼では魔物の巣窟から
貴重な資材を採取してきたり、小さなものでは街の失せ物捜しまで引き受けてくれるという。
が―――小さなギルドでもそれなりに依頼というものは値を張るというのに、買い物を終えてすかんぴんの今の小鳥に代金を支払える余裕はない。
「でも家の鍵なんて言われると、うちも確かに心配になってくるわねぇ。ちゃんと施錠してきたかしら・・・・・・」
「確かに。最近は一層よくない話も聞くしねぇ・・・・・・ほら覚えてる?こないだ地中から発掘されたあの・・・・・・古代文明の遺跡の話」
「あら、私が聞いた話じゃ、海賊アイフリードの遺したかつての愛船らしいけど?」
「何でもいいけど。そこに怪しい集団が紛れ込んでるから、今日騎士団の小隊が確保に乗り込んだって話聞いて―――」
話が横道に逸れだしたのを察して、小鳥はそろそろとカニのそれにも似た横歩きでその場を脱した。船なのに何で地中から?という微かな好奇心がなくはなかったが、
今はそんな場合ではない。
足を棒にする程聞き込みに励んだつもりはないが、うっすらと疲労を覚えてきた。そもそも侍女長から課せられた「門限」もある。
けど、さっきのあの子の仕草を覚えていて、この鍵を見つけてしまった今の小鳥は、そのまま城へ足を向けることがどうしても出来なくなっていた。 
余計なお節介だということはわかっている。
ちゃんと帰りを待っている家族は家にいて、鍵一つなくしたところで、あの子は特別困ることなんてないのかも知れない。
(―――でも)
こうなったら、多少叱られる覚悟をしてでもギリギリまで粘ってみようか―――そう考えて、街の中を改めて見回してみた時だった。


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